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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】有用物質の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/00 20060101AFI20220401BHJP
【FI】
C12P21/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018032730
(22)【出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2018143236
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2017038380
(32)【優先日】2017-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杣本 聡
(72)【発明者】
【氏名】大洞 怜恵
(72)【発明者】
【氏名】中西 睦
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-154851(JP,A)
【文献】特開昭61-043986(JP,A)
【文献】特開2010-233513(JP,A)
【文献】Biotechnol. Appl. Biochem., 2009, Vol. 54, pp. 197-205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液中に含まれる酵母により有用物質を培養液中に分泌生産する有用物質の生産方法であって、酵母がPichia属及びCandida属からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、培養液中にイオン界面活性剤(A)及びノニオン界面活性剤(B)を含有し、
イオン界面活性剤(A)がアニオン界面活性剤(A1)、カチオン界面活性剤(A2)及び両性界面活性剤(A3)からなる群より選ばれる1種以上の界面活性剤であり、ノニオン界面活性剤(B)はHLB値が3~20のノニオン界面活性剤であり、ノニオン界面活性剤(B)が脂肪酸とポリエーテルアルコールとのエステル化物、多価アルコール型ノニオン界面活性剤及びプルロニック型ノニオン界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上の界面活性剤であり、ノニオン界面活性剤(B)の含有量が、培養開始時(植菌時)の培養液の重量を基準として、0.01~5重量%であり、ノニオン界面活性剤(B)として、HLB値が3以上13未満であるノニオン界面活性剤(B1)を含む有用物質の生産方法。
【請求項2】
ノニオン界面活性剤(B)として、HLB値が13以上20以下であるノニオン界面活性剤(B2)を含む請求項に記載の有用物質の生産方法。
【請求項3】
ノニオン界面活性剤(B)として、HLBが3以上13未満であるノニオン界面活性剤(B1)及びHLBが13以上20以下であるノニオン界面活性剤(B2)を含み、培養液中のイオン界面活性剤(A)とノニオン界面活性剤(B1)との重量比が1:0.5~1:5であり、イオン界面活性剤(A)とノニオン界面活性剤(B2)との重量比が1:1~1:100である請求項1又は2に記載の有用物質の生産方法。
【請求項4】
ノニオン界面活性剤(B)として、脂肪酸とポリエーテルアルコールとのエステル化物及び/又はプルロニック型ノニオン界面活性剤を含む請求項1~のいずれかに記載の有用物質の生産方法。
【請求項5】
有用物質が、タンパク質である請求項1~のいずれかに記載の有用物質の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用物質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物によりアミノ酸やタンパク質等の有用物質を生産する技術は、医療等の産業分野で広く利用されている。
アミノ酸やタンパク質等の有用物質を生産する微生物としては、大腸菌により生産する方法が知られている。しかしながら、生産する有用物質が限定されることや分泌生産が難しいという課題がある。そのため、グラム陽性菌、酵母及び担子菌等の菌類を用いることで、幅広い有用物質を分泌生産することが可能となっている(例えば非特許文献1及び2)。
【0003】
しかしながら、このようなグラム陽性菌、酵母及び担子菌等の菌類は、外界からのストレスに耐えるため、厚い多糖よりなる細胞壁を有している。この多糖からなる細胞壁は、有用物質の吸着や有用物質の透過を抑制などの原因となり、分泌効率が悪化し、分泌生産において大きな課題となっている。
【0004】
そのため、酵母においては、多糖による細胞壁を薄くすることを目的として、S.cerevisiaeやYarrowia lipolyticaの糖合成関連遺伝子破壊株を用いることで、タンパク質分泌量を増加させる技術(非特許文献3)がある。しかしながら、この方法で得られた糖タンパク質では糖鎖付加しないタンパク質に限定されるなどの問題点が指摘されており、依然、有用な解決策は見出されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】バイオインダストリー協会、発酵ハンドブック、共立出版、2001年7月
【文献】新生物化学工学(第2版)、.三共出版、2013年3月、p17-21
【文献】J.Bacteriol、1998、vol.180、no.24、p6736-6742
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、酵母が生産した有用物質を効率よく培養液中への分泌できる有用物質の生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これらの問題点を解決するべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、培養液中に含まれる酵母により有用物質を培養液中に分泌生産する有用物質の生産方法であって、酵母がKluyveromyces属、Hansenula属、Pichia属、Yarrowia属及びCandida属からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、培養液中にイオン界面活性剤(A)及びノニオン界面活性剤(B)を含有し、イオン界面活性剤(A)がアニオン界面活性剤(A1)、カチオン界面活性剤(A2)及び両性界面活性剤(A3)からなる群より選ばれる1種以上の界面活性剤であり、ノニオン界面活性剤(B)はHLB値が3~20のノニオン界面活性剤である有用物質の生産方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有用物質の生産方法を用いることで、酵母が生産した有用物質を高効率で培養液中へ分泌させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の有用物質の生産方法は、培養液中に含まれる酵母により有用物質を培養液中に分泌生産する有用物質の生産方法であって、酵母がKluyveromyces属、Hansenula属、Pichia属、Yarrowia属及びCandida属からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、培養液中にイオン界面活性剤(A)及びノニオン界面活性剤(B)を含有することを特徴とする。そして、イオン界面活性剤(A)がアニオン界面活性剤(A1)、カチオン界面活性剤(A2)及び両性界面活性剤(A3)からなる群より選ばれる1種以上の界面活性剤であり、ノニオン界面活性剤(B)はHLB値が3~20のノニオン界面活性剤である。
【0010】
本発明の生産方法に用いる培養液としては、当技術分野で一般的に用いられる細胞培養用培地あれば特に制限なく用いることができ、炭素源、窒素源その他の必須栄養素を含む天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0011】
炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。
【0012】
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸あるいは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカー等が挙げられる。
【0013】
その他の必須栄養素としては、無機塩類が挙げられ、無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0014】
