(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/41 20060101AFI20220401BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20220401BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/16
F16C33/78 D
(21)【出願番号】P 2018171440
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】中尾 吾朗
(72)【発明者】
【氏名】増田 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克明
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-280352(JP,A)
【文献】特開2010-048328(JP,A)
【文献】実開昭63-198825(JP,U)
【文献】特開2015-064086(JP,A)
【文献】特開2018-040445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪(2)と、外輪(3)と、前記内輪(2)及び前記外輪(3)の軌道溝(2a、3a)間に介在する複数の玉(4)と、を備え、前記内輪(2)の軌道溝(2a)の両側に形成された一対の肩部(2b、2c)のうち、アキシアル荷重を受ける負荷側の肩部(2b)が、反対側の非負荷側の肩部(2c)よりも高く形成されている玉軸受において、
前記内輪(2)の前記負荷側の肩部(2b)側から前記内外輪(2、3)間に挿入される冠形保持器(6)と、
前記内輪(2)の前記非負荷側の肩部(2c)に
臨むように設けられ、前記内外輪(2、3)間に形成された軸受内部空間(5)の軸方向一端側を密封するシール部材(8)と、
前記シール部材(8)に設けられたシールリップ(8a)と、
前記内輪(2)の前記非負荷側の肩部(2c)に形成され、前記シールリップ(8a)に対して周方向に摺動するシール摺動面(2d)と、
をさらに備え、
前記冠形保持器(6)が、リング状に形成されたリング状柱部(6a)と、このリング状柱部(6a)から一方の軸方向に形成されたポケット部(6c)と、を有し、前記ポケット部(6c)
を形成する爪部(6b)の内径面が、前記リング状柱部(6a)
の内径面よりも小径に形成されており、前記ポケット部(6c)の内面に、径方向に延びる潤滑溝(6d)が形成されており、
前記シールリップ(8a)に、前記軸受内部空間(5)と外部間に亘って連通する油通路(9)を前記シール摺動面(2d)及び前記シールリップ(8a)間に形成する突起(8d)が形成されており、この突起(8d)が、前記シールリップ(8a)の周方向に亘って複数形成されていることを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
前記冠形保持器(6)の周方向に隣り合うポケット部(6c)の
前記爪部(6b)の間に、
軸方向の深さが、前記ポケット部(6c)の内面に形成された前記潤滑溝(6d)よりも深い肉抜き部(7)が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記突起(8d)が、前記シール部材(8)の回転軸方向に沿って延びる突条、又は、前記軸方向から所定角度傾斜した方向に延びる突条を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のモータや変速機等のように、オイル潤滑環境下で使用され、比較的大きなアキシアル荷重が負荷される玉軸受として、例えば特許文献1には、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の軌道溝間に介在する複数の玉と、を備え、前記内輪の軌道溝の両側に形成された一対の肩部のうち、アキシアル荷重を受ける負荷側の肩部が、反対側の非負荷側の肩部よりも高く形成されたものが開示されている。このように、負荷側の肩部を高くすることにより、この負荷側における玉と軌道溝との接触角が大きくなることを許容することができるので、深溝玉軸受の有する軸受回転トルクの低トルク性と、アキシアル荷重の負荷能力の向上とを両立できる。
