(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】半導体レーザおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/343 20060101AFI20220401BHJP
【FI】
H01S5/343
(21)【出願番号】P 2017236225
(22)【出願日】2017-12-08
【審査請求日】2020-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】506423051
【氏名又は名称】株式会社QDレーザ
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137615
【氏名又は名称】横山 照夫
(72)【発明者】
【氏名】西 研一
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-085665(JP,A)
【文献】特開2009-117694(JP,A)
【文献】特開2004-235329(JP,A)
【文献】特開2010-040872(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0128839(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104600564(CN,A)
【文献】Yuqing Huang et al.,"Spin injection loss in self-assembled InAs/GaAs quantum dot structures from disordered barrier layers",2016 IEEE 16th International Conference on Nanotechnology (IEEE-NANO),米国,IEEE,2016年08月22日,https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=7751341,DOI: 10.1109/NANO.2016.7751341
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に設けられた下地層と、
前記下地層上に設けられた複数の量子ドットと、
前記複数の量子ドット間の前記下地層上に設けられた濡れ層と、
前記複数の量子ドット間の前記濡れ層上に
、上面から前記複数の量子ドットの上面が露出するように設けられた中間層と、
前記複数の量子ドット間の前記中間層上に設けられたカバー層と、
前記複数の量子ドットと前記複数の量子ドット間の前記カバー層との上に設けられた埋め込み層と、を備え、
前記カバー層のバンドギャップエネルギーは前記
複数の量子ドットおよび前記濡れ層のバンドギャップエネルギーより大きく、前記中間層のバンドギャップエネルギーは前記カバー層のバンドギャップエネルギーより大きい半導体レーザ。
【請求項2】
前記
複数の量子ドット、前記濡れ層
および前記カバー層はIn
xGa
1-xAs(0
<x≦1)層であり、
前記下地層および前記中間層は、GaAs層であり、
前記カバー層のxは前記
複数の量子ドットおよび前記濡れ層のxより小さ
い請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項3】
前記下地層および前記埋め込み層のバンドギャップエネルギーは前記カバー層のバンドギャップエネルギーより大きい請求項1または2に記載の半導体レーザ。
【請求項4】
前記中間層は前記カバー層より薄い請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項5】
半導体基板上に設けられた下地層と、
前記下地層上に
接して設けられた複数の量子ドットと、
前記複数の量子ドット間の前記下地層上に
接して設けられた混晶層と、
前記複数の量子ドット間の前記混晶層上に
接して設けられたカバー層と、
前記複数の量子ドットと前記複数の量子ドット間の前記カバー層との上に設けられた埋め込み層と、を備え、
前記混晶層のバンドギャップエネルギーは前記複数の量子ドットのバンドギャップエネルギーより大きく、前記カバー層のバンドギャップエネルギーは前記混晶層のバンドギャップエネルギーより大き
く、前記下地層のバンドギャップエネルギーは前記カバー層のバンドギャップエネルギーより大きい半導体レーザ。
【請求項6】
前記
複数の量子ドット、前記混晶層および前記カバー層はIn
xGa
1-xAs(0
<x≦1)層であり、
