(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ワックス異性化油の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10G 65/12 20060101AFI20220401BHJP
C10G 45/58 20060101ALI20220401BHJP
C10G 47/00 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
C10G65/12
C10G45/58
C10G47/00
(21)【出願番号】P 2018059580
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2020-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100190931
【氏名又は名称】熊谷 祥平
(72)【発明者】
【氏名】田川 一生
(72)【発明者】
【氏名】相田 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼濱 昂志
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-520580(JP,A)
【文献】特開2005-232284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン重合体ワックスを準備する工程と、
前記エチレン重合体ワックスを水素化分解触媒により水素化分解して分解生成物を得る工程と、
前記分解生成物を水素化異性化触媒により異性化脱ろうしてワックス異性化油を得る工程と、
を備え
、
前記エチレン重合体ワックスに含まれる炭化水素化合物の構成において、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有量が、前記エチレン重合体ワックス全量基準で、80質量%以上である、ワックス異性化油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス異性化油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、潤滑油基油として、鉱油系基油の他に、ワックス異性化油がある。ワックス異性化油の原料であるワックスとしては、炭化水素油を溶剤脱ろうして得られる石油スラックワックスなどの天然ワックス、あるいは合成ガスを使用するFischer Tropsch合成により生成されたもの(FTワックス)などの合成ワックスなどが挙げられる。また、高品質な潤滑油基油を製造する方法として、例えば、上記ワックス等に由来する原料油の水素化処理及び脱ろう処理を行う方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来の原料ワックス等を用いて製造される潤滑油基油は、燃費の向上や排出量の低減等の要求をある程度満たすことができるが、本発明者らの検討によれば、当該潤滑油基油であってもトラクション係数の低減の点で未だ改善の余地があることが判明した。
【0005】
そこで本発明は、低トラクション係数のワックス異性化油を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エチレン重合体ワックスを準備する工程と、エチレン重合体ワックスを水素化分解触媒により水素化分解して分解生成物を得る工程と、分解生成物を水素化異性化触媒により異性化脱ろうしてワックス異性化油を得る工程と、を備える、ワックス異性化油の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低トラクション係数のワックス異性化油を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0009】
本実施形態に係るワックス異性化油の製造方法は、エチレン重合体ワックスを準備する工程(第一工程)と、エチレン重合体ワックスを水素化分解触媒により水素化分解して分解生成物を得る工程(第二工程)と、分解生成物を水素化異性化触媒により異性化脱ろうしてワックス異性化油を得る工程(第三工程)と、を備える。
【0010】
本実施形態に係る製造方法により得られるワックス異性化油が低トラクション係数を示す理由は、その炭素数分布の特異性にあると本発明者等は推察する。
【0011】
すなわち、まず、従来のワックス異性化油の場合、FT合成により得られるワックス等の原料ワックスは、通常、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物(炭素数2nの炭化水素化合物;nは1以上の整数を示す。以下同様である。)と奇数個の炭素数を有する炭化水素化合物(炭素数2n+1の炭化水素化合物)との混合物であり、両者の比率はほぼ同じである。そして、例えば特許文献1に記載の製造方法等、従来の基油の製造方法によって得られるワックス異性化油においても、分解や異性化により各炭化水素化合物の分子構造は変化し得るが、全体として炭素数2nの炭化水素化合物又は炭素数2n+1の炭化水素化合物の一方の割合が極端に大きくなることはない。
【0012】
これに対し、本実施形態における原料ワックスは、エチレン重合体ワックス(すなわちエチレンの重合体であるワックス)であり、その大部分は偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物(炭素数2nの炭化水素化合物)である。そして、当該エチレン重合体ワックスを原料ワックスとして、上記本実施形態に係るワックス異性化油の製造方法によりワックス異性化油を製造すると、異性化により分子構造の変化(例えば炭素数2nのノルマルパラフィンの異性化による炭素数2n+1のイソパラフィンの生成)は起こり得るが、得られるワックス異性化油は、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物又は奇数個の炭素数を有する炭化水素化合物の一方の割合が大きいという特異な炭素数分布を示す。本実施形態に係るワックス異性化油が、粘度や粘度指数が同程度である従来のワックス異性化油と比較して、低トラクション係数を示すのは、このような炭素数分布の特異性に起因していると考えられる。
【0013】
なお、水素化分解して得られた分解生成物を脱ろうする際に、水素化異性化触媒を用いて異性化脱ろうするのは、上記の特異な炭素数分布をなるべく維持するためである。これは、分解生成物の脱ろうの際に、例えば溶剤脱ろうでは、分子間力の強い偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物が多く分離されてしまうことが考えられるが、水素化異性化触媒を用いて異性化脱ろうすることで、このような分離を抑制できるためと考えられる。
【0014】
第一工程において準備されるエチレン重合体ワックスとしては、例えば、エチレンをオリゴマー化して得られるエチレンオリゴマーワックスが挙げられる。なお、本実施形態において「オリゴマー」とは、数平均分子量(Mn)が5000以下の重合体を意味する。エチレンオリゴマーのMnは、好ましくは3000以下、より好ましくは1000以下である。また、エチレンオリゴマーのMnの下限値は特に制限はないが、例えば200以上であってよく、250以上であってよく、300以上であってよい。また、分子量分布の度合(分散度)を示すMw/Mnは、例えば1.0~5.0であってよく、1.1~3.0であってよい。エチレンオリゴマーのMnが3000以下であれば、当該オリゴマーを原料として目標とする粘度の基油を得るために、例えば反応温度を上げる等、異性化の条件を厳しくする必要がなく、所望の基油を効率よく得ることができる。また、過度の異性化によるトラクション係数の増加を防ぐことも可能となる。一方、エチレンオリゴマーのMnが200以上であれば、目標とする粘度の基油を効率よく得ることができる。
【0015】
オリゴマーのMn及びMwは、例えば、GPC装置を用い、標準ポリスチレンから作成した検量線に基づき、ポリスチレン換算量として求めることができる。
【0016】
原料ワックスとして用いられるエチレン重合体ワックスには、通常、ノルマルパラフィンが含まれる。エチレン重合体ワックスにおけるノルマルパラフィンの含有量は、特に制限はないが、例えば、エチレン重合体ワックス全量基準で、40質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよい。ノルマルパラフィンの含有量の上限についても特に制限はなく、例えば、100質量%以下であってよく、90質量%以下であってよく、85質量%以下であってよい。
