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特許7050337WC-Co切削工具における高密着性ボロンドープ傾斜ダイヤモンド層
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】WC-Co切削工具における高密着性ボロンドープ傾斜ダイヤモンド層
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/27 20060101AFI20220401BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20220401BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
C23C16/27
B23B27/20
B23B27/14 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019559034
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 IN2018050258
(87)【国際公開番号】W WO2018198136
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-01-07
(31)【優先権主張番号】201741015018
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】506419618
【氏名又は名称】インディアン インスティテュート オブ テクノロジー マドラス(アイアイティー マドラス)
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ラマスブラマニヤン,カナン
(72)【発明者】
【氏名】アルナーチャラム,ナラヤナン
(72)【発明者】
【氏名】ラオ,ラーマチャンドラ
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-123905(JP,A)
【文献】Effect of Boron-Doped Diamond Interlayer on Cutting Performance of Diamond Coated Micro Drills for Graphite Machining,Materials,2013年07月25日,vol. 6,p.3128 - 3138,doi:10.3390/ma6083128
【文献】On the development of a dual-layered diamond-coated tool for the effective machining of titanium Ti-6Al-4V alloy,Journal of Physics D: Applied Physics,2016年11月22日,vol. 50, No. 015302
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/27
B23B 27/20
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合カーバイド(WC-Co)切削工具材料に、高密着性の表面コーティングを形成するためのボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜であって、
i 前記接合カーバイド材料の表面層上に形成された、ボロンドープ微結晶ダイヤモンド(BMCD)を有する底部コーティング層であって、該底部コーティング層におけるボロンの濃度は、0.2乃至0.25%の間であり、前記表面層におけるコバルトの濃度は、0.1乃至1%の間である、底部コーティング層と、
ii 実質的にボロンフリーなナノ結晶ダイヤモンド(NCD)を有する上部コーティング層と、
iii 前記上部層と底部層の間に形成され、前記底部層から前記上部層までボロンの低下する濃度勾配を有する遷移コーティング層であって、該遷移層の前記底部層と接触する表面におけるボロンの濃度は、0.2乃至0.25%であり、前記遷移層の前記上部層と接触する表面におけるボロンの濃度は、実質的にボロンフリーである、遷移コーティング層と、
を有し、
前記底部層の厚さは、1乃至6μmであり、前記遷移層の厚さは、0.1乃至5μmであり、前記上部層の厚さは、0.01乃至3μmである、薄膜。
【請求項2】
全体の厚さは、4乃至10μmである、請求項1に記載の薄膜。
【請求項3】
強化された切削工具であって、
i コバルト欠乏表面層を有する接合カーバイド(WC-Co)マトリクスであって、該マトリクスは、1乃至6%のコバルトを含み、前記表面層は、0.1乃至1%のコバルトを含む、マトリクスと、
ii 前記接合カーバイドマトリクス上にコーティングされた、ボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜と、
を有し、
前記ボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜は、
a)前記接合カーバイドマトリクスの表面層上に形成され、ボロンドープ微結晶ダイヤモンド(BMCD)を有する底部コーティング層であって、前記底部層におけるボロンの濃度は、0.2乃至0.25%の間である、底部コーティング層と、
