(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】低分散ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/32 20060101AFI20220401BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
C03C3/32
G02B1/00
(21)【出願番号】P 2018035331
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】391009936
【氏名又は名称】株式会社住田光学ガラス
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】石井 修
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-107841(JP,A)
【文献】特開2008-201610(JP,A)
【文献】特開昭58-135152(JP,A)
【文献】特開2005-247658(JP,A)
【文献】Hu Hefang, Lin Fengying, Gu Donghong and Li Min,Study on fluoride glasses in RF2-AlF3-YF3 system,Materials Science Forum,5-6,NE,Trans Tech Pubrications,1985年,146-147
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
G02B 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、
AlF
3:29%以上38%以下、
YF
3:0%以上21%以下、
LaF
3:0%以上9%以下、
GdF
3:0%以上8%以下、
YbF
3:0%以上14%以下、
MgF
2:10%以上23%以下、
CaF
2:
3%以上15%未満、
SrF
2:11%以上26%以下、及び
BaF
2:3%以上15%以下
を含む組成を有し、
YF
3、LaF
3、GdF
3及びYbF
3の合計の含有量が7%以上21%以下であ
り、
MgF
2
とCaF
2
のモル比(MgF
2
/CaF
2
)が、1.05以上であり、
第2族元素の塩化物の割合が2%以下である、ことを特徴とする、低分散ガラス。
【請求項2】
リンを含まない、請求項
1に記載の低分散ガラス。
【請求項3】
アッベ数(νd)が96以上102以下である、請求項1
又は2に記載の低分散ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分散ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
低分散ガラスは、望遠レンズ等のレンズの色収差を補正するための光学レンズに有用である。従来、低分散性は、CaF2結晶又はフツリン酸塩ガラス等を用いることで達成可能であることが知られており、これらCaF2結晶及びフツリン酸塩ガラスはいずれも、アッベ数(νd)が95程度である。
【0003】
但し、上記のCaF2結晶は、ガラスではない上、加工性及び調達性に乏しいため、ガラス化するための何らかの工夫が求められる。
【0004】
この点に関し、例えば特許文献1は、AlF3、CaF2等のアルカリ土類金属元素のフッ化物、及びYF3を特定の組成範囲で含むガラスが、低分散、具体的にはアッベ数(νd)101程度を達成できるとともに、溶融後に所定の温度で保温した際の失透が抑制されることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記文献に開示のガラスは、特定の温度における失透は抑制し得るものの、その融液を冷却する過程で激しい結晶化が生じ易いという問題があった。このようなガラスの結晶化は、ガラス中に不均質部分をもたらし、光学ガラスとしての均質性を悪化させ得る。また、フツリン酸塩ガラスは、リン酸を含むという組成上、低分散性の向上に限界があり、例えば、アッベ数(νd)が大きくとも95程度となるようにしか、製造することができなかった。
そのため、より一層の低分散を達成しつつ、結晶化し難い(結晶化に対する安定性が高い)ガラスの開発が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記の観点に鑑みてなされたもので、結晶化に対する安定性が高い低分散ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が従来のガラスが抱える問題について鋭意検討したところ、上記文献に開示のガラスは、ガラス転移温度と結晶化開始温度とが近接しているため、溶融した後にガラス転移温度まで冷却する際に、結晶化開始温度を素早く通過させることが困難となり、それに起因して結晶化が生じ易いことを突き止めた。
そして、本発明者は更に検討し、AlF3、MgF2、SrF2、BaF2及び特定の希土類元素のフッ化物を必須成分とし、それぞれを所定の割合で含むことで、低分散を達成しつつ、ガラス転移温度と結晶化開始温度とをより離隔させて、結晶化に対する安定性を高めることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、本発明の低分散ガラスは、
