(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ゼラチン誘導体、架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体、ならびに、それらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/78 20060101AFI20220401BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220401BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20220401BHJP
C08J 3/28 20060101ALI20220401BHJP
C08J 9/26 20060101ALN20220401BHJP
【FI】
C07K14/78
C12N5/071
C08J3/24 Z
C08J3/28
C08J9/26 CEZ
C08J9/26 102
(21)【出願番号】P 2018078836
(22)【出願日】2018-04-17
【審査請求日】2021-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2017112053
(32)【優先日】2017-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017121724
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年6月15日公開 The Royal Society of Chemistryが発行する学術論文誌 Journal of Materials Chemistry Bのウェブサイト <http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2017/tb/c7tb01350g#!divAbstract>,<http://pubs.rsc.org/en/content/articlepdf/2017/tb/c7tb01350g> DOI:10.1039/C7TB01350G で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】陳 国平
(72)【発明者】
【氏名】川添 直輝
(72)【発明者】
【氏名】李 小盟
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】Polymers,2016年,8,269,1-15
【文献】Materials,2012年,5,2573-2585
【文献】Journal of Materials Chemistry B,2013年,1,5675-5685
【文献】Biomaterials,2008年,29(14),2153-2163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 5/00- 5/28
C08J 3/00- 3/28
C08J 9/00- 9/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンに反応性基が導入されたゼラチン誘導体であって、
前記ゼラチンが有するアミノ基がメタクリロイル基と結合しており、
前記ゼラチンが有するヒドロキシ基及びカルボキシル基がメタクリロイルグリセリルエステル基と結合している、ゼラチン誘導体。
【請求項2】
前記メタクリロイル基の含有率は、前記ゼラチン誘導体1gに対して0.01mmol以上10mmol以下の範囲を満たし、
前記メタクリロイルグリセリルエステル基の含有率は、前記ゼラチン誘導体1gに対して0.01mmol以上10mmol以下の範囲を満たす、請求項1に記載のゼラチン誘導体。
【請求項3】
前記メタクリロイル基の含有率は、前記ゼラチン誘導体1gに対して0.1mmol以上1mmol以下の範囲を満たし、
前記メタクリロイルグリセリルエステル基の含有率は、前記ゼラチン誘導体1gに対して0.1mmol以上1mmol以下の範囲を満たす、請求項2に記載のゼラチン誘導体。
【請求項4】
前記ゼラチンは、動物の骨、動物の皮膚、魚骨、魚皮及び魚鱗の群から少なくとも1つ選択される、請求項1に記載のゼラチン誘導体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のゼラチン誘導体を製造する方法であって、
ゼラチンをメタクリル酸無水物と反応させ、前記ゼラチンが有するアミノ基にメタクリロイル基を結合させたゼラチン一次修飾体を合成する工程と、
前記ゼラチン一次修飾体をメタクリル酸グリシジルと反応させ、前記ゼラチン一次修飾体が有するヒドロキシ基とカルボキシ基とにメタクリロイルグリセリルエステル基を結合させたゼラチン二次修飾体である前記ゼラチン誘導体を合成する工程と
を包含する、方法。
【請求項6】
架橋ゼラチンハイドロゲルであって、
請求項1~4のいずれかに記載のゼラチン誘導体が架橋された架橋体を含有する、架橋ゼラチンハイドロゲル。
【請求項7】
前記ゼラチン誘導体の架橋密度は、0.02mol/m
3以上10000mol/m
3以下の範囲を有する、請求
項6に記載の架橋ゼラチンハイドロゲル。
【請求項8】
細胞を内包する、請求
項6に記載の架橋ゼラチンハイドロゲル。
【請求項9】
前記細胞は、軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、靭帯細胞、脂肪細胞、神経細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、肝細胞、膵β細胞、腎臓細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、神経幹細胞、胚性幹細胞、及び、人工多能性幹細胞からなる群から少なくとも1つ選択される、請求
項8に記載の架橋ゼラチンハイドロゲル。
【請求項10】
架橋ゼラチンハイドロゲルを製造する方法であって、
請求項1~4のいずれかに記載のゼラチン誘導体を用い架橋する、方法。
【請求項11】
前記ゼラチン誘導体及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程と、
前記水溶液に紫外線を照射する工程と
を包含する、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記水溶液を調製する工程によって得られた前記水溶液に細胞を懸濁させて細胞懸濁液を調製する工程をさらに包含し、
前記水溶液に紫外線を照射する工程は、前記細胞懸濁液に紫外線を照射する、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体であって、
請求項1~4のいずれかに記載のゼラチン誘導体が架橋された架橋体を含有する、架橋ゼラチンハイドロゲ
ル多孔体。
【請求項14】
前記ゼラチン誘導体の架橋密度は、0.02mol/m
3以上10000mol/m
3以下の範囲を有する、請求項
13に記載の架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体。
【請求項15】
細胞を内包する、請求項
13に記載の架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体。
【請求項16】
前記細胞は、軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、靭帯細胞、脂肪細胞、神経細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、肝細胞、膵β細胞、腎臓細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、神経幹細胞、胚性幹細胞、及び、人工多能性幹細胞からなる群から少なくとも1つ選択される、請求項
15に記載の架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体。
【請求項17】
架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体を製造する方法であって、
請求項1~4のいずれかに記載のゼラチン誘導体及びゲル粒子を用い架橋する、方法。
【請求項18】
前記ゼラチン誘導体及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程と、
前記水溶液を調製する工程によって得られた前記水溶液にゼラチンハイドロゲルからなるゲル粒子を添加した混合物を調製する工程と、
前記混合物に紫外線を照射する工程と
を包含する、請求
項17に記載の方法。
【請求項19】
前記水溶液を調製する工程によって得られた前記水溶液に細胞を懸濁させて細胞懸濁液を調製する工程をさらに包含する、請求
項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ゲル粒子は、細胞を内包する、請求
項17または18に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞は、動物由来の動物細胞である、請求
項19または20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患や事故などの原因で損傷、失った皮膚や骨、軟骨、靭帯、筋肉、気管、食道、神経、血管、膀胱、心臓、肺、腎臓、膵臓、膵臓、肝臓等の生体組織・臓器を修復するために、それらの生体組織・臓器に分化して組織化する細胞を内包し、組織の再生を促進する、ゼラチン誘導体、架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体、ならびに、それらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
事故や病気などの原因で損傷を受けたり、失われたりした皮膚や骨、軟骨、靭帯、筋肉、気管、食道、神経、血管、膀胱、心臓、肺、腎臓、膵臓、膵臓、肝臓等の生体組織・臓器を修復し、治療するために、従来から人工臓器や臓器移植による治療が行われている。しかしながら、人工臓器の場合、天然臓器に比べ機能が十分ではないこと、人工物による磨耗・緩み・破損が生じるなどの問題点がある。生体臓器移植の場合、ドナーの不足という問題に加え、ドナーが他人の場合、免疫応答に起因する拒絶反応という問題や免疫抑制剤の使用に伴う合併症などの医学的リスクが少なからずある。このような問題点の存在により、現在では、生体組織工学の手法で生体組織や臓器を再生して治療する方法は、生体臓器移植と比較してドナーを必要としないことから、理想的であると考えられている。
【0003】
生体組織工学の方法では、まず生体の細胞を生体外で増殖させ、生体細胞や組織の足場とするハイドロゲルに播種する。これを生体外で培養し、生体組織が形成された後、生体内に移植する。あるいは、生体細胞をハイドロゲルになるゾルと混合した後、欠損部位に注入し、ゲル化させて生体内で生体組織の再生を誘導する。そのため、生体組織の形成を誘導、促進するハイドロゲルは非常に重要な役割を果たしている。このハイドロゲルを形成する材料としては、細胞と混合するときにゾル状態で、細胞と混合した後、ゲル化する性質が要求される。また、生体に影響を及ぼさない性質としての生体適合性や、新しい生体組織が形成すると共に分解・吸収される生体吸収性が要求される。
【0004】
組織再生のためのハイドロゲルとして、コラーゲンゲル、ゼラチンゲル、ヒアルロン酸ゲル、フィブリンゲル、アルギン酸ゲルなどが用いられる。これらの生体吸収性高分子のハイドロゲルの作製技術として、温度やpH、カルシウム濃度、抗体・抗原反応、光反応などが挙げられる。例えば、コラーゲン水溶液は低温(例えば、4℃)では、ゾル状態で、体温の37℃になると、ゲル化しハイドロゲルを形成する。アルギン酸はカルシウムイオンが存在しない条件下ではゾルで、カルシウムイオンを添加するとゲル化しハイドロゲルを形成する。また、ゼラチンの場合、ゼラチン分子の側鎖に架橋重合できるメタクリロイル基を導入し、開始剤の存在下で紫外線に露光により重合してハイドロゲルを形成する。しかしながら、これらのハイドロゲルの安定性及びハイドロゲルの力学強度は十分ではない(例えば、非特許文献1)。ハイドルゲル多孔体を作製するために、強度が高いハイドロゲルが必要となる。
【0005】
また、ハイドロゲルに多孔質構造を導入するため、造孔剤が用いられる。造孔剤として利用されるのはアルギン酸ゲル粒子やゼラチンゲル粒子などである。しかしこれまで、アルギン酸ゲル粒子やゼラチンゲル粒子を作製するために、高濃度のカルシウムイオンや有機溶媒、食用油などが使用されていた(例えば、非特許文献2,3)。しかし、これらの作製条件は内包する細胞のバイアビリティーを低下させることが懸念されるので、細胞に影響を最小に抑えられるゲル粒子の作製方法が望まれる。また、ハイドロゲル多孔体は緻密なハイドロゲルより力学強度が低いので、ハイドロゲルの安定性を高めるため、架橋密度が高いことが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Xiaomeng Li, Shangwu Chen, Jingchao Li, Xinlong Wang, Jing Zhang, Naoki Kawazoe, and Guoping Chen; 3D culture of chondrocytes in gelatin hydrogels with different stiffness. Polymers, 8, 269 (15 pages) (2016).
