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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】核酸を細胞に導入するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/87 20060101AFI20220401BHJP
   C12N 15/67 20060101ALI20220401BHJP
   C12N 13/00 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12N15/67 Z
C12N13/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018558203
(86)(22)【出願日】2017-05-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2017060345
(87)【国際公開番号】W WO2017191096
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-04-27
(31)【優先権主張番号】16168589.6
(32)【優先日】2016-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520493902
【氏名又は名称】ミルテニイ ビオテック ベー.ファー. ウント コー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】ジューク,マリオン
(72)【発明者】
【氏名】ワイルド,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ボシオ,アンドレアス
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/003475(WO,A1)
【文献】EMBO J.,1999年02月15日,Vol.18, No.4,pp.904-915
【文献】J. Cell. Biochem.,2013年09月,Vol.114, No.9,pp.2032-2038
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの目的とする核酸を細胞に導入する有効性を増強するためのSOCS1をコードする核酸の使用であって、前記SOCS1をコードする核酸がmRNAであり、その3’末端に少なくとも1400のアデニンを含むポリ(A)テールを有する、インビトロにおける使用。
【請求項2】
前記SOCS1をコードする核酸が、3’末端に少なくとも2000のアデニンを含むポリ(A)テールを有する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
少なくとも1つの目的とする核酸による細胞のインビトロにおける反復トランスフェクション方法であって、
a)SOCS1をコードする核酸と;同時にまたは続いて
b)少なくとも1つの目的とするポリペプチドをコードする少なくとも1つの目的とする核酸と;
を前記細胞に添加するステップを含み、少なくともステップb)は少なくとも1回反復され、前記SOCS1をコードする核酸がmRNAであり、その3’末端に少なくとも1400のアデニンを含むポリ(A)テールを有する、方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの目的とする核酸が、DNAプラスミドまたはその3’末端に少なくとも1400のアデニンを含むポリ(A)テールを有するmRNAである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記mRNAのそれぞれが、3’末端に少なくとも2000のアデニンを含むポリ(A)テールを有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくともステップb)が、少なくとも3回反復される、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記mRNAのそれぞれにおいて、核酸塩基ウラシルおよび/またはシトシンのうちの0%から50%が、修飾核酸塩基である、請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記mRNAのそれぞれが、無修飾mRNAである、請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくともステップb)の1回の反復期間が、4時間から48時間の間である、請求項3から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が、初代細胞である、請求項3から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、体細胞である、請求項3から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの目的とする核酸が、リプログラミング因子をコードする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの目的とする核酸が、体細胞の異なる細胞種への分化転換のために使用される分化因子をコードする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの目的とする核酸による細胞のインビトロにおけるエレクトロポレーション方法であって、
a)SOCS1をコードする核酸と、同時にまたは続いて
b)前記少なくとも1つの目的とする核酸と
を前記細胞に添加するステップを含み、
前記SOCS1をコードする核酸がmRNAであり、その3’末端に少なくとも1400のアデニンを含むポリ(A)テールを有する、方法。
【請求項15】
前記mRNAが、3’末端に少なくとも2000のアデニンを含むポリ(A)テールを有する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
核酸、例えば、DNAまたはRNAのトランスフェクションは、細胞においていわゆる自然免疫を誘発する。細胞質タンパクは、非自己核酸を認識し、シグナル伝達経路を活性化して、とりわけサイトカインの産生をもたらす結果となり、細胞のアポトーシスにつながる場合もある。誘発されるシグナル伝達経路の1つは、インターフェロン(IFN)シグナル伝達経路である。細胞が1回トランスフェクションされる場合には、そのような影響は細胞の生存に重大ではない。しかし、細胞を数日内に反復してトランスフェクションする必要がある場合には、細胞死の激しい増加が観察される。通常、これは、トランスフェクション細胞の細胞死につながる。
【0002】
ワクシニアウイルス可溶性アルファ/ベータインターフェロンレセプター(B18R)は、細胞表面に結合し、IFNの抗ウイルス効果から細胞を保護する(Alcamiら、2000年、Journal of Virology、74:11230~11239ページ)。細胞の反復トランスフェクション後にB18Rタンパクを細胞培地に添加すると、細胞死が大きく低減され、トランスフェクションされた遺伝子の発現が増加する。B18Rタンパクは、例えば、リプログラミング因子のmRNAによる、分化した初代細胞の人工多能性幹細胞(iPSC)へのリプログラミングのために毎日実施される細胞のトランスフェクション後に細胞培地に添加される(Warrenら、2012年、SCIENTIFIC REPORTS 2:657、DOI:10.1038/srep00657)。B18Rは、タンパク質として培地に添加されるため、手間を要し、製造が高価であるという欠点を有する。精製したタンパク質は、依然としてエンドトキシンなどの望ましくない成分が混入していることが多く、これは、タンパク質から分離できないか、または非常に多くの労力を用いなければ分離できない。さらに、タンパク質は入れた容器の壁に貼りつく疎水領域を有する場合が多いため、細胞培養培地などの別の環境に添加するために調製されたタンパク質は、新しい環境における実際の濃度を推定する際に問題を生じることが多い。
【0003】
