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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】グリース組成物およびハブユニット
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20220401BHJP
   C10M 115/08 20060101ALI20220401BHJP
   C10M 137/00 20060101ALI20220401BHJP
   C10M 137/08 20060101ALI20220401BHJP
   C10M 143/00 20060101ALI20220401BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20220401BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20220401BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20220401BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20220401BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M115/08
C10M137/00
C10M137/08
C10M143/00
C10N20:02
C10N30:08
C10N40:02
C10N50:10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018541796
(86)(22)【出願日】2016-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2016078746
(87)【国際公開番号】W WO2018061134
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2019-06-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 浩二
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 浩
(72)【発明者】
【氏名】山海 陽一朗
(72)【発明者】
【氏名】山根 伸志
(72)【発明者】
【氏名】芝田 英夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏文
(72)【発明者】
【氏名】中田 竜二
(72)【発明者】
【氏名】今井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 綾佑
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄太
【合議体】
【審判長】川端 修
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-50234(JP,A)
【文献】特開2014-118467(JP,A)
【文献】特許第4566909(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含有するグリース組成物であって、
前記基油は合成油を含み、
前記合成油は、合成炭化水素油およびエステル油からなる混合した油であり、
前記エステル油の割合が、前記混合した油の5~15質量%であり、
前記増ちょう剤はウレア基を有する化合物を含み、
前記添加剤は、りん系化合物、カルシウム系化合物および炭化水素系ワックスを含み、
前記りん系化合物は、アミンホスフェートであり、
前記アミンホスフェートの含有量が、前記グリース組成物の0.05~5質量%であり、
前記カルシウム系化合物は、過塩基性カルシウムスルホネートであり、
前記過塩基性カルシウムスルホネートの塩基価が、50~500mgKOH/gであり、
前記過塩基性カルシウムスルホネートの含有量が、前記グリース組成物の0.05~5質量%であり、
前記炭化水素系ワックスは、ポリエチレンワックスであり、
前記ポリエチレンワックスの含有量が、前記グリース組成物の0.05~5質量%である、グリース組成物。
【請求項2】
前記ウレア基を有する化合物は、下記式(A)で表されるジウレアを含む、請求項1に記載のグリース組成物。
【化1】
(式中、Rは、ジフェニルメタン基を示す。Rの各フェニル基に結合する各N原子はジフェニルメタン基のメチレン基とパラ位に位置する。RおよびRは互いに同じまたは異なる官能基であり、それぞれ、シクロヘキシル基、又は炭素数16~20の直鎖または分岐アルキル基を示し、シクロヘキシル基とアルキル基の総モル数に対するシクロヘキシル基のモル数の割合[{(シクロヘキシル基の数)/(シクロヘキシル基の数+アルキル基の数)}×100]は50~90モル%である。)
【請求項3】
前記基油の-30℃における動粘度が、5000mm/s以下である、請求項1または2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記基油の40℃における動粘度が、20~50mm/sである、請求項1~3のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記ウレア基を有する化合物の含有量が、前記グリース組成物の5~15質量%である、請求項1~のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のグリース組成物が封入された、ハブユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、グリース組成物およびこのグリース組成物が封入されたハブユニットに関する。
背景技術
【0002】
従来、自動車の軸受等に使用される潤滑剤として、特許文献1~2に記載されたグリース組成物が知られている。
特許文献1は、増ちょう剤、基油、およびアミンホスフェートを含有するグリース組成物を開示している。
