(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】光学ガラス、精密プレス成形用プリフォーム、及び光学素子
(51)【国際特許分類】
C03C 3/16 20060101AFI20220401BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20220401BHJP
C03B 11/00 20060101ALN20220401BHJP
【FI】
C03C3/16
G02B1/00
C03B11/00 B
(21)【出願番号】P 2018069441
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】391009936
【氏名又は名称】株式会社住田光学ガラス
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】藤野 真臣
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-026768(JP,A)
【文献】特開2015-160757(JP,A)
【文献】特開2008-044837(JP,A)
【文献】特開2015-163564(JP,A)
【文献】特開2016-074566(JP,A)
【文献】国際公開第2010/074211(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
G02B 1/00
C03B 11/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
P
2O
5:10%以上30%以下、
B
2O
3:0%以上10%以下、
Li
2O:1%以上5%以下、
K
2O:0%以上10%以下、
Nb
2O
5:25%以上50%以下、
WO
3:0%以上9%未満、
Ta
2O
5:0%以上10%以下、
BaO:5%以上40%以下、
SrO:0%以上20%以下、
CaO:0%以上
8%以下、
MgO:0%以上10%以下、
ZnO:0%以上10%以下、
Bi
2O
3:0%以上15%以下、
Y
2O
3:0%以上10%以下、
La
2O
3:0%以上5%以下、
Gd
2O
3:0%以上5%以下、
SiO
2:0%以上5%以下、
を含む組成を有し、
Ti及びNaを含まず、
BaO、SrO、CaO及びMgOの合計の含有量をROとし、Li
2O及びK
2Oの合計の含有量をR’
2Oとしたときに、
ROが20%超40%以下であり、且つ、RO/R’
2Oが3.1を超え、
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、アッベ数(νd)をx軸とし、屈折率(nd)をy軸とする直交座標系において、A点(25.0,1.860)、B点(30.0,1.800)、C点(32.0,1.820)、D点(27.0,1.880)を順次直線で結んだ線分A-B、B-C、C-D、D-Aで囲まれた領域内に位置する、ことを特徴とする、光学ガラス。
【請求項2】
請求項
1に記載の光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする、精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項3】
請求項
1に記載の光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする、光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、精密プレス成形用プリフォーム、及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率(nd)1.800以上、アッベ数(νd)32.0以下であるような高屈折率高分散性ガラスは、幅広い用途に需要があり、これまで、種々の原材料を用いたものが製造されている。
また、上述した高屈折率高分散性ガラスの中でも、屈折率と分散性とのバランスでみたときに、屈折率に対して分散性が比較的低い(アッベ数が比較的大きい)ガラス、より具体的には、アッベ数(νd)をx軸とし、屈折率(nd)をy軸とする直交座標系において、(25.0,1.860)の点と(30.0,1.800)の点とを通るように引いた直線よりも高屈折率側に位置するアッベ数及び屈折率を有する高屈折率高分散性ガラスに、特定のニーズがある。より具体的に言うと、上述した高屈折率高分散性ガラスは、例えば、デジタルカメラ、プロジェクター、カメラ交換用レンズ等の光学部品に需要がある。
【0003】
そのような高屈折率高分散性ガラスとして、例えば特許文献1は、基本成分としてSiO2及びB2O3を含むとともに、ZnO、希土類酸化物、TiO2及びNb2O5をそれぞれ所定の割合で含むガラスを開示している。この特許文献1に開示のガラスは、いわゆるホウケイ酸ガラスであり、また、アッベ数(νd)が29以上32以下で、屈折率(nd)が1.83以上であるガラスを実際に得たことが開示されている。
【0004】
しかしながら、一般に、ホウケイ酸ガラスの製造においては、原料を熔融する際に、1300℃以上と比較的高温に加熱する必要があり、このことは、上記特許文献1のガラスについても例外ではなかった。そのため、上記ガラスは、製造時に原料を熔融する温度(以下、「熔融温度」と称することがある。)を下げ、製造におけるコスト低減及び省エネルギー化を図るという点で、課題を有していた。
【0005】
これに対し、リン酸系ガラスは、一般に、ホウケイ酸ガラスに比べて熔融温度が低いことが知られている。そして、高屈折率高分散性であるリン酸系ガラスとして、例えば特許文献2は、P2O5、B2O3、Li2O、Na2O、K2O、CaO、TiO2、Bi2O3、Nb2O5及びWO3が所定の組成で含まれるガラスを開示している。同様に、高屈折率高分散性であるリン酸系ガラスとして、例えば特許文献3は、P2O5、B2O3、WO3、Nb2O5、TiO2、Li2O及びNa2Oを必須成分として、それぞれ所定の割合で含むガラスを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-254197号公報
【文献】特開2008-303112号公報
【文献】特許第3798268号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2及び特許文献3に開示された組成のガラスは、いずれも、高屈折率高分散性であると認められ得るものの、屈折率がアッベ数に対して比較的小さい、より具体的には、アッベ数(νd)及び屈折率(nd)が、上述した直交座標系において上述した直線よりも低屈折率側に位置するため、特定のニーズに合うものではなかった。
【0008】
以上より、上述した特定のニーズに応えられるような光学恒数を有する上、熔融温度が低いガラスの開発が求められている。
【0009】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、屈折率(nd)1.800以上、アッベ数(νd)32.0以下と高屈折率高分散性である中でも、更に屈折率が相対的に高い光学恒数を有し、且つ、原料を熔融する際に過度に高い温度を必要としない光学ガラスを提供することを目的とする。また、本発明は、上記の光学ガラスを用いた精密プレス成形用プリフォーム及び光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、P2O5、Li2O、Nb2O5、及びBaOを基本組成とするとともに、BaO、SrO、CaO及びMgOの合計と、アルカリ金属酸化物の合計とのバランスを調整することにより、TiO2等の所定の成分を用いることなく所望の光学恒数を有するとともに、原料の熔融温度が比較的低くて済む光学ガラスが得られることを見出した。
【0011】
