(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/52 20060101AFI20220401BHJP
【FI】
B41M5/52 110
(21)【出願番号】P 2018150256
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】仁尾 務
(72)【発明者】
【氏名】沓名 稔
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 美沙紀
【審査官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-139996(JP,A)
【文献】特開2015-139995(JP,A)
【文献】特開2013-067129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00 - 5/52
D21H 19/00 - 19/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙支持体の少なくとも一方の面にインク受理層と、当該インク受理層上にさらに光沢発現層としてキャストコート層を有する油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙であって、前記インク受容層に非晶質シリカを含み、かつインク受容層の絶乾の塗工量が1g/m
2~5g/m
2であって、前記キャストコート層が塩化ビニル系樹脂と球状コロイダルシリカを含むことを特徴とする前記油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙。
【請求項2】
前記キャストコート層の塩化ビニル系樹脂を、球状コロイダルシリカ100質量部に対して1~30質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙。
【請求項3】
前記球状コロイダルシリカの平均粒子径が4~50nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙。
【請求項4】
紙支持体の少なくとも一方の面にインク受理層と、当該インク受理層上にさらに光沢発現層としてキャストコート層を有する油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙を製造する方法であって、非晶質シリカを含有する塗工液を絶乾の塗工量で1g/m
2~5g/m
2を塗工し、乾燥して前記インク受容層を形成する工程と、前記インク受理層上に、塩化ビニル系樹脂と球状コロイダルシリカを含有する塗工液を塗工してキャストコート法により前記キャストコート層を形成する工程とを有すること特徴とする油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙の製造方法。
【請求項5】
前記キャストコート層が塗工液を塗工して湿潤状態にある間にゲル化液を塗布し、加熱した鏡面ロールに圧着して乾燥するゲル化法によるキャストコート法によって形成されることを特徴とする請求項4に記載の油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙の製造方法。
【請求項6】
前記キャストコート層の塗工液に含有する塩化ビニル系樹脂を、球状コロイダルシリカ100質量部に対して1~30質量部含有することを特徴とする請求項4または5に記載の油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙に関する。更に詳しくは、油性顔料インクを用いてインクジェットプリンターで印字した際にも、インクがにじまず、定着も良好で、印字濃度が高く、かつ鮮明な画像を形成することができ、特に高速インクジェットプリンターによる印字適性に優れる油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用インクは、染料や顔料が溶媒としての水に含まれる水性インクと、実質的に溶媒としての水を含まない油性インクとに大別される。油性顔料インクは、水性顔料インクと異なり、印字後に用紙がカールしにくい、吸収性が早い等の利点から、特に高速インクジェットプリンター用のインクとして近年普及している。ところが、油性顔料インクで印字を行うと、インク発色性不良、インクにじみ、またインク定着性も悪いという問題がある。特に印字面の光沢度が高い場合、すなわち表面が平滑で緻密な場合、更に定着性が悪化する傾向にあり、油性顔料インクに適した光沢紙を得ることは技術的に困難である。
【0003】
この問題を解決する方法として、例えば、光沢層表面のひび割れの頻度を規定することにより光沢、強度などを調整したインクジェット記録材料が提案されている(特許文献1)。さらに、塗工層中に熱可塑性樹脂と無機微粒子と有機中空粒子を添加したインクジェット記録材料が提案されている(特許文献2)。
【0004】
