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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】トイレブース使用状況報知システム
(51)【国際特許分類】
   A47K 17/00 20060101AFI20220401BHJP
   E03D 9/00 20060101ALI20220401BHJP
   G08B 25/04 20060101ALI20220401BHJP
   G08B 21/04 20060101ALI20220401BHJP
   G08B 5/00 20060101ALI20220401BHJP
   G01S 13/56 20060101ALI20220401BHJP
   G01S 13/88 20060101ALI20220401BHJP
   G01V 3/12 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
A47K17/00
E03D9/00 Z
G08B25/04 K
G08B21/04
G08B5/00 D
G01S13/56
G01S13/88
G01V3/12 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017233718
(22)【出願日】2017-12-05
(65)【公開番号】P2019097982
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】513267305
【氏名又は名称】有限会社起福
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 光司
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-069433(JP,A)
【文献】特開2006-285795(JP,A)
【文献】特開2013-092512(JP,A)
【文献】特開2016-091513(JP,A)
【文献】米国特許第05861806(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0139637(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 17/00
E03D 9/00
G08B 25/04
G08B 21/04
G08B 5/00
G01S 13/56
G01S 13/88
G01V 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施錠可能な扉により出入口が開閉可能に閉鎖されるトイレブースの使用状況報知システムであって、
前記トイレブース内の便器に着座する使用者に対し、該使用者の心拍及び呼吸の少なくともいずれかを検出するために前記使用者の胸部に向けて検知用マイクロ波を送出するドップラーセンサモジュールと、
人の心拍及び呼吸の少なくともいずれかに由来した信号成分をカバーする周波数帯域が検知対象帯域として定められるとともに、前記ドップラーセンサモジュールの検知信号から該検知対象帯域成分を、前記使用者の前記トイレブースへの入退室に伴う体動の信号成分から分離しつつ選択的に抽出する検知対象帯域成分抽出手段と、
抽出された前記検知対象帯域成分の強度を評価する検知対象帯域成分強度評価手段と、
前記検知対象帯域成分強度評価手段による評価結果に基づいて前記トイレブース内の前記使用者の有無を判定するとともに、前記検知対象帯域成分の強度が閾レベルを超える人検出状態から、前記検知対象帯域成分の強度が前記閾レベル未満となる人非検出状態に移行して所定時間以上経過した場合に前記使用者が退去したと判定する使用者有無判定手段と、
前記使用者有無判定手段による判定結果が使用者なしの状態から使用者ありの状態に切り替わってからの使用継続時間を計測する使用継続時間計測手段と、
前記判定結果に基づいて前記トイレブースの使用状況を示す使用状況報知情報を出力するとともに、計測される前記使用継続時間が予め定められた閾時間を超過した場合に前記使用状況報知情報として使用継続超過情報を報知出力する使用状況報知情報出力手段と、
を備え、前記ドップラーセンサモジュールは、前記使用者の胸部前方側ないし後方側のいずれかに面する前記トイレブースの壁面に、前記便器に着在する使用者の胸部までの距離が1.5m以下となるよう設置されたことを特徴とするトイレブース使用状況報知システム。
【請求項2】
前記検知対象帯域が0.1Hz以上3Hz以下の周波数範囲の30%以上がカバーされるように設定される請求項1記載のトイレブース使用状況報知システム。
【請求項3】
前記検知対象帯域が0.3Hz以上1Hz以下の周波数範囲を包含するように設定される請求項1又は請求項2に記載のトイレブース使用状況報知システム。
【請求項4】
前記検知対象帯域成分抽出手段は、前記検知信号の波形から前記検知対象帯域成分を抽出するバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタの通過波形信号の強度を評価する通過波形信号強度評価手段とを備え、
前記使用者有無判定手段は、前記通過波形信号の強度評価結果に基づいて前記判定を行う請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のトイレブース使用状況報知システム。
【請求項5】
前記検知対象帯域成分抽出手段は、前記検知信号の波形をフーリエ変換処理することにより該検知信号の周波数スペクトル情報を生成するフーリエ変換処理手段と、前記周波数スペクトル情報における前記検知対象帯域のスペクトル強度を評価する検知対象帯域スペクトル強度評価手段とを備え、
前記使用者有無判定手段は、前記検知対象帯域の前記スペクトル強度の評価結果に基づいて前記判定を行う請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のトイレブース使用状況報知システム。
【請求項6】
施錠可能な扉により出入口が開閉可能に閉鎖されるトイレブースの使用状況報知システムであって、
前記トイレブース内の便器に着座する使用者に対し、該使用者の心拍及び呼吸の少なくともいずれかを検出するために前記使用者の胸部に向けて検知用マイクロ波を送出するドップラーセンサモジュールと、
人の心拍及び呼吸の少なくともいずれかに由来した信号成分をカバーする周波数帯域が検知対象帯域として定められるとともに、前記ドップラーセンサモジュールの検知信号から該検知対象帯域成分を、前記使用者の前記トイレブースへの入退室に伴う体動の信号成分から分離しつつ選択的に抽出する検知対象帯域成分抽出手段と、
抽出された前記検知対象帯域成分の強度を評価する検知対象帯域成分強度評価手段と、
前記検知対象帯域成分強度評価手段による評価結果に基づいて前記トイレブース内の前記使用者の有無を判定するとともに、前記検知対象帯域成分の強度が閾レベルを超える人検出状態から、前記検知対象帯域成分の強度が前記閾レベル未満となる人非検出状態に移行して所定時間以上経過した場合に前記使用者が退去したと判定する使用者有無判定手段と、
前記使用者有無判定手段による判定結果が使用者なしの状態から使用者ありの状態に切り替わってからの使用継続時間を計測する使用継続時間計測手段と、
前記判定結果に基づいて前記トイレブースの使用状況を示す使用状況報知情報を出力するとともに、計測される前記使用継続時間が予め定められた閾時間を超過した場合に前記使用状況報知情報として使用継続超過情報を報知出力する使用状況報知情報出力手段と、
を備え、前記ドップラーセンサモジュールは、マイクロ波送信波の出力部と、該送信波が動体により反射されて形成される反射波の受信部と、前記反射波のドップラーシフト波形成分を検波する検波部とを有したアナログ回路部と、前記検波部が抽出するドップラーシフト波形をデジタル変換してデジタル波形情報を生成するA/D変換部と、前記デジタル波形情報が入力される入出力部と、前記デジタル波形情報を解析して動体の有無を判定する動体判定プログラムが格納されるROMと、前記動体判定プログラムの実行エリアを形成するRAMと、前記動体判定プログラムを実行し、その判定結果を前記入出力部の判定出力ポートに出力させるCPUとを備えたマイクロプロセッサ部とを備え、
前記ROMのプログラム格納エリアの一部が、外部からの書き込み処理が可能なPROMエリアとして構成されるとともに、前記検知対象帯域成分抽出手段及び前記使用者有無判定手段の機能実現プログラムが、前記CPUが読み取り可能な形で前記PROMエリアに書き込み格納され、前記CPUは、それら機能実現プログラムが組み込まれた形で前記動体判定プログラムを実行し、前記判定出力ポートから前記判定結果を出力させるものであるトイレブース使用状況報知システム。
【請求項7】
施錠可能な扉により出入口が開閉可能に閉鎖されるトイレブースの使用状況報知システムであって、
前記トイレブース内の便器に着座する使用者に対し、該使用者の心拍及び呼吸の少なくともいずれかを検出するために前記使用者の胸部に向けて検知用マイクロ波を送出するドップラーセンサモジュールと、
人の心拍及び呼吸の少なくともいずれかに由来した信号成分をカバーする周波数帯域が検知対象帯域として定められるとともに、前記ドップラーセンサモジュールの検知信号から該検知対象帯域成分を、前記使用者の前記トイレブースへの入退室に伴う体動の信号成分から分離しつつ選択的に抽出する検知対象帯域成分抽出手段と、
