(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】レトロネーザル香気の分析方法又は評価方法並びにそれに用いる装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20220401BHJP
G01N 33/497 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 F
G01N33/497 Z
(21)【出願番号】P 2018138684
(22)【出願日】2018-07-24
【審査請求日】2021-02-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年3月5日に日本農芸化学会2018年度大会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安永 元樹
(72)【発明者】
【氏名】高垣 仁志
(72)【発明者】
【氏名】葛西 賢造
(72)【発明者】
【氏名】服部 祥治
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-521479(JP,A)
【文献】特表2017-525504(JP,A)
【文献】特表2008-506958(JP,A)
【文献】米国特許第05042501(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0065446(US,A1)
【文献】特開2018-072210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
G01N 1/00 - 1/44
G01N 27/60 - 27/70
G01N 27/92
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工的に構成した咽喉モデルを使用し、レトロネーザル香気を模擬的に再現して分析又は評価する方法において、
咽喉の再現に相当する管部上端の周囲に設けた液だまりから管部上端を超えて管部内壁に向けて飲食品を溢流させ、咽喉内部に相当する管部内壁に飲食品を付着させることで流動性飲食物を嚥下した後を再現し、次いで咽喉モデル中の通気を二方向に設定して交互に通気し、その一方の気流に含まれる香気成分を分析又は評価に供する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、通気量を咽喉モデル管部の内部水平断面に対する線速度として50~200cm/minとする前記方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法で得られる香気成分を、質量分析計を用いて成分量の継時的変化を推定するレトロネーザル香気の分析方法又は評価方法。
【請求項4】
質量分析計が飛行時間型質量分析計である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
特定のイオンピークを継時的に追跡することによって、香気成分量の変化を推定する、請求項3~4に記載の方法。
【請求項6】
レトロネーザル香気を模擬的に再現して分析又は評価する方法に使用する人工的に構成した咽喉モデルであって、嚥下後の呼吸を再現する目的で呼気と吸気の各導入部及び排出部を設け、咽喉の再現に相当する管部上端の周囲に液だまりを設けて、液だまりから管部上端を超えて管部内壁に向けて試料が溢流するように構成され
た装置。
【請求項7】
管部上端に複数の切欠き部を設けた請求項
6に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒトが流動性飲食物を嚥下した後のレトロネーザル香気を分析又は評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レトロネーザル香気はヒトが飲食する際の咽喉から鼻に抜ける香気であり、フレーバーリリース研究において重要な要素の1つである。レトロネーザル香気の捕集及び分析には、実際にヒトを被験者とする方法とシミュレーターを被験者代わりに使用する方法の2種類が一般的である。前者では個人差はもちろん、同じ被験者でも体調や環境による違いが大きく、再現性が得られづらいことが問題点である。後者ではオペレーターや環境による違いは解消できるが、呼吸や口腔粘膜での吸収による香気の減衰等、完全にヒトの動きを再現するには課題が多い。