前記下地層は、GaAs層であり、
前記混晶層のxは前記複数の量子ドットのxより小さく、前記カバー層のxは前記混晶層のxより小さい請求項5に記載の半導体レーザ。
【請求項7】
前記埋め込み層のバンドギャップエネルギーは前記カバー層のバンドギャップエネルギーより大きい請求項5または6に記載の半導体レーザ。
【請求項8】
半導体基板上に下地層を形成する工程と、
前記下地層上に
接して複数の量子ドットと、前記複数の量子ドット間の前記下地層上に
接して濡れ層と、を形成する工程と、
前記複数の量子ドット間の前記濡れ層上に中間層を形成する工程と、
熱処理することにより、前記濡れ層と前記中間層との混晶である混晶層を形成する工程と、
前記複数の量子ドット間の前記混晶層上に
接してカバー層を形成する工程と、
前記複数の量子ドットおよび前記複数の量子ドット間の前記カバー層上に埋め込み層を形成する工程と、
を含み、
前記下地層はGaAs層であり、
前記
複数の量子ドット、前記濡れ層、前記中間層、前記混晶層および前記カバー層はIn
xGa
1-xAs(0≦x≦1)層であり、
前記混晶層のxは前記複数の量子ドットのxより小さく、前記カバー層のxは前記混晶層のxより小さ
くかつ0より大きい半導体レーザの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザおよびその製造方法に関し、例えば量子ドットを有する半導体レーザおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドット活性層を用いた半導体レーザが知られている。量子ドットは、3次元の狭い領域にキャリアを閉じ込めた構造を有している。量子ドット内のキャリアは、運動が量子化され、離散的なエネルギー準位を形成する。これにより、発振閾値の低下および温度特性の改善といった優れた特性が得られる。
【0003】
複数の量子ドットの間の濡れ層上に歪緩和層を設けることが知られている。歪緩和層を設けることで発光波長を制御できることが知られている(例えば特許文献1)。濡れ層を介した電流により温度特性が劣化することが知られている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Applied Physics Letters, Vol. 81, No. 26, pp. 4904-4906 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歪緩和層(カバー層)を設けることで、発光波長を制御することができる。しかしながら、カバー層が設けられた半導体レーザは、カバー層が設けられていない半導体レーザに比べて、高温でのレーザ特性が劣ることがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高温でのレーザ特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、半導体基板上に設けられた下地層と、前記下地層上に設けられた複数の量子ドットと、前記複数の量子ドット間の前記下地層上に設けられた濡れ層と、前記複数の量子ドット間の前記濡れ層上に、上面から前記複数の量子ドットの上面が露出するように設けられた中間層と、前記複数の量子ドット間の前記中間層上に設けられたカバー層と、前記複数の量子ドットと前記複数の量子ドット間の前記カバー層との上に設けられた埋め込み層と、を備え、前記カバー層のバンドギャップエネルギーは前記複数の量子ドットおよび前記濡れ層のバンドギャップエネルギーより大きく、前記中間層のバンドギャップエネルギーは前記カバー層のバンドギャップエネルギーより大きい半導体レーザである。
【0009】
上記構成において、前記複数の量子ドット、前記濡れ層および前記カバー層はInxGa1-xAs(0<x≦1)層であり、前記下地層および前記中間層は、GaAs層であり、前記カバー層のxは前記複数の量子ドットおよび前記濡れ層のxより小さい構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記下地層および前記埋め込み層のバンドギャップエネルギーは前記カバー層のバンドギャップエネルギーより大きい構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記中間層は前記カバー層より薄い構成とすることができる。
【0012】