しかし、近年、インクジェットプリンターの印字速度がより高速化しており、従来の記録用シートでは油性顔料インクのインク発色性とインク定着性などの印字適性が不十分になりつつある。例えば、前記特許文献1によるインクジェット記録材料は、印字速度の遅いプロッター等による大判広告・ポスター等の印刷には適するものの、印字速度が20m/分以上であるような、より高速のインクジェットプリンターで印刷すると、インク発色とインク定着が不十分で、印字直後に画線部を擦ると擦れ落ちてしまう。すなわち、光沢紙の光沢層表面のひび割れを規定するだけでは、より高速のインクジェットプリンターに対応できないという問題があった。さらに、前記特許文献2による光沢紙においても、より高速のインクジェットプリンターで印刷すると、インク発色とインク定着などの印字適性不十分となる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-173296号公報
【文献】特開2011-121224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、油性インクを用いて高速インクジェットプリンターで印字した際にも、インクが速く吸収され、定着性に優れて擦れ落ちが発生せず、印字濃度が高く、画像ムラがなく鮮明な画像を得られる光沢紙を提供することにある。特に近年、印字速度が20m/分以上のより高速のプリンターが登場してきているため、これらのプリンターに対応する光沢紙を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙は、紙支持体の少なくとも一方の面にインク受理層と、光沢発現層としてキャストコート層を有する油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙であって、前記インク受容層に非晶質シリカを含み、かつインク受容層の絶乾の塗工量が1g/m2~5g/m2であって、前記キャストコート層が塩化ビニル系樹脂と球状コロイダルシリカを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙は、前記キャストコート層の塩化ビニル系樹脂を、球状コロイダルシリカ100質量部に対して1~30質量部含有してもよく、また前記球状コロイダルシリカの平均粒子径が4~50nmであってもよい。
【0009】
また、本発明は、非晶質シリカを含有する塗工液を絶乾の塗工量で1g/m2~5g/m2を塗工、乾燥して前記インク受容層を形成する工程と、前記インク受理層上に、塩化ビニル系樹脂と球状コロイダルシリカを含有する塗工液を塗工してキャストコート法により前記キャストコート層を形成する工程とを有する油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明の油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙は、前記キャストコート層が前記キャストコート層の塗工液が塗工されて湿潤状態にある間にゲル化液を塗布し、加熱した鏡面ロールに圧着して乾燥するゲル化法によるキャストコート法によって形成される製造方法によって得られるものであってもよい。
【0011】
また、本発明の油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙は、前記キャストコート層の塗工液に含有する塩化ビニル系樹脂を、球状コロイダルシリカ100質量部に対して1~30質量部含有する製造方法によって得られるものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、特に油性インクを用いたインクジェット記録が高速で行われる場合に、上記インクが速く吸収され、定着性に優れて擦れ落ちが発生せず、印字濃度が高く、鮮明な画像を得られる光沢紙を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0014】
本発明の油性インク用インクジェット記録用光沢紙は、紙支持体の少なくとも一方の面にインク受理層と、光沢発現層としてキャストコート層を有する油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙であって、前記インク受容層に非晶質シリカを含み、かつインク受容層の絶乾の塗工量が5g/m2以下であって、前記キャストコート層が塩化ビニル系樹脂と球状コロイダルシリカを含むことが必要である。ここで言う絶乾の塗工量は紙支持体に設けられたインク受容層の片面当りの絶乾の塗工量である。前記インク受理層が、非晶質シリカを含まない場合はインクの定着性が悪化してインクの擦れ落ちが発生する。前記インク受容層の絶乾の塗工量が5g/m2を超える場合はインクの定着性が悪化してインクの擦れ落ちが発生する。前記インク受容層の絶乾の塗工量が1g/m2を下回る場合は光沢感の低下、印字濃度の低下が発生する。前記キャストコート層が塩化ビニル系樹脂を含有しない場合はインクの定着性が悪化してインクの擦れ落ちが発生する。前記キャストコート層が球状コロイダルシリカを含有しない場合はインクの定着性が悪化してインクの擦れ落ちが発生する。キャストコート層はキャストコート法によって光沢付与された光沢発現層であり、公知のカレンダ法とは異なり、独特の光沢感と平滑感を付与することが可能となる。例えば、公知のカレンダ法で光沢付与した光沢紙と同じ光沢度であっても、キャストコート法で光沢付与した光沢紙の方が高級感のあるツヤを付与することが可能となる。
