(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】溶接部探傷装置と方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/26 20060101AFI20220401BHJP
【FI】
G01N29/26
(21)【出願番号】P 2018020284
(22)【出願日】2018-02-07
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】大森 征一
(72)【発明者】
【氏名】神代 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 孝明
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 拓
【審査官】後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-257384(JP,A)
【文献】特開2010-107284(JP,A)
【文献】特開2016-050782(JP,A)
【文献】特開2012-053060(JP,A)
【文献】特開2015-031637(JP,A)
【文献】特開2005-156305(JP,A)
【文献】特開2015-132517(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0346164(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの溶接部を超音波により検査する溶接部探傷装置であって、
前記ワークの外面に接触し、溶接線に交差する計測平面内で前記溶接部に向けてビーム角の異なる複数の超音波ビームを入射し複数の反射波データを受信する超音波探触子と、
前記超音波探触子の位置を検出する位置検出装置と、
前記反射波データと前記超音波探触子の溶接線方向のZ座標から、前記Z座標の設定長さ毎に、強調画像を作成するデータ処理装置と、を備え、
前記強調画像は、前記反射波データの強度分布を示す複数の溶接部断面画像
において、前記溶接線に直交するX-Y平面における強度の最大値をその位置の強度とする強調垂直画像と、前記溶接線に平行なX-Z平面における強度の最大値をその位置の強度とする強調平行画像である、溶接部探傷装置。
【請求項2】
前記超音波探触子は、フェーズドアレイ探触子である、請求項1に記載の溶接部探傷装置。
【請求項3】
請求項1に記載の溶接部探傷装置を用いた溶接部探傷方法であって、
直交座標データB(X,Y,Z)から、前記設定長さ毎に
、前記強調画像を作成するマージ処理ステップを有する、溶接部探傷方法。
【請求項4】
前記マージ処理ステップにおいて、前記設定長さ毎に、X座標とY座標が同一であり前記Z座標が異なる複数の垂直断面画像からX-Y平面における前記反射波データの強度の最大値をその位置の強度とする強調垂直画像を出力する、請求項
3に記載の溶接部探傷方法。
【請求項5】
前記マージ処理ステップにおいて、前記設定長さ毎に、X座標と前記Z座標が同一でありY座標が異なる複数の平行断面画像からX-Z平面における前記反射波データの強度の最大値をその位置の強度とする強調平行画像を出力する、請求項
3に記載の溶接部探傷方法。
【請求項6】
前記強調画像を出力する画像出力ステップを有し、
前記画像出力ステップにおいて、前記強調画像を前記設定長さ毎に、複数の出力用ファイルにそれぞれ記憶し、
出力用スライドに前記設定長さ毎の貼付位置を予め設定し、
複数の前記出力用ファイルから複数の前記強調画像を読み出して、複数の前記貼付位置にそれぞれ貼付ける、請求項
3に記載の溶接部探傷方法。
【請求項7】
極座標データA(R,θ,Z)を、前記計測平面内において深さ方向のX座標と、前記深さ方向に直交するY座標との関係を示す直交座標データB(X,Y,Z)に変換する直交座標データ作成ステップを有し、
前記直交座標データ作成ステップは、データ補間ステップを有し、
前記データ補間ステップは、前記Z座標と前記超音波ビームの入射点からの距離が同一であり、前記超音波ビームのビーム角が隣接する2点の前記極座標データに相当する2点の前記直交座標データB(X,Y,Z)から、2点の2次元座標位置の間の前記直交座標データB(X,Y,Z)を補間する、請求項
3に記載の溶接部探傷方法。
