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特許7050333抗IgM/B細胞表面抗原二重特異性抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】抗IgM/B細胞表面抗原二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20220401BHJP
   C07K 16/42 20060101ALI20220401BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220401BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220401BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220401BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220401BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220401BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/42
C07K16/28
A61P43/00 105
A61P35/00
A61K39/395 N
A61K39/395 T
C12N15/13
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019507041
(86)(22)【出願日】2018-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2018011877
(87)【国際公開番号】W WO2018174274
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2017060131
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591163694
【氏名又は名称】全薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 泰且
(72)【発明者】
【氏名】大橋 隆博
(72)【発明者】
【氏名】宮下 仁志
(72)【発明者】
【氏名】建部 聡子
(72)【発明者】
【氏名】榎並 淳平
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】The Journal of Immunology ,2003年,Vol. 170,P. 2695-2701
【文献】The Journal of Immunology,2004年,Vol. 173,P. 4736-4743
【文献】The Journal of Immunology ,2005年,Vol. 175,P. 6143-6154
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00 ー 19/00
A61P 43/00
A61P 35/00
A61K 39/395
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgMと、HLA-DR、CD20、CD32b、CD37、CD38、CD52、CD81、BAFF受容体、BCMA及びTACIからなる群より選択されるB細胞表面抗原に結合する二重特異性抗体。
【請求項2】
前記IgMに結合する第一の抗原結合部位と、前記B細胞表面抗原に結合する第二の抗原結合部位とを含むものである、請求項1記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である、請求項1又は2記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
下記(i)~(vi)のいずれかの重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3と、下記(vii)~(xvi)のいずれかの重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3を含むものである、請求項1~のいずれか1項記載の二重特異性抗体。
(i)配列番号1~6のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(ii)配列番号48~53のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(iii)配列番号60~65のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(iv)配列番号66~71のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(v)配列番号72~77のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(vi)配列番号78~83のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(vii)配列番号7~12のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(viii)配列番号13~18のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(ix)配列番号19~24のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(x)配列番号25及び26、FDY、並びに配列番号27~29のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(xi)配列番号30~35のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(xii)配列番号36~41のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(xiii)配列番号42~47のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(xiv)配列番号84~89のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(xv)配列番号90~95のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
(xvi)配列番号96~101のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3
【請求項5】
上記(i)及び(vii)、(i)及び(viii)、(i)及び(ix)、(i)及び(x)、(i)及び(xi)、(i)及び(xii)、(i)及び(xiii)、(i)及び(xiv)、(i)及び(xv)、(i)及び(xvi)、(ii)及び(vii)、(iii)及び(vii)、(iv)及び(vii)、(v)及び(vii)、並びに(vi)及び(vii)のいずれかの重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3を含む、請求項1~4のいずれか1項記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
B細胞の増殖を阻害するものである、請求項1~5のいずれか1項記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載の二重特異性抗体を含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項記載の二重特異性抗体を有効成分として含有することを特徴とするB細胞関連疾患治療剤。
【請求項9】
前記B細胞関連疾患がB細胞性腫瘍である、請求項8記載のB細胞関連疾患治療剤。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項記載の二重特異性抗体の、B細胞関連疾患治療剤製造のための使用。
【請求項11】
前記B細胞関連疾患がB細胞性腫瘍である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
B細胞関連疾患の治療に用いるための、請求項1~6のいずれか1項記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
前記B細胞関連疾患がB細胞性腫瘍である、請求項12記載の二重特異性抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgM及びB細胞表面抗原に結合する抗IgM/B細胞表面抗原二重特異性抗体及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンM(IgM)は、抗体及びこれと構造や機能上の関連をもつタンパク質である免疫グロブリンのクラスの1種で、膜結合型と分泌型が存在する。膜結合型IgMは、B細胞受容体として適応免疫に関与する主なリンパ球であるB細胞に特異的に発現し、B細胞の生死に関与している。抗原がB細胞受容体に結合すると、B細胞は増殖し、その一部は形質細胞に分化し、形質細胞は大量の分泌型IgMを分泌する。分泌型IgMは、5又は6量体を形成し、血中に大量に存在(0.4~2.8mg/ml)し、免疫の初期応答に寄与している。
【0003】
IgMに対する抗IgMモノクローナル抗体は、in vitroでは、B細胞性腫瘍細胞株の細胞増殖を阻害し、アポトーシスを誘導することが知られている(非特許文献1、2及び3)。
【0004】
抗体を用いたがん治療は、21世紀にはいって遺伝子工学によるヒト化や改変抗体などの技術の進歩とあいまって、有効な治療法として受け入れられるようになってきている。近年、多くの抗体医薬が上市され、新たな抗体医薬の開発も進められている。このうち、がんを直接標的とした抗体医薬は、多種多様な抗原を標的抗原とし、抗体依存性細胞介在性細胞傷害活性(antibody dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)、補体依存性細胞傷害活性(complement dependent cytotoxicity:CDC)、増殖シグナル伝達阻害、抗体薬物複合体の薬物による細胞傷害活性といった作用機序により抗腫瘍効果を示す分子標的薬として有用である。
【0005】
一方、膜結合型IgMを発現するB細胞性腫瘍は予後不良であるという報告があり(非特許文献4及び5)、膜結合型IgMが治療のターゲットになり得ると推測される。しかしながら、これまでのところ、抗IgMモノクローナル抗体はB細胞性腫瘍の治療薬として実用化されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Carey,G.B.,et al.,Cell Res.,17(11):942-955,2007.
【文献】Besnault,L.,et al.,J.Immunol.,167(2):733-740,2001.
【文献】Mongini,P.A.,et al.,Blood,92(10):3756-3771,1998.
【文献】Miyazaki,K.,et al.,Br.J.Haematol.,142(4):562-570,2008.
【文献】Cutrona,G.,et al.,ABSSUB-4465,19th Congress of the European Hematology Association,2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の抗IgMモノクローナル抗体は、生体に投与された場合、血中に大量に存在する分泌型IgMと結合して中和されてしまい、膜結合型IgMを発現するB細胞との結合性が十分とは言えなかった。そのため、分泌型IgM存在下で膜結合型IgMを発現するB細胞に結合して増殖阻害効果を発揮するには、抗IgMモノクローナル抗体を大量に投与しなければならなかった。
従って、本発明の課題は、血中の分泌型IgM存在下であっても、B細胞表面の膜結合型IgMに結合し、当該B細胞との結合活性が高く、さらに当該B細胞に対し増殖阻害効果を発揮する抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、B細胞表面の膜結合型IgMとの結合活性が高い抗体を作製すべく種々検討したところ、IgM及びB細胞表面抗原に対する二重特異性抗体が、大量の分泌型IgMの存在下であっても、B細胞表面の膜結合型IgMに結合し、当該B細胞との結合活性が高く、さらに当該B細胞に対し優れた細胞増殖阻害効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔15〕を提供するものである。
〔1〕IgM及びB細胞表面抗原に結合する二重特異性抗体。
〔2〕前記IgMに結合する第一の抗原結合部位と、前記B細胞表面抗原に結合する第二の抗原結合部位とを含むものである、〔1〕記載の二重特異性抗体。
〔3〕前記B細胞表面抗原がHLA-DR、CD20、CD32b、CD37、CD38、CD52、CD81、BAFF受容体、BCMA及びTACIからなる群より選択されるものである、〔1〕又は〔2〕に記載の二重特異性抗体。
〔4〕キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の二重特異性抗体。
〔5〕抗体の可変領域が下記(a)~(f)の重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3並びに下記(g)~(l)の重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3を含むものである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の二重特異性抗体。
(a)配列番号1、48、60、66、72及び78からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号1、48、60、66、72及び78からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号1、48、60、66、72及び78からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR1
(b)配列番号2、49、61、67、73及び79からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号2、49、61、67、73及び79からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号2、49、61、67、73及び79からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR2
(c)配列番号3、50、62、68、74及び80からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号3、50、62、68、74及び80からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号3、50、62、68、74及び80からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR3
(d)配列番号4、51、63、69、75及び81からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号4、51、63、69、75及び81からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号4、51、63、69、75及び81からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1
(e)配列番号5、52、64、70、76及び82からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号5、52、64、70、76及び82からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号5、52、64、70、76及び82からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2
(f)配列番号6、53、65、71、77及び83からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号6、53、65、71、77及び83からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号6、53、65、71、77及び83からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3
(g)配列番号7、13、19、25、30、36、42、84、90及び96からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号7、13、19、25、30、36、42、84、90及び96からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号7、13、19、25、30、36、42、84、90及び96からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR1
(h)配列番号8、14、20、26、31、37、43、85、91及び97からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号8、14、20、26、31、37、43、85、91及び97からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号8、14、20、26、31、37、43、85、91及び97からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR2
(i)配列番号9、15、21、FDY、32、38、44、86、92及び98からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号9、15、21、FDY、32、38、44、86、92及び98からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号9、15、21、FDY、32、38、44、86、92及び98からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR3
