(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】複合繊維、布帛および繊維構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 8/12 20060101AFI20220401BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20220401BHJP
A41D 31/12 20190101ALI20220401BHJP
D01F 8/10 20060101ALI20220401BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20220401BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20220401BHJP
D03D 15/37 20210101ALI20220401BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
D01F8/12 Z
A41D31/00 503E
A41D31/00 503F
A41D31/12
D01F8/10 C
D01F8/14 C
D03D15/20 200
D03D15/37
D04B1/16
(21)【出願番号】P 2017085737
(22)【出願日】2017-04-24
【審査請求日】2019-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 雅春
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐輝
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0163997(US,A1)
【文献】特開平09-041221(JP,A)
【文献】特開平04-361659(JP,A)
【文献】国際公開第2014/010709(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/112437(WO,A1)
【文献】特表平11-508789(JP,A)
【文献】米国特許第06677038(US,B1)
【文献】特表2013-544976(JP,A)
【文献】特開2010-216052(JP,A)
【文献】特開平04-108113(JP,A)
【文献】特開昭61-296120(JP,A)
【文献】特開平11-012925(JP,A)
【文献】特開2014-133955(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182088(WO,A1)
【文献】特開2004-270075(JP,A)
【文献】特開2007-291558(JP,A)
【文献】特開2000-212835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F8/00-8/18
D03D1/00-27/18
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)からなるポリエーテルブロックアミド共重合樹脂を芯成分とし、熱水可溶性樹脂を鞘成分と
し、当該熱水可溶性樹脂がテレフタル酸を主とする酸成分とエチレングリコールを主とするジオール成分からなる共重合ポリエステルであり、前記酸成分の8~15モル%がスルホイソフタル酸ナトリウム誘導体、前記酸成分の10~40モル%がイソフタル酸またはその誘導体、前記ジオール成分の8~25モル%がジエチレングリコールであることを特徴とする複合繊維。
【化1】
(式中、PAはポリアミド単位(ハードセグメント)、PEはポリエーテル単位(ソフトセグメント)、nは繰り返し単位を示す。)
【請求項2】
以下の式(1)からなるポリエーテルブロックアミド共重合樹脂を芯成分とし、熱水可溶性樹脂を鞘成分と
し、当該熱水可溶性樹脂がエチレンとビニルアルコールとの共重合樹脂であることを特徴とする複合繊維。
【化2】
(式中、PAはポリアミド単位(ハードセグメント)、PEはポリエーテル単位(ソフトセグメント)、nは繰り返し単位を示す。)
【請求項3】
請求項
1または2記載の複合繊維を少なくとも20質量%含む布帛。
【請求項4】
請求項
3記載の布帛を60℃以上の水で処理して熱水可溶性樹脂を溶解除去することを特徴とする、ポリエーテルブロックアミド共重合樹脂単独糸を含む繊維構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合繊維、布帛および繊維構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエーテルアミドブロック樹脂を用いた繊維や複合繊維が各種提案されている。これらの繊維は、ポリエーテルアミドブロック樹脂の高い吸湿性を生かし、布帛に接触冷感性や帯電防止性を付与する目的で用いられている。