【請求項8】
前記反射波データを極座標データA(R,θ,Z)に変換する極座標データ作成ステップを有し、
前記反射波データは、時間と強度の関係を示すデータであり、
前記極座標データ作成ステップは、前記反射波データを前記超音波ビームの入射点からの距離とビーム角の関係を示す前記極座標データA(R,θ,Z)に変換する極座標変換ステップを有する、請求項
3に記載の溶接部探傷方法。
【請求項9】
前記超音波探触子を前記ワークの外面に接触させ、前記超音波探触子の位置を検出する位置決めステップと、
前記位置決めステップと並行して、前記超音波探触子により前記計測平面内で前記溶接部に向けてビーム角の異なる複数の超音波ビームを入射して複数の前記反射波データを受信する探傷ステップと、を有する、請求項
3に記載の溶接部探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部を超音波探傷検査する溶接部探傷装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば火力プラントにおいて、ボイラ配管として軸方向に長い溶接線を有する溶接管が多数用いられる。かかる溶接部を超音波により検査する手段として、例えば、特許文献1,2が開示されている。
【0003】
特許文献1の「超音波探傷検査方法及び超音波探傷検査装置」は、溶接線と直交する面内で、超音波探触子の振動子の励振タイミングをずらして、集束点を移動させるべく超音波ビームをセクタ走査させる。走査角度毎に反射波の受信波形を取得し、受信波形のエコー高さに対して閾値評価線を用いて欠陥を検出する。
【0004】
特許文献2の「管溶接部探傷装置と方法」は、超音波ビームが外周面から軸方向に傾斜して入射するように超音波探触子を保持し、かつガイドレールに倣って外周面に沿って超音波探触子を周方向に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-90272号公報
【文献】特開2017-32477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1,2はいずれも、超音波探触子としてフェーズドアレイ探触子を用い溶接部を検査する。
【0007】
特許文献1における出力装置(モニタ)は、反射波の受信波形を可視化して表示する。しかし受信波形は、時間と反射波強度との関係を示す波形データであり、この波形データから溶接欠陥を判断するのは、経験豊富な検査員であっても困難であった。
【0008】
また、この波形データは、超音波の入射方向毎に異なる。そのため、溶接線と直交する1つの面内において超音波の入射方向が異なる多数の波形データが得られる。さらに、溶接線に沿って異なる位置毎にも異なる波形データが得られる。そのため、軸方向に長い溶接線を検査する場合、波形データのデータ数が膨大となり、経験豊富な検査員であっても長期間を要していた。
【0009】
特許文献2は、中空管の周方向に延びる溶接部を対象としており、可視化装置により軸方向断面と周方向断面の可視化画像を出力する。この可視化画像は、超音波の入射方向毎に異なる複数の波形データの強度を1枚の2次元画像に変換したものであり、この可視化画像から溶接欠陥を判断するのは、上述した波形データよりは通常容易である。
【0010】
しかし、溶接線に沿って異なる位置毎に異なる可視化画像が得られるため、軸方向に長い溶接線を検査する場合、可視化画像の数は膨大となり、経験豊富な検査員であっても長期間を要していた。
【0011】
また、従来の手段では、超音波の入射方向毎に波形データが得られるが、超音波の入射位置からの距離が大きくなると、隣接するビーム角の間に未計測点が発生し、可視化画像にデータ空白部が生じる。そのため、可視化画像から溶接欠陥を判断するのが困難になる。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の第1の目的は、直線状に長い溶接線に対し、経験の浅い検査員であっても、従来より容易かつ短時間に溶接欠陥を判断できる可視化画像を作成できる溶接部探傷装置と方法を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、従来より容易かつ短時間に溶接欠陥を判断できる可視化資料を作成することにある。さらに、本発明の第3の目的は、可視化画像のデータ空白部を低減し溶接欠陥の判断を容易化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、ワークの溶接部を超音波により検査する溶接部探傷装置であって、