【0003】
また、PTR-MSやSIFT-MS、MS NOSE(株式会社ニチレイ商標登録出願)をはじめとするリアルタイム質量分析計を用いた、レトロネーザル香気の時系列的な分析研究も行われている。しかしながら、非特許文献1ではヒトを被験者とするヒト呼気分析において、相対標準偏差の平均値が同一被験者で10%超、被験者が変わると80%を超えると報告されている。一方で特許文献1にはヒトを被験者といたときの試験の制御困難性や個人差による結果のブレを解消するために、シミュレーター(人工咽喉)を用いて、食品を嚥下後に吐き出される呼気中の香気成分を分析する方法が提案されており、さらに非特許文献2ではシミュレーターを使用して嚥下後のレトロネーザル香気の経時変化についても検討されている。しかしながら、このシミュレーターを用いた分析では、実際のヒトの呼気を分析した時と香気成分の挙動が充分に再現されないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「A New Approach to Estimate the In-mouth Release Characteristics of Odorants in Chewing Gum」、Food Science Technology Research、2008年、14巻、3号、269-276頁
【文献】「New Device To Simulate Swallowing and in Vivo Aroma Release in the Throat from Liquid and Semiliquid Food Systems」、journal of Agricultural and Food Chemistry、2004年、52号、6564-6571頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、被験者による個人差や体調、環境による違いが解決でき、オペレーターに依存することなく再現性の高い、ヒトの食品摂取後における香気持続性の分析及び評価を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
先行文献を参考に、発明者らは飲食品と唾液の混合物が咽頭部を通過し、その混合物を飲み込んだ後に香気が喉から鼻に抜ける状態を再現できるレトロネーザル香気再現装置を開発した(
図1)。試料(人工唾液含む)はヒトなどの動物の体温程に保たれた装置内を薄膜状に流下し、喉から鼻に抜ける気体は装置下部から装置上部へ流れる構造とした。しかしながらこの装置では、飲食品を飲み込んだ直後の動物の一息目と二息目以降の香気成分の減衰が再現できず、飲食後に感じる香り、風味の持続性に関する評価を行うには満足な結果が得られなかった。そこで発明者らは、上記装置に新たに装置下部から装置上部だけでなく装置上部から装置下部へも通気が行えるように流路の切り替えも可能とした。数々の研究の結果、試料を流下させた後に装置下部から装置上部への気体流入、装置上部から装置下部への気体流入を一定条件で繰り返す、つまり呼気だけでなく、吸気も考慮しヒトの呼吸サイクルを再現することで、ヒトの食品摂取後の香気減衰度合いに非常に近い減衰度合いを再現することに成功し、発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本装置を利用することにより、被験者による個人差や体調、環境による違いが解決でき、オペレーターに依存することなく再現性の高い、ヒトの食品摂取後における香気持続性の分析及び評価が可能である。また、ヒトによる試験では安全性の面で不安のある試料、例えば高アルコール濃度、高濃度のモデル試料、有害性の懸念のある試料などでも安全に分析・評価することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の装置である咽喉モデルの一例である。
【
図2】本発明の咽喉モデルにおいて、管部上端周囲に液だまりを設け、さらに管部上端に切欠き部を設けた装置の管部上端付近を示した図である。
【