例えば、特許文献1は、ポリエーテルアミドブロック樹脂を含有する繊維とすることにより、優れた接触冷感を得ることが記載されている。
また特許文献2は、ポリエーテルアミドブロック樹脂からなる繊維を有する帯電性防止性繊維構造物とすることにより、繊維の物性や風合いを損なうことなく優れた帯電防止効果を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-270075号公報
【文献】特開2007-291558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2は、いずれも、ポリエーテルアミドブロック樹脂の樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行うと記載されているのみで、具体的な繊維化の方法は開示されていない。実際に、ポリエーテルアミドブロック樹脂を単独で溶融紡糸した場合、得られた繊維は、容易に膠着状態となるため、織物作製の整経の際や編立の際に、クリールからの解舒がスムーズにできず、衣類等に用いる布帛用の繊維としては、工業的に用いることができないものであった。
【0005】
したがって、本発明は上記の問題を解決し、衣類等に用いる布帛用の繊維として、実質的にポリエーテルアミドブロック樹脂単独からなる繊維を、工業的に用いることができるための繊維を得ることを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、式(1)からなるポリエーテルブロックアミド共重合樹脂を芯成分とし、熱水可溶性樹脂を鞘成分とする複合繊維を第一の要旨とする。
【化1】
(式中、PAはポリアミド単位(ハードセグメント)、PEはポリエーテル単位(ソフトセグメント)、nは繰り返し単位を示す。)
【0007】
また、熱水可溶性樹脂がテレフタル酸を主とする酸成分とエチレングリコールを主とするジオール成分からなる共重合ポリエステルであり、前記酸成分の8~15mol%がスルホイソフタル酸ナトリウム誘導体、前記酸成分の10~40mol%がイソフタル酸またはその誘導体、前記ジオール成分の8~25mol%がジエチレングリコールである上記複合繊維を第二の要旨とする。
【0008】
更に、熱水可溶性樹脂がエチレンとビニルアルコールとの共重合樹脂である上記複合繊維を第三の要旨とする。
【0009】
上記複合繊維を少なくとも20質量%含む布帛であることを第四の要旨とする。
【0010】
また上記複合繊維を含む布帛を60℃以上の水で処理して熱水可溶性樹脂を溶解除去することを特徴とする、ポリエーテルブロックアミド共重合樹脂単独糸を含む繊維構造体の製造方法を第五の要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合繊維によれば、膠着なく、製編織時に解舒できるため、後工程で、熱水可溶性樹脂を除去することにより、実質的にポリエーテルアミドブロック樹脂単独糸を含む繊維構造体を工業的に製造することができる。
【0012】
また、本発明の複合繊維を含む布帛を熱水で処理することにより得られた繊維構造物および繊維構造物を含む衣類は、優れた接触冷感性や帯電防止性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の複合繊維横断面の一例である。
【
図2】
図2は、本発明の複合繊維横断面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明は、ポリエーテルブロックアミド共重合樹脂を芯成分とし、熱水可溶性樹脂を鞘成分とする複合繊維である。
【0016】
まず、本発明におけるポリエーテルブロックアミド共重合樹脂は、ジカルボン酸末端を有するポリアミド単位とポリエーテルジオール単位との共重縮合で得られる共重合物であり、以下の式1で示される。
【0017】
【化1】
(式中、PAはポリアミド単位(ハードセグメント)、PEはポリエーテル単位(ソフトセグメント)、nは繰り返し単位を示す。)
【0018】
ポリアミド単位としては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12等が好適に用いられる。
【0019】
ポリエーテル単位としては、ポエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が好適に用いられる。
【0020】
また、「ポリアミド単位」と「ポリエーテル単位」の質量比は好ましくは99:1~5:95、より好ましくは80:20~10:90であり、この範囲であれば有効に用いることができる。
【0021】
市販されているものとしては、アルケマ社製のペバックス(Pebax(登録商標))等が挙げられ、中でも、ペバックス(Pebax(登録商標))MV1074(商品名)、MH1657(商品名)を用いると特に良好な制電性が得られる。
