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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】海苔網の酸処理船
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/02 20060101AFI20220401BHJP
   B63B 35/14 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
A01G33/02 101J
B63B35/14 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018013437
(22)【出願日】2018-01-30
(65)【公開番号】P2019122355
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2018005016
(32)【優先日】2018-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208787
【氏名又は名称】第一製網株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藤本 啓明
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特許第6218984(JP,B1)
【文献】特許第6161016(JP,B1)
【文献】登録実用新案第3212304(JP,U)
【文献】特開平08-242658(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105379613(CN,A)
【文献】登録実用新案第3210762(JP,U)
【文献】特開平05-095740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/02
B63B 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、酸処理液を収容する酸処理槽と、該酸処理槽内に酸処理液の原液を供給する酸原液供給装置と、前記酸処理槽内の酸処理液のpH値を検出し、その検出値に基づいて前記酸原液供給装置を作動させて、酸処理液を一定のpH値に制御する制御部とを備えた海苔網の酸処理船であって、前記酸原液供給装置には、前記酸処理槽上の任意の位置に、酸原液を噴出する複数の吐出孔を有する有底筒状の管状部材を少なくとも1つ以上備えると共に、該管状部材は内径が3~8mmであり、吐出孔の数が3~10個であり、該吐出孔の孔径が1.0~2.0mmであり、前記管状部材の最初の吐出孔の孔径に対して最後の吐出孔の孔径の比が1.08~1.27倍となることを特徴とする海苔網の酸処理船。
【請求項2】
前記管状部材の吐出孔の数(a)が4個以上の場合は、最初の吐出孔と2番目の吐出孔との間隔(X1)と、最後の吐出孔の一つ前の吐出孔と最後の吐出孔の間隔が同じ(X1=Xa-1,aは吐出孔の個数)であり、2番目の吐出孔(X2)から最後の吐出孔の一つ前の吐出孔(Xa-1)の各間隔が同じ(X2=X3=…)であることを特徴とする請求項1に記載の海苔網の酸処理船。
【請求項3】
海苔網の酸処理船には、酸処理槽内に海苔網を巻き取る巻取ロールが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の海苔網の酸処理船。
【請求項4】
前記海苔網の酸処理船には、前記酸処理槽の中央部に懸架された支持部材と、該支持部材から前記酸処理槽の酸処理液に垂下するシート状部材とを有し、該シート状部材の片側又は両側に前記管状部材を備えたことを特徴とする請求項1~何れか一つに記載の海苔網の酸処理船。
【請求項5】
前記管状部材の各吐出孔には、可撓性チューブが取り付けられると共に、該可撓性チューブは、チューブ内に滴下される酸原液を視認することができるものから構成されていることを特徴とする請求項1~の何れか一つに記載の海苔網の酸処理船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖中に海苔網に付着する珪藻類や赤腐れ菌などの菌類を酸処理剤(液)で酸処理する海苔網の酸処理船に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、海苔養殖場において海面部分に展張されている海苔網に付着する珪藻類や赤腐れ菌などの菌類をクエン酸、リンゴ酸などの有機酸等の組み合わせからなる配合組成の酸処理剤によつて効果的に酸処理を施す海苔網の酸処理船は数多くの型式、構造のものが知られている。
【0003】
このような海苔網の酸処理船としては、一般に、一定のpH値の酸処理液に海苔網を浸漬することにより、海苔の成長を早め、しかも、各海苔網の成長を一定状態として、良質の海苔を収穫することができる海苔網の酸処理船である。
この海苔網の酸処理船は、船内に、一定の容量の酸処理槽と、海苔網の引上装置と、同酸処理槽内に酸原液を補給する酸原液補給装置と、酸処理槽内の酸処理液のpH値を検出し、その検出値に基づいて前記補給装置を作動させて、酸処理液を一定のpH値、例えばpH2.0前後に保持する制御部とより構成されたものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、小型の海苔網の酸処理船として、箱形船を用いた酸処理船が知られている。この小型の海苔網の酸処理船としては、例えば、
1) 海から海苔網を巻き上げるための海苔網巻上装置を設けた酸処理槽と、薬液を循環させるための薬液循環装置と、薬液循環装置で循環させる薬液の濃度を検出するための濃度検出装置とを有する海苔網酸処理船(例えば、特許文献2参照)、
2) 海苔養殖場に張られている海苔網を活性処理する活性処理剤が収容されている活性処理剤タンクと、前記活性処理剤と水とが混合された処理水が収容されて前記海苔網の活性処理が行われる処理槽と、前記活性処理剤タンクから前記処理槽へ供給パイプを介して前記活性処理剤を供給手段とを備えている海苔網活性処理剤の供給装置(例えば、特許文献3参照)