特許文献2は、(a)油溶性リンアミン塩、(b)約0.0001重量%~約5重量%の、フェネートおよびスルホネートを含む金属含有洗浄剤パッケージ、(c)分散剤、(d)分散剤粘度調整剤、(e)金属不活性化剤、および(f)潤滑粘性を有する油を含む潤滑組成物であって、当該潤滑組成物は、約0.25重量%未満のジアルキルジチオリン酸金属を含有し、当該潤滑組成物は、伝動装置油、駆動軸油、ギヤ油、車軸油、またはその混合物である組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/092201号
【文献】日本国特表2008-542502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使用されるグリースは、その使用条件(機械の種類、運転条件、使用温度範囲等)に合わせて選別される。例えば、自動車のハブユニット用のグリースとしては、40℃における動粘度が70~100mm2/s程度の動粘度を有する中粘度の基油を含むグリースが用いられる。この種のグリースは、ハブユニットの軸受の焼付きを防止することや、軸受の潤滑寿命を長期に亘って維持することに貢献する。
【0005】
一方、近年では、地球温暖化に対する関心の高まり等から、自動車の高い燃費性が要求されている。
燃費性の向上のためには、グリースに低粘度の基油を使用して、軸受の摺動部(軌道接触部)の摩擦抵抗をできる限り小さくすることが必要である。しかしながら、低粘度の基油を単に採用するだけでは、その背反の事象として、軸受の耐焼付き性や長期に亘る潤滑寿命を維持することが困難になる。
【0006】
また、世界の寒冷地への自動車市場の拡大に伴い、輸送時の振動によって軸受の摺動部に低温フレッチングが発生することが懸念される。低温環境下ではグリースが固化し易く、摺動部にグリースの基油が行き渡らないためである。
そこで、本発明の一態様の目的は、摺動部の摩擦抵抗の低減と、耐焼付き性および長期に亘る潤滑寿命の維持とを両立できると共に、低温環境下におけるフレッチングの発生を低減できるグリース組成物およびこれを備えるハブユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の一態様のグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含有するグリース組成物であって、前記基油は合成油を含み、前記増ちょう剤はウレア基を有する化合物を含み、前記添加剤は、りん系化合物、カルシウム系化合物および炭化水素系ワックスを含む(第1の態様)。
本発明の一態様のグリース組成物では、前記ウレア基を有する化合物は、下記式(A)で表されるジウレアを含むことが好ましい(第2の態様)。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R2の各フェニル基に結合する各N原子はジフェニルメタン基のメチレン基とパラ位に位置する。R1およびR3は互いに同じまたは異なる官能基であり、それぞれ、シクロヘキシル基、又は炭素数16~20の直鎖または分岐アルキル基を示し、シクロヘキシル基とアルキル基の総モル数に対するシクロヘキシル基のモル数の割合[{(シクロヘキシル基の数)/(シクロヘキシル基の数+アルキル基の数)}×100]は50~90モル%である。)
本発明の一態様のグリース組成物では、前記基油の-30℃における動粘度が、5000mm2/s以下であることが好ましい(第3の態様)。
【0010】
本発明の一態様のグリース組成物では、前記基油の40℃における動粘度が、20~50mm2/sであることが好ましい(第4の態様)。
本発明の一態様のグリース組成物では、前記りん系化合物は、アミンホスフェートであり、前記アミンホスフェートの含有量が、前記グリース組成物の0.05~5質量%であることが好ましい(第5の態様)。
【0011】
本発明の一態様のグリース組成物では、前記カルシウム系化合物は、過塩基性カルシウムスルホネートであり、前記過塩基性カルシウムスルホネートの塩基価が、50~500mgKOH/gであり、前記過塩基性カルシウムスルホネートの含有量が、前記グリース組成物の0.05~5質量%であることが好ましい(第6の態様)。
本発明の一態様のグリース組成物では、前記炭化水素系ワックスは、ポリエチレンワックスであり、前記ポリエチレンワックスの含有量が、前記グリース組成物の0.05~5質量%であることが好ましい(第7の態様)。
【0012】
本発明の一態様のグリース組成物では、前記合成油は、合成炭化水素油およびエステル油からなる混合した油であり、前記エステル油の割合が、前記混合した油の5~15質量%であることが好ましい(第8の態様)。
本発明の一態様のグリース組成物では、前記ウレア基を有する化合物の含有量が、前記グリース組成物の5~15質量%であることが好ましい(第9の態様)。
【0013】
本発明の一態様のハブユニットでは、本発明のグリース組成物が封入されている(第10の態様)。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様のグリース組成物によれば、低温環境下におけるフレッチング(低温フレッチング)を低減することができる。また、摺動部の耐焼付き性および長期に亘る潤滑寿命を維持することができる。また、摺動部における摩擦抵抗を低減することができる。
したがって、本発明の一態様のグリース組成物を備えるハブユニットによれば、軸受で支持された軸の摩擦抵抗を低減して回転トルクを低減できるので、車両の燃費性を向上させることができる。むろん、軸受の耐焼付き性および長期に亘る潤滑寿命を維持できると共に、車両が寒冷地で貨物輸送(例えば、鉄道、トラック等による輸送)される際のフレッチングの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るハブユニットを示す断面図である。
図2図2は、前記ハブユニットのフランジ部を示す斜視図である。
図3図3は、前記フランジ部を示す正面図である。
図4図4は、低温フレッチング試験機の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一態様のグリース組成物は、基油、増ちょう剤および添加剤を含有している。