(j)配列番号10、16、22、27、33、39、45、87、93及び99からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号10、16、22、27、33、39、45、87、93及び99からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号10、16、22、27、33、39、45、87、93及び99からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1
(k)配列番号11、17、23、28、34、40、46、88、94及び100からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号11、17、23、28、34、40、46、88、94及び100からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号11、17、23、28、34、40、46、88、94及び100からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2
(l)配列番号12、18、24、29、35、41、47、89、95及び101からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号12、18、24、29、35、41、47、89、95及び101からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号12、18、24、29、35、41、47、89、95及び101からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3
〔6〕B細胞の増殖を阻害するものである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の二重特異性抗体。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の二重特異性抗体を含有することを特徴とする医薬組成物。
〔8〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の二重特異性抗体を有効成分として含有することを特徴とするB細胞関連疾患治療剤。
〔9〕前記B細胞関連疾患がB細胞性腫瘍である、〔8〕記載のB細胞関連疾患治療剤。
〔10〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の二重特異性抗体の、B細胞関連疾患治療剤製造のための使用。
〔11〕前記B細胞関連疾患がB細胞性腫瘍である、〔10〕記載の使用。
〔12〕B細胞関連疾患の治療に用いるための、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の二重特異性抗体。
〔13〕前記B細胞関連疾患がB細胞性腫瘍である、〔12〕記載の二重特異性抗体。
〔14〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の二重特異性抗体の有効量を投与することを特徴とする、B細胞関連疾患の治療方法。
〔15〕前記B細胞関連疾患がB細胞性腫瘍である、〔14〕記載のB細胞関連疾患治療方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗IgM/B細胞表面抗原二重特異性抗体は、大量の分泌型IgM存在下であっても、B細胞表面の膜結合型IgMに結合し、当該B細胞との結合活性が高いという特徴を有する。また、副作用が少ない。従って、本発明の二重特異性抗体をB細胞関連疾患、特にB細胞性腫瘍患者に投与した場合、血中の分泌型IgMで中和されることなく、標的のB細胞表面の膜結合型IgMに結合し、当該B細胞に対し細胞増殖阻害活性を発揮することが可能となる。すなわち、B細胞性腫瘍増殖阻害活性を発揮することが可能となる。よって、抗体の大量投与に伴う患者の負担、医療費の増大等の問題も回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】HH細胞膜表面上のIgM分子数及びHLA-DR分子数を示すグラフである。
図2】抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)及び抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体のIgM及びHLA-DRに対する結合性を示すグラフである。縦軸は平均蛍光強度(MFI)を、横軸は抗体濃度を示す。
図3】抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図4】抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM抗体(1)と抗HLA-DR抗体(1)の併用、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図5】抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図6】ヒト血清非存在下(左グラフ)又は存在下(右グラフ)での抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は細胞生存率を示す。
図7】抗IgM抗体(1)、抗CD20抗体(1)、抗IgM(1)/CD20(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図8】抗IgM抗体(1)、抗CD20抗体(2)、抗IgM(1)/CD20(2)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図9】抗IgM抗体(1)、抗CD20抗体(1)、抗IgM(1)/CD20(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図10】ヒト血清非存在下(左グラフ)又は存在下(右グラフ)での抗IgM抗体(1)、抗CD20抗体(1)、抗IgM(1)/CD20(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は細胞生存率を示す。
図11】抗IgM抗体(1)、抗CD52抗体、抗IgM(1)/CD52二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図12】分泌型IgM非存在下(各左のチャート)又は存在下(各右のチャート)で抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照がJeKo-1細胞の細胞周期に与える影響を示す図である。
図13】ヒト血清非存在下(各左のチャート)又は存在下(各右のチャート)で抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照がJeKo-1細胞の細胞周期に与える影響を示す図である。
図14】抗IgM抗体、抗HLA-DR抗体(1)及び抗IgM/HLA-DR(1)二重特異性抗体がラットB細胞数に与える影響を示す図である。
図15】抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体がサル血中B細胞数に与える影響を示す図である。
図16】抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体がサル血中T細胞数に与える影響を示す図である。
図17】抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体がサル血中赤血球数に与える影響を示す図である。
図18】抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体がサル血中血小板数に与える影響を示す図である。
図19】抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体がサル体温に与える影響を示す図である。
図20】抗IgM抗体(2)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(2)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図21】抗IgM抗体(3)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(3)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図22】抗IgM抗体(4)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(4)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図23】抗IgM抗体(5)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(5)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図24】抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(2)、抗IgM(1)/HLA-DR(2)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図25】抗IgM抗体(1)、抗CD38抗体、抗IgM(1)/CD38二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図26】抗IgM抗体(1)、抗CD81抗体、抗IgM(1)/CD81二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性を示すグラフである。縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
図27】抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のRamos細胞に対するアポトーシス誘導作用を示すグラフである。縦軸はアポトーシス誘導率を示す。
図28】抗IgM抗体(1)、抗CD20抗体(2)、抗IgM(1)/CD20(2)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のRamos細胞に対するアポトーシス誘導作用を示すグラフである。縦軸はアポトーシス誘導率を示す。
図29】抗IgM抗体(1)、抗CD38抗体、抗IgM(1)/CD38二重特異性抗体及び陰性対照抗体のRamos細胞に対するアポトーシス誘導作用を示すグラフである。縦軸はアポトーシス誘導率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「二重特異性抗体」とは、異なる抗原に結合可能な少なくとも2つの抗原結合部位を有するモノクローナル抗体のことを指す。具体的には、「二重特異性抗体」とは、例えば、第一の抗体の重鎖の可変領域と第一の抗体の軽鎖の可変領域から形成される第一の抗原結合部位と、第二の抗体の重鎖の可変領域と第二の抗体の軽鎖の可変領域から形成される第二の抗原結合部位とを少なくとも1つずつ含み、異なる二種の抗原認識能を有するタンパク質を意味する。
【0013】
二重特異性抗体の形態としては、特に限定されず、当該技術分野で公知の形態のいずれであってもよいし、二種の抗原に対する特異性を保持している限り、それ以外の形態であってもよい。二重特異性抗体の形態は、IgG様型と低分子型に大別される。IgG様型とは、Fc領域を保持した形態である。IgG様型抗体の形態としては、これらに限定されるものではないが、CrossMab、DAF(two-in-one)、DAF(four-in-one)、DutaMab、DT-IgG、knobs-into-holes、knobs-into-holes common LC、SEEDbody、Triomab、κλ-body、DVD-Ig、IgG-scFv、DuoBody等が挙げられる。IgG様型抗体では、Fc領域を保持しているため、ADCCやCDCといったエフェクター機能の発揮、精製の容易化、安定性の改善、血中半減期の延長が期待される。一方、低分子型とは、通常、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とからなるFv領域を基本の構成要素とした形態である。低分子型抗体の形態としては、これらに限定されるものではないが、Diabody(Db)、BiTE、DART、TandAb、scDb、triple body、miniantibody、minibody、scFv、tandem scFv、F(ab’)2、ロイシンジッパー等が挙げられる。低分子型では、その大きさから、組織透過性の向上や生産性の高さが期待される。その他、抗原との結合能を保持したままアミノ酸配列を欠失、置換若しくは付加させたもの、糖鎖の一部又は全部を欠失又は付加させたもの、リンカー等が付加したもの、他のタンパク質と融合させたもの、抗体と低分子医薬とをリンカーを介して結合した抗体薬物複合体(ADC)等の改変抗体も包含される。本発明の抗IgM/B細胞表面抗原二重特異性抗体(以下、単に本発明の二重特異性抗体とも称す)の形態は、使用目的、製造の容易性等を考慮して適宜選択すればよいが、B細胞に対する細胞傷害活性の点から、Fc領域を保持していることが好ましい。
【0014】
本発明の二重特異性抗体は、IgMに結合する第一の抗原結合部位と、B細胞表面抗原に結合する第二の抗原結合部位とを含むことを特徴とする。
ここで、IgMとは免疫グロブリンMを指す。IgMが由来する動物種は特に限定されないが、例えば、ヒトや、サル、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ等といった非ヒト動物が挙げられ、このうちヒトが好ましい。IgMに対する第一の特異性は、好ましくは、IgMに対する抗体に由来する部位により発現され、より好ましくは、IgMに対する抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域に由来する部位により発現され、さらに好ましくは、IgMに対する抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域により形成される抗原結合部位により発現されるものである。
一方、B細胞表面抗原とは、膜結合型IgM以外のB細胞表面に発現する抗原であればよく、特に限定されないが、好ましくはB細胞関連疾患に罹患した生体のB細胞で発現している抗原であり、さらに好ましくはB細胞性腫瘍に罹患した生体のB細胞で発現している抗原である。B細胞表面抗原が由来する動物種は特に限定されないが、例えば、ヒトや、サル、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ等といった非ヒト動物が挙げられ、このうちヒトが好ましい。B細胞表面抗原としては、具体的には、HLA-DR、HLA-DQ、HLA-DP、CD5、CD10、CD19、CD20、CD22、CD23、CD24、CD28、CD32b、CD37、CD38、CD40、CD43、CD45RA、CD45RO、CD52、CD53、CD54、CD72、CD73、CD74、CDw75、CDw76、CD77、CDw78、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD82、CD83、CDw84、CD85、CD86、CD138、CD272、BAFF受容体、BCMA、TACI、PD-1等が挙げられ、HLA-DR、CD20、CD32b、CD37、CD38、CD52、CD81、BAFF受容体、BCMA及びTACIが好ましく、HLA-DR、CD20、CD32b、CD37、CD38、CD52及びCD81がより好ましく、HLA-DR、CD20、CD38、CD52及びCD81がさらに好ましい。B細胞表面抗原に対する第二の特異性は、好ましくは、B細胞表面抗原に対する抗体に由来する部位により発現され、より好ましくは、B細胞表面抗原に対する抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域に由来する部位により発現され、さらに好ましくは、B細胞表面抗原に対する抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域により形成される抗原結合部位により発現されるものである。
【0015】
具体的には、本発明の二重特異性抗体は、第一の特異性を有する抗IgM抗体の重鎖の可変領域を含むポリペプチド、当該抗IgM抗体の軽鎖の可変領域を含むポリペプチド、第二の特異性を有する抗B細胞表面抗原抗体の重鎖の可変領域を含むポリペプチド及び当該抗B細胞表面抗原抗体の軽鎖の可変領域を含むポリペプチドを含む。より具体的には、第一の特異性を有する抗IgM抗体の重鎖の可変領域の相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチド、当該抗IgM抗体の軽鎖の可変領域のCDRを含むポリペプチド、第二の特異性を有する抗B細胞表面抗原抗体の重鎖の可変領域のCDRを含むポリペプチド及び当該抗B細胞表面抗原抗体の軽鎖の可変領域のCDRを含むポリペプチドを含む。
CDRとは、抗体間で配列が大きく異なる可変領域内の配列で、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域にそれぞれ3つのCDRがあり、これらが組み合わさって抗原結合部位を形成し、抗原特異性を決定する。CDRは、Kabat(Kabat,E.A.,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th edition,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.,1991.を参照のこと)の配列比較により定義される。Kabatにより定義されているように、重鎖CDR1は重鎖可変領域の31~35残基付近に、重鎖CDR2は50~65残基付近に、重鎖CDR3は95~102残基付近に位置し、軽鎖CDR1は軽鎖可変領域の24~34残基付近に、軽鎖CDR2は50~56残基付近に、軽鎖CDR3は89~97残基付近に位置する。
【0016】
本発明の二重特異性抗体において、IgMに対する第一の特異性に寄与するCDRとしては、例えば、下記(a)~(f)に示す重鎖CDR1~CDR3及び軽鎖CDR1~CDR3が挙げられる。
(a)配列番号1、48、60、66、72及び78からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号1、48、60、66、72及び78からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号1、48、60、66、72及び78からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、