即ち、本発明の光学ガラスは、
質量%で、
P2O5:10%以上30%以下、
B2O3:0%以上10%以下、
Li2O:1%以上5%以下、
K2O:0%以上10%以下、
Nb2O5:25%以上50%以下、
WO3:0%以上9%未満、
Ta2O5:0%以上10%以下、
BaO:5%以上40%以下、
SrO:0%以上20%以下、
CaO:0%以上10%以下、
MgO:0%以上10%以下、
ZnO:0%以上10%以下、
Bi2O3:0%以上15%以下、
Y2O3:0%以上10%以下、
La2O3:0%以上5%以下、
Gd2O3:0%以上5%以下、
SiO2:0%以上5%以下、
を含む組成を有し、
Ti及びNaを含まず、
BaO、SrO、CaO及びMgOの合計の含有量をROとし、Li2O及びK2Oの合計の含有量をR’2Oとしたときに、
ROが20%超40%以下であり、且つ、RO/R’2Oが3.1を超える、ことを特徴とする。かかる光学ガラスは、屈折率(nd)1.800以上、アッベ数(νd)32.0以下と高屈折率高分散性である中でも、更に屈折率が相対的に高い光学恒数を有し、且つ、原料を熔融する際に過度に高い温度を必要としない。
【0012】
本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、アッベ数(νd)をx軸とし、屈折率(nd)をy軸とする直交座標系において、A点(25.0,1.860)、B点(30.0,1.800)、C点(32.0,1.820)、D点(27.0,1.880)を順次直線で結んだ線分A-B、B-C、C-D、D-Aで囲まれた領域内に位置することができる。
【0013】
また、本発明の精密プレス成形用プリフォームは、上記光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする。
【0014】
更に、本発明の光学素子は、上記光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、屈折率(nd)1.800以上、アッベ数(νd)32.0以下と高屈折率高分散性である中でも、更に屈折率が相対的に高い光学恒数を有し、且つ、原料を熔融する際に過度に高い温度を必要としない光学ガラスを提供することができる。また、本発明によれば、上記の光学ガラスを用いた精密プレス成形用プリフォーム及び光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態の光学ガラスが有することができるアッベ数(νd)及び屈折率(nd)の範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(光学ガラス)
以下、本発明の一実施形態の光学ガラス(以下、「本実施形態の光学ガラス」と称することがある。)を具体的に説明する。本実施形態の光学ガラスは、質量%で、
P2O5:10%以上30%以下、
B2O3:0%以上10%以下、
Li2O:1%以上5%以下、
K2O:0%以上10%以下、
Nb2O5:25%以上50%以下、
WO3:0%以上9%未満、
Ta2O5:0%以上10%以下、
BaO:5%以上40%以下、
SrO:0%以上20%以下、
CaO:0%以上10%以下、
MgO:0%以上10%以下、
ZnO:0%以上10%以下、
Bi2O3:0%以上15%以下、
Y2O3:0%以上10%以下、
La2O3:0%以上5%以下、
Gd2O3:0%以上5%以下、
SiO2:0%以上5%以下、
を含む組成を有し、
Ti及びNaを含まず、
BaO、SrO、CaO及びMgOの合計の含有量をROとし、Li2O及びK2Oの合計の含有量をR’2Oとしたときに、
ROが20%超40%以下であり、且つ、RO/R’2Oが3.1を超える、ことを特徴とする。
【0018】
なお、本実施形態の光学ガラスは、上述した成分以外のその他の成分(後述)を含んでもよい。但し、本実施形態の光学ガラスは、所望の光学恒数、及び熔融温度の低減をより確実に発現させる観点から、上述した成分(P2O5、B2O3、Li2O、K2O、Nb2O5、WO3、Ta2O5、BaO、SrO、CaO、MgO、ZnO、Bi2O3、Y2O3、La2O3、Gd2O3、及びSiO2)のみからなる組成を有することが好ましい。
ここで、「上述した成分のみからなる」とは、当該成分以外の不純物成分が不可避的に混入する、具体的には、不純物成分の割合が0.2質量%以下である場合を包含することとする。
【0019】
まず、本実施形態において、光学ガラスの組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は、特に断らない限り、質量%を意味するものとする。
【0020】
<P2O5>
P2O5は、本実施形態の光学ガラスにおける必須成分であり、ガラスの骨格となる網目構造を形成する主成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるP2O5の含有量が30%を超えると、屈折率が低下して所望の光学恒数が得られなくなるとともに、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)が上昇する。更に、光学ガラスにおけるP2O5の含有量が30%を超えると、液相温度及び熔融温度も上昇する。一方、光学ガラスにおけるP2O5の含有量が10%未満であると、ガラスの安定化を図ることができず、失透する傾向が増大する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、P2O5の含有量を10%以上30%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるP2O5の含有量は、12%以上であることが好ましく、13%以上であることがより好ましく、また、28%以下であることが好ましく、26%以下であることがより好ましい。
【0021】
<B2O3>
B2O3は、本実施形態の光学ガラスにおいて、P2O5と同様にガラスの網目構造を形成し、適量用いることにより、ガラスの均質化及び熔融性の向上に有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるB2O3の含有量が10%を超えると、ガラスが不安定になり、失透する傾向が増大する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、B2O3の含有量を0%以上10%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるB2O3の含有量は、8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。
【0022】
<Li2O>
Li2Oは、本実施形態の光学ガラスにおける必須成分であり、熔融温度の低減及び屈折率の上昇に有効であるとともに、ガラス転移温度(Tg)の低減にも有効な成分である。特に、Li2Oは、ガラス中の非架橋酸素の分極率を高めることができるため、より効果的に屈折率を向上させることができる。しかしながら、光学ガラスにおけるLi2Oの含有量が5%を超えると、ガラスの耐失透性及び化学的耐久性が悪化する上、ガラスの膨張係数が大きくなり、精密プレス成形の際にレンズ面の正確な転写が困難になる。一方、光学ガラスにおけるLi2Oの含有量が1%未満であると、少なくとも屈折率の上昇及びガラス転移温度(Tg)の低減の効果を十分に得ることができない。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、Li2Oの含有量を1%以上5%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるLi2Oの含有量は、1.5%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、また、4%以下であることが好ましく、3.8%以下であることがより好ましい。
