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特許7050667一体化した高配向ハロゲン化グラフェンのモノリス膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】一体化した高配向ハロゲン化グラフェンのモノリス膜
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/182 20170101AFI20220401BHJP
   C01B 32/19 20170101ALI20220401BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20220401BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20220401BHJP
【FI】
C01B32/182
C01B32/19
C01B32/198
C01B32/194
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2018514865
(86)(22)【出願日】2016-09-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 US2016051058
(87)【国際公開番号】W WO2017053089
(87)【国際公開日】2017-03-30
【審査請求日】2019-08-27
(31)【優先権主張番号】14/756,591
(32)【優先日】2015-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】14/756,592
(32)【優先日】2015-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510124593
【氏名又は名称】ナノテク インスツルメンツ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】ザム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ボー,ゼット.
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-340962(JP,A)
【文献】特表2013-529176(JP,A)
【文献】特表2014-504248(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0047579(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0218003(US,A1)
【文献】特表2013-544223(JP,A)
【文献】特表2014-505650(JP,A)
【文献】特開2001-196051(JP,A)
【文献】特開2000-133267(JP,A)
【文献】特開2011-184668(JP,A)
【文献】NAKAJIMA Tsuyoshi et al.,グラファイト-フッ素層間化合物,材料,日本,1985年02月15日,34巻 377号,p123-133,https://doi.org/10.2472/jsms.34.123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化グラフェンのシートまたは分子の一体化層を製造する方法であって、
(a)流動媒体中に分散された酸化グラフェンシートを有する酸化グラフェン分散体または流動媒体中に溶解された酸化グラフェン分子を有する酸化グラフェンゲルのいずれかを調製するステップであって、前記酸化グラフェンシートまたは前記酸化グラフェン分子が5重量%を超える酸素量を含有する、ステップと;
(b)剪断応力条件下で支持基材の表面上に前記酸化グラフェン分散体または前記酸化グラフェンゲルの層を供給および堆積するステップであって、前記供給および堆積する手順が、前記支持基材上に酸化グラフェンの湿潤層を形成するための前記酸化グラフェン分散体または前記酸化グラフェンゲルの剪断によって誘発される薄化と、前記酸化グラフェンシートまたは前記酸化グラフェン分子の剪断によって誘発される配向とを含む、ステップと;
(c)の化学式(式中、Zが、F、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せから選択されるハロゲン元素であり、x=0.01~6.0、y=0~5.0およびx+y≦6.0である)を有し、かつX線回折によって測定された場合に0.35nm~1.2nmの面間隔d002を有するハロゲン化グラフェンの乾燥一体化層を形成する以下(i)または(ii)のステップと
(i)前記酸化グラフェンの湿潤層中にハロゲン化剤を導入し、かつ前記ハロゲン化剤と前記酸化グラフェンシートまたは前記酸化グラフェン分子との間で化学反応を生じさせてハロゲン化グラフェンの湿潤層を形成し、および前記ハロゲン化グラフェンの湿潤層から前記流動媒体を除去するか、または
(ii)前記酸化グラフェンの湿潤層から前記流動媒体を除去して酸化グラフェンの乾燥層を形成し、および前記酸化グラフェンの乾燥層中にハロゲン化剤を導入し、かつ前記ハロゲン化剤と前記酸化グラフェンシートまたは前記酸化グラフェン分子との間で化学反応を生じさせるかのいずれかのハロゲン化処理を行
(d)25℃~250℃で1~24時間前記ハロゲン化処理する前にエージング室において25℃~200℃および20%~99%の湿度レベルで1時間~7日間にわたり、酸化グラフェンの湿潤層または乾燥層のエージングを行って、酸化グラフェンのエージングされた層を形成するステップを行うか、または、
エージング処理として100℃を超えるが3200℃以下の第1の熱処理温度で、酸化グラフェンの乾燥層または乾燥およびエージングされた層の熱処理を行い、0.4nm未満の面間隔d002と、5重量%未満の酸素および/またはハロゲン含有量とを有するステップを行う、方法。
【請求項2】
ハロゲン化グラフェンのシートまたは分子の一体化層を製造する方法であって、
a.流動媒体中に分散された酸化グラフェンシートを有する酸化グラフェン分散体または流動媒体中に溶解された酸化グラフェン分子を有する酸化グラフェンゲルのいずれかを調製するステップであって、前記酸化グラフェンシートまたは前記酸化グラフェン分子が5重量%を超える酸素量を含有する、ステップと;
b.前記酸化グラフェン分散体または前記酸化グラフェンゲル中にハロゲン化剤を導入し、かつ前記ハロゲン化剤と前記酸化グラフェンシートまたは酸化グラフェン分子との間で化学反応を生じさせて、ハロゲン化グラフェンシートの分散体またはハロゲン化グラフェン分子のゲルを形成してハロゲン化処理するステップであって、前記ハロゲン化グラフェンシートがCの化学式(式中、Zが、F、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せから選択されるハロゲン元素であり、x=0.01~6.0、y=0~5.0およびx+y≦6.0である)を有する、ステップと;
c.剪断応力条件下で支持基材の表面上に前記ハロゲン化グラフェン分散体またはゲルの層を供給および堆積するステップであって、前記供給および堆積する手順が、前記支持基材上に酸化グラフェンの湿潤層を形成するためのハロゲン化グラフェンの分散体またはゲルの剪断によって誘発される薄化と、前記ハロゲン化グラフェンシートまたは分子の剪断によって誘発される配向とを含むことによりハロゲン化グラフェンの湿潤層を前記支持基材の表面に形成するステップと;
d.前記ハロゲン化グラフェンの湿潤層から前記流動媒体を除去して、X線回折によって測定された場合に0.35nm~1.2nmの面間隔d002を有する前記ハロゲン化グラフェンの一体化層を形成するステップとを含み、
25℃~250℃で1~24時間前記ハロゲン化処理する前にエージング室において25℃~200℃および20%~99%の湿度レベルで1時間~7日間にわたり、酸化グラフェンの湿潤層または乾燥層のエージングを行って、酸化グラフェンのエージングされた層を形成するステップを行うか、または、
エージング処理として100℃を超えるが3200℃以下の第1の熱処理温度で、酸化グラフェンの乾燥層または乾燥およびエーングされた層の熱処理を行い、0.4nm未満の面間隔d002と、5重量%未満の酸素および/またはハロゲン含有量とを有するステップを行う、方法。
【請求項3】
前記酸化グラフェンシートが、単層酸化グラフェンまたは2~10の酸化グラフェン面を有する数層酸化グラフェンシートを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化剤が、F、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せから選択されるハロゲン元素を含有する液体、気体またはプラズマ状態の化学種を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化剤が、F、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せから選択されるハロゲン元素を含有する液体、気体またはプラズマ状態の化学種を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化剤が、フッ化水素酸HPF、XeF、Fガス、F/Arプラズマ、CFプラズマ、SFプラズマ、HCl、HPCl、XeCl、Clガス、Cl/Arプラズマ、CClプラズマ、SClプラズマ、HBr、XeBr、Brガス、Br/Arプラズマ、CBrプラズマ、SBrプラズマ、HI、XeI、I、I/Arプラズマ、CIプラズマ、SIプラズマまたはそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記フッ素化剤が、フッ化水素酸HPF、XeF、Fガス、F/Arプラズマ、CFプラズマ、SFプラズマ、HCl、HPCl、XeCl、Clガス、Cl/Arプラズマ、CClプラズマ、SClプラズマ、HBr、XeBr、Brガス、Br/Arプラズマ、CBrプラズマ、SBrプラズマ、HI、XeI、I、I/Arプラズマ、CIプラズマ、SIプラズマまたはそれらの組合せから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記供給および堆積するステップが、剪断応力手順と組み合わされる印刷、噴霧、コーティングおよび/またはキャスティング手順を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記供給および堆積するステップがリバースロール転写コーティング手順を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記供給および堆積するステップがスロットダイコーティングまたはコンマコーティング手順を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記供給および堆積するステップが、前記酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルの層を、第1の方向に第1の線速度で回転する塗布ローラーの表面上に供給して酸化グラフェンのアプリケーター層を形成するステップを含み、前記塗布ローラーが、前記酸化グラフェンのアプリケーター層を、前記第1の方向とは反対の第2の方向に第2の線速度で駆動される支持フィルムの表面に転写して、前記支持フィルム上に前記酸化グラフェンの湿潤層を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記支持フィルムが、前記塗布ローラーから作動距離に配置され、かつ前記第1の方向とは反対の前記第2の方向に回転する逆転支持ローラーによって駆動される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルを前記塗布ローラーの前記表面上に供給する前記ステップが、計量ローラーおよび/またはドクターブレードを使用して前記塗布ローラー表面上に所望の厚さの前記酸化グラフェンのアプリケーター層を提供するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
2、3または4個のローラーを操作するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記支持フィルムが給送ローラーから供給され、および前記支持フィルムによって支持された前記ハロゲン化グラフェンの乾燥層が巻き取りローラー上に巻き取られ、および前記方法がロールツーロール方式で行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
(前記第2の線速度)/(前記第1の線速度)として定義される速度比が1/5~5/1である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記速度比が1/1を超えかつ5/1未満である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
25℃~100℃のエージング温度および20%~99%の湿度レベルのエージング室において、1時間~7日間のエージング時間にわたり、ステップ(b)後に前記酸化グラフェンの湿潤層のエージングを行うか、ステップ(c)後に前記ハロゲン化グラフェンの湿潤層のエージングを行うか、またはステップ(d)後に前記ハロゲン化グラフェンの一体化層のエージングを行うステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