モル%で、
AlF3:29%以上38%以下、
YF3:0%以上21%以下、
LaF3:0%以上9%以下、
GdF3:0%以上8%以下、
YbF3:0%以上14%以下、
MgF2:10%以上23%以下、
CaF2:0%以上15%未満、
SrF2:11%以上26%以下、及び
BaF2:3%以上15%以下
を含む組成を有し、
YF3、LaF3、GdF3及びYbF3の合計の含有量が7%以上21%以下である、ことを特徴とする。かかる低分散ガラスは、結晶化に対する安定性が高い。
【0010】
本発明の低分散ガラスは、更に、第2族元素の塩化物を2モル%以下で含むことが好ましい。
【0011】
本発明の低分散ガラスは、リンを含まないことが好ましい。
【0012】
本発明の低分散ガラスは、アッベ数(νd)が96以上102以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、結晶化に対する安定性が高い低分散ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態の低分散ガラスに関するDTA曲線を示す概要図である。
【
図2】
図1のDTA曲線における、領域Aの部分拡大図である。
【
図3】
図1のDTA曲線における、領域Bの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(低分散ガラス)
本発明の一実施形態の低分散ガラス(以下、「本実施形態のガラス」と称することがある。)を具体的に説明する。本実施形態のガラスは、モル%で、
AlF3:29%以上38%以下、
YF3:0%以上21%以下、
LaF3:0%以上9%以下、
GdF3:0%以上8%以下、
YbF3:0%以上14%以下、
MgF2:10%以上23%以下、
CaF2:0%以上15%未満、
SrF2:11%以上26%以下、及び
BaF2:3%以上15%以下
を含む組成を有し、
YF3、LaF3、GdF3及びYbF3の合計の含有量が7%以上21%以下である、
ことを特徴とする。
【0016】
また、本実施形態のガラスは、モル%で、
AlF3:29%以上38%以下、
YF3:0%以上21%以下、
LaF3:0%以上9%以下、
GdF3:0%以上8%以下、
YbF3:0%以上14%以下、
MgF2:10%以上23%以下、
CaF2:0%以上15%未満、
SrF2:11%以上26%以下、
BaF2:3%以上15%以下、及び
第2族元素の塩化物:2%以下
を含む組成を有してもよい。
【0017】
なお、本実施形態のガラスは、上述した成分以外のその他の成分(後述)を含んでもよい。但し、本実施形態のガラスは、低分散性及び結晶化に対する高い安定性をより確実に発現させる観点から、上述した成分のみからなる組成を有することが好ましい。
ここで、「上述した成分のみからなる」とは、当該成分以外の不純物成分が不可避的に混入する、具体的には、不純物成分の合計の割合が0.2モル%以下である場合を包含することとする。
【0018】
以下、本実施形態のガラスにおいて、各成分の割合を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、「%」表示は、特に断らない限り、モル%を意味する。
【0019】
[AlF3]
AlF3は、本実施形態のガラスにおける主成分である。ガラスにおけるAlF3の割合が29%未満であると、低分散性を達成することが困難になる。一方、ガラスにおけるAlF3の割合が38%を超えると、結晶化し易くなる虞がある。そのため、本実施形態のガラスにおけるAlF3の割合は、29%以上38%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるAlF3の割合は、30%以上であることが好ましく、31%以上であることがより好ましく、また、37%以下であることが好ましく、36%以下であることがより好ましい。
【0020】
[YF3]
YF3は、本実施形態のガラスにおいて、結晶化に対する安定性を高めることができる成分である。ガラスにおけるYF3の割合が21%を超えると、所望の低分散性を達成することが困難になる。そのため、本実施形態のガラスにおけるYF3の割合は、0%以上21%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるYF3の割合は、19%以下であることが好ましく、17%以下であることがより好ましい。また、本実施形態のガラスにおけるYF3の割合は、特に制限されず、3%以上とすることができる。
【0021】
[LaF3]
LaF3は、本実施形態のガラスにおいて、化学的耐久性を高めることができる成分である。但し、ガラスにおけるLaF3の割合が9%を超えると、所望の低分散性を達成することが困難になる上、結晶化に対する安定性が悪化する。そのため、本実施形態のガラスにおけるLaF3の割合は、0%以上9%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるLaF3の割合は、8%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましい。また、本実施形態のガラスにおけるLaF3の割合は、特に制限されず、2%以上とすることができる。
