(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】舌下アレルゲン免疫療法におけるフィルム製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/35 20060101AFI20220401BHJP
A61K 39/36 20060101ALI20220401BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220401BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220401BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220401BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220401BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
A61K39/35
A61K39/36
A61P37/08
A61P37/04
A61K39/00 G
A61K47/42
A61K9/70
(21)【出願番号】P 2019179100
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2020-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591039263
【氏名又は名称】鳥居薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】松井 均之
(72)【発明者】
【氏名】山本 崇史
(72)【発明者】
【氏名】中沢 博
(72)【発明者】
【氏名】水戸部 祐子
(72)【発明者】
【氏名】横本 泰樹
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-034530(JP,A)
【文献】特開2012-136496(JP,A)
【文献】特表2001-515522(JP,A)
【文献】特開2011-093926(JP,A)
【文献】特開2011-153113(JP,A)
【文献】特開2012-240978(JP,A)
【文献】特開2012-140423(JP,A)
【文献】高分子, 1998, Vol.47, No.6, pp.394-397
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00 - 39/44
A61K 9/00 - 9/72
A61K 47/00 - 47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルゲン及びコラーゲンペプチドを含む、舌下アレルゲン免疫療法用フィルム製剤
であって、フィルムの厚さが10μm以上100μm未満である、前記フィルム製剤。
【請求項2】
さらに添加剤を含む、請求項1に記載のフィルム製剤。
【請求項3】
さらに、以下の(a)~
(g)の少なくとも1つの性質を有する、請求項1又は2に記載のフィルム製剤。
(a)ぬめり感がない
(b)濡れ感がない
(c)フィルムの面積が100mm
2以上300mm
2未満である
(
d)25℃で1か月保存したときに、少なくとも80%のアレルゲン活性の残存率を有する
(
e)崩壊時間が30秒以下である
(
f)製剤調製時の水分含有量が9~16%である
(
g)リン酸緩衝液中へのアレルゲンの溶出試験において、溶出時間20秒で少なくとも70.0%のアレルゲンが溶出する
【請求項4】
アレルゲンが花粉アレルゲン又はダニアレルゲンである請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項5】
アレルゲン及びコラーゲンペプチドを含む水性溶液を延展する工程、及び温風乾燥する工程を含
み、フィルムの厚さを10μm以上100μm未満に加工する、舌下アレルゲン免疫療法用フィルム製剤の製造方法。
【請求項6】
多層の舌下アレルゲン免疫療法用フィルム製剤の製造方法であって、アレルゲン及びコラーゲンペプチドを含む水性溶液を延展する工程、及び温風乾燥する工程の後、前記延展工程及び温風乾燥工程を複数回繰り返
し、フィルムの厚さを10μm以上100μm未満に加工する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲン及びコラーゲンペプチドを含む、舌下アレルゲン免疫療法用フィルム製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルゲン免疫療法は、スギ花粉症やダニアレルギー性鼻炎といったアレルギー性疾患に対して、疾患の原因となるアレルゲンを投与し、アレルゲンに対する反応を減弱させることにより、アレルギー反応の進展を防ぐことを目的とした治療法である。この治療法は、薬物療法といった対症治療とは異なり、アレルギー疾患を根治させる唯一の治療法であるとされている。従来、アレルゲン免疫療法は、皮下投与によるアレルゲン免疫療法(皮下免疫療法)が中心であった。しかしながら、近年は皮下投与以外の投与経路、特に舌下粘膜を利用した舌下投与によるアレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)が知られるようになり1)(非特許文献1)、現在ではアレルゲン免疫療法の代表的な投与方法2) (非特許文献2)として、国内でも開発され3) (非特許文献3)、スギ花粉症やダニアレルギー性鼻炎の治療法として用いられている。