【0023】
<K2O>
K2Oは、本実施形態の光学ガラスにおいて、熔融温度及びガラス転移温度(Tg)の低減に有効であるとともに、Li2Oと併せて適量用いることにより、混合アルカリ効果でガラスの液相温度を下げることができる成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるK2Oの含有量が10%を超えると、ガラスの耐失透性及び化学的耐久性が悪化する虞がある上、ガラスの膨張係数が大きくなる。また、たとえ耐失透性が保持されたとしても、高い屈折率を維持することができなくなる。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、K2Oの含有量を0%以上10%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるK2Oの含有量は、8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。
【0024】
<Nb2O5>
Nb2O5は、本実施形態の光学ガラスにおける必須成分であり、屈折率の上昇及び化学的耐久性の向上に有効である必須の成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるNb2O5の含有量が50%を超えると、熔融温度が著しく高くなる。一方、光学ガラスにおけるNb2O5の含有量が25%未満であると、屈折率を十分に高めることができず、所望の光学恒数が得られなくなる。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、Nb2O5の含有量を25%以上50%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるNb2O5の含有量は、30%以上であることが好ましく、33%以上であることがより好ましく、また、45%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
【0025】
<WO3>
WO3は、本実施形態の光学ガラスにおいて、所望の光学恒数を得るのに有効であるとともに、Nb2O5と併せて適量用いることにより、屈伏温度(At)を上昇させることなく屈折率を調整することができる成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるWO3の含有量が9%以上であると、分散性が高くなり過ぎるとともに、ガラス着色、化学的耐久性の悪化、及びガラス比重の増大が生じる虞がある。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、WO3の含有量を0%以上9%未満の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるWO3の含有量は、8.8%以下であることが好ましく、8.6%以下であることがより好ましい。
【0026】
<Ta2O5>
Ta2O5は、本実施形態の光学ガラスにおいて、屈折率を高めるとともに、化学的耐久性を向上させるのに有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるTa2O5の含有量が10%を超えると、ガラスの熔融性が著しく悪化して、ガラスが不安定になる。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、Ta2O5の含有量を0%以上10%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるTa2O5の含有量は、9%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。
【0027】
<BaO>
BaOは、本実施形態の光学ガラスにおける必須成分であり、屈折率を高めるとともに、液相温度を低下させて耐失透性を向上させるのに有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるBaOの含有量が40%を超えると、ガラスが不安定になり、失透する傾向が増大し、また、ガラスの化学的耐久性が悪化する。一方、光学ガラスにおけるBaOの含有量が5%未満であると、屈折率を十分に高めることができず、所望の光学恒数が得られなくなる。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、BaOの含有量を5%以上40%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるBaOの含有量は、6%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましく、また、35%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0028】
<SrO>
SrOは、本実施形態の光学ガラスにおいて、屈折率を高めるとともに、液相温度を低下させて耐失透性を向上させるのに有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるSrOの含有量が20%を超えると、ガラスが不安定になり、失透する傾向が増大し、また、ガラスの化学的耐久性が悪化する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、SrOの含有量を0%以上20%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるSrOの含有量は、19%以下であることが好ましく、18%以下であることがより好ましい。
【0029】
<CaO>
CaOは、本実施形態の光学ガラスにおいて、液相温度を低下させて耐失透性を向上させるのに有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるCaOの含有量が10%を超えると、ガラスが不安定になり、失透する傾向が増大し、また、ガラスの化学的耐久性が悪化する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、CaOの含有量を0%以上10%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるCaOの含有量は、8%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0030】
<MgO>
MgOは、本実施形態の光学ガラスにおいて、液相温度を低下させて耐失透性を向上させるのに有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるMgOの含有量が10%を超えると、ガラスが不安定になり、失透する傾向が増大し、また、ガラスの熔融性が悪化する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、MgOの含有量を0%以上10%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるMgOの含有量は、8%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0031】
<BaO、SrO、CaO及びMgOの合計>
ここで、本実施形態の光学ガラスは、BaO、SrO、CaO及びMgOの合計の含有量(本明細書において「RO」で表される。)が、20%超40%以下であることを要する。上記合計の含有量が40%を超えると、ガラスが不安定になり、失透する傾向が増大する。一方、上記合計の含有量が20%以下であると、屈折率を十分に高めることができず、所望の光学恒数が得られなくなる。