本発明の一態様のグリース組成物に使用できる基油は、合成油を必須成分とするが、鉱油等の他の基油を含んでもよい。合成油は、一種類を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。また、合成油以外の基油に関しては特に限定されない。特に、合成油であれば、不純物が混入していないか、混入していても少ないため、グリース組成物の潤滑性能を向上させることができる。また、分子量や分子構造に応じて、基油の動粘度や流動点を広い範囲で選択することができる。
【0017】
合成油としては、例えば、合成炭化水素油、エステル油、シリコーン油、フッ素油、フェニルエーテル油、ポリグリコール油、アルキルベンゼン油、アルキルナフタレン油、ビフェニル油、ジフェニルアルカン油、ジ(アルキルフェニル)アルカン油、ポリグリコール油、ポリフェニルエーテル油、パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等のフッ素化合物等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、合成炭化水素油、エステル油が使用され、さらに好ましくは、合成炭化水素油およびエステル油の混合した油が使用される。
【0018】
合成炭化水素油として、さらに具体的には、エチレン、プロピレン、ブテンおよびこれらの誘導体などを原料として製造されたα-オレフィンを、単独または2種以上混合して重合したものが挙げられる。α-オレフィンとしては、好ましくは、炭素数6~18のものが挙げられ、さらに好ましくは、1-デセンや1-ドデセンのオリゴマーであるポリ-α-オレフィン(PAO)が挙げられる。
【0019】
エステル油としては、例えば、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート等のジエステル系、例えば、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル系、例えば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトールエステル等のポリオールエステル系等が挙げられる。
【0020】
基油の物性については、次の範囲が好ましい。すなわち、40℃における動粘度(JIS K 2283に準拠)は、好ましくは、20~50mm2/sであり、さらに好ましくは、30~50mm2/sである。また、-30℃における動粘度(JIS K 2283に準拠)は、5000mm2/s以下であることが好ましい。基油の動粘度が上記の範囲であれば、40℃における動粘度が70~100mm2/s程度の基油が用いられたグリース組成物に比べて、軸受の摺動部の摩擦抵抗を小さくすることができる。また、流動点(JIS K 2269に準拠)は、好ましくは、-50℃以下であり、さらに好ましくは、-70℃~-50℃である。基油の流動点が上記の範囲であれば、低温環境下(例えば、-40℃以下)においてグリース組成物の流動性を確保できるので、軸受の摺動部に基油を行き渡らせやすくすることができる。したがって、低温フレッチングの抑制効果を向上させることができる。また、トラクション係数は、好ましくは、0.1以下であり、さらに好ましくは、0.03~0.07である。基油のトラクション係数が上記の範囲であれば、軸受摺動部における摩擦抵抗を低減することができる。
【0021】
また、基油が合成炭化水素油およびエステル油の混合した油である場合、合成炭化水素油は、85~95質量%含有され、エステル油は、5~15質量%含有されていることが好ましい。
また、基油の含有量は、グリース組成物全量に対して、好ましくは、85~95質量%であり、より好ましくは88~92質量%である。
【0022】
増ちょう剤としては、ウレア基を有する化合物が使用される。ウレア基を有する化合物としては、例えば、ジウレア、トリウレアやテトラウレアに代表されるポリウレア等のウレア基を有する化合物、ウレア基とウレタン基を有する化合物、ジウレタン等のウレタン基を有する化合物またはこれらの混合物等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、ジウレアが使用され、さらに好ましくは、脂環式アミンおよび脂肪族アミンの混合アミンと、ジイソシアネートとを反応させて得られるジウレアが使用される。この組み合わせのジウレアであれば、同ちょう度となる増ちょう剤の質量%を減らすことができ、軸受摺動部における摩擦抵抗を低減することができる。
【0023】
脂環式アミンとしては、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられ、脂肪族アミンとしては、例えば、炭素数16~20の直鎖または分岐アルキルのアミン等が挙げられる。
ジイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、飽和および/または不飽和の直鎖状、または分岐鎖の炭化水素基を有するジイソシアネートが挙げられ、具体的には、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート(HDI)等が挙げられる。また、脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、シクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。また、芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、芳香族ジイソシアネートが使用され、さらに好ましくは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が使用される。
【0024】
また、ウレア基を有する化合物の原料として脂環式アミンおよび脂肪族アミンの混合アミンが使用される場合、脂環式アミンと脂肪族アミンとの配合割合(モル比)は、好ましくは、脂環式アミン:脂肪族アミン=50:50~90:10である。