100℃を超えるが3,200℃以下の第1の熱処理温度で前記ハロゲン化グラフェンの一体化層を熱処理して、0.4nm未満の面間隔d002および1重量%未満の酸素/ハロゲン総含有量を有する黒鉛フィルムを製造するステップ(e)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記流動媒体が水、アルコール、水とアルコールとの混合物または有機溶媒からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記一体化層の厚さを減少させるために前記ステップ(d)中またはその後に圧縮ステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記黒鉛フィルムの厚さを減少させるために前記熱処理ステップ中またはその後に圧縮ステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルが、粉末または繊維の形態の黒鉛材料反応温度において反応容器中の酸化性液体に浸漬することによって調製され、前記黒鉛材料が、天然黒鉛、人造黒鉛、中間相炭素、中間相ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブまたはそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記エージングのステップが、エッジ間方式での前記酸化グラフェンシートまたは前記
酸化グラフェン分子の化学的連結、合体または化学結合を誘発する、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、グラフェン材料の分野に関し、特に配向されかつ互いに化学的に合体し一体化してモノリス一体層を形成する、元は分離されていた複数のハロゲン化グラフェンシートまたは分子から構成されるハロゲン化グラフェンフィルムの新規な形態に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素は、ダイヤモンド、フラーレン(0Dナノ黒鉛材料)、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバー(1Dナノ黒鉛材料)、グラフェン(2Dナノ黒鉛材料)および黒鉛(3D黒鉛材料)を含む5つの特有の結晶構造を有することが知られている。カーボンナノチューブ(CNT)は、単層または多層で成長した管状構造を意味する。カーボンナノチューブ(CNT)およびカーボンナノファイバー(CNF)は、数ナノメートル~数百ナノメートル程度の直径を有する。これらの長手方向の中空構造により、特有の機械的性質、電気的性質および化学的性質が材料に付与される。CNTまたはCNFは、1次元ナノカーボンまたは1Dナノ黒鉛材料である。
【0003】
天然黒鉛粒子または人造黒鉛粒子中の黒鉛微結晶の構成グラフェン面は、面間ファンデルワールス力を克服し得ることを条件として、剥離および抽出または単離により炭素原子の個別のグラフェンシートを得ることができる。単離された個別の炭素原子のグラフェンシートは、一般に単層グラフェンと呼ばれる。約0.3354nmのグラフェン面間隔で厚さ方向にファンデルファールス力によって結合した複数のグラフェン面のスタックは、一般に多層グラフェンと呼ばれる。多層グラフェンプレートレットは、最大300層のグラフェン面(<100nmの厚さ)を有するが、より典型的には最大30のグラフェン面(<10nmの厚さ)、さらにより典型的には最大20のグラフェン面(<7nmの厚さ)、最も典型的には最大10のグラフェン面(科学界では一般に数層グラフェンと一般に呼ばれる)を有する。単層グラフェンおよび多層グラフェンまたは酸化グラフェンのシートは一括して「ナノグラフェンプレートレット」(NGP)と呼ばれる。グラフェンまたは酸化グラフェンのシート/プレートレット(一括してNGP)は、0Dのフラーレン、1DのCNTおよび3Dの黒鉛とは区別される新しい種類の炭素ナノ材料(2Dナノカーボン)である。
【0004】
本発明者らの研究グループは、2002年にはグラフェン材料および関連する製造方法の開発の先駆者であった:(1)B.Z.JangおよびW.C.Huang、「Nano-scaled Graphene Plates」、米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)、2002年10月21日出願;(2)B.Z.Jangら、「Process for Producing Nano-scaled Graphene Plates」、米国特許出願第10/858,814号明細書(06/03/2004);および(3)B.Z.Jang、A.Zhamu、およびJ.Guo、「Process for Producing Nano-scaled Platelets and Nanocomposites」、米国特許出願第11/509,424号明細書(08/25/2006)。
【0005】
図5(A)(プロセスフローチャート)および図5(B)(概略図)に示されるように、単離または分離されたグラフェンまたは酸化グラフェンシート(NGP)は、典型的には、天然黒鉛粒子に強酸および/または酸化剤がインターカレートして黒鉛インターカレーション化合物(GIC)または酸化黒鉛(GO)を得ることによって得られる。グラフェン面間の介在空間中の化学種または官能基の存在は、グラフェン間隔(d002、X線回折によって測定される)を増加させる機能を果たし、それにより、他の場合にはc軸方向に沿って互いにグラフェン面を維持するファンデルワールス力が大幅に低下する。GICまたはGOは、ほとんどの場合、天然黒鉛粉末(図5(A)の20および図5(B)の100)を硫酸、硝酸(酸化剤)および別の酸化剤(たとえば、過マンガン酸カリウムまたは過塩素酸ナトリウム)の混合物に浸漬することによって製造される。結果として得られるGIC(22または102)は、実際にはある種の酸化黒鉛(GO)粒子となる。次に、このGICまたはGOを水中で繰り返し洗浄しすすぐことによって過剰の酸を除去すると、水中に分散された個別の視覚的に認識可能な酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛の懸濁液または分散体が得られる。このすすぎステップ後、2つの処理経路が存在する。
【0006】
経路1は、懸濁液から水を除去して、実質的に乾燥GICまたは乾燥酸化黒鉛粒子の塊である「膨張性黒鉛」を得るステップを含む。膨張性黒鉛を典型的には800~1,050℃の範囲内の温度に約30秒~2分間曝露すると、GICは30~300倍の急激な体積膨張を起こして「黒鉛ワーム」(24または104)を形成し、これらは、それぞれ剥離しているが大部分は分離していない依然として相互接続した黒鉛フレークの集合体である。黒鉛ワームのSEM画像が図6(A)に示されている。
【0007】
経路1Aでは、これらの黒鉛ワーム(剥離黒鉛または「相互接続し/分離していない黒鉛フレークの網目構造」)を再圧縮して、典型的には0.1mm(100μm)~0.5mm(500μm)の範囲内の厚さを有する可撓性黒鉛シートまたは箔(26または106)を得ることができる。あるいは、大部分が100nmを超える厚さの(したがって、定義によってナノ材料ではない)黒鉛フレークまたはプレートレットを含有するいわゆる「膨張黒鉛フレーク」(108)を製造する目的で、黒鉛ワームを単純に破壊するために低強度エアミルまたは剪断機の使用を選択することができる。
【0008】
剥離黒鉛ワーム、膨張黒鉛フレークおよび黒鉛ワームを再圧縮した塊(一般に可撓性黒鉛シートまたは可撓性黒鉛箔と呼ばれる)のすべては、1Dナノカーボン材料(CNTまたはCNF)および2Dナノカーボン材料(グラフェンシートまたはプレートレット、NGP)のいずれとも基本的に異なり、明確に区別される3D黒鉛材料である。可撓性黒鉛(FG)箔は、ヒートスプレッダー材料として使用することができるが、典型的には500W/mK未満(より典型的には<300W/mK)の最大面内熱伝導率および1,500S/cm以下の面内電気伝導率を示す。これらの低い伝導率値は、多くの欠陥、しわが形成されるかまたは折り畳まれた黒鉛フレーク、黒鉛フレーク間の中断または間隙および非平行のフレーク(たとえば、多くのフレークが所望の配向方向から>30°だけ逸脱した角度で傾いている図6(B)のSEM画像)の直接的な結果である。多くのフレークは非常に大きい角度で互いに対して傾いている(たとえば、20~40度の誤配向)。平均偏差角は、10°を超え、より典型的には>20°、多くの場合に>30°である。
【0009】
経路1Bでは、本発明者らの米国特許出願第10/858,814号明細書に開示されるように、分離した単層および多層のグラフェンシート(一括してNGPと呼ばれる、33または112)を形成するために、剥離黒鉛に高強度の機械的剪断が加えられる(たとえば、超音波処理器、高剪断ミキサー、高強度エアジェットミルまたは高エネルギーボールミルが使用される)。単層グラフェンは0.34nmの薄さとなることができ、一方、多層グラフェンは最大100nmの厚さを有することができるが、より典型的には20nm未満である。
【0010】
経路2では、酸化黒鉛粒子から個別の酸化グラフェンシートを分離/単離する目的で酸化黒鉛懸濁液の超音波処理が必要となる。これは、グラフェン面間の距離が天然黒鉛中の0.3354nmから、高度に酸化された酸化黒鉛の0.6~1.1nmまで増加され、隣接する面を互いに維持するファンデルワールス力を大幅に低下させるという認識に基づいている。超音波の出力は、グラフェン面のシートをさらに分離させて、分離された、単離されたまたは個別の酸化グラフェン(GO)シートを形成するのに十分な出力であってよい。次に、これらの酸化グラフェンシートは、典型的には0.001重量%~10重量%、より典型的には0.01重量%~5重量%、最も典型的で好ましくは2重量%未満の酸素含有量を有する「還元型酸化グラフェン」(RGO)を得るために化学的または熱的に還元することができる。
【0011】
本出願の請求項を画定する目的で、グラフェンまたはNGPは、単層および多層のプリスティングラフェン、酸化グラフェンまたは還元型酸化グラフェン(RGO)の個別の(単離または分離した)シート/プレートレットを含む。プリスティングラフェンは、実質的に0%の酸素を有する。RGOは、典型的には0.001重量%~5重量%の酸素含有量を有する。酸化グラフェン(RGOを含む)は、0.001重量%~50重量%の酸素を有することができる。
【0012】
単離された固体NGP(すなわち、100nm~10μmの典型的な長さ/幅を有する、プリスティングラフェン、GOおよびRGOの個別の分離したシート/プレートレット)は、たとえば製紙プロセスを使用することによって巨視的なサイズのフィルム、膜または紙シート(図5(A)または図5(B)の34または114)に充填される場合、典型的には、有用な物理的性質の一例としての高い熱伝導率を示さない。この原因は、主として、これらのシート/プレートレットが、典型的には配向が不十分であり、多くの種類の欠陥がフィルム/膜/紙中に形成されるという考えによる。特に、グラフェン、GOまたはRGOのプレートレットから作製された紙状構造またはマット(たとえば、真空支援濾過方法によって作製された紙シート)は、多くの欠陥、しわが形成されるか折り畳まれたグラフェンシート、プレートレット間の中断または間隙および非平行のプレートレット(たとえば、図7(B)のSEM画像)を示し、それによって比較的不十分な熱伝導率、低い電気伝導率、低い絶縁破壊強度および低い構造強度が生じる。個別のNGP、GOまたはRGOプレートレット単独(樹脂バインダーなし)のこれらの紙状構造または凝集体は、剥落する傾向も有し、伝導性粒子が空気中に放出されるが、バインダー樹脂が存在すると、その構造の伝導率の低下が大幅に低下する。
【0013】
NiまたはCuの表面上での炭化水素ガス(たとえば、C)の接触化学蒸着CVDにより、グラフェン薄膜(<5nmおよび最も典型的には<2nm)を作製することができる。NiまたはCuが触媒となることで、800~1,000℃における炭化水素ガス分子の分解によって得られた炭素原子がNiまたはCu箔表面上に堆積して、多結晶の単層または数層のグラフェン(この場合、2~5層)のシートを形成する。これらの超薄グラフェンフィルムは光学的に透明で電気伝導性であり、タッチスクリーン(インジウムスズ酸化物またはITOガラスの代わりに使用)または半導体デバイス(シリコンSiの代わりに使用)などの用途が意図される。NiまたはCu触媒によるCVDプロセスは、5~10を超えるグラフェン面(典型的には<5nm、より典型的には<2nm)の堆積に適しておらず、その数を超えると、下にあるNiまたはCu触媒はもはや触媒効果を得ることができない。5nmを超える厚さのCVDグラフェンフィルムが可能であることを示す実験的証拠は存在しない。さらに、CVDプロセスは非常に費用がかかることが知られている。
【0014】
半導体物理学の観点から、一方で、多層グラフェンシートは金属または導体となり、単層グラフェンシートは半金属となる。単層プリスティングラフェンは、その価電子帯と伝導帯とが互いに接触しているため、エネルギーバンドギャップが存在せず、そのため半金属として分類される(対照的に、半導体のSiは、その電子配置の伝導帯と価電子帯との間で1.1eVのエネルギーバンドギャップを有する)。バンドギャップが存在しないことで、現代の電子デバイス中でのグラフェンの使用が限定される。多くの方法、たとえばハロゲン化、酸化、水素化または種々の分子および化学種の非共有結合によってバンドギャップが広がるように、単層グラフェンのバンド構造を修正することができる。
【0015】
他方で、高度に酸化したグラフェンまたは酸化グラフェン(GO)は絶縁材料と見なされ、おそらく誘電体として使用することができる。しかし、GOの(熱への曝露に対する)低い熱安定性のため、その誘電抵抗率が低下し、電子デバイスの製造中に熱処理ステップが使用されることが多いため、これは欠点となる。さらに、多層プリスティングラフェン(>3層)および還元型酸化グラフェン(RGO)は、実質的に誘電体材料および絶縁材料として使用できない導体である。この一例を図7(A)に示す。
