(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】異種移植のための多トランスジェニックブタ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20220401BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20220401BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220401BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20220401BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220401BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220401BHJP
A61K 35/42 20150101ALI20220401BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220401BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20220401BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20220401BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220401BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220401BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220401BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220401BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220401BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
C12N15/12
A01K67/027 ZNA
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/53
C12N5/10
C12N5/071
A61K35/42
A61K35/12
A61L27/36 100
A61L27/38 120
A61L27/38 100
A61P11/00
A61P9/00
A61P9/12
A61P13/12
A61P1/16
A61P1/18
(21)【出願番号】P 2018512546
(86)(22)【出願日】2016-09-09
(86)【国際出願番号】 US2016051126
(87)【国際公開番号】W WO2017044864
(87)【国際公開日】2017-03-16
【審査請求日】2019-09-06
(32)【優先日】2015-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504364367
【氏名又は名称】レビビコア, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】エアーズ, デイビッド エル.
(72)【発明者】
【氏名】フェルプス, キャロル
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/112586(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/066505(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/069986(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0106962(US,A1)
【文献】PLoS ONE, 2011, Vol.6, Issue 5, e19986 (pp.1-9)
【文献】Xenotransplantation, 2015.07, Vol.22, No.4, pp.302-309
【文献】Xenotransplantation, 2011, Vol.18, No.2, pp.121-130
【文献】Xenotransplantation, 2013, Vol.20, No.5, p.361 (408)
【文献】Xenotransplantation, 2009, Vol.16, No.5, p.373 (IXA-O-7.1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
A01K 67/02-67/027;67/033
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくとも4つの導入遺伝子を含み、
(i)前記少なくとも4つの導入遺伝子は、少なくとも2つのプロモーターの制御下で単一の遺伝子座において組み込まれ、発現されており、かつ
(ii)前記少なくとも4つの導入遺伝子は、以下の組合せ:
(a)EPCR、DAF、TFPIおよびCD47、
(b)EPCR、CD55、TBMおよびCD39、
(c)EPCR、HO-1、TBMおよびCD47、
(d)EPCR、HO-1、TBMおよびTFPI、ならびに
(e)EPCR、CD55、TFPIおよびCD47
から選択され;
(B)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠き;かつ
(C)CD46を発現する、
トランスジェニックブタ。
【請求項2】
前記単一の遺伝子座が、
(a)天然の遺伝子座;
(b)改変された天然の遺伝子座;
(c)遺伝子編集媒介挿入、欠失または置換を含む改変された天然の遺伝子座;
(d)トランスジェニックDNAを含む改変された天然の遺伝子座;
(e)選択可能マーカー遺伝子またはランディングパッドを含むトランスジェニックDNAを含む改変された天然の遺伝子座;
(f)AAVS1、ROSA26、CMAH、β4GalNT2およびGGTA1;
(g)天然のGGTA1遺伝子座;
(h)改変されたGGTA1遺伝子座;ならびに
(i)トランスジェニックGGTA1遺伝子座
から選択される、請求項1に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項3】
(A)前記プロモーターの少なくとも1つが
(i)構成的プロモーター;
(ii)調節可能なプロモーター;
(iii)組織特異的プロモーター;
(iv)誘導可能なプロモーター;および
(v)外因性プロモーター
から選択されるか、
(B)前記トランスジェニックブタが少なくとも4つのプロモーターを含み、前記少なくとも4つの導入遺伝子の各々が専用のプロモーターによって制御されるか;
(C)前記少なくとも2つのプロモーターがCAGおよびICAM-2を含むか;
(D)少なくとも1つのプロモーターが構成的プロモーターであり、少なくとも1つのプロモーターが組織特異的プロモーターであるか;
(E)少なくとも1つのプロモーターが構成的プロモーターであり、少なくとも1つのプロモーターが内皮細胞特異的プロモーターであるか;または
(F)前記少なくとも2つのプロモーターが構成的プロモーターである、
請求項1または2に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項4】
前記少なくとも4つの導入遺伝子が第1のポリシストロンおよび第2のポリシストロンとして発現され、前記少なくとも2つのプロモーターが前記第1のポリシストロンの発現を制御する第1のプロモーターおよび前記第2のポリシストロンの発現を制御する第2のプロモーターを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項5】
前記少なくとも4つの導入遺伝子が、EPCR、HO-1、TBMおよびCD47である、請求項1に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項6】
前記少なくとも4つの導入遺伝子が、EPCR、CD55、TBMおよびCD39である、請求項1に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項7】
少なくとも1つのさらなる遺伝子改変をさらに含み、
(a)前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、ヒト血小板の自発的な凝集を低減または排除するためのブタvWF遺伝子座の改変を含むか;
(b)前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がキメラのブタ-ヒトvWFの組み込みおよび発現を含むか;または
(c)前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、ブタvWF遺伝子のターゲティング化された不活性化ならびにヒトvWF遺伝子の断片の組み込みおよび発現を含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項8】
遺伝子ノックアウト;遺伝子ノックイン;遺伝子交換;点突然変異;遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換;大きなゲノム挿入;またはそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つのさらなる遺伝子改変をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項9】
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がヒトHLA-Eの組み込みおよび発現を含む、請求項8に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項10】
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、β4GalNT2遺伝子、CMAH遺伝子、GGTA1遺伝子またはこれらの組合せのノックアウトを含む、請求項8に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項11】
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、
(a)少なくとも2つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現を含むか;
(b)第2の単一の遺伝子座における少なくとも2つのさらなる導入遺伝子の組み込み
および発現を含むか;
(c)第2の単一の遺伝子座における少なくとも2つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現を含み、(i)前記単一の遺伝子座がGGTA1であり、前記第2の単一の遺伝子座がβ4GalNT2であるか、または(ii)前記単一の遺伝子座がGGTA1であり、前記第2の単一の遺伝子座がCMAHであるか;または
(d)第2の単一の遺伝子座における少なくとも4つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現を含む、
請求項8に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項12】
(a)前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が少なくとも1つの天然遺伝子の発現の排除または低減をもたらすか;または
(b)前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、CMP-NeuAcヒドロキシラーゼ、イソグロボシド3シンターゼ、β4GalNT2、vWF、フォルスマンシンターゼまたはそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの天然遺伝子の発現の排除または低減をもたらす、
請求項8に記載のトランスジェニックブタ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のトランスジェニックブタに由来する器官、肺もしくは肺断片、組織または細胞。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載のトランスジェニックブタを作製する方法であって、
(i)ポリジーンブタゲノムを提供するためにブタゲノム中の単一の遺伝子座に少なくとも2つのプロモーターの制御下の少なくとも4つの導入遺伝子を組み込むこと;および
(ii)前記ポリジーンブタゲノムを含む細胞がトランスジェニックブタに成熟することを可能にすること
を含む方法。
【請求項15】
(a)前記ブタゲノムが体細胞ブタゲノムであり、前記細胞はブタ接合体であり、前記ブタ接合体は体細胞核移植(SCNT)によって、かつマイクロインジェクションにより前記ポリジーンブタゲノムを再構築されたSCNT接合体に移すことによって提供されるか;または
(b)前記ブタゲノムが、生殖体ブタゲノム、接合体ブタゲノム、胚ブタゲノムまたは胚盤胞ブタゲノムからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記方法が少なくとも1つのさらなる遺伝子改変を前記ポリジーンブタゲノムに導入することをさらに含み、前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、遺伝子ノックアウト;遺伝子ノックイン;遺伝子交換;点突然変異;遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換;大きなゲノム挿入;またはそれらの組合せからなる群から選択される、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記組み込むことが、
(a)生物学的トランスフェクション、化学的トランスフェクション、物理的トランスフェクション、ウイルス媒介形質導入もしくは形質転換またはそれらの組合せからなる群から選択される方法;または
(b)細胞質マイクロインジェクションおよび前核マイクロインジェクションを含む、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記単一の遺伝子座が、トランスジェニックDNAを含む改変された天然の遺伝子座であり、前記トランスジェニックDNAがポリヌクレオチド改変酵素のための1つまたは複
数の認識配列を含む、請求項14~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリヌクレオチド改変酵素が、i)工学操作エンドヌクレアーゼ、ii)部位特異的リコンビナーゼ、iii)インテグラーゼまたはそれらの組合せからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記工学操作エンドヌクレアーゼが、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼおよびクラスター化規則的間隔短鎖回文反復配列/Cas9ヌクレアーゼからなる群から選択されるか;または、前記部位特異的リコンビナーゼが、ラムダインテグラーゼ、Creリコンビナーゼ、FLPリコンビナーゼ、ガンマ-デルタレゾルバーゼ、Tn3レゾルバーゼ、ΦC31インテグラーゼ、Bxb1-インテグラーゼ、R4インテグラーゼまたはそれらの組合せからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記トランスジェニックブタを第2のトランスジェニックブタに交配することをさらに含み、前記第2のトランスジェニックブタは少なくとも1つの遺伝子改変を含む、請求項14~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記第2のトランスジェニックブタにおける前記少なくとも1つの遺伝子改変が:
(a)少なくとも1つの導入遺伝子の組み込みおよび発現;
(b)少なくとも1つのブタ遺伝子のノックアウト
;
(c)キメラのブタ-ヒトvWFの組み込みおよび発現
;または
(d)ヒト血小板の自発的な凝集を低減または排除するためのブタvWF遺伝子座の改変
を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
(a)前記少なくとも1つの導入遺伝子が抗凝固因子、補体阻害因子、免疫調節因子、細胞保護導入遺伝子およびそれらの組合せからなる群から選択されるか;
または
(b
)前記ブタvWF
遺伝子座の改変が、天然のvWF遺伝子内のヌクレオチド置換によって、または前記天然のvWF遺伝子のノックアウトおよび完全ヒトvWF遺伝子との交換によって生産される、
請求項2
2に記載の方法。
【請求項24】
それを必要とする対象を処置するための、請求項1~1
2のいずれか一項に記載のトランスジェニックブタに由来する器官、器官断片、組織または細胞
、あるいは、請求項13に記載の器官、肺もしくは肺断片、組織または細胞を含む製品であって、前記製品は前記対象に移植されることを特徴とする、製品。
【請求項25】
(a)前記器官が、肺、心臓、腎臓、肝臓、膵臓またはそれらの組合せからなる群から選択されるか;または
(b)前記器官断片が、肺断片、心臓断片、腎臓断片、膵臓断片またはそれらの組合せから選択される、
請求項24に記載の製品。
【請求項26】
前記対象が進行性の肺疾患を有し、肺または肺断片が移植され、前記進行性の肺疾患が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPD)、嚢胞性線維症(CF)、アルファ1-アンチトリプシン疾患または原発性肺高血圧と関連する、請求項24に記載の製品。
【請求項27】
1つまたは複数の治療剤が前記製品と併せて投与され、前記治療剤が、抗拒絶剤、抗炎
症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗菌剤および抗ウイルス剤、ならびにそれらの組合せから選択されることを特徴とする、請求項24に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年9月9日に出願された米国仮特許出願第62/216,225号および2015年11月16日に出願された米国仮特許出願第62/256,068号の利益を主張し、これらの内容は、その全体が本明細書において参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
ブタは多くの解剖学的および生理的特徴をヒトと共有するので、ブタは異種移植のほとんどの研究の焦点であった。またブタは妊娠期間が比較的短く、無菌環境で飼育することができ、食物供与源として一般的に使用されない動物(例えば、霊長類)と関連する同じ倫理的問題を起こす可能性がない。ブタから霊長類への異種移植の分野における科学的知識および専門知識は過去10年にわたって急速に増殖し、救命ブタ異種移植片の霊長類レシピエントのかなり長期の生存をもたらした。(Cozziら、Xenotransplantation、16巻:203~214頁。2009年)。最近、器官異種移植の分野においてかなりの達成が報告されている。(Ekserら、2009年、Transplant Immunology Jun、21巻(2号):87~92頁)。
【0003】
前臨床モデルにおいてブタ器官の使用への生物学的障壁を克服するために、かなりの進歩が見られ、一部の心腎系で器官機能の持続およびレシピエントの生存が数カ月から数年まで到達している(Mohiuddin MMら、Am J Transplant、2014年;14巻:488~489頁;Iwase Hら、Xenotransplantation、2015年;22巻:302~309頁。Higginbotham Lら、Xenotransplantation、2015年;22巻:221~230頁)。しかし、今日までの進歩は心腎に関してはかなりのものであるが、ヒトに転用されるレベルにはまだ到達していない。さらに、肺などの他の器官は、さらにより大きな課題となっている。例えば、生命維持肺異種移植片生存は、霊長類では数日に限定されている(Lairdら、2016年6月、www.cotransplantation.com、21巻3号)。
【0004】
肺移植は、進行期の肺疾患のために容認された処置である。1963年に最初に実行され、それ以来、32,000件を超える肺移植が世界中で実行された。大多数の方法は死体移植であり、ドナーの肺は脳死状態であるがなお生命維持状態である患者から得られる。死体ドナー肺の数の限界は、1990年代に生体ドナー肺葉肺移植(LDLLT)の発達につながり、2人またはそれより多くの生体患者が肺のセグメント(肺葉)を提供する。しかし、ドナープールは比較的乏しいままであり、移植の長期転帰は免疫抑制レジメンによって妨げられたままである。
【0005】
異種移植(異なる種のドナーからの器官、組織および細胞の移植)は、ヒトドナーの肺の不足に効果的に対処できるかもしれない。好都合にも、異種移植片は、(i)予測可能に、非緊急的に供給される;(ii)制御環境において生産される;ならびに(iii)移植前の特徴付けおよび研究で利用可能である。しかし、他の器官と比較して、肺胞上皮と緊密に関連した血管内皮の大きな表面積ならびに強健な免疫監視および迅速な応答系を有する肺の特異な解剖学的構造は、前もって炎症を誘発するようになっており、その結果の影響を極めて受けやすい(den Hengst WAら、Am J Physiol Heart Circ Physiol、2010年;299巻:H1283~H1289頁;Ranieri VMら、JAMA1999年;282巻:54~61頁)。
【0006】
多くの点で有利であるが、異種移植は同種移植より複雑な免疫学的シナリオを形成する。ブタから霊長類への異種移植で最も重大な障壁は、3つの相:超急性拒絶反応(HAR)、急性体液性異種移植片拒絶反応(AHXR)およびT細胞媒介細胞性拒絶反応に分けられる免疫機構のカスケードによる移植された器官の拒絶反応である。HARは、移植片再灌流の後の数分から数時間以内に不可逆的な移植片損傷および喪失をもたらす非常に急速な事象である。
【0007】
ドナー動物の遺伝子改変を通して、異種移植によってもたらされる免疫障壁に対処することにかなりの努力が向けられた。アルファ-1,3-Galエピトープ(ブタから霊長類への異種移植片のHARを誘発する主要な異種抗原)を欠く遺伝子改変ブタは、他の拒絶反応機構およびブタと霊長類の血液凝固系の間の不適合性に対処することができるさらなる遺伝子改変のための基礎であると考えられる。異種移植の成功のためにおそらく複数の遺伝子改変が必要であるが、それらは生産関連の課題を含む課題を提起する。複数の免疫調節導入遺伝子を安定して発現するトランスジェニックブタの生成が、異種移植片拒絶反応を克服することに必須であることは明白である。
【0008】
単一の導入遺伝子を含有するブタの伝統的な交配による多トランスジェニックブタの生成がこれまで利用され、多くの成功を収めてきた(Ekserら、2009年、Transplant Immunology Jun 21巻(2号):87~92頁;Lairdら、2016年6月、www.cotransplantation.com、21巻3号)。しかし、交配は時間がかかり、高価であり、導入遺伝子の一貫した発現レベルがやがて問題になる可能性がある。
【0009】
最近、様々な細胞型および動物に複数の導入遺伝子を挿入するために、ポリシストロン性発現系の使用が開発された。これらの系を使用して多トランスジェニックブタを生成することの実現可能性が示唆された。
【0010】
Dengら(PLOS ONE、www.plosone.org、2011年5月、6巻、5号、e19986頁)は、2Aペプチド二シストロン系および導入遺伝子のランダム組み入れを通した核移植を使用して、4つの蛍光性タンパク質を発現するトランスジェニックブタを生産した。
【0011】
Jeongら(PLOS ONE、www.plosone.org、2013年5月、8巻、5号、e63241頁)は、IRES媒介トリシストロンベクター系および核移植を使用した、補体調節因子CD59およびH-転移酵素遺伝子を発現するトランスジェニックブタの生産を報告した。Jeongらは、このトリシストロン系を使用して3つの遺伝子を発現させることを実際に企てたが、IRESベクターに存在するにもかかわらず、第3の遺伝子CD55は、ブタにおいて発現されなかった。
【0012】
Hurhら(PLOS ONE、www.plosone.org、2013年7月、8巻、7号、e70486頁)は、二シストロン性T2A発現系を使用してトランスジェニックブタの線維芽細胞を生成し、この系を使用してトランスジェニックタンパク質の発現を分析した。彼らは、上流遺伝子の発現が効率的であるならば、下流遺伝子の効率的な発現を達成することができると報告した。
【0013】
導入遺伝子の安定した、十分な組み入れおよび発現をもたらすポリシストロン発現系を使用した多トランスジェニックブタは、まだ生産されていない。したがって、この戦略が多トランスジェニックブタを生成するために一般的に用いられる伝統的な交配アプローチの実行可能な代替物になるかどうか、まだ立証されていない。
【0014】
異種移植療法のための改善されたドナー動物の必要性が、まだある。
特に、改善された機能性を有する肺異種移植片を提供することができるドナー動物の必要性がまだある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】Cozziら、Xenotransplantation、16巻:203~214頁。2009年
【文献】Ekserら、2009年、Transplant Immunology Jun、21巻(2号):87~92頁。
【文献】Mohiuddin MMら、Am J Transplant、2014年;14巻:488~489頁
【文献】Iwase Hら、Xenotransplantation、2015年;22巻:302~309頁
【文献】Higginbotham Lら、Xenotransplantation、2015年;22巻:221~230頁
【文献】Lairdら、2016年6月、www.cotransplantation.com、21巻3号
【文献】den Hengst WAら、Am J Physiol Heart Circ Physiol、2010年;299巻:H1283~H1289頁
【文献】Ranieri VMら、JAMA1999年;282巻:54~61頁
【文献】Dengら(PLOS ONE、www.plosone.org、2011年5月、6巻、5号、e19986頁
【文献】Jeongら(PLOS ONE、www.plosone.org、2013年5月、8巻、5号、e63241頁
【文献】Hurhら(PLOS ONE、www.plosone.org、2013年7月、8巻、7号、e70486頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、それらの動物を異種移植に適するドナーに都合よくさせる複数の遺伝子改変を含む、トランスジェニック動物(例えば、トランスジェニックブタ動物)を対象とする。本発明は、これらの動物に由来する器官、器官断片、組織および細胞、ならびにそれらの治療的使用に拡張する。本発明は、そのような動物を作製する方法にさらに拡張する。
【0017】
第1の態様では、本発明は、少なくとも2つのプロモーターの制御下で単一の遺伝子座において組み込まれ、発現される、少なくとも4つの導入遺伝子を含むトランスジェニックブタであって、アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠くトランスジェニックブタを提供する。
【0018】
単一の遺伝子座は、任意の適する遺伝子座であってよい。一実施形態では、単一の遺伝子座は、未改変の天然の遺伝子座である。代わりの実施形態では、単一の遺伝子座は、改変された天然の遺伝子座である。遺伝子座は、遺伝子編集ツールによって媒介される、挿入、欠失、または置換を含むが、これらに限定されない任意の適する手段によって改変することができる。ある特定の実施形態では、改変された天然の遺伝子座は、トランスジェニックDNAを含む。トランスジェニックDNAは、例えば、選択可能マーカー遺伝子であってよい。他の実施形態では、トランスジェニックDNAは、本明細書にさらに記載されるようにランディングパッドである。
【0019】
特定の実施形態では、単一の遺伝子座は、AAVS1、ROSA26、CMAH、β4GalNT2またはGGTA1である。この実施形態により、この遺伝子座は天然であってもまたは改変されてもよい。
【0020】
例示的な実施形態では、単一の遺伝子座は、天然のGGTA1または改変された天然のGGTA1である。ある特定の実施形態では、改変された天然のGGTA1遺伝子座は、選択可能マーカー遺伝子、例えばneoを含む。他の実施形態では、改変された天然のGGTA1遺伝子座は、遺伝子編集ツールによって媒介される挿入、欠失または置換を含む。さらに他の実施形態では、改変された天然のGGTA1遺伝子座は、遺伝子ターゲティングを促進するためのランディングパッドを含む。
【0021】
プロモーターは異なってもよい。例示的な実施形態では、プロモーターは、内因性、外因性またはそれらの組合せである。例示的な実施形態では、プロモーターは、構成的もしくは調節可能、またはそれらの組合せである。ある特定の実施形態では、プロモーターの少なくとも1つは調節可能である(例えば、組織特異的または誘導可能なプロモーター)。
【0022】
例示的な実施形態では、トランスジェニックブタは4つの導入遺伝子を含み、ここで、4つの導入遺伝子は第1および第2のポリシストロンとして発現され、第1のプロモーターが第1のポリシストロンの発現を制御し、第2のプロモーターが第2のポリシストロンの発現を制御する。
【0023】
例示的な実施形態では、トランスジェニックブタは4つの導入遺伝子を含み、少なくとも4つの導入遺伝子の各々は専用のプロモーターによって制御される。
【0024】
特定の実施形態では、トランスジェニックブタは少なくとも4つの導入遺伝子を含み、ここで、少なくとも4つの導入遺伝子は少なくとも2つのプロモーターの制御下で単一の遺伝子座において組み込まれ、発現され、プロモーターのうちの少なくとも1つは構成的であり(例えば、CAM)、プロモーターのうちの少なくとも1つは組織特異的であり(例えば、ICAM-2などの内皮特異的プロモーター)、ブタはアルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠く。
【0025】
別の特定の実施形態では、トランスジェニックブタは少なくとも4つの導入遺伝子を含み、ここで、少なくとも4つの導入遺伝子は少なくとも2つのプロモーターの制御下で単一の遺伝子座において組み込まれ、発現され、プロモーターのうちの少なくとも2つは構成的であり、ブタはアルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠く。
【0026】
導入遺伝子は異なってもよい。例示的な実施形態では、導入遺伝子は、抗凝固因子、補体阻害因子、免疫調節因子、細胞保護的導入遺伝子またはそれらの組合せである。
【0027】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子のうちの少なくとも1つは抗凝固因子である。一実施形態では、抗凝固因子は、TBM、TFPI、EPCRまたはCD39である。特定の実施形態では、導入遺伝子のうちの少なくとも2つは抗凝固因子である。
【0028】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子のうちの少なくとも1つは補体調節因子、例えば補体阻害因子である。一実施形態では、補体阻害因子は、CD46、CD55またはCD59である。
【0029】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子のうちの少なくとも1つは免疫調節因子である。免疫調節因子は、例えば、免疫抑制因子であってよい。一実施形態では、免疫抑制因子は、ブタのCLTA4-IGまたはCIITA-DNである。特定の実施形態では、導入遺伝子のうちの少なくとも1つはCD47である。
【0030】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、少なくとも1つのさらなる、すなわち複数の導入遺伝子の発現およびアルファGalの発現の欠如に加えて、遺伝子改変を含む。
【0031】
さらなる遺伝子改変は異なってよい。例示的な実施形態では、少なくとも1つの遺伝子改変は、遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックイン、遺伝子交換、点突然変異、遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換、大きなゲノム挿入またはそれらの組合せである。
【0032】
ある特定の実施形態では、単一の遺伝子座はGGTA1でなく、少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がアルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウトを含む。
【0033】
他の実施形態では、さらなる遺伝子改変は、少なくとも1つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現を含む。一実施形態では、さらなる導入遺伝子は、ヒトCD46遺伝子、ヒトHLA-3および/またはヒト化vWFまたはキメラのブタ-ヒトvWF遺伝子である。
【0034】
ある特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる遺伝子改変は、ヒト血小板の自発的な凝集を低減または排除するためのブタvWF遺伝子座の改変である。
【0035】
ある特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる遺伝子改変は、ブタ遺伝子のノックアウトである。ブタ遺伝子は、ある特定の実施形態では、β4GalNT2、CMAH、イソグロボシド3シンターゼ、フォルスマンシンターゼまたはvWFであってよい。
【0036】
ある特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる遺伝子改変は、少なくとも2つまたはそれより多いさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現を含む。一実施形態では、2つまたはそれより多いさらなる導入遺伝子が、単一の第2の遺伝子座において組み込まれ、発現される。
【0037】
例示的な実施形態では、トランスジェニックブタは少なくとも6つの導入遺伝子を含み、ここで、(i)少なくとも4つの導入遺伝子は、少なくとも2つのプロモーターの制御下で第1の単一の遺伝子座(例えば、GGTA1)において組み込まれ、発現され、(ii)少なくとも2つの導入遺伝子は、少なくとも1つのプロモーターの制御下で第2の単一の遺伝子座(例えば、β4GalNT2またはCMAH)において組み込まれ、発現され、ブタは、アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠く。
【0038】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様のトランスジェニックブタに由来する器官または器官断片である。
【0039】
例示的な実施形態では、器官は、肺、肝臓、心臓または膵臓である。
【0040】
例示的な実施形態では、器官断片は、肺断片、肝臓断片、心臓断片または膵臓断片である。
【0041】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様のトランスジェニックブタに由来する組織である。
【0042】
例示的な実施形態では、組織は、上皮組織または結合組織である。
【0043】
第4の態様では、本発明は、本明細書に開示されるトランスジェニックブタに由来する細胞である。
【0044】
例示的な実施形態では、細胞は島細胞である。
【0045】
第5の態様では、本発明は、少なくとも4つのトランスジェニック遺伝子を発現するが、アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠くトランスジェニックブタを作製する方法であって、(i)ポリジーンブタゲノムを提供するためにブタゲノム中の単一の遺伝子座に少なくとも2つのプロモーターの制御下の少なくとも4つの導入遺伝子を組み込むこと;(ii)ポリジーンブタゲノムを含む細胞がトランスジェニックブタに成熟することを可能にすることを含む方法である。
【0046】
例示的な実施形態では、ブタゲノムは体細胞ブタゲノムであり、細胞はブタ接合体であり、ブタ接合体は、体細胞核移植(SCNT)によって、さらにマイクロインジェクションによりポリジーンブタゲノムを再構築されたSCNT接合体に移すことによって提供される。任意選択で、体細胞ゲノムおよび/またはポリジーンブタゲノムは、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含むことができる。一実施形態では、少なくとも1つの遺伝子改変は、遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックイン、遺伝子交換、点突然変異、遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換、大きなゲノム挿入またはそれらの組合せから選択される。
【0047】
例示的な実施形態では、ブタゲノムは、生殖体ブタゲノム、接合体ブタゲノム、胚ブタゲノムまたは胚盤胞ブタゲノムからなる群から選択される。任意選択で、ブタゲノムまたはポリジーンブタゲノムは、少なくとも1つのさらなる遺伝子改変を含む。一実施形態では、少なくとも1つの遺伝子改変は、遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックイン、遺伝子交換、点突然変異、遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換、大きなゲノム挿入またはそれらの組合せから選択される。
【0048】
組み込みの方法は、異なってもよい。例示的な実施形態では、組み込みは、生物学的トランスフェクション、化学的トランスフェクション、物理的トランスフェクション、ウイルス媒介形質導入もしくは形質転換またはそれらの組合せを含む。特定の実施形態では、組み込みは、細胞質マイクロインジェクションを含む。別の特定の実施形態では、組み込みは、前核マイクロインジェクションを含む。
【0049】
本発明の第1の態様と一貫して、単一の遺伝子座は異なってもよい。
【0050】
例示的な実施形態では、単一の遺伝子座は、トランスジェニックDNAを含む。特定の実施形態では、トランスジェニックDNAは、少なくとも1つのポリヌクレオチド改変酵素のための1つまたは複数の認識部位を含むランディングパッドである。ポリヌクレオチド改変酵素は、異なってもよい。ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチド改変酵素は、工学操作エンドヌクレアーゼ、部位特異的リコンビナーゼ、インテグラーゼまたはそれらの組合せである。
【0051】
一実施形態では、工学操作エンドヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ、またはクラスター化規則的間隔短鎖回文反復配列/Cas9ヌクレアーゼである。
【0052】
一実施形態では、部位特異的リコンビナーゼは、ラムダインテグラーゼ、Creリコンビナーゼ、FLPリコンビナーゼ、ガンマ-デルタレゾルバーゼ、Tn3レゾルバーゼ、ΦC31インテグラーゼ、Bxb1-インテグラーゼ、R4インテグラーゼまたはそれらの組合せである。
【0053】
一実施形態では、単一の遺伝子座は、GGTA1、CMAH、β4GalNT2、AAVS1遺伝子座およびRosa26から選択される天然または改変された遺伝子座である。
【0054】
単一の遺伝子座がGGTA1遺伝子座でない実施形態では、さらなる遺伝子改変はアルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子をノックアウトすることを含む。さらなる遺伝子改変として本発明によって企図される他のノックアウトには、ブタβ4GalNT2遺伝子、CMAH遺伝子、β4GalNT2遺伝子、vWFまたはそれらの組合せのノックアウトが含まれる。
【0055】
例示的な実施形態では、少なくとも1つのさらなる遺伝子改変は、少なくとも1つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現を含む。ある特定の実施形態では、導入遺伝子は、ヒトCD46、ヒトHLA-E、ヒト化vWF、キメラのブタ-ヒトvWFまたは完全ヒトvWFである。
【0056】
第6の態様では、本発明は、本発明の第5の態様の方法によって生産されるトランスジェニックブタまたは生産群である。
【0057】
第7の態様では、本発明は、本発明のトランスジェニックブタを第2のトランスジェニックブタに交配する方法であって、第2のトランスジェニックブタは、1つまたは複数の遺伝子改変によって特徴付けられる、方法である。
【0058】
例示的な実施形態では、第2のトランスジェニックブタは、遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックイン、遺伝子交換、点突然変異、遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換、大きなゲノム挿入またはそれらの組合せなどの、1つまたは複数の遺伝子改変によって特徴付けられる。
【0059】
第8の態様では、本発明は、本発明の第7の態様の方法によって生産されるトランスジェニックブタまたは生産群である。
【0060】
第9の態様では、本発明は、対象に本発明のトランスジェニックブタに由来する少なくとも1つの器官、器官断片、組織または細胞を移植することによって、それを必要とする対象を処置するための方法を提供する。
【0061】
例示的な実施形態では、器官または器官断片は、肺もしくは肺断片、腎臓もしくは腎臓断片、肝臓もしくは肝臓断片、膵臓もしくは膵臓断片またはそれらの組合せである。
【0062】
特定の実施形態では、器官は肺である。別の特定の実施形態では、器官断片は、肺断片である。例示的な実施形態では、肺または肺断片は、進行性の肺疾患を有する対象において移植される。
【0063】
例示的な実施形態では、肺または肺断片は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPD)、嚢胞性線維症(CF)、アルファ1-アンチトリプシン疾患または原発性肺高血圧と関連する進行性の肺疾患を有する対象において移植される。
【0064】
ある特定の実施形態では、本方法は、1つまたは複数のさらなる治療剤を対象に投与することを含む。1つまたは複数の治療剤は、異なってもよい。一実施形態では、治療剤は、抗拒絶剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗菌剤および抗ウイルス剤、ならびにそれらの組合せである。
【0065】
第10の態様では、本発明は、ブタvWF遺伝子座の遺伝子改変を有し、アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠くトランスジェニックブタを提供する。トランスジェニックブタは、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含むことができる。
【0066】
例示的な実施形態では、トランスジェニックブタはブタvWF遺伝子座の遺伝子改変を有し、少なくとも4つの導入遺伝子を組み込み、発現し、ならびにアルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠く。
本発明の実施形態の例として、以下の項目が挙げられる。
(項目1)
少なくとも4つの導入遺伝子を含むトランスジェニックブタであって、前記少なくとも4つの導入遺伝子は、少なくとも2つのプロモーターの制御下で単一の遺伝子座において組み込まれ、発現されており、前記ブタは、アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠く、トランスジェニックブタ。
(項目2)
前記単一の遺伝子座が天然の遺伝子座である、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目3)
前記単一の遺伝子座が改変された天然の遺伝子座である、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目4)
前記改変された天然の遺伝子座が遺伝子編集媒介挿入、欠失または置換を含む、項目3に記載のトランスジェニックブタ。
(項目5)
前記改変された天然の遺伝子座がトランスジェニックDNAを含む、項目3に記載のトランスジェニックブタ。
(項目6)
前記トランスジェニックDNAが選択可能マーカー遺伝子を含む、項目5に記載のトランスジェニックブタ。
(項目7)
前記トランスジェニックDNAがランディングパッドを含む、項目5に記載のトランスジェニックブタ。
(項目8)
前記単一の遺伝子座が、AAVS1、ROSA26、CMAH、β4GalNT2およびGGTA1からなる群から選択される、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目9)
前記単一の遺伝子座が天然のGGTA1遺伝子座である、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目10)
前記単一の遺伝子座が改変されたGGTA1遺伝子座である、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目11)
前記単一の遺伝子座がトランスジェニックGGTA1遺伝子座である、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目12)
前記プロモーターの少なくとも1つが構成的プロモーターである、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目13)
前記プロモーターの少なくとも1つが調節可能なプロモーターである、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目14)
前記調節可能なプロモーターが組織特異的プロモーターまたは誘導可能なプロモーターである、項目13に記載のトランスジェニックブタ。
(項目15)
前記プロモーターの少なくとも1つが外因性プロモーターである、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目16)
前記少なくとも4つの導入遺伝子が第1のポリシストロンおよび第2のポリシストロンとして発現され、前記少なくとも2つのプロモーターが前記第1のポリシストロンの発現を制御する第1のプロモーターおよび前記第2のポリシストロンの発現を制御する第2のプロモーターを含む、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目17)
少なくとも4つのプロモーターを含み、前記少なくとも4つの導入遺伝子の各々が専用のプロモーターによって制御される、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目18)
前記第1のプロモーターが構成的プロモーターであり、前記第2のプロモーターが組織特異的プロモーターである、項目16に記載のトランスジェニックブタ。
(項目19)
前記組織特異的プロモーターが内皮細胞特異的プロモーターである、項目18に記載のトランスジェニックブタ。
(項目20)
前記第1のプロモーターおよび前記第2のプロモーターが構成的プロモーターである、項目16に記載のトランスジェニックブタ。
(項目21)
前記少なくとも2つのプロモーターがCAGおよびICAM-2を含む、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目22)
前記少なくとも4つの導入遺伝子が抗凝固因子、補体阻害因子、免疫調節因子、細胞保護導入遺伝子およびそれらの組合せからなる群から選択される、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目23)
前記抗凝固因子がTBM、TFPI、EPCR、CD39およびそれらの組合せからなる群から選択される、項目22に記載のトランスジェニックブタ。
(項目24)
前記補体阻害因子がCD46、CD55、CD59およびそれらの組合せからなる群から選択される、項目22に記載のトランスジェニックブタ。
(項目25)
前記免疫調節因子が免疫抑制因子である、項目22に記載のトランスジェニックブタ。
(項目26)
前記免疫抑制因子がブタのCLTA4-IG、CIITA-DNおよびそれらの組合せからなる群から選択される、項目25に記載のトランスジェニックブタ。
(項目27)
前記免疫調節因子がCD47である、項目22に記載のトランスジェニックブタ。
(項目28)
前記細胞保護導入遺伝子がHO-1、A20およびそれらの組合せからなる群から選択される、項目22に記載のトランスジェニックブタ。
(項目29)
前記導入遺伝子の少なくとも2つが抗凝固因子である、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目30)
前記導入遺伝子の少なくとも1つが細胞保護導入遺伝子である、項目29に記載のトランスジェニックブタ。
(項目31)
前記導入遺伝子の少なくとも1つが免疫調節因子である、項目30に記載のトランスジェニックブタ。
(項目32)
前記導入遺伝子の少なくとも1つが補体阻害因子である、項目31に記載のトランスジェニックブタ。
(項目33)
少なくとも1つのさらなる遺伝子改変をさらに含む、項目1に記載のトランスジェニックブタ。
(項目34)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、遺伝子ノックアウト;遺伝子ノックイン;遺伝子交換;点突然変異;遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換;大きなゲノム挿入;またはそれらの組合せからなる群から選択される、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目35)
前記単一の遺伝子座がGGTA1でなく、前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がアルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウトを含む、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目36)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がヒトCD46の組み込みおよび発現を含む、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目37)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、ヒト血小板の自発的な凝集を低減または排除するためのブタvWF遺伝子座の改変を含む、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目38)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がキメラのブタ-ヒトvWFの組み込みおよび発現を含む、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目39)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、ブタvWF遺伝子のターゲティング化された不活性化ならびにヒトvWF遺伝子の断片の組み込みおよび発現を含む、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目40)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がヒトHLA-Eの組み込みおよび発現を含む、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目41)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がβ4GalNT2遺伝子のノックアウトを含む、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目42)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がCMAH遺伝子のノックアウトを含む、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目43)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が少なくとも2つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現を含む、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目44)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、第2の単一の遺伝子座における少なくとも2つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現を含む、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目45)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、第2の単一の遺伝子座における少なくとも4つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現を含む、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目46)
前記単一の遺伝子座がGGTA1であり、前記第2の単一の遺伝子座がβ4GalNT2である、項目44に記載のトランスジェニックブタ。
(項目47)
前記単一の遺伝子座がGGTA1であり、前記第2の単一の遺伝子座がCMAHである、項目44に記載のトランスジェニックブタ。
(項目48)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が少なくとも1つの天然遺伝子の発現の排除または低減をもたらす、項目33に記載のトランスジェニックブタ。
(項目49)
前記少なくとも1つの天然遺伝子が、CMP-NeuAcヒドロキシラーゼ、イソグロボシド3シンターゼ、β4GalNT2、vWF、フォルスマンシンターゼまたはそれらの組合せからなる群から選択される、項目48に記載のトランスジェニックブタ。
