(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ブレーキ制御システム
(51)【国際特許分類】
B60L 9/18 20060101AFI20220401BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
B60L9/18 A
B60L15/40 D
(21)【出願番号】P 2017165683
(22)【出願日】2017-08-30
【審査請求日】2020-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏和
(72)【発明者】
【氏名】小林 学志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 友哉
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-247170(JP,A)
【文献】特開昭59-032305(JP,A)
【文献】特開2008-113543(JP,A)
【文献】特開昭57-052303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動列車制御を利用した鉄道車両のブレーキ制御システムであって、
鉄道車両の車輪の運動エネルギーを電気エネルギーに変換することで制動力を発生する主電動機と、
前記主電動機を作動させる主変換装置と、
前記主変換装置にブレーキ信号を出力するブレーキ制御部と、
自動列車制御に基づき前記ブレーキ制御部へブレーキ指令を出力するATC装置と、
を備え、
前記ATC装置は、前記ブレーキ指令の出力前に、前記主電動機を励磁するためのブレーキ予告信号を、前記ブレーキ制御部を介さずに前記主変換装置に出力すると共に、前記ブレーキ予告信号を出力するために、鉄道車両の現在位置と速度とを用いて前記ブレーキ指令までの離隔距離又は速度
の変化を計算する、ブレーキ制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ制御システムであって、
前記ATC装置は、鉄道車両への給電系統を切り替えるセクション付近での減速度を小さくしたブレーキパターンに基づくブレーキ指令を出力する、ブレーキ制御システム。
【請求項3】
自動列車制御を利用した鉄道車両のブレーキ制御システムであって、
鉄道車両の車輪の運動エネルギーを電気エネルギーに変換することで制動力を発生する主電動機と、
前記主電動機を作動させる主変換装置と、
前記主変換装置にブレーキ信号を出力するブレーキ制御部と、
自動列車制御に基づき前記ブレーキ制御部へブレーキ指令を出力するATC装置と、
踏面清掃装置及びセラミック噴射装置の少なくとも1つと、
を備え、
前記ATC装置は、前記ブレーキ指令の出力前に、前記主電動機を励磁するためのブレーキ予告信号を出力し、
前記踏面清掃装置及び前記セラミック噴射装置は、前記ブレーキ予告信号により動作を開始する、ブレーキ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブレーキ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の制御装置として、自動列車制御(ATC)が普及している。ATCは、自動的に鉄道車両の速度を低下させる制御である。より具体的には、ATCは、規定の速度を鉄道車両が超えた場合に、ブレーキ制御を自動で行う。
【0003】
ATCにおけるブレーキ制御では、手動のブレーキと同様、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生ブレーキと、機械的に制動力を発生させる機械ブレーキとが併用される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機械ブレーキとしては、一般にブレーキパッド等の摩擦を利用したものが使用される。このような機械ブレーキでは、動作する度にライニング摩耗が発生し、寿命が低下する。また、機械ブレーキを使用すると、回生ブレーキによる電気エネルギーの回収量が低下し、省エネルギー化の妨げとなる。
【0006】
