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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】レールの削正方法
(51)【国際特許分類】
   E01B 31/17 20060101AFI20220401BHJP
【FI】
E01B31/17
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017238100
(22)【出願日】2017-12-12
(65)【公開番号】P2019105077
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000182993
【氏名又は名称】日鉄レールウェイテクノス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504158881
【氏名又は名称】東京地下鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】久保 奈帆美
(72)【発明者】
【氏名】谷本 益久
(72)【発明者】
【氏名】河野 陽介
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-160778(JP,A)
【文献】特開2014-074286(JP,A)
【文献】特開平06-228902(JP,A)
【文献】特開昭62-233306(JP,A)
【文献】実開昭63-185803(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 31/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道幅方向の外側から内側に向かって拡径する車輪踏面を有する鉄道車両を走行させるためのレールを削正する方法であって、
前記レールの頭頂面と前記車輪踏面との現在の接触位置を確認する工程と、
前記頭頂面と前記車輪踏面との予め設計された接触位置から前記現在の接触位置が前記軌道幅方向にずれている場合、前記頭頂面を削正して、前記頭頂面に、前記予め設計された接触位置を起点として前記現在の接触位置側でかつ下方に向かって傾斜する第1傾斜面を形成する工程とを含み、
前記第1傾斜面は、前記予め設計された接触位置における前記車輪踏面の傾斜角よりも大きい傾斜角を有する、レールの削正方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレールの削正方法であって、さらに、
前記第1傾斜面が形成された前記頭頂面と前記車輪踏面との接触位置が前記予め設計された接触位置から前記軌道幅方向にずれている場合、前記頭頂面を削正して、前記頭頂面に、前記予め設計された接触位置を起点として前記第1傾斜面の反対側でかつ下方に向かって傾斜する第2傾斜面を形成する工程とを含み、
前記第2傾斜面は、前記予め設計された接触位置における前記車輪踏面の傾斜角よりも大きい傾斜角を有する、レールの削正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レールの削正方法に関し、より詳しくは、軌道幅方向の外側から内側に向かって拡径する車輪踏面を有する鉄道車両を走行させるためのレールの削正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両を走行させるためのレールにおいては、鉄道車両の車輪踏面がレールの頭頂面に接触する。この接触位置は、頭頂面の摩耗により、予め設計された位置から軌道幅方向に徐々にずれる。
【0003】
しかし、ずれた接触位置を元の位置(予め設計された接触位置又は目標の接触位置)に戻すために現場でレールを削正する方法は、現在のところ全く提案されていない。そもそも、新品のレールの接触位置を所望の位置に設定するための方法さえ、現在のところ全く提案されていない。
【0004】
特許文献1は、敷設レールの踏面を削正する方法を開示する。この方法は、敷設レールの頭部面に曲線区域間で発生した波状摩耗の削正する方法であって、内側レール頭部面に、フランジタイヤが主に通る痕跡を求め、その痕跡線を中心に頭面を傾斜させて振り分け山形に削正する。
【0005】
特許文献2は、レールに粘性の低い水溶液状の摩擦調整材を塗布した際に摩擦調整材のレール側方への流れ落ち量を少なくし、大きくなった当り面で車両走行方向への摩擦調整材の延びをよくする鉄道レール頭頂面の削正方法を開示する。この方法は、摩擦調整材を塗布する曲線内軌側のレール横断面のレール頭頂面のレール軸心から両側に20mmまでの範囲を、半径が600mmを超え1000mm以下の凸円弧状に削正する。
【0006】
上記特許文献1及び2のいずれの方法も、接触位置を所望の位置に設定するためのものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-228902号公報
【文献】特許第3803336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、接触位置を所望の位置に設定するためのレールの削正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