抽出された前記検知対象帯域成分の強度を評価する検知対象帯域成分強度評価手段と、
前記検知対象帯域成分強度評価手段による評価結果に基づいて前記トイレブース内の前記使用者の有無を判定するとともに、前記検知対象帯域成分の強度が閾レベルを超える人検出状態から、前記検知対象帯域成分の強度が前記閾レベル未満となる人非検出状態に移行して所定時間以上経過した場合に前記使用者が退去したと判定する使用者有無判定手段と、
前記使用者有無判定手段による判定結果が使用者なしの状態から使用者ありの状態に切り替わってからの使用継続時間を計測する使用継続時間計測手段と、
前記判定結果に基づいて前記トイレブースの使用状況を示す使用状況報知情報を出力するとともに、計測される前記使用継続時間が予め定められた閾時間を超過した場合に前記使用状況報知情報として使用継続超過情報を報知出力する使用状況報知情報出力手段と、
を備え、前記使用状況報知情報出力手段は、前記トイレブースの外に付帯設置された報知表示部に前記使用継続超過情報を表示出力するものであるトイレブース使用状況報知システム。
【請求項8】
前記使用状況報知情報出力手段は、前記判定結果が前記使用者ありの状態を示し、かつ前記使用継続時間が前記閾時間を超過していない場合に、前記報知表示部に、前記トイレブースが使用中であることを示す使用中情報を前記使用継続超過情報と区別可能に表示出力するものである請求項記載のトイレブース使用状況報知システム。
【請求項9】
前記使用状況報知情報出力手段は、前記判定結果が前記使用者なしの状態を示している場合に、前記報知表示部に前記トイレブースがあき状態であることを示すあき情報を、前記使用継続超過情報及び前記使用中情報と区別可能に表示出力するものである請求項記載のトイレブース使用状況報知システム。
【請求項10】
前記トイレブースは、ブース内側から操作可能な扉施錠機構と、前記扉の施錠状態を該扉の外から識別できる位置にて前記扉施錠機構と連動して切替表示する既設の施錠表示部とを備えたものであり、
前記報知表示部は該施錠表示部と別体に設けられてなり、かつ、前記扉施錠機構の作動状態と無関係に前記使用状況報知情報を表示出力するものである請求項記載のトイレブース使用状況報知システム。
【請求項11】
前記報知表示部は既設の前記施錠表示部を隠蔽する位置に設置される請求項10記載のトイレブース使用状況報知システム。
【請求項12】
前記報知表示部は、立位にある視認者が前記トイレブースの前記扉を左右の視界の一方に寄せた視野にて見込んだ時に発光状態が視認可能となるように、前記トイレブースの前記扉の幅方向の一方に隣接する壁部外側面上に取り付けられるとともに、互いに異なる内容の前記使用状況報知情報を発光状態の相違により区別可能に出力する発光表示部である請求項ないし請求項10のいずれか1項に記載のトイレブース使用状況報知システム。
【請求項13】
前記使用状況報知情報出力手段は、前記使用状況報知情報を外部ネットワークに無線ないし有線の通信手段により通信出力する通信出力手段を有する請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載のトイレブース使用状況報知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、列車トイレ、駅などの公共施設や商業施設に設置される集合トイレなどにおいて、扉施錠可能なトイレブースの使用状況報知システムに関し、特に使用者の長時間のブース滞在を確実に検出して、これを外部に報知するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
列車トイレや集合トイレにおいて大便器の設置エリアには、扉施錠可能なトイレブースが設けられている。トイレブースの使用者は、扉を開けて中に入ると内側から施錠し、用を足し終えると解錠して扉を開け、外へ出る。このとき、扉の外面には施錠・解錠と連動して、その使用状況を「あき」「使用中」などの文字により、あるいは空き状態を青色、使用中を赤などの色により切替表示する表示部が設けられるのが一般的である。
【0003】
ところで、列車トイレなどにおいては、ブース内の使用者が病気等により動けなくなり、施錠後の滞在時間が異常に長くなってしまうことが起こりうる。トイレが設けられるのは新幹線や特急といった長距離列車が多く、車掌や車内アテンダント等は定期的に車内を行き来して巡視を行う。トイレブースの使用状況は表示部を参照することで、そのブースが空いているのか使用中なのかは識別できるが、その使用継続時間までは把握できない。その結果、入室後、相当時間経過しているブースのみを識別して、急病人の救出等のため開扉するといった判断が的確に行えない問題がある。こうした事情は、列車以外の集合トイレなどにおいてもおおむね同様である。
【0004】
例えば、特許文献1には、上記とは目的は異なるが、スマートフォンやゲーム機操作のためトイレブースを不法に長時間占有する使用者を排除するため、ブース内の使用者をドップラーセンサにより検知するとともに、使用者のブース在室時間をタイマー計測し、該在室時間が所定時間を超えたときにブース内のスピーカーから退去喚起の音声情報を出力する発明が開示されている。同文献には、音声出力と連動して順番待ちする人に喚起状況を伝える表示部を順番待ち列の近傍壁部に設置する構成、あるいはドップラーセンサによるブース内の監視状態を、外部の管理部門に通信報知する構成なども開示されている。
【0005】
ここで、特許文献1において、ドップラーセンサを用いたブース内の使用者の滞在時間計測には、次のようなアルゴリズムが採用されている。すなわち、トイレブースに使用者が入室する際には扉の開閉や脱衣あるいは着座等に由来した大きな体動が生ずるので、この体動を検知することにより入室開始時間を特定する。着座後は使用者の体動が減少し、心拍及び呼吸に由来した微動のみが検出される状態が継続するので、その微動の継続が所定時間を超えれば時間超過とみなし、使用者の退去喚起を行う。一方、使用者が退出する際には、着衣、離座及び扉開閉のために再び体動が大きくなるから、これを検出して退出判定を行い、タイマー計測を終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-159033号公報
【文献】特開2017- 74332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方式には、次のような問題がある。
まず、ブースからの先使用者の退出と次使用者の入室とが連続的になされたとき、先使用者の退出と次使用者の入室とがブース内で重なることは通常ありえないことであり、呼吸及び心拍に由来した微動の検知途切れ期間は短時間ではあっても必ず有意に発生する。したがって、これを確実に検知できれば、連続した人の出入りがある場合も、個々の使用者の滞在時間を特定できるはずである。
【0008】
しかし、特許文献1においては、その図4に示されているごとく、ドップラーセンサの出力は振幅の大きい体動の波形と、呼吸及び心拍の微動波形とを特に区別せず全周波数帯域で波形が検出されるようになっており、ブース内の使用者の滞在時間は、入退室を示す前後の大きな体動波形に挟まれた微動検出期間の長さで特定している。そして、退出の確定は呼吸及び心拍の微動波形の途切れに基づいて行なう旨言及されているが、当該文献中にも課題として挙げられている通り、連続した人の入退出がブースに発生した場合に、呼吸及び心拍の微動波形の途切れがその入退室の大きな体動波形にかき消されてしまい、個々の使用者の滞在時間を切り分けることができなくなる問題がある。
【0009】
すると、使用者が異なる2つの滞在時間が一体に検知されてしまい、連続滞在時間としては長くなる方向に誤検知されやすくなる。ブース内で発生する急病人対応等のための開扉判断を行おうとする場合、使用者のプライバシーが特に尊重されるトイレブースという閉鎖空間において、上記の誤検知は一つ間違えれば大問題に発展する可能性がある。これを解決するため、特許文献1においては、その段落0064によると、つぎにトイレブースに入った人の動作も入室腰掛け動作から便座の上に座った着座姿勢維持動作に変化するので、その体動が大きく減少する状態になったことをもって、次の使用者が着座姿勢維持動作になったと判定し、トイレブース内在室時間のカウントのリセットを行なえばよい旨が開示されている。
【0010】
しかし、トイレブース内の使用者は、現実には着座した後も体を絶対静止させるようなことは不可能であり、心拍・呼吸以外の体の揺れなどは継続的に発生している。そして、座り心地改善のために座り直したり、姿勢を変えたり、顔を触ったり、背伸びをしたりするなど、勝手気ままな行動をとることが多く、用が終わるまで大きな体動を生じないようなことは極めてまれであるのが現実である。その結果、同一人物による連続使用であるにも関わらず、着座後の使用者が途中で大きな体動を発生させるたびに、計測される使用継続時間は細かく切り刻まれてしまうことになる。また、さらに重要な点として、使用者の呼吸や心拍の振動成分は非常に微弱でかつ比較的長周期である一方、着座中の使用者の巨視的な体動は、意識を失って自発的に動くことができなくなる場合を除き、上記のようにほぼ継続的に生じるのであり、特許文献1の図4に示されている微弱波形は呼吸や心拍に由来するものではなく、完全静止できない着座中の使用者の単なる体の揺れ等を検出しているに過ぎない可能性が極めて高い。特許文献1の方式は、ドップラーセンサによるトイレ使用者検出の実際を実験レベルにて十分考証せずに着想されたものに過ぎないと考えられ、この方式で使用者の連続滞在時間を正確に特定することは絶望的と言わざるを得ない。