【0017】
エチレン重合体ワックスに含まれる炭化水素化合物の構成において、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有量は、エチレン重合体ワックス全量基準で、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、得られるワックス異性化油のトラクション係数をより効果的に低減できる観点から、奇数個の炭素数を有する炭化水素化合物を実質的に含まないことが更に好ましい。
【0018】
なお、上記ノルマルパラフィンの含有量及び偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有量は、エチレン重合体ワックスについて、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行い、エチレン重合体ワックス全量におけるノルマルパラフィン及び偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の割合を測定・算出した値を意味する。なお、測定の際には、標準試料として炭素数5~50のノルマルパラフィンの混合試料が用いられ、上記各割合は、クロマトグラムの全ピーク面積値に対するノルマルパラフィンに相当するピーク面積値の合計、或いは偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物に相当するピーク面積値の合計の割合として求められる。なおここで、同じ炭素数の炭化水素化合物の場合、最も沸点の高い(最も留出時間の長い)炭化水素化合物はノルマルパラフィンであることから、炭素数の算出に際しては、上記標準試料を測定したときのn個の炭素数を有するノルマルパラフィンの留出時間に相当するピークと、n-1個の炭素数を有するノルマルパラフィンの留出時間に相当するピークの間に存在するピークは、n個の炭素数を有する非ノルマルパラフィンに相当するものとし、同じ炭素数におけるノルマルパラフィンと非ノルマルパラフィンとを区別するものとする。
【0019】
(ガスクロマトグラフィー条件)
カラム:液相無極性カラム(長さ:25mm、内径:0.3mmφ、液相膜厚:0.1μm)
昇温条件:50~400℃(昇温速度:10℃/分)
キャリアガス:ヘリウム(線速度:40cm/分)
スプリット比:90/l
試料注入量:0.5μL(二硫化炭素で20倍に希釈した試料の注入量)
検出器:水素炎イオン化型検出器(FID)
【0020】
エチレン重合体ワックスの製造方法としては特に制限されないが、例えば、エチレン重合触媒の存在下でエチレンを重合させる(オリゴマー化させる)ことにより得ることができる。具体的な一態様としては、例えば、触媒が充填された反応装置に、エチレンを導入する方法が挙げられる。エチレンの反応装置への導入方法は特に限定されない。
【0021】
また、重合反応の際に、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テトラリン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。これらの溶媒に触媒を溶解して、溶液重合、スラリー重合等を行うことができる。
【0022】
重合反応における反応温度は、特に制限されないが、触媒効率の観点から、例えば、-50℃~100℃であってもよく、-30℃~80℃であってもよく、-20℃~70℃であってもよく、0℃~50℃であってもよく、5℃~30℃であってもよく、5℃~15℃であってもよい。反応温度が-50℃以上であれば、触媒活性を維持したまま生成した重合体の析出を抑制することができ、100℃以下であれば、触媒の分解を抑制することができる。また、反応圧力についても特に限定されないが、例えば、100kPa~5MPaであってもよい。反応時間についても特に限定されないが、例えば、1分~24時間であってもよく、5分~60分であってもよく、10分~45分であってもよく、20分~40分であってもよい。
【0023】
エチレン重合触媒としては、特に制限されないが、例えば下記一般式(1)で表される鉄化合物を含む触媒が挙げられる。
【0024】
【0025】
式(1)中、Rは炭素数1~6のヒドロカルビル基又は炭素数6~12の芳香族基を示し、同一分子中の複数のRは同一でも異なっていてもよい。R’は酸素原子及び/又は窒素原子を有する遊離基を示し、同一分子中の複数のR’は同一でも異なっていてもよい。Yは塩素原子又は臭素原子を示す。
【0026】
炭素数1~6のヒドロカルビル基としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基等が挙げられる。ヒドロカルビル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。さらに、ヒドロカルビル基は、直鎖状又は分岐鎖状のヒドロカルビル基と環状のヒドロカルビル基とが結合した一価の基であってもよい。
【0027】
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の炭素数1~6の直鎖アルキル基;iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、分岐鎖状ペンチル基(全ての構造異性体を含む)、分岐鎖状ヘキシル基(全ての構造異性体を含む)等の炭素数3~6の分岐鎖アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数1~6の環状アルキル基などが挙げられる。
【0028】
炭素数2~6のアルケニル基としては、エテニル基(ビニル基)、n-プロペニル基、n-ブテニル基、n-ペンテニル基、n-ヘキセニル基等の炭素数2~6の直鎖アルケニル基;iso-プロペニル基、iso-ブテニル基、sec-ブテニル基、tert-ブテニル基、分岐鎖ペンテニル基(全ての構造異性体を含む)、分岐鎖ヘキセニル基(全ての構造異性体を含む)等の炭素数2~6の分岐鎖アルケニル基;シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基等の炭素数2~6の環状アルケニル基などが挙げられる。
【0029】
炭素数6~12の芳香族基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0030】
式(1)において、同一分子中の複数のR及びR’は同一又は異なっていてもよいが、化合物の合成を単純化する観点から同一であってもよい。
【0031】
酸素原子及び/又は窒素原子を有する遊離基は、酸素原子及び/又は窒素原子を有する炭素数0~6の遊離基であってもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0032】
このような鉄化合物として具体的には、下記式(1a)~(1h)で表される化合物が挙げられる。これら鉄化合物は、1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
一般式(1)で表される鉄化合物において、配位子を構成する化合物(以下、ジイミン化合物ということもある)は、例えば、ジベンゾイルピリジン及びアニリン化合物を、酸の存在下、脱水縮合することで得ることができる。
【0042】
上記ジイミン化合物の製造方法の好ましい態様は、2,6-ジベンゾイルピリジン、アニリン化合物及び酸を溶媒に溶解し、溶媒加熱還流下で脱水縮合させる第1工程と、第1工程後の反応混合物について分離・精製処理を行い、ジイミン化合物を得る第2工程と、を備える。
【0043】
第1工程で用いられる酸としては、例えば有機アルミニウム化合物を用いることができる。有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、メチルアルミノキサン等が挙げられる。
【0044】
第1工程で用いられる酸としては、上記有機アルミニウム化合物のほかに、プロトン酸を用いることもできる。プロトン酸は、プロトンを供与する酸触媒として用いられる。用いるプロトン酸は、特に制限されないが、好ましくは有機酸である。このようなプロトン酸としては、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。これらのプロトン酸を使用する場合、水の副成を抑制する観点から、ディーンスタークウォーターセパレーター等で水を除去することが好ましい。また、モレキュラーシーブス等の吸着剤の存在下で反応を行うことも可能である。プロトン酸の添加量は特に制限されず、触媒量であればよい。