軌道幅方向の外側から内側に向かって拡径する車輪踏面を有する鉄道車両を走行させるためのレールを削正する方法であって、レールの頭頂面と車輪踏面との現在の接触位置を確認する工程と、頭頂面と車輪踏面との予め設計された接触位置から現在の接触位置が軌道幅方向にずれている場合、頭頂面を削正して、頭頂面に、予め設計された接触位置を起点として現在の接触位置側でかつ下方に向かって傾斜する傾斜面を形成する工程とを含む。傾斜面は、予め設計された接触位置における車輪踏面の傾斜角よりも大きい傾斜角を有する。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係るレールの削正方法によれば、接触位置を所望の位置に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、レール及び車輪の構造を示す横断面図である。
図2A図2Aは、実施形態1に係るレールの削正方法において、現在の接触位置を確認する工程を示すレール及び車輪の横断面図である。
図2B図2Bは、図2Aの工程に続き、レールの頭頂面を削正する工程を示すレール及び車輪の横断面図である。
図2C図2Cは、図2Bの工程で削正された後のレール及び車輪の横断面図である。
図3A図3Aは、図2Bの工程で削正される前のレールの頭頂面及び車輪踏面の勾配曲線を示す図である。
図3B図3Bは、図2Bの工程で削正された後のレールの頭頂面及び車輪踏面の勾配曲線を示す図である。
図4A図4Aは、実施形態2に係るレールの削正方法において、現在の接触位置を確認する工程を示すレール及び車輪の横断面図である。
図4B図4Bは、図4Aの工程に続き、レールの頭頂面を削正する工程を示すレール及び車輪の横断面図である。
図4C図4Cは、図4Bの工程に続き、削正された後の接触位置を再度確認する工程を示すレール及び車輪の横断面図である。
図4D図4Dは、図4Cの工程に続き、レールの頭頂面を再度削正する工程を示すレール及び車輪の横断面図である。
図4E図4Eは、図4Dの工程で削正された後のレール及び車輪の横断面図である。
図5A図5Aは、図4Bの工程で削正される前のレールの頭頂面及び車輪踏面の勾配曲線を示す図である。
図5B図5Bは、図4Bの工程で削正された後のレールの頭頂面及び車輪踏面の勾配曲線を示す図である。
図5C図5Cは、図4Dの工程で再度削正された後のレールの頭頂面及び車輪踏面の勾配曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[構成1]
軌道幅方向の外側から内側に向かって拡径する車輪踏面を有する鉄道車両を走行させるためのレールを削正する方法であって、レールの頭頂面と車輪踏面との現在の接触位置を確認する工程と、頭頂面と車輪踏面との予め設計された接触位置から現在の接触位置が軌道幅方向にずれている場合、頭頂面を削正して、頭頂面に、予め設計された接触位置を起点として現在の接触位置側でかつ下方に向かって傾斜する第1傾斜面を形成する工程とを含む。第1傾斜面は、予め設計された接触位置における車輪踏面の傾斜角よりも大きい傾斜角を有する。
【0013】
構成1によれば、接触位置を所望の位置に設定することができる。
【0014】
[構成2]
構成1に記載のレールの削正方法であって、さらに、第1傾斜面が形成された頭頂面と車輪踏面との接触位置が予め設計された接触位置から軌道幅方向にずれている場合、頭頂面を削正して、頭頂面に、予め設計された接触位置を起点として第1傾斜面の反対側でかつ下方に向かって傾斜する第2傾斜面を形成する工程とを含む。第2傾斜面は、予め設計された接触位置における車輪踏面の傾斜角よりも大きい傾斜角を有する。
【0015】
構成2によれば、第1傾斜面が形成された頭頂面と車輪踏面との接触位置が予め設計された接触位置から軌道幅方向にずれている場合であっても、接触位置を所望の位置に設定することができる。
【0016】
以下、図面を参照し、本開示に係る実施形態を詳細に説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0017】
[レール及び車輪の構造]
図1を参照して、鉄道車両を走行させるためのレール1上には鉄道車両の車輪2が乗せられる。レール1は、頭部11と、腹部12と、底部13とを有する。頭部11は、腹部12及び底部13によって下方から支持されている。頭部11は、頭頂面111を含む。車輪2は、車輪踏面21と、フランジ22とを含む。頭頂面111には、車輪踏面21が接触する。車輪踏面21は、軌道幅方向の外側から内側に向かって拡径する。車輪踏面21は、円錐踏面でも円弧踏面でもよい。
【0018】
頭頂面111は、傾斜面111a及び111bを含む。傾斜面111aは、軌道幅方向の内側に向かって下方に傾斜する。傾斜面111bは、軌道幅方向の外側に向かって下方に傾斜する。傾斜面111bは、傾斜面111aと逆の勾配を有する。
【0019】
以下、軌道幅方向の外側から内側に向かう方向において、下り勾配を正、上り勾配を負とする。よって、傾斜面111aは、正の勾配を有する。傾斜面111bは、負の勾配を有する。
【0020】
頭頂面111と車輪踏面21とは、傾斜面111aと傾斜面111bとの稜線111cで接触する。稜線111cは予め設計された接触位置である。頭頂面111と車輪踏面21との接触位置は、頭頂面111の摩耗により、予め設計された接触位置111cから軌道幅方向に徐々にずれる。このずれた接触位置を以下の削正方法で元の接触位置111cに戻す。
【0021】
[実施形態1]
最初に、図2Aに示されるように、レール1の頭頂面111と車輪踏面21との現在の接触位置111dを確認する。レール1が実際に敷かれている現場で、接触位置111dを確認するためには、例えば、特願2016-115826号に開示された接触位置確認用器具を用いることができる。
【0022】