【0011】
例えば、トイレの長時間滞在は、上記のような使用者の体調不良や、スマホないしゲーム機操作などを目的とするものに限らず、犯罪行為、例えばテロ行為準備等のために、不審者が悪意を持ってトイレブース内に長時間滞在しようとすることもあり得る。この場合にあっては、使用者はブース内で時々大きな動作を作為的に発生させることで、不正な長時間滞在の摘発を免れることが可能となり、セキュリティ上の盲点にもなりかねないのである。
【0012】
本発明の課題は、ブース内の使用者が滞在中に大きな体動を発しても、使用者の入退出誤検知が生じにくく、ひいては同一人物によるトイレブースの連続滞在時間を正確に把握することができるトイレブース使用状況報知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、施錠可能な扉により出入口が開閉可能に閉鎖されるトイレブースの使用状況報知システムにおいて、上記の課題を解決するために、
トイレブース内の便器に着座する使用者に対し、該使用者の心拍及び呼吸の少なくともいずれかを検出するために使用者の胸部に向けて検知用マイクロ波を送出するドップラーセンサモジュールと、
人の心拍及び呼吸の少なくともいずれかに由来した信号成分をカバーする周波数帯域が検知対象帯域として定められるとともに、ドップラーセンサモジュールの検知信号から該検知対象帯域成分を、使用者のトイレブースへの入退室に伴う体動の信号成分から分離しつつ選択的に抽出する検知対象帯域成分抽出手段と、
抽出された検知対象帯域成分の強度を評価する検知対象帯域成分強度評価手段と、
検知対象帯域成分強度評価手段による評価結果に基づいてトイレブース内の使用者の有無を判定するとともに、検知対象帯域成分の強度が閾レベルを超える人検出状態から、検知対象帯域成分の強度が閾レベルを未満となる人非検出状態に移行して所定時間以上経過した場合に使用者が退去したと判定する使用者有無判定手段と、
使用者有無判定手段による判定結果が使用者なしの状態から使用者ありの状態に切り替わってからの使用継続時間を計測する使用継続時間計測手段と、
判定結果に基づいてトイレブースの使用状況を示す使用状況報知情報を出力するとともに、計測される使用継続時間が予め定められた閾時間を超過した場合に使用状況報知情報として使用継続超過情報を報知出力する使用状況報知情報出力手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
ドップラーセンサモジュールは、マイクロ波からなる送信波に対する反射波のドップラーシフト成分を抽出し、そのドップラーシフト成分の強度等に基づいて動体を検知するものである。この発明においては、トイレブース内の便器に着座する使用者をドップラーセンサモジュールにより検出する。このようなドップラーセンサモジュールは、センサモジュールにごく近接して滞在する使用者の心拍や呼吸に由来した微小な体動(以下、「生存微動」という)を簡単に検知することができるが、使用者の入退出時の動作や、着座時の姿勢矯正といった大きな動作も同時に検知することになる。そして、この大きな体動を使用者の入退出の区切りとして使用する特許文献1の方式では、前述のごとく入退出と特に関係のない大きな体動を退出時動作と誤検知する可能性があるほか、連続して使用者が入退室を繰り返した場合に生存微動の信号が入退出時の大きな体動信号に埋没し、入退出の切れ目を検出できなくなる不具合を招いていた。
【0015】
そこで本発明においては、ドップラーセンサモジュールを該使用者の胸部に向けて検知用マイクロ波を送出するように配置し、使用者の心拍及び呼吸の少なくともいずれかに由来した信号成分をカバーする周波数帯域を検知対象帯域として定め、ドップラーセンサモジュールの検知信号から該検知対象帯域成分を、使用者のトイレブースへの入退室に伴う体動の信号成分から分離しつつ選択的に抽出する。次いで、その抽出された検知対象帯域成分の強度評価結果に基づいてトイレブース内の使用者の有無を判定するとともに、検知対象帯域成分の強度が閾レベルを超える人検出状態から、検知対象帯域成分の強度が閾レベルを未満となる人非検出状態に移行して所定時間以上経過した場合に使用者が退去したと判定する。そして、使用者有無判定手段による判定結果が使用者なしの状態から使用者ありの状態に切り替わってからの使用継続時間を計測し、計測される使用継続時間が予め定められた閾時間を超過した場合に使用継続超過情報を報知出力する。これにより、「発明が解決しようとする課題」の欄にて言及した問題点は、下記のようにことごとく解決できる。
【0016】
(1)生存微動を示す検知対象帯域成分が大きな体動成分から分離検知されるので、トイレブースに連続した人の入退出が発生した場合も、使用者の入退出に伴う生存微動(検知対象帯域成分)の途切れは、大きな体動波形に埋没することなく確実に検知できるようになる。これにより、トイレの混雑時等において、同じトイレブースが異なる使用者により入れ代わり立ち代わり占有される場合においても、同一使用者により連続使用されていると誤検知される可能性を激減させることができる。その結果、プライバシーが特に尊重されるトイレブースにて、急病人救出や不審者摘発のための緊急開扉も忌憚なく実施できるようになる。
【0017】
(2)トイレブース内の使用者の有無の判定は、大きな体動から切り分けて抽出される生存微動(検知対象帯域成分)の強度に基づいて行うので、使用者が着座中に大きな体動を発生させても、これを退出と誤検知する可能性が原理的に排除される。その結果、同一人物による連続使用が継続する限り、着座後の大きな体動により計測される使用継続時間が切り刻まれてしまう不具合を生じない。また、使用者がブース内で大きな動作を作為的に発生させても、抽出される検知対象帯域成分(生存微動)の強度に基づく連続滞在時間の計測に影響が及ばず、不正な長期滞在を確実に摘発・排除することができる。
【0018】
次に、使用者有無判定のための検知対象帯域は、0.1Hz以上3Hz以下の周波数範囲の30%以上(望ましくは50%以上)がカバーされるように設定することにより、一般的な人の呼吸周波数帯域(0.2Hz以上0.5Hz以下)及び心拍周波数帯域(0.5Hz以上2Hz以下)の少なくともいずれかを部分的にはカバーでき、かつ、便器への着座及び離座、身振り、伸びといった大きく急峻な体動の周波数帯から確実に切り分けることができるので、使用者有無の判定精度を向上することができる。
【0019】
心拍や呼吸に伴う生存微動は人体の胸部付近に集中するので、胸部に対し前か後ろのいずれかのなるべく近距離よりマイクロ波を照射するように、ドップラーセンサモジュールを設置することが効果的である。具体的には、使用者の胸部前方側ないし後方側のいずれかに面するトイレブースの壁面に、便器に着在する使用者の胸部までの距離が1.5m以下となるよう設置するのがよい。ドップラーセンサモジュールの胸部までの距離が1.5mを超えると、着衣が厚かったり、使用者の心拍レベルが急病等の影響により弱くなったりして生存微動検知のS/N比が低下した場合に、使用者が存在していても不在と判定してしまう不具合が生じやすくなる。ドップラーセンサモジュールの胸部までの距離は、より望ましくは1m以下とするのがよい。他方、ドップラーセンサモジュールは、心拍ないし呼吸の微動を検知できる範囲内で、トイレブースの天井(ないし天井裏)に取り付けることも可能である。
【0020】
なお、ドップラーセンサモジュールを用いた呼吸数や心拍数の測定手法は多数提案されており、例えば特許文献2には、ドップラーセンサを病室や介護室内に設置し、離床や歩行といった大きな体動を検出して患者や施設入所者の安否確認を行う見守りシステムにかかる発明が開示されている。該公報には、ドップラーセンサの検出波形をフィルタリングして心拍と呼吸の波形を抽出し、心拍数と呼吸数を解析して患者や入所者の健康状態管理を行う実施形態も開示されている。しかし、該特許文献2の技術は、室内に滞在していることが初めから確定している対象者の健康及び安否確認を目的とするものであって、測定対象も存在が確定している対象者の心拍及び呼吸の数(周波数)である。これに対し、本発明は、心拍や呼吸に由来した検知対象帯域成分(生存微動信号)を選択検知してその強度を評価することによりトイレブース内の使用者有無を把握すること、かつ使用者がいる場合においては、その抽出される検知対象帯域成分の途切れにより使用者の退出判定を行うこと、抽出される検知対象帯域成分の継続検出時間により、当該トイレブースの使用継続超過を報知することを目的とし、解決課題が全く異なることを付言する。
【0021】
また、本発明においては、トイレブース内の物体が使用者(人)であるか否かを判断できれば十分であって、呼吸と心拍を特に区別して検知すること、あるいは、あえて詳細な呼吸数や心拍数を特定する必要は全くない。特に、設定された検知対象帯域の波形の強度の代表値(例えば平均値)に基づいて使用者の有無を判定するようにすれば、処理速度の比較的小さい安価なマイクロプロセッサ等でも十分にリアルタイム判定を行うことができる。
【0022】
