(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ボール用内袋及びこれを用いたボール
(51)【国際特許分類】
A63B 43/00 20060101AFI20220401BHJP
A63B 41/00 20060101ALI20220401BHJP
A63B 45/00 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
A63B43/00 E
A63B41/00 B
A63B45/00 C
(21)【出願番号】P 2018038537
(22)【出願日】2018-03-05
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】594001801
【氏名又は名称】株式会社ミカサ
(74)【代理人】
【識別番号】100121795
【氏名又は名称】鶴亀 國康
(72)【発明者】
【氏名】小川 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】多田 剛
(72)【発明者】
【氏名】松野 修三
【審査官】大隈 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0074714(US,A1)
【文献】特開2012-335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00~47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムチューブの空気注入用のバルブに対向する外面側に設けられた凹部がカバーゴムで被われてなる球形の該ゴムチューブが、その外周面に設けられる補強層とともに一体に熱加硫されてなるボール用内袋であって、
前記凹部は、少なくとも三軸センサ、通信手段及び電源を有するセンサ装置が収容され
うるポケットになっているボール用内袋。
【請求項2】
ゴムチューブの空気注入用のバルブに対向する外面側に設けられる凹部がカバーゴムで被われてなる球形の該ゴムチューブと、その外周面に設けられる補強層とがとともに一体に熱加硫されてなるボール用内袋を形成し、次に前記カバーゴム部分を開裂して前記凹部内にセンサ装置を収容し、その開裂部分を塞いだ後に、
外周面全体を被う表皮層または順に緩衝層と表皮層とを設けてボールを成形するボール成形方法。
【請求項3】
凹部内にセンサ装置を収容するとともに、発泡プラスチック、ゲル又は空気、あるいはこれらの混合体からなる緩衝材
を充填してボールを成形する請求項2に記載の
ボール成形方法。
【請求項4】
ゴムチューブの空気注入用のバルブに対向する外面側に設けられ、底部が滑らかな形状を有する凹部がカバーゴムで被われてなる球形の該ゴムチューブとその外周面に設けられる補強層とがとともに一体に熱加硫されてなるボール用内袋と、前記カバーゴムで被われた凹部内に収容された少なくとも三軸センサ、通信手段及び電源を有するセンサ装置と、前記ボール用内袋の外周面全体を被う表皮層または順に緩衝層と表皮層とを有するボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気注入用のバルブを有するバレーボール、ハンドボールやバスケットボール等のボールに三軸加速度センサ、三軸地磁気センサや三軸ジャイロセンサ等のセンサ類、通信手段及び電源を備えるセンサ装置を組み込むことができるボール用内袋及びこれを用いてセンサ装置を組み込んだボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールにセンサ装置を組み込んでボールの位置情報、あるいは飛行方向、速度又は加速度、回転方向又は回転数などの情報を得ることにより、ボールを用いた運動の技能向上や改善・矯正を図るための提案が種々になされている。
【0003】
例えば、特許文献1に、運動に用いるボールをモニタする方法であって、該方法は、前記ボールに接続されたセンサモジュールを用いて、第1の時点で前記ボールの動きを検出することと、前記ボールの動きが所定の起動の動きに対応すると判断することと、前記ボールの動きが前記所定の起動の動きに対応するという判断に応じて前記センサモジュールの起動状態に入ることと、前記起動状態のセンサモジュールを用いて、第2の時点で前記ボールの動きを検出することと、を含む方法が提案されている。
【0004】
特許文献2に、位置情報を取得する位置情報受信部と、運動状態に応じて運動信号を出力する運動検出部と、外部との通信を行う通信部と、処理部と、を有し、前記処理部は、前記運動信号に基づいて静止状態になったと判断した場合に前記位置情報を取得して前記通信部から外部に送信すること、を特徴とするボールが提案されている。
【0005】
特許文献3及び4に、遠心力による加速度の影響を受けずに簡単な構成で回転をともなって飛翔する球体の回転速度及び回転方向を推定することができる球体の回転計測装置が提案されている。この回転計測装置においては、回転速度及び回転方向を計測する3軸加速度センサはボールの重心におくのが理想であるが、仮に誤差が生じても半径1cm未満、より好ましくは半径5mm以内の微小半径エリアに設けることが望ましいとされる。そして、回転計測装置を用いた実施例において、軟式野球ボール又はバレーボールを2分割し、中空部分に発砲スチロールで保護されたセンサを詰め込んだものの例が記載されている。