【0022】
ポリエーテルブロックアミド共重合樹脂は、一般に耐衝撃性が強い樹脂として知られており、スポーツ用途の靴底等に使用されている。耐薬品性は、アルコールや一般的な有機溶媒に対しては耐性があるが、強酸および強アルカリに弱く、例えば濃硫酸や水酸化ナトリウム水溶液に溶解する。
【0023】
次に、熱水可溶性樹脂としては、共重合ポリエステル樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂が好適に挙げられる。
【0024】
本発明において、熱水可溶性樹脂は、熱水により溶解する樹脂であり、80℃以上の水で溶解する樹脂が好ましく、より好ましくは、60℃以上の水で溶解する樹脂である。
【0025】
本発明における共重合ポリエステル樹脂は、テレフタル酸を主とする酸成分とエチレングリコールを主とするジオール成分からなる。
【0026】
本発明における共重合ポリエステル樹脂の酸成分は、8~15mol%がスルホイソフタル酸ナトリウム誘導体である。より好ましくは、9~12mol%である。
酸成分のスルホイソフタル酸ナトリウム誘導体の比率が8mol%未満であると、熱水可溶性が低下する傾向がある。15mol%を超えると、反応性が低下するとともに重合度が上がらず、樹脂強度が著しく低下し、繊維として用いることが難しいおそれがある。
【0027】
本発明における共重合ポリエステル樹脂の酸成分は、10~40mol%がイソフタル酸またはイソフタル酸誘導体である。より好ましくは、20~35mol%である。
【0028】
本発明における共重合ポリエステル樹脂のジオール成分は、8~25mol%がジエチレングリコールである。より好ましくは、15~22mol%である。ジエチレングリコールの比率が8mol%未満であると、熱水可溶性が低下する傾向があり、25mol%を超えると、衝撃強度が著しく低下するとともに、黄色に着色し、繊維として用いることが難しいおそれがある。
【0029】
本発明における共重合ポリエステル樹脂は、本発明の目的が損なわれない範囲であれば、更に他の成分が共重合されていてもよい。具体的な共重合成分としては、ジカルボン酸成分としては、ナフタレンジカルボン酸、4、4-ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸およびそのエステル形成性誘導体等の成分が挙げられる。また、ジオール成分としてはヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA等が挙げられる。また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコールも挙げられる。これら共重合成分の共重合量としては、構成する繰り返し単位当たり10mol%以内が好ましく、5mol%以内がより好ましい。
【0030】
本発明における共重合ポリエステルの製造方法としては、前述のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成誘導体とを主たる出発原料として、常法に従い、エステル化またはエステル交換反応を行った後、さらに高温・減圧下で重縮合反応を行うことによって、製造する方法等が挙げられる。
また、重合触媒としては、一般にポリエステル重合に用いられている、三酸化アンチモンを代表とするアンチモン系触媒や酸化ゲルマニウムを代表とするゲルマニウム系触媒、更にはアルミニウム系触媒やチタン系触媒を用いることができる。
【0031】
本発明における共重合ポリエステル樹脂の粘度は、特に限定されるものではなく、通常のポリエステル繊維に利用されている固有粘度(以下IVという)のポリエステルを使用することができる。重合性、紡糸性および繊維の力学的強度の点から、IVは、0.30~0.63のものを好適に用いることができる。より好ましくは、IVが、0.33~0.45である。
【0032】
なお、本発明の目的を損なわない範囲において、この共重合ポリエステル樹脂の中には少量の他の重合体や酸化防止剤、熱安定剤、艶消し剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤またはその他の添加剤等が含有されていてもよい。
【0033】
本発明における共重合ポリエステル樹脂の水分率は、50ppm未満であることが好ましい。樹脂の乾燥方法としては、静置式真空乾燥機や撹拌翼付真空乾燥機を用いる方法が好適に挙げられる。本発明における共重合ポリエステル樹脂は、非晶性であり、ガラス転移温度(Tg)が、おおよそ60~70℃となるため、静置式真空乾燥機での樹脂乾燥は、60℃程度とし、数日間(例えば、1~7日)の長時間をかけて50ppm未満とすることが好ましい。また撹拌翼付真空乾燥機(例えば、ホソカワミクロン株式会社製、ナウターミキサー(商品名))では、撹拌を続けながら80~100℃で12~24時間、さらに撹拌を続けたまま55℃以下になるまで強制冷却することで50ppmの水分率まで乾燥することができる。