また、呼吸と心拍のいずれか一方のみを選択的に検知するように構成してもよいが、呼吸と心拍を双方ともに包含する帯域の成分を利用して、特に呼吸と心拍の区別を行うことなく波形強度解析を行うこともできる。このようにすれば、呼吸と心拍のどちらか一方の信号強度が不十分な場合も、他方の信号強度が確保できていれば使用者の有無を問題なく判定できる。特に振幅の小さい心拍の成分は重ね着などで隠ぺいされやすいので、この場合はより振幅の大きい呼吸の成分が利用できることで、冬場などにおいても検知精度は格段に向上する。具体的には、検知対象帯域を0.3Hz以上1Hz以下(望ましくは、0.2Hz以上1.5Hz以下)の周波数範囲を包含するように設定しておくとよい。また、この帯域から外れる信号成分は、これをなるべく排除することで、心拍や呼吸以外の動きを検知することに伴う誤動作を生じにくくすることができる。
【0023】
検知対象帯域成分抽出手段は、検知信号の波形から検知対象帯域成分を抽出するバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタの通過波形信号の強度を評価する通過波形信号強度評価手段とを備えたものとして構成することができる。すなわち、検知対象帯域成分を埋没させる可能性のある大きな体動の帯域成分をフィルタリングにより除去する考え方であり、使用者有無判定手段は、通過波形信号の強度評価結果に基づいて判定を行う。検知対象帯域成分のバンドパスフィルタ通過波形を強度解析することで、心拍や呼吸に由来した生存微動成分の有無を簡単かつ確実に特定することができる。バンドパスフィルタはアナログフィルタ回路として構成してもよいが、検知対象帯域が上記のような低周波領域に設定されるため、DSP等を用いない低廉なハードウェア上でもデジタルフィルタを容易に構成でき、クロック周波数の低い汎用マイクロプロセッサ(例えばPICなど)にもソフトウェア的に十分組込みが可能である。
【0024】
また、別の手法としては、検知対象帯域成分抽出手段は、検知信号の波形をフーリエ変換処理することにより該検知信号の周波数スペクトル情報を生成するフーリエ変換処理手段と、周波数スペクトル情報における検知対象帯域のスペクトル強度を評価する検知対象帯域スペクトル強度評価手段とを備えたものとして構成することもできる。これは、ドップラーセンサモジュールの波形出力をフーリエ変換により周波数と強度の分布情報に変換することで、検知対象帯域成分を大きな体動の帯域成分と分離して把握する手法であり、解析波形から大きな体動の帯域成分を除去する上記フィルタリングとは思想を異にするが、得られる効果については同様である。この場合、使用者有無判定手段は、検知対象帯域のスペクトル強度の評価結果に基づいて判定を行う。この手法では、サンプリングした検知信号(ドップラーシフト成分)をフーリエ変換処理して周波数スペクトル情報に変換し、検知対象帯域のスペクトル強度を解析することで、心拍や呼吸に由来した体動成分の有無を簡単かつ確実に特定することができる。フーリエ変換処理手段は専用ICなどで構成してもよいが、検知対象帯域が上記のような低周波領域に設定されるため、ここでもクロック周波数の低い汎用マイクロプロセッサ上でのソフトウェアコンポーネントとして十分組込みが可能である。この場合、処理的には高速フーリエ変換が演算量も少なく、安価なシステム構成を実現する上で有利である。
【0025】
次に、ドップラーセンサモジュールは、マイクロ波送信波の出力部と、該送信波が動体により反射されて形成される反射波の受信部と、反射波のドップラーシフト波形成分を検波する検波部とを有したアナログ回路部と、検波部が抽出するドップラーシフト波形をデジタル変換してデジタル波形情報を生成するA/D変換部と、デジタル波形情報が入力される入出力部と、デジタル波形情報を解析して動体の有無を判定する動体判定プログラムが格納されるROMと、動体判定プログラムの実行エリアを形成するRAMと、動体判定プログラムを実行し、その判定結果を入出力部の判定出力ポートに出力させるCPUとを備えたマイクロプロセッサ部とを備えたものとして構成できる。このとき、ROMのプログラム格納エリアの一部が、外部からの書き込み処理が可能なPROM(Programmable Read Only Memory)エリアとして構成されるとともに、検知対象帯域成分抽出手段及び使用者有無判定手段の機能実現プログラムが、CPUが読み取り可能な形でPROMエリアに書き込み格納され、CPUは、それら機能実現プログラムが組み込まれた形で動体判定プログラムを実行し、判定出力ポートから判定結果を出力させるように構成できる。
【0026】
上記構成のように、信号処理部となるマイクロプロセッサ部をドップラーセンサモジュールが備え、かつ、そのプログラム格納エリアとなるROMの一部がPROMで構成されていれば、検知対象帯域成分抽出手段(及び使用者有無判定手段)の機能実現プログラムはそのPROMエリアに対し外部から書き込むことで追加格納することができる。これにより、本来であれば、A/D変換されたドップラーシフト波形の全帯域の強度に基づいて動体有無が判定されるところ、ドップラーセンサモジュール周辺へのハードウェアコンポーネントを何ら追加することなく、検知対象帯域成分に特化した解析結果(つまり、呼吸や心拍の有無の解析結果)を反映した形で使用者の有無が判定できるようドップラーセンサモジュールの動作をカスタマイズでき、本発明のトイレブース使用状況報知システムの要部を極めて簡便な構成にて実現できる。
【0027】
使用状況報知情報出力手段は、トイレブースの外に付帯設置された報知表示部に使用継続超過情報を表示出力するものとして構成できる。トイレブースに付帯設置された報知表示部に使用継続超過情報が表示出力されることで、トイレの巡視者は使用中のトイレブースを発見したとき、その表示を見ることでブースが長時間占有されていることを一目で把握でき、中の使用者に安否確認のため声かけしたり、応答がない場合は開扉したりするといった緊急対応に速やかに移行することができる。
【0028】
トイレブースは、そのほとんどがブース内側から操作可能な扉施錠機構と、扉の施錠状態を扉の外から識別できる位置にて扉施錠機構と連動して切替表示する既設の施錠表示部とを備えている。この場合、本発明における報知表示部は、該施錠表示部と別体に設けること(例えば、後付け設置すること)が可能であり、かつ、扉施錠機構の作動状態と無関係に使用状況報知情報を表示出力ように構成できる。トイレブースの既設の施錠表示部の状態は、後述の通り、実際のトイレブースの占有状態を反映していないことがあり得る。しかし、本発明においては、ドップラーセンサモジュールによる生存微動検知を用いることで使用者による内部の占有状態を高信頼率で判定でき、使用状況報知情報出力手段にその内容を出力できるので、トイレブースの使用者は既設の施錠表示部の状態によらず、より確度の高いトイレブースの使用状態把握が可能となる。
【0029】
使用状況報知情報出力手段は、判定結果が使用者ありの状態を示し、かつ使用継続時間が閾時間を超過していない場合に、報知表示部に、トイレブースが使用中であることを示す使用中情報を使用継続超過情報と区別可能に表示出力するよう構成することもできる。使用継続時間が閾時間を超過していない場合も、超過時と異なる内容で敢えて表示を行うことで、そのトイレブースが通常の使用状態にあることを容易に把握することができる。このとき、トイレブースの使用者が扉の施錠を失念して入室していた場合も、使用状況報知情報出力手段の表示状態により当該ブース内に使用者がいることが報知される。これにより、使用者がいる「あき」表示状態のブースの扉が次の利用者により不用意に開け放たれ、中の使用者が狼狽してしまう流れを防止ないし抑制することができる。これは、施錠されていなくても一見強固な閉鎖状態が形成されてしまう引き戸式の扉が採用されている場合(例えば列車トイレなど)に生じやすい問題であり、上記構成の採用により効果的に解決を図ることができる。例えば、前述の扉施錠機構が扉に対し施錠解除状態とされ施錠表示部が非施錠状態を表示している場合において、判定結果が使用者ありの状態を示している場合に、使用状況報知情報出力手段は報知表示部に使用中情報を出力するように構成することができる。
【0030】
他方、使用状況報知情報出力手段は、判定結果が使用者なしの状態を示している場合に、報知表示部にトイレブースがあき状態であることを示すあき情報を、使用継続超過情報及び使用中情報と区別可能に表示出力するように構成することもできる。これにより、そのトイレブースがあき状態にあることを外から容易に把握できる利点が生ずる。また、稀ではあるが、トイレブースから人が退出する際の扉閉鎖時の振動等で扉の内鍵が動き、無人のブースが施錠されてしまうことがある。しかし、上記の表示は、生存微動信号が存在しないことに基づきブースが真正の「あき状態」であることを示すものであるから、「使用中」となっているブースが実は「あき」状態であることを外から目視で把握できるようになる。その結果、当該のブースが使えるにもかかわらず「使用中」となって、次の利用を妨げてしまう不具合を効果的に回避することができる。
【0031】
なお、一般使用者にとって、同じトイレブースに既設の施錠表示部と報知表示部とが併設されている場合、2つの表示部の表示状態が相違していると、実際のブースの占有状態がどちらの表示部に反映されているのかの把握ができなくなり、混乱要因となることも考えられる。この場合、既設の施錠表示部を隠蔽する位置に報知表示部を設置すれば、表示が一義的となって混乱要因を解消できる。
【0032】