Poleganovら(Hum Gene Ther 2015年、26(11)、751~66ページ)は、自然免疫の活性化の望ましくない影響から細胞を救出するためのさまざまなウイルスmRNA(ワクシニアウイルス由来のB18R、E3およびK3のmRNA)の組合せを報告している。リプログラミングに関連したマイクロRNA(miRNA)と組み合わされると、結果として、これは、フィーダーフリーiPS細胞形成法になる。この方法の欠点は、リプログラミングを促進するために必要なやや複雑なmRNA/miRNAカクテルである。
【0004】
HongおよびCarmichael(2013年、THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY、288:16196~16205ページ)には、減弱されたI型IFNに対する細胞の応答がヒト多能性幹細胞の一般的な特徴である可能性もあることおよびこれがサイトカインシグナル抑制因子1(SOCS1)の高い発現と関連することが示されている。
【0005】
細胞内の大半のmRNAが50から150ヌクレオチドのポリ(A)の長さを有することが記述されてきた(Jalkanen,ALら、Semin Cell Dev Biol.2014年;34:24~32ページ。)。
【0006】
したがって、インビトロで生成されるmRNAに関して、細胞で見られる長さと類似したポリAテールが使用されるべきであることが一般的な想定である。非常に短いポリAテールはより速い分解と関連する一方、15から98アデノシンの範囲のポリAの長さを有するmRNAの翻訳効率は高まることが示されている(Preiss,Tら、RNA.1998年;4(11):1321~31ページ)。一般に、インビトロで転写されるmRNAのためのポリAテールの長さは20から200ヌクレオチドの範囲である。Poleganovらによる上記の刊行物では、すべてのmRNAが厳密に120AのポリAテールを含んでいた。
【0007】
インビトロにおいてRNAをポリアデニル化するための最も一般的な酵素であるE.coliのポリ(A)ポリメラーゼは、20~150ヌクレオチドだけのポリAテールをもたらすことが記述されている。Hfqタンパクと組み合わされた場合には、最大900ヌクレオチドのポリAテールをもたらすことが記述されている(Hajnsdorf Eら、Proc Natl Acad Sci U S A.2000年、15;97(4):1501~5ページ。)。少数のポリ(A)ポリメラーゼ、例えば、酵母ポリ(A)ポリメラーゼは、より長いポリ(A)テールを形成することができる。
【0008】
当該技術分野において、核酸を細胞に導入することによって生じ得る、いわゆる細胞の自然免疫の望ましくない影響を低減する、目的とする核酸分子を細胞に導入するための改善されたまたは代替的な方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
驚くべきことに、SOCS1 mRNAなどのSOCS1をコードする核酸が使用でき、(例えば、トランスフェクションまたはエレクトロポレーションによって)SOCS1 mRNAなどの前記SOCS1をコードする核酸と共導入される、目的とするポリペプチドをコードする目的とする核酸の(例えば、細胞培養培地中の)細胞における発現に有益な影響を有することがわかった。SOCS1 mRNAなどのSOCS1をコードする核酸が、共導入された目的とする核酸の発現に有益な影響を達成するため、反復トランスフェクションプロセスならびにエレクトロポレーションプロセスに使用できることは全く予想外であった。前記SOCS1をコードする核酸の細胞への導入は、いわゆる細胞の自然免疫の影響を低減し、それにより、SOCS1をコードする核酸が共導入されていない細胞と比較して、細胞生存を改善し、および/または細胞における共導入された目的とする核酸の発現を向上させる。SOCS1 mRNAなどの前記SOCS1をコードする核酸の細胞への導入は、細胞のI型IFN応答を弱めるために、細胞生存を促進することによって細胞の自然免疫の影響を低減する。通常、とりわけ核酸の反復トランスフェクションは、細胞において自然免疫を誘発し、それが、その後、細胞のアポトーシスにつながる場合もある。
【0010】
したがって、例えば、細胞の反復トランスフェクションのために細胞培養培地に使用されるSOCS1 mRNAなどのSOCS1をコードする単独の核酸が、この運命から逸脱し、トランスフェクション細胞において発現するようになるコトランスフェクションされた他の核酸を補助することができることは完全に予想外であった。また、トランスフェクション細胞におけるSOCS1の発現は、通常、アポトーシスにつながる場合もあるI型IFNに対する細胞の応答を弱め、それにより細胞の自然免疫の影響を低減する。分化した初代細胞の人工多能性幹細胞へのリプログラミングのために毎日実施される細胞のトランスフェクション後に、(先行技術のゴールドスタンダードとして)B18Rタンパクが細胞培地に添加されるが、B18R mRNA単独などの他の核酸はこの有益な影響を示さなかった。今までの核酸のレベルに対して上で述べたとおり、さまざまなウイルスmRNAの組合せのみが自然免疫の活性化の望ましくない影響から細胞を救出することが示されてきた。驚くべきことに、本発明者らは、細胞に導入される1つの核酸、すなわちSOCS1をコードする核酸、好ましくはSOCS1 mRNAが自然免疫の活性化の影響を回避または低減するのに十分であることを明らかにした。
【0011】
反復トランスフェクションされた細胞における細胞の自然免疫の影響を低減するためのトランスフェクションプロセス内(例えば、細胞培養培地中)の薬剤としてのSOCS1 mRNAなどのSOCS1をコードする核酸は、B18Rなどのタンパク質の上記の欠点を有さない核酸であるという利益を有する。とりわけ、mRNAなどの核酸の生成およびその精製は、タンパク質と比較して容易である。反復トランスフェクションされた細胞における細胞の自然免疫の影響を低減するための(例えば、細胞培養培地中の)薬剤としてのSOCS1 mRNAなどのSOCS1をコードする核酸は、自然免疫の活性化の望ましくない影響から細胞を救出することが当該技術分野において示されてきたさまざまなウイルスmRNAの組合せ(「カクテル」)と比較した場合、1つの核酸だけであるという利益も有する。
【0012】
(例えば、トランスフェクションされる細胞を含む培地に前記核酸を添加することによって)同時にまたは続いて細胞に添加されるSOCS1をコードする核酸および目的とするポリペプチドをコードする少なくとも1つの目的とする核酸は、mRNAに転写された後、ポリペプチドに翻訳されるDNA分子であってもよく、そのため、それらは上記の効果を発揮することができる。あるいは、SOCS1をコードする核酸はSOCS1 mRNA分子であってもよく、目的とする核酸は、DNAまたはRNAのいずれかであってもよい。好ましくは、SOCS1をコードする核酸および目的とするポリペプチドをコードする目的とする核酸の両方がmRNA分子であってもよい。
【0013】
さらに驚くべきことに、mRNA(SOCS1 mRNAおよび目的とするポリペプチドをコードするmRNAの両方)のポリ(A)テールが長い程、トランスフェクション有効性および/または目的とする核酸によってコードされる目的とするポリペプチドの発現のレベルが高いことがわかった。これは、mRNAのポリ(A)テールが長い程、同じ細胞のより多くの反復トランスフェクションが可能であることを意味する。したがって、好ましくは、本方法において使用されるmRNAは、3’末端に少なくとも200のアデニン、より好ましくは少なくとも1500のアデニン、さらにより好ましくは少なくとも2000のアデニン、最も好ましくは少なくとも4000のアデニンを含むポリ(A)テールを有する。そのような長いポリ(A)テールは、例えば、酵母ポリ(A)ポリメラーゼによって形成され得る。
【0014】
SOCS1をコードする核酸が、例えば、SOCS1をコードする核酸および少なくとも1つの目的とする核酸の最初のコトランスフェクションによって実現されたトランスフェクション細胞に存在する(すなわち、それが、ポリペプチドに翻訳される)限り、前記細胞を前記少なくとも1つの目的とする核酸でトランスフェクションするためには同じ細胞の反復トランスフェクション(または何回かの反復トランスフェクション)で十分である。
【0015】
さらに予想外にも、本発明の方法において使用されるSOCS1をコードする核酸および目的とする核酸の無修飾またはわずかにだけ修飾されたmRNAが、前記核mRNAの修飾されたまたはさらに強く修飾されたバリアント(例えば、核酸塩基ウラシルおよび/またはシトシンの100%が修飾核酸塩基である)よりもさらにより良好であることがわかった。これは、通常、目的とする遺伝子のやや強く修飾されたmRNAがトランスフェクションに対してより安定したmRNA分子を実現するために使用されるので、無修飾mRNAによる自然免疫応答の活性化がさらに一層顕著であることは驚くべきことである(KarikoらImmunity 2005年、23(2)、165~175ページ)。