【0034】
本発明における熱水可溶性樹脂に用いるエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂について説明する。
【0035】
エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂は、エチレンと酢酸ビニルを重合して得たエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を更にケン化することで得られる樹脂で、以下の式(2)で示される。
【0036】
【化2】
(式中、l、m、nは繰り返し単位を示す。)
【0037】
ここで、以下の式(3)で示されるエチレンコンテントは、1~45mol%であることが好ましく、より好ましくは、4~40mol%である。エチレンコンテントが1mol%未満では熱溶融しても、まだらとなり成形性が低下する傾向がある。45mol%を超えると水溶性が低下し、熱水でも溶け残りが生じる傾向がある。エチレンコンテントが15mol%以下であれば常温の水にも溶解するが、それ以上のコンテントの場合は60℃から沸騰水で溶解することとなる。
【0038】
【数1】
(式中、l、m、nは繰り返し単位を示す。)
【0039】
また以下の式(4)で示されるケン化度は、90~99.7mol%が好ましく、99.7mol%を超えると水溶性が低下する傾向があり、また安定的に生産することが難しいおそれがある。また、ケン化度が90mol%未満の場合には、熱安定性が悪く熱分解やゲル発生によって満足な紡糸ができなくなるおそれがある。よって、より好ましいケン化度は、95~99.5mol%である。
【0040】
【0041】
なお、エチレン、ビニルアルコール、酢酸ビニルの比率は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)を用いて測定することができる。
【0042】
また、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂については、市販されている樹脂をそのまま利用してもよい。具体的には、日本合成化学株式会社製、「ソアノール(登録商標)」や株式会社クラレ製「エバール(登録商標)」や「エクセバール(登録商標)」の各種グレードの中より、適宜、選択することができる。
【0043】
次に、本発明の複合繊維の好ましい断面形状としては、
図1、
図2が例示される。
図1は、ポリエーテルブロックアミド共重合樹脂を1つの芯成分とし、熱水可溶性樹脂を鞘成分とした芯鞘型形状の複合繊維である。この断面は、一つの芯成分を鞘成分が完全に囲んだ二重円の形状である。
図2は、芯成分が2つ以上配置された複数の島成分からなり、鞘成分が複数の島成分を包含する形状である海島型形状である。
更に芯鞘型形状における芯成分や海島型形状における島成分の外形は、特に限定するものではないが、単純な丸型でもよいし、三角形であっても、C型や星形等の形であってもよい。また複合繊維の外周形状は、特に限定するものではなく、円形、三角形,四角形等多角形等の形状でもよい。
【0044】
複合繊維を構成する繊維の本数は、1本の繊維から構成される、所謂モノフィラメントでも良いし、複数本の繊維から構成される、所謂マルチフィラメントでもよい。
【0045】
また本発明の複合繊維における芯成分と鞘成分の質量比率(芯鞘比率、海島比率)は、特に限定されるものではないが、布帛または衣類等の衣料品として用いる際に、熱水で鞘成分または海成分を溶解して用い易い点、および安定して芯成分または島成分を鞘成分または海成分が完全に包み込む形状とし易い点から、芯(島)/鞘(海)が、25/75~90/10の範囲が好ましく、より好ましくは、芯(島)/鞘(海)が50/50~85/15の範囲であり、特に好ましくは、芯(島)/鞘(海)が、70/30~80/20の範囲である。
【0046】
更に海島型形状の場合、島数としてはノズルの吐出孔配置が一重円上にある3島、4島、二重円上に配置された5島、7島、三重円上に配置された19島、37島、四重円に配置された61島等がバランスよく紡出し易く好ましい。
【0047】
本発明の複合繊維を含む布帛は、織物、編物、不織布等、いずれの形態の布帛としてもよい。
【0048】
本発明の複合繊維を含む布帛は、接触冷感性、帯電防止性を得やすい点から、本発明の複合繊維を少なくとも20質量%用いることが好ましい。より好ましくは、25質量%以上である。
【0049】
本発明の複合繊維を含む布帛は、熱水可溶性樹脂を溶解除去することにより、実質的にポリエーテルブロックアミド共重合樹脂単独糸を含む繊維構造体を製造することができる。
【0050】
得られた実質的にポリエーテルブロックアミド共重合樹脂単独糸を含む繊維構造体は、好適に衣類に用いることができる。このような繊維構造体を含む衣類は、接触冷感性や帯電防止性に優れたものとなる。
