(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】絶縁型スイッチング電源
(51)【国際特許分類】
H02M 3/335 20060101AFI20220401BHJP
H02M 3/28 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
H02M3/335 E
H02M3/28 H
(21)【出願番号】P 2018000159
(22)【出願日】2018-01-04
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【氏名又は名称】河合 典子
(72)【発明者】
【氏名】羽田 正二
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-205546(JP,A)
【文献】特開昭55-008239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M3/00-3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイルと二次コイルとを有するトランスと、
入力電圧により前記一次コイルに流れる電流を導通又は遮断するべくそれぞれオンオフ制御される複数のスイッチング素子を有するスイッチング部
であって、複数のスイッチング素子が、少なくとも1つのスイッチング素子を含む第1グループと、少なくとも1つのスイッチング素子を含む第2グループとからなり、前記第1グループと前記第2グループのスイッチング素子は、同じ長さのオン期間で交互に一定のインターバルを空けてオンオフ制御される、前記スイッチング部と、
前記二次コイルに接続された整流部と、
前記整流部に接続されかつ少なくとも1つのリアクトルと平滑コンデンサとを含む平滑部と、を有する絶縁型スイッチング電源において、
前記スイッチング部において前記スイッチング素子がオンからオフになったときに該スイッチング素子を通して前記一次コイルに流れる電流を阻止するために、該スイッチング素子に直列接続された逆流防止素子を有
し、かつ、
前記整流部が、2対の直列接続された正側ダイオードと負側ダイオードを有し、直列接続された各対のダイオードの接続点が二次コイルの各端とそれぞれ接続されており、2つの前記正側ダイオードの各々のカソードに2つのリアクトルの各々の一端がそれぞれ接続されると共に、2つの該リアクトルの各々の他端が前記平滑コンデンサの正極端に接続されており、かつ、2つの前記負側ダイオードの各々のアノードが前記平滑コンデンサの負極端に接続されていること、を特徴とする絶縁型スイッチング電源。
【請求項2】
一次コイルと二次コイルとを有するトランスと、
入力電圧により前記一次コイルに流れる電流を導通又は遮断するべくそれぞれオンオフ制御される複数のスイッチング素子を有するスイッチング部
であって、複数のスイッチング素子が、少なくとも1つのスイッチング素子を含む第1グループと、少なくとも1つのスイッチング素子を含む第2グループとからなり、前記第1グループと前記第2グループのスイッチング素子は、同じ長さのオン期間で交互に一定のインターバルを空けてオンオフ制御される、前記スイッチング部と、
前記二次コイルに接続された整流部と、
前記整流部に接続されかつ少なくとも1つのリアクトルと平滑コンデンサとを含む平滑部と、を有する絶縁型スイッチング電源において、
前記スイッチング部において前記スイッチング素子がオンからオフになったときに該スイッチング素子を通して前記一次コイルに流れる電流を阻止するために、該スイッチング素子に直列接続された逆流防止素子を有
し、かつ、
前記整流部が、2対の直列接続された正側ダイオードと負側ダイオードを有し、直列接続された各対のダイオードの接続点が二次コイルの各端とそれぞれ接続されており、2つの前記負側ダイオードの各々のアノードに2つのリアクトルの各々の一端がそれぞれ接続されると共に、2つの該リアクトルの各々の他端が前記平滑コンデンサの負極端に接続されており、かつ、2つの前記正側ダイオードの各々のカソードが前記平滑コンデンサの正極端に接続されていること、を特徴とする絶縁型スイッチング電源。
【請求項3】
前記逆流防止素子が、前記第1グループのスイッチング素子のオン期間の電流が専ら流れる電流路上、及び、前記第2グループのスイッチング素子のオン期間の電流が専ら流れる電流路上に、それぞれ直列接続されていることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の絶縁型スイッチング電源。
【請求項4】