【0022】
[GdF3]
GdF3は、本実施形態のガラスにおいて、LaF3と同様に化学的耐久性を高めることができる成分である。但し、ガラスにおけるGdF3の割合が8%を超えると、所望の低分散性を達成することが困難になる。そのため、本実施形態のガラスにおけるGdF3の割合は、0%以上8%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるGdF3の割合は、6%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。また、本実施形態のガラスにおけるGdF3の割合は、特に制限されず、2%以上とすることができる。
【0023】
[YbF3]
YbF3は、本実施形態のガラスにおいて、LaF3及びGdF3と同様に化学的耐久性を高めることができる成分である。但し、ガラスにおけるYbF3の割合が14%を超えると、所望の低分散性を達成することが困難になる。そのため、本実施形態のガラスにおけるYbF3の割合は、0%以上14%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるYbF3の割合は、12%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。また、本実施形態のガラスにおけるYbF3の割合は、特に制限されず、2%以上とすることができる。
【0024】
[YF3、LaF3、GdF3及びYbF3の合計]
ここで、本実施形態のガラスにおいては、YF3、LaF3、GdF3及びYbF3の合計の含有量を7%以上21%以下とした。ガラスにおける上記成分の合計の含有量が7%未満であると、結晶化に対する安定性が悪化する虞があるからである。また、ガラスにおける上記成分の合計の含有量が21%を超えると、低分散性が悪化する(分散性が高くなる)虞があるからである。また、本実施形態のガラスにおける上記成分の合計の含有量は、結晶化に対する安定性を効果的に高める観点から、9%以上であることが好ましく、また、低分散性を効果的に向上させる観点から、19%以下であることが好ましい。
【0025】
[MgF2]
MgF2は、本実施形態のガラスにおける必須成分であり、結晶化に対する安定性を高めるとともに、分散性を低減することができる成分である。ガラスにおけるMgF2の割合が10%未満であると、結晶化に対する安定性を高める効果及び分散性を低減する効果を十分に得ることができない。一方、ガラスにおけるMgF2の割合が23%を超えると、結晶化し易くなる。そのため、本実施形態のガラスにおけるMgF2の割合は、10%以上23%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるMgF2の割合は、11%以上であることが好ましく、12%以上であることがより好ましく、また、22%以下であることが好ましく、21%以下であることがより好ましい。
【0026】
[CaF2]
CaF2は、本実施形態のガラスにおいて、分散性を低減することができる、具体的には、アッベ数(νd)を95程度に近づけることができる任意成分である。ガラスにおけるCaF2の割合が15%以上であると、ガラス中に結晶が析出する虞がある。そのため、本実施形態のガラスにおけるCaF2の割合は、0%以上15%未満とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるCaF2の割合は、14%以下であることが好ましく、13%以下であることがより好ましい。また、分散性を効果的に低減する観点から、本実施形態のガラスにおけるCaF2の割合は、3%以上であることが好ましい。
【0027】
[MgF2とCaF2の比]
本実施形態のガラスにおいては、MgF2とCaF2のモル比(MgF2/CaF2)が、1.00以上であることが好ましい。上記モル比が1.00以上であることにより、一層効果的に低分散性を向上させることができる。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるMgF2/CaF2は、1.05以上であることがより好ましく、1.10以上であることが更に好ましい。
【0028】
[AlF3及びMgF2の合計とCaF2の比]
本実施形態のガラスにおいては、AlF3及びMgF2の合計とCaF2のモル比((AlF3+MgF2)/CaF2)が、3.4以上であることが好ましい。上記モル比が3.4以上であることにより、一層効果的に低分散性を向上させることができる。同様の観点から、本実施形態のガラスにおける(AlF3+MgF2)/CaF2は、3.5以上であることがより好ましく、3.6以上であることが更に好ましい。
【0029】
[SrF2]
SrF2は、本実施形態のガラスにおける必須成分であり、結晶化に対する安定性を高めることができる成分である。ガラスにおけるSrF2の割合が11%未満であると、結晶化に対する安定性を高める効果を十分に得ることができない。一方、ガラスにおけるSrF2の割合が26%を超えると、低分散性を達成することが困難になる。そのため、本実施形態のガラスにおけるSrF2の割合は、11%以上26%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるSrF2の割合は、12%以上であることが好ましく、13%以上であることがより好ましく、また、24%以下であることが好ましく、22%以下であることがより好ましい。