なお、本実施形態の光学ガラスにおけるBaO、SrO、CaO及びMgOの合計の含有量は、ガラスの失透をより効果的に抑制する観点から、35%以下であることが好ましく、33%以下であることがより好ましく、また、屈折率をより十分に高める観点から、20.5%以上であることが好ましく、21%以上であることがより好ましい。
【0032】
<ROとR’2Oとの比>
また、本実施形態の光学ガラスは、BaO、SrO、CaO及びMgOの合計の含有量をROとし、Li2O及びK2Oの合計の含有量をR’2Oとしたときに、RO/R’2Oが3.1を超えることを要する。本発明者は、Ba、Sr、Ca及びMg等の金属のイオンが、アルカリ金属のイオンに比べてイオン電場強度が高く、ガラス中の非架橋酸素の分極率をより高めることができる傾向にあるという知見に基づき、密度の影響を考慮しながら、各成分の含有量を限定しつつ、ROとR’2Oとの比の適正化を図ることで、高屈折率高分散性の中でも屈折率が相対的に高い光学恒数が得られることを見出した。なお、RO/R’2Oが3.1以下であると、屈折率を十分に高めることができず、所望の光学恒数が得られなくなる。この点に関し、原子価が大きく屈折率の上昇に寄与し得る成分(例えば、Nb2O5、WO3等)を多量に追加することで、屈折率の上昇を補填する方法が考えられる。しかしながら、それら成分はいずれも分散性を高める(アッベ数を小さくする)働きがあるため、多量に追加したとしても、やはり所望の光学恒数を得ることができない。その上、上述した成分は、いずれも難熔解性であるため、多量の追加は熔融温度の上昇及び煮込みの長時間化をもたらす。
また、本実施形態の光学ガラスにおけるRO/R’2Oは、屈折率をより十分に高めて所望の光学恒数を得る観点から、3.5を超えることが好ましく、4.0を超えることがより好ましい。
【0033】
<ZnO>
ZnOは、本実施形態の光学ガラスにおいて、屈折率を高めるとともに、屈伏温度(At)の低下及び膨張係数の低減を図るのに有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるZnOの含有量が10%を超えると、ガラスが失透する傾向が増大するとともに、熔融温度も上昇する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、ZnOの含有量を0%以上10%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるZnOの含有量は、9%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。
【0034】
<Bi2O3>
Bi2O3は、本実施形態の光学ガラスにおいて、屈折率を高めるのに有効であるとともに、ガラス転移温度(Tg)の低減にも有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるBi2O3の含有量が15%を超えると、ガラス比重の増大が生じる虞があり、また、熔融容器を構成する貴金属を侵食し易くなってガラスの着色が生じる虞がある。更に、光学ガラスにおけるBi2O3の含有量が15%を超えると、プレス成形後のレンズの表面が曇る虞がある。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、Bi2O3の含有量を0%以上15%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるBi2O3の含有量は、13%以下であることが好ましく、11%以下であることがより好ましい。
【0035】
<Y2O3>
Y2O3は、本実施形態の光学ガラスにおいて、屈折率を高めるとともに、化学的耐久性を向上させるのに有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるY2O3の含有量が10%を超えると、ガラスの熔融性が著しく悪化して、ガラスが不安定になる。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、Y2O3の含有量を0%以上10%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるY2O3の含有量は、8%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0036】
<La2O3>
La2O3は、本実施形態の光学ガラスにおいて、屈折率を高めるとともに、化学的耐久性を向上させるのに有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるLa2O3の含有量が5%を超えると、ガラスの熔融性が著しく悪化して、ガラスが不安定になる。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、La2O3の含有量を0%以上5%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるLa2O3の含有量は、4.5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。
【0037】
<Gd2O3>
Gd2O3は、本実施形態の光学ガラスにおいて、屈折率を高めるとともに、化学的耐久性を向上させるのに有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるGd2O3の含有量が5%を超えると、ガラスの熔融性が著しく悪化して、ガラスが不安定になる。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、Gd2O3の含有量を0%以上5%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるGd2O3の含有量は、4.5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。
【0038】
<SiO2>
SiO2は、本実施形態の光学ガラスにおいて、融液の粘性を高めてガラスを安定化することができる成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるSiO2の含有量が5%を超えると、屈折率が低下して所望の光学恒数が得られなくなるとともに、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)が上昇する。更に、光学ガラスにおけるSiO2の含有量が5%を超えると、液相温度及び熔融温度も上昇する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、SiO2の含有量を0%以上5%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるSiO2の含有量は、3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。
【0039】
<Ti(不含成分)>
なお、本実施形態の光学ガラスは、Tiを含まないことを要する。上述した成分を含有する光学ガラスにおいて、Ti(例えば、TiO2)を用いると、屈折率を高めることはできるものの、相応して分散性も高くなって所望の光学恒数を得ることができなくなり、その上、熔融温度が著しく高くなるからである。
【0040】
<Na(不含成分)>
また、上述した成分を含む光学ガラスにおいて、Na(例えば、Na2O)は、耐失透性を著しく悪化させる虞がある上、所望の光学恒数の達成を阻害することが判明した。そこで、本実施形態の光学ガラスは、Naを含まないこととした。
【0041】
<その他の成分>
本実施形態の光学ガラスには、目的を外れない限り、上述した成分以外のその他の成分、例えば、ZrO2、Sb2O3、GeO2、Ga2O3などを少量(例えば、それぞれ5%以下で)含ませることができる。