(b)配列番号2、49、61、67、73及び79からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号2、49、61、67、73及び79からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号2、49、61、67、73及び79からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、
(c)配列番号3、50、62、68、74及び80からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号3、50、62、68、74及び80からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号3、50、62、68、74及び80からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、
(d)配列番号4、51、63、69、75及び81からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号4、51、63、69、75及び81からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号4、51、63、69、75及び81からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、
(e)配列番号5、52、64、70、76及び82からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号5、52、64、70、76及び82からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号5、52、64、70、76及び82からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、
(f)配列番号6、53、65、71、77及び83からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号6、53、65、71、77及び83からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号6、53、65、71、77及び83からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3。
【0017】
また、本発明の二重特異性抗体において、B細胞表面抗原に対する第二の特異性に寄与するCDRとしては、例えば、下記(g)~(l)に示す重鎖CDR1~CDR3及び軽鎖CDR1~CDR3が挙げられる。
(g)配列番号7、13、19、25、30、36、42、84、90及び96からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号7、13、19、25、30、36、42、84、90及び96からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号7、13、19、25、30、36、42、84、90及び96からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、
(h)配列番号8、14、20、26、31、37、43、85、91及び97からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号8、14、20、26、31、37、43、85、91及び97からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号8、14、20、26、31、37、43、85、91及び97からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、
(i)配列番号9、15、21、FDY、32、38、44、86、92及び98からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号9、15、21、FDY、32、38、44、86、92及び98からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号9、15、21、FDY、32、38、44、86、92及び98からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、
(j)配列番号10、16、22、27、33、39、45、87、93及び99からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号10、16、22、27、33、39、45、87、93及び99からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号10、16、22、27、33、39、45、87、93及び99からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、
(k)配列番号11、17、23、28、34、40、46、88、94及び100からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号11、17、23、28、34、40、46、88、94及び100からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号11、17、23、28、34、40、46、88、94及び100からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、
(l)配列番号12、18、24、29、35、41、47、89、95及び101からなる群より選択されるアミノ酸配列、配列番号12、18、24、29、35、41、47、89、95及び101からなる群より選択されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号12、18、24、29、35、41、47、89、95及び101からなる群より選択されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3。
【0018】
上記(a)~(l)のCDRを有する二重特異性抗体の好適な具体例としては、後記実施例で示す、表1記載の配列番号のアミノ酸配列からなるCDRを有する抗IgM/HLA-DR二重特異性抗体、抗IgM/CD20二重特異性抗体、抗IgM/CD32b二重特異性抗体、抗IgM/CD37二重特異性抗体、抗IgM/CD38二重特異性抗体、抗IgM/CD52二重特異性抗体、抗IgM/CD81二重特異性抗体及び抗IgM/BCMA二重特異性抗体や、抗IgM/BAFF受容体二重特異性抗体及び抗IgM/TACI二重特異性抗体が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
【表1】
【0020】
上記(a)~(l)において、アミノ酸配列の同一性は、85%以上であるが、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。また、上記のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加の数は、1~10個が好ましく、1~5個がより好ましく、1~3個がさらに好ましい。配列番号1~53及び60~101のいずれかに示すアミノ酸配列又はFDYからなるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるCDRや、配列番号1~53及び60~101のいずれかに示すアミノ酸配列又はFDYからなるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を有するアミノ酸配列からなるCDRは、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、チェーンシャフリング法、CDRウォーキング法などの公知の方法を用いて作製され得る。
【0021】
アミノ酸配列の同一性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときに両方の配列において同一のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。例えば、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYX(ゼネティックス)を用いたLipman-Pearson法(Lipman,D.J. and Pearson,W.R.,Science,227(4693):1435-1441,1985.)によるホモロジー解析(Search homology)プログラムを用い、パラメーターUnit Size to compareを2として算出できる。
【0022】
「アミノ酸」とは、その最も広い意味で用いられ、天然のアミノ酸のみならずアミノ酸変異体及び誘導体といったような非天然アミノ酸を含む。当業者であれば、この広い定義を考慮して、本明細書におけるアミノ酸として、例えば、天然タンパク原性L-アミノ酸;D-アミノ酸;アミノ酸変異体及び誘導体などの化学修飾されたアミノ酸;ノルロイシン、β-アラニン、オルニチンなどの天然非タンパク原性アミノ酸;及びアミノ酸の特徴である当該技術分野で公知の特性を有する化学的に合成された化合物などが挙げられる。非天然アミノ酸の例として、α-メチルアミノ酸(α-メチルアラニンなど)、D-アミノ酸、ヒスチジン様アミノ酸(2-アミノ-ヒスチジン、β-ヒドロキシ-ヒスチジン、ホモヒスチジン、α-フルオロメチル-ヒスチジン及びα-メチル-ヒスチジンなど)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸)及び側鎖中のカルボン酸官能基アミノ酸がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸など)が挙げられる。
【0023】
本発明の二重特異性抗体には、糖鎖付加等の修飾が加えられたものも含まれる。かかる抗体としては、例えば、Fc領域に1以上のN-結合型糖鎖が結合し、該N-結合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していない抗体が挙げられる。N-結合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンにはフコースが結合し得るが、このフコースが結合していない場合、結合している場合に比較してADCCが著しく上昇することが知られている。また、本発明の二重特異性抗体には、IgG1のCH2領域とCH3領域をそれぞれIgG3のCH2領域とCH3領域と入れ替えたIgG1/IgG3キメラ抗体といった改変抗体も含まれる。当該抗体の補体結合力は、IgG1及びIgG3よりも強く、高いCDCを有することが知られている。これら細胞傷害活性の向上により、抗体を医薬として用いる場合に投与量を少なくし、副作用を軽減させる効果と共に、治療費の低減が期待できる。
【0024】
本発明の二重特異性抗体のイムノグロブリンクラスは特に限定されるものではなく、IgG、IgM、IgA、IgE、IgD、IgYのいずれのイムノグロブリンクラスであってもよく、精製の容易性等を考慮すると好ましくはIgGである。また、本発明の二重特異性抗体はいずれのアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)の抗体をも包含するものである。
【0025】
本発明の二重特異性抗体は、非ヒト動物の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体のいずれであってもよい。非ヒト動物の抗体としては、例えば、サル、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ等の抗体を挙げることができ、好ましくはマウスの抗体である。
ここで、「キメラ抗体」とは、非ヒト動物由来であって抗原と特異的に結合する抗体の定常領域をヒトの抗体と同じ定常領域を有するように遺伝子工学的に改変した抗体のことであり、好ましくは、マウス抗体の可変領域をヒト抗体の定常領域に連結させたキメラ抗体である。また、「ヒト化抗体」とは、非ヒト動物由来であって抗原と特異的に結合する抗体の重鎖と軽鎖のCDR以外の一次構造をヒトの抗体に対応する一次構造に遺伝子工学的に改変した抗体のことである。また、「ヒト抗体」とは、完全にヒト由来の抗体遺伝子の発現産物である抗体を意味する。
【0026】
本発明の二重特異性抗体に第一の特異性を提供する抗体及び第二の特異性を提供する抗体は、公知の抗体であってもよいし、当該技術分野においてよく知られる任意の方法により作製することもできる。
【0027】
ポリクローナル抗体であれば、マウス等の動物の体内に免疫原及び必要に応じてアジュバントを複数回、皮下及び腹腔内等の適当な経路で注射することによって、動物の体内に生成せしめ、免疫した動物から抗体を含有する抗血清を単離し、ELISA、ウエスタンブロット、又はラジオイムノアッセイ等の当該技術分野においてよく知られる方法を用いて、所望の特異性を有する抗体の存在についてスクリーニングすることにより得ることができる。免疫原としては、IgM、B細胞表面抗原タンパク質、これらの部分ペプチド、これらの安定発現細胞等を用いることができる。
【0028】
一方、モノクローナル抗体であれば、Kohler,G. and Milstein,C.,Nature,256(5517):495-497,1975.により最初に記述されたハイブリドーマ法を使用して実質的に均質な抗体の母集団から得ることができる。具体的には、免疫した動物から脾臓細胞を採取し、ミエローマ細胞と融合させ、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を作製することにより得ることができる。ELISA、ウエスタンブロット、又はラジオイムノアッセイ等の当該技術分野においてよく知られる方法を用いて、目的とするタンパク質を認識する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選択する。所望の抗体を分泌するハイブリドーマをクローニングし、適切な条件下で培養し、分泌された抗体を回収し、当該技術分野においてよく知られる方法、例えばイオン交換カラム、アフィニティークロマトグラフィー等を用いて精製することができる。あるいは、モノクローナル抗体を組換えDNA法(米国特許第4,816,567号明細書)によって作製することもできる。
【0029】
抗体又はそれに含まれる可変領域等の各領域をコードする核酸は、当業者に公知の方法で取得し、その塩基配列を決定することができる。例えば、当該核酸は、文献記載の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することのできるオリゴヌクレオチドプローブ、あるいはプライマーを使用し、ハイブリダイゼーションにより、あるいはポリメラーゼチェインリアクション(PCR)により単離され得る。上記のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、こうした方法におけるDNAの供給源として使用することが出来る。なお、「核酸」とは、その化学構造及び取得経路に特に制限はなく、例えば、gDNA、cDNA、化学合成DNA及びmRNA等を含むものである。
単離したDNAは、発現ベクター中に導入される。次いでこれを、適当な宿主細胞にトランスフェクションすることで、該組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体又はそれに含まれる領域を発現させることができる。
【0030】
ここで、「発現ベクター」は、DNA(通常は二本鎖である)の断片をいい、該DNAは、その中に外来のDNAの断片を挿入せしめることができる。外来のDNAは、異種DNAとして定義され、このものは、対象宿主細胞においては天然では見出されないDNAである。ベクターは、外来DNAまたは異種DNAを適切な宿主細胞に導入するために使用される。一旦、宿主細胞中に入ると、ベクターは、宿主染色体DNAとは独立に複製することが可能であり、そしてベクター及びその挿入された外来DNAのいくつかのコピーが生成され得る。さらに、ベクターは外来DNAのポリペプチドへの翻訳を可能にするのに不可欠なエレメントを含む。従って、外来DNAによってコードされるポリペプチドの多くの分子を迅速に生合成することができる。
【0031】
このようなベクターは、適切な宿主中でDNA配列がコードするタンパク質を発現するように、適切な制御配列とそれが機能するように(即ち、外来DNAがコードするタンパク質を発現できるように)連結せしめられたDNA配列を含有するDNA構築物を意味している。そうした制御配列としては、転写させるためのプロモーター、そうした転写を制御するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードしている配列、エンハンサー、ポリアデニル化配列、及び転写や翻訳の終了を制御する配列等が挙げられる。更にベクターは、当業者に公知の各種の配列、例えば、制限酵素切断部位、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子(選択遺伝子)、シグナル配列、リーダー配列等を必要に応じて適宜含むことができる。これらの各種配列又は要素は、外来DNAの種類、使用する宿主細胞、培養培地等の条件に応じて、当業者が適宜選択して使用することができる。
【0032】
該ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、あるいは単純に宿主ゲノムへの挿入体等の任意の形態が可能である。一旦、適切な宿主の中に形質転換で導入されると、該ベクターは宿主のゲノムとは独立して複製及び機能するものであり得る。又は、該ベクターは宿主ゲノムの中に組み込まれるものであってもよい。
【0033】
PCR反応は、当該分野で公知の方法あるいはそれと実質的に同様な方法や改変法により行うことができるが、例えばSaiki,R.K.,et al.,Science,230(4732):1350-1354,1985.;Saiki,R.K.,et al.,Science,239(4839):487-491,1988.;Erlich,H.A.,ed.,PCR Technology,Stockton Press,New York,NY.,1989.;Glover,D.M. and Hames,B.D.,ed.,DNA Cloning,2nd edition,Vol.1,The Practical Approach Series,IRL Press,Oxford,UK,1995.;Innis,M.A.,et al.,ed.,PCR Protocols,Academic Press,New York,NY.,1990.;McPherson,M.J.,et al.,ed.,PCR,IRL Press,Oxford,UK,1991.;FrohmanM.A.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85(23),8998-9002,1988.などに記載された方法あるいはそれを改変した方法に従って行うことができる。また、PCR法は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者が提供する指図書に従って実施することもできる。