図3】ヒトの呼気に含まれる香気成分と、本発明の咽喉モデルを用いたレトロネーザル香気の再現試験を比較したグラフであって、1息目を100%としたときの2息目の香気成分の減衰率を比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、飲食品を飲み込んだ後に感じる香気をモデル系で再現し、分析又は評価するための装置、および当該装置を使用した分析方法又は評価方法に関するものである。
【0011】
本発明の装置は、人工的に構成した咽喉モデルであって、必須の構成として咽喉内部を模した管部1、管部1の内部温度を一定に保つための保温部2、試料導入部3、試料排出部兼吸気排出部5、吸気導入部6、呼気導入部7、呼気排出部8を有し、飲食品の嚥下後に呼吸によって呼気とともに主に咽喉の内部から放出される香気を模擬的に再現する。
【0012】
管部1は咽喉内部を模した部位であるが、ヒトの咽喉内部の形状を再現する必要はなく、試験毎の試料流下状態の再現性や洗浄性、内壁面各部位に対する流通気体の速度や内壁面付近の乱流発生による影響の排除などの観点から少なくとも内壁が直円柱形状の中空構造体である方が好ましい。管部1を直円柱形状とする場合、その長さと内部水平断面積の大きさは任意とすることができるが、分析・評価するために必要な成分量が管部1内壁に付着するに足る面積を有していることが望ましく、模擬的な吸気、呼気の1サイクルで円筒内部の気体全量が換気される通気量と気流速度を勘案して調整されることが好ましい。簡便に使用できる装置の大きさとして具体的な例としては、管部水平断面積が8~10cm2、管部1内面面積が170~190cm2のものが例示できる。管部1の材質は成分吸着の少ないものが好ましく、具体的にはガラス、金属が挙げられ、通液状態を視認ができることからガラス製であることが最も好ましい。管部1の外周には内部温度を一定に保つため保温部2が設けられるが、内部を観察しやすく温度調整が容易であることから、管部1外周にジャケットを設けて温度調整された流体、好ましくは温水を流通させることが好ましい。
【0013】
試料導入部3は、咽喉モデルの上部に設置される。試料排出部5は、咽喉モデルの下部に設置される。試料の導入方法が管部1の内壁に沿って薄膜状に流下させる方法である場合は、内壁に一様に流下すること、試験毎の内壁への試料の接触面積が一定になることが求められる。試料排出部5は内径が充分な排出速度が得られるように設定される。たとえば、試料の導入方法が管部1の内壁に沿って薄膜状に流下させる方法である場合は管部1の下部に試料が滞留しない程度の排出速度が要求される。また、揮発性成分採取の開始前に一旦管部1に試料を満たす方法である場合は、数秒内に試料が流下排出されるよう開口部内径が設定される。試料排出部5は吸気排出部を兼ねることもできる。
【0014】
吸気導入部6は、咽喉モデルの管部1よりも上部に切替え弁を介して設置される。吸気排出部5は、咽喉モデルの管部1よりも下部に切替え弁を介して設置される。呼気導入部7は、咽喉モデルの管部1よりも下部に切替え弁を介して設置される。呼気排出部8は、管部1よりも上部に設置され、切替え弁を介して分析・評価に供される気体の採取手段もしくは分析機器に接続される。吸気導入部6と呼気排出部8は切換え弁を介して一体化してもよくその場合は、切替え弁によって吸気導入部6から管部1への流路と管部1から呼気排出部8への流路が切替えられるように構成される。同様に呼気導入部7と吸気排出部5は、切換え弁を介して一体化してもよくその場合は、切替え弁によって呼気導入部7から管部1への流路と管部1から吸気排出部5への流路が切替えられるように構成される。また、呼気導入部7と吸気排出部5は試料排出部5と開閉弁を共用することもできる。これらの切替え弁又は開閉弁は手動で切り替えるものでもよく、電磁弁などで呼気の導入と排出、吸気の導入と排出を同時に行うよう交互に切替えるように自動化することもできる。
【0015】
本発明の分析、評価方法は、飲食後の咽喉内壁に付着残留する成分から呼気に伴って揮発する成分を、人工的に構成した咽喉モデルを使用して模擬的に再現し、呼気に含まれる揮発性成分を一旦捕集し、もしくはそのまま分析機器に導入して分析する。得られた分析結果を基に揮発性成分の咽喉内での残留性、嚥下後の香気の持続性を評価する。
【0016】