なお、本実施形態の光学ガラスは、環境への負荷や人体への悪影響が高い成分、例えば、PbO、TeO2、As2O3、及びCdOを含まないことが好ましい。
【0042】
次に、本実施形態の光学ガラスの諸特性について説明する。
【0043】
<屈折率(nd)及びアッベ数(νd)>
本実施形態の光学ガラスは、屈折率(nd)1.800以上、アッベ数(νd)32.0以下と高屈折率高分散性である中でも、更に屈折率が相対的に高い光学恒数を有することができる。より具体的に、本実施形態の光学ガラスの屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は、
図1に示すように、アッベ数(νd)をx軸とし、屈折率(nd)をy軸とする直交座標系において、A点(25.0,1.860)とB点(30.0,1.800)とを通るように引いた直線上又は当該直線よりも高屈折率側に位置することができる。そのため、本実施形態の光学ガラスは、特定のニーズに応えることができる。
【0044】
また、本実施形態の光学ガラスは、これを用いた光学設計の自由度を大きく広げる観点から、屈折率(nd)が、1.800以上であることが好ましく、1.805以上であることがより好ましく、1.810以上であることが更に好ましく、また、1.880以下であることが好ましく、1.875以下であることがより好ましく、1.870以下であることが更に好ましい。同様に、本実施形態の光学ガラスは、これを用いた光学設計の自由度を大きく広げる観点から、アッベ数(νd)が、25.0以上であることが好ましく、25.5以上であることがより好ましく、26.0以上であることが更に好ましく、また、32.0以下であることが好ましく、31.0以下であることがより好ましく、30.0以下であることが更に好ましい。
【0045】
そして、本実施形態の光学ガラスの屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は、特に制限されず、
図1に示すように、A点(25.0,1.860)、B点(30.0,1.800)、C点(32.0,1.820)、D点(27.0,1.880)を順次直線で結んだ線分A-B、B-C、C-D、D-Aで囲まれた領域内に位置することができる。
なお、上記「領域内」とは、A-B、B-C、C-D、D-Aの線分上を含むものとする。また、本実施形態の光学ガラスの屈折率(nd)及びアッベ数(νd)の調整は、例えば、上述した各成分の含有量を、所定の範囲内において適宜調節することにより達成することができる。
【0046】
<ガラス転移温度(Tg)>
本実施形態の光学ガラスは、ガラス転移温度(Tg)が、560℃以下であることが好ましい。光学ガラスのガラス転移温度(Tg)が560℃以下であることで、軟化温度も低くなり、精密プレス成形をより容易に行うことができる。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスのガラス転移温度(Tg)は、555℃以下であることがより好ましく、550℃以下であることが更に好ましい。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、実施例に記載の手順により測定することができる。また、本実施形態の光学ガラスのガラス転移温度(Tg)の調整は、例えば、上述した各成分の含有量を、所定の範囲内において適宜調節することにより達成することができる。
【0047】
<光学ガラスの製造方法>
次に、本実施形態の光学ガラスの製造方法について説明する。
ここで、本実施形態の光学ガラスは、各成分の組成が上述した範囲を満足していればよく、その製造方法については特に限定されることなく、従来の製造方法に従って製造することができる。
例えば、まず、本実施形態の光学ガラスに含まれ得る各成分の原料として、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩などを所定の割合で秤量し、十分混合したものをガラス調合原料とする。次いで、この原料を、ガラス原料等と反応性のない熔融容器(例えば白金等の貴金属製の坩堝)に投入して、電気炉にて900~1150℃に加熱して熔融する。その後、適時撹拌して均質化を図り、清澄化してから、適当な温度に予熱した金型内に鋳込んだ後、電気炉内で徐冷して歪みを取り除くことで、本実施形態の光学ガラスを製造することができる。そして、本実施形態の光学ガラスは、原料を熔融する際に過度に高い温度を必要としないため、加熱温度が上述の通り高くとも1150℃で済み、製造におけるコスト低減及び省エネルギー化を図ることができる。なお、脱泡のため、ごく少量(例えば、光学ガラス中において1%未満となるような量)のSb2O3等の清澄剤を加えることができる。
【0048】
(精密プレス成形用プリフォーム)
以下、本発明の一実施形態の精密プレス成形用プリフォーム(以下、「本実施形態のプリフォーム」と称することがある。)を具体的に説明する。
ここで、精密プレス成形用プリフォーム(Precision press-molding preform)は、周知の精密プレス成形法に用いられる予備成形されたガラス素材であり、即ち、加熱して精密プレス成形に供されるガラス予備成形体を意味する。
【0049】
ここで、精密プレス成形とは、周知のようにモールドオプティクス成形とも呼ばれ、最終的に得られる光学素子の光学機能面を、プレス成形型の成形面を転写することにより形成する方法である。なお、光学機能面とは、光学素子における、制御対象の光を屈折したり、反射したり、回折したり、入出射させたりする面を意味し、例えば、レンズにおけるレンズ面などが、この光学機能面に相当する。
【0050】
そして、本実施形態のプリフォームは、上述した光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする。このように、本実施形態のプリフォームは、上述した光学ガラスを素材として用いているため、上述した特定のニーズに応えることができるとともに、製造におけるコスト低減及び省エネルギー化を図ることができる。なお、本実施形態のプリフォームは、所望の光学恒数をより確実に得る観点から、本発明の光学ガラスについて既述した、各成分の組成に関する必須要件を満たすことが好ましく、本発明の光学ガラスについて既述した、好ましいとされる各種要件を満たすことがより好ましい。
【0051】
本実施形態のプリフォームの作製方法としては、特に限定されない。ただし、本実施形態のプリフォームは、上記光学ガラスの優れた特質を活かして、次の作製方法により作製することが望ましい。
【0052】
第1のプリフォームの作製方法(「プリフォーム製法I」とする。)は、素材としての光学ガラスを熔融し、得られた熔融ガラスを流出して熔融ガラス塊を分離し、該熔融ガラス塊を冷却する過程で、プリフォームに成形する方法である。
【0053】
第2のプリフォームの作製方法(「プリフォーム製法II」とする。)は、素材としての光学ガラスを熔融し、得られた熔融ガラスを成形してガラス成形体を作製し、該成形体を加工して、プリフォームを得る方法である。
【0054】
プリフォーム製法I、IIとも、素材としての光学ガラスから均質な熔融ガラスを得る工程を含む点において、共通する。この工程では、例えば、所望の特性が得られるように調合して製造した光学ガラス原料を白金製の熔融容器内に入れ、加熱、熔融、清澄、均質化して均質な熔融ガラスを用意し、温度調整された白金又は白金合金製の流出ノズルあるいは流出パイプから流出することができる。なお、光学ガラス原料を粗熔解してカレットを作製し、このカレットを調合して加熱、熔融、清澄、均質化して均質な熔融ガラスを得、上記流出ノズルあるいは流出パイプから流出するようにしてもよい。
【0055】
