(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】光RFスペクトル分析器
(51)【国際特許分類】
G01R 23/14 20060101AFI20220401BHJP
G01R 23/165 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
G01R23/14 C
G01R23/165 Z
(21)【出願番号】P 2019510960
(86)(22)【出願日】2017-08-22
(86)【国際出願番号】 AU2017050889
(87)【国際公開番号】W WO2018035560
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-02-28
(32)【優先日】2016-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501305257
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シジエ ソング
(72)【発明者】
【氏名】シャオク イー
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06307655(US,B1)
【文献】特開2001-242201(JP,A)
【文献】特開2003-004779(JP,A)
【文献】特開2007-212427(JP,A)
【文献】特開平05-307077(JP,A)
【文献】特開2015-129732(JP,A)
【文献】特開2014-190964(JP,A)
【文献】特開平08-101066(JP,A)
【文献】米国特許第04922256(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0315590(US,A1)
【文献】米国特許第04695790(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 23/00-23/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力RF信号を搬送波周波数に変調して変調光信号を生成するための光変調器と、
前記変調光信号を修正するためのスペクトル重み関数を有し、前記スペクトル重み関数と前記搬送波周波数との周波数関係を定めるスペクトル重みモジュールと、
周波数範囲にわたる掃引を実行して前記搬送波周波数および前記変調光信号を修正することによって前記スペクトル重み関数と前記搬送波周波数との前記周波数関係を経時的に修正し、修正された光信号を経時的に生成するための周波数制御モジュールと、
前記修正された光信号を経時的に感知し、前記修正された光信号に基づいてRF信号を経時的に生成するための光センサと、
前記RF信号に基づいてRFスペクトルを経時的に計算するための信号復元モジュールと
を備える光RFスペクトル分析器。
【請求項2】
前記信号復元モジュールは、前記スペクトル重み関数に基づいて経時的に前記RF信号のデコンボリューションを実行するように構成される、請求項1に記載のスペクトル分析器。
【請求項3】
前記デコンボリューションは、前記スペクトル重み関数の解析近似に基づく、請求項2に記載のスペクトル分析器。
【請求項4】
前記信号復元モジュールは、前記RF信号の波形を周波数領域信号として経時的に用いることによって、前記RF信号の前記デコンボリューションを経時的に実行するように構成される、請求項2または請求項3に記載のスペクトル分析器。
【請求項5】
前記RF信号の波形を周波数領域信号として経時的に用いることは、前記スペクトル重み関数と前記搬送波周波数との前記周波数関係を経時的に修正する速度に基づいて、前記RF信号に関連する周波数軸を経時的に生成することを備える、請求項4に記載のスペクトル分析器。
【請求項6】
前記スペクトル重みモジュールは共振器またはリング発振器である、請求項1~5のいずれか1項に記載のスペクトル分析器。
【請求項7】
前記光変調器は、前記搬送波周波数においてレーザを生成するためのレーザ光源を備える、請求項1~6のいずれか1項に記載のスペクトル分析器。
【請求項8】
前記スペクトル重み関数と前記搬送波周波数との前記周波数関係を経時的に修正することは、単位時間ごとの変化速度に基づき、前記信号復元モジュールは、前記変化速度に基づいて前記RFスペクトルを計算するためのものである、請求項1~7のいずれか1項に記載のスペクトル分析器。
【請求項9】
各々が前記変調光信号を修正するためのスペクトル重み関数を有し、各々が前記スペクトル重み関数と前記搬送波周波数との前記周波数関係を定める、スペクトル重みモジュールのバンクと、