本発明における酵母は、遺伝子操作と産業利用のしやすさと、有用物質生産の観点から、Kluyveromyces属、Hansenula属、Pichia属、Yarrowia属及びCandida属である。
【0015】
本発明における有用物質は、特に限定されないが、タンパク質(酵素、ホルモンタンパク質、抗体及びペプチド等)、オリゴ糖及び核酸等が含まれる。
【0016】
タンパク質としては、酵素{酸化還元酵素(コレステロールオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ等)、加水分解酵素(リゾチーム、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ及びグルコアミラーゼ等)、異性化酵素(グルコースイソメラーゼ等)、転移酵素(アシルトランスフェラーゼ及びスルホトランスフェラーゼ等)、合成酵素(脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ及びクエン酸シンターゼ等)及び脱離酵素(ペクチンリアーゼ等)等}、ホルモンタンパク質{骨形成因子(BMP)、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1~12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G-CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン及びカルシトニン等}、抗体{1本鎖抗体、IgGラージサブユニット、IgGスモールサブユニット等}、抗原タンパク質{B型肝炎表面抗原等}、機能性タンパク質{プロネクチン(登録商標)、不凍ペプチド、抗菌ペプチド等}、蛍光タンパク質(GFP等)、発光タンパク質(ルシェラーゼ等)及びペプチド(特にアミノ酸組成を限定するものではなく、オリゴペプチド、ジペプチド及びトリペプチド等)等が挙げられる。
【0017】
オリゴ糖としては、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース、ラフィノース、パノース、シクロデキストリン、ガラクトオリゴ糖及びフラクトオリゴ糖等が挙げられる。
【0018】
核酸としては、DNA、RNA、イノシン一リン酸、アデノシン一リン酸及びグアノシン一リン酸等が挙げられる。
【0019】
これらの有用物質のうち、有用物質の作製の容易さの観点から、タンパク質が好ましく、さらに好ましくは酵素、ホルモンタンパク質及び抗体である。
【0020】
有用物質がタンパク質である場合、タンパク質が微生物内で発現した後、一部又は全てがペリプラズムへ移行する性質をタンパク質が有している事が好ましい。さらに好ましくはペリプラズムへの移行に必要なシグナル配列をORF中にコードしているタンパク質である。
ペリプラズムとは、微生物の細胞質膜より外側の空間と多糖を含む細胞壁層の事である。
ペリプラズムへの移行に必要なシグナル配列としては、Sec分泌シグナル配列、TAT分泌シグナル、α-シグナル配列、PHO1遺伝子のシグナル配列等が挙げられる。
【0021】
本発明の有用物質の生産方法で使用される界面活性剤は、イオン界面活性剤(A)及びノニオン界面活性剤(B)を併用することが必要である。
そして、イオン界面活性剤(A)は、アニオン界面活性剤(A1)、カチオン界面活性剤(A2)及び両性界面活性剤(A3)からなる群より選ばれる少なくとも1種のイオン界面活性剤である。
【0022】
アニオン界面活性剤(A1)としては、エーテルカルボン酸(A11)及びその塩、硫酸エステル(A12)又はその塩、エーテル硫酸エステル(A13)及びその塩、スルホン酸塩(A14)、スルホコハク酸塩(A15)、リン酸エステル(A16)及びその塩、エーテルリン酸エステル(A17)及びその塩、脂肪酸塩(A18)、アシル化アミノ酸塩並びに天然由来のカルボン酸及びその塩(ケノデオキシコール酸及びコール酸及びデオキシコール酸等)等が挙げられる。
【0023】
エーテルカルボン酸(A11)又はその塩としては炭化水素基(炭素数8~24)を有するエーテルカルボン酸及びその塩が含まれる。
エーテルとしては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、アルキレンオキサイド付加物が好ましく、さらに好ましくはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの1種又は2種の付加物であり、特に好ましくはエチレンオキサイド付加物である。
アルキレンオキサイドの重合度としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、1~10が好ましい。
(A11)又はその塩として具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンオクチルエーテル酢酸ナトリウム塩及びラウリルグリコール酢酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0024】
硫酸エステル(A12)及びその塩としては、炭化水素基(炭素数8~24)を有する硫酸エステル及びその塩が含まれる。(A12)及びその塩として具体的には、ラウリル硫酸ナトリウム塩及びラウリル硫酸トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0025】
エーテル硫酸エステル(A13)及びその塩としては、炭化水素基(炭素数8~24)を有するエーテル硫酸エステル及びその塩が含まれる。
エーテルとしては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、アルキレンオキサイド付加物が好ましく、さらに好ましくはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの1種又は2種の付加物であり、特に好ましくはエチレンオキサイド付加物である。
アルキレンオキサイドの重合度としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、1~10が好ましい。
(A1-3)及びその塩として具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム塩及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0026】
スルホン酸塩(A14)としては、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩及びナフタレンスルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0027】
スルホコハク酸塩(A15)としては、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸二ナトリウム塩、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム塩及びスルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミド二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0028】
リン酸エステル(A16)としては、オクチルリン酸二ナトリウム塩及びラウリルリン酸二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0029】
エーテルリン酸エステル(A17)としては、ポリオキシエチレンオクチルエーテルリン酸二ナトリウム塩及びポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0030】
脂肪酸塩(A18)としては、オクチル酸ナトリウム塩、ラウリル酸ナトリウム塩及びステアリン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0031】
アニオン界面活性剤(A1)としては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0032】
【化1】
【0033】
一般式(1)中、Rは炭素数1~30の一価の炭化水素基を表し、(OA)はオキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン、オキシプロピレン及びオキシブチレン等)を表し、sは1以上の整数であり、Qはスルホン酸(塩)基、カルボン酸(塩)基又はリン酸(塩)基を表す。