ここで、小型のプリフォームや球状のプリフォームを作製する場合は、例えば、熔融ガラスを流出ノズルから所望質量の熔融ガラス滴として滴下し、それを金型等で受けてプリフォームに成形する方法を採用することができる。あるいは、同じく所望質量の熔融ガラス滴を流出ノズルより液体窒素などに滴下してプリフォームを成形する方法を採用することができる。
一方、中大型のプリフォームを作製する場合は、例えば、流出パイプより熔融ガラス流を流下させ、熔融ガラス流の先端部をプリフォーム成形型等で受け、熔融ガラス流のノズルとプリフォーム成形型との間にくびれ部を形成した後、プリフォーム成形型を真下に急降下して、熔融ガラスの表面張力によってくびれ部にて熔融ガラス流を分離し、受け部材に所望質量の熔融ガラス塊を受けてプリフォームに成形する方法を採用することができる。
【0056】
なお、キズ、汚れ、シワ、表面の変質などがない滑らかな表面、例えば自由表面を有するプリフォームを得るためには、プリフォーム成形型などの上で熔融ガラス塊に風圧を加えて浮上させながらプリフォームに成形したり、液体窒素などの常温、常圧下では気体の物質を冷却して液体にした媒体中に熔融ガラス滴を入れてプリフォームに成形したりする方法などが用いられる。
【0057】
ここで、熔融ガラス塊を浮上させながらプリフォームに成形する場合、熔融ガラス塊には、ガス(浮上ガスという)が吹きつけられ、上向きの風圧が加えられることになる。この際、熔融ガラス塊の粘度が低すぎると、浮上ガスがガラス中に入り込み、プリフォーム中に泡となって残ってしまう。しかし、熔融ガラス塊の粘度を3~60dPa・sにすることにより、浮上ガスがガラス中に入り込むことなく、ガラス塊を浮上させることができる。
【0058】
プリフォームに浮上ガスが吹き付けられる際に用いられるガスとしては、空気、N2ガス、O2ガス、Arガス、Heガス、水蒸気等が挙げられる。また、風圧は、プリフォームが成形型表面等の固体と接することなく浮上できれば、特に制限はない。
【0059】
プリフォームより製造される精密プレス成形品(例えば、光学素子)は、レンズのように回転対称軸を有するものが多いため、プリフォームの形状も回転対称軸を有する形状が望ましい。具体例としては、球あるいは回転対称軸を一つ備えるものを示すことができる。回転対称軸を一つ備える形状としては、前記回転対称軸を含む断面において角や窪みがない滑らかな輪郭線をもつもの、例えば上記断面において短軸が回転対称軸に一致する楕円を輪郭線とするものなどがあり、球を扁平にした形状(球の中心を通る軸を一つ定め、前記軸方向に寸法を縮めた形状)を挙げることもできる。
【0060】
プリフォーム製法Iでは、光学ガラスを塑性変形可能な温度域で成形するので、ガラス塊をプレス成形することによりプリフォームを得てもよい。その場合、プリフォームの形状を比較的自由に設定することができるので、目的とする精密プレス成形品の形状に近似させ、例えば、対向する面の一方を凸、他方を凹形状にしたり、両方を凹面にしたり、一方の面を平面、他方の面を凸面にしたり、一方の面を平面、他方の面を凹面にしたり、両面とも凸面にしたりすることができる。
【0061】
プリフォーム製法IIでは、例えば、熔融ガラスを鋳型に鋳込んで成形した後、成形体の歪をアニールによって除去し、切断又は割断を行って、所定の寸法、形状に分割し、複数個のガラス片を作製し、ガラス片を研磨して表面を滑らかにするとともに、所定の質量のガラスからなるプリフォームを得ることができる。このようにして作製したプリフォームの表面にも、炭素含有膜を被覆して使用することが好ましい。プリフォーム製法IIは、研削、研磨を容易にすることができる球状のプリフォーム、平板状のプリフォームなどの製造に好適である。
【0062】
いずれの製法においても、使用する光学ガラスの熔融温度が低いため、製造コストの低減及び省エネルギー化を図ることができる。
【0063】
次に、精密プレス成形による光学素子等の成形品の量産性を更に高める上から、より好ましいプリフォームについて説明する。
【0064】
本実施形態のプリフォームの製造においては、精密プレス成形におけるガラスの変形量を減少させることにより、精密プレス成形時のガラスと成形型の温度の低下、プレス成形に要する時間の短縮化、プレス圧力の低減などが可能になる。その結果、ガラスと成形型の成形面との反応性が低下し、精密プレス成形時に発生する不具合が低減され、量産性がより高まる。
【0065】
ここで、プリフォームを精密プレス成形してレンズを作製する場合における好ましいプリフォームは、互いに反対方向を向く被プレス面(精密プレス成形時に対向する成形型成形面でプレスされる面)を有するプリフォームであり、更に2つの被プレス面の中心を貫く回転対称軸を有するプリフォームがより好ましい。こうしたプリフォームのうち、メニスカスレンズの精密プレス成形に好適なものは、被プレス面の一方が凸面、他方が凹面、平面、前記凸面より曲率が小さいと凸面のいずれかであるプリフォームである。
【0066】
また、両凹レンズの精密プレス成形に好適なプリフォームは、被プレス面の一方が凸面、凹面、平面のいずれかであり、他方が凸面、凹面、平面のいずれかであるプリフォームである。
一方、両凸レンズの精密プレス成形に好適なプリフォームは、被プレス面の一方が凸面であり、他方が凸面又は平面であるプリフォームである。
【0067】
いずれの場合においても、プリフォームは、精密プレス成形品の形状により近似する形状のプリフォームであることが好ましい。
【0068】
なお、プリフォーム成形型を用いて熔融ガラス塊をプリフォームに成形する場合、前記成形型上のガラスの下面は、成形型における成形面の形状によって概ね定まる。一方、前記ガラスの上面は、熔融ガラスの表面張力とガラスの自重とによって定まる形状となる。ここで、精密プレス成形時におけるガラスの変形量を低減するには、プリフォーム成形型において成形中のガラスの上面の形状も制御する必要がある。熔融ガラスの表面張力とガラスの自重とによって定まるガラス上面の形状は、凸面状の自由表面となるが、上面を平面、凹面あるいは前記自由表面よりも曲率が小さい凸面にするには、前記ガラス上面に圧力を加えることができる。具体的には、ガラス上面を所望形状の成形面を有する成形型でプレスしたり、ガラス上面に風圧を加えて所望形状に成形したりすることができる。なお、成形型でガラス上面をプレスする際、成形型の成形面に複数のガス噴出口を設け、これらガス噴出口からガスを噴出して成形面とガラス上面の間にガスクッションを形成し、ガスクッションを介してガラス上面をプレスしてもよい。あるいは、上記自由表面よりも曲率の大きい面にガラス上面を成形したい場合は、ガラス上面を近傍に負圧を発生させて上面を盛り上げるように成形してもよい。
【0069】
また、プリフォームは、精密プレス成形品の形状により近似する形状とするため、表面を研磨したプリフォームであることも好ましい。例えば、被プレス面の一方が平面又は球面の一部になるように研磨され、他方が球面の一部又は平面になるように研磨されたプリフォームが好ましい。ここで、球面の一部は凸面でも凹面でもよいが、凸面とするか凹面とするかは、上記のように精密プレス成形品の形状によって決めることが望ましい。
【0070】
上記各プリフォームは、直径が10mm以上のレンズの成形に好ましく用いることができ、直径が20mm以上のレンズの成形により好ましく用いることができる。また、中心肉厚が2mmを超えるレンズの成形にも好ましく用いることができる。
【0071】
(光学素子)
以下、本発明の一実施形態の光学素子(以下、「本実施形態の光学素子」と称することがある)を具体的に説明する。
本実施形態の光学素子は、上述した光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする。このように、本実施形態の光学素子は、上述した光学ガラスを素材として用いているため、上述した特定のニーズに応えることができるとともに、製造におけるコスト低減及び省エネルギー化を図ることができる。なお、本実施形態の光学素子は、所望の性能をより確実に得る観点から、本実施形態の光学ガラスについて既述した、各成分の組成に関する必須要件を満たすことが好ましく、本実施形態の光学ガラスについて既述した、好ましいとされる各種要件を満たすことがより好ましい。