【0006】
特許文献5に、膨らませ式ボールの内袋であって、ボールの形状に実質的に対応する形状を有し、電気配線を備えた内袋において、前記電気配線が、該内袋が変形されたときでさえ該電気配線の損傷が避けられるように遊びをもって、前記内袋の内側において、部分的に前記内袋の表皮に沿って配置されている内袋が提案されている。本内袋は、サッカーボールのキック力などの大きな外力が作用するボールにおいても電気配線の損傷を防止することができるとされる。
【0007】
特許文献6に、バルブから空気が注入されて膨張するプラダーを有するバスケットボールであって、前記バスケットボールの中心から外れた位置に設けられた、前記プラダーに一体に組付けられる拡張リップ部と、充電式電池及び運動センサを収容する空洞部を備える本体部とからなるポケット構造体を有し、そのポケット構造体が、可撓性を有する部材から形成され、拡張リップ部の下部周囲に凹条溝を備えるとともに前記充電式電池又は運動センサを固定する保持部材を備えるバスケットボールが提案されている。このバスケットボールは、ポケット構造体がプラダー内の空気によって圧縮されてその内部に収容されている運動センサを確実に固着するとともに、バスケットボールの外表面から伝わる振動を減少させることができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-221942号公報
【文献】特開2016-16327号公報
【文献】特開2010-256068号公報
【文献】特開2012-58066号公報
【文献】特開2010-125333号公報
【文献】米国特許第8517870号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1又は2に示すように、センサ装置を組み込んだボールを使用して運動する者の運動技能の向上や改善を図る提案が種々なされているが、そのセンサ装置がどの様にボールに組み込まれているかを具体的に記載する提案は少ない。しかしながら、特許文献3又は4に示すようにセンサを発泡材で被ってボールの中心に固着させるもの、特許文献5に示すようにボールの内袋の内側面に延在するトンネルにアンテナやケーブルなどの電気配線を収容する構造のもの、特許文献6に示すようにプラダーに一体に組みつけられたポケット構造体などは、センサがどの様にボールに組み込まれているかが具体的に示されており、特に特許文献5又は6にはその構成が詳細に記載されている。
【0010】
ところで、バレーボール、バスケットボール、サッカーボール又はフットボール等は、ボールの内側を形成し、空気バルブを通じて空気が注入されるボール用内袋(ブラダー)を有しており、このボール用内袋を所定圧力にして使用される。このため、ボール用内袋として、弾力性があり、エア漏れがし難く質感に優れるブチルゴムなどからなるゴムチューブを熱加硫したものが一般的に使用されている。しかしながら、熱加硫は、ゴムチューブを150~180℃で加熱して行われるので、特許文献3~6に示すように、センサ装置をボール用内袋の内部に組み込むには、ボール用内袋を開裂してセンサ装置を挿入後、密封処理をしなければならない。かかる処理は、空気漏れの原因になり、また、生産性を悪化させるという問題がある。
【0011】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、ボール用内袋の外面側に加速度センサや地磁気センサ等のセンサ類、および、基板やアンテナからなる通信手段及び電源を備えるセンサ装置が収容されるポケットを設けたボール用内袋及びこのボール用内袋を用いてセンサ装置を組み込んだボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るボール用内袋は、ゴムチューブの空気注入用のバルブに対向する外面側に設けられた凹部がカバーゴムで被われてなる球形の該ゴムチューブが、その外周面に設けられる補強層とともに一体に熱加硫されてなるボール用内袋であって、前記凹部は、少なくとも三軸センサ、通信手段及び電源を有するセンサ装置が収容されるポケットになっているものである。
【0013】
上記ボール用内袋を用いて、そのカバーゴム部分を開裂してポケットにセンサ装置を収容し、その開裂部分を塞いだ後に、外周面に表皮層を設けることにより、センサ装置を組み込んだボールを作製することができる。
【0014】
また、ボール用内袋を用いて、そのカバーゴム部分を開裂してポケットにセンサ装置を収容し、その開裂部分を塞いだ後に、外周面に順に緩衝層と表皮層を設けることにより、センサ装置を組み込んだボールを作製することができる。
【0015】
上記ボールの凹部は、ゴム、発泡プラスチック、ゲル又は空気、あるいはこれらの混合体からなる緩衝材が充填されてなるボールが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るボール用内袋は、その外面側にセンサ装置を収容するポケットが設けられているので、センサ装置が組み込まれた機密性及び生産性の高いボールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るボール用内袋の構成を示す断面図である。