【0003】
この玉軸受においては、内外輪間から軸受内部空間にオイルが供給されるようになっている。このオイルの供給とともに、軸受内部空間に異物が入り込むと、軸受寿命を低下させる場合がある。また、軸受内部空間に供給されるオイル量が多いと、オイル攪拌に伴うトルク増加や発熱の問題が生じる場合もある。
【0004】
軸受内部空間に入り込んだ異物による軸受寿命の低下を防止するために、内輪及び外輪に対し軌道溝の異物耐力を向上するための熱処理を行うことがある。また、軸受内部空間への異物の入り込みと、必要量以上のオイルの供給を防止するために、内外輪間にシール部材を設けることがある。シール部材を設ける場合においては、シール部材のシールリップと摺接する摺接面に摩耗が生じることがある。このため、例えば特許文献2に開示されているように、その摺接面にショットピーニング処理を施し、表面改質による摩耗防止を図ることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-145795号公報
【文献】特開2007-107588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、異物耐力の向上のために行う熱処理は、特殊な熱処理であることが多く、コストが高いという問題がある。また、内外輪間にシール部材を設ける場合、このシール部材と保持器の環状の柱部との干渉を防ぐために軸受幅を大きくしなければならず、軸受のコンパクト性の点で問題がある。また、テーパ軸受又は分離タイプのアンギュラ軸受の場合は、組み立ての際にシール部材を破損する可能性が高く、組立性に問題がある。
【0007】
また、シールリップの摺接面の摩耗については、この摺接面にショットピーニングを行うことによって、その摩耗を防止することができるものの、コストが高いという問題がある。また、単にシール部材を設けただけでは、異物の入り込みを防止できる一方で、軸受内部空間へのオイルの供給量が不十分となること又は回転トルク、発熱温度が高くなることもある。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、軸受内部空間への異物の侵入を防止するとともに、コンパクトかつ低回転トルクを実現した低コストの玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明では、以下の構成の玉軸受を提供する。
内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の軌道溝間に介在する複数の玉と、を備え、前記内輪の軌道溝の両側に形成された一対の肩部のうち、アキシアル荷重を受ける負荷側の肩部が、反対側の非負荷側の肩部よりも高く形成されている玉軸受において、
前記内輪の前記負荷側の肩部側から前記内外輪間に挿入される冠形保持器と、
前記内輪の前記非負荷側の肩部に設けられ、前記内外輪間に形成された軸受内部空間の軸方向一端側を密封するシール部材と、
前記シール部材に設けられたシールリップと、
前記内輪の前記非負荷側の肩部に形成され、前記シールリップに対して周方向に摺動するシール摺動面と、
をさらに備え、
前記冠形保持器が、リング状に形成されたリング状柱部と、このリング状柱部から一方の軸方向に形成されたポケット部と、を有し、前記ポケット部が、前記リング状柱部よりも小径に形成されており、前記ポケット部の内面に、径方向に延びる潤滑溝が形成されており、
前記シールリップに、前記軸受内部空間と外部間に亘って連通する油通路を前記シール摺動面及び前記シールリップ間に形成する突起が形成されており、この突起が、前記シールリップの周方向に亘って複数形成されていることを特徴とする玉軸受。
【0010】
このようにすると、冠形保持器とシール部材が軸受の軸方向の逆向きからそれぞれ設けられるため、この冠形保持器とシール部材との間に、干渉を防止できる十分な隙間を確保しやすく、軸方向のコンパクト化を図ることができる。また、ポケット部をリング状柱部よりも小径としたので、この冠形保持器を転動体案内保持器とすることができ、この冠形保持器のリング状柱部と内外輪との間の摺動に伴う摩耗を防止することができる。