(項目50)
項目1~49に記載のトランスジェニックブタに由来する器官。
(項目51)
項目1~49に記載のトランスジェニックブタに由来する肺または肺断片。
(項目52)
項目1~49に記載のトランスジェニックブタに由来する組織。
(項目53)
項目1~49に記載のトランスジェニックブタに由来する細胞。
(項目54)
少なくとも4つのトランスジェニック遺伝子を発現するが、アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠くトランスジェニックブタを作製する方法であって、(i)ポリジーンブタゲノムを提供するためにブタゲノム中の単一の遺伝子座に少なくとも2つのプロモーターの制御下の少なくとも4つの導入遺伝子を組み込むこと;(ii)前記ポリジーンブタゲノムを含む細胞がトランスジェニックブタに成熟することを可能にすることを含む方法。
(項目55)
前記ブタゲノムが体細胞ブタゲノムであり、前記細胞はブタ接合体であり、前記ブタ接合体は体細胞核移植(SCNT)によって、かつマイクロインジェクションにより前記ポリジーンブタゲノムを再構築されたSCNT接合体に移すことによって提供される、項目54に記載の方法。
(項目56)
前記体細胞ブタゲノムが少なくとも1つのさらなる遺伝子改変を含む、項目53に記載の方法。
(項目57)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、遺伝子ノックアウト;遺伝子ノックイン;遺伝子交換;点突然変異;遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換;大きなゲノム挿入;またはそれらの組合せからなる群から選択される、項目56に記載の方法。
(項目58)
少なくとも1つのさらなる遺伝子改変を前記ポリジーンブタゲノムに導入することをさらに含む、項目55に記載の方法。
(項目59)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、遺伝子ノックアウト;遺伝子ノックイン;遺伝子交換;点突然変異;遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換;大きなゲノム挿入;またはそれらの組合せからなる群から選択される、項目56または58に記載の方法。
(項目60)
前記ブタゲノムが、生殖体ブタゲノム、接合体ブタゲノム、胚ブタゲノムまたは胚盤胞ブタゲノムからなる群から選択される、項目54に記載の方法。
(項目61)
前記ブタゲノムが少なくとも1つのさらなる遺伝子改変を含む、項目60に記載の方法。
(項目62)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、遺伝子ノックアウト;遺伝子ノックイン;遺伝子交換;点突然変異;遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換;大きなゲノム挿入;またはそれらの組合せからなる群から選択される、項目61に記載の方法。
(項目63)
少なくとも1つのさらなる遺伝子改変を前記ポリジーンブタゲノムに導入することをさらに含む、項目60に記載の方法。
(項目64)
前記少なくとも1つの遺伝子改変が、遺伝子ノックアウト;遺伝子ノックイン;遺伝子交換;点突然変異;遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換;大きなゲノム挿入またはそれらの組合せからなる群から選択される、項目61または63に記載の方法。
(項目65)
前記組み込むことが、生物学的トランスフェクション、化学的トランスフェクション、物理的トランスフェクション、ウイルス媒介形質導入もしくは形質転換またはそれらの組合せからなる群から選択される方法を含む、項目54に記載の方法。
(項目66)
組み込むことが、細胞質マイクロインジェクションおよび前核マイクロインジェクションを含む、項目54に記載の方法。
(項目67)
前記単一の遺伝子座が天然の遺伝子座である、項目54に記載の方法。
(項目68)
前記単一の遺伝子座が改変された天然の遺伝子座である、項目54に記載の方法。
(項目69)
前記改変された天然の遺伝子座が遺伝子編集媒介挿入または欠失または置換を含む、項目68に記載の方法。
(項目70)
前記改変された天然の遺伝子座がトランスジェニックDNAを含む、項目68に記載の方法。
(項目71)
前記トランスジェニックDNAが選択可能マーカー遺伝子を含む、項目70に記載の方法。
(項目72)
前記トランスジェニックDNAがランディングパッドを含む、項目70に記載の方法。
(項目73)
前記トランスジェニックDNAがポリヌクレオチド改変酵素のための1つまたは複数の認識配列を含む、項目72に記載の方法。
(項目74)
前記ポリヌクレオチド改変酵素が、工学操作エンドヌクレアーゼ、部位特異的リコンビナーゼ、インテグラーゼまたはそれらの組合せからなる群から選択される、項目73に記載の方法。
(項目75)
前記工学操作エンドヌクレアーゼが、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼおよびクラスター化規則的間隔短鎖回文反復配列/Cas9ヌクレアーゼからなる群から選択される、項目74に記載の方法。
(項目76)
前記部位特異的リコンビナーゼが、ラムダインテグラーゼ、Creリコンビナーゼ、FLPリコンビナーゼ、ガンマ-デルタレゾルバーゼ、Tn3レゾルバーゼ、ΦC31インテグラーゼ、Bxb1-インテグラーゼ、R4インテグラーゼまたはそれらの組合せからなる群から選択される、項目75に記載の方法。
(項目77)
前記単一の遺伝子座が天然のGGTA1遺伝子座である、項目54に記載の方法。
(項目78)
前記単一の遺伝子座が改変されたGGTA1遺伝子座である、項目54に記載の方法。
(項目79)
前記改変されたGGTA1遺伝子座がトランスジェニックGGTA1遺伝子座である、項目78に記載の方法。
(項目80)
前記トランスジェニックGGTA1遺伝子座が選択可能マーカー遺伝子を含む、項目79に記載の方法。
(項目81)
前記トランスジェニックGGTA1遺伝子座が工学操作ランディングパッドを含む、項目79に記載の方法。
(項目82)
前記単一の遺伝子座が、CMAH、β4GalNT2、AAVS1遺伝子座およびRosa26からなる群から選択される天然の遺伝子座である、項目54に記載の方法。
(項目83)
前記単一の遺伝子座が、CMAH、β4GalNT2、AAVS1遺伝子座およびRosa26からなる群から選択される改変された遺伝子座である、項目54に記載の方法。
(項目84)
前記単一の遺伝子座がGGTA1遺伝子座でなく、前記さらなる遺伝子改変がアルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子をノックアウトすることを含む、項目56または61に記載の方法。
(項目85)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がCD46の組み込みおよび発現を含む、項目56、58、61または63に記載の方法。
(項目86)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がヒトHLA-Eの組み込みおよび発現を含む、項目56、58、61または63に記載の方法。
(項目87)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、ヒト血小板の自発的な凝集を低減または排除するための前記ブタvWF遺伝子座の改変を含む、項目56、58、61または63に記載の方法。
(項目88)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変がキメラのブタ-ヒトvWFの組み込みおよび発現を含む、項目56、58、61または63に記載の方法。
(項目89)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、前記ブタvWF遺伝子のターゲティング化された不活性化ならびに前記ヒトvWF遺伝子の断片の挿入および発現を含む、項目56、58、61または63に記載の方法。
(項目90)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、天然のvWF遺伝子内のヌクレオチド置換によって、または前記天然のvWF遺伝子のノックアウトおよび完全ヒトvWF遺伝子との交換によって生産されるブタvWFの改変を含む、項目56、58、61または63に記載の方法。
(項目91)
前記少なくとも1つの遺伝子改変が、β4GalNT2遺伝子、CMAH遺伝子、β4GalNT2遺伝子およびGGTA1遺伝子からなる群から選択される遺伝子のノックアウトを含む、項目56、58、61または63に記載の方法。
(項目92)
項目54または61に記載の方法によって生産される、トランスジェニック動物または生産群。
(項目93)
前記トランスジェニックブタを第2のトランスジェニックブタに交配することをさらに含み、前記第2のトランスジェニックブタは少なくとも1つの遺伝子改変を含む、項目54または60に記載の方法。
(項目94)
前記少なくとも1つの遺伝子改変が少なくとも1つの導入遺伝子の組み込みおよび発現を含む、項目93に記載の方法。
(項目95)
前記少なくとも1つの導入遺伝子が抗凝固因子、補体阻害因子、免疫調節因子、細胞保護導入遺伝子およびそれらの組合せからなる群から選択される、項目94に記載の方法。
(項目96)
前記少なくとも1つの遺伝子改変が少なくとも1つのブタ遺伝子のノックアウトを含む、項目93に記載の方法。
(項目97)
前記少なくとも1つの遺伝子改変がキメラのブタ-ヒトvWFの組み込みおよび発現を含む、項目93に記載の方法。
(項目98)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、ヒト血小板の自発的な凝集を低減または排除するためのブタvWF遺伝子座の改変を含む、項目94に記載の方法。
(項目99)
改変された前記ブタvWFが、天然のvWF遺伝子内のヌクレオチド置換によって、または前記天然のvWF遺伝子のノックアウトおよび完全ヒトvWF遺伝子との交換によって生産される、項目98に記載の方法。
(項目100)
項目94に記載の方法によって生産される、トランスジェニック動物または生産群。
(項目101)
それを必要とする対象を処置するための方法であって、前記対象に項目1~53に記載のトランスジェニックブタに由来する少なくとも1つの器官、器官断片、組織または細胞を移植することを含む方法。
(項目102)
前記少なくとも1つの器官が、肺、心臓、腎臓、肝臓、膵臓またはそれらの組合せからなる群から選択される、項目101に記載の方法。
(項目103)
前記少なくとも1つの器官が肺である、項目102に記載の方法。
(項目104)
前記少なくとも1つの器官断片が、肺断片、心臓断片、腎臓断片、膵臓断片またはそれらの組合せから選択される、項目101に記載の方法。
(項目105)
前記対象が進行性の肺疾患を有し、肺または肺断片が移植される、項目101に記載の方法。
(項目106)
前記進行性の肺疾患が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPD)、嚢胞性線維症(CF)、アルファ1-アンチトリプシン疾患または原発性肺高血圧と関連する、項目105に記載の方法。
(項目107)
前記対象に1つまたは複数の治療剤を投与することをさらに含む、項目101に記載の方法。
(項目108)
前記治療剤が、抗拒絶剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗菌剤および抗ウイルス剤、ならびにそれらの組合せから選択される、項目107に記載の方法。
(項目109)
ブタvWF遺伝子座の遺伝子改変を含み、アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠くトランスジェニックブタ。
(項目110)
少なくとも1つのさらなる遺伝子改変をさらに含む、項目109に記載のトランスジェニックブタ。
(項目111)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が、遺伝子ノックアウト;遺伝子ノックイン;遺伝子交換;点突然変異;遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換;大きなゲノム挿入およびそれらの組合せからなる群から選択される、項目110に記載のトランスジェニックブタ。
(項目112)
前記少なくとも1つのさらなる遺伝子改変が少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現を含む、項目110に記載のトランスジェニックブタ。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1】
図1Aは、2Aペプチド配列によって連結された2つの導入遺伝子からなる、本発明において有用なベクターの二シストロン単位を示す。
図1Bは、独立したプロモーター/エンハンサーによって駆動される2つの二シストロン単位のための挿入部位に隣接しそれらを分離するグロビンインシュレータを含む、本発明において有用なドッキングベクターを示す。
【0068】
【
図2】
図2は、アルファ-Gal発現の欠如、ならびにCD46、CD55(DAF)、EPCR、TFPIおよびCD47を含む5つのヒト導入遺伝子のロバストな発現を実証する、フローサイトメトリーによる6GEブタ(GTKO.CD46.TBM.CD39.EPCR.DAF)における遺伝子発現を示す。
【0069】
【
図3】
図3は、6GEブタ(GTKO.CD46.TBM.CD39.EPCR.DAF)における、EPCR、DAF、TFPIおよびCD47に対する蛍光標識された抗体を使用する、肺切片の免疫組織化学染色を示す。
【0070】
【
図4A】
図4AおよびBは、本発明に従って設計および生産された多シストロンベクター(MCV)を示す。抗凝固因子遺伝子トロンボモジュリン(TBM)、内皮タンパク質C受容体(EPCR)、CD39、および組織因子経路阻害因子(TFPI)、免疫抑制遺伝子ブタ細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質-4(pCTLA4Ig)、クラスII主要組織適合複合体ドミナントネガティブ(CIITA-DN)、および/または抗炎症導入遺伝子ヘムオキシゲナーゼ-1(HO1)、A20、CD47の内皮特異的発現または遍在性発現と組み合わせた、補体調節遺伝子hCD46およびCD55の発現カセットを含む6遺伝子改変を有するブタを生産した。
【
図4B】
図4AおよびBは、本発明に従って設計および生産された多シストロンベクター(MCV)を示す。抗凝固因子遺伝子トロンボモジュリン(TBM)、内皮タンパク質C受容体(EPCR)、CD39、および組織因子経路阻害因子(TFPI)、免疫抑制遺伝子ブタ細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質-4(pCTLA4Ig)、クラスII主要組織適合複合体ドミナントネガティブ(CIITA-DN)、および/または抗炎症導入遺伝子ヘムオキシゲナーゼ-1(HO1)、A20、CD47の内皮特異的発現または遍在性発現と組み合わせた、補体調節遺伝子hCD46およびCD55の発現カセットを含む6遺伝子改変を有するブタを生産した。
【0071】
【
図5】
図5は、肺におけるpREV941導入遺伝子の発現分析を示す。
【0072】
【
図6】
図6は、肺におけるpREV971導入遺伝子の発現分析を示す。
【0073】
【
図7】
図7は、肺におけるpREV967導入遺伝子の発現分析を示す。
【0074】
【
図8】
図8は、941HDRベクター(MCVベクターpREV941-ヒト導入遺伝子EPCR、DAF、TBMおよびCD39を有する);GTKO細胞中の改変されたアルファGal遺伝子座をターゲティングするのに特異的な500bpの相同性アーム)を示す。
【0075】
【
図9】
図9は、陰性対照野生型ブタおよび941HDRターゲティング化ブタ由来の肺切片におけるEPCR、DAF、TBMおよびCD39導入遺伝子の免疫組織化学染色を示す。発現は、4つ全てのヒト導入遺伝子について観察された。強い構成的CAGプロモーターからの、このMCV中の導入遺伝子(EPCRおよびDAF)の発現は、内皮特異的pICAM-2プロモーターの制御下にある導入遺伝子(TBMおよびCD39)について観察された発現よりも強かった。
【0076】
【
図10】
図10は、941HDRターゲティング化ブタ由来の心臓、肝臓、肺および腎臓の組織溶解物のウエスタンブロット分析を示す。TBM(内皮特異的pICAM2プロモーターの制御下にある)、ならびにEPCRおよびDAF(CAGプロモーターを共有する)に特異的な抗ヒトモノクローナル抗体を、MCV-トランスジェニックブタ(具体的には、この場合には941HDR)由来の組織における導入遺伝子発現の検出のために最適化した。アルファGal遺伝子座組み入れの環境における発現は、EPCRおよびDAFについては全ての組織において、TBMについてはより弱く(肺で高いことを除く)観察され、これは、重要なことには生きたブタにおける、ゲノム中のこの所定の部位における複数の導入遺伝子の良好な発現を実証している。
【0077】
【
図11】
図11Aは、アルファGal遺伝子座にターゲティングされた941HDR(ブタ875-5)を含む、TBMトランスジェニックMCVブタの複数の系統におけるヒトトロンボモジュリン発現のELISA検出を示す。
図11Bは、アルファGal遺伝子座にターゲティングされたpREV971からの、胎仔MVEC細胞におけるすべての導入遺伝子のフローサイトメトリー発現を示す。
【0078】
【
図12】
図12は、cDNAとしての等価なヒトエクソン22~28によるブタエクソン22~28のCRISPR増強されたノックインおよび交換を介した、ブタvWF遺伝子座のヒト化を示す。ステップ1では、2つのCRISPR、およびGFP-Puroの内部選択カセットと共にヒトエクソン22~28に隣接する両方のブタ相同性アームを含むターゲティングベクターの両方による、ブタ線維芽細胞のトランスフェクションの後。CRISPR誘導された二本鎖切断は、ブタエクソン22およびエクソン28のジャンクションにおける鎖交換および相同性依存修復を開始する;ステップ2ではヒトvWF配列の挿入による。二対立遺伝子の遺伝子交換が確認された胎仔細胞は、次いで、選択カセットを除去するために部位特異的トランスポゾンで処理されて(ステップ3)、ブタ-ヒト配列のインフレーム融合物が残る。
【0079】
【
図13】
図13は、ヒトエクソン22~28のノックインおよび挿入の際のブタVWF配列およびヒトVWF配列の完璧なアラインメントを示す、ジャンクション(5’および3’)における配列分析を示す。
【0080】
【
図14】
図14は、血小板凝集測定によって試験した場合の、ブタvWF編集全血の正常機能を示す。
【0081】
【
図15】
図15は、vWF編集ブタ乏血小板血漿に曝露されたヒト血小板の自発的凝集がないことを示す。ブタ乏血小板血漿(PPP)を、2-ステップ遠心分離プロトコールを使用して、クエン酸抗凝固処理したブタ血液試料から調製した。ヒト多血小板血漿(PRP)を、新たに引き出したヒト血液試料(クエン酸抗凝固処理した)から調製した。ヒトPRPを、チューブ中でブタPPPと1:1混合し、血小板の凝集を、Chrono-log全血血小板凝集計を使用して即座に記録した。
【0082】
【
図16】
図16は、本発明に従う二シストロンCD46/CD55(DAF)ベクターを示す。
【0083】
【
図17】
図17は、ヒトvWFによる置換によるブタvWFの改変を示す。
【0084】
【
図18】
図18は、本発明に従うトランスジェニックブタ、より具体的には、6遺伝子改変(GTKO.CD46.EPCR.CD55.TBM.CD39)、および5導入遺伝子(CD46.EPCR.CD55.TBM.CD39)の組み込み発現についての、複数の導入遺伝子の高レベルの発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0085】
本発明は、異種移植のための器官、器官断片、組織または細胞の供与源として特に有用であるトランスジェニック動物を対象とする。特に、本発明は、異種移植のための器官、器官断片、組織または細胞の供与源として有用であるトランスジェニック有蹄類、より詳しくはトランスジェニックブタ動物(ブタ)を対象とする。本発明は、そのようなドナー動物に由来する器官、器官断片、組織または細胞、そのようなドナー動物を生産する方法、ならびに疾患および障害の処置におけるそのような動物に由来する器官、器官断片、組織または細胞の使用にも拡張する。
【0086】
好都合にも、ドナー動物は、当技術分野で公知の器官、器官断片、組織および細胞よりも移植(tx)に関して機能的に優れている器官、器官断片、組織および細胞を提供する。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むことなく、本発明の器官、器官断片、組織および細胞は、消費性凝血異常症(播種性血管内凝固(DIC)としても知られる)および不整合異種移植の後に現在観察される血栓性微小血管障害の注目すべき低減のために、改善された生存および/または機能性を有すると考えられている。
【0087】
器官または器官断片は、任意の適する器官、例えば、肺、心臓、肝臓または膵臓であってよい。組織は、任意の適する組織、例えば、上皮または結合組織であってよい。細胞は、任意の適する細胞であってよい。細胞は、任意の適する細胞、例えば、島細胞であってよい。
【0088】
例示的な実施形態では、本発明は、肺異種移植のための器官(すなわち、肺)、器官断片、組織または細胞の供与源として特に有用なトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供し、それに由来する器官(すなわち、肺)、器官断片、組織および細胞、ならびにトランスジェニック動物を生産する方法、および肺異種移植のためのそれに由来する器官、組織および細胞を使用する方法に拡張する。
【0089】
好都合にも、トランスジェニック動物に由来する器官、器官断片、組織または細胞は、異種移植の後に、以下のうちの1つまたは複数の低レベルを生じるか全く生じない:超急性拒絶反応(HAR)、急性体液性拒絶反応(AHXR/DXR)および/または急性細胞性異種移植片拒絶反応(ACXR)。
【0090】
一実施形態では、トランスジェニック動物に由来する器官、器官断片、組織または細胞は、異種移植の後に、HARおよびAHXRの低レベルを生じるか全く生じない。別の実施形態では、トランスジェニック動物に由来する器官、器官断片、組織または細胞は、異種移植の後に、HAR、AHXRおよびACXRの低レベルを生じるか全く生じない。
【0091】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、機能的アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ(アルファGal)のいかなる発現も欠き(遺伝子改変その他の結果として)、少なくともいくつかのさらなる遺伝子改変(例えば、遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックイン、遺伝子交換、点突然変異、欠失、挿入もしくは置換(すなわち、遺伝子、遺伝子断片もしくはヌクレオチドの)、大きなゲノム挿入またはそれらの組合せ)を組み込む、ブタ動物である。遺伝子改変は、例えば相同組換えまたは遺伝子編集方法を含む、任意の適する技術によって媒介されてよい。
【0092】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、機能的アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ(アルファGal)のいかなる発現も欠き(遺伝子改変その他の結果として)、単一の遺伝子座に少なくとも2つのプロモーターの制御下の少なくとも4つの導入遺伝子を組み込み、発現する、ブタ動物である。ある特定の実施形態では、1つのプロモーターは1つの導入遺伝子の発現を制御し、例えば、少なくとも4つの導入遺伝子の各々の発現は単一の(専用の)プロモーターによって制御される。代わりの実施形態では、1つのプロモーターは、1つより多い導入遺伝子の発現を制御し、例えば、1つのプロモーターは2つの導入遺伝子の発現を制御する。好都合にも、交配の間、4つまたはそれより多くの導入遺伝子が共に組み入れられ、同時発現され、同時に分離する。単一の遺伝子座は、異なってもよい。ある特定の実施形態では、単一の遺伝子座は、天然のまたは改変された天然の遺伝子座である。改変された天然の遺伝子座は、1つまたは複数の導入遺伝子の組み込みの促進を目的とする、CRISP誘導挿入もしくは欠失(インデル)、選択可能マーカー遺伝子(例えば、neo)の導入、または大きなゲノム挿入断片(例えば、ランディングパッド)の導入を含むがこれらに限定されない、任意の適する技術によって改変することができる。特定の実施形態では、単一の遺伝子座は、天然のまたは改変されたGGTA1遺伝子座である。GGTA1遺伝子座は、例えば、相同組換え、遺伝子編集またはリコンビナーゼ技術の適用による、少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現によって不活性化される。単一の遺伝子座は、例えば、AAVS1、ROSA26、CMAHまたはβ4GalNT2であってもよい。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つもしくは複数のさらなる遺伝子改変を有することができ、および/または1つもしくは複数のさらなるブタ遺伝子の発現を遺伝子改変以外の機構によって改変することができる。
【0093】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、機能的アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ(アルファGal)のいかなる発現も欠き(遺伝子改変その他の結果として)、単一の遺伝子座において少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9または少なくとも10個の導入遺伝子もしくはそれより多くを組み込み、発現する、ブタ動物である。ある特定の実施形態では、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9または少なくとも10個の導入遺伝子もしくはそれより多くの発現は、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9または少なくとも10個のプロモーターもしくはそれより多くによって制御される。ある特定の実施形態では、プロモーターは導入遺伝子を専門とする、すなわち、1つのプロモーターは1つの導入遺伝子の発現を制御するが、代わりの実施形態では、1つのプロモーターは1つより多い導入遺伝子の発現を制御し、例えば、1つのプロモーターは2つの導入遺伝子の発現を制御する。好都合にも、交配の間、2つまたはそれより多くのさらなる導入遺伝子が共に組み入れられ、同時発現され、同時に分離する。単一の遺伝子座は、異なってもよい。ある特定の実施形態では、単一の遺伝子座は、天然のまたは改変された天然の遺伝子座である。改変された天然の遺伝子座は、1つまたは複数の導入遺伝子の組み込みの促進を目的とする、CRISP誘導挿入もしくは欠失(インデル)、選択可能マーカー遺伝子(例えば、neo)の導入、または大きなゲノム挿入断片(例えば、ランディングパッド)の導入を含むがこれらに限定されない、任意の適する技術によって改変することができる。特定の実施形態では、単一の遺伝子座は、天然のまたは改変されたGGTA1遺伝子座である。GGTA1遺伝子座は、例えば、相同組換え、遺伝子編集またはリコンビナーゼ技術の適用による、少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現によって不活性化される。単一の遺伝子座は、例えば、AAVS1、ROSA26、CMAHまたはβ4GalNT2であってもよい。任意選択で、ドナー動物は、さらなる遺伝子改変を有することができ、および/または1つもしくは複数のさらなるブタ遺伝子の発現を遺伝子改変以外の機構によって改変することができる。
【0094】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、機能的アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ(アルファGal)のいかなる発現も欠き(遺伝子改変その他の結果として)、単一の遺伝子座(すなわち、遺伝子座1)で少なくとも4つの導入遺伝子を組み込み、発現し、第2の単一の遺伝子座(すなわち、遺伝子座2)で1つまたは複数のさらなる導入遺伝子も組み込み、発現する、ブタ動物である。ある特定の実施形態では、1つのプロモーターは1つの導入遺伝子の発現を制御し、例えば、遺伝子座1または遺伝子座2の少なくとも4つの導入遺伝子の各々の発現は単一の(専用の)プロモーターによって制御される。代わりの実施形態では、1つのプロモーターは1つより多い導入遺伝子の発現を制御し、例えば、1つのプロモーターは遺伝子座1の2つの導入遺伝子の発現を制御する。特定の遺伝子座は、異なってもよい。特定の実施形態では、第1の単一の遺伝子座はGGTA1であり、第2の単一の遺伝子座は、例えば、CMAH、B4GalNT2またはvWFである。特定の実施形態では、各単一の遺伝子座、すなわち、遺伝子座1および遺伝子座2で少なくとも4つの導入遺伝子が組み込まれ、発現されて、2つの異なる独立した遺伝子座で発現される8つまたはそれより多くの導入遺伝子を有する動物を生産する。ある特定の実施形態では、単一の遺伝子座は、天然のまたは改変された天然の遺伝子座である。改変された天然の遺伝子座は、1つまたは複数の導入遺伝子の組み込みの促進を目的とする、CRISP誘導挿入もしくは欠失(インデル)、選択可能マーカー遺伝子(例えば、neo)の導入、または大きなゲノム挿入断片(例えば、ランディングパッド)の導入を含むがこれらに限定されない、任意の適する技術によって改変することができる。任意選択で、ドナー動物はさらなる遺伝子改変を有することができ、および/または1つもしくは複数のさらなるブタ遺伝子の発現を遺伝子改変以外の機構によって改変することができる。好都合にも、交配の間、2つまたはそれより多くのさらなる導入遺伝子が共に組み入れられ、同時発現され、同時に分離する。
【0095】
少なくとも2つのプロモーターは、異なってもよい。プロモーターは、外因性であってもまたは天然であってもよい。例示的な実施形態では、プロモーターは、構成的または調節可能(例えば、組織特異的、誘導可能)である。一実施形態では、両プロモーターは、ドナー動物において構成的または遍在的に発現されるかもしれない(例えば、CAGまたは類似のプロモーターから)。2つのプロモーターを有する別の実施形態では、1つのプロモーターは、導入遺伝子の組織特異的な発現(例えば、内皮特異的発現)を可能にするだろうが、第2のプロモーターは、1つまたは複数の導入遺伝子(同じ組み入れ部位の)の構成的または遍在的な発現(例えば、CAGまたは類似のプロモーターから)を可能にするだろう。
【0096】
ある特定の実施形態では、さらなる遺伝子改変(すなわち、上記の複数の導入遺伝子の組み込みおよび発現とは別の)は、ブタのフォンビルブラント因子(vWF)遺伝子を含むがこれに限定されない、特定のブタ遺伝子の不活性化、または、ヒトvWF遺伝子からの同等対応物を有するブタのvWF遺伝子の一部もしくは全部の交換をもたらすことができる。さらなる遺伝子改変に関連して不活性化することができる他の遺伝子には、例えば、CMP-NeuAcヒドロキシラーゼ(CMAH)、イソグロボシド3シンターゼ、β4Gal,NT2フォルスマンシンターゼまたはそれらの組合せが含まれる。ある特定の実施形態では、導入遺伝子組み込みのための単一の遺伝子座はGGTA1でなく、さらなる遺伝子改変はGGTA1の不活性化を包含する。
【0097】
ある特定の実施形態では、さらなる遺伝子改変は、例えば、遺伝子編集誘導欠失/挿入または遺伝子置換(INDEL)である。
【0098】
ある特定の実施形態では、さらなる遺伝子改変(すなわち、上記の複数の導入遺伝子の組み込みおよび発現とは別の)は、第2の遺伝子座で1つまたは複数の導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらすことができる。
【0099】
一実施形態では、本発明は、機能的アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ(アルファGal)のいかなる発現も欠き(遺伝子改変その他の結果として)、ブタのフォンビルブラント因子(vWF)遺伝子の不活性化、または、ヒトvWF遺伝子からの同等対応物を有するブタのvWF遺伝子の一部もしくは全部の交換をさらに含む、ブタ動物である。任意選択で、ブタ動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。ある特定の実施形態では、この動物は、1つまたは複数の遺伝子改変を有する第2の動物と交配することができる。
【0100】
本発明は、そのようなトランスジェニック動物(または、それに由来する器官、組織もしくは細胞)を作製および使用する方法にも拡張する。
【0101】
例示的な実施形態では、本発明は、少なくとも4つのトランスジェニック遺伝子を発現するが、アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠くトランスジェニックブタを作製する方法であって、(i)ポリジーンブタゲノムを提供するためにブタゲノム中の単一の遺伝子座に少なくとも2つのプロモーターの制御下の少なくとも4つの導入遺伝子を組み込むこと;(ii)ポリジーンブタゲノムを含む細胞がトランスジェニックブタに成熟することを可能にすること含む方法を提供する。
【0102】
ある特定の実施形態では、ブタゲノムは体細胞ブタゲノムであり、細胞はブタ接合体である。
【0103】
ある特定の実施形態では、ブタゲノムは、生殖体ブタゲノム、接合体ブタゲノム、胚ブタゲノムまたは胚盤胞ブタゲノムからなる群から選択される。
【0104】
例示的な実施形態では、組み込むことは、生物学的トランスフェクション、化学的トランスフェクション、物理的トランスフェクション、ウイルス媒介形質導入もしくは形質転換またはそれらの組合せからなる群から選択される方法を含む。
【0105】
ある特定の実施形態では、組み込むことは、細胞質マイクロインジェクションおよび前核マイクロインジェクションを含む。
【0106】
例示的な実施形態では、本方法は、2A技術を利用した多シストロンベクターを含む、導入遺伝子の同時組み入れおよび同時発現を可能にする、機能的および/または生産上の利点を有する二シストロン性または多シストロン性ベクターの使用を含む。好ましい実施形態では、少なくとも4つの導入遺伝子を含有する多シストロンベクターの中の各二シストロンは、それ自身のプロモーターの制御下にあり、片方または両方のプロモーターは、2つまたはそれより多い遺伝子の構成的発現をもたらす可能性があり、第2のプロモーターは、2つまたはそれより多い遺伝子の組織特異的発現をもたらす可能性がある。これらのベクターは、編集ヌクレアーゼおよび/または部位特異的インテグラーゼを含む遺伝子編集ツールと組み合わせて利用される。
【0107】
本発明は、本発明のトランスジェニック動物に由来する1つまたは複数の器官、器官断片、組織または細胞で、それを必要とする対象を処置する方法にも拡張する。例示的な実施形態では、器官は、肝臓、肺、心臓、膵臓または他の固形器官である。本発明によって企図される組織の例には、上皮および結合組織が限定されずに含まれる。
【0108】
1つより多い器官または器官断片を含む移植片も、本発明によって企図される。例えば、肺(または、肺断片)および心臓(または、その断片)を含む移植片が、本発明によって企図される。
定義
【0109】
本明細書で使用する場合、用語「有害事象」は、医療品に関係すると考えられるか否かを問わず、医用品(例えば、異種移植片)の使用と一時的に関連する任意の好ましからぬ、または意図しない徴候(例えば、異常な検査所見を含む)、症状または疾患を指す。
【0110】
本明細書で使用する場合、用語「動物」は、哺乳動物を指す。具体的な実施形態では、動物は少なくとも6カ月齢である。ある特定の実施形態では、動物は、離乳年齢を過ぎている。ある特定の実施形態では、動物は、交配年齢に到達するまで生存する。本発明の動物は、「遺伝子改変」されているか、または「トランスジェニック」であり、それは、動物の少なくとも1つの細胞において、および一般的に動物の少なくとも1つの生殖系細胞への遺伝子型または表現型効果を媒介するために、それらが、加えられるかもしくは組み込まれる導入遺伝子もしくは他の外来DNA、またはターゲティング化、組換え、中断、削除、破壊、交換、抑制、強化もしくはさもなければ変更を含む、改変された内因性遺伝子を有することを意味する。一部の実施形態では、動物は、そのゲノムの1つの対立遺伝子に組み入れられる導入遺伝子を有することができる(異型接合的トランスジェニック)。他の実施形態では、動物は、2つの対立遺伝子の上に導入遺伝子を有することができる(ホモ接合トランスジェニック)。
【0111】
本明細書で使用する場合、用語「交配」または「交配された」またはその派生語は、天然および人工的な手段の両方を含む、繁殖の任意の手段を指す。
【0112】
本明細書で使用する場合、用語「交配群」または「生産群」は、本発明の方法によって生成される一群のトランスジェニック動物を指す。一部の実施形態では、その後一緒に交配されて遺伝子改変の所望のセット(または、単一の遺伝子改変)を有する動物の群を形成する動物において、遺伝子改変を同定することができる。WO2012/112586;PCT/US2012/025097を参照。これらの後代は、それらの後代において異なるまたは同じセットの遺伝子改変(または、単一の遺伝子改変)を生産するようにさらに交配することができる。所望の遺伝子改変(複数可)を有する動物のためのこの交配サイクルは、望むだけ続けることができる。この関係において「群」は、同じまたは異なる遺伝子改変(複数可)を有する、長い期間で生産される複数世代の動物を含むことができる。「群」は、同じまたは異なる遺伝子改変(複数可)を有する単一世代の動物を指すこともできる。
【0113】
本明細書で使用する場合、用語「CRISPR」または「クラスター化規則的間隔短鎖回文反復配列」または「SPIDR」または「スペーサー散在性ダイレクトリピート」は、特定の細菌種に通常特異的であるDNA遺伝子座のファミリーを指す。CRISPR遺伝子座は、E.coli(Ishinoら、J. Bacteriol.、169巻:5429~5433頁[1987年];およびNakataら、J. Bacteriol.、171巻:3553~3556頁[1989年])および関連遺伝子において認知された散在性の短い反復配列(SSR)の異なるクラスを含む。CRISPR/Cas分子は、DNAまたはRNA切断を導くRNA塩基対形成を使用した、真核生物RNA干渉に機能的に類似した原核生物の適応免疫系の構成成分である。DNA DSBを導くことは、2つの構成成分を必要とする:エンドヌクレアーゼとして機能するCas9タンパク質、ならびにCas9/RNA複合体をターゲットDNA配列に導くのを助けるCRISPR RNA(crRNA)およびトレーサRNA(tracrRNA)配列(Makarovaら、Nat Rev Microbiol、9巻(6号):467~477頁、2011年)。Casタンパク質のヌクレオチドターゲットを変更するのに、単一のターゲティングRNAの改変で十分であり得る。一部の場合には、crRNAおよびtracrRNAは、Cas9切断活性を導く単一のcr/tracrRNAハイブリッドとして工学的に操作することができる(Jinekら、Science、337巻(6096号):816~821頁、2012年)。他の場所に記載されるように、CRISPR/Cas系は、細菌、酵母、ヒトおよびゼブラフィッシュにおいて使用することができる(例えば、Jiangら、Nat Biotechnol、31巻(3号):233~239頁、2013年;Dicarloら、Nucleic Acids Res、doi:10.1093/nar/gkt135、2013年;Congら、Science、339巻(6121号):819~823頁、2013年;Maliら、Science、339巻(6121号):823~826頁、2013年;Choら、Nat Biotechnol、31巻(3号):230~232頁、2013年;およびHwangら、Nat Biotechnol、31巻(3号):227~229頁、2013年を参照)。
【0114】
本明細書で使用する場合、用語「臨床的に適切な免疫抑制レジメン」は、本明細書に開示される遺伝子改変ブタの器官、組織または細胞の移植後に患者に提供される免疫抑制因子の臨床的に許容されるレジメンを指す。臨床的適切さを判断することは、薬物または処置の効能を維持しながらヒト安全性が保たれるように、許容されるリスク対潜在的利益の均衡を保つ、一般的にFDAによる審判の判定を必要とする。
【0115】
本明細書で使用する場合、用語「構成的」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは規定するポリヌクレオチドに作動可能に連結するとき、細胞のほとんどまたは全ての生理的条件下で細胞において遺伝子産物の生産を引き起こす、ヌクレオチド配列を指す。
【0116】
本明細書で使用する場合、用語「ドナー」は、異種移植のためのドナー器官、組織または細胞の供与源の役割をすることができる任意の非ヒト動物を含むものである。ドナーは、胎児、新生児、若齢および成体を含むがこれらに限定されない、発達の任意の段階にあってもよい。
【0117】
本明細書で使用する場合、核酸配列および動物に関して本明細書で使用される用語「内因性」は、その動物のゲノムに天然に存在する任意の核酸配列を指す。内因性核酸配列は、1つもしくは複数の遺伝子配列、遺伝子間配列、遺伝子配列もしくは遺伝子間配列の部分、またはそれらの組合せを含むことができる。
【0118】
本明細書で使用する場合、用語「内皮特異的」、「内皮組織における特異的導入遺伝子発現」、「内皮組織において少なくとも1つの導入遺伝子を特異的に発現する」など、これらの用語は、内皮組織および/または細胞において導入遺伝子の限定された発現を可能にする内皮特異的調節エレメントの制御下の導入遺伝子を指すものと理解される。導入遺伝子の機能および発現は、内皮組織および/または細胞に限定される。
【0119】
本明細書で使用する場合、用語「内皮」は、内部体腔の内側を覆う薄い平らな細胞の単一の層で構成される中胚葉起源の上皮である。例えば、漿液腔または心臓の内部は内皮細胞内膜を含有し、「血管内皮」は血管の内側を覆う内皮である。
【0120】
本明細書で使用する場合、用語「内皮特異的調節エレメント」などは、プロモーター、エンハンサーまたはそれらの組合せを指し、ここで、プロモーター、エンハンサーまたはそれらの組合せは、内皮組織および/または細胞における導入遺伝子の限定された発現を推進する。調節エレメントは、内皮組織および/または細胞に限定される導入遺伝子の機能および発現を提供する。
【0121】
本明細書で使用する場合、用語「エンハンサー」は、導入遺伝子の発現の増加を組織特異的に促進することを目的とする、核酸構築物中のエレメントを指す。エンハンサーは、遺伝子転写の効率を大幅に変更する外部エレメントである(Molecular Biology of the Gene、第4版、708~710頁、Benjamin Cummings Publishing Company、Menlo Park、CA(C)1987年)。ある特定の実施形態では、動物は、エンハンサーエレメントと組み合わせたプロモーターの制御下で導入遺伝子を発現する。一部の実施形態では、プロモーターは、プロモーターと本質的に関連付けられるかまたは共局在化されるDNAの非コードまたはイントロン領域である、エンハンサーエレメントと組み合わせて使用される。
【0122】
本明細書で使用する場合、「発現」は、ポリヌクレオチドがDNA鋳型から転写されるプロセス(例えば、mRNAまたは他のRNA転写物に)、および/または転写されたmRNAがペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質にその後翻訳されるプロセスを指す。転写物およびコードされるポリペプチドは、「遺伝子産物」と総称することができる。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合は、発現は真核細胞でのmRNAのスプライシングを含むことができる。
【0123】
本明細書で、用語「遺伝子」は、生物学的機能に関連したDNAの任意のセグメントを指すために、広義に使用される。したがって、遺伝子は、コード配列および/またはそれらの発現に必要とされる調節配列を含む。遺伝子は、例えば、他のタンパク質のための認識配列を形成する発現されないDNAセグメントを含むこともできる。遺伝子は、目的の供与源からのクローニング、または既知のもしくは予測された配列情報から合成することを含む、様々な供与源から得ることができ、所望のパラメーターを有するように設計される配列を含むことができる。
【0124】
本明細書で使用する場合、用語「遺伝子編集」は、遺伝子編集ツールを使用してDNAを挿入し、交換し、またはゲノムから除去する遺伝子操作の一種を指す。遺伝子編集ツールの例には、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENおよびCRISPRが限定されずに含まれる。
【0125】
本明細書で使用する場合、用語「遺伝子編集媒介」または類似の用語は、遺伝子編集/遺伝子編集ツールの使用を含む遺伝子の改変(例えば、欠失、置換、再編成)を指す。
【0126】
本明細書で使用する場合、用語「遺伝子ノックアウト」は、染色体遺伝子座にコードされる遺伝情報の混乱からもたらされる遺伝子改変を指す。
【0127】
本明細書で使用する場合、用語「遺伝子ノックイン」は、染色体遺伝子座にコードされる遺伝情報の異なるDNA配列との交換からもたらされる遺伝子改変である。
【0128】
用語「遺伝子改変」は、本明細書で使用する場合、核酸、例えば、生物体のゲノム中の核酸の1つまたは複数の変更を指す。例えば、遺伝子改変は、遺伝子の変更、付加(例えば、遺伝子ノックイン)および/または欠失(例えば、遺伝子ノックアウト)を指すことができる。
【0129】
本明細書で使用する場合、発現のレベルに関する用語「高い」は、表現型(検出可能な発現または治療的利益)を提供するのに十分と考えられる発現レベルを指す。一般的に、「高い」発現レベルは、超急性拒絶反応(HAR)、急性体液性異種移植片拒絶反応(AHXR)、T細胞媒介細胞性拒絶反応および即時血液媒介炎症性応答(IBMIR)を含む移植片拒絶反応を低減することが可能になるのに十分である。
【0130】
本明細書で使用する場合、用語「相同性推進組換え」または「相同性指定修復」または「HDR」は、DNAにおける二本鎖切断(DSB)の存在によって開始される相同組換え事象を指すために使用され(Liangら1998年);HDRの特異性は、高度に効率的なターゲティングされた二本鎖切断を生成すること、およびターゲティングされた細胞のゲノムの正確な編集を可能にすることが知られている任意のゲノム編集技術と組み合わされるときに制御することができる;例えばCRISPR/Cas9系(Findlayら、2014年;Maliら、2014年2月;およびRanら、2013年)。
【0131】
本明細書で使用する場合、用語「強化された相同性推進挿入またはノックイン」は、高度に効率的なターゲティングされた二本鎖切断を生成すること、およびターゲティングされた細胞のゲノムの正確な編集を可能にすることが知られている任意のゲノム編集技術と組み合わされた相同性推進組換え;例えばCRISPR/Cas9系を利用した、DNA構築物、より具体的には二本鎖切断に相同性のDNAの相同性腕またはセグメントに隣接した大きなDNA断片または構築物の挿入として記載される。(Maliら、2013年2月)。
【0132】
本明細書で使用する場合、用語「ヒト化」は、その構造(すなわち、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列)が、非ヒト動物において天然に見出される特定の遺伝子またはタンパク質の構造と実質的または全く同じに対応する部分を含み、関連する特定の非ヒト遺伝子またはタンパク質において見出されるものと異なり、代わりに、対応するヒト遺伝子またはタンパク質において見出される同等の構造により緊密に対応する部分も含む、核酸またはタンパク質を指す。一部の実施形態では、「ヒト化」遺伝子は、実質的にヒトポリペプチド(例えば、ヒトタンパク質またはその部分、例えば、その特徴的部分)のアミノ酸配列のようなアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするものである。用語「超急性拒絶反応」は、移植後最初の24時間以内に起こるかまたは始まる、移植された材料または組織の拒絶反応を指す。
【0133】
用語「植え込む」または「移植する」または「接ぐ」は、本明細書で使用する場合、組織または器官に血管が新生することを可能にする条件下で組織または器官を対象に挿入する行為を指すものと理解され;そのように挿入される(すなわち、「植え込まれた」または「移植された」または「接がれた」)組織または器官も指すものとする。哺乳動物における移植片の血管新生を有利にする条件は、移植部位での広範囲にわたる血液供給ネットワークを有する限局性組織床を含む。
【0134】
本明細書で使用する場合、用語「免疫調節因子」は、免疫応答をモジュレートする能力を有する導入遺伝子を指す。例示的な実施形態では、本発明による免疫調節因子は、補体阻害因子または免疫抑制因子であってよい。具体的な実施形態では、免疫調節因子は補体阻害因子である。補体阻害因子は、CD46(またはMCP)、CD55、CD59および/またはCRIであってよい。具体的な実施形態では、少なくとも2つの補体阻害因子を発現させることができる。一実施形態では、補体阻害因子は、CD55およびCD59であってよい。別の実施形態では、免疫調節因子は、クラスIIトランス活性化因子またはその突然変異体であってよい。ある特定の実施形態では、免疫調節因子は、クラスIIトランス活性化因子優性陰性突然変異体(CIITA-DN)であってよい。別の具体的な実施形態では、免疫調節因子は、免疫抑制因子である。免疫抑制因子は、CTLA4-Igであってよい。他の免疫調節因子は、これらに限定されないが、CIITA-DN、PDL I、PDL2または腫瘍壊死因子-α関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)、Fasリガンド(FasL、CD95L)、インテグリン関連タンパク質(CD47)として知られるCD47、HLA-E、HLA-DP、HLA-DQおよび/またはHLA-DRの群から選択することができる。
【0135】
本明細書で使用する場合、「誘導可能な」プロモーターは、環境または発達調節下にあるプロモーターである。
【0136】
本明細書で使用する場合、用語「ランディングパッド」または「工学操作ランディングパッド」は、部位特異的リコンビナーゼおよび/またはターゲティングエンドヌクレアーゼなどの特異的ポリヌクレオチド改変酵素によって選択的に結合または改変される少なくとも1つの認識配列を含有するヌクレオチド配列を指す。一般に、ランディングパッド配列中の認識配列(複数可)は、改変される細胞のゲノム中に内因的に存在しない。ターゲティング化組み入れの率は、ターゲティングされた細胞のゲノム中に内因的に存在しない高効率ヌクレオチド改変酵素のために認識配列を選択することによって、改善することができる。内因的に存在しない認識配列の選択はまた、潜在的なオフターゲットの組み入れを低減する。他の態様では、改変される細胞に固有の認識配列の使用が、望ましいかもしれない。例えば、複数の認識配列がランディングパッド配列において用いられる場合、1つまたは複数は外因性であってよく、1つまたは複数は固有であってもよい。複数の認識配列が単一のランディングパッドに存在してもよく、2つまたはそれより多いユニーク配列を挿入することができるように、2つまたはそれより多いポリヌクレオチド改変酵素によってランディングパッドを逐次的にターゲティングすることを可能にする。あるいは、ランディングパッドにおける複数の認識配列の存在は、同じ配列の複数のコピーをランディングパッドに挿入することを可能にする。ランディングパッドは、少なくとも1つの認識配列を含むことができる。例えば、外因性核酸は、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9または少なくとも10個、もしくはそれより多い認識配列を含むことができる。1つより多い認識配列を含む実施形態では、認識配列は互いに特異であってよく(すなわち、異なるポリヌクレオチド改変酵素によって認識される)、同じ反復配列、または反復および特異な配列の組合せであってよい。任意選択で、ランディングパッドは、抗生物質耐性遺伝子、代謝選択マーカーまたは蛍光タンパク質などの選択可能マーカーをコードする1つまたは複数の配列を含むことができる。他の配列、例えば転写調節および制御エレメント(すなわち、プロモーター、部分的プロモーター、プロモータートラップ、開始コドン、エンハンサー、イントロン、インシュレータおよび他の発現エレメント)が存在してもよい。
【0137】
本明細書で使用する場合、用語「大きなターゲティングベクター」または「LTVEC」は、真核細胞において相同遺伝子ターゲティングを実行することを目的とする他のアプローチによって一般的に使用されるものより大きなクローンゲノムDNAの断片に由来する、真核細胞のための大きなターゲティングベクターを含む。LTVECの例には、細菌性人工染色体(BAC)、ヒト人工染色体(HAC)および酵母人工染色体(YAC)が含まれるがこれらに限定されない。
【0138】
本明細書で使用する場合、用語「ゲノム遺伝子座」または「遺伝子座」(複数の遺伝子座)は、染色体の上の遺伝子またはDNA配列の特異的位置であり、特定の遺伝子のイントロンまたはエクソン配列の両方を含むことができる。「遺伝子」は、ポリペプチドをコードするDNAもしくはRNAのストレッチ、または生物体において果たすべき機能的役割を有するRNA鎖を指し、したがって生きている生物体における遺伝の分子単位である。本発明において、遺伝子は、遺伝子産物の生成を調節する領域を含むと考えることができ、そのような調節配列がコード配列および/または転写された配列に隣接しているか否かを問わない。したがって、遺伝子は、イントロン、エクソン、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳調節配列、例えばリボソーム結合部位およびリボソーム内部進入部位、エンハンサー、サイレンサー、インシュレータ、境界エレメント、5’または3’調節配列、複製起源、マトリックス付着部位ならびに遺伝子座制御領域を含むが必ずしもこれらに限定されない。
【0139】
本明細書で使用する場合、用語「肺移植」は、患者の病的な肺がドナーからの肺と部分的または完全に交換される外科的処置を指す。肺移植は「単一で」あってよく、レシピエントにおいて2つの肺のうちの1つだけが取り除かれ、ドナーからの単一の肺と交換されるか、または「両側性」であってよく、それは両側に1つずつある両肺を除去し、ドナーからの両方の肺と交換することを含む。ある特定の実施形態では、肺は、心臓と一緒に移植される。