3) 酸処理液を所望のpH値に維持することが可能な箱型船として、酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着した海苔網を巻き取る一対の巻取ロールとを備える箱型船であって、前記酸処理槽に設けられ、前記酸処理液のpHを検出するpHセンサと、前記巻取ロールに巻き取られる前記海苔網と干渉しない位置に設けられ、酸原液を吐出する原液吐出部と、前記pHセンサの検出値に基づいて前記原液吐出部に供給する前記酸原液の供給量を自動調節する原液供給装置とを備え、前記原液吐出部は、前記一対の巻取ロールの間に設けられ、前記酸処理液の液面に対峙するように前記酸処理槽の上方に設けられた棒状部材と、該棒状部材から前記酸処理液の液面に向かって垂下するシート部材と、該シート部材の両側に前記棒状部材に沿って設けられ、前記酸原液を前記シート部材に向かって吐出する複数の吐出孔が所定間隔で形成された管状部材とを備えることを特徴とする箱型船(例えば、特許文献4参照)、
4) 海苔網の酸処理において酸原液や所望濃度よりも高い濃度の酸処理液が海苔網に接触することを抑制するために、酸原液が希釈された酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着した海苔網を巻き取る巻取ロールとを備える箱型船であって、該巻取ロールから離間すると共に垂下する可撓性シート及び該可撓性シートの表面に前記酸原液を吐出する酸原液吐出部を備えており、前記酸原液を前記可撓性シートの表面を流下させて前記酸処理槽に供給する酸原液供給部とを備え、前記酸原液供給部は、前記可撓性シートの下端が前記巻取ロールに近づくように前記酸処理槽が傾斜した場合に、前記酸処理液の液面において前記可撓性シートの下端よりも前記巻取ロールから遠い位置に前記酸原液を供給することを特徴とする箱型船(例えば、特許文献5参照)、
などが知られている。
【0005】
前記特許文献1~5の海苔網の酸処理船等では、一定容量の酸処理槽内の酸処理液のpH値を検出し、その検出値に基づいて供給装置のポンプ等を作動させて、処理槽内に酸処理液(酸原液等)を吐出孔を有する供給パイプや管状部材などを介して酸処理槽に供給して酸処理槽内の酸処理液を一定のpH値、通常、pH2.0前後に保持するものであった。
しかしながら、上記特許文献1~5に用いられている供給パイプや管状部材は、主に塩化ビニール製の水道管等を転用したものであるので、その内径が13mm以上と大きく、また、供給パイプや管状部材に形成される吐出孔の孔径も同じ大きさ、各吐出孔間の間隔(距離)も同じ間隔であった。そのため、供給ポンプから供給される酸原液等の一部が供給パイプや管状部材内に残存し、設定したpH値に低下しなかったりし、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離が生じ、十分な酸処理が効率的に行えないという課題が生じている。
【0006】
また、上記特許文献4及び5の海苔網の酸処理船では、更に、酸原液をシート部材に向かって吐出する方式であるので、管状部材内の残存の他、表面積の大きいシート部材に酸原液の一部が付着などして残存するものとなるので、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離が更に大きく、十分な酸処理が効率的に行えないという課題が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-95740号公報(特許請求の範囲、図1等)
【文献】実用新案登録第3212304号公報(実用新案登録請求の範囲、図1等)
【文献】実用新案登録第3210762号公報(実用新案登録請求の範囲、図1等)
【文献】特許第6161016号公報(特許請求の範囲、図1,2等)
【文献】特許第6218984号公報(特許請求の範囲、図1図4等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来の課題等について、これを解消しようとするものであり、養殖中に海苔網に付着する珪藻類や赤腐れ菌などの菌類を酸処理剤(液)で酸処理する海苔網の酸処理船において、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離を最小限として、且つ、酸処理槽内の濃度ムラが生じないようにして、十分な酸処理を効率的に行える海苔網の酸処理船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記従来の課題等について鋭意検討した結果、少なくとも、酸処理液を収容する酸処理槽と、該酸処理槽内に酸処理液の原液を供給する酸原液供給装置と、酸処理槽内の酸処理液のpH値を検出し、その検出値に基づいて前記酸原液供給装置を作動させて、酸処理液を一定のpH値に制御する制御部とを備えた海苔網の酸処理船であって、前記酸原液供給装置には、前記酸処理槽上の任意の位置に、酸原液を噴出する複数の吐出孔を有する有底筒状の管状部材を少なくとも1つ以上備えると共に、該管状部材の内径、吐出孔の数、吐出孔の孔径、最初の吐出孔の孔径に対して最後の吐出孔の孔径の比をそれぞれ特定の範囲とすることにより、上記海苔網の酸処理船が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち、次の(1)~(6)に存する。
(1) 少なくとも、酸処理液を収容する酸処理槽と、該酸処理槽内に酸処理液の原液を供給する酸原液供給装置と、前記酸処理槽内の酸処理液のpH値を検出し、その検出値に基づいて前記酸原液供給装置を作動させて、酸処理液を一定のpH値に制御する制御部とを備えた海苔網の酸処理船であって、前記酸原液供給装置には、前記酸処理槽上の任意の位置に、酸原液を噴出する複数の吐出孔を有する有底筒状の管状部材を少なくとも1つ以上備えると共に、該管状部材は内径が3~8mmであり、吐出孔の数が3~10個であり、該吐出孔の孔径が1.0~2.0mmであることを特徴とする海苔網の酸処理船。
(2) 前記管状部材の最初の吐出孔の孔径に対して最後の吐出孔の孔径の比が1.08~1.27倍となることを特徴とする上記(1)記載の海苔網の酸処理船。
(3) 前記管状部材の吐出孔の数(a)が4個以上の場合は、最初の吐出孔と2番目の吐出孔との間隔(X)と、最後の吐出孔の一つ前の吐出孔と最後の吐出孔の間隔が同じ(X=Xa-1,aは吐出孔の個数)であり、2番目の吐出孔(X)から最後の吐出孔の一つ前の吐出孔(Xa-1)の各間隔が同じ(X=X=…)であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の海苔網の酸処理船。
(4) 海苔網の酸処理船には、酸処理槽内に海苔網を巻き取る巻取ロールが設けられていることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の海苔網の酸処理船。