なお、スルホン酸(塩)は、スルホン酸及び/又はスルホン酸塩を意味し、カルボン酸(塩)は、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩を意味し、リン酸(塩)は、リン酸及び/又はリン酸塩を意味する。塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩及びカリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩及びマグネシウム塩等)及びオニウムカチオン塩(アンモニウムカチオン、第4級アンモニウムカチオン、第3級スルホニウムカチオン、第4級ホスホニウムカチオン及び第3級オキソニウムカチオン等)等を含む。
【0034】
一般式(1)においてRは、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、炭素数8~22の一価の炭化水素基であることが好ましく、さらに好ましくは炭素数10~18の1価の炭化水素基であることである。
炭化水素基としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは0~3個の不飽和結合を有する直鎖及び/又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、特に好ましくはアルキル基及び不飽和結合を1~3個有するアルケニル基である。
オキシアルキレン基としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、オキシエチレン基が好ましい。
sは、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、1~10の整数が好ましく、さらに好ましくは1~5の整数である。
【0035】
一般式(1)で表されるものとしては、ポリオキシエチレン(平均2.5モル付加物)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(3モル付加物)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0036】
カチオン界面活性剤(A2)としては、アミン塩型カチオン界面活性剤(A21)及び第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A22)等が含まれる。
【0037】
アミン塩型カチオン界面活性剤(A21)としては、1~3級アミンを無機酸(塩酸、硝酸、硫酸、ヨウ化水素酸など)または有機酸(酢酸、ギ酸、蓚酸、乳酸、グルコン酸、アジピン酸、アルキル燐酸など)で中和したものが含まれる。例えば、第1級アミン塩型のものとしては、脂肪族高級アミン(ラウリルアミン、ステアリルアミン、セチルアミン、硬化牛脂アミン、ロジンアミンなどの高級アミン)の無機酸塩または有機酸塩;低級アミン類の高級脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸など)塩などが挙げられる。第2級アミン塩型のものとしては、例えば脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物などの無機酸塩または有機酸塩が挙げられる。また、第3級アミン塩型のものとしては、例えば、脂肪族アミン(トリエチルアミン、エチルジメチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンなど)、脂肪族アミンのエチレンオキサイド(2モル以上)付加物、脂環式アミン(N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルヘキサメチレンイミン、N-メチルモルホリン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-7-ウンデセンなど)、含窒素ヘテロ環芳香族アミン(4-ジメチルアミノピリジン、N-メチルイミダゾール、4,4’-ジピリジルなど)の無機酸塩または有機酸塩;トリエタノールアミンモノステアレート、ステアラミドエチルジエチルメチルエタノールアミンなどの3級アミン類の無機酸塩または有機酸塩などが挙げられる。
【0038】
第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A22)としては、3級アミン類と4級化剤(メチルクロライド、メチルブロマイド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸などのアルキル化剤;エチレンオキサイド等)との反応で得られるものが含まれる。例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム)、セチルピリジニウムクロライド、ポリオキシエチレントリメチルアンモニウムクロライド、ステアラミドエチルジエチルメチルアンモニウムメトサルフェート等が挙げられる。
【0039】
(A22)としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0040】
【化2】

一般式(2)中、R2、R3、R4及びR5はそれぞれ炭素数1~30の一価の炭化水素基を表し、Z-はカウンターアニオンを表す。
一般式(2)において、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、R2、R3、R4及びR5のうち少なくとも1つは炭素数8~22の一価の炭化水素基であることが好ましく、さらに好ましくはR2、R3、R4及びR5のうち少なくとも1つは炭素数10~18の一価の炭化水素基であることである。
2、R3、R4及びR5において、炭化水素基としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは0~3個の不飽和結合を有する直鎖及び/又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、特に好ましくはアルキル基及び不飽和結合を1~3個有するアルケニル基である。
また、Z-としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、ハロゲンイオンが好ましく、さらに好ましくは塩化物イオンである。
また、一般式(2)において、炭化水素基は、炭化水素基のいずれかの位置に、水酸基、エーテル基、カルボニル基及びエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい。
【0041】
両性界面活性剤(A3)としては、カルボン酸塩型両性界面活性剤(A31)、硫酸エステル塩型両性界面活性剤(A32)、スルホン酸塩型両性界面活性剤(A33)及びリン酸エステル塩型両性界面活性剤(A34)等が含まれる。
【0042】
カルボン酸塩型両性界面活性剤(A31)としては、アミノ酸型両性界面活性剤(A311)、ベタイン型両性界面活性剤(A312)及びイミダゾリン型両性界面活性剤(A313)等が挙げられる。
【0043】
アミノ酸型両性界面活性剤(A311)としては、分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する両性界面活性剤であり、下記一般式(3)で示される化合物等が挙げられる。
【0044】
【化3】

一般式(3)中、R6は炭素数1~30の一価の炭化水素基である。nは1以上の整数である。mは1以上の整数である。Mはプロトン;又はアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム(アミン及びアルカノールアミン等由来のカチオンを含む)及び第4級アンモニウム等の1価又は2価のカチオンである。
6において、炭化水素基の炭素数は、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、8~22が好ましく、さらに好ましくは10~18である。
6において、炭化水素基としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは0~3個の不飽和結合を有する直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、特に好ましくはアルキル基及び不飽和結合を1~3個有するアルケニル基である。
また、(A311)として具体的には、アルキルアミノプロピオン酸型両性界面活性剤(ドデシル-β-アミノプロピオン酸ナトリウム、コカミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルアミノプロピオン酸ナトリウム及びラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等);アルキルアミノ酢酸型両性界面活性剤(ラウリルアミノ酢酸ナトリウム等)及びN-ラウロイル-N’-カルボキシメチル-N’-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等が挙げられる。
