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特許7050356人流評価装置、人流評価方法、及び人流評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】人流評価装置、人流評価方法、及び人流評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20220401BHJP
   G06Q 30/02 20120101ALI20220401BHJP
【FI】
G06Q50/10
G06Q30/02 300
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020204436
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2021-09-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、センター・オブ・イノベーション事業「持続的共進化地域創成拠点」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍛冶 静雄
(72)【発明者】
【氏名】モハメド アハメド アブデルワハブ モハメド
(72)【発明者】
【氏名】堀 磨伊也
(72)【発明者】
【氏名】高野 茂
(72)【発明者】
【氏名】荒川 豊
【審査官】田中 寛人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-248836(JP,A)
【文献】特開2017-068607(JP,A)
【文献】特開2007-114988(JP,A)
【文献】特開2016-143334(JP,A)
【文献】特開2007-133847(JP,A)
【文献】特表2009-533990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の領域内における人流を評価するための人流評価装置であって、
前記領域内に位置する人及び前記領域内に位置する評価対象地点の組み合わせ、並びに、前記領域内に位置する人同士の組み合わせの少なくとも一方において、それぞれ両者の間の距離、及び、前記距離の時間変化率の絶対値を算出し、
前記組み合わせのそれぞれについて、前記距離が所定の距離閾値以上であるときよりも前記距離閾値未満であるときに大きくなり、且つ、前記距離の時間変化率の絶対値が変化率閾値以上であるときより前記変化率閾値未満であるときに大きくなる貢献値を取得し、
前記貢献値に基づいて前記人流の評価値を取得する、ことを特徴とする人流評価装置。
【請求項2】
前記貢献値は、前記距離に対して単調減少する、ことを特徴とする請求項1に記載の人流評価装置。
【請求項3】
前記貢献値は、前記距離の前記時間変化率の絶対値に対して単調減少する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の人流評価装置。
【請求項4】
前記貢献値は、前記距離をd、前記距離の前記時間変化率の絶対値をΔd、前記距離閾値をW、前記変化率閾値をWとしたときに、以下の式(1)によって表される、ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の人流評価装置。
【数1】
【請求項5】
前記評価対象地点それぞれに対して、当該評価対象地点と前記領域内に位置する前記人の前記組み合わせそれぞれに対応する前記貢献値の加重平均を局所賑わい値として算出し、
前記局所賑わい値の相加平均を時間平均することによって、前記人流の前記評価値を取得する、ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1つの項に記載の人流評価装置。
【請求項6】
前記領域内に位置する前記人それぞれに対して、当該人と前記領域内に位置する他の前記人との前記組み合わせそれぞれに対応する前記貢献値の加重平均を局所賑わい値として算出し、
前記局所賑わい値の和の平方根を時間平均することによって、前記人流の前記評価値を取得する、ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1つの項に記載の人流評価装置。
【請求項7】
前記領域内に位置する前記人それぞれに対して属性を取得し、前記属性に基づいて加重平均における前記貢献値の係数を設定する、ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の人流評価装置。
【請求項8】
前記領域内の画像を取得する撮像装置と、前記画像に基づいて、前記画像の前記人に対応する部分を示す枠、及び、前記領域内に位置する前記人の位置を取得し、前記人流の前記評価値を出力する処理装置と、前記画像を表示する表示装置とを有し、
前記領域内に位置する前記人それぞれに対して、当該人と前記領域内に位置する他の前記人との前記組み合わせそれぞれに対応する前記貢献値の加重平均を局所賑わい値として算出し、
前記処理装置は、前記表示装置において、前記局所賑わい値に対応する彩色が内部に施された前記枠を前記画像に重ねて表示する、ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1つの項に記載の人流評価装置。
【請求項9】
所定の領域内における人流を評価するための人流評価方法であって、
前記領域内に位置する人及び前記領域内に位置する評価対象地点の組み合わせ、並びに、前記領域内に位置する人同士の組み合わせの少なくとも一方において、それぞれ両者の間の距離、及び、前記距離の時間変化率の絶対値を算出するステップと、
前記組み合わせのそれぞれについて、前記距離が所定の距離閾値以上であるときよりも前記距離閾値未満であるときに大きくなり、且つ、前記距離の時間変化率の絶対値が変化率閾値以上であるときより前記変化率閾値未満であるときに大きくなる貢献値を取得するステップと、
前記貢献値に基づいて前記人流の評価値を取得するステップとを含む、ことを特徴とする人流評価方法。
【請求項10】
所定の領域内における人流を評価するための人流評価プログラムであって、
前記領域内に位置する人及び前記領域内に位置する評価対象地点の組み合わせ、並びに、前記領域内に位置する人同士の組み合わせの少なくとも一方において、それぞれ両者の間の距離、及び、前記距離の時間変化率の絶対値を算出するステップと、