本発明の人工的に構成した咽喉モデルへの試料の導入は、管部1内壁に試料を付着させることが目的であるが、再現性を得るために管部内壁に試料が一様に付着することが望ましい。管部内壁に試料を一様に付着させる方法としては、一旦咽喉モデル内部を試料で満たした後に排出する方法でもよく、咽喉モデルの管部1内壁に沿って流下させる方法であってもよい。試料を管部1の内壁に沿って流下させる場合は、内壁への試料の付着残留面積を可能な限り一定化させるよう操作するか、投入した試料が管部内壁で一様に流下するよう装置を構成する。内壁への試料の付着面積を一定化させる装置構成としては、たとえば管部1上端周囲に液だまり4を設けて、一旦試料を液だまり4に満たしてから管部1上端から溢流させる構造とすることが提案される。このときの内壁上端部の形状は試料の越流量が均等になるよう調整される。その方法としては例えば上端部に均等に切り欠き部9を設ける方法が挙げられる。切り欠き部9を設けるときは切り欠きの形状と配置を均等にする必要があり、切り欠きの配置数は多い方が好ましいが、切り欠きによって形成される格子が小さくなると破損しやすくなるため管部水平断面の大きさに応じて適宜調整される。液だまり4には試験中にも試料が残るため、液だまり4の水平断面積が小さい方が好ましいが、管部内壁の面積に対して十分に小さく構成すれば液だまり4表面からの揮散成分の影響は問題ない程度に抑えられる。また、管部1上端周囲に液だまり4を設ける構造を採用する場合は、液だまり4外周が本発明の「咽喉モデル」上部の外周構造となり、試料導入部3、吸気導入部6、呼気排出部8が接続されて「咽喉モデル」の上部構造を形成する。この上部構造は装置の洗浄性から管部1を含む構造と分離可能とすることが好ましく、分離位置は管部1上端より高い位置であることが好ましい。
【0017】
導入される試料は、流動性を有するものであって本発明に用いる装置に導入した後に管部1内壁に均一に付着、残留するものが通常用いられる。具体的には液体を主体とする物が好ましく、コロイド分散液など粒子状物質を含むものでもよいが均一であることが好ましい。本発明において、特に大きな影響は認められないものの、試料には嚥下時の状況により近くする目的で人工唾液を加えてもよい。人工唾液の組成は従来使用されてきた公知のものでよい。具体的には例えば、アミラーゼ、無機塩、ムチンを含有する水溶液が挙げられる。前記組成のアミラーゼは、α-アミラーゼを使用し、塩はNaHCO3、K2HPO4、NaCl、KCl、CaCl2・2H2O、ムチンはブタ胃由来のものがより具体的に挙げられる。
【0018】
本発明の方法は、前記の装置を用いて呼吸を模した気流によって装置管部内壁に残留した香気成分の揮散状況の変化を観察することを主たる特徴とする。このときの呼気に相当する気流に含まれる香気成分を比較評価する。評価する方法としては、官能評価と分析機器による評価のいずれも可能である。試験の繰り返し数や嗅覚疲労などの影響を考慮すると分析機器による評価が好ましいが、分析機器による評価と官能評価の双方を同条件で行って官能上の特徴と成分変化を比較することにより嚥下後のレトロネーザル香気の特徴を把握するためにはより好ましい。
【0019】
本発明の方法は
図1の装置を使用した例を示すと、まず試料導入部3に液体の試料を投入する。投入された
試料は一
旦液だまり4に溜まり管部1の上端付近で越流して管部内壁に沿って流下する。流下が終わった時点で、気流を操作して管部に吸気導入部6から吸気、呼気導入部
7から呼気を交互に導入する。呼気と吸気は流通方向が対向するように設置されており、管部での気流は呼吸時のように交互に逆方向に流れることになる。このときの呼気にあたる気流の一部または全部を捕集、もしくは装置に直接導入して測定するか、官能評価により呼吸毎の香気変化を評価する。
【0020】
装置内に模擬的な呼気、吸気として流通させる気体は、特に限定されないが反応性がなく、有機化合物を含まないものが好ましい。また、本発明の装置を用いて官能評価を行う場合は有害性が充分に低い組成のもので、かつ無臭なものを使用することが好ましい。模擬的な呼気と吸気は単一の組成でなくともよく、呼気と吸気で組成が異なる混合気体とすることもできる。これら気体として具体的には空気や窒素が通常使用される。また、呼気と吸気は乾燥気体であっても湿度を調整した気体でもよく、さらには呼気と吸気で湿度を変えたものであってもよい。
【0021】