【0140】
本明細書で使用する場合、用語「肺保存」は、肺入手の時間からレシピエントでの移植が行われるまで、ドナー肺を維持し、保護するプロセスを指す。
【0141】
本明細書で使用する場合、フレーズ「移植片機能の喪失」は、本明細書で使用する場合、器官または組織がドナー動物において示す正常なプロセスの任意の生理的混乱または機能不全を指す。
【0142】
本明細書で使用する場合、用語「哺乳動物」は、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ(ウシ属)、シカ、ラバ、ウマ、サル、イヌ、ネコ、ラットおよびマウスを含むがこれらに限定されない、任意の非ヒト哺乳動物を指す。ある特定の実施形態では、動物は、少なくとも300ポンドのブタ動物である。具体的な実施形態では、哺乳動物は雌ブタであり、少なくとも1回出産している。ある特定の実施形態では、哺乳動物は、非ヒト霊長類、例えばサルまたはヒヒである。
【0143】
本明細書で使用する場合、「マーカー」または「選択可能マーカー」は、集団中の大多数の処置細胞からマーカーを発現する稀なトランスフェクション細胞を単離することを可能にする選択マーカーである。そのようなマーカー遺伝子には、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼおよびハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、または蛍光性タンパク質、例えばGFPが含まれるがこれらに限定されない。
【0144】
本明細書で使用する場合、用語「ヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は、互換的に使用される。それらは、デオキシリボヌクレオチドであれ、リボヌクレオチドであれ、その類似体であれ、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形を指す。ポリヌクレオチドは任意の三次元構造を有することができ、公知または未知の任意の機能を果たすことができる。以下のものは、ポリヌクレオチドの非限定例である:遺伝子または遺伝子断片のコード領域または非コード領域、連鎖解析から規定される遺伝子座(単数または複数)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、ショートインタフィアリングRNA(siRNA)、ショートヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝状ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブおよびプライマー。本用語は、合成骨格を有する核酸様構造も包含する、例えば、Eckstein、1991年;Basergaら、1992年;Milligan、1993年;WO97/03211;WO96/39154;Mata、1997年;Strauss-Soukup、1997年;およびSamstag、1996年を参照。ポリヌクレオチドは、1つまたは複数の改変ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体を含むことができる。存在する場合、ヌクレオチド構造の改変はポリマーのアセンブリの前後に付与することができる。ヌクレオチドの配列には、非ヌクレオチド構成成分が割り込むことができる。ポリヌクレオチドは、例えば標識構成成分とのコンジュゲーションによって、重合の後にさらに改変されてもよい。
【0145】
本明細書で使用する場合、フレーズ「作動可能に連結した」は、作動可能に連結した構成成分がそれらの意図された方法で機能する関係を含む。1つの例では、タンパク質をコードする核酸配列は、適切な転写調節を保持するように調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー配列など)に作動可能に連結することができる。
【0146】
用語「器官」は、本明細書で使用する場合、共通の機能を果たすために構造単位に連結される組織の集合を指す。器官は、固形器官であってよい。固形器官は、堅い組織コンシステンシーを有し、中空(胃腸管の器官など)でもなく、液状(血液など)でもない内部器官である。固形器官の例には、心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、脾臓および副腎が含まれる。
【0147】
本明細書で使用する場合、用語「霊長類」は、キツネザル、ロリス、メガネザル、新世界ザル、旧世界ザル、およびヒトを含む類人猿からなる霊長目の様々な哺乳動物を指し、手および足の爪、短い鼻ならびに大きな脳によって特徴付けられる。ある特定の実施形態では、霊長類は非ヒト霊長類である。他の実施形態では、霊長類はヒトである。
【0148】
本明細書で使用する場合、用語「プロモーター」は、一般的にコード領域の上流(5’)のDNAの領域を指し、それは転写の開始およびレベルを少なくとも一部制御する。本明細書において「プロモーター」への言及は、その最も広い文脈でとるべきであり、TATAボックスまたは非TATAボックスプロモーターを含む古典的ゲノム遺伝子の転写調節配列だけでなく、発達上のおよび/もしくは環境の刺激に応答して、または組織特異的もしくは細胞型特異的に遺伝子発現を変更するさらなる調節エレメント(すなわち、活性化配列、エンハンサーおよびサイレンサー)を含む。プロモーターは、必ずしもそうではないが通常、その発現を調節する構造遺伝子の上流または5’に配置される。さらに、プロモーターを含む調節エレメントは、遺伝子の転写の開始部位から2kb以内に通常配置されるが、それらは何kbも離れていてもよい。プロモーターは、細胞における発現をさらに強化するために、および/またはそれが作動可能に接続される構造遺伝子の発現のタイミングもしくは誘導性を変更するために、開始部位からより遠くに位置するさらなる特異的調節エレメントを含有することができる。
【0149】
本明細書で使用する場合、用語「ブタ」、「ブタ動物」、「ブタ」および「ブタ」は、性、サイズまたは品種に関係なく同じ種類の動物を指す総称用語である。
【0150】
本明細書で使用する場合、用語「認識部位」または「認識配列」は、ヌクレアーゼまたは他の酵素によって認識されてDNA骨格に結合し、部位特異的切断を導く、特異的DNA配列を指す。
【0151】
本明細書で使用する場合、用語「組換え部位」は、部位特異的リコンビナーゼによって認識され、組換え事象のための基質としての役割をすることができるヌクレオチド配列を指す。
【0152】
本明細書で使用する場合、用語「調節エレメント」および「発現制御エレメント」は互換的に使用され、特定の環境において作動可能に連結したコード配列の転写および/または翻訳に影響することができる核酸分子を指す。これらの用語は広義に使用され、プロモーター、RNAポリメラーゼおよび転写因子の基本的相互作用のために必要とされるコアエレメント、上流エレメント、エンハンサーならびに応答エレメントを含む、転写を促進または調節する全てのエレメントを包含する。(例えば、Lewin、「Genes V」(Oxford University Press、Oxford)847~873頁を参照)。原核生物における例示的な調節エレメントには、プロモーター、オペレーター配列およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞で使用される調節エレメントには、プロモーター、エンハンサー、スプライシングシグナルおよびポリアデニル化シグナルが限定されずに含まれてもよい。
【0153】
本明細書で使用する場合、用語「調節可能なプロモーター」は、ペプチドが動物、組織または器官において発現されるかどうかを調節するために使用することができるプロモーターを指す。調節可能なプロモーターは組織特異的で、特異的組織だけで発現させることができるか、または一時的に調節可能(特定の時間にオンにされる(発達段階によって作動する))、もしくは誘導可能であり得、そのため、誘導可能なエレメントによって制御されるときにオンまたはオフにされる(発現されるまたは発現されない)だけである。(誘導可能なプロモーター、例えば免疫誘導可能なプロモーターおよびサイトカイン応答プロモーターであってもよく、例えば、インターフェロンガンマ、TNF-アルファ、IL-1、IL-6またはTGF-ベータによって誘導されてもよい)例えば、器官または組織がブタの一部である間は発現を阻止することができるが、細胞性免疫応答を克服するためにしばらくの間ブタがヒトに移植されるならば発現が誘導される。さらに、レシピエントの免疫系の免疫抑制が起こらないことを確実にするために、調節可能なプロモーター系によって発現レベルを制御することができる。
【0154】
本明細書で使用する場合、用語「調節配列」、「調節エレメント」および「制御エレメント」は互換性であり、発現されるポリヌクレオチドターゲットの上流(5’非コード配列)、その内部または下流(3’非翻訳配列)にあるポリヌクレオチド配列を指す。調節配列は、例えば、転写のタイミング、転写の量もしくはレベル、RNAのプロセシングもしくは安定性および/または関連構造ヌクレオチド配列の翻訳に影響する。調節配列には、活性化因子結合性配列、エンハンサー、イントロン、ポリアデニル化認識配列、プロモーター、リプレッサー結合性配列、ステム-ループ構造、翻訳開始配列、翻訳リーダー配列、転写終止配列、翻訳終止配列、プライマー結合部位などを含めることができる。
【0155】
用語「セーフハーバー」遺伝子座は、本明細書で使用する場合、トランスジェニックDNA(例えば、構築物)を危害なしで加えることができ、一貫したレベルの発現を生産することができる、ゲノム中の部位を指す。ある特定の実施形態では、本発明は、セーフハーバー遺伝子座の中に導入遺伝子を含むトランスジェニックDNAの組み込みおよび発現を含む。
【0156】
本明細書で使用する場合、用語「部位特異的リコンビナーゼ」は、2つの組換え部位が単一の核酸分子の中で、または別個の核酸分子の上で物理的に分離している「組換え部位」の間での組換えを促進することができる酵素の群を指す。「部位特異的リコンビナーゼ」の例には、phiC31、att、Bxb1、R4(インテグラーゼ)ならびに/またはCre、FlpおよびDreリコンビナーゼが含まれるがこれらに限定されない。
【0157】
本明細書で使用する場合、用語「対象」は、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類など(例えば、特定の処置(例えば、移植片の移植)のレシピエントになるものまたは移植片のドナーであるもの)を含むがこれらに限定されない、任意の動物(例えば、哺乳動物)を指す。本明細書で特記しない限り(例えば、対象が移植片ドナーである場合)、用語「対象」および「患者」は、ヒト対象に関して互換的に使用される。
【0158】
本明細書で使用する場合、用語「ターゲティングベクター」は、ターゲット遺伝子またはターゲット配列の重大なエレメントに隣接するゲノムDNAに相同性の調整されたDNA腕を一般的に含む、組換えDNA構築物を指す。細胞に導入されたとき、ターゲティングベクターは相同組換えを通して細胞ゲノムに組み入れられる。「組織特異的」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは規定するポリヌクレオチドに作動可能に連結するとき、実質的に細胞がプロモーターに対応する組織型の細胞である場合にだけ細胞において遺伝子産物の生産を引き起こす、ヌクレオチド配列である。
【0159】
本明細書で使用する場合、用語「組織」は、細胞と完全な器官の中間の細胞性組織レベルを指す。組織は、特定の機能を一緒に果たす、同じ起源からの類似の細胞のアンサンブルである。次いで、複数の組織を機能別に一緒にすることによって器官が形成される。本発明によって企図される組織の例には、結合組織、筋肉組織、神経組織、上皮組織および石化組織が限定されずに含まれる。血液、骨、腱、靭帯、脂肪および乳輪組織は結合組織の例であり、それは、線維性結合組織、骨格結合組織および体液結合組織として分類することもできる。筋肉組織は、3つの異なるカテゴリーに分離される:内臓または平滑筋、器官の内膜に見出される;骨格筋、一般的に骨に付着し、全身運動を起こす;および心筋、心臓において見出され、収縮して生物体全体に血液を送り出す。中枢神経系および末梢神経系を構成する細胞は、神経系(または神経)組織として分類される。中枢神経系では、神経組織は脳および脊髄を形成する。末梢神経系では、神経組織は頭蓋神経および脊髄神経を形成し、それには運動ニューロンが含まれる。
【0160】
用語転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼまたは「TALEN」は、本明細書で使用する場合、DNA切断ドメインにTALエフェクターDNA結合ドメインを融合することによって生成される人工制限酵素を指す。これらの試薬は、効率的、プログラム可能および特異的なDNA切断を可能にし、in situでのゲノム編集のための強力なツールである。転写活性化因子様エフェクター(TALE)は、ほとんどあらゆるDNA配列に結合するように速やかに工学操作することができる。用語TALENは、本明細書で使用する場合、広義であり、別のTALENからの支援なしで二本鎖DNAを切断することができる、モノマーTALENを含む。用語TALENは、同じ部位でDNAを切断するために一緒に働くように工学操作されるTALENの対の片方または両方のメンバーを指すためにも使用される。一緒に働くTALENは、左TALENおよび右TALENと呼ぶことができ、それはDNAの左右像に言及する。米国特許シリアルナンバー12/965,590;米国特許シリアルナンバー13/426,991(米国特許第8,450,471号);米国特許シリアルナンバー13/427,040(米国特許第8,440,431号);米国特許シリアルナンバー13/427,137(米国特許第8,440,432号);および米国特許シリアルナンバー13/738,381を参照、その全ては参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0161】
本明細書で使用する場合、用語「トランスフェクトされた」、または「形質転換された」、または「形質導入された」は、外因性核酸が宿主細胞に移転または導入されるプロセスを指す。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞は、外因性核酸でトランスフェクト、形質転換または形質導入されたものである。細胞は、一次対象細胞およびその後代を含む。
【0162】
「導入遺伝子」は、1つの生物体から別の生物体へ移転された遺伝子または遺伝物質である。導入遺伝子が生物体に移転されるとき、生物体はトランスジェニック生物体と呼ぶことができる。一般的に、本用語は、1つの生物体から単離され、異なる生物体に導入される遺伝子配列を含有するDNAのセグメントを記載する。DNAのこの非天然のセグメントは、トランスジェニック生物体においてRNAもしくはタンパク質を生産する能力を保持することができ、または、それはトランスジェニック生物体の遺伝子コードの正常な機能を変更することができる。一般に、DNAは、生物体の生殖細胞系に組み込まれる。例えば、高等脊椎動物では、これは、受精卵の核に外来DNAを注射することによって、または、所望の導入遺伝子(複数可)が宿主ゲノムに組み込まれる体細胞が、核除去された卵母細胞に移され、代理母に移植の後に生きた子孫をもたらす体細胞核移入を通して、達成することができる。導入遺伝子は、細胞に挿入されるとき、mRNA(メッセンジャーRNA)のコピーであるcDNA(相補的DNA)セグメント、またはゲノムDNAのその元の領域に存在する遺伝子自体であってもよい。導入遺伝子は、特にBAC(細菌性人工染色体)もしくはコスミドに大きなクローンとして導入されるときはゲノム配列であってよく、またはcDNA領域とと共にゲノムDNA(イントロン領域、例えばイントロン1を含む)、5’もしくは3’調節領域の組合せによってしばしば特徴付けられる、「ミニ遺伝子」の形であってもよい。本明細書との関連で導入遺伝子「発現」は、特に明記しない限り、非天然核酸からのペプチド配列が宿主において少なくとも1つの細胞で発現されることを意味する。ペプチドは、宿主ゲノムに組み込まれる導入遺伝子から発現させることができる。導入遺伝子は、タンパク質またはその断片(例えば、機能的断片)をコードするポリヌクレオチドを含むことができる。タンパク質の断片(例えば、機能的断片)は、タンパク質のアミノ酸配列の少なくともまたは少なくとも約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%を含むことができる。タンパク質の断片は、タンパク質の機能的断片であってよい。タンパク質の機能的断片は、タンパク質の機能の一部または全体を保持することができる。
【0163】
本明細書で使用する場合、用語「移植寛容性」は、継続する薬理学的免疫抑制を必要としない、ドナー特異的不応答性の状態と規定される。移植寛容性は、免疫抑制剤に関連した有害事象の多くを排除する可能性がある。したがって、寛容性の誘導は、異種移植片の改善された受領をもたらすことができる。一実施形態では、寛容性の誘導は、異種移植片拒絶反応の臨床症状の低下によって同定することができる。別の実施形態では、寛容性の誘導は、異種移植片移植に関連した代謝性、炎症性および増殖性の病的状態または疾患を改善または予防することができる。なお別の実施形態では、寛容性の誘導は、異種移植片拒絶反応を予防するために使用される免疫抑制療法の投与に関連した有害な臨床状態または疾患を改善または減少または予防することができる。なおさらに別の実施形態では、寛容性の誘導は、異種移植片生存を促進することができる。異なる実施形態では、寛容性の誘導は、これらの疾患または状態を示している患者における再発を予防することができる。
【0164】
用語「有蹄類」は、有蹄の哺乳動物を指す。偶蹄類は、アンテロープ、ラクダ、雌ウシ、シカ、ヤギ、ブタおよびヒツジを含む、偶数のつま先を有する(蹄が分裂した)有蹄類である。奇蹄類は奇数のつま先の有蹄類であり、ウマ、シマウマ、サイおよびバクが含まれる。用語有蹄類は、本明細書で使用する場合、成体、胚または胎児の有蹄類動物を指す。
【0165】
用語「ベクター」は、本明細書で使用する場合、ポリヌクレオチドを宿主細胞に移転することが可能である部分を指す。ベクターには、一本鎖、二本鎖または部分的に二本鎖である核酸分子;1つまたは複数の遊離の末端を含む、遊離の末端を含まない(例えば、環状の)核酸分子;DNA、RNAまたは両方とも含む核酸分子;および当技術分野で公知である他の種類のポリヌクレオチドが含まれるがこれらに限定されない。1つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、それは、例えば標準の分子クローニング技術によってさらなるDNAセグメントをそこに挿入することができる、環状二本鎖DNAループを指す。別のタイプのベクターはウイルスのベクターであり、ウイルス由来のDNAまたはRNA配列は、ウイルス(例えば、レトロウイルス、複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス、複製欠陥アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)へのパッケージングのためにベクターに存在する。ウイルスのベクターは、宿主細胞へのトランスフェクションのためにウイルスによって運ばれるポリヌクレオチドも含む。ある特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自己複製が可能である(例えば、細菌性複製開始点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入の後に宿主細胞のゲノムに組み入れられ、それによって宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある特定のベクターは、それらが作動可能に連結されている遺伝子の発現を導くことが可能である。そのようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。組換えDNA技術において有用である一般的な発現ベクターは、しばしばプラスミドの形である。組換え発現ベクターは、宿主細胞での核酸の発現のために適する形で本発明の核酸を含むことができ、そのことは、組換え発現ベクターが1つまたは複数の調節エレメントを含むことを意味し、それらは、発現される核酸配列に作動可能に連結される、発現のために使用される宿主細胞に基づいて選択することができる。組換え発現ベクターの中で、「作動可能に連結した」は、目的のヌクレオチド配列がヌクレオチド配列の発現を可能にする方法で(例えば、in vitro転写/翻訳系において、または、ベクターが宿主細胞に導入されるときは宿主細胞において)、調節エレメント(複数可)に連結することを意味するものである。組換えおよびクローニング方法に関して、米国特許出願シリアルナンバー10/815,730が挙げられ、その内容は参照により完全に本明細書に組み込まれる。好ましくは、ベクターはDNAベクターであり、より好ましくは、本発明によるタンパク質をコードするRNAを発現することが可能である。多数の適するベクターが、当技術分野で記録される;例は、Molecular Cloning: a Laboratory Manual:第2版、Sambrookら、1989年、Cold Spring Harbor Laboratory PressまたはDNA cloning: a practical approach、第II巻:Expression systems、D. M. Glover編(IRL Press、1995年)に見出すことができる。
【0166】
本明細書で使用する場合、用語「ジンクフィンガーヌクレアーゼ」または「ZFN」は、ジンクフィンガーDNA結合性ドメインおよびDNA切断ドメインを含む人工(工学操作)DNA結合性タンパク質を指す。ジンクフィンガードメインは、特異的な所望のDNA配列をターゲティングするように工学操作することができ、このことは、ジンクフィンガーヌクレアーゼが複合ゲノムの中のユニーク配列をターゲティングすることを可能にする。それらは、ユーザー指定位置でDNAに二本鎖切断を生成することによって、ゲノムのターゲティング編集を促進する。各ZFNは、2つの機能的ドメインを含有する:a)各々DNAの特異なヘキサマー(6bp)配列を認識する2フィンガーモジュールの鎖で構成されるDNA結合性ドメイン。2フィンガーモジュールは縫合されて、各々≧24bpの特異性を有するジンクフィンガータンパク質を形成する。b)Fok Iのヌクレアーゼドメインで構成されるDNA切断ドメイン。DNA結合性およびDNA切断ドメインが融合するとき、高度に特異的な一対の「ゲノムハサミ」が作製される。ZFNは、遺伝子編集ツールである。
【0167】
A.トランスジェニック動物
本発明は、異種移植において使用するための器官、器官断片、組織または細胞の供与源としての役割を果たすトランスジェニック動物(例えば、トランスジェニックブタ動物)を提供する。本発明は、トランスジェニック動物に由来する器官、組織および細胞、ならびにそのような動物の群、例えば生産群に拡張する。
【0168】
動物は、任意の適する動物であってよい。例示的な実施形態では、動物は、有蹄類、およびより詳細には、ブタ動物またはブタである。
【0169】
トランスジェニックドナー動物(例えば、有蹄類、ブタ動物またはブタ)は遺伝子改変され、より詳細には、複数の導入遺伝子を、例えば単一の遺伝子座に複数の導入遺伝子を含む。ある特定の実施形態では、トランスジェニックドナー動物は、第1の遺伝子座(すなわち、遺伝子座1)と第2の遺伝子座(すなわち、遺伝子座2)の間で分割される複数の導入遺伝子を発現するように遺伝子改変される。遺伝子座は、天然のまたは改変された天然の遺伝子座であってよい。ターゲティングを促進するために天然の遺伝子座を改変するための様々な戦略が、本明細書に記載される。
【0170】
例示的な実施形態では、本発明は、少なくとも2つのプロモーター(例えば、外因性プロモーター、または外因性および天然のプロモーターの組合せ)の制御下で単一の遺伝子座おける少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現を含むトランスジェニック動物(例えば、トランスジェニックブタ動物)を提供し、ここで、ブタは、アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠く。任意選択で、トランスジェニック動物は、ノックアウトおよびノックインを含む遺伝子の付加および/または欠失、ならびに遺伝子置換および再編成を限定されずに含む、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0171】
特定の実施形態では、本発明は、単一の遺伝子座に組み込まれて発現される少なくとも4つの導入遺伝子を含むトランスジェニックブタ動物を提供し、ここで、少なくとも4つの導入遺伝子の発現は専用のプロモーターによって制御され、すなわち、プロモーターは各個々の導入遺伝子の発現を推進する。例えば、トランスジェニック動物が単一の遺伝子座に4つの導入遺伝子を組み込み、発現する場合、それらの導入遺伝子の発現は4つのプロモーターによって推進され、各プロモーターは特定の導入遺伝子に特異的である。代わりの実施形態では、所与のプロモーターは、1つより多い導入遺伝子(例えば、2つの導入遺伝子、3つの導入遺伝子)の発現を制御する。例えば、トランスジェニック動物が4つの導入遺伝子を組み込み、発現する場合、4つの導入遺伝子のうちの2つは第1のプロモーターによって制御されるポリシストロンとして発現され、4つの導入遺伝子のうちの2つは第2のプロモーターによって制御されるポリシストロンとして発現される。
【0172】
例示的な実施形態では、少なくとも4つの導入遺伝子は、免疫調節因子(例えば、免疫抑制因子)、抗凝固因子、補体阻害因子および凍結保護因子導入遺伝子からなる群から選択される。
【0173】
例示的な実施形態では、単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座である。他の実施形態では、単一の遺伝子座は、改変された天然の遺伝子座、例えばトランスジェニック遺伝子座である。トランスジェニック遺伝子座は、例えば、選択可能マーカー遺伝子を含有する遺伝子座、またはランディングパッドを含有する遺伝子座であってよい。
【0174】
例示的な実施形態では、少なくとも4つの導入遺伝子は多シストロンベクター(MCV)で提供され、ランダム組み入れによって、または遺伝子編集ツールを利用して組み込まれる。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を有することができる。さらなる遺伝子改変は、例えば、遺伝子ノックアウトまたは遺伝子ノックインであってよい。特定の実施形態では、さらなる遺伝子改変は、キメラのブタ-ヒトvWFを含む。
【0175】
別の実施形態では、本発明は、(i)アルファ1,ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の欠如(すなわち、アルファGalヌル)、ならびに(ii)単一の遺伝子座において少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9または少なくとも10個の導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす少なくとも5つの遺伝子改変を含むトランスジェニック動物(例えば、ブタ)を提供する。導入遺伝子の発現は、専用のプロモーターまたは2つもしくはそれより多い導入遺伝子の発現を制御するプロモーターであるプロモーターによって推進される。プロモーターは、外因性であるかまたは外因性および天然のプロモーターの組合せであってよい。
【0176】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子組合せの発現をより良好にモジュレートするために、4つを超える付加された導入遺伝子が1つより多い遺伝子座に導入遺伝子の組み込みを含むかもしれない(例えば、GGTA1に組み入れられる少なくとも2つのプロモーターの制御下の少なくとも4つの導入遺伝子の組み入れ、および第2の遺伝子座(例えば、CMAHまたはB4GalNT2またはAAVS1またはRosa26)での第2の多シストロン組み入れ)。第2の遺伝子座が遺伝子改変されるある特定の実施形態では、そのような第2の遺伝子座は、別のブタ遺伝子の発現を(例えば、遺伝子編集および/または相同組換え技術の応用を通して)不活性化するように改変されるかもしれない。例示的な実施形態では、第2の遺伝子座として組み込まれて発現される複数の導入遺伝子は、免疫調節因子、補体阻害因子、抗凝固因子および凍結保護因子導入遺伝子からなる群から選択される。例示的な実施形態では、第2の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座(例えば、ランディングパッド)である。例示的な実施形態では、第2の遺伝子座の少なくとも2つの導入遺伝子は、MCVで提供され、遺伝子編集ツールを利用して組み込まれる。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を有することができる。
【0177】
一実施形態では、本発明は、(i)アルファ1,ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の低減、ならびに(ii)少なくとも2つのプロモーター(例えば、外因性プロモーター、または外因性および天然のプロモーターの組合せ)の制御下で発現される少なくとも4つの導入遺伝子の単一の遺伝子座での組み込みおよび発現をもたらす少なくとも4つの遺伝子改変を含むトランスジェニック動物(例えば、ブタ)を提供する。例示的な実施形態では、導入遺伝子は、免疫調節因子、抗凝固因子、補体阻害因子および凍結保護因子導入遺伝子からなる群から選択される。例示的な実施形態では、単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座(例えば、ランディングパッド)である。例示的な実施形態では、少なくとも2つの導入遺伝子はMCVで提供され、相同組換えまたは相同性依存性修復の効率を強化するために遺伝子編集ツール(すなわち、CRISPR/cas9、TALENまたはZFN)を利用して組み込まれる。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を有することができる。
【0178】
別の実施形態では、本発明は、(i)アルファ1,ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の低減、ならびに(ii)単一の遺伝子座において、または2つの遺伝子座で分割された、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9または少なくとも10個の導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす少なくとも5つの遺伝子改変を含むトランスジェニック動物(例えば、ブタ)を提供する。例示的な実施形態では、導入遺伝子は、免疫調節因子、補体阻害因子、抗凝固因子および凍結保護因子導入遺伝子からなる群から選択される。例示的な実施形態では、単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座(例えば、ランディングパッド)である。例示的な実施形態では、少なくとも2つの導入遺伝子はMCVで提供され、相同組換えまたは相同性依存性修復の効率を強化するために遺伝子編集ツール(すなわち、CRISPR/cas9、TALENまたはZFN)を利用して組み込まれる。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を有することができる。
【0179】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物はアルファ1,ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠き(すなわち、アルファGalヌル)、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6または少なくとも7つもしくはそれより多くの遺伝子改変を含む。任意選択で、導入遺伝子の組み入れに加えて、さらなるノックアウトは、ベータ4GalNT2遺伝子またはCMAH遺伝子のノックアウトを含む(先天性免疫および異種移植片の拒絶反応の原因に結びつけられた両遺伝子)。
【0180】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物はアルファ1,ガラクトシルトランスフェラーゼの発現が低減し、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6または少なくとも7つのさらなる遺伝子改変を含む。
【0181】
ある特定の実施形態では、アルファ1,ガラクトシルトランスフェラーゼの発現は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約95%低減される。
【0182】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の欠如をもたらす遺伝子改変、および(ii)少なくとも4つのさらなる遺伝子改変、またはより詳細には4つのさらなる遺伝子改変を含む。これらのさらなる遺伝子改変は、CRISPR誘導欠失/挿入または他の遺伝子座(例えば、B4GalNT2、CMAH、vWF)でのノックアウトもしくはノックインを含む遺伝子置換(INDEL)を含むがこれらに限定されない、任意の適する遺伝子改変であってよい。
【0183】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の低減をもたらす遺伝子改変、および(ii)少なくとも4つのさらなる遺伝子改変、またはより詳細には4つのさらなる遺伝子改変を含む。
【0184】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の欠如をもたらす遺伝子改変、および(ii)少なくとも5つのさらなる遺伝子改変、またはより詳細には5つのさらなる遺伝子改変を含む。
【0185】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の低減をもたらす遺伝子改変、および(ii)少なくとも5つのさらなる遺伝子改変、またはより詳細には少なくとも5つのさらなる遺伝子改変を含む。
【0186】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の欠如をもたらす遺伝子改変、および(ii)少なくとも6つのさらなる遺伝子改変、またはより詳細には6つのさらなる遺伝子改変を含む。
【0187】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の低減をもたらす遺伝子改変、および(ii)少なくとも6つのさらなる遺伝子改変、またはより詳細には6つのさらなる遺伝子改変を含む。
【0188】
特定の実施形態では、ドナー動物(例えば、有蹄類、ブタ動物またはブタ)は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の欠如、ならびに(ii)少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5または少なくとも6つもしくはそれより多くの導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含む。
【0189】
例示的な実施形態では、本発明は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の欠如、ならびに(ii)少なくとも4つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含むブタ動物を提供する。
【0190】
例示的な実施形態では、本発明は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の欠如、ならびに(ii)少なくとも5つのさらなる導入遺伝子、またはより詳細には5つのさらなる遺伝子改変の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含むブタ動物を提供する。
【0191】
例示的な実施形態では、本発明は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の欠如、ならびに(ii)少なくとも6つのさらなる導入遺伝子、またはより詳細には6つのさらなる遺伝子改変の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含むブタ動物を提供する。
【0192】
特定の実施形態では、ドナー動物(例えば、有蹄類、ブタ動物またはブタ)は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の低減、ならびに(ii)少なくとも4、少なくとも5、または少なくとも6つ、もしくはそれより多くの導入遺伝子、あるいはより詳細には4、5または少なくとも6つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含む。
【0193】
例示的な実施形態では、ドナー動物(例えば、有蹄類、ブタ動物またはブタ)は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の低減、ならびに(ii)5つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含む。任意選択で、ドナー動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含有することができる。
【0194】
例示的な実施形態では、ドナー動物(例えば、有蹄類、ブタ動物またはブタ)は、(i)アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現の低減、ならびに(ii)6つのさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含む。任意選択で、ドナー動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変(ブタvWFのノックアウト、ノックイン、INDEL、改変)を含有することができる。
B.導入遺伝子発現
【0195】
導入遺伝子の発現は任意のレベルであってよいが、具体的な実施形態では、発現は高レベルである。
【0196】
所望されるレベルおよび組織特異的発現によって、様々なプロモーター/エンハンサーエレメントを使用することができる。所望される発現パターンによって、プロモーター/エンハンサーは構成的または誘導可能であってよい。プロモーターは、外因性もしくは天然であってよいか、または外因性および天然のプロモーターの組合せであってよい。
【0197】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子は構成的または遍在性プロモーターから発現される。ある特定の他の実施形態では、導入遺伝子は、組織特異的もしくは細胞型特異的プロモーター、または誘導可能なプロモーターから発現され、エンハンサー、インシュレータ、マトリックス付着領域(MAR)などのさらなる調節エレメントを含むことができる。
【0198】
例示的な実施形態では、4つまたはそれより多くの導入遺伝子が同時発現される。例示的な実施形態では、4つまたはそれより多くの導入遺伝子は概ねモル当量で発現される。
【0199】
例示的な実施形態では、導入遺伝子は、内皮細胞において主に活性であるプロモーターによって発現される。ある特定の実施形態では、導入遺伝子の発現は、ブタのIcam-2エンハンサー/プロモーターによって制御される。
【0200】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子の発現は、構成的CAGプロモーターによって制御される。
【0201】
ある特定の実施形態では、トランスジェニック動物は、2つまたはそれより多い導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらすように遺伝子改変され、ここで、少なくとも1つの導入遺伝子は構成的プロモーターによって制御され、少なくとも1つの導入遺伝子は組織特異的プロモーターによって、またはより詳細には内皮細胞において主に活性であるプロモーターによって制御される。
【0202】
例示的な実施形態では、トランスジェニック動物は、単一の遺伝子座で4つまたはそれより多い導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらすように遺伝子改変され、ここで、少なくとも1つの導入遺伝子は構成的プロモーターによって制御され、少なくとも1つの導入遺伝子は組織特異的プロモーターによって、またはより詳細には内皮細胞において主に活性であるプロモーターによって制御される。
【0203】
導入遺伝子は、異種移植で使用するためのドナー動物(例えば、ブタ動物)を改変する際に使用するのに適する、任意の導入遺伝子であってよい。例示的な実施形態では、導入遺伝子は、免疫調節因子(例えば、補体調節因子、補体阻害因子、免疫抑制因子)、抗凝固因子、凍結保護因子遺伝子またはそれらの組合せから選択される。ある特定の実施形態では、導入遺伝子の配列はヒトである。
【0204】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子は、免疫調節因子である。
【0205】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子は、補体調節因子、またはより具体的には、補体阻害因子である。補体阻害因子には、CD46(MCP)、CD59またはCR1を限定されずに含めることができる。補体阻害因子の配列は、ヒトであってよい。
【0206】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子は、補体経路阻害因子(すなわち、補体阻害因子)である。補体阻害因子には、CD55、CD59、CR1およびCD46(MCP)を限定されずに含めることができる。補体阻害因子の配列は、ヒトであってよい。
【0207】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子は免疫抑制因子である。
【0208】
補体阻害因子は、ヒトCD46(hCD46)であってよく、発現はミニ遺伝子構築物を通す(Lovelandら、Xenotransplantation、11巻(2号):171~183頁、2004年を参照)。
【0209】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子は、T細胞をモジュレートする効果を有する免疫抑制遺伝子、例えば、CTLA4-Ig、またはクラスII MHC(CIITA)の優性陰性阻害因子、または、B細胞もしくはT細胞媒介免疫機能の発現をモジュレートする他の遺伝子である。さらなる実施形態では、そのような動物は、免疫機能に影響する遺伝子の発現を排除するようにさらに改変されてもよい。ある特定の実施形態では、免疫抑制因子はCD47である。
【0210】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子は抗凝固因子である。抗凝固因子には、組織因子経路阻害因子(TFPI)、ヒルジン、トロンボモジュリン(TBM)、内皮プロテインC受容体(EPCR)およびCD39を限定されずに含めることができる。抗凝固因子の配列は、ヒトであってよい。
【0211】
トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変も有することができる。
【0212】
一実施形態では、動物は、CMP-Neu5Acヒドロキシラーゼ遺伝子(CMAH)(例えば、米国特許公開2005-0223418を参照)、iGb3シンターゼ遺伝子(例えば、米国特許公開2005-0155095を参照)および/またはフォルスマンシンターゼ遺伝子(例えば、米国特許公開2006-0068479を参照)の発現を阻害するように遺伝子改変することができる。さらに、動物は、凝血促進因子の発現を低減するように遺伝子改変することができる。特に、一実施形態では、動物は、FGL2(フィブリノーゲン様タンパク質2)などの凝血促進性遺伝子の発現を低減または排除するように遺伝子改変される(例えば、Marsdenら、(2003年)J din Invest.112巻:58~66頁;Ghanekarら、(2004年)J. Immunol.172巻:5693~701頁;Mendicinoら、(2005年)Circulation.112巻:248~56頁;Muら、(2007年)Physiol Genomics.31巻(1号):53~62頁を参照)。
【0213】
別の実施形態では、動物は、ベータ-1,4N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2(β4GalNT2)の発現を阻害するように遺伝子改変することができる。
C.特異的遺伝学
【0214】
1.アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ(アルファ.Gal)
一実施形態では、本発明は、異種移植のための器官、組織および細胞の供与源として使用するのに適するトランスジェニック動物を提供し、ここで、ドナー動物はアルファGalの発現を欠くか、または発現が低減されている。アルファGalの発現を欠く(すなわち、アルファGalヌルである)トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変、ある特定の実施形態では少なくとも4つのさらなる遺伝子改変、少なくとも5つのさらなる遺伝子改変または少なくとも6つのさらなる遺伝子改変を有する。これらの遺伝子改変は、例えば、導入遺伝子の組み込みまたは発現であってよい。特定の実施形態では、トランスジェニック動物は、(i)アルファGalの発現の欠如;ならびに(ii)単一の遺伝子座における少なくとも2つの導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす少なくとも3つの遺伝子改変を有する。ある特定の実施形態では、単一の遺伝子座は、改変されたアルファGalである。
【0215】
異種移植によって引き起こされる抗Gal体液性応答を排除またはモジュレートするために、アルファ-ガラクトシダーゼによるエピトープの酵素除去(Stoneら、Transplantation、63巻:640~645頁(1997年)、特異的抗gal抗体除去(Yeら、Transplantation、58巻:330~337頁、1994年)、αGT発現を排除できなかった他の炭化水素部分によるエピトープのキャッピング(Tanemuraら、J. Biol. Chem.27321巻:16421~16425頁、1998年およびKoikeら、Xenotransplantation、4巻:147~153頁、1997年)、および補体阻害タンパク質の導入(Dalmassoら、Clin. Exp. Immunol.86巻:31~35頁、1991年、Dalmassoら、Transplantation、52巻:530~533頁(1991年))を含む様々な戦略が実行されている。トランスジェニックブタにおけるαGTの競合的阻害はエピトープ数の部分的な低減だけをもたらすことを、C. Costaら(FASEB J、13巻、1762頁(1999年))は報告した。同様に、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIIIトランスジェニックブタにおけるgalエピトープの発現を遮断する試みも、galエピトープ数の部分的低減だけをもたらし、霊長類レシピエントにおいて移植片生存を有意に延長することができないことを、S. Miyagawaら(J. Biol. Chem.276巻、39310頁(2000年))は報告した。
【0216】
ブタの細胞および生動物におけるアルファGal遺伝子座の単一の対立遺伝子ノックアウトが、報告されている。Denningら(Nature Biotechnology、19巻:559~562頁、2001年)は、ヒツジにおいてαGT遺伝子の1つの対立遺伝子のターゲティングされた遺伝子欠失を報告した。Harrisonら(Transgenics Research、11巻:143~150頁、2002年)は、異種接合性αGTノックアウト体細胞性ブタ胎児線維芽細胞の生産を報告した。2002年に、Laiら(Science、295巻:1089~1092頁、2002年)およびDaiら(Nature Biotechnology、20巻:251~255頁、2002年)は、αGT遺伝子の1つの対立遺伝子が首尾よく不活性にされたブタの生産を報告し、また、アルファGalの不活性化がアルファGal遺伝子のコード領域を妨害するマーカー遺伝子ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(Neo)のターゲティング化挿入を通した場合(Ramsoondarら(Biol of Reproduc、69巻、437~445頁(2003年))、HTおよびアルファGalエピトープの両方を発現した、ヒトアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(HT)も発現する、異種接合性αGTノックアウトブタの生産を報告した。ミズーリ大学の管理者へのPCT公開第WO03/055302号は、ノックアウトブタにおける機能的αGTの発現が野生型と比較して減少している、異種移植において使用するための異種接合性アルファGalノックアウトミニチュアブタの生産を確認している。
【0217】
PCT公開第WO94/21799号およびAustin Research Instituteへの米国特許第5,821,117号;BresatecへのPCT公開第WO95/20661号;ならびにBioTransplant,Inc.およびThe General Hospital CorporationへのPCT公開第WO95/28412号、米国特許第6,153,428号、米国特許第6,413,769号および米国公開第2003/0014770号は、αGT遺伝子のcDNAに基づくαGT陰性ブタ細胞の生産の議論を提供する。異種移植の分野における主要なブレークスルーは、アルファGalのいかなる機能的発現も欠いている最初の生きたブタの生産であった(Phelpsら、Science、299巻:411~414頁(2003年);Revivicor,Inc.によるPCT公開第WO04/028243号およびImmerge Biotherapeutics,Inc.によるPCT公開第WO04/016742号も参照)。
【0218】
一実施形態では、動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)は、少なくとも4つの導入遺伝子を含むトランスジェニック動物(例えば、トランスジェニックブタ)から提供され、ここで、4つの導入遺伝子は少なくとも2つのプロモーターの制御下で単一の遺伝子座に組み込まれて発現され、ブタは、アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠く。例示的な実施形態では、導入遺伝子は、改変されたアルファGal遺伝子座に組み込まれて発現される。ある特定の実施形態では、少なくとも2つのプロモーターは、外因性、天然、または外因性および天然の組合せである。
【0219】
一実施形態では、(i)機能的アルファGalのいかなる発現も欠き、および(ii)単一の遺伝子座において少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9または少なくとも10個もしくはそれより多い導入遺伝子を組み込み、発現する動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供される。例示的な実施形態では、導入遺伝子は、改変されたアルファGal遺伝子座に組み込まれて発現される。
【0220】
ある特定の実施形態では、動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含むことができる。これらの遺伝子改変は、同じ遺伝子座または異なる遺伝子座に1つまたは複数のさらなる導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらすことができる。
【0221】
一実施形態では、機能的アルファGalのいかなる発現も欠き、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5または少なくとも6つのさらなる導入遺伝子を組み込み、発現する動物(ならびにそれに由来する器官、組織および細胞)が提供される。
【0222】
別の実施形態では、機能的アルファGalの発現の低減したレベルを有し、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5または少なくとも6つのさらなる導入遺伝子を組み込み、発現する動物、器官、組織および細胞が提供される。機能的アルファGalの発現は、例えば、少なくとも約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約95%低減することができる。
【0223】
機能的αGTの発現の欠如または低減したレベルは、任意の適する手段によって達成することができる。実施形態では、アルファGal遺伝子の1つの対立遺伝子が遺伝子ターゲティング事象を通して不活性化される動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)が提供される。別の実施形態では、アルファGal遺伝子の両方の対立遺伝子が遺伝子ターゲティング事象を通して不活性化されるブタ動物が提供される。一実施形態では、遺伝子は、相同組換えを通してターゲティングすることができる。他の実施形態では、遺伝子は混乱させることができ、すなわち遺伝子コードの一部を変更することができ、それによって遺伝子のそのセグメントの転写および/または翻訳に影響する。例えば、遺伝子の混乱は、アルファGal遺伝子のコード領域を妨害する選択可能マーカー遺伝子(例えば、neo)のターゲティング化挿入を含む、置換、欠失(「ノックアウト」)または挿入(「ノックイン」)技術によって起こり得る。既存配列の転写をモジュレートする所望のタンパク質または調節配列のためのさらなる遺伝子を、挿入することができる。
【0224】
ある特定の実施形態では、アルファGal遺伝子の対立遺伝子は、その結果としてのアルファGal酵素が細胞表面でGalをもはや生成することができないように不活性にさせられる。一実施形態では、アルファGal遺伝子はRNAに転写することができるが、タンパク質に翻訳することができない。別の実施形態では、アルファGal遺伝子は、トランケーション型で転写することができる。そのようなトランケーションされたRNAは、非機能的タンパク質に翻訳することができないか、または翻訳することができる。代わりの実施形態では、アルファGal遺伝子は、遺伝子の転写が起こらないように不活性化することができる。さらなる実施形態では、アルファGal遺伝子は、転写し、次いで非機能的タンパク質に翻訳することができる。