【0016】
さらに驚くべきことに、SOCS1をコードする核酸が、(例えば、細胞培養培地中における)少なくとも1つの目的とする核酸を用いた細胞のエレクトロポレーション方法にも使用でき、結果として細胞の生存を改善し、および/または結果として細胞において目的とする核酸分子を発現するさらに多くの細胞を生じることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】3日間の連日のトランスフェクション後のヒト線維芽細胞におけるGFP mRNA発現の強度のフローサイトメトリー測定のグラフである。
図2】mRNAトランスフェクションを使用したiPSCの形成に対するB18RおよびSOCS1 mRNAの効果の比較の写真である。
図3】ヒト新生児の包皮線維芽細胞のiPSCへのリプログラミングに対する修飾および無修飾mRNAの効果の写真である。
図4】線維芽細胞のiPSCへの成功したリプログラミングに対するポリAテールの長さの影響の表である。
図5】GFPタンパクの発現に対するポリAテールの長さの影響のグラフである。
図6】eGFPプラスミドDNAのT細胞へのエレクトロポレーション後の細胞生存力およびトランスフェクション率に対するSOCS1 mRNAの効果のグラフである(図6A、B、C)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一態様において、本発明は、少なくとも1つの目的とする核酸を細胞に導入する有効性を増強するためおよび/または少なくとも1つの目的とする核酸が導入された細胞の改善された生存のためのSOCS1をコードする核酸の使用を提供する。
【0019】
前記SOCS1をコードする核酸は、mRNAであってもよく、3’末端に少なくとも200のアデニン、少なくとも500のアデニン、少なくとも1000のアデニン、少なくとも1500のアデニン、少なくとも2000のアデニン、少なくとも2500のアデニン、少なくとも3000のアデニン、少なくとも3500のアデニン、少なくとも4000のアデニン、少なくとも4500のアデニン、少なくとも4500のアデニン、少なくとも5000のアデニン、少なくとも5500のアデニンまたは少なくとも6000のアデニンを含むポリ(A)テールを有してもよい。
【0020】
前記少なくとも1つの目的とする核酸は、DNAであってもよい。
【0021】
前記少なくとも1つの目的とする核酸は、mRNAであってもよく、3’末端に少なくとも200のアデニン、少なくとも500のアデニン、少なくとも1000のアデニン、少なくとも1500のアデニン、少なくとも2000のアデニン、少なくとも2500のアデニン、少なくとも3000のアデニン、少なくとも3500のアデニン、少なくとも4000のアデニン、少なくとも4500のアデニン、少なくとも4500のアデニン、少なくとも5000のアデニン、少なくとも5500のアデニンまたは少なくとも6000のアデニンを含むポリ(A)テールを有してもよい。
【0022】
少なくとも1つの目的とする核酸を細胞に導入する有効性を増強するための前記SOCS1をコードする核酸の使用は、以下の節にさらに詳細に開示されている。
【0023】
一態様において、本発明は、例えば、細胞培養培地中における少なくとも1つの目的とする核酸による細胞の反復トランスフェクション方法であって、
a)SOCS1をコードする核酸と;同時にまたは続いて
b)少なくとも1つの目的とするポリペプチドをコードする前記少なくとも1つの目的とする核酸と;
を細胞に添加するステップを含み、少なくともステップb)は少なくとも1回反復される、方法を提供する。
【0024】
ステップa)も、ステップb)が反復されるときに、毎回反復されてもよく、あるいはステップa)は、ステップb)が反復されるときに、少なくとも2回、3回、4回、5回、6回、7回または8回毎に反復されてもよい。
【0025】
本発明の一実施形態において、ステップb)が反復されるときに、ステップa)も毎回反復される場合、本発明は、例えば、細胞培養培地中における少なくとも1つの目的とする核酸による細胞の反復トランスフェクション方法であって、
a)SOCS1をコードする核酸と;同時にまたは続いて
b)少なくとも1つの目的とするポリペプチドをコードする前記少なくとも1つの目的とする核酸と;
を細胞に(または細胞が細胞培地中にある場合は培地に)添加するステップを含み、前記ステップは、前記細胞の培養中に少なくとも1回反復される、方法を提供する。
【0026】
前記少なくとも1つの目的とする核酸および前記SOCS1をコードする核酸はmRNAであってもよく、前記mRNAのそれぞれは、3’末端に少なくとも200のアデニン、少なくとも500のアデニン、少なくとも1000のアデニン、少なくとも1500のアデニン、少なくとも2000のアデニン、少なくとも2500のアデニン、少なくとも3000のアデニン、少なくとも3500のアデニン、少なくとも4000のアデニン、少なくとも4500のアデニン、少なくとも4500のアデニン、少なくとも5000のアデニン、少なくとも5500のアデニンまたは少なくとも6000のアデニンを含むポリ(A)テールを有してもよい。
【0027】
前記少なくともステップb)は、少なくとも3回、好ましくは5回反復されてもよく、前記ポリ(A)テールは少なくとも2000のアデニンを含む。
【0028】
前記少なくともステップb)は、少なくとも8回反復されてもよく、前記ポリ(A)テールは少なくとも4000のアデニンを含む。
【0029】
本方法において前記核酸の両方は、mRNAとして提供されてもよく、あるいは、SOCS1をコードする核酸がmRNAであってもよく、目的とするポリペプチドをコードする目的とする核酸がDNAであってもよくまたは逆もまた同様である。
【0030】
本方法で使用される前記mRNAのそれぞれにおいて、mRNAの核酸塩基ウラシルおよび/またはシトシンのうちの0%から50%、好ましくは0%から25%が修飾核酸塩基であってもよい。
【0031】
より好ましくは、本方法において使用される前記mRNAは、無修飾mRNAである。
【0032】
修飾mRNAは、トランスフェクションRNAの自然免疫を減少させることが述べられてきた。所与の用途に応じて、より高い修飾率では、トランスフェクションが反復されても細胞の生存が改善されることが想定される。しかしながら、修飾mRNAの翻訳が減少するため、反復されるトランスフェクションを、修飾ヌクレオチドを使用するのとは別の手段によって達成することができる場合、無修飾mRNAが好ましいことになる。
【0033】
ステップa)およびステップb)または少なくともステップb)を反復期間は、4時間から48時間の間、好ましくは6時間から36時間の間、より好ましくは6時間から24時間の間の1回の反復であってもよく、あるいは反復は毎日であってもよい。
【0034】
前記細胞は、初代細胞であってもよい。前記細胞は、分化細胞または体細胞であってもよい。前記細胞は、iPS細胞または幹細胞であってもよい。前記細胞は、細胞株由来であってもよい。
【0035】
前記少なくとも1つの目的とする核酸は、初代細胞または分化細胞をiPSCにリプログラミングすることができる少なくとも1つのリプログラミング因子をコードしてもよい。その場合、本方法は、初代細胞または分化細胞のiPS細胞へのリプログラミングのために使用される。
【0036】
前記少なくとも1つのリプログラミング因子は、Oct3/4、c-myc、Sox2、Lin28、Klf4、およびNanogから成る群から選択されてもよい。
【0037】
前記少なくとも1つの目的とする核酸は、体細胞を異なる細胞種に分化転換(trans-differentiate)することができる分化因子であってもよい。その場合、本方法は、体細胞の異なる細胞種への分化転換のために使用される。
【0038】
そのような分化因子に関する例は、MyoD、Gata4、Mef2c、Tbx5、Pdx1、Ngn3、MafA、Ascl1、Brn2、およびMyt1lである。
【0039】
さらに、前記少なくとも1つの目的とする核酸は、DNA、mRNA、shRNA、siRNA、miRNAから成る群から選択されてもよい。前記目的とする核酸は、DNA、例えば、目的とする遺伝子をコードするプラスミドであってもよい。前記目的とする核酸は、キメラ抗原レセプター(CAR)をコードする核酸配列であってもよい。