そして、混合アミンとジイソシアネートは、種々の方法と条件下で反応させることができる。増ちょう剤の均一分散性が高いジウレアが得られることから、基油中で反応させることが好ましい。また、反応は、混合アミンを溶解した基油中に、ジイソシアネートを溶解した基油を添加して行ってもよいし、ジイソシアネートを溶解した基油中に、混合アミンを溶解した基油を添加して行ってもよい。これらの反応における温度および時間は、特に限定されず、通常のこの種の反応と同様でよい。反応開始温度は、混合アミンの揮発性の点から、25℃~100℃が好ましい。反応温度は、混合アミンおよびジイソシアネートの溶解性、揮発性の点から、60℃~170℃が好ましい。反応時間は、混合アミンとジイソシアネートの反応を完結させるという点と製造時間短縮による効率化の点から0.5~2.0時間が好ましい。
【0025】
以上の方法によって得られたジウレアは、例えば、下記式(A)で表されることが好ましい。
【0026】
【化2】
(式中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R2の各フェニル基に結合する各N原子はジフェニルメタン基のメチレン基とパラ位に位置する。R1およびR3は互いに同じまたは異なる官能基であり、それぞれ、シクロヘキシル基、又は炭素数16~20の直鎖または分岐アルキル基を示し、シクロヘキシル基とアルキル基の総モル数に対するシクロヘキシル基のモル数の割合[{(シクロヘキシル基の数)/(シクロヘキシル基の数+アルキル基の数)}×100]は50~90モル%である。)
また、増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全量に対して、好ましくは、5~15質量%であり、より好ましくは8~12質量%である。
【0027】
添加剤としては、必須成分として、りん系化合物、カルシウム系化合物および炭化水素系ワックスが挙げられ、任意成分として、その他の極圧剤、防錆剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤等の各種添加剤が挙げられる。
りん系化合物としては、亜リン酸エステル(ホスファイト)、リン酸エステル(ホスフェート)、およびこれらのエステルとアミン、アルカノールアミンとの塩等が挙げられ、好ましくは、アミンホスフェートが使用される。アミンホスフェートとしては、例えば、ターシャリーアルキルアミン-ジメチルホスフェート、フェニルアミン-ホスフェート等が挙げられる。
【0028】
カルシウム系化合物としては、例えば、有機スルホン酸のカルシウム塩(カルシウムスルホネート)等が挙げられる。カルシウムスルホネートは、特に限定されず、例えば、次の一般式(B)で示される化合物が挙げられる。
【0029】
【化3】
(式中、R1はアルキル基、アルケニル基、アルキルナフチル基、ジアルキルナフチル基、アルキルフェニル基または石油高沸点留分残基を示す。前記アルキルまたはアルケニルは、直鎖または分岐であり、炭素数は2~22である。R1としては、R1の中のアルキル基の炭素数が好ましくは6~18、より好ましくは8~18、とりわけ好ましくは10~18であるアルキルフェニル基が好ましい。)
一般式(B)で示される化合物のうち、好ましくは、塩基価(JIS K 2501に準拠)が50~500mgKOH/gであり、より好ましくは300~500mgKOH/gである過塩基性カルシウムスルホネートが使用される。過塩基性カルシウムスルホネートであれば、強固な被膜が摺動部表面に形成でき、剥離寿命を向上させることができる。過塩基性カルシウムスルホネートは、カルシウムスルホネートと炭酸カルシウムとを含む。
【0030】
また、りん系化合物としてアミンホスフェートが使用される場合、その含有量は、グリース組成物全量に対して、好ましくは、0.05~5質量%であり、より好ましくは、0.5~2質量%である。また、カルシウム系化合物として過塩基性カルシウムスルホネートが使用される場合、その含有量は、グリース組成物全量に対して、好ましくは、0.05~5質量%であり、より好ましくは、0.5~3質量%である。
【0031】
炭化水素系ワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリマー系化合物やフィッシャー・トロプシュワックスが挙げられる。ポリエチレンワックスは、例えば、エチレンの重合やポリエチレンの熱分解によって得ることができる。
また、炭化水素系ワックスとしてポリエチレンワックスが使用される場合、その含有量は、グリース組成物全量に対して、好ましくは、0.05~5質量%であり、より好ましくは、0.5~2質量%である。
【0032】
そして、本発明のグリース組成物は、例えば、必須成分としての合成油(基油)、ウレア系増ちょう剤、りん系化合物、カルシウム系化合物および炭化水素系ワックス、さらに必要に応じてその他の添加剤を混合し、撹拌した後、ロールミル等を通すことによって得ることができる。
低温環境下におけるフレッチングを低減するメカニズム、摺動部の耐焼付き性および長期に亘る潤滑寿命を維持のメカニズムは未だ不明の部分が多いが、現段階では下記の推論が考えられる。
【0033】
本発明のグリース組成物によれば、りん系化合物が金属に対して良好な吸着性を有するため、軸受等の摺動部の金属表面に、りん系化合物に由来する化合物の表面膜が形成される。さらに、カルシウム系化合物が含まれているため、りん系化合物の表面膜上にカルシウム系化合物の硬化膜(表面が硬化する膜)が形成され、この上に炭化水素系ワックスが良好に吸着することによって、硬化膜上に炭化水素系ワックスの膜が形成される。ここで、「りん系化合物に由来する」とは、りん系化合物が金属表面との反応することによって誘導された、りん系の無機化合物等が挙げられる。
【0034】
りん系化合物の表面膜(カルシウム系化合物の硬化膜に比べて柔らかい膜)およびカルシウム系化合物の硬化膜によって金属表面が薄くコーティングされるため、摺動部に基油が行き渡っていない状態で振動が生じても、金属表面同士の接触をなくすか、接触による衝撃を軽減することができる。したがって、低温環境下におけるフレッチング(低温フレッチング)を低減することができる。さらに、金属表面の摺動時には、摺動部に引き込まれた基油に由来する油性膜による潤滑を、添加剤(炭化水素系ワックス)由来の膜で補助することができる。すなわち、基油の弾性流体潤滑膜が薄くても、炭化水素系ワックス由来の膜と合わさることで、摺動部の耐焼付き性および長期に亘る潤滑寿命を維持することができる。また、摺動部における摩擦抵抗を低減することができる。