【0016】
誘電体材料は、ゲート誘電体、ダイナミックランダムアクセスメモリ、人工筋肉およびエネルギー貯蔵装置におけるそれらの潜在的用途のために非常に注目されている。エネルギー貯蔵用の誘電体(セラミック)コンデンサは、低い加工性(たとえば、処理温度が通常1,000℃を超える)、高密度および低い絶縁破壊強度が問題となる。チタン酸バリウム含有複合材料などの従来の高誘電性ペロブスカイトセラミックは、種々の形状が必要となる状況では使用できない。無機セラミックと比較すると、ポリマーは、より高い電界中でより適切となる。さらに、ポリマーは無機セラミックに対して軽量、低コスト、加工の容易さおよび自己回復の利点を有する。しかし、低い動作温度のため、ポリマー誘電体のさらなる開発が制限される。市販のコンデンサは、携帯電話、ビデオ/オーディオシステムおよびパーソナルコンピュータなどの限定された用途でのみ使用される。たとえば、二軸延伸ポリプロピレンポリマー系コンデンサは105℃未満の温度でのみ動作することができる。したがって、高誘電率を有する材料、特に高温環境で使用できる材料は、デバイス用途において大きい可能性がある。
【0017】
現在の誘電体材料のこれらの欠点を考慮して、本発明者らは、誘電体用途にグラフェン由来の材料を使用する可能性の調査を進めた。徹底的で広範囲の研究後、本発明者らは、驚くべきことに、10nmを超える厚さのハロゲン化グラフェン材料が良好な誘電体材料であることを発見した。ハロゲン化グラフェンは、一部の炭素原子がハロゲン原子と共有結合しているグラフェン誘導体のグループである。ハロゲンと結合する炭素原子はsp混成を有し、他の炭素原子はsp混成を有する。これは、ハロゲン化したグラフェン(ハロゲン化グラフェンとも呼ばれる)が場合により絶縁材料となり得ることを示す。このために、より厚いハロゲン化グラフェンフィルム(>10nm、好ましくは>100nm、さらに好ましくは>1μm、より好ましくは>10μm)が望ましい。しかし、フッ化グラフェンの超薄膜(たとえば、<<10nm)は、プリスティングラフェンの接触CVD調製後、フッ素化を行うことによって製造されているが、望ましい物理的性質と化学的性質との組合せを有するより厚いフッ化グラフェンフィルムは利用可能となっていない。現行のデバイスのほとんどはより厚い誘電体部品を有することが要求されるが、より厚い誘電体材料(5~10nmよりも厚い)は低い絶縁破壊強度を有する傾向にあることが当技術分野において知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】米国特許第7,071,258号
【文献】米国特許出願第10/858,814号
【文献】米国特許出願第11/509,424号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、高い絶縁破壊強度、高い誘電率、十分な機械的強度、良好な熱安定性および良好な化学安定性を示すグラフェン由来の材料のより厚いフィルムを製造するための費用対効果の高い方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、高配向ハロゲン化グラフェンシートまたは分子の一体化層を製造する方法を提供し、そのフィルムは10nm~500μmの厚さを有する。この方法は、(a)流動媒体中に分散された酸化グラフェンシートを有する酸化グラフェン分散体または流動媒体中に溶解された酸化グラフェン分子を有する酸化グラフェンゲルのいずれかを調製するステップであって、酸化グラフェンシートまたは酸化グラフェン分子が5重量%を超える酸素量を含有する、ステップと;(b)剪断応力条件下で支持基材の表面上に酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルの層を供給および堆積するステップであって、供給および堆積する手順が、支持基材上に酸化グラフェンの湿潤層を形成するための酸化グラフェン分散体またはゲルの剪断によって誘発される薄化と、酸化グラフェンシートまたは分子の剪断によって誘発される配向とを含む、ステップと;(c)Cの化学式(式中、Zが、F、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せから選択されるハロゲン元素であり、x=0.01~6.0、y=0~5.0およびx+y≦6.0である)を有するハロゲン化グラフェンの乾燥一体化層を形成するために、(i)酸化グラフェンの湿潤層中にハロゲン化剤を導入し、かつハロゲン化剤と酸化グラフェンシートまたは分子との間で化学反応を生じさせてハロゲン化グラフェンの湿潤層を形成し、およびハロゲン化グラフェンの湿潤層から流動媒体を除去するか、または(ii)酸化グラフェンの湿潤層から流動媒体を除去して酸化グラフェンの乾燥層を形成し、および酸化グラフェンの乾燥層中にハロゲン化剤を導入し、かつハロゲン化剤と酸化グラフェンシートまたは分子との間で化学反応を生じさせるかのいずれかのステップと;(d)ハロゲン化グラフェンの湿潤層から流動媒体を除去して、X線回折によって測定された場合に0.35nm~1.2nm(好ましくは0.40~1.0nm、さらに好ましくかつ典型的には0.40nm~0.90nm)の面間隔d002を有するハロゲン化グラフェンの一体化層を形成するステップとを含む。元の天然黒鉛が典型的には0.3359nmであることとは対照的に、0.350~1.0nmの範囲の面間隔は、隣接する面を押し広げるハロゲン元素またはハロゲン含有化学基(一部の場合、これに加えて一部の残留OまたはO含有基)がグラフェン面上に存在するためであることに留意することができる。
【0021】
タイミングの順序に関して、GOの湿潤層から液体媒体を除去する前、その間またはその後にハロゲン化剤を導入できることに留意することができる。
好ましい一実施形態では、配向ハロゲン化グラフェンの一体化層は、y=0およびx=0.01~6.0である(酸素が完全に除去される)化学式Cを有する。好ましい別の一実施形態では、配向ハロゲン化グラフェンの一体化層は、y=0.1およびx=0.1~5.0である(低酸素含有量を有する)化学式Cを有する。
【0022】
ハロゲン化グラフェンの乾燥一体化層中のハロゲン化グラフェンシートは、1つの方向に沿って互いに実質的に平行であり、これらのシートの平均偏差角は10度未満である。従来のGOまたはRGOシートを主成分とする紙中では、グラフェンシートまたはプレートレットは、非常に大きい角度(たとえば、20~40度の誤配向)で互いに対して傾いていることに留意することができる。所望の配向角からの平均偏差角は10°を超え、より典型的には>20°、多くの場合に>30°である。
【0023】
本発明者らは、エージングまたは熱処理の温度が100℃を超えるとGOフィルムの電気的特性および誘電特性が急速に劣化することを発見した。たとえば、GOフィルムが200℃の熱に数時間曝露される場合、電気抵抗率が10-6Ω-cmから10+2Ω-cmまで低下することがあり、これは抵抗率の大きさの8桁の低下であり、GOは全く役に立たない誘電体材料となる。対照的に、本発明による高配向ハロゲン化グラフェンの一体化フィルムCは、化学組成によっては最高1,000~2,500℃まで熱安定性となり得る。より大きいx値またはより高いx/(y+x)比でより高い最高有用温度が得られる。x=1の場合、熱安定性温度は2,000~2,500℃までの高さとなり得る。
【0024】
本発明による一体化フィルムの引張強度は、典型的には60MPa~140MPaとなり、引張弾性率は3.0~12GPaとなることが分かっている。驚くべきことに、これらは高い構造的完全性を有する。
【0025】
ある実施形態では、タイミングに関して、ステップ(b)はステップ(b)中またはその後に行うことができる。したがって、本発明は、(a)流動媒体中に分散された酸化グラフェンシートを有する酸化グラフェン分散体または流動媒体中に溶解された酸化グラフェン分子を有する酸化グラフェンゲルのいずれかを調製するステップであって、前記酸化グラフェンシートまたは酸化グラフェン分子が5重量%を超える酸素量を含有する、ステップと;(b)前記酸化グラフェン分散体またはゲル中にハロゲン化剤を導入し、かつ前記ハロゲン化剤と前記酸化グラフェンシートまたは分子との間で化学反応を生じさせて、ハロゲン化グラフェンシートの分散体またはハロゲン化グラフェン分子のゲルを形成するステップであって、前記ハロゲン化グラフェンシートがCの化学式(式中、Zが、F、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せから選択されるハロゲン元素であり、x=0.01~6.0、y=0~5.0およびx+y≦6.0である)を有する、ステップと;(c)剪断応力条件下で支持基材の表面上に前記ハロゲン化グラフェン分散体またはゲルの層を供給および堆積するステップであって、前記供給および堆積する手順が、前記支持基材上にハロゲン化グラフェンの湿潤層を形成するための前記ハロゲン化グラフェン分散体またはゲルの剪断によって誘発される薄化と、ハロゲン化グラフェンシートまたは分子の剪断によって誘発される配向とを含む、ステップと;(d)ハロゲン化グラフェンの湿潤層から前記流動媒体を除去して、X線回折によって測定された場合に0.35nm~1.2nmの面間隔d002を有する前記ハロゲン化グラフェンの一体化層を形成するステップとを含む方法も提供する。
【0026】
さらに、ハロゲン化グラフェンの乾燥一体化層中のハロゲン化グラフェンシートは、1つの方向に沿って互いに実質的に平行であり、これらのシートの平均偏差角は10度未満である。ある程度のエージング後、一体化層は、1つの方向に沿って互いに実質的に平行である複数の構成ハロゲン化グラフェン面であって、10度未満(より典型的には5度未満であるこれらのハロゲン化グラフェン面の平均偏差角を有する複数の構成ハロゲン化グラフェン面を有する。
【0027】
種々の実施形態では、出発酸化グラフェンシートは、それぞれ2~10の酸化グラフェン面を有する単層酸化グラフェンまたは数層酸化グラフェンシートを含有する。流動媒体は、水、アルコール、水とアルコールとの混合物または有機溶媒であってよい。
【0028】
フッ素化剤は、好ましくは、F、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せから選択されるハロゲン元素を含有する液体、気体またはプラズマ状態の化学種を含有する。ある実施形態では、フッ素化剤は、F、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せから選択されるハロゲン元素を含有する液体、気体またはプラズマ状態の化学種を含有する。特に好ましい実施形態では、フッ素化剤は、フッ化水素酸、ヘキサフルオロリン酸またはHPF、XeF、Fガス、F/Arプラズマ、CFプラズマ、SFプラズマ、HCl、HPCl、XeCl、Clガス、Cl/Arプラズマ、CClプラズマ、SClプラズマ、HBr、XeBr、Brガス、Br/Arプラズマ、CBrプラズマ、SBrプラズマ、HI、XeI、I、I/Arプラズマ、CIプラズマ、SIプラズマまたはそれらの組合せから選択される。
【0029】
供給および堆積のステップは、剪断応力手順と組み合わされる印刷、噴霧、コーティングおよび/またはキャスティング手順を含むことができる。コーティング方法は、スロットダイコーティングまたはコンマコーティング手順を含むことができる。より好ましくは、供給および堆積のステップは、リバースロール転写コーティング手順を含む。
【0030】
リバースロール転写コーティングプロセスのある好ましい変形形態では、供給および堆積のステップは、酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルの層を、第1の方向に第1の線速度で回転する塗布ローラーの表面上に供給して酸化グラフェンのアプリケーター層を形成するステップを含み、塗布ローラーが、酸化グラフェンのアプリケーター層を、第1の方向とは反対の第2の方向に第2の線速度で駆動される支持フィルムの表面に転写して、支持フィルム上に酸化グラフェンの湿潤層を形成する。支持フィルムは、塗布ローラーから作動距離に配置され、かつ第1の方向とは反対の第2の方向に回転する逆転支持ローラーによって駆動され得る。
【0031】
(前記第2の線速度)/(前記第1の線速度)として定義される速度比は、好ましくは1/5~5/1であり、より好ましくは1/1を超えかつ5/1未満である。塗布ローラーの外面が支持フィルムの線移動速度と同じ速度で移動する場合、速度比は1/1または1である。一例として、塗布ローラーの外面が支持フィルムの線移動速度の3倍の速度で移動する場合、速度比は3/1である。ある実施形態では、速度比は1/1を超えかつ5/1未満である。好ましくは、速度比は1/1を超えかつ3/1以下である。
【0032】
ある実施形態では、酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルを塗布ローラーの表面上に供給するステップは、計量ローラーおよび/またはドクターブレードを使用して塗布ローラーの表面上に所望の厚さの酸化グラフェンのアプリケーター層を形成するステップを含む。この方法は、2、3または4個のローラーを操作するステップを含むことができる。
【0033】
好ましい一実施形態では、支持フィルムは、塗布ローラーから作動距離に配置され、かつ第1の方向とは反対の第2の方向に回転する逆転支持ローラーによって駆動される。この支持ローラーの外面における速度により、(支持フィルムの)第2の線速度が決定される。好ましくは、支持フィルムは給送ローラーから供給され、および支持フィルムによって支持されるハロゲン化グラフェンの乾燥層は巻き取りローラー上に巻き取られ、およびこの方法はロールツーロール方式で行われる。