前記組み合わせのそれぞれについて、前記距離が所定の距離閾値以上であるときよりも前記距離閾値未満であるときに大きくなり、且つ、前記距離の時間変化率の絶対値が変化率閾値以上であるときより前記変化率閾値未満であるときに大きくなる貢献値を取得するステップと、
前記貢献値に基づいて前記人流の評価値を取得するステップとを含む、ことを特徴とする人流評価プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人が流れる場所において、流れる人それぞれ、及び、場所それぞれの賑わいへの寄与を評価し、賑わいをもたらす人流を評価することのできる人流評価装置、人流評価方法、及び、人流評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
市民や来訪者が集まり交流する街並みを形成することを目的として、賑わいを創出する事業が盛んに行われるようになっている。賑わいを創出することによって、街に人を惹きつけ、その街のアクティビティや活気を高めるとともに、その街の商業を振興させることができる。
【0003】
ユーザの通行を誘導することによって、賑わいを創出する通行誘導サーバが公知である(例えば、特許文献1)。特許文献1の通行誘導サーバは、所定地域のルート上に複数のスポットを設定し、そのスポットのうち、少なくとも1つのスポットを複数回通行した場合にポイントをユーザに付与する。これにより、ユーザは所定地域のルート上を行ったり来たりするようになり、所定地域に滞留するため、所定地域に賑わいがもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-139325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の通行誘導サーバ等を含む賑わいを創出する方法や事業では、賑わいをどの程度高めることができたかを正確に評価し、改善していくことが望ましい。
【0006】
例えば、賑わいを人の密度に基づいて評価することが考えられる。しかし、人の密度が高い場合であっても、例えば、街を単に通過するのみの人流は、街の賑わいを高めることには寄与しないと考えられる。そのため、賑わいの観点から人流の評価を行うことのできる装置や、方法、プログラムの開発が強く求められている。
【0007】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みて案出されたものであり、賑わいの観点から人流を評価することのできる人流評価装置、人流評価方法、及び、人流評価プログラムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1の発明は、所定の領域内における人流を評価するための人流評価装置であって、前記領域内に位置する人及び前記領域内に位置する評価対象地点の組み合わせ、並びに、前記領域内に位置する人同士の組み合わせの少なくとも一方において、それぞれ両者の間の距離、及び、前記距離の時間変化率の絶対値を算出し、前記組み合わせのそれぞれについて、前記距離が所定の距離閾値以上であるときよりも前記距離閾値未満であるときに大きくなり、且つ、前記距離の時間変化率の絶対値が変化率閾値以上であるときより前記変化率閾値未満であるときに大きくなる貢献値を取得し、前記貢献値に基づいて前記人流の評価値を取得する構成とする。
【0009】
これによれば、評価対象地点から距離閾値以下の範囲内に、距離の時間変化率が変化率閾値以下の人がいる場合や、人同士が距離閾値以下の範囲内に、距離の時間変化率が変化率閾値以下の状態でいる場合に、それ以外の場合に比べて、貢献値が高くなる。これにより、評価地点に集まり留まっている人が多い人流や集まり留まっている人が多い人流の評価値が、人が単に流れる人流の評価値よりも高くなるように取得される。よって、人が店舗や他の人に集まる人流と、単に人が流れる人流とを区別することができるため、賑わいの観点から適切に人流を評価することができる。
【0010】
また、上記構成において、第2の発明は、前記貢献値は、前記距離に対して単調減少する構成とする。
【0011】
これによれば、距離が小さくなるにつれて貢献値が高く評価される。これより、評価地点や他の人に近接するほど、その人に対して取得される貢献値が高くなる。これにより、評価地点に集まり留まっている人が多い人流や集まり留まっている人が多い人流の評価値が、単に人が流れる人流よりも高くなるように取得されるため、人が店舗や他の人に集まる人流と、単に人が流れる人流とを区別することができる。
【0012】
また、上記構成において、第3の発明は、前記貢献値は、前記距離の前記時間変化率の絶対値に対して単調減少する構成とする。
【0013】
これによれば、距離の時間変化率が小さくなるにつれて貢献値が高く評価される。これより、評価地点や他の人に近接して留まった場合に、評価地点や他の人の近傍を通過した場合に比べて、貢献値が高くなる。これにより、評価地点に集まり留まっている人が多い人流や集まり留まっている人が多い人流の評価値が、単に人が流れる人流よりも高くなるように取得されるため、人が店舗や他の人に集まる人流と、単に人が流れる人流とを区別することができる。
【0014】
また、上記構成において、第4の発明は、前記貢献値は、前記距離をd、前記距離の前記時間変化率の絶対値をΔd、前記距離閾値をW、前記変化率閾値をWとしたときに、以下の式(1)によって表される構成とする。
【数1】
【0015】
これによれば、簡易な処理により貢献値を算出することができる。
【0016】
また、上記構成において、第5の発明は、前記評価対象地点それぞれに対して、当該評価対象地点と前記領域内に位置する前記人の前記組み合わせそれぞれに対応する前記貢献値の加重平均を局所賑わい値として算出し、前記局所賑わい値の相加平均を時間平均することによって、前記人流の前記評価値を取得する構成とする。
【0017】
これによれば、簡易な処理により、領域全体の評価値を取得することができる。
【0018】
また、上記構成において、第6の発明は、前記領域内に位置する前記人それぞれに対して、当該人と前記領域内に位置する他の前記人との前記組み合わせそれぞれに対応する前記貢献値の加重平均を局所賑わい値として算出し、前記局所賑わい値の和の平方根を時間平均することによって、前記人流の前記評価値を取得する構成とする。
【0019】
これによれば、簡易な処理により、領域全体の評価値を取得することができる。