【0035】
次に、本発明のグリース組成物がグリース(G)として封入されたハブユニット1について添付の図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るハブユニット1を示す断面図である。なお、図1の左右方向をハブユニット1の軸方向といい、図1の左側を軸方向外側、右側を軸方向内側という。
【0036】
ハブユニット1は、例えば、自動車の車輪を車体側の懸架装置に対して回転自在に支持するものである。ハブユニット1は、転がり軸受2と、転がり軸受2の軌道輪部材となるハブホイール3と、ハブホイール3と一体的に設けられた円環状のフランジ部4とを含む。この実施形態のハブホイール3およびフランジ部4の素材は、例えば、熱間鍛造された鋼材により形成されている。
【0037】
ハブホイール3は、断面円形状の小径部7と、小径部7の軸方向内側の端部が径方向外側に屈曲変形されたかしめ部8と、小径部7よりも径が大きく当該小径部7から軸方向外側に向かって連続して設けられた断面円形状の大径部9とを含む。ハブホイール3の大径部9には、その外周面から径方向外側に延びる上記フランジ部4が折り曲げ形成されている。
【0038】
転がり軸受2は、例えば、複列玉軸受で、内周面に一対の外輪軌道面11a,11bを有する外輪11と、内周面がハブホイール3の小径部7の外周面7aに密接するように挿嵌された内輪部材12とを備えている。そして、内輪部材12は、その外周面に軸方向内側の外輪軌道面11aに対向する内輪軌道面13aを有しており、ハブホイール3の大径部9は、その外周面に軸方向外側の外輪軌道面11bに対向する内輪軌道面13bを有している。外輪11と、内輪部材12と、は鋼材で形成されている。
【0039】
また、転がり軸受2は、外輪軌道面11aと内輪軌道面13aとの間、及び外輪軌道面11bと内輪軌道面13bとの間にそれぞれ転動自在に2列に配置された複数の玉(転動体)14と、これらの2列に配置された玉14をそれぞれ周方向に所定の間隔で保持する一対の保持器15とを含む。玉14は鋼材で形成されている。
また、転がり軸受2は、ハブホイール3と外輪11との間に形成される環状空間を軸方向両端から密封するシール部材16を含む。このシール部材16で密封された環状空間16a内には、上記のグリース組成物からなるグリースGが封入されている。
【0040】
さらに、転がり軸受2は、外輪11の外周面11cから径方向外側に延びる軸受フランジ17を有している。軸受フランジ17には、その厚み方向に貫通する複数のボルト孔17aが形成されている。このボルト孔17aにはボルトB1が挿通され、懸架装置のナックル51に螺合されている。これにより、軸受フランジ17はナックル51に固定されている。
【0041】
図2は、フランジ部4を示す斜視図であり、図3は、フランジ部4を示す正面図である。
図2および図3において、フランジ部4は、その周方向に所定間隔をあけて形成された複数(この実施形態では5個)の肉厚部21を有している。各肉厚部21は、軸方向内側の端面が隆起するように形成されているとともに、図3の正面視において径方向に放射状に延びて形成されている。また、各肉厚部21は、周方向に所定の幅W(以下、周方向幅Wという)を有している。
【0042】
各肉厚部21のそれぞれの径方向外側には、前記周方向幅Wの略中央部において厚さ方向に貫通する一個のボルト孔22が形成されている。各ボルト孔22には、図1に示すように、ホイールやブレーキディスクを取り付けるためのハブボルトB2がそれぞれ圧入によって固定されている。したがって、ボルト孔22の直径d(図3参照)は、ハブボルトB2を圧入可能な寸法に設定されている。
【0043】
以上、ハブユニット1によれば、グリース(G)中のりん系化合物が金属に対して良好な吸着性を有するため、転がり軸受2の外輪軌道面11aや内輪軌道面13aにおいて金属との反応によって、りん系化合物に由来する化合物(例えば、リン酸鉄(II)等)からなる表面膜が形成される。さらに、カルシウム系化合物が含まれているため、りん系化合物の表面膜上にカルシウム系化合物の硬化膜が形成され、この上に炭化水素系ワックスが良好に吸着する。これにより、硬化膜上に炭化水素系ワックスの膜が形成される。
【0044】
りん系化合物の表面膜およびカルシウム系化合物の硬化膜によって外輪軌道面11aや内輪軌道面13aが薄くコーティングされるため、外輪軌道面11aや内輪軌道面13aに基油が行き渡っていない状態で振動が生じても、玉14の表面と、外輪軌道面11aおよび内輪軌道面13aとの金属接触をなくすか、接触による衝撃を軽減することができる。したがって、低温環境下におけるフレッチング(低温フレッチング)を低減することができるので、車両が寒冷地で貨物輸送(例えば、鉄道、トラック等による輸送)される際のフレッチングの発生を低減することができる。
【0045】
さらに、転がり軸受2が回転するときには、玉14の表面と、外輪軌道面11aおよび内輪軌道面13aとの間に引き込まれた基油に由来する油性膜による潤滑を、炭化水素系ワックス由来の膜で補助することができる。すなわち、基油の弾性流体潤滑膜が薄くても、炭化水素系ワックス由来の膜と合わさることで、摺動部の耐焼付き性および長期に亘る潤滑寿命を維持することができる。また、低い動粘度の基油を採用することによって、摺動部における摩擦抵抗を低減することができる。これにより、転がり軸受2で支持された軸の摩擦抵抗を低減して回転トルクを低減できるので、車両の燃費性を向上させることができる。
【0046】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、他の実施形態で実施することもできる。
例えば、上記の実施形態では、(複列)玉軸受によって構成された転がり軸受2にグリース(G)が封入された例を説明したが、本発明のグリース組成物からなるグリースが封入される軸受は、転動体として玉以外のものが使用されたニードル軸受、ころ軸受等、他の転がり軸受であってもよい。
【0047】
また、本発明のグリース組成物からなるグリースが封入された軸受は、上記のハブユニット1の他、サスペンションユニット、ステアリングユニット等、他の車両用転動装置に搭載されていてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例