一方、報知表示部は、立位にある視認者がトイレブースの扉を左右の視界の一方に寄せた視野にて見込んだ時に発光状態が視認可能となるように、トイレブースの扉の幅方向の一方に隣接する壁部外側面上に取り付けられるとともに、互いに異なる内容の使用状況報知情報を発光状態の相違により区別可能に出力する発光表示部として構成することができる。このような発光表示部は、集合トイレや列車トイレのように通路と平行にブース扉が設置される場合、通路を歩行する利用者や巡視者は、遠くにあるブースであっても発光表示部の発光状態により当該ブースの占有状況を容易に把握でき、特に時間超過して占有されているブースについては、これをいち早く発見して必要な対応に速やかに移行できる利点が生ずる。また、既設の施錠表示部が非発光形態のものであっても、上記発光表示部を新たな施錠表示部として容易に後付け設置することが可能である。
【0033】
また、使用状況報知情報出力手段は、使用状況報知情報を外部ネットワークに無線ないし有線の通信手段により通信出力する通信出力手段を有するものとして構成することもできる。これにより、トイレブースに対する巡回監視者が不在の状況にあっても、使用継続超過などの異常が発生したとき、外部に通信により遠隔報知することができ、より手厚い対応を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の作用及び効果の詳細については、「課題を解決するための手段」の欄にすでに記載したので、ここでは繰り返さない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明のトイレブース使用状況報知システムを列車トイレに設置する例を模式的に示す図。
図2】扉施錠機構の拡大図。
図3】施錠表示部の一例を表示例とともに示す図。
図4】発光表示部として構成した報知表示部の第一例を示す正面図。
図5】トイレブース内におけるドップラーセンサモジュールの検知域の一例を示す平面模式図。
図6】トイレブース使用状況報知システムの全体構成の一例を示すブロック図。
図7】ドップラーセンサモジュールの詳細を示すブロック図。
図8】ドップラーセンサモジュールの検知信号のバンドパスフィルタ処理の概念を示す図。
図9】バンドパスフィルタ処理後の波形の強度解析の一例を示す図。
図10】フーリエ変換により生成した周波数スペクトルの検知対象帯域成分の強度解析を行う概念を示す図。
図11】使用者検知処理の第一例の流れを示すフローチャート。
図12】同じく第二例の流れを示すフローチャート。
図13】判定プログラムの流れを示すフローチャート。
図14】トイレブース使用状況と施錠表示部及び報知表示部の表示形態の第一例を示す図。
図15】同じく第二例を示す図。
図16】同じく第三例を示す図。
図17】同じく第四例を示す図。
図18】発光表示部として構成した報知表示部の別使用形態を示す図。
図19図18の発光表示部の詳細を示す図。
図20】本発明のトイレブース使用状況報知システムを集合トイレに設置する例を模式的に示す図。
図21】既設の施錠表示部を隠蔽する形で報知表示部を設置する例を示す図
図22】発光表示部として構成した報知表示部の第三例を示す正面図。
図23】報知表示部を平面ディスプレイにて構成した例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づき説明する。
図1は本発明のトイレブース使用状況報知システムを列車トイレに設置する場合の構成例を模式的に示す図である。トイレブース200は、車両のデッキ付近において通路に面する側に出入り口が設けられ、施錠可能な扉202により該出入口が開閉可能に閉鎖される。その内部床面には洋式便器201が設けられている。扉202は引き戸として構成され、外側面には開閉操作用のドアノブ203が設けられている。
【0037】
一方、該ドアノブ203よりも幾分高い位置において扉202の内側面には扉施錠機構204が設けられている。図2に示すように、扉施錠機構204は、ブース内側から操作が可能なフック金具204tを有し、回転支持部204pを介して扉202に対し扉面と平行な面内にて回動可能に取り付けられている。解錠位置ではフック金具204tは先端が垂直上方を向くように位置し、この状態から指でフック金具204tを回し落とすように操作すると、その先端が扉枠壁部202a側のフック受け入れ凹部202c内にはまり込んで施錠位置となり、内部に形成されたフック係合部210と係合して施錠状態が形成される。また、解錠する場合はフック金具204tを跳ね上げるように逆方向に回転させ解錠位置に戻せばよい。
【0038】
図1に戻り、扉枠壁部202aの外側には、扉施錠機構204のフック金具204tの回転動作と連動して表示板がスライドする施錠表示部205が取り付けられている。この施錠表示部205は、図3に示すように、フック金具204tを解錠位置に跳ね上げるとトイレブース200があき状態であることを示す文字表示(以下、「あき」表示という)状態となり、フック金具204tを施錠位置に倒すと、表示板がスライドしつつ「あき」表示を隠蔽する重なり位置に移動し、トイレブース200が使用状態であることを示す文字表示(以下、「使用中」表示という)状態となる。すでに周知の機構であるため、これ以上の詳細な説明は略する。
【0039】
図1に戻り、トイレブース200内には、検知用マイクロ波を送出することにより検知域DAを形成するドップラーセンサモジュール3が取り付けられている。ドップラーセンサモジュール3は、便器201に着座する使用者PPに対し、該使用者PPの心拍及び呼吸の少なくともいずれかを検出するために使用者PPの胸部に向けて検知用マイクロ波を送出するものである。具体的には、着座する使用者PPの胸部に対応した位置(例えば床面から50cm以上1m以下)にて、使用者PPの前方から胸部に向けて検知用マイクロ波を送出できるように設置高さが調整されている。本実施形態では、トイレブース200は使用者PPの側方に扉202が設置されており、ドップラーセンサモジュール3は筐体に収容されたセンサユニット4の形で使用者PPの前方側の内壁面に取り付けられている。なお、ドップラーセンサモジュール3は図中一点鎖線で示すように、使用者PPの背後から検知用マイクロ波を送出するように取り付けてもよいし、心拍ないし呼吸の微動を検知できる範囲内で、トイレブースの天井(ないし天井裏)に取り付けることも可能である。しかし、呼吸や心拍に伴う生存微動の信号強度を大きく取得するためには、使用者PPの胸部前方側に取り付けるほうがより有利である。
【0040】
本実施形態において、トイレブース使用状況報知システム1は、このドップラーセンサモジュール3による使用者PPの検出状態に基づきトイレブース200内の使用者PPの有無を判定し、その判定結果に基づいてトイレブース200の使用状況を示す使用状況報知情報を、トイレブース200の外に付帯設置された報知表示部13に出力するように構成されている。報知表示部13は扉枠壁部202aの外側面にて、トイレブース200横の通路を歩行する巡回者PIが立位にて視界にとらえることができる位置、本実施形態では、扉202側の施錠表示部205に隣接する高さ位置に取り付けられており、ブース内のセンサユニット4にケーブル5を介して接続されている。
【0041】
図4は報知表示部13を拡大して示すものである。該報知表示部13は発光表示部として構成され、上面が表示面となる扁平な筐体13mに対し2個のLED6,7を点灯状態が視認できるようにマウントしたものである。このうち、ドップラーセンサモジュール3による使用者PPの検出状態(判定結果)が「使用者なし」の状態を示している場合は、LED6(例えば青色)が点灯し、トイレブース200があき状態であることが報知される(以下、「「あき」LED6」ともいう)。他方、使用者PPの検出状態(判定結果)が使用者ありの状態を示している場合は、LED7(例えば赤色)が点灯し、トイレブース200が使用中状態であることが報知される(以下、「「使用中」LED7」ともいう)。
【0042】
そして、使用者ありの状態の連続継続時間、すなわちトイレブース200の使用継続時間が予め定められた閾時間を超過した場合には、「使用中」LED7は点滅状態に移行し、使用継続超過情報として報知出力される。すなわち、「あき」LED6及び「使用中」LED7の点灯状態により、トイレブース200に使用者が不在の状態(あき状態)、使用者が在室して使用継続時間が閾値未満の状態(通常の使用中状態)、及び使用継続時間が閾値を超えた状態(使用継続超過状態)の3つが区別して表示出力される。また、報知表示部13は、該施錠表示部205と別体に後付け設置されるものであり、扉施錠機構204の作動(表示)状態と無関係に、トイレブース200の上記使用状況を示す報知情報を表示出力する。
【0043】
次に、ドップラーセンサモジュール3の構成は周知であり、検出波としてマイクロ波を検出域に送出し、動体による反射波を受信するとともに、反射波のドップラーシフトに由来した周波数成分(ドップラーシフト成分)を抽出し、動体の動きを検出するものである。送信波の周波数はマイクロ波帯(GHz帯)であるのに対し、人の動きなどを示すドップラー周波数は0.2~数十Hzの低周波帯であり、反射波はドップラーシフトによる周波数変調波と見ることができる。したがって、一般的なドップラーセンサモジュールにおいては、反射波を直交検波してドップラーシフト成分を抽出する方式が採用されている。
【0044】