【0011】
さらに、軸受内部空間を密封するシール摺動面とシールリップ間において突起による油通路が形成され、この油通路内の潤滑油が軸受回転に伴ってシール摺動面及びシールリップ間にくさび効果で引きずり込まれ、この間での油膜形成が促進される。このため、シールリップとシール摺動面が油膜によって完全に分離されて接触しない状態(すなわち流体潤滑状態)で軸受回転を行えるので、シールトルクを実質的に零に近付け、シールリップの摩耗とシールリップとシール摺動面間の摺動に伴う発熱を抑えることができる。したがって、シール周速限界を超えた軸受回転が可能となる。
【0012】
前記冠形保持器の周方向に隣り合うポケット部の爪部の間に、この冠形保持器の径方向の肉厚を減じた肉抜き部が形成されているのが好ましい。
【0013】
このようにすると、軸受の高速回転時において、爪部に作用する遠心力を極力小さくして、この爪部と玉との接触を防止することができる。
【0014】
前記突起が、前記シール部材の回転軸方向に沿って延びる突条、又は、前記軸方向から所定角度傾斜した方向に延びる突条を有するのが好ましい。
【0015】
このようにすると、シールリップとシール摺動面との間の流体潤滑状態を安定的に維持することができ、シールトルクの低減を図りつつ、異物の侵入を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の玉軸受は、内輪のアキシアル荷重の負荷側の肩部側から内外輪間に冠形保持器を挿入する一方で、前記内輪のアキシアル荷重の非負荷側の肩部側から前記内外輪間に形成された軸受内部空間の軸方向一端側を密封するシール部材を設ける構成としたので、冠形保持器とシール部材との間に、干渉を防止できる十分な隙間を確保しつつ、軸方向のコンパクト化を図ることができる。
【0017】
また、ポケット部をリング状柱部よりも小径としたので、この冠形保持器を転動体案内保持器とすることができ、この冠形保持器と内外輪との間の摺動に伴う摩耗を防止することができる。さらに、シールリップに突起を形成して、潤滑油によるシールリップとシール摺動面との間の流体潤滑状態が維持されるようにしたので、摺動部の摩耗や発熱を抑えつつ、従来の接触シール周速限界を超えた軸受回転を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明に係る玉軸受の一実施形態を示す断面図
【
図3】
図1の玉軸受に採用される冠形保持器の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて、この発明に係る玉軸受1の一実施形態について説明する。
図1に示す玉軸受1は、自動車用のモータや変速機等のように、オイル潤滑環境下で使用され、比較的大きなアキシアル荷重が負荷される条件下で使用されるアンギュラ軸受であり、内輪2と、外輪3と、内輪2及び外輪3の軌道溝2a、3a間に介在する複数の玉4と、を備えている。なお、以下においては、玉軸受1の軸受中心軸に沿った方向を軸方向、軸方向に直交する方向を径方向、軸受中心軸周りの円周方向を周方向という。
【0020】
内輪2及び外輪3によって、環状の軸受内部空間5が形成される。複数の玉4は、冠形保持器6によって保持されており、軸受内部空間5で内輪2及び外輪3の間に介在しながら公転する。軸受内部空間5には、潤滑油が供給される。
【0021】
内輪2は、回転軸(図示せず)に取り付けられ、回転軸と一体に回転する。回転軸は、例えば、車両のトランスミッションやディファレンシャルの回転部である。外輪3は、ハウジングやギア等のように、前記回転軸からの荷重を負荷させる部材に取り付けられる。
【0022】
内輪2は、軌道溝2aの両側に形成された一対の肩部2b、2cを有する。これらの肩部2b、2cのうち、アキシアル荷重を受ける負荷側(
図1中の右側)の肩部2bが、反対の非負荷側の肩部2cよりも高く形成されている。これに対し、非負荷側の肩部2cは、通常の深溝玉軸受相当の肩高さとなっている。外輪3も内輪2と同様に、軌道溝3aの両側に形成された一対の肩部3b、3cを有する。これらの肩部3b、3cのうち、アキシアル荷重を受ける負荷側(