【0015】
本発明の油性インク用インクジェット記録用光沢紙は、前記キャストコート層が塩化ビニル系樹脂を含有することが必要である。キャストコート層に配合される塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルモノマーと、必要によりコモノマーとの混合物に乳化剤と重合開始剤を加えて重合して得られる重合体である。コモノマーとしては、エチレン性不飽和モノマーが使用され、例えば、スチレン、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、スチレンアクリル酸エステル、アクリロニトリル、酢酸ビニル、モノアルケニルアリール化合物等を挙げることができる。好ましくはスチレンアクリル酸エステル、アクリル酸エステルである。
【0016】
前記塩化ビニル系樹脂においては、ガラス転移温度が例えば、0~100℃で良いが、20~100℃である塩化ビニル系樹脂であることが好ましい。更に好ましくは25~80℃、例えば、40~80℃である。ガラス転移温度がこの範囲の塩化ビニル系樹脂を用いることで、油性インクの定着性が更に向上する。前記ガラス転移温度が20℃未満ではインク受理層とする塗工液の成膜性が高すぎて、油性インク定着性に劣る傾向にあり、100℃を超える場合はインク受理層の光沢度が劣る傾向にある。ガラス転移温度は、示差走査熱量計装置等を用いて測定することができる。また、各モノマー成分の重量分率と、各成分の単独重合体のガラス転移温度から、計算によって理論値を求めることも可能である。更に前記塩化ビニル系樹脂の平均粒子径(平均粒子直径)が0.01~0.5μmであることが好ましい。更に好ましくは、0.02~0.1μmである。0.01μm未満ではインク受理層とする塗工液の成膜性が高すぎて、油性インク 定着性に劣る傾向があり、0.5μmを超える場合は光沢度が劣る傾向にある。
【0017】
本発明の油性インク用インクジェット記録用光沢紙は、前記キャストコート層における、塩化ビニル系樹脂が固形質量部でコロイダルシリカ100質量部に対して1~30質量部含まれていることが好ましい。さらに好ましくは2.5~20質量部である。1質量部未満では高速印刷においてインク定着性が悪化する傾向にある。30質量部より大きくなると高速印刷においてインク定着性が悪化する傾向にある。
【0018】
また、本発明においては、キャストコート層には顔料として球状コロイダルシリカが含まれることが必要である。球状コロイダルシリカを用いることにより、光沢および油性インクのインク定着性に優れたインクジェット記録用光沢紙を得ることができるからである。球状コロイダルシリカでなく非球状コロイダルシリカを用いるとキャストコート層の空隙が大きくなり光沢感が損なわれるだけでなく、高速印刷においてインク定着性が悪化する。キャストコート層に球状コロイダルシリカ以外の顔料、例えばゲル化法シリカや沈降法シリカ、気相法シリカ、アルミナ、プラスチックピグメントなどが含まれると、インク定着性や光沢感が悪化するおそれがある。キャストコート層に球状コロイダルシリカ以外の顔料を含む場合には、球状コロイダルシリカ100部に対して、球状コロイダルシリカ以外の顔料が50部以下であることが好ましく、10部以下がさらに好ましく、キャストコート層に他の顔料を使用しなくてもよい。本実施形態で使用する球状コロイダルシリカの平均粒子径が4~50nmであることが好ましく、より好ましくは8~40nmである。平均粒子径が4nm未満ではインク受理層が脆くなり、表面強度に劣るおそれがある。また、平均粒子径が50nmを超える場合は、光沢が不足し、インク受理層となる塗工液の成膜性が高くなりすぎ、適度なひび割れが発生しにくく、油性インク吸収性に劣るおそれがある。また、本実施形態に用いるコロイダルシリカは、単分散の球状コロイダルシリカであればいかなる製法のものでも使用してかまわない。また、球状コロイダルシリカとして、アニオン性またはカチオン性の球状コロイダルシリカを使用することもできる。なお、球状コロイダルシリカの平均粒子径(粒子径とも示す)とは、数平均粒子径であり、主として動的光散乱法(計算方式はキュムラント法)で求めることが可能であり、また、高倍率観察が可能なフィールドエミッション型の電子顕微鏡で直接観察して求めることも可能である。 本発明では球状コロイダルシリカの数平均粒子径は、動的光散乱法(計算方式はキュムラント法)で求めた。
【0019】
また、本発明においては、前記キャストコート層はキャストコート法により形成される。キャストコート法には、ウェット法、ゲル化法、リウェット法が知られており、本実施形態においては特に限定されない。また、キャストドラム温度、圧着するときの圧力、及びライン速度を調整することによって、光沢度の高いキャストコート層を形成できる。これらの諸条件については、使用する設備、塗料に応じて最適条件を求めることで適正化する必要がある。また、キャストコート法処理後にマシンカレンダー、ソフトカレンダー、スーパーカレンダーなどのカレンダ処理を行ってもよいし、カール調整のため、裏面に水、カール調整剤などを塗工したり、加湿したりしてカール調整を行うこともできる。
【0020】
