(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ニトリルの合成方法
(51)【国際特許分類】
C07C 253/24 20060101AFI20220401BHJP
C07C 255/03 20060101ALI20220401BHJP
C07C 255/08 20060101ALI20220401BHJP
C07B 43/08 20060101ALI20220401BHJP
C01C 3/02 20060101ALI20220401BHJP
B01J 23/75 20060101ALI20220401BHJP
B01J 23/14 20060101ALI20220401BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220401BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220401BHJP
【FI】
C07C253/24
C07C255/03
C07C255/08
C07B43/08
C01C3/02 A
B01J23/75 Z
B01J23/14 Z
B01J35/02 G
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018555931
(86)(22)【出願日】2017-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2017059598
(87)【国際公開番号】W WO2017186615
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-04-21
(32)【優先日】2016-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】ハルドール・トプサー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ホイルント・ニールセン・ポール・エリック
(72)【発明者】
【氏名】テメル・マッケンナ・ブルチン
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン・ヨン・バギルド
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン・ラスムス・ムンクスゴー
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0141345(US,A1)
【文献】特表2005-519832(JP,A)
【文献】国際公開第95/021126(WO,A1)
【文献】米国特許第05958273(US,A)
【文献】米国特許第06315972(US,B1)
【文献】特表2002-510248(JP,A)
【文献】特表2019-514825(JP,A)
【文献】デンマーク国特許出願公開第201500118号明細書,2015年03月16日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 43/08
C07B 61/00
C07C253/00-255/67
C01C 3/02
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属コイルに交流電流を通すことによって得られる加熱を用いて、アンモニアと炭化水素との触媒反応によるニトリルの合成方法であって、アンモニアと炭化水素との間の吸熱反応が、反応ゾーンにおいて直接誘導加熱による反応器内で行われ、
誘導加熱が、触媒相が含浸された多孔質酸化物表面でコーティングされている強磁性金属構造体である誘導加熱器を用いて行われ、そして、該加熱が、磁気ヒステリシス損失によって発生し、
前記ニトリルが、シアン化水素、アセトニトリル、アクリロニトリル、プロピオニトリルおよびメタクリロニトリルからなる群から選択される、
上記の方法。
【請求項2】