【0225】
一部の実施形態では、活性アルファGal遺伝子の発現は、代替方法、例えば遺伝子の転写または翻訳を目標とする方法の使用によって低減することができる。例えば、天然のαGT遺伝子またはそのmRNAをターゲティングするアンチセンスRNAまたはsiRNAの使用によって、発現を低減することができる。他の実施形態では、組換えのためのゲノムの領域をターゲティングするために、部位特異的リコンビナーゼが使用される。そのような系の例は、CRE-lox系およびFlp-Frt系である。
【0226】
アルファGal遺伝子の2つの不活性な対立遺伝子を有するブタは、天然に存在しない。遺伝子ターゲティング事象を通してアルファGal遺伝子の第2の対立遺伝子のノックアウトを試みる間に、第2の対立遺伝子が機能的アルファGal酵素を生産することを阻止した点突然変異が同定されたことが以前に発見された。
【0227】
したがって、本発明の別の態様では、少なくとも1つの点突然変異を通してアルファGalを不活性にすることができる。一実施形態では、少なくとも1つの点突然変異を通してアルファGal遺伝子の1つの対立遺伝子を不活性にすることができる。別の実施形態では、少なくとも1つの点突然変異を通してアルファGal遺伝子の両方の対立遺伝子を不活性にすることができる。一実施形態では、この点突然変異は、遺伝子ターゲティング事象を通して起こり得る。別の実施形態では、この点突然変異は天然に存在することができる。さらなる実施形態では、突然変異誘発因子を通してアルファGal遺伝子において突然変異を誘導することができる。
2.β4GaINT2
【0228】
一実施形態では、本発明は、異種移植のための器官、組織および細胞の供与源として使用するのに適するトランスジェニック動物を提供し、ここで、ドナー動物はβ1,4N-アセチル-ガラクトサミニルトランスフェラーゼ2(β4GALNT2)の発現を欠くか、または発現が低減している。β4GALNT2の発現を欠く(すなわち、β4GALNT2ヌル)トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を有する。これらの遺伝子改変は、例えば、導入遺伝子の組み込みまたは発現であってよい。特定の実施形態では、β1,4N-アセチル-ガラクトサミニルトランスフェラーゼ2(β4GALNT2)の発現を欠くかまたは発現が低減しているトランスジェニック動物は、(i)アルファGalの発現の欠如;ならびに(ii)少なくとも2つのプロモーターの制御下での単一の遺伝子座における少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現によっても特徴付けられる。
【0229】
β4Gal-NT2によって生産されるグリカンは、多くのヒトにとって異種抗原である。Estrada JLら、Xenotransplantation、2015年:22巻:194~202頁。ヒトおよびマウスでは、β4GALNT2はシアル酸改変ラクトサミンへのN-アセチルガラクトサミンの付加を触媒して、GalNAcb1-4(Neu5Ac a2-3)Galb1-4GlcNAc b1-3Gal、Sda血液群抗原を生産する。この遺伝子は、ブタの移植可能な器官(腎臓、心臓、肝臓、肺および膵臓)および内皮細胞において機能的である。ヒトのおよそ5%は不活性のβ4GalNT2を有し、その結果として、この遺伝子によって生産されるSDaおよびCAD炭水化物に対する抗体を発生させる。Byrne GWら、Transplantation、2011年;91巻:287~292頁;Byrne GWら、Xenotransplantation、2014年;21巻:543~554頁を参照。
【0230】
そのゲノムが内因性β4GALNT2の発現を欠くかまたはそれが低減したブタを生成するために、任意の適する方法を使用することができる。内因性ブタβ4GALNT2核酸配列中の多くの部位に、混乱を配置することができる。混乱の例には、天然の遺伝子配列中の欠失、および天然の遺伝子配列中への異種核酸配列の挿入が含まれるがこれらに限定されない。挿入の例には、終止コドンに連結した人工スプライスアクセプター、またはGFPなどの融合パートナーに連結したスプライスドナーを含めることができるがこれらに限定されない。ノックアウト構築物は、内因性β4GALNT2核酸配列に、または内因性β4GALNT2核酸配列に隣接している配列に相同性である配列を含有することができる。一部の場合には、ノックアウト構築物は、調節配列(例えば、プロモーター)に作動可能に連結した選択マーカー(例えば、抗生物質耐性、蛍光性レポーター(例えば、GFPまたはYFP)、または酵素(例えば、β-ガラクトシダーゼ))をコードする核酸配列を含有することができる。ノックアウト構築物は、他の核酸配列、例えば、組換え配列(例えば、loxP配列、Sendaiら、Transplantation、81巻(5号):760~766頁(2006年)を参照)、スプライスアクセプター配列、スプライスドナー配列、転写開始配列および転写終止配列を含むことができる。内因性β4GALNT2核酸配列における混乱は、遺伝子の発現の低減、またはコードされるポリペプチドの非機能的トランケーションもしくは融合をもたらすことができる。
【0231】
一実施形態では、本発明は、低減されたβ4GALNT2を発現するかまたは全く発現しないトランスジェニック動物(例えば、ブタ動物)を提供する。任意選択で、動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0232】
例示的な実施形態では、本発明は、少なくとも2つのプロモーターの制御下で少なくとも4つの導入遺伝子を組み込み、発現するトランスジェニック動物(例えば、ブタ動物)を提供し、ここで、動物は、β4GALNT2の発現を欠くかまたは低減した発現を有する。任意選択で、動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0233】
一実施形態では、本発明は、ブタβ4GALNT2によって生産される低減されたSdaもしくはSDa様グリカンを発現するかまたは全く発現しないトランスジェニック動物(例えば、ブタ動物)を提供する。任意選択で、動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0234】
例示的な実施形態では、本発明は、少なくとも2つのプロモーターの制御下で少なくとも4つの導入遺伝子を組み込み、発現するトランスジェニック動物(例えば、ブタ動物)を提供し、動物は、ブタβ4GALNT2から生産されるSdaもしくはSDa様グリカンの発現を欠くかまたは低減した発現を有する。任意選択で、動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
3.CMAH
【0235】
一実施形態では、本発明は、異種移植のための器官、組織および細胞の供与源として使用するのに適するトランスジェニック動物を提供し、ここで、ドナー動物はシチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸ヒドロキシラーゼ(CMAH)の発現を欠くかまたは発現が低減している。CMAHの発現を欠く(CMAHヌル)トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を有する。これらの遺伝子改変は、例えば、導入遺伝子の組み込みまたは発現であってよい。特定の実施形態では、トランスジェニック動物は、(i)アルファGalの発現の欠如;ならびに(ii)単一の遺伝子座における少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす少なくとも4つのさらなる遺伝子改変を有する。
【0236】
ブタの細胞はシチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸ヒドロキシラーゼ(CMAH)を発現し、それはヒト細胞において見出されない。CMAHは、シアル酸N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)をN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に変換する。したがって、ブタの組織がヒトに移植されるとき、このエピトープは移植直後にヒト患者から抗体媒介拒絶反応を導き出す。Varki A.、Am J Phys Anthropol、2001年;(増補33):54~69頁;Zhu A.、Xenotransplantation、2002年;9巻:376~381頁;Miwa Y.、Xenotransplantation、2004年;11巻:247~253頁;Tahara H.、J Immunol、2010年;184巻:3269~3275頁を参照。
【0237】
そのゲノムが内因性CMAHの発現を欠くかまたはそれが低減したブタを生成するために、任意の適する方法を使用することができる。内因性ブタCMAH核酸配列中の多くの部位に、混乱を配置することができる。混乱の例には、天然の遺伝子配列中の欠失、および天然の遺伝子配列中への異種核酸配列の挿入が含まれるがこれらに限定されない。挿入の例には、終止コドンに連結した人工スプライスアクセプター、またはGFPなどの融合パートナーに連結したスプライスドナーを含めることができるがこれらに限定されない。ノックアウト構築物は、内因性CMAH核酸配列に、または内因性CMAH核酸配列に隣接している配列に相同性である配列を含有することができる。一部の場合には、ノックアウト構築物は、調節配列(例えば、プロモーター)に作動可能に連結した選択マーカー(例えば、抗生物質耐性、蛍光性レポーター(例えば、GFPまたはYFP)、または酵素(例えば、β-ガラクトシダーゼ))をコードする核酸配列を含有することができる。ノックアウト構築物は、他の核酸配列、例えば、組換え配列(例えば、loxP配列、Sendaiら、Transplantation、81巻(5号):760~766頁(2006年)を参照)、スプライスアクセプター配列、スプライスドナー配列、転写開始配列および転写終止配列を含むことができる。内因性CMAH核酸配列における混乱は、遺伝子の発現の低減、またはコードされるポリペプチドの非機能的トランケーションもしくは融合をもたらすことができる。
【0238】
一実施形態では、本発明は、低減されたCMAHグリコシルトランスフェラーゼを発現するかまたは全く発現しないトランスジェニック動物(例えば、ブタ動物)を提供する。任意選択で、動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0239】
例示的な実施形態では、本発明は、少なくとも2つのプロモーターの制御下で少なくとも4つの導入遺伝子を組み込み、発現するトランスジェニック動物(例えば、ブタ動物)を提供し、ここで、動物は、CMAHの発現を欠くかまたは低減した発現を有する。任意選択で、動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
4.vWF
【0240】
フォンビルブラント因子(vWF)遺伝子は、複数のドメインを有し、多量体の糖タンパク質をコードする、大きな複合遺伝子である。(Ulrichts,H、Udvardy M、Lenting PJ、Pareyn Iら、Shielding of the A1 domain by the D'D3 domains of von Willebrand Factor Modulates Its interaction with Platelet Glycoprotein 1b-IX-V.(2006年)JBC、281巻、4699~4707頁;Zhou Y-F、Eng ET、Zhu J、Lu Cら、Sequence and structure relationships within von Willebrand factor.(2012年)Blood、120巻、449~458頁)。多量体の糖タンパク質フォンビルブラント因子(vWF)の主要な機能は、結合組織および内皮下層への血小板粘着ならびに血小板糖タンパク質Ib(GPIb)に結合するvWFに対応した血小板凝集である。しかし、レシピエントの血小板凝集が提供された器官の生存に有害な作用を有するとき、この現象は異種移植の間より不利である。例として、ヒトまたは非ヒト霊長類へのブタの肺(および他の器官)の移植は、ヒト血小板の自発的な凝集および隔離をもたらす。これは、ヒト血小板へのブタvWFのこの自発的な結合を排除する努力における、ブタVWF遺伝子の「ヒト化」によって回避することができる。
【0241】
一般に、ブタvWF遺伝子へのヒト化または改変は、ヒト血小板の自発的凝集に関連した遺伝子配列(複数可)の欠失および自発的凝集を生成しないヒト遺伝子対応物との交換を必要とする。これは、ヒトvWF遺伝子の全部または一部との交換を伴うブタvWF遺伝子の全部または一部の欠失を含むことができる。
【0242】
自発的な血小板凝集応答の排除を目的とするブタvWFの改変は、hvWFのGP1b結合部位(D3ドメイン)の折畳みおよび隔離と関連することが知られている、D3(部分的)、A1、A2、A3(部分的)ドメインの中の領域、ならびにGP1b受容体(A1ドメイン)およびADAMTS13切断部位(A2ドメイン)に関連した領域を含むことができる。エクソン22~28は、これらの領域を包含する。ヒト血小板は、正常なストレス力の下のブタ血液の存在下で、自発的に凝集する。異種移植の成功のためにこの潜在的脅威を回避するために、およびヒトvWFは血液において正常な剪断応力の条件下で自発的血小板凝集を誘導しないので、vWFタンパク質の折畳みに関連したヒトvWF遺伝子の領域ならびにGPib結合、コラーゲン結合(2つの領域のうちの1つ)およびADAMTS13切断と関連した領域は、ブタvWF遺伝子(および、結果として生じるキメラヒト/ブタタンパク質)におけるゲノムホモログの交換のために利用することができるかもしれない。この方法で、vWF上のGP1b結合部位ならびにAドメイン中のヒト化受容体部位を隠すかまたはマスキングすることができる代わりの折畳みを、ヒトvWF遺伝子からの単一のcDNAまたはゲノム断片と提供することができるかもしれない。これは、そのような機構が遺伝子編集方法を利用して強化される場合を含めて、相同組換えまたは遺伝子ターゲティングを通して達成することができるかもしれない。(例えば、ブタvWF遺伝子座にヒトvWF断片を組み入れるために、CRISPR支援相同組換えを使用することができる。このヒト断片は、上で言及した自発的血小板凝集と結びつけられる領域を交換し、ヒトvWF遺伝子からのcDNAまたはゲノム断片の形であってもよい)。
【0243】
例示的な実施形態では、関連するヒトvWF遺伝子配列の挿入は、ゲノム編集のために使用される任意の現在の方法、例えば、これらに限定されないが、CRISPR/CAS9、TALENヌクレアーゼによって実行することができる。ブタvWFの改変は、ブタvWF遺伝子の関連する領域だけを交換することによって、または、代わりに全体のpvWF遺伝子をhvWFと交換することによって実行することができる。
【0244】
一実施形態では、ブタvWF遺伝子の領域を、ヒト対応物(E22~E28領域)と交換することができる。あるいは、トランスジェニック動物は、vWF遺伝子の完全なノックアウト、および部位特異的組換え系(すなわち、CRE-LOX組換え系および/またはブタvWFゲノム配列中のヌクレオチドをヒト対応物と交換する特異的核酸塩基対変更によって)を使用してヒトvWVF遺伝子の遺伝子合成配列の完全な交換を有することができる。
【0245】
一実施形態では、本発明は、アルファGalの発現ならびにブタvWF遺伝子への遺伝子改変を欠くトランスジェニック動物(例えば、ブタのトランスジェニック動物)である。改変は、例えば、ブタvWF遺伝子のノックアウトおよびヒト化またはキメラのvWF遺伝子との交換であってよい。トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含有することができる。一実施形態では、トランスジェニック動物は、CD46の組み込みおよび発現をさらに含む。
【0246】
トランスジェニック動物は、1つまたは複数の遺伝子改変を含有する第2のトランスジェニック動物に交配することもできる。例えば、発明は、アルファGalの発現ならびにブタvWF遺伝子への遺伝子改変を欠くトランスジェニック動物(例えば、ブタのトランスジェニック動物)であり、それは、単一の遺伝子座に少なくとも4つの導入遺伝子、または単一の遺伝子座に少なくとも4つの導入遺伝子および第2の遺伝子座に少なくとも2つの導入遺伝子を含有し、それによって複数の遺伝子改変を含有する動物を提供する第2のトランスジェニック動物に交配することができる。
【0247】
一実施形態では、本発明は、アルファGalの発現、ならびにブタvWF遺伝子への遺伝子改変(例えば、キメラヒト-ブタのvWF)、および少なくとも2つのプロモーターの制御下の単一の遺伝子座における少なくとも4つの遺伝子改変を欠く、トランスジェニック動物(例えば、ブタのトランスジェニック動物)である。遺伝子座は異なってもよい。例示的な実施形態では、遺伝子座は、天然の遺伝子座または改変された天然の遺伝子座である。遺伝子座は、例えば、AAVS1、ROSA26、CMAH、β4GalNT2およびGGTA1であってよい。少なくとも4つの導入遺伝子は、相同組換えまたは遺伝子編集ツールによって組み込むことができる。
5.導入遺伝子
【0248】
本発明のトランスジェニック動物のゲノムに導入される導入遺伝子は、任意の適する導入遺伝子であってよい。
(i)免疫調節因子
【0249】
一実施形態では、導入遺伝子は免疫調節因子である。例示的な実施形態では、ドナー動物が遺伝子改変されて、その結果(i)アルファGalの発現を欠いているかまたは低減し、および(ii)単一の遺伝子座において少なくとも4つの導入遺伝子が組み込まれて発現され、少なくとも2つの導入遺伝子のうちの少なくとも1つが免疫調節因子である。
【0250】
免疫調節因子は、任意の適する免疫調節因子であってよい。例示的な実施形態では、免疫調節因子は補体調節因子(例えば、補体阻害因子)または免疫抑制因子である。
A.補体調節因子
【0251】
一実施形態では、本発明は、異種移植のための器官、組織および細胞の供与源として使用するのに適するトランスジェニック動物(例えば、ブタ動物)を提供し、ドナー動物は、少なくとも1つの補体調節因子、例えば補体阻害因子を組み込み、発現するように遺伝子改変されている。例示的な実施形態では、ドナー動物が遺伝子改変されて、その結果(i)アルファGalの発現を欠いているかまたは低減し、および(ii)単一の遺伝子座において少なくとも4つの導入遺伝子が組み込まれて発現され、導入遺伝子のうちの少なくとも1つは、補体調節因子、またはより具体的には補体阻害因子である。
【0252】
補体は一連の血液タンパク質の総称であり、免疫系の主要なエフェクター機構である。補体の活性化およびターゲット構造へのその堆積は、直接的補体媒介細胞溶解につながり得るか、または、炎症の強力なモジュレータの生成ならびに免疫エフェクター細胞の動員および活性化により細胞もしくは組織の破壊に間接的につながり得る。組織傷害を媒介する補体活性化生成物は、補体経路中の様々な時点で生成される。宿主組織の上の不適当な補体活性化は、多くの自己免疫性および炎症性疾患の病状において重要な役割を演じ、また、例えば心肺炎症および移植拒絶反応後の生体不適合性に関連した多くの疾患状態の原因でもある。宿主細胞膜の上の補体堆積は、細胞表面で発現される補体阻害性タンパク質によって阻止される。
【0253】
補体系は約30タンパク質の集合を含み、免疫系の主要なエフェクター機構の1つである。補体カスケードは、主に古典的な(通常、抗体依存性の)または代わりの(通常、抗体非依存性の)経路を通して活性化される。いずれの経路を経た活性化も、カスケードの中心的酵素複合体であるC3コンベルターゼの生成につながる。C3コンベルターゼは血清C3をC3aおよびC3bに切断し、その後者は活性化部位に共有結合し、C3コンベルターゼのさらなる生成につながる(増幅ループ)。活性化生成物C3b(さらに、古典経路だけを通して生成されるC4b)およびその分解生成物は重要なオプソニンであり、ターゲット細胞の(食細胞およびNK細胞による)細胞媒介溶解ならびに免疫複合体の輸送および可溶化の促進に関与する。C3/C4活性化生成物および免疫系の様々な細胞の上のそれらの受容体も、細胞性免疫応答をモジュレートすることにおいて重要である。C3コンベルターゼは、C5を切断してC5aおよびC5bを与える複合体C5コンベルターゼの形成に参加する。C5aは強力な炎症誘発性および走化特性を有し、免疫エフェクター細胞を動員および活性化することができる。C5bの形成は末端補体経路を開始し、補体タンパク質C6、C7、C8および(C9)nの連続したアセンブリをもたらし、膜攻撃複合体(MACまたはC5b-9)を形成する。ターゲット細胞膜におけるMACの形成は、直接的細胞溶解をもたらすことができるが、細胞活性化および様々な炎症性モジュレータの発現/放出を引き起こすこともできる。
【0254】
膜補体阻害因子の2つの広いクラスがある:補体活性化経路の阻害因子(C3コンベルターゼ形成を阻害する)および末端補体経路の阻害因子(MAC形成を阻害する)。補体活性化の膜阻害因子には、補体受容体1(CR1)、崩壊促進因子(DAFまたはCD55)および膜補因子タンパク質(MCPまたはCD46)が含まれる。それらの全ては、C3/C4結合タンパク質の共通する特徴である、ショートコンセンサスリピート(SCR)と命名された約60~70アミノ酸の反復単位の様々な数からなるタンパク質構造を有する。ヒト補体活性化阻害因子の齧歯類相同体が同定されている。齧歯類のタンパク質Cr1は、DAFおよびMCPの両方に類似して機能する、広く分布する補体活性化阻害因子である。齧歯類はDAFおよびMCPも発現するが、Cr1は齧歯類において機能的に補体活性化の最も重要な調節因子であるようである。ヒトで見出されるCr1の相同体はないが、Cr1および動物モデルにおけるその使用の研究は、臨床的に重要である。
【0255】
宿主細胞膜における末端補体経路およびMAC形成の制御は、グルコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)アンカーによって原形質膜に付着する広く分布する20kD糖タンパク質CD59の活性を通して主に起こる。CD59は集合するMACの中のC8およびC9に結合して、膜挿入を阻止する。
【0256】
宿主細胞は、DAF、MCPおよびCD59のような膜結合補体調節タンパク質によって、それ自身の補体から保護される。器官が別の種に移植されるとき、レシピエントの天然の抗体はドナー器官の内皮に結合して補体を活性化し、それによって急速な拒絶反応を開始する。ヒト細胞と対照的に、ブタの細胞はヒト補体に非常に感受性であることが以前に示唆され、この理由は、ブタ細胞表面の補体調節タンパク質がヒト補体に対して効果がないからであると考えられた。器官が別の種に移植されるとき、レシピエントの天然の抗体はドナー器官の内皮に結合して補体を活性化し、それによって急速な拒絶反応を開始する。sCR1、ヘパリンまたはC1阻害因子を使用した、IgM天然抗体の除去および全身性補体除去または補体の阻害を含め、いくつかの戦略が拒絶反応を予防するかまたは遅延させることが示された。
【0257】
拒絶反応の問題に対する代わりのアプローチは、トランスジェニックブタにおいてヒトの膜結合補体調節分子を発現させることである。崩壊促進因子DAF(CD55)、膜補因子タンパク質MCP(CD46)および反応性溶解の膜阻害因子MIRL(CD59)を発現するトランスジェニックブタを生成した。(Klymiumら、Mol Reprod Dev(2010年)77巻:209~221頁を参照)。これらのヒト阻害因子は、ブタの血管内皮で豊富に発現されることが示された。ヒト血液による対照動物からの心臓のex vivo灌流は、数分で器官の補体媒介破壊を引き起こしたが、トランスジェニック動物から得られた心臓は補体に不応性で、何時間も生存した。
【0258】
上で概説されるように、それらを「ヒト化する」ためにブタ器官においてヒト補体調節タンパク質を発現させる理論的根拠は、内因性ブタ調節タンパク質がヒト補体を阻害することにおいて非効率であり、したがって、異種移植との関連で器官生存にほとんど寄与しないという仮定に基づく。(Cantarovichら、Xenotransplantation、9巻:25頁、2002年;Kirchhofら、Xenotransplantation、11巻(5号)、396頁、2004年;Tjernbergら、Transplantation、2008年4月27日;85巻(8号):1193~9頁)。さらに、可溶性補体阻害因子は、in vitroで島の補体媒介溶解を予防することができる(Bennetら、Transplantation、69巻(5号):711頁、2000年)。
【0259】
Morganらへの米国特許第7,462,466号は、ヒト補体調節タンパク質(CRP)のいくつかのブタの類似体の単離および特徴付けを記載する。それらがヒトCRP分子を発現したからでなく、それらが機能的CRP分子の大いに増加した量を発現したので、ヒト補体調節タンパク質分子を発現するブタ器官が補体損傷に耐性であることを研究は示した。Morganらは、ブタCRPの増加した発現が、超急性拒絶反応につながる補体損傷からドナー器官を保護することにおいて、ヒト補体調節タンパク質を発現するドナー器官と等しく有効であるかもしれないことを見出した。
【0260】
CD46は、古典的および代替経路の両方を通して活性化される補体媒介攻撃から宿主細胞を保護することができる調節特性を有するタンパク質として特徴付けられた(Barilla-LaBarca, M. L.ら、J. Immunol.168巻、6298~6304頁(2002年))。ヒトCD46(hCD46)は、低レベルの天然のまたは誘導された抗Galまたは抗非Gal抗体によって媒介される炎症および体液性拒絶反応の間、補体溶解からの保護を提供することができる。その結果、より多くの島を移植して、その後拒絶反応からより良く保護することができ、このように、免疫抑制の必要性を低減する。
【0261】
本発明の一実施形態では、機能的アルファGalの発現を欠き(または、アルファGalの発現が低減し)、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3または少なくとも4つもしくはそれより多くの補体阻害因子を組み込んで発現するように遺伝子改変されている、動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供される。補体阻害因子の発現は遍在してもよく、または組織特異的プロモーターの制御下にあってもよい。
【0262】
例示的な実施形態では、補体阻害因子は、膜補体阻害因子である。膜補体阻害因子は、補体活性化経路の阻害因子(C3コンベルターゼ形成を阻害する)または末端補体経路の阻害因子(MAC形成を阻害する)のいずれでもよい。補体活性化の膜阻害因子には、補体受容体1(CR1)、崩壊促進因子(DAFまたはCD55)、膜補因子タンパク質(MCPまたはCD46)などが含まれる。末端補体経路の膜阻害因子には、CD59などが含まれてよい。
【0263】
例示的な実施形態では、本発明は、(i)アルファGalの発現の欠如;ならびに(ii)少なくとも2つのプロモーターの制御下の単一の遺伝子座における少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含み、少なくとも2つの導入遺伝子のうちの少なくとも1つは補体調節因子、より具体的には補体阻害因子、さらにより具体的には膜補体阻害因子である、トランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座から選択することができる。例示的な実施形態では、少なくとも4つの導入遺伝子はMCVとして提供され、組み入れはランダム組み入れであってよいか、または遺伝子ターゲティングツールによって促進される。任意選択で、トランスジェニック動物は、天然ブタvWF、B4GalNT2、CMAHまたはフォルスマン遺伝子の改変を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0264】
例示的な実施形態では、少なくとも4つの導入遺伝子を含む動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供され、ここで、4つの導入遺伝子は少なくとも2つのプロモーターの制御下で単一の遺伝子座に組み込まれて発現され、ブタは、アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠き、少なくとも4つの導入遺伝子は少なくとも1つの補体調節因子、より具体的には少なくとも1つの補体阻害因子を含む。さらなる導入遺伝子は、例えば、免疫抑制因子、細胞保護的遺伝子またはそれらの組合せであってよい。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座から選択することができる。例示的な実施形態では、少なくとも4つの導入遺伝子はMCVとして提供され、組み入れはランダムであるか、または遺伝子ターゲティングツールによって促進される。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0265】
例示的な実施形態では、機能的アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減し)、少なくとも4つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されている動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供され、少なくとも4つのさらなる導入遺伝子のうちの少なくとも2つのうちの少なくとも1つは、補体阻害因子、より詳細には少なくとも2つの膜補体阻害因子である。
【0266】
例示的な実施形態では、機能的アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減し)、(i)少なくとも2つの補体阻害因子、より詳細には少なくとも2つの膜補体阻害因子を組み込み、発現するように、および(ii)抗凝固因子、免疫抑制因子、細胞保護的遺伝子またはそれらの組合せから選択される少なくとも2つのさらなる導入遺伝子を組み込み、発現するように遺伝子改変されている動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供される。
【0267】
一実施形態では、機能的アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減し)、(i)CD46およびCD55を組み込んで発現するように、ならびに(i)少なくとも2つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されている動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供される。ある特定の実施形態では、さらなる導入遺伝子は、抗凝固因子、免疫抑制因子、細胞保護的遺伝子またはそれらの組合せから選択される。
【0268】
特定の実施形態では、機能的アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減し)、少なくとも2つのプロモーターの制御下に少なくとも4つの導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されている動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供され、ここで、導入遺伝子のうちの少なくとも1つはCD46であり、発現は内因性プロモーターによって制御される。
【0269】
別の実施形態では、機能的アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減し)、(i)CD46およびCD55を組み込んで発現するように、ならびに(i)少なくとも3つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されている動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供される。ある特定の実施形態では、さらなる導入遺伝子は、抗凝固因子、免疫抑制因子、細胞保護的遺伝子またはそれらの組合せから選択される。例示的な実施形態では、少なくとも3つのさらなる導入遺伝子は、少なくとも2つの抗凝固因子を含む。例示的な実施形態では、少なくとも3つのさらなる導入遺伝子は、少なくとも2つの抗凝固因子および免疫抑制因子を含む。
【0270】
別の実施形態では、機能的アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減し)、(i)CD46およびCD55を組み込んで発現するように、ならびに(i)少なくとも4つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されている動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供される。ある特定の実施形態では、さらなる導入遺伝子は、抗凝固因子、免疫抑制因子、細胞保護的遺伝子またはそれらの組合せから選択される。例示的な実施形態では、少なくとも4つのさらなる導入遺伝子は、少なくとも2つの抗凝固因子を含む。例示的な実施形態では、少なくとも4つのさらなる導入遺伝子は、少なくとも2つの抗凝固因子および免疫抑制因子を含む。例示的な実施形態では、少なくとも4つのさらなる導入遺伝子は、少なくとも3つの抗凝固因子を含む。
【0271】
別の実施形態では、機能的アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減し)、(i)CD46およびCD55を組み込んで発現するように、ならびに(i)少なくとも5つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されている動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供される。ある特定の実施形態では、さらなる導入遺伝子は、抗凝固因子、免疫抑制因子、細胞保護的遺伝子またはそれらの組合せから選択される。例示的な実施形態では、少なくとも5つのさらなる導入遺伝子は、少なくとも2つの抗凝固因子および少なくとも1つの免疫抑制因子を含む。例示的な実施形態では、少なくとも5つのさらなる導入遺伝子は、少なくとも3つの抗凝固因子および少なくとも1つの免疫抑制因子を含む。例示的な実施形態では、少なくとも5つのさらなる導入遺伝子は、少なくとも2つの抗凝固因子および少なくとも2つの免疫抑制因子を含む。一実施形態では、動物は、補体調節因子ペプチド、生物学的に活性なその断片または誘導体を発現するように改変することができる。一実施形態では、補体調節因子ペプチドは、完全長補体調節因子である。さらなる実施形態では、補体調節因子ペプチドは、完全長未満の補体調節タンパク質を含有することができる。
【0272】
当業者に公知である任意のヒトもしくはブタの補体調節因子配列、または生物学的に活性なその部分もしくは断片は、本発明の組成物および方法によることができる。さらなる実施形態では、任意のコンセンサス補体調節因子ペプチドを、本発明により使用することができる。別の実施形態では、核酸および/またはペプチド配列は、本明細書に記載される補体調節因子ペプチドおよびヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%または95%相同である。さらなる実施形態では、補体調節因子と類似の活性を示す任意の断片または相同配列を使用することができる。
【0273】
任意選択で、少なくとも4つの導入遺伝子の中の少なくとも1つの補体調節因子(例えば、補体阻害因子)を発現し、アルファ1,3galの発現を欠く動物は、少なくとも1つのさらなる遺伝子改変を有する。
B.免疫抑制因子
【0274】
一実施形態では、本発明は、異種移植のための器官、組織および細胞の供与源として使用するのに適するトランスジェニック動物を提供し、ドナー動物は、少なくとも1つの免疫抑制因子を組み込み、発現するように遺伝子改変されている。トランスジェニック動物は、一般的に1つまたは複数のさらなる遺伝子改変、より詳細には5つまたはそれより多くのさらなる遺伝子改変、さらにより詳細には6つまたはそれより多くのさらなる遺伝子改変を有する。
【0275】
「免疫抑制」導入遺伝子は、免疫応答を下方制御することが可能である。任意のタイプの移植処置のために、効能と毒性の間の平衡は、その臨床上の受容のための鍵因子である。島移植に関して、さらなる懸念は、現在の免疫抑制剤、特に糖質コルチコイドまたはカルシニューリン阻害因子、例えばタクロリムス(Tarcolimus)の多くがベータ細胞に損傷を与えるかまたは末梢インスリン抵抗性を誘導するということである(Zengら、Surgery(1993年)113巻:98~102頁)。シロリムス、低用量タルコリムスおよびIL-2受容体に対するモノクローナル抗体(mAb)を含む無ステロイド免疫抑制プロトコール(「エドモントンプロトコール」)が、1型糖尿病患者のための島移植単独の治験で使用された(Shapiro, A. M. J.ら、(2000年)、N. Eng. J. Med.、343巻:230~238頁)。「エドモントンプロトコール」を使用した最近の成功は、糖尿病を処置するための島移植の使用に対する熱意を新たにした。しかし、タクロリムスの毒性に関する懸念は、この療法のヒトでの応用を制限するかもしれない。
【0276】
鍵となるT細胞共刺激シグナル、特にCD28経路を遮断する生物学的薬剤は、島を保護する潜在的代替物である。CD28経路を遮断する薬剤の例には、突然変異体CTLA4分子を含む可溶性CTLA4が含まれるがこれに限定されない。
【0277】
T細胞活性化は、移植拒絶反応の病因に関与する。T細胞の活性化は、少なくとも2セットのシグナル伝達事象を必要とする。第1は、抗原提示細胞(APC5)の上の主要組織適合性複合体(MHC)分子と組み合わせた、抗原性ペプチドのT細胞受容体を通した特異的認識によって開始される。第2のセットのシグナルは抗原非特異的であり、APC上のそれらのリガンドと相互作用するT細胞共刺激受容体によって送達される。共刺激の不在下では、T細胞活性化は損なわれるかまたは中断され、そのことは、クローンアネルギーの抗原特異的不応性状態、またはアポトーシス死による欠失をもたらすことができる。したがって、T細胞共刺激の遮断は、正常な免疫機能を維持しながら、望ましくない免疫応答を抗原特異的に抑制するためのアプローチを提供することができる。(Dumont, F. J.、2004年、Therapy、1巻、289~304頁)。
【0278】
現在までに同定されたいくつかのT細胞共刺激経路のうち、最も顕著なものはCD28経路である。T細胞の上で発現される細胞表面分子CD28ならびに樹状細胞、マクロファージおよびB細胞の上に存在するそのカウンター受容体B7.1(CD8O)およびB7.2(CD86)分子が特徴付けられ、T細胞共刺激シグナルを妨害するための魅力的なターゲットとして同定された。CD28に相同性の第2のT細胞表面分子は、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質(CTLA4)として知られる。CTLA4は細胞表面シグナル伝達分子であるが、CD28の作用に反して、CTLA4はT細胞機能を負に調節する。CTLA4は、B7リガンドに対してCD28より20倍高い親和性を有する。ヒトCTLA4の遺伝子を1988年にクローニングし、1990年に染色体的にマッピングした(Dariavachら、Eur. J. Immunol.18巻:1901~1905頁(1988年);Lafage-Pochitaloffら、Immunogenetics、31巻:198~201頁(1990年);米国特許第5,977,318号)。
【0279】
CD28/B7経路は、T細胞共刺激シグナルを妨害するための魅力的なターゲットになっている。CD28/B7阻害因子の設計は、この系CTLA4の内因性の負の調節因子を活用した。CTLA4-免疫グロブリン(CTLA4-Ig)融合タンパク質が、T細胞共刺激を阻害する手段として広く研究されてきた。任意の免疫抑制療法で困難な平衡に到達しなければならない;疾患または拒絶反応を克服するのに十分な抑制を提供しなければならないが、過剰な免疫抑制は全体の免疫系を阻害する。器官移植および自己免疫性疾患の動物モデルの前臨床研究において、CTLA4-Igの免疫抑制活性が実証された。可溶性CTLA4は、腎不全、乾癬および慢性関節リウマチのヒト患者において最近試験され、慢性関節リウマチの処置のために承認された、Bristol-Myers Squibb(アバタセプト、可溶性CTLA4-Ig)によって開発された薬物として製剤化された。この薬物は、選択的T細胞共刺激モジュレータの新しいクラスにおける最初のものである。Bristol-Myers Squibbは、同種異系移植腎臓移植のためにベラタセプト(LEA29Y)によるフェーズII臨床治験も実行している。LEA29YはCTLA4の突然変異形であり、それは、免疫グロブリンに融合したB7受容体に対して野生型CTLA4より高い親和性を有するように工学操作されている。Repligen Corporationは、特発性血小板減少性紫斑病のためにそのCTLA4-Igによる臨床治験も実行している。「Methods for protecting allogeneic islet transplant using soluble CTLA4 mutant molecules」と題された米国特許第5,730,403号は、同種異系島移植片を保護するための可溶性CTLA4-IgおよびCTLA4突然変異体分子の使用を記載する。
【0280】
1つの生物体からのCTLA-4は別の生物体からのB7に結合することができるが、最も高い結合力は同種異系B7で見出される。したがって、ドナー生物体からの可溶性CTLA-4はしたがってレシピエントB7(正常細胞の上)およびドナーB7(異種移植細胞の上)の両方に結合することができるが、それは異種移植片の上のB7に優先的に結合する。したがって、異種移植のためのブタ動物または細胞を含む本発明の実施形態では、ブタのCTLA4が一般的である。Imperial CollegeによるPCT公開第WO99/57266号は、ブタのCTLA4配列および異種移植療法のための可溶性CTLA4-Igの投与を記載する。Vaughn A.ら、J Immunol(2000年)3175~3181頁は、可溶性ブタCTLA4-Igの結合および機能を記載する。ブタCTLA4-Igは、ブタ(ヒトではなく)のB7に結合して、レシピエントT細胞の上でCD28を遮断し、広域のT細胞免疫抑制を引き起こすことなくこれらの局所のT細胞をアネルギー性にする(Mirendaら、Diabetes、54巻:1048~1055頁、2005年を参照)。
【0281】
免疫抑制剤としてのCTLA4-Igの研究の多くは、CTLA4-Igの可溶形を患者に投与することに重点を置いた。CTLA4-Igを発現するように工学操作されたトランスジェニックマウスを作製し、いくつかの系列の実験にかけた。Roncheseらは、一般的にマウスにおけるCTLA4の発現の後の免疫系機能を調べた(Roncheseら、J Exp Med(1994年)179巻:809頁;Laneら、J Exp Med.(1994年)3月1日;179巻(3号):819頁)。Sutherlandら(Transplantation.2000年69巻(9号):1806~12頁)は、同種異系島移植に及ぼすトランスジェニック的に発現されるCTLA4-Igの効果を試験するためにマウスにおけるトランスジェニック胎児膵臓同種異系移植片によって分泌されるCTLA4-Igの保護効果を記載した。Luiら(J Immunol Methods2003年277巻:171~183頁)は、バイオリアクターとして使用するためのトランスジェニック動物のミルクにおいて可溶性CTLA4-Igの発現を誘導するために、乳房特異的プロモーターの制御下でCTLA4-Igを発現したトランスジェニックマウスの生産を報告した。
【0282】
Alexion Phamaceuticals Inc.によるPCT公開第WO01/30966号は、補体タンパク質CD59に付着したT細胞阻害因子CTLA-4を含有するキメラDNA構築物、ならびにそれを含有するトランスジェニックブタの細胞、組織および器官を記載する。PCT公開第WO2007035213号(Revivicor)は、CTLA4-Igを発現するように遺伝子改変されたトランスジェニックブタ動物を記載する。
【0283】
さらなる免疫抑制因子を、動物、組織または細胞で発現させることができる。例えば、免疫不全表現型を生産するためにマウスにおいて不活性化された遺伝子は、ブタにおいて遺伝子ターゲティングによってクローニングし、破壊することができる。マウスにおいてターゲティングされ、免疫不全ブタを生産するためにターゲティングされ得る一部の遺伝子には、ベータ2-ミクログロブリン(MHCクラスI欠乏、Kollerら、Science、248巻:1227~1230頁)、TCRアルファ、TCRベータ(Mombaertsら、Nature、360巻:225~231頁)、RAG-1およびRAG-2(Mombaertsら、(1992年)Cell68巻、869~877頁、Shinkaiら、(1992年)Cell68巻、855~867頁、米国特許第5,859,307号)が含まれる。
【0284】
一実施形態では、ドナー動物は、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4-免疫グロブリン(CTLA4)をトランスジェニック的に発現するように改変される。動物または細胞は、CTLA4ペプチドまたは生物学的に活性なその断片(例えば、細胞外ドメイン、少なくとも膜貫通ドメインが除去されたペプチドのトランケーション型)もしくは誘導体を発現するように改変することができる。ペプチドは、例えば、ヒトまたはブタであってよい。CTLA4ペプチドは、突然変異させられてもよい。突然変異したペプチドは、ブタおよび/またはヒトのB7分子に対して野生型より高い親和性を有することができる。1つの具体的な実施形態では、突然変異したCTLA4は、CTLA4(Glu104、Tyr29)であってよい。CTLA4ペプチドは、細胞内で発現されるように改変することができる。CTLA4ペプチドの他の改変には、NまたはC末端への小胞体保持シグナルの付加が含まれる。小胞体保持シグナルは、例えば、配列KDELであってよい。CTLA4ペプチドは、ペプチド二量体化ドメインまたは免疫グロブリン(Ig)分子に融合させることができる。CTLA4融合ペプチドは、2つのペプチドを連結することができるリンカー配列を含むことができる。別の実施形態では、本発明により生産される、機能的免疫グロブリンの発現を欠く動物は、CTLA4ペプチドまたはその変異体(pCTLA4-IgまたはhCTLA4-Ig(アバタセプト/Orenciaまたはベラタセプト))を、それらのT細胞応答を抑制する薬物として投与することができる。本明細書で使用する場合、CTLA4は、これらの変異体または当技術分野で公知のもの、例えばCTLA4-Igのいずれかを指すために使用される。
【0285】
一実施形態では、CTLA4ペプチドは、完全長CTLA4である。さらなる実施形態では、CTLA4ペプチドは、完全長未満のCTLA4タンパク質を含有することができる。一実施形態では、CTLA4ペプチドは、CTLA-4ペプチドの細胞外ドメインを含有することができる。特定の実施形態では、CTLA4ペプチドは、CTLA4の細胞外ドメインである。さらなる実施形態では、本発明は、CTLA4の突然変異形を提供する。一実施形態では、CTLA4の突然変異形は、ブタおよび/またはヒトのB7に対して野生型より高い親和性を有することができる。1つの具体的な実施形態では、突然変異したCTLA4は、ヒトCTLA4(Glu104、Tyr29)であってよい。
【0286】
一実施形態では、CTLA4はCTLA4のトランケーション型であってよく、そこでは、タンパク質の少なくとも膜貫通ドメインは除去されている。別の実施形態では、CTLA4ペプチドは、細胞内で発現されるように改変することができる。一実施形態では、ゴルジ保持シグナルをCTLA4ペプチドのNまたはC末端に加えることができる。一実施形態では、ゴルジ保持シグナルは配列KDELであってよく、それは、CTLA4ペプチドのCまたはN末端に加えることができる。さらなる実施形態では、CTLA4ペプチドは、ペプチド二量体化ドメインに融合させることができる。一実施形態では、CTLA4ペプチドは、免疫グロブリン(Ig)に融合させることができる。別の実施形態では、CTLA4融合ペプチドは、2つのペプチドを連結することができるリンカー配列を含むことができる。
【0287】
当業者に公知である任意のヒトCTLA4配列、または生物学的に活性なその部分もしくは断片は、本発明の組成物および方法によることができる。非限定例には、ヒトCTLA4配列を記載する以下のGenbank受託番号が含まれるがこれらに限定されない:NM005214.2;BC074893.2;BC074842.2;AF414120.1;AF414120;AY402333;AY209009.1;BC070162.1;BC069566.1;L15006.1;AF486806.1;AC010138.6;AJ535718.1;AF225900.1;AF225900;AF411058.1;M37243.1;U90273.1;および/またはAF316875.1。CTLA4ペプチドをコードするさらなるヌクレオチド配列は、ESTデータベースからの以下のGenbank受託番号を含むがこれらに限定されないものから選択することができる:CD639535.1;A1733018.1;BM997840.1;BG536887.1;BG236211.1;BG058720.1;A1860i99.1;AW207094.1;AA210929.1;A1791416.1;BX113243.1;AW515943.1;BE837454.1;AA210902.1;BF329809.1;A1819438.1;BE837501.1;BE837537.1;および/またはAA873138.1。
【0288】
さらなる実施形態では、任意のコンセンサスCTLA4ペプチドを、本発明により使用することができる。別の実施形態では、核酸および/またはペプチド配列は、天然のCTLA4ペプチドおよびヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%または95%相同である。さらなる実施形態では、CTLA4と類似の活性を示す任意の断片または相同配列を使用することができる。
【0289】
他の実施形態では、T細胞阻害活性を示すアミノ酸配列は、ブタCTLA4配列のアミノ酸38~162またはヒトCTLA4配列のアミノ酸38~161であってよい(例えば、PCT公開第WO01/30966号を参照)。一実施形態では、使用される部分は、親分子の活性の少なくとも約25%、好ましくは少なくとも約50%を有するべきである。
【0290】
他の実施形態では、本発明のCTLA4核酸およびペプチドは、免疫グロブリン遺伝子およびその分子または断片または領域に融合することができる。本発明のCTLA4配列への言及は、免疫グロブリンに融合した配列を含む。一実施形態では、IgはヒトIgであってよい。別の実施形態では、IgはIgG、特に、IgG1であってよい。別の実施形態では、IgはIgGの定常領域であってよい。特定の実施形態では、定常領域はIgG1のCγ1鎖であってよい。本発明の特定の一実施形態では、ブタCTLA4の細胞外ドメインは、ヒトCγ1 Igに融合させることができる。別の特定の実施形態では、ヒトCTLA4の細胞外ドメインは、IgG1またはIgG4に融合させることができる。さらなる特定の実施形態では、突然変異CTLA4(Glu104、Tyr29)の細胞外ドメインは、IgG1に融合させることができる。
【0291】
一実施形態では、導入遺伝子の少なくとも1つは、B7xとしても知られるB7-H4である。B7-4Hは2003年に同定され、免疫グロブリンのB7ファミリーに属している。Sica, GL、Immunity、第18巻、849~861頁、2003年6月を参照。
【0292】
一実施形態では、ドナー動物は、クラスIIトランス活性化因子(CIITA)およびその突然変異体PDL1、PDL2、腫瘍壊死因子-α関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)、Fasリガンド(FasL、CD95L)インテグリン関連タンパク質(CD47)、HLA-E、HLA-DP、HLA-DQまたはHLA-DRをトランスジェニック的に発現するように改変されている。
【0293】
クラスIIトランス活性化因子(CIITA)は、転写活性化因子として働き、MHCクラスII遺伝子の発現において重大な役割を演じる、二官能性または多官能性のドメインタンパク質である。アミノ末端の151アミノ酸を欠くタンパク質をコードする、ヒトCIITA遺伝子の突然変異形が、HLAクラスII発現の強力な優性ネガティブサプレッサーとして作用することが以前に実証された(Yunら、Int Immunol.1997年10月;9巻(10号):1545~53頁)。ブタのMHCクラスII抗原はヒトCD4+T細胞による直接的T細胞認識の強力な刺激因子であり、したがって、臨床の異種移植におけるトランスジェニックブタドナーに対する拒絶応答において重要な役割を演じる可能性がある。1つの突然変異ヒトCIITA構築物がブタ細胞において有効であり、IFN[ガンマ]誘導ならびに構成的なブタMHCクラスIIの発現を著しく抑制することが報告された。さらに、突然変異ヒトCIITA構築物を有する、安定してトランスフェクトされたブタ血管内皮細胞系は、精製されたヒトCD4+T細胞による直接的T細胞異種認識を刺激することができなかった(Yunら、Transplantation、2000年3月15日;69巻(5号):940~4頁)。CIITA-DNトランスジェニック動物からの器官、組織および細胞は、ヒトレシピエントにおいて大いに低減されたT細胞拒絶応答を誘導することができた。他の導入遺伝子と組み合わせて、突然変異CIITAのトランスジェニック発現は、臨床的に許容されるレベルの免疫抑制により、長期の異種移植片生存を可能にするかもしれない。
【0294】
一実施形態では、本発明は、(i)アルファGalの発現の欠如;ならびに(ii)単一の遺伝子座における少なくとも2つの導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含み、ここで、少なくとも4つの導入遺伝子は少なくとも1つの免疫抑制因子を含む、トランスジェニック動物(例えば、ブタ)を提供する。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座から選択することができる。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0295】