【0034】
好ましくは、本発明による方法は、25℃~100℃のエージング温度および20%~99%の湿度レベルのエージング室において、1時間~7日間のエージング時間にわたり、ステップ(b)後に酸化グラフェンの湿潤層のエージングを行うか、ステップ(c)後にハロゲン化グラフェンの湿潤層のエージングを行うか、またはステップ(d)後にハロゲン化グラフェンの一体化層のエージングを行うステップをさらに含む。この方法は、前記一体化層の厚さを減少させるために前記ステップ(d)中またはその後に圧縮ステップをさらに含むことができる。
【0035】
本発明の方法は、100℃を超えるが3,200℃以下の第1の熱処理温度において、所望の長さの時間にわたって配向ハロゲン化グラフェンの一体化層を熱処理して、0.4nm未満の面間隔d002および1重量%未満の酸素/ハロゲン総含有量を有する黒鉛フィルムを製造するステップ(e)をさらに含むことができる。この方法は、黒鉛フィルムの厚さを減少させるために熱処理ステップ中またはその後に圧縮ステップをさらに含むことができる。
【0036】
本発明による方法では、酸化グラフェン分散体中の酸化グラフェンシートは、好ましくは、酸化グラフェンシートと液体媒体とを合わせた全重量を基準として0.1%~25%の重量分率を占める。より好ましくは、酸化グラフェン分散体中の酸化グラフェンシートは0.5%~15%の重量分率を占める。ある実施形態では、酸化グラフェンシートは、酸化グラフェンシートと液体媒体とを合わせた全重量を基準として3%~15%の重量比を占める。ある実施形態では、酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルは、液晶相を形成するために、流動媒体中に分散された3重量%を超える酸化グラフェンを有する。
【0037】
本発明の酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルは、粉末または繊維の形態の黒鉛材料を、前記酸化グラフェン分散体または前記酸化グラフェンゲルを得るのに十分な長さの時間にわたり、反応温度において反応容器中の酸化性液体に浸漬することによって調製することができ、前記黒鉛材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、中間相炭素、中間相ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブまたはそれらの組合せから選択される。
【0038】
本発明の酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルは、最大の元の黒鉛結晶粒度を有する黒鉛材料から得ることができ、および結果として得られるハロゲン化グラフェンフィルムは、この最大の元の結晶粒度よりも大きい結晶粒度を有する多結晶グラフェン構造である。このより大きい結晶粒度は、GOシート、GO分子、ハロゲン化分子またはハロゲン化シートの熱処理が、エッジ間方式での酸化グラフェン/ハロゲン化グラフェンシートまたは酸化グラフェン/ハロゲン化グラフェン分子の化学的連結、合体または化学結合を誘発するという考えによるものである。このようなエッジ間の連結により、グラフェンシートまたは分子の長さまたは幅が大幅に増加することに留意することができる。たとえば、長さ300nmのハロゲン化グラフェンシートは、長さ400nmのハロゲン化グラフェンシートと合体すると、その結果として長さ約700nmのシートを得ることができる。複数のハロゲン化グラフェンシートのこのようなエッジ間の合体により、他の方法では得ることができなかった巨大な結晶粒度を有するグラフェンフィルムの製造が可能となる。
【0039】
一実施形態では、酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルは、X線回折法または電子回折法によって測定された場合に好ましい結晶配向を示さない複数の黒鉛微結晶を有する黒鉛材料から得られ、および結果として得られるハロゲン化グラフェンフィルムは、前記X線回折法または電子回折法によって測定された場合に好ましい結晶配向を有する単結晶または多結晶のグラフェン構造となる。
【0040】
GOシートまたはハロゲン化GOシートに剪断応力を発生させることが可能なあらゆるコーティング手順を本発明による方法で実施することができ、たとえばスロットダイコーティング、コンマコーティングおよびリバースロール転写コーティングを実施することができる。リバースロール手順は、GOシートまたはGO分子自体を特定の方向(たとえば、X方向または長さ方向)または特定の2つの方向(たとえば、XおよびY方向または長さおよび幅方向)に沿って配列して、好ましい配向を形成できるようにするために特に有効である。さらに驚くべきことに、後のGO層の熱処理中、これらの好ましい配向は維持され、多くの場合にさらに向上する。最も驚くべきことに、このような好ましい配向は、結果として得られるハロゲン化グラフェンフィルム(厚いフィルムの場合でさえも、たとえば10nm~>500μmでさえも)の所望の方向に沿った非常に高い絶縁破壊強度、誘電率、弾性率および引張強度を最終的に得るために重要となる。コーティングまたはキャスティングプロセス中、本発明によるリバースロール手順に基づく方法以外では、コーティングまたはキャスティングされたフィルム(層)の厚さは厚くなりすぎる(たとえば、50μmを超える)ことはなく、他の方法では高度なGOまたはハロゲン化シートの配向を実現できない。一般に、従来のキャスティングまたはコンマコーティングプロセスでは、乾燥されたときに50μm以下、より典型的には20μm以下、最も典型的には10μm以下の厚さを有する酸化グラフェンの乾燥層が形成されるように、コーティングまたはキャスティングされたフィルム(湿潤層)が十分薄くなる必要がある。広範囲で徹底的な実験的研究により、本発明者らは、非常に厚いフィルムの場合でさえも高度な好ましい配向を実現し維持するために、リバースロール手順がこのように有効であることを予期せず認識するようになった。
【0041】
本発明により製造された配向ハロゲン化グラフェンの一体化層は、100nmの層厚さで測定された場合に典型的には4.0を超える(より典型的には5.0を超え、多くの場合に10を超え、またはさらには15を超える)誘電率、典型的には10Ω-cm~1015Ω-cmの電気抵抗率および/または5MV/cmを超える(より典型的には10MV/cmを超え、場合により12MV/cmを超え、他の場合にはさらには15MV/cmを超える)絶縁破壊強度を有する。
【0042】
本発明は、誘電体部品としてハロゲン化グラフェンの一体化層を含有するマイクロエレクトロニクスデバイスも提供する。
【0043】
この新しい種類の材料(すなわち、高配向GO由来のハロゲン化グラフェンフィルムGOGH)は、個別のグラフェン/GO/RGO/GHシート/プレートレットの紙/フィルム/膜層とは区別される以下の特性を有する:
(1)このGOGHフィルムは、非常に大きい結晶粒度を有する十分に配列し相互接続された複数の結晶粒から構成される多結晶構造である、一体化したハロゲン化グラフェン(GH)要素である。HOGHは、すべての結晶粒中のすべてのグラフェン面が互いに実質的に平行に配向している(すなわち、すべての結晶粒の結晶学的c軸が実質的に同一方向に向かっている)。
【0044】
(2)リバースロール手順を使用すると、薄膜だけでなく厚いフィルム(>10nm)でさえも、GHプレートレットの非常に高度な配向を実現できる。同じ厚さであれば、リバースロール手順により、より高度な配向およびより高度な結晶完全性が可能となる。
【0045】
(3)GOGHは、グラフェン/GO/RGO/GH(ハロゲン化グラフェン)の複数の個別のプレートレットの単純な凝集体または積層体ではなく、元のGOシートから得られる識別可能なまたは個別のフレーク/プレートレットを含有しない一体化したグラフェン要素である。これらの元は個別のフレークまたはプレートレットは、互いに化学的に結合または連結して、より大きい結晶粒を形成している(結晶粒度は元のプレートレット/フレークのサイズよりも大きい)。
【0046】
(4)このGOGHは、バインダーまたは接着剤を使用して個別のフレークまたはプレートレットを互いに接着することによって製造されない。代わりに、選択されたエージングまたは熱処理の条件下で、十分に配列したGO/GHシートまたはGO/GH分子は、主としてエッジ間方式で互いに化学的に合体して巨大な2Dグラフェン結晶粒を形成することができるが、場合により下または上の隣接GO/GHシートと合体して、グラフェン鎖の3D網目構造を形成することもできる。互いの連結または共有結合の形成により、外部から加えられるリンカーまたはバインダー分子もしくはポリマーを使用せずに、GO/GHシートが接着して一体化したグラフェン要素が得られる。
【0047】
(5)実質的にすべてのグラフェン面が同一の結晶学的c軸を有する多結晶であるこのGOGHは、GOから得られ、このGOは、本来、不規則に配向する複数の黒鉛微結晶をそれぞれ有する天然黒鉛または人造黒鉛粒子の中程度または激しい酸化によって得られる。化学的に酸化させてGO分散体(黒鉛の中程度の酸化から激しい酸化)またはGOゲル(水または別の極性液体中に溶解された完全に分離したGO分子となるのに十分長い酸化時間での激しい酸化)となる前に、これらの出発または元の黒鉛微結晶は、初期長さ(結晶学的a軸方向のL)、初期幅(b軸方向のL)および厚さ(c軸方向のL)を有する。結果として得られるGOGHは、典型的には、元の黒鉛微結晶のLおよびLよりもはるかに大きい長さまたは幅を有する。
【0048】
(6)この高配向GHのモノリス一体化層を製造する方法は、連続ロールツーロールに基づいて行うことができ、したがって拡張可能で費用対効果の高い方法である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】高配向GO/GHフィルムを製造するためのリバースロールに基づくGO/GH層転写装置の概略図である。
図2】高配向GO/GHフィルムを製造するための別のリバースロールに基づくGO/GH層転写装置の概略図である。
図3】高配向GO/GHフィルムを製造するためのさらに別のリバースロールに基づくGO/GH層転写装置の概略図である。
図4】高配向GO/GHフィルムを製造するためのさらに別のリバースロールに基づくGO/GH層転写装置の概略図である。
図5】(A)は剥離黒鉛製品(可撓性黒鉛箔および可撓性黒鉛複合材料)および熱分解黒鉛(下部分)を製造する種々の従来技術の方法を、酸化グラフェンゲルまたはGO分散体を製造する方法とともに示すフローチャートである。(B)は単純に凝集させた黒鉛またはNGPフレーク/プレートレットの従来の紙、マット、フィルムおよび膜を製造する方法を示す概略図である。すべての方法が黒鉛材料(たとえば、天然黒鉛粒子)のインターカレーションおよび/または酸化処理から始まる。
図6】(A)は黒鉛インターカレーション化合物(GIC)または酸化黒鉛粉末の熱剥離後の黒鉛ワーム試料のSEM画像である。(B)は可撓性黒鉛箔の断面のSEM画像であり、可撓性黒鉛箔表面と平行ではない配向を有する多くの黒鉛フレークが示されており、多くの欠陥、ねじれたまたは折り畳まれたフレークも示されている。
図7】(A)はGO由来のフィルムのSEM画像であり、複数のグラフェン面(元の黒鉛粒子中で30nm~300nmの初期長さ/幅を有する)が酸化され、剥離し、再配向し、継ぎ目なく合体して、数十センチメートルの幅または長さで続くことができる連続長のグラフェンシートまたは層となっている(このSEM画像中では幅10cmの黒鉛フィルムの幅50μmのみが示されている)。(B)は製紙プロセス(たとえば、真空支援濾過)を用いて個別のグラフェンシート/プレートレットから作製された従来のグラフェン紙/フィルムの断面のSEM画像である。この画像は、多くの個別のグラフェンシートが折り畳まれるか、または中断されている(一体化されていない)ことを示し、配向はフィルム/紙の表面に対して平行ではなく、多くの欠陥または不完全部分を有する。(C)は互いに平行であり、厚さ方向または結晶学的c軸方向に化学結合する複数のグラフェン面から構成されるHOGFの形成方法を示す概略図および付随するSEM画像である。(D)は可能性のある化学的連結機構の1つである(2つのGO分子のみが例として示されており、多数のGO分子が互いに化学的に連結してグラフェン層を形成することができる)。
図8】フィルム厚さの関数としてプロットしたGOフィルム、GO由来のフッ化グラフェンフィルム(リバースロール転写コーティング法によって作製)およびポリイミドフィルムの絶縁破壊強度である。
図9】フッ素化度(原子比F/(F+O))または塩素化度(原子比Cl/(Cl+O))の関数としてプロットした、GO由来のフッ素化グラフェンフィルムおよび塩素化グラフェンフィルム(いずれもリバースロール転写手順およびキャスティング手順によって作製)の絶縁破壊強度である。
図10】原子比F/(F+O)に関するフッ素化度の関数としてプロットした、GO由来のフッ素化グラフェンフィルム(リバースロール転写手順によって作製)および従来の製紙手順(真空支援濾過)によって作製したGO由来のフッ素化グラフェン紙の絶縁破壊強度である。
図11】フッ素化度(原子比F/(F+O))または臭素化度(原子比Br/(Br+O))の関数としてプロットした、GO由来のフッ素化グラフェンフィルムおよび臭素化グラフェンフィルムの誘電率である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