【0048】
次に、本発明の一態様を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
実施例1~3および比較例1~3
<グリース組成物の配合>
各実施例および各比較例について表1に示す配合割合で、増ちょう剤、基油、りん系化合物、カルシウム系化合物および炭化水素系ワックスを配合することによって、試験用グリース組成物を調製した。得られた試験用グリース組成物に対して、次に示す評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0049】
表1において、基油の動粘度はJIS K 2283に準拠して測定された値であり、基油の流動点はJIS K 2269に準拠して測定された値である。また、各原料の製造会社および商品名は次の通りである。
(1)増ちょう剤
(原料)
・脂環式アミン(シクロヘキシルアミン)
・芳香族アミン(p―トルイジン)
・脂肪族アミン(ステアリルアミン)
・ジイソシアネート(4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート)
(増ちょう剤)
・脂環式アミン87.5molと脂肪族アミン12.5molとを混合し、ジイソシアネート50molと反応させた。
・芳香族アミン100molとジイソシアネート50molとを反応させた。
(2)基油
・鉱油(40℃動粘度:70mm2/s)
・PAO(40℃動粘度:30mm2/s)
・PAO(40℃動粘度:63mm2/s)
・エステル(ペンタエリスリトールエステル 40℃動粘度:30mm2/s)
(3)添加剤
・過塩基性カルシウムスルホネート(Chemtura Corpration社製「BRYTON C-400C」、一般式(B)のR1中のアルキル部分の炭素数が主に10~16である過塩基性のアルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩(塩基価:405)。この中は、アルキル部分の炭素数が10~16で無いものや構造が特定できないアルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩も含まれる。過塩基性カルシウムスルホネートは、カルシウムスルホネートと炭酸カルシウムとを含む。)
・ホスファイト(城北化学工業社製「JP-260」)
・アミンホスフェート(R.T.Vanderbilt社製「Vanlube 672」)
・ZnDTC(R.T.Vanderbilt社製「Vanlube AZ」)
・炭化水素系ワックス(ポリエチレンワックス、クラリアントジャパン株式会社社製「LICOWAX PE 190 POWDER」)
・ステアリン酸Li
【0050】
<実施例1>
40℃の動粘度が30mm2/sのポリ-α-オレフィン(PAO)と40℃の動粘度が30mm2/sのペンタエリスリトールエステルを90:10の質量比で混合して第1の混合した油とした。第1の混合した油の40℃における動粘度は30mm2/sである。第1の混合した油の-30℃における動粘度は2450mm2/sである。前記第1の混合した油の一部に、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第1の混合物とした。一方、前記第1の混合した油の一部にシクロヘキシルアミンおよびステアリルアミンを87.5:12.5のモル比で配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第2の混合物とした。次に、第1の混合物の温度と第2の混合物の温度とをそれぞれ維持しつつ第2の混合物を第1の混合物に加えて攪拌し、昇温させ、最初に撹拌を続けながら100~110℃で30分間維持して反応させ、次いで撹拌を続けながら160~170℃まで昇温したのち冷却し、第1の生成物を得た。冷却後、第1の生成物に最終的にグリース組成物の2.0質量%となるよう過塩基性カルシウムスルホネートを、グリース組成物の1.0質量%となるようアミンホスフェートを、また第1の混合した油の一部にポリエチレンワックスを添加して120~130℃まで撹拌しながら加熱、溶解し、そのまま撹拌を続けながら室温まで冷却して半固体状となったワックス溶解物を、最終的にポリエチレンワックスがグリース組成物の1.0質量%となるようポリエチレンワックスを、さらに、ちょう度を調整するために第1の混合した油の一部を、添加し、3本ロールミルで混練し、実施例1のグリース組成物を得た。実施例1のグリース組成物の増ちょう剤は式(C)に示すジウレアである。
【0051】
【化4】
(式中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R2の各フェニル基に結合する各N原子はジフェニルメタン基のメチレン基とパラ位に位置する。R1およびR3は互いに同じまたは異なる官能基であり、シクロヘキシル基、およびオクタデシル基を示し、シクロヘキシル基とオクタデシル基の総モル数に対するシクロヘキシル基のモル数の割合[{(シクロヘキシル基の数)/(シクロヘキシル基の数+オクタデシル基の数)}×100]は87.5モル%である。)
【0052】
<実施例2>