本発明は、半導体基板上に設けられた下地層と、前記下地層上に接して設けられた複数の量子ドットと、前記複数の量子ドット間の前記下地層上に接して設けられた混晶層と、前記複数の量子ドット間の前記混晶層上に接して設けられたカバー層と、前記複数の量子ドットと前記複数の量子ドット間の前記カバー層との上に設けられた埋め込み層と、を備え、前記混晶層のバンドギャップエネルギーは前記複数の量子ドットのバンドギャップエネルギーより大きく、前記カバー層のバンドギャップエネルギーは前記混晶層のバンドギャップエネルギーより大きく、前記下地層のバンドギャップエネルギーは前記カバー層のバンドギャップエネルギーより大きい半導体レーザである。
【0013】
上記構成において、前記複数の量子ドット、前記混晶層および前記カバー層はInxGa1-xAs(0<x≦1)層であり、前記下地層は、GaAs層であり、前記混晶層のxは前記複数の量子ドットのxより小さく、前記カバー層のxは前記混晶層のxより小さい構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記埋め込み層のバンドギャップエネルギーは前記カバー層のバンドギャップエネルギーより大きい構成とすることができる。
【0015】
本発明は、半導体基板上に下地層を形成する工程と、前記下地層上に接して複数の量子ドットと、前記複数の量子ドット間の前記下地層上に接して濡れ層と、を形成する工程と、前記複数の量子ドット間の前記濡れ層上に中間層を形成する工程と、熱処理することにより、前記濡れ層と前記中間層との混晶である混晶層を形成する工程と、前記複数の量子ドット間の前記混晶層上に接してカバー層を形成する工程と、前記複数の量子ドットおよび前記複数の量子ドット間の前記カバー層上に埋め込み層を形成する工程と、を含み、前記下地層はGaAs層であり、前記複数の量子ドット、前記濡れ層、前記中間層、前記混晶層および前記カバー層はInxGa1-xAs(0≦x≦1)層であり、前記混晶層のxは前記複数の量子ドットのxより小さく、前記カバー層のxは前記混晶層のxより小さくかつ0より大きい半導体レーザの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温でのレーザ特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例1および2に係る半導体レーザの断面斜視図である。
【
図2】
図2は、実施例1の半導体レーザにおける活性層の一部の断面図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、それぞれ比較例1および2の半導体レーザにおける活性層の一部の断面図である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、それぞれ比較例1および2の半導体レーザのI-L特性を示す模式図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、それぞれ比較例1および2の半導体レーザにおける活性層のエネルギーバンド図である。
【
図6】
図6は、実施例1の半導体レーザにおける活性層のエネルギーバンド図である。
【
図7】
図7は、実施例1の半導体レーザのI-L特性を示す模式図である。
【
図8】
図8は、実施例2の半導体レーザにおける活性層の一部の断面図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、実施例2の半導体レーザの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図10】
図10(a)から
図10(c)は、実施例2の半導体レーザの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図11】
図11は、実施例2の半導体レーザにおける活性層のエネルギーバンド図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、実施例1および2に係る半導体レーザの断面斜視図である。
図1のように、実施例1の半導体レーザ100は、半導体基板10上にバッファ層12が設けられている。バッファ層12上に下部クラッド層14が設けられている。半導体基板10は、例えばn型GaAs基板である。バッファ層12は、例えばn型GaAs層である。下部クラッド層14は、例えばn型AlGaAs層である。バッファ層12および下部クラッド層14にドープされるn型ドーパントとして、例えばSiが用いられる。
【0020】
下部クラッド層14上に活性層16が設けられている。活性層16は、下地層40と、下地層40上に積層された複数の量子ドット層42と、を含む。
【0021】