【0034】
ハイブリダイゼーションについては、Grossman,L.,et al.,ed.,Methods in Enzymology,Vol.29,Nucleic Acids and Protein Synthesis,Part E,Academic Press,New York,NY.,1974.などを参考にすることができる。DNAなど核酸の配列決定は、例えばSanger,F.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,74(12):5463-5467,1977.などを参考にすることができる。また一般的な組換えDNA技術は、Sambrook,J.,et al.,ed.,Molecular Cloning,2nd edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY.,1989.及びGlover,D.M. and Hames,B.D.,ed.,DNA Cloning,2nd edition.,Vol.1 to 4,The Practical Approach Series,IRL Press,Oxford,UK,1995.などを参考にできる。
【0035】
こうして取得された抗体又はそれに含まれる各領域をコードする核酸は、目的に応じて、当業者に公知の手段により適宜所望のペプチド又はアミノ酸をコードするように改変することができる。この様にDNAを遺伝子的に改変又は修飾する技術は、McPherson,M.J.,ed.,Mutagenesis,IRL Press,Oxford,UK,1991.において総説が収載されており、例えば、位置指定変異導入法(部位特異的変異導入法)、カセット変異誘発法及びPCR変異生成法を挙げることができる。
【0036】
ここで、核酸の「改変」とは、得られたオリジナルの核酸において、アミノ酸残基をコードする少なくとも一つのコドンにおける、塩基の挿入、欠失または置換を意味する。例えば、オリジナルのアミノ酸残基をコードするコドンを、別のアミノ酸残基をコードするコドンにより置換することによりポリペプチドを構成するアミノ酸配列自体を改変する方法がある。または、アミノ酸自体は変更せずに、その宿主細胞にあったコドン(至適コドン)を使用するように、核酸を改変することも出来る。このように至適コドンに改変することによって、宿主細胞内におけるポリペプチドの発現効率等の向上を図ることができる。
【0037】
宿主細胞としては当業者に公知の任意の細胞を使用することができるが、例えば、代表的な宿主細胞としては、大腸菌(E.coli)等の原核細胞、及び、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、ヒト由来細胞などの哺乳動物細胞、酵母、昆虫細胞等の真核細胞を挙げることができる。
【0038】
このような宿主細胞における発現等により得られた抗体分子は、一般に分泌されたポリペプチドとして培養培地から回収されるが、それが分泌シグナルを持たずに産生された場合には宿主細胞溶解物から回収することができる。
【0039】
抗体分子の精製操作は当業者に公知の任意の方法を適宜組み合わせて行うことができる。例えば、遠心分離、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、イオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロースクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン樹脂クロマトグラフィー(ポリアスパラギン酸カラム等)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、硫酸アンモニウム沈殿、及びアフィニティークロマトグラフィーによって好適に精製される。
【0040】
本発明の二重特異性抗体に第一の特異性を提供する抗体及び第二の特異性を提供する抗体は、非ヒト動物、例えばマウスの抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなるキメラ抗体であっても良い。この様な抗体は、例えば、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0041】
あるいは、当該抗体は、非ヒト動物、例えばマウスの抗体の重鎖、軽鎖のCDRをヒト抗体のCDRへ移植したものである、ヒト化抗体であってもよい。このヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP239400、国際特許出願公開番号WO96/02576)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、CDRが良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のFRのアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res.,53(4),851-856,1993.)。
【0042】
あるいは、当該抗体は、ヒト抗体であってもよい。ヒト抗体は、例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体をスクリーニングして得ることができる(特公平1-59878)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することもできる(WO93/12227,WO92/03918,WO94/02602,WO94/25585,WO96/34096,WO96/33735)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を組み込んだ適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047,WO92/20791,WO93/06213,WO93/11236,WO93/19172,WO95/01438,WO95/15388を参考にすることができる。さらには、チェイン・シャッフリング法(chain shuffling)によって高親和性(nMのオーダーの範囲)のヒト抗体を作出することができる(Marks,J.D.,et al.,Bio/Technol.,10(7):779-783,1992.)。極めて大きいファージライブラリーを構築するための手法として、組合せ感染(combinatorial infection)及びインビボ組換え(Waterhouse,P.,et al.,Nuc.Acids Res.,21(9):2265-2266,1993.)なども知られている。
【0043】
本発明の二重特異性抗体に第一の特異性を提供する抗体及び第二の特異性を提供する抗体の組み合わせは、非ヒト動物の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体のいずれの組み合わせであってもよい。
【0044】
本発明の二重特異性抗体は、当該技術分野で公知の種々の方法に従い作製することができる。IgG様型の二重特異性抗体の作製方法としては、例えば、モノクローナル抗体を産生する2種のハイブリドーマを融合させ、産生された抗体から目的の抗体を精製するクワドローマ法(Milestein,C. and Cuello,A.C.,Nature,305(5934):537-540,1983.等);2種の抗体のヒンジ領域のジスルフィド結合を還元後、同種での再会合を防ぐため化学的に処理をし、架橋剤により結合させることで目的の二重特異性抗体を得る化学合成による方法(Nitta,T.,et al.,Lancet,335(8686):368-371,1990.);第一の特異性を有する抗体の重鎖の遺伝子、軽鎖の遺伝子、第二の特異性を有する抗体の重鎖の遺伝子、及び軽鎖の遺伝子を細胞に導入して共発現させて目的の抗体を得る遺伝子組換え技術を利用した方法等が挙げられる。遺伝子組換え技術を利用した方法では、1種の遺伝子のみを含むベクターを4種類まとめて、または重鎖の遺伝子と軽鎖の遺伝子を含むベクターを2種類まとめて適当な宿主細胞にトランスフェクションすることで、該組換え宿主細胞中で二重特異性抗体を発現させることができる。なお、二重特異性抗体の産生、精製等は、上記した抗体の産生、精製等に準じて行えばよい。
【0045】
しかしながら、クワドローマ法や4種の遺伝子を共発現させる方法では、IgMに対する第一の特異性を有する抗体由来の重鎖と軽鎖が会合し、B細胞表面抗原に対する第二の特異性を有する抗体由来の重鎖と軽鎖が会合し、これらの重鎖同士が会合した目的の構造を有する抗体に加え、由来の異なる重鎖と軽鎖が会合した抗体、あるいは由来が同じ重鎖同士が会合した抗体など、合計10種の抗体分子が産生されてしまう。この場合、目的の抗体を得るためには、複雑な精製操作が必要となり、抗体産生量も十分でない。
【0046】
そこで、二重特異性抗体の製造方法において、精製を容易にする技術を適用することができる。かかる技術として、例えば、マウスとラット由来の重鎖と軽鎖が共存すると、異種間での会合は生じず、マウス由来のIgG2の重鎖がプロテインAに結合する一方ラット由来のIgG2はプロテインAにほとんど結合しないという特性を利用して、プロテインAカラムを用いて目的の抗体を精製する方法が知られている(WO98/050431)。あるいは、IgG1とIgG3のプロテインA結合能の差異を利用して効率的に目的の抗体を精製する方法も利用できる。
【0047】
また、由来の異なる重鎖間のヘテロな会合を促進する技術を適用することもできる。かかる技術として、例えば、一方の重鎖のCH3領域のアミノ酸を大きなアミノ酸に置換(knob変異)し、もう一方の重鎖のCH3領域の対応するアミノ酸を立体的に相補な小さなアミノ酸に置換(hole変異)することで、重鎖間のヘテロな会合を促進する方法が知られている(Ridgway,J.B.,et al.,Protein Eng.,9(7):617-621,1996)。重鎖のCH3領域の界面に電荷的な変異を導入し、重鎖間のヘテロな会合を促進する一方、ホモな会合は電荷の反発により阻害する方法も知られている(Gunasekaran,K.,et al.,J.Biol.Chem.,285(25):19637-19646,2010.)。あるいは、IgGとIgAのCH3領域のβ-ストランド部分を互いに組み合わせることで、重鎖間のヘテロな会合を促進する方法も知られている(Davis,J.H.,et al.,Protein Eng.Des.Sel.,23(4):195-202,2010.)。
【0048】
また、由来の異なる重鎖と軽鎖間の会合を回避する技術を適用することもできる。かかる技術として、例えば、由来の異なる重鎖に対し共通に会合可能な軽鎖をファージディスプレイ法で選択する方法が知られている(Merchant,A.M.,et al.,Nat.Biotechnol.,16(7):677-681,1998)。重鎖CH1領域と由来の同じ軽鎖CL領域を交換し、由来が同じ重鎖と軽鎖の会合を促進する方法も知られている(Schaefer,W.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,108(27):11187-11192,2011.)。1つの重鎖と1つの軽鎖からなる抗体の構成要素を2つの異なる宿主細胞で発現させ、これを精製し、in vitroでアッセンブルして二重特異性抗体を製造する方法も知られている(Jackman,J.,et al.,J.Biol.Chem.285(7):20850-20859,2010)。また、重鎖と軽鎖の間に非天然型ジスルフィド結合を導入して、重鎖と軽鎖の特定の組み合わせを有する抗体を効率よく製造する方法も知られている(WO2014/069647)。
【0049】
これら公知の技術は、単独で用いることも、2つ以上の技術を組み合わせて用いることもできる。また、これら公知の技術は、2種の重鎖に別々に適用してもよい。
【0050】
本発明の低分子型の二重特異性抗体の作製においては、基本構成単位として重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)をリンカーで結合した一本鎖Fv(scFv)が用いられることが多い。当該scFvにおけるVLとVHの配置は、N-末端側がVLでそれにリンカー、続いてVHと配置されているもの(VL-Linker-VH構築体)でも、N-末端側がVHでそれにリンカー、続いてVLと配置されているもの(VH-Linker-VL構築体)のいずれであってもよい。2種のscFvを共発現させることで、ダイアボディとして知られる二重特異性抗体を得ることができる(Holliger,P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90(14):6444-6448,1993.)。ダイアボディ以外の形態の低分子型二重特異性抗体についても、それぞれ当該技術分野で公知の方法に従って作製することができる。
【0051】
本発明の二重特異性抗体は、B細胞表面に存在する膜結合型IgMに結合し、当該B細胞との結合活性が高く、後記実施例に示す通り、大量の分泌型IgM存在下であっても、表面にIgMを発現するB細胞の細胞周期を停止させることにより、当該B細胞に対し優れた細胞増殖阻害活性を示す。また、本発明の二重特異性抗体は、後記実施例に示す通り、当該B細胞に対し優れたアポトーシス誘導作用を示す。抗IgM抗体がB細胞性腫瘍細胞株に対しアポトーシスを誘導することは知られているが、本発明の二重特異性抗体のアポトーシス誘導作用は、予想外にも、二重特異性抗体に第一の特異性を提供する抗IgM抗体及び第二の特異性を提供する抗B細胞表面抗原抗体のそれぞれのアポトーシス誘導作用よりも有意に強いものである。さらに、本発明の二重特異性抗体は、副作用が少ない。
本発明において、抗体と抗原の結合活性は、ELISA、フローサイトメトリー法、表面プラズモン共鳴(SPR)法等の公知の方法で測定することができる。ELISAを用いる場合、例えば、抗原をプレートに固定化し、プレートに本発明の二重特異性抗体を添加して反応させた後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素で標識した抗IgG抗体等の二次抗体を反応させ、発色基質(例えばTMB発色基質)を加えて吸光度を測定すればよい。フローサイトメトリー法を用いる場合、例えば、本発明の二重特異性抗体を、未標識の評価対象(例えば、個体、臓器、組織、細胞又はこれらの断片等を含む生物試料を指してよい)と結合させた後、蛍光色素結合二次抗体と反応させ、又は、本発明の二重特異性抗体に蛍光色素(例えば、Alexa Fluor647)を直接標識して、フローサイトメーターにて蛍光を検出すればよい。また、SPR法を用いれば、抗体と抗原の結合活性をより詳細に測定することができる。例えば、BIAcoreシステムを用い、センサーチップに抗原を固定化し、本発明の二重特異性抗体を含む溶液をセンサーチップ表面に一定時間供給し、その後緩衝液を供給して、本発明の二重特異性抗体と抗原の結合と解離をモニターし、結合速度定数(k)、解離速度定数(k)及び解離定数(K=k/k)を算出することができる。Kは親和性の指標であり、Kが小さいほど抗原に対する抗体の親和性は強い。あるいは、結合定数(K=1/K)によっても親和性を表すことができる。
本発明の二重特異性抗体は、例えば、10-6M以下、10-7M以下、10-8M以下、10-9以下、10-10M以下、又は10-11M以下のKでB細胞に結合することが好ましい。
本発明において、「細胞周期の停止」とは、細胞周期の進行がG1期で停止することを意味する。細胞周期は、定法に従って、例えばフローサイトメーターにより細胞のDNA量を測定することで解析できる。
また、本発明において、「細胞増殖阻害活性」とは、細胞表面にIgMを発現するB細胞に対して本発明の二重特異性抗体を投与することにより、当該B細胞の増殖が阻害されることを意味する。より具体的には、細胞増殖阻害活性は、後述の実施例4の式(1)により求められる。
さらに、本発明において、「アポトーシス誘導作用」とは、細胞に対し細胞自らが積極的に引き起こす細胞の死を誘導する作用を意味する。アポトーシスが誘導されると、細胞は縮小し、核の凝集及びDNAの断片化が生じ、最終的にアポトーシス小体となってマクロファージ等に貪食される。アポトーシス誘導作用は、定法に従って、例えば、細胞膜の構造変化、核の凝集及びDNAの断片化、カスパーゼ活性等を検出することで評価できる。
【0052】