【0003】
皮下免疫療法は、注射部位の痛みや局所反応の他に、全身性のアレルギー症状や希にアナフィラキシーショックを発現すること、長期間、頻回の通院が必要で患者への負担が大きいことといった問題点があるが、舌下免疫療法は皮下療法がもつ問題点が少なく、安全性に優れ患者への負担も少ない方法とされている。
また、舌下免疫療法は、従来の皮下免疫療法とは異なり、口腔内局所へアレルゲンを投与することで効果を発揮させる治療法であり、作用機序として舌下粘膜の抗原提示細胞によって捕捉されたアレルゲンが引き起こす免疫応答が知られている4), 5)(非特許文献4、5)。この時、口腔内においてアレルゲンと舌下粘膜に存在する免疫細胞との相互作用の程度を決定するのは、アレルゲンの局所濃度と粘膜接触時間である6),7) (非特許文献6、7)。
【0004】
口腔内投与を想定した製剤はいくつか開発されているが8) (非特許文献8)、免疫療法は一般的に3年程度の長期間投与が必要であり、患者QOLに添う適切な剤型が必要である。舌下免疫療法を目的とした製剤では、アレルゲン抽出液をそのまま、或いは希釈した液剤及び抽出液を製剤化した錠剤が市販され使用されている。液剤はアレルゲンの安定性保持の観点から、冷蔵保存が必要であり携帯性の悪さの問題があった。錠剤では室温での取扱いが可能となり、薬剤の保管、携帯性における利便性は大きく向上した。更に凍結乾燥末技術を用いた多孔質の錠剤が開発され、水の浸透が極めて速い速崩錠として知られている9) (非特許文献9)。しかしながら、錠剤では服用する際、水が必要なこと、特に高齢者、小児あるいは精神病患者等で飲み込むことが困難な場合があること、さらに速崩錠に関しても、服用後に噛んだり飲み込んだりするリスク、錠剤のもろさといった問題もあった10) (非特許文献10)。
これに対し、フィルム製剤として、ゼラチン等のゲル化特性を利用した製剤も知られているが11), 12)(特許文献1、2)、ゼラチン等を含む製剤は、崩壊時間が長い、長期保存が困難である等の課題を有する。
【0005】
一方で、アレルゲンが熱に不安定である点、容器などへの吸着による取扱いづらさなどから、液剤及び錠剤以外の舌下免疫療法用製剤は開発されていないのが現状である。局所での高アレルゲン濃度を実現するために口腔内での崩壊性は極めて重要であり、またアレルゲンを含有するフィルム製剤では服用時の指へのべたつき、口腔内に適用した際の違和感を低減させることも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-136496号公報
【文献】特開2012-121873号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Noninjection routes for immunotherapy. Canonica GW, et al. J Allergy Clin Immunol. 2003;111:437-448.
【文献】Sublingual immunotherapy: WAO position paper 2013 update. Canonica GW, et al. WAO Journal November 2014; 7; 6.
【文献】Developmental history of sublingual immunotherapy. Du W, et al. Folia Pharmacol Jpn. 2019;154;6-11.
【文献】Sublingual allergen immunotherapy. Calderon MA, et al. Allergy 2012; 67: 302-311.
【文献】Mechanisms of allergen-specific immunotherapy. Akdis CA and Akdis M. J Allergy Clin Immunol 2011;127:18-27.
【文献】European Academy of Allergy and Clinical Immunology task force report on “dose-response relationship in allergen-specific immunotherapy.” Calderon MA, et al. Allergy 2011; 66: 1345-1359.
【文献】Phl p 5 resorption in human oral mucosa leads to dose-dependent and time-dependent allergen binding by oral mucosal Langerhans cells, attenuates their maturation, and enhances their migratory and TGF-β1 and IL-10-producing properties. Allam JP, et al. J Allergy Clin Immunol 2010; 126: 638-645.
【文献】Buccal and sublingual vaccine delivery. Kraan H, et al. Journal of Controlled Release 2014;190; 580-592.
【文献】Bioavailability of house dust mite allergens in sublingual allergy tablets is highly dependent on the formulation. Ohashi-Doi K, et al. Int Arch Allergy Immunol 2017;174:26-34.