前記コイルが、カンタル型(Fe-Cr-Al合金)ワイヤからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属構造体が、Fe-CrおよびAl-Ni-Co合金から選択される金属である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒相が、CoまたはSnをベースとする触媒を含有している、請求項1~3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記炭化水素が、メタン、エタン、プロパン、イソブタンおよびオレフィンである、請求項1~4のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルの合成方法に関する。より詳細には、本発明は、誘導加熱を用いたニトリルの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン化水素、アセトニトリル、アクリロニトリルおよび他のニトリル、例えば、プロピオニトリルおよびメタクリロニトリルのような、ニトリルの非酸化的合成は、700~1000℃で行われる高温プロセスである。これらのニトリルの合成に必要な高熱は、電気的または誘導的に提供することができ、それに伴う利点とは、典型的な加熱方法を使用する場合と比較して、反応供給物質に熱がより速く提供されるという点である。
【0003】
固体触媒の存在下で気相化学反応を誘導的に開始させる(igniting)方法は、国際公開第99/01212号パンフレット(特許文献1)に開示されている。具体的には、この文献は、アンモニアを、酸素およびシアン化水素(HCN)を生成するために白金金属ワイヤ、織布またはガーゼの複数の層から構成することができる白金族金属触媒の存在下で炭化水素と反応する連続気相反応を記載している。反応器内の誘導コイルを使用して、金属触媒を誘導加熱し、発熱反応を点火する。
【0004】
国際公開第03/078054号パンフレット(特許文献2)には、反応器内での直接誘導加熱によってアンモニアをメタンと反応させることによりHCNを製造する方法が記載されている。触媒/サセプタは、様々な可能な構造を有する白金族金属またはPt/RhまたはPt/Ir合金であり、そして、触媒/サセプタを取り囲む誘導コイルによって反応を直接加熱することができる。
【0005】
米国特許第6.315.972号明細書(特許文献3)には、直接誘導加熱によるHCNの製造方法が記載されている。触媒は、例えば、発泡体として、触媒、例えば、白金族金属またはPt/RhまたはPt/Ir合金を含むペレット、リングまたはロッドなどの複数のサセプタ実在物(entities)を含む。
【0006】
高温での気相化学反応の間に触媒を加熱する誘導加熱を使用する概念は、当技術分野で一般的に知られている。したがって、米国特許第5.110.996号明細書(特許文献4)には、非金属充填材料および任意に金属触媒を含有する誘導加熱される反応管中で、ジクロロフルオロメタンをメタンと反応させることによってフッ化ビニリデンを製造する方法が開示されている。
【0007】
同様に、国際公開第95/21126号パンフレット(特許文献5)は、誘導加熱式石英反応管内でアンモニアと炭化水素ガスとを反応させることによりHCNを製造することを開示している。反応管内の白金族金属触媒は、石英管の外部にらせん状に巻き付けられた誘導コイルの存在によって加熱され、該コイルは、パルス電力をも供給する誘導電源によって付勢される。使用される特定の吸熱反応については、600~1200℃の反応温度を維持するために、0.5~30MHzの周波数範囲が示唆されている。反応器の管の外部の周りに巻き付けられた誘導コイルは、それ自体が金属管であり、冷却水がそこを通って循環する。
【0008】
一般に、誘導加熱は、導電性の対象物(通常金属である)を磁気誘導によって、過電流(フーコー電流とも呼ばれ、誘導のファラデーの法則のために、導体内の変化する磁場によって導体内に誘起される電流のループである)および/または、ヒステリシス損失によってその対象物内で発生した熱によって加熱するプロセスである。渦電流は、磁場に垂直な平面内の導体内の閉ループ内を流れる。
【0009】
誘導加熱器は、電磁石、およびこの電磁石に高周波の交流電流(AC)を通す電子発振器からなる。急速に交番する磁場が対象物を貫通し、それにより渦電流と呼ばれる導体内部の電流が生成される。材料の抵抗を流れる渦電流は、ジュール加熱によってそれを加熱することになる。渦電流加熱はまた、オーム加熱と呼ばれる。鉄のような強磁性(および強磁性および反強磁性)材料では、磁気ヒステリシス損失によって代替的または付加的に熱を発生させることができる。これは強磁性加熱と呼ばれる。使用される電流の周波数は、対象物のサイズ、材料の種類、(誘導コイルと被加熱物との間の)カップリングおよび浸透深さに依存する。複数のループまたは巻線の形態に曲げられた導体を含む誘導コイルは、電磁石の一例である。
【0010】