【0045】
ベタイン型両性界面活性剤(A312)は、分子内に第4級アンモニウム塩型のカチオン部分とカルボン酸型のアニオン部分を持っている両性界面活性剤である。(A312)は下記一般式(4)で示される化合物が挙げられる。
【0046】
【化4】
【0047】
一般式(4)中、R7は炭素数1~30の一価の炭化水素基である。
7において、炭化水素基の炭素数は、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、8~22が好ましく、さらに好ましくは10~18である。
7において、炭化水素基としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは0~3個の不飽和結合を有する直鎖及び/又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、特に好ましくはアルキル基及び不飽和結合を1~3個有するアルケニル基である。
【0048】
(A312)として具体的には、アルキルジメチルベタイン(ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン及びラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等)、アミドベタイン(ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等(ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等)及びラウリン酸アミドプロピルベタイン等)及びアルキルジヒドロキシアルキルベタイン(ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等)、硬化ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。
【0049】
イミダゾリン型両性界面活性剤(A313)としては、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0050】
その他の両性界面活性剤としては、ナトリウムラウロイルグリシン、ナトリウムラウリルジアミノエチルグリシン、ラウリルジアミノエチルグリシン塩酸塩及びジオクチルジアミノエチルグリシン塩酸塩等のグリシン型両性界面活性剤;ペンタデシルスルホタウリン等のスルホベタイン型両性界面活性剤;コールアミドプロピルジメチルアンモニオプロパンスルホン酸(CHAPS)、コールアミドプロピルジメチルアンモニオ2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO);ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアルキルアミンオキサイド型両性界面活性剤等が含まれる。
【0051】
両性界面活性剤(A3)としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、下記一般式(5)~(7)で表される化合物が好ましい。
【0052】
【化5】
【0053】
一般式(5)中、R、R及びR10はそれぞれ炭素数1~30の一価の炭化水素基を表し、pは1以上の整数であり、Xはスルホネートアニオン、カルボキシレートアニオン又はホスホネートアニオンを表す。
一般式(6)中、R11及びR12はそれぞれ炭素数1~30の一価の炭化水素基を表し、qは1以上の整数であり、Yはスルホン酸(塩)基、カルボン酸(塩)基又はリン酸(塩)基を表す。
一般式(7)中、R13、R14、R15及びR16はそれぞれ炭素数1~30の一価の炭化水素基を表し、rは1以上の整数である。
【0054】
なお、スルホン酸(塩)は、スルホン酸及び/又はスルホン酸塩を意味し、カルボン酸(塩)は、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩を意味し、リン酸(塩)は、リン酸及び/又はリン酸塩を意味する。塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩及びカリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩及びマグネシウム塩等)及びオニウムカチオン塩(アンモニウムカチオン、第4級アンモニウムカチオン、第3級スルホニウムカチオン、第4級ホスホニウムカチオン及び第3級オキソニウムカチオン等)等を含む。
【0055】
また、一般式(5)~(7)において、炭化水素基は、炭化水素基のいずれかの位置に、水酸基、エーテル基、カルボニル基及びエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい。
【0056】
一般式(5)において、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、R、R及びR10のうち少なくとも1つは炭素数8~22の一価の炭化水素基であることが好ましく、さらに好ましくはR、R及びR10のうち少なくとも1つは炭素数10~18の1価の炭化水素基である。
、R及びR10において、炭化水素基としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは0~3個の不飽和結合を有する直鎖及び/又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、特に好ましくはアルキル基及び不飽和結合を1~3個有するアルケニル基である。
また、pは、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、1~10の整数であることが好ましく、さらに好ましくは1~5の整数であることである。
【0057】
一般式(6)において、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、R11及びR12のうち少なくとも1つは炭素数8~22の一価の炭化水素基であることが好ましく、さらに好ましくはR611及びR712のうち少なくとも1つは炭素数10~18の一価の炭化水素基であることである。
11及びR12において、炭化水素基としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは0~3個の不飽和結合を有する直鎖及び/又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、特に好ましくはアルキル基及び不飽和結合を1~3個有するアルケニル基である。
qは、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、1~10の整数であることが好ましく、さらに好ましくは1~5の整数であることである。
塩としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、アルカリ金属塩が好ましく、さらに好ましくはナトリウム塩である。
【0058】
一般式(7)において、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、R13、R14、R15及びR16のうち少なくとも1つは炭素数8~20の一価の炭化水素基であることが好ましく、さらに好ましくはR13、R14、R15及びR16のうち少なくとも1つは炭素数10~18の一価の炭化水素基であることである。
13、R14、R15及びR16において、炭化水素基としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは0~3個の不飽和結合を有する直鎖及び/又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、特に好ましくはアルキル基及び不飽和結合を1~3個有するアルケニル基である。
また、rは、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、1~10の整数であることが好ましく、さらに好ましくは1~5の整数であることである。
【0059】