活性層16上に上部クラッド層18が設けられている。上部クラッド層18は、例えばp型AlGaAs層である。上部クラッド層18は、両側に凹部20が形成されたリッジ部22を有する。上部クラッド層18は、凹部20の下にも残存する。リッジ部22の側面は、垂直になっていてもよいし、テーパを有していてもよい。上部クラッド層18上にコンタクト層24が設けられている。コンタクト層24は、例えばp型GaAs層である。上部クラッド層18およびコンタクト層24にドープされるp型ドーパントとして、例えばBeが用いられる。
【0022】
バッファ層12、下部クラッド層14、活性層16、上部クラッド層18、およびコンタクト層24は、例えば分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法を用いて形成される。なお、実施例1では、下部クラッド層がn型半導体で、上部クラッド層がp型半導体の場合を例に説明するが、下部クラッド層がp型半導体で、上部クラッド層がn型半導体の場合でもよい。
【0023】
コンタクト層24の上面並びに凹部20の側面および底面に保護膜26が設けられている。保護膜26は、例えば酸化シリコン膜などの絶縁膜である。リッジ部22上の保護膜26に開口が形成されていて、開口で露出したコンタクト層24の上面に接してp電極28が設けられている。リッジ部22以外の保護膜26上に、p電極28に配線30を介して接続するパッド32が設けられている。半導体基板10の下面にn電極34が設けられている。
【0024】
図2は、実施例1の半導体レーザにおける活性層の一部の断面図である。
図2のように、活性層16は、下地層40と量子ドット層42とを含む。量子ドット層42は、複数の量子ドット44、濡れ層46、中間層47、カバー層48、および埋め込み層50を含む。
【0025】
量子ドット44および濡れ層46は下地層40上に設けられている。量子ドット44は、S-K(Stranski-Krastanov)成長モードを基礎とした自己形成成長法によって形成される。つまり、下地層40と異なる格子定数の材料を下地層40上にエピタキシャル成長させることで、初めは2次元的な層状成長が起こり、成長量を増やしていくと格子定数差を起因とする歪みエネルギーの増大を抑制するように3次元成長へと遷移して量子ドット44が形成される。例えば、下地層40はGaAs層であり、下地層40上に格子定数がGaAsに比べて約7%大きいInAsを成長することで、InAsドットからなる量子ドット44が形成される。濡れ層46は、量子ドット44と同じ材料で形成されるため、例えばInAs層である。
【0026】
中間層47は、複数の量子ドット44の間で濡れ層46上に設けられ、量子ドット44の側面および濡れ層46の上面に接している。カバー層48は、複数の量子ドット44の間で中間層47上に設けられ、量子ドット44の側面および中間層47の上面に接している。中間層47およびカバー層48は、量子ドット44の上面が露出するように設けられている。埋め込み層50は、量子ドット44の上面に接し量子ドット44、中間層47およびカバー層48を埋め込んでいる。すなわち、量子ドット44およびカバー層48は、埋め込み層50で覆われている。下地層40および埋め込み層50は、バリア層として機能する。
【0027】
カバー層48は、量子ドット44の歪を緩和するために設けられている。このため、カバー層48は、下地層40および埋め込み層50の格子定数と量子ドット44の格子定数との間の大きさの格子定数を有する。また、カバー層48は、下地層40および埋め込み層50のバンドギャップエネルギーと濡れ層46のバンドギャップエネルギーとの間の大きさのバンドギャップエネルギーを有する。下地層40および埋め込み層50がGaAs層で、量子ドット44および濡れ層46がInAsドットおよびInAs層である場合、カバー層48は例えばInGaAs層である。
【0028】
中間層47は、カバー層48のバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーを有する。例えば中間層47はGaAs層である。
図1のように、複数の量子ドット層42が積層される場合では、埋め込み層50は、その上に形成される量子ドット44および濡れ層46の下地層となる。したがって、下地層40と埋め込み層50とは同じ材料からなる。よって、埋め込み層50は例えばGaAs層である。
【0029】
ここで、実施例1の半導体レーザ100の効果を説明するため、比較例1および2の半導体レーザについて説明する。比較例1および2の半導体レーザは、活性層16を構成する量子ドット層42が異なる点以外は実施例1の半導体レーザ100と同じである。