前記修正された光信号を経時的に感知し、複数のRF信号を経時的に生成するための光センサのアレイと
を更に備え、
前記信号復元モジュールは、前記RF信号に基づいて前記RFスペクトルを経時的に計算する、請求項1~8のいずれか1項に記載のスペクトル分析器。
【請求項10】
入力RF信号を分析するための方法であって、
前記入力RF信号を光搬送波周波数に変調し、変調光信号を生成することと、
スペクトル重み関数を適用するスペクトル重みモジュールを使用することによって前記変調光信号を修正することであって、前記スペクトル重みモジュールは前記スペクトル重み関数と前記
光搬送波周波数との周波数関係を定める、ことと、
周波数範囲にわたる掃引を実行して前記
光搬送波周波数および前記変調光信号を修正することによって前記スペクトル重み関数と前記
光搬送波周波数との前記周波数関係を経時的に修正し、修正された光信号を経時的に生成することと、
前記修正された光信号を経時的に感知し、前記修正された光信号に基づいてRF信号を経時的に生成することと、
前記RF信号に基づいて前記入力RF信号のRFスペクトルを経時的に計算することとを備える方法。
【請求項11】
前記入力RF信号の前記RFスペクトルを計算することは、前記スペクトル重み関数に基づいて前記RF信号のデコンボリューションを経時的に実行することを備える、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記デコンボリューションは、前記スペクトル重み関数の解析近似に基づく、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記RF信号の前記デコンボリューションを経時的に実行することは、前記RF信号の波形を経時的に周波数領域信号として用いることを備える、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記RF信号の波形を周波数領域信号として用いることは、前記スペクトル重み関数と前記
光搬送波周波数との前記周波数関係を経時的に修正する速度に基づいて、前記RF信号に関連する周波数軸を経時的に生成することを備える、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記入力RF信号を光搬送波周波数に変調することは、前記入力RF信号を複数の光搬送波周波数に同時に変調することを備え、前記スペクトル重み関数は、前記複数の光搬送波周波数に対応する複数のピークを備える、請求項10~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記スペクトル重み関数と前記複数の
光搬送波周波数との前記周波数関係を修正することは、前記複数の
光搬送波周波数の間隔または前記スペクトル重み関数の複数のピークの間隔またはその両方を修正することを備える、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記スペクトル重み関数と前記
光搬送波周波数との前記周波数関係を修正することは、光フィルタを調整することを備える、請求項10~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記スペクトル重み関数と前記
光搬送波周波数との前記周波数関係を修正することは、レーザ光源の搬送波周波数を変えることを備える、請求項10~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記入力RF信号を光搬送波周波数に変調することは、前記入力RF信号を複数の光搬送波周波数に同時に変調することを備え、前記スペクトル重み関数と前記
光搬送波周波数との前記周波数関係を経時的に修正することは、前記変調光信号を周波数依存型遅延素子に送信し、各光搬送波周波数および対応する変調入力RF信号に様々な遅延を適用することを備える、請求項10~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記スペクトル重み関数と前記
光搬送波周波数との前記周波数関係を経時的に修正することは、単位時間ごとの変化速度に基づき、前記RFスペクトルを計算することは、前記変化速度に基づく、請求項10~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記光搬送波周波数と前記変調光信号との間隔を大きくするために、前記入力RF信号を変調する前に前記入力RF信号に周波数変調を適用することを更に備える、請求項10~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
RF信号分析器を制御するための方法であって、
変調光信号を生成する光変調器による入力RF信号の搬送波周波数への変調を制御するための変調器制御信号を生成し、周波数範囲にわたる掃引を実行して前記搬送波周波数および前記変調光信号を修正することによって