また、本発明においては、非晶質シリカを含有する塗工液を絶乾の塗工量で1g/m2~5g/m2を塗工、乾燥して前記インク受容層を形成する工程と、前記インク受理層上に、塩化ビニル系樹脂と球状コロイダルシリカを含有する塗工液を塗工してキャストコート法により前記キャストコート層を形成する工程とを有する製造方法により製造されることが好ましい。
【0021】
また、本発明においては、前記キャストコート法がゲル化法であることが好ましい。前記ゲル化法の工程としては、紙支持体の少なくとも一方の面に、非晶質シリカを含有する塗工液を絶乾の塗工量で1g/m2~5g/m2を塗工、乾燥して前記インク受容層を形成する工程と、前記インク受理層上に、塩化ビニル系樹脂と球状コロイダルシリカを含有する塗工液を塗工して湿潤状態にある間にゲル化液を塗布し、加熱した鏡面ロールに圧着して乾燥するゲル化法によるキャストコート法によってキャストコート層表面が光沢付与される。ゲル化法はキャストコート層の塗工液が湿潤状態でゲル化され、鏡面ロールに圧着して乾燥させるため、リウェット法に比べて光沢感に優れ、ウェット法に比べて生産性に優れる。例えば90℃~130℃に加熱した鏡面ロールに圧着して乾燥することによって光沢を付与する工程とを有する。前記ゲル化液に含まれるゲル化剤としてとして、例えば、ホウ酸、ホウ酸塩や、ギ酸、ギ酸塩、酢酸、酢酸塩、リング酸、リンゴ酸塩、等の有機酸や有機酸塩が挙げられ、ギ酸塩が好ましく、例えば、ギ酸塩を0.5~2.0質量%含むギ酸塩水溶液が好ましい。前記キャストコート層用の塗工液には、前記ゲル化液によりゲル化する成分を含むことができ、例えばカゼイン、大豆タンパク、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコールなどが挙げられ、カゼイン、大豆タンパクが好ましく、例えば、キャストコート層を形成する塗工液中において顔料100質量部に対して、5~15質量部のカゼインを含ませることが好ましい。
【0022】
光沢発現層としてゲル化法によるキャストコート法によってキャストコート層を形成する場合は、公知のカレンダ法で形成した光沢発現層やリウェット法によるキャストコート法でキャストコート層を形成した場合に比べて、表面がより緻密で平滑になり光沢感に優れた光沢紙を得ることができる。また一般的には、キャストコート層に球状コロイダルシリカが含まれることで、表面がより緻密で平滑になり光沢感に優れた光沢紙を得ることができる。球状コロイダルシリカを用いたゲル化法によって形成されたキャストコート層は、表面がより緻密で平滑になるため、インク定着性やインク発色性が悪化するおそれがあるが、本発明の構成により、球状コロイダルシリカを用いたゲル化法による優れた光沢感とインク定着性、インク発色性を両立することができる。
【0023】
本実施形態のキャストコート層を形成する塗工液の塗工方法としては、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、同時多層塗工機などの公知の塗工機があるが、いずれのものを用いてもよい。キャストコート層の絶乾の塗工量が2~12g/m2であることが好ましい。さらに好ましくは4~10g/m2であり、高速印刷においてインク定着性に優れる。2g/m2未満では光沢感が劣るおそれがある。12g/m2を超える場合は、印字発色性とインク定着性に劣るおそれがある。
【0024】
また更に、前記キャストコート層には、各種白色顔料、各種バインダー、分散剤、増粘剤、防腐剤、消泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤などの添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜選定して添加することもできる。例えば、離型剤としてポリエチレンワックスを顔料100質量部に対して、1~3質量部添加することができる。
【0025】
本発明においては、紙支持体の少なくとも一方の面に非晶質シリカを含むインク受容層を有し、インク受容層の絶乾の塗工量が1g/m2~5g/m2である。好ましくは2~4g/m2であり、高速印刷においてインク定着性と発色性に優れる。5g/m2を超える場合は、印字発色性とインク定着性に劣るおそれがある。1g/m2を下回る場合は、光沢感と印字濃度が低下するおそれがある。非晶質シリカとしては、ゲル化法シリカ、沈降法シリカ、気相法シリカ、コロイダルシリカなどを使用することができる。好ましくはゲル化法シリカと沈降法シリカであり、印字発色性とインク定着性に優れる。好ましくは平均粒子径が1~15μmのゲル化法シリカまたは沈降法シリカであり、さらに好ましくは平均粒子径が2~5μmのゲル化法シリカまたは沈降法シリカであり、印字発色性とインク定着性に優れる。ゲル化法シリカと沈降法シリカの平均粒子径は数平均粒子径であり、主としてレーザー回析法により求めることが可能である。
【0026】
本発明においては、前記インク受容層にバインダーを含むことができる。バインダーとしては酸化澱粉、酵素変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン性澱粉、両性澱粉などの澱粉類、ゼラチン、カゼイン、大豆タンパク、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、等の合成樹脂類等などから1種類または2種類以上を目的に応じて適宜選択して使用することができる。添加量は限定しないが、固形質量部で非晶質シリカ100質量部に対して1~90質量部、例えば、30~70質量部含まれていることが好ましい。