図3(a)および
図3(b)は、それぞれ比較例1および2の半導体レーザにおける活性層の一部の断面図である。
【0030】
図3(a)に示すように、比較例1の半導体レーザでは、中間層47およびカバー層48が設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0031】
図3(b)に示すように、比較例2の半導体レーザでは、中間層47が設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0032】
図4(a)および
図4(b)は、それぞれ比較例1および2の半導体レーザのI-L(Injection current - Light output)特性を示す模式図である。
図4(a)および
図4(b)において、横軸は注入電流、縦軸は光出力である。また、室温(例えば25℃)でのI-L特性を実線で示し、高温(例えば95℃)でのI-L特性を一点鎖線で示している。
【0033】
図4(a)および
図4(b)のように、比較例1と比較例2とで、室温でのI-L特性にほとんど差はない。比較例1では、光出力が立ち上がり始める閾値電流の室温と高温との差は小さい。また、注入電流に対する光出力の傾きは室温と高温とで同程度であり効率は同程度である。このように、比較例1では高温においてもレーザ特性の劣化はほとんどない。
【0034】
一方、比較例2では、高温では室温に比べ閾値電流が大きくなる。また、高温になると注入電流に対する光出力の傾きが小さくなり効率が低下する。このように、比較例2では高温においてレーザ特性が劣化する。
【0035】
図5(a)および
図5(b)は、それぞれ比較例1および2の半導体レーザにおける活性層のエネルギーバンド図である。
図5(a)および
図5(b)は、それぞれ
図3(a)および
図3(b)のA-A断面(すなわち量子ドット間)における伝導帯の底のエネルギーEcおよび価電子帯の頂点のエネルギーEvのエネルギーバンド図である。
【0036】
比較例1および2において、下地層40および埋め込み層50をGaAs層、量子ドット44をInAsドット、濡れ層46をInAs層、およびカバー層48をIn0.15Ga0.85As層の場合について、各エネルギーを例示する。例示するエネルギーは、下地層40と埋め込み層50との間の層の格子が下地層40および埋め込み層50(すなわちGaAs層)と格子整合するように歪んでいることを仮定し算出した数値である。
【0037】
図5(a)に示すように、下地層40および埋め込み層50のバンドギャップエネルギーEg1は1.424eVである。濡れ層46は膜厚が約1モノレイヤ(すなわち約0.3nm)であり、濡れ層46のバンドギャップエネルギーEg2は0.484eVである。下地層40および埋め込み層50と濡れ層46との界面における、Ecの不連続エネルギーΔEc1は0.538eVであり、Evの不連続エネルギーΔEv1は0.402eVである。濡れ層46内の電子の量子準位Eeとホールの量子準位Ehとの差のエネルギーΔEは1.3~1.38eVである。
【0038】
図5(b)に示すように、比較例2では、カバー層48を膜厚が3nmとすると、カバー層48のバンドギャップエネルギーEg3は1.250eVである。濡れ層46とカバー層48との界面における、Ecの不連続エネルギーΔEc2は0.433eVであり、Evの不連続エネルギーΔEv2は0.334eVである。カバー層48と埋め込み層50との界面における、Ecの不連続エネルギーΔEc3は0.105eVであり、Evの不連続エネルギーΔEv3は0.068eVである。
【0039】
比較例2では、ΔEc2がΔEc1より小さくなり、ΔEv2がΔEv1より小さくなる。このため、比較例1より電子の量子準位Eeは低くなり、ホールの量子準位Ehは高くなる。非特許文献1によれば、高温において、電流注入時に量子ドットからあふれたキャリアが濡れ層46に分布することにより高温におけるレーザ特性が劣化する。比較例2のように、Eeが低くなりEhが高くなると、高温においてキャリアが濡れ層46に分布しやすくなる。これにより、
図4(b)のように、高温におけるレーザ特性が劣化すると考えらえられる。
【0040】
図6は、実施例1の半導体レーザにおける活性層のエネルギーバンド図であり、
図2のA-A断面におけるエネルギーバンド図である。
図6のように、実施例1の半導体レーザでは、濡れ層46とカバー層48との間の中間層47が設けられている。中間層47は、膜厚が約1モノレイヤ(すなわち約0.3nm)のGaAs層である。カバー層48は膜厚が3nmのIn
0.15Ga
