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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】炊飯釜
(51)【国際特許分類】
   A47J 36/02 20060101AFI20220401BHJP
   A47J 27/00 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
A47J36/02 B
A47J27/00 103H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019033460
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020137579
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2020-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】592056595
【氏名又は名称】京豊エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088948
【弁理士】
【氏名又は名称】間宮 武雄
(72)【発明者】
【氏名】倉垣 豊幸
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-140565(JP,A)
【文献】特開平09-140570(JP,A)
【文献】特開昭61-234820(JP,A)
【文献】特開2009-005793(JP,A)
【文献】特開平07-280279(JP,A)
【文献】特開平01-236255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00-27/13
A47J 27/20-29/06
A47J 33/00-36/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
釜基体の内面側表面に、フッ素樹脂をバインダとして遠赤外線放射材を含有する塗料をコーティングして塗膜が形成され、下方に設置された加熱用熱源により釜底を加熱して炊飯が行われる炊飯釜において、
前記釜基体の少なくとも内面側底部の表面全体に分散して多数の小凸部を形設して、釜基体の内面側表面を被覆する前記塗膜の表面に分散して多数の小凸部を表出させたことを特徴とする炊飯釜。
【請求項2】
前記塗料に含有される赤外線放射材は、1種類の遷移金属酸化物もしくは複数種類の遷移金属酸化物の混合物である請求項1に記載の炊飯釜。
【請求項3】
前記塗料に含有される赤外線放射材は、酸化鉄、二酸化マンガン、酸化コバルトおよび酸化銅の混合物を主成分とする請求項2に記載の炊飯釜。
【請求項4】
前記塗膜の厚みは、50μm~60μmである請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の炊飯釜。
【請求項5】
前記小凸部は、球帽状であり、その直径寸法に対して高さ寸法が1/5~1/20である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の炊飯釜。
【請求項6】
前記球帽状の小凸部は、直径寸法が8mm~12mmで高さ寸法が0.8mm~1.2mmである請求項5に記載の炊飯釜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に業務用の炊飯釜、特に、米飯食品工場、給食センターなどにおいて自動で大量に米飯を炊く炊飯装置で使用される炊飯釜に関する。
【背景技術】
【0002】
米飯食品工場や給食センターなどのように大量に米飯を炊く事業所では、洗米、計量、加水、浸漬、炊飯、蒸らしなどの各工程の作業を自動化し、また、各工程間での多数の炊飯釜などの移送もコンベヤによって自動的に行われるようにしている。このような自動大量炊飯システムにおける炊飯装置においては、浸漬米が入った多数の炊飯釜を搬送路に沿って搬送し、搬送路下方に設置されたガスバーナ等の加熱手段によって炊飯釜を加熱し、一釜ごとに米飯が炊き上がるようにしている。このような炊飯装置では、一日に大量の米飯を炊く必要があるため、熱効率が良く美味しい米飯を炊くことができる炊飯釜が求められ、種々の炊飯釜が提案され製作されている。
【0003】