本開示の一局面は、自動列車制御を利用した鉄道車両において、機械ブレーキの使用を抑制できるブレーキ制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、自動列車制御を利用した鉄道車両のブレーキ制御システムである。ブレーキ制御システムは、主電動機と、主変換装置と、ブレーキ制御部と、ATC装置と、を備える。主電動機は、鉄道車両の車輪の運動エネルギーを電気エネルギーに変換することで制動力を発生する。主変換装置は、主電動機を作動させる。ブレーキ制御部は、主変換装置にブレーキ信号を出力する。ATC装置は、自動列車制御に基づきブレーキ制御部へブレーキ指令を出力する。また、ATC装置は、ブレーキ指令の出力前に、主電動機を励磁するためのブレーキ予告信号を出力する。
【0008】
このような構成によれば、ブレーキ指令の出力前に、主電動機を励磁することができる。これにより、ブレーキ指令が出力された際に、回生ブレーキによる制動力が即座に発生される。従来のブレーキ制御では、回生ブレーキが立ち上がるまで機械ブレーキを使用せざるを得ない。これに対し、本開示のブレーキ制御システムでは、ブレーキ指令の出力直後から回生ブレーキによる制動が可能となる。そのため、機械ブレーキの使用を抑制できる。
【0009】
本開示の一態様では、ATC装置は、ブレーキ予告信号を出力するために、鉄道車両の現在位置と速度とを用いてブレーキ指令までの時間、離隔距離又は離隔速度を計算してもよい。このような構成によれば、より適切なタイミングで回生ブレーキを立ち上げることができる。その結果、機械ブレーキの使用をさらに抑制できる。
【0010】
本開示の一態様では、ATC装置は、鉄道車両への給電系統を切り替えるセクション付近での減速度を小さくしたブレーキパターンに基づくブレーキ指令を出力してもよい。このような構成によれば、回生電力を低減することで、セクション通過時にも回生ブレーキを使用することができる。その結果、回生電力を車上バッテリ等に充電しつつ、機械ブレーキの使用をさらに抑制できる。また、鉄道車両の乗り心地を高めることができる。
【0011】
本開示の一態様は、踏面清掃装置及びセラミック噴射装置の少なくとも1つをさらに備えてもよい。また、踏面清掃装置及びセラミック噴射装置は、ブレーキ予告信号により動作を開始してもよい。このような構成によれば、ブレーキ指令の出力直後から車輪の滑走を抑えることができる。滑走が継続すると、回生ブレーキから機械ブレーキへの切り替えが発生するため、滑走を抑制できれば、回生ブレーキから機械ブレーキへの切り替えも低減できる。また、滑走の抑制によりブレーキによる制動距離も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態のブレーキ制御システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1のブレーキ制御システムが実行する処理を概略的に示すフロー図である。
【
図3】
図3は、
図1のブレーキ制御システムのセクション通過時に実行される処理を概略的に示すフロー図である。
【
図4】
図4は、
図1のブレーキ制御システムの踏面清掃装置及びセラミック噴射装置に対し実行される処理を概略的に示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示すブレーキ制御システム1は、自動列車制御(ATC)を利用した鉄道車両に設けられるブレーキ制御システムである。ブレーキ制御システム1は、主電動機2と、ATC装置3と、主変換装置4と、ブレーキ制御部5と、踏面清掃装置6と、セラミック噴射装置7とを備える。本開示のブレーキ制御システムが搭載される鉄道車両は、1つの車両から構成されてもよいが、通常は複数の車両を編成したものである。
【0014】
複数の車両で編成された鉄道車両においては、ブレーキ制御システム1のうち、主電動機2は、各車両10に設けられる。また、主変換装置4は、各車両10に設けられるか、又は一部の車両10のみに設けられる。一方、ATC装置3は、一般に先頭の車両10のみに配置される。ATC装置3は、各車両10の主変換装置4及びブレーキ制御部5に信号を出力する。
【0015】
車両10は、ブレーキ制御システム1の他に、複数の車輪11と、パンタグラフ12と、車上バッテリ13とを備える。車両10は、パンタグラフ12を介して架線20から電力の供給を受ける。車両10は、この電力を使って車輪11を駆動させることで軌道30上を走行する。
【0016】
具体的には、主変換装置4のコンバータで架線20からの交流電力を直流に変換し、さらに主変換装置4のインバータで三相交流に変換する。この三相交流によって車輪11に動力を伝達する主電動機2が駆動される。なお、主電動機2は回生ブレーキ時の発電機としても使用される。