一般式(5)で表される化合物として具体的には、Xがスルホネートアニオンであるもの{ドデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、3-[テトラデシルジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホナート及びアラキジルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド等}、Xがカルボキシレートアニオンであるもの{ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン及びステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等}、Xがホスホネートアニオンであるもの{ドデシルジメチル(3-ホスホプロピル)アンモニウムヒドロキシド}等が挙げられる。
【0060】
一般式(6)で表される化合物として具体的には、Yがスルホン酸(塩)であるもの{(2-ドデシルアミノ)エタンスルホン酸ナトリウム、2-[(1-オキソドデシル)アミノ]エタンスルホン酸ナトリウム及び2-(N-メチル-N-パルミトイルアミノ)エタンスルホン酸ナトリウム等}、Yがカルボン酸(塩)であるもの{3-(ドデシルアミノ)プロパン酸ナトリウム及びドデシル-β-アミノプロピオン酸ナトリウム等}、Yがリン酸(塩)であるもの{(2-ドデシルアミノ)エタンリン酸ナトリウム}等が挙げられる。
【0061】
一般式(7)で表される化合物として具体的には、ミルテホシン、ドデシルホスホリルコリン、ヘキサデシルホスホリルコリン、1,2-ジヘキサデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン等が挙げられる。
【0062】
本発明においてイオン界面活性剤(A)はそのまま使用してもよいし、必要により水と混合して、水性希釈液(水溶液状又は水分散液状)として用いてもよい。
【0063】
イオン界面活性剤(A)としては、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、両性界面活性剤(A3)及びカチオン界面活性剤(A2)が好ましく、さらに好ましくは炭素数8~20の炭化水素基を有する両性界面活性剤(A3)及び炭素数8~20の炭化水素基を有するカチオン界面活性剤(A2)、特に好ましくは炭素数10~18の炭化水素基を有する両性界面活性剤(A3)及び炭素数10~18の炭化水素基を有するカチオン界面活性剤(A2)である。
【0064】
本発明の有用物質の生産方法で使用されるイオン界面活性剤(A)の使用量は、対象となる微生物、生産される有用物質の種類及び抽出方法の種類によって適宜選択されるが、培養開始時の培養液の重量を基準として、細胞毒性、得られる有用物質量、有用物質の分泌効率及びタンパク質の変性のさせにくさの観点から、0.0001~10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.0005~5重量%であり、次にさらに好ましくは0.001~1重量%であり、特に好ましくは0.005~0.1重量%である。
【0065】
本発明の有用物質の生産方法でイオン界面活性剤(A)と共に使用されるノニオン界面活性剤(B)は、有用物質生産の観点から、HLB値が3~20のノニオン界面活性剤である。
【0066】
ノニオン界面活性剤(B)の親水性及び疎水性を示す尺度としてHLBが知られている。HLBの値が高いほど親水性が高いことを意味する。本発明におけるHLBとは下記式(1)で計算される数値である(藤本武彦著、界面活性剤入門、212頁、三洋化成工業株式会社発行)。
HLB=10×(無機性/有機性) (1)
【0067】
本発明の有用物質の生産方法で用いるノニオン界面活性剤(B)としては、HLB値が3~20のノニオン界面活性剤を用いればよいが、得られる有用物質量、タンパク質の変性のさせにくさ及び有用物質分泌効率の観点から、3以上13未満であるノニオン界面活性剤(B1)とHLBが13以上20以下であるノニオン界面活性剤(B2)とを併用することが好ましい。
【0068】
ノニオン界面活性剤(B)として、培養液中のイオン界面活性剤(A)とノニオン界面活性剤(B1)との重量比は、得られる有用物質量、タンパク質の変性のさせにくさ及び有用物質分泌効率の観点か、1:0.5~1:5が好ましく、さらに好ましくは1:1~1:5である。
イオン界面活性剤(A)とノニオン界面活性剤(B2)との重量比は、得られる有用物質量、タンパク質の変性のさせにくさ及び有用物質分泌効率の観点から、1:1~1:100が好ましく、さらに好ましくは1:1~1:20であり、特に好ましくは1:1~1:10である。
ノニオン界面活性剤(B1)とノニオン界面活性剤(B2)との重量比は、得られる有用物質量、タンパク質の変性のさせにくさ及び有用物質分泌効率の観点から、1:0.001~1:100が好ましく、さらに好ましくは1:0.01~1:10である。
【0069】
ノニオン界面活性剤(B)としては、脂肪酸とポリエーテルアルコールとのエステル化物;モノアルコールのアルキレンオキサイド(以下、アルキレンオキサイドはAOと略記することがある)付加物;アルキルフェノールAO付加物;脂肪酸AO付加物;多価アルコール型ノニオン界面活性剤及びプルロニック型ノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0070】
脂肪酸とポリエーテルアルコールとのエステル化物について、脂肪酸としては、炭素数10~22の脂肪酸が含まれ、具体的には、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びヤシ油脂肪酸等が挙げられる。
ポリエーテルアルコールとしては、活性水素基を有する化合物への炭素数2~4のアルキレンオキサイド付加物が含まれる。
活性水素基を有する化合物としては、水酸基含有化合物(水、多価(2~8価またはそれ以上)アルコール、多価(2~3価)フェノール、ビスフェノール化合物等)、アミノ基含有化合物(アンモニア、モノアミン、ポリ(2~3またはそれ以上)アミン、アルカノールアミン及びその他ポリアミン等)、カルボキシル基含有化合物[脂肪族ポリカルボン酸(コハク酸、アジピン酸等)、芳香族ポリカルボン酸(フタル酸、トリメリット酸等)及びポリ(2~100)カルボン酸重合体{(メタ)アクリル酸の(共)重合物}等]、チオール基含有化合物(エチレンジチオール及び1,6-ヘキサンジチオール等)、リン酸系化合物(リン酸、亜リン酸及びホスホン酸等)、並びにこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
炭素数2~4のアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド(以下、EOと略記する。)、1,2-プロピレンオキサイド(以下、POと略記する。)及び1,2-ブチレンオキサイド(以下、BOと略記する。)等が挙げられる。
【0071】
脂肪酸とポリエーテルアルコールとのエステル化物として具体的には、ラウリル酸エステルEO15モルPO30モル付加物(HLB=7.6)、オレイル酸エステルEO15モルPO30モル付加物(HLB=7.0)、ラウリル酸エステルEO30モルPO30モル付加物(HLB=9.9)、オレイル酸エステルEO30モルPO30モル付加物(HLB=9.4)、ラウリル酸エステルEO290モル付加物(HLB=18.4)等が挙げられる。
【0072】
アルコールAO付加物としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが含まれる。
具体的には、炭素数8~24の高級アルコール(デシルアルコール、ドデシルアルコール、ヤシ油アルキルアルコール、オクタデシルアルコール及びオレイルアルコール等)のエチレンオキサイド(以下、エチレンオキサイドはEOと略記)0~20モル及び/又はプロピレンオキサイド(以下、プロピレンオキサイドはPOと略記)1~20モル付加物(ブロック付加物及び/又はランダム付加物を含む。以下同様)[例えば、デシルアルコールのEO8モル/PO7モルブロック付加物]が含まれる。
【0073】
アルコールAO付加物としてさらに具体的には、ラウリルアルコールEO7モル付加物(HLB=12.4)、オレイルアルコールEO5モル付加物(HLB=9.0)、オレイルアルコールEO6モル付加物(HLB=10.2)、オレイルアルコールEO7モル付加物(HLB=11.0)及びオレイルアルコールEO10モル付加物(HLB=12.4)、1,2-ドデカンジオールモノオキシエチレン付加物等が挙げられる。
【0074】
アルキルフェノールAO付加物としては、炭素数6~24のアルキル基を有するアルキルフェノールAO付加物が含まれる。
具体的には、オクチルフェノールのEO1~20モル及び/又はPO1~20モル付加物並びにノニルフェノールのEO1~20モル及び/又はPO1~20モル付加物等が挙げられる。また、TRITONTMX-114(HLB=12.4)、igepalTMCA-520(HLB=10.0)及びigepalTMCA-630(HLB=13.0)等が市場から容易に入手できる。