【0040】
前記細胞は、免疫細胞、例えば、T細胞であってもよい。
【0041】
前記方法は、閉鎖系で実施されてもよい。
【0042】
閉鎖系で実施される前記方法は、自動化された方法であってもよい。
【0043】
閉鎖系に関する例は、CliniMACS Prodigy(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH、ドイツ、WO2009/072003)である。
【0044】
さらなる態様において、本発明は、例えば、細胞培養培地中における少なくとも1つの目的とする核酸を用いた細胞のエレクトロポレーション方法であって、
a)SOCS1をコードする核酸と、同時にまたは続いて
b)前記少なくとも1つの目的とする核酸と
を細胞に(または培地に)添加するステップを含む、方法を提供する。
【0045】
前記SOCS1をコードする核酸は、SOCS1 mRNAまたはDNA、例えば、SOCS1をコードするプラスミドであってもよい。好ましくは、前記SOCS1をコードする核酸は、SOCS1 mRNAであってもよい。前記SOCS1をコードする核酸は、SOCS1 mRNAであってもよく、前記mRNAにおいて、核酸塩基ウラシルおよび/またはシトシンのうちの0%から50%が修飾核酸塩基であってもよく、好ましくは、前記mRNAにおいて、核酸塩基ウラシルおよび/またはシトシンのうちの0%から25%が修飾核酸塩基であってもよく、より好ましくは前記mRNAは、無修飾mRNAであってもよい。
【0046】
前記目的とする核酸もmRNAである場合、前記mRNAはmRNAであり、前記mRNAにおいて、核酸塩基ウラシルおよび/またはシトシンのうちの0%から50%が修飾核酸塩基であってもよく、好ましくは、前記mRNAにおいて、核酸塩基ウラシルおよび/またはシトシンのうちの0%から25%が修飾核酸塩基であってもよく、より好ましくは前記mRNAは、無修飾mRNAであってもよい。
【0047】
前記少なくとも1つの目的とする核酸および前記SOCS1をコードする核酸はmRNAであってもよく、前記mRNAのそれぞれは、3’末端に少なくとも200のアデニン、少なくとも500のアデニン、少なくとも1000のアデニン、少なくとも1500のアデニン、少なくとも2000のアデニン、少なくとも2500のアデニン、少なくとも3000のアデニン、少なくとも3500のアデニン、少なくとも4000のアデニン、少なくとも4500のアデニン、少なくとも4500のアデニン、少なくとも5000のアデニン、少なくとも5500のアデニンまたは少なくとも6000のアデニンを含むポリ(A)テールを有してもよい。
【0048】
本方法において前記核酸の両方は、mRNAとして提供されてもよく、あるいは、SOCS1をコードする核酸がmRNAであってもよく、目的とするポリペプチドをコードする目的とする核酸がDNAであってもよくまたは逆もまた同様である。
【0049】
さらに、前記少なくとも1つの目的とする核酸は、DNA、mRNA、shRNA、siRNA、miRNAから成る群から選択されてもよい。前記目的とする核酸は、DNA、例えば、目的とする遺伝子をコードするプラスミドであってもよい。前記目的とする核酸は、キメラ抗原レセプター(CAR)をコードする核酸配列であってもよい。
【0050】
前記細胞は、免疫細胞、例えば、T細胞であってもよい。
【0051】
前記方法は、閉鎖系で実施されてもよい。
【0052】
閉鎖系で実施される前記方法は、自動化された方法であってもよい。
【0053】
閉鎖系に関する例は、CliniMACS Prodigy(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH、ドイツ、WO2009/072003)である。
【0054】
SOCS1核酸は、SOCS1タンパクと比較して類似の特性を有するSOCS1ファミリーの別のメンバー、例えば、SOCS3およびCISによって置き換えられてもよく、これらもJAK/STATシグナル伝達経路の活性化を阻害する(LiangらEur.J.Immunol.2014年、44:1265~1275ページ)。
【0055】
定義
別に定義されない限り、本明細書で使用される技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0056】
「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)に対する総称である。核酸(核酸配列)は、ヌクレオチドの直鎖ポリマーである。各ヌクレオチドは、プリンまたはピリミジン核酸塩基(塩基)、五炭糖、およびリン酸基の3つの構成要素から成る。核酸塩基および糖から成る部分構造は、ヌクレオシドと呼ばれる。核酸の種類は、それらのヌクレオチド中の糖の構造が異なり、DNAは2’-デオキシリボースを含む一方で、RNAはリボースを含む。また、2つの核酸の種類に見られる核酸塩基も異なり、アデニン、シトシン、およびグアニンはRNAおよびDNAの両方に見られるが、チミンはDNAで生じ、ウラシルはRNAで生じる。
【0057】
アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)およびウラシル(U)に加えて、DNAおよびRNAは修飾された塩基も含むことが可能である。DNAにおける最も一般的な修飾塩基は、5-メチルシトシン(mC)である。RNAには多くの修飾塩基が存在し、ヌクレオシドに含まれるものプソイドウリジン(Ψ)、ジヒドロウリジン(D)、イノシン(I)、および7-メチルグアノシン(mG)が挙げられる。
【0058】
「修飾リボヌクレオシド」という用語は、標準的なグアニン(G)、アデニン(A)、シチジン(C)、およびウリジン(U)ヌクレオシド以外のリボヌクレオシドを指す。そのような修飾は、例えば、哺乳動物細胞mRNAに対する転写後修飾によって自然に生じることがある。インビトロにおいて転写されるmRNAに関して、修飾RNAを作製するために合成ヌクレオチドも使用することができる。
【0059】
修飾ヌクレオシドは、好ましくは5’-メチルシチジンおよび/またはプソイドウリジンである。使用することができる他のヌクレオシドは、これらに限定されるものではないが、N6-メチルアデノシン(m6A)、3,2’-0-ジメチルウリジン(m4U)、2-チオウリジン(s2U)、2’フルオロウリジン、2’-0-メチルウリジン(Um)、2’デオキシウリジン(2’dU)、4-チオウリジン(s4U)、5-メチルウリジン(m5U)、2’-0-メチルアデノシン(m6A)、N6,2’-0-ジメチルアデノシン(m6Am)、N6,N6,2’-0-トリメチルアデノシン(m62Am)、2’-0-メチルシチジン(Cm)、7-メチルグアノシン(m7G)、2’-0-メチルグアノシン(Gm)、N2,7-ジメチルグアノシン(m2,7G)、N2,N2,7-トリメチルグアノシン(m2,2,7G)、およびイノシン(I)である。
【0060】
ポリアデニル化は、ポリ(A)テールのRNA、好ましくはメッセンジャーRNA(mRNA)への付加である。ポリ(A)テールは、複数のアデノシン一リン酸から成り、言い換えると、これは、アデニン塩基のみを有するRNAの伸張部である。真核生物において、ポリアデニル化は、翻訳のために成熟メッセンジャーRNA(mRNA)を産生するプロセスの一部である。したがって、これは、遺伝子発現のより大きなプロセスの一部を形成する。通常、真核生物のmRNAは、5’キャップを含む。この5’キャップ(RNAキャップ、RNA7-メチルグアノシンキャップ、またはRNA mGキャップとも呼ばれる)は、転写の開始直後に真核生物のメッセンジャーRNAの「前」または5’末端に付加された修飾グアニンヌクレオチドである。5’キャップは、最初に転写されるヌクレオチドと5’-5’三リン酸結合を介して連結される末端7-メチルグアノシン残基から成る。この存在は、リボソームによる認識およびリボヌクレアーゼからの保護に重要である。本明細書に記載され、本発明に使用されるmRNAは、5’キャップを有する。自然に生じるキャップ構造は、最初に転写されるヌクレオチドの5’末端と三リン酸架橋により連結される7-メチルグアノシンを含み、結果としてNが任意のヌクレオシドであるmG(5’)ppp(5’)Nのジヌクレオチドキャップが生じる。5’末端ヌクレオシドは、一般にグアノシンであり、その他のすべてのヌクレオチドに対して逆向きにあり、すなわち、G(5’)ppp(5’)GpNpNpである。インビトロにおいて転写されるRNAにキャップ構造を導入するために酵素反応を使用することに加えて、インビトロにおける転写中に既にキャップ構造を導入させるためにキャップアナログを使用することができる。