【0017】
<主電動機>
主電動機2は、鉄道車両の車輪の運動エネルギーを電気エネルギーに変換することで制動力を発生する。この制動力により、車輪11の軸速度が低減される。
【0018】
具体的には、主電動機2を発電機として用い、車両10の車輪11の回転により発電を行う。これにより、主電動機2を車輪11の回転の負荷として車輪11の軸速度が低減される。
【0019】
また、主変換装置4は、主電動機2の発電量を制御することによって、ブレーキの制動力を制御する。つまり、発電量を大きくすれば負荷が大きくなることで制動力は大きくなり、発電量を小さくすれば負荷が小さくなることで制動力は小さくなる。
【0020】
主電動機2で発電した電力は、主変換装置4及びパンタグラフ12を介して架線20へ戻される。また、鉄道車両への給電系統を切り替えるセクション内では、架線20への送電ができないため、回生電力は主変換装置4の直流中間回路におけるキャパシタや車上バッテリ13に充電される。
【0021】
そのため、主変換装置4のキャパシタ及び車上バッテリ13の容量は、セクション通過時に主電動機2が発電する電力を回収可能な容量としておくとよい。こうすることで、セクション通過時に回生ブレーキを使用し続けることができる。また、後述のブレーキパターンの補正との組み合わせにより、車上バッテリ13等の容量が小さくてもセクション通過時に回生ブレーキを使用可能にできる。その結果、機械ブレーキの使用を避けることができる。
【0022】
<ATC装置>
ATC装置3は、公知のATCに基づきブレーキ制御部5へブレーキ指令を出力する装置である。具体的には、ATC装置3は、ブレーキ制御部5にブレーキ指令P1を出力する。ブレーキ指令P1が入力されると、ブレーキ制御部5はブレーキ信号Q0を主変換装置4に伝達し、主変換装置4は主電動機2を作動させる。
【0023】
ATC装置3は、CPU、ROM、RAM、外部記憶装置等から構成される。ATC装置3の外部記憶装置には、電力系統切替区間データベース等が記憶されている。この電力系統切替区間データベースには、電力系統切替区間の位置データが登録されている。
【0024】
ATC装置3は、地上に設置されたATC地上子31の位置データ、車両10の速度データから、車両10の現在位置を特定する。また、車両10の速度データは、車両10の速度を検出するための速度発電機によって得られる。
【0025】
ATC地上子31は、軌道30の2本の線路の内側に埋設されて配置されている。ATC地上子31は、車両10がATC地上子31の上を通過すると、ATC地上子31の位置データD1をATC装置3に送信する。
【0026】
ATC装置3は、上述の手順で特定した車両10の現在位置及び速度データに基づき、例えば車両10の速度が許容値以上となった場合や、先行列車との距離間隔が許容値以下となった場合等にブレーキ制御部5にブレーキ指令P1を出力する。
【0027】
また、ATC装置3は、ブレーキ指令P1の出力前に、主電動機2を励磁するためのブレーキ予告信号P0を主変換装置4に出力する。ブレーキ予告信号P0が入力された主変換装置4は、主電動機2を励磁する。
【0028】
ブレーキ予告信号P0は、ブレーキ指令P1が出力される一定時間前、ブレーキ指令P1が出力される位置までの離隔距離が一定以下となる前、又はブレーキ指令P1が出力される位置までの離隔速度が一定以下となる前に出力される。ブレーキ予告信号P0からブレーキ指令P1までの時間(以下、「先行時間」ともいう。)は、回生ブレーキの立ち上げ、つまり主電動機2の励磁に必要な時間以上とされる。なお、回生ブレーキの立上げ時間は、およそ1秒から2秒である。
【0029】
ブレーキ予告信号P0をブレーキ指令P1が出力される一定時間前に出力する場合、ATC装置3は、ブレーキ予告信号P0を出力するために、車両10の現在位置と速度とを用いてブレーキ指令P1までの先行時間を計算する。具体的には、ATC装置3は、ATCブレーキパターンと、特定した車両10の現在位置及び速度データに基づき、ブレーキ指令P1が出力される指令予定時刻と、上記先行時間とを特定し、指令予定時刻から先行時間を引いた時刻にブレーキ予告信号P0を出力する。
【0030】
ブレーキ予告信号P0をブレーキ指令P1が出力される位置までの離隔距離が一定以下となる前に出力する場合、ATC装置3は、ブレーキ予告信号P0を出力するために、ATCブレーキパターンと、現在位置及び速度データとに基づき離隔距離を算出する。
【0031】