、前記変調光信号を修正す
るスペクトル重み
モジュールによって特徴付け
られるスペクトル重み関数と
、前記搬送波周波数と
、の周波数関係を経時的に修正することと、
前記スペクトル重み
モジュールによって生成された、前記修正された信号を示す感知RF信号を経時的に受信することと、
前記感知RF信号に基づいて前記入力RF信号のRFスペクトルを経時的に計算することと
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によってその内容が本願に組み込まれる、2016年8月22日に出願されたオーストラリア特許仮出願第2016903330号からの優先権を主張するものである。
【0002】
本開示は、光RFスペクトル分析器、および入力RF信号を分析するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電子RFシステムの機能の拡大に対する需要の増加は、マイクロ波信号を高分解能かつ広い動作帯域幅で認識することができるシステムを提供するという先例のない課題を提示する。検出されたマイクロ波信号の存在を報告し、パラメータ混合、コヒーレント光周波数コム、および誘導ブルリアン散乱を含む瞬時スペクトル活動監視を実行するために、様々なフォトニック支援型チャネル化アプローチが存在する。これらのスキームは、システムの複雑性およびコストを高める複数の光源の使用に基づく。また、既存のフォトニック支援型チャネル化受信機は、光フィルタリング帯域幅と無線周波数(RF)測定分解能との1対1の関係によって制限され、すなわち、RF測定分解能が光フィルタリング帯域幅のみに依存する。たとえば、20MHzのRF測定分解能を有するために、20MHzの3dB帯域幅を有する高選択的光フィルタを必要とし、これは非常に複雑であり、または光造形において実現することが不可能ですらある。
【0004】
この本質的な欠点は、限られた帯域幅および光フィルタの選択性によって生じる隣接した周波数成分間のスペクトル拡幅効果によってもたらされる。これは、マイクロ波信号の周波数情報を正確に保持するためのシステム性能を著しく低減させる。また、シリコンリング共振器を用いる信号処理は、小型サイズおよびCMOS製造技術との適合性によって非常に興味深いものである。フォトニック支援型チャネル化受信機のための、帯域応答および狭通過帯域(100MHz未満)を有する高選択的光フィルタを製造するために、アプローチは、臨界結合状態および結合における各間隙および各リングの寸法の正確な制御を有する多数のリングを用いる。そのような複雑な技術プロセスは、シングルチップにチャネル化受信機を統合する可能性を厳しく制限する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
光RFスペクトル分析器は、
入力RF信号を搬送波周波数に変調するための光変調器と、
変調光信号を修正するためのスペクトル重み関数を有し、スペクトル重み関数と搬送波周波数との周波数関係を定める光スペクトル重みと、
スペクトル重み関数と搬送波周波数との周波数関係を経時的に修正するための周波数制御モジュールと、
修正された光信号を経時的に感知し、RF信号を経時的に生成するための光センサと、
RF信号に基づいてRFスペクトルを経時的に計算するための信号復元モジュールと
を備える。
【0006】
スペクトル重み関数と搬送波周波数との関係を経時的に修正し、その後、フィルタされたRF信号からRFスペクトルを経時的に計算することにより、スペクトル重みが比較的広帯域である場合にも高いスペクトル分解能が生じることが利点である。これは、製造お
よび/または動作が困難および/または高費用である、非常に狭帯域のフィルタに頼る他の方法に優る利点である。提案される方法の結果、低減された価格/複雑性および増加した堅牢性でより高いスペクトル分解能が得られる。
【0007】
信号復元モジュールは、スペクトル重み関数に基づいて経時的にRF信号のデコンボリューションを実行するように構成され得る。
【0008】
デコンボリューションは、スペクトル重み関数の解析近似に基づいてよい。
【0009】
信号復元モジュールは、RF信号の波形を周波数領域信号として経時的に用いることによって、RF信号のデコンボリューションを経時的に実行するように構成され得る。
【0010】
RF信号の波形を周波数領域信号として経時的に用いることは、スペクトル重み関数と搬送波周波数との周波数関係を経時的に修正する速度に基づいて、RF信号に関連する周波数軸を経時的に生成することを備えてよい。
【0011】
スペクトル重みは共振であってよい。共振はリング発振器であってよい。
【0012】