【0045】
また、第1工程で用いられる溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0046】
第1工程における反応条件は、原料化合物、酸及び溶媒の種類ならびに量に応じて、適宜選択することができる。
【0047】
また、第2工程における分離・精製処理としては、特に制限されず、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、再結晶法等が挙げられる。特に、酸として上述した有機アルミニウム化合物を使用する場合は、反応溶液を塩基性水溶液と混合し、アルミニウムを分解・除去したのち、精製することが好ましい。
【0048】
上記ジイミン化合物と、鉄との混合方法は特に限定されず、例えば、
(i)ジイミン化合物を溶解させた溶液に鉄の塩(以下、単に「塩」ということもある)を添加、混合する方法、
(ii)ジイミン化合物と塩とを、溶媒を用いずに物理的に混合する方法、
などが挙げられる。
【0049】
また、ジイミン化合物と鉄との混合物から錯体を取り出す方法としては、特に制限されず、例えば、
(a)混合物に溶媒を使用した場合には溶媒を留去し、固形物をろ別する方法、
(b)混合物から生じた沈殿をろ別する方法、
(c)混合物に貧溶媒を加えて沈殿を精製させ、ろ別する方法、
(d)無溶媒混合物をそのまま取り出す方法、
などが挙げられる。この後、ジイミン化合物を溶解可能な溶媒による洗浄処理、金属を溶解可能な溶剤による洗浄処理、適当な溶媒を用いた再結晶処理等を施してもよい。
【0050】
鉄の塩としては、例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、アセチルアセトン鉄(II)、アセチルアセトン鉄(III)、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、等が挙げられる。これらの塩に溶媒、水等の配位子を有するものを用いてもよい。これらの中でも、鉄(II)の塩が好ましく、塩化鉄(II)がより好ましい。
【0051】
また、ジイミン化合物と鉄とを接触させる溶媒としては、特に制限されず、無極性溶媒及び極性溶媒のいずれも使用できる。無極性溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶媒などが挙げられる。極性溶媒としては、アルコール溶媒等の極性プロトン性溶媒、テトラヒドロフラン等の極性非プロトン性溶媒などが挙げられる。アルコール溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。特に混合物をそのまま触媒として使用する場合には、エチレン重合反応に実質的に影響がない炭化水素系溶媒を使用することが好ましい。
【0052】
また、ジイミン化合物と鉄とを接触させる際の両者の混合比は、特に制限されない。ジイミン化合物/鉄の比は、モル比で、0.2/1~5/1としてもよく、0.3/1~3/1としてもよく、0.5/1~2/1としてもよく、1/1としてもよい。
【0053】
ジイミン化合物における二つのイミン部位は、いずれもE体であることが好ましいが、いずれもE体であるジイミン化合物が含まれていれば、Z体を含むジイミン化合物を含んでいてもよい。Z体を含むジイミン化合物は、金属と錯体を形成しにくいことから、系内で錯体を形成させた後、溶媒洗浄等の精製工程で容易に除去することが可能である。
【0054】
上記一般式(1)で表される鉄化合物を含むエチレン重合触媒は、重合反応をより効率よく進行させるため、有機アルミニウム化合物を更に含有してもよい。有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、メチルアルミノキサン等が挙げられる。このとき、一般式(1)で表される鉄化合物と有機アルミニウム化合物との含有割合は、当該鉄化合物のモル数をG、有機アルミニウム化合物のアルミニウム原子のモル数をHとした場合、モル比でG:H=1:10~1:1000であってもよく、1:10~1:800であってもよく、1:20~1:600であってもよく、1:20~1:500であってもよい。上記範囲内であれば、より十分な重合活性を発現しつつ、コストアップの要因を抑制することができる。
【0055】
有機アルミニウム化合物としてメチルアルミノキサンを用いる場合、メチルアルミノキサンは、溶媒で希釈された市販品を使用することができるほか、溶媒中でトリメチルアルミニウムを部分加水分解したものも使用できる。また、トリメチルアルミニウムの部分加水分解の際に、トリイソブチルアルミニウムのようなトリメチルアルミニウム以外のトリアルキルアルミニウムを共存させ、共部分加水分解した修飾メチルアルミノキサンを使用することもできる。さらに、上記部分加水分解の際に、未反応のトリアルキルアルミニウムが残存している場合には、当該未反応のトリアルキルアルミニウムを、減圧下で留去するなどして除去してもよい。また、メチルアルミノキサンをフェノールやその誘導体等の活性プロトン化合物で変性させた変性メチルアルミノキサンを用いてもよい。
【0056】
なお、有機アルミニウム化合物として、トリメチルアルミニウム及びメチルアルミノキサンを併用する場合、エチレン重合触媒におけるトリメチルアルミニウムとメチルアルミノキサンとの含有割合は、トリメチルアルミニウムのモル数をH1、メチルアルミノキサンにおけるアルミニウム原子のモル数をH2とした場合、モル比でH1:H2=100:1~1:100であってもよく、50:1~1:50であってもよく、10:1~1:10であってもよい。上記範囲内であれば、より十分な触媒効率を発現しつつ、コストアップの要因を抑制することができる。
【0057】
また、上記一般式(1)で表される鉄化合物を含むエチレン重合触媒は、さらに任意の成分として、ホウ素化合物を含んでいてもよい。
【0058】
ホウ素化合物は、エチレン重合反応において、上記式(1)で表される鉄化合物の触媒活性を更に向上させる助触媒としての機能を有する。
【0059】
ホウ素化合物としては、例えば、トリスペンタフルオロフェニルボラン等のアリールホウ素化合物が挙げられる。また、ホウ素化合物は、アニオン種を有するホウ素化合物を用いることができる。例えば、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート等のアリールボレートなどが挙げられる。アリールボレートの具体例としては、リチウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、ナトリウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、トリチルテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、リチウムテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート等が挙げられる。これらの中でも、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、トリチルテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート又はトリチルテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレートが好ましい。これらホウ素化合物は1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0060】
エチレン重合触媒において、有機アルミニウム化合物及びホウ素化合物を併用する場合、有機アルミニウム化合物とホウ素化合物との含有割合は、有機アルミニウム化合物のモル数をH、ホウ素化合物のモル数をJとした場合、モル比でH:J=1000:1~1:1であってもよく、800:1~2:1であってもよく、600:1~10:1であってもよい。上記範囲内であれば、より十分な触媒効率を発現しつつ、コストアップの要因を抑制することができる。
【0061】
上記式(1)で表される鉄化合物を含むエチレン重合触媒は、より十分な触媒効率を確保する観点から、さらに下記一般式(2)で表される化合物(以下、リガンドということもある)を含有してもよい。