前記スイッチング部が、フルブリッジ回路、プッシュプル回路又はハーフブリッジ回路のいずれかを基本構成とすることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載のスイッチング電源。
【請求項5】
前記第1グループ及び前記第2グループのスイッチング素子のそれぞれのオン期間に前記一次コイルに電流が流れると共に前記二次コイルにフォワード電流が流れ、かつ、前記スイッチング素子がオンからオフになり前記一次コイルの電流が遮断されたとき、該一次コイルに発生した逆起電力による電流が前記逆流防止素子により阻止されると共に前記二次コイルに発生した逆起電力により該二次コイルにフライバック電流が流れるように構成されていることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の絶縁型スイッチング電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源に関し、特に力率改善機能を備えたワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源に関する。
【背景技術】
【0002】
交流を直流に電力変換するスイッチング電源の入力段に、特許文献1~3等の力率改善回路を用いたものが知られている。力率改善回路は、例えば正弦波の入力電圧に対してできるだけ位相の一致した正弦波の電流を入力させる回路である。力率改善回路は、通常、非絶縁型の昇圧コンバータで構成されている。従って、力率改善回路の後段に絶縁型DC/DCコンバータを配置したツーコンバータ方式で1つの絶縁型スイッチング電源を構成することが一般的である。絶縁型DC/DCコンバータの代表的な方式として、フォワード方式とフライバック方式がある。大出力電源にはフォワード方式が適している。
【0003】
一方、特許文献4、5等のように、力率改善機能を備えた絶縁型DC/DCコンバータであるワンコンバータ方式も知られている。ワンコンバータ方式の絶縁型DC/DCコンバータは、昇圧コンバータと実質的に同じ動作をするフライバック方式で構成されている。フライバック方式は力率改善機能を有するが、大出力電源には適していない。
【0004】
また、絶縁型DC/DCコンバータの一次側のスイッチング素子は原理的には1つでよいが、大出力化やスイッチング素子の耐圧特性の軽減のために、特許文献6等のように複数のスイッチング素子からなるフルブリッジ回路やプッシュプル回路等も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-111246号公報
【文献】特開2007-37297号公報
【文献】特開2015-23722号公報
【文献】特開平5-236749号公報
【文献】特開2002-300780号公報
【文献】特開2015-70716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
力率の良好なワンコンバータ方式の絶縁型DC/DCコンバータ(以下、本明細書では、絶縁型DC/DCコンバータを絶縁型スイッチング電源と称する)は、通常、フライバック方式であるが、大出力化を図るためにはフォワード方式を採用することが望ましい。しかしながら、これには幾つかの問題点がある。それらの問題点を
図8、
図9を参照して説明する。
【0007】
図8は、従来のフォワード方式の絶縁型スイッチング電源の一例を概略的に示している。入力端子1、2には、例えば正弦波の交流を全波整流した入力電圧が入力される。トランスTの一次側に4個のMOSFET(以下、単に「FET」とする)Q1~Q4からなるフルブリッジ回路からなるスイッチング部が配置され、トランスTの二次側に4個のダイオードD1~D4からなるブリッジ整流回路が配置され、その後段にリアクトルLとコンデンサCからなる平滑回路が配置され、コンデンサCの両端p、nから直流が出力される。フルブリッジ回路は、入力交流の周波数よりも高い周波数でオンオフ制御される。
図8の回路中の矢印付きの実線はスイッチング素子のオン期間の電流を、矢印付き点線はオフ期間の電流を、それぞれ概略的に示している。
【0008】
図9は、
図8の回路の動作の概略的なタイミング図である。
図9(a)(b)は、第1グループのFETQ1、Q4と第2グループのFETQ2、Q3のオンオフを模式的に示している。第1グループのFETと第2グループのFETは、同じ長さのオン期間で交互にかつ一定のインターバルを空けてオンオフ制御される。
【0009】
図9(c)(d)(e)は、