光変調器は、搬送波周波数においてレーザを生成するためのレーザ光源を備えてよい。周波数制御モジュールは、搬送波周波数を変えることによって、スペクトル重み関数と搬送波周波数との関係を修正するためのものであってよい。搬送波周波数を変えることは、周波数範囲にわたる掃引を実行することを備えてよい。
【0013】
スペクトル重み関数と搬送波周波数との関係を経時的に修正することは、単位時間ごとの変化速度に基づいてよく、信号復元モジュールは、変化速度に基づいてRFスペクトルを計算するためのものであってよい。
【0014】
入力RF信号を分析するための方法は、
入力RF信号を光搬送波周波数に変調し、変調光信号を生成することと、
スペクトル重み関数を有し、スペクトル重み関数と搬送波周波数との周波数関係を定めるスペクトル重みを付与することによって、変調光信号を修正することと、
スペクトル重み関数と搬送波周波数との関係を経時的に修正し、修正された光信号を経時的に生成することと、
修正された光信号を経時的に感知し、RF信号を経時的に生成することと、
RF信号に基づいて入力RF信号のスペクトルを経時的に計算することと
を備える。
【0015】
入力RF信号のスペクトルを計算することは、スペクトル重み関数に基づいてRF信号のデコンボリューションを経時的に実行することを備えてよい。
【0016】
デコンボリューションは、スペクトル重み関数の解析近似に基づいてよい。
【0017】
RF信号のデコンボリューションを経時的に実行することは、RF信号の波形を周波数領域信号として用いることを備えてよい。
【0018】
RF信号の波形を周波数領域信号として用いることは、スペクトル重み関数と搬送波周波数との周波数関係を経時的に修正する速度に基づいて、RF信号に関連する周波数軸を経時的に生成することを備えてよい。
【0019】
スペクトル重み関数と搬送波周波数との関係を修正することは、レーザ光源の搬送波周
波数を変えることを備えてよい。
【0020】
搬送波周波数を変えることは、周波数範囲にわたる掃引を実行することを備えてよい。
【0021】
スペクトル重み関数と搬送波周波数との関係を経時的に修正することは、単位時間ごとの変化速度に基づいてよく、RFスペクトルを計算することは、変化速度に基づく。
【0022】
RF信号分析器を制御するための方法であって、
光変調器による入力RF信号の搬送波周波数への変調を制御するための変調器制御信号を生成し、変調された光信号を修正するためのスペクトル重みを特徴付けるスペクトル重み関数と搬送波周波数との関係を経時的に修正することと、
光スペクトル重みによって生成された、修正された信号を示す感知RF信号を経時的に受信することと、
RF信号に基づいて入力RF信号のスペクトルを経時的に計算することと
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下の図を参照して例が説明される。
【0024】
【
図3】
図1のRFスペクトル分析器における信号の例を模式的に示す。
【
図4】フォトニック支援型RF測定の実験装置を示す。
【
図5a】光フィルタの測定スペクトル応答(実線)および模擬スペクトル応答(点線)を示す。
【
図5b】組立式シリコンフォトニック単一リングアドドロップフィルタの上面顕微画像である。
【
図5c】測定されモデル化された出力光強度を示す。
【
図5d】20GHzにおける推定RF信号周波数を示す。
【
図6a】測定されモデル化された出力光強度を示す。
【
図6b】入力RF周波数が0.5GHzである場合の推定RF信号を示す。
【
図7b】入力RF周波数が20GHzであり、その電力が変化する場合の推定RFを示す。挿入図は拡大された推定結果である。上側の実線は0dBmのRF電力であり、中間の点線は-10dBmのRF電力であり、下側の実線は-20dBmのRF電力である。
【
図8】フィルタバンクに基づくRFスペクトル分析器の模式図を示す。
【
図9】
図8のRFスペクトル分析器のスペクトルを示す。
【
図10】レーザフィルタアレイに基づくRFスペクトル分析器の模式図を示す。
【
図12】調整可能フィルタに基づくRFスペクトル分析器の模式図を示す。
【
図14】分散素子に基づくRFスペクトル分析器の模式図を示す。
【
図16】RF乗算器に基づくRFスペクトル分析器の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示は、RF測定分解能と光帯域幅との1対1の関係を打破し、設計および製造の複雑性を高めることなく高RF測定分解能を提供し、マイクロ波信号の振幅および周波数情
報の両方を復元し、オンチップRF周波数測定システムを可能にする技術を提供するものである。
【0026】
図1は、信号入力101、変調器102、周波数制御103、たとえばフィルタなどのスペクトル重み104、オプティカルフィールド積分器105、および信号復元モジュール106を備えるRFスペクトル分析器100を示す。