b)実質的にボロンフリーなナノ結晶ダイヤモンド(NCD)を有する上部コーティング層と、
c)前記上部層と底部層の間に形成され、前記底部層と接触する表面における0.2乃至0.25%から、前記上部層に接触する表面における実質的にボロンフリーまで、ボロンの低下する濃度勾配を有する遷移コーティング層と、
を有し、
前記ボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜の表面粗さ値は、100nm以下である、切削工具。
【請求項4】
前記上部層のグレインサイズは、100nm乃至1000nmであり、前記底部層のグレインサイズは、500nm乃至1500nmであり、前記遷移層のグレインサイズは、100nm乃至1500nmである、請求項3に記載の切削工具。
【請求項5】
強化された切削工具を得る方法であって、
i 接合カーバイド(WC-Co)マトリクス上に、前記カーバイドおよびコバルトの一連の化学エッチング法により、コバルト欠乏表面層を調製するステップであって、前記マトリクス内のコバルト濃度は、1%と6%の間であり、前記表面層におけるコバルト濃度は、0.1%と1%の間である、ステップと、
ii 高温フィラメントCVD反応器において、前記コバルト欠乏表面層に、ボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜をコーティングするステップと、
を有し、
前記コーティングするステップは、
a)前記コバルト欠乏表面層の上に、ボロンドープ微結晶ダイヤモンド(BMCD)を有する底部コーティング層を成膜するステップであって、前記底部層におけるボロンの濃度は、0.2乃至0.25%の間である、ステップと、
b)実質的にボロンフリーのナノ結晶ダイヤモンド(NCD)を有する上部コーティング層を成膜するステップと、
c)前記底部層における0.2乃至0.25%から、前記上部層の近傍における実質的にボロンフリーまで、ボロンの濃度を徐々に低下させることにより、前記上部層と底部層の間に遷移コーティング層を成膜するステップと、
を有する、方法。
【請求項6】
高温フィラメントCVD反応器において、前記コバルト欠乏表面層に、ボロンドープ傾斜ダイヤモンド膜をコーティングする前記ステップは、さらに、
2000℃以上の温度に加熱された耐熱タングステンフィラメントにより、前駆体ガスを活性化させるステップ
を有し、
前記前駆体ガスは、水素、メタン、ホウ酸トリメチル、またはこれらの組み合わせを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応器に流れる前記前駆体ガスの濃度は、2%と4%の間である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記遷移コーティング層を成膜するステップは、前記反応器内のホウ酸トリメチルの流速を低下させることにより、ボロンの濃度を低下させるステップを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
タングステンフィラメントと前記接合カーバイド表面との間に、少なくとも15mmの距離が維持される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記接合カーバイド表面は、コーティング前に850℃以上の温度に加熱される、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記底部コーティング層を成膜するステップは、4800Paの反応器圧力において、2000℃以上の温度に加熱された耐熱タングステンフィラメントにより、2%と4%の間の濃度で、前駆体ガスを活性化させるステップを有し、
前記前駆体ガスは、水素、メタン、ホウ酸トリメチル、またはこれらの組み合わせを有し、
前記上部コーティング層を成膜するステップは、2000Paの反応器圧力において、2000℃以上の温度に加熱された耐熱タングステンフィラメントにより、1%と2%の間の濃度で、前記前駆体ガスを活性化させるステップを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記反応器に4800乃至2000Paの減少する勾配圧力が印加され、前記遷移層が得られる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
全コーティング時間は、2乃至6時間の間である、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2017年4月27日に出願されたインド国特許出願第201741015018号の全明細書に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
本願は、全般に切削工具用途に関し、特に、材料の機械加工に使用される硬質金属工具用の切削工具材料、膜、および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