(5) 前記海苔網の酸処理船には、前記酸処理槽の中央部に懸架された支持部材と、該支持部材から前記酸処理槽の酸処理液に垂下するシート状部材とを有し、該シート状部材の片側又は両側に前記管状部材を備えたことを特徴とする上記(1)~(4)の何れか一つに記載の海苔網の酸処理船。
(6) 前記管状部材の各吐出孔には、視認性を有する可撓性チューブが取り付けられたことを特徴とする上記(1)~(5)の何れか一つに記載の海苔網の酸処理船。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1及び2によれば、酸原液を供給する管状部材の内径、吐出孔の数、吐出孔の孔径及び最初の吐出孔の孔径に対して最後の吐出孔の孔径の比を各特定の範囲に設定することにより、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離を最小限として、且つ、酸処理槽内の濃度ムラが生じないようにして、十分な酸処理を効率的に行える海苔網の酸処理船が提供される。
請求項3の発明によれば、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離を更に必要最小限として、十分な酸処理を更に効率的に行える海苔網の酸処理船が提供される。
請求項4及び5の発明によれば、各種装置(巻取ロール、シート状部材)を有する海苔網の酸処理船にも十分な酸処理を効率的に行えるものとなる。
請求項6の発明によれば、酸原液を酸処理槽内に確実に供給でき、十分な酸処理を効率的に行える海苔網の酸処理船が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態を示す海苔網の酸処理船の図面であり、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。
図2】(a)は図1の海苔網の酸処理船に用いる管状部材の一例を示す底面側から見た図面、(b)は図1(b)の概略側面図である。
図3】(a)は、図1の海苔網の酸処理船に用いる管状部材の比較形態の一例を示す底面側から見た図面であり、(b)~(d)は図1の海苔網の酸処理船に用いる管状部材の他例を示す底面側から見た各図面である。
図4】本発明の第2実施形態を示す海苔網の酸処理船の図面であり、(a)は概略正面図、(b)は(a)の概略側面図、(c)は管状部材と可撓性チューブとの取り付け状態の一例を示す概略図面である。
図5】本発明の第3実施形態を示す海苔網の酸処理船の図面であり、(a)は概略正面図、(b)は(a)の概略側面図である。
図6】本発明の第4実施形態を示す海苔網の酸処理船の概略平面図である。
図7】本発明の第5実施形態を示す海苔網の酸処理船の図面であり、(a)は概略平面図、(b)は実施状態の一例を示す概略側面図である。
図8】試験2における測定用ハンディpH計5台を海苔網の酸処理船の酸処理槽に網羅するように配置した配置図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の各実施形態を詳しく説明する。
図1は、本発明の第1実施形態を示す海苔網の酸処理船の図面であり、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図、図2(a)は図1の海苔網の酸処理船に用いる管状部材の一例を示す底面側から見た図面、(b)は図1(b)の概略側面図である。
本第1実施形態の海苔網の酸処理船Aは、図1(a)及び(b)に示すように、FRP等の繊維強化プラスチック等から構成される樹脂製の船本体10内に、少なくとも、酸処理液11を収容する酸処理槽15と、該酸処理槽15内に設けられる海苔網(図示せず)を巻き取る巻取ロール20と、前記酸処理槽15の中央部に懸架された支持部材25と、該支持部材25から前記酸処理槽15の酸処理液11に向かって垂下するシート状部材30と、前記酸処理槽15内に酸処理液11の酸原液Zを供給する酸原液供給装置40と、酸処理槽15内の酸処理液11のpH値を検出し、その検出値に基づいて前記酸原液供給装置40を作動させて、酸処理液11を一定のpH値に制御する制御部50とを備えたものである。
【0014】
酸処理液11は、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸等の酸原液〔市販品があれば市販の酸処理剤(液)、本実施形態では、第一製網社製の「グローゲン」〕Zが海水等によって希釈されたものであり、所定のpH値、例えば、pH1.7~2.3を有する酸希釈液である。
この酸処理液11は、酸処理槽15内に一定量(500~1,000L)が収容されており、巻き取られる海苔網(図示せず)を浸漬処理することによって海苔網に付着した海苔を酸処理するものである。
【0015】
酸処理槽15は、船本体10の中央に形成された長方形状の凹状体となっており、所定量の酸処理液11を収容するものである。酸処理槽15の両側のスペース16、16には、酸原液供給装置40、制御部50、巻取ロール等の駆動部22、これらを駆動するバッテリー(図示せず)などが配置されると共に、作業者が作業するスペースとなっている。
【0016】
巻取ロール20は、海苔網を巻き取る回転軸であり、少なくとも1つ有するものであるが、本実施形態では、酸処理槽15内の所定の箇所に一対配置されている。この巻取ロール20、20は、回転自在に取り付けられており、一方の巻取ロール20は船本体10が前進した際(図1上では上側)に前方の海苔網を順次巻き取るものであり、他方の巻取ロール20は、船本体10が後進した際(図1上では下側)に後方の海苔網を順次巻き取るものである。また、本実施形態では、支持部材25の両側近傍に、海苔網を海側に繰り出す回転軸となる繰出ロール21、21が回転自在に取り付けられている。
前記支持部材の両側に配置される一対の巻取ロール20と繰出ロール21は、スペース16に設けられる操作装置を有する駆動部22、22により駆動される。
【0017】
支持部材25は、棒状の部材から構成され、前記酸処理槽15の幅方向の中央部に懸架されるものであり、酸処理槽15の両側の上面部に取付部材(図示せず)を介して又は直接固着されるものである。
この支持部材25には、酸処理槽15の酸処理液11に向かって垂下する樹脂製のシート状部材30、本実施形態では軟質塩化ビニール製のシート状部材30が取り付けられており、酸処理槽15の酸処理液11内の底部近傍まで配置されている。シート状部材30の底部には、重り(沈子)となる棒状の部材31が取り付けられている。