【0062】
【0063】
式(2)中、R’’は炭素数1~6のヒドロカルビル基又は炭素数6~12の芳香族基を示し、同一分子中の複数のR’’は同一でも異なっていてもよく、R’’’は酸素原子及び/又は窒素原子を有する炭素数0~6の遊離基を示し、同一分子中の複数のR’’’は同一でも異なっていてもよい。
【0064】
炭素数1~6のヒドロカルビル基としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基等が挙げられる。ヒドロカルビル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。さらに、ヒドロカルビル基は、直鎖状又は分岐鎖状のヒドロカルビル基と環状のヒドロカルビル基とが結合した一価の基であってもよい。
【0065】
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の炭素数1~6の直鎖アルキル基;iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、分岐鎖状ペンチル基(全ての構造異性体を含む)、分岐鎖状ヘキシル基(全ての構造異性体を含む)等の炭素数3~6の分岐鎖アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数1~6の環状アルキル基などが挙げられる。
【0066】
炭素数2~6のアルケニル基としては、エテニル基(ビニル基)、n-プロペニル基、n-ブテニル基、n-ペンテニル基、n-ヘキセニル基等の炭素数2~6の直鎖アルケニル基;iso-プロペニル基、iso-ブテニル基、sec-ブテニル基、tert-ブテニル基、分岐鎖ペンテニル基(全ての構造異性体を含む)、分岐鎖ヘキセニル基(全ての構造異性体を含む)等の炭素数2~6の分岐鎖アルケニル基;シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基等の炭素数2~6の環状アルケニル基などが挙げられる。
【0067】
炭素数6~12の芳香族基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0068】
式(2)において、同一分子中の複数のR’’及びR’’’は同一又は異なっていてもよいが、化合物の合成を単純化する観点から同一であってもよい。
【0069】
酸素原子及び/又は窒素原子を有する遊離基は、酸素原子及び/又は窒素原子を有する炭素数0~6の遊離基であってもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0070】
このようなリガンドとして具体的には、下記式(2a)~(2d)で表される化合物が挙げられる。これらリガンドは、1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
また、本実施形態に係るエチレン重合触媒に含まれる上記一般式(1)で表される鉄化合物及び上記一般式(2)で表される化合物において、一般式(1)のRと一般式(2)のR’’、及び一般式(1)のR’と一般式(2)のR’’’とは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、一般式(1)で表される鉄化合物と同様の性能を維持させる観点から、同一であることが好ましい。
【0076】
本実施形態に係るエチレン重合触媒に上記リガンドが含まれる場合、鉄化合物とリガンドとの含有割合は、特に制限されない。リガンド/鉄化合物の比は、モル比で、好ましくは1/100~100/1、より好ましくは1/20~50/1、さらに好ましくは1/10~10/1、特に好ましくは1/5~5/1、非常に好ましくは1/3~3/1である。リガンド/鉄化合物の比が1/100以上であれば、リガンドの添加効果を十分に発揮させることができ、100/1以下であれば、リガンドの添加効果を発揮しつつコストを抑えることができる。
【0077】
なお、上記のエチレン重合触媒の製造方法は、特に制限されず、例えば、エチレン重合触媒が、上述した一般式(1)で表される鉄化合物及び有機アルミニウム化合物を含む場合、一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液に有機アルミニウム化合物を含む溶液を添加、混合する方法、及び、有機アルミニウム化合物を含む溶液に一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液を添加、混合する方法等が挙げられる。また、例えば、一般式(1)で表される鉄化合物及び有機アルミニウム化合物のほかに、上述したホウ素化合物及び一般式(2)で表される化合物をさらに含む場合には、これらの全ての成分を一括して接触させてもよいし、任意の順序で接触させてもよい。本実施形態に係るエチレン重合触媒の製造方法としては、例えば、
(A)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液とホウ素化合物を含む溶液とを混合した後、有機アルミニウム化合物を接触させる方法
(B)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、ホウ素化合物を接触させる方法
(C)ホウ素化合物を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、一般式(1)で表される鉄化合物を接触させる方法
(D)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、有機アルミニウム化合物を接触させる方法
(E)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、リガンドを接触させる方法
(F)有機アルミニウム化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、一般式(1)で表される鉄化合物を接触させる方法
(G)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液とホウ素化合物を含む溶液とを混合した後、有機アルミニウム化合物を含む溶液を添加、混合し、その後リガンドを接触させる方法
(H)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液とホウ素化合物を含む溶液とを混合した後、リガンドを含む溶液を添加、混合し、その後有機アルミニウム化合物を接触させる方法
(I)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、ホウ素化合物を含む溶液を添加、混合し、その後リガンドを接触させる方法
(J)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、リガンドを含む溶液を添加、混合し、その後ホウ素化合物を接触させる方法
(K)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、有機アルミニウム化合物を含む溶液を添加、混合し、その後ホウ素化合物を接触させる方法
(L)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、ホウ素化合物を含む溶液を添加、混合し、その後有機アルミニウム化合物を接触させる方法
(M)ホウ素化合物を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液を添加、混合し、その後リガンドを接触させる方法
(N)ホウ素化合物を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、リガンドを含む溶液を添加、混合し、その後一般式(1)で表される鉄化合物を接触させる方法
(O)ホウ素化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液を添加、混合し、その後有機アルミニウム化合物を接触させる方法
(P)ホウ素化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、有機アルミニウム化合物を含む溶液を添加、混合し、その後一般式(1)で表される鉄化合物を接触させる方法
(Q)有機アルミニウム化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液を添加、混合し、その後ホウ素化合物を接触させる方法