前記ワークの外面に接触し、溶接線に交差する計測平面内で前記溶接部に向けてビーム角の異なる複数の超音波ビームを入射し複数の反射波データを受信する超音波探触子と、
前記超音波探触子の位置を検出する位置検出装置と、
前記反射波データと前記超音波探触子の溶接線方向のZ座標から、前記Z座標の設定長さ毎に、強調画像を作成するデータ処理装置と、を備え、
前記強調画像は、前記反射波データの強度分布を示す複数の溶接部断面画像において、前記溶接線に直交するX-Y平面における強度の最大値をその位置の強度とする強調垂直画像と、前記溶接線に平行なX-Z平面における強度の最大値をその位置の強度とする強調平行画像である、溶接部探傷装置が提供される。
【0014】
また本発明によれば、上記の溶接部探傷装置を用いた溶接部探傷方法であって、
直交座標データB(X,Y,Z)から、前記設定長さ毎に、前記強調画像を作成するマージ処理ステップを有する、溶接部探傷方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反射波データと超音波探触子の溶接線方向のZ座標から、Z座標の設定長さ毎に、強調画像を作成する。従って、直線状に長い溶接線であっても、強調画像が設定長さ毎に作成されるので、強調画像の数は大幅に少なくなる。
【0016】
また、この強調画像は、反射波データの強度分布を示す複数の溶接部断面画像を反射波データの強度を優先して統合しているので、その範囲に含まれる溶接欠陥が強調して表示される。従って、経験の浅い検査員であっても、従来より容易かつ短時間に溶接欠陥を判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明による溶接部探傷装置の全体構成図である。
【
図5】本発明による溶接部探傷方法のフロー図である。
【
図6】直交座標データのデータ構造を示す模式図である。
【
図8】本発明により出力用スライドに貼り付けされた強調垂直画像の一例を示す図である。
【
図9】本発明により出力用スライドに貼り付けされた強調平行画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0019】
図1は、本発明による溶接部探傷装置100の全体構成図である。
この図において、1は検査対象物(以下、ワーク)、2はワーク1の溶接部である。ワーク1は、この例では軸方向に長い溶接線2aを有する溶接管である。
溶接線2aは、直線であることが好ましいが、曲線であってもよい。
【0020】
図1において、溶接部探傷装置100は、ワーク1の溶接部2を超音波により検査する装置であり、超音波探触子10、位置検出装置20、データ処理装置30を備える。
【0021】
超音波探触子10は、この例ではフェーズドアレイ探触子である。
フェーズドアレイ探触子10は、複数の超音波振動子を有する。各超音波振動子は、圧電素子とそれを上下方向に挟持する1対の電極とからなる。圧電素子は、小さな格子状や円柱状に分割された圧電素子を配列し、隙間にエポキシ樹脂などを充填したコンポジットタイプが好ましく、水晶または圧電セラミックからなり、電極間に電圧を印加することで超音波を発生する。また、圧電素子は、受信した超音波の強度に比例した電圧を電極間に発生する。
【0022】
この例で超音波探触子10は、ワーク1の外面1a(試験体表面)に接触し、溶接線2aに交差する計測平面内で溶接部2に向けてビーム角θ(後述する)の異なる複数の超音波ビーム3を入射し複数の反射波データ4を受信する。
以下、「溶接線2aに交差する計測平面」を単に、「計測平面8」と呼ぶ。
【0023】
溶接線2aとの交差は、直交であることが好ましい。
超音波探触子10の位置は、溶接線2aから同一距離bであることが好ましい。
ビーム角θは、超音波ビーム3の深さ方向からの角度であり、予め設定した設定角度範囲、例えば、0~10°(θmin)から80~90°(θmax)の範囲であることが好ましい。
【0024】
図2は、計測平面8の説明図である。
計測平面8において、ワーク1の外面1aに対し超音波探触子10が接触する任意の特定点11をXY座標原点O1とする。