【0020】
また、上記構成において、第7の発明は、前記領域内に位置する前記人それぞれに対して属性を取得し、前記属性に基づいて加重平均における前記貢献値の係数を設定する構成とする。
【0021】
これによれば、評価対象とする属性を持つ人により大きな係数をつけることによって、評価すべき属性に応じた評価値を取得することができる。
【0022】
また、上記構成において、第8の発明は、前記領域内の画像を取得する撮像装置と、前記画像に基づいて、前記画像の前記人に対応する部分を示す枠、及び、前記領域内に位置する前記人の位置を取得し、前記人流の前記評価値を出力する処理装置と、前記画像を表示する表示装置とを有し、前記領域内に位置する前記人それぞれに対して、当該人と前記領域内に位置する他の前記人との前記組み合わせそれぞれに対応する前記貢献値の加重平均を局所賑わい値として算出し、前記処理装置は、前記表示装置において、前記局所賑わい値に対応する彩色が内部に施された前記枠を前記画像に重ねて表示する構成とする。
【0023】
これによれば、表示装置の表示によって、人流に含まれる人それぞれの賑わいに対する貢献値を容易に理解することができる。
【0024】
上記課題を解決するため、第9の発明は、所定の領域内における人流を評価するための人流評価方法であって、前記領域内に位置する人及び前記領域内に位置する評価対象地点の組み合わせ、並びに、前記領域内に位置する人同士の組み合わせの少なくとも一方において、それぞれ両者の間の距離、及び、前記距離の時間変化率の絶対値を算出するステップと、前記組み合わせのそれぞれについて、前記距離が所定の距離閾値以上であるときよりも前記距離閾値未満であるときに大きくなり、且つ、前記距離の時間変化率の絶対値が変化率閾値以上であるときより前記変化率閾値未満であるときに大きくなる貢献値を取得するステップと、前記貢献値に基づいて前記人流の評価値を取得するステップとを含む構成とする。
【0025】
これによれば、評価対象地点から距離閾値以下の範囲内に、距離の時間変化率が変化率閾値以下の人がいる場合や、人同士が距離閾値以下の範囲内に、距離の時間変化率が変化率閾値以下の状態でいる場合に、それ以外の場合に比べて、貢献値が高くなる。これにより、評価地点に集まり留まっている人が多い人流や集まり留まっている人が多い人流の評価値が、人が単に流れる人流の評価値よりも高くなるように取得される。よって、人が店舗や他の人に集まる人流と、単に人が流れる人流とを区別することができるため、賑わいの観点から適切に人流を評価することができる。
【0026】
上記課題を解決するため、第10の発明は、所定の領域内における人流を評価するための人流評価プログラムであって、前記領域内に位置する人及び前記領域内に位置する評価対象地点の組み合わせ、並びに、前記領域内に位置する人同士の組み合わせの少なくとも一方において、それぞれ両者の間の距離、及び、前記距離の時間変化率の絶対値を算出するステップと、前記組み合わせのそれぞれについて、前記距離が所定の距離閾値以上であるときよりも前記距離閾値未満であるときに大きくなり、且つ、前記距離の時間変化率の絶対値が変化率閾値以上であるときより前記変化率閾値未満であるときに大きくなる貢献値を取得するステップと、前記貢献値に基づいて前記人流の評価値を取得するステップとを含む構成とする。
【0027】
これによれば、評価対象地点から距離閾値以下の範囲内に、距離の時間変化率が変化率閾値以下の人がいる場合や、人同士が距離閾値以下の範囲内に、距離の時間変化率が変化率閾値以下の状態でいる場合に、それ以外の場合に比べて、貢献値が高くなる。これにより、評価地点に集まり留まっている人が多い人流や集まり留まっている人が多い人流の評価値が、人が単に流れる人流の評価値よりも高くなるように取得される。よって、人が店舗や他の人に集まる人流と、単に人が流れる人流とを区別することができるため、賑わいの観点から適切に人流を評価することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、賑わいの観点から人流を評価することのできる人流評価装置、人流評価方法、及び、人流評価プログラムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】人流評価装置のハードウエア構成図
図2】人流評価装置の機能構成図
図3】(A)人に対する局所賑わい値、及び、(B)店舗に対する局所賑わい値を表示するときのモニタの画面を示す図
図4】人流評価処理のフローチャート
図5】人が所定の方向に流れる人流における(A)人及び店舗の局所賑わい値を説明するための説明図、及び、(B)破線部分の拡大図
図6】店舗に人が集まっている人流における(A)人及び店舗の局所賑わい値を説明するための説明図、及び、(B)破線部分の拡大図
図7】(A)フィルタを適用した場合のモニタ表示、及び、(B)フィルタを適用したときの店舗の局所賑わい値を示すときのモニタの画面を示す図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の人流評価装置、人流評価方法、及び人流評価プログラムの実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0031】
<<第1実施形態>>
人流評価装置1は、所定の領域(以下、評価領域A)内を流れる(移動する)人流の賑わい(より詳細には、人流によって生じる賑わい)を評価する。ここでいう賑わいとは、評価領域Aにおける人流の評価を示すものであって、人、又は場所それぞれの評価領域A内で行われる活動に対する貢献の大きさに基づく。
【0032】
本実施形態の人流評価装置1が評価する評価領域Aは、商店が設けられた商店街の中の通路や、売店が設けられた駅の中の通路を含む。評価領域A内では、売店や商店の商業活動が行われ、人がその評価領域A内に滞留することによって活気が生まれる。本実施形態の人流評価装置1は、いわゆる「賑わい創出」、すなわち、評価領域A内の商業活動を活性化させること(より具体的には、評価領域A内の商店の売上増加)を目的として賑わいを評価する。賑わいは、店舗等の評価対象地点に集まり留まる人や、評価領域A内において、共通の目的を持ち、申し合わせてグループで移動・行動する人の数に応じて高くなるように評価される。すなわち、賑わいは、局所的に滞留してグループを形成するか、又は、グループで移動・行動する人が多くなるにつれて高くなるように評価される 。