(R)有機アルミニウム化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、ホウ素化合物を含む溶液を添加、混合し、その後一般式(1)で表される鉄化合物を接触させる方法
(S)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液にホウ素化合物を接触させた後、有機アルミニウム化合物を含む溶液を添加、混合する方法
(T)一般式(1)で表される鉄化合物を含む溶液にホウ素化合物を接触させた後、トリメチルアルミニウムを含む溶液を添加、混合し、メチルアルミノキサンを接触させる方法
などが挙げられる。
【0078】
上述したエチレン重合体ワックスを原料とし、第二工程において該原料を水素化分解触媒により水素化分解して分解生成物を得ることができる。水素化分解触媒としては、6族金属、8-10族金属、及びそれらの混合物を含有する触媒などが挙げられる。好ましい金属としては、ニッケル、タングステン、モリブデン、コバルト及びそれらの混合物が挙げられる。水素化分解触媒は、これらの金属を耐熱性金属酸化物担体上に担持した態様で用いることができ、通常、金属は担体上で酸化物又は硫化物として存在する。また、金属の混合物を用いる場合は、金属の量が触媒全量を基準として30質量%以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。金属酸化物担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ又はチタニアなどの酸化物が挙げられ、中でもアルミナが好ましい。好ましいアルミナは、γ型又はβ型の多孔質アルミナである。金属の担持量は、触媒全量を基準として、0.5~35質量%の範囲であることが好ましい。また、9-10族金属と6族金属との混合物を用いる場合には、9族又は10族金属のいずれかが、触媒全量を基準として、0.1~5質量%の量で存在し、6族金属は5~30質量%の量で存在することが好ましい。金属の担持量は、原子吸収分光法、誘導結合プラズマ発光分光分析法又は個々の金属について、ASTMで指定された他の方法によって測定されてもよい。
【0079】
金属酸化物担体の酸性は、添加物の添加、金属酸化物担体の性質の制御(例えば、シリカ-アルミナ担体中へ組み込まれるシリカの量の制御)などによって制御することができる。添加物の例には、ハロゲン、特にフッ素、リン、ホウ素、イットリア、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類酸化物、及びマグネシアが挙げられる。ハロゲンのような助触媒は、一般に金属酸化物担体の酸性を高めるが、イットリア又はマグネシアのような弱塩基性添加物はかかる担体の酸性を弱くする傾向がある。
【0080】
水素化分解処理条件に関し、処理温度は、好ましくは150~450℃、より好ましくは200~400℃であり、水素分圧は、好ましくは1400~20000kPa、より好ましくは2800~14000kPaであり、液空間速度(LHSV)は、好ましくは0.1~10hr-1、より好ましくは0.1~5hr-1であり、水素/油比は、好ましくは50~1780m3/m3、より好ましくは89~890m3/m3である。なお、上記の条件は一例であり、水素化分解処理条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0081】
第三工程では、上記第二工程において得られた分解生成物を異性化脱ろうして、ワックス異性化油である潤滑油基油を得ることができる。異性化脱ろうとは、水素(分子状水素)の存在下、エチレン重合体ワックスを水素化異性化触媒に接触させることで、原料を水素化異性化により脱ろうさせることである。なお、ここでの水素化異性化には、ノルマルパラフィンのイソパラフィンへの異性化のほかに、水素添加によるオレフィンのパラフィンへの転化や脱水素基によるアルコールのパラフィンへの転化等も含まれる。
【0082】
水素化異性化触媒は、結晶質又は非晶質のいずれの材料を含んでいてもよい。結晶質材料としては、例えば、アルミノシリケート(ゼオライト)又はシリコアルミノホスフェート(SAPO)を主成分とする、10又は12員環通路を有するモレキュラーシーブが挙げられる。ゼオライトの具体例としては、ZSM-22、ZSM-23、ZSM-35、ZSM-48、ZSM-57、フェリエライト、ITQ-13、MCM-68、MCM-71などが挙げられる。また、アルミノホスフェートの例としては、ECR-42が挙げられる。モレキュラーシーブの例としては、ゼオライトベータ、及びMCM-68が挙げられる。これらの中でも、ZSM-48、ZSM-22及びZSM-23から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましく、ZSM-48が特に好ましい。モレキュラーシーブは好ましくは水素形にある。水素化異性化触媒の還元は、水素化異性化の際にその場で起こり得るが、予め還元処理が施された水素化異性化触媒を水素化異性化に供してもよい。
【0083】
また、水素化異性化触媒の非晶質材料としては、3族金属でドープされたアルミナ、フッ化物化アルミナ、シリカ-アルミナ、フッ化物化シリカ-アルミナなどが挙げられる。
【0084】
水素化異性化触媒の好ましい態様としては、二官能性、すなわち、少なくとも1つの6族金属、少なくとも1つの8-10族金属、又はそれらの混合物である金属水素添加成分が装着されたものが挙げられる。好ましい金属は、Pt、Pd又はそれらの混合物などの9-10族貴金属である。これらの金属の装着量は、触媒全量を基準として好ましくは0.1~30質量%である。触媒調製及び金属装着方法としては、例えば分解性金属塩を用いるイオン交換法及び含浸法が挙げられる。
【0085】
なお、モレキュラーシーブを用いる場合、水素化異性化条件下での耐熱性を有するバインダー材料と複合化してもよく、又はバインダーなし(自己結合)であってもよい。バインダー材料としては、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、シリカとチタニア、マグネシア、トリア、ジルコニアなどのような他の金属酸化物との二成分の組合せ、シリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-マグネシアなどのような酸化物の三成分の組合せなどの無機酸化物が挙げられる。水素化異性化触媒中のモレキュラーシーブの量は、触媒全量を基準として、好ましくは10~100質量%、より好ましくは35~100質量%である。水素化異性化触媒は、噴霧乾燥、押出などの方法によって形成される。水素化異性化触媒は、硫化物化又は非硫化物化した態様で使用することができ、硫化物化した態様が好ましい。
【0086】
水素化異性化条件に関し、温度は好ましくは250~400℃、より好ましくは275~350℃であり、水素分圧は好ましくは791~20786kPa(100~3000psig)、より好ましくは1480~17339kPa(200~2500psig)であり、液空間速度は好ましくは0.1~10hr-1、より好ましくは0.1~5hr-1であり、水素/油比は好ましくは45~1780m3/m3(250~10000scf/B)、より好ましくは89~890m3/m3(500~5000scf/B)である。なお、上記の条件は一例であり、水素化異性化条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0087】
本実施形態に係る製造方法は、エチレン重合体ワックスを上述した第二工程に供する前に、原料ワックスを分留する工程(原料蒸留工程)を備えてもよい。原料蒸留工程を経て得られた留分を、被処理油として第二工程及び第三工程に供することで、目的とする粘度グレードのワックス異性化油を効率よく得ることができる。
【0088】
原料蒸留工程における留分の沸点範囲は適宜調整できる。留分の沸点範囲としては、例えば、沸点範囲が250~500℃の留分を分留することができる。さらに、70Pale、SAE10又はVG6に相当するワックス異性化油を得る場合は、例えば、それぞれ留分の沸点範囲を下記のようにすることができる。
【0089】
70Pale:沸点範囲が300~460℃の留分
SAE10:沸点範囲が360~500℃の留分
VG6:250~440℃の留分
【0090】
なお、例えば沸点範囲が250~500℃とは、初留点及び終点が250~500℃の範囲内にあることを示す。