例示的な実施形態では、本発明は、(i)アルファGalの発現の欠如;ならびに(ii)単一の遺伝子座における少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含み、少なくとも2つの導入遺伝子のうちの少なくとも2つは免疫抑制因子である、トランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座から選択することができる。少なくとも4つの導入遺伝子はMCVとして提供することができ、遺伝子編集ツールを利用して遺伝子座に組み込むことができる。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0296】
例示的な実施形態では、機能的アルファGTアルファGalの発現を欠き(または、発現が低減し)、(i)単一の遺伝子座で少なくとも4つの導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも4つの導入遺伝子は少なくとも1つの免疫抑制因子を含む動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供される。免疫抑制因子は、例えば、CIITA-DNまたはCLTA4-IGであってよい。少なくとも4つの導入遺伝子は、補体阻害因子、抗凝固因子またはそれらの組合せから選択されるさらなる導入遺伝子を含むことができる。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座から選択することができる。少なくとも3つの導入遺伝子はMCVとして提供することができ、遺伝子編集ツールを利用して遺伝子座に組み込むことができる。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0297】
例示的な実施形態では、機能的アルファGTアルファGalの発現を欠き(または、発現が低減し)、(i)単一の遺伝子座で少なくとも4つの導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも4つの導入遺伝子は少なくとも2つの免疫抑制因子を含む動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供される。免疫抑制因子は、例えば、CIITA-DNまたはCLTA4-IGであってよい。少なくとも4つの導入遺伝子は、補体阻害因子、抗凝固因子またはそれらの組合せを含むこともできる。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座から選択することができる。少なくとも3つの導入遺伝子はMCVとして提供することができ、遺伝子編集ツールを利用して遺伝子座に組み込むことができる。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0298】
C.他の免疫調節因子
PDL1、PDL2:T細胞活性化のための一般的な共刺激分子は、CD80/86またはCD40である。過去数年わたるこれらの正の共刺激経路に加えて、負のシグナルを媒介し、T細胞活性化の調節にとって重要である新しい共刺激経路が見出された。これらのより新しい経路の1つは、プログラム死1(PD-1)受容体ならびにそのリガンドPD-L1およびPD-L2からなる経路である。PD-1受容体は静止細胞で発現されないが、TおよびB細胞活性化の後に上方制御される。PD-1は細胞質免疫受容体のチロシンをベースとしたスイッチモチーフを含有し、PD-L1またはPD-L2のPD-1への結合は、T細胞における阻害性シグナルにつながる。PD1/PDリガンド経路が、調節活性を示しているT細胞サブセットの制御において役割を果たすことができることを、最近のデータは示唆する。マウスにおいて、PD-1シグナルは調節T細胞(Treg)の抑制活性および適応性Tregの生成のために必要とされることが示された。これらの観察は、PD-1/PDLigおよび相互作用が、T細胞応答を阻害するだけでなく、免疫調節を引き起こすこともできることを示唆する。いくつかの系列の証拠は、PD-1/PDリガンド経路が同種異系移植片の生着および拒絶反応を制御することができることを実証し、これらの分子が、器官移植の後の免疫調節のための興味深いターゲットであることを暗示する。実際に、ラット移植モデルにおけるドナー心臓へのPDL1 Ig遺伝子移入によって、同種異系移植片生存の延長を得ることができた。さらに、PD-L1 Igの注射によってPD-1シグナル伝達を強化することは、マウスにおける拒絶反応から移植片を保護することも報告されている。最近のデータは、マウスにおける島移植片でのPD-L1 IGの過剰発現が、島移植片生存を部分的に延長することができることも示す。ブタ細胞および組織におけるヒトPD-L1またはPD-L2のトランスジェニック発現は、直接の感作経路を通して開始される初期のヒト抗ブタT細胞応答を低減するはずである(Plegeら、Transplantation、2009年4月15日;87巻(7号):975~82頁)。Tregの誘導によって、長期持続寛容性を達成するために必要とされる間接経路を通して、異種移植片に感作されるT細胞を制御することも可能かもしれない。
【0299】
特定の実施形態では、アルファGalの発現を欠き、少なくとも2つのプロモーターの制御下において少なくとも4つの導入遺伝子を組み込み、発現するトランスジェニック動物は、PDL1またはPDL2の組み込みおよび発現を含む。
【0300】
TRAIL/Fas L:Fasリガンド(FasL、CD95L)または腫瘍壊死因子-α関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL、Apo-2L)などのアポトーシス誘導リガンドの発現は、異種移植片を攻撃するT細胞を排除することができる。TRAILは、FasLに最も高いアミノ酸同一性(28%)を示す他の腫瘍壊死因子ファミリーメンバーのそれに相同的な細胞外ドメインを有するII型膜タンパク質である。TRAILは、腫瘍細胞の上で優先的にそのアポトーシス誘導作用を発揮する。正常な細胞では、TRAIL受容体の結合は、細胞死につながらない。T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージおよび樹状細胞を含む免疫細胞の細胞傷害作用が、TRAILによって少なくとも部分的に媒介されることを、最近の研究は示している。トランスジェニックブタにおけるヒトTRAILの発現は、霊長類への異種移植の後の細胞媒介拒絶反応からブタ組織を保護するための、合理的な戦略を提供することができる。ヒトTRAILの安定した発現がトランスジェニックブタにおいて達成され、発現されたTRAILはin vitroで生物学的に機能的であることが示された(Kloseら、Transplantation、2005年7月27日;80巻(2号):222~30頁)。(d)CD47:インテグリン関連タンパク質として知られるCD47は、シグナル調節タンパク質(SIRP)α(CD172a、SHPS-1としても知られる)、マクロファージ上の免疫阻害性受容体のためのリガンドとしての役目をする、遍在的に発現される50kDaの細胞表面糖タンパク質である。CD47およびSIRPαは、細胞遊走、B細胞接着およびT細胞活性化を含む様々な細胞プロセスにおいて重要な役割を果たす、細胞間通信系(CD47-SIRPα系)を構成する。さらに、CD47-SIRPα系は、マクロファージによる食作用の負の調節に結びつけられている。いくつかの細胞型(すなわち、赤血球、血小板または白血球)の表面のCD47は、阻害性マクロファージ受容体SIRPαに結合することによって、マクロファージによる食作用から保護することができる。自己の認識および食作用の阻害におけるCD47-SIRPα相互作用の役割は、一次の野生型マウスマクロファージはCD47欠損マウスから得られる非オプソニン化RBCを素早く食菌するが、野生型マウスからのそれらはそうではないとの観察によって例示された。そのSIRPα受容体を通して、CD47がFcγおよび補体受容体媒介食作用の両方を阻害することも報告された。ブタCD47はヒトマクロファージ様細胞系においてSIRPαチロシンリン酸化を誘導しないこと、および可溶性ヒトCD47-Fc融合タンパク質はブタ細胞に対するヒトマクロファージの食細胞活性を阻害することが実証された。ヒトCD47の発現のためのブタ細胞の操作が、ヒトマクロファージによる食作用への細胞の感受性を激しく低減することも示された(Ideら、Proc Natl Acad Sci USA、2007年3月20日;104巻(12号):5062~6頁)。ブタ細胞の上でのヒトCD47の発現は、ヒトマクロファージの上のSIRPαに阻害性シグナル伝達を提供することができ、マクロファージ媒介異種移植片拒絶反応を予防するアプローチを提供する。
【0301】
特定の実施形態では、アルファGalの発現を欠き、少なくとも2つのプロモーターの制御下において少なくとも4つの導入遺伝子を組み込み、発現するトランスジェニック動物は、TRAILまたはFas Lの組み込みおよび発現を含む。
【0302】
NK細胞応答。HLA-E/ベータ2ミクログロブリンおよびHLA-DP、HLA-DQ、HLA-DR:ヒトナチュラルキラー(NK)細胞は、ex vivoで、ヒト血液により灌流したブタ器官に浸潤して、in vitroで、ブタ細胞を、直接的に、さらにヒト血清の存在下の両方で抗体依存性細胞媒介細胞傷害性によって溶解することから、ブタからヒトへの異種移植の成功への潜在的障害物の代表である。NK細胞の自己反応性は、正常な自家細胞の上の阻害性NK受容体の主要組織適合性複合体(MHC)クラスIリガンドの発現によって予防される。活性化ヒトNK細胞の大半の上で発現される阻害性受容体CD94/NKG2Aは、ヒト白血球抗原(HLA)-Eに特異的に結合する。非古典的ヒトMHC分子HLA-Eは、CD94/NKG2Aを有するNK細胞のための強力な阻害性リガンドであり、古典的MHC分子と異なって、同種異系T細胞応答を誘導しない。HLA-Eは小胞体に集合し、HLA-E重鎖β2-ミクログロブリン(β2m)およびいくつかのMHCクラス1分子のリーダー配列に由来するペプチドからなる安定した三量体複合体として細胞表面に輸送される。HLA-Eの発現は、異種のヒトNK細胞の細胞毒性からの部分的保護を提供することが示された(Weissら、Transplantation、2009年1月15日;87巻(1号):35~43頁)。ブタ器官上のHLA-Eのトランスジェニック発現は、同種異系応答の危険なしでブタ異種移植片のヒトNK細胞媒介拒絶反応を実質的に緩和する可能性を有する。さらに、他のHLA遺伝子を有するトランスジェニックブタが、ブタの器官、組織および細胞を「ヒト化する」ことを目的として首尾よく生成された(Huangら、Proteomics、2006年11月;6巻(21号):5815~25頁、米国特許第6,639,122号も参照)。
【0303】
特定の実施形態では、アルファGalの発現を欠き、少なくとも2つのプロモーターの制御下において少なくとも4つの導入遺伝子を組み込み、発現するトランスジェニック動物は、HLA-3の組み込みおよび発現を含む。
【0304】
CD47:インテグリン関連タンパク質(IAP)としても知られるCD47(分化抗原群47)は、ヒトにおいてCD47遺伝子によってコードされる膜貫通タンパク質である。CD47は、免疫抑制因子および免疫調節因子の両方であり、SIRPアルファシグナル伝達に免疫寛容原性であることが公知である。
【0305】
例示的な実施形態では、機能的アルファGTアルファGalの発現を欠き(または、発現が低減し)、(i)単一の遺伝子座で少なくとも4つの導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも4つの導入遺伝子の1つはCD47である動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供される。少なくとも4つの導入遺伝子は、補体阻害因子、抗凝固因子またはそれらの組合せから選択されるさらなる導入遺伝子を含むことができる。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座から選択することができる。少なくとも3つの導入遺伝子はMCVとして提供することができ、遺伝子編集ツールを利用して遺伝子座に組み込むことができる。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
【0306】
例示的な実施形態では、機能的アルファGTアルファGalの発現を欠き(または、発現が低減し)、(i)単一の遺伝子座で少なくとも4つの導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも4つの導入遺伝子の1つはCD7である動物(ならびに、それに由来する器官、組織および細胞)が提供される。少なくとも4つの導入遺伝子は、補体阻害因子、抗凝固因子またはそれらの組合せから選択されるさらなる導入遺伝子を含むことができる。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座から選択することができる。少なくとも3つの導入遺伝子はMCVとして提供することができ、遺伝子編集ツールを利用して遺伝子座に組み込むことができる。任意選択で、トランスジェニック動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含む。
(ii)抗凝固因子
【0307】
一実施形態では、本発明は、異種移植のための器官、組織および細胞の供与源として使用するのに適するトランスジェニックドナー動物を提供し、ドナー動物は、少なくとも1つの抗凝固因子を組み込み、発現するように遺伝子改変されている。動物は、一般的にさらなる遺伝子改変、より詳細には少なくとも5つのさらなる遺伝子改変、およびさらにより詳細には少なくとも6つのさらなる遺伝子改変を有する。例示的な実施形態では、本発明は、(i)アルファGalの発現の欠如;ならびに(ii)少なくとも2つのプロモーターの制御下の単一の遺伝子座における少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含み、ここで、少なくとも1つの導入遺伝子は抗凝固因子であるトランスジェニック動物である。
【0308】
抗凝固因子は、任意の適する抗凝固因子であってよい。発現は、遍在性または組織特異的であってよい。特定の実施形態では、発現は、主に内皮において活性であるプロモーターによって制御される。
【0309】
適する抗凝固因子導入遺伝子の代表的な非限定例には、組織因子経路阻害因子、ヒルジン、トロンボモジュリン、内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)、CD39およびそれらの組合せが含まれる。
【0310】
組織因子経路阻害因子(TFPI)は、第Xa因子(Xa)およびトロンビン(第IIa因子)を可逆的に阻害することができ、したがってTF依存性凝固を阻害する単鎖ポリペプチドである。TFPIの総論については、CrawleyおよびLane(Arterioscler Thromb Vasc Biol.2008年、28巻(2号):233~42頁)を参照されたい。Dorlingおよび同僚は、ヒトCD4の膜貫通/細胞質ドメインに連結されたヒトTFPIの3つのクーニッツドメインからなる融合タンパク質を発現するトランスジェニックマウスを、Weibel-Palade細胞内保存顆粒へのターゲティングのためのP-セレクチンテールで生成した(Chen Dら、Am J Transplant、2004年;4巻:1958~1963頁)。結果として生じる内皮上のTFPIの活性化依存性提示は、シクロスポリン処置ラットによるマウス心臓異種移植片の血栓症媒介急性体液性拒絶反応を完全に阻害するのに十分であった。凝固の有効な調節が慢性拒絶反応を予防することができるとの示唆もあった。ヒルジン/CD4/P-セレクチン融合タンパク質を発現するトランスジェニックマウス心臓で類似の結果が得られ、トロンビン生成または活性の阻害がこのモデルにおける保護への鍵であることを示している。
【0311】
ヒルジンは医用ヒル(Hirudo medicinalisなど)の唾液腺中の天然に存在するペプチドであり、トロンビンの強力な阻害因子である。Dorlingおよび共同研究者(Chenら、J Transplant.2004年12月;4巻(12号):1958~63頁)は、膜連結ヒルジン融合タンパク質を発現するトランスジェニックマウスも生成し、それらの心臓をラット(マウス-ラット異種-Tx)に移植した。3日以内に全て拒絶された対照の非トランスジェニックマウス心臓と対照的に、T細胞媒介拒絶反応がシクロスポリンAの投与によって阻害されたとき、両系統のトランスジェニックマウスからの器官の100%が体液性拒絶反応に完全に耐性で、100日を超える間生存した。Riesbeckら(Circulation.1998年12月15日;98巻(24号):2744~52頁)は、血管内血栓症の予防のための戦略として、哺乳動物細胞におけるヒルジン融合タンパク質の発現も調査した。細胞における発現は局所のトロンビンレベルを低減し、フィブリン形成を阻害した。したがって、ヒルジンは、異種移植に存在する血栓症作用を予防するための目的の別の抗凝固因子導入遺伝子である。
【0312】
トロンボモジュリン(TM)は、トロンビンと1:1の定比複合体を形成することによって、抗凝固経路におけるプロテインCのトロンビン誘導活性化における補因子として機能する。内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)は、プロテインCの活性化を強化するN-グリコシル化I型膜タンパク質である。プロテインC抗凝固系におけるこれらのタンパク質の役割は、Van de Wouwerら、Arterioscler Thromb Vasc Biol.2004年8月;24巻(8号):1374~83頁)によって総論されている。これらおよび他の抗凝固因子導入遺伝子の発現は、異種移植への凝固障壁に潜在的に対処するために、様々なグループによって調査されている(CowanおよびD'Apice、Cur Opin Organ Transplant、2008年4月;13巻(2号):178~83頁によって総論されている)。Esmonおよび共同研究者(Liら、J Thromb Haemost.2005年7月;3巻(7号):1351~9頁)は、トランスジェニックマウスの内皮上でEPCRを過剰発現させ、そのような発現がマウスを血栓症の課題から保護することを示した。Iinoら(J Thromb Haemost.2004年5月;2巻(5号):833~4頁)は、島移植における血栓合併症を予防する手段として、遺伝子療法を通したドナー島におけるTMのex-vivo過剰発現を提案した。
【0313】
CD39は主要な血管ヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ(NTPDase)であり、ATPおよびADPをAMPに、および最終的にアデノシンに変換する。細胞外アデノシンは血栓症および炎症において重要な役割を演じ、したがって、移植におけるその有益な役割について研究されている(Robsonら、Semin Thromb Hemost.2005年4月;31巻(2号):217~33頁によって総論されている)。最近の研究は、CD39が炎症性応答の低減において主要な効果を有することを示した(Beldiら、Front Biosci、2008年、13巻:2588~2603頁)。hCD39を発現するトランスジェニックマウスは、心臓移植モデルにおいて障害のある血小板凝集、長期にわたる出血時間および全身性血栓塞栓症への耐性を示した(Dwyerら、J Clin Invest.、2004年5月;113巻(10号):1440~6頁)。それらは、膵臓の島の上でCD39を発現することも示され、ヒト血液とインキュベートしたとき、これらの島は野生型の島と比較して凝固時間を有意に遅延させた(Dwyerら、Transplantation、2006年8月15日;82巻(3号):428~32頁)。トランスジェニックブタにおいて構成的プロモーター系から高レベルでhCD39を発現させる予備的取り組みは、高い産後死亡率を示した(Revivicor,Inc.、未発表データ)。しかし、CD39の内皮細胞特異的発現は、トランスジェニックブタによってより良好に許容されることを示した。したがって、動物の幸福を損なわず、臨床上の異種移植での有用性のために十分なレベルの発現をなお提供する方法で、ある特定の抗凝固因子導入遺伝子をブタにおいて発現させる必要性がある。
【0314】
例示的な実施形態では、本発明は、(i)アルファGalの発現の欠如(または発現が低減されている)、ならびに(ii)2つのプロモーターの制御下の単一の遺伝子座における少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を有し、ここで、少なくとも2つの導入遺伝子のうちの少なくとも1つは抗凝固因子であるトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。一実施形態では、抗凝固因子は、組織因子経路阻害因子、ヒルジン、トロンボモジュリン、内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)、CD39およびそれらの組合せから選択される。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座であってよい。天然の遺伝子座は、GGTA1、B4GalNT2、CMAH、Rosa26、AAVS1、または組み入れられた導入遺伝子に有益な発現特性を付与することができる他の内因性遺伝子座であってもよい。少なくとも2つのプロモーターの制御下の少なくとも4つの導入遺伝子はMCVとして提供することができ、組み込みは遺伝子編集ツールを含むことができる。そのような編集は、「セーフハーバー」(ゲノム中のいかなる必須遺伝子も妨害しないように)として働く、および/または組み入れ部位に特異的である望ましい特徴を提供する働きをする、所定部位(例えば、ランディングパッド)へのターゲティング化挿入を含むことができる。異種移植片拒絶反応の予防にとって重要な遺伝子座での挿入の場合、多導入遺伝子の挿入は、霊長類において異種反応を誘導することに関与するブタ遺伝子の不活性化の成果を有することができる(すなわち、アルファGal、CMAHもしくはB4GalNT2または他(iGB3、フォルスマン)の不活性化)。任意選択で、動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を1つより多い遺伝子座に含むことができ、ここで、少なくとも4つの導入遺伝子は1つの遺伝子座に挿入され、別のセットの2つまたはそれより多い導入遺伝子(少なくとも2つのプロモーターの制御下の)は第2の部位に共に組み入れられてもよい。代わりの実施形態は1つの遺伝子座でMCV挿入を提供し、異なる遺伝子座でターゲティングされた不活性化を提供し、そのような不活性化は遺伝子編集ツールによって促進することができる。
【0315】
例示的な実施形態では、本発明は、(i)アルファGalの発現の欠如(または発現が低減されている)、ならびに(ii)単一の遺伝子座において少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7または少なくとも8つもしくはそれより多い導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を有し、ここで、導入遺伝子のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つまたは少なくとも3つは、抗凝固因子であるトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。
【0316】
一実施形態では、抗凝固因子は、組織因子経路阻害因子、ヒルジン、トロンボモジュリン、内皮細胞プロテインC受容体、CD39およびそれらの組合せから選択される。少なくとも4つの導入遺伝子はMCVとして提供することができ、組み込みは遺伝子編集ツールを含むことができる。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座であってよい。任意選択で、動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を含むことができる。
【0317】
一実施形態では、本発明は、アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減されている)、少なくとも3つの抗凝固因子を組み込んで発現するように遺伝子改変されているトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。ある特定の実施形態では、抗凝固因子は、組織因子経路阻害因子(TFPI)、ヒルジン、トロンボモジュリン、内皮細胞プロテインC受容体、CD39およびそれらの組合せから選択される。ある特定の実施形態では、少なくとも3つの抗凝固因子のうちの少なくとも1つは、内皮細胞で主に活性であるプロモーターの発現によって制御される。ある特定の実施形態では、少なくとも3つの抗凝固因子のうちの少なくとも2つは、内皮細胞で主に活性であるプロモーターの発現によって制御される。
【0318】
例示的な実施形態では、本発明は、アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減されている)、少なくとも3つの抗凝固因子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも3つの抗凝固因子の1つはEPCRである、トランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。
【0319】
例示的な実施形態では、本発明は、アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減されている)、少なくとも3つの抗凝固因子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも3つの抗凝固因子はEPCRおよびTBMを含むトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。
【0320】
一実施形態では、本発明は、アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減されている)、少なくとも4つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも4つのさらなる導入遺伝子は少なくとも1つの抗凝固因子を含むトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。ある特定の実施形態では、少なくとも1つの抗凝固因子は、組織因子経路阻害因子、ヒルジン、トロンボモジュリン、内皮細胞プロテインC受容体、CD39およびそれらの組合せから選択される。一実施形態では、少なくとも1つの抗凝固因子はEPCRである。
【0321】
一実施形態では、本発明は、アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減されている)、少なくとも4つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも4つのさらなる導入遺伝子は少なくとも2つの抗凝固因子を含むトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。ある特定の実施形態では、少なくとも2つの抗凝固因子は、組織因子経路阻害因子、ヒルジン、トロンボモジュリン、内皮細胞プロテインC受容体、CD39およびそれらの組合せから選択される。一実施形態では、少なくとも2つの抗凝固因子はEPCRおよびTBMを含む。別の実施形態では、少なくとも2つの抗凝固因子はEPCRおよびTFPIを含む。
【0322】
一実施形態では、本発明は、アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減されている)、少なくとも4つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも4つのさらなる導入遺伝子は少なくとも3つの抗凝固因子を含むトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。ある特定の実施形態では、少なくとも3つの抗凝固因子は、組織因子経路阻害因子、ヒルジン、トロンボモジュリン、内皮細胞プロテインC受容体、CD39およびそれらの組合せから選択される。一実施形態では、少なくとも3つの抗凝固因子はEPCR、TBMおよびTFPIを含む。別の実施形態では、少なくとも3つの抗凝固因子はEPCR、TBMおよびCD39を含む。
【0323】
一実施形態では、本発明は、アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減されている)、少なくとも5つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも5つのさらなる導入遺伝子は少なくとも2つの抗凝固因子を含むトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。ある特定の実施形態では、少なくとも2つの抗凝固因子は、組織因子経路阻害因子、ヒルジン、トロンボモジュリン、内皮細胞プロテインC受容体、CD39およびそれらの組合せから選択される。一実施形態では、少なくとも2つの抗凝固因子はEPCRおよびTBMを含む。別の実施形態では、少なくとも2つの抗凝固因子はEPCRおよびTFPIを含む。
【0324】
一実施形態では、本発明は、アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減されている)、少なくとも5つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも5つのさらなる導入遺伝子は少なくとも3つの抗凝固因子を含むトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。ある特定の実施形態では、少なくとも3つの抗凝固因子は、組織因子経路阻害因子、ヒルジン、トロンボモジュリン、内皮細胞プロテインC受容体、CD39およびそれらの組合せから選択される。一実施形態では、少なくとも3つの抗凝固因子はEPCR、TBMおよびTFPIを含む。別の実施形態では、少なくとも3つの抗凝固因子はEPCR、TBMおよびCD39を含む。
【0325】
一実施形態では、本発明は、アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減されている)、少なくとも6つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも6つのさらなる導入遺伝子は少なくとも2つの抗凝固因子を含むトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。ある特定の実施形態では、少なくとも2つの抗凝固因子は、組織因子経路阻害因子、ヒルジン、トロンボモジュリン、内皮細胞プロテインC受容体、CD39およびそれらの組合せから選択される。一実施形態では、少なくとも2つの抗凝固因子はEPCRおよびTBMを含む。別の実施形態では、少なくとも2つの抗凝固因子はEPCRおよびTFPIを含む。任意選択で、少なくとも6つのさらなる導入遺伝子は少なくとも1つの免疫抑制因子も含む。
【0326】
一実施形態では、本発明は、アルファGalの発現を欠き(または、発現が低減されている)、少なくとも6つのさらなる導入遺伝子を組み込んで発現するように遺伝子改変されており、ここで、少なくとも6つのさらなる導入遺伝子は少なくとも3つの抗凝固因子を含むトランスジェニック動物(例えば、有蹄類、ブタ動物)を提供する。ある特定の実施形態では、少なくとも3つの抗凝固因子は、組織因子経路阻害因子、ヒルジン、トロンボモジュリン、内皮細胞プロテインC受容体、CD39およびそれらの組合せから選択される。一実施形態では、少なくとも3つの抗凝固因子はEPCR、TBMおよびTFPIを含む。別の実施形態では、少なくとも3つの抗凝固因子はEPCR、TBMおよびCD39を含む。
(iii)細胞保護的導入遺伝子
【0327】
一実施形態では、本発明は、異種移植のための器官、組織および細胞の供与源として使用するのに適するトランスジェニックドナー動物を提供し、ここで、ドナー動物は、少なくとも1つの凍結保護因子導入遺伝子(「細胞保護因子」)を組み込み、発現するように遺伝子改変されている。例示的な実施形態では、本発明は、(i)アルファGalの発現の欠如;ならびに(ii)少なくとも2つのプロモーターの制御下の単一の遺伝子座における少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含み、ここで、少なくとも4つの導入遺伝子のうちの少なくとも1つは細胞保護的導入遺伝子であるトランスジェニック動物(例えば、ブタ)を提供する。
【0328】
細胞保護的導入遺伝子は、抗アポトーシス因子、抗酸化因子および抗炎症因子を含むと考えられる。例には以下のものが含まれる:
(a)A20:A20は、抗炎症および抗アポトーシス活性を提供する。血管化移植器官は、抗炎症性分子、抗凝固性分子および/または抗アポトーシス分子によって内皮細胞活性化および細胞損傷から保護することができる。急性血管拒絶反応(AVR)のモジュレーションのために大きな可能性を有する遺伝子の中には、ヒト臍静脈内皮細胞において腫瘍壊死因子(TNF)-α誘導可能因子として最初に同定されたヒトA20遺伝子(hA20)がある。ヒトA20は、それぞれいくつかのカスパーゼおよび転写因子核因子-κBの遮断を通して、内皮細胞をTNF媒介アポトーシスおよび炎症から保護することによる、二重細胞保護機能を有する。生存能力のあるA20トランスジェニック子ブタが生産され、これらの動物では、hA20の発現は骨格筋、心臓およびPAECに限定され、それらはhA20発現によってTNF媒介アポトーシスから保護され、およびCD95(Fas)L媒介細胞死から少なくとも部分的に保護された。さらに、hA20-トランスジェニッククローンブタからの心筋細胞は、心臓傷害から部分的に保護された(Oropezaら、Xenotransplantation、2009年11月;16巻(6号):522~34頁)。
(b)HO-1:HOは、抗炎症、抗アポトーシスおよび抗酸化活性を提供する。HSP32とも命名されたヘム異化作用における律速酵素ヘムオキシゲナーゼ(HO)は、熱ショックタンパク質のメンバーに属し、ここで、ヘム環は第一鉄、一酸化炭素(CO)およびビリベルジンに切断され、それは次いで、ビリベルジンレダクターゼによってビリルビンに変換される。HO-1、HO-2およびHO-3を含むHOの3つのアイソフォームをクローニングした。HO-1の発現は高度に誘導可能であるが、HO-2およびHO-3は構成的に発現される(Maines M Dら、Annual Review of Pharmacology & Toxicology、1997年;37巻:517~554頁およびChoi A Mら、American Journal of Respiratory Cell & Molecular Biology1996年;15巻:9~19頁)。HO-1-/-マウスの分析は、HO-1をコードする遺伝子が鉄ホメオスタシスを調節して、強力な抗酸化、抗炎症および抗アポトーシス効果を有する細胞保護的遺伝子として働くことを示唆する(Poss K Dら、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、1997年;94巻:10925~10930頁、Poss K Dら、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、1997年;94巻:10919~10924頁およびSoares M Pら、Nature Medicine、1998年;4巻:1073~1077頁)。ヒトにおけるHO-1欠乏症の症例報告において、類似の所見が最近記載された(Yachie Aら、Journal of Clinical Investigation、1999年;103巻:129~135頁)。抗炎症、抗酸化および抗アポトーシスを含むHO-1の細胞保護効果の役割を担う分子機構は、その反応生成物によって媒介される。HO-1発現は、異なる金属とのプロトポルフィリンによってin vitroおよびin vivoでモジュレートすることができる。コバルトプロトポルフィリン(CoPP)および鉄プロトポルフィリン(FePP)は、HO-1の発現を上方制御することができる。対照的に、スズプロトポルフィリン(SnPP)および亜鉛プロトポルフィリン(ZnPP)は、タンパク質レベルでHO-1の活性を阻害する。最近、HO-1の発現がマウスからラットへの心臓移植の拒絶反応を抑制すること(Sato Kら、J. Immunol.2001年;166巻:4185~4194頁)、アポトーシスから島細胞を保護すること、および移植後の島細胞のin vivo機能を改善すること(Pileggi Aら、Diabetes、2001年;50巻:1983~1991頁)が証明された。遺伝子移入によるHO-1の投与が高酸素症誘導肺傷害からの保護を提供すること(Otterbein L Eら、J Clin Invest、1999年;103巻:1047~1054頁)、HO-1の上方制御は、遺伝的に脂肪性のツッカーラット肝臓を虚血/再灌流傷害から保護すること(Amersi Fら、J Clin Invest、1999年;104巻:1631~1639頁)、および、HO-1遺伝子の除去または発現は、シスプラチン誘導腎尿細管アポトーシスをモジュレートすること(Shiraishi Fら、Am J Physiol Renal Physiol2000年;278巻:F726~F736頁)も証明された。トランスジェニック動物モデルでは、HO-1の過剰発現が低酸素に対する肺炎症性および血管応答を予防すること(Minamino Tら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、2001年;98巻:8798~8803頁)、ならびに、心臓を虚血および再灌流傷害から保護すること(Yet S Fら、Cir Res2001年;89巻:168~173頁)が示された。HO-1導入遺伝子を有するブタが生産されたが、異種移植におけるそれらの使用に関係した臨床効果は報告されなかった(米国特許第7,378,569号)。
(c)FAT-1:FAT-1は、抗炎症活性を提供する。多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、(n-3クラス)炎症を阻害する役割をする。哺乳動物の細胞は、n-6をn-3 PUFAに変換するデサチュラーゼを欠く。その結果として、必須のn-3脂肪酸は食事で供給しなければならない。しかし哺乳動物と異なって、自由生活線虫Caenorhabditis elegansは、n-6脂肪酸に対して炭化水素鎖のn-3位置に二重結合を導入してn-3PUFAを形成するn-3脂肪酸デサチュラーゼを発現する。C.elegansのfat-1遺伝子を発現し、その結果として、6系の食事性PUFAを3系のPUFA、例えばEPA(20:5のn-3)およびDHA(22-6のn-3)に効率的に変換することができるトランスジェニックマウスが生産された。(Kangら、Nature、2004年2月5日;427巻(6974号):504頁)。別のグループは、fat-1のcDNAのコドンが哺乳動物の系における効率的な翻訳のためにさらに最適化されたトランスジェニックマウスモデルを生成した;C.elegansのn-3脂肪酸デサチュラーゼ遺伝子mfat-1の過剰発現を通して、n-3 PUFAの内因性生成が達成された。このグループは、mfat-1のトランスジェニック発現を通したn-3 PUFAの細胞性増加およびn-6 PUFAの低減が、マウスの単離された膵臓島において、グルコース、アミノ酸およびGLP-1によって刺激されるインスリン分泌を増強し、島をサイトカイン誘導細胞死に対して強く抵抗性にすることを示した(Weiら、Diabetes、2010年2月;59巻(2号):471~8頁)。
(d)可溶性TNF-アルファ受容体(sTNFR1):腫瘍壊死因子(TNF、カケキシンまたはカケクチン、および腫瘍壊死因子アルファとして正式に知られる)は、全身性炎症に関与するサイトカインであり、急性相の反応を刺激する一群のサイトカインのメンバーである。TNFの主な役割は、免疫細胞の調節にある。TNFは、炎症を誘導するために、アポトーシス細胞死を誘導することができる。可溶性TNF-アルファ受容体1(sTNFR1)は、TNFR1の細胞外ドメインであり、TNF-アルファに対するアンタゴニストである(Suら、1998年、Arthritis Rheum.41巻、139~149頁)。異種移植片におけるsTNFR1のトランスジェニック発現は、有益な抗炎症効果を有することができる。
【0329】
関連する抗酸化特性を有する他の細胞保護因子には、限定されずにSODおよびカタラーゼが含まれる。酸素は全ての好気的生物体のために必須の分子であり、ATP生成、すなわち酸化的リン酸化で支配的な役割を演じる。このプロセスの間に、スーパーオキシドアニオン(O(2)(-))および過酸化水素(H(2)O(2))を含む反応性酸素種(ROS)が、副産物として生産される。ヒトでは、抗酸化防御系がROS生成のバランスをとる。スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)およびカタラーゼは、抗酸化特性を有する2つの酵素である。SODはスーパーオキシドラジカル対過酸化水素の不均等化を触媒し、後者はカタラーゼおよびグルタチオンペルオキシダーゼによって水に変換される。ROSの生成からもたらされる細胞損傷が、移植場面で起こる可能性がある。低減された抗酸化防御のため、膵臓のベータ細胞がフリーラジカルおよび炎症性損傷に特に脆弱である。一般的に使用される抗拒絶薬は、適応性免疫応答を阻害することに優れている;しかし、ほとんどは島に有害であり、島の単離および虚血再灌流傷害から生じる反応性酸素種および炎症からあまり保護しない。したがって、島を抗酸化因子によりex vivoで処置すること、または、遺伝子療法もしくはドナー組織におけるトランスジェニック発現を通して抗酸化遺伝子を発現させることに関心がある。EC-SODおよびカタラーゼのex vivo遺伝子移入は、抗原誘導関節炎のラットモデルにおいて抗炎症性であった(Daiら、Gene Ther.2003年4月;10巻(7号):550~8頁)。さらに、門脈を通してのEC-SODおよび/またはカタラーゼ遺伝子の送達は、マウスモデルにおける肝臓のI/R傷害を著しく減弱させた(Heら、Liver Transpl.2006年12月;12巻(12号):1869~79頁)。最近のマウス研究では、同系間、最適以下の同系間または異種間の移植の前に触媒性抗酸化因子で処置した膵臓の島は、未処置対照と比較して優れた機能を示した。この同じ研究で、触媒性抗酸化因子で処置した同種異系島の糖尿病マウスレシピエントは、移植後に改善された血糖管理を示し、同種異系移植片拒絶反応の遅延を実証した(Sklavosら、Diabetes、2010年7月;59巻(7号):1731~8頁、Epub2010年4月22日)。別のマウス研究では、MnSODを過剰発現する島移植片は、対照の移植片よりおよそ50%長く機能した(Berteraら、Diabetes2003年2月;52巻(2号):387~93頁)。
【0330】
さらに、トロンボモジュリン、EPCRおよびCD39を含むある特定の抗凝固因子も、抗炎症活性を提供する。
【0331】
例示的な実施形態では、本発明は、(i)アルファGalの発現の欠如;ならびに(ii)(少なくとも2つのプロモーターの制御下の)単一の遺伝子座における少なくとも4つの導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含み、ここで、少なくとも4つの導入遺伝子のうちの少なくとも1つは細胞保護的導入遺伝子であるトランスジェニック動物(例えば、ブタ)を提供する。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座であってよい。少なくとも2つの導入遺伝子はMCVとして提供することができ、組み込みは遺伝子編集ツールを含むことができる。任意選択で、動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を有することができる。
【0332】
例示的な実施形態では、本発明は、(i)アルファGalの発現の欠如;ならびに(ii)単一の遺伝子座に少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つもしくは少なくとも8つの導入遺伝子、または1つの遺伝子座に少なくとも4つの導入遺伝子および第2の遺伝子座に1つもしくは複数の導入遺伝子の組み込みおよび発現をもたらす遺伝子改変を含み、ここで、導入遺伝子の少なくとも1つは細胞保護導入遺伝子であり、少なくとも4つの導入遺伝子は少なくとも2つのプロモーターの制御下にあり、それらは構成的、遍在性、組織特異的または誘導可能な調節されたプロモーター系の異なる組合せであってよい、トランスジェニック動物(例えば、ブタ)を提供する。導入遺伝子はMCVとして提供することができ、組み込みは遺伝子編集ツールを含むことができる。単一の遺伝子座は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座であってよい。任意選択で、動物は、1つまたは複数のさらなる遺伝子改変を有することができる。
【0333】
D.トランスジェニック動物の生産
トランスジェニック動物は、選択的交配、核移植、卵母細胞、精子、接合体もしくは卵割球中へのDNAの導入、または胚性幹細胞の使用を介するものが含まれるがこれらに限定されない、当業者に公知の任意の方法によって生産され得る。本明細書にさらに記載されるように、遺伝子編集ツールもまた利用され得る。
【0334】
一部の実施形態では、遺伝子改変は、所望のセットの遺伝子改変(または単一の遺伝子改変)を有する動物の群を形成するために次いで一緒に交配される動物において同定され得る。これらの子孫は、それらの子孫において異なるまたは同じセットの遺伝子改変(または単一の遺伝子改変)を生産するためにさらに交配され得る。所望の遺伝子改変(複数可)を有する動物を求めて交配するこのサイクルは、所望される限り継続し得る。この文脈において、「群」は、同じまたは異なる遺伝子改変(複数可)を有する、時間と共に生産される複数世代の動物を含み得る。「群」は、同じまたは異なる遺伝子改変(複数可)を有する動物の単一の世代もまた指し得る。
【0335】
遺伝子改変(例えば、相同組換え、ランダム挿入/組み入れ、ヌクレアーゼ編集、ジンクフィンガー+TALENヌクレアーゼ、CRISPR/Cas9ヌクレアーゼを介するがこれらに限定されない)に有用な細胞には、例として、上皮細胞、神経細胞、表皮細胞、ケラチノサイト、造血細胞、メラニン細胞、軟骨細胞、リンパ球(BおよびTリンパ球)、赤血球(erythrocyte)、マクロファージ、単球、単核細胞、線維芽細胞、心筋細胞(cardiac muscle cell)および他の筋肉細胞などが含まれる。さらに、遺伝子改変された動物(例えば、核移植を介してであるがこれに限定されない)を生産するために使用される細胞は、異なる器官、例えば、皮膚、肺、膵臓、肝臓、胃、腸、心臓、生殖器官、膀胱、腎臓、尿道および他の泌尿器官などから取得され得る。細胞は、全ての体細胞または生殖細胞を含む、身体の任意の細胞または器官から取得され得る。
【0336】
さらに、遺伝子改変され得る動物細胞は、例えば、皮膚、間充織、肺、膵臓、心臓、腸、胃、膀胱、血管、腎臓、尿道、生殖器官、および胚、胎仔または成体動物の全体または一部の脱凝集調製物であるがこれらに限定されない種々の異なる器官および組織から取得され得る。本発明の一実施形態では、細胞は、上皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、ケラチノサイト、造血細胞、メラニン細胞、軟骨細胞、リンパ球(BおよびT)、マクロファージ、単球、単核細胞、心筋細胞(cardiac muscle cell)、他の筋肉細胞、顆粒膜細胞、卵丘細胞、表皮細胞、内皮細胞、膵ランゲルハンス島細胞、血液細胞、血液前駆細胞、骨細胞(bone cell)、骨前駆細胞、ニューロン幹細胞、始原幹細胞、成体幹細胞、間葉系幹細胞、肝細胞、ケラチノサイト、臍帯静脈内皮細胞、大動脈内皮細胞、微小血管内皮細胞、線維芽細胞、肝臓星状細胞、大動脈平滑筋細胞、心筋細胞(cardiac myocyte)、ニューロン、クッパー細胞、平滑筋細胞、シュワン細胞、および上皮細胞、赤血球(erythrocyte)、血小板、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、脂肪細胞、軟骨細胞、膵島細胞、甲状腺細胞、副甲状腺細胞、耳下腺細胞、腫瘍細胞、グリア細胞、アストロサイト、赤血球(red blood cell)、白血球(white blood cell)、マクロファージ、上皮細胞、体細胞、下垂体細胞、副腎細胞、有毛細胞、膀胱細胞、腎臓細胞、網膜細胞、杆体細胞、錐体細胞、心臓細胞、ペースメーカー細胞、脾臓細胞、抗原提示細胞、メモリー細胞、T細胞、B細胞、形質細胞、筋肉細胞、卵巣細胞、子宮細胞、前立腺細胞、腟上皮細胞、精子細胞、精巣細胞、生殖細胞、卵細胞、ライディッヒ細胞、尿細管周囲細胞、セルトリ細胞、ルテイン細胞、子宮頸部細胞、子宮内膜細胞、乳腺細胞、濾胞細胞、粘膜細胞、線毛細胞、非角質化上皮細胞、角質化上皮細胞、肺細胞、杯細胞、円柱上皮細胞、扁平上皮細胞、骨細胞(osteocyte)、骨芽細胞、および破骨細胞からなるがこれらに限定されない群から選択され得る。代替的な一実施形態では、胚性幹細胞が使用され得る。胚性幹細胞系が使用され得るか、または胚性幹細胞が、ブタ動物などの宿主から新たに取得され得る。これらの細胞は、適切な線維芽細胞-フィーダー層上で増殖され得るか、または白血病阻害因子(LIF)の存在下で増殖され得る。
【0337】
胚性幹細胞は、好ましい生殖細胞型であり、胚性幹細胞系が使用され得るか、または胚性幹細胞が、ブタ動物などの宿主から新たに取得され得る。これらの細胞は、適切な線維芽細胞-フィーダー層上で増殖され得るか、または白血病阻害因子(LIF)の存在下で増殖され得る。
【0338】
特に目的の細胞には、他の系譜のなかでも、幹細胞、例えば、造血幹細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞など、膵ランゲルハンス島、ドパミンを分泌できる副腎髄質細胞、骨芽細胞、破骨細胞、上皮細胞、内皮細胞、白血球(leukocyte)、例えば、BおよびTリンパ球、骨髄単球性細胞など、ニューロン、グリア細胞、神経節細胞、網膜細胞、肝臓細胞、例えば、肝細胞、骨髄細胞、ケラチノサイト、毛包細胞および筋芽細胞(筋肉)細胞が含まれる。
特定の実施形態では、これらの細胞は、線維芽細胞から識別不能な形態もしくは表現型、または少なくとも10もしくは少なくとも12もしくは少なくとも14もしくは少なくとも18もしくは少なくとも20日間の老化前寿命、または相同組換えおよび非老化核の核移植を可能にするのに十分な寿命を有する、線維芽細胞または線維芽細胞様細胞であり得る;具体的な一実施形態では、これらの細胞は、胎仔線維芽細胞であり得る。線維芽細胞は、発生中の胎仔および成体動物から大量に取得できるので、適切な体細胞型である。これらの細胞は、迅速な倍加時間でin vitroで容易に拡大増殖され得、遺伝子ターゲティング手順における使用のためにクローン的に拡大増殖され得る。使用される細胞は、胎仔動物由来であり得るか、または元来、新生仔であり得るか、もしくは成体動物由来であり得る。これらの細胞は、成熟または未成熟であり得、分化したまたは未分化のいずれかであり得る。
【0339】
(i)相同組換え
相同組換えは、内因性遺伝子における部位特異的改変を可能にし、したがって、新規変更がゲノム中に工学操作され得る。相同組換えにおける主なステップは、DNA鎖交換であり、これには、ヘテロ二重鎖DNAを含む中間組換え構造を形成する、相補的配列を含む少なくとも1つのDNA鎖との、DNA二重鎖の対合が関与する(例えば、Radding, C. M.(1982年)Ann. Rev. Genet. 16巻:405頁;米国特許第4,888,274号を参照のこと)。このヘテロ二重鎖DNAは、単一の相補鎖がDNA二重鎖に侵入する三重鎖形態を含む3DNA鎖を含むいくつかの形態を取り得(Hsiehら(1990年)Genes and Development 4巻:1951頁;Raoら、(1991年)PNAS 88巻:2984頁))、2つの相補的DNA鎖がDNA二重鎖と対合する場合、古典的なHolliday組換え連結部もしくはカイ構造(Holliday, R.(1964年)Genet. Res. 5巻:282頁)、または二重-Dループ(「Diagnostic Applications of Double-D Loop Formation」、1991年9月4日出願の米国特許出願第07/755,462号)が形成され得る。一旦形成されると、ヘテロ二重鎖構造は、鎖の切断および交換によって解消され得、その結果、侵入DNA鎖の全てまたは一部分がレシピエントDNA二重鎖中にスプライスされて、レシピエントDNA二重鎖のセグメントを付加または交換する。あるいは、ヘテロ二重鎖構造は、遺伝子変換を生じ得、ここで、侵入鎖の配列は、鋳型として侵入鎖を使用するミスマッチした塩基の修復によって、レシピエントDNA二重鎖に移行される(Genes、第3版(1987年)Lewin, B.、John Wiley、New York、N.Y.;Lopezら(1987年)Nucleic Acids Res. 15巻:5643頁)。切断および再連結の機構によるのであれ、遺伝子変換の機構(複数可)によるのであれ、相同に対合した連結部におけるヘテロ二重鎖DNAの形成は、1つのDNA分子から別のDNA分子へと遺伝子配列情報を移行させるように機能できる。
【0340】
DNA分子間で遺伝子配列情報を移行させる相同組換え(遺伝子変換および古典的鎖切断/再連結)の能力は、ターゲティング相同組換えを、遺伝子工学操作および遺伝子操作における強力な方法にしている。
【0341】
相同組換えでは、入ってくるDNAは、実質的に相同なDNA配列を含むゲノム中の部位と相互作用し、そこに組み入れられる。非相同(「ランダム」または「不正な(illicit)」)組み入れでは、入ってくるDNAは、ゲノム中の相同配列では見出されないが、他の場所、多数の潜在的な位置のうち1つにおいて組み入れられる。一般に、高等真核生物細胞を用いた研究により、相同組換えの頻度が、ランダム組み入れの頻度よりもはるかに低いことが明らかになっている。これらの頻度の比率は、相同組換え(即ち、外因性「ターゲティングDNA」とゲノム中の対応する「ターゲットDNA」との間の組換え)を介した組み入れに依存する「遺伝子ターゲティング」に対する直接的な影響を有する。本発明は、上記細胞などの細胞において、遺伝子を不活性化するか、または遺伝子を挿入および上方調節もしくは活性化するために、相同組換えを使用できる。DNAは、機能的遺伝子産物の発現を防止するために、少なくとも1コピー、任意選択で両方のコピーの天然の遺伝子(複数可)中への変更の導入と共に、特定の遺伝子座において遺伝子(複数可)の少なくとも一部分を含み得る。この変更は、挿入、欠失、交換、突然変異またはそれらの組合せであり得る。不活性化されている遺伝子の1コピー中にのみ変更が導入される場合、ターゲット遺伝子の単一の突然変異していないコピーを有する細胞が増幅され、第2のターゲティングステップに供され得、ここでの変更は、第1の変更と同じまたは異なり得るが通常は異なり、欠失または交換が関与する場合、元々導入された変更の少なくとも一部分と重なり得る。この第2のターゲティングステップでは、相同性の同じアームを有するが異なる哺乳動物選択可能マーカーを含むターゲティングベクターが使用され得る。得られた形質転換体は、機能的ターゲット抗原の非存在についてスクリーニングされ、細胞のDNAは、野生型ターゲット遺伝子の非存在を確実にするためにさらにスクリーニングされ得る。あるいは、ある表現型に関するホモ接合性は、突然変異についてヘテロ接合性の宿主を交配することによって達成され得る。