このシート状部材30は、シート状部材30の両側に配置される巻取ロール20又は繰出ロール21に巻き取られた海苔網同士の直接接触による絡まりを防止する部材(カーテン)となるものである。従って、シート状部材30の下部は、酸処理槽15の酸処理液11内の底部近傍まで配置されていることが好ましい。
【0018】
酸原液供給装置40は、図1(a)に示すように、酸処理槽15のスペース16の適宜位置(海苔網の巻き取り及び繰り出しに干渉しない程度に酸処理槽から離れ、作業の邪魔にならない、例えば、作業者簡易座席の下空間)に配置されるものであり、前記酸処理槽15内に酸処理液11の酸原液Zを供給するものである。本実施形態では、酸原液供給装置40には、酸処理液11の酸原液Zを収容する原液タンク41と、該原液タンク41からポンプ42を介してライン43により連結されている。
制御部50は、酸処理槽15内の適宜位置(酸処理槽の平均的pHを検出可能な中央位置で、操出ロールに干渉されない、例えば、シート状部材近傍)に、酸処理液11のpH値を検出するpH検出器51を有し、pH検出器51で検出した検出値に基づいて前記酸原液供給装置40のポンプ42を作動させて、酸処理槽15内へ酸処理液の酸原液Zを供給して酸処理液を一定のpH値に制御するための装置である。制御部50は、pH検出器51の検出値に基づいて、供給する酸原液Zの供給量を自動調節するものである。
【0019】
シート状部材30の上部両側には、前記支持部材25の近傍に樹脂製の管状部材60、本実施形態ではFRP製の管状部材60が結束バンド等の取り付け具26により取り付けられている。
この管状部材60には、図1(b)及び図2(a)、(b)に示すように、一方の開口部60aから酸原液Zが供給され、他方の端部60bには栓部材60cが固着されており、管状部材60の下部(底面側)に、酸原液を滴下する複数の吐出孔61a、61b…、本実施形態では5個の吐出孔61a~61eが設けられている。
なお、本発明に用いる管状部材60は、FRP製の他、酸原液Zに対して耐酸性、耐候性、耐久性などを有するものであれば、特に限定されず、塩化ビニール製(以下、単に、「塩ビ」という場合がある)などの各種樹脂で構成でき、また、不透明(肉眼で酸原液を確認できないもの)、視認性を有する(肉眼で酸原液を確認できる)ものの何れかであってもよく、透明、半透明であれば、酸原液の送液状態が肉眼で確認できるものとなる。
【0020】
本発明では、酸原液の管状部材60内での残存漏れや空隙ロスを極めて少なくすることでポンプと吐出孔噴出の始動及び停止の応答時間差をなくし、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離を最小限として、十分な酸処理が効率的に行えるようにするため、管状部材60の内径は3~8mmとすることが必要であり、また、吐出孔の数を3~10個とし、吐出孔の孔径(直径)を1.0~2.0mmであることが必要である。そして、複数吐出孔の噴出量バランスを調整して、酸処理槽の濃度ムラを更になくすために、好ましくは、管状部材60の内径を3~5mmとし、また、最初の吐出孔61aの孔径に対して最後の吐出孔61eの孔径の比が1.08~1.27倍となることが望ましい。
ここで、管状部材60の内径とは、管状部材60の直径(外径)から、管の厚み分を差し引いた、実際に液体(酸原液)が流れる部分の径のことを指す〔図2(a)の図示符号D〕。また、管状部材60の長手方向に垂直な断面は、円形であることが好ましい。また、前記垂直断面が楕円形である場合、管状部材60の内径とは、管状部材の前記垂直断面の中心を通るように引かれた直線の内、最も長い線のことを指す。また、管状部材は長手方向において内径が変化しない形状であることが好ましい。
なお、管状部材60の長さは、海苔網の巻き取り及び繰り出しなどに干渉しない箇所で、酸処理槽15上の任意の位置に配置するものであるので、酸処理槽15の大きさなどにより変動するが、酸処理槽15の幅方向の長さと同じか、取り付け態様を勘案すれば若干長いか若干短いものとなる。本実施形態では、酸処理槽15の幅方向の長さが210cmであり、管状部材60の長さは、190cmである。また、管状部材60の外径は8~13mmであることが好ましい。
【0021】
上記管状部材60の内径は3~8mmであり、好ましくは、3~7mm、更に好ましくは、3~5mmであることが望ましい。この管状部材60の内径が8mm超過であると、酸原液の管状部材60内での残存漏れや空隙量が多くなるため、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離が大きくなり、好ましくなく、一方、内径が3mm未満であると、噴出量(トータル量)の低下及び複数吐出孔の噴出量バランスの調整が困難となり、好ましくない。
また、管状部材60に形成した吐出孔61の数は、管状部材60の長さ、すなわち、酸処理槽15上に配置するものであるので、酸処理槽15の大きさなどにより変動するが、(管状部材1本あたりに)3~10個であり、好ましくは、3~6個、特に好ましくは、5~6個とすることが望ましい。この吐出孔61の数が2個以下であると、酸処理槽15への吐出(滴下を含む)箇所が少なく、酸処理槽15内での溶解等に時間がかかり濃度ムラが生じ、一方、10個超過であると、複数吐出孔の噴出量バランスの調整が複雑化することとなり、好ましくない。
更に、吐出孔の孔径が1.0mm未満であると、噴出量(トータル量)の低下と管状部材60の各吐出孔61、61…に均一に配分することができず、酸処理槽内の濃度ムラの要因となり、一方、吐出孔の孔径が2.0mm超過であると、管内の圧力が不足する傾向となり、管状部材60の各吐出孔61、61…に安定圧力で配分することができず、酸処理槽内の濃度ムラの要因となり、好ましくない。
最初の吐出孔61aの孔径に対して最後の吐出孔61eの孔径の比は同じであっても良いが、1.08倍未満であると、最後の吐出孔61eの噴出量が若干過少となり、一方、上記孔径の比が1.27倍超過であると、最後の吐出孔61eの噴出量が若干過多となる。
これらの内径、吐出孔の数及び孔径、孔径の比の関係性等については、後述する実施例等で詳述する。
【0022】
前記管状部材60の各吐出孔61a、61b…の間隔(距離)は、所定間隔でよいが、吐出孔の数が4個以上の場合は、酸原液を更に均一に吐出(滴下含む)せしめる点等から、最初の吐出孔と2番目の吐出孔との間隔(X)と、最後の吐出孔の一つ前の吐出孔と最後の吐出孔の間隔が同じ(X=Xa-1,aは吐出孔の個数)であり、2番目の吐出孔(X)から最後の吐出孔の一つ前の吐出孔(Xa-1)の各間隔が同じ(X=X=…)であることが好ましい。