高配向ハロゲン化グラフェンシートまたは分子のモノリス(単一材料または単相)の一体化層を製造する方法であって、フィルムが10nm~500μmの厚さを有する、方法が提供される。このハロゲン化グラフェンは、Cの化学式(式中、Zが、F、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せから選択されるハロゲン元素であり、x=0.01~6.0、y=0~5.0およびx+y≦6.0である)を有する。この一体化層の作製は、懸濁液(分散体)またはゲルの形態の酸化グラフェン(GO)から開始する。特に、この方法は、(a)流動媒体中に分散された酸化グラフェンシートを有する酸化グラフェン(GO)分散体または流動媒体中に溶解された酸化グラフェン分子を有する酸化グラフェンゲルのいずれかを調製するステップであって、酸化グラフェンシートまたは酸化グラフェン分子が5重量%を超える(典型的には5%~46%、しかし、好ましくは10%~46%、より好ましくは20%~46%の)酸素量を含有する、ステップから開始する。
【0051】
これに続いて、剪断応力条件下で支持基材の表面上に酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルの層を供給および堆積するステップであって、供給および堆積する手順が、支持基材上に酸化グラフェンの湿潤層を形成するための酸化グラフェン分散体またはゲルの剪断によって誘発される薄化と、酸化グラフェンシートまたは分子の剪断によって誘発される配向とを含む、ステップ(b)が行われる。このステップは、剪断手順を含むか、または剪断手順が次に行われる、固体基材表面(たとえば、PETフィルム、Al箔、ガラス表面など)の上へのGOの湿潤相の噴霧、印刷、押出成形、キャスティングおよび/またはコーティングを含む。GOシートまたは分子を所望の方向に沿って配列させるために剪断応力の存在が重要である。
【0052】
次に、Oまたは酸素含有官能基をハロゲン元素またはハロゲン含有基で化学的に置換するために第3のステップのステップ(c)が行われる。本明細書において、ハロゲンはF、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せを意味する。したがって、このステップ(c)は、酸化グラフェンの湿潤層中にハロゲン化剤を導入し、かつハロゲン化剤と酸化グラフェンシートまたは分子との間で化学反応を生じさせて、Cの化学式(式中、Zが、F、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せから選択されるハロゲン元素であり、x=0.01~6.0、y=0~5.0およびx+y≦6.0である)を有するハロゲン化グラフェンの湿潤層を形成することを伴う。フッ素化剤は、F、Cl、Br、Iまたはそれらの組合せから選択されるハロゲン元素を含有する液体、気体またはプラズマ状態の化学種を含有することができる。ハロゲン化グラフェンは、一部の炭素原子がハロゲン原子と共有結合しているグラフェン誘導体のグループである。ハロゲンと結合する炭素原子はsp混成を有し、他の炭素原子はsp混成を有する。ハロゲン化したグラフェン(ハロゲン化グラフェンとも記載される)の物理的性質および化学的性質はハロゲン化度に強く依存する。
【0053】
次に、ステップ(c)に続いて、ハロゲン化グラフェンの湿潤層から流動媒体を除去して、X線回折によって測定された場合に0.35nm~1.2nmの面間隔d002を有するハロゲン化グラフェンの一体化層を形成するステップ(d)が行われる。液体流体の除去は、ハロゲン化反応の前、その間またはその後に行うことができる。
【0054】
ハロゲン化反応を行うために、たとえば、供給/堆積段階の前、その間またはその後にフッ化水素酸またはヘキサフルオロリン酸(HPF)液体をGO懸濁液またはGOゲルストリーム中に注入することができる。あるいは、Fガス、Clガス、Brガスおよび/またはIガス(蒸気)を、湿潤GO層が入れられたチャンバーに導入して、ハロゲンガス分子を湿潤GO層中に浸透させ、その内部および上のGOと反応させ得る。さらに別に、GOの湿潤層から液体媒体を除去してGOの乾燥層を形成した後、ハロゲン化剤を導入してGOと反応させることを選択することができる。GOの乾燥層は、好ましくはハロゲン含有ガスまたはプラズマで処理することができる。
【0055】
特に、フッ素化剤は、フッ化水素酸、ヘキサフルオロリン酸またはHPF、XeF、Fガス、F/Arプラズマ、CFプラズマ、SFプラズマ、HCl、HPCl、XeCl、Clガス、Cl/Arプラズマ、CClプラズマ、SClプラズマ、HBr、XeBr、Brガス、Br/Arプラズマ、CBrプラズマ、SBrプラズマ、HI、XeI、I、I/Arプラズマ、CIプラズマ、SIプラズマまたはそれらの組合せから選択することができる。
【0056】
非常に好ましい供給および堆積手順は、ローラー上にコーティングされた懸濁液またはゲルに高剪断応力を本質的に誘発するリバースロール転写コーティングである。好ましい一実施形態として図1に概略的に示されるように、高配向ハロゲン化グラフェン(HOGH)のモノリスの一体化層を製造する方法は、トラフ208に供給される酸化グラフェン分散体(GO分散体)または酸化グラフェンゲル(GOゲル)の調製から開始される。塗布ローラー204の第1の方向での回転運動により、GO分散体またはゲルの連続層210の塗布ローラー204の外面上への供給が可能となる。酸化グラフェン(GO)のアプリケーター層214の厚さ(量)を調節するために、任意選択のドクターブレード212が使用される。このアプリケーター層は、第2の方向に移動する(たとえば、第1の方向とは反対方向に回転する逆転ローラー206によって駆動される)支持フィルム216の表面に連続的に供給されて、酸化グラフェンの湿潤層218を形成する。このGOの湿潤層は、次に液体除去処理(たとえば、加熱環境下および/または真空ポンプの使用)が行われる。
【0057】
要約すると、この方法は、流動媒体中に分散された酸化グラフェンシートを有する酸化グラフェン分散体または流動媒体中に溶解された酸化グラフェン分子を有する酸化グラフェンゲルのいずれかの調製から開始し、酸化グラフェンシートまたは酸化グラフェン分子は5重量%を超える酸素含有量を有する。酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルは、次に、第1の方向に第1の線速度(塗布ローラーの外面の線速度)で回転する塗布ローラーの表面上に分配および供給されて酸化グラフェンのアプリケーター層を形成し、この酸化グラフェンのアプリケーター層が、第1の方向とは反対の第2の方向に第2の線速度で駆動される支持フィルムの表面上に転写されて、支持フィルム上に酸化グラフェンの湿潤層を形成する。
【0058】
好ましい一実施形態では、塗布ローラーから作動距離に配置され、かつ第1の方向とは反対の第2の方向に回転する逆転支持ローラー(たとえば、図1の206)によって支持フィルムが駆動される。この支持ローラーの外面における速度によって(支持フィルムの)第2の線速度が決定される。好ましくは、支持フィルムは給送ローラーから供給され、および支持フィルムによって支持された酸化グラフェンの乾燥層は巻き取りローラー上に巻き取られ、およびこの方法はロールツーロール方式で行われる。
【0059】
この方法は、図2図3および図4にさらに示される。好ましい一実施形態では、図2に示されるように、塗布ローラー224と計量ローラー222(ドクターローラーとも呼ばれる)との間にGO分散体/ゲルのトラフ228が自然に形成される。所望の速度における計量ローラー222に対する塗布ローラー224の相対運動または回転により、塗布ローラー224の外面上にGOのアプリケーター層230が形成される。このGOのアプリケーター層は、次に転写されて、支持フィルム234(アプリケーターローラー224の回転方向とは反対の方向に逆回転する支持ローラー226によって駆動される)の表面上にGOの湿潤層232を形成する。次に、湿潤層に対してハロゲン化および乾燥処理を行うことができる。
【0060】
好ましい別の一実施形態では、図3に示されるように、塗布ローラー238と計量ローラー236との間にGO分散体/ゲルのトラフ244が自然に形成される。所望の速度における計量ローラー236に対する塗布ローラー238の相対運動または回転により、塗布ローラー238の外面上にGOのアプリケーター層248が形成される。計量ローラー236の外面の上にあるGOゲル/分散体をかき落とすためにドクターブレード242を使用することができる。このGOのアプリケーター層248は、次に転写されて、支持フィルム246(アプリケーターローラー238の回転方向とは反対の方向に逆回転する支持ローラー240によって駆動される)の表面上にGOの湿潤層250を形成する。次に、湿潤層に対してハロゲン化および乾燥処理を行うことができる。
【0061】
さらに別の好ましい一実施形態では、図4に示されるように、塗布ローラー254と計量ローラー252との間にGO分散体/ゲルのトラフ256が自然に形成される。所望の速度における計量ローラー252に対する塗布ローラー254の相対運動または回転により、塗布ローラー254の外面上にGOのアプリケーター層260が形成される。このGOのアプリケーター層260は、次に転写されて、アプリケーターローラー254の接線回転方向とは反対の方向に移動するように駆動される支持フィルム258の表面上にGOの湿潤層262を形成する。この支持フィルム258は、給送ローラー(図示せず)から供給することができ、駆動ローラーであってもよい巻き取りローラー(図示せず)上に取り込む(巻き取る)ことができる。この例では少なくとも4個のローラーが存在する。次に、湿潤層に対してハロゲン化および乾燥処理を行うことができる。液体媒体の除去の場合、液体媒体(たとえば、水)を湿潤層から少なくとも部分的に除去してGOの乾燥層を形成するために、GOの湿潤層が形成された後に加熱ゾーンが存在することができる。
【0062】
ある実施形態では、酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルを塗布ローラーの表面上に供給するステップは、計量ローラーおよび/またはドクターブレードを使用して塗布ローラー表面上に所望の厚さの酸化グラフェンのアプリケーター層を形成するステップを含む。一般に、本発明の方法は、2、3または4個のローラーを操作するステップを含む。好ましくは、本発明の方法は、リバースロールコーティング手順を含む。
【0063】
(第2の線速度)/(第1の線速度)として定義される速度比は、1/5~5/1となることに留意することができる。塗布ローラーの外面が支持フィルムの線移動速度と同じ速度で移動する場合、速度比は1/1または1である。一例として、塗布ローラーの外面が支持フィルムの線移動速度の3倍の速度で移動する場合、速度比は3/1である。結果として、転写されるGOの湿潤層は、GOのアプリケーター層と比較して厚さが約3倍となる。極めて予想外にも、これにより、はるかに厚い層の製造が可能となり、さらに湿潤層および乾燥層中で高度なGO配向を依然として維持することができる。キャスティングまたはコンマコーティングおよびスロットダイコーティングなどの他のコーティング技術を用いることにより厚いフィルム(たとえば、>50μmの厚さ)で高度なGOシートの配向を実現できていなかったため、これは非常に重要で望ましい成果である。ある実施形態では、速度比は1/1を超えかつ5/1未満である。好ましくは、速度比は1/1を超えかつ3/1以下である。スロットダイコーティングまたはコンマコーティングは、GOもしくはGHシートまたは分子に必要な配向を誘発するための剪断力を加えることもできる。
【0064】
好ましくは、本発明の方法は、エージング室において25℃~200℃(好ましくは25℃~100℃、より好ましくは25℃~55℃)のエージング温度および20%~99%の湿度レベルで1時間~7日間のエージング時間にわたり、酸化グラフェンの湿潤層または乾燥層のエージングを行って、酸化グラフェンのエージングされた層を形成するステップをさらに含む。顕微鏡観察によってGOシートの平均長さ/幅がエージング後に大幅に増加(2~3倍)することが明らかとなり、本発明者らは、驚くべきことに、このエージング手順により、エッジ間方式でのGOシートまたは分子の一部の化学的連結または合体が可能となることを確認した。これにより、シート配向を維持し、後の巨大な結晶粒または結晶領域へのエッジ間連結を促進することができる。
【0065】
ある実施形態では、本発明の方法は、100℃を超えるが3,200℃以下(好ましくは2,500℃以下)の第1の熱処理温度において、所望の長さの時間にわたって酸化グラフェンの乾燥層または乾燥およびエージングされた層の熱処理を行って、0.4nm未満の面間隔d002と、5重量%未満の酸素および/またはハロゲン含有量とを有するフィルムを形成するステップをさらに含む。本発明の方法は、この熱処理ステップ中またはその後にグラフェンフィルムの厚さを減少させるための圧縮ステップをさらに含むことができる。
【0066】
本発明による方法では、酸化グラフェン分散体中の酸化グラフェンシートは、好ましくは、酸化グラフェンシートおよび液体媒体を合わせた全重量を基準として0.1%~25%の重量分率を占める。より好ましくは、酸化グラフェン分散体中の酸化グラフェンシートは、0.5%~15%の重量分率を占める。ある実施形態では、酸化グラフェンシートは、酸化グラフェンシートおよび液体媒体を合わせた全重量を基準として3%~15%の重量比を占める。ある実施形態では、酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルは、液晶相を形成するために、流動媒体中に分散された3重量%を超える酸化グラフェンを有する。
【0067】
モノリスの一体化ハロゲン化グラフェンフィルムは、化学的に結合し合体したグラフェン面を含む。これらの平面芳香族分子またはグラフェン面(所望の量の酸素含有基および/またはハロゲン含有基を有する六角形構造の炭素原子)は互いに平行である。これらの面の横寸法(長さまたは幅)は巨大であり、典型的には、出発黒鉛粒子の最大微結晶寸法(または最大構成グラフェン面寸法)の数倍またはさらには数桁大きい。本発明によるハロゲン化グラフェンフィルムは、すべての構成グラフェン面が実質的に互いに平行である「巨大グラフェン結晶」または「巨大平面グラフェン粒子」である。これは、これまで発見されるか、開発されるか、または存在し得ると示唆されることがなかった独特で新しい種類の材料である。