【0342】
いくつかの論文が、哺乳動物細胞における相同組換えの使用を記載している。これらの論文の例示は、Kucherlapatiら(1984年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81巻:3153~3157頁;Kucherlapatiら(1985年)Mol. Cell. Bio. 5巻:714~720頁;Smithiesら(1985年)Nature 317巻:230~234頁;Wakeら(1985年)Mol. Cell. Bio. 8巻:2080~2089頁;Ayaresら(1985年)Genetics 111巻:375~388頁;Ayaresら(1986年)Mol. Cell. Bio. 7巻:1656~1662頁;Songら(1987年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84巻:6820~6824頁;Thomasら(1986年)Cell 44巻:419~428頁;ThomasおよびCapecchi、(1987年)Cell 51巻:503~512頁;Nandiら(1988年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85巻:3845~3849頁;ならびにMansourら(1988年)Nature 336巻:348~352頁;EvansおよびKaufman、(1981年)Nature 294巻:146~154頁;Doetschmanら(1987年)Nature 330巻:576~578頁;ThomaおよびCapecchi、(1987年)Cell 51巻:503~512頁;Thompsonら(1989年)Cell 56巻:316~321頁である。
【0343】
一実施形態では、本発明のトランスジェニック動物において組み込まれ発現される少なくとも4つの導入遺伝子は、相同組換えによって導入される。別の実施形態では、本発明のトランスジェニック動物において組み込まれ発現される4つの導入遺伝子のうち少なくとも1つは、相同組換えによって導入される。
【0344】
(ii)ランダム挿入
一実施形態では、導入遺伝子配列をコードするDNAは、細胞の染色体中にランダムに挿入され得る。このランダム組み入れは、当業者に公知の、DNAを細胞中に導入する任意の方法から生じ得る。これには、エレクトロポレーション、ソノポレーション(sonoporation)、遺伝子銃の使用、リポトランスフェクション(lipotransfection)、リン酸カルシウムトランスフェクション、デンドリマーの使用、マイクロインジェクション、アデノウイルス、AAVおよびレトロウイルスベクターを含むウイルスベクターの使用、ならびにII群リボザイムが含まれ得るがこれらに限定されない。一実施形態では、をコードするDNAは、導入遺伝子またはその発現産物の存在がレポーター遺伝子の活性化を介して検出できるように、レポーター遺伝子を含むように設計され得る。上に開示したものなどの、当該分野で公知の任意のレポーター遺伝子が使用され得る。このレポーター遺伝子はまた、細胞に添加されている導入遺伝子のうち1つであり得、その結果、その導入遺伝子(例えば、DAFまたはCD46またはEPCRまたはCD47)の細胞表面発現は、導入遺伝子(および共挿入された導入遺伝子組合せ)の遺伝子導入および部分配列発現について富化するための手段として、フローサイトメトリー(および前記導入遺伝子に特異的な蛍光抗体)と併せて使用され得る。レポーター遺伝子が活性化された細胞を細胞培養物中で選択することによって、導入遺伝子を含む細胞が選択され得る。他の実施形態では、導入遺伝子をコードするDNAは、エレクトロポレーションを介して細胞中に導入され得る。他の実施形態では、DNAは、リポフェクション、感染または形質転換を介して細胞中に導入され得る。一実施形態では、エレクトロポレーションおよび/またはリポフェクションが、線維芽細胞をトランスフェクトするために使用され得る。特定の実施形態では、トランスフェクトされた線維芽細胞は、当該分野で公知であり以下に記載されるように、トランスジェニック動物を生成するための核移植の核ドナーとして使用され得る。
【0345】
次いで、レポーター遺伝子の存在について染色された細胞は、本発明者らが目的の導入遺伝子をコードするDNAを含む細胞をより高い百分率で有するように、細胞集団を富化するためにFACSによって分別され得る。他の実施形態では、FACS分別された細胞は、次いで、安定なトランスフェクトされた細胞集団を得るために、12、24、36、48、72、96もしくはそれよりも長い時間などの期間にわたって、またはDNAが組み入れられるのを可能にするような期間にわたって、培養され得る。
【0346】
一実施形態では、本発明のトランスジェニック動物において組み込まれ発現される少なくとも4つの導入遺伝子は、ランダム組み入れによって導入される。別の実施形態では、本発明のトランスジェニック動物において組み込まれ発現される4つの導入遺伝子のうち少なくとも1つは、ランダム組み入れによって導入される。例えば、少なくとも2つの導入遺伝子を含む二シストロンベクターは、ランダム組み入れによってゲノム中に組み込まれる。
(iii)ターゲティング化ゲノム編集:
【0347】
例示的実施形態では、導入遺伝子は、ゲノム編集ツールを利用して動物中に組み込まれる。これらのツールには、ヌクレアーゼおよび部位特異的リコンビナーゼが含まれるがこれらに限定されない。例示的実施形態では、挿入の方法は、インテグラーゼ(リコンビナーゼ)、CRISPR/CAS9ヌクレアーゼ、TALANヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼなどであるがこれらに限定されない遺伝子編集ツールを利用するゲノム編集法によって促進される。
【0348】
導入遺伝子は、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座(例えば、ランディングパッド)から選択される単一の遺伝子座にターゲティングされ得る。天然の遺伝子座は、例えば、GGTA1、β4GalNT2、CMAH、ROSA26、AAVS1であり得る。天然の遺伝子座は、改変された、即ち、改変された天然の遺伝子座、例えば、改変された(GGTA1、β4GalNT2またはCMAH)であり得る。
【0349】
例示的実施形態では、導入遺伝子は、ランディングパッドおよび/もしくはドッキング部位または他の安定な発現部位にターゲティングされ得る。一実施形態では、ランディングパッドまたはドッキングベクターが、目的の任意の遺伝子座、例えば、GGTA1、CMAH、β4Gal、ROSA26、AAVS1中に挿入され得るか、または導入遺伝子が、任意の公知の「セーフハーバー」遺伝子座、もしくは有利な遺伝子発現プロファイルを提供し得る任意の所定の遺伝子座にターゲティングされ得るか、あるいは所定の遺伝子座が、同時の挿入およびノックアウトが移植転帰にとって有益である好ましい遺伝子を不活化してもよい。別の実施形態では、遺伝子編集は、二本鎖切断を創出するために利用され得、これが、ターゲット部位における遺伝子活性化またはノックアウトを生じる小さい挿入、欠失または核酸置換(INDEL)を創出するためのDNA修復機構を開始させる;かかる場合、1つの所定の遺伝子座(例えば、GGTA1、CMAH、B4GalNT2)におけるINDELが、別の遺伝子座における多シストロンベクターの遺伝子編集増強されたノックインと同時に、細胞または得られたクローニングされたブタにおいて創出され得る。
【0350】
特定の実施形態では、遺伝子編集は、ブタゲノム中の1、2または3つの内因性遺伝子座(例えば、GGTA1、CMAH、B4GalNT2のうち1つまたは全て)を不活性化するために、(複数のCrispr-Cas9ガイドRNA、TALENもしくはZFN(またはそれらの組合せ)を使用して)同時に使用され、これらの遺伝子編集増強された改変のうち1または複数は、かかる天然の遺伝子座または改変された天然の遺伝子座のうち1または複数における、少なくとも2つのプロモーターの制御下にある少なくとも4つの導入遺伝子を有する多シストロンベクターのターゲティング化挿入もまた生じる。
A.ジンクフィンガーヌクレアーゼ/TALEN
【0351】
一実施形態では、導入遺伝子は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を利用して組み込まれる。
【0352】
ジンクフィンガーヌクレアーゼは、非特異的DNA切断モチーフと配列特異的ジンクフィンガータンパク質との融合物である。ヌクレアーゼ活性は、一本鎖切断を創出することが可能なFokI細菌制限エンドヌクレアーゼの誘導体である。ZFNは、18bpの特異性で二本鎖切断を生産するために、2つのFokI酵素と共に2つのDNA結合ドメインを二量体化することによって動作する。
【0353】
別の実施形態では、導入遺伝子は、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を使用して組み込まれる。
【0354】
TALENは、FokIエンドヌクレアーゼをDNA結合ドメインに係留させることによって、二本鎖切断を創出するようにZFNと同様に機能する。このプロセスでは、TALENが指示する突然変異誘発のターゲティング効率は、27.8%の比率の二対立遺伝子ノックアウトで、73.1%に達する効率であることが報告された。TALENは、遺伝子設計の容易さ、減少したコスト、および僅かに改善されたターゲティング頻度によって、ZFNと識別され得る。
【0355】
一実施形態では、本発明は、内因性遺伝子、または小さい挿入もしくは欠失もしくはヌクレオチド置換を導入でき、所望の遺伝子改変を有する子ブタを生産できるブタ接合体中への、ZFNおよびTALENの直接注射を利用する。
B.CRISPR/CAS9ヌクレアーゼ
【0356】
別の実施形態では、導入遺伝子は、CRISPR/CAS9ヌクレアーゼを利用して組み込まれる。
【0357】
CRISPR/Cas9は、RNAガイドされたターゲティングによって外因性DNAを切断する細菌防御機構に由来する。細菌では、外来DNAは、消化され、CRISPR RNA(crRNA)がそこから作成されるCRISPR遺伝子座中に挿入される。次いで、これらの短いRNA配列は、ゲノム中の相同な-おそらく外来の-配列と会合する。相同ゲノム配列の後に、3’末端において適切な「プロトスペーサー隣接モチーフ」(PAM)が続く場合、Cas9エンドヌクレアーゼは二本鎖切断を創出する。PAMスペーサーは、CRISPR遺伝子座自体がターゲティングされることを防止する助けになる。CRISPR/Cas9系は、細菌の外側で有用であることが証明されており、ブタゲノムからアルファGalを除去するために2013年に最初に使用された。最も一般的に使用される系は、NGGの3’PAM配列を有するStreptococcus pyogenesに起源し、式中、Nは任意のヌクレオチドを示す。この系は、GN19NGGからなる任意のブタゲノム配列における突然変異事象の創出を可能にする。
【0358】
CRISPR/Cas9系はまた、DNA中の二本鎖切断(DSB)の存在によって開始される天然に存在する核酸修復系である相同組換え修復(homology directed repair)(HDR)と併せて使用され得る(Liangら 1998年)。より具体的には、CRISPR/Cas9系は、ターゲティングされた二本鎖切断を創出するために使用され得、HDRゲノム工学操作技術の特異性を制御するために使用され得(Findlayら 2014年;Maliら 2014年2月;Ranら 2013年)、哺乳動物およびヒトを含む多くの生物においてゲノムを改変するために有用である(SanderおよびJoung、2014年)。
【0359】
二本鎖切断を創出するためのDNAの特異的部位のRNAガイドされた切断の後、目的のDNA断片またはDNA構築物が挿入され得る。このドナー鋳型、断片または構築物は、切断されたDNAの平滑末端に対して相同なDNAのセグメントが隣接する、所望の挿入または改変を有する。したがって、細胞の天然のDNA修復機構は、高い精度でターゲット細胞のゲノムを編集し、高度にターゲティングされた二本鎖切断を創出することが公知の任意のゲノム編集技術と組み合わせた相同性誘導組換えを利用して、所望の遺伝子材料を挿入するために使用され得る。この方法で実施されたゲノム改変は、DNAの挿入として記載される「増強された相同性誘導挿入またはノックイン」と呼ばれるように新規遺伝子を挿入し、既存の遺伝子を同時にノックアウトするために使用され得る(Maliら 2013年2月)。
【0360】
CRISPR/Cas系は、以前の部位特異的ヌクレアーゼを超えるいくつかの利点を提供する。最初に、Cas9エンドヌクレアーゼは、DNA切断の最初の係留なしの方法を示す。これは、複数のガイドRNAと自由に会合し、それによって、単一のトランスフェクション内でのいくつかの遺伝子座の同時ターゲティングを可能にする。これは、単一細胞上での複数の遺伝子ノックアウトの効率的な組合せを可能にしてきた。2013年に、GGTA1、GGTA1/iGb3S、GGTA1/CMAHおよびGGTA1/iGb3S/CMAHホモ接合性ノックアウト細胞の創出が、単一の反応で達成された。CRISPR/Cas9系は、ゼブラフィッシュ、サル、マウス、ラットおよびブタを含む種々の脊椎動物においてトランスジェニック動物を生成するために首尾よく使用されてきた。Withworthら、Biol. Reprod. 91巻(3号):78、1~13頁[2014年]およびLiら、Xenotransplantation 22巻(1号)、20~31頁[2015年]を参照のこと。
【0361】
ターゲティング効率、または達成された所望の突然変異の百分率は、ゲノム編集ツールを評価するための最も重要なパラメーターの1つである。Cas9のターゲティング効率は、TALENまたはZFNなどの、より確立された方法と引けを取らない。例えば、ヒト細胞では、カスタム設計されたZFNおよびTALENは、1%から50%までの範囲の効率を達成できるに過ぎない。対照的に、Cas9系は、ゼブラフィッシュおよび植物において最大>70%の効率を有し、誘導多能性幹細胞において2~5%の範囲の効率を有することが報告されている。
【0362】
一実施形態では、本発明は、「in vitro」誘導された接合体中に目的の遺伝子をターゲティングするように特異的に設計されたCRISPRのマイクロインジェクションを介してトランスジェニックブタ(例えば、有蹄動物、ブタ動物)を生成するために、CRISPR/Cas9系を利用し得る。
【0363】
別の実施形態では、本発明は、目的の遺伝子をターゲティングするように特異的に設計されたCRISPRを用いた体細胞ドナー細胞の改変とその後のSCNTとによってトランスジェニックブタ(例えば、有蹄動物、ブタ動物)を生成するために、CRISPR/Cas9系を利用し得る。
【0364】
別の実施形態では、本発明は、既存の遺伝子改変の特異的領域/配列をターゲティングすることによってトランスジェニックブタ(例えば、有蹄動物、ブタ動物)を生成するために、CRISPR/Cas9系を利用し得る。より具体的な実施形態、ネオマイシン遺伝子配列の配列をターゲティングする。
【0365】
別の実施形態では、本発明は、既存の遺伝子改変の特異的領域/配列をターゲティングすることによってトランスジェニックブタ(例えば、有蹄動物、ブタ動物)を生成するために、ゲノム編集系、例えば、TALEN、ジンクフィンガーまたはCRISPR/Cas9系を利用し得る。より具体的な実施形態、天然の遺伝子座、改変された天然の遺伝子座またはトランスジェニック遺伝子座(例えば、ランディングパッド)であり得る単一の遺伝子座をターゲティングする。
【0366】
別の実施形態では、CRISPR/Cas9系は、相同性誘導組換えを利用して、二本鎖切断に対して相同なDNAのアームまたはセグメントが隣接する大きいDNA断片または構築物の挿入を介して、既存の遺伝子改変の特異的領域/配列をターゲティングすることによってトランスジェニックブタ(例えば、有蹄動物、ブタ動物)を生成するために使用され得る。
C.部位特異的リコンビナーゼ
【0367】
例示的実施形態では、導入遺伝子は、部位特異的リコンビナーゼを利用して組み込まれる。特異的リコンビナーゼテクノロジーは、細胞のDNA中の特異的部位において欠失、挿入、転座および逆位を実施するために広く使用される。これは、DNA改変が特定の細胞型にターゲティングされること、またはDNA改変が特定の外部刺激によって誘発されることを可能にする。これは、真核生物系および原核生物系の両方において実行される。遺伝子工学操作戦略のために効率的に働くいくつかの組換え系が存在する。Flp-FRTおよびCre-loxPリコンビナーゼ系は、可逆的であり、したがって、部位特異的な組み入れおよび切除の両方を促進する。DNAの正確な組み入れ、切除および/または逆位を生じる高度に部位特異的な組換え反応を触媒するインテグラーゼは、ゲノム組み入れプロセスを媒介する。セリン(ФC31、Bxb1、R4)およびチロシンインテグラーゼ(λ、P22、HP1)は、ゲノム工学操作に現在適用されているインテグラーゼの2つの主要なファミリーである。広い意味では、部位特異的組換えのプロセスには、タンパク質-タンパク質相互作用を介してそれらをごく接近させるための、リコンビナーゼ基質(複数可)へのリコンビナーゼの結合が関与する。このプロセスの間、基質は切断され、DNA末端は鎖交換反応において再組織化され、その結果、DNA骨格の再連結が組換え産物を生じさせる。ほとんどの場合、セリンインテグラーゼは、単純なatt部位を使用する高度に効率的な不可逆的組換えを触媒している。
【0368】
高い効率の部位特異的リコンビナーゼを使用するために、ドッキング部位またはランディングパッドは、リコンビナーゼ基質結合部位のための付着部位、例えばatt部位を含む;またはFlp-FRTおよびCre-loxPなどの組換え系が、細胞系および/または動物系統の所望の遺伝子座において導入され得る。ターゲットゲノム中へのドッキングベクターのこの挿入は、ランダム組換えまたは相同組換えを介してのいずれかである。これは、連続ラウンドのプラスミド組み入れを可能にし、ここで、プラスミドまたはベクターは、異なる導入遺伝子および/またはさらなるDNA配列を含み得る。引き換えに、Flp/FRTなどの組換え系は、望まれないベクターおよびマーカー配列を除去するために使用され得る。
【0369】
(iv)トランスジェニック動物を生産するためのベクター
核酸ターゲティングベクター構築物は、細胞において相同組換えを達成するために設計され得る。一実施形態では、ターゲティングベクターは、プロモータートラップを使用して設計され、ここで、ターゲティングされた遺伝子座における組み入れは、導入遺伝子の挿入されたオープンリーディングフレームが、挿入された遺伝子(または挿入された選択可能マーカー;例えば、NeoもしくはPuro)の発現を駆動するために内因性または天然のプロモーターを利用することを可能にする。特定の実施形態では、ターゲティングベクターは、「ポリ(A)トラップ」を使用して設計される。プロモータートラップとは異なり、ポリ(A)トラップベクターは、ターゲット細胞(即ち、線維芽細胞またはES細胞)においては発現されないものを含む、より広いスペクトルの遺伝子を捕捉する。ポリAトラップベクターは、ポリAシグナルを欠く選択可能マーカー遺伝子の発現を駆動する構成的プロモーターを含む。ポリAシグナルを交換するのは、下流エクソン中にスプライスするように設計されたスプライスドナー部位である。この戦略では、選択可能マーカー遺伝子のmRNAは、ターゲット細胞におけるその発現状態に関わらず、内因性遺伝子のポリAシグナルのトラップの際に安定化され得る。一実施形態では、ポリアデニル化のためのシグナルを欠損した選択可能マーカーを含むターゲティングベクターが構築される。
【0370】
これらのターゲティングベクターは、トランスフェクション、形質転換、ウイルス媒介形質導入またはウイルスベクターによる感染が含まれるがこれらに限定されない任意の適切な方法によって哺乳動物細胞中に導入され得る。一実施形態では、ターゲティングベクターは、目的のゲノム配列に対して相同な3’組換えアームおよび5’組換えアーム(即ち、隣接配列)を含み得る。3’および5’組換えアームは、ゲノム配列の少なくとも1つの機能的領域の3’末端および5’末端に隣接するように設計され得る。機能的領域のターゲティングは、それを不活性にし得、機能的タンパク質を細胞が生産できないという結果をもたらす。別の実施形態では、相同DNA配列は、1または複数のイントロンおよび/またはエクソン配列を含み得る。核酸配列に加えて、発現ベクターは、選択可能マーカー配列、例えば、高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)遺伝子配列、開始および/もしくはエンハンサー配列、ポリA-テイル配列、ならびに/または原核生物宿主細胞および/もしくは真核生物宿主細胞における構築物の発現を提供する核酸配列などを含み得る。選択可能マーカーは、5’組換えアーム配列と3’組換えアーム配列との間に位置し得る。
【0371】
細胞のターゲティングされた遺伝子座の改変は、DNAを細胞中に導入することによって生産され得、ここで、このDNAは、ターゲット遺伝子座に対する相同性を有し、組み入れられた構築物を含む細胞の選択を可能にするマーカー遺伝子を含む。ターゲットベクター中の相同DNAは、ターゲット遺伝子座において染色体DNAと組み換わる。マーカー遺伝子の両方の側には、相同DNA配列、3’組換えアームおよび5’組換えアームが隣接し得る。ターゲティングベクターの構築のための方法は、当該分野で記載されてきた。例えば、Daiら、Nature Biotechnology 20巻:251~255頁、2002年;WO00/51424を参照のこと。かかる例では、選択可能マーカー遺伝子は、Neoのターゲティングされた挿入および発現(内因性ブタアルファGal遺伝子プロモーターをトラップし利用することによる)だけでなく、前記GGTA1触媒ドメインのターゲティングされた挿入および中断からのターゲット遺伝子座(例えば、GGTA1)の機能的不活性化も生じない、プロモーターなしネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(Neo)遺伝子であり得る。
【0372】
種々の酵素が、宿主ゲノム中への外来DNAの挿入を触媒できる。ウイルスインテグラーゼ、トランスポザーゼおよび部位特異的リコンビナーゼは、宿主ゲノム中へのウイルスゲノム、トランスポゾンまたはバクテリオファージの組み入れを媒介する。これらの特性を有する酵素の広範な収集は、広範な種々の供給源に由来し得る。レトロウイルスは、それらのゲノムの相対的な単純さ、使用の容易さおよび宿主細胞ゲノム中に組み入れられる能力を含むいくつかの有用な特色を組み合わせて、形質導入された細胞またはそれらの子孫における長期導入遺伝子発現を可能にする。したがって、これらは、多数の遺伝子療法プロトコールにおいて使用されてきた。レンチウイルスベクターに基づくベクターは、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルスまたはヒトサイトメガロウイルスなどのヘルパーウイルスと一緒に哺乳動物細胞において同時複製される小さいDNAウイルス(パルボウイルス)であるアデノ随伴ウイルスと同様、遺伝子療法適用およびトランスジェニック適用の両方のための魅力的な候補である。ウイルスゲノムは、たった2つのORF(rep、非構造タンパク質、およびcap、構造タンパク質)から本質的になり、そこから、(少なくとも)7つの異なるポリペプチドが、代替的スプライシングおよび代替的プロモーター用法によって誘導される。ヘルパーウイルスの存在下では、repタンパク質がAAVゲノムの複製を媒介する。組み入れ、およびしたがって潜伏ウイルス感染は、ヘルパーウイルスの非存在下で生じる。トランスポゾンもまた目的とされる。これらは、種々の生物において見出され得る可動性DNAのセグメントである。活性トランスポゾンは、多くの原核生物系および昆虫において見出されるが、機能的な天然のトランスポゾンは脊椎動物には存在しない。Drosophila Pエレメントトランスポゾンは、ゲノム工学操作ツールとして長年使用されてきた。スリーピングビューティートランスポゾンは、サケ科魚類において見出される非機能的トランスポゾンコピーから確立されたものであり、原核生物または昆虫のトランスポゾンよりも哺乳動物細胞において顕著に活性が高い。部位特異的リコンビナーゼは、限定的な程度の配列相同性しか有さないDNAセグメント間でのDNA鎖交換を触媒する酵素である。これらは、30ヌクレオチド長と200ヌクレオチド長との間の認識配列に結合し、DNA骨格を切断し、関与する2つのDNA二重らせんを交換し、DNAを再ライゲーションする。一部の部位特異的組換え系では、単一のポリペプチドが、これらの反応の全てを実施するのに十分であるが、他のリコンビナーゼは、これらの任務を果たすために、変動する数のアクセサリータンパク質を必要とする。部位特異的リコンビナーゼは、別個の生化学的特性を有する2つのタンパク質ファミリー、即ち、チロシンリコンビナーゼ(DNAがチロシン残基に共有結合される)およびセリンリコンビナーゼ(共有結合がセリン残基において生じる)にクラスター化され得る。ゲノム改変アプローチに使用される最も一般的な酵素は、Cre(E.coliバクテリオファージP1由来のチロシンリコンビナーゼ)およびphiC31インテグラーゼ(StreptomycesファージphiC31由来のセリンリコンビナーゼ)である。いくつかの他のバクテリオファージ由来の部位特異的リコンビナーゼ(Flp、ラムダインテグラーゼ、バクテリオファージHK022リコンビナーゼ、バクテリオファージR4インテグラーゼおよびファージTP901-1インテグラーゼ、ならびにbxb1インテグラーゼが含まれる)が、哺乳動物ゲノム中への安定な遺伝子挿入を媒介するために首尾よく使用されてきた。最近、部位特異的リコンビナーゼが、Streptomycesバクテリオファージから精製された。phiC31リコンビナーゼは、リゾルバーゼファミリーのメンバーであり、ファージ組み入れを媒介する。このプロセスでは、バクテリオファージattP部位は、細菌ゲノム中の対応するattB部位と組み換わる。交叉は2つの部位attLおよびattRを生成し、これらはもはや、アクセサリータンパク質の非存在下では、リコンビナーゼ作用のためのターゲットではない。この反応は、哺乳動物細胞においても生じ、したがって、治療的遺伝子の部位特異的組み入れを媒介するために使用され得る。チロシンリコンビナーゼの部位特異性は、直接的なタンパク質工学操作によって改変することが困難であったが、それは、触媒ドメインおよびDNA認識ドメインが密接に混ざり合っているからである。したがって、特異性における変化は、活性の喪失をしばしば伴う。セリンリコンビナーゼは、工学操作により従順であり得、Tn3リゾルバーゼの高活性誘導体は、天然のDBDをヒトジンクフィンガー転写因子Zif268のジンクフィンガードメインに交換することによって改変されてきた。Z-リゾルバーゼと呼ばれる得られたキメラタンパク質のDNA部位特異性は、Zif268のものに切り替わっている。ジンクフィンガータンパク質は、任意のDNA配列を認識するようにin vitroタンパク質進化によって改変され得、したがって、このアプローチは、正確なゲノム位置に治療的遺伝子を組み入れることができるキメラリコンビナーゼの開発を可能にできる。組換えを増強または媒介するための方法には、部位特異的組換えおよび相同組換えの組合せ、AAV-ベクター媒介組換え、ならびにジンクフィンガーヌクレアーゼ媒介組換えが含まれる(参考:Geurtsら、Science、325巻:433頁、2009年)。
【0373】
用語「ベクター」とは、本明細書で使用する場合、挿入された核酸に有用な生物学的特性または生化学的特性を提供する核酸分子(好ましくはDNA)を指す。本発明に従う「発現ベクター」には、細胞中へのベクターの形質転換の際に、ベクター中に挿入またはクローニングされた1または複数の分子の発現を増強することが可能なベクターが含まれる。かかる発現ベクターの例には、ファージ、自律複製配列(ARS)、セントロメア、およびin vitroでもしくは細胞中で複製できるもしくは複製され得るか、または動物の細胞内の所望の位置に所望の核酸セグメントを運搬することができる他の配列が含まれる。本発明において有用な発現ベクターには、染色体由来、エピソーム由来およびウイルス由来のベクター、例えば、細菌プラスミドもしくはバクテリオファージに由来するベクター、ならびにそれらの組合せに由来するベクター、例えば、コスミドおよびファージミド、またはウイルスベースのベクター、例えば、アデノウイルス、AAV、レンチウイルスが含まれる。ベクターは、ベクターの本質的な生物学的機能の喪失なしに決定可能な様式で配列が切断され得、その複製およびクローニングをもたらすために核酸断片がスプライスされ得る、1または複数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位を有し得る。ベクターは、例えばPCRのためのプライマー部位、転写および/または翻訳の開始および/または調節部位、組換えシグナル、レプリコン、選択可能マーカーなどをさらに提供できる。明らかに、相同組換え、転位または制限酵素の使用を必要としない、所望の核酸断片を挿入する方法(例えば、PCR断片のUDGクローニング(米国特許第5,334,575号)、TA Cloning.RT-PCR、クローニング(Invitrogen Corp.、Carlsbad、Calif.)であるがこれらに限定されない)は、本発明に従って使用されるベクター中に核酸をクローニングするためにも適用され得る。
【0374】
ターゲティングされた遺伝子座においてホモ接合性の細胞は、DNAを細胞中に導入することによって生産され得、ここで、このDNAは、ターゲット遺伝子座に対する相同性を有し、組み入れられた構築物を含む細胞の選択を可能にするマーカー遺伝子を含む。ターゲットベクター中の相同DNAは、ターゲット遺伝子座において染色体DNAと組み換わる。マーカー遺伝子の両方の側には、相同DNA配列、3’組換えアームおよび5’組換えアームが隣接し得る。ターゲティングベクターの構築のための方法は、当該分野で記載されてきた。例えば、Daiら(2002年)Nature Biotechnology 20巻:251~255頁;WO00/51424、
図6;およびGene Targeting: A Practical Approach. Joyner, A. Oxford University Press、USA;第2版、2000年2月15日を参照のこと。
【0375】
種々の構築物が、ターゲット遺伝子座における相同組換えのために調製され得る。通常、構築物は、ターゲット遺伝子座と相同な少なくとも25bp、50bp、100bp、500bp、1kbp、2kbp、4kbp、5kbp、10kbp、15kbp、20kbpまたは50kbpの配列を含み得る。
【0376】
種々の検討事項、例えば、ターゲット遺伝子座のサイズ、配列の入手可能性、ターゲット遺伝子座における二重交叉事象の相対的効率、およびターゲット配列と他の配列との類似性などが、ターゲットDNA配列の相同性の程度を決定する際に関与し得る。ターゲティングDNAは、改変されるゲノム中の対応するターゲット配列と実質的に同質遺伝子的なDNAが所望の配列改変に隣接する配列を含み得る。実質的に同質遺伝子的な配列は、対応するターゲット配列(所望の配列改変を除く)に対して少なくとも約95%、97~98%、99.0~99.5%、99.6~99.9%または100%同一であり得る。ターゲティングDNAおよびターゲットDNAは、好ましくは、100%同一である少なくとも約75、150または500塩基対のDNAのストレッチを共有し得る。したがって、ターゲティングDNAは、ターゲット化されている細胞系と密接に関連する細胞に由来し得る;またはターゲティングDNAは、ターゲット化されている細胞と同じ細胞系または動物の細胞に由来し得る。
【0377】
適切な選択可能マーカー遺伝子には、特定の培地基質上で増殖する能力を付与する遺伝子、例えば、tk遺伝子(チミジンキナーゼ)、またはHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン)上で増殖する能力を付与するhprt遺伝子(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ);MAX培地(ミコフェノール酸、アデニンおよびキサンチン)上での増殖を可能にする細菌gpt遺伝子(グアニン/キサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ)が含まれるがこれらに限定されない。Songら(1987年)Proc. Nat'l Acad. Sci. U.S.A. 84巻:6820~6824頁を参照のこと。Sambrookら(1989年)Molecular Cloning--A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.もまた参照のこと、第16章参照。選択可能マーカーの他の例には、抗生物質などの化合物に対する耐性を付与する遺伝子、選択された基質上で増殖する能力を付与する遺伝子、発光などの検出可能なシグナルを生じるタンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質、高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)をコードする遺伝子が含まれる。例えば、抗生物質耐性遺伝子、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子(neo)(Southern, P.およびP. Berg、(1982年)J. Mol. Appl. Genet. 1巻:327~341頁);ならびにハイグロマイシン耐性遺伝子(hyg)(Nucleic Acids Research 11巻:6895~6911頁(1983年)およびTe Rieleら(1990年)Nature 348巻:649~651頁)を含む、広範な種々のかかるマーカーが公知であり利用可能である。本発明の方法において有用なさらなるレポーター遺伝子には、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(AHAS)、アルカリホスファターゼ(AP)、ベータガラクトシダーゼ(LacZ)、ベータグルクロニダーゼ(GUS)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ルシフェラーゼ(Luc)、ノパリンシンターゼ(NOS)、オクトピンシンターゼ(OCS)、およびそれらの誘導体が含まれる。アンピシリン、ブレオマイシン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、リンコマイシン、ブラストサイジン、ゼオシン、メトトレキサート、ホスフィノトリシン、ピューロマイシンおよびテトラサイクリンに対する耐性を付与する複数の選択可能マーカーが利用可能である。レポーター遺伝子の抑制を決定するための方法は、当該分野で周知であり、蛍光定量的方法(例えば、蛍光分光法、蛍光活性化細胞分取(FACS)、蛍光顕微鏡)、抗生物質耐性決定が含まれるがこれらに限定されない。
【0378】
選択可能マーカーの組合せもまた使用され得る。マーカーの組合せを使用するために、HSV-tk遺伝子が、ターゲティングDNAの外側になるようにクローニングされ得る(別の選択可能マーカーが、所望に応じて反対の側面に配置され得る)。ターゲティングされる細胞中にDNA構築物を導入した後、それらの細胞は、適切な抗生物質上で選択され得る。選択可能マーカーは、陰性選択にも使用され得る。陰性選択マーカーは一般に、それらが発現される細胞を死滅させるが、それは、発現が、それ自体毒性であるから、または単純ヘルペスウイルスI型チミジンキナーゼ(HSV-tk)もしくはジフテリア毒素Aなどの毒性代謝物をもたらす触媒を生産するからのいずれかである。一般に、陰性選択マーカーは、正確な組換え事象後に失われるように、ターゲティングベクター中に組み込まれる。同様に、GFPなどの従来の選択可能マーカーが、例えば、FACS分取を使用する陰性選択に使用され得、細胞表面上で顕著なレベルで発現される場合、選択された導入遺伝子の挿入は、機能の獲得または喪失についての「選択可能マーカー」として機能し得る。選択ツールとしての、挿入またはターゲティングされた導入遺伝子の使用は、付加された蛍光マーカー(例えば、GFP、RFP)または抗生物質選択遺伝子の使用なしの陽性選択を可能にする。ある特定の場合には、導入遺伝子のターゲティングされた挿入は、ターゲット遺伝子座を不活性化し得、その結果、機能の喪失が、以下についてモニタリングまたは選択され得る、例えば、GGTA1遺伝子座の不活性化は、レクチン(IB4)へのターゲティングされた細胞の結合を排除もしくは低減させるか、またはB4GalNT2の不活性化は、DBAレクチンによるターゲティングされた細胞の結合を排除もしくは低減させ、各場合において、ターゲティングされた組み入れは、かかるレクチン結合を欠く細胞について分取され得るか、またはかかる細胞において富化され得る。
【0379】
欠失は、少なくとも約50bp、より通常は少なくとも約100bp、そして一般には約20kbp以下であり得、ここで、欠失は、エクソンの一部分または1つもしくは複数、イントロンの一部分または1つもしくは複数を含むコード領域の少なくとも一部分を通常は含み得、隣接する非コード領域、特に、5-非コード領域(転写調節領域)の一部分を含んでも含まなくてもよい。したがって、相同領域は、5’-非コード領域中に、あるいは3-非コード領域中へと、コード領域を超えて延び得る。挿入は一般に、10kbpを超え得ず、通常は5kbpを超え得ず、一般には少なくとも50bp、より通常は少なくとも200bpである。
【0380】
相同性の領域(複数可)は、突然変異を含み得、ここで、突然変異は、フレームシフトを提供する際、もしくは重要なアミノ酸を変化させる際にターゲット遺伝子をさらに不活性化し得るか、または突然変異は、機能不全性の対立遺伝子などを修正できる。通常、突然変異は、相同な隣接配列の約5%を超えないか、またはさらにはエクソンの活性部位における点突然変異などの単一ヌクレオチド変化の、僅かな変化であり得る。遺伝子の突然変異が所望される場合、マーカー遺伝子は、転写の際にターゲット遺伝子から切除されるように、イントロン中に挿入され得る。
【0381】
種々の検討事項、例えば、ターゲット遺伝子座のサイズ、配列の入手可能性、ターゲット遺伝子座における二重交叉事象の相対的効率、およびターゲット配列と他の配列との類似性などが、ターゲットDNA配列の相同性の程度を決定する際に関与し得る。ターゲティングDNAは、改変されるゲノム中の対応するターゲット配列と実質的に同質遺伝子的なDNAが所望の配列改変に隣接する配列を含み得る。実質的に同質遺伝子的な配列は、対応するターゲット配列(所望の配列改変を除く)に対して、少なくとも約95%、もしくは少なくとも約97%もしくは少なくとも約98%もしくは少なくとも約99%または95%と100%との間、97~98%、99.0~99.5%、99.6~99.9%もしくは100%同一であり得る。特定の実施形態では、ターゲティングDNAおよびターゲットDNAは、100%同一である少なくとも約75、150または500塩基対のDNAのストレッチを共有し得る。したがって、ターゲティングDNAは、ターゲット化されている細胞系と密接に関連する細胞に由来し得る;またはターゲティングDNAは、ターゲット化されている細胞と同じ細胞系または動物の細胞に由来し得る。
【0382】
構築物は、当該分野で公知の方法に従って調製され得、種々の断片が一緒にされ得、適切なベクター中に導入され得、クローニングされ得、分析され得、次いで、所望の構築物が達成されるまでさらに操作され得る。種々の改変が、制限分析、切除、プローブの同定などを可能にするために、配列に対してなされ得る。サイレント突然変異が、所望に応じて導入され得る。種々の段階で、制限分析、配列決定、ポリメラーゼ連鎖反応による増幅、プライマー修復、in vitro突然変異誘発などが使用され得る。
【0383】
構築物は、原核生物複製系、例えば、E.coliによって認識可能な起点を含む細菌ベクターを使用して調製され得、各段階において、構築物は、クローニングおよび分析され得る。挿入に使用されるマーカーと同じまたは異なるマーカーが使用され得、これは、ターゲット細胞中への導入の前に除去され得る。構築物を含むベクターが一旦完成されると、これは、例えば、細菌配列の欠失、直鎖化、相同配列中の短い欠失の導入によって、さらに操作され得る。最終操作後、構築物は細胞中に導入され得る。
【0384】
宿主細胞中へのDNAまたはRNA構築物の進入を可能にするために使用され得る技術には、リン酸カルシウム/DNA共沈殿、核中へのDNAのマイクロインジェクション、エレクトロポレーション、インタクトな細胞との細菌プロトプラスト融合、トランスフェクション、リポフェクション、感染、微粒子銃、または当業者に公知の任意の他の技術が含まれる。DNAまたはRNAは、一本鎖または二本鎖、直鎖または環状、ほどけたまたはスーパーコイルのDNAであり得る。哺乳動物細胞をトランスフェクトするための種々の技術については、例えば、Keownら、Methods in Enzymology 185巻、527~537頁(1990年)を参照のこと。
【0385】
以下のベクターは例として提供される。細菌:pBs、pQE-9(Qiagen)、phagescript、PsiX174、pBluescript SK、pBsKS、pNH8a、pNH16a、pNH18a、pNH46a(Stratagene);pTrc99A、pKK223-3、pKK233-3、pDR54O、pRIT5(Pharmacia)。真核生物:pWLneo、pSv2cat、pOG44、pXT1、pSG(Stratagene)pSVK3、pBPv、pMSG、pSVL(Pharmiacia)。また、任意の他のプラスミドおよびベクターが、宿主において複製可能かつ生存可能である限り、使用され得る。当該分野で公知のベクターおよび市販のベクター(およびそれらのバリアントまたは誘導体)が、本発明に従って、本発明の方法における使用のための1または複数の組換え部位を含むように工学操作され得る。かかるベクターは、例えば、Vector Laboratories Inc.、Invitrogen、Promega、Novagen、NEB、Clontech、Boehringer Mannheim、Pharmacia、EpiCenter、OriGenes Technologies Inc.、Stratagene、PerkinElmer、PharmingenおよびResearch Geneticsから取得され得る。目的の他のベクターには、真核生物発現ベクター、例えば、pFastBac、pFastBacHT、pFastBacDUAL、pSFVおよびpTet-Splice(Invitrogen)、pEUK-C1、pPUR、pMAM、pMAMneo、pBI101、pBI121、pDR2、pCMVEBNAおよびpYACneo(Clontech)、pSVK3、pSVL、pMSG、pCH110およびpKK232-8(Pharmacia,Inc.)、p3’SS、pXT1、pSG5、pPbac、pMbac、pMC1neoおよびpOG44(Stratagene,Inc.)、ならびにpYES2、pAC360、pBlueBacHis A、BおよびC、pVL1392、pBlueBaclll、pCDM8、pcDNA1、pZeoSV、pcDNA3 pREP4、pCEP4およびpEBVHis(Invitrogen,Corp.)、ならびにそれらのバリアントまたは誘導体が含まれる。
【0386】
他のベクターには、pUC18、pUC19、pBlueScript、pSPORT、コスミド、ファージミド、YAC(酵母人工染色体)、BAC(細菌人工染色体)、P1(Escherichia coliファージ)、pQE70、pQE60、pQE9(quagan)、pBSベクター、PhageScriptベクター、BlueScriptベクター、pNH8A、pNH16A、pNH18A、pNH46A(Stratagene)、pcDNA3(Invitrogen)、pGEX、pTrsfus、pTrc99A、pET-5、pET-9、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、pRIT5(Pharmacia)、pSPORT1、pSPORT2、pCMVSPORT2.0およびpSY--SPORT1(Invitrogen)ならびにそれらのバリアントまたは誘導体が含まれる。レンチウイルスベクターなどのウイルスベクターもまた使用され得る(例えば、WO03/059923;Tiscorniaら PNAS 100巻:1844~1848頁(2003年)を参照のこと)。
【0387】
目的のさらなるベクターには、InvitrogenのpTrxFus、pThioHis、pLEX、pTrcHis、pTrcHis2、pRSET、pBlueBacHis2、pcDNA3.1/His、pcDNA3.1(-)/Myc-His、pSecTag、pEBVHis、pPIC9K、pPIC3.5K、pAO81S、pPICZ、pPICZA、pPICZB、pPICZC、pGAPZA、pGAPZB、pGAPZC、pBlueBac4.5、pBlueBacHis2、pMelBac、pSinRep5、pSinHis、pIND、pIND(SP1)、pVgRXR、pcDNA2.1、pYES2、pZErO1.1、pZErO-2.1、pCR-Blunt、pSE280、pSE380、pSE420、pVL1392、pVL1393、pCDM8、pcDNA1.1、pcDNA1.1/Amp、pcDNA3.1、pcDNA3.1/Zeo、pSe、SV2、pRc/CMV2、pRc/RSV、pREP4、pREP7、pREP8、pREP9、pREP10、pCEP4、pEBVHis、pCR3.1、pCR2.1、pCR3.1-UniおよびpCRBac;PharmaciaのλExCell、λgt11、pTrc99A、pKK223-3、pGEX-1λT、pGEX-2T、pGEX-2TK、pGEX-4T-1、pGEX-4T-2、pGEX-4T-3、pGEX-3X、pGEX-5X-1、pGEX-5X-2、pGEX-5X-3、pEZZ18、pRIT2T、pMC1871、pSVK3、pSVL、pMSG、pCH110、pKK232-8、pSL1180、pNEOおよびpUC4K;NovagenのpSCREEN-1b(+)、pT7Blue(R)、pT7Blue-2、pCITE-4-abc(+)、pOCUS-2、pTAg、pET-32L1C、pET-30LIC、pBAC-2 cp LIC、pBACgus-2 cp LIC、pT7Blue-2 LIC、pT7Blue-2、λSCREEN-1、λBlueSTAR、pET-3abcd、pET-7abc、pET9abcd、pET11 abcd、pET12abc、pET-14b、pET-15b、pET-16b、pET-17b-pET-17xb、pET-19b、pET-20b(+)、pET-21abcd(+)、pET-22b(+)、pET-23abcd(+)、pET-24abcd(+)、pET-25b(+)、pET-26b(+)、pET-27b(+)、pET-28abc(+)、pET-29abc(+)、pET-30abc(+)、pET-31b(+)、pET-32abc(+)、pET-33b(+)、pBAC-1、pBACgus-1、pBAC4x-1、pBACgus4x-1、pBAC-3 cp、pBACgus-2 cp、pBACsurf-1、plg、Signal plg、pYX、Selecta Vecta-Neo、Selecta Vecta-HygおよびSelecta Vecta-Gpt;ClontechのpLexA、pB42AD、pGBT9、pAS2-1、pGAD424、pACT2、pGAD GL、pGAD GH、pGAD10、pGilda、pEZM3、pEGFP、pEGFP-1、pEGFP--N、pEGFP-C、pEBFP、pGFPuv、pGFP、p6xHis-GFP、pSEAP2-Basic、pSEAP2-Contral、pSEAP2-Promoter、pSEAP2-Enhancer、pβgal-Basic、pβgal-Control、pβgal-Promoter、pβgal-Enhancer、pCMV、pTet-Off、pTet-On、pTK-Hyg、pRetro-Off、pRetro-On、pIRES1neo、pIRES1hyg、pLXSN、pLNCX、pLAPSN、pMAMneo、pMAMneo-CAT、pMAMneo-LUC、pPUR、pSV2neo、pYEX4T-1/2/3、pYEX-S1、pBacPAK-His、pBacPAK8/9、pAcUW31、BacPAK6、pTrip1Ex、2λgt10、λgt11、pWE15およびλTrip1Ex;StratageneのλZAP II、pBK-CMV、pBK-RSV、pBluescript II KS+/-、pBluescript II SK+/-、pAD-GAL4、pBD-GAL4 Cam、pSurfscript、λFIX II、λDASH、λEMBL3、λEMBL4、SuperCos、pCR-Scrigt Amp、pCR-Script Cam、pCR-Script Direct、pBS+/-、pBC KS+/-、pBC SK+/-、Phagescript、pCAL-n-EK、pCAL-n、pCAL-c、pCAL-kc、pET-3abcd、pET-11abcd、pSPUTK、pESP-1、pCMVLacI、pOPRSVI/MCS、pOPI3 CAT、pXT1、pSG5、pPbac、pMbac、pMC1neo、pMC1neo Poly A、pOG44、pOG45、pFRTβGAL、pNEOβGAL、pRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pRS413、pRS414、pRS415およびpRS416が含まれる。
【0388】
さらなるベクターには、例えば、pPC86、pDBLeu、pDBTrp、pPC97、p2.5、pGAD1-3、pGAD10、pACt、pACT2、pGADGL、pGADGH、pAS2-1、pGAD424、pGBT8、pGBT9、pGAD-GAL4、pLexA、pBD-GAL4、pHISi、pHISi-1、placZi、pB42AD、pDG202、pJK202、pJG4-5、pNLexA、pYESTrpおよびそれらのバリアントまたは誘導体が含まれる。
【0389】
例示的実施形態では、ベクターは、二シストロンベクターである。二シストロンベクターは、1つのプロモーターと2つの導入遺伝子とを含む。特定の実施形態では、二シストロンベクターは、1つのプロモーターと、2A配列によって連結された2つの導入遺伝子とを含む。この実施形態は、単一転写物からの複数の機能的導入遺伝子の同時発現を可能にする。より具体的には、この実施形態は、短い(18~24aa)切断ペプチド「2A」を利用し、これは、単一転写物2Aベクター系から機能的導入遺伝子を発現するように、連結されたオープンリーディングフレームの同時発現を可能にする。
【0390】
例示的実施形態では、ベクターは、多シストロンベクター(MCV)である。一実施形態では、MCVは、1つのプロモーターと少なくとも4つの導入遺伝子とを含む。特定の実施形態では、MCVは、少なくとも2つのプロモーターの制御下に、2Aペプチド配列によって連結された4つの導入遺伝子を含む。この実施形態は、単一転写物からの複数の機能的導入遺伝子の同時発現を可能にする。より具体的には、この実施形態は、短い(18~24aa)切断ペプチド「2A」を利用し、これは、単一転写物2Aベクター系から機能的導入遺伝子を発現するように、連結されたオープンリーディングフレームの同時発現を可能にする。
【0391】
例示的実施形態では、ベクターは、少なくとも2つの二シストロン単位を含む2A-ペプチドMCVベクターであり、各二シストロン単位は、2つの導入遺伝子を含む。特定の実施形態では、1つの二シストロン単位は、構成的または遍在プロモーター(例えば、CAG)によって制御され、第2の二シストロン単位は、内皮もしくは他の組織特異的または誘導可能なプロモーター系によって制御される。ある特定の実施形態では、少なくとも4つの導入遺伝子だけが、単一の遺伝子座において挿入されるが、各々は、それ自体のプロモーターによって、または単一の遺伝子座挿入当たり合計で少なくとも2つのプロモーターによって制御される。
【0392】
例示的実施形態では、ベクターは、少なくとも2つの抗凝固因子、より特には、少なくとも3つの抗凝固因子を含む4-遺伝子MCVである。
【0393】
例示的実施形態では、ベクターは、少なくとも2つの抗凝固因子および1つの補体阻害因子、より特には、3つの抗凝固因子および1つの補体阻害因子を含む4-遺伝子MCVベクターである。
【0394】
例示的実施形態では、ベクターは、2つの抗凝固因子、1つの補体阻害因子および1つの免疫抑制因子を含む4-遺伝子MCVベクターである。
【0395】
プロモーター
本発明の動物を生産するために使用されるベクター構築物は、配列に作動可能に連結したプロモーター-エンハンサー配列が含まれるがこれらに限定されない調節配列、「2A」ペプチドテクノロジーおよびドッキングベクターを含み得る。多数の適切なベクターおよびプロモーターが当業者に公知であり、市販されている。
【0396】
具体的実施形態では、本発明は、内皮細胞において(第2の同じまたは異なるプロモーターの制御下にある少なくとも1つの導入遺伝子と組み合わせて)少なくとも1つの導入遺伝子を、より特には、内皮細胞において少なくとも2つ、少なくとも3つまたは少なくとも4つの導入遺伝子を発現する、動物、組織および細胞を提供する。発現を特定の組織にターゲティングするために、動物が、内皮細胞発現に特異的なプロモーターを含むベクターを使用して開発される。特定の実施形態では、発現は、主に内皮におけるプロモーター活性によって制御される。
【0397】