【0027】
図2は、RFスペクトル分析のための方法200を示し、
図3は、RFスペクトル分析のための信号フロー300を示す。
図1、
図2、および
図3における参照番号は、参照番号101、201、および301が互いに対応するという意味で、互いに対応する。
【0028】
使用時、信号入力101は、入力信号301を受信201し、変調器102は、光側波帯を有する変調信号302を生成202する。周波数制御103は、周波数信号302を時間領域303にマッピング203し、スペクトル重み104は、時間領域信号にスペクトル重み304を付与204する。最終的に、周波数積分器105は、積算時間信号305を生成するために信号を積算205し、信号復元モジュール106は、入力信号301のRFスペクトルを計算するために信号を復元206する。
【0029】
入力101は、スペクトル的に限られた(狭帯域)入力信号を受信するアンテナであってよい。入力信号301の周波数スペクトルにおいて、狭帯域信号は310に示される。説明の簡略化のため、狭帯域信号310は、中心周波数311に関して対称であるものとする。言い換えると、狭帯域信号310の中央は、周波数軸の起点から中心周波数311だけ離間する。ただし、入力信号は任意のスペクトルを有してよく、多くの場合、入力スペクトルは未知であることに留意する。
【0030】
ステップ202における変調器102による変調は、上側側波帯320および下側側波帯321を生成する。変調の結果、上側側波帯320および下側側波帯321の中心は、変調器周波数322から中心周波数311だけ離間する。中心周波数311は、レーザの光周波数であってよい。光周波数は無線周波数よりも桁違いに高いので、
図3において周波数軸は分断される。RF中心周波数311の例は20GHzであってよく、搬送波の光周波数322の例は195THzであってよい。
【0031】
周波数制御103は、たとえば1546.45nm~1547.25nmなど、低光波長から高光波長まで搬送波周波数322を掃引することによって、変調信号302を時間領域にマッピング203する。要するに、これによって側波帯320、321がシフトされるとともに、搬送波322は、時間矢印303によって示すように経時的に右に向かう。1例において、掃引速度は1msあたり10MHzである。
【0032】
ほとんどの積分器は広帯域であり変調信号302のスペクトル全体を効果的に積算するため、たとえばフォトダイオードなどの積分器105を変調および時間マッピングされた信号302に直接適用することにより、ほんのわずかな経時的変化しか生じないことに留意する。したがって、側波帯320、321および搬送波のシフトによって生じる有益な経時的変化はほとんどまたは全くない。ただし、積分器105が適用される前に、スペクトル重み104が信号に付与される。スペクトル重みは光共振であってよく、周波数応答の例は
図3の304に描かれる。スペクトル重みの付与は基本的に、各周波数における周波数スペクトル302をその周波数におけるスペクトル重み304で乗算し、その後、周波数範囲全体にわたって積算することを意味する。これは、時間領域において畳み込みとも称され、周波数領域においては乗算になる。
【0033】
図3に示す変調信号302およびスペクトル重み304の相対位置において、2つの信
号間に重なりはないことが分かる。言い換えると、周波数軸上の全ての点において、信号の少なくとも1つがゼロである。その結果、2つの信号の積もまた、周波数軸全体にわたりゼロである。ゼロ信号を積算することにより、積算時間信号305における時間t
1350に示されるゼロ出力が生じる。変調信号302は経時的に右へシフト303されるので、上側側波帯320は、スペクトル重み304に重なる移動を始め、上側側波帯とスペクトル重みとの積がゼロでなくなる。経時的に重なりは大きくなり、これは積算時間信号305の第1のピーク351によって示される。上側側波帯320がスペクトル重み304から外れると、搬送波322がスペクトル重み304に架かって移動し第2のピーク352をもたらすまで、積算時間信号305はゼロに後退する。同様に、スペクトル重み304に架かって移動する下側側波帯は、第3のピーク353をもたらす。
【0034】
言い換えると、スペクトルの重なりは、スペクトル重み関数304と搬送波周波数322との周波数関係として表され得る。周波数関係は、スペクトル重みが搬送波周波数322とスペクトル重み関数304との相対配置またはアライメントを定義するという意味で、スペクトル重みによって定義される。これは、たとえば固定光リング発振器によって実装されるような、固定スペクトル重み関数を備えてよい。他の例において、スペクトル重みは、たとえば光リング発振器の調整または光プロセッサの使用などによって、調整可能であってよい。調整にかかわらず、スペクトル重みは、搬送波周波数322とスペクトル重み関数304との周波数関係を定める。特定のスペクトル関係は、スペクトル重み関数が搬送波よりも著しく高い周波数にあること、搬送波より10GHz上にあること、または上側側波帯320の周波数を上回って搬送波より上にあることであってよい。周波数関係を経時的に修正することは、上述した掃引を備えてよく、上述したような重なりをもたらし得る。