WC-Coのような硬質金属は、その組み合わされた硬度と良好な靭性のため、金属切削産業において過去数十年にわたって使用されている優れた切削工具材料である。この改善された靭性は、硬質金属に耐破壊性を提供するWCマトリクス中のコバルトバインダの存在によるものである。ただし、これらの切削工具は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、セラミックおよび金属マトリクス複合体の機械加工の際には、使用が難しい。これは、繊維の摩耗性、および一次マトリクス材料内の硬質強化相の存在によるものである。これらの材料の機械加工のための好適な切削工具材料は、合成多結晶ダイヤモンド(PCD)工具である。高い製造コストのため、これらの材料の効率的な機械加工用の代替切削工具材料が必要となっている。この点、WC-Co上のCVDダイヤモンドコーティングは、機械加工用途におけるPCDに代わる、最も可能性のある代替切削工具材料であると認められている。
【0004】
この点に関し、微結晶ダイヤモンド(MCD)コーティングは、その高い硬度のため、重要である。一方、ナノ結晶ダイヤモンド(NCD)系のコーティングは、低い摩擦係数の点で利点がある。低摩擦係数(0.004)を有する硬質コーティング(~50GPa)を得るため、多層MCD/NCDコーティングが使用され得る。しかしながら、過酷な機械加工環境下では、高い機械的応力により、これらのダイヤモンドコーティングは、基材から完全に剥離してしまう。
【0005】
コーティングの剥離は、コーティングと基材の間の低密着性により生じる。この低い密着性は、基材とコーティングの間の熱膨張係数の差、および高い成膜温度での界面黒鉛化のような因子に影響され得る。
【0006】
黒鉛化は、ダイヤモンドの核発生ステージの間に生じる。このステージでは、基材からダイヤモンドにコバルトが拡散し、sp3ダイヤモンドがsp2グラファイトに変換される。界面におけるグラファイト(η相)の存在は、ダイヤモンドコーティングに有害である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、全般に、切削工具用途に関し、特に、材料の機械加工に使用される切削工具材料、膜、および方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある実施例では、接合(cemented)カーバイド(WC-Co)切削工具材料に、高密着性の表面コーティングを形成するためのボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜が提供される。ある実施例では、接合カーバイド材料の表面層上に、ボロンドープ微結晶ダイヤモンド(BMCD)を有する底部コーティング層が形成される。ある実施例では、底部層におけるボロンの濃度は、0.2乃至0.25%の間である。さらに別の実施例では、表面層におけるコバルトの濃度は、0.1乃至1%の間である。ある実施例では、実質的にボロンフリーなナノ結晶ダイヤモンド(NCD)を有する上部コーティング層が形成される。ある実施例では、上部層と底部層の間に、遷移コーティング層が形成される。ある実施例では、遷移コーティング層は、底部層から上部層までボロンの低下する濃度勾配を有する。ある実施例では、底部層と接触する遷移層の表面におけるボロンの濃度は、0.2乃至0.25%である。さらに別の実施例では、上部層と接触する遷移層の表面におけるボロンの濃度は、実質的にボロンフリーである。
【0009】
ある実施例では、薄膜の全体の厚さは、4乃至10μmである。別の実施例では、底部層の厚さは、1乃至6μmである。さらに別の実施例では、遷移層は、0.1乃至5μmの厚さを有する。ある実施例では、上部層は、0.01乃至3μmの厚さを有する。
【0010】
別の実施例では、コバルト欠乏表面層を有する接合カーバイド(WC-Co)マトリクスを有する、強化された切削工具が提供される。ある実施例では、マトリクスは、1乃至6%のコバルトを含み、表面層は、0.1乃至1%のコバルトを含む。ある実施例では、接合カーバイドマトリクス上に、ボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜がコーティングされる。ある実施例では、接合カーバイドマトリクスの表面層上に、底部コーティング層が形成され、これは、ボロンドープ微結晶ダイヤモンド(BMCD)を有する。別の実施例では、底部層におけるボロンの濃度は、0.2乃至0.25%の間である。ある実施例では、実質的にボロンフリーなナノ結晶ダイヤモンド(NCD)を有する、上部コーティング層が形成される。別の実施例では、上部層と底部層の間に、遷移コーティング層が形成される。ある実施例では、遷移層は、底部層と接触する部分における0.2乃至0.25%から、上部層に接触する部分における、実質的にボロンフリーまで、ボロンの低下する濃度勾配を有する。ある実施例では、上部層のグレインサイズは、100nmと1000nmの間である。ある実施例では、底部層のグレインサイズは、500nmと1500nmの間である。ある実施例では、遷移層のグレインサイズは、100nmと1500nmの間である。ある実施例では、材料の表面粗さ値は、100nm以下である。
【0011】