【0091】
原料蒸留工程における蒸留条件は、エチレン重合体ワックスから目的の留分を分留できる条件であれば特に限定されない。例えば、原料蒸留工程は、減圧蒸留により分留する工程であってもよく、常圧蒸留(又は加圧下での蒸留)及び減圧蒸留を組み合わせて分留する工程であってもよい。また、例えば、原料蒸留工程において、エチレン重合体ワックスから単一の留分として分留されてもよく、粘度グレードに応じた複数の留分として分留されてもよい。
【0092】
上述した第三工程により、分解生成物に含まれるノルマルパラフィンをイソパラフィンに異性化されたワックス異性化油は、所望により水素化精製に供されてもよく、所望の粘度グレードを有する留分に分留されてもよい。
【0093】
水素化精製によって、例えば、ワックス異性化油中のオレフィンが水素化され、潤滑油の酸化安定性及び色相が改善される。水素化精製は、例えば、水素化精製触媒を用いて実施することができる。
【0094】
水素化精製触媒は、6族金属、8-10族金属又はそれらの混合物を金属酸化物担体に担持させたものであることが好ましい。好ましい金属としては、貴金属、特に白金、パラジウム及びそれらの混合物が挙げられる。金属の混合物を用いる場合、金属の量が触媒を基準にして30質量%もしくはそれ以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。触媒の金属含有率は、非貴金属については20質量%以下、貴金属については1質量%以下が好ましい。また、金属酸化物担体としては、非晶質又は結晶質酸化物のいずれであってもよい。具体的には、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ又はチタニアのような低酸性酸化物が挙げられ、アルミナが好ましい。芳香族化合物の飽和の観点からは、多孔質担体上に比較的強い水素添加機能を有する金属が担持された水素化精製触媒を用いることが好ましい。
【0095】
好ましい水素化精製触媒として、M41Sクラス又は系統の触媒に属するメソ細孔性材料を挙げることができる。M41S系統の触媒は、高いシリカ含有率を有するメソ細孔性材料であり、具体的には、MCM-41、MCM-48及びMCM-50が挙げられる。かかる水素化精製触媒は15~100Åの細孔径を有するものであり、MCM-41が特に好ましい。MCM-41は、一様なサイズの細孔の六方晶系配列を有する無機の多孔質非層化相である。MCM-41の物理構造は、ストローの開口部(細孔のセル径)が15~100オングストロームの範囲であるストローの束のようなものである。MCM-48は、立方体対称を有し、MCM-50は、層状構造を有する。MCM-41は、メソ細孔性範囲の異なるサイズの細孔開口部で製造することができる。メソ細孔性材料は、8族、9族又は10族金属の少なくとも1つである金属水素添加成分を有してもよく、金属水素添加成分としては、貴金属、特に10族貴金属が好ましく、Pt、Pd又はそれらの混合物が最も好ましい。
【0096】
水素化精製の条件に関し、温度は好ましくは150~350℃、より好ましくは180~250℃であり、全圧は好ましくは2859~20786kPa(約400~3000psig)であり、液空間速度は好ましくは0.1~5hr-1、より好ましくは0.5~3hr-1であり、水素/油比は好ましくは44.5~1780m3/m3(250~10,000scf/B)である。なお、上記の条件は一例であり、水素化精製条件は、原料や処理装置の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0097】
ワックス異性化油を所望の粘度グレードを有する留分に分留する場合、蒸留条件としては特に限定されないが、例えば、ワックス異性化油から軽質留分を留去する常圧蒸留(又は加圧下での蒸留)と、該常圧蒸留のボトム油から所望の留分を分留する減圧蒸留と、により行われることが好ましい。
【0098】
蒸留においては、複数のカットポイントを設定して、ワックス異性化油を常圧蒸留(又は加圧下での蒸留)して得たボトム油を減圧蒸留することにより、複数の潤滑油留分を得ることができる。例えば、ATFやショックアブソーバーの潤滑油基油として好適な70Paleに相当するワックス異性化油を取得するため、100℃における動粘度2.7mm2/sを目標値として、常圧での沸点範囲が330~410℃の留分を回収する方法;APIグループIIIの規格を満たすエンジン油の潤滑油基油として好適なSAE-10に相当する潤滑油基油を取得するため、100℃における動粘度4.0mm2/sを目標値として、常圧での沸点範囲が410~460℃の留分を回収する方法;VG6に相当するワックス異性化油を取得するため、100℃における動粘度2.0mm2/sを目標値として、沸点範囲が330℃以下の留分を回収する方法等が挙げられる。
【0099】
本実施形態に係るワックス異性化油は、粘度や粘度指数が同程度である従来のワックス異性化油と比較して、低トラクション係数を示す。
【0100】
本実施形態に係るワックス異性化油の粘度グレードについては、特に制限されないが、その100℃における動粘度が、好ましくは1.5mm2/s以上、より好ましくは1.8mm2/s以上、更に好ましくは2.0mm2/s以上である。一方、100℃における動粘度の上限値も特に制限はないが、好ましくは20mm2/s以下、より好ましくは15mm2/s以下、更に好ましくは10mm2/s以下、特に好ましくは4mm2/s以下である。
【0101】
本実施形態においては、100℃における動粘度が下記の範囲にあるワックス異性化油を蒸留等により分取し、使用することができる。
(I)100℃における動粘度が1.5mm2/s以上2.3mm2/s未満、より好ましくは1.8mm~2.1mm2/sのワックス異性化油
(II)100℃における動粘度が2.3mm2/s以上3.0mm2/s未満、より好ましくは2.4~2.8mm2/sのワックス異性化油
(III)100℃における動粘度が3.0~20mm2/s、より好ましくは3.2~11mm2/s、更に好ましくは3.5~5mm2/s、特に好ましくは3.6~4mm2/sのワックス異性化油
【0102】
本実施形態において、ワックス異性化油のトラクション係数は、試験片として鋼球とスチールディスクを用い、荷重20N、試験油温度25℃、周速0.52m/s、すべり率3%の条件下で測定される。
【0103】
本実施形態に係るワックス異性化油は低トラクション係数を達成することができる。本実施形態に係るワックス異性化油のトラクション係数は、その粘度グレードに応じて適宜選択することができるが、例えば、上記ワックス異性化油(I)のトラクション係数は、好ましくは0.0026以下、より好ましくは0.0024以下である。上記ワックス異性化油(II)のトラクション係数は、好ましくは0.0026以下、より好ましくは0.0025以下である。上記ワックス異性化油(III)のトラクション係数は、好ましくは0.0027以下、より好ましくは0.0025以下である。トラクション係数が上記数値範囲内であれば、低摩擦性を確保することができるため、省エネルギー性の観点から好ましい。一方、トラクション係数の下限値は特に制限されるものではないが、例えば0.001以上であってよい。
【0104】
本実施形態に係るワックス異性化油の粘度指数は、その粘度グレードに応じて適宜選択することができる。例えば、上記異性化油(I)の粘度指数は、好ましくは105~150、より好ましくは110~140、更に好ましくは115~135である。上記異性化油(II)の粘度指数は、好ましくは120~160、より好ましくは125~150、更に好ましくは130~150である。上記異性化油(III)の粘度指数は、好ましくは140~180、より好ましくは145~170である。粘度指数が上記範囲内であれば、優れた粘度-温度特性を確保することができるため、省エネルギー性の観点から好ましい。なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283-1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0105】
