(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】回転機及び変位検出センサ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/048 20060101AFI20220401BHJP
【FI】
F04D29/048
(21)【出願番号】P 2018012475
(22)【出願日】2018-01-29
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】小森 望充
(72)【発明者】
【氏名】木下 茂己
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-148391(JP,A)
【文献】特開平06-102002(JP,A)
【文献】特開2018-151378(JP,A)
【文献】特開2016-161132(JP,A)
【文献】特開2001-147102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00-13/16
F04D 17/00-19/02
F04D 21/00-25/16
F04D 29/00-35/00
F16C 32/00-32/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気軸受で回転自在に支持されたロータ、及び、前記ロータの基準位置からの位置ずれを計測する変位検出センサを備える回転機において、
前記変位検出センサは、前記ロータを間に挟み、該ロータまで距離を有する位置に固定されたコイルA、Bと、前記コイルAに接続されたコンデンサCと、前記コイルBに接続されたコンデンサDと
、前記コイルAに直列接続された抵抗Eと、前記コイルBに直列接続された抵抗Fとを具備し、
前記コイルA及び前記コンデンサCが並列接続され、前記コイルB及び前記コンデンサDが並列接続され、前記コンデンサC、Dと共に交流電流が通電されて一定の周期の起電力が生じている前記コイルA、Bそれぞれから前記ロータまでの距離の変化に伴って変わる前記コイルA、Bそれぞれのインダクタンスの変化を、前記ロータの基準位置からの位置ずれを示す電気信号として出力することを特徴とする回転機。
【請求項2】
請求項1記載の回転機において、前記ロータは磁性部を有し、前記磁気軸受は、異なる位置から前記磁性部を引き付ける磁力をそれぞれ発生させる複数の電磁石部を具備し、該複数の電磁石部には、前記変位検出センサが出力する前記電気信号を基に該各電磁石部の磁化を制御して、前記ロータを前記基準位置の近傍に保つ制御手段が接続されていることを特徴とする回転機。
【請求項3】
請求項1記載の回転機において、それぞれ異なる位置から、前記ロータに設けられた磁性部を引き付ける磁力を発生させる複数の電磁石部を具備する位置調整手段を更に備え、前記複数の電磁石部には、前記変位検出センサが出力する前記電気信号を基に該各電磁石部の磁化を制御して、前記ロータを前記基準位置の近傍に保つ制御手段が接続されていることを特徴とする回転機。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の回転機において、前記変位検出センサは複数あって、前記複数の変位検出センサの前記コイルA、Bはそれぞれ異なる位置に配されていることを特徴とする回転機。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の回転機において、
-190℃以下の環境下で使用されることを特徴とする回転機。
【請求項6】
対象物の基準位置からの位置ずれを計測する変位検出センサにおいて、
前記対象物を間に挟み、該対象物まで距離を有する位置に固定されたコイルA、Bと、前記コイルAに接続されたコンデンサCと、前記コイルBに接続されたコンデンサDと
、前記コイルAに直列接続された抵抗Eと、前記コイルBに直列接続された抵抗Fとを具備し、
前記コイルA及び前記コンデンサCは並列接続され、前記コイルB及び前記コンデンサDは並列接続され、前記コンデンサC、Dと共に交流電流が通電されて一定の周期の起電力が生じている前記コイルA、Bそれぞれから前記
対象物までの距離の変化に伴って変わる前記コイルA、Bそれぞれのインダクタンスの変化を、前記
対象物の基準位置からの位置ずれを示す電気信号として出力することを特徴とする変位検出センサ。