さらに別の実施例では、強化された切削工具を得る方法が提供される。ある実施例では、当該方法は、接合カーバイド(WC-Co)マトリクス上に、カーバイドおよびコバルトの一連の化学エッチング法により、コバルト欠乏表面層を形成するステップを有する。ある実施例では、マトリクス内のコバルト濃度は、1%と6%の間であり、表面層におけるコバルト濃度は、0.1%と1%の間である。ある実施例では、当該方法は、高温フィラメントCVD反応器において、コバルト欠乏表面層に、ボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜をコーティングするステップを有する。別の実施例では、当該方法は、前記コバルト欠乏表面層の上に、ボロンドープ微結晶ダイヤモンド(BMCD)を有する底部コーティング層を成膜するステップを有する。ある実施例では、底部層におけるボロンの濃度は、0.2乃至0.25%の間である。ある実施例では、当該方法は、実質的にボロンフリーのナノ結晶ダイヤモンド(NCD)を有する上部コーティング層を成膜するステップを有する。別の実施例では、当該方法は、底部層における0.2乃至0.25%から、上部層の近傍における実質的にボロンフリーまで、ボロンの濃度を徐々に低下させることにより、上部層と底部層の間に遷移コーティング層を成膜するステップを有する。ある実施例では、当該方法は、2000℃以上の温度に加熱された耐熱タングステンフィラメントにより、前駆体ガスを活性化させることにより、高温フィラメントCVD反応器において、コバルト欠乏表面層に、ボロンドープ傾斜ダイヤモンド膜をコーティングするステップを有する。ある実施例では、前駆体ガスは、水素、メタン、ホウ酸トリメチル、またはこれらの組み合わせを含む。別の実施例では、反応器に流れる前駆体ガスの濃度は、2%と4%の間である。ある実施例では、遷移コーティング層は、反応器内のホウ酸トリメチルの流速を低下させることにより、ボロンの濃度を低下させることにより得られる。さらに別の実施例では、タングステンフィラメントと接合カーバイド表面との間に、少なくとも15mmの距離が維持される。別の実施例では、当該方法は、コーティング前に、接合カーバイド表面を850℃以上の温度に加熱するステップを有する。ある実施例では、1800乃至5200Paの反応器圧力が維持される。ある実施例では、4800Paの反応器圧力が維持され、底部層が得られる。ある実施例では、2000Paの反応器圧力が維持され、上部層が得られる。さらに別の実施例では、反応器に4800乃至2000Paの減少する勾配圧力が印加され、遷移層が得られる。ある実施例では、コーティング時間は、2乃至6時間の間である。
【0012】
本発明のこの態様および他の態様は、以降に示されている。
【0013】
本発明は、添付図面を考慮するとともに以下の発明の詳細な説明および特許請求の範囲から容易に把握される、他の利点および特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜の構造を示した図である。
図2】WC-Co表面層上にコーティングされたボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜の構造を示した図である。
図3】WC-Co表面層上にコーティングされたボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜を得るためのプロセスを示した図である。
図4】WC-Co表面層の表面構造を示した図である。
図5】成膜されたままのダイヤモンドコーティングの形態を示した図である。
図6A】MCD、NCDおよびBMCDコーティングのラマン強度画像、クラスタ解析、および断面ラマンスペクトルを示した図である。
図6B】MCD、NCDおよびBMCDコーティングのラマン強度画像、クラスタ解析、および断面ラマンスペクトルを示した図である。
図6C】MCD、NCDおよびBMCDコーティングのラマン強度画像、クラスタ解析、および断面ラマンスペクトルを示した図である。
図7】ボロンドープ傾斜薄膜コーティングのラマン強度画像、クラスタ解析、および断面ラマンスペクトルを示した図である。
図8】走査型電子顕微鏡像において観察された、ロックウェル圧子によるコーティング膜の圧痕領域を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ある実施例を参照して本発明について説明するが、当業者には、本発明の範囲から逸脱しないで、各種変更がなされ、等価物に置換され得ることが理解される。また、本発明の技術を特定の状況または材料に適合させるため、本発明の範囲から逸脱しないで、多くの修正がなされ得る。
【0016】
他に明確な記載がない場合、明細書および特許請求の範囲を通じて、以下の用語は、明白に関連する意味を有する。「a」、「an」、「the」の意味は、複数の参照を含む。「in」の意味は、「in」および「on」を含む。図面を参照した際に、視野を通じて、同様の符号は、同様の部分を表す。また、他に記載がない場合、または開示内容と矛盾する場合を除き、単一物の言及は、複数のものを含む。
【0017】
「典型的な」と言う用語は、「一例、例示、または例として提供すること」を意味するために使用される。「典型的な」として記載されるいかなる実施も、他の実施を超える有意なものと解釈される必要はない。
【0018】
本開示では、材料の機械加工用の切削工具、反応器、および方法が記載される。
【0019】