【0033】
本実施形態では、評価領域A内の賑わいは大域賑わい値によって表される。大域賑わい値は評価領域A内の評価対象地点(例えば、店舗)それぞれにおける賑わいを示す局所賑わい値に基づく。局所賑わい値は評価領域A内にいる全ての人の評価対象地点に対する貢献値に基づいて算出され、貢献値が大きくなるにつれて局所賑わい値も大きくなる。
【0034】
次に、人流評価装置1の構成について、図1及び図2を用いて説明する。図1には、人流評価装置1のハードウエア構成図が示されている。人流評価装置1は、図1に示すように、評価領域A内の画像を取得する撮像装置としての複数のカメラ2と、大域賑わい値を算出する演算処理装置3(処理装置)と、キーボード、マウス、タッチパネル等を含む入力装置4と、演算処理装置3によって処理された結果を示す表示装置としてのモニタ5と、を有している。但し、撮像装置はカメラ2に限定されず、評価領域Aにおける人の位置や移動を取得できる装置であればいかなる装置であってもよい。より具体的には、撮像装置は、例えば、レーザレンジファインダや、LiDAR等であってもよい。
【0035】
図1に示すように、カメラ2はそれぞれ、評価領域A内を所定時間Δtごとに撮影する。カメラ2が撮影する領域はそれぞれが他と重なる部分を含む互いに異なる範囲に設定されている。カメラ2によって撮影された領域を繋ぐことによって、評価領域Aが網羅される。ここでは、説明の便宜上、カメラ2が撮像を行った任意の時刻を時刻tと記載する。カメラ2はネットワーク6を介して演算処理装置3に接続されている。
【0036】
演算処理装置3は公知のハードウエアを有するコンピュータから構成されている。演算処理装置3は、人流を評価するための人流評価プログラムを実行し、その実行に要する周辺機器の制御等を統括的に実行するCPU(Central Processing Unit)等からなるプロセッサ7、プロセッサ7のワークエリア等として機能するRAM8(Random Access Memory)、プロセッサ7が実行する評価プログラムやデータを格納するROM9(Read Only Memory)、ネットワーク6を介した通信処理を実行するネットワークインターフェース10、及び、SSDやHDDによって構成され、各種データを格納する記憶装置11(ストレージ)を備え、それら各構成要素はバス12を介して相互に接続されている。
【0037】
図2には、演算処理装置3の機能ブロック図が示されている。図2に示すように、演算処理装置3は、機能部として、記憶部15、画像取得部16、画像解析部17、設定部18、及び、人流評価部19を備えている。画像取得部16、画像解析部17、設定部18、及び、人流評価部19はそれぞれ、プロセッサ7によって実行されるソフトウエアによって構成されている。
【0038】
記憶部15は記憶装置11によって構成され、人流の評価を行うための各種データを記憶し、保持する。記憶部15によって保持、記憶されるデータにはカメラ2によって取得される各時刻の画像と、対応する評価領域A内における人物の位置、及び、その人物に係る情報と、人流の賑わいを評価するための各種パラメータとが含まれる。
【0039】
記憶部15は更に、評価領域A内に位置する複数の評価対象地点の位置を保持している。評価対象地点は賑わいの評価対象となる地点のことであり、評価領域A内に位置している。本実施形態では、評価対象地点は評価領域A内に位置する店舗Sそれぞれの二次元上の位置s(sxi,syi)に設定されている(図1図5参照)。但し、iは店舗それぞれに対応するインデックスであり、以下、店舗のインデックスの集合をSと記載する。店舗Sの位置sはそれぞれ店舗Sが設けられる領域内のいずれの位置に定められてもよいが、例えば、商品が並べられる領域の中央位置に基づいて定められていてもよい。また、記憶部15は更に、カメラ2によって取得される画像中の各店舗の位置及び大きさ(図1の太線の枠20参照)を保持している。評価対象地点を示す位置sと、店舗の位置、及び大きさとは、人流評価プログラムを実行する前に、記憶部15に記憶されている。以下では、単純化のため、各店舗は移動せず、評価対象地点は固定されているものとする。
【0040】
設定部18は、入力装置4を介して、人流評価を行う評価者からの各種パラメータの入力を受け付けるパラメータ設定部21を備える。賑わいを評価するためのパラメータには、距離閾値W、及び、変化率閾値Wが含まれる。
【0041】
本実施形態では、距離閾値Wは、店舗にある商品に興味を持ち、商品を購入する可能性がある人と、店舗との典型的な距離として定められている。但し、この態様には限定されず、距離閾値Wは、店舗内で商品を購入する際の人と人との典型的な距離等に基づいて定められてもよい。
【0042】
変化率閾値Wは、より厳密には人と店舗、又は、人と人との距離の時間変化率の絶対値における閾値を示す。本実施形態では、変化率閾値Wは、店舗内において商品を選ぶため立ち止まっている人と人との距離の時間変化率の絶対値の典型的な大きさとして定められている。但し、変化率閾値Wはこの態様には限定されず、所定の閾値であってよい。
【0043】
本実施形態では、設定部18はパラメータ設定部21に加えて、フィルタ設定部22を備える。フィルタ設定部22は評価者から入力装置4を介して評価の対象となる人を選択するためのフィルタの設定をフィルタ情報として受け付ける。本実施形態では、フィルタ設定部22はフィルタの実行の有無と、フィルタを実行する場合には、評価対象となる人の属性とを入力装置4を介して取得する。属性には、例えば、性別、年齢層等が含まれる。
【0044】
画像取得部16は、カメラ2によって撮像された画像を取得し、取得した画像を撮像された時刻とともに、画像情報として、記憶部15に記憶させる。
【0045】
画像解析部17は画像取得部16によって取得された画像から、撮像領域中の人物の位置を取得し、記憶部15にその位置を位置情報として記憶させる。このような処理を行うため、画像解析部17は、移動体抽出部26、人物認識部27、及び、追跡部28を有する。
【0046】
移動体抽出部26は複数台のカメラ2によって撮像された画像をそれぞれ解析することによって、画像中の移動体を抽出し、画像中の位置及び大きさを取得する。移動体抽出部26によって抽出される画像における移動体の位置及び大きさは、長方形の枠30Aや円形の枠30B(図1参照)として取得される。
【0047】