例えば、釜本体の上端開口部を閉塞する蓋の下面に、遠赤外線発生塗料を塗装しあるいは遠赤外線発生板を張設して遠赤外線発生層を展装し、加熱器によって下から釜内を加熱したときに、蓋下面の遠赤外線発生層を反射した熱が釜内の米・水の内部に深く伝播し、むらなく効率良く炊飯することができるようにした炊飯釜(例えば、特許文献1参照。)や、金属製の胴体部と、胴体部の中間に設けられた鍔部と、胴体部の底部に設けられたカーボン製の底板とから構成され、電磁調理器によって下から加熱したときに、カーボン製の底板から遠赤外線が照射されて米粒の内部まで良く熱が通るために熱効率が高く、米粒に加えられる熱量も高くなって、短時間で美味しい米飯が出来上がるようにした炊飯釜(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【0004】
また、金属類からなる基体上に、内部層として、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル等のセラミックスや黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維等の炭素などの遠赤外線効果を有する物質の塗膜を有し、外部層としてフッ素樹脂を含有した塗膜を有するコーティング構造を形成し、フッ素樹脂に由来して潤滑性、非粘着性、耐焦げ付き性などを有するとともに、遠赤外線効果を有する物質の塗膜に由来して食品の芯部まで短時間で効率的に加熱できるようにした調理器具(例えば、特許文献3参照。)や、フッ素樹脂材料の内部にプラチナ-炭化ジルコニウム複合体およびカーボンホウ化ランタン炭化ジルコニウム複合体を分散させた赤外線放射樹脂組成物が内釜本体および内蓋の内面にコーティングされ、美味しいご飯を炊き上げることができる炊飯器用内釜が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平7-33217号公報(第4-5頁、図1
【文献】特開平10-248713号公報(第3頁、図1
【文献】特開2003-276129号公報(第3-7頁)
【文献】特許第5911158号公報(第4-8頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献1に開示された炊飯釜は、蓋の下面に遠赤外線発生塗膜等の層を設け、引用文献2に開示された炊飯釜は、遠赤外線を照射するカーボン製の底板を設け、引用文献3に開示された調理器具は、遠赤外線効果を有する物質の塗膜を有するコーティング構造を表面に形成し、引用文献4に開示された炊飯釜は、内釜本体および内蓋の内面に赤外線放射樹脂組成物をコーティングしたものであって、これらの従来技術はいずれも、材料が有する遠赤外線効果を利用して、熱効率が良く美味しい米飯を炊くことができるようにするものである。このように、従来の技術は、炊飯釜の内面のコーティング層などにおける材料面での改良・開発に係るものであった。
【0007】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、材料の持つ遠赤外線効果を最良に発揮することができる表面構造を内面に備え、熱効率に優れ美味しい米飯を炊くことができる炊飯釜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明では、上記課題を達成する手段として、炊飯釜の内面にコーティングされた塗膜の表面積が大きくなるとともに、遠赤外線が種々の方向に放射されるような表面構造とした。
すなわち、請求項1に係る発明は、釜基体の内面側表面に、フッ素樹脂をバインダとして遠赤外線放射材を含有する塗料をコーティングして塗膜が形成された炊飯釜において、前記釜基体の少なくとも内面側底部の表面全体に分散して多数の小凸部を形設して、釜基体の内面側表面を被覆する前記塗膜の表面に分散して多数の小凸部を表出させたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の炊飯釜において、塗料に含有される赤外線放射材が、1種類の遷移金属酸化物もしくは複数種類の遷移金属酸化物の混合物であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の炊飯釜において、塗料に含有される赤外線放射材が、酸化鉄、二酸化マンガン、酸化コバルトおよび酸化銅の混合物を主成分とすることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の炊飯釜において、塗膜の厚みを50μm~60μmとしたことを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の炊飯釜において、小凸部が球帽状であり、その直径寸法に対して高さ寸法を1/5~1/20としたことを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、球帽状の小凸部の直径寸法を8mm~12mmとし高さ寸法を0.8mm~1.2mmとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明の炊飯釜においては、下方に設置されたガスバーナなどの加熱用熱源によって釜底が加熱されると、釜内面にコーティングされた塗膜中の遠赤外線放射材から遠赤外線が釜内の米と水に対して放射される。このとき、塗膜は、多数の小凸部が平面的に分散した表面構造を有しているため、遠赤外線の放射面となる塗膜の表面積が大きくなり、また、塗膜表面から遠赤外線が種々の方向に放射される。この点について、図7により説明する。