【文献】Hongzhi Zhou and Hockin H. K. Xu; The fast release of stem cells from alginate-fibrin microbeads in injectable scaffolds for bone tissue engineering. Biomaterials. 32(30):7503-7513 (2011).
【文献】Lei Zeng, Xiaofeng Chen, Qing Zhang, Feng Yu, Yuli Li, Yongchang Yao; Redifferentiation of dedifferentiated chondrocytes in a novel three-dimensional microcavitary hydrogel. J Biomed Mater Res A. 103(5):1693-702 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1のようなメタクリロイル基を導入したゼラチンを用いて作製したゼラチンハイドロゲルの場合、ゼラチンのアミノ基に対してのみ無水メタメタクリル酸と反応させてメタクリロイル基を導入したので、紫外線照射による架橋重合による架橋密度は低く、形成されたハイドロゲルの力学強度は依然として低い。特に、ハイドロゲル多孔体を作製するために、形成したハイドロゲル多孔体の構造と形状を維持するために、高い力学強度のバルクハイドロゲルは必要である。
【0008】
また、ハイドロゲル多孔体を作製するために用いられた未修飾のゼラチンゲル粒子を作製するために、有機溶媒や油などのゼラチンが溶解しない溶媒や液体が用いられてきた。有機溶媒や油などを用いる場合では、残留した有機溶媒や油は細胞に悪影響を与える懸念がある。さらに、ゼラチンゲル粒子に細胞を内包する際に、細胞とゼラチン水溶液の懸濁液を有機溶媒や油などに滴下、或いは添加してエマルションを調製する際に、有機溶媒や油などによる細胞のバイアビリティーへの悪影響が懸念される。細胞の活性に影響を与えない、細胞を内包するゼラチンゲル粒子の作製方法が望ましい。
【0009】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、架橋密度が高く、力学強度が高い架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体の製造に好ましいゼラチン誘導体、それを用いた架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体、ならびに、それらの製造方法を提供することを課題としている。また、温和で細胞毒性がない条件で、架橋密度が高く、力学強度が高くて、細胞を内包した架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体を提供することを課題としている。また、温和で細胞毒性がない条件で多孔質構造の造孔剤作製方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるゼラチンに反応性基が導入されたゼラチン誘導体は、前記ゼラチンが有するアミノ基がメタクリロイル基と結合しており、前記ゼラチンが有するヒドロキシ基及びカルボキシル基がメタクリロイルグリセリルエステル基と結合しており、これにより上記課題を解決する。
前記メタクリロイル基の含有率は、前記ゼラチン誘導体1gに対して0.01mmol以上10mmol以下の範囲を満たし、前記メタクリロイルグリセリルエステル基の含有率は、前記ゼラチン誘導体1gに対して0.01mmol以上10mmol以下の範囲を満たしてもよい。
前記メタクリロイル基の含有率は、前記ゼラチン誘導体1gに対して0.1mmol以上1mmol以下の範囲を満たし、前記メタクリロイルグリセリルエステル基の含有率は、前記ゼラチン誘導体1gに対して0.1mmol以上1mmol以下の範囲を満たしてもよい。
前記ゼラチンは、動物の骨、動物の皮膚、魚骨、魚皮及び魚鱗の群から少なくとも1つ選択されてもよい。
本発明による上述のゼラチン誘導体を製造する方法は、ゼラチンをメタクリル酸無水物と反応させ、前記ゼラチンが有するアミノ基にメタクリロイル基を結合させたゼラチン一次修飾体を合成する工程と、前記ゼラチン一次修飾体をメタクリル酸グリシジルと反応させ、前記ゼラチン一次修飾体が有するヒドロキシ基とカルボキシ基とにメタクリロイルグリセリルエステル基を結合させたゼラチン二次修飾体である前記ゼラチン誘導体を合成する工程とを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記ゼラチン一次修飾体を合成する工程は、1(w/v)%以上50(w/v)%以下のゼラチン濃度を有するゼラチン水溶液に、前記ゼラチン水溶液に対する前記メタクリル酸無水物の体積比が10000:1~1:1を満たすように、前記メタクリル酸無水物を添加してもよい。
前記ゼラチン二次修飾体を合成する工程は、0.1(w/v)%以上40(w/v)%以下のゼラチン一次修飾体濃度を有するゼラチン一次修飾体水溶液に、前記ゼラチン一次修飾体水溶液に対する前記メタクリル酸グリシジルの体積比が10000:1~1:1を満たすように、前記メタクリル酸無水物を添加してもよい。
前記ゼラチン一次修飾体水溶液は、2以上5以下、または、6.5以上8以下の範囲のpHを有してもよい。
本発明による架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体は、上述のゼラチン誘導体が架橋された架橋体を含有し、これにより上記課題を解決する。
前記ゼラチン誘導体の架橋密度は、0.02mol/m3以上10000mol/m3以下の範囲をしてもよい。
細胞を内包してもよい。
前記細胞は、軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、靭帯細胞、脂肪細胞、神経細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、肝細胞、膵β細胞、腎臓細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、神経幹細胞、胚性幹細胞、及び、人工多能性幹細胞からなる群から少なくとも1つ選択されてもよい。
本発明による架橋ゼラチンハイドロゲルを製造する方法は、上述のゼラチン誘導体を用い架橋し、これにより上記課題を解決する。
前記ゼラチン誘導体及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程と、前記水溶液に紫外線を照射する工程とを包含してもよい。
前記水溶液を調製する工程によって得られた前記水溶液に細胞を懸濁させて細胞懸濁液を調製する工程をさらに包含し、前記水溶液に紫外線を照射する工程は、前記細胞懸濁液に紫外線を照射してもよい。
本発明による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体を製造する方法は、上述のゼラチン誘導体及びゲル粒子を用い架橋し、これにより上記課題を解決する。
前記ゼラチン誘導体及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程と、前記水溶液を調製する工程によって得られた前記水溶液にゼラチンハイドロゲルからなるゲル粒子を添加した混合物を調製する工程と、前記混合物に紫外線を照射する工程とを包含してもよい。
前記水溶液を調製する工程によって得られた前記水溶液に細胞を懸濁させて細胞懸濁液を調製する工程をさらに包含してもよい。
前記ゲル粒子は、細胞を内包してもよい。
前記細胞は、動物由来の動物細胞であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゼラチン誘導体は、アミノ基がメタクリロイル基と結合し、ゼラチンが有するヒドロキシ基及びカルボキシル基がメタクリロイルグリセリルエステル基と結合しており、紫外線照射により架橋重合できる反応性基が最大限に導入されている。本発明の架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体は、本発明のゼラチン誘導体を用いて製造されるので、架橋密度が高い。その結果、力学強度が高く、形状安定性にすぐれている。しかも細胞をハイドロゲルのバルクにも空孔にも播種できるので、より効率の高い組織再生が可能となる。
【0012】
本発明の架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体の製造方法は、上述のゼラチン誘導体を用いるので、架橋密度が高く、力学強度が高く、形状安定性にすぐれた架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体を提供できる。また、温和で細胞毒性がない条件で、細胞を内包する架橋密度が高く、力学強度が高く、形状安定性にすぐれた架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明のゼラチン誘導体を製造するフローチャート
【
図3】本発明のゼラチン誘導体を用いて得られる架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体のプロシージャを示すフローチャート
【
図4】ゼラチン一次修飾体の合成工程(a)とゼラチン二次修飾体の合成工程(b)とを示す図
【
図5】ゼラチン一次修飾体の
1H NMRスペクトルを示す図
【
図6】ゼラチン二次修飾体の
1H NMRスペクトルを示す図
【
図7】10(w/v%)のゼラチン二次修飾体水溶液の貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の温度との関係図
【
図8】実施例3による軟骨細胞を内包した架橋ゼラチンハイドロゲルにおける細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す図
【
図9】ゼラチンハイドロゲルからなる直方体粒子の様子を示す光学顕微鏡写真
【
図10】実施例4による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の外観を示す写真
【
図11】実施例4による軟骨細胞を内包した架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体における細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す図
【
図12】実施例4による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体で再生した軟骨組織の外観を示す写真
【
図13】ゼラチンハイドロゲルからなる直方体粒子の様子を示す光学顕微鏡写真