40℃の動粘度が30mm2/sのポリ-α-オレフィン(PAO)と40℃の動粘度が63mm2/sのポリ-α-オレフィン(PAO)、40度の動粘度が30mm2/sのペンタエリスリトールエステルをそれぞれ25:65:10の質量比で混合して第2の混合した油とした。第2の混合した油の40℃における動粘度は50mm2/sである。第2の混合した油の-30℃における動粘度は4820mm2/sである。前記第2の混合した油の一部に、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第3の混合物とした。一方、前記混合した油の一部にシクロヘキシルアミンおよびステアリルアミンを87.5:12.5のモル比で配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第4の混合物とした。次に、第3の混合物の温度と第4の混合物の温度とをそれぞれ維持しつつ第4の混合物を第3の混合物に加えて攪拌し、昇温させ、最初に撹拌を続けながら100~110℃で30分間維持して反応させ、次いで撹拌を続けながら160~170℃まで昇温したのち冷却し、第2の生成物を得た。冷却後、第2の生成物に最終的にグリース組成物の2.0質量%となるよう過塩基性カルシウムスルホネートを、グリース組成物の1.0質量%となるようアミンホスフェートを、また第2の混合した油の一部にポリエチレンワックスを添加して120~130℃まで撹拌しながら加熱、溶解し、そのまま撹拌を続けながら室温まで冷却して半固体状となったワックス溶解物を、最終的にポリエチレンワックスがグリース組成物の1.0質量%となるようポリエチレンワックスを、さらに、ちょう度を調整するために第2の混合した油の一部を、添加し、3本ロールミルで混練し、実施例2のグリース組成物を得た。実施例2のグリース組成物の増ちょう剤は式(D)に示すジウレアである。
【0053】
【化5】
(式中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R2の各フェニル基に結合する各N原子はジフェニルメタン基のメチレン基とパラ位に位置する。R1およびR3は互いに同じまたは異なる官能基であり、シクロヘキシル基、およびオクタデシル基を示し、シクロヘキシル基とオクタデシル基の総モル数に対するシクロヘキシル基のモル数の割合[{(シクロヘキシル基の数)/(シクロヘキシル基の数+オクタデシル基の数)}×100]は87.5モル%である。)
【0054】
<実施例3>
40℃の動粘度が30mm2/sのポリ-α-オレフィン(PAO)と40℃の動粘度が30mm2/sのペンタエリスリトールエステルを90:10の質量比で混合して第3の混合した油とした。第3の混合した油の40℃における動粘度は30mm2/sである。第3の混合した油の-30℃における動粘度は2450mm2/sである。前記第3の混合した油の一部に、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第5の混合物とした。一方、前記第3の混合した油の一部にシクロヘキシルアミンおよびステアリルアミンを87.5:12.5のモル比で配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第6の混合物とした。次に、第5の混合物の温度と第6の混合物の温度とをそれぞれ維持しつつ第6の混合物を第5の混合物に加えて攪拌し、昇温させ、最初に撹拌を続けながら100~110℃で30分間維持して反応させ、次いで撹拌を続けながら160~170℃まで昇温したのち冷却し、第3の生成物を得た。冷却後、第3の生成物に最終的にグリース組成物の2.0質量%となるよう過塩基性カルシウムスルホネートを、グリース組成物の1.0質量%となるようホスファイトを、また第3の混合した油の一部にポリエチレンワックスを添加して120~130℃まで撹拌しながら加熱、溶解し、そのまま撹拌を続けながら室温まで冷却して半固体状となったワックス溶解物を、最終的にポリエチレンワックスがグリース組成物の1.0質量%となるようポリエチレンワックスを、さらに、ちょう度を調整するための第3の混合した油の一部を、添加し、3本ロールミルで混練し、実施例3のグリース組成物を得た。実施例3のグリース組成物の増ちょう剤は式(E)に示す増ちょう剤である。
【0055】
【化6】
(式中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R2の各フェニル基に結合する各N原子はジフェニルメタン基のメチレン基とパラ位に位置する。R1およびR3は互いに同じまたは異なる官能基であり、シクロヘキシル基、およびオクタデシル基を示し、シクロヘキシル基とオクタデシル基の総モル数に対するシクロヘキシル基のモル数の割合[{(シクロヘキシル基の数)/(シクロヘキシル基の数+オクタデシル基の数)}×100]は87.5モル%である。)
【0056】
<比較例1>
40℃の動粘度が70mm2/sの鉱油に、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第7の混合物とした。前記鉱油は-30℃において固化する。一方、前記鉱油にp-トルイジンを配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第8の混合物とした。次に、第7の混合物の温度と第8の混合物の温度とをそれぞれを維持しつつ第8の混合物を第7の混合物に加えて攪拌し、昇温させ、最初に撹拌を続けながら100~110℃で30分間反応させ、次いで撹拌を続けながら160~170℃まで昇温したのち冷却し、第4の生成物を得た。冷却後、第4の生成物に最終的にグリース組成物の1.0質量%となるようZnDTC(亜鉛ジチオカーバメート)を、また、ちょう度を調整するための鉱油を添加し、3本ロールミルで混練し、比較例1のグリース組成物を得た。比較例1のグリース組成物の増ちょう剤は式(F)に示すジウレアである。
【0057】
【化7】
(式中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R2の各フェニル基に結合する各N原子はジフェニルメタン基のメチレン基とパラ位に位置する。R1は4-メチルベンゼン基を示す。
【0058】
<比較例2>
40℃の動粘度が30mm2/sであって-30℃の動粘度が4510mm2/sであるペンタエリスリトールエステルに、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第9の混合物とした。一方、前記ペンタエリスリトールエステルにシクロヘキシルアミンおよびステアリルアミンを87.5:12.5のモル比で配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第10の混合物とした。次に、第9の混合物の温度と第10の混合物の温度とをそれぞれを維持しつつ第10の混合物を第9の混合物に加えて攪拌し、昇温させ、最初に撹拌を続けながら100~110℃で30分間維持して反応させ、次いで撹拌を続けながら160~170℃まで昇温したのち冷却し、第5の生成物を得た。冷却後、第5の生成物に最終的にグリース組成物の2.0質量%となるよう過塩基性カルシウムスルホネートを、グリース組成物の1.0質量%となるようアミンホスフェートを、グリース組成物の1.0質量%となるようステアリン酸Liを、また、ちょう度を調整するためのペンタエリスリトールエステルを添加し、3本ロールミルで混練し、比較例2のグリース組成物を得た。比較例2のグリース組成物の増ちょう剤は式(G)に示すジウレアである。