【0072】
光学素子の種類は限定されないが、典型的なものとしては、非球面レンズ、球面レンズ、あるいは平凹レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズなどのレンズ;マイクロレンズ;レンズアレイ;回折格子付きレンズ;プリズム;レンズ機能付きプリズム;などを例示することができる。光学素子として、好ましくは、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどのレンズ、プリズム、回折格子を例示することができる。上記各レンズは非球面レンズであってもよいし、球面レンズであってもよい。表面には必要に応じて反射防止膜や波長選択性のある部分反射膜などを設けてもよい。
【0073】
<光学素子の製造方法>
次に、本実施形態の光学素子の製造方法について説明する。
本実施形態の光学素子は、例えば、上記のプリフォームをプレス成形型を用いて精密プレス成形することにより、製造することができる。
【0074】
ここで、精密プレス成形では、予め成形面を所望の形状に高精度に加工されたプレス成形型を用いることができるが、成形面には、プレス時のガラスの融着を防止しつつ、成形面に沿ってガラスの延びが良好になるようにするため、離型膜を形成してもよい。離型膜としては、貴金属(白金、白金合金)の膜、酸化物(Si、Al、Zr、Yの酸化物など)の膜、窒化物(B、Si、Alの窒化物など)の膜、炭素含有膜が挙げられる。炭素含有膜としては、炭素を主成分とするもの(膜中の元素含有量を原子%で表したとき、炭素の含有量が他の元素の含有量よりも多いもの)が望ましく、具体的には、炭素膜や炭化水素膜などを例示することができる。炭素含有膜の成膜法としては、炭素原料を使用した真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の方法や、炭化水素などの材料ガスを使用した熱分解などの公知の方法を用いればよい。その他の膜については、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法等を用いて成膜することが可能である。
【0075】
また、プレス成形型並びにプリフォームの加熱及び精密プレス成形工程は、プレス成形型の成形面あるいは前記成形面に好適に設けられた離型膜の酸化を防止するため、窒素ガス、あるいは窒素ガスと水素ガスの混合ガスなどのような非酸化性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。非酸化性ガス雰囲気中では、プリフォームの表面を被覆する離型膜、特には炭素含有膜が酸化されずに、当該膜が、精密プレス成形された成形品の表面に残存することになる。この膜は、最終的には除去するべきものであるが、炭素含有膜等の離型膜を比較的容易に且つ完全に除去するには、精密プレス成形品を酸化性雰囲気、例えば大気中において加熱すればよい。炭素含有膜等の離型膜の除去は、精密プレス成形品が加熱により変形しないような温度で行うべきである。具体的には、炭素含有膜等の離型膜の除去は、ガラスの転移温度未満の温度範囲で行うことが好ましい。
【0076】
なお、本実施形態の光学素子の製造方法としては、特に限定されず、以下に示す2つの製造方法が挙げられる。ここで、本実施形態の光学素子の製造においては、上記の精密プレス成形用プリフォームを、同一のプレス成形型を用いて精密プレス成形する工程を繰り返すことが、光学素子の量産の観点で好ましい。
【0077】
第1の光学素子の製造方法(「光学素子製法I」とする。)は、プリフォームをプレス成形型に導入し、前記プリフォームとプレス成形型とを一緒に加熱して精密プレス成形し、光学素子を得る方法である。
第2の光学素子の製造方法(「光学素子製法II」とする。)は、加熱したプリフォームを予熱したプレス成形型に導入し、精密プレス成形し、光学素子を得る方法である。
【0078】
光学素子製法Iでは、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間にプリフォームを供給した後、ガラスの粘度が105~109dPa・s相当の温度まで成形型及びプリフォームの両者を加熱してプリフォームを軟化し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写することができる。光学素子製法Iは、面精度、偏心精度など成形精度の向上が重視される場合に、推奨される方法である。
【0079】
光学素子製法IIでは、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間に、予めガラスの粘度で104~108dPa・sに相当する温度に昇温したプリフォームを供給し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写することができる。光学素子製法IIは、生産性向上が重視される場合に、推奨される方法である。
【0080】
加圧時の圧力及び時間は、ガラスの粘度などを考慮して適宜決定することができ、例えば、プレス圧力は約5~15MPa、プレス時間は10~300秒とすることができる。プレス時間、プレス圧力などのプレス条件は成形品の形状、寸法に合わせて周知の範囲で適宜設定すればよい。
【0081】
この後、成形型と精密プレス成形品を冷却し、好ましくは歪点以下の温度となったところで、離型し、精密プレス成形品を取出す。なお、光学特性を精密に所望の値に合わせるため、冷却時における成形品のアニール処理条件、例えばアニール速度等を適宜調整してもよい。
【0082】
なお、本実施形態の光学素子は、プレス成形工程を経なくても作製することはできる。例えば、均質な熔融ガラスを鋳型に鋳込んでガラスブロックを成形し、アニールして歪を除去するとともに、ガラスの屈折率が所望の値になるようにアニール条件を調整して光学特性の調整を行ったのち、次にガラスブロックの切断又は割断を行ってガラス片を作り、更に研削、研磨して光学素子に仕上げることにより得ることができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の光学ガラスを具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
各成分の原料としてそれぞれに相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩などを、ガラス化した後に表1~表4に記載の組成となるように秤量し、十分混合して、白金坩堝に投入し、電気炉にて900~1150℃で熔融した。その後、適時撹拌して均質化を図り、清澄化してから、適当な温度に予熱した金型内に鋳込んだ後、電気炉内で徐冷することで、各例の光学ガラスを得た。
なお、電気炉にて熔融する際に、熔融性の評価として、1150℃で30分間加熱した後、撹拌せずに電気炉から白金坩堝を取り出して、ガラスにおける熔け残りの有無を確認した。そして、熔け残りが確認されなかった場合には「○」、熔け残りが確認された場合には「×」として、熔融性を評価した。結果を表1~表4に示す。
【0085】
次いで、得られた各例の光学ガラスについて、以下に示す手順に従い、屈折率(nd)、アッベ数(νd)及びガラス転移温度(Tg)の測定を行った。結果を表1~表4に示す。
【0086】
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)の測定は、株式会社島津デバイス製「KPR-200」を用いて行った。参考までに、