【0061】
そのようなキャップアナログは、2’または3’OH基が-OCHで置換されている、いわゆるアンチリバースキャップアナログ(「ARCA」)であってもよい。
【0062】
「コードすること(encoding)」または「をコードしている(coding for)」という用語は、互換的に使用することができる。「コードすること」は、本明細書で使用される場合、アミノ酸の定義された配列などの他の巨大分子の合成のための鋳型として働くための遺伝子、cDNA、またはmRNAなどのポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特定の配列の特性を指す。このように、その遺伝子と対応するmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物系においてタンパク質を産生する場合、遺伝子はタンパク質をコードする。「ポリペプチドをコードする核酸(配列)」は、互いの縮重バージョンであり同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。
【0063】
「発現」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞においてプロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
【0064】
サイトカインシグナル抑制因子1は、ヒトにおいてSOCS1遺伝子(SOCS1)によってコードされるタンパク質である。この遺伝子は、サイトカインシグナル伝達のサプレッサー(SOCS)としても知られているSTAT誘導STATインヒビター(SSI)ファミリーのメンバーをコードする。SSIファミリーメンバーは、サイトカインシグナル伝達のサイトカイン誘導型の負の制御因子である。この遺伝子の発現は、IL2、IL3、エリスロポエチン(EPO)、GM-CSF、およびインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)を含むサイトカインのサブセットによって誘導され得る。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、サイトカインレセプターの下流で機能し、サイトカインシグナル伝達を減じる負のフィードバックループに関与する。
【0065】
「SOCS1をコードする核酸」という用語は、本明細書で使用される場合、その遺伝子と対応するmRNAの転写および/または翻訳が細胞において実施される場合に完全なSOCS1タンパクまたは機能的なそのフラグメントをコードするあらゆる核酸(配列)を指す。
【0066】
SOCS1ペプチドが機能的SOCS1完全長タンパクに代替しうることが示された(He,Cら、J Autoimmun.2015年;)。
【0067】
SOCS1をコードする核酸は、ヒト、マウス、ラットまたはヒツジなどの哺乳動物由来の核酸配列(例えば、哺乳動物SOCS1をコードするmRNA)であってもよく、好ましくは、SOCS1コードする核酸はSOCS1のヒト配列(例えば、ヒトSOCS1をコードするmRNA)である。
【0068】
「目的とする核酸」という用語は、本明細書で使用される場合、SOCS1をコードする核酸とともに細胞に共導入されることが意図されるあらゆる核酸、核酸配列または核酸ポリマーを指す。前記目的とする核酸は、DNA分子、例えば、目的とする遺伝子またはmRNA、shRNA、siRNA、もしくはmiRNAなどのRNA分子であってもよい。目的とする核酸が目的とするポリペプチドをコードするDNAまたはmRNAである場合、「目的とするポリペプチドをコードする目的とする核酸」という表現も本明細書で使用される場合がある。前記ポリペプチドは、完全長タンパクであっても、または機能的なそのフラグメントであってもよい。
【0069】
「共導入すること」という用語は、本明細書で使用される場合、いくつかの核酸(SOCS1をコードする核酸および少なくとも1つの目的とする核酸)を細胞に導入する意図を指す。エレクトロポレーションまたはリポフェクションまたは化学的化合物によるトランスフェクションまたはウイルスによるトランスダクションなどの核酸を細胞に導入するためのいくつかの物理的または化学的または生物学的方法が当該技術分野において周知である。
【0070】
SOCS1をコードする核酸が存在し、それが、目的とする核酸によるさらなるトランスフェクションの間に細胞においてSOCS1タンパクに翻訳される限り、少なくとも1回反復されるトランスフェクション(何回かのトランスフェクション)のうちの1回のトランスフェクションにおいて少なくとも1つの目的とする核酸とともに細胞にSOCS1をコードする核酸が共導入されれば十分である。本発明の一実施形態において、核酸は、1回のトランスダクションまたはトランスフェクションのうちに導入される。本発明の別の実施形態において、SOCS1をコードする核酸は、少なくとも2つの核酸が、少なくとも72h、48h、36h、24h、18h、12h、6h、4h、2hまたは1hの同じ時間内に細胞に存在する限り、例えば、少なくとも1つの目的とする核酸の細胞への導入前または後に別に導入されてもよい。
【0071】
本明細書で開示されている方法において、いくつかの核酸を培地に添加することと関連した「同時の(同時に)」という用語は、「共導入すること」と同じ意味を有するため、いくつかの核酸の細胞培地への連続的な(ただし、1回のトランスダクションまたはトランスフェクションまたはエレクトロポレーションプロセスのうちの)添加も「同時の(同時に)」という用語に包含される。
【0072】
トランスフェクションは、核酸を細胞に計画的に導入するプロセスである。「反復トランスフェクション」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、細胞培養培地中における同じ細胞の2回以上のトランスフェクションを指す。細胞の培養中に細胞を反復してトランスフェクションするために、トランスフェクションされる核酸が細胞または細胞培地に反復して添加される必要がある。本明細書で開示されている方法において、
a)SOCS1をコードする核酸と、同時にまたは続いて
b)少なくとも1つの目的とするポリペプチドをコードする少なくとも1つの核酸と;
を細胞または細胞培地に添加するステップであって、少なくともステップb)は少なくとも1回反復される、ステップを反復する期間(継続時間)は、4時間から48時間の間、好ましくは6時間から36時間の間、より好ましくは6時間から24時間の間または毎日の1回の反復であってもよい。ただし、一般にトランスフェクションプロセス間で任意の継続時間(または期間)が選択されてもよい。
【0073】
いくつかの種類のトランスフェクション試薬は当該技術分野において周知であり、例えば、Lipofectin(登録商標)試薬(Thermo Fisher Scientific Inc)または他のものなどが商業的に入手可能である。トランスフェクション試薬としては、ポリカチオン性化合物(ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-リジンまたはDEAE-デキストランなど)、リン酸カルシウムまたは荷電した脂質およびポリマーを含有するリポソーム製剤(DOTAP[N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチルスルフェート]、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)などの化学的化合物およびそれらの組合せ、例えば、LIPOFECTAMINE(商標)は、ポリカチオン性脂質、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、およびDOPEの3:1(w/w)混合物であるなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。SOCS1をコードする核酸および少なくとも1つの目的とする核酸は、上記のトランスフェクション試薬を使用することによって、または当業者に既知で、細胞をトランスフェクションするのに適した任意のトランスフェクション試薬を使用することによって細胞に送達することができる。
【0074】
トランスフェクションの効率という用語は、本明細書で使用される場合、目的とする核酸の発現レベルおよび/または全体的な細胞生存および/またはトランスフェクション率の側面を含む。