【文献】Orally disintegrating firms: A modern expansion in drug delivery system. Muhammad I. et al. Saudi Pharmaceutical Journal 2016; 24; 537-546
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上から、製造工程やその後の保管条件下でアレルゲンが安定的に維持されつつ、速崩性があり服用時の使用感の良好な新しい製剤が望まれている。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ゲル化しないコラーゲンペプチドを基材として用いることにより、上記課題を解決し得るフィルム状製剤を製造することに成功し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)アレルゲン及びコラーゲンペプチドを含む、舌下アレルゲン免疫療法用フィルム製剤。
(2)さらに添加剤を含む、(1)に記載のフィルム製剤。
(3)以下の(a)~(h)の少なくとも1つの性質を有する、(1)又は(2)に記載のフィルム製剤。
(a)ぬめり感がない
(b)濡れ感がない
(c)フィルムの面積が100mm2以上300mm2未満である
(d)フィルムの厚さが10μm以上100μm未満である
(e)25℃で1か月保存したときに、少なくとも80%のアレルゲン活性の残存率を有する
(f)崩壊時間が30秒以下である
(g)製剤調製時の水分含有量が9~16%である
(h)リン酸緩衝液中へのアレルゲンの溶出試験において、溶出時間20秒で少なくとも70.0%のアレルゲンが溶出する
(4)アレルゲンが花粉アレルゲン又はダニアレルゲンである(1)~(3)のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
(5)アレルゲン及びコラーゲンペプチドを含む水性溶液を延展する工程、及び温風乾燥する工程を含む、舌下アレルゲン免疫療法用フィルム製剤の製造方法。
(6)多層の舌下アレルゲン免疫療法用フィルム製剤の製造方法であって、アレルゲン及びコラーゲンペプチドを含む水性溶液を延展する工程、及び温風乾燥する工程の後、前記延展工程及び温風乾燥工程を複数回繰り返す、前記方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、少量の水分で速やかに崩壊し、口腔内においてもより短時間で崩壊させることが可能なフィルム製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】Cry j 1含量を指標とした溶出性を示す図である。
【
図2】Cry j 2含量を指標とした溶出性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1 概要
本発明は、特定物質に対するアレルギーを持つ患者への舌下免疫療法に用いるフィルム製剤に関するものである。すなわち、本発明は、患者の舌下粘膜に発症の原因となるアレルゲンを曝露することで、免疫寛容を獲得させる特異的減感作療法を目的とし、かつ舌下投与に適したフィルム製剤である。
本発明のフィルム製剤は、既報されているゼラチン等のゲル化特性を利用した製剤11), 12)とは異なり、基材としてゲル化しないコラーゲンペプチドを用い、アレルゲン、及び必要により添加剤を含んだフィルム製剤である。
【0013】
スギ花粉症やダニアレルギー性鼻炎の治療法のひとつにアレルゲン免疫療法があり、アレルゲンを含む治療薬を皮下に注射する皮下免疫療法が行われてきたが、近年では治療薬を舌の下に投与する舌下免疫療法が登場し、自宅でも服用できるようになった。
【0014】
前記の通り、皮下免疫療法は、アナフィラキシーショックの危険性、注射の際には通院が必要なこと、また注射による痛み等といった改良すべき点があるが、舌下免疫療法は、それら皮下免疫療法が有する欠点が少ない方法として注目されている。舌下投与を目的とした製剤では、既に液剤及び錠剤が市販され広く使用されているが、本発明は、スギ花粉症等のアレルギー患者に対する舌下免疫療法に用いる舌下投与のための、フィルム製剤に関したものである。すなわち、患者の舌下粘膜にアレルゲンタンパク質(アレルゲン)を曝露することで免疫寛容を獲得させる特異的減感作療法を目的とした、舌下投与に適したフィルム製剤である。
【0015】