【0027】
また更に、前記インク受理層には、各種白色顔料、各種バインダー、分散剤、増粘剤、防腐剤、消泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜選定して添加することもできる。
【0028】
本実施形態のインク受理層を形成する塗工液の塗工方法としては、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、同時多層塗工機などの公知の塗工機があるが、いずれのものを用いてもよい。また、乾燥工程で使用する乾燥装置も、公知の装置を使用することが可能である。
【0029】
また、本発明の油性顔料インク用インクジェット記録用光沢紙は、特に高速印刷おいて使用されることが好ましい。ここでいう高速印刷とは、印刷速度が20m/分以上であり、好ましくは30m/分以上の印刷である。さらに、本発明の油性顔料インク用インクジェット記録用媒体は、さらに、本発明の油性顔料インク用インクジェット記録用媒体は、ライン印字において使用されることが好ましい。ライン印字とは、インクジェット記録装置において、ページ幅を覆うヘッド(ラインヘッド)を複数固定して、その下に記録媒体を送って一気に印字する方式のことである。すなわち、現行のパーソナル用インクジェットプリンターのようにヘッドを走査する必要がない高速プリンターによる印刷のことである。ラインヘッドを有するインクジェット記録装置としては、ライン印字できるものであれば、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式などいずれの方式のものであってもよい。また、本発明でいう油性顔料インクとは、色材が顔料であり、非水系の溶媒を含む全てのインクのことである。
【0030】
本実施形態で使用する紙支持体としては、上質紙、中質紙、白板紙等の紙基材を用いることができる。また、酸性紙及び中性紙も使用することが可能である。また、紙支持体に使用する填料としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、合成シリカ、アルミナ、タルク、焼成カオリンクレー、カオリンクレー、ベントナイト、ゼオライト、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の公知の顔料を用いることが可能である。また、紙料中には上記パルプ、填料以外にも公知の紙力剤、硫酸バンド、歩留まり向上剤、サイズ剤、染料、蛍光染料等の各種抄紙用薬品が適宜用いられる。各紙料の調成方法、配合、各抄紙薬品の添加方法については、本実施形態の効果を損なうものでなければ特に限定されない。また、上記紙料を用いて円網抄紙機、長網抄紙機及びツインワイヤー抄紙機等の公知の抄紙機を適用して抄造することが可能である。また、インク受理層となる塗工液の過度の浸透を押さえるために、紙支持体には、サイズプレス等で澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の公知の水溶性高分子を塗布することが好ましい。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」及び「%」は特に明示しない限り固形質量部および固形質量%を示す。
【0032】
(実施例1)
(インク受容層の形成)
顔料として非晶質シリカ(ニップジェルAY-200、平均粒子直径3.6μm:東ソー・シリカ社製)100質量部、結着剤としてポリビニルアルコール(クラレポバール60-98:クラレ社製)7質量部、エチレン酢酸ビニル(ポリゾールEVA AD-13:昭和高分子社製)50質量部を水中に添加し、十分に攪拌して固形分濃度が15%のインク受容層用塗工液を得た。サイズプレスにて酸化澱粉を表面処理した坪量80g/m2の上質紙の一方の面に、インク受容層用塗工液をエアーナイフコーターで絶乾塗工量3g/m2となるように塗工し、乾燥してインク受容層を形成した。
(キャストコート層の形成)
顔料として球状コロイダルシリカ(スノーテックス30、アニオン性、平均粒子直径13nm:日産化学工業社製)100質量部、結着剤として塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)5質量部、カゼイン溶解液(カゼイン:ミレニス社製)10質量部、離型剤としてポリエチレンワックス(SNコート243、サンノプコ社製)2質量部を水中に添加し、十分に攪拌して固形分濃度が20%のキャストコート層用塗工液を得た。このキャストコート層用塗工液をインク受容層上にエアーナイフコーターで絶乾塗工量6g/m2となるように塗工し、塗工層が湿潤状態にある間に、ゲル化液としてギ酸カルシウムを1%、カチオン性樹脂(パピオゲンP-113:センカ社製)を5%含む水溶液を液体塗布量30g/m2となるように塗布してゲル化処理を行った後、表面温度105℃に加熱した鏡面ロールに圧着し、乾燥して、油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0033】
(実施例2)