【請求項7】
請求項
6記載の変位検出センサにおいて、
-190℃以下の環境下で使用されることを特徴とする変位検出センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータが磁気軸受によって回転自在に支持された回転機及び変位検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気軸受によって支持されたロータを有するポンプ(以下、「磁気浮上型ポンプ」とも言う)には様々な用途があり、例えば、タンカーやタンクローリから液体窒素、液体水素等の極低温液体を移送するのもその一つである(磁気浮上型ポンプについては特許文献1~4参照)。磁気浮上型ポンプでは、ロータの位置ずれの検出に渦電流式変位センサが用いられ、これは、室温用の磁気浮上型ポンプであっても低温用の磁気浮上型ポンプであっても同じである(渦電流式変位センサについては特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-233708号公報
【文献】特開平10-61584号公報
【文献】特開2003-148391号公報
【文献】特開2015-61978号公報
【文献】特開2003-148904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、極低温(例えば、-190℃以下の)環境下で使用可能な渦電流式変位センサは、常温用のもの(-50℃~100℃程度で使用されることを前提としたセンサ)に比べ、複雑な構造を要し、その結果、磁気浮上型ポンプ全体の製造費が高額になるという課題があった。
また、ロータが磁気軸受に支持された回転機には、ポンプ以外にモータやタービン等が存在し、上記の課題はポンプだけでなく回転機全般に共通する。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、磁気軸受によって支持されたロータの変位を、極低温環境下で、簡素な構造のセンサによって計測可能な回転機及び変位検出センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う本発明に係る回転機は、磁気軸受で回転自在に支持されたロータ、及び、前記ロータの基準位置からの位置ずれを計測する変位検出センサを備える回転機において、前記変位検出センサは、前記ロータを間に挟み、該ロータまで距離を有する位置に固定されたコイルA、Bと、前記コイルAに接続されたコンデンサCと、前記コイルBに接続されたコンデンサDと、前記コイルAに直列接続された抵抗Eと、前記コイルBに直列接続された抵抗Fとを具備し、前記コイルA及び前記コンデンサCが並列接続され、前記コイルB及び前記コンデンサDが並列接続され、前記コンデンサC、Dと共に交流電流が通電されて一定の周期の起電力が生じている前記コイルA、Bそれぞれから前記ロータまでの距離の変化に伴って変わる前記コイルA、Bそれぞれのインダクタンスの変化を、前記ロータの基準位置からの位置ずれを示す電気信号として出力する。
【0006】
本発明に係る回転機において、前記ロータは磁性部を有し、前記磁気軸受は、異なる位置から前記磁性部を引き付ける磁力をそれぞれ発生させる複数の電磁石部を具備し、該複数の電磁石部には、前記変位検出センサが出力する前記電気信号を基に該各電磁石部の磁化を制御して、前記ロータを前記基準位置の近傍に保つ制御手段が接続されているのが好ましい。
【0007】
本発明に係る回転機において、それぞれ異なる位置から、前記ロータに設けられた磁性部を引き付ける磁力を発生させる複数の電磁石部を具備する位置調整手段を更に備え、前記複数の電磁石部には、前記変位検出センサが出力する前記電気信号を基に該各電磁石部の磁化を制御して、前記ロータを前記基準位置の近傍に保つ制御手段が接続されているのが好ましい。
【0008】
本発明に係る回転機において、前記変位検出センサは複数あって、前記複数の変位検出センサの前記コイルA、Bはそれぞれ異なる位置に配されているのが好ましい。これによって、コイルA、Bの特性の差を検出できる位置に各コイルA、Bを配置するようにしている。
【0009】