確認の結果、頭頂面111と車輪踏面21との予め設計された接触位置111cから現在の接触位置111dが軌道幅方向にずれている場合、図2Bに示されるように、頭頂面111を削正して、頭頂面111に、予め設計された接触位置111cを起点として現在の接触位置111d側でかつ下方に向かって傾斜する傾斜面111aを形成する。ここで、傾斜面111aは、予め設計された接触位置111cにおける車輪踏面21の傾斜角αよりも大きい傾斜角βを有する。
【0023】
削正後、図2Cに示されるように、頭頂面111と車輪踏面21との接触位置を確認する。すなわち、現在の接触位置が予め設計された元の接触位置111cに戻っていることを確認する。
【0024】
頭頂面111及び車輪踏面21の勾配の変化は、勾配曲線で表すことができる。以下、頭頂面111及び車輪踏面21の勾配曲線について説明する。
【0025】
勾配曲線は、横軸に軌道幅方向の位置をとり、縦軸に勾配をとる座標系上の線である。軌道幅方向の位置は、レール1と車輪2とが中立位置にある場合の車輪2の軌道幅方向中央(車輪中央)の位置を0として、車輪中央よりも軌道幅方向外側の位置を正、軌道幅方向内側の位置を負と定義される。
【0026】
図3Aは、削正前の頭頂面111の勾配曲線L1と車輪踏面21の勾配曲線L2とを示す。図3Bは、削正後の頭頂面111の勾配曲線L1と車輪踏面21の勾配曲線L2とを示す。
【0027】
図3A及び図3Bに示される例では、車輪踏面21は円錐踏面であるから、その勾配曲線L2の勾配は一定である。頭頂面111の勾配曲線L1は車輪踏面21の勾配曲線L2と交差する。勾配曲線L1及びL2の交差は、この位置で、頭頂面111が車輪踏面21と接触することを意味する。
【0028】
削正前においては、図3Aに示されるように、予め設計された接触位置111cよりも軌道幅方向内側の位置で、頭頂面111が車輪踏面21と接触している。一方、削正後においては、図3Bに示されるように、予め設計された接触位置111cで、頭頂面111が車輪踏面21と接触している。
【0029】
以上の通り、実施形態1によれば、摩耗によりずれた接触位置111dを予め設計された元の接触位置111cに戻すことができる。
【0030】
[実施形態2]
上記実施形態1は1回の削正で接触位置を元の位置に戻すことができる場合を説明したが、できない場合もある。この場合、以下に詳述するように、上記と反対側(本例では軌道幅方向外側)の頭頂面を削正すればよい。
【0031】
最初に、図4Aに示されるように、レール1の頭頂面111と車輪踏面21との現在の接触位置111dを確認する。確認の結果、頭頂面111と車輪踏面21との予め設計された接触位置111cから現在の接触位置111dが軌道幅方向にずれている場合、図4Bに示されるように、頭頂面111を削正して、頭頂面111に、予め設計された接触位置111cを起点として現在の接触位置111d側でかつ下方に向かって傾斜する傾斜面111aを形成する。ここで、傾斜面111aは、予め設計された接触位置111cにおける車輪踏面21の傾斜角αよりも大きい傾斜角βを有する。削正後、図4Cに示されるように、頭頂面111と車輪踏面21との接触位置を確認する。ここまでの工程は上記実施形態1と同じである。
【0032】
確認の結果、傾斜面111aが形成された頭頂面111と車輪踏面21との接触位置111eが予め設計された接触位置111cから軌道幅方向にずれている場合、図4Dに示されるように、頭頂面111を削正して、頭頂面111に、予め設計された接触位置111cを起点として傾斜面111aの反対側でかつ下方に向かって傾斜する傾斜面111bを形成する。ここで、傾斜面111bは、予め設計された接触位置111cにおける車輪踏面21の傾斜角αよりも大きい傾斜角γを有する。傾斜角α,γは、上記傾斜角βを含め、符号を持たないスカラー量である。
【0033】
2回目の削正後、図4Eに示されるように、頭頂面111と車輪踏面21との接触位置を再度確認する。すなわち、現在の接触位置が予め設計された元の接触位置111cに戻っていることを確認する。
【0034】
図5Aは、削正前の頭頂面111の勾配曲線L1と車輪踏面21の勾配曲線L2とを示す。図5Bは、1回目の削正後の頭頂面111の勾配曲線L1と車輪踏面21の勾配曲線L2とを示す。図5Cは、2回目の削正後の頭頂面111の勾配曲線L1と車輪踏面21の勾配曲線L2とを示す。
【0035】
図5A図5Cに示される例では、車輪踏面21は円弧踏面であるから、その勾配曲線L2の勾配は軌道幅方向外側に向かって直線的に小さくなる。
【0036】
削正前においては、図5Aに示されるように、予め設計された接触位置111cよりも軌道幅方向内側の位置で、頭頂面111が車輪踏面21と接触している。1回目の削正後においては、図5Bに示されるように、予め設計された接触位置111cよりも僅かに軌道幅方向外側の位置で、頭頂面111が車輪踏面21と接触している。2回目の削正後においては、図5Cに示されるように、予め設計された接触位置111cで、頭頂面111が車輪踏面21と接触している。
【0037】
以上の通り、実施形態2によれば、1回目の削正後に、傾斜面111aが形成された頭頂面111と車輪踏面21との接触位置111eが予め設計された接触位置111cから軌道幅方向にずれている場合であっても、ずれた接触位置111eを予め設計された元の接触位置111cに戻すことができる。
【0038】
以上、実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限り種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1:レール
111:頭頂面
111a,111b:傾斜面
111c,111d,111e:接触位置
21:車輪踏面
α,β:傾斜角
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C