図5に示すように、ドップラーセンサモジュール3は基板4S上に実装され、さらに筐体4cに収容されてセンサユニット4が形成されている。筐体4cは、ドップラーセンサモジュール3が出力するマイクロ波を透過可能な樹脂材料(例えばABS樹脂やPBT樹脂等)により構成されている。ドップラーセンサモジュール3はモジュールパッケージの主面法線NLの方向にマイクロ波を送出するようになっており、該マイクロ波の送出領域すなわち検出域DAは、平面視にて該主面法線NLを中心軸線とする扇形の広がりを有している。その感度については、使用者PPのみを選択的に認識できるようにするために、ドップラーセンサモジュール3の検知域DAの中心軸線方向にて3m以上、より望ましくは2m以上離れて位置する人物の生存微動に対する検知能力が消失する(ないし、設定閾値未満となる)程度に選定されていることが望ましい。
【0045】
本実施形態では、上記好ましい条件を充足するドップラーセンサモジュール3の市販品として、新日本無線株式会社製のNJR4265J1(送信波周波数:24.25GHz)を用いている。図5において、その平面視での検出域DAの広がり角度φは、主面法線NLに関し左右それぞれ40°程度である。また、筐体4cに対し基板4Sは、実装されたドップラーセンサモジュール3の主面法線NLと筐体4cの前面とが垂直となるように組み込まれている。また、検出域DAは主面法線NLの一方の側(パッチアンテナ等が実装される側)に強い指向性を有し、反対側への広がりは非常に小さい。したがって、検出域DAを使用者PP側に向けることで、ブース外の生存微動が誤検知される心配はほとんどない。
【0046】
次に図6は、トイレブース使用状況報知システム1の全体の電気的構成を示すブロック図である。トイレブース使用状況報知システム1はマイコン50を処理主体として備えている。マイコン50は例えばPIC(例えばPIC12F683:マイクロチップ・テクノロジー社製、等)にて構成され、CPU51、プログラム実行領域となるRAM52、プログラムが格納されるROM54、入出力部53及びそれらを相互に接続するバス55等がワンチップ化されたものである。本実施形態では、入出力部53に接続されるI/O拡張IC56(例えばMCP23008:MICROHIP社製)によりポート数が拡張されている(従って、広義にはマイコン50とI/O拡張IC56とを合わせて一般のマイコンの概念が構築されていると考えてもよい)。ROM54には、すでに説明した各機能実現手段を具現化するためのプログラム群、具体的にはブース内使用者判定プログラム54aと通信制御プログラム54bとが書き込まれている。
【0047】
I/O拡張IC56には、前述のドップラーセンサモジュール3が接続されている。また、報知表示部13に組み込まれた「あき」LED6及び「使用中」LED7には電流調整抵抗6a,7aが接続され、これらLED6,7の駆動ラインと接地ラインとを束ねたケーブル5を介してI/O拡張IC56に接続されている。I/O拡張IC56の各ポートは、信号変化エッジが有効となる状態割り込みポート(設定により立上りエッジか立下りエッジのいずれかが有効となる)と、弱プルアップによる双方向入出力ポートの一方又は双方として機能する。状態割り込みポートとしての使用可否は、制御レジスタの設定により決定される。具体的には、ドップラーセンサモジュール3の接続ポートは抵抗3aを介してプルアップされ、使用者ありとなしとに対応したビット情報の出力ポートとして使用される。また、LED6,7の接続ポートは、点灯及び消灯の2つの制御状態に対応させるためのビット情報の出力ポートとして使用される。
【0048】
また、I/O拡張IC56には、ハブ66に接続された無線アクセスポイント(WiFiルータ)68を介してインターネット100に無線LAN接続するためのWiFiモジュール61が接続され、トイレブース200が同一使用者により使用継続超過状態となっている等の情報をインターネット100上の管理サーバに無線送信できるようにしてある。なお、この情報は、I/O拡張IC56に接続されたUSBインターフェース63、コネクタ64及びパーソナルコンピュータ65等を介して有線通信により送信できるようにしてもよい。
【0049】
また、センサユニット4には電源コネクタ58が設けられ、トイレブース200内の電源ラインより所定の外部電源電圧(例えばAC100あるいはAC24V等)が入力される。該外部電源電圧は電源回路57によりDC5V等の信号制御電圧に変換され、回路各部に供給される。また、回路各部の接地ライン(GND)は外部電源入力の接地ラインと共有化されている。
【0050】
次に、図7は、センサユニット4の内部構成の詳細を示すブロック図である。ドップラーセンサモジュール3は、検出プローブであるマイクロ波を発生させる高周波回路部(ドップラーセンサRF回路)38を備え、パッチアンテナ等から構成される送信アンテナ37t及び受信アンテナ37rが接続される。高周波回路部38は送信周波数の発信回路を有し、これを増幅して送信アンテナ37tより対象物に送信し、その反射波を受信アンテナ37rにより受信する。反射波は前述の通り送信波がドップラーシフト成分で変調された波形を有するが、高周波回路部38内ではその入力反射波の同相波(Ich)と、図示しない位相シフト回路により90°移相した直交波(Qch)とを発生させ、各々高周波アンプ39を介して乗算器からなる直交検波回路(直交検波部(MUX))40に入力することで、変調成分であるドップラーシフト波形が抽出される。これらのブロックがドップラーセンサモジュール3のアナログ回路部3aを構成する。
【0051】
一方、ドップラーセンサモジュール3には信号処理を行うためのマイクロプロセッサ部(デジタル回路部)3dが設けられる。マイクロプロセッサ部3dは、CPU31、RAM32、ROM34、PROM36、入出力部33とそれらを接続するバス42、及び直交検波回路40からのドップラーシフト成分の検波波形(検知信号)をデジタル変換して入出力部33に入力するA/D変換器(変換部)41とを有する。信号処理プログラムは読取専用メモリ(Read Only Memory:ROM)部に格納されるが、そのROM部のプログラム格納エリアが、書換え処理が不能なROM34のエリアと書換え処理あるいは書込み処理が可能なPROM36のエリアとによって構成されている。
【0052】
例えばROM34はマスクROMにて構成され、検波波形のノイズ除去を行ない、さらに仕様に定められた動体速度範囲をカバーする全周波数帯域にてその強度評価を行うことにより動体の有無を判定する標準プログラムが消去不能に搭載されている。これは、ドップラーセンサモジュール3の製品仕様書に開示された動体検知・出力機能が、ユーザーによる誤ったプログラムの書き換えにより喪失しないようにするためである。
【0053】
一方、PROM36はEPROM(Erasable Programmable ROM)あるいはEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)にて構成され、データ読み出し時よりも高電圧を印加するか、あるいは紫外線の照射により内容が消去可能に構成され、同じく高電圧印加により再書き込みが可能となっている。このPROM36のエリアには、バンドパスフィルタモジュール36aと使用者検知プログラム36cが格納されている。この2つのプログラムは、検知対象帯域成分抽出手段、検知対象帯域成分強度評価手段、使用者有無判定手段及び使用継続時間計測手段を構成するものである。
【0054】
ドップラーセンサモジュール3の動作制御プログラムの先頭には、どのプログラムモジュールを処理に使用するかの情報(プログラム名ないしプログラム格納アドレス)を指定する実行指定ルーチンが置かれるが、このルーチンはPROM36内に書き込まれ、初期状態(工場出荷時の状態)ではROM34内の標準プログラムを指定する内容が書き込まれている。そして、本実施形態においては、その内容がバンドパスフィルタモジュール36aと使用者検知判定プログラム36cとを指定する内容に書き換えられ、ROM34内の標準プログラムの不要なルーチンは実行されないようになっている(例えば、ノイズ除去処理など、本発明の実施に支障のないルーチンはそのまま引き継がれるようにプログラミングしておく)。
【0055】
一方、RAM32はプログラムの実行エリアとして機能するものであり、入力波形データを一定のサンプリング時間(例えば5秒以上20秒以下)にて波形バッファメモリ32aに取り込み、波形処理メモリ32bにて動体有無の判定演算を行なう。判定結果は入出力部33の判定出力ポート35から出力される。具体的には判定出力ポート35は、動体ありの判定がなされた場合は出力電圧がハイ(H)レベル(例えば+3V)となり、動体なしの判定がなされた場合はオープンとなる。本実施形態では、例えば動体ありをHレベル、動体なしをLレベル(逆でもよい)として二値出力するために、判定出力ポート35は付加抵抗(図6の符号3a)を介してプルアップされている。
【0056】
バンドパスフィルタモジュール36aは、検波されたドップラーシフト波形に対し、人の心拍及び呼吸の少なくともいずれかに由来した信号成分をカバーする周波数帯域が通過帯域(検知対象帯域)として定めている。一般的な人の呼吸周波数帯域は0.2Hz以上0.5Hz以下程度であり、心拍周波数帯域は0.5Hz以上2Hz以下程度である。例えば、0.1Hz以上3Hz以下の周波数範囲の30%以上(望ましくは50%以上)がカバーされるように検知対象帯域を設定すると、呼吸と心拍との少なくともいずれかは部分的にはカバーでき、かつ、着座、離座、身振りといった大きく急峻な体動の周波数帯からは確実に切り分けることができる。
【0057】