本実施形態では、ATCブレーキパターンの対象区間に、鉄道車両への給電系統を切り替えるセクション(つまり、電力系統切替区間)が含まれる場合、ATC装置3は、セクション付近での減速度を小さくした補正ブレーキパターンを作成し、この補正ブレーキパターンに基づいたブレーキ指令P1をブレーキ制御部5に出力する。この補正ブレーキパターンは、車両10のセクション通過時に主電動機2から発生する電力が主変換装置4のキャパシタ及び車上バッテリ13で回収可能な量となるように調整したブレーキパターンである。
【0032】
<主変換装置>
主変換装置4は、ブレーキ制御部5から入力されるブレーキ信号Q0に基づいて、主電動機2の制御を行う。
【0033】
具体的には、ATC装置3からブレーキ予告信号P0が入力されると、主変換装置4は、主電動機2を励磁する。つまり、主電動機2のコイルに電流を流して発電可能な状態にする。励磁が完了した後、主変換装置4は回生電力を出力可能な状態(つまり、回生が有効な状態)となる。
【0034】
ブレーキ予告信号P0受信の後、ブレーキ制御部5からブレーキ信号Q0が入力されると、主変換装置4は、主電動機2の発電量を制御する。これにより、主電動機2の回転に負荷が加わり、車輪11に制動力が発生する。また、主電動機2が発電機として機能し、電力が回収される。
【0035】
<踏面清掃装置及びセラミック噴射装置>
踏面清掃装置6は、車輪11の踏面に研摩子を押し当てて付着しているゴミ等を除去する装置である。清掃により踏面の粗さが確保され、軌道30と車輪11との間の摩擦係数が増加する。なお、本実施形態では、踏面清掃装置6は、車両10の各車輪11に設けられている。
【0036】
セラミック噴射装置7は、軌道30と車輪11との間にセラミック粉を噴射する装置である。セラミック粉の噴射により、軌道30と車輪11との間の摩擦係数が増加する。摩擦係数の増加により、ブレーキ時の滑走が低減される。
【0037】
本実施形態では、踏面清掃装置6及びセラミック噴射装置7は、ATC装置3からのブレーキ予告信号P0により動作を開始する。具体的には、踏面清掃装置6は、ブレーキ予告信号P0の入力により、研摩子を車輪11に当接させる。また、セラミック噴射装置7は、ブレーキ予告信号P0の入力により、セラミック粉の噴射を開始する。
【0038】
[1-2.処理]
以下、
図2、
図3及び
図4のフロー図を参照しつつ、ブレーキ制御システム1が実行する処理について説明する。
【0039】
<ATCブレーキ動作>
図2に示すATCブレーキ動作では、まずブレーキ指令P1に先立ち、ATC装置3がブレーキ予告信号P0を主変換装置4に出力する(ステップS10)。
【0040】
ATC装置3からブレーキ予告信号P0が入力されると、主変換装置4は、主電動機2を励磁する(ステップS11)。その後、主変換装置4は、回生ブレーキが有効な状態となる(ステップS12)。
【0041】
ATC装置3は、ブレーキ予告信号P0の出力後、ATCに基づきブレーキ指令P1を出力する(ステップS13)。ブレーキ指令P1がブレーキ制御部5に入力されると、ブレーキ制御部5から回生ブレーキ有効状態となった主変換装置4にブレーキ信号Q0が出力される(ステップS14)。ブレーキ信号Q0が入力された主変換装置4は、ブレーキ信号Q0に基づいて、主電動機2を制御し、主電動機2は制動力を出力する(ステップS15)。
【0042】
なお、
図2のATCブレーキ動作では、機械ブレーキを使用する必要がなく、主電動機2のみで制動を行うことができる。なお、機械ブレーキとは、車輪11の回転を機械的に抑制するブレーキであり、例えば踏面制動式、ディスク制動式等のブレーキである。
【0043】
<セクション通過時のATCブレーキ動作>
図2のATCブレーキ動作において、ATCブレーキパターンの対象区間にセクションが含まれる場合は、
図3に示すATCブレーキ動作が行われる。なお、
図3のステップS10、ステップS11、ステップS12、ステップS13、ステップS14、及びステップS15は、
図2と同じステップである。
【0044】
図3の処理では、ATC装置3は、セクション付近での減速度を小さくした補正ブレーキパターンを作成し、それに基づいたブレーキ指令P1をブレーキ制御部5に出力する(ステップS21)。補正ブレーキパターンを考慮したブレーキ指令P1が入力されたブレーキ制御部5は、それに基づいて、主変換装置4にブレーキ信号Q0を出力する(ステップS14)。ブレーキ信号Q0が入力された主変換装置4は、主電動機2を制御し、主電動機2は制動力を出力する(ステップS15)。また、主変換装置4は、主電動機2からの回生電力を主変換装置4のキャパシタ又は車上バッテリ13に充電する(ステップS22)。