前記目的に沿う本発明に係る変位検出センサは、対象物の基準位置からの位置ずれを計測する変位検出センサにおいて、前記対象物を間に挟み、該対象物まで距離を有する位置に固定されたコイルA、Bと、前記コイルAに接続されたコンデンサCと、前記コイルBに接続されたコンデンサDと、前記コイルAに直列接続された抵抗Eと、前記コイルBに直列接続された抵抗Fとを具備し、前記コイルA及び前記コンデンサCは並列接続され、前記コイルB及び前記コンデンサDは並列接続され、前記コンデンサC、Dと共に交流電流が通電されて一定の周期の起電力が生じている前記コイルA、Bそれぞれから前記対象物までの距離の変化に伴って変わる前記コイルA、Bそれぞれのインダクタンスの変化を、前記対象物の基準位置からの位置ずれを示す電気信号として出力する。
【0010】
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る回転機は、ロータの基準位置からの位置ずれを計測する変位検出センサが、ロータを間に挟み、ロータまで距離を有する位置に固定されたコイルA、Bを具備し、コイルA、Bそれぞれからロータまでの距離の変化に伴って変わるコイルA、Bそれぞれのインダクタンスの変化を、ロータの基準位置からの位置ずれを示す電気信号として出力するので、磁気軸受によって支持されたロータの変位を、渦電流を利用することなく検出できる。そして、実験的検証により、このタイプの変位検出センサは、簡素な構造で、極低温環境下でのロータの安定的な計測が可能であることを確認している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る回転機の側断面図である。
【
図2】(A)、(B)はそれぞれ
図1のA-A’線断面図、B-B’線断面図である。
【
図4】変位検出センサ、制御手段及び電磁石部の接続を示すブロック図である。
【
図6】コイルA、Bを極低温環境下で使用した場合の変位検出センサの計測結果を示すグラフである。
【
図7】コイルA、Bを極低温環境下で使用した場合のロータの変位を検出した結果を示すグラフである。
【
図8】コイルA、Bを室温で使用した場合のロータの変位を検出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1、
図2(A)に示すように、本発明の一実施の形態に係るポンプ(回転機の一例)10は、磁気軸受11で回転自在に支持されたロータ12、及び、ロータ12の基準位置からの位置ずれを計測する変位検出センサ13、13aを備えている。以下、詳細に説明する。
【0014】
ポンプ10は、
図1、
図2(A)に示すように、磁気軸受11が固定された円筒状のステータ14と、ステータ14の内側で磁気軸受11により磁気浮上状態にされて非接触支持された円柱状のロータ12と、ロータ12に連結された回転翼15と、回転翼15が内側に収容され、液体の流出口16が形成された有底円環状の液吹出部17を備えている。液吹出部17はステータ14に連続して設けられ、液吹出部17には、外部から内側に液体が流入する有底円環状の液流入部18が連結されている。
【0015】
以下、特に記載しない限り、ステータ14の軸心及びロータ12の軸心が鉛直に配置され、液吹出部17がステータ14の直下に配されているものとして記載する。
液流入部18は、
図1に示すように、液吹出部17の直下に設けられており、外側に複数の開口19が形成されている。液吹出部17の底の中央には、液流入部18の内側に連通した開口20が形成され、開口20内には、大半が液流入部18内に配された支持ベース21の上端が開口20の外周に非接触な状態で配置されている。
回転翼15は、ロータ12の下端の中央に連結された回転軸22、及び、回転軸22に放射状に取り付けられた複数の板材23を有している。回転軸22はロータ12の軸心と同一線上に軸心を有しており、液吹出部17の流出口16にはパイプ24が接続されている。
【0016】
ロータ12は、
図1、
図3に示すように、下側の外周に永久磁石部25を具備している。永久磁石部25には、
図3に示すように、極数が4つであり、N極、S極、N極、S極のセグメントが周方向に順に並んでいる。なお、極数は4つに限定されず、例えば、6つでもよいし、8つでもよい。
ステータ14の内周側には、
図1、
図3に示すように、永久磁石部25と同高さに、等間隔で設けられた4つの電磁石部26、27、28、29と、回転するロータ12の位相を検出する位相検出センサ(本実施の形態ではホールセンサ)30とが取り付けられている。
【0017】
位相検出センサ30は、