図8の回路のトランスTの一次コイルN1、二次コイルN2及びリアクトルLを流れる電流の一例を模式的に示している。第1グループのFETQ1、Q4のオン期間には一次コイルに電流i1が流れ、それに応じて二次コイルN2に電流i2が流れ、リアクトルLを通して出力される。第1グループのFETQ1、Q4がオフになると、二次側ではリアクトルLに蓄積された磁気エネルギーが電流i3として出力される。同様に第2グループのFETQ2、Q3のオン期間には、一次コイルN1に電流i4が流れ、二次コイルN2に電流i5が流れて出力され、オフになると電流i6が出力される。これは、フォワード方式の動作である。
【0010】
ここで、
図8の回路では、第1グループのFETQ1、Q4がオンからオフになった瞬間に一次コイルN1に逆起電力が生じる。この逆起電力は、FETQ
2、Q
3のボディダイオードに対して順バイアスであるため、
図8及び
図9(c)に示す電流i
Bが流れる。同様に、第2グループのFETQ2、Q3がオンからオフになった瞬間には、電流i
Aが流れる。電流iA及びiBは、トランスTの磁気リセットの役割を果たしている。しかしながら、電流iA及びiBは入力側への還流であるので、トランスの二次側に伝達されないエネルギーであり、電力変換効率を低下させているとも言える。
【0011】
さらに、フォワード方式では、オン期間におけるトランスTの二次側電流i2、i5は、二次コイルN2に生じる起電力が平滑コンデンサCの電圧を超えたときにのみ流れる。従って、二次コイルN2の起電力が小さい範囲では電流が出力されず、このことが力率を悪化させる。
【0012】
大出力電源には、フライバック方式よりもフォワード方式の方が適しているが、上述した問題点があるためワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源では、通常、フライバック方式が採用されている。
【0013】
以上の現状から、本発明は、ワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源において、大出力化を図れるフォワード方式を採用しかつ力率を良好とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するべく、本発明は、以下の構成を提供する。
・ 本発明の態様は、
一次コイルと二次コイルとを有するトランスと、
入力電圧により前記一次コイルに流れる電流を導通又は遮断するべくそれぞれオンオフ制御される複数のスイッチング素子を有するスイッチング部であって、複数のスイッチング素子が、少なくとも1つのスイッチング素子を含む第1グループと、少なくとも1つのスイッチング素子を含む第2グループとからなり、前記第1グループと前記第2グループのスイッチング素子は、同じ長さのオン期間で交互に一定のインターバルを空けてオンオフ制御される、前記スイッチング部と、
前記二次コイルに接続された整流部と、
前記整流部に接続されかつ少なくとも1つのリアクトルと平滑コンデンサとを含む平滑部と、を有する絶縁型スイッチング電源において、
前記スイッチング部において前記スイッチング素子がオンからオフになったときに該スイッチング素子を通して前記一次コイルに流れる電流を阻止するために、該スイッチング素子に直列接続された逆流防止素子を有し、かつ、
前記整流部が、2対の直列接続された正側ダイオードと負側ダイオードを有し、直列接続された各対のダイオードの接続点が二次コイルの各端とそれぞれ接続されており、2つの前記正側ダイオードの各々のカソードに2つのリアクトルの各々の一端がそれぞれ接続されると共に、2つの該リアクトルの各々の他端が前記平滑コンデンサの正極端に接続されており、かつ、2つの前記負側ダイオードの各々のアノードが前記平滑コンデンサの負極端に接続されていること、を特徴とする。
・ 本発明の別の態様は、
一次コイルと二次コイルとを有するトランスと、
入力電圧により前記一次コイルに流れる電流を導通又は遮断するべくそれぞれオンオフ制御される複数のスイッチング素子を有するスイッチング部であって、複数のスイッチング素子が、少なくとも1つのスイッチング素子を含む第1グループと、少なくとも1つのスイッチング素子を含む第2グループとからなり、前記第1グループと前記第2グループのスイッチング素子は、同じ長さのオン期間で交互に一定のインターバルを空けてオンオフ制御される、前記スイッチング部と、
前記二次コイルに接続された整流部と、
前記整流部に接続されかつ少なくとも1つのリアクトルと平滑コンデンサとを含む平滑部と、を有する絶縁型スイッチング電源において、
前記スイッチング部において前記スイッチング素子がオンからオフになったときに該スイッチング素子を通して前記一次コイルに流れる電流を阻止するために、該スイッチング素子に直列接続された逆流防止素子を有し、かつ、