0.85As層である。中間層47により、濡れ層46と中間層47との間の界面における、EcおよびEvの不連続エネルギーΔEc1およびΔEv1は、比較例2のΔEc2およびΔEv2より大きくなる。このため、比較例2より電子の量子準位Eeが高くなり、ホールの量子準位Ehが低くなる。よって、高温においてキャリアが濡れ層46に分布しにくくなることで、レーザ特性の劣化が抑制できる。また、量子ドット44に接するようにカバー層48が設けられているため、発光波長は比較例2と同程度とすることができる。
【0041】
図7は、実施例1の半導体レーザのI-L特性を示す模式図である。
図7において、横軸は注入電流、縦軸は光出力である。また、室温(例えば25℃)でのI-L特性を実線で示し、高温(例えば95℃)でのI-L特性を一点鎖線で示している。
図7のように、実施例1は、比較例1の
図4(a)に比べて高温において閾値電流が大きくなり、注入電流に対する光出力の傾きが小さくなっている。しかし、比較例2の
図4(b)に比べて、高温における閾値電流が小さく、注入電流に対する光出力の傾きが大きい。このように、実施例1では比較例2に比べ高温におけるレーザ特性が向上している。
【0042】
実施例1によれば、
図2のように、中間層47は複数の量子ドット44間の濡れ層46上に設けられ、カバー層48は複数の量子ドット44間の中間層47上に設けられている。比較例2の
図5(b)のように、カバー層48のバンドギャップエネルギーを量子ドット44および濡れ層46のバンドギャップエネルギーより大きくする。これにより、半導体レーザ100の発光波長を比較例1より長くできる。しかし、
図4(b)のように、高温におけるレーザ特性が劣化する。そこで、実施例1では、中間層47のバンドギャップエネルギーをカバー層48のバンドギャップエネルギーより大きくする。これにより、
図6のように、電子の量子準位Eeが比較例2より高くなり、ホールの量子準位Ehが比較例2より低くなる。よって、高温においてキャリアが濡れ層46に分布しにくくなる。よって、発光波長は比較例2と同程度で、かつ
図7のように高温におけるレーザ特性を比較例2より向上できる。
【0043】
カバー層48のバンドギャップエネルギーは濡れ層46のバンドギャップエネルギーより0.3eV以上大きいことが好ましく、0.5eV以上大きいことが好ましい。中間層47のバンドギャップエネルギーはカバー層48のバンドギャップエネルギーより0.05eV以上大きいことが好ましく0.1eV以上大きいことが好ましい。濡れ層46、中間層47およびカバー層48はタイプ1(すなわちstraddling gap type)のヘテロ接合を形成することが好ましい。
【0044】
複数の量子ドット44をInAsドットまたはInGaAsドットとし、濡れ層46をInAs層またはInGaAs層とし、中間層47をGaAs層またはInGaAs層とし、カバー層48をInGaAs層とする。これにより、例えば、発光波長を1.26μm以上かつ1.32μm以下とすることができる。
【0045】
GaAsとInAsとの混晶系では、InxGa1-xAs(0≦x≦1、x=0のときはGaAs、x=1のときはInAs)のx(Inの組成比)が大きくなるとバンドギャップエネルギーが小さくなる。よって、濡れ層46、中間層47およびカバー層48をInxGa1-xAs(0≦x≦1)層とする場合、カバー層48のxは量子ドット44および濡れ層46のxより小さく、中間層47のxはカバー層48のxより小さくする。これにより、カバー層48のバンドギャップエネルギーを量子ドット44および濡れ層46のxのバンドギャップエネルギーより大きくし、中間層47のバンドギャップエネルギーをカバー層48のバンドギャップエネルギーより大きくできる。
【0046】
量子ドット44として機能するため、量子ドット44および濡れ層46のxは0.5≦x≦1が好ましく、0.7≦x≦1がより好ましい。発光波長を長くするため、カバー層48のxは0<x≦0.5が好ましく、0<x≦0.3がより好ましい。高温におけるレーザ特性を向上させるため、中間層47のxは0≦x≦0.5が好ましく、0≦x≦0.3がより好ましい。中間層47とカバー層48との間のxの差は0.2以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
【0047】
量子ドット44を形成するため、下地層40および埋め込み層50のバンドギャップエネルギーをカバー層48のバンドギャップエネルギーより大きくする。このため、下地層40および埋め込み層50をInxGa1-xAs(0≦x≦1)とした場合、下地層40および埋め込み層50のxをカバー層48のxより小さくする。また、下地層40、埋め込み層50および中間層47をAlGaAs層またはAlInGaAs層としてもよい。