【
図2】
図1のボール用内袋を用いたボールの断面図である。
【
図3】本発明に係るボールの他の実施例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を基に説明する。
図1は、本発明に係るボール用内袋の構成を示す図面である。
図1に示すように、ゴムチューブ11は、空気注入用のバルブ14に対向する外面側に凹部111が設けられ、その凹部111はカバーゴム112で被われている。そして、この球形のゴムチューブ11は、その外周面に補強層12が設けられている。本発明に係るボール用内袋10は、かかる補強層12で補強されたゴムチューブ11が一体に熱加硫されてなる。凹部111は、少なくとも三軸センサ、通信手段及び電源を有するセンサ装置が収容されるポケット15になっている。
【0019】
本ボール用内袋10において、ゴムチューブ11又はカバーゴム112は、ブチルゴム、ラテックスゴム等の材質からなる。補強層12は、球形のゴムチューブ11にポリエステル、ナイロン等の補強糸を巻き付けて形成することができる。上記ゴムチューブ11が補強層12で補強され一体になったものが熱加硫される。熱加硫は、一般的な方法で行われ、その温度は150~180℃とすることができる。
【0020】
本ボール用内袋10には上述のように凹部111がゴムチューブ11の外面側に設けられが、その凹部111の構造は、少なくとも三軸センサ、通信手段及び電源を有するセンサ装置を収容することができるポケット15になるように形成される。すなわち、凹部111は、センサ装置の構成、形状及び保護を考慮した構造のものが設けられる。必要に応じて補強ゴム113によりゴムチューブ11を補強して凹部111の本体部分110を強化することができる。センサ装置が収容される所要のポケット15を形成するには、凹部111の形状又は構造を予めポケット15の構造が確保できるようにして熱加硫するのが好ましい。例えば、凹部111にダミーを埋め込んで熱加硫することができる。
【0021】
かかる熱加硫されて形成されたボール用内袋10は、ボール用内袋を開裂してセンサ装置を挿入する従来の形態のものよりボールの真球度を確保しやすい。本ボール用内袋10は、通常のバレーボール、バスケットボール、サッカーボール又はフットボールのボール用内袋として使用することができる。
【0022】
熱加硫されたボール用内袋10は、カバーゴム112の部分を開裂してセンサ装置をポケット15に収容することができる。開裂の方向は補強糸の方向に行われる。ポケット15にセンサ装置を収容後、開裂部分は接着又はゴムパッチにより密封される。ポケット15は、凹部が形成する空間部分とすることができ、凹部111に設けられる所定の空間部分とすることができ、また、凹部111にさらに設けられるセンサ装置を固定する枠部材から形成されるものとすることができる。
【0023】
センサ装置が収容されたボール用内袋10は、
図2に示すように、その外周面に表皮層20が設けられて、センサ装置が組み込まれたボール100が形成される。ボール100は、さらに表皮層20の内側に緩衝層を設けることができる。
【0024】
本発明に係るボール100は各種運動に使用することができ、運動中にボール100に生じる振動や衝撃力からセンサ装置に伝搬する負荷を軽減するため、本発明に係るボール用内袋10の凹部111は、以下の様に形成することができる。すなわち、凹部111には所要の緩衝材を充填することができる。緩衝材としては、ゴム、発泡プラスチック、ゲル又は空気、あるいはこれらの混合体を使用することができる。そして、凹部111に気体又は液体を充填することにより、凹部111を所定圧力にすることができる。また、センサ装置が所定圧力に保持されて密封されたケースをポケット15に収容することもできる。
【0025】
図2に示すゴムチューブ11は、ボール用内袋10の凹部111の底部分に相当する本体部分110が、滑らかな形状に形成されている。このゴムチューブ11は、センサ装置にかかる負荷をゴムチューブ11が一体になって受けることができる。また、ボール用内袋10の凹部111の形状は、
図3に示すように、円筒状にすることができる。この例の場合は、凹部111に形成される円筒状のポケット15にセンサ装置を収容することができ、センサ装置の周囲に大容量の充填材を充填することができる。
【0026】
以上、本発明に係るボール用内袋10及びこれを用いてセンサ装置を組み込んだボール100について説明した。本発明に係るボール用内袋10は、ゴムチューブ11の本体部分110が開裂されていないので、密封性及び生産性に優れ、また、真球度を確保することができる。また、本発明に係るボール用内袋10は、ポケット15に収容されるセンサ装置とのバランスを取るために、必要に応じて凹部111に対向するバルブ14の位置回りにゴムパッチを設けることができる。
【符号の説明】
【0027】
10 ボール用内袋
11 ゴムチューブ
110 本体部分
111 凹部
112 カバーゴム
113 補強ゴム
12 補強層
14 バルブ
15 ポケット
20 表皮層
100 ボール