強磁性材料の加熱は、非強磁性材料の加熱よりも比較的迅速かつ安価である。強磁性材料は、加熱の固有のまたは固有の最大温度、すなわちキュリー温度を有する。したがって、強磁性である触媒材料の使用は、吸熱化学反応が特定の温度、すなわちキュリー温度を超えて加熱されないことを確実にする。したがって、強磁性である触媒材料の使用は、吸熱化学反応が特定の温度、すなわち、キュリー温度を超えて加熱されないことを保証する。それゆえ、化学反応が制御不能にならないことが保証される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第99/01212号パンフレット
【文献】国際公開第03/078054号パンフレット
【文献】米国特許第6.315.972号明細書
【文献】米国特許第5.110.996号明細書
【文献】国際公開第95/21126号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
誘導加熱は、一般に、しばしば高周波の交流電流を用いて、該電流をコイルに通して行われる。加熱される対象物はコイルの内側に置かれる。しかしながら、この手順は、コイルによって生成された磁場がコイルの外側でも継続するため、エネルギー効率がそれほど高くない。この欠点は、コイルをトーラスとして形成することによって回避できるが、コイル内の抵抗、すなわち、オーム加熱による損失が依然として存在し、これは通常プロセスの損失となる。
【0013】
今や、はるかにエネルギー効率の良いアプローチを確立することが可能であることが判明した。このアプローチでは、コイルは反応器内に取り付けられ、触媒はコイルの内側に配置されることになる。このようにして、オーム熱がプロセスのために失われることはないが、圧力シェルが、低ヒステリシスの鉄をベースとしているか、または、このような鉄のタイプの圧力シェルが内側にコーティングされている場合には、コイルによって生成された磁場は反応器を出て浸透することができないこととなる。非常に高い温度では、反応器を壁で覆い、かつ、誘導磁気に置き換えるために、特定の材料が永久磁気特性を失う温度であるキュリー温度以下に温度を保つことによって、反応器を冷却して保護でき得る。典型的には、コイルは、還元性ガスに抵抗するカンタル型(Fe-Cr-Al合金)ワイヤで作ることができる。コイルはまた、銅線、コンスタンタン線、および鉄-クロム-アルミニウム(FeCrAl)合金、銅の合金、マンガンの合金およびニッケルの合金およびこれらの組み合わせからなるワイヤから製造することもできる。好ましくは、コイルは、カンタル型ワイヤからなる。
【0014】
コイルは、触媒に直接電気的に接触するように配置することができる。この場合、触媒の付加的なオーム加熱が起こる。さらに、コイルを電気的に絶縁する必要はない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
それゆえ、本発明は、交流電流を金属コイルに通すことによって得られる加熱を用いて、アンモニアと炭化水素との触媒反応によるニトリルの合成方法に関し、該方法では、アンモニアと炭化水素との間の吸熱反応が、反応ゾーンにおける直接誘導加熱によって行われる。
【0016】
誘導加熱は、150W/s超の加熱速度を与える70W/g超の熱出力での加熱を可能にする。したがって、誘導加熱は、極めて迅速かつ効果的な加熱の方法を提供する。これは、変化する磁場にさらされるFe-CrおよびAl-Ni-Co合金の温度が時間の関数としてどのように発現するかを示す
図1および
図2に示されている。
【0017】
強磁性構造体と適切なコーティングとの可能な組み合わせの中で、最良の場合は、構造体がFe-CrまたはAl-Ni-Co合金の金属からなるものであることが判明した。
【0018】
Fe-Cr合金は、特定の材料がそれらの永久磁気特性を失う温度である約560℃のキュリー温度を有する。コーティングは、酸化物ベースであり、かつ、Al、Zr、Ceなどの組み合わせからなる酸化物であることができる。コーティングされた金属構造体は、実際的な触媒相を含浸させることができる多孔質酸化物表面を有する。したがって、これは、CoおよびSnをベースとする触媒のような、ニトリル合成のための任意の従来の触媒に適合させることができる。
【0019】
このようにして十分な活性を得ることは困難であり得る。したがって、別の可能性は、従来の触媒を磁性材料で希釈することである。
【0020】
加熱は反応器の内部から供給されるため、触媒は反応器の最も熱い部分となり、大型で高価な加熱装置は、もはや反応に不要である。極めて速い加熱により、反応は実際上瞬間的なものとなる。
【0021】