【0035】
一例において、3つのピーク351、352、および353は、
図3の積算時間信号305において示すように明確に分離される。この場合、復元モジュール106は、3つのピーク351、352、および353を極大値として検出し、上側側波帯ピーク351と搬送波ピーク352との間の時間t
0354を測定することができる。この時間t
0354は、上側側波帯320とスペクトル重み304との重なりと、搬送波322とスペクトル重みとの重なりとの間の時間を示す。すなわち、時間t
0は、変調信号スペクトルがf
0からシフトされている期間を示す。Hz/sで示す掃引速度であるシフトの速度は、周波数制御103への入力として事前設定され、または既知であるため、周波数f
0は、f
0=速度×t
0として計算され得る。これは、スペクトル重み304が比較的広い帯域であり、ピーク351、352、および353が区別され得る限り出力のスペクトル分解能を著しく低下させることがないことを示す。
【0036】
しかし他の例において、3つのピーク351、352、および353は、強く重なり合うピークによって区別することが難しい。この場合、復元モジュール106は、時間信号にデコンボリューションアルゴリズムを適用してよい。ただし、信号処理における多数のプロセスは、周波数空間において乗算に変換され得る、たとえば入力信号およびフィルタ応答など2つの時間信号の畳み込みによって表されることに留意する。対照的に、ここでは畳み込みは、変調信号302とスペクトル重みスペクトル304との間の周波数空間において生じるが、出力は、時間領域積算時間信号305である。ただし、積算時間信号305の時間軸を掃引速度に従う周波数軸と置き換えることが可能である。たとえば、掃引速度が毎秒10MHzである場合、復元モジュールは、積算時間信号305の時間軸における時間値と10MHz/sとを乗算し、それらを周波数に変換し、適用可能であればオフセットを適用してよい。積算時間信号305の波形は、その後、原信号302の推定値を計算するために、決定された周波数軸を用いる周波数領域信号としてデコンボリューションアルゴリズムへ受け渡され得る。デコンボリューションは、たとえばscipy.signal.deconvolveパッケージにおけるPythonコードを実行するこ
とによって、コンピューティングシステムのプロセッサによって実行され得る。他の例において、FPGAがデコンボリューションを実行する。
【0037】
デコンボリューション結果の精度は、スペクトル重み204の実際のスペクトルまたはその近似値を用いることによって高められ得る。1つの近似は、ガウス分布であってよい。より正確な近似は、ディラックインパルスであってよい。
【0038】
要するに、スペクトル分析システムは、光側波帯(OSB)生成、周波数時間マッピング、スペクトル重み付け、光フィールド積算、および信号復元を含む、光および電気領域の両方における5つの信号処理ステップによって実現され得る。第1に、電気光変調を介して、光源によって生成された光搬送波に入力RF信号が適用され、それによって光側波帯生成が実現される。第2に、光スペクトルにおける光側波帯情報は、周波数時間領域マッピングを介して時間領域内の波形に変換され、ここでその強度プロファイルは、光スペクトルのスケールドレプリカになる。第3に、時変波形は、たとえば光フィルタなどのスペクトル重みモジュールを通って伝送され、ここで各時間インスタンスでの出力におけるその強度は、寄与周波数成分に従って重み付けされる。第4に、たとえば光検出器または光電力計などの光フィールド積分器は、各時間インスタンスにおける正確な光強度を測定するために利用される。第5に、デコンボリューション定理に基づく信号復元モジュールは、光フィールド積分器によって測定された光強度から入力RF信号スペクトルを再構成するために用いられる。
【0039】
この技術のアプリケーションは以下を含む。
・走査受信機
・RFスペクトル分析
・光スペクトル分析
・フォトニック信号処理
・集積フォトニックチップ
・レーダ
【0040】
デコンボリューションの概念を検証するために、調整可能レーザ光源403によって変調された未知のRF入力信号を光側波帯生成器402へ提供するための入力401を備える、