一実施形態では、核酸構築物は、発現される導入遺伝子配列に作動可能に連結した調節配列を含む。一実施形態では、この調節配列はプロモーター配列であり得る。一実施形態では、このプロモーターは調節可能プロモーターであり得る。かかる系では、薬物は、例えば、動物、組織または器官においてペプチドが発現されるかどうかを調節するために使用され得る。例えば、発現は、器官または組織がブタの一部である間には防止され得るが、細胞性免疫応答を克服するために一定期間にわたってブタがヒトに移植されると、発現が誘導される。さらに、発現のレベルは、レシピエントの免疫系の免疫抑制が生じないことを確実にするために、調節可能プロモーター系によって制御され得る。調節可能プロモーター系は、以下の遺伝子系から選択され得るがこれらに限定されない:銅などの金属によって誘導可能なメタロチオネインプロモーター(LichtlenおよびSchaffner、Swiss Med. Wkly.、2001年、131巻(45~46号):647~52頁を参照のこと);テトラサイクリン調節される系(Imhofら、J Gene Med.、2000年、2巻(2号):107~16頁を参照のこと);エクジソン調節される系(Saezら、Proc Natl Acad Sci USA.、2000年、97巻(26号):14512~7頁を参照のこと);チトクロムP450誘導可能なプロモーター、例えば、CYP1A1プロモーター(Fujii-Kuriyamaら、FASEB J.、1992年、6巻(2号):706~10頁を参照のこと);ミフェプリストン誘導可能な系(SirinおよびPark、Gene.、2003年、323巻:67~77頁を参照のこと);クマリンに活性化される系(Zhaoら、Hum Gene Ther.、2003年、14巻(17号):1619~29頁を参照のこと);マクロライド誘導可能な系(ラパマイシン、エリスロマイシン、クラリスロマイシンおよびロキシスロマイシン(roxitiromycin)などのマクロライド抗生物質に対して応答性)(Weberら、Nat Biotechnol.、2002年、20巻(9号):901~7頁;Wangら、Mol Ther.、2003年、7巻(6号):790~800頁を参照のこと);エタノール誘導される系(Garoosiら、J Exp Bot.、2005年、56巻(416号):163542頁;Robertsら、Plant Physiol.、2005年、138巻(3号):1259~67頁を参照のこと);ストレプトグラミン誘導可能な系(Fusseneggerら、Nat Biotechnol.、2000年18巻(11号):1203~8頁を参照のこと);求電子剤誘導可能な系(ZhuおよびFahl、Biochem Biophys Res Commun.、2001年、289巻(1号):212~9頁を参照のこと);ニコチン誘導可能な系(Malphettesら、Nucleic Acids Res.、2005年、33巻(12号):e107頁を参照のこと)、免疫誘導可能なプロモーター、サイトカイン応答プロモーター(例えば、IFN-ガンマ、TNF-アルファ、IL-1、IL-6またはTGF-ベータ(または他の二次的経路)によって誘導され、したがって、免疫応答もしくは炎症応答と関連して、または免疫応答もしくは炎症応答に応答して、スイッチがオンになり得るか、または上方調節され得る、プロモーター)。
【0398】
特定の実施形態では、二シストロンベクターは、2つの導入遺伝子と、主に内皮細胞において活性である1つのプロモーター、または全ての器官、組織および細胞において導入遺伝子を遍在性に発現する1つの構成的プロモーターとを含む。他の実施形態では、多シストロンベクター(MCV)中の少なくとも4つの導入遺伝子は、少なくとも2つのプロモーターの制御下にある。これらのプロモーターは、外因性、天然、または外因性および天然の両方の組合せであり得る。
【0399】
特定の実施形態では、二シストロンベクターは、2つの導入遺伝子と、全ての器官、組織および細胞において導入遺伝子を遍在性に発現する1つの構成的プロモーターとを含む。
特定の実施形態では、二シストロンベクターは、2つの導入遺伝子と、器官、組織および細胞における発現を制御する1つの組織特異的プロモーターとを含む。
【0400】
例示的実施形態では、ベクターは、1つの内皮特異的プロモーターの制御下にある少なくとも2つの抗凝固因子を含む4-遺伝子MCVである。
【0401】
例示的実施形態では、ベクターは、1つの構成的プロモーターの制御下にある少なくとも1つの補体阻害因子導入遺伝子と、内皮細胞特異的プロモーターの制御下の少なくとも1つの抗凝固因子導入遺伝子とを含む4-遺伝子MCVである。
【0402】
例示的実施形態では、ベクターは、1つの構成的プロモーターの制御下にある少なくとも1つの補体阻害因子導入遺伝子と、第2の構成的プロモーターの制御下にある少なくとも1つの抗凝固因子遺伝子とを含む4-遺伝子MCVである。
【0403】
例示的実施形態では、ベクターは、1つの内皮細胞プロモーターの制御下の1つの抗凝固因子導入遺伝子および1つの免疫抑制因子導入遺伝子を含む4-遺伝子MCVベクターである。
【0404】
例示的実施形態では、ベクターは、少なくとも2つの別々のプロモーターの制御下にある合計2つの遺伝子を含む2-遺伝子MCVベクターである;または選択された実施形態では、それ自体のプロモーターを各々が有し、単一の遺伝子座へと全て組み入れられる、一連の複数の導入遺伝子を有するベクターである。
【0405】
他の実施形態では、エンハンサーエレメントが、組織特異的様式で導入遺伝子の増加した発現を促進するために、核酸構築物において使用される。エンハンサーは、遺伝子転写の効率を大幅に変更する外側のエレメントである(Molecular Biology of the Gene、第4版、708~710頁、Benjamin Cummings Publishing Company、Menlo Park、Calif.(著作権)1987年)。特定の実施形態では、pdx-1エンハンサー(IPF-1、STF-1およびIDX1としても公知(Gerrish Kら、Mol. Endocrinol.、2004年、18巻(3号):533頁;Ohlssonら、EMBO J. 1993年11月、12巻(11号):4251~9頁;Leonardら、Mol. Endocrinol.、1993年、7巻(10号):1275~83頁;Millerら、EMBO J.、1994年、13巻(5号):1145~56頁;Serupら、Proc Natl Acad Sci USA.、1996年、93巻(17号):9015~20頁;Melloulら、Diabetes.、2002年、51巻補遺3:S320~5頁;Glickら、J Biol Chem.、2000年、275巻(3号):2199~204頁;GenBank AF334615.))が、導入遺伝子(複数可)の膵臓特異的発現のために、ins2プロモーターと組み合わせて使用される。ある特定の実施形態では、動物は、エンハンサーエレメントと組み合わせたプロモーターの制御下で導入遺伝子を発現する。特定の実施形態では、動物は、内皮特異的プロモーター、例えば、ブタICAM-2またはマウスTie-2プロモーターを含み、エンハンサーエレメント(例えば、マウスTie-2エンハンサーまたはCMVエンハンサー)をさらに含む。他の実施形態では、プロモーターは、エンハンサーエレメントをさらに含む遍在プロモーターエレメントであり得る。特定のエレメントでは、遍在プロモーターは、内皮特異的Tie-2エンハンサーエレメントと組み合わせて使用されるCAG(CMVエンハンサー、ニワトリベータ-アクチンプロモーター、ウサギベータ-グロビンイントロン)(Tie2-CAG)である。Tie2-CAGについて、導入遺伝子(複数可)は、構成的様式または遍在性様式の両方で発現されると予測されるが、内皮細胞では、他の身体細胞に対して、さらに高いレベルで発現されると予測される。一部の実施形態では、プロモーターは、そのプロモーターと内因的に関連するか、または同時局在するDNAの非コード領域またはイントロン領域であるエンハンサーエレメントと組み合わせて使用される。別の具体的実施形態では、エンハンサーエレメントは、ICAM-2プロモーターと組み合わせて使用されるICAM-2である。他の遍在プロモーターには、以下が含まれるがこれらに限定されない:ウイルスプロモーター、例えば、CMVおよびSV40、またニワトリベータアクチンおよびガンマ-アクチンプロモーター、GAPDHプロモーター、H2K、CD46プロモーター、GGTA1、ユビキチンならびにROSAプロモーター。
【0406】
(v)遺伝子改変された細胞の選択
一部の場合には、トランスジェニック細胞は、細胞ゲノム中へのターゲティングされた導入遺伝子の挿入または組み入れ(即ち、相同組換えを介した)の結果である遺伝子改変を有する。一部の場合には、トランスジェニック細胞は、細胞ゲノム中への非ターゲティング化(ランダム)組み入れの結果である遺伝子改変を有する。これらの細胞は、適切な組み入れを提供する細胞を同定するために、適切に選択された培地において増殖され得る。次いで、所望の表現型を示す細胞は、制限分析、電気泳動、サザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応、または当該分野で公知の別の技術によってさらに分析され得る。ターゲット遺伝子部位において適切な挿入を示す(または非ターゲティング化適用では、ランダム組み入れ技術が所望の結果を生じた)断片を同定することによって、ターゲット遺伝子を不活性化または他の方法で改変するような相同組換え(または所望の非ターゲティング化組み入れ事象)が生じた細胞が同定され得る。
【0407】
選択可能マーカー遺伝子または他の陽性選択剤または導入遺伝子の存在は、宿主ゲノム中へのターゲット構築物の組み入れを立証する。次いで、所望の表現型を示す細胞は、相同組換えが生じたのか非相同組換えを生じたのかを立証するために、DNAを分析するために制限消化分析、電気泳動、サザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応などによってさらに分析され得る。これは、挿入物に対するプローブを使用し、次いで、構築物の隣接領域を超えて延びる遺伝子の存在についてこの挿入物に隣接する5’領域および3’領域を配列決定することによって、または欠失が導入される場合にはかかる欠失の存在を同定することによって決定され得る。構築物内の配列に対して相補的なプライマー、および構築物の外側の、ターゲット遺伝子座における配列に対して相補的なプライマーもまた使用され得る。この方法では、相同組換えが生じた場合、相補鎖中に存在するプライマーの両方を有するDNA二重鎖のみを取得することができる。例えば、プライマー配列または予測されたサイズの配列の存在を実証することによって、相同組換えの発生が支持される。
【0408】
相同組換え事象をスクリーニングするために使用されるポリメラーゼ連鎖反応は、KimおよびSmithies、(1988年)Nucleic Acids Res. 16巻:8887~8903頁;ならびにJoynerら(1989年)Nature 338巻:153~156頁に記載されている。
【0409】
第1ラウンドのターゲティングから(またはゲノム中への非ターゲティング化(ランダム)組み入れから)取得される細胞系は、組み入れられた対立遺伝子についてヘテロ接合性である可能性が高い。両方の対立遺伝子が改変されたホモ接合性は、いくつかの方法で達成され得る。1つのアプローチは、1コピーが改変されたいくつかの細胞を増殖させること、および次いで、異なる選択可能マーカーを使用する別のラウンドのターゲティング(または非ターゲティング化(ランダム)組み入れ)にこれらの細胞を供することである。あるいは、ホモ接合体は、改変された対立遺伝子についてヘテロ接合性の動物を交配させることによって取得され得る。一部の状況では、2つの異なる改変された対立遺伝子を有することが望まれ得る。これは、連続ラウンドの遺伝子ターゲティング(またはランダム組み入れ)によって、またはその各々が所望の改変された対立遺伝子のうち1つを有するヘテロ接合体を交配させることによって達成され得る。効率的なターゲティングされた二本鎖切断によるゲノム編集の事象は、頻繁な二対立遺伝子遺伝子ターゲティング事象を可能にし、その結果、単一のトランスフェクション(または胚もしくは接合体ターゲティング戦略)において、ホモ接合性ノックアウトまたはノックイン事象が、高頻度で達成され得る。かかる遺伝子編集増強された(例えば、Crispr-CAS9ヌクレアーゼ)遺伝子ターゲティングまたは相同性依存性修復事象は、一対立遺伝子またはヘテロ接合性ノックアウトと二対立遺伝子またはホモ接合性ノックアウトとの両方(小さいヌクレオチド挿入、欠失、置換、言い換えるとINDELを介して)、ならびにまた、単一の導入遺伝子、多導入遺伝子ストリング(それら自体のプロモーター下の導入遺伝子または二シストロンもしくは多シストロンのストリング)、または多シストロンベクター(少なくとも2プロモーターの制御下にある4-導入遺伝子多シストロンベクターを含み、前記プロモーターは、構成的または組織特異的、例えば、CAGおよびIcam-2であり得る)の一対立遺伝子および二対立遺伝子挿入/ノックインの両方を含む遺伝子挿入を含み得る。あるいは、複数の遺伝子編集ヌクレアーゼ(例えば、Crispr/Cas9)の使用を介して、基礎遺伝子型(即ち、GGTA1ノックアウトまたはGGTA1/CD46)の組合せを有する細胞(トランスフェクションまたは感染を介して)または接合体(マイクロインジェクションを介して同時に)を効率的に生産すると予測でき、ここで、1つの遺伝子改変は、4-遺伝子MCV(少なくとも2つのプロモーターの制御下にある)のノックイン(例えば、GGTA1における)またはランダム挿入、ならびに同時に、別の遺伝子座における(例えば、GGTA1またはCMAHまたはB4GalNT2における、一または二対立遺伝子)ヌクレアーゼ媒介INDEL、または好ましい実施形態では、2つの異なる遺伝子座(天然のまたは改変された天然の遺伝子座を含む、ランディングパッド、セーフハーバー、またはGGTA1、B4GalNT2、CMAH、ROSA26、AAVS1もしくは他の所定の遺伝子座)における多導入遺伝子ベクター(二シストロンまたは4-遺伝子MCV)のターゲティング化挿入、例えば、第2の遺伝子座(例えば、CMAHまたはB4GalNT2)における二シストロンまたは4-遺伝子MCVのターゲティング相同組換え(または遺伝子編集増強された)挿入を伴う、GGTA1における4-遺伝子MCVのターゲティング化挿入を含み得る。ある特定の実施形態では、選択技術が、非常に高いレベルの選択剤への曝露によって、ヘテロ接合性の細胞から相同ノックアウト細胞を取得するために使用される。かかる選択は、例えば、ジェネテシン(G418)などの抗生物質の使用により得る。
【0410】
次いで、トランスフェクトされたまたは適切なベクターを他の方法で受けた細胞は、遺伝子型または表現型の分析を介して選択または同定され得る。一実施形態では、細胞は、トランスフェクトされ、組み入れられたベクターを含む細胞を同定するために、適切に選択された培地において増殖される。選択可能マーカー遺伝子の存在は、トランスフェクトされた細胞における導入遺伝子構築物の存在を示す。次いで、所望の表現型を示す細胞は、宿主細胞のゲノム中への導入遺伝子(複数可)の組み入れを検証するために、DNAを分析するために、制限分析、電気泳動、サザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応などによってさらに分析され得る。導入遺伝子配列(複数可)に対して相補的なプライマーもまた使用され得る。相同組換えおよびランダム組み入れ事象をスクリーニングするために使用されるポリメラーゼ連鎖反応は、当該分野で公知である。例えば、KimおよびSmithies、Nucleic Acids Res. 16巻:8887~8903頁、1988年;およびJoynerら、Nature 338巻:153~156頁、1989年を参照のこと。ネオマイシン遺伝子を駆動するための突然変異体ポリオーマエンハンサーおよびチミジンキナーゼプロモーターの特定の組合せは、ThomasおよびCapecchi、上記、1987年;NicholasおよびBerg(1983年)、Teratocarcinoma Stem Cell、Siver、MartinおよびStrikland編(Cold Spring Harbor Lab.、Cold Spring Harbor、N.Y.(469~497頁);ならびにLinneyおよびDonerly、Cell 35巻:693~699頁、1983年によって、胚性幹細胞およびEC細胞の両方において活性であることが示されている。
【0411】
相同組換えを受けた細胞は、いくつかの方法によって同定され得る。一実施形態では、選択方法は、例えばヒト抗gal抗体によって、その細胞に対する免疫応答の非存在を検出できる。好ましい実施形態では、この選択方法は、付加された蛍光マーカー(例えば、GFP、RFP)または抗生物質選択遺伝子の使用なしに陽性選択を可能にする選択ツールとして、挿入またはターゲティングされた導入遺伝子を利用できる。ある特定の場合には、導入遺伝子のターゲティングされた挿入は、細胞表面タンパク質を生産し得、これにより、適切な導入遺伝子特異的な蛍光マークした細胞が、所望の導入遺伝子の陽性発現について分取され得る。あるいは、ターゲット遺伝子座を不活性化し得、その結果、機能の喪失が、以下についてモニタリングまたは選択され得る、例えば、GGTA1遺伝子座の不活性化は、レクチン(IB4)へのターゲティングされた細胞の結合を排除もしくは低減させるか、またはB4GalNT2の不活性化は、DBAレクチンによるターゲティングされた細胞の結合を排除もしくは低減させ、各場合において、ターゲティングされた組み入れは、かかるレクチン結合を欠く細胞について分取され得るか、またはかかる細胞において富化され得る。各場合において、細胞表面上での導入遺伝子の発現は、さらなる分析に使用される細胞の選択を可能にする。
【0412】
他の実施形態では、この選択方法は、細胞または組織に曝露された場合のヒト血液における凝血のレベルを評価することを含み得る。抗生物質耐性を介した選択は、スクリーニングのために最も一般的に使用されてきた。この方法は、ターゲティングベクター上の耐性遺伝子の存在を検出できるが、組み入れがターゲティング化組換え事象かランダム組み入れかを直接示すことはない。あるいは、マーカーは、蛍光マーカー遺伝子、例えば、GFPもしくはRFP、または細胞分取もしくはFACs分析を介して細胞表面上で検出可能な遺伝子であり得る。ある特定のテクノロジー、例えば、ポリAおよびプロモータートラップテクノロジーは、ターゲティングされた事象の確率を増加させるが、再び、所望の表現型が達成されたという直接的な証拠は与えない。さらに、陰性形態の選択が、ターゲティング化組み入れについて選択するために使用され得る;これらの場合には、細胞にとって致死的な因子(例えば、Tkまたはジフテリア(diptheria)A毒素)の遺伝子が、ターゲティング化事象のみが細胞に死を回避させるような方法で挿入される。次いで、これらの方法によって選択された細胞は、遺伝子破壊、ベクター組み入れ、および最終的には遺伝子枯渇についてアッセイされ得る。これらの場合には、選択は、ターゲティングベクター組み入れの検出に基づき、変更された表現型においてではないので、点突然変異ではない単なるターゲティング化ノックアウト、遺伝子再編成もしくは短縮、または他のかかる改変が検出され得る。
【0413】
特徴付けは、PCR分析、サザンブロット分析、ノザンブロット分析、特異的レクチン結合アッセイおよび/または配列決定分析が含まれるがこれらに限定されない技術によって、さらに達成され得る。免疫蛍光、免疫細胞化学、ELISAアッセイ、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング、RT-PCRなどにおける細胞中のRNAの転写についての試験を含む種々のアッセイにおける抗マウス抗体の結合によるものを含む、表現型的特徴付けもまた達成され得る。遺伝子型は、サザン分析およびPCRによって決定され得る。遺伝子発現は、PBMCおよび内皮細胞のフローサイトメトリーによって、ならびに細胞および器官では免疫組織化学、Q-PCR(定量的ポリメラーゼ連鎖反応)およびウエスタンブロット分析によって、モニタリングされる。導入遺伝子に特異的な生物活性アッセイは、補体阻害、血小板凝集、活性化プロテインC形成、ATPase活性、第Xa因子切断、混合リンパ球反応(MLR)およびアポトーシスを定量および特徴付けする。
【0414】
他の実施形態では、GTKO動物または細胞は、さらなる遺伝子改変を含む。遺伝子改変は、相同ターゲティング以上のものを含み得るが、外因性遺伝子のランダム組み入れ、単一の遺伝子座における遺伝子の群またはストリングの同時組み入れ、任意の種類の遺伝子の突然変異、欠失および挿入もまた含み得る。さらなる遺伝子改変は、本明細書に記載されるトランスジェニック細胞および動物から取得された細胞をさらに遺伝子改変すること、または本明細書に記載される動物を、さらに遺伝子改変された動物と交配させることによって、行われ得る。かかる動物は、アルファGT遺伝子、CMP-Neu5Acヒドロキシラーゼ遺伝子(例えば、米国特許第7,368,284号を参照のこと)、iGb3シンターゼ遺伝子(例えば、米国特許出願公開第2005/0155095号を参照のこと)、および/またはβ1,4 N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(β4GalNT2;例えば、Estrada JLら、Xenotransplantation 22巻:194~202頁[2015年]を参照のこと)、フォルスマンシンターゼ遺伝子(例えば、米国特許出願公開第2006/0068479号を参照のこと)のうち少なくとも1つの対立遺伝子の発現を排除するように改変され得る。
【0415】
さらなる実施形態では、本明細書に記載される動物は、免疫調節因子、抗凝固因子および細胞保護導入遺伝子からなる群からである目的の導入遺伝子、より具体的にはヒト導入遺伝子を発現するような遺伝子改変もまた含み得る。好ましい実施形態では、多導入遺伝子組み入れ(ターゲティング化またはランダムであるが、少なくとも4つの遺伝子を超え、かかる少なくとも4つの遺伝子は、少なくとも2つのプロモーターによって制御される)に加えて、ノックアウト(機能の欠如)、INDEL、およびゲノム中のブタvWF配列の同時ノックアウトを含むか、またはヒトvWF遺伝子配列由来のそれらのヒトエクソン22~28対応物による、規定されたブタvWFエクソン(例えば、エクソン22~28)の一部もしくは全てのターゲティングされたノックインおよび交換を含む、ブタvWF遺伝子座の遺伝子改変が達成され得る。
【0416】
これらのさらなる遺伝子改変を達成するために、一実施形態では、細胞は、複数の遺伝子改変を含むように改変され得る。他の実施形態では、動物は、複数の遺伝子改変を達成するために一緒に交配され得る。具体的な一実施形態では、本発明に記載されるプロセス、配列および/または構築物に従って生産されたブタなどの動物は、アルファGalの発現を欠くブタなどの動物と交配され得る(例えば、WO04/028243に記載される)。
【0417】
別の実施形態では、異種移植拒絶を担うさらなる遺伝子の発現が、排除または低減され得る。かかる遺伝子には、CMP-NEUAcヒドロキシラーゼ遺伝子(CMAH)、ベータ-4GalNT2、isoGloboside 3(iGb3)シンターゼ遺伝子およびフォルスマンシンターゼ遺伝子が含まれるがこれらに限定されない。
【0418】
さらに、補体媒介溶解の抑制を担う補体関連タンパク質をコードする遺伝子またはcDNAもまた、本発明の動物および組織において発現され得る。かかる遺伝子には、CD59、DAF(CD55)およびCD46が含まれるがこれらに限定されない(例えば、WO99/53042;CD59/DAF導入遺伝子を発現するブタを記載するChenら Xenotransplantation、6巻3号194頁-1999年8月;ヒトCD59およびH-トランスフェラーゼを発現するトランスジェニックブタを記載するCosta Cら、Xenotransplantation. 2002年1月;9巻(1号):45~57頁;ヒトCD46トランスジェニックブタを記載するZhao Lら;Diamond L Eら Transplantation. 2001年1月15日;71巻(1号):132~42頁を参照のこと)。
【0419】
さらなる改変には、WO00/31126、表題「Suppression of xenograft rejection by down regulation of a cell adhesion molecules」に記載されるような細胞による細胞接着分子の発現を下方調節する抗体などの化合物、およびWO99/57266、表題「Immunosuppression by blocking T cell co-stimulation signal 2 (B7/CD28 interaction)」などに記載されるような異種ドナー生物由来のCTLA-4の可溶性形態の器官レシピエントへの投与などによってシグナル2による共刺激が防止される化合物の発現が含まれ得る。
【0420】
(vi)核移植
本明細書に記載される遺伝子改変されたまたはトランスジェニックの動物、例えば、有蹄動物またはブタは、当該分野で公知の任意の適切な技術を使用して生産され得る。これらの技術には、(例えば、前核および/または細胞質の)マイクロインジェクション、卵子もしくは接合体のエレクトロポレーション、および/または体細胞核移植(SCNT)が含まれるがこれらに限定されない。
【0421】
当該分野で公知の任意のさらなる技術は、導入遺伝子、または多導入遺伝子もしくはMCVベクター(複数可)を動物中に導入するために使用され得る。かかる技術には、前核マイクロインジェクション(例えば、Hoppe,P.C.およびWagner,T.E.、1989年、米国特許第4,873,191号を参照のこと);細胞質マイクロインジェクション(例えば、Whitworthら、2014年を参照のこと):生殖系中へのレトロウイルス媒介遺伝子導入(例えば、Van der Puttenら、1985年、Proc. Natl. Acad. Sci.、USA 82巻:6148~6152頁を参照のこと);胚性幹細胞における遺伝子ターゲティング(例えば、Thompsonら、1989年、Cell 56巻:313~321頁;Wheeler, M. B.、1994年、WO94/26884を参照のこと);胚のエレクトロポレーション(例えば、Lo、1983年、Mol Cell. Biol. 3巻:1803~1814頁を参照のこと);トランスフェクション;形質導入;レトロウイルス感染;アデノウイルス感染;アデノウイルス関連感染;リポソーム媒介遺伝子導入;ネイキッドDNA導入;および精子媒介遺伝子導入(例えば、Lavitranoら、1989年、Cell 57巻:717~723頁を参照のこと)などが含まれるがこれらに限定されない。かかる技術の概説については、例えば、Gordon、1989年、Transgenic Animals、 Intl. Rev. Cytol. 115巻:171~229頁を参照のこと。特定の実施形態では、有蹄動物におけるCTLA4および/またはCTLA4-Ig融合遺伝子の発現は、これらの技術を介して達成され得る。
【0422】
一実施形態では、導入遺伝子をコードする構築物のマイクロインジェクションが、トランスジェニック動物を生産するために使用され得る。一実施形態では、核酸構築物またはベクターは、接合体の前核中にマイクロインジェクションされ得る。一実施形態では、構築物またはベクターは、接合体の雄性前核中に注射され得る。別の実施形態では、構築物またはベクターは、接合体の雌性前核中に注射され得る。さらなる実施形態では、構築物またはベクター、CRISPR(複数可)、Cas9およびgRNA(単一ガイドRNA)をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)が、かかる遺伝子編集ヌクレアーゼによる処理後の修復エラーから生じる遺伝子ノックアウトまたは遺伝子不活性化(挿入、欠失、置換)を達成するために、受精した卵母細胞の細胞質中に注射され得、あるいはかかる接合体における導入遺伝子(複数可)または多遺伝子ベクターのターゲティング化ノックインを達成して、遺伝子改変の安定な伝達を得るために使用され得る(参考文献、Whitworth 2014年?)。別の実施形態では、核移植は、既存のトランスジェニック体細胞で開始され得、胚の再構築および融合の後、遺伝子編集ヌクレアーゼ(例えば、Crispr/Cas9)が、導入遺伝子ベクター、または多遺伝子ベクターもしくはMCVありまたはなしで、再構築物された核移植胚の細胞質中に注射され得、その結果、遺伝子編集事象が、二倍体胚において、および胚移植後の後続のトランスジェニックブタにおいて生じる。
【0423】
導入遺伝子構築物またはベクターのマイクロインジェクションは、以下のステップを含み得る:ドナー雌性の過排卵;卵の外科的取り出し、卵の受精;受精後における、受精した卵母細胞(例えば、受精のおよそ14時間後の予定接合体)の細胞質中に注射された導入遺伝子転写単位の注射、および通常は同じ種の偽妊娠宿主母の生殖器系中へのトランスジェニック胚の導入。例えば、米国特許第4,873,191号、Brinsterら、1985年、PNAS 82巻:4438頁;Hoganら、「Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.、1986年;Robertson、1987年、Robertson編「Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells a Practical Approach」IRL Press、Evnsham. Oxford、England;Pedersenら、1990年、「Transgenic Techniques in Mice--A Video Guide」、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.を参照のこと。トランスジェニックブタは、ブタ胚中への導入遺伝子構築物またはベクターのマイクロインジェクションによって慣用的に生産される。Withworthら、Biol. Reprod. 91巻(3号):78、1~13頁[2014年]を参照のこと。一実施形態では、導入遺伝子の存在は、各子ブタの尾由来の組織からゲノムDNAを単離し、約5マイクログラムのこのゲノムDNAを、導入遺伝子特異的プローブを用いる核酸ハイブリダイゼーション分析に供することによって検出され得る。特定の実施形態では、トランスジェニック動物は、例えば、Bleckら、J. Anim. Sci.、76巻:3072頁[1998年]に開示されるように;また米国特許第6,872,868号;同第6,066,725号;同第5,523,226号;同第5,453,457号;同第4,873,191号;同第4,736,866号;および/またはPCT公開番号WO/9907829に記載されるように、当業者に公知の任意の方法に従って生産され得る。
【0424】
一実施形態では、前核マイクロインジェクション法は、例えば、本明細書に記載されるように、少なくともおよそ50、100、200、300、400または500コピーの本発明の導入遺伝子含有構築物またはベクターを、最適のプロモーターに連結することを含み得、次いで、外来DNAが、受精卵中に微細ガラス針を介して注射され得る。一実施形態では、DNAは、接合体の雄性前核中に注射され得る。ブタ接合体は不透明であり、核構造の可視化は困難であり得る。一実施形態では、ブタ接合体の前核または核は、例えば15000gで3分間の遠心分離後に可視化され得る。前核の注射は、拡大下および標準的なマイクロインジェクション装置の使用の下で実施され得る。接合体は、先が丸いホールディングピペットによって保持され得、透明帯、原形質膜および前核膜は、注射ピペットによって貫通され得る。先が丸いホールディングピペットは、小さい直径、例えば、およそ50umを有し得る。注射ピペットは、ホールディングピペットよりも小さい直径、例えば、およそ15umを有し得る。DNA組み入れは、宿主DNAの修復機能と同様、複製の間に生じる。次いで、外来DNAを含むこれらの卵は、当業者に公知の任意の技術に従って、胚の妊娠のために代理母中に移植され得る。
【0425】
一部の実施形態では、前核マイクロインジェクションは、受精の12時間後に接合体に対して実施され得る。かかる遺伝子の取込みは、数細胞周期遅延され得る。これの結果は、取込みの細胞周期に依存し、一部の細胞系譜のみが導入遺伝子を有して、モザイク出生仔を生じ得る。所望の場合、モザイク動物は、真の生殖系列トランスジェニック動物を形成するために交配され得る。
【0426】
例示的実施形態では、細胞質マイクロインジェクション法は、受精卵中に微細ガラス針を介して、少なくとも1または複数のターゲティングされる天然の遺伝子または改変された天然の遺伝子座をターゲティングするCRISPR、Cas9およびgRNAをコードするmRNAを注射できる。特定の実施形態では、Cas9およびgRNAをコードするmRNAと共に、少なくとも1または複数のターゲティングされる遺伝子(例えば、GGTA1、B4GalNT2、CMAH)をターゲティングし、複数のガイドRNAを含むCRISPRが、接合体の細胞質中に注射され得る。
体細胞核移植
【0427】
他の実施形態では、導入遺伝子を含むブタ細胞などの有蹄動物細胞は、クローン化されたトランスジェニック動物を生産するために、除核された卵母細胞中への核移植のための核を提供するためのドナー細胞として使用され得る。一実施形態では、有蹄動物細胞は、核移植のためのドナー細胞として有用であるために、導入遺伝子タンパク質を発現する必要がない。一実施形態では、ブタ細胞は、プロモーターを含む核酸構築物またはベクターから導入遺伝子を発現するように工学操作され得る。あるいは、ブタ細胞は、相同組換えを介して、内因性プロモーターの制御下で導入遺伝子を発現するように工学操作され得る。一実施形態では、導入遺伝子核酸配列は、組織特異的プロモーター、組織特異的エンハンサーまたはその両方の制御下でゲノム中に挿入され得る。別の実施形態では、導入遺伝子核酸配列は、構成的プロモーターの制御下でゲノム中に挿入され得る。ある特定の実施形態では、体細胞におけるターゲティング相同組換えを可能にするように設計されたターゲティングベクターが提供される。これらのターゲティングベクターは、相同組換えを介して目的の内因性遺伝子をターゲティングするために、哺乳動物細胞中に形質転換され得る。一実施形態では、ターゲティング構築物は、上流配列とインリーディングフレームになるように、導入遺伝子ヌクレオチド配列および選択可能マーカー遺伝子の両方を内因性遺伝子中に挿入し、活性融合タンパク質を生産する。細胞は、本発明の方法を使用して構築物で形質転換され得、選択可能マーカーによって選択され、次いで、組換えの存在についてスクリーニングされる。
【0428】
本発明は、SCNTを介して、ある特定の導入遺伝子を含むブタなどの有蹄動物をクローン化するための方法を提供する。一般に、ブタは、以下のステップを含む核移植プロセスによって生産され得る:ドナー核の供給源として使用される所望の分化したブタ細胞を取得するステップ;ブタから卵母細胞を取得するステップ;その卵母細胞を除核するステップ;所望の分化した細胞または細胞核を、例えば、融合または注射によって、除核された卵母細胞中に移植して、SCNT単位を形成するステップ;得られたSCNT単位を活性化するステップ;およびSCNT単位が胎仔へと発生するように、前記培養されたSCNT単位を宿主ブタに移植するステップ。
【0429】
核移植(transfer)技術または核移植(transplantation)技術は、当該分野で公知である(例えば、Daiら Nature Biotechnology 20巻:251~255頁;Polejaevaら Nature 407巻:86~90頁(2000年);Campbellら、Theriogenology 68巻補遺1:S214~31頁(2007年);Vajtaら、Reprod Fertil Dev 19巻(2号):403~23頁(2007年);Campbellら(1995年)Theriogenology、43巻:181頁;Collasら(1994年)Mol. Report Dev.、38巻:264~267頁;Keeferら(1994年)Biol. Reprod.、50巻:935~939頁;Simsら(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci.、USA、90巻:6143~6147頁;WO94/26884;WO94/24274およびWO90/03432、米国特許第4,944,384号、同第5,057,420号、WO97/07669、WO97/07668、WO98/30683、WO00/22098、WO004217、WO00/51424、WO03/055302、WO03/005810、米国特許第6,147,276号、同第6,215,041号、同第6,235,969号、同第6,252,133号、同第6,258,998号、同第5,945,577号、同第6,525,243号、同第6,548,741号、ならびにPhelpsら(Science 299巻:411~414頁(2003年)を参照のこと)。
【0430】
本発明の導入遺伝子を含むように改変されたドナー細胞核は、レシピエントブタ卵母細胞に移植される。この方法の使用は、特定のドナー細胞型に限定されない。ドナー細胞は、Wilmutら(1997年)Nature 385巻:810頁;Campbellら(1996年)Nature 380巻:64~66頁;またはCibelliら(1998年)Science 280巻:1256~1258頁に記載される通りであり得る。核移植において首尾よく使用され得る胚、胎仔および成体の体細胞を含む正常な核型の全ての細胞が、原則として使用され得る。胎仔線維芽細胞は、特に有用なクラスのドナー細胞である。核移植の一般に適切な方法は、Campbellら(1995年)Theriogenology 43巻:181頁、Collasら(1994年)Mol. Reprod. Dev. 38巻:264~267頁、Keeferら(1994年)Biol. Reprod. 50巻:935~939頁、Simsら(1993年)Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 90巻:6143~6147頁、WO-A-9426884、WO-A-9424274、WO-A-9807841、WO-A-9003432、米国特許第4,994,384号および米国特許第5,057,420号、Campbellら、(2007年)Theriogenology 68巻補遺1、S214~231頁、Vatjaら、(2007年)Reprod Fertil Dev 19巻、403~423頁)に記載されている。分化したまたは少なくとも部分的に分化したドナー細胞もまた使用され得る。ドナー細胞は、培養物中にあってもよいが、培養物中にある必要はなく、静止状態であり得る。静止状態の核ドナー細胞は、静止状態に入るように誘導され得る細胞、またはin vivoで静止状態で存在し得る細胞である。先行技術の方法もまた、クローン化手順において胚性細胞型を使用してきた(例えば、Campbellら(1996年)Nature、380巻:64~68頁)およびSticeら(1996年)Biol. Reprod.、20、54巻:100~110頁を参照のこと)。特定の実施形態では、ブタ線維芽細胞などの線維芽細胞は、目的の導入遺伝子を含むように遺伝子改変され得る。
【0431】
卵母細胞の単離のための方法は、当該分野で周知である。本質的に、これは、ブタの卵巣または生殖器系から卵母細胞を単離するステップを含み得る。ブタ卵母細胞の容易に入手可能な供給源は、屠殺場材料である。ブタIVF(対外受精)、SCNTなどの技術の組合せについて、卵母細胞は一般に、これらの細胞が核移植のためのレシピエント細胞として使用され得る前に、およびそれらが精子細胞によって受精されて胚へと発生し得る前に、in vitroで成熟させる必要がある。このプロセスは一般に、屠殺場において取得されたウシ卵巣などの哺乳動物卵巣から未成熟(分裂前期I)の卵母細胞を収集するステップ、および卵母細胞が分裂中期II段階に達するまで受精または除核前に成熟培地中で卵母細胞を成熟させるステップを必要とし、これは、ウシ卵母細胞の場合には、吸引の約18~24時間後に一般に生じ、ブタの場合には、約35~55時間目に一般に生じる。この期間は、成熟期間として公知である。
【0432】
分裂中期II段階の卵母細胞は、レシピエント卵母細胞であり得、この段階では、卵母細胞は、受精性の精子が行うのと同様に、導入された核を処理するために「活性化」され得るか、または十分に「活性化」されていると考えられる。in vivoで成熟した分裂中期II段階の卵母細胞は、核移植技術において首尾よく使用されてきた。本質的に、成熟分裂中期IIの卵母細胞は、発情の開始の、またはヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)もしくは類似のホルモンの注射の35~48または39~41時間後に、過排卵していないブタまたは過排卵したブタのいずれかから、外科的に収集され得る。
【0433】
固定された時間の成熟期間の後、卵母細胞は除核され得る。除核前に、卵母細胞は取り出され得、卵丘細胞の除去前に、1ミリリットル当たり1ミリグラムのヒアルロニダーゼを含む、HECMまたはTCM199などの適切な培地中に配置され得る。次いで、剥ぎ取られた卵母細胞は、極体についてスクリーニングされ得、次いで、選択された分裂中期II卵母細胞は、極体の存在によって決定されるように、核移植に使用される。除核は以下のとおりである。
【0434】
除核は、米国特許第4,994,384号に記載されるような公知の方法によって実施され得る。例えば、分裂中期IIの卵母細胞は、即座の除核のために、1ミリリットル当たり7~10マイクログラムのサイトカラシンBを任意選択で含むHECMもしくはTCM199のいずれか中に配置され得るか、または例えば胚培養培地、例えばPZMもしくはCRlaa、+10%発情雌ウシ血清などの適切な培地中に配置され得、次いで後に、例えば、24時間以下後、もしくは16~18時間後に除核され得る。
【0435】
除核は、極体および隣接細胞質を除去するために、マイクロピペットを使用してマイクロ手術で達成され得る。次いで、卵母細胞は、首尾よく除核されたものを同定するためにスクリーニングされ得る。卵母細胞をスクリーニングするための1つの方法は、適切な維持培地中1ミリリットル当たり3~10マイクログラムの33342 Hoechst色素を用いて卵母細胞を染色し、次いで、10秒未満にわたって紫外線照射の下で卵母細胞を見ることである。次いで、首尾よく除核された卵母細胞は、適切な保持培地、例えば、HECMまたはTCM199中に配置され得る。
【0436】
次いで、除核された卵母細胞と同じ種の単一の哺乳動物細胞が、NT単位を生産するために使用される除核された卵母細胞の囲卵腔中に移植され得る。哺乳動物細胞および除核された卵母細胞は、当該分野で公知の方法に従ってNT単位を生産するために使用され得る。例えば、細胞は、電気融合によって融合され得る。電気融合は、原形質膜の一時的な崩壊を引き起こすのに十分な電気のパルスを提供することによって達成される。膜は迅速に再形成するので、原形質膜のこの崩壊は非常に短時間である。したがって、2つの隣接する膜が崩壊するように誘導され、再形成の際に脂質二重層が混じり合う場合、小さいチャネルが2つの細胞間に開口し得る。かかる小さい開口の熱力学的不安定性に起因して、この開口は、2つの細胞が1つになるまで広がる。例えば、Pratherらによる米国特許第4,997,384号を参照のこと。例えば、スクロース、マンニトール、ソルビトールおよびリン酸緩衝溶液を含む種々の電気融合培地が使用され得る。例えば、融合培地は、0.05mMのMgCl2および0.001mMのCaCl2を含む、マンニトールの280ミリモル濃度(mM)溶液を含み得る(Walkerら、Cloning and Stem Cells. 2002年;4巻(2号):105~12頁)。融合は、膜融合剤としてセンダイウイルスを使用しても達成され得る(Graham、Wister Inot. Symp. Monogr.、9巻、19頁、1969年)。また、核は、エレクトロポレーション融合を使用するのではなく、卵母細胞中に直接注射され得る。例えば、CollasおよびBarnes、(1994年)Mol. Reprod. Dev.、38巻:264~267頁を参照のこと。次いで融合後、得られた融合したNT単位は、活性化まで適切な培地中に、例えば、1~4時間後の活性化までHECMまたはTCM199中に配置される。典型的には、活性化は、その後すぐ、例えば、24時間未満後、またはウシNTについては約4~9時間後、ブタNTについては1~4時間後にもたらされ得る。
【0437】
NT単位は、公知の方法によって活性化され得る。かかる方法は、例えば、本質的には、低温、または実際に低温ショックをNT単位に適用することによって、生理的温度未満でNT単位を培養するステップを含む。これは、NT単位を室温で培養することによって最も簡便に実施され得、室温は、胚が通常曝露される生理的温度条件と比較して低温である。あるいは、活性化は、公知の活性化剤の適用によって達成され得る。例えば、受精の間の精子による卵母細胞の侵入は、前触れ(prelusion)卵母細胞を活性化して、核移植後に、より多い数の生存能力のある妊娠および複数の遺伝的に同一の仔ウシを生じることが示されている。また、電気的および化学的ショックなどの処理が、融合後にNT胚を活性化するために使用され得る。例えば、Susko-Parrishらに対する米国特許第5,496,720号を参照のこと。さらに、活性化は、卵母細胞中の二価カチオンのレベルを増加させ、卵母細胞中の細胞性タンパク質のリン酸化を低減させることによって、同時にまたは連続的にもたらされ得る。これは一般に、例えばイオノフォアの形態で、卵母細胞の細胞質中にマグネシウム、ストロンチウム、バリウムまたはカルシウムなどの二価カチオンを導入することによってもたらされ得る。二価カチオンレベルを増加させる他の方法には、電気的ショック、エタノールによる処理およびケージキレート剤(caged chelator)による処理の使用が含まれる。リン酸化は、例えば、キナーゼ阻害因子、例えば、セリン-スレオニンキナーゼ阻害因子、例えば、6-ジメチル-アミノプリン、スタウロスポリン、2-アミノプリンおよびスフィンゴシンの添加によって、公知の方法によって低減され得る。あるいは、細胞性タンパク質のリン酸化は、卵母細胞中への、ホスファターゼ2Aおよびホスファターゼ2Bなどのホスファターゼの導入によって阻害され得る。
【0438】
次いで、活性化されたNT単位は、レシピエント雌性への移植のために適切なサイズに達するまで培養され得るか、またはあるいは、レシピエント雌性に即座に移植され得る。胚の培養および成熟に適切な培養培地は、当該分野で周知である。胚の培養および維持に使用され得る公知の培地の例には、ハムF-10+10%胎仔仔ウシ血清(FCS)、組織培養培地-199(TCM-199)+10%胎仔仔ウシ血清、タイロード-アルブミン-乳酸-ピルビン酸(Tyrodes-Albumin-Lactate-Pyruvate)(TALP)、ダルベッコリン酸緩衝食塩水(PBS)、イーグルウィッテン培地、PZM、NCSU23およびNCSU37が含まれる。Yoshioka K、Suzuki C、Tanaka A、Anas I M、Iwamura S. Biol Reprod.(2002年)1月;66巻(1号):112~9頁およびPetters R M、Wells K D. J Reprod Fertil Suppl. 1993年;48巻:61~73頁を参照のこと。
【0439】
その後、培養されたNT単位(単数または複数)は、洗浄され得、次いで、適切なコンフルエントなフィーダー層を任意選択で含み得るウェルプレート中に含まれる適切な培地中に配置され得る。適切なフィーダー層には、例として、線維芽細胞および上皮細胞が含まれる。NT単位は、NT単位がレシピエント雌性への移植に適切なサイズに達するまで、または細胞コロニーを生産するために使用され得る細胞を取得するのに適切なサイズに達するまで、フィーダー層上で培養される。NT単位は、少なくとも約2~400細胞、約4~128細胞または少なくとも約50細胞まで、培養され得る。あるいは、NT単位は、レシピエント雌性に即座に移植され得る。
【0440】
本発明における胚移植およびレシピエント動物管理のための方法は、胚移植産業において使用される標準的な手順である。同調的移植は、本発明の成功のために重要である、即ち、NT胚の段階は、レシピエント雌性の発情サイクルと同調している。例えば、Siedel, G. E., Jr.(1981年)「Critical review of embryo transfer procedures with cattle in Fertilization and Embryonic Development in Vitro」、L. Mastroianni, Jr.およびJ. D. Biggers編、Plenum Press、New York、N.Y.、323頁を参照のこと。ブタ胚移植は、当該分野で公知の方法に従って実施され得る。参考のために、Youngsら「Factors Influencing the Success of Embryo Transfer in the Pig」、Theriogenology(2002年)56巻:1311~1320頁を参照のこと。
多トランスジェニック動物交配群
【0441】
本発明の動物(または胎仔)は、以下から選択される群が含まれるがこれらに限定されない以下の手段に従って繁殖され得る:SCNT、天然交配、核ドナーとして既存の細胞系、胎仔もしくは動物由来の細胞を使用する-NT前にこれらの細胞にさらなる導入遺伝子を任意選択で添加する-SCNTを介した再誘導、連続的核移植、人工生殖テクノロジー(ART)、またはこれらの方法もしくは当該分野で公知の他の方法の任意の組合せ。一般に、「交配する」または「交配した」とは、天然手段および人工手段の両方を含む、任意の繁殖手段を指す。さらに、本発明は、本明細書に開示される方法によって生産された動物の全ての子孫を提供する。ある特定の実施形態では、かかる子孫は、本明細書に記載される遺伝子についてホモ接合性になり得ることが理解される。
【0442】
一実施形態では、多シストロンベクター設計によって生産された遺伝子改変された動物は、異なる多シストロンベクターによって生産された動物と交配され得る。特に、各多シストロンベクターは、4つの異なる導入遺伝子および2つの異なるプロモーター/エンハンサー系から構成される。
【0443】
別の実施形態では、異なる多シストロンベクターを有する、したがって異なる導入遺伝子を有するトランスジェニック動物は、一緒に交配され得、8つの異なる導入遺伝子と等しい遺伝子レパートリーを有し、ここで、これらの遺伝子の発現は、それらの異なるプロモーター/エンハンサー系の制御下にある。
【0444】
E.遺伝子改変された器官、器官断片、組織または細胞
一実施形態では、本発明は、本明細書に開示されるトランスジェニック動物(例えば、ブタ動物)に由来する器官、器官組織または細胞である。
【0445】
ある特定の実施形態では、この器官は肺である。ある特定の実施形態では、この組織は肺組織である。
【0446】
選択された実施形態では、この器官は、腎臓、心臓または肝臓である。他の実施形態では、この組織は、肝臓(単離された肝細胞、または肝臓由来の幹細胞を含む)に、脂肪(脂肪細胞または間葉系幹細胞を含む)に、心臓弁、心膜、心血管または他の誘導体を含む心組織(生存または非生存)に、皮膚、真皮もしくは結合組織、骨、骨誘導体もしくは他の整形外科的組織、硬膜、血管、または生存もしくは非生存の他の器官を含む任意の他の組織に由来する。
【0447】
肺は、血液と空気との間のガス交換のための、哺乳動物において最適化された大きい海綿状の器官である。哺乳動物およびより複雑な生命体では、2つの肺が、心臓のいずれかの側に、背骨の近傍に位置する。各肺は、葉と呼ばれるセクションで構成されている。ヒトは、右肺に3つの葉を有し、左肺に2つの葉を有する。ブタは、左肺に2つの葉を有し、右肺に4つの葉を有する。ヒトの肺を含む哺乳動物の肺は、肺自体の外側表面積よりも、合計でかなり大きい表面積を有して、上皮と共に蜂巣状になっている。ブタ肺は、ヒト肺と匹敵する細胞系譜および組成を有する。
【0448】
本発明のドナー動物(例えば、ブタ動物)は、胎仔、新生仔、若年および成体が含まれるがこれらに限定されない任意の発生段階にあり得る。一部の実施形態では、器官または組織は、成体ブタトランスジェニック動物から単離される。代替的実施形態では、器官または組織は、胎仔または新生仔のトランスジェニック動物から単離される(例えば、Mandel(1999年)J. Mol. Med. 77巻:155~60頁;Cardonaら(2006年)Nat. Med. 12巻:304~6頁を参照のこと)。
【0449】
例示的実施形態では、ドナー動物は、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1歳(複数可)未満であり得る。一実施形態では、器官もしくは組織は、6歳未満のトランスジェニック動物から単離される。別の実施形態では、器官または組織は、3歳未満のトランスジェニック動物から単離される。ドナー動物は、0~2歳、2~4歳、4~6歳、6~8歳または8~10歳の間の任意の年齢であり得る。別の実施形態では、器官または組織は、胎仔または新生仔段階から単離される。別の実施形態では、器官または組織は、新生仔から6月齢までのトランスジェニックブタから単離される。一実施形態では、器官または組織は、胎仔から2歳までのトランスジェニック動物から単離される。特定の実施形態では、器官または組織は、6月齢から2歳までのトランスジェニック動物から単離され、より特定の実施形態では、7月齢から1歳までのトランスジェニック動物から単離される。一実施形態では、器官または組織は、2~3歳のトランスジェニック動物から単離される。別の実施形態では、器官または組織は、ヒト移植レシピエントにとって最適なサイズの器官または組織を提供するために、体重(齢ではなく)が一致したトランスジェニック動物から単離され、その結果、前記ブタ器官または組織は、レシピエント/患者の齢、体重および/または性別についてカスタマイズされたドナー動物から調達される。
【0450】
ある特定の実施形態では、ドナートランスジェニック肺(複数可)または組織は、外科的に取り出される。外科的取り出しの後、ドナー肺または組織は、移植前にさらに処理または評価され得る。
【0451】
「異種肺(Xenolung)プレコンディショニング」または免疫コンディショニング
移植された肺の長期生存は、心臓、腎臓および肝臓を含む他の器官よりも劣っている。肺移植後のこの劣った転帰は、虚血再灌流(IRI)傷害、心停止後の脳死状態にあるドナーから主に生じる虚血によって開始される炎症性侵襲といった多くの因子と関連し得るが、調達の間の器官回収の持続時間、器官低温保存などの因子を含む。引き続いて、IRIが、血流が回復されるときに肺組織の再酸素供給の際に増悪する。傷害へのさらなる侵襲は、他の移植された器官と比較したものであり、新たに移植された肺は、手術後に環境抗原に曝露され続け、部分的に、生存率における減少の原因とされ得る。移植された肺の環境抗原へのほぼ継続的な曝露は、免疫認識経路が活性化されて拒絶をもたらし、おそらくは炎症、組織損傷およびIRIの結果に対する増加した感受性が生存率を増加させるために対処されるべきである、独自の状況を創出することが提唱されている。例示的実施形態では、肺移植耐容性誘導のための戦略が考慮され、ex vivo肺灌流、より具体的には、移植された肺の長期生存を増強するための遺伝子療法としてのAdhIL-10を補充したSTEEN溶液による肺の灌流を介して肺を再コンディショニングすることが非限定的な一例である。さらなる一実施形態では、耐容性は、CD47ありまたはなしの、胸骨、胸腺から収集された「混合キメラ」骨髄を介して誘導され得る。
ex vivo肺灌流
【0452】
ex vivo肺灌流(EVLP)は、ドナーからの取り出し後に肺を評価および再コンディショニングするために使用され得、その結果、周辺/傷害肺の機能は改善され得、顕著な持続性の機能不全が、レシピエントの移植前に同定され得る。
【0453】
肺は、ex vivo回路(Toronto XVIVO(商標)System)中に配置され、生理的再評価のために2~4時間にわたってSteen Solution(商標)で正常体温で灌流される。肺利用のための決断に関して、ex vivo灌流評価の間のデルタpO2(pO2肺静脈pO2-肺動脈pO2)が>400mmHgである肺が、移植可能であるとみなされる。肺は、以下の場合、移植から排除される:pO2<400mmHgの場合、または肺が、以下の機能的パラメーターのいずれかにおける>10%の悪化を実証する場合:肺血管抵抗(PVR)、動的コンプライアンスまたは気道圧。肺は、肺移植外科医の臨床的判断に基づいて不適切と思われる場合にも、移植から排除される。