【0075】
エレクトロポレーションという用語は、細胞に電場をかけ、それにより細胞膜の完全性を壊し、核酸のような分子が細胞に入るのを可能にするプロセスのことである。細胞膜の完全性を失うことは細胞にとって致命的であり得、エレクトロポレーション条件はトランスフェクション効率と細胞生存の間でバランスがとれていなければならない。SOCS1核酸を細胞に導入することにより細胞生存を改善することにより、さらに高いトランスフェクション率の達成が可能になる。
【0076】
増大した効率または効率を増大させることという用語は、全体的な細胞生存が改善されるおよび/または発現レベルが増大するおよび/またはトランスフェクション率が改善されるという事実を示す。
【0077】
「細胞培養培地」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞維持に必要とされる化学的条件を提供する液体を含む。細胞(expansion)を支援することができる化学的条件の例としては、以下に限定されるものではないが、細胞培養培地に定期的に供給される(または手作業で与えられてもよい)溶液、バッファー、血清、血清成分、栄養素、ビタミン、サイトカインおよび他の成長因子が挙げられる。細胞を培養するために使用するのに適した培地および特別な用途のための培地、例えば、初代細胞の人工多能性幹細胞へのリプログラミング用の特別な培地が当該技術分野において知られている。
【0078】
本明細書で使用される場合、「培養すること」という用語は、細胞維持に必要とされる化学的および物理的条件(例えば、温度、ガス)、ならびに成長因子を提供することを含む。細胞を培養することは、細胞に増殖(増殖(proliferation))のための条件を提供することを含む場合が多い。細胞増殖を支援することができる化学的条件の例としては、以下に限定されるものではないが、細胞増殖に適した細胞培養培地に定期的に供給される(または手作業で与えられてもよい)バッファー、血清、栄養素、ビタミン、抗生剤、サイトカインおよび他の成長因子が挙げられる。細胞の維持および/または増殖のための培地は、当該技術分野において周知である。
【0079】
対象から直接培養された細胞は、初代細胞として知られている。腫瘍由来の一部を除いて、大半の初代細胞培養物は寿命が限られている。
【0080】
体細胞は生物の体を形成するあらゆる生体細胞、すなわち、多細胞生物における、配偶子、胚細胞、生殖母細胞または未分化の幹細胞以外のあらゆる細胞である。
【0081】
「リプログラミング因子」という用語は、本明細書で使用される場合、転写を変えるよう細胞に作用し、発現時に、体細胞を異なる細胞種、または複能性(multipotency)もしくは多能性にリプログラミングする1つまたは複数の生物学的に活性なポリペプチドまたはそれをコードする核酸あるいは小分子を指す。
【0082】
人工多能性幹細胞(iPS細胞またはiPSCとしても知られている)は、新生児および成体初代細胞から直接形成され得る多能性幹細胞の1タイプである。iPSCは、一般に特定のセットの多能性関連遺伝子、または「リプログラミング因子」を所与の細胞種に導入することに由来する。リプログラミング因子の本来のセット(山中因子とも呼ばれる)は、遺伝子Oct4(Pou5f1)、Sox2、cMyc、およびKlf4である。この組合せはiPSCを作製する際に最も一般的なものであるが、これらの因子のそれぞれは、関連転写因子、miRNA、小分子、またはさらには系列指定子(lineage specifier)などの非関連遺伝子によって機能的に置換されてもよい。リプログラミング混合物はまた、リプログラミングの効率を向上させるためにさらなるリプログラミング因子によって修正されてもよい。
【0083】
分化因子は、胚性幹細胞またはiPSCなどのより多能性の細胞の、線維芽細胞、神経細胞または心筋細胞のような分化細胞などのあまり多能性でない細胞への分化を促進する転写因子であることが多い。しかし、分化因子は、分化細胞の別の細胞分化細胞種への分化(分化転換(trans-differentiation))を促進する転写因子である場合もある。
【0084】
「分化転換」という用語は、系列リプログラミング(lineage reprogramming)としても知られている。これは、中間の多能性状態または前駆細胞種を経ることなくある成熟体細胞が別の成熟体細胞に転換するプロセスである。
【0085】
「閉鎖系」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞培養物の汚染のリスクを低減する一方で新しい材料の導入などの培養プロセスを実施し、増殖、分化、活性化、遺伝子修飾および/または細胞の分離などの細胞培養ステップを実施するあらゆる閉鎖系を指す。そのような系は、GMPまたはGMP様条件(「無菌」)下で操作することを可能にし、結果として臨床的に適切な細胞組成物をもたらす。
【0086】
閉鎖系に関する例は、CliniMACS Prodigy(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH、ドイツ、WO2009/072003)である。
【0087】
「自動化された方法」または「自動化プロセス」という用語は、本明細書で使用される場合、装置および/またはコンピュータおよびコンピュータソフトウェアの使用により自動化され、そうでなければ操作者によって手作業で実施されるであろう、または実施できるであろうあらゆるプロセスを指す。自動化された方法(プロセス)は、実現するために必要とされる人間の介入および人間の時間が少ない。ある場合には、方法の少なくとも1つのステップが全く人間の支援または介入なしに実施される場合、方法は自動化されている。好ましくは、方法のすべてのステップが人間の支援または介入なしに実施される場合に、方法は自動化されている。
【0088】
実施形態
本発明の一実施形態において、本明細書で開示されている方法に使用される目的とする核酸は、例えば、分化した初代細胞(例えば、以下に限定されるものではないが、ヒト線維芽細胞、腎上皮細胞、内皮細胞、間葉系幹細胞)のiPSCへのリプログラミングに使用される転写因子(例えば、Oct3/4、c-myc、Sox2、Lin28、Klf4、Nanog)をコードする核酸である。目的とする核酸は、mRNAとして提供され、リプログラミングされる細胞をトランスフェクションするのに適したトランスフェクション試薬を使用して送達される。トランスフェクションされる目的とするmRNAに対するSOCS1 mRNAの添加は、mRNAの反復トランスフェクションによって引き起こされる自然免疫活性化による大量の細胞死を防ぐ。SOCS1 mRNAの添加は、導入されたmRNAの発現レベルを増大させることもでき、それにより初代細胞のリプログラミングの効率を高める。SOCS1 mRNAの添加は、他の免疫抑制化合物の培地への添加の必要性をなくす。好ましくは、SOCS1 mRNAおよび目的とするmRNAの両方は、少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2000のアデニンを含むポリ(A)テールを有する。
【0089】
本発明の一実施形態において、本明細書に記載される実施形態に使用されるmRNAは、使用される核酸がmRNAである場合、修飾核酸塩基を有してもよい。本発明の一実施形態において、使用されるmRNAにおいて、塩基シトシン/ウラシルのうちの0%から25%が、修飾シトシン/ウラシルであってもよい。
【0090】
本発明の一実施形態において、本明細書で開示されている方法に使用される目的とする核酸は、例えば、分化した初代細胞(例えば、以下に限定されるものではないが、ヒト線維芽細胞、腎上皮細胞、内皮細胞、間葉系幹細胞)のiPSCへのリプログラミングに使用される転写因子(例えば、Oct3/4、c-myc、Sox2、Lin28、Klf4、Nanog)である。目的とする核酸は、例えば、エピソームプラスミド内のDNAとして提供され、リプログラミングされる細胞をトランスフェクションするのに適したトランスフェクション試薬を使用して送達される。トランスフェクションプロセスの間のSOCS1 mRNAの添加は、外因的に添加されたDNAによって引き起こされる自然免疫活性化による大量の細胞死を防ぐ。SOCS1 mRNAの添加は、導入されたDNAプラスミドの発現レベルを増大させることもでき、それにより初代細胞のリプログラミングの効率を高める。SOCS1 mRNAの添加は、他の免疫抑制化合物の培地への添加の必要性をなくす。好ましくは、SOCS1 mRNAは、少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2000のアデニンを含むポリ(A)テールを有する。