前記整流部が、2対の直列接続された正側ダイオードと負側ダイオードを有し、直列接続された各対のダイオードの接続点が二次コイルの各端とそれぞれ接続されており、2つの前記負側ダイオードの各々のアノードに2つのリアクトルの各々の一端がそれぞれ接続されると共に、2つの該リアクトルの各々の他端が前記平滑コンデンサの負極端に接続されており、かつ、2つの前記正側ダイオードの各々のカソードが前記平滑コンデンサの正極端に接続されていること、を特徴とする。
・ 上記態様において、前記逆流防止素子が、前記第1グループのスイッチング素子のオン期間の電流が専ら流れる電流路上、及び、前記第2グループのスイッチング素子のオン期間の電流が専ら流れる電流路上に、それぞれ直列接続されていることを特徴とする。
・ 上記態様において、前記スイッチング部が、フルブリッジ回路、プッシュプル回路又はハーフブリッジ回路のいずれかを基本構成とすることを特徴とする。
・ 上記態様において、前記第1グループ及び前記第2グループのスイッチング素子のそれぞれのオン期間に前記一次コイルに電流が流れると共に前記二次コイルにフォワード電流が流れ、かつ、前記スイッチング素子がオンからオフになり前記一次コイルの電流が遮断されたとき、該一次コイルに発生した逆起電力による電流が前記逆流防止素子により阻止されると共に前記二次コイルに発生した逆起電力により該二次コイルにフライバック電流が流れるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明による絶縁型スイッチング電源は、ワンコンバータ方式のスイッチング電源であって、フォワード方式を採用することにより大出力化を実現すると共に、一次側のエネルギーを無駄なく二次側に伝達することで電力変換効率を高め、さらに二次コイルの起電力が小さい範囲でも電流の出力が可能であることにより力率も良好とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の絶縁型スイッチング電源の実施形態の回路例を概略的に示した図であり、(a)は第1グループFETのオン期間の電流を、(b)は第1グループFETのオフ期間の電流を合わせて示している。
【
図2】
図2は、
図1の回路例において、(a)は第2グループFETのオン期間の電流を、(b)は第2グループFETのオフ期間の電流を合わせて示している。
【
図3】
図3は、
図1及び
図2に示した各電流のタイミングチャートの一例を模式的に示した図である。
【
図4】
図4は、本発明のスイッチング電源のトランスの一次側の別の構成例を概略的に示した図である。
【
図5】
図5は、本発明のスイッチング電源のトランスの一次側のさらに別の構成例を概略的に示した図である。
【
図6】
図6は、本発明のスイッチング電源のトランスの二次側のさらに別の構成例を概略的に示した図である。
【
図7】
図7は、本発明におけるトランスの好適例を概略的に示した図である。
【
図8】
図8は、従来のフォワード方式の絶縁型スイッチング電源の一例を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、例として示した図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本発明の絶縁型スイッチング電源は、ワンコンバータ方式をターゲットとしている。その典型的な入力電圧は、正弦波の交流電圧を整流したものである。しかしながら、本発明の絶縁型スイッチング電源は、入力電圧が、正弦波以外の方形波若しくは三角波の電圧、又は一定電圧のときも、同様に機能するものである。
【0018】
(1)第1実施形態
(1-1)第1実施形態の回路例
図1(a)は、本発明の絶縁型スイッチング電源の実施形態の回路例を概略的に示した図である。
図1(a)には第1グループのFETのオン期間の電流も合わせて示しているが、これについては後述する。上述した
図8の従来のフォワード方式の絶縁型スイッチング電源と同一又は類似の構成要素には同一又は類似の符号を付している。
【0019】
図1の絶縁型スイッチング電源は、交流電圧を全波整流した入力電圧が入力端子1、2に入力される。ここでの交流電圧は、例えば、系統電源の50Hz若しくは60Hz又は各種の発電装置で生成される数Hz~数十Hz程度の周波数を有する正弦波である。しかしながら、入力電圧の波形は正弦波に限られず、正電位の任意の波形とすることができる。
【0020】
トランスTは、一次コイルN1と二次コイルN2が同極性に巻かれたフォワードトランスである(コイルの巻き始端を黒丸で示す)。トランスTの一次側には、入力電圧により一次コイルN1に流れる電流を導通又は遮断するべくそれぞれオンオフ制御される複数のスイッチング素子、ここではMOSFETを有するスイッチング部が設けられている。
【0021】