また計測平面8において、XY座標原点O1から深さ方向をX軸、深さ方向(X軸)に直交する方向をY軸とする。以下、X-Y座標における任意の位置座標をX座標,Y座標とする。
【0025】
この図において、超音波探触子10は溶接線2aの左側に位置し、溶接線2aの中心線とXY座標原点O1とのy軸上の距離bは同一距離(一定)であるのがよい。
【0026】
さらに
図2において、ワーク1の外面1aに超音波ビーム3が入射する入射点12を極座標原点O2とする。また入射点12(極座標原点O2)とXY座標原点O1のX軸方向の間隔をオフセット量eとする。
なお、ビーム角θは、超音波ビーム3の深さ方向からの角度であり、R座標は極座標原点O2からの距離である。
ビーム角θは、θminからθmaxまでの角度範囲に設定されている。
【0027】
なお、
図2と相違し、超音波探触子10が溶接線2aの右側に位置する場合も、X-Y座標系と極座標系を同様に設定するのがよい。
【0028】
図1において、位置検出装置20は、超音波探触子10の位置を検出する。
この例で、位置検出装置20は、ワイヤエンコーダであり、超音波探触子10の溶接線方向の位置を検出する。この場合、超音波探触子10の位置は、溶接線2aから同一距離bに固定している。
【0029】
なお、位置検出装置20は、ワイヤエンコーダに限定されず、ワーク1の外面1aにおける超音波探触子10の位置を検出できる限りで、その他の装置であってもよい。
【0030】
図3は、溶接線2aに平行な垂直断面の説明図である。
この図において、ワーク1の外面1aに位置検出装置20が接触する特定点21をZ軸原点O3とし、Z軸原点O3から溶接線方向をZ軸、超音波探触子10のZ軸上の位置をZ座標とする。
また、X-Z座標における任意の位置座標をX座標,Z座標とする。
以下、「溶接線2aに平行な垂直断面」を単に、「溶接線平行断面9」と呼ぶ。
【0031】
図1において、データ処理装置30は、超音波探触子10と位置検出装置20から反射波データ4と超音波探触子10の位置(少なくともZ座標)をそれぞれ受信する。
【0032】
反射波データ4は、時間と反射波強度(又は振幅)を示する波形データである。
【0033】
データ処理装置30は、反射波データ4と超音波探触子10のZ座標から、Z座標の設定長さ毎に、強調画像6(後述する)を作成し出力する。
【0034】
「Z座標の設定長さ毎」とは、例えば400mm毎の意であり、任意に設定できる。
すなわち、超音波探触子10のZ座標を変化させてワーク1を検査したZ軸の範囲が0~2000mmであり、Z座標の設定長さ毎が400mm毎の場合に、400mm毎に、それぞれ1組の強調画像6を作成し出力する。
この場合、Z座標が0~400、400~800、800~1200、1200~1600、1600~2000mmの5組の強調画像6が作成される。
【0035】
図1において、データ処理装置30は、データ解析装置32とコンピュータ(PC)34とからなる。
【0036】
データ解析装置32は、反射波データ4の強度分布を示す複数の溶接部断面画像5を出力する。データ解析装置32は、従来の計測ソフトをインストールした超音波探傷器であってもよい。
【0037】
図4は、溶接部断面画像5の説明図である。
この図に示すように、溶接部断面画像5は、垂直断面画像5aと平行断面画像5bの一方又は両方である。
なお垂直断面画像5aは、溶接線2aと交叉(好ましくは直交)する断面画像であり、
図2の計測平面8における反射波データ4の強度分布を示す。また、平行断面画像5bは、溶接線2aに平行な平行断面の画像であり、
図3の溶接線平行断面9における反射波データ4の強度分布を示す。
【0038】
垂直断面画像5aは、Z座標の設定長さ毎に、予め設定した計測ピッチで多数が出力される。
例えば、「Z座標の設定長さ毎」が、例えば400mm毎である場合、垂直断面画像5aは、400mm毎に例えば100組が出力される。
同様に、平行断面画像5bも例えば100組が出力される。
【0039】
コンピュータ34は、入力装置(例えばキーボード)、出力装置(例えば表示装置、印刷装置)、記憶装置(例えばRAM、ROM、ハードディスク)、及び演算装置を有する。
【0040】
記憶装置には、本発明の方法を実行するためのソフトウェアがインストールされており、コンピュータ34は、上述した多数の溶接部断面画像5から、Z座標の設定長さ毎に、反射波データ4の強度を優先して統合した複数(上述の例で5枚)の強調画像6を作成する。