図4に示す装置400に基づいて実験が行われた。可能な周波数測定範囲は、システム内で用いられる光側波帯生成器によって主に制限されることに留意する。電気光変調器における現在の開発状況は、100GHzを上回る変調帯域幅を提供し、これは、提案された超広帯域RFスペクトル分析を用いるシステムを容易にし得る。変調信号は、信号復元モジュール405へ信号を提供する光フィールド積分器405に接続された、スペクトル重みとして作用する単一リング共振器404へ供給される。実験において、一定の掃引速度80nm/sを有する調整可能レーザ(Keysight)403は、1546.45nmから1547.25nmまで掃引された。これは、4000点および約10msの全体掃引期間をもたらし、ここで時間領域における1マイクロ秒の時間間隔は、10MHzの周波数変化に対応する。たとえば広帯域測定が必要な光スペクトル分析など他のアプリケーションの場合、掃引範囲は更に拡大され、たとえばC+L帯域であってよい。システム400においてスペクトル重み付けを提供するための光フィルタ404は、約1.4GHzの3dB帯域幅を有する1546.85nmを中心とする単一リング共振器に基づく。フィルタの測定された光スペクトルは、
図5aに示される。
【0041】
第1に、20GHzのRF周波数を有する入力マイクロ波信号401が試験に用いられた。
図5cは、実験において光電力計であった光フィールド積分器405の出力において測定された光強度波形を示す。その結果は、光パワー強度の時間領域へのマッピング、OSB生成402の効果、および光強度の重み付けを示す。信号復元モジュール406の出
力において推定されたRF信号の周波数が
図5dに示される。入力信号の復元は、既存の信号デコンボリューションアルゴリズムによる逆変換によって行われる。たとえば、画像およびオーディオ処理アプリケーションに関するブラインドデコンボリューション法が復元モジュールにおいて適合され使用され得る。
【0042】
測定誤差は25MHz未満であり、これは、1.4GHzのフィルタ帯域幅よりも大幅に小さい。
【0043】
図6aおよび
図6bは、入力マイクロ波周波数が、光フィルタの3dB帯域幅よりも大幅に小さい0.5GHzまで低減された場合の測定を示す。
図6aから分かるように、光電力計の出力光強度は単一ピークに向かって広がるが、RF信号の周波数は、
図6bに示す新たな技術によって正確に識別され得る。
【0044】
図7aおよび
図7bはそれぞれ、入力RF周波数が20GHzに固定され、その電力が様々であった場合の、測定された光強度波長および推定された変調信号を示す。図示されるように、この技術は、信号の振幅および周波数の両方を十分に復元する。推定された振幅誤差はそれぞれ、0dBm、-10dBm、および-20dBmの入力RF電力において0.72、0.126、および0.06dBである。
【0045】
周波数時間マッピングモジュールおよびスペクトル重みモジュールと、光フィールド積分器および信号復元モジュールとを組み合わせることにより、高分解能での入力RF信号スペクトルの再構成が可能になり、また設計および製造の複雑性が著しく低減される。この技術は、分解能および動作帯域幅の測定を向上させ、RF測定分解能と光帯域幅との1対1の関係を打破し、マイクロ波信号の振幅および周波数情報の両方を復元し、オンチップRF周波数測定システムを可能にもする。マイクロ波周波数測定に対し提案された解決策は、光搬送波および側波帯情報が自己参照関数を提供するため、光源およびデバイスの波長ドリフトに影響されにくい。
【0046】
上述したように、デコンボリューションは、たとえば復元モジュール106など、コンピュータシステムのプロセッサによって実行され得る。このプロセッサは、たとえばプロセッサに接続されたプログラムメモリに格納されたソフトウェアコードの命令の下、スペクトル分析器100の制御タスクも実行してよい。これらの制御タスクは、スペクトル重み関数104と搬送波周波数322との関係を経時的に修正するために、光変調器102による入力RF信号101の搬送波周波数322への変調を制御するための変調器制御信号を生成することを含んでよい。これは基本的に、復元モジュール106と周波数制御103との間に
図1における他の接続が存在することを意味する。プロセッサは更に、光スペクトル重み104によって生成された修正信号を示す、感知RF信号305を経時的に受信する。その後プロセッサは、たとえば上述したようにRF信号にデコンボリューションアルゴリズムを経時的に適用することによって、RF信号に基づいて入力RF信号のスペクトルを経時的に計算する。
【0047】
更なる実施形態
【0048】
以下の説明は、更なる実施形態を提供する。一般に、参照番号の下2桁は対応する特徴を示し、その意味するところは、たとえば
図8におけるRF信号801が、
図1におけるRF信号101に対応する。
【0049】