人物識別部は、移動体抽出部26によって検出された移動体の特徴を抽出し、その移動体がそれぞれ人物かどうかを識別する。
【0048】
人物認識部27は、移動体が人物であるかを識別するとともに、人物と識別された移動体それぞれにおいて、その移動体に係る情報、すなわち、人物の属性を取得可能であるとよい。人物認識部27が取得する属性としては、例えば、性別、年齢層、等であってよい。本実施形態では、人物認識部27は、人物と認識された移動体の性別を取得することができる。
【0049】
追跡部28は人物識別部によって人物であると識別された移動体の位置や大きさに基づいて、移動体(すなわち、人物)の三次元形状を推定する。その後、追跡部28は、カメラ2によって撮像が行われた時刻tにおける人Pそれぞれの評価領域A内における二次元面上の位置p(t)(pxi(t)、pyi(t))を取得する(図1図5参照)。ここで、iは人それぞれに対応するインデックスを示し、時刻tにおいて評価領域A内にいる人のインデックスの集合をPと記載する。
【0050】
追跡部28は、人Pそれぞれの評価領域A内における位置p(t)を取得すると、人物の位置p(t)を時刻t、及び、各人物の属性とともに記憶部15に記憶させる。
【0051】
人流評価部19は、記憶部15に記憶された店舗の位置と、人物の位置及び属性と、各種パラメータとに基づいて、評価領域A内の賑わいを示す評価値を算出する。このような処理を行うため、人流評価部19は、フィルタ処理部31、局所賑わい算出部32、表示処理部33、及び、大域賑わい評価部34を備えている。
【0052】
フィルタ処理部31は、フィルタ設定部22によって設定されたフィルタの有無、及び、属性に基づいて、各時刻tにおいて、人Pそれぞれに設定された係数である重みw(i∈Pt)を算出する。フィルタ処理部31は例えば、フィルタを実行しない場合には、wを所定値に設定し、フィルタを実行する場合には、入力された属性に当てはまる人Pに対応する重みwを所定値に設定し、属性に当てはまらない人Pに対応する重みwを零に設定してもよい。
【0053】
局所賑わい算出部32は、記憶部15から、評価を行う時刻tの人の位置p(t)と、その人の時刻t―Δtの位置p(t―Δt)とを取得する。
【0054】
次に、局所賑わい算出部32は、所定の開始時刻tから所定の終了時刻t(≡t+(N-1)Δt。Nは正の整数)のΔtごとの各時刻tにおいて、店舗S(i∈S)それぞれについて、以下の式(2)に基づいて、店舗それぞれの局所賑わい値Nsi(t)を算出する。
【0055】
【数2】
【0056】
但し、dji(t)は時刻tにおける店舗Sと人Pとの距離を示し、Δdji(t)は時刻tにおける店舗Sと人Pとの距離の時間変化率の絶対値を示す。Fji(t)は、評価領域A内に位置する人Pの評価対象となる店舗Sの賑わいへの寄与の大きさ、すなわち、貢献値(スコアともいう)を示す。式(2)に示すように、局所賑わい値Nsi(t)は、評価対象地点となる店舗Sと評価領域A内に位置する人Pの組み合わせそれぞれに対応する貢献値Fji(t)の人Pについての加重平均に対応する。
【0057】
ji(t)、及び、Δdji(t)は、以下の式(3)及び(4)によって表される。
【0058】
【数3】
【0059】
【数4】
【0060】
また、式(2)におけるf(x,y)は正値の関数であって、yが一定の条件の下でxが1未満であるときには1以上であるときよりも大きくなり、xが一定の条件でyが1未満であるときには1以上であるときよりも大きくなる。より具体的には、f(x,y)はそれぞれx,yに関して単調減少な正値の関数である。
【0061】
本実施形態では、f(x,y)は以下の式(5)に示すように2つの正値の関数g(x)及びh(y)の積で表される。
【0062】
【数5】
【0063】
g(x)は、xが1未満であるときにxが1以上であるときよりも大きくなる関数であり、h(y)はyが1未満であるときにyが1以上であるときよりも大きくなる関数である。本実施形態では、g(x)はxについて単調減少な関数であり、h(y)はyについて単調減少な関数である。本実施形態では、g(x)及びh(y)は以下の式(6)及び(7)でそれぞれ与えられる。
【0064】
【数6】
【0065】
【数7】
【0066】
式(1)~(7)から理解できるように、貢献値Fji(t)は以下の式(8)で表される。
【0067】
【数8】
【0068】
式(8)に示すように、貢献値Fji(t)は店舗Sと人Pとの距離dji(t)がW以上であるときよりもW未満であるときに大きくなり、距離の時間変化率の絶対値Δdji(t)がW以上であるときよりW未満であるときに大きくなる。貢献値Fji(t)は距離dji(t)について単調減少であり、且つ、距離の時間変化率の絶対値Δdji(t)について単調減少な正値の関数である。
【0069】
次に、局所賑わい算出部32は、各時刻tにおいて、評価対象となる人P(i∈Pt)それぞれについて、以下の式(9)に基づいて、人Pそれぞれの局所賑わい値Npi(t)を算出する。
【0070】
【数9】
【0071】
但し、式(9)において、d'ij(t)は時刻tにおける人Piと人Pとの距離を示し、Δd'ji(t)は人Piと人Pとの距離の時間変化率を示す。また、P\{i}は、時刻t及び時刻t―Δtにおいて評価領域A内にいた人のインデックスの集合から、インデックスiを除いた集合を意味する。d'ij(t)と、Δd'ji(t)とは、以下の式(10)及び(11)でそれぞれ与えられる。
【0072】
【数10】
【0073】
【数11】
【0074】
評価領域A内に位置する人Pと人Pとが互いに集う(あるいは、グループを作って移動する)ことによって、評価領域Aには賑わいがもたらされる。F'ji(t)は、このような人Pと人Pとが互いに集うことによる賑わいの寄与の大きさ、すなわち、貢献値(スコアともいう)を示す。局所賑わい値Npi(t)は、評価対象となる人Pと評価領域A内に位置する人Pの組み合わせそれぞれに対応する貢献値Fji(t)の人Pについての加重平均に対応する。
【0075】
式(9)から理解できるように、貢献値F'ji(t)は以下の式(12)で表される。
【0076】
【数12】
【0077】
式(12)に示すように、貢献値F'ji(t)は人Pと人Pとの距離d'ji(t)がW以上であるときよりもW未満であるときに大きくなり、人Pと人Pとの距離の時間変化率の絶対値Δd'ji(t)がW以上であるときよりW未満であるときに大きくなる。貢献値F'ji(t)は距離d'ji(t)について単調減少であり、且つ、距離d'ji(t)の時間変化率の絶対値Δd'ji(t)について単調減少な正値の関数である。