【0030】
[BaF2]
BaF2は、本実施形態のガラスにおける必須成分であり、SrF2と同様に結晶化に対する安定性を高めることができる成分である。ガラスにおけるBaF2の割合が3%未満であると、結晶化に対する安定性を高める効果を十分に得ることができない。一方、ガラスにおけるBaF2の割合が15%を超えると、低分散性を達成することが困難になる。そのため、本実施形態のガラスにおけるBaF2の割合は、3%以上15%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるBaF2の割合は、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、また、14%以下であることが好ましく、13%以下であることがより好ましい。
【0031】
[塩化物成分]
本実施形態のガラスは、塩化物成分を更に含むことができる。ガラスが塩化物成分を含むことにより、結晶化に対する安定性をより高めることができる。上記塩化物成分としては、例えば、AlCl3、YCl3、LaCl3、GdCl3、YbCl3、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2等が挙げられる。特に、本実施形態のガラスは、これらの中でも、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2等の第2族元素の塩化物を含むことが好ましく、原料の入手容易性の観点からは、BaCl2を含むことがより好ましい。
【0032】
本実施形態のガラスにおける塩化物成分の割合は、2モル%以下であることが好ましい。上記割合が2モル%以下であれば、低分散性をより高いレベルで保持することができる。同様の観点から、本実施形態のガラスにおける塩化物成分の割合は、1モル%以下であることがより好ましい。
また、本実施形態のガラスにおける第2族元素の塩化物の割合は、2モル%以下であることが好ましい。上記割合が2モル%以下であれば、低分散性をより高いレベルで保持することができる。同様の観点から、本実施形態のガラスにおける第2族元素の塩化物の割合は、1モル%以下であることがより好ましい。
【0033】
[その他の成分]
本実施形態のガラスは、目的を外れない限り、上述した成分以外の成分、例えば、GaF3、InF3、SnF4などを少量(例えば、それぞれ0.5モル%以下で)含むことができる。
【0034】
[リン(P)]
上述した成分を含む本実施形態のガラスは、リン(P)を含まないことが好ましい。一般に、リン及びP2O5等のリン含有化合物は、分散性を大きく高める傾向にある成分であるため、ガラスがリンを含まないことにより、低分散性の悪化をより確実に抑制することができる。
より具体的に、本実施形態のガラスは、P2O5;KPF6;Alのリン酸塩(Al(PO3)3);Mg(PO3)2、Ca(PO3)2、Sr(PO3)2、Ba(PO3)2等の第2族元素のリン酸塩;を含まないことが好ましい。
【0035】
次に、本実施形態のガラスの諸特性について説明する。
【0036】
[アッベ数(νd)]
本実施形態のガラスのアッベ数(νd)は、所望の低分散性を得る観点から、96以上であることが好ましく、97以上であることがより好ましい。また、本実施形態のガラスのアッベ数(νd)は、上述した成分をそれぞれ所定の割合で用いて現実的に達成する観点から、102以下であることが好ましい。
なお、ガラスのアッベ数は、各成分の割合を本発明の範囲内で適宜調整することにより、調節することができる。
【0037】
[屈折率(nd)]
本実施形態のガラスの屈折率(nd)は、上述した成分をそれぞれ所定の割合で用いることにより、例えば、1.40以上1.45以下とすることができる。
【0038】
[結晶化開始温度(Tx)]
本実施形態のガラスは、結晶化開始温度(Tx)が490℃以上であることが好ましい。ガラスのTxが490℃以上であることにより、ガラス転移温度(Tg)との間隔が一層大きくなり、溶融後において結晶化開始温度(Tx)を素早く通過させてガラス転移温度まで冷却することができ、これにより結晶化に対する安定性をより高めることができる。同様の観点から、本実施形態のガラスの結晶化開始温度(Tx)は、500℃以上であることがより好ましく、505℃以上であることが更に好ましい。
なお、上記の好ましい結晶化開始温度(Tx)は、基本的には、ガラスの各成分の割合を本発明の範囲内とすることにより、達成すすることができる。
また、結晶化開始温度(Tx)は、実施例に記載の手順により測定することができる。
【0039】
[結晶化開始温度(Tx)とガラス転移温度(Tg)との差]