【0016】
従来の炊飯釜においては、図7の(b)に釜底部の一部を拡大した模式的断面図を示すように、釜基体1bの平滑な内面側表面に薄膜状に塗膜2bが形成されており、釜基体1bの外面に熱Hが加えられたときに、遠赤外線放射材を含有する塗膜2bの表面から遠赤外線FIが一様な方向に放射される。これに対し、この発明に係る炊飯釜においては、図7の(a)に釜底部の一部拡大模式的断面図を示すように、釜基体1aの内面側表面に分散して多数の小凸部3が形設され、その釜基体1aの内面側表面に薄膜状に塗膜2aが形成されている。このため、釜基体1aの外面に熱Hが加えられたときに、従来の炊飯釜に比べて塗膜2aの遠赤外線放射面が大きくなって、遠赤外線放射量が増加し、また、多数の小凸部が平面的に分散した表面構造の塗膜2aから遠赤外線FIが種々の方向に放射される。これにより、塗膜2aの持つ遠赤外線効果が最良に発揮されて米が均等に効率良く加熱されることとなる。
したがって、この発明に係る炊飯釜を使用して炊飯した場合には、米飯の歩留まりを向上させるとともに加熱用熱源の消費エネルギを低減することができ、炊きむらのない優れた食味を持つ米飯を炊くことができる。
【0018】
請求項2ないし請求項6に係る各発明の炊飯釜では、釜内面にコーティングされた塗膜の持つ遠赤外線効果が最良に発揮され、請求項1に係る発明の上記効果が確実に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の実施形態の1例を示す炊飯釜の平面図である。
図2図1に示した炊飯釜の縦断面図である。
図3図2のA部分の拡大縦断面図である。
図4図1に示した炊飯釜の内面側底部の表面に形設された小凸部の1つを拡大して示す側面図である。
図5】この発明の別の実施形態を示す炊飯釜の平面図である。
図6図5に示した炊飯釜の縦断面図である。
図7】この発明の作用効果を説明するための図であって、(a)は、この発明に係る炊飯釜の釜底部の一部を拡大して模式的に示す断面図であり、(b)は、従来の炊飯釜の釜底部の一部を拡大して示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の最良の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に平面図を、図2に縦断面図を示す炊飯釜は、洗米、計量、加水、浸漬、炊飯、蒸らしなどの各工程間で多数の炊飯釜をコンベアによって移送しながら炊飯等の各工程の作業を自動的に行うようにする自動大量炊飯システムにおける炊飯装置において使用されるものである。炊飯釜の形状や構造は特に限定されないが、図1および図2に示した炊飯釜は、円筒状の胴部10および丸底部12を備え、胴部10の上端縁に、炊飯装置の釜受け枠部(図示せず)に下面が当接して支持される環状鍔部14が形設されており、図示しない蓋を有している。炊飯装置に保持された炊飯釜の下方には、加熱用熱源が設置される。加熱方式は、ガス加熱方式や電磁誘導加熱方式など、特に限定されないが、例えばメタルニットガスバーナ等の面燃焼バーナ(図示せず)が使用される。
【0021】
この炊飯釜は、図3に釜底のA部分(図2参照)の拡大縦断面図を示すように、例えばアルミニウム鋳物からなる釜基体16の内面側表面に、遠赤外線放射フッ素樹脂塗料をコーティングして塗膜18を形成することにより製造される。釜基体16の材質は、特に限定されない。釜底部における釜基体16の内面側表面には多数の小凸部20が形設されており、したがって、釜基体1の内面側表面を被覆する塗膜18の表面に多数の小凸部22が表出している。小凸部22は、図1に示すように、釜底部の表面全体に分散して多数形成されている。小凸部22の形状は、図4に示すように、なだらかに隆起した球帽状(球冠状)であり、例えばその直径寸法lに対して高さ寸法hが1/5~1/20(h/l=1/5~1/20)であり、h/l=1/10程度が好ましい。小凸部22の大きさの1例を示すと、直径寸法lが8mm~12mmで高さ寸法hが0.8mm~1.2mmであり、l=10mm、h=1mm程度が好ましい。