図1の構成例では、スイッチング部は、スイッチング素子として4個のNチャネルMOSFET(以下、単に「FET」とする)Q1~Q4を有し、基本的にフルブリッジ回路を構成している。フルブリッジ回路は、大出力のスイッチング電源に好適である。さらに、各FETに印加される電圧は、単一FETによるスイッチング部の半分となる。FETQ1とFETQ4が、同時にオンオフ制御される第1グループを構成し、FETQ2とFETQ3が、同時にオンオフ制御される第2グループを構成する。各FETは、ゲートに印加される制御電圧によりオンオフ制御される。その制御電圧の周波数は、入力交流の周波数よりも高い数十kH~数百kHである。
【0022】
正の入力端子1と一次コイルN1の一端の間にFETQ1が直列接続されている。一次コイルN1の他端と負の入力端子2の間に、逆流防止ダイオードD1とFETQ4が直列接続されている。基本的なフルブリッジ回路とは異なり、逆流防止ダイオードD1が挿入されている。逆流防止ダイオードD1の極性は、FETQ1及びFETQ4のボディダイオードのそれとは逆方向である。
【0023】
同様に、正の入力端子1と一次コイルN1の他端との間にFETQ2が直列接続されている。一次コイルN1の一端と負の入力端子2との間に、逆流防止ダイオードD2とFETQ3が直列接続されている。基本的なフルブリッジ回路とは異なり、逆流防止ダイオードD2が挿入されている。逆流防止ダイオードD2の極性は、FETQ2及びFETQ3のボディダイオードのそれとは逆方向である。
【0024】
別の例として、逆流防止ダイオードD1は、
図1に示した位置以外に、a点→FETQ1→一次コイルN1→FETQ4→b点の電流路上のいずれかの位置に直列に挿入することができる。同様に、逆流防止ダイオードD2は、
図1に示した位置以外に、a点→FETQ2→一次コイルN1→FETQ3→b点の電流路上のいずれかの位置に直列に挿入することができる。
【0025】
言い換えると、逆流防止ダイオードD1は、第1グループのFETのオン期間電流が専ら流れる電流路上に直列に挿入され、一方、逆流防止ダイオードD2は、第2グループのFETのオン期間電流が専ら流れる電流路上に挿入されることが好適である。いずれの場合も、逆流防止ダイオードD1、D2の極性は、各FETのボディダイオードとは逆方向とする。
【0026】
なお、入力端子1とa点との間、又は、入力端子2とb点との間の電流路にダイオードを挿入した場合も逆流防止機能は有するが、これらの電流路に挿入された逆流防止ダイオードは、FETがオンからオフとなったときにリカバリ電流を生じる点で不利である。但し、ファーストリカバリダイオード(FRD)、シリコンカーバイト(SIC)を用いたショットキーダイオード等を用いた場合は、これらの入力ラインの電流路に逆流防止ダイオードを挿入することも可能である。
【0027】
トランスTの二次側には、整流部及びその後段の平滑部が配置されている。
図1の構成例における整流部は、4つのダイオードD3~D6からなるブリッジ整流回路を基本とする形態である。第1の対の正側ダイオードD3と負側ダイオードD5が直列接続され、第2の対の正側ダイオードD4と負側ダイオードD6が直列接続されている。直列接続された第1の対のダイオードD3、D5の接続点は二次コイルN2の一端に接続され、直列接続された第2の対のダイオードD4、D6の接続点は二次コイルN2の他端に接続されている。
【0028】
通常のブリッジ整流回路とは異なり、
図1の構成例では、正側ダイオードD3、D4のカソードが互いに接続されていない。一方の正側ダイオードD3のカソードは、第1のリアクトルL1の一端に接続され、他方の正側ダイオードD4のカソードは、第2のリアクトルL2の一端に接続されている。第1のリアクトルL1と第2のリアクトルL2の各々のインダクタンスは、実質的に同じ値とする。
【0029】
第1のリアクトルL1及び第2のリアクトルL2の各々の他端は、平滑コンデンサCの正極端に接続されており、この点は正の出力端子pでもある。
【0030】
また、2つの負側ダイオードD5、D6の各々のアノードは、平滑コンデンサCの負極端に接続されており、この点は負の出力端子nでもある。
【0031】
(1-2)第1実施形態の動作
図1~
図3を参照して、第1の実施形態の回路の動作を説明する。
図1(a)は、第1グループのFETのオン期間の電流を矢印付き実線で、(b)は第1グループのFETのオフ期間の電流を矢印付き点線で示している。
図2(a)は、第2グループのFETのオン期間の電流を矢印付き実線で、(b)は第2グループのFETのオフ期間の電流を矢印付き点線で示している。
図3は、
図1及び
図2に示した各電流のタイミングチャートの一例を模式的に示した図である。
【0032】
<第1グループのFETのオンオフ制御による動作>