実施例1において、インク受容層の絶乾塗工量を3g/m2から1g/m2に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0034】
(実施例3)
実施例1において、インク受容層の絶乾塗工量を3g/m2から2g/m2に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0035】
(実施例4)
実施例1において、インク受容層の絶乾塗工量を3g/m2から4g/m2に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0036】
(実施例5)
実施例1において、インク受容層の絶乾塗工量を3g/m2から5g/m2に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0037】
(実施例6)
実施例1において、キャストコート層の塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)の添加量を5質量部から1質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0038】
(実施例7)
実施例1において、キャストコート層の塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)の添加量を5質量部から2.5質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0039】
(実施例8)
実施例1において、キャストコート層の塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)の添加量を5質量部から10質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0040】
(実施例9)
実施例1において、キャストコート層の塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)の添加量を5質量部から20質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0041】
(実施例10)
実施例1において、キャストコート層の塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)の添加量を5質量部から30質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0042】
(実施例11)
実施例1において、キャストコート層の塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)5質量部を、塩化ビニル系樹脂(ビニブラン900、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.33μm:日信化学工業社製)5質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0043】
(実施例12)
実施例1において、キャストコート層の塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)5質量部を、塩化ビニル系樹脂(ビニブラン735、ガラス転移温度42℃、平均粒子径0.10μm:日信化学工業社製)5質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0044】
(実施例13)
実施例1において、キャストコート層の塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)5質量部を、塩化ビニル系樹脂(ビニブラン745、ガラス転移温度57℃、平均粒子径0.07μm:日信化学工業社製)5質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0045】
(実施例14)
実施例1において、キャストコート層の塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)5質量部を、塩化ビニル系樹脂(ビニブラン747、ガラス転移温度66℃、平均粒子径0.05μm:日信化学工業社製)5質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0046】
(実施例15)
実施例1において、キャストコート層の球状コロイダルシリカ(スノーテックス30、アニオン性、平均粒子直径13nm:日産化学工業社製)100質量部を、球状コロイダルシリカ(スノーテックスXS、アニオン性、平均粒子直径5nm:日産化学工業社製)100質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0047】
(実施例16)
実施例1において、キャストコート層の球状コロイダルシリカ(スノーテックス30、アニオン性、平均粒子直径13nm:日産化学工業社製)100質量部を、球状コロイダルシリカ(スノーテックス30L、アニオン性、平均粒子直径45nm:日産化学工業社製)100質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0048】