【0022】
遠赤外線放射フッ素樹脂塗料は、フッ素樹脂塗料をバインダとして遠赤外線放射材をディスパージョン化(分散化)することにより調製される。遠赤外線放射材としては、例えば遷移金属の酸化物が使用される。遷移金属酸化物としては、1種類の遷移金属酸化物あるいは複数種類の遷移金属酸化物の混合物が使用される。例えば、酸化鉄、二酸化マンガン、酸化コバルトおよび酸化銅の混合物を主成分としたものが使用され、その混合物における混合比率の1例を示すと、酸化鉄20%、二酸化マンガン60%、酸化コバルト12%、酸化銅8%である。この遷移金属酸化物は、例えば最大粒子径が5μmである粒度分布をもつ粉粒体にして使用され、遠赤外線を高効率で放射するように調合される。
【0023】
釜基体16の表面に遠赤外線放射フッ素樹脂塗料をコーティングして塗膜18を形成する方法としては、従来のフッ素樹脂塗料の場合と同様の加工方法を用いればよい。例えば、スプレーガンを使用し、プライマ(密着剤)で下地処理した後、遠赤外線放射フッ素樹脂塗料を吹付け塗装し、その後に乾燥処理を行い、トップコートを静電塗装機を使用して塗装した後、焼成するようにする。これにより、フッ素樹脂塗料が持つ非粘着性、離型性、耐摩耗性などの性質と共に遠赤外線を放射するといった特徴を持つ塗膜が得られる。塗膜の厚みは、例えば3層重ね塗りで50μm~60μmである。
【0024】
図5に平面図を、図6に縦断面図を示す炊飯釜は、方形筒状の胴部24および角底部26を備え、胴部24の上端縁に鍔部28が形設されている。この炊飯釜も、図1および図2に示した炊飯釜と同様に、釜基体の内面側表面に、遠赤外線放射フッ素樹脂塗料をコーティングして塗膜を形成することにより製造される。この炊飯釜では、角底部26だけでなく胴部24の内周面にも、その下端部から一定の範囲Rに、例えば炊飯時に水と共に投入される米の上面に相当する高さ位置まで、多数の小凸部30が分散して形成されている。
【0025】
次に、図5および図6に示した角型の炊飯釜を使用して行った炊飯試験の結果について説明する。
炊飯試験には、釜本体の上部開口面の大きさが470mm×470mmで深さが230mmであり(9kg炊き用)、釜内面に50μm~60μの厚みの遠赤外線放射フッ素樹脂塗膜が形成され、直径10mm、高さ1mmの小凸部が釜内底面全体および釜内周面の50mmの高さ位置まで多数分散して形成された炊飯釜を使用した。また、比較のために、同じ大きさで、釜内面に50μm~60μの厚みの遠赤外線放射フッ素樹脂塗膜が形成され釜内面が平滑に仕上げられた従来の炊飯釜を使用して炊飯試験を行った。
【0026】
炊飯の条件は、米の種類:滋賀県産コシヒカリ、室温:30.1℃、加水温度:31℃、米の浸漬時間:70分、火力パターン:表1に示すとおり、蒸らし時間:30分、生米量:9.00kg、加水量:12.60kg、加水率:140%(=12.60/9.00)とした。表1中の「火力」における「強」は、設定ガス量:14.0L/min、「中」は、設定ガス量:10.0L/min、「微」は、設定ガス量:5.0L/minである。
【0027】
【表1】
【0028】
炊飯の試験結果を表2に示す。表2中における「外観」、「硬さ」、「粘り」、「バランス」および「食味」の各数値は、炊飯食味計(登録商標)で測定し数値化したものであり、「外観」、「硬さ」、「粘り」および「バランス」については、それぞれ10段階で評価した数値であって、数値が高いほど良好であることを示し、「食味」については、100点満点で表した数値であって、数値が高いほど美味しいことを示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示した試験結果から分かるように、この発明に係る炊飯釜を使用して炊飯したときは、従来の炊飯釜を使用して炊飯したときに比べて、ガス使用量が低減し、炊き上がった米飯の歩留まりが向上し、特に大量に米飯を炊く米飯食品工場や給食センターなどの事業所では、好ましい結果が得られた。また、この発明に係る炊飯釜を使用して炊飯したときは、食味の点でも良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明は、米飯食品工場、給食センターなどのように多数の炊飯釜を使用して自動で大量に米飯を炊く場合に適用されると、歩留まりの向上や燃料消費量の低減などの点で有効である。
【符号の説明】
【0032】
10 円筒状胴部
12 丸底部
14 環状鍔部
16 釜基体
18 塗膜
20 釜基体の小凸部
22、30 被膜の小凸部
24 方形筒状胴部
26 角底部
28 鍔部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7