【0041】
図5は、本発明による溶接部探傷方法のフロー図である。
この図において、本発明の溶接部探傷方法は、上述した溶接部探傷装置100を用い、S1~S5の各ステップ(工程)からなる。
【0042】
図5において、データファイル作成ステップS1は、位置決めステップS11と探傷ステップS12を有する。
【0043】
位置決めステップS11では、超音波探触子10をワーク1の外面1aに接触させ、位置検出装置20により超音波探触子10の位置を検出する。
位置決めステップS11において、超音波探触子10を溶接線2aから同一距離bにおいてワーク1の外面1aに接触させ、Z座標を変化させることが好ましい。
【0044】
Z座標の変化範囲は、例えば0~2000mmであり、超音波探触子10は400mm毎に例えば100箇所に位置決めする。
位置決めステップS11は、検査員により手動で行っても、図示しないトラバース装置を用いて自動で行ってもよい。
【0045】
探傷ステップS12では、位置決めステップS11と並行して、超音波探触子10により計測平面8において、溶接部2に向けてビーム角θの異なる複数の超音波ビーム3を入射して複数の反射波データ4を受信する。
受信した反射波データ4は、超音波探触子10の位置データと共にデータファイルに記憶する。
【0046】
極座標データ作成ステップS2は、データ読込みステップS21と極座標変換ステップS22を有する。
【0047】
データ読込みステップS21では、作成したデータファイルから、超音波探触子10の位置データと受信した反射波データ4のデータを読み込む。
【0048】
極座標変換ステップS22では、反射波データ4の強度分布を、反射波強度とR座標、ビーム角θ、及びZ座標との関係を示す極座標データA(R,θ,Z)に変換する。
反射波データ4は、時間と反射波強度(又は振幅)の関係を示する波形データであり、反射波データ4の時間から、計測点のR座標を求めることができる。
変換した極座標データA(R,θ,Z)は、極座標データファイルに記憶する。
【0049】
例えば、Z座標を400mm毎に例えば100箇所に位置決めし、ビーム角θを100に分割し、R座標を4000に分割する。
この場合、極座標データA(R,θ,Z)は、Z座標の設定長さ毎に、4×107(=100×100×4000)のデータ数となる。
【0050】
直交座標データ作成ステップS3は、直交座標変換ステップS31とデータ補間ステップS32を有する。
【0051】
直交座標変換ステップS31では、極座標データファイルの極座標データA(R,θ,Z)を、反射波強度とX座標、Y座標、及びZ座標との関係を示す直交座標データB(X,Y,Z)に変換する。
【0052】
図6は、直交座標データB(X,Y,Z)のデータ構造を示す模式図である。
この図において、(A)はZ座標が異なる複数の垂直断面画像5aであり、(B)はY座標が異なる複数の平行断面画像5bである。
【0053】
例えば、極座標データA(R,θ,Z)がZ座標の設定長さ毎に、4×107のデータ数である場合、垂直断面画像5aはZ方向に100枚となる。また同様に、Y方向の分割数(解像度)がR方向と同じ場合、平行断面画像5bは4000枚となる。
従って、極座標データA(R,θ,Z)のデータ数(4×107)を、100枚の垂直断面画像5aと4000枚の平行断面画像5bで表示することができる
【0054】
図7は、データ補間ステップS32の説明図である。この図において、(A)は極座標データA(R,θ,Z)、(B)は直交座標データB(X,Y,Z)を示している。
【0055】
図7(A)の極座標データA(R,θ,Z)において、Z座標とR座標が同一であり、ビーム角θが隣接する2点の極座標データAをA1(R,θ1,Z)とA2(R,θ1+α,Z)とする。
【0056】
例えば、ビーム角θを100分割した場合、角度αは、θmax-θminの角度範囲の1/100である。
しかし、角度αが微小角(例えば1°)であっても、R座標が大きい場合、2点A1,A2の間には、図中に斜線で示す未計測点(データ空白部)が発生する。
【0057】
図7(B)において、極座標データA1(R,θ1,Z)とA2(R,θ1+α,Z)を直交座標データに変換した位置を直交座標データB1(X1,Y1,Z1)と直交座標データB2(X2,Y2,Z2)とする。
R座標が大きい場合、2点B1,B2の間には、