ある実施例では、図1A乃至1Dに示すように、接合カーバイド(WC-Co)切削ツール材料の表面コーティングに使用される、ボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜1000が提供される。ダイヤモンド薄膜は、ナノ結晶ダイヤモンド(NCD)を有する上部コーティング層1001、遷移層1002、およびボロンドープ微結晶ダイヤモンド(BMCD)を有する底部コーティング層1003を有する。
【0020】
ある実施例では、底部層1003におけるボロンの濃度は、0.2から0.25%の間である。別の実施例では、上部層1001は、実質的にボロンフリーである。さらに別の実施例では、遷移層1002は、底部層1003から上部層1001まで、ボロンの減少勾配を有するように構成される。ある実施例では、遷移層1002の底部層1003と接触する表面におけるボロン濃度は、0.2から0.25%の間である。ある実施例では、遷移層1002の上部層1001と接触する表面のボロン濃度は、実質的にボロンフリーである。
【0021】
ある実施例では、薄膜1000(図1A)の厚さは、4から10μmの間である。別の実施例では、底部層1003、遷移層1002、および上部層1001の厚さは、それぞれ、1から6μm、0.1から5μm、および0.01から3μmである。別の実施例では、底部層1003、遷移層1002、および上部層1001の厚さは、それぞれ、1から5μm、0.1から1μm、および0.01から0.1μmである。ある実施例では、底部層1003は、薄膜の全厚さの10から25%を占める。別の実施例では、上部層1001は、薄膜の全厚さの10から30%を占める。さらに別の実施例では、遷移層1002は、薄膜の全厚さの40から70%を占める。
【0022】
ある実施例では、上部層1001、遷移層1002、および底部層1003の格子構造は、それぞれ、図1B図1C、および図1Dに示されている。上部層1001は、図1Bに示すように、実質的にsp3ダイヤモンド結晶構造において、炭素原子1010で構成されたNCD格子構造を有する。底部層1003は、図1Dに示すように、sp3ダイヤモンド構造に配置された炭素原子1010およびボロン原子1020の双方で構成された、BMCD格子構造を有する。図1Cに示すように、遷移層1002は、sp3ダイヤモンド構造に配置された炭素原子1010およびボロン原子1020の双方を有する。ボロン原子の濃度は、底部層から上部層に向かって減少する。
【0023】
ある実施例には、図2に示すように、強化された切削工具200が含まれる。ある実施例では、切削工具は、マトリクス2002およびコバルト欠乏表面層2003を含む接合カーバイド(WC-Co)基材2001にコーティングされた、ダイヤモンド薄膜1000で構成される。ある実施例では、ダイヤモンド薄膜1000の底部層1003は、コバルト欠乏表面層2003の上部に形成される。ある実施例では、マトリクス2002は、1から6%のコバルトを含む。別の実施例では、コバルト欠乏表面層2003は、0.1から1%のコバルトを含む。
【0024】
ある実施例では、切削工具2000の上部NCD層1001は、低い摩擦係数を有する。ある実施例では、切削工具200のコーティング-基材界面における底部BMCD層1003は、コバルトとボロンの反応性を介して、良好な界面密着性を提供する。ある実施例では、切削工具2000の密着強度、切削特性、工具寿命は、他の既知のMCDまたはNCDコーティング系の工具に比べて改善される。ある実施例では、切削工具2000のBMCD層1003、遷移層1002、およびNCD層1001は、格子ミスマッチを最小化して、コーティングにわたって急峻な応力濃度を低減するような機械的特性および界面特性を有するように構成される。
【0025】
ある実施例では、切削工具2000は、硬質材料の機械加工に使用される。ある実施例では、切削工具2000は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、セラミック、または金属マトリクス複合体の機械加工に使用される。
【0026】
ある実施例では、切削工具2000の上部NCD層1001のグレインサイズは、100から600nmの間である。ある実施例では、切削工具2000の上部NCD層1001のグレインサイズは、100から1000nmの間である。ある実施例では、切削工具2000のBMCD層1003のグレインサイズは、500から1500nmの間である。ある実施例では、切削工具2000のBMCD層1003のグレインサイズは、500から1500nmの間である。ある実施例では、切削工具2000の遷移層1002のグレインサイズは、100から1500nmの間である。別の実施例では、切削工具2000の表面粗さは、100nmまたはそれ以下である。
【0027】
ある実施例では、図3に示すように、ステップ3001から3006に関する、強化された切削工具2000を得るためのプロセス300が提供される。ある実施例では、ステップ3001におけるカーバイドおよびコバルトの一連の化学エッチングにより、コバルト欠乏表面層2003(図2)が接合カーバイド(WC-Co)マトリクス2002上に調製される。ある実施例では、プロセス3000のステップ3001における一連のエッチングステップは、村上試薬を用いてカーバイド基材2001をエッチングした後、カロ酸(Caros acid)を用いてコバルトをエッチングする、一連のステップを有する。各種実施例では、村上試薬を用いて、5乃至20分の間の所定の時間、エッチングが実施される。ある実施例では、カーバイドエッチングにより、タングステンカーバイド粒子に微小ポアが形成され、上部に成膜されるダイヤモンドコーティング1000との機械的なつなぎ合わせが容易となる。ある実施例では、カロ酸溶液を用いたエッチングステップは、5乃至20秒間、実施される。