【0048】
中間層47の膜厚は発光波長にあまり影響しないことが好ましい。この観点から中間層47はカバー層48より薄いことが好ましい。中間層47の膜厚はカバー層48の膜厚の1/2以下が好ましく、1/5以下がより好ましい。中間層47の膜厚はカバー層48の膜厚の1/20以上が好ましい。量子ドット44を形成したときの濡れ層46は1モノレイヤ程度である。よって、濡れ層46はカバー層48より薄いことが好ましく、濡れ層46の膜厚はカバー層48の膜厚の1/2以下が好ましく、1/5以下がより好ましい。濡れ層46の膜厚はカバー層48の膜厚の1/20以上が好ましい。
【実施例2】
【0049】
図8は、実施例2の半導体レーザにおける活性層の一部の断面図である。
図8のように、濡れ層46と中間層47の代わりに混晶層45が設けられている。その他の構成は実施例1の
図1および
図2と同じであり説明を省略する。
【0050】
図9(a)から
図10(c)は、実施例2の半導体レーザの製造方法を示す断面図である。
図9(a)から
図10(c)において半導体基板10と下地層40との間の層(例えば
図1のバッファ層12および下部クラッド層14)の図示を省略している。各層は例えばMBE法により成膜される。
【0051】
図9(a)に示すように、半導体基板10上にバッファ層、下部クラッド層および下地層40を形成する。下地層40は例えばGaAs層またはAlGaAs層である。
図9(b)に示すように、下地層40上に量子ドット44および濡れ層46を形成する。量子ドット44および濡れ層46は、同じ材料からなり、例えばInAs層またはInGaAs層である。
図9(c)に示すように、量子ドット44間の濡れ層46上に中間層47を形成する。中間層47は例えばGaAs層である。中間層47は、量子ドット44の側面に接し、量子ドット44の頂点は中間層47から露出する。
【0052】
図10(a)に示すように、熱処理することにより、濡れ層46と中間層47との混晶である混晶層45を形成する。例えば濡れ層46および中間層47がそれぞれInAs層およびGaAs層のとき、混晶層45はInGaAs層となる。熱処理は、例えば620℃において140秒行う。熱処理温度は例えば600℃から650℃とすることができる。
【0053】
図10(b)に示すように、量子ドット44間の混晶層45上にカバー層48を形成する。カバー層48は量子ドット44の側面に接し、量子ドット44の頂点はカバー層48から露出する。カバー層48は例えばInGaAs層である。
図10(c)に示すように、量子ドット44およびカバー層48を覆うように埋め込み層50を形成する。埋め込み層50は例えばGaAs層またはAlGaAs層である。複数の量子ドット44、混晶層45、カバー層48および埋め込み層50から量子ドット層42が形成される。埋め込み層50を下地層として、量子ドット層42上に別の量子ドット層42を形成する。量子ドット層42を複数層積層することにより、
図1のように複数の量子ドット層42を有する活性層16が形成される。
【0054】
その後、上部クラッド層18およびコンタクト層24を形成する。コンタクト層24および上部クラッド層18に凹部20を形成する。コンタクト層24の上面、凹部20の側面および底面に保護膜26を形成する。リッジ部22上の保護膜26に開口を形成し、開口で露出したコンタクト層24の上面に接してp電極28を形成する。リッジ部22以外の保護膜26上に、p電極28に配線30を介して接続するパッド32を形成する。半導体基板10の下面にn電極34を形成する。以上により、
図1の半導体レーザが完成する。
【0055】
図9(c)において、濡れ層46をInAs層とし、中間層47をGaAs層とし、濡れ層46と中間層47の膜厚を同程度(例えば各々0.3nmの1モノレイヤ)とする。
図10(a)における混晶層45は2モノレイヤ(0.6nm)のIn
0.5Ga
0.5As層となる。また、カバー層48は膜厚が3nmのIn
0.15Ga
0.85As層とする。なお、下地層40と濡れ層46とは混晶を形成しうるが、上記仮定では考慮していない。
【0056】
図11は、実施例2の半導体レーザにおける活性層のエネルギーバンド図であり、
図8のA-A断面におけるエネルギーバンド図である。
図11のように、混晶層45のバンドギャップエネルギーEg4は0.890eVとなる。下地層40と混晶層45との界面における、Ecの不連続エネルギーΔEc1´は0.319eVであり、Evの不連続エネルギーΔEv1´は0.216eVである。混晶層45とカバー層48との界面における、Ecの不連続エネルギーΔEc2´は0.214eVであり、Evの不連続エネルギーΔEv2´は0.148eVである。