また、本実施形態のガラスは、Txとガラス転移温度(Tg)との差(Tx-Tg)が80℃以上であることが好ましい。ガラスにおけるTx-Tgが80℃以上であることにより、溶融後の冷却時において結晶化開始温度(Tx)を素早く通過させることができ、これにより結晶化に対する安定性をより高めることができる。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるTx-Tgは、85℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが更に好ましい。
なお、上記の好ましいTx-Tgは、基本的には、ガラスの各成分の割合を本発明の範囲内とすることにより、達成することができる。
また、ガラス転移温度(Tg)は、実施例に記載の手順により測定することができる。
【0040】
[低分散ガラスの製造]
次に、本実施形態のガラスの製造方法について説明する。
本実施形態のガラスは、各成分の組成が上述した範囲を満たしていればよく、その製造方法については、特に限定されることなく、従来の製造方法に従って製造することができる。
例えば、まず、本実施形態のガラスに含まれ得る各成分を準備して秤量し、グラッシーカーボンなどからなる坩堝に投入し、950~1250℃程度の温度で熔融する。そして、ガラス転移温度付近でアニール(除歪)することにより、本実施形態のガラスを得ることができる。
【0041】
なお、本実施形態のガラスに塩化物成分を含ませる場合には、当該塩化物成分を準備して他の成分と同様に投入することで含ませてもよく、或いは、塩素ガス(Cl2)の導入又は塩化アンモニウム(NH4Cl)の投入を行い、他の成分由来のアニオンに塩素を反応させることでガラス中に塩化物成分を形成してもよい。
【0042】
[低分散ガラスの用途]
そして、本実施形態のガラスは、上述の通り、低分散性で且つ結晶化に対する安定性が高いため、主に、望遠レンズ等のレンズの色収差を補正するための光学レンズ、光ファイバーなどに好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の低分散ガラスを具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1~16、比較例1~2)
表1に記載の各成分を準備し、組成が表1に記載の通りとなるように秤量し、混合し、調合原料とした。この調合原料をグラッシーカーボン製の坩堝に投入し、N2不活性雰囲気の電気炉にて950~1250℃の温度で数時間熔融した。そして、坩堝に保持したまま冷却して除歪することにより、ガラスを得た。
【0045】
(評価)
得られたガラスについて、以下に示す測定を行った。
【0046】
<結晶化開始温度(T
x)及びガラス転移温度(T
g)>
結晶化開始温度(T
x)及びガラス転移温度(T
g)は、示差熱分析(DTA)により求めた。具体的に、測定対象のガラスと、基準のアルミナ粉末とを加熱して示差熱分析を行い、両者の温度差を温度の関数としてDTA曲線を得た。参考までに、
図1に、実施例2のガラスに関するDTA曲線(及びその微分曲線)を示し、
図2,3に、当該DTA曲線における領域A,Bの部分拡大図をそれぞれ示す。
まず、DTA曲線において、ガラス結晶化による発熱反応があった領域を特定する(
図2)。そして、当該領域の低温側からは、単調変化を示す範囲をベースラインとしてそれを高温側に外挿した直線を引くとともに、高温側からは、変曲点(微分曲線においてピークとなる点)における接線を引き、これらの線の交点における温度を結晶化開始温度(T
x)として求めた。
また、DTA曲線において、ガラス転移による吸熱反応があった領域を特定する(
図3)。そして、当該領域の低温側からは、単調変化を示す範囲をベースラインとしてそれを高温側に外挿した直線を引くとともに、高温側からは、変曲点(微分曲線においてピークとなる点)における接線を引き、これらの線の交点における温度をガラス転移温度(T
g)として求めた。
求めたT
x及びT
gの値、並びにT
x-T
gの算出値を表1に示す。T
x-T
gの算出値が大きいほど、結晶化に対する安定性が高いことを示す。
【0047】
<結晶の有無>
得られたガラスについて、目視にて、結晶の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0048】
<屈折率(nd)及びアッベ数(νd)>
日本光学硝子工業会規格の「JOGIS01-2003光学ガラスの屈折率の測定方法」に準拠して、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
表1より、実施例1~16のガラスは、所定の組成を有することから、アッベ数(νd)が96以上と低分散である上、結晶の析出が観察されず、また、ガラス転移温度と結晶化開始温度とが十分に離隔しているため、結晶化に対する安定性が高いことが分かる。
【0051】
一方、比較例1では、結晶の析出が観察され、ガラス化部分が得られなかったため、示差熱分析(DTA)を行うことができなかった。これは、CaF2の割合が高すぎたこと等に起因するものと考えられる。
また、比較例2のガラスは、ガラス転移温度と結晶化開始温度とが近接しており、結晶化に対する安定性が低かった。これは、MgF2が少なすぎる、CaF2が多すぎるなど、組成に起因するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、結晶化に対する安定性が高い低分散ガラスを提供することができる。