図1(a)及び
図3を参照する。第1グループのFETQ1、Q4がオンになると、一次コイルN1に電流i1が流れる(
図3(c)参照)。この電流i1は、逆流防止ダイオードD1の順方向に流れる。一次コイルに電流i1が流れる結果、相互誘導により二次コイルN2に起電力(電圧を意味する)が発生し、電流i2が流れる。電流i2は、ダイオードD6→二次コイルN2→ダイオードD3→リアクトルL1の経路で流れ、出力端子pから出力され負荷に供給される(
図3(d)(e)参照)。電流i2は、トランスTの相互誘導によるフォワード電流である。電流i2により第1のリアクトルL1は励磁されて磁気エネルギーが蓄積される。ダイオードD4、D5は逆バイアスとなるため電流が流れない。
【0033】
ここで、定常状態における平滑コンデンサCは、リップル変動を除いてほぼ一定の電圧で充電されている。従って、電流i2は、二次コイルN2の起電力が平滑コンデンサの電圧を超えたときにのみ流れる。入力端子1、2に、例えば正弦波の入力電圧が印加される場合、入力電圧の小さい範囲では、二次コイルN2の起電力も小さいため、フォワード電流i2は出力端子p、nに出力されない。これはフォワード動作の特徴であり、力率を低下させることとなる。このことが、従来、力率改善機能を備えたワンコンバータとしてフォワード方式が採用されなかった理由である。
【0034】
次に、
図1(b)及び
図3を参照する。第1グループのFETQ1、Q4がオフになると、一次コイルN1の電流i1が遮断され、一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が発生する。一次コイルN1の逆起電力は、FETQ
2、Q
3のボディダイオードに対して順バイアスであるが、逆流防止ダイオードD
2が電流路に挿入されているため電流は流れない。すなわち、前述した
図8の通常のフルブリッジ回路とは異なり、入力側への還流は阻止される。この結果、通常のフルブリッジ回路では、入力側に戻されるエネルギーがトランスTに留まる。
【0035】
一方、二次コイルN2の逆起電力により、巻き始端が低電位、巻き終端が高電位となる。第1のリアクトルL1はオン期間と同方向の電流を維持しようとするので、ダイオードD5→ダイオードD3→リアクトルL1の経路で電流i3が流れ、出力端子pに出力され負荷に供給される(
図3(d)(e)参照)。これにより、オン期間に第1のリアクトルL1に蓄積された磁気エネルギーが放出される。ダイオードD6は逆バイアスとなる。
【0036】
さらに、二次コイルN2の逆起電力により、ダイオードD4が順バイアスとなり、ダイオードD5→二次コイルN2→ダイオードD4→リアクトルL2の経路で電流ifbが流れ、出力端子pに出力され負荷に供給される(
図3(d)(f)参照)。電流ifbは、トランスTの相互誘導によるものではなく、一次側の逆流防止ダイオードD
2により還流が阻止されたためにトランスTに留められた磁気エネルギーの放出によるものである。従って電流ifbは、フライバック電流と言うことができる。
【0037】
フライバック電流ifbは、フォワード電流i2とは異なり、入力電圧が小さく二次コイルN2に発生する逆起電力が小さいときであっても、逆起電力の大きさに応じた大きさで出力端子pへ出力される。従って、例えば正弦波の入力電圧の場合、入力電圧が小さい範囲においてもフライバック電流ifbが流れることによって力率が改善される。本回路は、基本的にフォワード形式であるが、フライバック電流ifbも流れることができるので力率改善機能を備えている。これは、一次側に逆流防止ダイオードD2を設けたことにより実現されている。
【0038】
図8の通常のフルブリッジ回路では、オフ時の入力側への還流がトランスTの磁気リセットの役割を果たしていたが、本回路では入力側への還流が無い替わりに二次コイルにフライバック電流ifbが流れることにより、トランスTの磁気リセットが行われる。従って、本回路においてもトランスTの磁気飽和を回避することができる。
【0039】
<第2グループのFETのオンオフ制御による動作>
次に、
図2(a)及び
図3を参照する。第2グループのFETQ2、Q3は、第1グループのFETQ1、Q4がオフになってから一定のインターバルを空けてオンになる。第2グループのFETQ2、Q3がオンになると、一次コイルN1に電流i4が流れる(
図3(c)参照)。この電流i4は、逆流防止ダイオードD2の順方向に流れる。一次コイルN1における電流i4の向きは、第1グループのFETのオン期間の電流i1とは逆である。
【0040】
一次コイルに電流i4が流れる結果、相互誘導により二次コイルN2に起電力が発生し、電流i5が流れる。電流i5は、ダイオードD5→二次コイルN2→ダイオードD4→リアクトルL2の経路で流れ、出力端子pから出力され負荷に供給される(