上述の通り、本発明の二重特異性抗体は、B細胞表面に存在する膜結合型IgMに対する結合性が高く、当該B細胞に対し優れた細胞増殖阻害活性を示す。従って、本発明の二重特異性抗体は、B細胞関連疾患の予防治療剤として有用である。B細胞関連疾患としては、自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー疾患、移植片対宿主病、B細胞性腫瘍等が挙げられる。自己免疫疾患としては、多発性硬化症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、乾癬、皮膚炎、全身性強皮症及び硬化症、炎症性腸疾患に関連した反応、クローン病、潰瘍性大腸炎、呼吸困難症候群、成人性呼吸困難症候群(ARDS)、皮膚炎、髄膜炎、脳炎、ブドウ膜炎、大腸炎、糸球体腎炎、アレルギーによる病状、湿疹、喘息、T細胞の浸潤に関連した病状及び慢性炎症反応、アテローム性動脈硬化症、白血球付着欠損症、真性糖尿病、レイノー症候群、自己免疫甲状腺炎、アレルギー性脳脊髄炎、シェーグレン(Sjorgen)症候群、若年発症糖尿病、Tリンパ球及びサイトカインにより媒介される急性及び遅延高血圧に関連した免疫反応、結核、サルコイドーシス、多発性筋炎、肉芽種症、血管炎、悪性貧血(アジソン病)、白血球血管外遊出に関連した疾患、中枢神経系(CNS)炎症疾病、多臓器傷害症候群、溶血性貧血、重症筋無力症、抗原-抗体複合体媒介性疾患、抗糸球体基底膜疾患、抗リン脂質症候群、アレルギー性神経炎、グレーヴス病、ランバート-イートン筋無力症症候群、類天疱瘡、天疱瘡、自己免疫多腺性内分泌障害、ライター病、stiff-man症候群、ベーチェット症候群、巨細胞動脈炎、免疫複合体腎炎、IgA腎症、IgM多発性神経障害、慢性疲労症候群、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)又は自己免疫血小板減少病等が挙げられる。炎症性疾患としては、2型糖尿病、歯周病等が挙げられる。アレルギー疾患としては、不適合輸血による溶血性貧血、自己免疫性溶血性貧血、薬剤性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、顆粒球減少症、Goodpasuture症候群、血清病、過敏性肺炎、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、多発性硬化症、関節リウマチ、糸球体腎炎等が挙げられる。B細胞性腫瘍としては、前駆B細胞腫瘍及び成熟B細胞性腫瘍が挙げられる。前駆B細胞腫瘍としては、B細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫が挙げられる。成熟B細胞腫瘍としては、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫、単クローン性B細胞リンパ球増加症、B細胞前リンパ球性白血病、脾辺縁帯リンパ腫、有毛細胞白血病、脾B細胞リンパ腫/白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)、μ重鎖病、γ重鎖病、α重鎖病、IgM型MGUS、IgG/IgA型MGUS、形質細胞腫、骨単発性形質細胞腫、骨外性形質細胞腫、単クローン性免疫グロブリン沈着病、粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)、節性辺縁帯リンパ腫、濾胞性リンパ腫、小児濾胞性リンパ腫、IRF4転座を伴う大細胞型B細胞リンパ腫、原発性皮膚濾胞中心リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、T細胞/組織球豊富型大細胞型B細胞リンパ腫、中枢神経原発DLBCL、皮膚原発DLBCL、EBV陽性DLBCL、EBV陽性粘膜皮膚潰瘍、慢性炎症に伴うDLBCL、リンパ腫様肉芽腫症、縦隔(胸腺)発生大細胞型B細胞リンパ腫、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、ALK陽性大細胞型B細胞リンパ腫、形質芽細胞性リンパ腫、原発性浸出液リンパ腫、HHV8陽性DLBCL、バーキットリンパ腫、11q異常を伴うバーキット様リンパ腫、MYC及びBCL2及び/又はBCL6再構成を伴う高悪性度B細胞リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫、DLBCLと古典的ホジキンリンパ腫の中間型を伴う分類不納型のB細胞リンパ腫等が挙げられる。これらB細胞関連疾患のうち、好ましくは成熟B細胞性腫瘍であり、さらに好ましくは慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫及びDLBCL、形質細胞腫であり、さらに好ましくは慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫及びDLBCLである。
【0053】
本発明の二重特異性抗体を含有する医薬組成物は、当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、乳化、カプセル封入、凍結乾燥等により、製剤化することができる。
【0054】
経口投与用には、本発明の二重特異性抗体を、水、生理食塩水のような希釈剤に有効量溶解させた液剤、有効量を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、顆粒剤、散剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量を懸濁させた懸濁液剤、有効量を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等の剤型に製剤化することができる。
【0055】
非経口投与用には、本発明の二重特異性抗体を、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、吸入剤、坐剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、本発明の二重特異性抗体を水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、又は生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、本発明の医薬組成物は、油性又は水性のビークル中で、懸濁液、溶液、又は乳濁液等の形状をとることができる。あるいは、本発明の二重特異性抗体を粉体の形態で製造し、使用前に滅菌水等を用いて水溶液又は懸濁液を調製してもよい。吸入による投与用には、本発明の二重特異性抗体を粉末化し、ラクトース又はデンプン等の適当な基剤とともに粉末混合物とすることができる。坐剤処方は、本発明の二重特異性抗体をカカオバター等の慣用の坐剤基剤と混合することにより製造することができる。さらに、本発明の医薬組成物は、ポリマーマトリクス等に封入して、持続放出用製剤として処方することができる。
【0056】
これらの剤型のうち、好ましい態様は注射剤であり、非経口(例えば、静脈内、経皮、皮内、腹腔内、筋内)で投与することが好ましい。
【0057】
有効成分である二重特異性抗体の投与量は、患者の症状、投与経路、体重、年令等に応じて適宜設定すればよいが、例えば成人1日あたり0.001~1000mg/kgを投与するのが好ましく、0.01~100mg/kgを投与するのがさらに好ましい。
【0058】
本発明の医薬組成物には、本発明の二重特異性抗体以外に、B細胞関連疾患、好ましくはB細胞性腫瘍の治療に有用な成分、例えば化学療法剤、他の抗体医薬等を配合することもできる。
【実施例
【0059】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1 発現ベクターの構築
(1)ヒト化抗IgM抗体(1)に関する発現ベクターの構築
ヒト化抗IgM抗体(1)重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子は、既知マウス抗IgM抗体(GenBankエントリー:L17037.1)を参考に、定法によりマウスフレームワーク領域(FR)を対応するヒトFRをコードする塩基配列に置換することで得た。表2において、使用した重鎖相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を配列番号1~3に、また、軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号4~6に示す。CDRはKabatの定義に準拠した。
【0061】
【表2】
【0062】
得られた重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に公知の細胞外分泌シグナル配列(Haisma,H.J.,et al.,Blood,92(1):184-190,1998.)を連結し、さらにクローニングを容易にするため、重鎖の分泌シグナル配列の上流部に制限酵素KpnI認識配列を、また可変領域3’末端部には可変領域と定常領域の接合部のアミノ酸を変異させないように制限酵素NheI認識配列を連結した。同様に、軽鎖の分泌シグナル配列の上流部に制限酵素Hind III認識配列を、また可変領域3’末端部には制限酵素BsiWI認識配列を連結した。デザインした重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子をPCR法により合成し、PCR産物をクローニングベクター(p3Tなど)にクローニング後、塩基配列を確認し、デザインした遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した。
ヒト化抗IgM抗体(1)発現ベクターは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域遺伝子断片が挿入された各クローニングベクターより、特異的な制限酵素によって得られる遺伝子断片をWO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子またはハイグロマイシン耐性遺伝子、ヒト化抗ヒトIgM抗体(1)遺伝子を発現する。
【0063】
(2)ヒト型抗HLA-DR抗体(1)発現ベクターの構築
ヒト型抗HLA-DR抗体(1)の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子は、特開2005-325133の実施例12に記載の抗体可変領域塩基配列を元にPCRプライマーを設計し、PCR法により合成した。PCR産物をクローニングベクター(p3Tなど)にクローニング後、記載された遺伝子配列と同一の配列をもつクローンを選抜した。表3において、使用した抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号7~9に、また、軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号10~12に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
得られた重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結した。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子またはピューロマイシン耐性遺伝子、ヒト型抗HLA-DR抗体(1)遺伝子を発現する。
【0066】
(3)キメラ抗CD20抗体(1)発現ベクターの構築
キメラ抗CD20抗体(1)の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子は、特表平8-503468の実施例IIに記載の抗体可変領域塩基配列を元にPCRプライマーを設計し、PCR法により合成した。PCR産物をクローニングベクター(p3Tなど)にクローニング後、記載された遺伝子配列と同一の配列をもつクローンを選抜した。表4において、重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号13~15に、また、軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号16~18に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
特表平8-503468の実施例IIAに記載の分泌シグナル配列を含む重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の5’末端部及び3’末端部に制限酵素認識配列を実施例1(1)に従って連結した。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、キメラ抗CD20抗体(1)遺伝子を発現する。
【0069】
(4)キメラ抗CD20抗体(2)発現ベクターの構築
定法に従って、Ramos細胞(CRL-1596、American Type Culture Collection:ATCC)をBALB/cマウスに免疫し、マウス抗CD20抗体産生ハイブリドーマを樹立した。Ramos細胞はヒトのバーキットリンパ腫由来の細胞株であり、細胞表面にCD20、IgM、CD37を発現する。Ramos細胞はRamos細胞増殖培地を用いて、37℃、5%CO条件下で培養した。Ramos細胞増殖培地はRPMI1640(Life Technologies)に10%ウシ胎仔血清(FBS、Life Technologies)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(ペニシリン最終濃度:100units/mL、ストレプトマイシン最終濃度:0.1mg/mL、Sigma-Aldrich)を含む。ハイブリドーマ全RNAよりcDNAを合成し、抗体可変領域遺伝子をクローニングした。表5において、取得した抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号19~21に、また、軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号22~24に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
得られた重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結した。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、キメラ抗CD20抗体遺伝子(2)を発現する。
【0072】
(5)キメラ抗CD32b抗体発現ベクターの構築
キメラ抗CD32b抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子は、US2006/0073142 A1のExample 1.0に記載の抗体可変領域の塩基配列を参考にして得た。表6において、重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号25~26に、又軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号27~29に示す。なお、重鎖CDR3のアミノ酸配列はFDYである。
【0073】
【表6】
【0074】
得られた重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結した。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、キメラ抗CD32b抗体遺伝子を発現する。
【0075】
(6)キメラ抗CD37抗体発現ベクターの構築
定法に従って、Ramos細胞をBALB/cマウスに免疫し、マウス抗CD37抗体産生ハイブリドーマを樹立した。ハイブリドーマ全RNAよりcDNAを合成し抗体可変領域遺伝子をクローニングした。表7において、クローニングした抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号30~32に、又軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号33~35に示す。
【0076】
【表7】
【0077】
得られた重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結した。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、キメラ抗CD37抗体遺伝子を発現する。
【0078】
(7)ヒト化抗CD52抗体発現ベクターの構築
ヒト化抗CD52抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子は、特表平2-503514の実施例1に記載の抗体可変領域の塩基配列を参考にして取得した。表8において、重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号36~38に、又軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号39~41に示す。
【0079】
【表8】
【0080】
得られた重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結した。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、ヒト化抗CD52抗体遺伝子を発現する。
【0081】
(8)ヒト化抗BAFF受容体抗体発現ベクターの構築
ヒト化抗BAFF受容体抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子を取得する。得られる重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結する。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結する。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、ヒト化抗BAFF受容体抗体遺伝子を発現する。
【0082】
(9)キメラ抗BCMA抗体発現ベクターの構築
キメラ抗BCMA抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子は、特許第6061469号に記載のC12A3.2の可変領域のアミノ酸配列を参考にして取得した。表9において、重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号42~44に、又、軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号45~47に示す。
【0083】
【表9】
【0084】
得られた重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結する。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、キメラ抗BCMA抗体遺伝子を発現する。
【0085】
(10)キメラ抗TACI抗体発現ベクターの構築
キメラ抗TACI抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子を取得する。得られる重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結する。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結する。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、キメラ抗TACI抗体遺伝子を発現する。
【0086】
(11)キメラ抗IgM抗体発現ベクターの構築
定法に従って、WKAH/HkmラットB細胞をBALB/cマウスに免疫し、マウス抗IgM抗体産生ハイブリドーマを樹立した。ハイブリドーマ全RNAよりcDNAを合成し、抗体可変領域遺伝子をクローニングした。表10において、取得した抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号48~50に、又軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号51~53に示す。
【0087】
【表10】
【0088】
マウス抗IgM抗体に由来する分泌シグナル配列を含む重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の5’末端部及び3’末端部に実施例1(1)に従って制限酵素認識配列を連結した。目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現用ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、キメラ抗IgM抗体遺伝子を発現する。
【0089】
(12)ヒト化抗EGFR抗体(陰性対照)発現ベクターの構築
ヒト化抗EGFR抗体(陰性対照)の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子は、US5558864のEXAMPLE4に記載の抗体可変領域の塩基配列を参考にして得た。表11において、重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号54~56に、又軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号57~59に示す。