【0091】
本発明の一実施形態において、本明細書で開示されている方法に使用される目的とする核酸は、例えば、分化した初代細胞(例えば、以下に限定されるものではないが、ヒト線維芽細胞、腎上皮細胞、内皮細胞、間葉系幹細胞)のiPSCへのリプログラミングに使用される転写因子(例えば、Oct3/4、c-myc、Sox2、Lin28、Klf4、Nanog)である。目的とする核酸は、mRNAとしてまたは、例えば、プラスミド内のDNAとして提供されてもよく、例えば、リプログラミングされる細胞をトランスフェクションするのに適したトランスフェクション試薬を使用して送達される。トランスフェクションプロセスの間のSOCS1をコードするDNAの添加は、外因的に添加されたmRNAまたはDNAによって引き起こされる自然免疫活性化による大量の細胞死を防ぐ。SOCS1をコードするDNAの添加は、目的とする核酸を含む導入されたDNAプラスミドの発現レベルを増大させることもでき、それにより、初代細胞のリプログラミングの効率を高める。SOCS1をコードするDNAの添加は、他の免疫抑制化合物の培地への添加の必要性をなくす。好ましくは、目的とする核酸がmRNAである場合、目的とするmRNAは、少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2000のアデニンを含むポリ(A)テールを有する。
【0092】
本発明の一実施形態において、目的とする核酸は、体細胞の異なる細胞種への分化転換、例えば、MyoD mRNAまたはMyoDをコードするDNAによる線維芽細胞の骨格筋細胞への反復トランスフェクションに必要な1つまたは複数の転写因子である。分化転換はまた、反復トランスフェクションを使用することによって達成することができ、細胞死を誘導することまたは望ましくない細胞シグナル伝達経路を活性化することによって分化転換の試みに対抗する自然免疫経路の活性化が同時に起こる。当該技術分野において、自然免疫経路の活性化を抑制するためにB18Rタンパクの添加が使用される。
【0093】
トランスフェクションプロセスの間のSOCS1 mRNAなどのSOCS1をコードする核酸の添加は、mRNAの反復トランスフェクションによって引き起こされる自然免疫活性化による大量の細胞死を防ぐ。SOCS1 mRNAなどのSOCS1をコードする核酸の添加は、導入されたmRNAまたはDNAの発現レベルを増大させることもでき、それにより、体細胞の異なる細胞種への分化転換の効率を高める。好ましくは、mRNAが使用される場合、SOCS1 mRNAおよび目的とするmRNAの両方は、少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2000のアデニンを含むポリ(A)テールを有する。
【0094】
本発明の一実施形態において、本明細書で開示されているSOCS1 mRNAの添加はまた、特定の転写因子例えば、Ascl1、Brn2、NeuroD1および/またはMyt1l)を前記細胞に導入することによる、その細胞の神経細胞またはその前駆細胞への分化転換のための神経転写因子を細胞(例えば、線維芽細胞)へ添加する効果を増大させるために使用することができる。SOCS1 mRNAはまた、さまざまな転写因子(例えば、GATA4、Mef2c、Tbx5)の導入により細胞(例えば、線維芽細胞)の心筋細胞への分化転換に対して使用することができる。
【0095】
本発明の一実施形態において、目的とする核酸は、当該技術分野において既知のエレクトロポレーション手順を使用したエレクトロポレーションによって細胞に送達される。核酸を細胞に添加し、電場をかけて細胞膜を破壊して、核酸が細胞に入るのを可能にすることによって、mRNAまたはDNAのいずれかとしての前記SOCS核酸とともに目的とする核酸がmRNAまたはDNAのいずれかとして送達される。外来性の核酸に対して有効な自然免疫反応を有する細胞にはSOCS1核酸の使用が好ましい。例えば、プラスミドDNAのT細胞へのエレクトロポレーション後に大量の細胞死が生じることは当該技術分野において周知である。
【0096】
本発明の一実施形態において、細胞生存を高めるために、細胞に対して有毒である可能性のあるmRNA、shSNA、miRNA、siRNA、またはプラスミドDNAの送達にSOCS1 mRNAの添加が使用される。有毒な可能性のある核酸が細胞に入る前に、SOCS1タンパクまたはフラグメントの翻訳およびサイトカイン分泌の抑制を可能にするために、有毒な可能性のある核酸はまた、SOCS1核酸に続いて利用されてもよいであろう。反復されるトランスフェクションは冗長(tedious)であるため、同時に細胞ストレスが生じる。
【0097】
好ましい実施形態において、エレクトロポレーションは、閉鎖系で実施される。
【実施例
【0098】
以降に、本発明が、例を参照してより詳細に具体的に記載されるが、本発明を限定する意図はない。
【実施例1】
【0099】
SOCS1 mRNAの存在下におけるGFP発現
修飾ヌクレオチド、プソイドウリジンおよび5-メチルシチジンの存在下においてT7ポリメラーゼ(Miltenyi Biotec GmbH)を使用したインビトロにおける転写によってSOCS1およびB18R mRNAを形成した。インビトロにおいて転写されたmRNAを、ワクシニアウイルスキャッピング酵素(New England Biolabs,Inc.)を使用してキャッピングした。ポリAテールを酵母ポリAポリメラーゼ(Affymetrix、Thermo Fisher Scientific)を使用して付加した。SOCS1およびB18R mRNAのポリAテールは、およそ1500のアデニン塩基を含んでいた。転写に無修飾ヌクレオチドのみを使用したことおよびポリAテールが少なくとも3000ヌクレオチド(nt)を含んでいたことを除いて、GFP mRNAを同様に形成した。ヒト新生児の包皮線維芽細胞(BJ)を、漸増量のB18RまたはSOCS1 mRNAの存在下において、供給業者の説明書に従ってStemMACS mRNAトランスフェクションキット(Miltenyi Biotec GmbH)を使用して、インビトロにおいて転写されたGFPによりトランスフェクションした。トランスフェクションの4h後に培地を変えた。対照に関しては、SOCS1またはB18R mRNAの添加をせず、B18Rタンパク(eBioscience)の存在下または非存在下においてGFP mRNAをトランスフェクションした。
【0100】
線維芽細胞を3日間毎日トランスフェクションした。4日目に、1つの細胞懸濁液をフローサイトメトリー分析に供し、細胞生存率(ヨウ化プロピジウムを使用して)、GFP発現レベル(FITC平均)ならびに陽性細胞%(ヨウ化プロピジウム陰性細胞に対してゲートした)を求めた。
【0101】
GFP mRNA単独による毎日のトランスフェクションの結果、B18Rタンパクを含んでいたが、GFP発現レベルは低くなり、このレベルは、SOCS1 mRNAの存在下においては有意に増加したが、B18R mRNAの存在下においては有意に増加しなかった(図1)。GFPおよびSOCS1 mRNAでコトランスフェクションした細胞のMFIは、GFPおよびB18R mRNAでコトランスフェクションした細胞と比較して高く、GFP mRNAでのみトランスフェクションした細胞と同等であった。このMFIは、B18Rタンパクの存在下であるがGFP mRNAでのみ3回トランスフェクションした細胞のMFIに近い。
【0102】
この実験は、B18Rタンパクの抗ウイルス活性にもかかわらず、B18R mRNAが自然免疫の活性化から細胞を救出することができないことを示している。自然免疫応答の誘導は、GFP発現レベルを低減させる。SOCS1 mRNAは、GFP発現レベルを有意に増加させることが可能である。
【実施例2】
【0103】
SOCS1 mRNAを使用した線維芽細胞の人工多能性幹細胞へのリプログラミング