本発明の範囲内のアンモニアと炭化水素との間の代表的な反応には以下のものが含まれる:
CH4 + NH3 <-> HCN(シアン化水素) + 3H2
C2H6 + NH3 <-> CH3CN(アセトニトリル) + 3H2
C3H8 + NH3 <-> C2H3CN(アクリロニトリル) + 4H2
C3H8 + NH3 <-> C2H5CN(プロピオニトリル) + 3H2
イソ-C4H10 + NH3 <-> イソ-C3H5CN(メタクリロニトリル) + 4H2
【0022】
反応が非常に吸熱的であるため、平衡限界を乗り越えるためには600~900℃の温度が必要である。
【0023】
これらのニトリルの合成に必要な高熱は、電気加熱または誘導加熱として提供することができる。これらの反応のために、熱的な炭素の堆積を最小限に抑えることができるように熱を迅速に供給することが極めて重要である。熱の損失を招く外部から加熱された反応器壁媒体を用いることによって得られる場合とは異なり、誘導加熱はまた、触媒粒子へのより効率的な熱伝達を提供する。
【0024】
異なる加熱ゾーンは、反応器の設計における最小限の熱伝達損失により、効果的に再度使用することができる。反応が高度に吸熱性であるため、反応器全体にわたる変換プロフィールは、反応器の様々な部分で等温条件を調節することによって反応器を改善することができる。
【0025】
これらの反応のための加熱を提供するために、強磁性材料として使用することもできるバイメタル触媒を使用することが可能である。バイメタル触媒が強磁性でない場合であっても、誘導加熱で使用される強磁性材料と混合するか、または強磁性材料で包囲することができる。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.金属コイルに交流電流を通すことによって得られる加熱を用いて、アンモニアと炭化水素との触媒反応によるニトリルの合成方法であって、アンモニアと炭化水素との間の吸熱反応が、反応ゾーンにおいて直接誘導加熱による反応器内で行われる、上記の方法。
2.前記コイルが、合成の反応器内に取り付けられており、かつ、触媒はコイルの内側に配置されている、上記1に記載の方法。
3.前記コイルが、カンタル型(Fe-Cr-Al合金)ワイヤからなる、上記1または2に記載の方法。
4.誘導加熱が、適切なコーティングを備えた強磁性金属構造体である誘導加熱器を用いて行われ、そして、該加熱が、磁気ヒステリシス損失によって発生する、上記1または2に記載の方法。
5.前記誘導加熱器が、高い電気的保磁力を有する強磁性触媒からなる、上記4に記載の方法。
6.前記触媒が、磁性材料で希釈されている、上記5に記載の方法。
7.前記金属構造体が、Fe-CrおよびAl-Ni-Co合金から選択される金属である、上記1~4のいずれか一つに記載の方法。
8.前記金属構造体が、触媒相が含浸された多孔質酸化物表面で被覆されている、上記7に記載の方法。
9.前記触媒相が、CoまたはSnをベースとする触媒を含有している、上記8に記載の方法。
10.前記炭化水素が、メタン、エタン、プロパン、イソブタンおよびオレフィンである、上記1~9のいずれか一つに記載の方法。
【0026】
本発明を、以下の実施例においてさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明により、変化する磁場にさらされるFe-CrおよびAl-Ni-Co合金の温度が時間の関数としてどのように発現するかを示す。
【
図2】
図2は、本発明により、変化する磁場にさらされるFe-CrおよびAl-Ni-Co合金の温度が時間の関数としてどのように発現するかを示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0028】
ニトリル合成は、低圧で行われる。アルカンまたはオレフィン系炭化水素とアンモニアとの混合物が、場合によっては窒素またはメタンのようなキャリアガスと共に使用される。ガス混合物は、熱交換により450~550℃に加熱され、次いで誘導加熱された反応ゾーンに入る。
【0029】
誘導加熱器は、可能であれば、高い電気的保磁力(強磁性材料が脱分極することなく外部電界に耐える能力)を有する強磁性触媒からなる。あるいは、触媒を、高い保磁力を有する強磁性材料と混合することができる。この物質は、反応混合物中のガスに対して不活性でなければならない。
【0030】
反応は600~800℃の反応器温度で行われ、そして反応器を出た後、流出ガスは供給/流出熱交換器中で200℃未満の温度に冷却される。所望の生成物は分離される一方で、未変換の炭化水素はメイクアップガスに混合される。