【0059】
【化8】
(式中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R2の各フェニル基に結合する各N原子はジフェニルメタン基のメチレン基とパラ位に位置する。R1およびR3は互いに同じまたは異なる官能基であり、シクロヘキシル基、およびオクタデシル基を示し、シクロヘキシル基とオクタデシル基の総モル数に対するシクロヘキシル基のモル数の割合[{(シクロヘキシル基の数)/(シクロヘキシル基の数+オクタデシル基の数)}×100]は87.5モル%である。)
【0060】
<比較例3>
40℃の動粘度が30mm2/sであって-30℃の動粘度が2320mm2/sであるポリ-α-オレフィン(PAO)に、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第11の混合物とした。一方、前記40℃の動粘度が30mm2/sのPAOにシクロヘキシルアミンおよびステアリルアミンを87.5:12.5のモル比で配合し、撹拌しながら70~80℃まで加熱、溶解し、第12の混合物とした。次に、第11の混合物の温度と第12の混合物の温度とをそれぞれ維持しつつ第12の混合物を第11の混合物に加えて攪拌し、昇温させ、最初に撹拌を続けながら100~110℃で30分間維持して反応させ、次いで撹拌を続けながら160~170℃まで昇温したのち冷却し、第6の生成物を得た。冷却後、第6の生成物に最終的にグリース組成物の2.0質量%となるよう過塩基性カルシウムスルホネートを、また、ちょう度を調整するための前記40℃の動粘度が30mm2/sのPAOを添加し、3本ロールミルで混練し、比較例3のグリース組成物を得た。比較例3のグリース組成物の増ちょう剤は式(H)に示すジウレアである。
【0061】
【化9】
(式中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R2の各フェニル基に結合する各N原子はジフェニルメタン基のメチレン基とパラ位に位置する。R1およびR3は互いに同じまたは異なる官能基であり、シクロヘキシル基、およびオクタデシル基を示し、シクロヘキシル基とオクタデシル基の総モル数に対するシクロヘキシル基のモル数の割合[{(シクロヘキシル基の数)/(シクロヘキシル基の数+オクタデシル基の数)}×100]は87.5モル%である。)
【0062】
<評価>
(1)軸受トルクの測定
各実施例および各比較例で得られたグリース組成物2gを転がり軸受(6204)に封入し、回転速度4000rpm、無負荷、室温の条件下で回転させ、回転0.5h後のトルク値を測定した。評価結果は、比較例1のトルク値を基準値(=1)とし、その基準値に対する相対値で示している。
(2)摩擦係数の測定
各実施例および各比較例で得られたグリース組成物を往復動すべり摩擦試験機にて、面圧1.7GPa、振幅1.5mm、周波数50Hz、雰囲気温度40℃の条件下で摩擦係数を測定した。測定時間は10分間とし、最後の1分間の摩擦係数の平均値を測定値とした。
(3)焼付試験
各実施例および各比較例で得られたグリース組成物1.8gを転がり軸受(6204)に封入し、回転速度10000rpm、アキシャル荷重(Fa)=67N、ラジアル荷重(Fr)=67N、および軸受温度=150℃の条件下で回転させ、焼付きに至るまでの時間を測定した。評価結果は、比較例1の焼付きまでの時間を基準値(=1)とし、その基準値に対する相対値で示している。なお、実施例1~3および比較例3については、表1に記載の時間(相対値)が経過しても焼付きが起きなかったので、装置を停止した。
(4)剥離寿命試験1
各実施例および各比較例で得られたグリース組成物20gを転がり四球試験にて、JIS SUJ2 で形成された上球にΦ15.88、JIS SUJ2 で形成された下球にΦ15を用い、球間の接触面圧を6.5GPaとし、加熱をせず室温の条件下で回転させ、剥離に至るまでの時間を測定した。評価結果は、比較例1の剥離までの時間を基準値(=1)とし、その基準値に対する相対値で示している。
(5)剥離寿命試験2
また、別の剥離寿命試験として、各実施例および各比較例で得られたグリース組成物14gを転がり軸受(DAC4378)に封入し、回転速度300rpm、アキシャル荷重(Fa)=8kN、ラジアル荷重(Fr)=8kN、室温の条件下で回転させ、剥離に至るまでの時間を測定した。評価結果は、比較例1の焼付きまでの時間を基準値(=1)とし、その基準値に対する相対値で示している。
(6)低温フレッチング試験
各実施例および各比較例で得られたグリース組成物14gを転がり軸受(DAC4378)に封入し、その軸受を、図4に示すフレッチング試験機にセットした。そして、振動数=4Hz、アキシャル荷重(Fa)=±1.4kN、ラジアル荷重(Fr)=5.5±4.4kN、および軸受温度=-40℃の条件下でアキシャル荷重とラジアル荷重を上記の荷重の振幅で振るのを1サイクルとして1,000,000サイクル揺動させ、軸受の軌道面に生じたフレッチング摩耗の深さを測定した。評価結果は、軌道面に生じた最大の摩耗深さの比を示している。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、実施例1~3のグリース組成物が封入された軸受では、40℃における動粘度が30mm2/sおよび40℃における動粘度が50mm2/sという比較的低い動粘度を有する基油を用いているにも関わらず、焼付寿命比、剥離寿命比および低温フレッチングのいずれの評価項目においても良好な結果が得られた。これにより、本発明のグリース組成物が、軸受の摺動部の摩擦抵抗の低減と、耐焼付き性および長期に亘る潤滑寿命の維持とを両立できると共に、低温環境下におけるフレッチングの発生を低減できることが認められた。
【符号の説明】
【0065】
1…ハブユニット、G…グリース
図1
図2
図3
図4