【
図14】実施例5による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の外観を示す写真
【
図15】実施例5による軟骨細胞を内包した架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体における細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す図
【
図16】実施例5による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体で再生した軟骨組織の外観を示す写真
【
図17】実施例6による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の外観を示す写真
【
図18】実施例6による軟骨細胞を内包した架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体における細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す図
【
図19】実施例6による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体で再生した軟骨組織の外観を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
実施の形態1では、架橋密度が高く、力学強度が高い架橋ゼラチンハイドロゲルあるいはその多孔体を製造するに好ましい、ゼラチン誘導体について説明する。
【0015】
図1は、本発明のゼラチン誘導体を模式的に示す図である。
【0016】
本発明のゼラチン誘導体100は、ゼラチン110において、ゼラチンが有するアミノ基がメタクリロイル基120と結合し、ゼラチンが有するヒドロキシ基及びカルボキシル基がメタクリロイルグリセリルエステル基130と結合している。これらメタクリロイル基120及びメタクリロイルグリセリルエステル基130は、いずれも、架橋重合可能な反応性基であり、本発明のゼラチン誘導体100を用いて、架橋ゼラチンハイドロゲルを製造すれば、高い架橋密度及び高い力学的強度を達成し、形状安定性に優れた架橋ゼラチンハイドロゲルを提供できる。また、架橋ゼラチンハイドロゲルの製造時に、造孔剤を用いれば、高い架橋密度及び高い力学的強度を達成し、形状安定性に優れた架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体を提供できる。また、架橋ゼラチンハイドロゲルの製造時に細胞を内包すれば、および/または、細胞を内包する造孔剤を用いれば、細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体を提供できる。
【0017】
本発明のゼラチン誘導体100は、好ましくは、ゼラチン誘導体1gに対するメタクリロイル基120の含有率が0.01mmol以上10mmol以下の範囲を満たし、ゼラチン誘導体1gに対するメタクリロイルグリセリルエステル基130の含有率が、0.01mmol以上10mmol以下の範囲を満たす。これにより、架橋強度及び力学的強度を向上できる。
【0018】
本発明のゼラチン誘導体100は、より好ましくは、ゼラチン誘導体1gに対するメタクリロイル基120の含有率が0.1mmol以上1mmol以下の範囲を満たし、ゼラチン誘導体1gに対するメタクリロイルグリセリルエステル基130の含有率が、0.1mmol以上1mmol以下の範囲を満たす。これにより、架橋強度及び力学的強度を確実に向上できる。
【0019】
上記のゼラチン110は、ブタやウシ、ヒツジ、ニワトリなどの動物の骨や皮膚などの組織、魚骨、魚皮、魚鱗の群から選択されるいずれか一の素材、或いは複数の素材に由来するゼラチンである。ゼラチン分子の分子量は、好ましくは、100ダルトン以上10,000,000ダルトン以下の範囲であり、この範囲であれば、水に溶解し、かつハイドロゲルを形成する。ゼラチン分子の分子量は、さらに望ましくは、500ダルトン以上1,000,000ダルトン以下の範囲である。これにより、安定した形状、栄養分や老廃物などの拡散性を備えたハイドロゲルの形成に特に有利である。
【0020】
なお、アミノ気に結合したメタクリロイル基120、ならびに、ヒドロキシ基及びカルボキシル基に結合したメタクリロイルグリセリルエステル基130の存在は、核磁気共鳴(NMR)分光法によって容易に確認できる。また、メタクリロイル基およびメタクリロイルグリセリルエステル基の含有率は、NMRシグナルの積分値によって算出できる。
【0021】
図2は、本発明のゼラチン誘導体を製造するフローチャートである。
【0022】
図2を用いて、本発明のゼラチン誘導体100の製造方法を説明する。以降では、分かりやすさのため、ゼラチン誘導体をゼラチン二次修飾体と称する。これは、後述するように、本発明のゼラチン誘導体はゼラチンに二段階にて反応性基を修飾(導入)させることによって得られるためである。
【0023】
本発明のゼラチン二次修飾体の製造方法は、ゼラチンをメタクリル酸無水物と反応させ、ゼラチンが有するアミノ基にメタクリロイル基を結合させたゼラチン一次修飾体を合成する工程(
図2のステップS210)、及び、ゼラチン一次修飾体をメタクリル酸グリシジルと反応させ、ゼラチン一次修飾体が有するヒドロキシ基とカルボキシル基とにメタクリロイルグリセリルエステル基を結合させたゼラチン二次修飾体を合成する工程(
図2のステップS220)を含むことを特徴としている。
【0024】
ゼラチン一次修飾体を合成する工程を詳細に説明する。まず、加温した水溶液にゼラチンを溶かし、ゼラチン水溶液を作製する。ゼラチンを溶かす前記の水溶液は、pHが4~11のリン酸緩衝食塩水、または、HEPES緩衝液、食塩水、純水であるが、pHが6~8のリン酸緩衝食塩水(PBS)が望ましい。加温した水溶液の温度はゼラチンが溶ける温度で、30℃~80℃であるが、望ましい温度は35℃~55℃である。ゼラチンを加温した水溶液に溶かしたゼラチン水溶液の濃度は1~50(w/v)%で、望ましい濃度は5~20(w/v)%である。この範囲であれば、均一な撹拌が可能であるため、均一な修飾反応に有利である。
【0025】
次いで、ゼラチン水溶液を撹拌しながら、メタクリル酸無水物を添加し、反応物と生成物(ここではゼラチン一次修飾体である)とが溶解する温度を保って、暗所で数時間反応させる。ここで、前記のメタクリル酸無水物の添加速度は好ましくは0.01~20.0mL/minである。この範囲であれば、反応温度を一定に保つ上で有利である。さらに望ましい添加速度は0.1~5.0mL/minである。ゼラチン水溶液に対して添加するメタクリル酸無水物の体積仕込み比は好ましくは10000:1~1:1である。この範囲であれば、ゼラチンのアミノ基修飾を可能にする。さらに望ましい仕込み比は100:1~2:1である。反応温度は30℃~80℃であるが、望ましい温度は35℃~55℃である。反応時間は10分間~96時間であるが、望ましい反応時間は1時間~48時間である。
【0026】
次いで、反応生成物を反応物と生成物とが溶解した状態の温度の純水で希釈し、透析膜を用いて反応物と生成物とが溶解する温度を保って純水中で透析する。これにより、塩類や未反応メタクリル酸無水物を除去し、合成したゼラチン一次修飾体が精製される。ここで、希釈用の純水は超純水であり得る。希釈用の純水の温度は反応物と生成物とが溶液のままで維持できる温度に保持され、好ましくは30℃~80℃であるが、望ましい温度は35℃~60℃である。生成物の精製に用いられる透析膜の分画分子量は合成したゼラチン一次修飾体と、未反応のメタクリル酸無水物及び塩類の低分子とを分離できる範囲でよい。
【0027】
次いで、精製したゼラチン一次修飾体の水溶液を凍結乾燥し、ゼラチン一次修飾体の固形物を得てもよい。凍結乾燥時間は凍結物から水分を除去できる時間であれば特に制限はないが、例示的には、1日~1か月である。望ましい凍結乾燥時間は2日~2週間である。このようにして、ゼラチンが有するアミノ基にメタクリロイル基が結合したゼラチン一次修飾体が得られる。
【0028】
ゼラチン二次修飾体を合成する工程を詳細に説明する。まず、ゼラチン一次修飾体を温水に溶かして水溶液を調製した後、水溶液のpHを調整する。前記のゼラチン一次修飾体を溶かす温水にはイオン交換水、蒸留水、超純水のいずれも用いることができる。水温はゼラチン一次修飾体を溶かす温度で25℃~80℃であるが、望ましい温度は35℃~55℃である。ゼラチン一次修飾体を温水に溶かしたゼラチン一次修飾体水溶液の濃度は0.1~40(w/v)%で、望ましい濃度は0.2~20(w/v)%である。この範囲であれば、流動性であるため均一な修飾反応に有利である。ゼラチン一次修飾体水溶液のpHを調製に用いる溶液は塩酸や硝酸、硫酸が挙げられるが、望ましいのは塩酸である。pH調製用の塩酸や硝酸、硫酸の濃度は0.1~5Mで、望ましいのは0.2~2Mである。水溶液のpHは、好ましくは1.0~10の範囲に調整される。この範囲であれば、後述するメタクリル酸グリシジルとの反応が生じる。なお望ましいpHは2~5の範囲または6.5~8の範囲である。
【0029】
次に、メタクリル酸グリシジルを前記ゼラチン一次修飾体水溶液に添加し、反応物と生成物(ここではゼラチン二次修飾体である)とが溶解する温度を保って、暗所で数時間反応させる。前記のメタクリル酸グリシジルの添加速度は好ましくは0.01~20.0mL/minである。この範囲であれば、反応温度を一定に保つのに有利である。さらに望ましい添加速度は0.1~5.0mL/minである。ゼラチン一次修飾体水溶液に対して添加するメタクリル酸グリシジルの体積仕込み比は好ましくは10000:1~1:1である。この範囲であれば、ゼラチンのヒドロキシル基およびカルボキシル基の修飾を可能にする。さらに望ましい仕込み比は250:1~3:1である。反応温度は30℃~80℃であるが、望ましい温度は35℃~60℃である。反応時間は1時間~96時間であるが、望ましい反応時間は2時間~48時間である。
【0030】
次いで、反応物と生成物とが溶解した状態の温度の水で反応液を希釈し、透析膜を用いて反応物と生成物とが溶解する温度を保って、純水中で透析する。これにより、塩類、未反応メタクリル酸グリシジル、未反応のゼラチン一次修飾体を除去し、合成したゼラチン二次修飾体が精製される。ここで、希釈用の水にはイオン交換水、蒸留水、超純水のいずれも用いることができる。希釈用の水の温度は、反応物と生成物とが溶液のままで維持できる温度に保持され、好ましくは30℃~80℃であるが、望ましい温度は35℃~60℃である。生成物の精製に用いられる透析膜の分画分子量は合成したゼラチン二次修飾体と、未反応のメタクリル酸グリシジル、未反応のゼラチン一次修飾体及び塩類の低分子を分離できる範囲でよい。