ヒト新生児の包皮線維芽細胞(BJ)をさまざまな細胞密度で播種し、Oct4:Sox2:Klf4:Lin28:c-myc:Nanog:核eGFPを含むmRNA混合物(すべてのmRNAが2000nt超のポリAテールを含むものとした)を使用してトランスフェクションした。その細胞を、連続的な5日間毎日2回のトランスフェクション(6h間隔)の短縮したリプログラミングプロトコールを使用してトランスフェクションした。培地をトランスフェクションの直前に交換した。ある条件では、公開されたプロトコール(200ng/ml)で使用されるとおりB18Rタンパクを培地に補充し、他の条件では、2000nt超のポリAテールを含むSOCS1 mRNAをmRNAの混合物に添加し、同時にトランスフェクションした。形成されたiPSCを、14日目(最初のトランスフェクションの13日後)に多能性マーカーであるOct3/4を使用したiPSCコロニーの細胞内染色によって特定した。形成されたiPSCの数およびサイズは、B18Rタンパクの使用と比較してSOCS1 mRNAでトランスフェクションした細胞の場合により大きかった(図2を参照)。
【実施例3】
【0104】
無修飾または25%修飾mRNAを使用した線維芽細胞の人工多能性幹細胞へのリプログラミング
ヒト新生児の包皮線維芽細胞を、マトリゲルコーティングプレートに播種し、2000nt超のポリAテールを有する修飾mRNA(RNAを作製するためにインビトロにおける転写に使用される75%ウリジンおよび25%プソイドウリジン、75%シチジンおよび25%5-メチルシチジン)または無修飾mRNAのいずれかを含むmRNA混合物でトランスフェクションした。両混合物は、SOCS1 mRNAを含むものとした。iPSCコロニーを、各トランスフェクションの前の培地交換を伴う5日間の毎日2回のトランスフェクションを使用した新しく開発したプロトコールを使用して形成した。最初のコロニーは、10日目に検出でき、14日目(最初のトランスフェクションの13日後)に染色した。コロニーを、多能性マーカーとしてOct3/4を使用した細胞内染色によって特定した。iPSC形成の効率は、無修飾mRNAを使用するときに有意に増大する(図3を参照)。
【実施例4】
【0105】
リプログラミング効率に対するポリ(A)の長さの影響
ヒト新生児の包皮線維芽細胞を、マトリゲルコーティングプレートに播種し、25%修飾mRNA(RNAを作製するためにインビトロにおける転写に使用される75%ウリジンおよび25%プソイドウリジン、75%シチジンおよび25%5-メチルシチジン)および2000ntより短いまたは2000ntより長いポリ(A)テールを含むmRNA混合物でトランスフェクションした。リプログラミング因子のmRNAを含むすべての混合物にSOCS1 mRNAを添加した。iPSCコロニーを、各トランスフェクションの前の培地交換を伴う5日間の毎日2回のトランスフェクションを使用した新しく開発したプロトコールを使用して形成した。最初のコロニーは、10日目に検出でき、14日目(最初のトランスフェクションの13日後)に染色した。コロニーを、多能性マーカーとしてOct3/4を使用した細胞内染色によって特定した。2000nt超のポリ(A)の両方の種類のmRNA(リプログラミング因子およびSOCS1 mRNA)を含む混合物のみ、トランスフェクションを10回実施したときにiPSCコロニーを生じた(図4を参照)。
【実施例5】
【0106】
GFP発現に対するポリ(A)の長さの影響
HeLa細胞を播種し、TransITトランスフェクション試薬(Lifetechnologies)を使用して短いポリ(A)テール(500nt未満)または長いポリ(A)テール(500nt超)のいずれかを含むGFP mRNAでトランスフェクションした。細胞を24h培養し、フローサイトメトリーによる評価を使用した定量化のために回収した。長いポリ(A)テールを有するGFP mRNAのトランスフェクションは、より高いパーセンテージの形質導入細胞およびより高い平均蛍光指数(MFI)によって示されるより高いGFP発現レベルをもたらした(図5を参照)。
【実施例6】
【0107】
eGFPプラスミドDNAのT細胞へのエレクトロポレーション後の細胞生存力およびトランスフェクション率に対するSOCS1 mRNAの効果
ヒトT細胞を、pan T細胞単離キット、ヒト(Miltenyi Biotec)を使用して末梢血単核細胞(PBMC)から単離した。単離したT細胞を48ウェルプレート中、20ng/mlの最終濃度でProleukin S(Il2)(ED50は≦0.3ng/mLである≧3.0×10IU/mg(NIBSC86/504で較正した)または≧1×10IU/mg(Proleukin(登録商標)で較正した)の比活性度に相当する)ならびに50から100I.U./mlペニシリンおよび50から100μg/mlストレプトマイシンの最終濃度でペニシリンストレプトマイシンを補充した0.5mlのTexMACS培地(Miltenyi Biotec)に1.9×10細胞で播種し、37℃および5%COで培養した。エレクトロポレーションの3日前に、T細胞を、1:200(MACS GMP TransAct CD3試薬)および1:400(MACS GMP TransAct CD28試薬)の推奨される力価でMACS(登録商標)GMP TransAct CD3/CD28キット(Miltenyi Biotec)を使用して活性化した。37℃および5%COにおける3日間の培養後に、T細胞を回収し、300×gで10分間遠心分離した。細胞をPBSに再懸濁し、再び300×gで遠心分離した。細胞を、10細胞/mlで100μlのバッファーM(5mM KCl;15mM MgCl;120mM NAHPO/NaHPO pH7.2;50mMマンニトール)に再懸濁した。その細胞懸濁液を、Socs1 mRNAを含まない2μgのeGFPコードプラスミド(対照)と混合するか、あるいはそれぞれ約1400ヌクレオチド長または約4800ヌクレオチド長のいずれかのポリAテールを含む0.5μgのSocs1 mRNAと混合し、すぐにエレクトロポレーションキュベットに移した。SOCS1 mRNAは、無修飾ヌクレオチド、すなわち、アデノシン、グアニン、シトシン、ウラシルのみを含むものとした。
【0108】
T細胞を、プログラムT-023を使用したNucleofector Device(Lonza)においてエレクトロポレーションした。エレクトロポレーション後、細胞を、20ng/mlの最終濃度でProleukin S(Il2)(ED50は≦0.3ng/mLである≧3.0×10IU/mg(NIBSC86/504で較正した)または≧1×10IU/mg(Proleukin(登録商標)で較正した)の比活性度に相当する)ならびに50から100I.U./mlペニシリンおよび50から100μg/mlストレプトマイシンの最終濃度でペニシリンストレプトマイシンを補充した0.5mlのTexMACS培地(Miltenyi Biotec)を入れた48ウェルプレートにすぐに移し、37℃および5%COで2日間培養した。T細胞を回収し、300×gで10分間遠心分離した。フローサイトメトリー分析のために、細胞を40μlのPEB(EDTAを含むリン酸緩衝食塩水)、20μlのFCR-Block、および50μlの抗体染色カクテル(CD4-VioBlue、CD8-VioGreen、CD25-PE、CD69-APC、CD3-APC07)に再懸濁した。4℃で暗所において10分間インキュベーションした後に、細胞を、300×gで10分間遠心分離し、0.5mlのPEBに再懸濁した。フローサイトメトリー分析の直前に、ヨウ化プロピジウムを1μg/mlの最終濃度で添加した。25μlの細胞懸濁液を、MACSquantフローサイトメーターにおいて分析した。
【0109】
T細胞生存率をヨウ化プロピジウム染色により求め、eGFP発現をAPCチャネルにおける蛍光検出によって監視した。SOCS1 mRNAを含まないeGFPプラスミドの対照エレクトロポレーション(図6A)は、結果として58%の生細胞をもたらし、生細胞のうちの55%がeGFP陽性であった。eGFPプラスミドおよび約1400ヌクレオチドのポリAを含むSOCS1 mRNAのコエレクトロポレーションによって、細胞の68%が生存可能であり、生細胞のうちの51%がeGFP陽性であった(図6B)。驚くべきことに、eGFPプラスミドおよび約4800ヌクレオチドのポリAを含むSOCS1 mRNAのコエレクトロポレーションによって、細胞生存率が70%にまで増加し、生細胞のうちのeGFP陽性細胞の割合も61%にまで増加した(図6C)。
【0110】
明らかに、それぞれのmRNAのエレクトロポレーション後のSOCS1発現は、プラスミドDNAでエレクトロポレーションしたT細胞の生存を高めている。さらに、エレクトロポレーションしたSOCS1 mRNAに使用したより長いポリAテールは、トランスフェクション率、すなわち、目的とする遺伝子を発現している細胞の割合を増大した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6