【0028】
ある実施例では、ダイヤモンド薄膜コーティング1001-1003は、ステップ3002において、反応器内での高温フィラメント化学気相成膜法(CVD)を介して、カーバイド基材上に成長する。ある実施例では、反応器に設置された耐熱タングステンフィラメントと、カーバイド基材2001のコバルト欠乏表面2003との間に、少なくとも15mmの離間距離が維持される。
【0029】
ある実施例では、ステップ3003において、2000℃またはそれ以上の温度に加熱された耐熱タングステンフィラメントにより、水素、メタン、およびホウ酸トリメチルを含む1または2以上の前駆体ガスが活性化され、カーバイド基材2001上にダイヤモンドが成長される。ある実施例では、反応器を通って流れる前駆体ガスの濃度は、2%から4%の間である。ある実施例では、接合カーバイド2001は、コーティングの前に、850℃またはそれ以上の温度に加熱される。
【0030】
ある実施例では、ステップ3004において、底部BMCD層1003がコバルト欠乏表面層2003の上部に成膜される。ある実施例では、反応器を通って流れる前駆体ガスは、2%から4%の間である。ある実施例では、前駆体ガスは、水素およびメタンを含む。ある実施例では、底部層1003のボロンドープのため、反応器内にホウ酸トリメチルガスが含有される。ある実施例では、4000乃至5000Paの反応器圧力が維持され、底部層1003が得られる。ある実施例では、コーティング時間は、1から3時間の間である。
【0031】
ある実施例では、ステップ3005において、高温フィラメントCVD反応器における上昇オプションを介して反応条件を変化させることにより、カーバイド基材2001上に形成された底部層1003の上部に、遷移コーティング層1002が成膜される。ある実施例では、反応器を通って流れる前駆体ガスは、0から4%の間である。ある実施例では、反応器は、減少する濃度勾配において、前駆体ガスを供給する。別の実施例では、前駆体ガスは、水素およびメタンを含む。ある実施例では、遷移コーティング層1002は、反応器内のホウ酸トリメチルの流速を下げ、ボロンの濃度を減少させることより得られる。ある実施例では、底部層1003と接する遷移層1002の表面におけるボロン濃度は、0.2から0.25%の間である。ある実施例では、上部層1001と接する遷移層1002の表面におけるボロン濃度は、実質的にボロンフリーである。ある実施例では、反応器において、4800乃至2000Paの減少圧力勾配が印加され、遷移層1002が得られる。ある実施例では、コーティング時間は、1から3時間の間である。
【0032】
ある実施例では、ステップ3006において、カーバイド基材2001上に形成された底部層1003の上に成膜された遷移層1002の上部に、上部コーティング層1001が成膜され、切削工具2000が得られる。ある実施例では、反応器を通って流れる前駆体ガスは、1%から2%の間である。ある実施例では、前駆体ガスは、水素およびメタンを含む。ある実施例では、前駆体ガスは、実質的にホウ酸トリメチルフリーである。ある実施例では、1800乃至2200Paの反応器圧力が維持され、上部層1001が得られる。ある実施例では、コーティング時間は、1から3時間の間である。
【0033】
図1A乃至図1D、および図2に示したコーティングの各種実施例、および図3に示したプロセスでは、WC-Co基材に対する優れた密着性が得られ、これは、圧痕試験により確認されている。ある実施例では、200μmの圧子半径を有する、膜表面に印加される150kg-fの圧子の荷重を用いて、10秒間の保持時間で試験した際のコーティングの密着性として、圧痕の周囲に400μm未満のクラック半径が得られた。ある実施例では、コーティングは、同じ条件下で、クラック半径が350μm以下の密着性を示す。各種実施例において、本発明の実施例に示された傾斜ダイヤモンドコーティングにより得られる優れた特性は、界面層における実質的にsp3のダイヤモンド構造、およびグレイン境界でのsp2相(非ダイヤモンド相)の相対的な欠乏によるものである。
【0034】
関連する記載とともに図3に示したプロセスの実施例では、高い結晶化度および相純度のため、コーティングに優れた特性が得られることが示されている。また、別の実施例において示されているような実験結果においても、接合カーバイドから底部ダイヤモンド層へのコバルト拡散の抑制のため、コーティングの底部層1003と基材との間に優れた界面結合強度が得られることが示されている。
【0035】
特に、示された実施例および以降の例を参照して、本発明について示し説明したが、以下の請求項に記載の本発明の思想および範囲から逸脱しないで、形態および細部において、前述のおよび他の変更が可能であることは、当業者には明らかである。また、以下の例は、単なる一例に過ぎない。ただし、当業者には、本発明の概念から逸脱しないで、既に示されたものに加えて多くの変更が可能であることは明らかである。従って、本発明の主題は、開示の思想に限定されるものではない。また、開示の解釈の際に、全ての用語は、文脈と矛盾しない最も広い態様で解される必要がある。