舌下免疫療法に使用するフィルム製剤は、口腔内粘膜において標的としているアレルゲンと免疫系の接触が生じるため、飲み込む前に曝露量が最大限となるように製剤に含まれるアレルゲンはできるだけ迅速に放出されなければならず、口腔内でできるだけ短時間で崩壊することが望ましい。また、アレルゲンは、温度や水分により不安定になることから、加熱の影響を受けず水分含量の少ない製剤とすることが、アレルゲンの活性の長期保存を可能とする。
【0016】
本発明は、基材としてゲル化しないコラーゲンペプチドを用い、アレルゲン、及び必要により添加剤を含んだフィルム製剤である。既報のゼラチンのゲル化特性を利用した製剤に比べ、口腔内において、より短時間で崩壊する特徴を有し、また水分含量が低いことにより室温での長期保存を可能としている。
【0017】
舌下免疫療法の作用機序の起点は、舌下粘膜下の樹状細胞によるアレルゲンの捕捉と考えられ、その後アレルゲンを取り込んだ樹状細胞によるT細胞への抗原提示により免疫応答が誘導され、アレルギー反応が抑制されると考えられている1), 13), 14), 15)。すなわち、最初に口腔内粘膜において標的としているアレルゲンと免疫系の接触が生じるため、飲み込む前に曝露量が最大限となるように、製剤に含まれるアレルゲンはできるだけ迅速に放出されることが求められる。また、患者の負担軽減や吸収性の向上といった点からも、免疫療法に使用するフィルム製剤は、舌下への投与において違和感なく投与できる大きさであり、且つ口腔内において短時間で崩壊することが望ましい。本フィルム製剤は、ゼラチンのゲル化特性を利用した製剤に比べ、少量の水分で速やかに崩壊することから、口腔内においてもより短時間で崩壊させることが可能である。
【0018】
アレルゲンは水分によって不安定になるが、その不安定性を解決するために、フィルム化時の温風乾燥により含水分を低くすることで室温での長期保存が可能となった。長期保存は、服薬管理面及び品質管理面においてもメリットと言える。また、本剤は極めて薄い柔軟性のあるフィルム状製剤であるため、持ち運びしやすく携帯時の破損がないなど携帯性に優れ、患者及び医療従事者にとって利便性が高いフィルム製剤である。
【0019】
2.アレルゲン
本発明において使用されるアレルゲンは、アレルギー疾患を持っているヒトの抗体と反応する抗原であって舌下免疫療法に使用し得る限り特に限定されるものではない。このようなアレルゲンの由来としては、例えば樹木類、草木類若しくは雑草の花粉、昆虫、真菌若しくは細菌、動物、ハウスダスト、食物タンパク質等が挙げられる。これらのアレルゲンの由来の代表例を以下に示す。
【0020】
樹木類:スギ 、ヒノキ、ビャクシン、ビャクダン、ハンノキ、カバ、コナラ、ブナ、マツ、ニレ、ヤナギ、カエデ、クルミ、クワ、アカシア、オリーブ、リョウブ等
草木類:
カモガヤ、オオアワガエリ、ハルガヤ、ギョウギシバ 、オオスズメノテッポウ、セイバンモロコシ 、ホソムギ、ナガハグサ、ヒロハウシノケグサ、アシ、コムギ、スズメノヒエ、コヌカグサ等
【0021】
雑草:ブタクサ、オオブタクサ、ブタクサモドキ、アキノキリンソウ、ヨモギ、ニガヨモギ、キク、フランスギク、ススキ、タンポポ、カナムグラ、ヘラオオバコ、シロザ、イラクサ、ヒメスイバ、ヒメガマ等
真菌又は細菌:アルテルナアリア、カンジダ、アスペルギルス、クラドスポリウム、ペニシリウム、ムコール、ヘルミントスポリウム、マラセチア、ピティロスポリウム、トリコフィトン、黄色ブドウ球菌エンテロトキシンA、黄色ブドウ球菌エンテロトキシンB等
【0022】
動物(哺乳類):ネコ、イヌ、モルモット、ハムスター、マウス、ラット、家兎、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の体毛、フケ、上皮等
動物(鳥類):セキセイインコ、ニワトリ、アヒル、ガチョウ等の羽毛
【0023】
ダニ:コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ等
昆虫:ゴキブリ、ユスリカ(成虫)、アシナガバチ、ミツバチ、スズメバチ、ヤブカ、ガ等
【0024】