図7(A)と同様に、未計測点(データ空白部)が発生する。
この未計測点(データ空白部)は、
図4(A)における多数の白い筋状の曲線部である。
【0058】
図5のデータ補間ステップS32では、
図7(A)の2点の極座標データA1,A2に相当する2点の直交座標データB1,B2から、2点の2次元座標位置の間の直交座標データB(X,Y,Z)を補間する。
このデータ補間により、
図4(A)における多数の白線部(データ空白部)を無くし、溶接欠陥の判断を容易化することができる。
【0059】
上述した直交座標データ作成ステップS3で変換し補間した直交座標データB(X,Y,Z)は、直交座標データファイルに記憶する。
【0060】
図5のマージ処理ステップS4では、直交座標データファイルの直交座標データB(X,Y,Z)から、設定長さ毎に、反射波データ4の強度を優先して統合した強調画像6を作成する。
強調画像6は、強調垂直画像6aと強調平行画像6bの一方又は両方である。
【0061】
強調垂直画像6aは、
図6(A)に示すように、設定長さ毎に、X座標とY座標が同一でありZ座標が異なる複数(例えば100枚)の垂直断面画像5aから、X-Y平面における反射波データ4の強度の最大値をその位置の強度とする画像である。
従って、1枚の強調垂直画像6aには、設定長さ毎に、複数(例えば100枚)の垂直断面画像5aを強度を優先して統合されている。
【0062】
強調平行画像6bは、
図6(B)に示すように、設定長さ毎に、X座標とZ座標が同一でありY座標が異なる複数(例えば4000枚)の平行断面画像5bからX-Z平面における反射波データ4の強度の最大値をその位置の強度とする画像である。
従って、1枚の強調平行画像6bには、設定長さ毎に、複数(例えば4000枚)の平行断面画像5bを強度を優先して統合されている。
【0063】
上述したマージ処理ステップS4により、設定長さ毎に、複数(100枚)の垂直断面画像5aと複数(4000枚)の平行断面画像5bを統合した1枚の強調垂直画像6aと1枚の強調平行画像6bが形成される。
【0064】
強調垂直画像6aと強調平行画像6bは、それぞれ単一の垂直断面画像5a及び平行断面画像5bと同じデータ数(分解能)である。従って、強調垂直画像6aと強調平行画像6bに必要なメモリ量は、複数(100枚)の垂直断面画像5aと複数(4000枚)の平行断面画像5bのメモリ量と比較して大幅(この例で100分の1と4000分の1)に削減できる。
【0065】
マージ処理ステップS4において、形成した強調画像6(強調垂直画像6aと強調平行画像6b)を設定長さ毎に、複数の出力用ファイルにそれぞれ記憶する。
出力用ファイルは、Z座標の設定長さ毎に設けられる。すなわち、上述した例で、Z軸の範囲が0~2000mmである場合に、0~400、400~800、800~1200、1200~1600、1600~2000mmの各範囲毎に、それぞれ1組の強調画像6が複数のファイルにそれぞれ記憶される。
この場合、ファイル数は5であり、各ファイルに強調画像6(強調垂直画像6aと強調平行画像6b)が記憶される。
【0066】
画像出力ステップS5は、位置設定ステップS51、貼付けステップS52、及び出力ステップS53を有する。
【0067】
位置設定ステップS51では、出力用スライドに設定長さ毎の貼付位置を予め設定する。出力用スライドは、例えば、Microsoft Power Pointであるが、その他の表示装置、印刷装置であってもよい。
また、この設定は、出力用スライドに応じて自動設定することが好ましいが、入力装置(例えばキーボード)を用いて手動設定してもよい。
【0068】
貼付けステップS52では、複数の出力用ファイルから複数の強調画像6を読み出して、複数の貼付位置にそれぞれ貼付ける。
出力ステップS53では、出力用スライドに貼り付けされた強調画像6(強調垂直画像6aと強調平行画像6b)を出力する。この出力は表示装置(例えばCRT)による画像表示でも、印刷装置(例えばプリンタ)による印刷でもよい。
【0069】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0070】
図8は、本発明により出力用スライドに貼り付けされた強調垂直画像6aの一例を示す図である。
【0071】
この例では、Z軸の範囲が0~4800mmであり、以下の各設定長さ毎に、それぞれ1組の強調垂直画像6aを作成し出力している。