【0045】
<踏面清掃装置及びセラミック噴射装置の動作>
図2のATCブレーキ動作と並行して行われる踏面清掃装置6及びセラミック噴射装置7の動作について、
図4を用いて説明する。
【0046】
ブレーキ指令P1に先立ち、ATC装置3がブレーキ予告信号P0を出力する(ステップS10)と、踏面清掃装置6及びセラミック噴射装置7それぞれの電磁弁が動作する(ステップS31、ステップS32)。
【0047】
これらの電磁弁の動作により、踏面清掃装置6では、研摩子が車輪11に押し当てられる(ステップS33)。一方、セラミック噴射装置7では、セラミック粉が噴射される(ステップS34)。これらのステップは、ブレーキ指令P1の出力前に行われる。
【0048】
[1-3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)ブレーキ指令P1の出力前に、ブレーキ予告信号P0により主電動機2を励磁しておくことができる。これにより、ブレーキ指令P1が出力された際に、主電動機2による制動力が即座に発生される。その結果、ブレーキ指令P1の出力直後から主電動機2による制動が可能となる。そのため、機械ブレーキの使用を抑制できる。
【0049】
(1b)ATC装置3は、ブレーキ予告信号P0を出力するために、鉄道車両の現在位置と速度とを用いてブレーキ指令P1までの時間、離隔距離又は離隔速度を計算するので、より適切なタイミングで回生ブレーキを立ち上げることができる。その結果、機械ブレーキの使用をさらに抑制できる。
【0050】
(1c)ATC装置3は、鉄道車両への給電系統を切り替えるセクション付近での減速度を小さくした補正ブレーキパターンを出力するので、セクション通過時にも回生ブレーキを使用することができる。そのため、電空切り替え(つまり回生ブレーキと機械ブレーキとの切り替え)の回数が低減され、乗り心地が向上する。また、バッテリ等への充電電力が増加するので、省エネ効果も高められる。
【0051】
(1d)踏面清掃装置6及びセラミック噴射装置7は、ブレーキ予告信号P0により動作を開始するので、これらの装置の起動から効果が発揮されるまでのタイムラグがブレーキ予告信号P0からブレーキ指令P1までの時間により相殺される。そのため、ブレーキ指令P1の出力直後から車輪11の滑走を抑えることができる。また、滑走の抑制によりブレーキによる制動距離も低減できる。
【0052】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0053】
(2a)上記実施形態のブレーキ制御システム1において、ブレーキ予告信号P0の出力タイミングは、必ずしも鉄道車両の現在位置と速度とを用いて計算される必要はない。したがって、他の手順でブレーキ予告信号P0の出力タイミングを決定してもよい。
【0054】
(2b)上記実施形態のブレーキ制御システム1において、ATC装置3は、必ずしも鉄道車両への給電系統を切り替えるセクション付近での減速度を小さくした補正ブレーキパターンを作成する必要はない。したがって、ATCブレーキパターンの対象区間にセクションがある場合でもATCブレーキパターンに基づいたブレーキ指令P1を出力してもよい。
【0055】
(2c)上記実施形態のブレーキ制御システム1において、踏面清掃装置6及びセラミック噴射装置7は必須の構成要件ではない。したがって、踏面清掃装置6及びセラミック噴射装置7の一方のみを用いてもよいし、両方とも使用しなくてもよい。また、踏面清掃装置6及びセラミック噴射装置7は、従来のようにブレーキ指令P1により動作を開始してもよい。
【0056】
(2d)上記実施形態のブレーキ制御システム1において、回生ブレーキと機械ブレーキとを併用してもよい。この場合、ブレーキ制御部5は、機械ブレーキにもブレーキ信号Q0を出力する。
【0057】
(2e)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0058】
1…ブレーキ制御システム、2…主電動機、3…ATC装置、4…主変換装置、
5…ブレーキ制御部、6…踏面清掃装置、7…セラミック噴射装置、10…車両、
11…車輪、12…パンタグラフ、13…車上バッテリ、20…架線、30…軌道、
31…ATC地上子、
D1…位置データ、P0…ブレーキ予告信号、P1…ブレーキ指令、
Q0…ブレーキ信号。