図4に示すように、A/D変換器31及び補正回路37を介してマイクロプロセッサ32に接続され、マイクロプロセッサ32は、D/A変換器33及びアンプ34を経由して、電磁石部26、27、28、29に接続された電気回路35に接続されている。電気回路35は、マイクロプロセッサ32から発信された信号を、D/A変換器33及びアンプ34を経由して受信し、電磁石部26、27、28、29を通電させて磁化させる。
【0018】
マイクロプロセッサ32は、A/D変換器31及び補正回路37を介して位相検出センサ30が検出するロータ12の位相を検知し、電磁石部26、27、28、29の磁極を切り替えるための信号を発信して、ロータ12に回転力が与えられるようにする。回転翼15は、ロータ12の回転により、ロータ12と一体となって回転する。なお、電磁石部は4つである必要はなく、例えば、5つであってもよいし、6つであってもよく、電磁石部を増やすことによってロータ12の回転精度を上昇させることが可能である。
回転翼15がロータ12と共に回転することによって、開口19から液流入部18内に液体(例えば、液体窒素)が流入し、その液体は、液流入部18内から開口20を通って液吹出部17内に入り、流出口16からパイプ24に送り出される。なお、本実施の形態では、回転軸22の下端が支持ベース21に上方から接しているが、永久磁石や磁気軸受を設けて発生する磁力によって、回転軸22を非接触状態にしてもよい。
【0019】
また、ロータ12は、
図1、
図2(B)に示すように、軸心方向中央に磁性部36を有し、ステータ14の内周側には、磁性部36と同高さに、磁気軸受11が設けられている。磁性部36は、強磁性体(本実施の形態では、鉄)を主成分とするもので、ロータ12は、永久磁石部25及び磁性部36以外の部分が主として常磁性体(本実施の形態では、アルミニウム)によって形成されている。
磁気軸受11は、ステータ14の内周に等間隔で配置された複数の電磁石部38、39、40、41を具備している。本実施の形態では、電磁石部38、39、40、41が0°位置、90°位置、180°位置、270°位置にそれぞれ配置されている。なお、磁気軸受が具備している電磁石部は4つである必要はなく、例えば、6つであってもよいし、8つであってもよく、電磁石部を増やすことによってロータ12を基準位置で保持する精度が向上する。
【0020】
電磁石部38、39、40、41は、
図4に示すように、電気回路35に接続されており、電気回路35は、マイクロプロセッサ32から発信された信号を、D/A変換器33及びアンプ34を経由して受信し、電磁石部38、39、40、41を磁化する。電磁石部38、39、40、41は、通電により磁化されて、磁性部36を引き付ける磁力をそれぞれ発生させる。
【0021】
ステータ14の内側には、
図1、
図2(A)に示すように、磁気軸受11より高い位置に、変位検出センサ13、13aが固定されている(即ち、ポンプ10は複数の変位検出センサ13、13aを備えている)。
変位検出センサ13は、ロータ12を間に挟んで、対向して配置された対となるコイル42(コイルA)及びコイル43(コイルB)を具備し、変位検出センサ13aは、ロータ12を間に挟んで、対向して配置された対となるコイル44(コイルA)及びコイル45(コイルB)を具備している。本実施の形態では、コイル42、43、44、45は銅を素材としているが、これに限定されない。
【0022】
コイル42、43、44、45は、
図2(A)に示すように、ロータ12まで距離を有する同高さの位置に固定された空芯のコイルであり、コイル44、43、45、42の順に等間隔で配置されている。本実施の形態では、コイル44、43、45、42が0°位置、90°位置、180°位置、270°位置にそれぞれ配置されている。即ち、変位検出センサ13のコイル42、43及び変位検出センサ13aのコイル44、45はそれぞれ異なる位置に配されている。コイル42、43、44、45は、巻き数及び長さが同じである。
ロータ12が基準位置に配されている際、コイル42からロータ12までの距離(コイル42が対向するロータ12の表面までの距離、他のコイル43~45も同様)、コイル43からロータ12までの距離、コイル44からロータ12までの距離及びコイル45からロータ12までの距離は等しい。
【0023】
変位検出センサ13は、