【0068】
乾燥ハロゲン化グラフェン(GH)層は、面内方向と面に対して垂直の方向との間で高い複屈折率を有する。配向酸化グラフェンおよび/またはハロゲン化グラフェンの層自体は、驚くべきことに、非常に強い凝集力(自己結合、自己重合および自己架橋の特性)を有する非常に独特で新しい種類の材料である。これらの特性は、従来技術では教示も示唆も行われていない。GOは、出発黒鉛材料の粉末またはフィラメントを反応容器中の酸化性液体媒体(たとえば、硫酸、硝酸および過マンガン酸カリウムの混合物)に浸漬することによって得られる。出発黒鉛材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、中間相炭素、中間相ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブまたはそれらの組合せから選択することができる。
【0069】
出発黒鉛粉末またはフィラメントを酸化性液体媒体中で混合すると、得られるスラリーは不均一懸濁液であり、暗く不透明に見える。反応温度において十分な長さの時間にわたって黒鉛の酸化が進行すると、反応塊は、淡緑色で黄色がかって見える懸濁液に最終的になり得るが、依然として不透明のままである。酸化度が十分高く(たとえば、20重量%~50重量%、好ましくは30%~50%の酸素含有量を有する)、すべての元のグラフェン面が完全に酸化および剥離して、それぞれの酸化したグラフェン面(ここでは酸化グラフェンシートまたは分子)が液体媒体の分子で取り囲まれる程度まで分離すると、GOゲルが得られる。このGOゲルは、光学的に半透明で、実質的に均一な溶液であり、不均一な懸濁液とは対照的である。
【0070】
このGO懸濁液またはGOゲルは、典型的には、ある程度過剰量の酸を含有し、有利にはpH値を増加させるために(好ましくは>4.0)、ある程度の酸希釈処理を行うことができる。GO懸濁液(分散体)は、好ましくは液体媒体中に分散された少なくとも1重量%のGOシートを含有し、より好ましくは少なくとも3重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%含有する。液晶相の形成に十分な量のGOシートを有すると有利となる。本発明者らは、驚くべきことに、液晶状態のGOシートが、一般に使用されるキャスティングまたはコーティングプロセスによって生じる剪断応力の影響下で容易に配向する傾向が最も高いことを確認した。
【0071】
酸化グラフェン懸濁液は、反応容器中で反応温度において、残存する液体中に分散されたGOシートを得るのに十分な長さの時間にわたり、黒鉛材料(粉末または繊維の形態)を酸化性液体に浸漬して反応性スラリーを形成することによって調製することができる。典型的には、この残留液体は、酸(たとえば、硫酸)および酸化剤(たとえば、過マンガン酸カリウムまたは過酸化水素)の混合物である。次に、この残留液体を水および/またはアルコールで洗浄し置換することで、個別のGOシート(単層または多層GO)が流体中に分散するGO分散体が形成される。この分散体は、液体媒体中に懸濁した個別のGOシートの不均一懸濁液であり、光学的に不透明であり、暗色(比較的低い酸化度)または淡緑色および黄色がかった色(酸化度が高い場合)に見える。
【0072】
ここで、GOシートが十分な量の酸素含有官能基を含有し、得られる分散体(懸濁液またはスラリー)に対して機械的剪断または超音波処理を行って、水および/もしくはアルコールまたは他の極性溶媒中に溶解された(単なる分散ではない)個別のGOシートまたは分子が形成される場合、すべての個別のGO分子が液体媒体の分子で取り囲まれる「GOゲル」と呼ばれる材料状態に到達することができる。GOゲルは、半透明であり、認識可能な個別のGOまたはグラフェンシートを視覚的に見分けることができない均一な溶液に見える。有用な出発黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、中間相炭素、中間相ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブまたはそれらの組合せが挙げられる。酸化反応が必要な程度まで進行し、個別のGOシートが完全に分離すると(この段階でグラフェン面およびエッジは酸素含有基で多量に修飾される)、光学的に透明または半透明の溶液が形成され、これがGOゲルである。
【0073】
好ましくは、このようなGO分散体中のGOシートまたはこのようなGOゲル中のGO分子は、1重量%~15重量%の量で存在するが、それよりも多いまたは少ない場合もある。より好ましくは、GOシートは懸濁液中に2重量%~10重量%である。最も好ましくは、GOシートの量は、分散用液体中で液晶相を形成するのに十分な量である。GOシートは、典型的には5重量%~50重量%、より典型的には10重量%~50重量%、最も典型的には20重量%~46重量%の範囲内の酸素含有量を有する。
【0074】
上記の特徴は、以下にさらに記載され、詳細に説明される。図5(B)に示されるように、黒鉛粒子(たとえば、100)は、典型的には複数の黒鉛微結晶または結晶粒から構成される。黒鉛微結晶は、炭素原子の六角形の網目構造の層の面から構成される。六角形に配列した炭素原子のこれらの層の面は、実質的に平坦であり、個別の微結晶中で互いに実質的に平行および等距離となるように配向または配列する。グラフェン層または底面と一般に呼ばれる六角形構造の炭素原子のこれらの層は、弱いファンデルワールス力によってそれらの厚さ方向(結晶学的c軸方向)で互いに弱く結合しており、これらのグラフェン層のグループは微結晶中で配列している。黒鉛微結晶構造は、通常、2つの軸または方向のc軸方向とa軸(またはb軸)方向とに関して特徴付けられる。c軸は底面に対して垂直の方向である。a軸またはb軸は底面に対して平行(c軸方向に対して垂直)の方向である。
【0075】
高秩序黒鉛粒子は、結晶学的a軸方向に沿ったLの長さ、結晶学的b軸方向に沿ったLの幅および結晶学的c軸方向に沿った厚さLを有する相当なサイズの微結晶からなることができる。微結晶の構成グラフェン面は、互いに対して高度に配列または配向しており、したがって、これらの異方性構造により、方向性の高い多くの性質が生じる。たとえば、微結晶の熱伝導率および電気伝導率は、面方向(a軸またはb軸方向)に沿って高いが、垂直方向(c軸)で比較的低い。図5(B)の左上部分に示されるように、黒鉛粒子中の異なる微結晶は、典型的には異なる方向に配向しており、したがって、多微結晶の黒鉛粒子の特定の性質はすべての構成微結晶の方向での平均値となる。
【0076】
平行のグラフェン層を維持する弱いファンデルワールス力のため、天然黒鉛を処理することより、c軸方向に顕著に膨張するようにグラフェン層の間隔をかなりの程度で広げることができ、それにより、炭素層の層状の性質が実質的に維持される膨張黒鉛構造を形成することができる。可撓性黒鉛を製造する方法は当技術分野において周知である。一般に、天然黒鉛のフレーク(たとえば、図5(B)の100)は、酸溶液中でインターカレーションが起こって、黒鉛インターカレーション化合物(GIC、102)が生成する。GICは、洗浄され、乾燥され、次に高温に短時間曝露することによって剥離する。これによってフレークは、黒鉛のc軸方向に元の寸法の80~300倍まで膨張または剥離を起こす。剥離黒鉛フレークは、外観が虫状であり、したがって一般にワーム104と呼ばれる。非常に膨張したこれらの黒鉛フレークのワームからは、バインダーを使用せずに、ほとんどの用途で約0.04~2.0g/cmの典型的な密度を有する膨張黒鉛の凝集または一体化したシート、たとえばウェブ、紙、ストリップ、テープ、箔、マットなど(典型的には「可撓性黒鉛」106と呼ばれる)を形成することができる。
【0077】
図5(A)の左上部分は、可撓性黒鉛箔と樹脂を含浸させた可撓性黒鉛複合材料との製造に使用される従来技術の方法を示すフローチャートを示す。これらの方法は、典型的には黒鉛粒子20(たとえば、天然黒鉛または合成黒鉛)にインターカラント(典型的には強酸または酸混合物)をインターカレートして黒鉛インターカレーション化合物22(GIC)を得ることから開始する。水中で洗浄して過剰の酸を除去した後、GICは「膨張性黒鉛」となる。次に、GICまたは膨張性黒鉛を高温環境(たとえば、800~1,050℃の範囲内の温度にあらかじめ設定された管状炉中)に短時間(典型的には15秒~2分)曝露する。この熱処理により、黒鉛がそのc軸方向でも30倍から数百倍まで膨張して、ワーム状の虫のような構造24(黒鉛ワーム)を得ることができ、これは剥離したが分離していない黒鉛フレークを含有し、これらの相互接続したフレーク間に介在する大きい細孔を有する。黒鉛ワームの一例を図6(A)に示す。
【0078】
従来技術の方法の1つでは、剥離黒鉛(または黒鉛ワーム塊)は、カレンダー加工またはロールプレス技術を用いて再圧縮されて、可撓性黒鉛箔(図5(A)の26または図5(B)の106)が得られ、これらは、典型的には100~300μmの厚さである。可撓性黒鉛箔の断面のSEM画像が図6(B)に示され、これには可撓性黒鉛箔表面と平行ではない配向を有する多くの黒鉛フレークが示されており、多くの欠陥および不完全部分が存在する。
【0079】
主として、これらの黒鉛フレークの誤配向および欠陥の存在のために、市販の可撓性黒鉛箔は、通常、面内電気伝導率が1,000~3,000S/cmであり、面貫通方向(厚さ方向またはZ方向)の電気伝導率が15~30S/cmであり、面内熱伝導率が140~300W/mKであり、面貫通方向の熱伝導率が約10~30W/mKである。これらの欠陥および誤配向は、低い機械的強度の原因にもなる(たとえば、欠陥は、亀裂が優先的に開始する潜在的な応力集中部位となる)。これらの性質は多くの温度管理用途には不十分であり、本発明はこれらの問題に対処するために構成される。
【0080】
別の従来技術の方法では、剥離黒鉛ワーム24に樹脂を含浸させ、次に圧縮し、硬化させて可撓性黒鉛複合材料28を形成することができ、これも、通常、低強度である。さらに、樹脂を含浸させると、黒鉛ワームの電気伝導率および熱伝導率は2桁の大きさで低下し得る。
【0081】
あるいは、剥離黒鉛に対して、高強度エアジェットミル、高強度ボールミルまたは超音波装置を用いて高強度の機械的剪断/分離処理を行って、すべてのグラフェンプレートレットが100nmよりも薄く、大部分が10nmよりも薄く、多くの場合に単層グラフェンである(図5(B)に112としても示される)分離したナノグラフェンプレートレット33(NGP)を製造することができる。NGPは、それぞれのシートが炭素原子の2次元六角形構造である1つのグラフェンシートまたは複数のグラフェンシートから構成される。
【0082】
さらに別に、低強度剪断を用いると、黒鉛ワームは、>100nmの厚さを有するいわゆる膨張黒鉛フレーク(図5(B)の108に分離する傾向にある。紙またはマットの製造方法を用いて、これらのフレークから黒鉛紙またはマット106を形成することができる。この膨張黒鉛紙またはマット106は、個別のフレーク間に欠陥、中断および誤配向を有する個別のフレークの単純な凝集体または積層体である。
【0083】
NGPの形状および配向を画定する目的で、NGPは、長さ(最大寸法)、幅(2番目に大きい寸法)および厚さを有するとして記載される。この厚さは最小寸法であり、本出願では100nm以下、好ましくは10nm未満である。プレートレットがほぼ円形である場合、長さおよび幅は直径として記載される。本明細書で定義されるNGPでは、長さおよび幅の両方は1μm未満となり得るが、200μmを超える場合もある。
【0084】
フィルムまたは紙の製造方法を用いて、複数のNGPの塊(単層および/または数層グラフェンまたは酸化グラフェンの個別のシート/プレートレットを含む、図5(A)の33)からグラフェンフィルム/紙(図5(A)の34または図5(B)の114)を製造することができる。図7(B)は、製紙プロセスを用いて個別のグラフェンシートから作製したグラフェン紙/フィルムの断面のSEM画像を示す。この画像は、折り畳まれるかまたは中断された(一体化していない)多数の個別のグラフェンシートの存在を示し、プレートレットの配向の大部分はフィルム/紙の表面と平行ではなく、多くの欠陥または不完全部分が存在する。NGP凝集体は、密接に充填されている場合でさえも、フィルムまたは紙がキャストされて10μm未満の厚さを有するシートに強くプレスされている場合にのみ、1,000W/mKを超える熱伝導率を示す。多くの電子デバイス中のヒートスプレッダーは、通常、10μmより厚いが35μmより薄いことが要求される)。
【0085】
別のグラフェン関連製品は、酸化グラフェンゲル21(図5(A))である。このGOゲルは、粉末または繊維の形態の黒鉛材料20を反応容器中の強酸化性液体に浸漬して、初期には光学的に不透明で暗色である懸濁液またはスラリーを形成することによって得られる。この光学的不透明性は、酸化反応の開始時の個別の黒鉛フレークおよび後の段階の個別の酸化グラフェンフレークが可視波長を散乱および/または吸収し、その結果、不透明で全体的に暗色の流体塊となることを反映している。黒鉛粉末と酸化剤との間の反応が十分に高い反応温度で十分な長さの時間にわたって進行することができ、得られるすべてのGOシートが完全に分離すると、この不透明懸濁液は褐色で典型的には半透明または透明の溶液に変化し、この段階では、これは、識別可能な個別の黒鉛フレークまたは酸化黒鉛プレートレットを含有しない「酸化グラフェンゲル」(図5(A)の21)と呼ばれる均一流体である。本発明によるリバースロールコーティングを用いて供給され堆積される場合、GOゲルの分子配向が起こって高配向GO35の層が形成され、これを熱処理して黒鉛フィルム37にすることができる。