【0051】
次に、本発明の複合繊維、本発明の複合繊維を含む布帛、および衣類の製造方法の好適な例について説明する。
本発明の複合繊維の製造方法としては、例えば、芯成分を構成する樹脂と鞘成分を構成する樹脂を別々の押出機で加熱溶融し、ギヤポンプで計量押出ししてノズル内部で所望する形状に会合させ押出して繊維形状を得て巻き取って繊維化する、一般的な溶融複合押出法での紡糸方法が適応できる。
【0052】
布帛の製造方法としては、例えば、織機を用い整経した経糸や緯糸として、織り込み製織して織物を製造してもよいし、丸編み機等を用いて製編して編物を製造してもよい。布帛として、接触冷感性および帯電防止性を得るためには、繊維の20質量%以上を本発明の複合繊維を用いることが好ましい。より好ましくは、25質量%以上である。
【0053】
また、芯成分と鞘成分を溶融し、溶融した樹脂を芯鞘形状で押出し、スパンレース法やスパンボンド法で不織布として、布帛を製造してもよい。
【0054】
本発明の複合繊維は、上記のような方法により、製編織時の糸の引き取り時等の工程でも、膠着することなく、容易に本発明の複合繊維を含む、織物、編物、不織布等の布帛を製造することができる。
【0055】
本発明の複合繊維を含む布帛は、熱可塑性樹脂を溶解除去することにより、実質的にポリエーテルブロックアミド共重合樹脂単独糸を含む繊維構造体を製造することができる。
【0056】
本発明の複合繊維を含む布帛において、熱水可溶性樹脂を溶解除去する方法としては、例えば、布帛の精練工程の前段階で60℃以上の温度の水の中を潜らせることにより好適に溶解除去することができる。ここで、水の中で、水流や機械的な揉みを加えると溶解を効率的に行うことができる。また、液流染色機による染色前の工程として水のみを満たした状態で液流を加えることにより、熱水可溶性樹脂を溶解除去してもよい。本発明において、熱水可溶性樹脂の溶解除去する際の水の温度は、60℃以上が好ましく、より好ましくは、80℃以上である。
【0057】
このようにして得られる、実質的にポリエーテルブロックアミド共重合樹脂単独糸を含む繊維構造体は、衣類に用いることによって、優れた接触冷感性や帯電防止性を有する衣類を得ることができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。尚、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。また、実施例および比較例での試作方法、測定方法および評価方法は以下の通りである。
【0059】
〔ポリエステル樹脂の作製〕
酸成分に対しグリコール成分のmol比が1.2となるように、表1で示した共重合比率にてジオール成分をステンレス製オートクレーブに仕込み、250℃、200kPaの条件下でエステル化反応を行った。エステル化反応終了後、所定量の三酸化アンチモン触媒とリン酸トリメチルを加え、280℃、66Paの減圧下にて縮重合反応を行い、表1記載の組成の共重合ポリエステル樹脂を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂は、ステンレスオートクレーブの底ノズルより窒素圧力下で水槽へ吐出冷却し固化させ、これをペレタイザーにてペレット化した。ここで特に熱水可溶性の高いもの(常温の水でも溶解するもの)は、共重合ポリエステル樹脂をストランドコンベア上の金属メッシュの上に吐出し、冷風を当てて固化させて索状とし、これをペレタイザーにてペレット化した。
【0060】
【0061】
〔ポリエステル樹脂の熱水可溶性評価〕
表1の各種樹脂ペレットについて、60℃の水中で溶解したものを◎、80℃の水中で溶解したものを○、80℃の水中で溶解しなかったものを×とした。
【0062】
〔筒編地作製方法〕
英光産業製試験筒編機NCR-EW(釜径:3インチ半、24ゲージ)を用いて、複合繊維を二本双糸にて、ウェール数:30本/25.4mm、コース数:60本/25.4mmになるように編立て、筒編地を作製した。
【0063】
〔複合繊維の熱水可溶性評価〕
作製した筒編地を80℃の水(イオン交換水、1:20)に入れ、撹拌し10分間処理した後、取り出し、更に水で洗浄した後、脱水し、風乾させた。処理前後の筒編地の質量を秤量し、質量減量率を求めた。筒編地に使用した複合繊維の組成より計算された鞘成分(海成分)の質量に対し、質量減量率が95%以上のものを○と評価し、95%未満のものを×と評価した。
【0064】
〔接触冷感性評価〕
作製した筒編地を80℃の水(イオン交換水、1:20)に入れ、撹拌し10分間処理した後、取り出し、更に水で洗浄した後、脱水し、風乾させた。処理前後の筒編地を、各々、左右の手で握り、冷感性に差があると判断したものには○、差が無いと判断したものには×と評価した。
【0065】
〔実施例1〕