図5に示すように、コイル42が、コンデンサ46に並列接続され、抵抗47に直列接続され、コイル43が、コンデンサ48に並列接続され、抵抗49に直列接続されている。コイル42、コンデンサ46及び抵抗47と、コイル43、コンデンサ48及び抵抗49とによって、交流電源50に接続されたブリッジ回路が構成されており、コイル42、43には、交流電源50による交流電流(本実施の形態では、100KHz)の通電によって、一定の周期で起電力が生じ、コイル42、43の周辺には磁界が発生する。
【0024】
変位検出センサ13には、交流を直流に変換する整流回路51及びノイズ除去用のローパスフィルタ52を介して、オペアンプ53が接続されている。オペアンプ53には、感度調整用の抵抗54が並列接続され、オペアンプ53の出力側には、A/D変換器31に接続された出力端子部55が設けられている。
コイル42からロータ12までの距離とコイル43からロータ12までの距離が等しいとき、コイル42周辺の磁界とコイル43周辺の磁界は同じ状態であり、コイル42のインダクタンスとコイル43のインダクタンスは等しい。
【0025】
これに対し、ロータ12が基準位置から変位して、コイル42からロータ12までの距離とコイル43からロータ12までの距離とが異なった状態となると、コイル42周辺の磁界とコイル43周辺の磁界は相違した状態となり、コイル42のインダクタンスとコイル43のインダクタンスに差異が生じる。即ち、コイル42のインダクタンスはコイル42からロータ12までの距離の変化に伴って変化し、コイル43のインダクタンスはコイル43からロータ12までの距離の変化に伴って変化する。
【0026】
そして、コイル42のインダクタンスとコイル43のインダクタンスの差異は、コイル42からロータ12までの距離とコイル43からロータ12までの距離との差が大きくなるほど大きくなり、出力端子部55から、コイル42のインダクタンスとコイル43のインダクタンスの差異の大きさに応じた大きさ(絶対値の大きさ)の電気信号(電圧信号)が出力される。出力端子部55から出力される電気信号は、コイル42からロータ12までの距離がコイル43からロータ12までの距離より短いとき、プラス電圧値となり、コイル42からロータ12までの距離がコイル43からロータ12までの距離より長いとき、マイナス電圧値となる。
【0027】
従って、変位検出センサ13は、コイル42、43それぞれのインダクタンスの変化を、ロータ12の基準位置からの位置ずれを示す電気信号として出力することができる。
なお、変位検出センサ13において、ブリッジ回路構成が採用されていることから、変位検出センサ13は、ロータ12の基準位置からの位置ずれを安定的に電気信号として出力可能である。
【0028】
変位検出センサ13aは変位検出センサ13と同様に設計され、コイル44のインダクタンスはコイル44からロータ12までの距離の変化に伴って変化し、コイル45のインダクタンスはコイル45からロータ12までの距離の変化に伴って変化する。そして、変位検出センサ13aは、コイル44、45それぞれのインダクタンスの変化を、ロータ12の基準位置からの位置ずれを示す電気信号として出力する。
【0029】
マイクロプロセッサ32は、変位検出センサ13、13aから出力され、A/D変換器31でデジタル化され、補正回路37で補正された電気信号を受信して、基準位置に対するロータ12の相対位置(ロータ12の基準位置からの位置ずれ)を検知し、電磁石部38、39、40、41のいずれを磁化させてロータ12を引き付ける状態にするかを決定し、その決定に応じた信号をD/A変換器33及びアンプ34経由で電気回路35に発信する。電気回路35は、マイクロプロセッサ32から発信された信号に応じて、電磁石部38、39、40、41のうちの1つ又は複数を磁化させ、あるいは、電磁石部38、39、40、41それぞれの磁化の大小を調整し、ロータ12を基準位置の近傍(基準位置を含む)に保つようにする。なお、補正回路37は変位検出センサ13、13aから出力される電気信号がロータ12の予測位置の対応値から大きく離れた際等に電気信号の値を補正するものである。
【0030】
ロータ12は、基準位置の近傍に保たれることによって、ステータ14及び電磁石部38、39、40、41に非接触な状態が維持される。実験的検証によって、極低温環境下でロータ12を基準位置の近傍で保てることを確認しており、ロータ12は極低温用として用いることが可能である。