吸気及び呼気の導入量は咽喉モデル管部1の水平断面に対する線速度で管理される。前記線速度としては50~200cm/minの範囲で一定であることが好ましい。呼気と吸気の交換頻度は、動物の呼吸に近い頻度が好ましいが、1呼吸毎の捕集量または分析装置によるデータの精度も勘案して決定される。具体的な切替え頻度は例えば呼気、吸気にそれぞれ1~5秒程度が提案される。呼気に含まれる香気成分を捕集する場合は、同一条件での試験を繰り返し同一回目の呼気を複数回捕集して機器分析等に供してもよい。
【0022】
また、詳細な成分分析を必要としない場合には、例えばPTR-TOFMSに呼気を連続供給してデータを採取してもよい。このとき、特定成分の特徴フラグメントを追跡することで該成分の継時的な量的変化を観察することができる。
【実施例】
【0023】
図1の装置を用いて飲料飲用後の呼吸時のレトロネーザル香気の変化を再現し、このときの呼気をPTR-TOFMSに導入して呼吸回数毎のデータを比較することで飲料飲用後のレトロネーザル香気の変化の特徴を評価した。
【0024】
試料は以下の組成で作成した。
(レモン飲料)
グラニュー糖 9.40g
クエン酸 0.10g
シチリア産レモンオイルエッセンス 0.05g
精製水 残量
――――――――――――――――――――――――――
合計 100.0g
(レモン炭酸飲料)
グラニュー糖 9.40g
クエン酸 0.10g
シチリア産レモンオイルエッセンス 0.05g
炭酸水 残量
合計100.0g
(人工唾液)
炭酸水素ナトリウム 5.20g
リン酸水素二カリウム 1.36g
塩化ナトリウム 0.88g
塩化カリウム 0.48g
塩化カルシウム 0.34g
ムチン 2.16g
α-アミラーゼ 125,000ユニット
精製水 残量
―――――――――――――――――――――
合計1000.0g
【0025】
図1の咽喉モデルの保温部に温水を流通して装置内部を37℃に保った後、飲料と人口唾液を5:1で混合した試料を装置の試料導入部3から投入し、管部上端の切り欠け下部まで満たした。さらに試料5gを5秒間かけて装置内に投入した。追加投入された試料は、管部1の上端に設けられた切り欠け部から越流して管部内壁に薄膜状に流下した。
管部内壁を流下した試料は試料排出部5から留出し、試料の流下が終了した後、ただちに流速1,000ml/minの気体を装置下部から装置上部へ5秒間、装置上部から装置下部へ5秒間交互に通気させることを繰り返してヒトの呼吸サイクルを再現した。装置上部の
呼気排出部8にリアルタイム質量分析計であるPTR-TOFMS(IONICON社製)を接続し、リアルタイム分析を行った。成分量の経時変化はモノテルペンのフラグメントイオン(m/z=81)の値を追跡することとした。
【0026】
PTR-TOFMSの測定条件は以下の通りとした。
測定モード :ファンネルオフモード
サンプリング流量:100mL/min
データ取得 :1,000ms
【0027】
(比較例)
実施例と同じ試料5mlを飲み込んだ後、呼気と吸気を各5秒ずつの鼻呼吸を繰り返した。PTR-TOFMSに接続した鼻腔内呼気サンプラーを用いて、ヒト呼気のリアルタイム分析を行った。分析条件は上記の
図1の装置を使用したときと同じ条件とし、同様に成分量の経時変化はモノテルペンのフラグメントイオン(m/z=81)の値を追跡することとした。
【0028】
図3に示す通り、実際のヒト呼気と咽喉モデルを使用したリアルタイム分析の結果、実際のヒト呼気に含まれる香気成分の呼吸回数毎の減衰状況と、実施例の咽喉モデルでの試験結果を比較すると同様の傾向が認められた。1息目を100%として2息目の成分量が減少した割合を求め減衰率としたところ、比較例のヒト呼気ではレモン飲料(糖酸飲料)で57%、炭酸飲料で43%と異なる傾向が認められた。本願発明の咽喉モデルを使用して試験した結果から同様に減衰率を求めたところ、レモン飲料(糖酸飲料)で58%、42%とヒトで認められた傾向と同様の結果が得られた。このことから、本発明の咽喉モデルを使用した評価方法は、従来と異なり実際に被験者が飲料を飲用した後のレトロネーザル香気の変化をよく再現することが可能であることを確認した。さらに、本発明の咽喉モデルを使用した試験を複数回繰り返して試験毎の再現性を評価したところ、相対標準偏差8.8%であった。このことから、本発明の咽喉モデルは実際のレトロネーザル香気の変化をよく再現し、かつ再現性に優れていることを確認した。
【符号の説明】
【0029】
1 管部
2 保温部
3 試料導入部
4 液だまり
5 試料排出部兼吸気排出部
6 吸気導入部
7 呼気導入部
8 呼気排出部
9 管部上端に設けた切り欠き部