本実施形態では、心拍ないし呼吸による使用者PPの検知精度をより高めるため、図8に示すように、呼吸と心拍を双方ともに包含する帯域の成分を利用して、呼吸と心拍の区別を特に行うことなく波形強度解析を行うようにしている。具体的には、検知対象帯域は0.2Hz以上1.5Hz以下の周波数範囲が包含されるように設定され、例えば通過帯域の下限を0.1Hz以上0.2Hz以下、上限が1.5Hz以上2Hz以下となるように定める。すると通過波形として、入力される直交検波波形から心拍成分と呼吸成分とが混合して抽出されたものが得られる。このようにすれば、呼吸と心拍のどちらか一方の信号強度が不十分な場合も、他方の信号強度が確保できていれば使用者PPの有無を問題なく判定できる。特に振幅の小さい心拍の成分は重ね着などで隠ぺいされやすいが、より振幅の大きい呼吸の成分を利用することで、冬場などにおいても検知精度は格段に向上する。
【0058】
使用者検知プログラム36cは、バンドパスフィルタを通過した波形の強度(振幅)を演算し、例えばその強度が予め定められた閾値を超えているか否かにより、使用者がいるか否かを判定する。図9に示すように、サンプリングされた通過波形の振幅Aを時間tの関数A(t)で表したとき、平均振幅Amは、数学的にはA(t)の時間平均値A0を振幅中心として、|A(t)-A0|をサンプリング期間Tについて積分し、その積分値をTで除した値として計算できる。デジタルデータ処理では、図11に示すフローチャートのようになる。
【0059】
まず、S1で波形サンプリングを行ない(データ点数をnとする)、S2ではサンプリングされた波形データに、前述の帯域でのデジタルバンドパスフィルタ処理を行う(処理内容は周知であるので、詳細な説明は略する)。S3では、得られた通過波形の各データ点の振幅レベル値Aiの総和(ΣAi)を求め、S4でこれをデータ点数nで除して振幅中心A0(=ΣAi/n)を求める。続いて、S5で振幅レベル値Aiの振幅中心A0からの偏差の絶対値総和Sd(=Σ|Ai-A0|)を演算し、S6においてデータ点数nで除して平均振幅Am(=Sd/n)を得る。
【0060】
S7では、平均振幅Amを閾値Amcと比較する。Am>Amcであれば使用者ありと判定し、S8に進んで判定出力ポート35の出力を「H」(使用者あり)に設定する。その余の場合は「使用者なし」と判定し、S9に進んで判定出力ポート35の出力を「L」(使用者なし)に設定する。S10で終了指示がなければS1に戻って次のサンプリング波形を取得し、同様の処理を繰り返す。なお、Σ|Ai-A0|/n以外にも平均振幅Amを反映した値として、振幅レベル値Aiの分散σ2(=Σ(Ai-A0)2/n)や標準偏差σを採用することもできる。また、振幅中心A0からの偏差ではなく、振幅最低値Aminなど、適当に定めた基準値からの偏差を用いても同様の判定は可能である。
【0061】
一方、心拍ないし呼吸成分による使用者有無判定は、図10のように直交検波波形(検知信号)をフーリエ変換して周波数スペクトルを生成し、検知対象帯域のスペクトル強度分析を行うことにより行ってもよい。この場合、図7においてバンドパスフィルタモジュール36aに変え、入力波形から周波数スペクトルデータを得るフーリエ変換モジュール(フーリエ変換処理手段)、本実施形態では高速フーリエ変換(FFT)モジュール36bを組み込んでおくようにする。
【0062】
この場合の使用者検知プログラム36cは、フーリエ変換により得られた周波数スペクトル曲線から検知対象帯域の区間を切り出して帯域内での平均強度Imを演算し、例えばその平均強度Imが予め定められた閾値Imcを超えているか否かにより、カウンター10に使用者があるか否かを判定する(検知対象帯域スペクトル強度評価手段)。この場合の処理は、図12に示すフローチャートのようになる。
【0063】
まず、S101で波形サンプリングを行ない(データ点数をnとする)、S102でサンプリングされた波形データに高速フーリエ変換処理を行う(処理内容は周知であるので、詳細な説明は略する)。S103では、得られた周波数スペクトルの強度データ点のうち検知対象帯域に属するものを抽出し(個数をkとする)、S104では抽出した強度Iiの総和(=ΣIi)を演算し、S105にてこれを帯域内のデータ点数kで除して平均強度Im(=ΣIi/k)を求める。
【0064】
S106では、平均強度Imを閾値Imcと比較する。Im>Imcであれば「使用者あり」と判定し、S107に進んで判定出力ポート35の出力を「H」に設定する。その余の場合は「使用者なし」と判定し、S108に進んで判定出力ポート35の出力を「L」に設定する。S109で終了指示がなければS101に戻って次のサンプリング波形を取得し、同様の処理を繰り返す。
【0065】
なお、ドップラーセンサモジュール3には、直交検波波形出力等(例えば心拍数や呼吸数などを計測したい場合等に必要)を直接外部に取り出せるようにするための通信インターフェース(本実施形態ではUARTインターフェース:Txは送信側、Rxは受信側の各端子)43が設けられ、マイクロプロセッサ部3dの入出力部33に接続されている。本実施形態においては、心拍や呼吸が生存微動として所定レベル以上に検知されているか否かが使用者有無の判定に必須であり、呼吸数や心拍数の具体的な特定を行なわない。したがって、該通信インターフェース43は使用されず、端子Tx及びRxには何も接続されていない。当然、この通信インターフェース43は省略すること(及び省略されたドップラーセンサモジュールの市販品を使用すること)が可能である。
【0066】
図13は、センサユニット4における判定プログラム54aの処理の流れを示すフローチャートの一例を示すものである。このプログラム54aには、使用者のブース内滞在継続時間を計測する第一タイマーT1と、使用者のブース内滞在の途切れ継続時間を計測する第二タイマーT2とがソフトウェア的に組み込まれている。処理が立ち上がると、H1にてこれらタイマーT1及びT2をリセットする。
【0067】
次いでH2では、図4のLED6,7を初期状態とする処理、ここでは「使用中」LED7を消灯し、「あき」LED6を点灯させる制御を行う。続いて、H3で使用者検知処理の現在の判定結果を取得する。トイレブース内に人がいなければ「使用者なし」の判定となっているはずであり、この場合はH1に戻り、タイマーをリセットしてH4までの処理を繰り返す。他方、H4で「使用者あり」の場合はH5に進んで第一タイマーT1による計時を開始する。H6では第一タイマーT1による計時経過時間が下限閾値T1mを超えているか否かを判定し、超えていなければH2に戻って以下の処理を繰り返す。もし、下限閾値T1m以内で「使用者なし」の状態に遷移してしまった場合は、直後の繰り返しループにおけるH4の判断分岐にて処理はH1に戻り、第一タイマーT1はリセットされる。
【0068】
図14は、「使用者なし」の状態におけるトイレブース使用状況報知システム1の作動状態を示す模式図である。判定結果が「使用者なし」の状態を示している場合は、報知表示部13の「あき」LED6が点灯しており、そのトイレブース200が「あき」状態にあることを外から容易に把握できる利点が生ずる。また、トイレブース200から人が退出する際、勢いよく扉202が閉鎖されるときの振動で施錠機構204のフック金具が動き、トイレブース200が無人状態で施錠されてしまうことがある。このとき、既設の施錠表示部205は「使用中」になるが、報知表示部13は「あき」LED6が点灯している。後者は、生存微動信号が存在しないことに基づき、より高信頼度にて「あき状態」を示すものであるから、施錠表示部205が「使用中」となっているブースが実は「あき」状態であることを外から目視で容易に把握でき、巡視者(車掌等)PIは速やかに解錠処理に移行できる。これにより、当該のトイレブース200が使えるにもかかわらず「使用中」となって、次の利用を妨げてしまう不具合を効果的に回避することができる。
【0069】
他方、H6にて「使用者あり」の判定受信の継続時間が下限閾値T1mを超えていれば、「使用者あり」の判定を確定させ、H7に進んで「あき」LED6を消灯し、「使用中」LED7を点灯させる。図15は、「使用者あり」の状態におけるトイレブース使用状況報知システム1の作動状態を示す模式図である。判定結果が「使用者あり」の状態を示している場合は、報知表示部13の「使用中」LED7が点灯しており、そのトイレブース200が「使用中」状態にあることを外から容易に把握できる利点が生ずる。また、後述の通り、この「使用中」LED7が点滅していなければ、使用者の滞在時間が使用継続超過の閾値T1cを超えていないことを意味するので、巡視者PIは特に異常の内通常の使用状態として判断できる。
【0070】
一方、図17は、トイレブース200に使用者PPが扉202の施錠を失念して入室している場合を示すものである。公共トイレを使用する際には、扉をノックしてから入るのがマナーとはいえ、施錠表示部205が「あき」となっていれば、列車内の利用希望者PIは、たいていは躊躇することなく扉202を開け放つことになる。中の使用者PPは、不用意に扉202が開け放たれると狼狽し、状況によっては進退窮まることもありえるし、扉202を開けたほうの利用希望者PIは非常にばつの悪い思いをする。本実施形態のように、引き戸形式の列車トイレの場合、施錠されていなくても扉はしっかり閉鎖されているように見えるから、上記のような施錠失念問題は比較的高頻度で発生していると考えられる。
【0071】