【実施例
【0036】
例1-接合カーバイド基材の処理
ダイヤモンドコーティングの基材材料として、市販の接合タングステンカーバイド(WC-Co、THM-SPUN120308)を選択した。これは、図4Aに示すように、低い熱ミスマッチ、および良好な破壊靭性を有するためである。ダイヤモンド成膜の前に、村上試薬(10gのKOH+10gのK3[Fe(CN)6]+100mlの蒸留水)で10分間基材表面を処理することにより、タングステンカーバイドのエッチングを実施した。その後、カロ酸溶液[3mlのH2SO4(96%)+88mlのH2O2(30%)]を用いて、村上処理されたカーバイド表面に対して、10秒間コバルトエッチングを実施した。カーバイドエッチングにより、タングステンカーバイド粒子に微細ポアが形成され、ダイヤモンドの機械的つなぎ合わせが促進される。なお、微細ポアの形成は、図4Bに示すように、表面コバルト値を14.6%まで高めるが、基本WCの値を85.4%に低下させる。しかしながら、表面の金属コバルト濃度は、ダイヤモンドコーティングに有害である。従って、表面コバルトを低下させるため、村上処理されたサンプルに対して、連続コバルトエッチングを実施し、表面コバルト濃度を0.8%まで低下させた。図4Cに示すように、対応するWCの値は、99.2%であることが確認された。
【0037】
例2-ダイヤモンドのシード化
コバルトエッチングの後、基材表面を1時間、超音波撹拌することにより、ジメチルスルホキシル(sulfoxyl)溶液からダイヤモンドのシード(4乃至6nmの粒子サイズ)化を行った。この処理は、ダイヤモンド成長の間の核密度を増加させることを助長する。
【0038】
例3-HFCVD成長
接合カーバイド工具は、その高い負荷ベアリング機能、高い靭性、およびダイヤモンドに対する良好な核発生性のため、広く使用されている。また、強靱な靭性を提供する、タングステンカーバイドに含まれる金属コバルトも、ダイヤモンド-カーバイド界面での黒鉛化の発生により、ダイヤモンドコーティングに悪影響を及ぼす。そのため、カーバイド表面に対して、カーバイドエッチング用の村上試薬、および表面コバルトエッチング用のカロ酸処理のような、一連の化学エッチングを実施し、ダイヤモンドとの良好な機械的つなぎ合わせを得た。
【0039】
ダイヤモンド薄膜は、高温フィラメント化学気相成膜法により、カーバイド基材上に成長させた。メタンおよび水素のような前駆体ガスを使用し、カーバイド基材上でのダイヤモンドの成長を促進させた。メタンは、sp3ダイヤモンド格子を安定化させるための炭素と水素の一次的なソース源であり、これをマスフローコントローラにより正確に制御した。前述の前駆体ガスを活性化させるソース源として、耐熱タングステンフィラメントを使用した。赤外線高温計で、高温タングステンフィラメントの温度を測定した。カーバイド基材は、タングステンフィラメントからの放射加熱の原理により、850℃まで加熱した。この反応器に結合されたkタイプの熱電対により、カーバイド基材の温度を測定した。
【0040】
以下の式を用いて、ダイヤモンド内の単位cm3当たりのボロン原子を計算した:[B]/cm-3=8.44×1030exp(-0.048ω)。ここで、ωは、cm-1単位で、ボロン二量体ピークを表す。計算された[B]値は、3.67×1020/cm-3であった。
【0041】
圧力、基材温度、メタン水素濃度、ボロン濃度を含むコーティング条件を、表1に示す。
【0042】
【表1】
*は、BMCDからNCDへのプロセスパラメータの直線遷移を表す。

例4-構造的特徴
高解像度走査型電子顕微鏡(HRSEM)を用いて、成膜ままのダイヤモンドコーティングの形態を評価した。また、断面ラマンマッピングにおいて、その対応する断面を観察した。MCD条件の間、個々のダイヤモンド核は、隣接する核と交わり、より大きなグレインサイズを与える柱状に成長した。図5Aには、微細ファセット化された微結晶ダイヤモンドを示す。グレインサイズは、0.75から1μmの範囲である。ただし、NCD条件では、高メタン濃度のため、より多くの二次核発生が生じ、従って、より微細なグレインサイズが認められた。図5Bには、ナノ結晶ダイヤモンドの典型的なカリフラワー形態を示す。グレインサイズは、40乃至80nmの範囲である。MCD条件におけるボロンドープのため、グレイン境界に、より多くの不純物が取り込まれ、これにより、ダイヤモンドの成長速度が僅かに増加する。従って、図5Cに示すように、BMCD形態は、グレインサイズが1から1.5μmに増加した、球状クラスタとなる。ボロンドープ傾斜層の構造において、核発生密度の増加は、コーティングの上部の低いNCD厚さとともに、ファセット化ナノ結晶と称されるファセット化ナノ結晶子に寄与し、図5Dに示すように、対応するグレインサイズは、400から400nmの範囲である。
【0043】
原子間力顕微鏡を用いて、表面粗さを計算した。MCDの表面粗さの値Raは、88nmと測定された。得られたNCDのRa値は、55nmであった。一方、BMCDおよびボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜層コーティングの場合、測定された対応するRa値は、それぞれ、132nmおよび63nmであった。
【0044】