図3(d)(f)参照)。電流i5は、トランスTの相互誘導によるフォワード電流である。これにより第2のリアクトルL2は励磁されて磁気エネルギーが蓄積される。ダイオードD3、D6は逆バイアスとなるため電流が流れない。
【0041】
上述した通り、入力端子1、2に、例えば正弦波の入力電圧が印加される場合、入力電圧の小さい範囲では、二次コイルN2の起電力も小さいため、フォワード電流i5は出力されない。
【0042】
次に、
図2(b)及び
図3を参照する。第2グループのFETQ2、Q3がオフになると、一次コイルN1の電流i4が遮断され、一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が発生する。一次コイルN1の逆起電力は、FETQ
1、Q
4のボディダイオードに対して順バイアスであるが、逆流防止ダイオードD
1が電流路に挿入されているため電流は流れない。この結果、エネルギーがトランスTに留まる。
【0043】
一方、二次コイルN2の逆起電力により、巻き始端が高電位、巻き終端が低電位となる。第2のリアクトルL2はオン期間の電流を維持しようとするので、ダイオードD6→ダイオードD4→リアクトルL2の経路で電流i6が流れ、出力端子pに出力され負荷に供給される(
図3(d)(f)参照)。これにより、オン期間に第2のリアクトルL2に蓄積された磁気エネルギーが放出される。ダイオードD5は逆バイアスとなる。
【0044】
さらに、二次コイルN2の逆起電力により、ダイオードD3が順バイアスとなり、ダイオードD6→二次コイルN2→ダイオードD3→リアクトルL1の経路で電流ifbが流れ、出力端子pに出力され負荷に供給される(
図3(d)(e)参照)。電流ifbは、トランスTの相互誘導によるものではなく、一次側の逆流防止ダイオードD
1により還流が阻止されたためにトランスTに留められた磁気エネルギーの放出によるフライバック電流である。上述した通り、電流ifbは、二次コイルN2の逆起電力の大きさによらず出力されるため、力率が改善される。
【0045】
図3(e)(f)では、第1のリアクトルL1及び第2のリアクトルL2にそれぞれ流れるフライバック電流ifbの終わり部分が、次のオン期間のフォワード電流i2、i5の立ち上がり部分と重なる連続モードとなっている。これは一例であり、この部分が重ならない不連続モードでもよい。
【0046】
(2)トランス一次側の別の実施形態
図4は、
図1の回路における一次側のスイッチング部の別の構成例である。二次側回路は図示を省略するが、
図1の構成例と同じでもよい。
図4の構成例は、プッシュプル回路を基本とする。プッシュプル回路では、一次コイルを第1一次コイルN11と第2一次コイルN12の2つの部分に分割して用いる。この場合、複数のFETの第1グループはFETQ1のみを含み、第2グループはFETQ2のみを含む。FETQ1とFETQ2は、同じ長さのオン期間で交互に、一定のインターバルを空けてオンオフ制御される。各FETと一次コイルN11、N12との間に、各FETのボディダイオードに対して逆方向に直列接続された逆流防止ダイオードD1、D2が挿入配置されている。回路動作については、一次側及び二次側のいずれも
図1の回路と同様である。
【0047】
図5は、
図1の回路における一次側のスイッチング部のさらに別の構成例である。二次側回路は図示を省略するが、
図1の構成例と同じでもよい。
図5の構成例は、ハーフブリッジ回路を基本とする。ハーフブリッジ回路では、複数のFETの第1グループはFETQ1のみを含み、第2グループはFETQ2のみを含む。FETQ1とFETQ2は、同じ長さのオン期間で交互に、一定のインターバルを空けてオンオフ制御される。各FETと一次コイルとの間に、各FETのボディダイオードに対して逆方向に直列接続された逆流防止ダイオードD1、D2が挿入配置されている。回路動作については、一次側及び二次側のいずれも
図1の回路と同様である。
【0048】
(3)トランス二次側の別の実施形態
図6は、
図1の回路における二次側の整流部及び平滑部の別の構成例である。
図6の構成例における整流部も、
図1と同様に4つのダイオードD3~D6からなるブリッジ整流回路を基本とする形態である。第1の対の正側ダイオードD3と負側ダイオードD5が直列接続され、第2の対の正側ダイオードD4と負側ダイオードD6が直列接続されている。直列接続された第1の対のダイオードD3、D5の接続点は二次コイルN2の一端に接続され、直列接続された第2の対のダイオードD4、D6の接続点は二次コイルN2の他端に接続されている。
【0049】