【0075】
脂肪酸AO付加物としては、炭素数8~24の脂肪酸(デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びヤシ油脂肪酸等)のEO1~20モル及び/又はPO1~20モル付加物が含まれる。
脂肪酸AO付加物として具体的には、オレイン酸EO9モル付加物(HLB=11.8)、ジオレイン酸EO12モル付加物(HLB=10.4)、ジオレイン酸EO20モル付加物(HLB=12.9)及びステアリン酸EO9モル付加物(HLB=11.9)等が挙げられる。
【0076】
多価アルコール型ノニオン界面活性剤としては、炭素数3~36の2~8価の多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビット及びソルビタン等)のEO及び/又はPO付加物;前記多価アルコールの脂肪酸エステル及びそのEO付加物、並びに、ショ糖の脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド(ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等)及びこれらのAO付加物が含まれる。
【0077】
多価アルコール型ノニオン界面活性剤として具体的には、ソルビタンテトラオレイン酸エステルEO付加物(HLB=11.4)及びソルビタンヘキサオレイン酸エステルEO付加物(HLB=10.2)、グリセリンPO50モル付加物(HLB=4.2)等が挙げられる。
【0078】
プルロニック型ノニオン界面活性剤としては、EO及びPOのブロック共重合体が含まれる。
有用物質の変性のさせにくさ、細胞毒性及び有用物質の分泌効率の観点から、数平均分子量(以下、Mnと略記する)は1000~50000が好ましく、さらに好ましくは3000~30000である。
有用物質の変性のさせにくさ、細胞毒性及び有用物質の分泌効率の観点から、EOとPOのモル比(EO/PO)は、2/1~3500/1が好ましい。
【0079】
プルロニック型ノニオン界面活性剤として具体的には、EO60PO30モルブロック共重合体(HLB=13.1)EO142PO30モルブロック共重合体(HLB=15.6)、EO168PO34モルブロック共重合体(HLB=15.8)、EO290PO56モルブロック共重合体(HLB=15.9)が挙げられる。
【0080】
これらのノニオン界面活性剤(B)のうち、細胞毒性及び有用物質の分泌効率の観点から、脂肪酸とポリエーテルアルコールとのエステル化物及びプルロニック型ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0081】
本発明の有用物質の生産方法で使用されるノニオン界面活性剤(B)の使用量は、対象となる微生物、生産される有用物質の種類及び抽出方法の種類によって適宜選択されるが、培養開始時の培養液の重量を基準として、得られる有用物質量、タンパク質の変性のさせにくさ及び有用物質の分泌効率の観点から、0.0001~20重量%が好ましく、さらに好ましくは0.005~10重量%であり、次にさらに好ましくは0.007~7重量%であり、特に好ましくは0.01~5重量%である。
HLBが3以上13未満であるノニオン界面活性剤(B1)の使用量は、得られる有用物質量、タンパク質の変性のさせにくさ、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、培養開始時の培養液の重量を基準として0.005~10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.007~重量%7であり、特に好ましくは0.01~1重量%である。
HLBが13~20であるノニオン界面活性剤(B2)の使用量は、得られる有用物質量、タンパク質の変性のさせにくさ、有用物質の分泌効率及び細胞毒性の観点から、培養開始時の培養液の重量を基準として0.005~10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.007~7重量%であり、特に好ましくは0.01~5重量%である。
【0082】
本発明の有用物質の生産方法において、培養液中の界面活性剤による分泌効率(%)は、生産性の観点から、55~100%が好ましく、さらに好ましくは60~100%であり、次にさらに好ましくは65~100%であり、特に好ましくは70~100%である。
【0083】
分泌効率とは、界面活性剤により微生物内の有用物質が微生物外(培養液中)へ分泌されることを示している。
なお、本発明においては、下記式によって定義される。
分泌効率(%)=100×(X/OD)/{(X/OD)+(Y/OD)}
X(培養上清):遠心分離による菌体除去後に残る培養液中の有用物質の濃度
Y(菌体表面):遠心分離により集めた菌体を洗浄し、回収時の培養液と同量の生理食塩水で再懸濁した菌体懸濁液中の有用物質の濃度
OD:遠心分離時の菌体濃度
【0084】
分泌効率は、例えば微生物内で生産されたタンパク質がよりペリプラズム移行するようにすれば分泌効率は上がり、よりペリプラズム移行しないようにすれば分泌効率は下がる。また、スクリーニングによって分泌効率の高い界面活性剤を選定することにより分泌効率を上げることができる。
【0085】
イオン界面活性剤(A)及びノニオン界面活性剤(B)はあらかじめ培養液と混合して使用する以外に、微生物を懸濁させた培養液に後から添加しても良い。培養液との混合は、培養液に界面活性剤を添加し、撹拌羽根又はスターラー等で撹拌することで行うことができる。後から混合する際は、撹拌羽根等で撹拌しながら添加することで行うことができる。
【0086】
<培養液の濁度の測定方法>
サンプリングで回収した微生物を含む培養液を用いて、濁度計[(株)島津製作所社製、UV-1700]を用いて、光路長1cmの石英セルを用いて濁度の測定を行う。
培養液は、1500rpm、5分、4℃で遠心し、上清を破棄する。沈澱をサンプル液量と同量の生理食塩水で再懸濁し、適切な吸光度(0.1~0.8)になるように生理食塩水で希釈して600nmの吸光度を測定する。培養液の濁度は下記数式(1)によって算出する。
培養液の濁度(OD)=(希釈した培養液の600nmの吸光度)×培養液の希釈倍率 (数式1)
【0087】
本発明の有用物質の生産方法における培養液の濁度は、好ましくは1~300ODであり、さらに好ましくは10~300ODであり、特に好ましくは20~300ODである。
培養液の濁度が1OD以上であると有用物質の生産量が多くなり、300OD以下であると有用物質の生産が容易であるので好ましい。
本発明の有用物質の生産方法において、上記範囲内であれば、培養液の濁度が大きければ大きいほど有用物質の生産量は増加する。
【0088】
本発明の有用物質の生産方法において、有用物質の生産量の観点から、培養液の濁度が上記範囲内である時間が、有用物質を分泌させる工程に要する時間の10%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50%以上である。
【0089】
培養液の濁度は、例えば十分な通気条件下で半回分培養法を用いて適切な速度で流加を行うことによって増加させることができ、制限した通気条件下で回分培養を行うことによって減らすことができる。また、培養開始から界面活性剤を入れるまでの時間を長くすることによって増加し、培養開始から界面活性剤を入れるまでの時間を短くすることによって減らすことができる。また、界面活性剤の投入速度を遅くすれば増加し、早くすれば減らすことができる。
【0090】
本発明の有用物質の生産方法において、有用物質の分泌生産をする生産方法には、下記工程(a)及び(b)を含む微生物外分泌生産方法が含まれる。下記工程において、有用物質を分泌生産する工程は工程(a)である。
工程(a):有用物質を生産する微生物(酵母等)を培養する培養液と界面活性剤を同時に存在させて有用物質を微生物外(培養液中)に分泌させる工程。
工程(b):工程(a)の後、培養液から有用物質を分離する工程。
【0091】
以下に本発明の界面活性剤を使用する有用物質の生産方法の一例を示す。
(i)遺伝子組み換え
(i-1)目的タンパク質を発現している細胞からメッセンジャーRNA(mRNA)を分離し、該mRNAから単鎖のcDNAを、次に二本鎖DNAを合成し、該二本鎖DNAをファージDNA又はプラスミドに組み込む。得られた組み換えファージ又はプラスミドを宿主微生物に形質転換しcDNAライブラリーを作成する。
(i-2)目的とするDNAを含有するファージDNA又はプラスミドをスクリーニングする方法としては、ファージDNA又はプラスミドと目的タンパク質遺伝子又は相補配列の一部をコードするDNAプローブとのハイブリダイゼーション法が挙げられる。