【0031】
次いで、精製したゼラチン二次修飾体の水溶液を凍結乾燥し、ゼラチン二次修飾体の固形物を得てもよい。凍結乾燥時間は凍結物から水分を除去できる時間であれば特に制限はないが、例示的には、1日~1か月である。望ましい凍結乾燥時間は2日~2週間である。このようにして、ゼラチン一次修飾体のヒドロキシ基とカルボキシル基とにメタクリロイル基及びメタクリロイルグリセリルエステル基が結合したゼラチン二次修飾体が得られる。
【0032】
(実施の形態2)
実施の形態2では、ハイドロゲルに多孔質構造を形成させるために用いられる造孔剤の製造方法について説明する。
【0033】
(1)細胞を内包しないゲル粒子の製造方法
造孔剤として機能するゲル粒子の製造方法は、低温でゼラチンハイドロゲルを作製する工程、及び、得られたゼラチンハイドロゲルをゼラチンハイドロゲルの粒子(例えば、立方体粒子)に切断加工する工程を含むことを特徴としている。
【0034】
ゼラチンハイドロゲルを作製する工程を詳細に説明する。ゼラチンを、ゼラチンが溶ける温度の温水、リン酸緩衝食塩水、HEPES緩衝液、食塩水、細胞培養用の培地、或いはリン酸緩衝食塩水と培地との混合溶液に溶かし、ゼラチン水溶液を調製する。上記のゼラチン水溶液の温度は37℃~80℃で、望ましい温度は40℃~60℃である。ここでも、ゼラチンは、ブタやウシ、ヒツジ、ニワトリなどの動物の骨や皮膚などの組織、魚骨、魚皮、魚鱗の群から選択されるいずれか一の素材、或いは複数の素材に由来するゼラチンである。ゼラチン分子の分子量は、好ましくは、100ダルトン以上10,000,000ダルトン以下の範囲であり、この範囲であれば、水に溶解し、かつハイドロゲルを形成する。ゼラチン分子の分子量は、さらに望ましくは、500ダルトン以上1,000,000ダルトン以下の範囲である。これにより、安定した形状、栄養分や老廃物などの拡散性を備えたハイドロゲルの形成に特に有利である。
【0035】
上記の培地は細胞培養に用いる培地で、ダルベッコ変法イーグル培地やイーグル最小必須培地など1種類或いは数種類の混合培地でも良い。培地に血清が含まれていても含まれていなくても良い。血清が含まれる場合、血清の濃度は0.1~50%で、望ましい濃度は0.5~20%である。上記のリン酸緩衝食塩水と培地との混合溶液の場合、体積混合比は50:1~1:50で、望ましい体積混合比は10:1~1:10である。上記のゼラチン水溶液の濃度は好ましくは0.1~50(w/v)%である。この範囲であればハイドロゲルの形成が可能である。さらに望ましい濃度は0.5~20(w/v)%である。
【0036】
次に、ゼラチン水溶液を濾過滅菌用のフィルターメンブレンで滅菌する。上記のゼラチン水溶液の濾過滅菌用のフィルターメンブレンの孔径は0.1~0.5μmで、望ましいフィルターメンブレンの孔径は0.1~0.3μmである。
【0037】
濾過滅菌したゼラチン水溶液を低温でゲル化させ、ゼラチンハイドロゲルを形成させる。上記のゼラチン水溶液をゲル化させる温度はゼラチン水溶液をゲル化できる温度であれば特に制限はないが、好ましくは0.5℃~30℃の範囲の低温である。これによりハイドロゲルの形成が可能になる。なお望ましい温度は3℃~15℃である。このようにしてゼラチンハイドロゲルが作製される。本実施の形態において、低温とは上記範囲を意図している。
【0038】
次にゼラチンハイドロゲルを切断加工する工程を詳細に説明する。形成したゼラチンハイドロゲルを薄く切断し、薄いゼラチンハイドロゲルのシートを得る。あるいは、ゼラチン水溶液を枠スペースの高さが低くて、枠スペースが広い枠の空間にピペットで注入し、低温でゲル化させ、枠スペースの高さと同じの薄いゼラチンハイドロゲルのシートを形成する。ここで、薄いゼラチンハイドロゲルのシートの厚みは20μm~2000μmで、望ましいのは50μm~1000μmである。ゼラチンハイドロゲルを薄く切断するには、カッターか糸を用いればよい。上記の枠スペースで薄いゼラチンハイドロゲルのシートを形成する場合の枠スペースはシリコーンゴム枠、ガラス枠、プラスチック枠などが利用できる。
【0039】
次いで、薄いゼラチンハイドロゲルのシートを細断し、ゼラチンハイドロゲルの立方体粒子を作製する。形成したゼラチンハイドロゲルシートを細断するには、カッターか糸かメッシュを用いればよい。メッシュとしてナイロンメッシュやステンレスメッシュなどが利用できる。メッシュの網目サイズは20μm×20μm~2000μm×2000μmで良いが、望ましい網目サイズは50μm×50μm~1000μm×1000μmである。上記のゼラチンハイドロゲルの立方体粒子の一辺の長さは20μm~2000μmで良いが、望ましい網目サイズは50μm~1000μmである。このようにして、ゼラチンハイドロゲルからなる立方体粒子が作製される。このように得られた立方体粒子は、原料に用いたゼラチンは意図的に修飾されておらず、未修飾ゼラチン(純ゼラチンともいう)からなる。
【0040】
(2)細胞を内包するゲル粒子の製造方法
造孔剤として機能する細胞を内包したゲル粒子の製造方法は、低温で細胞を内包したゼラチンハイドロゲルを作製する工程、及び、得られた細胞を内包したゼラチンハイドロゲルを粒子(例えば立方体粒子)に切断加工する工程を含むことを特徴としている。細胞を内包したゼラチンハイドロゲルの立方体粒子を造孔剤として利用する場合、バルクのハイドロゲル内部に空孔を形成するとともに、形成した空孔内に細胞が残る。
【0041】
細胞を内包したゼラチンハイドロゲルを作製する工程を詳細に説明する。ゼラチン水溶液をフィルターメンブレンで滅菌するまでの工程は、上述の(1)のゼラチンハイドロゲルを作製する工程と同様であるため説明を省略する。濾過滅菌したゼラチン水溶液を、ゼラチン水溶液がゲル化しない温度でできるだけ低い温度に下げる。ここで、上記のゲル化しない温度でできるだけ低くする温度は37℃である。この温度であればゲル化を防げる。
【0042】
次いで、温度を下げたゼラチン水溶液に細胞を懸濁させる。細胞が懸濁したゼラチン水溶液を低温でゲル化させ、細胞を内包したゼラチンハイドロゲルを形成させる。上記のゼラチン水溶液の細胞懸濁液の細胞濃度は好ましくは103cells/mL~108cells/mLの範囲である。この範囲であれば、均一な細胞分布と効率のよい増殖とを可能にする。さらに望ましい濃度は104cells/mL~5×108cells/mLである。上記のゼラチン水溶液の細胞懸濁液をゲル化させる温度は、0.5℃~30℃であるが、望ましい温度は3℃~15℃である。このようにして、細胞を内包したゼラチンハイドロゲルが作製される。
【0043】
上記の細胞には、ヒトやその他動物由来の細胞を用いることができる。組織から採集した軟骨細胞や骨芽細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、靭帯細胞、脂肪細胞、神経細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、肝細胞、膵β細胞、腎臓細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、神経幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞などの細胞をゼラチンハイドロゲルに内包できる。
【0044】
次に細胞を内包したゼラチンハイドロゲルを切断加工する工程を行うが、上述の(1)のゼラチンハイドロゲルを切断する工程と同様であるため説明を省略する。このようにして、細胞を内包したゼラチンハイドロゲルからなる立方体粒子が作製される。
【0045】
このようにして得た、細胞を内包しない/内包するゼラチンハイドロゲルからなる立方体粒子は、造粒剤として機能するため、実施の形態1で説明した本発明のゼラチン誘導体とともに用いれば、細胞を内包しない/内包する架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体を提供できる。
【0046】
なお、ここでは、細胞を内包しない/内包するゼラチンハイドロゲルを立方体粒子に切断するとして説明してきたが、切断後の形状は立方体に限定されない。例えば、直方体、円柱、球状など所望の多孔質構造に応じて粒子の形状は任意に設定される。この場合も、ゼラチンハイドロゲルは、粒子の長径が20μm~2000μmとなるように切断される。
【0047】
(実施の形態3)
実施の形態3では、実施の形態1で説明したゼラチン誘導体(ゼラチン二次修飾体)、必要に応じて実施の形態2で説明したゲル粒子(細胞を内包する/内包しない)を用いて、架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体、ならびに、それらの製造方法について説明する。
【0048】
図3は、本発明のゼラチン誘導体を用いて得られる架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体のプロシージャを示すフローチャートである。
【0049】
本発明のゼラチン誘導体100(実施の形態1で説明したゼラチン誘導体100)を用いることによって、細胞を内包しない架橋ゼラチンハイドロゲル310、細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル320、細胞を内包しない架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体330、及び、細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340が得られる。
【0050】
いずれの架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体310、320、330、340も、高い架橋密度を有し、高い力学強度を有するので、形状安定性に優れている。例示的には、架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体310、320、330、340の架橋密度は、0.02mol/m3以上10000mol/m3以下の範囲を有する。この範囲の架橋密度を有せば、形状安定性に優れる。より好ましくは、架橋密度は、0.1mol/m3以上4000mol/m3以下の範囲を有する。また、架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体310、320、330、340は、0.1kPa以上10kPa以下の範囲の貯蔵弾性率を有し、高い力学的強度を有する。なお、架橋密度nは、例えば、n=E’/4RT(ここで、E’は動的貯蔵弾性率、Rは気体定数、Tは温度である)に基づいて算出できる。
【0051】