【0057】
比較例2に比べると、電子の量子準位Eeが高くなり、ホールの量子準位Ehが低くなる。よって、比較例2に比べΔEが大きくなる。高温においてキャリアが混晶層45に分布しにくくなることで、レーザ特性の劣化が抑制できる。また、量子ドット44のうち中間層47に接する領域は混晶となる。しかし、量子ドット44は中間層47に比べ十分に大きいため、量子ドット44はほとんどInAsドットである。よって、発光波長は比較例2と同程度とすることができる。
【0058】
実施例2によれば、下地層40とカバー層48との間の混晶層45が設けられている。混晶層45のバンドギャップエネルギーは量子ドット44のバンドギャップエネルギーより大きい。カバー層48のバンドギャップエネルギーは混晶層45のバンドギャップエネルギーより大きい。これにより、発光波長は比較例2と同程度であり、かつ高温におけるレーザ特性を比較例2より向上できる。
【0059】
混晶層45のバンドギャップエネルギーは量子ドット44のバンドギャップエネルギーより0.15eV以上大きいことが好ましく、0.3eV以上大きいことがより好ましい。カバー層48のバンドギャップエネルギーは混晶層45のバンドギャップエネルギーより0.15eV以上大きいことが好ましく、0.3eV以上大きいことが好ましい。混晶層45およびカバー層48はタイプ1のヘテロ接合を形成することが好ましい。
【0060】
複数の量子ドット44をInAsドットまたはInGaAsドットとし、混晶層45をInGaAs層とし、カバー層48をInGaAs層とする。これにより、例えば、発光波長を1.26μm以上かつ1.32μm以下とすることができる。
【0061】
混晶層45およびカバー層48をInxGa1-xAs(0≦x≦1)層とする場合、混晶層45のxは量子ドット44のxより小さく、カバー層48のxは混晶層45のxより小さくする。これにより、混晶層45のバンドギャップエネルギーは量子ドット44のバンドギャップエネルギーより大きくなり、カバー層48のバンドギャップエネルギーは混晶層45のバンドギャップエネルギーより大きくなる。
【0062】
図9(c)のように、複数の量子ドット44間の濡れ層46上に中間層47を形成する。
図10(a)のように、熱処理することにより、濡れ層46と中間層47との混晶である混晶層45を形成する。
図10(b)のように、複数の量子ドット44間の混晶層45上にカバー層48を形成する。量子ドット44、濡れ層46、中間層47、混晶層45およびカバー層48はIn
xGa
1-xAs(0≦x≦1)層であり、混晶層45のxは量子ドット44のxより小さく、カバー層48のxは混晶層45のxより小さい。これにより、混晶層45のxを量子ドット44のxより小さくできる。
【0063】
実施例1と同様に、量子ドット44および濡れ層46のxは0.5≦x≦1が好ましく、0.7≦x≦1がより好ましい。カバー層48のxは0<x≦0.5が好ましく、0<x≦0.3がより好ましい。高温における特性劣化を抑制するため、混晶層45のxは0<x≦0.8が好ましく、0<x≦0.5がより好ましい。
【0064】
量子ドット44を形成するため、下地層40および埋め込み層50のバンドギャップエネルギーをカバー層48のバンドギャップエネルギーより大きくする。このため、下地層40および埋め込み層50をInxGa1-xAs(0≦x≦1)とした場合、下地層40および埋め込み層50のxをカバー層48のxより小さくする。また、下地層40、埋め込み層50および中間層47をAlGaAs層またはAlInGaAs層としてもよい。
【0065】
混晶層45が厚くなると、混晶層45内にキャリアが分布しやすくなり、高温における特性が劣化する。よって、混晶層45の膜厚は5モノレイヤ以下が好ましく、3モノレイヤ以下がより好ましい。濡れ層46は1モノレイヤであるため、混晶層45の膜厚は1モノレイヤより大きくなる。混晶層45の膜厚はカバー層48の膜厚の1/2以下が好ましく、1/5以下がより好ましい。中間層47の膜厚はカバー層48の膜厚の1/10以上が好ましい。
【0066】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 半導体基板
12 バッファ層
14 下部クラッド層
16 活性層
18 上部クラッド層
40 下地層
42 量子ドット層
44 量子ドット
45 混晶層
46 濡れ層
47 中間層
48 カバー層
50 埋め込み層
100 半導体レーザ