図1中の左側)の肩部3bが、反対の非負荷側の肩部3cよりも高く形成されている。このため、この玉軸受1は、深溝玉軸受の良好な低トルク性を備えつつ、深溝玉軸受よりも優れたアキシアル荷重の負荷能力を備えている。
【0023】
冠形保持器6は、樹脂製である。この冠形保持器6は、リング状に形成されたリング状柱部6aと、このリング状柱部6aから軸方向の一方向に突出する一対の爪部6b、6bによって形成されるポケット部6c(
図4参照)とを有している。このポケット部6cは、リング状柱部6aの周方向に亘って複数形成されている。この冠形保持器6は、内輪2の前記負荷側の肩部2b側(
図1中の右側)から、内外輪2、3間に挿入される。
【0024】
このポケット部6cは、リング状柱部6aよりも小径に形成されている。すなわち、
図2に示すように、リング状柱部6aの外径面の半径に対して、ポケット部6cを形成する爪部6bの外径面の半径はd1だけ小さく、リング状柱部6aの内径面の半径に対して、ポケット部6cを形成する爪部6bの内径面の半径はd2だけ小さくなっている。このため、ピッチ円半径とポケット部6cの径方向中心をほぼ一致させて、この冠形保持器6を転動体案内保持器とすることができ、この冠形保持器6のリング状柱部6aと内外輪2、3(肩部2b、3c)との間の摺動に伴う摩耗を防止することができる。
【0025】
一対の爪部6b、6bによって形成されるポケット部6cの内面には、潤滑溝6dが形成されている。この潤滑溝6dは、
図1及び
図3に示すように、ポケット部6cの内径面から外径面まで径方向に貫通している。この潤滑溝6dは、
図4に示すように、横断面形状が円弧状であって、溝幅の中央が深く、両側縁が浅くなっている。また、玉4の回転時の周速が最も大きくなる、玉4の回転方向に対する幅中央部に形成されている。このため、玉4の回転によって、潤滑溝6dを通る潤滑油の流れを促進することができ、高い潤滑効果を発揮させることができる。
【0026】
図3及び
図4に示すように、各ポケット部6cを構成する爪部6bと爪部6bの間には、その間の肉を除去した肉抜き部7が形成されている。このため、玉軸受1の高速回転時において、爪部6bに作用する遠心力を極力小さくして、この爪部6bの変形に伴う玉4との接触を防止することができる。なお、この実施例においては、爪部6b間の肉を径方向全体に亘って全て除去した構成としたが、全てを除去することなく、径方向の肉厚を減ずる(薄肉とする)ことによって肉抜き部7を形成してもよい。また、この実施例においては、肉抜き部7の軸方向底部がリング状柱部6aまで到達しない構成としたが、リング状柱部6aまで到達する構成としてもよい。
【0027】
外輪3の前記負荷側の肩部3bの内周端部には、シール部材8を保持するためのシール溝3dが形成されている。シール部材8は、このシール溝3dによって保持されている。シール部材8は、その外周縁をシール溝3dに圧入することによって取り付けられる。
【0028】
シール部材8は、軸受内部空間5と外部間を区切り、軸受内部空間5の一端側(
図1の左側)を密封する。
図1に示す玉軸受1においては、内輪2の肩部2b、2cの外径、及び、外輪3の肩部3b、3cの内径が、負荷側と非負荷側で異なっているため、この径差に起因して、玉軸受1の運転中に、内輪2の非負荷側から負荷側に向かう潤滑油の流れ(軸受内部空間5を
図1中の左側から右側に向かう潤滑油の流れ)を生じさせるポンプ作用が生じる。したがって、前記一端側にのみシール部材8を設けることにより、ギアの摩耗粉や泥水等の異物が、外部から軸受内部空間5に侵入するのを防止することができる。
【0029】
シール部材8は、その内周側で舌片状に突き出たシールリップ8aを有する。このシールリップ8aは、ラジアルリップである。このラジアルリップは、軸方向に沿ったシール摺動面2d又は軸方向に対して45度以内の鋭角の勾配をもったシール摺動面2dと密封作用を奏するシールリップ8aであって、このシール摺動面2dとの間に径方向の締め代をもっている。
【0030】
内輪2の前記非負荷側の肩部2cには、シールリップ8aに対して周方向に摺動するシール摺動面2dが形成されている。このシール摺動面2dは、周方向全周に亘る円筒面状となっている。
【0031】
図1のシール部材8のシールリップ8a付近を