図1に、アッベ数(νd)をx軸とし、屈折率(nd)をy軸とする直交座標系における実施例1~35の光学ガラスの屈折率(nd)及びアッベ数(νd)のプロットを示す。
【0087】
ガラス転移温度(Tg)の測定は、熱膨張測定器を用いて、毎分5℃で昇温させて行った。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
表1及び表2並びに
図1から、実施例1~35の光学ガラスは、いずれも、屈折率(nd)1.800以上、アッベ数(νd)32.0以下と高屈折率高分散性である上、アッベ数(νd)及び屈折率(nd)が、直交座標系においてA点(25.0,1.860)とB点(30.0,1.800)とを通るように引いた直線上又は当該直線よりも高屈折率側に位置することが分かる。また、表1及び表2から、実施例1~35の光学ガラスは、いずれも、熔融性が良好であり、より具体的には、1150℃での加熱で原料の全てを熔融することができることが分かる。
【0093】
更に、表1及び表2から、実施例1~35の光学ガラスは、ガラス転移温度(Tg)が560℃以下であることから、軟化温度も低くなって精密プレス成形をより容易に行うことができることが分かる。
【0094】
これに対し、表3から、比較例1の光学ガラスは、屈折率がアッベ数との関係において相対的に低い上、熔融性が不良であった。これは、TiO2を含んでいること、Na2Oを含んでいること、ROが少なすぎること、RO/R’2Oが小さすぎること、Nb2O5が少なすぎること、WO3が多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例2の光学ガラスは、屈折率がアッベ数との関係において相対的に低い上、熔融性が不良であった。これは、TiO2を含んでいること、Na2Oを含んでいること、ROが少なすぎること、RO/R’2Oが小さすぎること、WO3が多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例3の光学ガラスは、屈折率がアッベ数との関係において相対的に低かった。これは、Na2Oを含んでいること、ROが少なすぎること、RO/R’2Oが小さすぎること、WO3が多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例4の光学ガラスは、屈折率がアッベ数との関係において相対的に低かった。これは、Na2Oを含んでいること、ROが少なすぎること、RO/R’2Oが小さすぎること、Nb2O5が少なすぎること、WO3が多すぎること等に因るものと考えられる。
【0095】
また、比較例5,6の光学ガラスは、熔融性が不良であった。これは、得られた光学ガラスがいわゆるホウケイ酸ガラスであったこと、TiO2を多量に含んでいること等に因るものと考えられる。
また、比較例7の光学ガラスは、少なくとも、屈折率がアッベ数との関係において相対的に低かった。これは、ROが少なすぎること等に因るものと考えられる。また、比較例7の光学ガラスは、熔融性が不良であった。これは、屈折率をある程度高めるため、原子価が大きい成分を比較的多量に追加した結果、熔解温度が上昇したこと等に因るものと考えられる。
また、比較例8の光学ガラスは、失透が生じ、所望の光学恒数を得ることができなかった。これは、ROが多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例9の光学ガラスは、高屈折率化を図ることができなかった。これは、RO/R’2Oが小さすぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例10の光学ガラスは、実施例8の光学ガラスの組成においてK2OをNa2Oで置換したものに相当するが、失透が生じ、所望の光学恒数を得ることができなかった。これは、やはりNa2Oを含んでいること等に因るものと考えられる。
【0096】
また、比較例11の光学ガラスは、高屈折率化を図ることができなかった上、熔融性が不良であった。これは、P2O5が多すぎること等に因るものと考えられる。また、比較例11の光学ガラスは、P2O5が多すぎるため、ガラス転移温度(Tg)が比較的高かった。
また、比較例12の光学ガラスは、失透が生じ、所望の光学恒数を得ることができなかった。これは、P2O5が少なすぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例13の光学ガラスは、失透が生じ、所望の光学恒数を得ることができなかった。これは、B2O3が多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例14の光学ガラスは、高屈折率化を図ることができなかった。これは、Li2Oが少なすぎること等に因るものと考えられる。また、比較例14の光学ガラスは、Li2Oが少なすぎるため、ガラス転移温度(Tg)が比較的高かった。
【0097】
また、比較例15の光学ガラスは、失透が生じ、所望の光学恒数を得ることができなかった。これは、Li2Oが多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例16の光学ガラスは、失透が生じ、所望の光学恒数を得ることができなかった。これは、K2Oが多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例17の光学ガラスは、高屈折率化を図ることができなかった。これは、Nb2O5が少なすぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例18の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、Nb2O5が多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例19の光学ガラスは、屈折率がアッベ数との関係において相対的に低かった。これは、WO3が多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例20の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、Ta2O5が多すぎること等に因るものと考えられる。
【0098】
また、比較例21の光学ガラスは、失透が生じ、所望の光学恒数を得ることができなかった上、熔融性が不良であった。これは、ZnOが多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例22の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、Y2O3が多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例23の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、La2O3が多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例24の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、Gd2O3が多すぎること等に因るものと考えられる。
また、比較例25の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、SiO2が多すぎること等に因るものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、屈折率(nd)1.800以上、アッベ数(νd)32.0以下と高屈折率高分散性である中でも、更に屈折率が相対的に高い光学恒数を有し、且つ、原料を熔融する際に過度に高い温度を必要としない光学ガラスを提供することができる。また、本発明によれば、上記の光学ガラスを用いた精密プレス成形用プリフォーム及び光学素子を提供することができる。