図3によれば、本発明のゼラチン誘導体100を用いれば、細胞を架橋ゼラチンハイドロゲルのバルクに、ハイドロゲルの空孔に、あるいは、その両方に播種できるので、より効率の高い組織再生を可能にする。細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル320やその多孔体340を、適当な大きさに切断し、移植体としてもよいし、培地で培養することによって、あるいは、動物に移植することによって組織を再生してもよい。
【0052】
次に、架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体310、320、330、340のそれぞれの製造方法について説明する。
(1)細胞を内包しない架橋ゼラチンハイドロゲル310の製造方法(
図3のプロシージャA)
架橋ゼラチンハイドロゲル310の製造方法は、本発明のゼラチン二次修飾体(ゼラチン誘導体)100及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程、及び、この水溶液に紫外線を照射する工程を含むことを特徴としている。
【0053】
ゼラチン二次修飾体及び光重合開始剤の水溶液を調製する工程を詳細に説明する。水溶液は、例えば、23℃以上37℃以下、好ましくは25℃以上30℃以下に保持する。溶媒は、純水、リン酸緩衝食塩水、HEPES緩衝液、食塩水、細胞培養用の培地、或いはリン酸緩衝食塩水と培地の混合溶液を用いることができる。上記の培地とは細胞培養に用いる培地で、ダルベッコ変法イーグル培地やイーグル最小必須培地など1種類或いは数種類の混合培地でも良い。培地に血清が含まれていても含まれていなくても良い。血清の濃度は0.1~50%で、望ましい濃度は0.5~20%である。上記のリン酸緩衝食塩水と培地の混合溶液の体積混合比は50:1~1:50で、望ましいのは10:1~1:10である。
【0054】
上記のゼラチン二次修飾体の水溶液の濃度はゼラチン二次修飾体の重量対溶液の体積の濃度で0.1~50(w/v)%である。これにより、ゲル化が促進する。望ましい濃度は0.5~30(w/v)%である。
【0055】
上記の光重合開始剤は、例示的には、2-ヒドロキシ-1-(4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチルl-1-プロパノン、過硫酸アンモニウムとN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを含む混合液、または、過硫酸カリウムとN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンとを含む混合液であるが、望ましくは2-ヒドロキシ-1-(4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチルl-1-プロパノンである。上記の光重合開始剤の濃度は光重合開始剤重量対溶液の体積の濃度で0.01~10(w/v)%で、望ましいのは0.05~2(w/v)%である。これにより、重合を促進させる。
【0056】
次いで、ゼラチン二次修飾体及び光重合開始剤を含有する水溶液を濾過滅菌用のフィルターメンブレンで滅菌する。上記のゼラチン水溶液の濾過滅菌用のフィルターメンブレンの孔径は0.1~0.5μmで、望ましいフィルターメンブレンの孔径は0.1~0.3μmである。
【0057】
次にこの水溶液に紫外線を照射する工程を詳細に説明する。調製した水溶液を、例えば、23℃以上37℃以下、好ましくは25℃以上30℃以下に保持し、紫外線を照射する。これにより、水溶液が露光され、架橋重合反応が開始し、ゲル化する。ここで、紫外線の照射条件は、好ましくは、10秒~30分間で、望ましいのは20秒~10分間である。一定の厚みの架橋ゼラチンハイドロゲル310を作製する場合では、一定の厚さのスペース枠で隔てた2枚の石英カバーガラスの間にできた空間に前記のゼラチン二次修飾体と光重合開始剤の水溶液を注入し、紫外線を照射すればよい。
【0058】
このようにして、細胞を有しない架橋ゼラチンヒドロゲル310が得られる。また、架橋ゼラチンヒドロゲル310を必要な大きさに切断して、適宜細胞を藩種させてもよい。一定の大きさに切断するには、カッターか糸かメッシュを用いればよい。
【0059】
(2)細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル320の製造方法(
図3のプロシージャB)
架橋ゼラチンハイドロゲル320の製造方法は、本発明のゼラチン二次修飾体(ゼラチン誘導体)100及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程、これに細胞を懸濁させた細胞懸濁液を調製する工程、及び、この細胞懸濁液に紫外線を照射する工程を含むことを特徴としている。
【0060】
ゼラチン二次修飾体及び光重合開始剤の水溶液を調製する工程は、上述の(1)の水溶液を調製する工程と同様であるため説明を省略する。得られた水溶液に細胞を懸濁させた細胞懸濁液を調製する工程では、ゼラチン二次修飾体と光重合開始剤との水溶液を濾過滅菌用のフィルターメンブレンで滅菌した後、水溶液の温度をできるだけ低く、例えば、23℃以上37℃以下、好ましくは25℃以上30℃以下に保持する。これにより水溶液のゲル化を防ぐ。温度を低くしたゼラチン二次修飾体と光重合開始剤との水溶液に細胞を添加し、細胞懸濁液を調製する。
【0061】
上記の細胞懸濁液の細胞濃度は好ましくは103cells/mL~108cells/mLの範囲である。この範囲であれば、均一な細胞分布と効率のよい増殖とを可能にする。さらに望ましい濃度は104cells/mL~5×108cells/mLである。
【0062】
上記の細胞には、ヒトやその他動物由来の細胞を用いることができる。組織から採集した軟骨細胞や骨芽細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、靭帯細胞、脂肪細胞、神経細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、肝細胞、膵β細胞、腎臓細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、神経幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞などの細胞をゼラチンハイドロゲルに内包できる。
【0063】
次いで、この細胞懸濁液に紫外線を照射し、架橋重合を行う。なお、この細胞懸濁液に紫外線を照射する工程は、上述の(1)の水溶液に紫外線を照射する工程と同様であるため説明を省略する。このようにして、細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル320が得られる。ここでも、一定の厚みの架橋ゼラチンハイドロゲル320を作製する場合では、一定の厚さのスペース枠で隔てた2枚の石英カバーガラスの間にできた空間に前記の細胞懸濁液を注入し、紫外線を照射すればよい。
【0064】
(3)細胞を内包しない架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体330の製造方法(
図3のプロシージャC)
架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体330の製造方法は、本発明のゼラチン二次修飾体(ゼラチン誘導体)100及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程、これにゲル粒子(実施の形態2で説明した細胞を内包しないゼラチンハイドロゲルからなる立方体粒子)を添加した混合物を調製する工程、及び、この混合物に紫外線を照射する工程を含むことを特徴としている。
【0065】
ゼラチン二次修飾体及び光重合開始剤の水溶液を調製する工程は、上述の(1)の水溶液を調製する工程と同様であるため説明を省略する。得られた水溶液にゲル粒子を添加した混合物を調製する工程では、ゼラチン二次修飾体と光重合開始剤との水溶液を濾過滅菌用のフィルターメンブレンで滅菌した後、水溶液の温度をできるだけ低く、例えば、23℃以上37℃以下、好ましくは25℃以上30℃以下に保持する。これにより水溶液のゲル化を防ぐ。温度を低くしたゼラチン二次修飾体と光重合開始剤との水溶液にゲル粒子を添加し、混合物を調製する。上記のゼラチン二次修飾体と光重合開始剤の水溶液とゲル粒子との混合比率は、水溶液の体積とゲル粒子の分量との比率が1:5(v/w)~50:1(v/w)を満たすように混合される。これにより、所望の多孔質構造を有する架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体が得られる。混合比率は、望ましくは1:2(v/w)~5:1(v/w)である。
【0066】
次いで、この混合物に紫外線を照射し、架橋重合を行う。なお、この混合物に紫外線を照射する工程は、上述の(1)の水溶液に紫外線を照射する工程と同様であるが、本発明のゼラチン誘導体のゲル化温度より高く、ゲル粒子(すなわち、純ゼラチン)のゲル化温度より低くなるように温度(実施例では25℃)を保持して本発明のゼラチン誘導体の架橋重合を行う。架橋重合後、生成物をゲル粒子(純ゼラチン)のゾル-ゲル転移点(37℃)以上にすると、純ゼラチン分子間の水素結合は切断され、ゲル粒子のみが溶解するので、多孔構造が形成される。このようにして、細胞を内包しない架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体330が得られる。ここでも、一定の厚みの架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体330を作製する場合では、一定の厚さのスペース枠で隔てた2枚の石英カバーガラスの間にできた空間に前記の混合物を注入し、紫外線に照射すればよい。
【0067】
(4)細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340の製造方法
架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340は、
図3に示されるように、3つの異なるプロシージャD~Fによって製造される。
【0068】
(A)
図3のプロシージャDの製造方法について説明する。
架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340の製造方法は、本発明のゼラチン二次修飾体(ゼラチン誘導体)100及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程、これに細胞を懸濁させた細胞懸濁液を調製する工程、これにゲル粒子(実施の形態2で説明した細胞を内包しないゼラチンハイドロゲルからなる立方体粒子)を添加した混合物を調製する工程、及び、この混合物に紫外線を照射する工程を含むことを特徴としている。