図6の構成例では、負側ダイオードD5、D6のアノードが、通常のブリッジ整流回路とは異なり互いに接続されていない。一方の負側ダイオードD5のアノードは、第1のリアクトルL1の一端に接続され、他方の負側ダイオードD6のアノードは、第2のリアクトルL2の一端に接続されている。第1のリアクトルL1と第2のリアクトルL2の各々のインダクタンスは、実質的に同じ値とする。
【0050】
第1のリアクトルL1及び第2のリアクトルL2の各々の他端は、平滑コンデンサCの負極端に接続されており、この点は負の出力端子nでもある。
【0051】
また、2つの正側ダイオードD3、D4の各々のカソードは、平滑コンデンサCの正極端に接続されており、この点は正の出力端子pでもある。
【0052】
本発明の絶縁型スイッチング電源の二次側回路は、
図1及び
図6に示した回路以外にも多様に構成することができる。二次側回路は、基本的にフォワード形式で構成することが好適である。オン期間にフォワード電流が流れ、オフ期間に外付けリアクトルの磁気エネルギーを放出するリアクトル電流が流れると共に、二次コイルに生じる逆起電力によりフライバック電流が流れることができる構成を備えていればよい。
図8に示した従来のフォワード方式の二次側回路も採用できる。二次コイルに流れるフライバック電流は、一次側のスイッチング部に逆流防止ダイオードを設けたことによりトランスTに留められた磁気エネルギーが放出されることによるものである。
【0053】
(4)トランスの構成
図7は、本発明の絶縁型スイッチング電源で用いるトランスTの好適例を示す断面図である。
【0054】
トランスTのコアは、基本形としては、中央脚11と2つの外脚12、12とを有するE型コア10と、I型コア20を突き合わせて形成されたEI型コアである。2つの外脚12、12の各端面とI型コア20との間にギャップ14、14をそれぞれ設けることが好適である。ギャップ14、14を設けることにより、透磁率を小さくして磁気飽和を回避することができる。
【0055】
さらに、中央脚11に一次コイルN1と二次コイルN2が密結合となるように重ね巻きされている。中央脚11とI型コア20の間にはギャップはない。一般的にギャップの箇所においては磁束が漏れやすいが、このトランスTでは、一次コイルN1と二次コイルN2の周囲には磁束が漏れやすいギャップがなく、ギャップ14、14は各コイルから遠い位置に設けられている。これにより一次コイルN1と二次コイルN2の密結合を確保することができ、高い電力変換効率を維持できる。
【0056】
(5)まとめ
本発明の絶縁型スイッチング電源は、基本的にフォワード方式の動作を有することにより大出力に適用可能であると共に、フライバック電流が流れることにより力率が改善される。よって、大出力のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源として好適である。力率改善機能を備えかつ回路の構成を簡素化できると共に、絶縁型であるので安全性が確保される。
【0057】
図1、
図4及び
図5に示したように、トランスの一次側において2つのMOSFETグループを交互にスイッチングすることにより、単一スイッチング素子をスイッチングする場合に比べて大出力が得られる。なお、上述した各実施形態おいて、スイッチング部におけるスイッチング素子は、MOSFET以外にIGBT又はバイポーラトランジスタでもよい。
【0058】
また、スイッチング部に設けた逆流防止ダイオードは、入力側への還流を防ぐ目的であるのでFETを用いてもよい。その場合、逆流防止FETは、還流阻止対象の対応するFETと同じタイミングでオンオフ制御されるが、逆流防止FETのボディダイオードは、対応するFETのそれとは逆向きとなるように接続される。本明細書では、これらの逆流防止ダイオード及び逆流防止FETをまとめて、「逆流防止素子」と称する。
【0059】
また
図1及び
図6に示したように、トランスの二次側において、通常のフォワード方式におけるリアクトルを並列な2回路に分割することにより、電流供給能力が増えると共に、一次側の駆動負担が軽減される。なお、二次側の回路構成におけるダイオードは、同等の機能を有する整流素子に置き換えることができ、そのような整流素子もダイオードの概念に含まれるものとする。
【0060】
以上に説明した本発明の絶縁型スイッチング電源は、図示の構成例に限られず、本発明の主旨に沿う範囲において多様な変形が可能である。
【符号の説明】
【0061】
p 正の出力端
n 負の出力端
T トランス
N1、N11、N12 一次コイル
N2 二次コイル
Q1、Q2、Q3、Q4 MOSFET
D1、D2 逆流防止ダイオード
D3~D6 ダイオード
L1 第1のリアクトル
L2 第2のリアクトル
C 平滑コンデンサ