【0086】
この場合も、典型的には、この酸化グラフェンゲルは、光学的に透明または半透明であり、内部に分散した黒鉛、グラフェンまたは酸化グラフェンの認識可能な個別のフレーク/プレートレットを有さずに視覚的に均一である。GOゲル中、GO分子は酸性液体媒体中に均一に「溶解する」。対照的に、個別のグラフェンシートまたは酸化グラフェンシートの流体(たとえば、水、有機酸または溶媒)中の懸濁液は、暗色、黒色または濃褐色に見え、肉眼でさえも、または低倍率の光学顕微鏡(100倍~1,000倍)を用いて、個別のグラフェンまたは酸化グラフェンシートを認識可能または識別可能である。
【0087】
酸化グラフェン懸濁液またはGOゲルは、X線回折法または電子回折法によって測定された場合に好ましい結晶配向を示さない複数の黒鉛微結晶を有する黒鉛材料(たとえば、天然黒鉛の粉末)から得られるが、結果として得られる黒鉛フィルムは、同じX線回折法または電子回折法によって測定された場合に非常に高度の好ましい結晶配向を示す。これは、元のまたは出発の黒鉛材料の粒子を構成する六角形炭素原子の構成グラフェン面の化学的改質、変換、再配列、再配向、連結または架橋、合体および一体化ならびにハロゲン化が行われたことを示すさらに別の証拠となる。
【実施例
【0088】
実施例1:個別の酸化ナノグラフェンプレートレット(NGP)またはGOシートの作製
平均直径が12μmの黒鉛短繊維および天然黒鉛粒子を出発物質として別々に使用し、この出発物質を濃硫酸、硝酸および過マンガン酸カリウムの混合物(化学的インターカレートおよび酸化剤として)に浸漬して、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)を調製した。出発物質は、最初に真空オーブン中80℃で24時間乾燥させた。次に、濃硫酸、発煙硝酸および過マンガン酸カリウム(の4:1:0.05の重量比の)の混合物を、適切な冷却および撹拌下で、繊維の断片を入れた三口フラスコにゆっくり加えた。5~16時間の反応後、酸で処理された黒鉛繊維または天然黒鉛粒子を濾過し、溶液のpHレベルが6に到達するまで脱イオン水で十分に洗浄した。100℃で終夜乾燥させた後、得られた黒鉛インターカレーション化合物(GIC)または酸化黒鉛繊維を水および/またはアルコール中に再分散させてスラリーを形成した。
【0089】
ある試料では、500グラムの酸化黒鉛繊維を15:85の比率のアルコールおよび蒸留水からなる2,000mlのアルコール溶液と混合して、スラリー塊を得た。次に、混合物スラリーに対して、種々の長さの時間で200Wの出力の超音波照射を行った。20分の音波処理後、GO繊維は、効果的に剥離して、酸素含有量が約23重量%~31重量%の薄い酸化グラフェンシートに分離した。
【0090】
次に、リバースロール転写手順を行って、得られた懸濁液から、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にGOの薄いフィルムおよび厚いフィルム(10nm、100nm、1~25μm、100μmおよび500μmの厚さ)を作製した。比較の目的で、同等の厚さ範囲のGO層もドロップキャスティングおよびコンマコーティング技術によって作製した。
【0091】
ハロゲン化グラフェンフィルムを製造するために、典型的には30~100℃のエージング温度で1~8時間後、25~250℃で1~24時間のハロゲン化処理を含むエージングおよびハロゲン化処理を数枚のGOフィルムに対して行った。典型的な形態を図7(C)に示す。
【0092】
実施例2:メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)からの単層酸化グラフェンシートの作製
メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)は、China Steel Chemical Co.,Kaohsiung,Taiwanから供給された。この材料は、密度が約2.24g/cmでありメジアン粒度が約16μmである。MCMB(10グラム)に酸溶液(4:1:0.05の比率の硫酸、硝酸および過マンガン酸カリウム)を48~96時間インターカレートさせた。反応終了後、混合物を脱イオン水中に注ぎ、濾過した。インターカレートさせたMCMBをHClの5%溶液中で繰り返し洗浄して、大部分の硫酸イオンを除去した。次に、濾液のpHが4.5以上になるまで、試料の脱イオン水による洗浄を繰り返した。次に、このスラリーに対して10~100分の超音波処理を行ってGO懸濁液を得た。TEMおよび原子間力顕微鏡による研究では、酸化処理が72時間を超える場合にはほとんどのGOシートが単層グラフェンであり、酸化時間が48~72時間の場合には2または3層グラフェンであったことが示されている。
【0093】
GOシートは、48~96時間の酸化処理時間の場合、約35重量%~47重量%の酸素の比率を有する。次に、リバースロール転写コーティングおよび別にコンマコーティング手順を用いて、懸濁液をPETポリマー表面上にコーティングして配向GOフィルムを作製した。得られたGOフィルムは、液体を除去した後、約0.5~500μmで変動し得る厚さを有する。ハロゲン化処理は、供給ステップの前(HF酸を使用)および後(たとえば、以下でさらに議論されるFおよびBrプラズマ)に行った。
【0094】
実施例3:天然黒鉛からの酸化グラフェン(GO)懸濁液およびGOゲルの調製
4:1:0.05の比率の硫酸、硝酸ナトリウムおよび過マンガン酸カリウムからなる液体酸化剤を用いて30℃で黒鉛フレークを酸化させることによって酸化黒鉛を調製した。天然黒鉛フレーク(14μmの粒度)を液体酸化剤混合物中に48時間浸漬し分散させると、その懸濁液またはスラリーは、光学的に不透明で暗色に見え、それが維持される。48時間後、反応塊を水で3回洗浄して、少なくとも3.0のpH値に調整した。次に、一連のGO-水懸濁液を調製するために最終量の水を加えた。本発明者らは、GOシートが>3%、典型的には5%~15%の重量分率を占める場合、GOシートが液晶相を形成することを確認した。
【0095】
比較の目的で、本発明者らは、酸化時間を約96時間まで延長することによってもGOゲル試料を調製した。激しい酸化を続けると、48時間の酸化で得られた暗色で不透明の懸濁液は、ある程度水で洗浄すると半透明で褐色-黄色がかった溶液に変化する。
【0096】
リバースロールコーティングおよびスロットダイコーティングの両方を用いて、GO懸濁液またはGOゲルをPETフィルム上に供給してコーティングし、コーティングされたフィルムから液体媒体を除去することにより、本発明者らは乾燥酸化グラフェンの薄いフィルムを得た。次に、GOフィルムに対して種々の熱処理およびハロゲン化処理を行った。これらの熱処理は、典型的には、45℃~150℃で1~10時間のエージング処理を含む。ハロゲン化処理は、実施例4および実施例5で議論される。
【0097】
走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)によるグラフェン層の格子像の写真ならびに制限視野電子回折(SAD)、明視野(BF)および暗視野(DF)の画像もハロゲン化グラフェン材料の一体化層の構造を特徴付けるために使用した。フィルムの断面図の測定のため、試料をポリマーマトリックス中に埋め込み、ウルトラミクロトームを用いてスライスし、Arプラズマでエッチングした。
【0098】
図6(A)、図6(A)および図7(B)の精密な調査および比較により、本発明により作製されたハロゲン化GOフィルム中のグラフェン層は互いに実質的に平行に配向することが示されるが、これは可撓性黒鉛箔およびGOまたはGH紙の場合には当てはまらない。ハロゲン化グラフェンの一体化フィルム中の2つの特定可能な層間の傾斜角は主に5度未満である。対照的に、可撓性黒鉛中には多くの折り畳まれた黒鉛フレーク、ねじれおよび誤配向が存在するため、2つの黒鉛フレーク間の角度の多くは10度を超え、一部は45度の大きさとなる(図6(B))。不良とはならないが、グラフェン紙中のグラフェンプレートレット間の誤配向(図7(B))も大きく(平均で>>10~20°)、プレートレット間に多くの間隙が存在する。一体化したハロゲン化グラフェンフィルムには間隙が実質的に存在しない。
【0099】
実施例4:GO層の堆積後のGOのハロゲン化処理
クロロホルム(CF)およびこれとは別にクロロベンゼン(CB)を50~100℃の温度で1~10時間使用して、GOプレートレットの塩素化を行った。GOの塩素化の程度は、ラマン分光法およびX線光電子分光法(XPS)によって評価した。得られる塩素化GOの誘電性能に対するCFまたはCB処理の効果を調べるために、約70nm~2μmの厚さのフィルムを作製した。
【0100】
CF、SF、XeF、フルオロポリマーまたはAr/Fをフッ素化剤として含有するプラズマ中で還元型酸化グラフェンシート(単層および多層)のフッ素化を行うことができる。プラズマ処理時間およびフッ素化剤の種類を変更することにより、得られるフッ素化グラフェンのフッ素含有量を変化させ得る。
【0101】
中間温度(400~600℃)におけるFガスへの曝露およびFを主成分とするプラズマを用いた処理など、多数の技術を酸化グラフェンのフッ素化に使用した。XeFはエッチングなしの酸化グラフェンの強力なフッ素化剤であり、したがってグラフェンハロゲン化の容易な経路となる。X線光電子分光法(XPS)およびラマン分光法によるこの方法の特性決定により、室温でのフッ素化によって片面曝露の場合には25~50%の被覆率(式CF~CFに対応)および両面曝露の場合にはCFで飽和することが明らかとなる。その高い電気陰性度のため、フッ素によって炭素1s結合エネルギー中に強い化学シフトが生じ、そのためX線光電子分光法(XPS)を使用して組成および結合の種類の定量が可能となる。
【0102】
フッ素化はプラズマ強化化学蒸着(PECVD)でも行った。典型的な手順では、PECVDチャンバーを約5mTorrまで排気し、温度を室温から200℃まで上昇させた。次に、CFガスを制御されたガス流量および圧力でチャンバー中に導入した。曝露時間を変化させることによってGO試料のフッ素化度を調節した。適切なCFプラズマ曝露時間は、Go層厚さ1nm当たり3~7分であることが分かった。たとえば、GO層が10nmの厚さの場合、曝露時間は30~70分であった。
【0103】
Br、I、BrI、CBrおよび/またはCClのガスまたはプラズマを同等の条件下で使用して類似の手順でGoの臭素化およびヨウ素化を行った。
【0104】
実施例5:供給および堆積のステップの前の種々のハロゲン化酸化グラフェンシート/分子の作製
スルホラン、ジメチルホルムアミド(DMF)またはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の存在下での音波処理により、(市販の)フッ化黒鉛粒子の化学エッチングを行うことでフッ化グラフェン懸濁液を得た。このプロセス中、溶媒分子がグラフェン層間にインターカレートして、隣接する層間のファンデルワールス力が弱まり、フッ化黒鉛の剥離によるフッ化グラフェン懸濁液の形成が促進される。GF懸濁液は、コンマコーティング、スロットダイコーティングまたは好ましくはリバースロール転写コーティングを用いて、高剪断条件(たとえば、より速い線速度比2/1~5/1)下でPETフィルムの表面上に直接コーティングすることができた。
【0105】
酸化グラフェンとフッ化水素酸との化学反応により、種々のフッ素含有量を有するフッ化グラフェンを容易に得ることができた。酸化グラフェンのフッ素化は、種々の温度における酸化グラフェンの無水HF蒸気への曝露によって行うことができ、またはHF溶液を用いて室温で光化学的に行うことができる。これらの手順を供給および堆積ステップ前のGOシートまたは分子に対して行った。
【0106】
液体塩素媒体中でのUV光照射により、単層グラフェンおよび数層グラフェンの両方を最大56~74重量%まで塩素化可能である。同等の条件下で単層グラフェンおよび数層グラフェンの両方の臭素化を行うことができる。
【0107】
例として、GO(15mg)を30mLの四塩化炭素と混合し、チップ式超音波処理器を用いて20分間音波処理した。得られた懸濁液を、277℃に維持された凝縮器を取り付けた500mLの石英容器中に移した。反応チャンバーに高純度窒素を30分間パージし、塩素ガスをチャンバーに通した。気体塩素は石英容器中で凝縮した。約20mLの液体塩素が入った石英容器を250℃まで加熱し、同時にUV光(250ワットの高圧Hg蒸気ランプ)を1.5時間照射した。溶媒および過剰の塩素を除去すると、透明フィルムが石英容器の壁上に残った。この固体を超音波処理下で無水アルコール中に分散させ、濾過し、蒸留水および無水アルコールで洗浄した。その濾液を次に40mlの蒸留水中に再分散させ、2分間超音波処理し、遠心分離した。PVDF膜(200nmの細孔径)を用いて、得られた黒色の上澄みを分離し濾過した。15mgのGO試料からの収量は約7~10mgであった。この塩素化グラフェンシートを溶媒(たとえば、CCl)中に分散させることで、供給および堆積用の懸濁液を形成することができる。
【0108】
臭素化の場合、12mgのグラフェンを石英容器中で混合し、これに20mLの液体臭素を加えた。超音波処理器を用いて混合物を10分間音波処理した。これに0.5gの四臭化炭素を加えた。次に、石英容器を250℃まで加熱し、塩素化の場合のように同時にUV光を照射した。過剰の臭素を除去し、生成物をチオ硫酸ナトリウムで洗浄した。固体残留物を次に水および無水アルコールで数回洗浄してチオ硫酸ナトリウムを除去し、次に40mLの蒸留水中に分散させ、遠心分離した。PVDF膜(200nmの細孔径)を用いて、得られた黒色の上澄みを分離し濾過した。12mgの試料からの収量は約5~7mgであった。この臭素化グラフェンシートを溶媒(たとえば、CBr)中に分散させることで、供給および堆積用の懸濁液を形成することができる。