【0069】
ここで、ゼラチン二次修飾体及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程は、上述の(1)の水溶液を調製する工程と同様である。得られた水溶液に細胞を懸濁させた細胞懸濁液を調製する工程は、上述の(2)の細胞懸濁液を調製する工程と同様である。細胞懸濁液にゲル粒子を添加した混合物を調製する工程は、上述の(3)の混合物を調製する工程と同様である。得られた混合物に紫外線を照射する工程は、上述の(3)の混合物に紫外線を照射する工程と同様である。したがって、以上の工程の説明を省略する。
【0070】
このような工程の組み合わせによって、細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340が得られる。なお、ここでも、一定の厚みの架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340を作製する場合では、一定の厚さのスペース枠で隔てた2枚の石英カバーガラスの間にできた空間に前記の混合物を注入し、紫外線を照射すればよい。
【0071】
(B)
図3のプロシージャEの製造方法について説明する。
架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340の製造方法は、本発明のゼラチン二次修飾体(ゼラチン誘導体)100及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程、これにゲル粒子(実施の形態2で説明した細胞を内包するゼラチンハイドロゲルからなる立方体粒子)を添加した混合物を調製する工程、及び、この混合物に紫外線を照射する工程を含むことを特徴としている。
【0072】
ここで、ゼラチン二次修飾体及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程は、上述の(1)の水溶液を調製する工程と同様である。得られた水溶液にゲル粒子を添加した混合物を調製する工程は、上述の(3)の混合物を調製する工程と同様であるが、細胞を内包するゲル粒子中に内容される細胞濃度は、細胞濃度は好ましくは103cells/mL~108cells/mLの範囲である。さらに望ましい濃度は104cells/mL~5×108cells/mLである。得られた混合物に紫外線を照射する工程は、上述の(3)の混合物に紫外線を照射する工程と同様である。したがって、以上の工程の説明を省略する。
【0073】
このような工程の組み合わせによって、細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340が得られる。なお、ここでも、一定の厚みの架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340を作製する場合では、一定の厚さのスペース枠で隔てた2枚の石英カバーガラスの間にできた空間に前記の混合物を注入し、紫外線を照射すればよい。
【0074】
(C)
図3のプロシージャFの製造方法について説明する。
架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340の製造方法は、本発明のゼラチン二次修飾体(ゼラチン誘導体)100及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程、これに細胞を懸濁させた細胞懸濁液を調製する工程、これにゲル粒子(実施の形態2で説明した細胞を内包するゼラチンハイドロゲルからなる立方体粒子)を添加した混合物を調製する工程、及び、この混合物に紫外線を照射する工程を含むことを特徴としている。
【0075】
ここで、ゼラチン二次修飾体及び光重合開始剤を含有する水溶液を調製する工程は、上述の(1)の水溶液を調製する工程と同様である。得られた水溶液に細胞を懸濁させた細胞懸濁液を調製する工程は、上述の(2)の細胞懸濁液を調製する工程と同様である。細胞懸濁液にゲル粒子を添加した混合物を調製する工程は、上述の(3)の混合物を調製する工程と同様である。得られた混合物に紫外線を照射する工程は、上述の(1)の水溶液に紫外線を照射する工程と同様である。したがって、以上の工程の説明を省略する。
【0076】
このような工程の組み合わせによって、細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340が得られる。なお、ここでも、一定の厚みの架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体340を作製する場合では、一定の厚さのスペース枠で隔てた2枚の石英カバーガラスの間にできた空間に前記の混合物を注入し、紫外線を照射すればよい。
【0077】
以下、具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0078】
<実施例1>
実施例1では、ブタ皮膚由来ゼラチンを用いて、アミノ基がメタクリロイル基(
図1の120)と結合し、ゼラチンが有するヒドロキシ基及びカルボキシル基がメタクリロイルグリセリルエステル基(
図1の130)と結合した本発明のゼラチン誘導体(以降では単にゼラチン二次修飾体)を合成した。
【0079】
図4は、ゼラチン一次修飾体の合成工程(a)とゼラチン二次修飾体の合成工程(b)とを示す図である。
【0080】
図2に示すステップS210にしたがって、
図4(a)の合成プロシージャに基づいてゼラチン一次修飾体(
図4(a)ではGelMAと表記)を合成した。詳細には、ブタ皮膚由来ゼラチン5g(分子量50,000~100,000ダルトン)を50℃で撹拌しながらPBSに溶かし、10(w/v)%のゼラチン溶液を得た。次に、メタクリル酸無水物5mLを50℃で撹拌しながら、0.5mL/minでゼラチン溶液に添加し、暗所で3時間反応させた。ここで、ゼラチン水溶液に対するメタクリル酸無水物の体積仕込み比は、10:1であった。反応生成物を50℃のPBSに5倍希釈し、透析膜(分画分子量12,000~14,000ダルトン)を用いて40℃の超純水中で7日間透析することによって、塩類や未反応メタクリル酸無水物を除去し、反応生成物を精製した。
【0081】
反応生成物の分子構造を
1H NMRで解析した。
1H NMRスペクトルは、周波数300MHz、単一の軸勾配逆プローブを有するNMR分光計を用いて測定した。測定の前に、反応生成物を、内部標準物質0.05(w/v)%3-(トリメチルシリル)プロピオン酸-2,2,3,3-d
4酸ナトリウム塩を含む重水1mLに40℃で溶かした。反応生成物の
1H NMRスペクトルを
図5に示す。
【0082】
図5は、ゼラチン一次修飾体の
1H NMRスペクトルを示す図である。
【0083】
図5中の5.4ppmと5.7ppmのシグナルは、メタクリレート基のビニルプロトンに帰属された。5.4ppmと5.7ppmのシグナル強度の和0.92であった。このことから、得られた反応生成物は、アミノ基にメタクリロイル基が結合したゼラチン一次修飾体であることを確認した。
【0084】
得られたゼラチン一次修飾体を7日間凍結乾燥し、固形物を得た。
【0085】
図2に示すステップS220にしたがって、
図4(b)の合成プロシージャに基づいてゼラチン二次修飾体(
図4(b)ではGelMAGMAと表記)を合成した。詳細には、先に得られたゼラチン一次修飾体とメタクリル酸グリシジルと反応させた。まず、ゼラチン一次修飾体2.5gを超純水に溶かして2(w/v)%の溶液を調製した後、1M HClでpHを3.5に調整した。次に、メタクリル酸グリシジル5mLを0.5mL/minで前記ゼラチン一次修飾体水溶液に添加し、50℃で24時間反応を行った。ここで、ゼラチン一次修飾体水溶液に対するメタクリル酸グリシジルの体積仕込み比は、25:1であった。
【0086】
得られた反応生成物を50℃のPBSに5倍希釈し、透析膜(分画分子量12,000~14,000ダルトン)を用いて40℃の超純水中で7日間透析し、塩類や未反応のメタクリル酸グリシジルを除去し、反応生成物を精製した。
【0087】
反応生成物の分子構造を
1H NMRで解析した。
1H-NMRスペクトルは、周波数300 MHz、単一の軸勾配逆プローブを有するNMR分光計を用いて測定した。測定の前に、反応生成物を、内部標準物質0.05(w/v)%3-(トリメチルシリル)プロピオン酸-2,2,3,3-d
4酸ナトリウム塩を含む重水1mLに40℃で溶かした。反応生成物の
1H NMRスペクトルを
図6に示す。
【0088】
図6は、ゼラチン二次修飾体の
1H NMRスペクトルを示す図である。
【0089】
図6中の5.4ppmと5.7ppmのシグナルは、無水メタクリル酸に由来するメタクリレート基のビニルプロトン、5.8ppmと6.2ppmのシグナルは、メタクリル酸グリシジルに由来するメタクリレート基のビニルプロトンに帰属された。このことから、得られた反応生成物は、アミノ基がメタクリロイル基と結合し、ゼラチンが有するヒドロキシ基及びカルボキシル基がメタクリロイルグリセリルエステル基と結合したゼラチン二次修飾体(本発明のゼラチン誘導体)であることを確認した。
【0090】
また、5.4ppm、5.7ppm、5.8ppmと6.2ppmのシグナル強度の和は1.76であった。ゼラチン二次修飾体のメタクリレート基にあるビニル基由来のプロトンのシグナル強度の和は実施例1のゼラチン一次修飾体のメタクリレート基にあるビニルプロトンの値の約2倍になり、より多くの光反応性のメタクリレート基が導入されたことが分かった。NMRスペクトルからメタクリレート基およびメタクリロイルグリセリルエステル基の含有率は、ゼラチン二次修飾体1gに換算して、それぞれ、0.35mmolおよび0.70mmolであった。
【0091】
精製したゼラチン二次修飾体を7日間凍結乾燥し、固形物を得た。以降の実施例では得られた固形物を用いた。
【0092】
次に、ゼラチン二次修飾体水溶液のレオロジー的性質をレオメーターで測定し、ゾル-ゲル転移温度を測定した。ゼラチン二次修飾体を50℃のPBSに溶解して10(w/v%)の水溶液を調製し、300μLを測定に用いた。直径50mmの平行プレート測定ジオメトリを利用し、一定振幅(γ=5%)と周波数(1Hz)で温度掃引(37℃~20℃、冷却速度は0.15℃/min)を行い、貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)を測定した。ゼラチン二次修飾体水溶液の貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)が温度依存性を
図7に示す。
【0093】
図7は、10(w/v%)のゼラチン二次修飾体水溶液の貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の温度との関係図である。