(i-3)スクリーニング後のファージ又はプラスミドから目的とするクローン化DNA又はその一部を切りだし、該クローン化DNA又はその一部を発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することによって、目的遺伝子の発現ベクターを作製することができる。内膜を移行させるシグナル配列(ペリプラズムに目的物質を発現させるシグナル配列)をコードするDNAを同時に連結することもできる。
(ii)培養
(ii-1)宿主微生物を発現ベクターで形質転換して組み換え微生物を作製し、組み換え微生物を前培養する。前培養は寒天培地上で通常15~43℃で3~72時間行う。
(ii-2)有用物質の生産に用いる培養液を121℃、20分間オートクレーブ滅菌を行い、ここに寒天培地で前培養した組み換え微生物を培養する。培養は、通常15~43℃で12~72時間行う。なお、培養開始と同時に界面活性剤を使用する場合は、界面活性剤と培養液を混合し均一化したものを、培養液として用いて同様の操作を行う。また、培養後6時間から72時間後に界面活性剤を加える場合は、界面活性剤を加えてから1~1000時間培養を継続する。
(iii)精製
(iii-1)培養液中に分泌されたタンパク質は、遠心分離、中空糸分離、ろ過等で微生物及び微生物残さと分離される。
(iii-2)タンパク質を含む培養液は、イオン交換カラム、ゲルろ過カラム、疎水カラム、アフィニティカラム及び限外カラム等のカラム処理を繰り返し、エタノール沈殿、硫酸アンモニウム沈殿及びポリエチレングリコール沈殿等の沈殿処理を必要に応じ適宜行うことによって分離精製される。
【0092】
(iii-1)で分離された微生物は、その後、新たに培養液を供給することにより、さらに培養することができる。その培養液等をさらに(iii)の工程に供し精製、培養を繰り返すことにより、有用物質の連続生産を行うことができる。
【0093】
上記の(iii)の精製工程においてカラム処理をおこなう場合、カラムクロマトグラフィーに使用される充填剤としては、シリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド及びビニルポリマー等が挙げられ、市販品ではCaptoシリーズ、Sephadexシリーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、GEヘルスケア社)、Bio-Gelシリーズ(Bio-Rad社)等が挙げられる。
【0094】
本発明の有用物質の生産方法を使用することにより、酵母が生産した有用物質を高効率で培養液中へ分泌させることができ、短時間で高い収量を得ることができるため、高生産量を達成することができる。また、本発明の有用物質の生産方法は、有用物質が培養液中に分泌されるため、有用物質の精製が容易である。
【0095】
本発明の生産方法で得られる有用物質は、上記の方法で得られるため、従来よりも比活性が高い。
【0096】
本発明の有用物質生産方法は、界面活性剤と酵母とを同時に存在させて、有用物質を培養液中に分泌させる工程を含む。
【0097】
この工程において、酵母が生存している限り、酵母が有用物質を作製し培養液中に分泌することができると推測される。さらに、酵母が有用物質を作製する能力を有していれば、作製する有用物質の種類は問わず本発明の生産方法が使用できると推測される。
本発明の有用物質生産方法は、酵母内で作製した有用物質が酵母のペリプラズムに移行している場合に特に有効である。有用物質がペリプラズムに移行していることによって、有用物質が培養液中に分泌されやすくなる。
【実施例
【0098】
以下の実施例、比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特記しない限り、部は重量部を意味する。
また、以下において実施例25、50は参考例1~2を意味する。
【0099】
<実施例1~25>
ルシフェラーゼ発現酵母(Pichia pastoris)は、(独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター)より分譲していただいたPichia pastorisを用いて形質転換を行った。pPICZαベクター(Thermo社製)をXhoIとXbaIで切断し、人工合成(Thermo社で委託合成)した両端にXhoIとXbaI切断部位を持つルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだ。ルシフェラーゼ遺伝子組み込みpPICZαベクターの酵母への形質転換は、pPICZαベクター取り扱い説明書に記載の方法で行った。ルシフェラーゼ発現酵母をBMGY培養液に白金耳を用いて植菌して30℃で15時間、200rpmで振とう培養して作製した培養液を最終ODが0.1OD/mlとなるように、125mlBMGY培養液(Difco社製Yeast extract 1wt%、Difco社製Bacto peptone 2wt%、Difco社製Yeast nitrogen base w/o amino acid 1.34wt%、グルコース2wt%、100mMリン酸水素カリウム、pH6.0)に再懸濁した。さらに、その再懸濁液を、30℃で約17時間、1100rpmでODが20~30となるまで攪拌培養を続けた。ODが20~30となった時点で培養液を遠心(1500g、10分)し、125mlBMMY培養液に再懸濁し、30℃、1100rpmで2時間培養した。2時間経過後、表1と2に記載の界面活性剤を表1と2に記載の重量%となるように添加し、8時間30℃、1100rpmで培養した。その後、濁度(培養終了時の濁度)測定用にサンプリングし、遠心分離機によって、培養液から菌体と培養上清を分離し、培養上清と菌体を回収した。
【0100】
<比較例1>
実施例1において、界面活性剤の代わりに純水を添加する以外は同様にして実施し、培養上清と菌体を回収した。
【0101】
<実施例26~50>
酸性ホスファターゼ発現酵母(Candida boidinii 公知文献(Regulation and evaluation of five methanol-inducible promoters in the methylotrophic yeast Candida boidinii, H. Yurimoto et al., Biochimica et Biophysica Acta, 1493, 2000, 56-63)に記載の方法で作製した。)をBMGY培地に白金耳を用いて植菌して30℃で15時間、200rpmで振とう培養して作製した培養液を最終ODが0.1OD/mlとなるように、125mlBMGY培地に再懸濁した。さらに、その再懸濁液を、30℃で約17時間、1100rpmでODが2~5となるまで攪拌培養を続けた。ODが2~5となった時点で2v/v%となるようにメタノールを添加し、30℃、1100rpmで2時間培養した。2時間経過後、表3と4に記載の化合物(1)~(13)を表3と4に記載の重量で添加し、8時間30℃、1100rpmで培養した。8時間後、濁度(培養終了時の濁度)測定用にサンプリングし、遠心分離機によって、培養液から菌体と培養上清を分離し、培養上清と菌体を回収した。
菌体に50mM 酢酸NaBf(pH4.0)を加え、遠心することで菌体を洗浄した。洗浄した菌体に、50mM 酢酸NaBf(pH4.0)で再懸濁し、菌体表面の酸性ホスファターゼ活性測定サンプルとした。
【0102】
<比較例2>
実施例26において、化合物(4)の代わりに純水を添加する以外は同様にして実施し、培養上清と菌体を回収した。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
なお、表1~4中、化合物(1)~(14)は下記を使用した。なお、化合物(1)~(8)としては、炭素数12のアルキル基を有する化合物を用いた。
化合物(1):ポリオキシエチレン(EO2.5モル付加)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム
化合物(2):ポリオキシエチレン(EO3モル)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム
化合物(3):2-(ドデシルアミノ)エタンスルホン酸ナトリウム
化合物(4):ドデシル-β-アミノエチルスルホン酸ナトリウム
化合物(5):ドデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド
化合物(6):ドデシルホスホリルコリン
化合物(7):ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン
化合物(8):塩化ラウリルトリメチルアンモニウム