ラマン分光法は、ダイヤモンドコーティングの品質を検査する上で、強力な非破壊技術である。炭素、ボロン分布、およびその界面領域での均一性を判断するため、532nmの励起波長を有するNd-YAGレーザを用いて、ダイヤモンドコーティングされた断面サンプルに対してラマンマッピングを実施した。図6A、6B、6C(左)には、MCD、NCD、およびBMCDのラマンスペクトルの平均積分強度を示す。全てのダイヤモンドコーティングにおいて、コーティング厚さは、約4乃至5μmの厚さである。図6A、6Bおよび6C(中央)には、MCD、NCD、およびBMCDコーティングの断面サンプルのクラスタ解析を示す。図6A、6Bおよび6C(右)には、MCD、NCD、およびBMCDの断面ラマンスペクトルを示す。同様に、図7Aに示すように、ボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜コーティングのラマンスペクトルの平均積分強度を取得した。図7Bには、断面の対応するクラスタ解析を示す。図7Cには、断面ラマンスペクトルを示す。
【0045】
図6A(中央)に示すように、MCDのラマンスペクトルは、sp3ダイヤモンドであることを示す1337cm-1に狭小ピークを示すとともに、1478 cm-1にsp2ダイヤモンドの低い強度を示した。高いsp3(C-C)量の存在は、ダイヤモンド膜の高硬度に関連し、これは良好な摩耗抵抗性につながる。一方、sp2(C-H)の存在は、低い摩擦係数に寄与し、従って、これは、自己潤滑剤として機能し、摩擦および機械加工用途にとって魅力的である。NCDのラマンスペクトルは、1336.43 cm-1にブロードなピークを示すとともに、sp2相を表す1468cm-1に高強度ピークを示した。図6B(中央)に示すように、1133cm-1のピークは、グレイン境界におけるトランスポリアセチレン鎖の存在を表す。NCDにおけるブロードなピークは、より多くのグレイン境界とともに、その小さなグレインサイズによるものである。
【0046】
BMCDのラマンスペクトルは、sp3相を示す1334.15 cm-1、およびsp2相の1478cm-1にピークを示した。図6C(中央)に示すように、これらの2つの主要ピークとは別に、494cm-1および1204cm-1に、他のピークが確認され、ボロンドープダイヤモンドの存在が確認された。ボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜コーティングのラマンスペクトルは、底部のBMCD、遷移層、およびNCDで終結する上部層の、3つの層に区別される。各層は、それぞれのラマンスペクトルを明確に示す。傾斜層におけるBMCDは、sp3およびsp2相とともに、493 cm-1、1204 cm-1にピークを示した。BMCDからの高強度ボロンピークは、遷移層においてブロードであり、NCDの上部層で消滅した。図7Cに示すように、1153cm-1でのNCDピークとともに、2つの他のsp3およびsp2相があった。
【0047】
例5-ボロンドープ傾斜ダイヤモンド薄膜コーティングの密着性
ダイヤモンド薄膜に対して、ロックウェル圧痕試験を実施し、走査型電子顕微鏡によりクラックの伝播を測定した。図8A、8B、8Cおよび8Dには、ロックウェル圧子によるMCD、NCD、BMCD、およびボロンドープ傾斜ダイヤモンドコーティング膜における圧痕領域を示した。それらのそれぞれの変形を走査型電子顕微鏡で評価した。膜表面に印加される圧子負荷は、150kg-fであり、保持時間は10秒であった。本試験では、錐状の200μmのロックウェル圧子半径を使用した。圧痕結果から、MCD、NCD、BMCD、および傾斜層におけるクラック伝播の半径を評価した結果、それぞれ、623μm、651μm、414μm、350μmであった。
【0048】
一方、BMCD膜およびボロンドープ傾斜層ダイヤモンド薄膜のクラック伝播の半径は、それぞれ、414μmおよび300μmであることがわかった。従来のダイヤモンド膜に比べて低い値となった理由は、金属コバルトの触媒効果が抑制されることにより、界面の密着性が高められたことによるものである可能性がある。
【0049】
特徴的な形態を有するダイヤモンドコーティングは、HFCVD反応器を用いて製造した。ダイヤモンドコーティングの表面形態は、それぞれのコーティングの形状およびグレインサイズを示した。ラマンマッピングによりコーティングサンプルの断面を評価し、それぞれのラマンスペクトルを有する界面におけるボロンの分布が明確に示された。ダイヤモンド膜に対してロックウェル圧痕試験を実施し、CVD成長ダイヤモンド膜の密着強度を評価した。MCDおよびNCDは、基材とコーティングの間の低い界面密着性のため、大きなクラック伝播を示した。しかしながら、ボロンドープダイヤモンドの場合、クラック伝播の半径は、MCDおよびNCDコーティングに比べて最小化された。また、ボロンドープ傾斜層ダイヤモンドコーティングでは、検知できるほどのクラック伝播は認められなかった。これらの結果から、ダイヤモンド格子におけるボロンのドープにより、コバルトとボロンの反応性を介して、ダイヤモンド内のコバルトの拡散が抑制され、さらにはコーティングの界面領域に強固な密着性が得られることが確認された。
図1A-1D】
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図8C
図8D