【0094】
ゾルからゲルへの転移温度は、貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の交点から決定した。ゼラチン二次修飾体水溶液のゾルからゲルへの転移温度は22.7℃であった。ゼラチン二次修飾体水溶液のゾルからゲルへの転移温度は室温より低く、室温ではゼラチン二次修飾体水溶液はゲル化しなくなったため、取り扱いやすくなった。
【0095】
<実施例2>
実施例2では、実施例1で合成したゼラチン二次修飾体を用いて、
図3のプロシージャAに基づいて架橋ゼラチンハイドロゲル(
図3の310)を製造した。
【0096】
詳細には、ゼラチン二次修飾体(10%、w/v)と光重合開始剤(2-ヒドロキシ-1-(4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチルl-1-プロパノン)(0.5%、w/v)とを25℃でPBS溶液に溶かして水溶液を調製した。この水溶液を濾過滅菌用のフィルターメンブレン(孔径:0.22μm)で滅菌した。滅菌後、厚さ1.5mmのシリコーンゴム枠で隔てた2枚の石英カバーガラスのすき間にこれら前記の水溶液をピペットで注入し、25℃に保持し、紫外線を5分間照射することによって、架橋ゼラチンハイドロゲルを作製した。
【0097】
得られた架橋ゼラチンハイドロゲルを直径10mmのディスク状に切断し、レオロジー試験に用いた。貯蔵弾性率は、10mmの平行プレートを備えたレオメーターで測定した。温度を37℃にセットし、試験開始前にサンプルを3分間平衡化した。貯蔵弾性率は、一定の周波数(1Hz)と一定の縦ひずみ(5%)の下で振動せん断変形を与えて測定した。3つのサンプルを試験して平均値と標準偏差を計算した。その結果、貯蔵弾性率は3295.6±276.8Paであり、高い力学的強度を有することが分かった。架橋密度を計算したところ、70mol/m3であった。
【0098】
<実施例3>
実施例3では、実施例1で合成したゼラチン二次修飾体を用いて、
図3のプロシージャBに基づいて、軟骨細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル(
図3の320)を製造した。
【0099】
まず、仔牛のひざ関節軟骨から単離した初代軟骨細胞を37℃、5%CO2で培養した。培養には、10%ウシ胎児血清、4500mg/Lブドウ糖、4mMグルタミン、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.4mMのプロリン、1mMピルビン酸ナトリウム塩、50μg/mLアスコルビン酸を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、75cm2の組織培養フラスコを用いた。培地は、3日おきに交換した。継代培養を一回行った軟骨細胞をハイドロゲルに内包する実験に用いた。コンフルエンスに達した軟骨細胞をトリプシン/EDTA溶液で剥離し、細胞を遠心分離によって回収し、細胞数を血球計算器で計測した。
【0100】
次に、実施例2と同様の手順で、ゼラチン二次修飾体(10%、w/v)と光重合開始剤(0.5%、w/v)との水溶液を調製し、これに調製した軟骨細胞を懸濁させ、ゼラチン二次修飾体と光重合開始剤とを含有する軟骨細胞の細胞懸濁液を調製した。ここで、細胞懸濁液の細胞濃度は2×107cells/mLであった。細胞懸濁液は25℃に保持された。2枚の石英カバーガラスの間に厚さ1.5mmのシリコーンゴム枠を挟んでできた空間に前記の細胞懸濁液をピペットで注入した。次いで、細胞懸濁液を25℃に保持し、紫外線を5分間照射することにより、軟骨細胞を内包した架橋ゼラチンハイドロゲルを作製した。さらに、直径10mmのディスク状に切り抜き、T-フラスコ中で60rpmの速度で振とうしながら2週間培養を行った。培地は2日おきに交換した。
【0101】
架橋ゼラチンハイドロゲル中の生細胞をカルセイン-AM、死細胞をプロピジウムヨウ化物で染色し、軟骨細胞のバイアビリティーを評価した。架橋ゼラチンハイドロゲル作製直後及び2週間培養した後に、細胞を内包したディスク状の架橋ゼラチンハイドロゲルディスクをPBSで3回洗浄し、カルセイン-AM(2μM)とプロピジウムヨウ化物(4μM)とを含む無血清培地で37℃、15分間インキュベートした。染色した細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。結果を
図8に示す。
【0102】
図8は、実施例3による軟骨細胞を内包した架橋ゼラチンハイドロゲルにおける細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す図である。
【0103】
図8(a)は培養直前、(b)は2週間培養後の細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す。
図8はグレースケールで示されるが、明るく示される領域は生細胞を示し、死細胞を矢印で示す。
【0104】
図8によれば、細胞を内包した直後、すなわち培養直前にはわずかな死細胞が検出されたが、2週間培養後には検出されなかった。一部の軟骨細胞は凝集して小さな凝集体を形成した。これらの結果から、細胞を内包した状態でゼラチン二次修飾体を架橋重合しても細胞のバイアビリティーに明らかな影響はなかった。得られた架橋ゼラチンハイドロゲルは高い細胞適合性をもつことから、本方法は軟骨細胞を内包した架橋ゼラチンハイドロゲルを作製するのに適していることが示された。
【0105】
<実施例4>
実施例4では、実施例1で合成したゼラチン二次修飾体を用いて、
図3のプロシージャDに基づいて、軟骨細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル(
図3の340)を製造した。実施例4では、細胞を内包しない、純粋な未修飾ゼラチンからなるハイドロゲル直方体粒子を架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の造孔剤として用いた。
【0106】
未修飾ゼラチン(純ゼラチン)は37℃でゲル-ゾル転移を起こす。未修飾ゼラチンからなるハイドロゲル直方体粒子は未修飾ゼラチンの水溶液から作製した。未修飾ゼラチンをPBSとDMEMの混合溶液(体積比1:1)に溶かし、5(w/v)%のゼラチン溶液を作製した。本ゼラチン溶液を孔径0.22μmのフィルターメンブレンで濾過滅菌した。ゼラチン溶液を枠スペースが100mm×20mm×300μmのシリコーンゴム枠の空間にピペットで注入し、4℃でゲル化させた。形成した未修飾ゼラチンハイドロゲルを網目サイズ250μm×250μmのナイロンメッシュに押し当てることによって、サイズが250×250×300μmの未修飾ゼラチンのハイドロゲル直方体粒子に切断加工した。切断後の様子を光学顕微鏡で観察した。観察結果を
図9に示す。
【0107】
図9は、ゼラチンハイドロゲルからなる直方体粒子の様子を示す光学顕微鏡写真である。
【0108】
図9によれば、直方体粒子は、250×250×300μmを有することが分かった。
【0109】
次に、実施例3と同様の手順で、ゼラチン二次修飾体(10%、w/v)と光重合開始剤(0.5%、w/v)との水溶液を調製し、これに調製した軟骨細胞を懸濁させ、ゼラチン二次修飾体と光重合開始剤とを含有する軟骨細胞の細胞懸濁液を調製した。軟骨細胞の細胞懸濁液にゼラチンハイドロゲルからなる直方体粒子を添加した混合物を調製した。ここで、細胞懸濁液とハイドロゲル直方体粒子とが2:1(v/w)になるように混合し、混合物を25℃に保持した。
【0110】
厚さ1.5mmのシリコーンゴム枠で隔てた2枚の石英カバーガラスの間に前記混合物をピペットで注入し、25℃に保持し、紫外線を5分間照射した。これによりゼラチンハイドロゲルは架橋重合した。次いで、生成物を37℃に保持し、ゲル粒子を溶解させた。架橋バルクハイドロゲルには細胞を含み、直方体粒子には細胞を含まない架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体を作製した。この架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体を直径6mmのディスク状に切断した。架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の外観を観察した。観察結果を
図10に示す。
【0111】
図10は、実施例4による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の外観を示す写真である。
【0112】
図10によれば、得られた架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体は、培養直前は、透明で均一であった。次いで、細胞培養T-フラスコ中で60rpmの速度で振とうしながら4週間培養を行った。培地は、2日おきに交換した。全ての工程は無菌状態で行われた。
【0113】
架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体中の軟骨細胞のバイアビリティーを実施例3と同様の手順で評価し、染色した細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。観察結果を
図11に示す。
【0114】
図11は、実施例4による軟骨細胞を内包した架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体における細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す図である。
【0115】
図11(a)は培養直前、(b)は4週間培養後の細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す。
図11によれば、細胞を内包した直後、すなわち培養直前にはわずかな死細胞(図中矢印で示す)が検出されたが、4週間培養後には死細胞は検出されなかった。特に、架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体作製直後には軟骨細胞はバルク部分にのみに観察されたが、4週間培養後には空孔にも観察された。また、
図11(b)によれば、軟骨細胞は凝集していることが確認された。
【0116】
さらに、実施例4の架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体をin vitroで1日間培養した後、ヌードマウスの背中皮下に4週間埋植し、軟骨組織の再生を行った。再生後の様子を
図12に示す。
【0117】