【0090】
【表11】
【0091】
得られた重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結した。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、ヒト化抗EGFR抗体遺伝子を発現する。
【0092】
(13)キメラ抗IgM抗体に関する発現ベクターの構築
定法に従って、ヒトIgMおよびサルIgMをBALB/cマウスに免疫し、マウス抗IgM抗体産生ハイブリドーマを4株樹立した。ハイブリドーマ全RNAよりcDNAを合成し抗体可変領域遺伝子をクローニングした。表12において、クローニングした抗IgM抗体(2)の重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号60~62に、また、軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号63~65に示す。表13において、クローニングした抗IgM抗体(3)の重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号66~68に、また、軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号69~71に示す。表14において、クローニングした抗IgM抗体(4)の重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号72~74に、また、軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号75~77に示す。表15において、クローニングした抗IgM抗体(5)の重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号78~80に、また、軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号81~83に示す。
【0093】
【表12】
【0094】
【表13】
【0095】
【表14】
【0096】
【表15】
【0097】
得られた分泌シグナル配列、重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結した。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子と、キメラ抗ヒトIgM抗体(2)遺伝子、キメラ抗ヒトIgM抗体(3)遺伝子、キメラ抗ヒトIgM抗体(4)遺伝子又はキメラ抗ヒトIgM抗体(5)遺伝子を発現する。
【0098】
(14)キメラ抗HLA-DR抗体(2)発現ベクターの構築
キメラ抗HLA-DR抗体(2)の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子は、US7612180のFig1及びFig2記載の抗体可変領域の塩基配列を元にPCRプライマーを設計し、PCR法により合成した。PCR産物をクローニングベクター(p3Tなど)にクローニング後、記載された遺伝子配列と同一の配列をもつクローンを選抜した。表16において、使用した抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号84~86に、また、軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号87~89に示す。
【0099】
【表16】
【0100】
得られた重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結した。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトκ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子またはピューロマイシン耐性遺伝子、キメラ抗HLA-DR抗体(2)遺伝子を発現する。
【0101】
(15)ヒト化抗CD38抗体発現ベクターの構築
ヒト化抗CD38抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子は、WO2012/092612に記載の抗体可変領域の塩基配列を参考にして取得した。表17において、重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号90~92に、又軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号93~95に示す。
【0102】
【表17】
【0103】
得られた重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結した。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトλ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、ヒト化抗CD38抗体遺伝子を発現する。
【0104】
(16)ヒト化抗CD81抗体発現ベクターの構築
ヒト化抗CD81抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子は、WO2012/077649に記載の抗体可変領域の塩基配列を参考にして取得した。表18において、重鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号96~98に、又軽鎖CDRのアミノ酸配列を配列番号99~101に示す。
【0105】
【表18】
【0106】
得られた重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片の上流部に実施例1(1)と同一の細胞外分泌シグナル配列を連結し、さらに、分泌シグナル配列の上流部及び可変領域3’末端部に制限酵素認識配列を連結した。実施例1(1)と同様にして、目的とする遺伝子配列と同一の塩基配列をもつクローンを選抜した後、特異的な制限酵素によって重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子断片を切り出し、WO2014/069647の実施例1に記載のヒトλ軽鎖定常領域遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域遺伝子を有する抗体発現ベクターに順次連結した。連結したベクターは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、ヒト化抗CD81抗体遺伝子を発現する。
【0107】
実施例2 抗体の製造
(1)モノクローナル抗体の製造
上記実施例1で作製した抗体発現ベクターをFreeStyle293-F細胞(Life Technologies)に293fectin(Life Technologies)を用いて、又はExpiCHO細胞(Life Ttechnologies)にExpiFectamine(Life Technologies)を用いて遺伝子導入した。メーカー指図書に従い、32~37℃、5~8%CO条件下で1~2週間培養後、培養上清を回収した。培養上清よりモノクローナル抗体をHiTrap Protein Aカラム(GEヘルスケア)を用いて精製した。モノクローナル抗体はリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.0)に対して透析した後、試験使用時まで4℃に保存した。
【0108】
(2)二重特異性抗体の製造
(2-1)Cys1m型二重特異性抗体の製造
上記実施例1で作製した抗体発現ベクターを、WO2014/069647に従って改変した。具体的には、プロテインA結合能の差異を指標に効率的に二重特異性抗体を精製するため、抗IgM抗体(1)の重鎖にH435R及びY436Fの変異を導入し、ヒトIgG1型からヒトIgG3型に置換した。また、二重特異性抗体を調製する際の抗IgM抗体(1)の組み合わせ相手がキメラ抗CD20抗体(1)の場合には、抗IgM抗体(1)の軽鎖-重鎖間の天然型ジスルフィド結合を無効化するため、軽鎖にC214Sの変異を、重鎖にC220Sの変異を加え、非天然型ジスルフィド結合を導入するために、軽鎖にS162Cの変異を、重鎖にF170Cの変異を加えた。組み合わせ相手がキメラ抗CD20抗体(1)以外の場合は、同じ変異を相手方に導入した。これらの変異により、所望の軽鎖と重鎖の組み合わせを有する抗体を効率よく製造することができる。得られた抗IgM抗体(1)発現改変ベクター及び抗B細胞表面抗原抗体発現改変ベクターを共にFreeStyle293-F細胞又はExpiCHO細胞に遺伝子導入した。メーカー指図書に従い、32~37℃、5%~8%CO存在下で1~2週間培養後、培養上清を回収した。培養上清をHiTrap Protein Aカラム(GEヘルスケア)またはProSep-vA High Capacity カラム(メルクミリポア)を用いて精製後、二重特異性抗体をCEXクロマトグラフィーにて分取した。分取には強陽イオン交換カラムPL-SCX(Agilent、粒子径:8μm、細孔径:1000Å)を用いた。移動相に移動相A液(10mM MES、pH6.0)及び移動相B液(500mM NaCl、10mM MES、pH6.0)を用いた。初期移動相(98%A液、2%B液)を流速1mL/minにてカラムの5倍容量以上を送液して予めカラムを平衡化させておき、ここに精製した試料を注入し(0min)、カラムに試料を電荷的に結合させた。初期移動相で5分間洗浄後、B液の最終混合率が40%となるよう、1分間当たり0.8%増の直線勾配で47.5分間漸増させた。その後、直ちにB液の混合率を100%とし、カラムを洗浄した。この間、280nmにおける吸収を記録し、二重特異性抗体の保持時間に相当するピークを分取した。取得した二重特異性抗体はPBS(pH7.0)に対して透析後、試験使用時まで4℃に保存した。
【0109】
(2-2)Knobs-into-Holes(KIH)型二重特異性抗体の製造
二重特異性抗体の別態様として、上記実施例1で作製した抗体発現ベクターを、US5731168A及びMarchant,A.M.,et al.,Nat.Biotechnol.,16(7):677-681,1998.に従って改変した。具体的には、抗IgM抗体(1)の重鎖にT366Wの変異を加え、抗IgM抗体(1)の組み合わせ相手となる抗B細胞表面抗原抗体の重鎖にT366S、L368A、Y407Vの変異を導入した。これらの変異により、所望の重鎖と重鎖の組み合わせを有する抗体を効率よく製造することができる。さらに、プロテインA結合能の差異を指標に効率的に二重特異性抗体を精製するため、抗B細胞表面抗原抗体の重鎖にH435R及びY436Fの変異を導入し、ヒトIgG1型からヒトIgG3型に置換した。得られた抗IgM抗体(1)発現改変ベクター及び抗B細胞表面抗原抗体発現改変ベクターをFreeStyle293-F細胞又はExpiCHO細胞に遺伝子導入した。メーカー指図書に従い、32~37℃、5%~8%CO存在下で1~2週間培養後、培養上清を回収した。抗IgM抗体(1)発現改変ベクターを導入した細胞の培養上清は、HiTrap Protein Aカラム(GEヘルスケア)を用いて精製後、PBS(pH7.0)に対して透析した。抗B細胞表面抗原抗体発現改変ベクターを導入した細胞の培養上清は、HiTrap Protein Gカラム(GEヘルスケア)を用いて精製後、PBS(pH7.0)に対して透析した。得られた抗IgM抗体(1)と抗B細胞表面抗原抗体を1:1で混合し、そこに終濃度20mM 還元型グルタチオン(Wako)及び2mM 酸化型グルタチオン(Wako)を添加し、25℃で13~15時間反応させた。反応後、HiTrap Protein Aカラムにて抗体を精製し、さらにサイズ排除クロマトグラフィー(東ソー、TSKgel G3000SWXL)にて二重特異性抗体を分取した。移動相には0.2M KHPO、0.25M KCl(pH7.0)を用いた。取得した二重特異性抗体はPBS(pH7.0)に対して透析後、試験使用時まで4℃に保存した。
【0110】
(2-3)Cys1m型およびKIH型二重特異性抗体の製造
上記実施例1で作製した抗体発現ベクターを、WO2014/069647に従って改変した。具体的には、プロテインA結合能の差異を指標に効率的に二重特異性抗体を精製するため、抗IgM抗体(2)~(5)と組み合わせる抗B細胞表面抗原抗体の重鎖にH435R及びY436Fの変異を導入し、ヒトIgG1型からヒトIgG3型に置換した。二重特異性抗体を調製する際の抗IgM抗体(2)~(5)の組み合わせ相手となる抗B細胞表面抗原抗体に軽鎖-重鎖間の天然型ジスルフィド結合を無効化するため、軽鎖にC214Sの変異を、重鎖にC220Sの変異を加え、非天然型ジスルフィド結合を導入するために、軽鎖にS162Cの変異を、重鎖にF170Cの変異を加えた(Cys1m型)。また、上記実施例1で作製した抗体発現ベクターを、US5731168A及びMarchant,A.M.,et al.,Nat.Biotechnol.,16(7):677-681,1998.に従って改変を加えた。具体的には、抗IgM抗体(2)~(5)の重鎖にT366Wの変異を加え、抗IgM抗体(2)~(5)の組み合わせ相手となる抗B細胞表面抗原抗体の重鎖にT366S、L368A、Y407Vの変異を導入した(KIH型)。これらの変異により、所望の軽鎖と重鎖の組み合わせを有する抗体を効率よく製造することができる。得られた抗IgM抗体(2)~(5)発現改変ベクター及び抗B細胞表面抗原抗体発現改変ベクターを共にFreeStyle293-F細胞又はExpiCHO細胞に遺伝子導入した。メーカー指図書に従い、32~37℃、5%~8%CO存在下で1~2週間培養後、培養上清を回収した。培養上清をHiTrap Protein Aカラム(GEヘルスケア)を用いて精製後、二重特異性抗体をCEXクロマトグラフィーにて分取した。分取には強陽イオン交換カラムPL-SCX(Agilent、粒子径:8μm、細孔径:1000Å)を用いた。移動相に移動相A液(10mM MES、pH6.0)及び移動相B液(500mM NaCl、10mM MES、pH6.0)を用いた。初期移動相(98%A液、2%B液)を流速1mL/minにてカラムの5倍容量以上を送液して予めカラムを平衡化させておき、ここに精製した試料を注入し(0min)、カラムに試料を電荷的に結合させた。初期移動相で5分間洗浄後、B液の最終混合率が40%となるよう、1分間当たり0.8%増の直線勾配で47.5分間漸増させた。その後、直ちにB液の混合率を100%とし、カラムを洗浄した。この間、280nmにおける吸収を記録し、二重特異性抗体の保持時間に相当するピークを分取した。取得した二重特異性抗体はPBS(pH7.0)に対して透析後、試験使用時まで4℃に保存した。
【0111】
実施例3 二重特異性抗体の抗原結合能の解析
(1)HH細胞膜表面上のIgM分子数及びHLA-DR分子数の測定
作製した抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体がHLA-DR及びIgMに対する結合性を有することを確認するため、HH細胞を用いた。まず、HH細胞膜表面上に存在するHLA-DR及びIgMの分子数を調べた。HH細胞(CRL-2105、ATCC)はヒトT細胞性リンパ腫由来の細胞株であることからIgMは発現しないと考えられ、一方、細胞膜表面上にHLA-DRを発現することは知られている。HH細胞は10%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を含むRPMI1640を用いて、37℃、5%CO条件下で培養した。
HLA-DR及びIgMの分子数についてはQIFキット(Dako)を用いて測定した。具体的には、予めHH細胞を播種した96ウェルプレート(2×10cells/well)にマウス抗HLA-DR抗体若しくはマウス抗IgM抗体(20μg/mL)を50μL添加し、氷上で1時間反応させた。その後、200μLの5%のFBSを含むPBS(5%FBS/PBS)で2回洗浄した。次に、キット付属のFITC標識抗マウスIgG抗体を5%FBS/PBSで50倍希釈し、各ウェルに100μLずつ添加した。氷上で45分間反応させた後、200μLの5%FBS/PBSで2回洗浄し、PBSで希釈した1%ホルムアルデヒド(関東化学)でHH細胞を固定した。固定した細胞はフローサイトメーター(FC500MPL、ベックマン・コールター)及び解析ソフトCytomics MXP cytometer(ベックマン・コールター)を用いてHH細胞に由来する蛍光を測定した。またその際、添付の指図書に従い、キットに付属するセットアップビーズ及びキャリブレーションビーズを用いて検量線を作成し、HH細胞膜表面上のHLA-DR及びIgMの分子数を算出した。結果を図1に示す。縦軸は細胞あたりの分子数を示す。
試験の結果、細胞膜表面上のIgMの分子数は-0.1x10molecules/cellと算出され、HLA-DRの分子数は4.4x10molecules/cellと算出された。ヒトT細胞由来のHH細胞を用いた本試験の結果から、HH細胞は細胞膜上にHLA-DRを発現し、IgMを発現しないことを確認した。
【0112】
(2)抗IgM/HLA-DR二重特異性抗体のIgM及びHLA-DRに対する結合
抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体がIgMとHLA-DRに同時に結合することを分泌型IgM及びHH細胞を用いて確認した。HH細胞は実施例3(1)の実験の通り、細胞膜表面上にHLA-DRを発現しているが、IgMは発現していない。
このため、蛍光標識した分泌型IgMと二重特異性抗体とをHH細胞に反応させた際には、二重特異性抗体がヘテロ二量体であればHH細胞が蛍光標識されることになる。そこで、この試験系を用いて製造した二重特異性抗体がIgMとHLA-DRに同時に結合することを調べた。
分泌型IgM(AbD Serotec)をLYNX RAPID RPE ANTIBODY CONJUGATION KIT(BIO-RAD)を用いて、添付の指図書に従いPE標識した。20μg/mLより公比3にて抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体、抗HLA-DR抗体(1)又は抗IgM抗体(1)を希釈した後、各々に2μg/mLのPE標識分泌型IgMを体積比1:1となるように添加し、室温で30分間静置した。反応後、当該混合液を予めHH細胞を播種した96ウェルプレート(2×10cells/well)に加え、氷上で1時間反応させた。続いて、各ウェルを200μLの5%FBS/PBSで3回洗浄後、PBSで希釈した1%ホルムアルデヒド液で細胞を固定した。固定した細胞に結合したPE標識由来の蛍光をフローサイトメーターにて測定し、Cytomics MXP cytometerを用いて解析した。結果を図2に示す。図の縦軸は平均蛍光強度(MFI)、横軸は抗体濃度を示す。