本実施の形態では、変位検出センサ13、13aが出力する電気信号を基に電磁石部38、39、40、41の磁化を制御して、ロータ12を基準位置の近傍に保つ制御手段56が、主として、A/D変換器31、補正回路37、マイクロプロセッサ32、D/A変換器33、アンプ34及び電気回路35によって構成されている。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った2つの実験について説明する。
1つ目の実験は、コイルA、Bを極低温環境下に配置した際の変位検出センサの計測精度を調査すべく行ったものであり、コイルA、Bを室温環境下に配置した場合の計測結果とコイルA、Bを液体窒素に接触する環境下に配置した場合の計測結果を比較した。実験結果を
図6に示す。
図6において、「Room temp.」はコイルA、Bを室温環境下に配置した場合の計測結果を示し、「Low temp.」はコイルA、Bを液体窒素に接触する環境下に配置した場合の計測結果を示し、横軸の「Gap」はロータの基準位置からの位置ずれ量を示している。
実験結果より、コイルA、Bを液体窒素に接触する環境下に配置した場合、コイルA、Bを室温環境下に配置した場合に比べて、計測精度がやや低下するが、出力される電気信号値は線形成を保っていることから、当該変位検出センサは極低温環境下で用いることが可能であることが確認された。
【0032】
2つ目の実験は、ロータの下側が液体窒素に浸漬した状態でロータを回転させた場合、及び、ロータを室温で回転させた場合に、ロータを基準位置の近傍に保てるか否かを調べたものである。ロータの基準位置からの変位が0.5mmより小さいとロータがステータに非接触な状態(磁気浮上した状態)であることから、本実験では、ロータが基準位置からX軸又はY軸に沿って0.5mm以上変位しなければ、ロータが基準位置の近傍に保たれたと判定した。ロータの下側を液体窒素に浸漬した実験結果及び室温の実験結果を
図7、
図8にそれぞれ示す。
図7、
図8において、「X」及び「Y」はそれぞれロータの基準位置からの変位のX成分及びY成分を示す。実験では、異なるロータの回転数で、ロータの変位を計測した。
いずれの実験においても、ロータの基準位置からの変位のX成分及びY成分は共に0.5mmより小さく、ロータを基準位置の近傍に保てたとの結果を得られた。
【0033】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、回転機はポンプに限定されない。回転機は、磁気軸受で回転自在に支持されたロータと、コイルA、Bそれぞれのインダクタンスの変化をロータの基準位置からの位置ずれを示す電気信号として出力する変位検出センサを備えている機構や装置であればよく、例えば、回転機はモータやタービンであってもよいし、フライホイール等のそれ自体が駆動源を有さないものであってもよい。
【0034】
また、ロータは磁性部を有さなくてもよく、磁気軸受は、ロータの磁性部を引き付けることが可能な複数の電磁石部を具備していなくてもよい。
そして、ロータが磁性部を有し、磁性部に磁力を作用させてロータを基準位置の近傍に保つ場合、それぞれ異なる位置から磁性部を引き付ける磁力を発生させる複数の電磁石部を具備する位置調整手段を、磁気軸受とは別に設け、複数の電磁石部に、変位検出センサが出力する電気信号を基に当該各電磁石部の磁化を制御して、ロータを基準位置の近傍で保つ制御手段が接続されているように回転機を設計してもよい。
更に、コイルA、Bは有芯であってもよい。そして、変位検出センサは2つである必要なく、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
10:ポンプ、11:磁気軸受、12:ロータ、13、13a:変位検出センサ、14:ステータ、15:回転翼、16:流出口、17:液吹出部、18:液流入部、19、20:開口、21:支持ベース、22:回転軸、23:板材、24:パイプ、25:永久磁石部、26、27、28、29:電磁石部、30:位相検出センサ、31:A/D変換器、32:マイクロプロセッサ、33:D/A変換器、34:アンプ、35:電気回路、36:磁性部、37:補正回路、38、39、40、41:電磁石部、42、43、44、45:コイル、46:コンデンサ、47:抵抗、48:コンデンサ、49:抵抗、50:交流電源、51:整流回路、52:ローパスフィルタ、53:オペアンプ、54:抵抗、55:出力端子部、56:制御手段