(実施例17)
実施例1において、キャストコート層の球状コロイダルシリカ(スノーテックス30、アニオン性、平均粒子直径13nm:日産化学工業社製)100質量部を、球状コロイダルシリカ(スノーテックスZL、アニオン性、平均粒子直径85nm:日産化学工業社製)100質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0049】
(実施例18)
実施例1において、キャストコート層の塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)の添加量を5質量部から50質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0050】
(比較例1)
実施例1において、インク受容層の絶乾塗工量を3g/m2から6g/m2に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0051】
(比較例2)
実施例1において、キャストコート層の塩化ビニル系樹脂(ビニブラン700、ガラス転移温度70℃、平均粒子径0.03μm:日信化学工業社製)の添加量を5質量部から0質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0052】
(比較例3)
実施例1において、キャストコート層の球状コロイダルシリカ(スノーテックス30、アニオン性、平均粒子直径13nm:日産化学工業社製)100質量部を、非球状コロイダルシリカ(スノーテックスUP、アニオン性、平均二次粒子直径70nm、球状コロイダルシリカが鎖状に繋がった二次粒子を形成している:日産化学工業社製)100質量部に変更した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0053】
(比較例4)
実施例1において、インク受容層の形成をせず、上質紙の一方の面上にキャストコート層を形成した以外は、実施例1に記載したとおりの条件で油性インク用インクジェット記録用光沢紙を作製した。
【0054】
得られた油性インク用インクジェット記録用光沢紙について、次の試験を実施し、結果を表1に示した。
【0055】
(1)60度鏡面光沢度、75度鏡面光沢度
得られた各光沢紙について、JISP8142に従い、白紙部の60度鏡面光沢度と75度鏡面光沢度(%)を測定した。光沢紙の場合は光沢度のより高いものが好まれ、60度鏡面光沢度が40%以上であることが好ましく、75度鏡面光沢度が60%以上であることが好ましく、さらに好ましくは、60度鏡面光沢度が45%以上、75度鏡面光沢度が65%以上であればよい。
【0056】
(2)印字濃度
得られた各光沢紙に、油性インク専用高速インクジェットプリンター(ORPHIS GD9630、理想科学工業社製)および油性顔料インク(製品名 RISO GDインク 各色) を使用して、フルカラーにてベタをライン印字した。印字した1時間後に、ベタ部の各色の印字濃度を分光濃度測色計(エックスライト社製)により測定した。なお、印字速度は約34m/分(A4横送り、160枚/分、片面印字)であった。印字濃度1.45以上であれば実用できる。
【0057】
(2)インク発色性
得られた各光沢紙に、油性インク専用高速インクジェットプリンター(ORPHIS GD9630、理想科学工業社製)および油性顔料インク(製品名 RISO GDインク 各色)を使用して、フルカラーにてベタをライン印字した。ベタ部の各色の発色ムラの程度を目視によって評価した。なお、印字速度は約34m/分(A4横送り、160枚/分、片面印字)であった。
6点:発色ムラが全くなく、実用できる。
5点:発色ムラがなく、実用できる。
4点:発色ムラがなく、実用できる。
3点:発色ムラがなく、実用できる。
2点:発色ムラが目立ち実用上問題がある。
1点:発色ムラがひどく実用上不可。
【0058】
(3)インク定着性
得られた各光沢紙に、油性インク専用高速インクジェットプリンター(ORPHIS GD9630、理想科学工業社製)および油性顔料インク(製品名 RISO GDインク 各色)を使用して、フルカラーにてベタをライン印字した。印字直後にベタ部を指で擦って、インクの擦れ落ち具合を目視で評価した。なお、印字速度は約34m/分(A4横送り、160枚/分、片面印字)であった。
6点:擦れ落ちが全く無く、実用できる。
5点:擦れ落ちが僅かにあるが、実用できる。
4点:擦れ落ちが僅かにあるが、実用できる。
3点:擦れ落ちが僅かにあるが、実用できる。
2点:擦れ落ちが目立ち、実用上問題がある。
1点:擦れ落ちが著しく目立ち、実用上問題がある。
【0059】
【0060】
表1から明らかなように、実施例1~18は、良好な光沢を有しつつ、比較例1~4に比べてインク発色性及びインク定着性に優れていた。
【0061】
比較例1はインク受容層の塗工量が多いためインク定着性に劣った。比較例2はキャストコート層に塩化ビニル樹脂を含まないためにインク定着性に劣った。比較例3はキャストコート層に球状コロイダルシリカを含まないためにインク定着性に劣った。比較例4はインク受容層を有しないため印字濃度に劣った。