本実施形態では、図2(a)に示すように、酸原液Zのポンプ42の圧力(水圧)、管状部材の長さを勘案して、各吐出孔61a~61eから酸原液を更に均一に吐出(滴下含む)せしめる点等から、吐出孔61a、61b…間の距離(長さ)を変動せしめており、最初の吐出孔61aと2番目の吐出孔61bとの間隔(X)と、最後の吐出孔の一つ前の吐出孔61dと最後の吐出孔61eの間隔(X)が同じであり、2番目の吐出孔(X)から最後の吐出孔の一つ前の吐出孔の各間隔(X)の各間隔が同じ(X=X)であることが望ましい。
【0023】
本実施形態では、管状部材60の長さ(全長X:一方の端部から他方の端部、以下同様)が190cmであり、内径3mm、外径8mmであり、5つの吐出孔61a~61eを有し、最初の吐出孔61a(中心、以下同様)までの間隔(距離X)が35cm、最初の吐出孔61aと次の吐出孔61bまでの間隔(距離X)が40cm、次の吐出孔61c、61dまでの間隔(距離X、距離X)が各20cm、次の吐出孔61eまでの間隔(距離X)が40cmとなっており、吐出孔61a~61dの孔径が1.5mm、最後の吐出孔61eの孔径が1.9mm(1.27倍)となっている。
これらの管状部材60の内径、吐出孔61a~61e間の間隔(距離)、また、各吐出孔の孔径(孔の大きさ)、その数等は、酸処理槽15の大きさ、形状、ポンプ種等により上記各範囲で変動させることができる。なお、管状部材60の入口となる端部から最初の吐出孔までの長さ(X)は、処理槽の大きさ、取り付け態様により変動するが全長Xに対して、0.12X~0.25Xであることが好ましい。
【0024】
このように構成される本第1実施形態の海苔網の酸処理船による海苔網の酸処理作業について、以下に、説明する。なお、船本体10が前進する場合と後進する場合とでは、同様であるので、本実施形態においては、船本体10が前進する場合(図1の上側)についてのみ説明する。
海苔網の酸処理船Aを養殖している海苔網が設置されている海上まで移動させた後、船本体10を海苔網を巻き取る力により前進せしめると、前進するにつれて、海苔網が酸処理槽15に前方から侵入し、侵入した海苔網は、駆動部22の駆動により巻取ロール20が回転することによって、順次巻取ロール20に巻き取られることとなる。巻き取られた海苔網は、酸処理槽15内に収容されている酸処理液11に浸漬処理され、海苔が酸処理されることとなる。
酸処理槽15内には、酸処理液11のpHをpH検出器51により検出し、このpH検出器51が検出した検出値は、制御部50に出力される。制御部50は、pH検出器51から入力された検出値と予め設定した制御しきい値とに基づいて、酸原液供給装置40のポンプ42をフィードバック制御する。ポンプ42は、制御部50から入力される作動信号に基づいて、該作動信号に応じた所定量の酸原液Zを酸原液タンク41から吸い出してライン44により管状部材60、60に供給する。また、前記制御部50は、pH検出器51の検出値に基づいて、ポンプ42を制御して酸処理液11に供給する酸原液Zの供給量を自動調節することができるものである。
【0025】
前記pH検出器51からの作動信号を受信したポンプ42によって酸原液タンク41から吸い出された酸原液Zは、管状部材60、60に供給され、管状部材60、60に設けられた複数の吐出孔61a、61b…から、酸処理液11内に吐出(滴下)される。酸処理液11内に滴下された酸原液Zは、酸処理液11内で直ぐに溶解することとなる。この溶解性は、前記酸原液Zが水溶性であり、船本体10の揺れ、巻取ロール20の回転などによって酸処理液11中に生成される回流等によって、酸処理液11が撹拌状態となることによって、酸処理での海水により薄まった酸処理液11中に溶解し拡散することとなり、これにより酸処理液11中の高値に変動したpH値を所定のpH値にすることができる。なお、pH値の表示は、制御部50に備えた防水性のpH表示液晶画面等(図示せず)で確認することもできる。
前記酸処理する養殖海苔の付着した海苔網が巻取ロール20への巻取りを経て更に操出ロール21に巻き取られ、酸処理された後、繰出ロール21に巻き付けられている海苔網は、船本体10が前進するにつれて、船本体10外へ巻き出されて巻き取った海苔網が設置されていた場所に設置されることとなる。
【0026】
このように構成される本第1実施形態の海苔網の酸処理船Aによれば、酸原液供給装置40には、支持部材25の近傍に設けられた酸原液Zを吐出する複数の吐出孔61a、61b…を有する管状部材60、60を備えており、該管状部材60の内径、吐出孔61a…の数、該吐出孔61a…の孔径を上記各特定の範囲に設定することにより、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離が最小限となり、十分な酸処理を効率的に行える海苔網の酸処理船が得られることとなる。好ましくは、上記条件に加え、更に、最初の吐出孔61aの孔径に対して最後の吐出孔61eの孔径の比を上記特定比の範囲(1.08~1.27倍)に設定することにより、更に設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離が極めて最小限となり、十分な酸処理を更に効率的に行える海苔網の酸処理船が得られることとなる。
【0027】
本発明に用いる管状部材60は、上述の如く、内径を3~8mmとし、吐出孔の数を3~10個とし、吐出孔の孔径を1.0~2.0mmとすることが必要であり、更に好ましい形態として、最初の吐出孔の孔径に対して最後の吐出孔の孔径の比を1.08~1.27倍とすることにより、酸原液の管状部材60内での残存漏れや空隙ロスを極めて少なくすることでポンプと吐出孔噴出の始動及び停止の応答時間差をなくし、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離を最小限として、且つ、酸処理槽内の濃度ムラが生じないようにして、十分な酸処理を更に効率的に行うことができるものとなる。
【0028】
図3の(b)~(d)は、上記実施形態の海苔網の酸処理船に用いる管状部材60の他例を示す底面側から見た各図面である。なお、図3(a)は、比較形態の図面である。
図3(a)は、管状部材60(FRP素材)の長さが200cmであり、内径3mm、外径8mmであり、2つの吐出孔61a、61bを有し、最初の吐出孔61aまでの間隔(距離X)が70cm、最初の吐出孔61aと次の吐出孔61bまでの間隔(距離X)が60cmとなっており、吐出孔61aの孔径が1.2mm、最後の吐出孔61bの孔径が1.5mm(1.25倍)となっている。