【0078】
局所賑わい算出部32は、開始時刻tから終了時刻t間のΔtごとの各時刻tにおいて、店舗S(i∈S)それぞれについて、式(2)に基づいて、局所賑わい値Nsi(t)を算出し、人Pi(i∈P)それぞれについて、式(9)に基づいて、局所賑わい値Npi(t)を算出する。その後、局所賑わい算出部32は、各時刻tの局所賑わい値Nsi(t)及び、局所賑わい値Npi(t)を、賑わい情報として、記憶部15に記憶させる。
【0079】
表示処理部33は、カメラ2によって取得された画像と、画像に対応する時刻tについて、局所賑わい算出部32によって算出された各店舗の局所賑わい値Nsi(t)、及び、人それぞれの局所賑わい値Npi(t)の少なくとも一方を取得する。その後、表示処理部33は、その画像と、局所賑わい値Nsi(t)及びNpi(t)の少なくとも一方の情報とをモニタ5に重ねて表示する。本実施形態では、表示処理部33は、入力装置4への入力に応じて、店舗の局所賑わい値Nsi(t)、及び、人の局所賑わい値Npi(t)のいずれか一方を切り替えてモニタ5に表示する。
【0080】
人の局所賑わい値Npi(t)を表示するときには、表示処理部33は、画像解析部17によって取得された人それぞれに対応する枠を取得する。その後、表示処理部33は、図3(A)に示すように、その枠の中を対応する局所賑わい値Npi(t)に応じた濃さで塗り、カメラ2によって取得された画像に重ねて表示する。図3(B)に店の局所賑わい値Nsi(t)を表示するときには、表示処理部33は、記憶部15から店それぞれに対応する枠を取得する。その後、表示処理部33はその枠の中を対応する局所賑わい値Npi(t)に応じた濃さで塗り、カメラ2によって取得された画像に重ねて表示する。
【0081】
大域賑わい評価部34は、局所賑わい値Nsi(t)及びNpi(t)に基づいて、開始時刻tから終了時刻tまでの評価領域Aの人流の評価値として、賑わいを示す大域賑わい値Ngsを算出し、表示処理部33に出力する。本実施形態では、大域賑わい評価部34は以下の式(13)に基づいて大域賑わい値Ngsを算出する。
【0082】
【数13】
【0083】
大域賑わい値Ngsは、全店舗の局所賑わい値Nsi(t)の総和を時間平均した値に相当する。大域賑わい評価部34は、算出した大域賑わい値Ngsを表示処理部33に出力するとともに、大域賑わい値Ngsを記憶部15に記憶させてもよい。
【0084】
人流評価装置1の演算処理装置3は、人流評価プログラムを実行することによって、開始時刻tから終了時刻t(上述したように、t(≡t+(N-1)Δt。Nは正の整数))における人流を評価する人流評価方法を実施する。以下、演算処理装置3が実行する人流評価プログラムについて、図4を参照して詳細に説明する。
【0085】
人流評価プログラムの最初のステップST1において、設定部18は、評価を行うためのパラメータであるW、及び、Wの入力、及び、フィルタの設定を受け付ける。受け付けるフィルタの設定としては、フィルタの有無や、評価対象とする人物の属性(例えば、女性のみ、など)がある。設定部18が入力を受け付けると、設定部18は記憶部15にW、W、及びフィルタの設定を記憶させる。その後、演算処理装置3は、ステップST2を実行する。
【0086】
ステップST2において、画像取得部16は、開始時刻tから終了時刻tまでにおいて、時間Δtごとにカメラ2によって撮像された画像を記憶部15から取得する。画像の取得が完了すると、演算処理装置3は、ステップST3を実行する。
【0087】
画像解析部17(より詳細には、移動体抽出部26)は、ステップST3において、画像取得部16によって取得された全ての画像を解析し、移動体を抽出する。移動体の抽出が完了すると、演算処理装置3はステップST4を実行する。
【0088】
画像解析部17(より詳細には、人物認識部27)は、ステップST4において、移動体が人物であるかを識別するとともに、人物と識別された移動体それぞれにおいて、その移動体に係る情報、すなわち、人物の属性を取得し、記憶部15に記憶させる。その後、演算処理装置3はステップST5を実行する。
【0089】
画像解析部17(より詳細には、追跡部28)はステップST5において、ステップST4において人物として認識された移動体それぞれの、評価領域A内での2次元面上の位置を取得し、記憶部15に記憶させる。その後、演算処理装置3はステップST6を実行する。
【0090】
人流評価部19(より詳細には、フィルタ処理部31)はステップST6において、ステップST4において人物として認識された移動体それぞれに対応する属性を記憶部15から取得し、フィルタ設定部22によって設定されたフィルタの有無、及び、属性に基づいて、人物として認識された移動体それぞれに対して重みwiを設定する。設定が完了すると、演算処理装置3はステップST7を実行する。
【0091】
人流評価部19(より詳細には、局所賑わい算出部32)はステップST7において、開始時刻tのΔt後から終了時刻tまでの各時刻tにおいて、式(8)に基づいて、店舗Sそれぞれについて店舗Sと人Piとの組み合わせに対する貢献値Fji(t)を取得し、店舗Sそれぞれに対応する局所賑わい値Nsi(t)を算出する。更に、局所賑わい算出部32は、式(9)に基づいて、人Pそれぞれについて他の人Pjとの組み合わせに対する貢献値F'ji(t)を取得し、人Pそれぞれに対応する局所賑わい値Npi(t)を算出する。その後、局所賑わい算出部32は、算出された局所賑わい値Npi(t)及びNsi(t)を記憶部15に記憶させる。その後、演算処理装置3は、ステップST8を実行する。
【0092】
人流評価部19(より詳細には、大域賑わい評価部34)はステップST8において、記憶部15に記憶された店舗の局所賑わい値Nsi(t)を用いて、式(11)に基づき、大域賑わい値を算出し、表示処理部33に出力する。その後、演算処理装置3は、ステップST9を実行する。
【0093】
人流評価部19(表示処理部33)はステップST9において、大域賑わい値をモニタ5に表示するとともに、人Pの局所賑わい値を表示するときには、対応する枠の中を対応する局所賑わい値Npi(t)に応じた濃さで塗って、カメラ2によって取得された画像に重ねて順次表示することによって、ユーザに動画として提示する。店舗の局所賑わい値を表示するときには、表示処理部33は、店舗に対応する枠の中を対応する局所賑わい値Npi(t)に応じた濃さで彩色し、モニタ5にカメラ2によって取得された画像に重ねて順次表示することによって動画として表示する。表示が完了すると、人流評価処理を終える。