図12は、実施例4による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体で再生した軟骨組織の外観を示す写真である。
【0118】
図10と
図12との比較からわかるように、全体に光沢のある軟骨組織が再生された。
【0119】
<実施例5>
実施例5では、実施例1で合成したゼラチン二次修飾体を用いて、
図3のプロシージャEに基づいて、軟骨細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル(
図3の340)を製造した。実施例5では、細胞を内包する、純粋な未修飾ゼラチンからなるハイドロゲル直方体粒子を架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の造孔剤として用いた。
【0120】
実施例4と同様に、未修飾ゼラチンをPBSとDMEMが体積比1:1の割合での混合溶液に溶解し、5(w/v)%のゼラチン溶液を作製した。本ゼラチン溶液を孔径0.22μmのフィルターメンブレンで濾過滅菌した。このゼラチン溶液に軟骨細胞を懸濁し、細胞懸濁液を調製した。細胞懸濁液の細胞濃度は4×10
7cells/mLであった。ゼラチン溶液の細胞懸濁液を100mm×20mm×300μmのシリコーンゴム枠の空間にピペットで注入し、4℃でゲル化した。形成した、軟骨細胞を内包した未修飾ゼラチンのハイドロゲルを網目サイズ250μm×250μmのナイロンメッシュに押し当てることによって、サイズが250×250×300μmの軟骨細胞内包化未修飾ゼラチンのハイドロゲル直方体粒子に切断加工した。切断後の様子を光学顕微鏡で観察した。観察結果を
図13に示す。
【0121】
図13は、ゼラチンハイドロゲルからなる直方体粒子の様子を示す光学顕微鏡写真である。
【0122】
図13によれば、直方体粒子は、250×250×300μmを有することが分かった。
【0123】
次に、実施例2と同様の手順で、ゼラチン二次修飾体と光重合開始剤とを含有する水溶液を調製し、これに実施例4と同様の手順で軟骨細胞内包ハイドロゲル直方体粒子を添加した混合物を調製し(混合割合は2:1(v/w)であった)、25℃に保持した。
【0124】
厚さ1.5mmのシリコーンゴム枠で隔てた2枚の石英カバーガラスの間に前記混合物をピペットで注入し、25℃に保持し、紫外線を5分間照射した。これによりゼラチンハイドロゲルは架橋重合した。次いで、生成物を37℃に保持し、ゲル粒子を溶解させた。このようにして、架橋バルクハイドロゲルには細胞を含まず、ハイドロゲル直方体粒子には細胞を含む架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体を作製した。このゼラチンハイドロゲルを直径6mmのディスク状に切断した。架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の外観を観察した。観察結果を
図14に示す。
【0125】
図14は、実施例5による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の外観を示す写真である。
【0126】
図14によれば、得られた架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体は、培養直前は、透明で均一であった。次いで、実施例4と同様の条件で細胞培養を行い、架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体中の軟骨細胞のバイアビリティーを実施例3と同様の手順で評価し、染色した細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。観察結果を
図15に示す。
【0127】
図15は、実施例5による軟骨細胞を内包した架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体における細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す図である。
【0128】
図15(a)は培養直前、(b)は4週間培養後の細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す。
図15によれば、細胞を内包した直後、すなわち培養直前にはわずかな死細胞(図中矢印で示す)が検出されたが、4週間培養後には死細胞は検出されなかった。特に、架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体作製直後にも4週間培養した後でも、軟骨細胞は架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の空孔のみで観察された。また、
図15(b)によれば、軟骨細胞は凝集していることが確認された。
【0129】
さらに、実施例4と同様に、実施例5の架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体をin vitroで1日間培養した後、ヌードマウスの背中皮下に4週間埋植し、軟骨組織の再生を行った。再生後の様子を
図16に示す。
【0130】
図16は、実施例5による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体で再生した軟骨組織の外観を示す写真である。
【0131】
図14と
図16との比較からわかるように、全体に光沢のある軟骨組織が再生された。
【0132】
<実施例6>
実施例6では、実施例1で合成したゼラチン二次修飾体を用いて、
図3のプロシージャFに基づいて、軟骨細胞を内包する架橋ゼラチンハイドロゲル(
図3の340)を製造した。実施例6では、実施例5と同様に、細胞を内包する、純粋な未修飾ゼラチンからなるハイドロゲル直方体粒子を架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の造孔剤として用いた。
【0133】
実施例3と同様の手順で、ゼラチン二次修飾体(10%、w/v)と光重合開始剤(0.5%、w/v)との水溶液を調製し、これに調製した軟骨細胞を懸濁させ、ゼラチン二次修飾体と光重合開始剤とを含有する軟骨細胞の細胞懸濁液を調製した。ここで、細胞懸濁液の細胞濃度は1.34×107cells/mLであった。次いで、実施例5と同様の手順で、軟骨細胞内包ハイドロゲル直方体粒子を添加した混合物を調製(混合割合は2:1(v/w)であった)し、25℃に保持した。ここで、直方体粒子を作製するための細胞懸濁液の細胞濃度は1.33×107cells/mLであった。
【0134】
厚さ1.5mmのシリコーンゴム枠で隔てた2枚の石英カバーガラスの間に前記混合物をピペットで注入し、25℃に保持し、紫外線を5分間照射した。これによりゼラチンハイドロゲルは架橋重合した。次いで、生成物を37℃に保持し、ゲル粒子を溶解させた。このようにして、架橋バルクハイドロゲルにも、ハイドロゲル直方体粒子にも細胞を含む架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体を作製した。このゼラチンハイドロゲルを直径6mmのディスク状に切断した。架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の外観を観察した。観察結果を
図17に示す。
【0135】
図17は、実施例6による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体の外観を示す写真である。
【0136】
図17によれば、得られた架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体は、培養直前は、透明で均一であった。次いで、実施例4と同様の条件で細胞培養を行い、架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体中の軟骨細胞のバイアビリティーを実施例3と同様の手順で評価し、染色した細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。観察結果を
図18に示す。
【0137】
図18は、実施例6による軟骨細胞を内包した架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体における細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す図である。
【0138】
図18(a)は培養直前、(b)は4週間培養後の細胞の生死染色の蛍光顕微鏡像を示す。
図18によれば、細胞を内包した直後、すなわち培養直前にはわずかな死細胞(図中矢印で示す)が検出されたが、4週間培養後には死細胞は検出されなかった。特に、架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体作製直後には、軟骨細胞はハイドロゲル多孔体のバルク部位と空孔の両方で観察され、均一に分布していたが、4週間培養後、空孔内の軟骨細胞は凝集した。
【0139】
さらに、実施例4と同様に、実施例6の架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体をin vitroで1日間培養した後、ヌードマウスの背中皮下に4週間埋植し、軟骨組織の再生を行った。再生後の様子を
図19に示す。
【0140】
図19は、実施例6による架橋ゼラチンハイドロゲル多孔体で再生した軟骨組織の外観を示す写真である。
【0141】
図17と
図19との比較からわかるように、全体に光沢のある軟骨組織が再生された。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明のゼラチン誘導体(ゼラチン二次修飾体)は、アミノ基がメタクリロイル基と結合し、ゼラチンが有するヒドロキシ基及びカルボキシル基がメタクリロイルグリセリルエステル基と結合しており、紫外線照射により架橋重合できる反応性基が最大限に導入されている。本発明の架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体は、本発明のゼラチン誘導体を用いて製造されるので、力学強度が高く、形状安定性にすぐれている。これにより、荷重部位へのインジェクタブルゲルとしての用途に加え、生体組織工学的手法による組織再生にも用いることが可能である。しかも、ハイドロゲルのバルクにも空孔にも細胞を播種することができるため、より効率よい組織再生が可能となり、治癒期間の短縮が期待できる。よって、本発明の架橋ゼラチンハイドロゲル及びその多孔体は、組織欠損を治療するのに極めて有用である。
【符号の説明】
【0143】
100 ゼラチン誘導体
110 ゼラチン
120 メタクリロイル基
130 メタクリロイルグリセリルエステル基