図3(b)は、管状部材60(FRP素材)の長さが200cmであり、内径3mm、外径8mmであり、3つの吐出孔61a~61cを有し、最初の吐出孔61aまでの間隔(距離X)が50cm、最初の吐出孔61aと次の吐出孔61bまでの間隔(距離X)が50cm、次の吐出孔61cまでの間隔(距離X)が50cmとなっており、吐出孔61a~61bの孔径が1.2mm、最後の吐出孔61cの孔径が1.5mm(1.25倍)となっている。
図3(c)は、管状部材60(FRP素材)の長さが200cmであり、内径3mm、外径5mmであり、6つの吐出孔61a~61fを有し、最初の吐出孔61aまでの間隔(距離X)が25cm、最初の吐出孔61aと次の吐出孔61bまでの間隔(距離X)が30cm、次の吐出孔61c、61d、61eまでの間隔(距離X、距離X、距離X)が各30cm、次の吐出孔61fまでの間隔(距離X)が30cmとなっており、吐出孔61a~61eの孔径が1.2mm、最後の吐出孔61fの孔径が1.2又は1.3又は1.5又は1.6mm(1.00又は1.08又は1.25又は1.33倍)となっている。
図3(d)は、管状部材60(透明な塩ビ素材)の長さが200cmであり、内径5mm、外径10mmであり、6つの吐出孔61a~61fを有し、最初の吐出孔61aまでの間隔(距離X)が25cm、最初の吐出孔61aと次の吐出孔61bまでの間隔(距離X)が30cm、次の吐出孔61c、61d、61eまでの間隔(距離X、距離X、距離X)が各30cm、次の吐出孔61fまでの間隔(距離X)が30cmとなっており、吐出孔61a~61eの孔径が1.8mm、最後の吐出孔61fの孔径が2.0又は2.1〔比較形態〕mm(1.11又は1.17倍)となっている。
【0029】
図4は、本発明の第2実施形態を示す海苔網の酸処理船の要部を示す図面である。以下の第2実施形態~第5実施形態において、前記第1実施形態と同様の構成は、図面において同一の図示符号を示し、その説明を省略する。
本発明となる第2実施形態を示す海苔網の酸処理船Bは、上記管状部材60の各吐出孔61a~61eに、該各吐出孔61a~61eから吐出する酸原液Zを酸処理液11の液面に導く樹脂製、エラストマー製又はゴム製の視認性を有する可撓性チューブ62、62…を固着、溶着、取り付け具などにより取り付けた形態となるものある。
視認性を有する可撓性チューブ62、62…の長さは、図4(a)に示すように、管状部材60、60の下部から液面Yまでの長さ(距離)をWとした場合に、本実施形態のチューブ62a、62a…の長さは2/3Wであり、この長さであれば、視認性を有する可撓性チューブ62a、62a…から吐出する酸原液Zがシート状部材30に更に付着することなく、酸処理液に滴下されるものとなる。
【0030】
また、可撓性チューブ62、62…は、視認性を有する(肉眼で酸原液を確認できる)ものであればよく、透明、半透明の何れでもよく、透明、半透明であれば、可撓性チューブ内の酸原液Zの滴下が肉眼で確認できるものとなる。また、視認性を有する可撓性の孔径(内径)は、吐出孔61a~61e61の孔径と同じ又は大きい孔径となっており、本実施形態では、内径6mmであり、塩化ビニール製の透明な視認性を有する可撓性チューブから構成されている。
【0031】
本第2実施形態においても、前記第1実施形態と同様に、酸原液供給装置40、制御部50等の作動により、前記酸処理作業により高値に変動した酸処理液のpH値を所定のpH値に自動調節することができ、また、管状部材60の内径、吐出孔61a…の数、該吐出孔61a…の孔径、及び、最初の吐出孔61aの孔径に対して最後の吐出孔61eの孔径の比を上記各特定の範囲に設定することにより、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離が最小限となり、且つ、酸処理槽内の濃度ムラが生じないようにして、十分な酸処理を効率的に行えるものとなる。更に、本実施形態では、シート状部材30に酸原液Zを吐出するものではないので、シート状部材30に酸原液Zが付着することもなく、巻き取られた海苔網がシート状部材30に残存する酸原液に接触することがなく、酸原液の飛沫もなく、海苔網を確実に酸処理液で酸処理でき、無駄な酸原液の消費が行われることがない海苔網の酸処理船が得られることとなる。
前記第2実施形態において、前記視認性を有する可撓性チューブ62a、62a…の長さを2/3Wとしたが、管状部材60、60の取り付け位置をシート状部材30に吐出される酸原液Zが付着できない場所に取り付けたりすれば、酸処理液の液面までの長さの1/3Wであってもよく、また、視認性を有する可撓性チューブ62a、62a…の長さWが前記液面に接触するまでの長さ、更に、液面Yより下部となる酸処理液11内に侵入する長さとしてもよいものである。
【0032】
図5は、本発明の第3実施形態を示す海苔網の酸処理船の要部を示す図面である。
本発明の第3実施形態を示す海苔網の酸処理船Cは、酸原液を吐出する複数の吐出孔61a、61b…を備えた管状部材60、60が、酸処理液の液面Yの近傍、具体的には、液面Yから1~15cmの上部に設けられたものである。本実施形態では、液面Yから5cmの上部に設けられたものである。
本第3実施形態においても、前記第1実施形態と同様に、酸原液供給装置40、制御部50等の作動により、前記酸処理作業により高値に変動した酸処理液のpH値を所定のpH値に自動調節することができ、また、該管状部材60の内径、吐出孔61a…の数、該吐出孔61a…の孔径、及び、最初の吐出孔61aの孔径に対して最後の吐出孔61eの孔径の比を上記各特定の範囲に設定することにより、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離が最小限となり、且つ、酸処理槽内の濃度ムラが生じないようにして、十分な酸処理を効率的に行える海苔網の酸処理船が得られることとなる。更に、酸原液を吐出する吐出孔61a、61b…を備えた管状部材60、60は酸処理液の液面Yの近傍に設けたものであるので、管状部材60、60の吐出孔61a、61b…の吐出が肉眼で確認でき、シート状部材30に酸原液が付着することもなく、しかも、巻き取られた海苔網がシート状部材30に残存する酸原液に接触することがないので、海苔網を確実に酸処理液で酸処理できる海苔網の酸処理船が得られることとなる。
【0033】
図6は、本発明の第4実施形態を示す海苔網の酸処理船の要部を示す図面である。
本発明の第4実施形態を示す海苔網の酸処理船Dは、シート状部材30が存在しない場合の形態であり、酸処理槽15の両側端部に設けた支持部材26,26に前記第1実施形態と同様の吐出孔61a~61eを有する管状部材60、60を取り付けたもので、上記第1実施形態と相違するものである。