【0454】
一実施形態では、肺は、血管外区画から体液を引き出すことによって浮腫性の肺を脱水する高張性無細胞血清で灌流され、その結果、ガス交換は改善され得、最初移植に不適切であると判断された肺が使用可能にされ得る。さらに、抗炎症性サイトカインは、傷害修復、および炎症性サイトカイン生産を減少させるために利用されるインターロイキン(IL)-10のベクター媒介導入を促進し、細胞間肺胞上皮タイトジャンクションの回復を促進し、酸素供給を改善し、血管抵抗を減少させるために、肺中に注入され得る。抗生物質もまた、感染を抑制/排除するために注入され得る。
ex vivo肺灌流ベースの遺伝子療法-インターロイキン-10(IL-10)
【0455】
さらに、抗炎症性サイトカインは、傷害修復、および炎症性サイトカイン生産を減少させるために利用されるインターロイキン(IL)-10のベクター媒介導入を促進し、細胞間肺胞上皮タイトジャンクションの回復を促進し、酸素供給を改善し、血管抵抗を減少させるために、肺中に注入され得る。
【0456】
一実施形態では、ex vivo肺灌流は、アデノ-IL10ベクターから一貫して発現されるIL-10を異種肺に送達するための送達機構として利用され得る。この実施形態は、より低い曝露の従来の免疫抑制の下で初期炎症の優れた制御を提供することによって、トランスジェニック動物由来の肺の移植を促進する。さらに、抗IL6r(抗生物質)は、従来の免疫抑制と共に肺移植において与えられ得、従来の免疫抑制の首尾よい離脱を可能にするための方法として、耐容性コンディショニングレジメンを用いて、一定期間(約4カ月)後に反復される。
耐容性
【0457】
異種肺および耐容性:混合キメラの誘導は、移植前に5~7日間の間、集中非骨髄破壊的コンディショニングレジメンを使用する;死亡ドナーの状況における要求に応えるためにこれを短縮させようとする試みは、過度に毒性であり、耐容性が低かった。臨床的にはいまだ実証されていないが、CD8+メモリーT細胞を枯渇させ、次いで、炎症性サイトカインを最小化するために骨髄移植のタイミングを合わせることによって「遅延された」耐容性誘導が、非ヒト霊長類腎臓移植実験において使用されてきた。
【0458】
F.処置の方法
本明細書に記載される発明は、本明細書に記載される器官、器官断片、組織または細胞の異種移植の方法を包含する。例示的実施形態では、これらの方法には、本明細書に記載されるドナー動物由来の器官、器官断片、組織または細胞を対象に投与することが含まれるがこれに限定されない。このドナー動物はブタであり得る。対象または宿主は、霊長類、例えば、ヒヒが含まれるがこれに限定されない非ヒト霊長類(NHP)であり得る。宿主は、ヒト、特に、移植によって治療的に影響され得る疾患または障害に罹患しているヒトであり得る。
【0459】
例示的実施形態では、これらの方法には、本明細書に記載されるドナー動物由来の肺(複数可)または肺組織を宿主に投与することが含まれるがこれに限定されない。このドナー動物はブタであり得る。宿主は、霊長類、例えば、ヒヒが含まれるがこれに限定されない非ヒト霊長類(NHP)であり得る。宿主は、ヒト、特に、肺の疾患または障害に罹患しているヒトであり得る。
【0460】
有利なことに、本発明によって提供されるトランスジェニック肺および肺組織は、当該分野で公知の異種移植片と比較して改善された機能性を有する。一実施形態では、トランスジェニック肺は、ブタからヒトへの異種移植のex vivoモデルにおいて改善された生存を有する。特定の実施形態では、トランスジェニック肺は、少なくとも約90、少なくとも約120、または少なくとも約150、少なくとも約180、少なくとも約210、少なくとも約240、少なくとも約270、少なくとも約300、少なくとも約330、少なくとも約360分間またはそれよりも長く生存する。別の特定の実施形態では、トランスジェニック肺は、未改変のブタ肺よりも、少なくとも約2倍、少なくとも約4倍、少なくとも約8倍、少なくとも約10倍長く、または少なくとも約20倍長く生存する。
【0461】
別の実施形態では、トランスジェニック肺は、生命維持in-vivoモデルにおいて、改善された機能および生存性を有する。特定の実施形態では、本明細書で提供される肺(複数可)または肺組織は、少なくとも約10時間、少なくとも約20時間、少なくとも約30時間、または約30時間もしくはそれよりも長い間にわたって、生命維持モデルにおいてヒヒにおいて生命を維持する。別の特定の実施形態では、トランスジェニック肺は、未改変のブタ肺よりも、少なくとも約2倍、少なくとも約4倍、少なくとも約8倍、少なくとも約10倍長く、または少なくとも約20倍長く生存する。
【0462】
本発明の別の方法は、異種移植の方法であり、ここで、本明細書に提供されるトランスジェニック肺(複数可)または肺組織は、霊長類中に移植され、移植された肺または組織は、少なくとも約1、少なくとも約2、少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約7、少なくとも約8、少なくとも約9、少なくとも約10、少なくとも約11または少なくとも約12週間もしくはそれよりも長く生存する。
【0463】
本発明のさらなる方法は、異種移植の方法であり、ここで、本明細書に提供されるトランスジェニック肺(複数可)または肺組織は、霊長類中に移植され、移植された肺または組織は、少なくとも約1、少なくとも約2、少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約7、少なくとも約8、少なくとも約9、少なくとも約10、少なくとも約11または少なくとも約12カ月もしくはそれよりも長く生存する。
【0464】
本発明のさらなる方法は、異種移植の方法であり、ここで、本明細書に提供されるトランスジェニック肺(複数可)または肺組織は、霊長類中に移植され、移植された肺または組織は、上記の期間にわたって生存する。一実施形態では、肺異種移植の生命維持モデルは、肺機能を評価するために使用される。一実施形態では、生命維持モデルは、霊長類から一方の肺を除去すること、および本発明のブタドナー由来の単一の肺を霊長類レシピエント中に移植することを含む。別の実施形態では、生命維持モデルは、霊長類から両方の肺を除去すること、および本発明のブタドナー由来の両方の肺を霊長類レシピエント中に移植することを含む。さらなる実施形態では、肺および心臓が共に、霊長類から除去され得、本発明のブタ肺および心臓で交換され得る。本発明の実施形態では、生命維持肺機能の持続時間は、霊長類において評価され得る。
【0465】
生命維持肺機能の持続時間を評価するために、本発明の遺伝子改変されたブタ肺が、ブタから回収され得る。心臓-肺ブロックが切除され得、1つの肺、2つの肺、または2つの肺および心臓のいずれかが、霊長類中への移植のために調製され得る。霊長類レシピエントは、全身麻酔下で鎮静および維持され得る。次いで、肺(単数)、肺(複数)または心臓および肺(複数)が、当該分野で公知の方法を使用して霊長類から除去され得(例えば、Nguyenら The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery 2007年5月;133巻:1354~63頁およびKubickiら International Journal of Surgery 2015年:1~8頁を参照のこと)、霊長類中に移植され得、次いで、霊長類が再灌流され得る。移植片再灌流の前および後に、血液および組織生検検体が、in vitro分析のために、所定の時点において連続的に収集され得る。大動脈および左肺動脈上の血管血流プローブ(Transonic Systems Inc、Ithaca、NY)は、それぞれ、心拍出量、および移植された器官への血流を連続的に測定できる。一方の肺だけが移植され、第2の肺が天然の霊長類肺のままであるモデルでは、天然の肺への血流は、移植された肺が生命を維持する能力を評価するために、次第に閉塞され得る。移植片生存は、生命維持肺機能の持続時間として定義され得る。長期生存実験のために、大動脈および一方の肺動脈上に配置された血流プローブは、肺移植片を通じた血流のモニタリングを可能にする。International Society for Heart and Lung Transplantationは、ヒト試験を検討するために、このようなモデルにおける3カ月の生命維持機能の一貫した達成を推奨している(Kubickiら International Journal of Surgery 2015年:1~8頁)。
【0466】
本発明の1つの方法は、異種移植の方法であり、ここで、本明細書に提供されるトランスジェニック肺または肺組織は、霊長類中に移植され、移植後、この霊長類は、低減された免疫抑制療法を必要とするか、または免疫抑制療法を必要としない。低減された免疫抑制療法または免疫抑制療法がないことには、他の方法によって必要とされるものと比較した、免疫抑制薬物(複数可)/薬剤(複数可)の用量における低減(またはその完全な排除);他の方法によって必要とされるものと比較した、免疫抑制薬物(複数可)/薬剤(複数可)の型の数における低減(またはその完全な排除);他の方法によって必要とされるものと比較した、免疫抑制処置の持続時間における低減(またはその完全な排除);および/または他の方法によって必要とされるものと比較した、維持免疫抑制における低減(またはその完全な排除)が含まれるがこれらに限定されない。
【0467】
本発明の方法は、肺疾患を処置または予防する方法もまた含み、ここで、本明細書に提供されるトランスジェニック肺(複数可)または肺組織は、霊長類中に移植され、移植後、この霊長類は、改善された肺機能を有する。移植された霊長類は、移植前のレベルと比較した場合、または他の方法を使用して達成されるレベルと比較した場合に、改善された肺機能を有し得る。
【0468】
本発明の方法は、トランスジェニック肺(複数可)または肺組織の移植後に、移植手順、免疫抑制レジメンおよび/または耐容性誘導レジメンと関連する、多数のまたは重篤な生命を危うくする合併症が存在しない、疾患を処置または予防する方法もまた含む。
【0469】
一部の実施形態では、この方法は、宿主への抗炎症薬の投与の必要性を低減させる。他の実施形態では、この方法は、宿主への抗凝固因子の投与の必要性を低減させる。ある特定の実施形態では、この方法は、宿主への免疫抑制剤の投与の必要性を低減させる。一部の実施形態では、この宿主には、器官(例えば、肺)、組織または細胞の投与後、30日未満、または20日未満、または10日未満、または5日未満、または4日未満、または3日未満、または2日未満、または1日未満にわたって抗炎症剤が投与される。一部の実施形態では、この宿主には、器官(例えば、肺)、組織または細胞の投与後、30日未満、または20日未満、または10日未満、または5日未満、または4日未満、または3日未満、または2日未満、または1日未満にわたって抗凝固因子が投与される。一部の実施形態では、この宿主には、器官(例えば、肺)、組織または細胞の投与後、30日未満、または20日未満、または10日未満、または5日未満、または4日未満、または3日未満、または2日未満、または1日未満にわたって免疫抑制剤が投与される。
【0470】
このレシピエント(宿主)は、移植の時点において、部分的にもしくは完全に免疫抑制され得るか、または全く免疫抑制されなくてもよい。移植の時点の前、その間および/またはその後に使用され得る免疫抑制剤/薬物は、当業者にとって任意の公知のものであり、これには、MMF(ミコフェノール酸モフェチル(Cellcept))、ATG(抗胸腺細胞グロブリン)、抗CD154(CD40L)、抗CD20抗体、抗CD40(2C10R4抗体療法)が含まれるがこれらに限定されない。Mohiuddin MM.ら、4月5日;7巻:11138頁[2016年]を参照のこと。
【0471】
アレムツズマブ(Campath)、CTLA4-Ig(Abatacept/Orencia)、ベラタセプト(LEA29Y)、シロリムス(Rapimune)、タクロリムス(Prograf)、ダクリズマブ(Zenapax)、バシリキシマブ(Simulect)、インフリキシマブ(Remicade)、シクロスポリン、デオキシスパガリン、可溶性補体受容体1、コブラ毒、メチルプレドニゾロン、FTY720、エベロリムス、抗CD154-Ab、レフルノミド、抗IL-2R-Ab、ラパマイシンおよびヒト抗CD154モノクローナル抗体。1または1よりも多い免疫抑制剤/薬物が、一緒にまたは順次使用され得る。1または1よりも多い免疫抑制剤/薬物が、誘導療法のためまたは維持療法のために使用され得る。同じまたは異なる薬物が、誘導段階および維持段階の間に使用され得る。一実施形態では、ダクリズマブ(Zenapax)が誘導療法に使用され、タクロリムス(Prograf)およびシロリムス(Rapimune)が維持療法に使用される。別の実施形態では、ダクリズマブ(Zenapax)が誘導療法に使用され、低用量タクロリムス(Prograf)および低用量シロリムス(Rapimune)が維持療法に使用される。一実施形態では、アレムツズマブ(Campath)が誘導療法に使用される。Teutebergら、Am J Transplantation、10巻(2号):382~388頁、2010年;van der Windtら、2009年、Am. J. Transplantation 9巻(12号):2716~2726頁、2009年;Shapiro、The Scientist、20巻(5号):43頁、2006年;Shapiroら、N Engl J. Med. 355巻:1318~1330頁、2006年を参照のこと。免疫抑制は、全身照射、胸腺照射、ならびに完全および/または部分的脾摘出術、胸骨、胸腺から収集された「混合キメラ」骨髄が含まれるがこれらに限定されない非薬物レジメンを使用しても達成され得る(Sachs、2014年)。これらの技術は、1または複数の免疫抑制薬物/薬剤と組み合わせても使用され得る。
【0472】
ヒトは、彼らの肺が、酸素と二酸化炭素とを交換するその生命維持に必要な機能をもはや果たすことができない場合、肺移植を必要とする。肺移植候補は、末期肺疾患を有し、2年未満生きると予測される。彼らは、継続的な酸素を必要とする場合が多く、酸素の欠如によって極端に疲れている。彼らの肺は、医学的に管理するにはあまりに病的であり、他の種類の手術が彼らを助けることはない。
単一肺移植
【0473】
レシピエントが単一の肺移植片を有している場合、そのレシピエントは、どちらの肺が交換されているかに依存して、自身の右側または左側のいずれかに開胸切開を有する。ドナー肺が手術室に到着した後で、外科医は、罹患した肺を除去する。レシピエントは、他方の肺を使用して換気される。残りの肺が十分な酸素を交換できない場合、外科医は、レシピエントを心肺バイパスに置く場合がある。彼らの血液は、血液に酸素を供給し二酸化炭素を除去する、身体の外側の機械を通じて濾過される。
【0474】
3つの接合が、新たな肺を取り付けるために使用される。これらの接合は吻合と呼ばれる。最初に、ドナー肺由来の主気管支が、レシピエントの気管支に取り付けられる。次いで、血管が取り付けられる-最初に肺動脈、次いで肺静脈。最後に、切開が閉じられ、レシピエントは、集中治療ユニットに搬送され、ここでおよそ12~24時間眠らされる。
両側または二重肺移植
【0475】
両方の肺が移植される場合(両側移植)、外科医は、各乳房の下に前方開胸と呼ばれる切開、または乳房の基部に右側から左側に行く切開を作成する。これは、横行胸骨切開術切開と呼ばれる。両側肺移植では、各肺は別々に交換される。外科医は、最も低い機能を有する肺を除去することによって始める。レシピエントは、部分的心肺バイパスが必要とされない限り、残りの肺を使用して換気される。最初の肺が除去されると、ドナー肺が、3つの接合を使用して取り付けられる。ドナー気管支がレシピエントの主気管支に取り付けられ、次いで、血管が取り付けられる-最初に肺動脈、次いで肺静脈。レシピエントの第2の罹患肺が除去され、他方の新たな肺が同じ方法で取り付けられる。第2の肺が完全に接合されると、血流が回復される。
【0476】
トランスジェニック肺(複数可)肺組織または心臓-肺移植は、当該分野で公知の任意の手段を使用して移植され得る。
生着を可能にするのに十分な時間(例えば、1週間、3週間など)が提供され、首尾よい生着が、当業者に公知の任意の技術を使用して決定される。これらの技術には、ドナーC-ペプチドレベルの評価、組織学的研究、静脈内グルコース負荷試験、外因性インスリン必要量試験、アルギニン刺激試験、グルカゴン刺激試験、IEQ/kg(膵島当量(pancreatic islet equivalent)/kg)必要量の試験、レシピエントにおける正常血糖の持続についての試験、免疫抑制必要量の試験、および移植された島の機能性についての試験が含まれ得るがこれらに限定されない(Roodら、Cell Transplantation、15巻:89~104頁、2006年;Roodら、Transplantation、83巻:202~210頁、2007年;DufraneおよびGianello、Transplantation、86巻:753~760頁、2008年;van der Windtら、2009年、Am. J. Transplantation、9巻(12号):2716~2726頁、2009年を参照のこと)。
【0477】
1または複数の技術が、生着が首尾よいかどうかを決定するために使用され得る。首尾よい生着は、処置なしと比較して、または一部の実施形態では、移植のための他のアプローチと比較して言及され得る(即ち、生着は、移植のために他の方法/組織を使用した場合よりも首尾よい)。一部の場合には、首尾よい生着は、添加された免疫抑制による、生命維持機能を含むドナーC-ペプチドレベルの評価によって決定される。
【0478】
一実施形態では、本発明は、本発明のトランスジェニックブタに由来する肺またはその一部分を対象に移植するステップを含む、それを必要とする対象において肺疾患または障害を処置する方法を提供する。
【0479】
この肺疾患は、進行型肺疾患であり得る。一実施形態では、この進行型肺疾患は、原発性肺高血圧(PAH)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺疾患(ILD)、サルコイドーシス、気管支拡張症、特発性肺線維症(IPD)、嚢胞性線維症(CF)、アルファ1-アンチトリプシン欠損症疾患と関連する。
【0480】
当業者によって理解されるように、原発性肺高血圧(PAH)とは、肺の動脈における高い血圧を指す。
【0481】
当業者によって理解されるように、嚢胞性線維症とは、両親が欠損遺伝子を有する必要があることを意味する、劣性遺伝する遺伝性疾患を指す。およそ30,000人のアフリカ人がCFを有し、約1千2百万人は、その遺伝子を有するが、それによって影響されるわけではない。CF患者は、気管支炎、気管支拡張症、肺炎、副鼻腔炎(副鼻腔(sinuses)の炎症)、鼻ポリープ(鼻の内側の増殖)または気胸(虚脱した肺)を含む呼吸器の問題を有する場合が多い。CFの症状には、頻繁な喘鳴または肺炎、粘度の高い粘液を伴う慢性的な咳、持続性の下痢、塩味の皮膚、および不良な成長が含まれる。
【0482】
当業者によって理解されるように、慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、喘息、慢性気管支炎または肺気腫によって引き起こされ得るものを指す。時間と共に、COPDを有する個体は、呼吸する能力を緩徐に喪失する。COPDの症状は、慢性の咳および痰産生から、重症の生活に支障が及ぶ息切れまでの範囲である。
【0483】
当業者によって理解されるように、アルファ1-アンチトリプシン疾患/アルファ-1アンチトリプシン欠損症は、アルファ-1アンチトリプシン-肺を保護するタンパク質-の欠如が早期発症型肺疾患を生じる遺伝性の状態である。喫煙は、このリスクを大きく増加させる。アルファ-1関連肺気腫の最初の症状は、20歳と40歳との間に現れる場合が多く、これには、活動後の息切れ、減少した運動能力、および喘鳴が含まれる。
【0484】
当業者によって理解されるように、間質性肺疾患(ILD)は、種々の慢性肺障害、例えば、特発性肺線維症、サルコイドーシス、好酸球性肉芽腫、グッドパスチャー症候群、特発性肺血鉄症およびウェゲナー肉芽腫症を含む一般的な用語である。ヒトがILDを有する場合、肺は、4つの方法で影響を受ける:1)肺組織が損傷される、2)肺中の気嚢の壁が炎症する、3)間質(気嚢間の組織)において瘢痕化が始まる、および4)肺が硬直する。
【0485】
当業者によって理解されるように、サルコイドーシスとは、複数の器官において小結節として形成し得る炎症細胞の異常な収集(肉芽腫)が関与する疾患を指す。肉芽腫は、肺またはその関連するリンパ節中に位置する場合が最も多い。
【0486】
当業者によって理解されるように、気管支拡張症とは、気道の不可逆的な拡張を指す。気道は、拡張すると、あまり強固でなくなり、より虚脱しやすくなる。また、分泌物を除去するのがより困難になる。気管支拡張症は、出生時に存在し得るか、または傷害もしくは他の疾患(最も多くは嚢胞性線維症)の結果として後に発症し得る。気管支拡張症は、任意の年齢で発生し得るが、最も多くは小児期に始まる。気管支拡張症の症状には、咳、発熱、脱力、体重減少および疲労が含まれる。
【0487】
一実施形態では、この方法は、1または複数の治療剤を対象に投与するステップをさらに含む。
【0488】
特定の実施形態では、この1または複数の治療剤は、抗拒絶剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗菌剤、抗ウイルス剤およびそれらの組合せから選択される。
【0489】
移植には、単一の肺または両方の肺(両側)が関与し得る。
【0490】
移植には、末期の心および肺疾患を有する患者における、心臓および肺の同時の外科的交換である、心肺移植または心臓-肺移植もまた関与し得る。この手順は、特定の疾患状態にある患者にとって、依然として実行可能な治療代替法のままである。心肺移植を必要とする末期心肺不全の原因は、先天性心疾患から特発性の原因までの範囲であり、これには以下が含まれる:肺高血圧症を伴う回復不能な先天性心異常(アイゼンメンゲル複合)、不可逆的な右心不全を伴う原発性肺高血圧;心臓および肺のみが関与するサルコイドーシス。
【実施例】
【0491】
(実施例1)
ベクター構築および二シストロンベクターを使用するブタの生成
ベクター構築
単一のプロモーターを共有する、2Aペプチド配列によって連結された2つの導入遺伝子からなる複数の二シストロン単位を合成した。2つの形態の2A配列、P2A(66bp)およびT2A(55bp)を利用し、多数の2導入遺伝子単位を連結して、1つのプロモーターからの両遺伝子の同時発現を可能にした。プロモーターは、構成的CAGプロモーター(CMVエンハンサー、ニワトリアクチンプロモーター、ウサギb-グロビンイントロン1)、内皮特異的ブタICAM-2プロモーター、またはTie2内皮特異的エンハンサーとCAGプロモーターとの組合せのいずれかであった。トロンボモジュリン(TBM)、CD39、EPCR、DAF、A20、CD47、CIITA、HO1、TFPIを含む、およびある特定の二シストロンベクターではブタCTLA4-Igもまた含むヒト導入遺伝子のペア(2A配列によって連結される)を構築した。
【0492】
a)ブタICAM-2エンハンサー/プロモーターおよびb)構成的CAGプロモーターの後ろにクローニング部位を有する多シストロンベクターを工学操作した。
図1を参照のこと。このベクターは、これらの単位間での遮蔽およびこれらの単位に隣接する遮蔽の提供を伴った、2つの二シストロン単位の挿入を可能にした。ペアになった2Aペプチド配列によって連結された機構的に関連する遺伝子のレパートリーから得られる、それ自体のプロモーターによって各二シストロンが調節される、いくつかの多シストロンベクター(MCV)を構築した。
二シストロンベクターを使用するブタの生成
【0493】
遺伝子型:GTKO.CD46.cagEPCR.DAF.cagTFPI.CD47。
【0494】
二シストロンベクター(CAGプロモーターの制御下にある)を有するブタを生産した。ある特定の系統では、2つの二シストロンを、ヒトCD46補体阻害因子遺伝子についてもトランスジェニックであるアルファGalノックアウト(GTKO)ブタ線維芽細胞(GTKO.CD46)中に取り込んだ(トランスフェクションおよびランダム組み入れによって)。かかる多遺伝子線維芽細胞を体細胞核移植(SCNT)に使用して、クローン化されたトランスジェニックブタを生産した。CAGプロモーターの制御下にある2つの二シストロン(CAG-EPCR.DAFおよびCAG-TFPI.CD47)として、4つ全てのMCV遺伝子をロバストに発現するトランスジェニックブタの単一の系統を使用して、非ヒト霊長類(ヒヒ)における器官移植実験での使用のための数匹のブタを生産した。
【0495】
遺伝子型「CAG-EPCR.DAFおよびCAG-TFPI.CD47」を有する多トランスジェニックブタは、腎臓、心臓および肺の移植において有効性を実証している。複数のブタが、in vivo肺処置モデルにおいて>30時間の生命維持を提供した。
【0496】
遺伝子型「GTKO.hCD46.hDAF.hEPCR.hCD47.hTFPI」を有するブタ由来の肺を受けたヒヒは、3遺伝子改変(GTKO.CD46.TBM)を有するブタを用いた過去の実験において頻繁に見られた進行性の異種移植傷害および生理的動揺(腹水症、増大する容量および変力物質必要量、天然の(ヒヒ)肺浮腫)とは対照的に、中程度の体液貯留(浮腫)および変力物質必要量のみを示した。これらの最も長い生存実験からのブタ肺は、拒絶の徴候を伴わずに、巨視的および微視的に、全体的に正常に見えた。
【0497】
ヒヒ移植研究のための他のブタ器官では、この6GE遺伝子型は、各器官モデル(心臓および腎臓)についての2回の連続的移植において、心臓移植(異所性Txでは>6カ月の生存)および同所性腎臓Tx(>8カ月)の生存時間を延長させた。比較すると、生命維持同所性腎臓Txモデルについて、<3カ月だけの生存が、3-遺伝子GTKO.CD46.TBMブタ(3GE)由来の腎臓を使用した場合に達成された。
【0498】
この6-遺伝子系統(6GE)は、各ヒトトランスジェニックタンパク質に特異的な蛍光抗体を別々に使用した、大動脈内皮細胞の両方のフローサイトメトリー(
図2を参照のこと)によって、または免疫組織化学(
図3)および染色によって、全てのMCV導入遺伝子の強い発現を有した。最近、成熟までのこの系統の生存度が、GTKO.CD46雌性と目下交配されている健康な成熟した1歳の成熟雄を用いて実証された。
【0499】
この系統を、GTKO.CD46.TBMもしくはGTKO.CD46.CIITA、またはGTKO.CD46.CMAH-KOである3GEブタと交配して、複数の組合せからの7GEブタ(7GE)の群、ならびにさらなる系統拡張のためのかかる遺伝子型の雄性および雌性を生産する。
【0500】
(実施例2)
遺伝子改変されたブタの生産のための多シストロンベクターの構築。
【0501】
多シストロン「2A」ベクター(MCV)を、十分に特徴付けられたGTKO.hCD46細胞中にトランスフェクトされた4-遺伝子ベクター(各MCV中の2つのプロモーターの制御下にある2つの二シストロン)を使用する、6-GEブタの生産のために使用し、次いでこれを、体細胞核移植に使用した。遺伝子型を、サザン分析によって決定した。遺伝子発現を、PBMCおよび内皮細胞のフローサイトメトリーによって、細胞および器官では免疫組織化学、Q-PCR(定量的ポリメラーゼ連鎖反応)およびウエスタンブロット分析によって、モニタリングした。導入遺伝子に特異的な生物活性アッセイを開発して、補体阻害、血小板凝集、活性化プロテインC形成、ATPase活性、第Xa因子切断、混合リンパ球反応(MLR)およびアポトーシスを定量および特徴付けした。全ての導入遺伝子の予測された遺伝子型およびロバストな発現を有するブタを、これらのアッセイにおいて同定し、異種移植のex vivoモデルおよびin vivoモデルの両方において使用した。
多シストロンベクターの型
【0502】
18の多シストロンベクターを生成し、これらの生物活性導入遺伝子の異なる組合せを有するブタを生産するために使用した(
図4を参照のこと)。ほとんどの場合において、1対の遺伝子を、内皮特異的pICAM-2プロモーターの制御下で発現させ、同じベクターにおいて、2つの他の遺伝子(第2の二シストロン中)を、構成的CAGプロモーターを介して発現させた。しかし、MCVベクターpREV999では、利用した両方のプロモーターがCAGであった。これらの二シストロンを分離し、インシュレータ配列(
図4中の二重矢印によって示される)を隣接させて、ゲノム組み入れ部位に関するいずれの影響も最小化し、各二シストロン中に存在する調節配列間のクロストークもまた制限した。
【0503】
図4は、抗凝固因子遺伝子トロンボモジュリン(TBM)、内皮プロテインC受容体(EPCR)、CD39および組織因子経路阻害因子(TFPI)、免疫抑制遺伝子ブタ細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質-4(pCTLA4Ig)、クラスII主要組織適合複合体ドミナントネガティブ(CIITA-DN)、および/または抗炎症導入遺伝子ヘムオキシゲナーゼ-1(HO1)、A20、CD47の内皮特異的発現または遍在性発現と組み合わせた、GTKO、補体調節遺伝子hCD46またはCD55を含む6遺伝子改変を有するブタの生産に使用した発現カセットを示す。
(実施例3)
6遺伝子改変(6GE)を有するブタ動物の生産
【0504】
直鎖MCV4遺伝子断片(例えば、
図4を参照のこと)を、GTKO(アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼノックアウト)またはGTKO.CD46(アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼノックアウト、およびCD46の遍在発現)プラットフォーム遺伝学を有するブタ胎仔線維芽細胞中にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を、蛍光活性化細胞分取(FACS)によってCAGプロモーターの後で発現される両方の遺伝子について選択し、これらの分取された細胞を、体細胞核移植(SCNTまたはクローニング)のための核ドナーとして使用した。融合した胚を、複数のレシピエント未経産ブタ(8~10匹の未経産ブタ/MCV)に移植し、妊娠を出産までモニタリングした。
これらのMCVエレメントを発現するブタを、遺伝子組合せのうちいくつかから生産した。生存可能なブタにおいてロバストな発現を提供した4-遺伝子MCV組合せのうち4つは以下を含んだ:
pREV941:EPCR-CD55-TBM-CD39
pREV971:EPCR-HO-1-TBM-CD47
pREV967:EPCR-HO-1-TBM-TFPI
pREV958:EPCR-CD55-TFPI-CD47
【0505】
ベクター構成に依存して、TBM、TFPI、CD39およびCD47、HO-1の発現を、内皮特異的プロモーター、ブタIcam-2によって駆動した。EPCR、DAFおよびHO-1の発現は、構成的CAGプロモーターによって駆動した。
これら6GEブタの遺伝学は以下であった:
pREV941:GTKO.CD46.EPCR.CD55.TBM.CD39
pREV971:GTKO.CD46.EPCR.HO-1.TBM.CD47
pREV967:GTKO.CD46.EPCR.HO-1.TBM.TFPI
pREV958:GTKO.CD46.EPCR.CD55.TFPI.CD47
(実施例4)
6GEブタ由来の器官の生存および機能
【0506】
pREV941:GTKO.CD46.EPCR.CD55.TBM.CD39。この6-遺伝子遺伝子型の数匹のファウンダーブタを生産し、肺、心臓および腎臓の移植に使用した。1匹のファウンダーは、ブタから非ヒト霊長類(NHP)in vivo肺モデルにおいて12時間の生命維持を提供した。第2のファウンダーは、in vivo肺Txモデルにおいて7時間の生命維持を提供した。第3のファウンダーは、非ヒト霊長類において5カ月より長く持続する心臓を提供した。6つ全ての遺伝子(
図4を参照のこと)の優れた発現を有するファウンダーのうち1匹を、再クローン化し、子孫のいくつかを、10カ月持続した異所性心臓移植片を含むヒヒモデルにおいてin vivoでの移植(Tx)のための器官ドナーとして使用した。この系統を、7時間の生命維持機能で、in vivo肺移植のために使用した。
【0507】
pREV971:GTKO.CD46.EPCR.HO-1.TBM.CD47。この遺伝子型を有する、3匹のファウンダーブタならびに3匹の再クローン化されたブタを生産した。この遺伝子型を有するさらなるブタは子宮内であった。6つ全ての遺伝子の発現を有するファウンダーのうち1匹は、肺移植(Tx)のin vivoモデルにおいておよそ24時間の生命維持を提供した。浮腫も血栓も報告されなかった。この高発現系統の再クローン化を、ファウンダー動物から調達した腎臓細胞からのSCNTによって行った。移植研究を実施して、Tx前および移植の過程の間に、免疫抑制薬療法を試験する。さらなる処置を、ヒヒモデル中への移植前に、免疫抑制薬物、例えば、炎症を低減させるためのヒトアルファ-1-アンチトリプシン(hAAT)の投与、およびドナー肺から常在性マクロファージを枯渇させるためのクロドロネート(chlodronate)リポソームの投与と併せて使用される。
【0508】
pREV967:GTKO.CD46.EPCR.HO-1.TBM.TFPI。8匹の生存可能なファウンダーブタを生産した。2つのさらなる妊娠を、これらのブタのうち1匹の再クローン化を用いて樹立した。
【0509】
pREV958:GTKO.CD46.EPCR.CD55.TFPI.CD47。TFPI+CD47の発現を駆動するためのpICAM-2プロモーターおよびEPCR+DAFの発現を駆動するためのCAGプロモーターを利用する遺伝子型「pREV958」の4-遺伝子MCVバージョン(
図4を参照のこと)を構築し、1つの遺伝子座において4つ全ての遺伝子が組み入れられた4-遺伝子MCVと類似の遺伝子型を生産するために利用した。pREV958遺伝子型を有するブタに由来するブタ肺を受けている2匹のレシピエントヒヒを回復させ、移植後に抜管して追跡し、最大で8日間の生存を実証した。これは、非ヒト霊長類におけるin vivoでの異種肺の最も長い生存記録である。
(実施例5)
Gal遺伝子座中へのオリゴヌクレオチド「ランディングパッド」のターゲティング化挿入
【0510】
アルファGal遺伝子座中へのCRISPR増強されたターゲティング化組み入れのために意図される合成されたDNA断片を、この系統のGTKO.CD46トランスジェニックブタ内の改変された天然のアルファGal遺伝子座において埋め込まれたNeor選択可能マーカー遺伝子のターゲティングのために工学操作した(Daiら 2002年、Nature Biotechnologyを参照のこと)。この「ランディングパッド」断片は100bpであり、リコンビナーゼ/インテグラーゼ媒介部位特異的組換えのための2つの部位、即ち、phi-C31およびBxbI attP部位を含み、これには、改変されたアルファGalにおけるターゲティング化組み入れに特異的な50bpの相同性アームが隣接した。特定のMCV(かかるatt部位が隣接する)内に存在し、引き続いて、アルファGal遺伝子座中に組み入れられる複数の導入遺伝子は、MCV内の他の導入遺伝子とだけでなく、アルファGalノックアウト遺伝子型とも、交配の間に同時分離する。
【0511】
このランディングパッドオリゴヌクレオチドを、改変されたGal遺伝子座内に二本鎖切断を導入するように設計されたCRISPR/Cas9 DNAベクターと組み合わせて、GTKO.CD46線維芽細胞中にトランスフェクトした。
【0512】
アルファGalにおいてこのリコンビナーゼ/インテグラーゼ「ランディングパッド」断片のCRISPR補助されたターゲティング化組み入れを有する2つのGTKO.CD46胎仔線維芽細胞クローンを、ロングレンジPCR分析によって同定し、二対立遺伝子ターゲティング化組み入れを有することを確認した。6匹のレシピエント中への核移植を、胎仔収集およびこの約200bp断片の正確な組み入れの確認のために、これらのクローンのうち1つを用いて実施した。
【0513】
1つの妊娠に由来する2匹の胎仔を、この小さいランディングパッド断片がGal遺伝子座中に挿入された細胞系を使用して生産した。DNAを両方の胎仔から単離し、挿入された断片および両側の隣接配列を示すアンプライマー(amplimer)を生産するロングレンジPCRにより、両方の胎仔が、Gal遺伝子座においてランディングパッドの二対立遺伝子組み入れ(phiC31およびBxbI attP部位のホモ接合性ノックイン)を有することが確認された。
(実施例6)
Gal相同性アームを有するGTKO.CD46hom+TBM.CD39.EPCR.DAF(941HDR)
【0514】
改変されたアルファGal遺伝子座内に位置するneo遺伝子を、ランディングパッドとして使用した。このアルファGal遺伝子座は、ブタ内のほとんどの細胞系譜ならびに全ての器官および組織において強い発現を有することが公知である。4導入遺伝子の安定かつ一貫した発現を目的として、4-遺伝子MCVベクターは、CRISPR補助された相同組換えを使用してGal遺伝子座中に首尾よくターゲティングされた。かかる組換えは、相同性誘導組換え(HDR)としても公知である。この断片は、約500bpのNeo
r遺伝子相同性アーム(改変されたGal遺伝子座内に位置する)が隣接するpREV941 MCVからなり、ここで、ΦC31およびBxb1 attP部位もまた、将来の改変のために、MCVのリコンビナーゼ媒介スワップアウト(swap-out)を可能にするために、このベクター中に含めた(
図7を参照のこと)。この941hdrベクターを、Neo-Gal CRISPRガイドDNAベクターと共に、GTKO.CD46胎仔線維芽細胞中にトランスフェクトした。2つの細胞クローンを、5’および3’ジャンクションPCR、ならびにMCV941断片の確認された正確な組み入れを有するジャンクションのDNA配列決定によって同定した。1つの遺伝子編集された細胞系は、アルファGal遺伝子座中への14kbpREV941 MCVの一対立遺伝子ターゲティング化挿入を有し、第2の細胞クローンは、アルファGal遺伝子座中への14kbpREV941 MCVの二対立遺伝子ターゲティング化挿入を有した。両方の細胞クローンを混合してSCNTに使用し、9つの胚移植を実施した。アルファGal遺伝子座におけるpREV941 MCVのDNA配列確認された二対立遺伝子組み入れを有する9匹の生存ブタが、3つの妊娠から生産された。一対立遺伝子組み入れに由来するターゲティングされたブタは生産されなかった。
【0515】
ブタを安楽死させ、このブタ由来の試料を、肺における免疫組織化学(IHC)(
図9)による、および複数の器官におけるウエスタンブロット分析(
図10)による、導入遺伝子発現の特徴付けに使用した。アルファGal遺伝子座においてこのpREV941 MCVのターゲティング化組み入れを有する残りの8匹のブタがよく育っていた。
(実施例7)
Gal相同性アームを有するGTKO.CD46hom+EPCR.HO-1.TBM.CD47(pREV971HDR)
【0516】
pREV958、pREV941、pREV971およびpREV954を含む複数のMCVベクターを改変して、遺伝子編集ツールとの利用を可能にするために、隣接する相同性アームを有させた。LR-PCR、ジャンクションPCR(アルファGal遺伝子座中への)およびDNA配列決定によって示されるように、pREV971のターゲティング化挿入を有する2つの細胞クローンを同定した。ターゲティングされた971 HDRコロニー(Icam-TBM.2A.CD47-CAG.EPCR.2A.HO1)のプールをSCNTに使用し、再構築された胚を12匹のレシピエント中に導入した。6つの妊娠がこの試みから生産され、そのうち1つを胎仔の単離に使用した。1つの妊娠由来の8匹全ての胎仔をロングレンジPCRによって分析したところ、pREV971 MCVベクターについて一対立遺伝子ターゲティング化ノックインであることが決定された。
【0517】
さらに、胎仔収集を、生きて生まれたブタにおける発現について予測的な、早産ブタにおけるMCV遺伝子の胎仔発現を見る潜在力に基づいて、かかる推定ノックイン事象のために採用した。フローサイトメトリーによる肺微小血管内皮細胞(MVEC)における発現を、TBMおよびCD47について、および陰性対照と比較してより高いレベルのHO1およびEPCRにおいて、pREV971-HDRターゲティング化胎仔において確認した(
図11B)。ELISAアッセイもまた実施して、ランダム組み入れMCVブタ(pREV941を有するブタ756.1およびpREV971を有するブタ830-3)対pREV941-HDR(ブタ875-5)におけるTBM発現を比較し、ここで、756-1以外の全てが、ヒト内皮細胞(HUVEC)におけるこれらの遺伝子の発現と等価であった。
(実施例8)
vWF改変
【0518】
ブタvWFの改変を実施して、ブタvWFによる自発的ヒト血小板活性化に関与する特異的領域に「ヒト化」を提供した。D3(部分的)、A1、A2、A3(部分的)ドメイン内の領域を、hvWF中のGP1b結合部位のフォールディングおよび隔離と関連するブタvWF領域(D3ドメイン)、ならびにGP1b受容体とのコラーゲン結合(2つの領域のうち1つ)と関連する領域(A1ドメイン)、およびADAMTS13切断部位(A2ドメイン)を改変するために選択した。エクソン22~28は、これらの領域を包含し、したがって、これら7つのヒトエクソンを、遺伝子ターゲティングによって等価なブタゲノム領域を同時に除去するために、cDNA断片(ヒトイントロンなし)として提供した。得られた遺伝子交換戦略は、ブタvWF遺伝子の遺伝子座をその他の点で改変することなく、vWFのキメラヒト-ブタエクソン22~28領域を創出した(
図17を参照のこと)。
【0519】
ヒトエクソン22~28をコードするDNA断片を合成し、5’末端においてブタvWFイントロン21と相同なゲノムDNA相同性アームおよび3’末端においてブタvWFイントロン28と相同なゲノムDNA相同性アームを隣接させた。このターゲティングベクターはまた、ターゲティングベクターの組み入れについて選択および富化するために、GFPおよびピューロマイシン耐性遺伝子の両方を含んだ。CRISPR/Cas9プラスミドを、二本鎖切断を創出するためにスワップアウトおよび交換される断片の両方の末端に直ぐ隣接するブタゲノム配列を結合しそれを切断するように設計した。CRISPR補助された相同組換えを使用して、vWFターゲティングベクターと併せた、2つのCRISPRベクターによるブタGTKO.CD46線維芽細胞における共トランスフェクションによって、ブタvWF遺伝子座中にヒトエクソン22~28 vWF断片を組み入れた(
図12を参照のこと)。Puro耐性コロニーを、ジャンクションPCR、ロングレンジPCRによってスクリーニングし、5’および3’ターゲティング化ジャンクション領域を配列決定して、適切なターゲティングを確認した。二倍体線維芽細胞におけるブタvWFの一方のみへのヒトvWF領域の一対立遺伝子ノックインは、予測された結果であったが、本発明者らは、22~28領域の二対立遺伝子交換(ブタゲノムDNAの欠失およびヒト領域との交換)を有する1つの細胞系を取得して驚いた。このヒト断片は、上記のように自発的血小板凝集に関与する領域を交換し、ヒト化エクソンは、ゲノム断片ではなくcDNAの形態であった。二対立遺伝子ノックイン細胞系(エクソン22~28遺伝子交換についてホモ接合性)をSCNTに使用し、妊娠を得、d35の胎仔を収集して胎仔細胞を取得した。適切な二対立遺伝子ターゲティング化交換が、引き続くステップのために保存した胎仔細胞系において確認された。ヒト-ブタDNAをインフレームで正確に融合させるために、hvWFノックイン細胞を、ターゲティングベクター中に埋め込まれた選択因子(GFPおよびpuro)を正確に切除するトランスポザーゼで処理した。ブタ-ヒトキメラvWF領域の切除および適切なインフレーム融合を、蛍光活性化細胞分取を介してGFP遺伝子の喪失によってモニタリングした。切除された線維芽細胞のプールをSCNTに使用して、5つの妊娠を得た。2つの妊娠を流産させ、さらなる遺伝子型決定分析および再クローン化のために胎仔細胞を調製するために使用した。取得された8匹の胎仔のうち、4匹は切除事象について一対立遺伝子であり、4匹は二対立遺伝子であり、ここで、配列決定した全ての切除事象は、隣接するブタvWFゲノム配列とのヒト配列の完璧なインフレームアラインメント(
図13を参照のこと)、ならびに選択因子の完全な切除を示した。2つの妊娠を臨月まで進めて、3匹の健康な生存ブタを誕生させた。遺伝子型決定により、これらのブタのうち2匹は、一対立遺伝子切除であり、これらのブタのうち1匹は、エクソン22~28においてヒトブタ融合物である両方の対立遺伝子を伴って二対立遺伝子切除を有したことが示された。
【0520】
遺伝子型的に、ヒト化キメラvWFを設計した。一対立遺伝子切除されたブタについて、一方の対立遺伝子は、(52のエクソンを有する遺伝子の)エクソン22においてなおも組み入れられたGFP-puro選択カセットによるブタvWF遺伝子の中断に起因してヌルであったが、他方の対立遺伝子は、改変されたキメラvWF対立遺伝子を有した。ヒトvWFおよびブタvWFの両方と交差反応する抗体を用いたウエスタンブロット分析により、全長vWFタンパク質が、一対立遺伝子切除されたブタおよび二対立遺伝子切除されたブタの両方の血液において生成されたが、一対立遺伝子切除された場合には、切除されていない対立遺伝子の不活性化に起因して、50%レベルのvWFのみを生成したことが示された。
【0521】
VWF編集(ヒト化キメラvWF)動物および対照GTKO.hCD46動物から引き出した新たなクエン酸ブタ全血を、Chrono-log全血血小板凝集計を使用して試験した。コラーゲンアゴニスト(2ug/mL)による処理は、vWF編集血液の凝集を引き起こし、VWF編集遺伝子型が、コラーゲンを結合し血小板凝集を刺激するvWFタンパク質を生産するその能力において機能的であったことが確認された(n=3)。同時発生的に、GTKO.hCD46全血(正常vWF)を試験したところ、一対立遺伝子VWF編集血液よりも50%多い凝集が示された(n=2)。
図14を参照のこと。
【0522】
さらに、ヒト血小板の自発的凝集は同定されなかった。曝露されたvWF編集ブタ乏血小板血漿ブタ乏血小板血漿(PPP)を、2-ステップ遠心分離プロトコールを使用して、クエン酸抗凝固処理したブタ血液試料から調製した。ヒト多血小板血漿(PRP)を、新たに引き出したヒト血液試料(クエン酸抗凝固処理した)から調製した。ヒトPRPを、チューブ中でブタPPPと1:1混合し、血小板の凝集を、Chrono-log全血血小板凝集計を使用して即座に記録した。vWF編集遺伝子型の動物871.2由来のPPPをヒトPRPと混合した場合、自発的血小板凝集は存在しなかった(n=1)。対照的に、GKO.hCD46遺伝子型(未改変のブタvWF)を有する動物由来のPPPをヒトPRPと混合した場合、ヒト血小板の自発的凝集が存在した(n=2)。ヒト化キメラvWF編集ブタ由来の血漿と共に使用した場合の、ヒト血小板の自発的凝集の明瞭な欠如は、意図した表現型の直接的な機能的証拠を提供した。ヒト化キメラvWF編集ブタは、ex vivo肺灌流(ヒト血液による)およびヒヒにおけるin vivoの非ヒト霊長類移植の両方において、ブタ由来の器官(肺および他の器官)を使用して試験され得る。
【0523】
VvWF編集遺伝子型の動物871.2由来のPPPをヒトPRPと混合した場合、自発的血小板凝集は存在しなかった(n=1)。対照的に、GKO.hCD46遺伝子型(未改変のブタvWF)を有する動物由来のPPPをヒトPRPと混合した場合、ヒト血小板の自発的凝集が存在した(n=2)。ヒト化キメラvWF編集ブタ由来の血漿と共に使用した場合の、ヒト血小板の自発的凝集のかかる明瞭な欠如は、意図した表現型の直接的な機能的証拠を提供したが、これは、前臨床モデルにおける改変の有効性を決定するために、ex vivo肺灌流(ヒト血液による)およびヒヒにおけるin vivoの非ヒト霊長類移植の両方において、かかるヒト化ブタ由来の器官(肺および他の器官)を使用して試験され得る。
【0524】
GTKO.CD46背景上にpREV971のランダム組み入れを有する高発現6GE系統の再クローン化は、これらのより進歩した遺伝学において、ヒトエクソン22~28のターゲティング化ノックインのために同じ方法を使用して、vWF遺伝子座のヒト化を反復するために使用され得る。さらに、キメラヒト-ブタvWF遺伝子型(および所望の表現型)の実証を有する、上で例示した3GE vWFノックイン系統(GTKO.CD46.vWFノックイン)について、異なるMCVベクター(例えば、pREV954、pREV971またはpREV999)が、crispr増強によってGalランディングパッドへと4つの導入遺伝子を挿入するための別の手段としてのこれらの系統において、および既存のvWF改変された系統において、改変されたGal遺伝子座中へのターゲティング化挿入を実施するために利用され得る。
(実施例9)
β4galNT2 KO(GTKO.CD46.HLA-E背景上)
【0525】
3遺伝子ブタ(3GE)を、GTKO.CD46、および異種移植に対するナチュラルキラー(NK)細胞応答を防止するために、トリマーとしての(ヒトベータ-2-ミクログロブリンと組み合わせた)ヒトHLA-Eの発現のためのゲノム導入遺伝子を用いて生成した。HLA-E 3-遺伝子ブタは、NK細胞の活性化の防止を伴って、ex vivo肺移植モデルにおいて有効性を示した。ブタβ4galNT2遺伝子のさらなるノックアウトを有するHLAEブタは、異種肺移植の間に宿主NHPにおいて生じる異種抗体(xeno-antibody)応答からのさらなる保護を提供するために試験され得る。CRISPR/Cas9ベクターを生成して、GTKO.CD46.HLAEトランスジェニック線維芽細胞においてβ4galNT2遺伝子をノックアウトした。HLAE背景上に二対立遺伝子β4galNT2 KO(B4KO)を有すると思われる細胞クローンのプールを、核移植に使用した。8匹の胎仔は、得られた7つの妊娠のうち1つに由来し、これらのうち4匹は、DBAレクチン(FL-1031、Vector Labs)染色の完全な欠如によって確認されるように、β4galNT2遺伝子座において二対立遺伝子挿入または欠失(INDEL)を有しただけでなく、β4galNT2の機能的ノックアウト(B4KO)を有した。B4KOを有する3-遺伝子HLAE系統は、ex vivoおよびin vivoのTxモデルにおいて試験され得る。
【0526】
さらに、MCVベクターは、アルファGal遺伝子座に特異的な相同性アーム(各末端において500bp)を用いて構築されており、その結果、これらのGTKO.CD46.HLAE.B4KO細胞系は、EPCR.HO-1.TBM.CD47(971HDR、実施例7を参照のこと)などのMCVのCRISPR補助されたターゲティング化挿入を介してさらに改変される。
(実施例10)
pREV999:GTKO.CD46.cagEPCR.DAFcagTFPI.CD47
【0527】
不死ブタ内皮細胞において全ての遺伝子を発現することが示された別のMCV構築物は、in vivo肺Txモデルにおいて優れた生命維持を提供したが、導入遺伝子がゲノム中の独立した位置において2つの二シストロンとしてランダムに組み入れられた遺伝子のセットの遍在性のおよびロバストな発現を提供する。アルファGalまたはブタβ4galNT2のいずれかの相同性アームと共に、pREV999 MCVを有するベクターが生成されている(
図2を参照のこと)。GTKOおよびCD46の背景上のB4GALNT2 KOの付加を伴うこのMCVは、肺Txにおける増強された生命維持を提供するために生成され得る。Gal遺伝子座ターゲティング化アームを有するpREV999ベクターを、GTKO線維芽細胞中にトランスフェクトし、ターゲティングされたコロニーを、組み入れ部位ジャンクションのLRPCRおよび配列決定によって同定した。ターゲティングされた細胞を、6匹のレシピエント中へのSCNTのために使用し、妊娠を得た。
【0528】
(実施例11)
アルファGal相同性アームを有するpREV954 MCV(EPCR.DAF.TBM.A20)のターゲティング化ノックインは、GTKO線維芽細胞において達成されており、Gal遺伝子座において954 MCVの一対立遺伝子ノックインを有する細胞系が、SCNTに使用されている。
【0529】
B4GALNT2アームを有するpREV954についてのベクターもまた生成されている。これらのアームは、CMAH遺伝子座、ブタROSA26またはAAVS1にターゲティングされた相同性アームに代替され得る。GTKOおよびCD46の背景上でのB4GALNT2 KOと組み合わせたMCVのノックインを伴う、第2のランディングパッド(Gal遺伝子座とは対照的に)中へのこのMCVの挿入は、肺Txにおいて大きく増強された生命維持を提供し得る。
【0530】
(実施例12)
アルファGal遺伝子座における2つの補体阻害因子遺伝子(CD46+DAF/CD55)のターゲティング化挿入によるGTKOブタの生成。
【0531】
導入遺伝子発現能についてさらなるゲノムランディングパッドを試験するためのベクターが構築されている。さらなるゲノムランディングパッドは、CMAHおよびβ4GalNT2であり、そうして、同時の遺伝子ノックアウトおよび導入遺伝子組み入れを達成する。
【0532】
二シストロンCD46/CD55(DAF)ベクターは、生産および臨床使用のためのかかる多トランスジェニックブタ系統の交配を促進するために、ターゲティング/組み入れ事象(即ち、CD46/DAF導入遺伝子と同時分離するアルファGalノックアウト)の数を低減させることを目的として、Gal遺伝子座におけるこれら2つの補体阻害因子導入遺伝子のcrispr媒介ノックインを促進するためのエレメントを伴って構築されている。このベクターは、2つの異なるプロモーター、hCD46のための内因性プロモーターおよび補体阻害因子DAFのための構成的CAGプロモーターによって駆動される2つの導入遺伝子を組み込む。あるいは、単一のCAGプロモーターの制御下にあるCD46遺伝子およびDAF遺伝子の両方を有する(改変されたGal遺伝子座へのターゲティングのための相同性アームもまた有する)二シストロンベクターを構築することもまた想定される。
【0533】
この二シストロンは、Txの間の非gal抗体関連補体結合からのロバストな保護を提供するために、GTKOブタ中のGal部位にターゲティングされる。
【0534】
この改変(アルファGalランディングパッドにおいて組み入れられたCD46/DAF二シストロン)を有する細胞系は、別のランディングパッド(例えば、それぞれ、ブタβ4galNT2またはCMAH遺伝子座)におけるB4GALNT2アームまたはCMAHアームを用いた、MCV、例えば、GTKO.CD46.EPCR.DAF.TBM.A20(pREV954)の挿入によってさらに改変され、そうして、7-遺伝子ブタ(7GE)を創出するために、またはGTKO背景上の2つのランディングパッドにターゲティングされる2つの4-遺伝子MCVを使用する場合には、9-遺伝子改変ブタ(9GE)を創出するために、同じ細胞系において多遺伝子編集のために2つのランディングパッドを利用する。