【0094】
次に、このように構成した人流評価装置1の動作、及び、効果について図5及び図6を参照して説明する。人流評価装置1によって、人流評価処理が開始されると、カメラ2によって取得された画像から、店舗の局所賑わい値Nsi(t)と、人物の局所賑わい値Npi(t)とが取得され、どちらか一方が画像に重ねて表示される。
【0095】
図5(A)には、乗降客の多い駅の中の通路を通過する人流の例が、図6(A)には、商店街の通りを通過する人流の例がそれぞれ示されている。ここでは、フィルタは無しに設定されて、人Pそれぞれに対応する重みwは一定であるとする。
【0096】
店舗SからWの距離の範囲内に立ち止まり、店舗に対する相対速度の大きさがW以下となる人は、図6(A)の場合において、図5(A)の場合よりも多くなることが期待される。これは、商店街の中の通りを通過する人は、店舗Sにおいて商品を選ぶため、店舗SからWの距離の範囲内に立ち止まると考えられるためである。
【0097】
式(7)に示すように、dijがW以下であり、且つ、ΔdijがW以下であるときに、それ以外の場合に比べて、貢献値Fji(t)が大きくなる。よって、店舗Sに対応する局所賑わい値Nsi(t)は貢献値Fji(t)の加重平均であるから、dijがW以下であり、且つ、ΔdijがW以下である人が多くなるにつれて、増加する。
【0098】
すなわち、店舗SからWの範囲に位置し、且つ、立ち止まる人が多い図6(A)の場合は、図5(A)の場合に比べて、店舗の局所賑わい値Nsi(t)が大きくなり、大域賑わい値Ngsも大きくなる。よって、図6(A)のように、店舗において購買しうる人が多く、商業活動に貢献する人の多い人流と、図5(A)のように、商業活動に貢献することが少なく、単に人が流れるだけの人流とを、大域賑わい値Ngsによって区別することができる。これにより、商業活動に貢献する人の多い人流と単に人が流れるだけの人流とを区別することのできる人流の評価値を適切、且つ、簡便に取得することができる。このような人流の評価値を用いることで、店舗の配置等を工夫することによって、より賑わいのある街づくりに向けた情報を提供することができる。
【0099】
図7(A)及び図7(B)には、評価対象となる属性として女性を選択する旨の入力がなされた場合の例が示されている。このとき、女性であると判定された人物Fそれぞれに対応する重みwiが所定の値(例えば、1)に設定され、それ以外の人物Mに対応する重みは零に設定される。
【0100】
この場合には、図7(A)に示すように、女性のみが評価対象となり、例えば、図7(B)に示すように、女性が集まっている店舗の局所賑わい値が高くなるように表示される。これにより、属性を考慮した人流の評価を行うことができる。
【0101】
<<第2実施形態>>
第2実施形態に係る人流評価装置101は、大域賑わい値の算出に用いる式が式(13)とは異なり、他の構成については、第1実施形態と同様である。よって、他の構成については説明を省略する。
【0102】
本実施形態に係る人流評価装置101は、式(13)の代わりに、以下の式(14)を用いて、大域賑わい値Ngpを算出する。
【0103】
【数14】
【0104】
式(14)に示すように、大域賑わい値Ngpは局所賑わい値の和の平方根を時間平均したものに相当する。
【0105】
次に、このように構成した人流評価装置101の効果について説明する。図6(A)に示すように、商店街の通りを通過する人流において、図5(A)に示す単に通路を通過する人流に比べて、互いに人が集まり、集団を形成する。特に、図6(A)に示す商店街の通りにいる人は、店舗内で商品を購入する、会話をする等の理由によって、互いに近接した状態で立ち止まることが多い。一方、図5(A)の単に通路を通過する人流では、互いに近接した状態にあったとしても、それぞれの人が移動している。そのため、図5(A)に示す単に人が流れる場合の人と人との相対速度(図示していないが、人と人とがすれ違う状況も含む)は、図6(A)に示すようにそれぞれの人が店舗の前で立ち止まる人が多く、それぞれの人の移動速度が十分小さい場合に比べて、揺らぎ易く、かつ、大きくなりやすい。そのため、図6(A)の場合には、図5(A)の場合に比べて,大域賑わい値Ngpが大きくなる。よって、商店街の中の人流と、単に人が流れる人流とを区別することができる人流の評価値を適切、且つ、簡便に取得することができる。
【0106】
なお、図5(A)のように単に通路を通過する人流と通路をグループで移動・行動する人が含まれる人流とを比較すると、前者においては人々がたとえ同じ方向に平均的に同じ速度で移動していたとしても、一般にこれらの人々は近づいたり遠ざかったりを繰り返すので、相対速度は大きく変動し続け、結果的に局所賑わい値Npi(t)は小さく算出される。他方、後者においては、通常グループを構成する人々は一定の距離を保ちながら歩行等することが多いことから、人と人との相対速度は殆ど変化せず、局所賑わい値Npi(t)は大きく算出される。従って、第1実施形態の人流評価装置1、及び、第2実施形態の人流評価装置101それぞれにおいて、単に通路を通過する人流と通路をグループで移動・行動する人が含まれる人流とを区別することが可能となる。
【0107】
評価領域A内の評価対象となる人の数がNであるときには、人と人との組み合わせの数はNp(N-1)/2と表される。局所賑わい値の総和は人と人との組み合わせについて貢献値を足し合わせたものであるから、概ねNの2乗に概ね比例する。一方、例えば、評価領域A内にいる人の購入金額が概ね一定であると考えれば、各人の商業活動への貢献は一定である。よって、評価領域A内における大域賑わい値も評価領域A内の人数Nに比例すべきであると考えられる。
【0108】
式(14)に示すように、大域賑わい値Ngpは局所賑わい値の和の平方根に基づく。これにより、大域賑わい値Ngpは評価領域A内の人数に概ね比例したものとなる。よって、大域賑わい値Ngpは局所賑わい値の和の平方根を用いて算出することによって、評価領域A内の人数増加に従って、人同士の相対関係が平方に比例して増えることを考慮して、大域賑わい値を適切に評価することができる。
【0109】