抗HLA-DR抗体(1)はHH細胞に結合するが分泌型IgMとは結合しないため、蛍光は検出されなかった。また、抗IgM抗体(1)は分泌型IgMに結合するがHH細胞とは結合しないため、HH細胞はPE標識されず蛍光は検出されなかった。一方、製造した抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体が目的とするヘテロ体を形成しているのであれば、HH細胞に結合すると同時にPE標識分泌型IgMに結合し、PE標識されたHH細胞が検出されるはずである。そこで、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体とPE標識した分泌型IgMとHH細胞を順次反応させたところ、PE標識されたHH細胞が検出された。さらに、Cys1m型二重特異性抗体とKIH型二重特異性抗体の結合曲線が同等であり、製造法の違いによる結合の差異はないことが示された。なお、データには示さないが、HH細胞のみ、HH細胞に分泌型IgMのみを処理、HH細胞に抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体のみを処理した場合においても蛍光は検出されなかった。
以上の結果から、製造したCys1m型及びKIH型の抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は、目的とするヘテロ二量体であり、IgMとHLA-DRに同時に結合する性質をもつことが示された。
【0113】
実施例4 二重特異性抗体の細胞増殖阻害作用
(1)抗IgM抗体と抗HLA-DR抗体を組み合せた二重特異性抗体
(1-1)JeKo-1細胞に対する増殖阻害作用1
分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照としての抗EGFR抗体のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性の変化を調べた。JeKo-1細胞(RL-3006、ATCC)はヒトのマントル細胞リンパ腫由来の細胞株であり、細胞表面にIgM、HLA-DR及びCD20を発現する。JeKo-1細胞はJeKo-1細胞増殖培地を用いて、37℃、5%CO条件下で培養した。JeKo-1細胞増殖培地は、RPMI1640に20%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を含む。増殖阻害活性は、40μg/mLより公比3にてJeKo-1細胞増殖培地で希釈した分泌型IgMと各抗体(1200ng/mL)を体積比1:1で混合し、室温で30分間静置した。予め培地に懸濁したJeKo-1細胞を播種した96ウェルプレート(2×10cells/well)に、上記の当該混合液を体積比1:1となるように添加し、37℃、5%COの条件下で72時間培養した。その際、抗体非添加群と100%細胞死群(1% Tween80)を用意した。各ウェルにCell Counting Kit-8(同仁化学研究所)を10μL添加し、37℃、5%COの条件で3時間呈色反応を行った。その後、マイクロプレートリーダー(iMark、BIO-RAD)を用いて450nmの吸光度を測定し、次式(1)に従って、細胞増殖阻害活性(%)を算出した。
【0114】
【数1】
【0115】
結果を図3に示す。図の縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(1)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。さらに、Cys1m型二重特異性抗体とKIH型二重特異性抗体の増殖阻害活性は同等であり、製造法の違いによる活性の差異はないことが示された。
【0116】
(1-2)JeKo-1細胞に対する増殖阻害作用2
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM抗体(1)と抗HLA-DR抗体(1)の併用、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeKo-1細胞増殖阻害活性の変化を調べた。なお、抗体濃度は300ng/mLとし、抗体の併用では抗IgM抗体(1)及び抗HLA-DR抗体(1)をそれぞれ300ng/mL(合計600ng/mL)添加した。結果を図4に示す。図の縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗体を併用した場合の増殖阻害活性は、抗IgM抗体(1)単独添加と同様に分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。
以上のことから、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は両親抗体を併用するよりも増殖阻害活性が優れていることが示された。
【0117】
(1-3)B104細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、JeKo-1細胞の代わりにB104細胞を用いて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体(100ng/mL)のB104細胞に対する増殖阻害活性の変化を調べた。B104細胞(JCRB0117、JCRB細胞バンク)はヒトのB細胞性腫瘍由来の細胞株であり、細胞表面にIgM、HLA-DR、CD20、CD38及びCD52を発現する。B104細胞はB104細胞増殖培地を用いて、37℃、5%CO条件下で培養した。B104細胞増殖培地は、RPMI1640に20%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を含む。また、分泌型IgMの希釈はB104細胞増殖培地を用いた。試験の結果を図5に示す。図の縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(1)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。また、Cys1m型二重特異性抗体とKIH型二重特異性抗体の増殖阻害活性は同等であり、製造法の違いによる活性の差異はないことが示された。
分泌型IgM存在下における抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体の増殖阻害活性は、JeKo-1細胞、B104細胞の2種の細胞で同様の結果が得られたことから、IgMとHLA-DRの両者を発現する細胞であれば、分泌型IgMが存在しても抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体の増殖阻害活性が発揮できるものと考えられた。
【0118】
(1-4)B104細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(2)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(2)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞増殖阻害活性の変化を調べた。なお、抗体濃度は500ng/mLとした。結果を図20に示す。図の縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(2)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(2)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。
【0119】
(1-5)JeKo-1細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(3)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(3)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeKo-1細胞増殖阻害活性の変化を調べた。なお、抗体濃度は500ng/mLとした。結果を図21に示す。図の縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(3)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(3)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。
【0120】
(1-6)B104細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(4)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(4)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞増殖阻害活性の変化を調べた。なお、抗体濃度は500ng/mLとした。結果を図22に示す。図の縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(4)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(4)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。
【0121】
(1-7)B104細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(5)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(5)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞増殖阻害活性の変化を調べた。なお、抗体濃度は500ng/mLとした。結果を図23に示す。図の縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(5)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(5)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。
抗B細胞表面抗原抗体と組み合わせる抗IgM抗体はクローンに関係なく同様の結果が得られたことから、いずれの抗IgM抗体クローンでも、抗IgM/B細胞表面抗原二重特異性抗体は分泌型IgM存在下において増殖阻害活性を有することが示された。
【0122】
(1-8)B104細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR(2)抗体、抗IgM(1)/HLA-DR(2)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のB104細胞増殖阻害活性の変化を調べた。なお、抗体濃度は500ng/mLとした。結果を図24に示す。図の縦軸は増殖阻害活性を、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(1)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(1)/HLA-DR(2)二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。
抗B細胞表面抗原抗体と組み合わせる抗HLA-DR抗体はクローンに関係なく同様の結果が得られたことから、いずれの抗HLA-DR抗体クローンでも、抗IgM/HLA-DR二重特異性抗体は分泌型IgM存在下において増殖阻害活性を有することが示された。
【0123】
(1-9)ヒト血清存在下でのJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性
ヒト血清存在下での抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性を調べた。具体的には、健常人ボランティアより採取した血清を56℃、30分間処理により非働化し、また抗体はPBSにて最終濃度の10倍濃度(100μg/mL)となるよう調製した。生存率の測定にはRealTime-Glo MT Cell Viability Assay(Promega)を用いた。試験時は、90%ヒト血清/10%抗体液(抗体の最終濃度は10μg/mL)となるよう、ヒト血清と抗体を混合し、ヒト血清非添加群では90%JeKo-1細胞増殖培地/10%抗体液とした。予め、JeKo-1細胞を播種した96ウェルプレート(1.5×10cells/well)に当該混合液を添加し、さらに反応液10μLを指図書に従い添加した。37℃、5%CO2条件下で48時間培養後、マイクロプレートリーダー(GloMax Discover、GM3000、Promega)を用いて発光を測定し、次式(2)に従って、細胞生存率(%)を数値化した。
【0124】
【数2】
【0125】
また、有意差検定はStudent’s t-testを用いた。結果を図6に示す。図の縦軸は細胞生存率を示す。
「血清なし」の条件では、抗IgM抗体(1)はB細胞性腫瘍細胞に対して増殖阻害活性を示したが、「血清あり」の条件では、抗IgM抗体(1)の増殖阻害活性は消失した。一方、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は血清の有無に関わらず増殖阻害活性を示した。さらに、Cys1m型二重特異性抗体とKIH型二重特異性抗体の増殖阻害活性は同等であり、製造法の違いによる活性の差異はないことが示された。
以上のことから、抗IgM抗体はヒト血清中で増殖阻害活性を失うが、抗IgM/HLA-DR二重特異性抗体にすると血清中でも活性を維持することが示された。
なお、本試験は2人のヒト血清で試験を実施したが、両ドナーの非働化血清で同等の結果が得られ、ドナーによる違いは認められなかった。
【0126】
(2)抗IgM抗体と抗CD20抗体を組み合せた二重特異性抗体
(2-1)JeKo-1細胞に対する増殖阻害作用1
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗CD20抗体(1)、抗IgM(1)/CD20(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体(300ng/mL)のJeKo-1細胞増殖阻害活性の変化を調べた。結果を図7に示す。図の縦軸は増殖阻害活性、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(1)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(1)/CD20(1)二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。さらに、Cys1m型二重特異性抗体とKIH型二重特異性抗体の増殖阻害活性は同等であり、製造法の違いによる活性の差異はないことが示された。
【0127】
(2-2)JeKo-1細胞に対する増殖阻害作用2
実施例4(2-1)で用いた抗CD20抗体(1)とは異なるクローン由来の抗CD20抗体(2)を組み合せた二重特異性抗体の検討を行った。実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗CD20抗体(2)、抗IgM(1)/CD20(2)二重特異性抗体及び陰性対照抗体(1,000ng/mL)のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性の変化を調べた。結果を図8に示す。図の縦軸は増殖阻害活性、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(1)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(1)/CD20(2)二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。
抗IgM抗体と組み合わせる抗CD20抗体は抗CD20抗体(1)であっても抗CD20抗体(2)であっても同様の結果が得られたことから、いずれの抗CD20抗体クローンでも、抗IgM/CD20二重特異性抗体は分泌型IgM存在下において増殖阻害活性を有することが示された。
【0128】
(2-3)B104細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗CD20抗体(1)、抗IgM(1)/CD20(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体(1,000ng/mL)のB104細胞に対する増殖阻害活性の変化を調べた。尚、B104細胞の培養及び分泌型IgMの希釈にはB104細胞増殖培地を用いた。結果を図9に示す。図の縦軸は増殖阻害活性、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(1)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(1)/CD20(1)二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。また、Cys1m型二重特異性抗体とKIH型二重特異性抗体の増殖阻害活性は同等であり、製造法の違いによる活性の差異はないことが示された。
分泌型IgM存在下における抗IgM(1)/CD20(1)二重特異性抗体の増殖阻害活性は、JeKo-1細胞、B104細胞の2種の細胞で同様の結果が得られたことから、IgMとCD20の両抗原を膜表面に発現する細胞であれば、分泌型IgMが存在しても抗IgM/CD20二重特異性抗体によって増殖阻害されることが示された。
【0129】
(2-4)ヒト血清存在下でのJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性
実施例4(1-9)に準じて、ヒト血清存在下での抗IgM抗体(1)、抗CD20抗体(1)、抗IgM(1)/CD20(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体(10μg/mL)のJeKo-1細胞に対する増殖阻害活性を調べた。結果を図10に示す。有意差検定はStudent’s t-testを用いた。図の縦軸は生存率を示す。
「血清なし」の条件では、抗IgM抗体(1)はB細胞性腫瘍細胞に対して増殖阻害活性を示したが、「血清あり」の条件では、抗IgM抗体(1)の増殖阻害活性は消失した。一方、抗IgM(1)/CD20(1)二重特異性抗体は血清の有無に関わらず増殖阻害活性を示した。また、Cys1m型二重特異性抗体とKIH型二重特異性抗体の増殖阻害活性は同等であり、製造法の違いによる活性の差異はないことが示された。
以上のことから、抗IgM抗体はヒト血清中で増殖阻害活性を失うが、抗IgM/CD20二重特異性抗体は血清中でもその活性を維持することが示された。