本第4実施形態においても、酸原液供給装置40、制御部50等の作動により、前記酸処理作業により高値に変動した酸処理液のpH値を所定のpH値に自動調節することができ、また、管状部材60の内径、吐出孔61a…の数、該吐出孔61a…の孔径、及び、最初の吐出孔61aの孔径に対して最後の吐出孔61eの孔径の比を上記第1実施形態で詳述した各特定の範囲に設定することにより、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離が最小限となり、且つ、酸処理槽内の濃度ムラが生じないようにして、十分な酸処理を効率的に行える海苔網の酸処理船が得られることとなる。
【0034】
図7は、本発明の第5実施形態を示す海苔網の酸処理船の要部を示す図面である。
本発明の第5実施形態を示す海苔網の酸処理船Eは、巻取ロールを設けない素通し酸処理船に適用したものであり、酸処理槽15の進行側端部に設けた支持部材26に前記第1実施形態と同様の吐出孔61a、61b…を有する管状部材60〔図2(a),図3(b)~(d)等〕を取り付けたものである。
本第5実施形態においても、酸原液供給装置40、制御部50等の作動により、前記酸処理作業により高値に変動した酸処理液のpH値を所定のpH値に自動調節することができ、また、管状部材60の内径、吐出孔61a…の数、該吐出孔61a…の孔径、及び、最初の吐出孔61aの孔径に対して最後の吐出孔61c又はfの孔径の比を上記第1実施形態で詳述した各特定の範囲に設定することにより、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離が最小限となり、且つ、酸処理槽内の濃度ムラが生じないようにして、十分な酸処理を効率的に行える海苔網の酸処理船が得られることとなる。
【0035】
このように構成される本第5実施形態の海苔網の酸処理船による海苔網の酸処理作業(素通し処理)について、以下に、説明する〔図7(b)〕。
海苔網の酸処理船Eを養殖している海苔網Nが設置されている海上まで移動させた後、海苔網ガイド71を海苔網Nの下に潜らせて船本体10を(図に示す進行方向に)船外機70の駆動力により前進せしめると、前進するにつれて、海苔網Nが酸処理槽15に前方から侵入し、侵入した海苔網Nは、塩ビ製等の両端有底円筒形の浮上体(俗称「コロ」)72の下方を通り、酸処理槽15内に収容されている酸処理液11に浸漬処理され、海苔が酸処理されることとなる。
酸処理槽15内には、酸処理液11のpHをpH検出器51により検出し、このpH検出器51が検出した検出値は、制御部50に出力される。制御部50は、pH検出器51から入力された検出値と予め設定した制御しきい値とに基づいて、酸原液供給装置40のポンプ42をフィードバック制御する。ポンプ42は、制御部50から入力される作動信号に基づいて、該作動信号に応じた所定量の酸原液Zを酸原液タンク41から吸い出してライン44により管状部材60に供給する。また、前記制御部50は、pH検出器51の検出値に基づいて、ポンプ42を制御して酸処理液11に供給する酸原液Zの供給量を自動調節することができるものである。
前記pH検出器51からの作動信号を受信したポンプ42によって酸原液タンク41から吸い出された酸原液Zは、管状部材60に供給され、管状部材60に設けられた複数の吐出孔61a、61b…から、酸処理液11内に吐出(滴下)される。酸処理液11内に滴下された酸原液Zは、酸処理液11内で直ぐに溶解することとなる。この溶解性は、前記酸原液Zが水溶性であり、船本体10の推進、海苔網の通過及びコロ72の回転などによって酸処理液11中に生成される回流等によって、酸処理液11が撹拌状態となることによって、酸処理での海水により薄まった酸処理液11中に溶解し拡散することとなり、これにより酸処理液11中の高値に変動したpH値を所定のpH値にすることができる。なお、pH値の表示は、制御部50に備えた防水性のpH表示液晶画面等(図示せず)で確認することもできる。
前記酸処理する養殖海苔の付着した海苔網Nは、コロ72の下方を通過し酸処理された後、船本体10が更に前進するにつれて、船本体10外、船後方へ位置することとなり海苔網Nが元の養殖海面へ戻ることとなる。
【0036】
本発明の海苔網の酸処理船は、少なくとも、酸処理液を収容する酸処理槽と、該酸処理槽内に酸処理液の原液を供給する酸原液供給装置と、酸処理槽内の酸処理液のpH値を検出し、その検出値に基づいて前記酸原液供給装置を作動させて、酸処理液を一定のpH値に制御する制御部とを備えた海苔網の酸処理船であって、前記酸原液供給装置には、前記酸処理槽上の任意の位置に、酸原液を噴出する複数の吐出孔を有する有底筒状の管状部材を少なくとも1つ以上備えると共に、該管状部材は内径、吐出孔の数、該吐出孔の孔径を各特定の範囲とすることを要旨とするので、上記第1実施形態~第5実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、以下の各変形の実施形態を採用することができる。
例えば、前記第1実施形態~第4実施形態の各種装置(巻取ロール、シート状部材等)を有する海苔網の酸処理船では、管状部材をシート状部材の両側などに2本設けたが、第5実施形態の巻取ロール、シート状部材を有しない海苔網の酸処理船(素通し船)のように海苔網の巻き取り及び繰り出しなどに干渉しない箇所で、酸処理槽上の任意の位置に配置するものであれば任意の位置に1本(片側)だけであってもよく、また、適用する酸処理槽の形態、巻取ロールやシート状部材の有無などにより海苔網の巻き取り及び繰り出しなどに干渉しない箇所となる酸処理槽上の任意の位置に3本以上の複数本を設けてもよいものである。
更に、取付け様式も酸処理槽に対して水平位置だけでなく、垂直又は斜め位置であってもよいものである。
【実施例
【0037】
次に、実施例及び比較例により、本発明を更に詳述するが、本発明は下記実施例等により制限されるものではない。
【0038】
〔実施例1~21及び比較例1~11〕
〔試験1〕
下記構成の海苔網酸処理船のテスト装置を用いて、下記表1に示す各管状部材(管状部材1~32)の内径、吐出孔の数、吐出孔の孔径、最初の吐出孔の孔径に対して最後の吐出孔の孔径の比を変動させたものを用いて、下記試験方法により、各吐出孔からの酸原液の噴出量バランスとポンプ/噴出の応答時間差について試験を行った。
【0039】
(海苔網酸処理船のテスト装置の主な構成)
酸原液Z:第一製網社製、「グローゲン」
ポンプ42:電磁駆動定量ポンプEHN、イワキ社製(吐出量:1000±50ml/分)