【0109】
供給/堆積ステップの前に所望の量のハロゲン化GOシート/分子をGO懸濁液またはGOゲルに加えて、GO/ハロゲン化GO混合懸濁液またはゲルを形成することができる。典型的には、ハロゲン化GO対GOの重量比は、10/1~1/10(DMFおよびNMPなどの選択された液体媒体中)、より典型的には1/1~1/10(液体媒体が水の場合)である。
【0110】
実施例6:ハロゲン化グラフェンの一体化層の性質
絶縁耐力、誘電率、体積抵抗率(電気伝導率の逆数)の測定方法は当技術分野においてよく知られている。本発明の研究では規格化された方法に従った:絶縁耐力(ASTM D-149-91)、誘電率(ASTM D-150-92)および体積抵抗率(ASTM D-257-91)。
【0111】
図8は、フィルム厚さの関数としてプロットした、GOフィルム、本発明によるGO由来の一体化フッ化グラフェンフィルム(リバースロール転写コーティング法によって作製)および従来技術のポリイミドフィルムの絶縁破壊強度を示す。これらのデータから、本発明によるハロゲン化グラフェンフィルムが、25~125μmの大きいフィルム厚さの場合でさえも非常に高い絶縁破壊強度(>12MV/cm)を示すことが分かる(通常と異なり予想外である)。絶縁破壊強度値は、フィルム厚さとは比較的無関係であることが分かった。対照的に、同じ厚さ範囲の場合、酸化グラフェンフィルムは0.62~1.1MV/cmの絶縁耐力に耐え、大きさが1桁小さい。比較の目的で、市販のポリイミドフィルム(du Pont Kaptonフィルム)は1.54~3.03MV/cmの絶縁耐力を有する。
【0112】
GO由来のフッ素化グラフェンフィルムおよび塩素化グラフェンフィルム(いずれもリバースロール転写手順により、および別にキャスティング手順により作製)の絶縁破壊強度をフッ素化度(原子割り当てF/(F+O)または塩素化度(原子比、Cl/(Cl+O)の関数として図9にプロットしている。キャスティング手順は有意な量のいかなる剪断応力も含まなかったが、リバースロールコーティング法はGOおよびハロゲン化GOフィルムの配向において高剪断応力を含む。これらのデータは、同じ100nmの厚さの場合、GOフィルムの絶縁耐力が、純粋なGOフィルム(フッ素化なしまたはフッ素化度ゼロ)の場合の2.6MV/cmから、完全フッ素化フィルムの場合の22.2MV/cmまで増加したことを示す。この場合も、フッ素化により、大幅に改善された絶縁耐力をGOフィルムに付与できることを示す。これは予想外である。塩素化GOフィルムの一体化フィルムも同じ傾向がある。
【0113】
最も顕著でかつ予想外にも、フッ素化または非フッ素化GOシートまたは分子の剪断によって誘発される配向により、一体化フィルムは、従来のキャスティングによって作製された非配向または少ない配向の同等物の絶縁破壊強度(1.1~7.2MV/cm)よりもはるかに高い絶縁破壊強度(2.6~22.2MV/cm)に耐えることができる。同様に、高配向塩素化GOシートまたは分子の一体化フィルムでも、シート/分子が適切に配向していないそれらのキャスティングによる同等物と比較して、はるかに高い絶縁耐力を得られる。これは非常に重要な発見であり、これによってグラフェン材料の並外れた絶縁耐力を実現するための汎用性のある方法が得られる。
【0114】
原子比F/(F+O)に関するフッ素化度の関数としてプロットした、GO由来のフッ素化グラフェンフィルム(リバースロール転写手順により作製)および従来の製紙手順(真空支援濾過)によって作製したGO由来のフッ素化グラフェン紙の絶縁破壊強度を図10にまとめている。これらのデータは、複数のフッ素化GOシートの真空支援濾過の従来方法によって作成したGO系紙膜の絶縁耐力(1.1~1.45MV/cm)が比較的低く、フッ素化度とは比較的無関係であることを示す。ある程度の配向がこの方法で実現されるが、絶縁耐力は非常に低いままである。フッ素化GOシートの欠陥、空隙、ねじれおよび分断は、比較的低い全体的な(平均)低電圧レベルでこれらの不完全部分において絶縁破壊が開始し、次に、試料全体に急速に伝播する集中電界の局所滴部位となると思われる。本発明による方法によってこれらの不完全部分がなくなる。
【0115】
フッ素化度(原子割り当てF/(F+O)または臭素化度(原子比Br/(Br+O)の関数としてプロットしたGO由来のフッ素化グラフェンフィルムおよび臭素化グラフェンフィルムの誘電率を図11にまとめている。フッ素化度または臭素化度が増加すると、ハロゲン化グラフェンの一体化フィルムの誘電率が増加して最大値に到達し、次にフッ素化度または臭素化度が0.6を超えると減少し始める。最も注目すべきことは、部分ハロゲン化GOフィルム(C(式中、Zが、F、Cl、Br、Iから選択されるハロゲン元素であり、x=0.01~6.0、y=0~5.0およびx+y≦6.0である)が3.9~22.2の誘電率を示すことができ、GOの一体化層(x=0;C)の場合の誘電率値2.3とは対照的であるという測定結果である。
【0116】
要約すると、配向を制御する剪断応力に基づく方法を用いて元の酸化グラフェン懸濁液またはGOゲルから作製されたハロゲン化グラフェン(高配向のGO由来のハロゲン化グラフェンフィルム、GOGH)の一体化フィルムは以下の特徴を有する:
(1)一体化したハロゲン化グラフェンフィルム(薄いまたは厚い)は、典型的には大きい結晶粒を有する多結晶である一体化したハロゲン化酸化グラフェンまたは実質的に酸素を有さないハロゲン化グラフェン構造である。このフィルムは、すべてが互いに実質的に平行に配向している幅が広いまたは長い化学結合したグラフェン面を有する。換言すると、すべての結晶粒中のすべての構成グラフェン面の結晶学的c軸方向が実質的に同じ方向を向いている。換言すると、一体化層は、1つの方向に沿って互いに実質的に平行である複数の構成ハロゲン化グラフェン面であって、10度未満(より典型的には5度未満であるこれらのハロゲン化グラフェン面の平均偏差角を有する複数の構成ハロゲン化グラフェン面を有する。
【0117】
(2)リバースロールコーティングは、高度なグラフェン面配向およびハロゲン化グラフェンの結晶完全性の実現に非常に有効である。
【0118】
(3)一体化したハロゲン化GO層中にハロゲンおよび酸素が共存することで、高誘電率のフィルムの製造において予想外の相乗効果が得られる。
【0119】
(4)GOGHフィルムは、元のGO懸濁液中に存在していた識別可能な個別のフレークまたはプレートレットを含有しない、完全に一体化され実質的に空隙を有さない単一のグラフェン要素またはモノリスである。対照的に、ハロゲン化グラフェンまたはGOプレートレット(各プレートレット<100nm)の紙または膜は、GOまたはハロゲン化GOの複数の個別のプレートレットの単純な未結合の凝集体/積層体である。これらの紙/膜中のプレートレットは、配向が不十分であり、多数のねじれ、湾曲およびしわを有する。多くの空隙または他の欠陥がこれらの紙/膜構造中に存在するため、絶縁破壊強度が低くなる。
【0120】
(5)従来技術の方法では、黒鉛粒子の元の構造を構成する個別のグラフェンまたはGOのシート(<<100nm、典型的には<10nm)は、膨張、剥離および分離の処理によって得ることができた。これらの個別のシート/フレークを単純に混合してバルク物体に再圧縮することにより、望ましくは圧縮によってこれらのシート/フレークが1つの方向に沿って配向するように試みることができた。しかし、これらの従来方法では、結果として得られる凝集体構成フレークまたはシートは、裸眼でさえも、または低倍率の光学顕微鏡(100倍~1000倍)下で容易に識別できるか、または明確に観察できる個別のフレーク/シート/プレートレットとして残存する。
【0121】
対照的に、本発明によるハロゲン化グラフェンの一体化フィルムの作製は、事実上すべての元のグラフェン面が酸化されて互いに分離して、高反応性官能基(たとえば、-OH、>Oおよび-COOH)をグラフェン面表面のエッジまたは上に有する個別のグラフェン面または分子となる程度まで、元の黒鉛粒子を激しく酸化させるステップを含む。これらの個別の炭化水素分子(炭素原子に加えてOおよびHなどの元素を含有する)を液体媒体(たとえば、水およびアルコールの混合物)中に分散させて、GO分散体を形成する。次に、この分散体を平滑な基板表面上にリバースロールコーティングし、次に液体成分を除去して、乾燥GO層を形成する。わずかに加熱またはエージングを行うと、大部分はグラフェン面に沿って横方向に(長さおよび幅が増加するエッジ間方式で)、場合によりグラフェン面間でも、これらの高反応性分子が互いに反応して化学結合する。
【0122】
図7(D)には、多数のGO分子が互いに化学的に連結してフィルムを形成できるが、わずか2つの配列したGO分子が一例として示される、可能性のある化学的連結機構が示されている。さらに、化学的連結は、単にエッジ間だけでなく面間でも生じ得る。これらの連結および合体反応は、分子が化学的に合体し、連結し、一体化して単一の材料となるような方法で進行する。これらの分子または「シート」は、非常に長く幅広になる。これらの分子(GOシート)は、それらの元の性質が完全に失われ、もはや個別のシート/プレートレット/フレークではない。実質的に無限大の分子量を有する相互接続した巨大分子の実質的な網目構造である1つのみの単層状構造が存在する。これはグラフェン多結晶(数個の結晶粒を有するが、典型的には識別可能な十分画定された結晶粒界を有さない)と記載することもできる。すべての構成グラフェン面は、横寸法(長さおよび幅)が非常に大きく、互いに平行に配列する。
【0123】
SEM、TEM、制限視野回折、X線回折、AFM、ラマン分光法およびFTIRの組合せを用いたより詳細な研究により、黒鉛フィルムはいくつかの巨大なグラフェン面(長さ/幅が典型的には>>100μm、より典型的には>>1mmである)から構成されることが示される。これらの巨大グラフェン面は、多くの場合に(従来の黒鉛微結晶のような)ファンデルワールス力だけでなく共有結合によっても厚さ方向(結晶学的c軸方向)に沿って積層され結合する。これらの場合、理論によって限定しようと望むものではないが、ラマン分光法およびFTIR分光法の研究によると、黒鉛中に従来のspだけでなく、sp(支配的)およびsp(弱いが存在する)の電子配置の共存を示すと思われる。
【0124】
(6)この一体化GOGHフィルムは、樹脂バインダー、リンカーまたは接着剤を用いて個別のフレーク/プレートレットを互いに接着または結合させることによって作製されるのではない。代わりに、分散体またはゲル中のGOまたはハロゲン化GOのシート(分子)は、連結または共有結合の形成によって互いに合体して、一体化したグラフェン要素となり、外部から加えられるいかなるリンカーもしくはバインダー分子およびポリマーも使用されない。これらのGOまたはハロゲン化GOの分子は、「再結合」が起こるリビングポリマー鎖と類似の方法で互いに連結可能な「リビング」分子である(たとえば、1,000モノマー単位のリビング鎖と2,000モノマー単位の別のリビング鎖とが結合または連結して3,000単位のポリマー鎖となる)。3,000単位の鎖が4,000単位の鎖と結合して7,000単位の巨大な鎖となることなどが起こり得る。
【0125】
(7)この一体化フィルムは、典型的には、不完全な結晶粒界を有し、典型的にはすべての結晶粒中の結晶学的c軸が互いに実質的に平行である大きい結晶粒で構成される多結晶である。この要素は、本来、複数の黒鉛微結晶を有する天然黒鉛または人造黒鉛の粒子から得られるGO懸濁液またはGOゲルから誘導される。化学的酸化前に、これらの出発黒鉛微結晶は、初期長さ(結晶学的a軸方向のL)、初期幅(b軸方向のL)および厚さ(c軸方向のL)を有する。激しく酸化させると、これらの初期の個別の黒鉛粒子は、エッジまたは表面の官能基(たとえば、-OH、-COOHなど)を高濃度で有する高度な芳香族の酸化グラフェン分子に化学的に変換される。GO懸濁液中のこれらの芳香族ハロゲン化GO分子は、黒鉛粒子またはフレークの一部であるという元の性質を失っている。懸濁液から液体成分を除去して熱エージングを行った後、得られるGO分子は、化学的に合体し連結して、高度に配向した単一またはモノリスのグラフェン要素となる。
【0126】
結果として得られる単一グラフェン要素は、典型的には、元の微結晶のLおよびLよりもはるかに大きい長さまたは幅を有する。この黒鉛フィルムの長さ/幅は、元の微結晶のLおよびLよりもはるかに大きい。多結晶黒鉛フィルム中の個別の結晶粒でさえも、元の微結晶のLおよびLよりもはるかに大きい長さまたは幅を有する。
【0127】
(8)これらの独特の化学組成(酸素含有量を含む)、形態、結晶構造(グラフェン間隔を含む)および構造的特徴(たとえば、高度な配向、少ない欠陥、化学結合およびグラフェンシート間に間隙がないこと、およびグラフェン面内の中断がないこと)のため、高配向の酸化グラフェン由来のハロゲン化GOフィルムは、顕著な誘電率および絶縁破壊強度の独特の組合せを有する。
【0128】
結論として、本発明者らは、完全に新しく、新規であり、予想外の明確に異なる種類の誘電体材料である高配向のハロゲン化グラフェンのモノリスの一体化フィルムを成功裏に開発した。この新しい種類の材料の化学組成(酸素およびハロゲンの含有量)、構造(結晶完全性、結晶粒度、欠陥集団など)、結晶配向、高度な配向を有する実現可能な厚さ、形態、製造方法および性質は、あらゆる周知のグラフェン材料とは根本的に別のものであり明らかに異なる。これらのハロゲン化グラフェンフィルムは、多種なマイクロエレクトロニクスデバイス中の誘電体材料部品として使用することができる。
図1
図2
図3
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図11