しかし、トイレブース使用状況報知システム1を使用すれば、既設の施錠表示部205は「あき」になるが、報知表示部13には「使用中」LED7が点灯している。後者は、生存微動信号が存在することに基づき、より高信頼度にて「使用中」状態を示すものであるから、施錠表示部205が「あき」となっているブースが実は「使用中」状態であることを外から目視で容易に把握できる。したがって、これを見た利用希望者PIは、施錠表示部205が「あき」となっていても、中に使用者がいる可能性を察知して即時の開扉を思いとどまり、ノックをするなどの行為に誘導されるから、上記のような問題発生を効果的に抑制できる。
【0072】
図13に戻り、H8では第一タイマーT1の計時状態が使用継続超過の閾値T1cを超えているか否かを判断する。超えていなければH9をスキップしてH10に進み、再び使用者検知判定結果取得する。H11にてその判定内容が「使用者あり」の場合にH12に進んで第二タイマーT2をリセットし、H8に戻ってH11までの処理を繰り返す。この途上で、H8で取得する第一タイマーT1の計時状態が使用継続超過の閾値T1cを超えていた場合はH9の処理となり、(連続点灯状態にある)「使用中」LED7を、使用継続超過を示す点滅状態に切り替える。
【0073】
図16は、使用継続超過状態におけるトイレブース使用状況報知システム1の作動状態を示す模式図である。判定結果が使用継続超過状態を示している場合は、報知表示部13の「使用中」LED7が点滅しており、そのトイレブース200が使用継続超過状態にあることを外から速やかに把握できる。また、巡視者PIは使用中のトイレブース200内で、使用者に何らかの異常が発生したと判断し、開扉操作等をためらうことなく実施できる。
【0074】
すでに詳細に説明したごとく、トイレブース使用状況報知システム1においては、心拍や呼吸の生存微動を、図8のフィルタリング処理や図10のフーリエ変換処理(周波数スペクトル変換処理)により、大きな体動の波形成分から分離して検知する。その結果、トイレブース200に連続した人の入退出が発生した場合も、使用者PPの入退出に伴う生存微動(検知対象帯域成分)の検知途切れは、大きな体動波形に埋没することなく確実に検知できる。したがって、トイレの混雑時等において、同じトイレブース200が異なる使用者PPにより入れ代わり立ち代わり占有される場合においても、同一使用者PPにより連続使用されていると誤検知される可能性は激減する。
【0075】
また、トイレブース200内の使用者PPの有無の判定は、大きな体動から切り分けて抽出される生存微動(検知対象帯域成分)の強度に基づいて行うので、使用者PPが着座中に大きな体動を発生させても、これを退出と誤検知する可能性が原理的に排除される。その結果、同一人物による連続使用が継続する限り、着座後の大きな体動により計測される使用継続時間が切り刻まれてしまう不具合を生じない。また、使用者PPがブース内で大きな動作を作為的に発生させても、抽出される検知対象帯域成分(生存微動)の強度に基づく連続滞在時間の計測に影響が及ばず、不正な長期滞在を確実に摘発・排除することができる。
【0076】
図13に戻り、H11にてその判定内容が「使用者なし」の場合、つまりブース内の生体微動が途切れた場合は、H13に進んで第二タイマーT2による計時を開始する。H14では第二タイマーT2による計時経過時間が閾値T2cを超えているか否かを判定し、超えていなければH8に戻って以下の処理を繰り返す。これにより、閾値T2c未満(つまり、ノイズ等)の範囲で一時的に人が検出されない状態になっても第一タイマーT1の計時は継続され、連続使用継続時間の計時が細切れになってしまうことが防止される。
【0077】
一方、H11で「使用者あり」の判定がなされた場合は、前述の通りH12に進んで第二タイマーT2をリセットし、H8に戻って以下の処理を繰り返す。つまり、「使用者なし」の継続時間が閾値T2cに達するまでに「使用者あり」の状態に遷移してしまった場合は、直後の繰り返しループにおけるH11での判断分岐にて処理はH8に戻り、第二タイマーT2はリセットされて、次の「使用者なし」状態が発生するまで待機することとなる。当然、この間も第一タイマーT1による連続使用継続時間の計時は継続されたままである。
【0078】
そして、H14にて第二タイマーT2の計時が閾値T2cを超えれば「使用者なし」の判定を確定させ、H15を経てH1に戻り、以下の処理を繰り返す。その後のH2のステップで、報知表示部13の「使用中」LED7を消灯させ、「あき」LED6を点灯させる。
【0079】
以下、トイレブース使用状況報知システム1の種々の変形例について説明する(すでに説明した部分と共通の要素には、同一の符号を付与して詳細な説明を略する)。
図18,19は、発光表示部の変形形態を示すものである。該発光表示部513は、半透光性のカバー513c(ここでは半円状断面)を有し、内側にはベース513bに実装された前述のLED6,7が設けられる。図20は、この発光表示部513を含むシステム1を、集合トイレの複数のトイレブース200に個別に設置した例である。個々のブースの扉202は蝶番により前後に開閉可能に取り付けられており、図示しない周知のスライド式の施錠機構により、内側から施錠可能である。
【0080】
発光表示部513は、立位にある巡視者(あるいは利用者(視認者))PIがトイレブース200の扉202を左右の視界の一方(図では、巡視者PIから見て左側)に寄せた視野にて見込んだ時に、発光状態が視認可能となるように、トイレブース200の扉202の幅方向の一方に隣接する壁部外側面上、ここでは扉202の取付枠202aの前面上方に取り付けられている。図20の集合トイレでは、通路と平行にブース扉202が設置されており、上記のように発光表示部513を取り付けることで、通路を歩行する利用者や巡視者PIは、遠くにあるブースであっても発光表示部513の発光状態により当該ブースの占有状況を容易に把握できる。
【0081】
そして、特に使用継続超過のブースについては、これをいち早く発見して必要な対応に速やかに移行できる利点が生ずる。また、使用継続超過の発生を、集合トイレ内の無線アクセスポイント68に向け、無線送信することで外部に通報することも可能である。さらに、個々のブース200に取り付けられている既設の施錠表示部が非発光形態のものであっても、上記発光表示部513を新たな施錠表示部205として容易に後付け設置することが可能である。集合トイレ内に入った利用者は、空いているトイレブース200がどれであるかを、トイレブース200に近づかなくとも、あるいは方向からでも把握しやすくなる。
【0082】
また、図1に示すごとく、同じトイレブース200に既設の施錠表示部205と報知表示部13とが併設されている場合、2つの表示部の表示状態が相違していると、実際のブースの占有状態がどちらの表示部に反映されているのかの把握ができなくなり、混乱要因となることも考えられる。この場合、図21に示すように、既設の施錠表示部205を隠蔽する位置に報知表示部13を設置すれば、表示が一義的となって混乱要因を解消できる。図21においては、報知表示部13の筐体13mの側面に取付ベース13bが一体化され、該取付ベース13bにて締結部材202sにより扉枠壁部202aに片持ち形態で組付けられている。これにより、閉扉状態にて報知表示部13は扉202上の施錠表示部205の上方に重なり、これを隠蔽する。
【0083】
図22は、報知表示部13において「使用中」LEDを、通常使用状態を示すLED7(例えばオレンジ)と、使用継続超過を示すLED8(例えば赤)とに分けて設けた例を示すものである。使用継続超過時にあっては、LED8は点滅させても連続点灯させてもいずれでもよい。また、図23は、報知表示部を平面ディスプレイ9で構成した例であり、個々の状態を文字にて表示するようにしている。該平面ディスプレイ9は、例えば液晶ディスプレイのほか、自発光ドットマトリックスディスプレイ(例えば、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、LEDマトリックスディスプレイなど)で構成でき、図6に示すように、I/O拡張IC56に対しグラフィックインターフェース9aを介して接続される。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、あくまで例示であって、本発明はこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0085】
1 トイレブース使用状況報知システム
3 ドップラーセンサモジュール
3a アナログ回路部
3d マイクロプロセッサ部
6 「あき」LED(使用状況報知情報出力手段、発光表示部)
7 「使用中」LED(使用状況報知情報出力手段、発光表示部)
13 報知表示部
31 CPU
32 RAM
33 入出力部
34 ROM
36 PROM
36a バンドパスフィルタモジュール(検知対象帯域成分抽出手段)
36b FFTモジュール(検知対象帯域成分抽出手段、フーリエ変換処理手段)
36c 使用者検知プログラム(検知対象帯域成分強度評価手段、通過波形信号強度評価手段、検知対象帯域スペクトル強度評価手段、使用者有無判定手段)
37 アンテナ(送信波の出力部、反射波の受信部)
38 ドップラーセンサRF回路
40 直交検波部(検波部)
50 マイクロプロセッサ
51 CPU
52 RAM
53 入出力部
54 ROM
54a 判定プログラム(使用継続時間計測手段、使用者有無判定手段)
200 トイレブース
201 便器
202 扉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図19
図20
図21
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図23