化合物(9):グリセリンPO50モル付加物、HLB=4.2
化合物(10):オレイル酸エステルEO15モルPO30モル付加物、HLB=7.0
化合物(11):オレイル酸エステルEO30モルPO30モル付加物、HLB=9.4
化合物(12):EO60PO30モルブロック共重合体、HLB=13.1
化合物(13):EO142PO30モルブロック共重合体、HLB=15.6
化合物(14):ラウリル酸エステルEO290モル付加物、HLB=18.4
【0108】
実施例1~50及び比較例1と2で得た培養上清について、培養液の濁度、有用物質の分泌生産量及び分泌効率等の評価を下記に記載の通り行った。
結果を表1~4に記載する。
【0109】
<培養液の濁度の測定方法>
サンプリングで回収した微生物を含む培養液を用いて、濁度計[(株)島津製作所社製、UV-1700]を用いて、光路長1cmの石英セルを用いて濁度の測定を行った。
培養液は、1500rpm、5分、4℃で遠心し、上清を破棄した。沈澱をサンプル液量と同量の生理食塩水で再懸濁し、適切な吸光度(0.1~0.8)になるように生理食塩水で希釈して600nmの吸光度を測定した。培養液の濁度は下記数式(1)によって算出した。
培養液の濁度(OD)=(希釈した培養液の600nmの吸光度)×培養液の希釈倍率 (数式1)
【0110】
<有用物質の分泌生産量の評価:分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性測定>
実施例1~25及び比較例1で得た各培養上清を0.2M Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)で10~1000倍希釈したもの20μlに、下記のルシフェリン溶液60μl添加した混合液を試料として、ルミノメーターを用いて以下の条件で測定した発光強度を、下記式に当てはめて得られた値を分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性とした。
ルミノメーター:プロメガ株式会社製の「Glomax Navigator」
ルシフェリン溶液:ニュー・イングランド・バイオラボ・ジャパン株式会社製品 測定温度:25℃
検出装置:発光検出器
検出波長:350~700nm
〔分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性〕=〔発光強度〕×希釈倍率/〔培養終了時の濁度〕
なお、表1と2中、ルシフェラーゼ活性は、比較例1を1とした場合の相対値で表した。
分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性が高い程、有用物質の分泌生産量が多いことを示す。
【0111】
<菌体表面に残った有用物質のルシフェラーゼ活性測定>
実施例1~25及び比較例1で得た菌体に、除去した上清と同量の0.2M Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)200μlを加え、遠心することで菌体を洗浄した。洗浄した菌体に、洗浄した上清と同量の0.2M Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)200μlで再懸濁し、0.2M Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)で10~1000倍希釈したものを菌体表面のルシフェラーゼ活性測定用サンプルとした。
この菌体表面のルシフェラーゼ活性測定用サンプル20μlに上記のルシフェリン溶液60μl添加した混合液を試料として、「分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性測定」と同様の条件で発光強度を測定し、測定した発光強度を、下記式に当てはめて得られた値を菌体表面に残った有用物質のルシフェラーゼ活性とした。
〔菌体表面に残った有用物質のルシフェラーゼ活性〕=発光値〕×希釈倍率/〔培養終了時の濁度〕
なお、表1と2中、ルシフェラーゼ活性は、比較例1を1とした場合の相対値で表した。
【0112】
<分泌効率の評価>
実施例1~25及び比較例1で得た各培養上清と菌体を用いて、各実施例における分泌効率を下記式により算出した。
分泌効率(%)=100×「分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性」/「ルシフェラーゼ活性合計」
なお、ルシフェラーゼ活性合計は、「分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性」+「菌体表面に残った有用物質のルシフェラーゼ活性」を意味する。
【0113】
<タンパク質量の測定:酸性ホスファターゼ活性測定>
実施例26~50及び比較例2で得た各培養上清に1/40量の2M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)5μlを添加した。緩衝液を添加した培養上清又は実施例17~32で得た各菌体表面測定サンプルに基質溶液(p-nitrophenylphosphate 0.64mg/ml含有 50mM酢酸ナトリウム緩衝液pH4.0)を容量比=1:1で混合し、35℃で10分間反応した。
反応後、反応液と等量の10%トリクロロ酢酸溶液を添加し反応停止をした。反応停止をした溶液に、炭酸ナトリム飽和溶液を反応液全体と等量加え、発色させた。発色させた液は、1500×g、5分で不溶画分を除去し、(Biotek社製マイクロプレートリーダーPowerWave)を用いて420nmの吸光度を測定した。参照波長には630nmを測定した。
培養上清、菌体表面測定サンプルそれぞれについて、下記の式より算出した値を酸性ホスファターゼ活性とした。得られた培養上清の酸性ホスファターゼ活性の結果において、比較例2の値を1とした場合の相対値を「分泌生産した有用物質の酸性ホスファターゼ活性」とし、菌体表面測定サンプルの酸性ホスファターゼ活性の結果において、比較例2の値を1とした場合の相対値を「菌体表面に残った有用物質の酸性ホスファターゼ活性」として表3と4に記載した。
酸性ホスファターゼ活性={(Abs420nm)-(Abs630nm)}/(培養終了時の濁度)
【0114】
<分泌効率の評価>
実施例26~50及び比較例2で得た「分泌生産した有用物質の酸性ホスファターゼ活性」及び「菌体表面に残った有用物質の酸性ホスファターゼ活性」の値を用いて、下記数式より分泌効率を算出した。結果を表3と4に示す。
分泌効率(%)=100×「分泌生産した有用物質の酸性ホスファターゼ活性」/「酸性ホスファターゼ活性合計」
なお、酸性ホスファターゼ活性合計は、「分泌生産した有用物質の酸性ホスファターゼ活性」+「菌体表面に残った有用物質の酸性ホスファターゼ活性」を意味する。
【0115】
表1~4から、培養液中にイオン界面活性剤(A)とノニオン界面活性剤(B)を含有することで、有用物質の菌体外への分泌効率が上昇していることがわかる。
表2及び表4の実施例24、25及び比較例1との比較、実施例49、50及び比較例2との比較から、ノニオン界面活性剤(B)としてノニオン界面活性剤(B1)又は(B2)のいずれか一方を含有することで、用いる菌株によって分泌効率の上昇の程度に差はあるものの、分泌効率が上昇することがわかる。
また、表1~4から、イオン界面活性剤(A)とノニオン界面活性剤(B1)とノニオン界面活性剤(B2)の3種を組み合わせることで、分泌効率が極めて高くなることがわかる。
また、実施例1~4及び26~29から、イオン界面活性剤(A)を過剰に添加すると分泌効率は上昇するが、細胞毒性により濁度が低下しており、菌株により細胞毒性の感受性は10倍程度異なることがわかる。
また、実施例2、13~16、27及び38~41からノニオン界面活性剤(B1)はHLBは7程度であることが分泌効率が最も高く、ノニオン界面活性剤(B2)はHLBが15程度であることが分泌効率が高いことがわかる。
実施例2、17~23及び27、42~48から、イオン性の異なるイオン界面活性剤(A)を用いた場合の分泌効率への効果がわかり、両性界面活性剤とカチオン界面活性剤の効果が高いことがわかる。
また、実施例においては、ルシフェラーゼ活性合計が大きいことから、有用物質を変性させずに大量に得ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の有用物質の生産方法は、タンパク質などの有用物質を真核生物から抽出する際に使用できる。タンパク質としては酵素、ホルモンタンパク質、抗体及びペプチド等が挙げられる。生産されるタンパク質が、酵素(プロテアーゼ、セルラーゼ、リパーゼ及びアミラーゼ等)の場合には、食品加工用、洗浄剤用、繊維処理用、製紙用途、酵素変換用途などとして好適に使用でき、特にバイオ医薬品の製造に用いる上で有用である。