図8は、搬送波周波数803を変えることなくスペクトル重み関数804と搬送波周波数803との関係を修正するためにフィルタバンク804を用いる、光RFスペクトル分析のための別の方法の模式図を示す。変調光信号は、レーザ803からの対象のRF信号
801を固定波長搬送波信号に変調することによって生成される。これはその後、均等に分割され、同一ライン形状を有する狭帯域光フィルタ804のバンクへ送信される。各個々のフィルタは、一定の間隔を有する個別の周波数(f
1、f
2、・・・、f
N)を中心とする。搬送波と個々のフィルタとの関係は、たとえば搬送波周波数を掃引することによって、上述したように経時的に変化する。
図8に示すような複数のフィルタの使用は、分析に要する時間を低減させる。たとえば、4つのフィルタを用いる場合、1つのフィルタの場合の4分の1の分析時間しか要さない。
【0050】
図9は、変調信号の各分割部分がどのようにシフト後のスペクトル重みと乗算されるかを示す。変調信号の重み付きスペクトルはその後、フォトダイオード805へ送信され、ここで変調信号のスペクトル全体にわたる積算が実行される。信号復元素子806において、フォトダイオードの電力出力は縫い合わせられ、フィルタライン形状によってデコンボリューションされ、その結果、入力RF信号のリアルタイムスペクトルが得られる。
【0051】
図10は、RFスペクトル分析器を実現するためにフィルタバンク1004を用いる他の例1000を示す。レーザアレイ1003は、様々な周波数(fc
1、fc
2、・・・、fc
2N)における複数の搬送波信号を生成するために用いられる。次に搬送波信号は、変調器1002へ注入される。RF情報は全ての搬送波信号にマッピングされ、その結果、それぞれfc
1、fc
2、・・・、fc
2Nを中心とする、変調信号の2N個のコピーが生成される。これはその後、均等に分割され、同一線形状を有する狭帯域光フィルタ1004のバンクへ送信される。フィルタバンク1004内のフィルタの中心周波数を調整することによって、変調信号のn番目(1≦n≦N)のコピーとフィルタ位置との相対間隔はnΔfであり、各フィルタ出力は、シフト後のスペクトル重み関数と変調信号との積である。
【0052】
図11は、レーザフィルタアレイに基づくRFスペクトル分析器のスペクトルを示す。
【0053】
スペクトル重み関数間の関係もまた、調整可能光フィルタを用いることによって経時的に修正され得る。
図12は、固定波長搬送波、変調器1202、調整可能光フィルタ1204、フォトダイオード1205、および信号復元素子1206を生成する、レーザ光源1203に基づく光RFスペクトル分析システム1200の模式図を示す。固定速度率を有する調整可能フィルタ1204の中心周波数を変化させることによって、光フィルタは、
図13に示すように各時間インスタンス(t
1、t
2、・・・、t
N)において別々の位置にあり、周波数範囲にわたる掃引が実現され得る。
【0054】
図14は他の例を示す。
図14に示すように、レーザアレイ1403は、固定周波数間隔(fc
1、fc
2、・・・、fc
N)を有する複数の搬送波信号を生成する。光搬送波信号は、fc
1、fc
2、・・・、fc
Nを中心とする変調光信号1401のN個のコピーを得るために変調器1402へ注入され、その後、変調器の出力は、遅延素子(たとえば分散型遅延線)へ送信される。遅延素子によってもたらされる時間遅延は、光周波数依存性であり、これは、変調信号の各コピーが様々な時間にフィルタ1404に到着することを示す。線形遅延スロープを有する分散型素子がシステム内で光遅延線1410として用いられる場合、変調信号のn個のコピーとn+1(1≦n≦N)個のコピーとの間に一定の時間遅延がもたらされる。したがって、経時的なスペクトル重み関数とRFスペクトルとの関係は、分散素子の分散特性によって制御される。
図15は、対応するスペクトルを示す。
【0055】
図16は、レーザ光源1603によって生成された搬送波信号に入力RF信号1601を直接適用するのではなく、RF信号1601が最初に周波数乗算器1610へ送信され、次に変調器1602へ送信され得る方法を示す。たとえば、周波数2倍器は、
図17に
示すように入力RF周波数を2倍にしてよく、その結果、搬送波信号と側波帯との相対間隔もまた、スペクトル重みモジュールへ注入される前に光周波数領域において2倍に増加する。乗算器1610の比を変化させることによって、変調信号の側波帯は、各時間インスタンスにおいて別々の位置に割り当てられる。したがって、周波数範囲にわたる掃引が実現され得る。
【0056】
当業者には理解されるように、本開示の広く一般的な範囲から逸脱することなく、上述した実施形態に数々の変形例および/または修正例が生み出され得る。したがって本実施形態は、あらゆる点で限定的ではなく例示的なものとして見なされるべきである。