管状部材60の大きさ等:下記表1に示す各寸法
【0040】
(試験方法)
ポンプ42を始動させ、酸原液Zを管状部材60に送液し予め管内に酸原液を充填させ、ポンプ42を停止させた。その後速やかに、ポンプ42を1分間始動せしめて停止させ、管状部材の各吐出孔から噴出した酸原液を各々採取し、各吐出孔からの噴出量を測定した(2本の管状部材に分けた場合は、2本各吐出孔の合計)。この各噴出量より、最初の吐出孔と最後の吐出孔、2番目の吐出孔と最後から一つ前の吐出孔、前半の吐出孔と後半の吐出孔についての噴出量の相対差(噴出量バランス)を算出した。
また、ポンプ始動と管状部材の全吐出孔からの噴出開始の時間、ポンプ停止と管状部材の全吐出孔からの噴出停止の時間を測定し、ポンプと吐出の応答時間差を算出した。
これらの噴出量バランス、ポンプ/噴出応答時間差の各評価の目安を下記に示すと共に、その評価結果を下記表2に示す。
【0041】
〔評価の目安〕
噴出量バランスは、50%以下が好ましく、更に好ましくは35%以下、より好ましくは、20%未満、特に好ましくは10%未満が望ましい。
ポンプ/噴出応答時間差は、3秒未満が好ましく、更に好ましくは、2秒以下、より好ましくは、1秒以下が特に望ましい。
【0042】
〔試験2〕
図1及び図2、並びに、下記構成の海苔網の酸処理船を用いて、下記表1に示す各管状部材(管状部材1~32)の内径、吐出孔の数、吐出孔の孔径、最初の吐出孔の孔径に対して最後の吐出孔の孔径の比を変動させたものを用いて、下記試験方法により、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離について試験を行った。
【0043】
(海苔網の酸処理船の主な構成)
酸原液Z:第一製網社製、「グローゲン」
酸処理槽15に収容の海水:800L(熊本県荒尾市有明海地先採取の海水、以下同様)
ポンプ42:電磁駆動定量ポンプEHN、イワキ社製(吐出量:1000±50ml/分)
制御部50:pH検出器51の検出値に基づいて、供給する酸原液Zの供給量を自動調節する装置。
pH検出器51:PET-M3、セムコーポレーション社製
管状部材60の大きさ等:下記表1に示す各寸法
測定用pH計:ハンディpH計「TPX-999」、東興化学研究所社製
【0044】
(試験方法)
海苔網の酸処理船の酸処理槽15内の処理液pHをグローゲンを用いて2.00に予め調整した(処理液温度:18℃)。制御部50の設定pHを2.00とした。酸処理船の巻取りロールを回転させることにより撹拌しながら、この酸処理槽15に(希釈用)海水を毎分30Lを連続給水させ、そして、同液量の処理液を処理槽外に連続排水させた。この酸処理槽15内の処理液が継続的に希釈される状況(海苔養殖場の酸処理を模したもの)において、制御部50を10分間稼働させ、pH検出器51のモニターに表示されたpHを測定して、設定したpHとのpHの差(乖離)及び制御の振れ幅(最大値から最小値を引いた値)を算出した。
また、測定用ハンディpH計5台を酸処理槽15内を網羅するように5点に配置(最初の吐出孔に近い方から〈1〉、〈2〉、〈3〉、〈4〉、〈5〉の順番に配置、図8参照)させ、酸処理槽15内のpHバラツキ(各点平均における最大値から最小値を引いた値)を算出した。管状部材の本数が1本の場合は、図8上の支持部材25の上側に取り付けた。
これらの試験2の評価であるpH乖離、制御振れ幅、pHバラツキの各評価の目安、並びに、総合判定を下記に示すと共に、評価結果を下記表2に示す。
【0045】
〔評価の目安〕
pH乖離は、0.03以下が好ましく、0.02以下が特に好ましい(何れも絶対値)。
制御振れ幅は、0.06以下が好ましく、より好ましくは、0.05以下、特に好ましくは、0.04以下が望ましい。
pHバラツキは、0.1以下が好ましく、より好ましくは、0.06以下、直に好ましくは、0.04以下が望ましい。
【0046】
〔総合判定〕
◎:噴出量の相対差(バランス)15%以下、ポンプ/噴出応答時間差1秒以内、pH乖離0.02以下、制御振れ幅0.05以下、pHバラツキ0.04以下
○:噴出量の相対差(バランス)20%以下、ポンプ/噴出応答時間差2秒以内、pH乖離0.02以下、制御振れ幅0.06以下、pHバラツキ0.06以下
△~○:噴出量の相対差(バランス)50%以下、ポンプ/噴出応答時間差2秒以内、pH乖離0.03以下、制御振れ幅0.06以下、pHバラツキ0.10以下
△:噴出量の相対差(バランス)60%以下、ポンプ/噴出応答時間差2秒以内、pH乖離、0.05以下、制御振れ幅が0.10以下、pHバラツキが0.15以下
×:上記△の各評価目安において、少なくとも2つ以上が△の基準を満たさないもの。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表1及び表2(試験1,2)の結果から明らかなように、本発明の実施例1~21は、本発明の範囲外となる比較例1~11に較べ、管状部材の各吐出孔噴出量の相対差が少なく、管状部材の噴出量バランスも良好であることが確認され、ポンプ始動・停止と噴出始動・停止の時間差が著しく少なく、また、ポンプ/噴出応答が良好であることが確認された。また、試験2より、設定したpH値と実際の酸処理槽内のpH値との乖離が最小限となり、且つ、酸処理槽内の濃度ムラが生じないようにして、本発明範囲の管状部材を用いることにより、十分な酸処理を効率的に行える海苔網の酸処理船が得られることが確認された。これらの結果から、内径が3~7mmであり、吐出孔の数が3~10個であり、該吐出孔の孔径が1.0~2.0mとなる管状部材が優れていることが初めて明らかとなった。更に、前記条件に加え、最初の吐出孔の孔径に対して最後の吐出孔の孔径の比が1.08~1.27倍となる管状部材(実施例2、4、5、7、10、11、17)が特に優れていることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
養殖中に海苔網に付着する珪藻類や赤腐れ菌などの菌類を酸処理剤(液)で効率的に酸処理を施すことができる海苔網の酸処理船に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
A 海苔網の酸処理船
10 船本体
11 酸処理液
15 酸処理槽
20 巻取ロール
25 支持部材
30 シート状部材
40 酸原液供給装置
50 制御部
60 管状部材
61a~61e 吐出孔
62 視認性を有する可撓性チューブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8