本実施形態に係るワックス異性化油の15℃における密度(ρ15、単位:g/cm3)は、その粘度グレードに応じて適宜選択することができる。例えば、上記異性化油(I)のρ15は、好ましくは0.820g/cm3以下、より好ましくは0.810g/cm3以下、更に好ましくは0.800g/cm3以下である。上記異性化油(II)及び(III)のρ15は、好ましくは0.840g/cm3以下、より好ましくは0.830g/cm3以下、更に好ましくは0.820g/cm3以下である。15℃における密度が上記範囲内であれば、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性に優れ、また、ワックス異性化油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の効き目を十分に確保することができる。なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249-1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0106】
本実施形態に係るワックス異性化油の流動点は、その粘度グレードに応じて適宜選択することができる。例えば、上記異性化油(I)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-20℃以下、更に好ましくは-30℃以下である。上記異性化油(II)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-15℃以下、更に好ましくは-20℃以下である。上記異性化油(III)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-15℃以下である。異性化油の流動点が上記数値範囲内であれば、当該異性化油を用いた潤滑油の低温流動性を十分に確保することができるため、省エネルギー性の観点から好ましい。なお、本発明でいう流動点は、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0107】
本実施形態に係るワックス異性化油の曇り点は、その粘度グレードにもよるが、例えば、上記ワックス異性化油(I)の曇り点は、好ましくは-15℃以下、より好ましくは-17.5℃以下である。上記ワックス異性化油(II)の曇り点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下である。上記ワックス異性化油(III)の曇り点は、好ましくは-10℃以下である。ワックス異性化油の曇り点が上記数値範囲内であれば、当該ワックス異性化油を用いた潤滑油の低温流動性を十分に確保することができるため、省エネルギー性の観点から好ましい。なお、本発明でいう曇り点は、JIS K 2269-1987の「4.曇り点試験方法」に準拠して測定された曇り点を意味する。
【0108】
さらに、本実施形態に係るワックス異性化油についてガスクロマトグラフィー分析を行った場合、当該ワックス異性化油に含まれる炭化水素化合物の炭素数分布は、その粘度グレードに応じて適宜選択することができる。例えば、上記ワックス異性化油(I)における炭素数分布は、好ましくは10~35、より好ましくは15~30である。上記ワックス異性化油(II)における炭素数分布は、好ましくは12~40、より好ましくは15~35である。上記ワックス異性化油(III)における炭素数分布は、好ましくは15~50、より好ましくは18~45である。
【0109】
また、本実施形態に係るワックス異性化油についてガスクロマトグラフィー分析を行った場合、当該ワックス異性化油に含まれる炭化水素化合物の平均炭素数は、その粘度グレードに応じて適宜選択することができる。例えば、上記ワックス異性化油(I)における平均炭素数は、好ましくは15~25、より好ましくは18~22である。上記ワックス異性化油(II)における平均炭素数は、好ましくは15~30、より好ましくは20~25である。上記ワックス異性化油(III)における平均炭素数は、好ましくは20~40、より好ましくは25~30である。炭素数分布及び/又は平均炭素数が上記数値範囲内であれば、低トラクション係数をより良好に達成することができ、省エネルギー性の観点から好ましい。
【0110】
本実施形態に係るワックス異性化油は、上述したようにエチレン重合体ワックスを原料として得られるものであり、エチレン重合体ワックスは、その構成炭化水素化合物の大部分が偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物である。したがって、当該ワックス異性化油は、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物と奇数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有バランスが均等ではない。当該ワックス異性化油に含まれる炭化水素化合物の構成において、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の具体的な含有量は特に制限されるものではないが、ワックス異性化油全量基準で、例えば、50質量%未満であってもよく、45質量%以下であってもよく、43質量%以下であってもよい。
【0111】
上述した炭素数分布、平均炭素数及び偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有量は、ワックス異性化油について、上記原料ワックスと同様の条件でガスクロマトグラフィー分析を行うことにより求められる値である。測定の際には、基準試料として炭素数5~50のノルマルパラフィンの混合試料を同一条件で測定し、得られたクロマトグラムを参照してワックス異性化油の炭素数分布及び炭素数毎の成分比率を測定する。この測定結果から、炭素数毎の成分比率と炭素数との積の総和を求め、これを平均炭素数とする。なお、炭素数の算出に際しては、上述したように、同じ炭素数の炭化水素化合物の場合、最も沸点の高い(最も留出時間の長い)炭化水素化合物はノルマルパラフィンであることから、上記基準試料を測定したときのn個の炭素数を有する炭化水素化合物の留出時間に相当するピークと、n-1個の炭素数を有する炭化水素化合物の流出時間に相当するピークの間に存在するピークは、n個の炭素数を有する非ノルマルパラフィンとして定義されるものとする。
【0112】
本実施形態に係るワックス異性化油は、省エネルギー性に優れるものであり、種々の用途の潤滑油基油として好ましく用いることができる。本実施形態に係るワックス異性化油の用途としては、具体的には、乗用車用ガソリンエンジン、二輪車用ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、ガスヒートポンプ用エンジン、船舶用エンジン、発電エンジン等の内燃機関に用いられる潤滑油(内燃機関用潤滑油)、自動変速機、手動変速機、無段変速機、終減速機等の駆動伝達装置に用いられる潤滑油(駆動伝達装置用油)、緩衝器、建設機械等の油圧装置に用いられる油圧作動油、圧縮機油、タービン油、工業用ギヤ油、冷凍機油、さび止め油、熱媒体油、ガスホルダーシール油、軸受油、抄紙機用油、工作機械油、すべり案内面油、電気絶縁油、切削油、プレス油、圧延油、熱処理油などが挙げられる。本実施形態に係るワックス異性化油をこれらの用途に用いることで、各潤滑油の省エネルギー性等の特性の向上を達成することができるようになる。
【0113】
上記の用途においては、潤滑油基油として、本実施形態に係るワックス異性化油を単独で用いてもよく、また、本実施形態に係るワックス異性化油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、本実施形態に係るワックス異性化油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本実施形態に係るワックス異性化油の割合は、30質量%であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0114】
本実施形態に係るワックス異性化油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、鉱油系基油としては、例えば、API分類のグループI~グループIIIに分類される鉱油等が挙げられる。
【0115】
また、合成系基油としては、ポリα-オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα-オレフィンが好ましい。ポリα-オレフィンとしては、典型的には、炭素数2~32、好ましくは6~16のα-オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1-オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0116】