以上、本発明を特定の実施形態に基づいて説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。なお、上記実施形態に示した本発明に係る人流評価装置1、人流評価方法、及び、人流評価プログラムの各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【0110】
上記実施形態の大域賑わい評価部34は、式(13)又は式(14)に基づいて、大域賑わい値を算出していたが、この態様には限定されない。例えば、大域賑わい値Nは、式(13)によって表される大域賑わい値(店舗大域賑わい値)と、式(14)によって表される大域賑わい値(人大域賑わい値)との加重平均として算出されていてもよい。より具体的には、店舗大域賑わい値の重みをv、人大域賑わい値の重みをvとして、人流評価装置1、101は、大域賑わい値Nを以下の式(15)に基づいて算出してもよい。
【0111】
【数15】
【0112】
以上詳細に説明したように、本発明の人流評価装置1は、人が店舗や他の人に集まる人流と、単に人が流れる人流とを区別することができるため、賑わいの観点から適切に人流を評価することができる。しかしながら本発明の社会的価値・意義はこれに留まらない。
【0113】
本発明の人流評価装置1、101によって取得される人流の評価値(店舗の局所賑わい値Nsiや人Pそれぞれに対応する局所賑わい値Npiあるいは大域賑わい値Ngp、Ngs、N)は、Wを大きく設定した場合、相対速度の大小に関わらず、評価領域A内において人々が局所的に滞留してグループを形成するか、又は、グループで移動・行動する人が多くなるにつれて大きくなる。すなわち、本発明の人流評価装置1、101や、人流評価方法、人流評価プログラムによって、賑わいのみならず街中において人が密集した状態を検出することが可能である。これは、Wの設定に応じて、人流の評価値を「賑わいを示す指標」あるいは「密集を示す指標」として使い分けができることを示唆している。すなわちWを平時における値と比較して大きく設定した場合の人流の評価値は、「密集を示す指標」として機能する。よって、本発明は、2020年初頭から世界的に猛威を振るう新型コロナウィルス(COVID-19)対策にも応用することが可能である。
【0114】
具体的には、店舗の局所賑わい値Nsiや人Pそれぞれに対応する局所賑わい値Npiあるいは大域賑わい値Ngp、Ngs、Nが所定の範囲(例えば、所定の閾値以上)にあるときに、人流評価装置1、101は人が「密集」していると判定するように構成してもよい。演算処理装置3が外部の装置に通知を行わせる通知部(図示せず)を含み、人が密集していると人流評価装置1、101が判定した場合に、通知部が外部の装置に、人が密集している旨の警報(通知)を行わせるように構成するとよい。当該警報は、ネットワーク6を介して例えば商店街等を運営する組合等の団体が所有するモニタやスピーカを介して、あるいは、事前に所定のアプリケーションソフトウェアがインストールされ、かつ、利用登録が行われた端末の表示画面を介して、通知されるとよい。これによって街を往来する人々が密集することを回避し、感染症の拡大を防止する対策として有効に機能する。
【0115】
本発明の人流評価装置1、101を用いることで、賑わいと人が流れるように通行する混雑とを区別することが可能となる。更に、本発明の人流評価装置1、101による人流の評価値に基づいて、例えば商店街の来訪者に対して密集を回避するよう(分散して行動するよう)行動変容を促すことで人流を制御することも可能である。これによって人が極度に密集することを避けつつ、適度な賑わいを持つ人流を生み出す(即ち、経済活動が継続される)ための商店街設計やイベント効果の解析・評価を行うことができる。このように、上記の人流評価装置1、101は、いわゆるウィズコロナの時代においては極度な密集を避けて、感染症の拡大防止と経済活動の継続の両立を図るために用いることができ、更に、いわゆるアフターコロナの時代においても、同一の構成によって街の賑い創出に資することが可能となる。
【0116】
上記実施形態では、評価対象地点となる位置はそれぞれ店舗の位置に設定されていたが、この態様には限定されない。例えば、評価対象地点は移動販売車や、ストリートパフォーマーの位置等、時間の経過に応じて移動するように設定されていてもよい。
【0117】
上記実施形態では、f(x)及びg(y)は式(5)及び(6)によってそれぞれ表されていたが、この態様には限定されない。f(x)はxについて単調減少な正値の関数であってよく、また、f(x)はx≦1において一定であり、x>1において零の関数や、x≦1において一定であり、x>1について単調減少な正値の連続な関数であってもよい。同様に、g(y)はyについて単調減少な正値の関数であってよく、y≦1において一定であり、y>1において零の関数、又は、y≦1において一定であり、y>1においてyについて単調減少な連続な関数であってもよい。
【符号の説明】
【0118】
1 :第1実施形態に係る人流評価装置
2 :カメラ(撮像装置)
3 :演算処理装置(処理装置)
5 :モニタ(表示装置)
101 :第2実施形態に係る人流評価装置
A :評価領域
ji :貢献値
F'ji :貢献値
gp :大域賑わい値
gs :大域賑わい値
:大域賑わい値
pi :人に対する局所賑わい値
si :店舗(評価対象地点)に対する局所賑わい値
:人
:店舗(評価対象地点)
:距離閾値
:変化率閾値
d'ji :距離
ji :距離
:重み
Δd'ji :距離の時間変化率の絶対値
Δdji :距離の時間変化率の絶対値

【要約】
【課題】賑わいの観点から人流を評価することのできる人流評価装置、人流評価方法、及び、人流評価プログラムを提供する。
【解決手段】所定の領域内における人流を評価するための人流評価装置1であって、領域A内に位置する人P及び領域A内に位置する評価対象地点Sの組み合わせ、並びに、領域内に位置する人同士の組み合わせの少なくとも一方において、それぞれ両者の間の距離、及び、距離の時間変化率の絶対値を算出し、組み合わせのそれぞれについて、距離が所定の距離閾値以上であるときよりも距離閾値未満であるときに大きくなり、且つ、距離の時間変化率の絶対値が変化率閾値以上であるときより変化率閾値未満であるときに大きくなる貢献値を取得し、貢献値に基づいて人流の評価値を取得する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7