表1に示す樹脂A-1を鞘成分、アルケマ社製ペバックス(登録商標)MH1657(商品名)を芯成分として、芯/鞘比率が3/1(質量比率)となるように調整して、270℃にて、溶融紡糸し、110dtex/24fの複合繊維を得た。得られた複合繊維を用いて筒編地を作製した。
【0066】
〔実施例2〕
繊維断面形状を、19個の島成分を有する海島型形状とし、表1に示す樹脂B-1を海成分、アルケマ社製ペバックス(登録商標)MH1657(商品名)を島成分、海/島比率が4/6(質量比率)とする以外は、実施例1と同様に複合繊維を得た。得られた複合繊維を用いて筒編地を作製した。
【0067】
〔実施例3〕
繊維断面形状を、19個の島成分を有する海島型形状とし、表1に示す樹脂B-2を海成分、アルケマ社製ペバックス(登録商標)MH1657(商品名)を島成分、海/島比率が4/6(質量比率)とする以外は、実施例1と同様に複合繊維を得た。得られた複合繊維を用いて筒編地を作製した。
【0068】
〔実施例4〕
繊維断面形状を、37個の島成分を有する海島型形状とし、表1に示す樹脂C-1を海成分、海/島比率が5/5(質量比率)とする以外は実施例2と同様に複合繊維を得た。得られた複合繊維を用いて筒編地を作製した。
【0069】
〔実施例5〕
繊維断面形状を、37個の島成分を有する海島型形状とし、表1に示す樹脂C-2を海成分、海/島比率が5/5(質量比率)とする以外は実施例2と同様に複合繊維を得た。得られた複合繊維を用いて筒編地を作製した。
【0070】
〔実施例6〕
エチレンコンテントが38mol%でケン化度が98%の日本合成化学製ソアノール(登録商標)E3808(商品名)を鞘成分、アルケマ社製ペバックス(登録商標)MV1074(商品名)を芯成分、紡糸温度を220℃、とする以外は、実施例1と同様に、複合繊維を得た。得られた複合繊維を用いて筒編地を作製した。
【0071】
〔実施例7〕
エチレンコンテントが6mol%でケン化度が98.5%のクラレ製エクセバール(登録商標)RS-4104(商品名)を鞘成分、アルケマ社製ペバックス(登録商標)MV1074(商品名)を芯成分と、芯/鞘比率が3/1(質量比率)、紡糸温度が240℃、とする以外は、実施例2と同様に複合繊維を得た。得られた複合繊維を用いて筒編地を作製した。
【0072】
〔比較例1〕
表1に示した組成の樹脂Dを鞘成分、芯/鞘比率が3/1(質量比率)、紡糸温度290℃とする以外は、実施例1と同様に複合繊維を得た。得られた複合繊維を用いて筒編地を作製した。
【0073】
〔比較例2〕
表1に示した組成の樹脂Eを鞘成分とする以外は実施例1と同様に複合繊維を得た。得られた複合繊維を用いて筒編地を作製した。
【0074】
実施例および比較例の繊維断面形状、鞘(海)成分樹脂、鞘(海)成分の質量比率、芯(島)成分樹脂、島成分の質量比率、繊度、熱水可溶性評価、および接触冷感性評価を表2に示す。尚、表中、E3808は、日本合成化学製ソアノール(登録商標)E3808(商品名)、RS-4104は、クラレ製エクセバール(登録商標)RS-4104(商品名)、MH1657(商品名)は、アルケマ社製ペバックス(登録商標)MH1657(商品名)、MV1657(商品名)は、アルケマ社製ペバックス(登録商標)MV1657(商品名)を示す。
【0075】
【0076】
実施例1~7から得られた複合繊維より作製した筒編地は、熱水可溶性であり、熱水処理した後の筒編地は、実質的にポリエーテルブロック共重合樹脂単独の繊維からなり、接触冷感性および帯電防止性に優れたものであった。
比較例1から得られた複合繊維より作製した筒編地は、熱水可溶性評価の際、全く減量せず、接触冷感性もなかった。
比較例2から得られた複合繊維より得られた筒編地は、熱水可溶性評価の際、全く減量しなかった。その後、筒編地に対し、80℃の熱水に代えて、2%水酸化ナトリウム水溶
液を用いて、90℃、30分間にて減量処理したところ、芯成分を含めすべてが溶解した。得られた筒編地は接触冷感性がなかった。
また、実施例1~7より得られた複合繊維を50質量%用いて製編し、液流染色機に、80℃の水により液流させた後、染色した繊維構造物を、シャツに用いたところ、洗濯を繰り返しても、接触冷感性に優れ、帯電防止性に優れていた。同様に比較例1および比較例2の複合繊維からシャツを作製したところ、接触冷感性は全く感じられなかった。また洗濯を繰り返すと静電気により、肌にまとわりつくものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の複合繊維は、布帛化した後、熱水で処理することにより、実質的にポリエーテルブロックアミド共重合樹脂からなる単独糸を含む繊維構造物を工業的に得ることができるため、得られた繊維構造物は、接触冷感性、帯電防止性に優れ、衣類等の衣料用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 熱水可溶性樹脂
2 ポリエーテルブロックアミド共重合樹脂