ポリα-オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウム又は三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸又はエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α-オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0117】
また、必要に応じて、本実施形態に係るワックス異性化油又は当該ワックス異性化油と他の基油との混合基油に、各種添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、特に制限されず、潤滑油の分野で従来使用される任意の添加剤を配合することができる。かかる潤滑油添加剤としては、具体的には、酸化防止剤、無灰分散剤、金属系清浄剤、極圧剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、油性剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、シール膨潤剤、消泡剤、着色剤などが挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0118】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0119】
[数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)の測定]
高温GPC装置(ポリマーラボラトリーズ社製、商品名:PL-20)にカラム(ポリマーラボラトリーズ社製、商品名:PL gel 10μm MIXED-B LS)を2本連結し、示差屈折率検出器とした。試料5mgにオルトジクロロベンゼン溶媒5mlを加え、140℃で約1時間加熱撹拌した。このように溶解した試料を流速1ml/分、カラムオーブンの温度を140℃に設定して、測定を行った。分子量の換算は、標準ポリスチレンから作成した検量線に基づいて行い、ポリスチレン換算分子量を求めた。
【0120】
[触媒効率の算出]
得られたオリゴマーの重量を、仕込んだ触媒のモル数で割ることにより、触媒効率を算出した。
【0121】
[実施例1]
窒素気流下で、500mLナスフラスコに、式(1a)で表される鉄化合物(50mg)及び式(2a)で表されるリガンド(19mg)を導入し、乾燥トルエン(200mL)を加えた。このトルエン溶液にメチルアルミノキサンのヘキサン溶液(3.64M溶液、11mL)を加えて溶液(A)を作製した。
【0122】
あらかじめ減圧下、110℃で十分に乾燥した電磁誘導撹拌機付きの20Lオートクレーブに、窒素気流下で、乾燥トルエン(8L)及びメチルアルミノキサンのヘキサン溶液(3.64M溶液、2.8mL)を導入し、温度を30℃に調整した。
【0123】
上記オートクレーブに、溶液(A)を導入し、エチレン重合触媒を作製した。得られたエチレン重合触媒におけるメチルアルミノキサンの含有割合は、鉄化合物のモル数に対して500当量であった。
【0124】
溶液(A)を導入したオートクレーブに、30℃で1MPaのエチレンを連続的に導入した。9時間後にエチレンの導入を止め、未反応のエチレンを除去し、エタノール(100mL)を加えてエチレン重合触媒を不活性化した。オートクレーブを開放し、内容物を20Lナスフラスコに移して、溶媒を減圧留去することで、半固形物のエチレンオリゴマーワックス(WAX1)を得た。触媒効率(C.E.)は60824kg Olig/Fe molであった。また、得られたWAX1のMnは490、Mwは890であり、Mw/Mnは1.8であった。得られたWAX1のノルマルパラフィン含有量及び偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有量(偶数炭素数含有量)について、ガスクロマトグラフィー分析によって得られた結果を表1に示す。
【0125】
上記で得られたWAX1を蒸留により分離し、沸点範囲350~450℃留分を得た。得られた留分を、水素化分解触媒の存在下、反応温度350℃、水素分圧5MPa、空間速度1.0LHSVの条件で水素化分解を行い、分解生成物を得た。水素化分解触媒としては、アモルファス系シリカ・アルミナ担体(シリカ:アルミナ=20:80(質量比))にニッケル3質量%及びモリブデン15質量%が担持された触媒を硫化した状態で用いた。得られた分解生成物を、貴金属含有量0.1~5質量%に調整されたゼオライト系水素化異性化触媒を用いて、反応温度330℃、水素分圧5MPa、空間速度1.0LHSVの条件で水素化異性化し、ワックス異性化油を得た。続いて、得られたワックス異性化油を減圧蒸留することにより、70Pale相当のワックス異性化油を得た。得られたワックス異性化油の性状を表2に示す。なお、表2中、「炭素数分布」、「平均炭素数」及び「偶数炭素数含有量」は、得られたワックス異性化油についてガスクロマトグラフィー分析を実施することによって得られたものであり、「トラクション係数」は、試験片として鋼球とスチールディスクを用い、荷重20N、試験油温度25℃、周速0.52m/s、すべり率3%の条件下で測定した値である(以下同様である)。
【0126】
[比較例1-1]
パラフィン含量が93質量%であり、18から60までの炭素数分布を有するFTワックス(WAX2)を原料ワックスとして用いた。WAX2のノルマルパラフィン含有量及び偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有量(偶数炭素数含有量)について、ガスクロマトグラフィー分析によって得られた結果を表1に示す。
【0127】
上記WAX2を用いて、実施例1と同様の方法によりワックス異性化油を得た。得られたワックス異性化油の性状を表2に示す。
【0128】
[比較例1-2]
WAX1を蒸留により分離し、沸点範囲250~500℃留分を得た。得られた留分を、水素化分解触媒の存在下、反応温度350℃、水素分圧5MPa、空間速度1.0LHSVの条件で水素化分解を行い、分解生成物を得た。水素化分解触媒としては、アモルファス系シリカ・アルミナ担体(シリカ:アルミナ=20:80(質量比))にニッケル3質量%及びモリブデン15質量%が担持された触媒を硫化した状態で用いた。続いて、得られた分解生成物を減圧蒸留することにより、70Pale相当の留分を得た。当該留分について、メチルエチルケトン-トルエン1:1の混合溶剤を用いて、溶剤/油比4倍、ろ過温度-25℃の条件で溶剤脱ろうを行い、ワックス異性化油を得た。得られたワックス異性化油の性状を表2に示す。
【0129】
【0130】
【0131】
[実施例2]
実施例2では、WAX1を蒸留により分離し、沸点範囲420~500℃留分を用いたこと、及び、得られたワックス異性化油の減圧蒸留においてSAE10相当のワックス異性化油を得たこと以外は実施例1と同様の方法によりワックス異性化油を得た。実施例2で得られたワックス異性化油の性状を表3に示す。
【0132】
[比較例2-1]
比較例2-1では、WAX2を用いたこと以外は実施例2と同様の方法によりワックス異性化油を得た。比較例2-1で得られたワックス異性化油の性状を表3に示す。
【0133】
[比較例2-2]
比較例2-2では、分解生成物の減圧蒸留においてSAE10相当の留分を得たこと以外は、比較例1-2と同様の方法によりワックス異性化油を得た。比較例2-2で得られたワックス異性化油の性状を表3に示す。
【0134】
【0135】
[実施例3]
実施例3では、WAX1を蒸留により分離し、沸点範囲300~440℃留分を用いたこと、及び得られたワックス異性化油を減圧蒸留することにより、VG6相当のワックス異性化油を得たこと以外は実施例1と同様の方法によりワックス異性化油を得た。実施例3で得られたワックス異性化油の性状を表4に示す。
【0136】
[比較例3-1]
比較例3-1では、WAX2を用いたこと以外は実施例3と同様の方法によりワックス異性化油を得た。比較例3-1で得られたワックス異性化油の性状を表4に示す。
【0137】
[比較例3-2]
比較例3-2では、分解生成物の減圧蒸留においてVG6相当の留分を得たこと以外は、比較例1-2と同様の方法によりワックス異性化油を得た。比較例3-2で得られたワックス異性化油の性状を表4に示す。
【0138】