図5に拡大して示す。また、
図5のVI-VI線に沿う断面図を
図6に示す。この断面は、シールリップ8aとシール摺動面2dとの間におけるシール摺動面2dとの直交方向の隙間(後述の油通路9を含む)について、設計上、シール摺動面2dとの直交方向に最も狭いところでの様子を示している。このシールリップ8aをシール摺動面2d側から見た外観図を
図7に示す。
【0032】
図5に示すように、シール部材8は、内径部にシールリップ8aが形成された加硫ゴム材8bと、加硫ゴム材の内部に埋設された金属板製の芯金8cとを有している。シールリップ8aの内径端部には、周方向に一定の間隔dで、複数の突起8dが形成されている。シールリップ8aを軸方向から見ると、複数の突起8dが、間隔dに対応する一定のピッチ角θで周方向に放射状に配置されている。なお、放射の中心は、図外のシール部材8の中心軸(軸受中心軸と一致)上にある。
図7に示すように、突起8dは、シール部材8の回転軸方向(
図7の左右方向)に沿って延びる突条である。
【0033】
突起8dは、その延設方向の断面が円弧状であり、その円弧の先端が、内輪2の肩部2cのシール摺動面2dに臨んでいる。隣り合う突起8d、8dの間には、空間が形成され、この空間が、玉軸受1の外部から軸受内部空間5に向かって潤滑油が流れるための油通路9として機能する。油通路9の周方向幅は、隣り合う突起8d、8dの間隔dである。また、油通路9の径方向幅は、突起8dの高さhとほぼ同じである。
【0034】
通常は、隣り合う突起8d、8dの間隔dよりも突起8dの高さhの方が小さい。すなわち、侵入を防止すべき異物の粒径よりも突起8dの高さhを小さくすることにより、軸受内部空間5への異物の侵入を防止することができる。また、油通路9を通過する潤滑油の量は、隣り合う突起8d、8dの間隔d又は突起8dの高さhの少なくとも一方を変えることによって調節することができる。
【0035】
突起8dとシール摺動面2dとの間に生じる隙間の大きさは、
図6に示すように、油通路9に周方向に近い側が大、突起8dに周方向に近い側が小となるくさび状に形成されている。内輪2の回転に伴いシール摺動面2dがシールリップ8aに対して周方向に回転すると(
図6中の矢印参照)、油通路9内の潤滑油Lは、シール摺動面2dの回転に伴ってシール摺動面2dとシールリップ8aの突起8d間に引きずり込まれ、この間で油膜が形成される。この油膜の形成によって、シールリップ8aとシール摺動面2d間の摩擦係数が大幅に低下した流体潤滑状態となり、摺動部の摩耗や発熱を抑えつつ、従来の接触シール周速限界を超えた軸受回転を可能とすることができる。
【0036】
突起8dの断面を円弧状とすることによりスムーズに流体潤滑状態を維持することができるが、この形状は円弧状に限定されない。油通路9に周方向に近い側が大、突起8dに周方向に近い側が小となるくさび状の隙間が形成されるのであれば、例えば、突起8dの断面を平面状の傾斜面としてもよい。
【0037】
この突起8dの形状(配置)は、
図7のようにシール部材8の回転軸方向に沿わせる必然性はなく、例えば、
図8に示すように、回転軸方向から所定角度傾斜した方向に延びる突条とすることもできる。この場合も、この突起8dによって軸受内部空間5への異物の侵入を防止することができるとともに、流体潤滑状態の維持を図ることができる。
【0038】
図7及び
図8は、突起8dの形状を例示的に示したのに過ぎず、例えば、回転軸方向からの傾斜方向が周方向に亘って順次逆向きとなる突起8d(すなわち、「ハ」の字形)にしたり、回転軸方向からの傾斜方向が互いにクロスする突起8d(すなわち、「X」の字形)を周方向に亘って複数配置したりすることもできる。これらの構成でも、軸受内部空間5への異物の侵入防止効果を発揮するとともに、流体潤滑状態の維持を図ることができるためである。
【0039】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0040】
1 玉軸受
2 内輪
2a 軌道溝
2b、2c 肩部
2d シール摺動面
3 外輪
4 玉
5 軸受内部空間
6 冠形保持器
6a リング状柱部
6b 爪部
6c ポケット部
6d 潤滑溝
7 肉抜き部
8 シール部材
8a シールリップ
8d 突起
9 油通路