【0072】
この例で、Z座標は、0~400、400~800、800~1200、1200~1600、1600~2000、2000~2400、2400~2800、2800~3200、3200~3600、3600~4000、4000~4400、4400~4800mmの12範囲である。
【0073】
なお1組の強調垂直画像6aは、
図2に示す超音波探触子10が溶接線2aの左側に位置する図と、超音波探触子10が溶接線2aの右側に位置する図とからなる。
【実施例2】
【0074】
図9は、本発明により出力用スライドに貼り付けされた強調平行画像6bの一例を示す図である。
【0075】
この例では、Z軸の範囲が0~6000mmであり、以下の設定長さ毎に、それぞれ1枚の強調平行画像6bを作成し出力している。
【0076】
この例で、Z座標は、0~400、400~800、800~1200、1200~1600、1600~2000、2000~2400、2400~2800、2800~3200、3200~3600、3600~4000、4000~4400、4400~4800、4800~5200、5200~5600、5600~6000mmの15範囲である。
【0077】
なおこの図では、Z軸の範囲を連続して表示しているが、それぞれ分離表示してもよい。
【実施例3】
【0078】
図10は、
図9の強調垂直画像6aの拡大図である。この例で、(A)はデータ補間ステップS32を省略した場合、(B)はデータ補間ステップS32を実施した場合である。
図10(A)に示すように、従来は、角度αが微小角(例えば1°)であっても、R座標が大きい場合、多数の白い筋状の未計測点(データ空白部)が発生していた。
【0079】
これに対し、
図10(B)の強調垂直画像6aでは、白い筋状のデータ空白部が皆無であり、かつ反射波データ4の強度を優先して統合しているため、溶接欠陥が強調して表示されていることがわかる。
【0080】
上述した本発明の実施形態によれば、反射波データ4と超音波探触子10の溶接線方向のZ座標から、Z座標の設定長さ毎に、強調画像6を作成する。従って、直線状に長い溶接線2aであっても、強調画像6が設定長さ毎に出力されるので、強調画像6の数は大幅に少なくなる。
【0081】
また、この強調画像6は、反射波データ4の強度分布を示す複数の溶接部断面画像5を反射波データ4の強度を優先して統合しているので、その範囲に含まれる溶接欠陥が強調して表示される。従って、経験の浅い検査員であっても、従来より容易かつ短時間に溶接欠陥を判断できる。
【0082】
さらに、本発明は以下の付随した効果を有する。
(1)軸方向に長い溶接線2aを有するワーク1から得られる膨大な反射波データ4の強度分布を、強度を優先して統合した少数の強調画像6として可視化資料を作成することができる。
したがって、この可視化資料から、従来より容易かつ短時間に溶接欠陥を判断できる。
(2)データ補間ステップS31によるデータ補間により、
図10(A)における多数の白線部(データ空白部)を無くし、溶接欠陥の判断を容易化することができる。
(3)マージ処理ステップS41により、強調垂直画像6aと強調平行画像6bに必要なメモリ量を、従来の多数の垂直断面画像5aと多数の平行断面画像5bのメモリ量と比較して大幅(例えば、100分の1と4000分の1)に削減できる。
したがって、必要なメモリ量は、溶接線2aの長さにほとんど制約されず、従来の上限2mを超える20m以上であっても、従来より容易かつ短時間に溶接欠陥を判断できる。
【0083】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0084】
e オフセット量、O1 XY座標原点、O2 極座標原点、
O3 Z軸原点、R 極座標原点からの距離、
X X軸上の座標位置、Y Y軸上の座標位置、θ ビーム角、
1 ワーク(溶接管)、1a 外面(試験体表面)、2 溶接部、
2a 溶接線、3 超音波ビーム、4 反射波データ、
5 溶接部断面画像、5a 垂直断面画像、5b 平行断面画像、
6 強調画像、6a 強調垂直画像、6b 強調平行画像、
8 計測平面、9 溶接線平行断面、
10 超音波探触子(フェーズドアレイ探触子)、11 特定点、
12 入射点、20 位置検出装置、21 特定点、
30 データ処理装置、32 データ解析装置、
34 コンピュータ(PC)、100 溶接部探傷装置