本試験は、2人のヒト血清で試験を実施したが、両ドナーの非働化血清で同等の結果が得られ、ドナーによる違いは認められなかった。
【0130】
(3)抗IgM抗体と抗CD32b抗体を組み合せた二重特異性抗体
(3-1)JeKo-1細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗CD32b抗体、抗IgM(1)/CD32b抗体及び陰性対照抗体(300ng/mL)のJeKo-1細胞増殖阻害活性の変化を調べた。
その結果、抗IgM抗体(1)及び抗IgM(1)/CD32b抗体の増殖阻害活性は、実施例4(1-1)の結果と同様の傾向を示した。
【0131】
(4)抗IgM抗体と抗CD37抗体を組み合せた二重特異性抗体
(4-1)Ramos細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗CD37抗体、抗IgM(1)/CD37二重特異性抗体及び陰性対照抗体(1,000ng/mL)のRamos細胞増殖阻害活性の変化を調べた。Ramos細胞は細胞表面にIgM及びCD37を発現する。尚、Ramos細胞の培養及び分泌型IgMの希釈にはRamos細胞増殖培地を用いた。
その結果、抗IgM抗体(1)及び抗IgM(1)/CD37抗体の増殖阻害活性は、実施例4(1-1)の結果と同様の傾向を示した。
【0132】
(5)抗IgM抗体と抗CD52抗体を組み合せた二重特異性抗体
(5-1)B104細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗CD52抗体、抗IgM(1)/CD52二重特異性抗体及び陰性対照抗体(1,000ng/mL)のB104細胞増殖阻害活性の変化を調べた。尚、B104細胞の培養及び分泌型IgMの希釈にはB104細胞増殖培地を用いた。結果を図11に示す。図の縦軸は増殖阻害活性、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(1)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(1)/CD52二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。
実施例4(1)~(5)の結果より本発明の抗IgM/B細胞表面抗原抗体は、B細胞表面抗原の種類に関わらず、分泌型IgM存在下でB細胞に対し細胞増殖阻害効果を示すことが示唆された。
【0133】
(6)抗IgM抗体と抗BAFF受容体抗体を組み合せた二重特異性抗体
(6-1)Jeko-1細胞又はB104細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体、抗BAFF受容体抗体、抗IgM/BAFF受容体二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeko-1細胞又はB104細胞増殖阻害活性の変化を調べる。尚、細胞の培養及び分泌型IgMの希釈には当該細胞の増殖培地を用いる。
【0134】
(7)抗IgM抗体と抗BCMA抗体を組み合せた二重特異性抗体
(7-1) Ramos細胞又はB104細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体、抗BCMA抗体、抗IgM/BCMA二重特異性抗体及び陰性対照抗体のRamos細胞又はB104細胞増殖阻害活性の変化を調べる。尚、細胞の培養及び分泌型IgMの希釈には当該細胞の増殖培地を用いる。
【0135】
(8)抗IgM抗体と抗TACI抗体を組み合せた二重特異性抗体
(8-1) Jeko-1細胞又はB104細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体、抗TACI抗体、抗IgM/TACI二重特異性抗体及び陰性対照抗体のJeko-1細胞又はB104細胞増殖阻害活性の変化を調べる。尚、細胞の培養及び分泌型IgMの希釈には当該細胞の増殖培地を用いる。
【0136】
(9)抗IgM抗体と抗CD38抗体を組み合せた二重特異性抗体
(9-1) B104細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗CD38抗体、抗IgM(1)/CD38二重特異性抗体及び陰性対照抗体(500ng/mL)のB104細胞増殖阻害活性の変化を調べた。尚、B104細胞の培養及び分泌型IgMの希釈にはB104細胞増殖培地を用いた。結果を図25に示す。図の縦軸は増殖阻害活性、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(1)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(1)/CD38二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。
【0137】
(10)抗IgM抗体と抗CD81抗体を組み合せた二重特異性抗体
(10-1) JeKo-1細胞に対する増殖阻害作用
実施例4(1-1)に準じて、分泌型IgM濃度上昇による抗IgM抗体(1)、抗CD81抗体、抗IgM(1)/CD81二重特異性抗体及び陰性対照抗体(500ng/mL)のJeKo-1細胞増殖阻害活性の変化を調べた。尚、JeKo-1細胞の培養及び分泌型IgMの希釈にはJeKo-1細胞増殖培地を用いた。結果を図26に示す。図の縦軸は増殖阻害活性、横軸は培地に添加した分泌型IgM濃度を示す。
抗IgM抗体(1)の増殖阻害活性は、分泌型IgM濃度上昇に伴い減弱した。一方、抗IgM(1)/CD81二重特異性抗体は、分泌型IgM濃度が上昇しても増殖阻害活性を維持した。
さらに実施例4(9)及び(10)の結果より本発明の抗IgM/B細胞表面抗原抗体は、B細胞表面抗原の種類に関わらず、分泌型IgM存在下でB細胞に対し細胞増殖阻害効果を示すことが示唆された。
【0138】
実施例5 二重特異性抗体のRamos細胞に対するアポトーシス誘導作用
(1)抗IgM抗体と抗HLA-DR抗体を組み合せた二重特異性抗体のRamos細胞に対するアポトーシス誘導作用
抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体及び陰性対照抗体(1,000ng/mL)のRamos細胞に対するアポトーシス誘導効果を調べた。予め培地に懸濁したRamos細胞を6ウェルプレートに播種し(3.6×10cells/well)、37℃、5%CO条件下で3時間培養した。抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体又は陰性対照抗体をPBSにて1mg/mlに調製した溶液を、最終濃度1,000ng/mlとなるように各ウェルへ添加し、37℃、5%CO条件下でさらに24時間培養した。遠心分離で回収した各細胞を1%グルタルアルデヒドを含むPBSに懸濁し、4℃条件下で16時間インキュベートした。再度、遠心分離で各細胞を回収後、40μLのPBSへ懸濁した。
10μLの細胞懸濁液と2μLの1mM Hoechst33342(同仁化学研究所)を混合した後、蛍光顕微鏡下にて観察を行った。染色体構造が凝集・断片化した細胞をアポトーシス誘導細胞と判断し、無作為に選出した10視野における全細胞数及びアポトーシス誘導細胞数を計測した。
【0139】
結果を図27に示す。有意差検定はStudent’s t-testを用いた。図の縦軸はアポトーシスが誘導された細胞の割合を示す。
抗IgM抗体(1)及び抗HLA-DR抗体(1)のアポトーシス誘導率はそれぞれ6.0%及び4.2%であり、ビークル及び陰性抗体のアポトーシス誘導率はそれぞれ3.8%及び4.3%であった。二重特異性抗体は11.0%といずれの抗体と比較しても有意に高いアポトーシス誘導率を示した。
【0140】
(2)抗IgM抗体(1)と抗CD20(2)抗体を組み合せた二重特異性抗体のRamos細胞に対するアポトーシス誘導作用
実施例5(1)に準じて、抗IgM抗体(1)と抗HLA-DR抗体(1)を組み合せた二重特異性抗体の代わりに抗IgM抗体(1)と抗CD20抗体(2)を組み合せた二重特異性抗体を用いて、アポトーシス誘導率を調べた。
【0141】
結果を図28に示す。図の縦軸はアポトーシスが誘導された細胞の割合を示す。
抗IgM抗体(1)及び抗CD20抗体(2)のアポトーシス誘導率はそれぞれ8.7%及び7.9%であり、ビークル及び陰性抗体のアポトーシス誘導率はそれぞれ3.5%及び4.1%であった。一方、二重特異性抗体は22.4%といずれの抗体と比較しても有意に高いアポトーシス誘導率を示した。
【0142】
(3)抗IgM抗体と抗CD38抗体を組み合せた二重特異性抗体のRamos細胞に対するアポトーシス誘導作用
実施例5(1)に準じて、抗IgM抗体(1)と抗HLA-DR抗体を組み合せた二重特異性抗体の代わりに抗IgM抗体(1)と抗CD38抗体を組み合せた二重特異性抗体を用いて、アポトーシス誘導率を調べた。
【0143】
結果を図29に示す。図の縦軸は全細胞中のアポトーシスが誘導された細胞の割合を示す。
抗IgM抗体(1)及び抗CD38抗体のアポトーシス誘導率はそれぞれ4.3%及び1.4%であり、ビークル及び陰性抗体のアポトーシス誘導率はそれぞれ1.3%及び1.1%であった。一方、二重特異性抗体は16.4%といずれの抗体と比較しても有意に高いアポトーシス誘導率を示した。
【0144】
実施例6 抗IgM抗体と抗HLA-DR抗体とを組み合せた二重特異性抗体の細胞周期停止作用
(1)分泌型IgM存在下でのJeKo-1細胞に対する細胞周期停止作用
分泌型IgM存在下で抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)及び抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体がJeKo-1細胞の細胞周期に与える影響を検討した。具体的には、JeKo-1細胞増殖培地で調製した各抗体(400ng/mL)と分泌型IgM(40μg/mL)を体積比1:1で混合し、室温で30分間静置した。その後、予め培地に懸濁したJeKo-1細胞を6ウェルプレートに播種し(3×10cells/well)、各ウェルに各抗体濃度が100ng/mL、及び、分泌型IgM濃度が10μg/mLとなるように添加し、37℃、5%COの条件下で、24時間培養した。陰性対照は抗体液の代わりにPBSを添加した。培養後、細胞を70%エタノール/PBSで固定し、ヨウ化プロピジウム(シグマ・アルドリッチ)でDNAを染色した上でフローサイトメーター及び解析ソフトCytomics MXP cytometerを用いて細胞周期解析を行った。結果を図12に示す。各スライドの縦軸は細胞数、横軸は細胞あたりのDNA含有量を示す。
抗HLA-DR抗体(1)は分泌型IgMの存在に関係なくJeKo-1細胞の細胞周期に影響を与えなかった。抗IgM抗体(1)は分泌型IgMの非存在下では細胞周期を停止させたが、分泌型IgM添加により細胞周期停止作用は消失した。一方、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は、分泌型IgMの存在に関係なく細胞周期をG1期で停止させた。また、Cys1m型二重特異性抗体とKIH型二重特異性抗体の細胞周期停止作用は同等であり、製造法の違いによる活性の差異はないことが示された。
この結果から、抗IgM抗体をB細胞表面抗原に対する抗体と二重特異性抗体とすることで分泌型IgM存在下でも細胞周期を停止させることが明らかとなった。
【0145】
(2)ヒト血清存在下でのJeKo-1細胞に対する細胞周期停止作用
実施例6(1)に準じて、分泌型IgMに代えてヒト血清を用い、ヒト血清存在下で抗IgM抗体(1)、抗HLA-DR抗体(1)及び抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体(1μg/mL)がJeKo-1細胞の細胞周期に与える影響を検討した。具体的には、90%ヒト血清/10%抗体液(抗体の最終濃度は1μg/mL)となるよう、ヒト血清と抗体を混合し、JeKo-1細胞に添加した。ヒト血清非添加群には90%JeKo-1細胞増殖培地/10%抗体液とした。また、陰性対照は抗体液の代わりにPBSを添加した。結果を図13に示す。各図の縦軸は細胞数、横軸は細胞あたりのDNA含有量を示す。
抗HLA-DR抗体(1)はヒト血清の存在に関係なくJeKo-1細胞の細胞周期に影響を与えなかった。抗IgM抗体(1)は、ヒト血清非存在下では細胞周期を停止させたが、ヒト血清を添加することにより細胞周期停止作用は消失した。一方、抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は、ヒト血清の存在に関係なく細胞周期をG1期で停止させた。また、Cys1m型二重特異性抗体とKIH型二重特異性抗体の細胞周期停止作用は同等であり、製造法の違いによる活性の差異はないことが示された。
この結果から、抗IgM抗体をB細胞表面抗原に対する抗体と二重特異性抗体とすることでヒト血清存在下でも細胞周期を停止させることが明らかとなった。
なお、本試験は、2人のヒト血清で試験を実施したが、両ドナーの非働化血清で同等の結果が得られ、ドナーによる違いは認められなかった。
【0146】
実施例7 抗IgM抗体と抗HLA-DR抗体とを組み合わせた二重特異性抗体のラット投与試験
(1)ラットへの抗体投与によるB細胞減少作用
抗HLA-DR抗体(1)は、WKAH/HkmラットのB細胞に結合することが知られている。そこで、抗IgM/HLA-DR(1)二重特異性抗体のラットへの作用を調べた。
抗IgM抗体(1、3、10、30mg/kg)、抗HLA-DR抗体(1)(0.1、0.3、1mg/kg)及び抗IgM/HLA-DR(1)二重特異性抗体(0.1、0.3、1、3、10、30mg/kg)をWKAH/Hkmラットの尾静脈から投与した。投与5時間後に、ラット尾静脈より採血した。PE標識抗ラットCD45RA抗体(BDファーミンゲン)と反応させた後にOptiLyse C(ベックマン・コールター)を用いて溶血処理を行い、血中のB細胞数をフローサイトメーター及び解析ソフトCytomics MXP cytometerを用いて計測した。抗体の代わりにPBSを投与した個体の末梢血中B細胞数を100%とし、各抗体投与後の末梢血B細胞数の変動を算出した。
抗IgM/HLA-DR(1)二重特異性抗体の投与がラット生体内のB細胞に与える影響を図14に示す。抗IgM抗体は10mg/kg以上投与しないとB細胞数が減少しなかったのに対し、抗IgM/HLA-DR(1)二重特異性抗体では0.3mg/kg投与群でもB細胞数を減少させた。抗HLA-DR抗体(1)は0.3mg/kg以上を投与した個体で鎮静、腹臥位などの行動異常が認められ、さらに1mg/kgを投与した個体では、重篤な副作用のため採血不能となった。また、それ以下の投与量ではB細胞の十分な減少効果が認められなかった。以上の結果から、ラット生体内において抗IgM抗体の活性が発揮できない低濃度でも、抗IgM抗体を他のB細胞表面抗原に対する抗体と二重特異性抗体とすることで、B細胞数を減少させることが示された。また、ラット生体内において低濃度でも重篤な副作用が観察される抗B細胞抗原抗体でも、抗IgM抗体と二重特異性抗体とすることにより副作用の発現が抑制され、B細胞数を減少させることが示された。
【0147】
実施例8 抗IgM抗体と抗HLA-DR抗体とを組み合わせた二重特異性抗体のサル投与試験
(1)カニクイザルへの抗体投与によるB細胞減少作用
抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体をカニクイザルへ投与し、その有効性を評価した。抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体をカニクイザル雌1匹の橈側皮静脈内へ投与した。投与は、それぞれ1、3、10、20mg/kgに相当する抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体を低用量から順に、2日に1回実施し、合計4回投与した。初回投与の直前、及び、各投与から24時間後に大腿静脈より採血した。APC標識抗CD20抗体(Biolegend)またはAlexa Fluor 488標識抗CD3抗体(BD Biosciences)を反応させ、B細胞数及びT細胞数をフローサイトメーター(FACS Calibur、BD Biosciences)及び解析ソフトCellQuest Pro(Version6.0、BD Biosciences)を用いて計測すると共に、赤血球及び血小板数を総合血液学検査装置(Siemens healthcare Diagnostics Manufacturing)を用いて計測した。投与前の末梢血中の各血球数を100%とし、各投与後の末梢血中の各血球数を算出した。また、投与期間を通じてサルの症状を観察すると共に試験終了後に剖検により異常所見の有無を観察した。
結果を図15-19に示す。抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は1mg/kg投与により末梢血中のB細胞数が約50%減少した。さらにその効果は濃度依存的に増強し、20mg/kg投与では投与前の約2%まで末梢血中のB細胞を消失させた(図15)。さらに抗体投与後に作製した腋窩リンパ節のヘマトキシリン・エオジン染色において、リンパ節内のリンパ球が占める割合が著しく低下し、リンパ濾胞の萎縮及び胚中心の消失が観察された。一方、B細胞と同様にHLA-DRを細胞膜表面に発現するT細胞は抗体の投与依存的な減少は観察されなかった(図16)。また、HLA-DRを細胞膜表面に発現しない赤血球及び血小板も抗体の投与依存的な減少は観察されなかった(図17図18)。さらに体温は抗体の投与後も変化せず、ほぼ一定の値を示した(図19)。抗体投与が原因と思われるサルの異常な症状は確認されておらず、剖検の結果からも異常な所見は確認されなかった。
以上の結果は、血中に分泌型IgMが存在するカニクイザル生体内においても抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体は末梢血B細胞の枯渇を引き起こすことを示し、該二重特異性抗体がB細胞性腫瘍だけでなく、正常B細胞に由来するB細胞関連疾患の治療にも有効であることを強く示唆するものである。
抗IgM(1)/HLA-DR(1)二重特異性抗体の親抗体の1つである抗HLA-DR抗体(1)については、実施例6で示した通り、ラットに対する副作用は0.3mg/kgから認められ、さらに1mg/kgの投与で重篤な副作用が認められており、カニクイザルに対しても同様に重篤な副作用を示すことが予想される。しかしながら、以上の結果より、カニクイザル生体内において重篤な副作用が懸念される抗B細胞抗原抗体でも、抗IgM抗体と二重特異性抗体とすることにより、より高い濃度で用いても、副作用の発現が抑制され、B細胞数を減少させることが示された。
実施例7及び8の結果より、抗IgM/B細胞表面抗原二重特異性抗体は、B細胞に対する優れた増殖阻害活性を有するとともに、副作用の面からも顕著な効果を有することが示された。
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