食品:牛乳、脱脂粉乳、調製粉乳、バター、マヨネーズ、卵白 、卵黄、うずら卵、米、モチ米、パン、ソバ、コムギ、オオムギ、オートムギ、ライムギ、アワ、ヒエ、キビ、トウモロコシ、大豆、アズキ、インゲン、エンドウ、ラッカセイ、ウド、ピーナッツ、アーモンド、アンズ、イチジク、カキ(柿)、クリ、クルミ、 カシューナッツ、ココナッツ、ブラジルナッツ、ハシバミ、イチゴ、サクランボ、ダイダイ、ナシ、ナツミカン、ビワ、ブドウ、ユズ、リンゴ、モモ、バナナ、メロン、オレンジ、グレープフルーツ、キウイ、マンゴ、アボガド、洋ナシ、アスパラガス、キャベツ、キュウリ、ギンナン、クワイ、コショウ、ゴボウ、サトイモ、サヤエンドウ、シイタケ、シメジ、ショウガ、ソラマメ、ダイコン、トウガラシ、トマト、ナス、ニラ、セロリ、パセリ、玉ネギ、ネギ、ハス、フキ、ミツバ、ラッキョウ、レタス、ワサビ、ワラビ、スイカ、ニンジン、コンニャク、ヤマイモ、ジャガイモ、サツマイモ、カボチャ、ホウレンソウ、タケノコ、ニンニク、ゴマ、マスタード、麦芽、ビール酵母、カカオ、チーズ、モールドチーズ 、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、カゼイン、グルテン、牛肉、豚肉 鶏肉、羊肉、兎肉、鯨肉、ハム、ソーセージ、ベーコン、エビ、ロブスター、カニ、ムラサキイガイ、アサリ、アワビ、ウニ、カキ(牡蠣)、ハマグリ、ホタテ、イカ、タコ、サバ 、アジ、アナゴ、イワシ、ウナギ、カツオ、カマス、キス、タイ、タラ、トビウオ、ナマリ、カレイ、サケ、サメ、サンマ、ヒラメ、ブリ、マグロ、イクラ、タラコ、ホヤ、ウイスキ-、清酒、新清酒、焼酎、ビ-ル、カマボコ、コンブ、ショウユ、ソース、トウフ、チクワ、ノリ(海苔)、ヒジキ、ミソ、ワカメ、イースト(パン種)、コウジ、ココア、チョコレート、ホップ等
雑物:新聞紙、アサ布,綿布、ナイロン、キヌ、綿、畳、ソバガラ、モミガラ、繭、イネワラ、ムギワラ、タバコ、カポック、せん茶(茶ガラ)等
【0025】
上記アレルゲン中、アレルギー患者の多いスギ花粉、ヒノキ花粉、ダニアレルゲン等が好ましい。
上記アレルゲンは、それらを含む液状であってもよく、固体であってもよい。
上記アレルゲンの含有量としては、その性質などによっても異なるが、本発明のアレルゲン含有フィルム製剤の全重量に対して、0.003~0.156重量%、好ましくは0.006~0.125重量%である。
【0026】
2.コラーゲンペプチド
コラーゲンペプチドとは、コラーゲンを酸又はアルカリ存在下で加熱することで1本鎖になったゼラチンをさらに酵素により加水分解した、平均分子量が1,500~6,000の低分子化ペプチドである。
本発明のフィルム製剤の主成分として使用されるコラーゲンペプチドは、可食性分子であり、本発明のアレルゲン含有フィルム製剤において基材として機能する材料である。このようなコラーゲンペプチドは、ゼラチンを加水分解することによって製造することができるが、市販品(例えば新田ゼラチン社製)を使用することもできる。
【0027】
本発明において、コラーゲンペプチドの含有量は、その製造過程で温風乾燥を行なう直前のアレルゲン含有溶液の全重量に基づいて、1~20重量%、好ましくは4~10重量%である。
【0028】
3.添加剤
本発明において、基材中に添加剤として添加できる物質として、天然の又は合成の高分子化合物を使用することができる。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、PEGとPVAとのブロック又はグラフトコポリマー、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、デキストラン、カゼイン、プルラン、グァーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、タマリンドガム、トラガカントガム、アカシアガム、アラビアガム、澱粉、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ゼラチン等が挙げられる。
【0029】
さらに、上記高分子化合物のほかに、添加剤として、グリセリン、D-ソルビトール、D-マンニトール、クエン酸トリエチル、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリソルベート、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ヒドロキシプロピルスターチ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ポビドン、白糖、精製白糖、軽質無水ケイ酸、デキストリン等を使用することができる。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、ヤシ油脂肪酸ソルビタン、ポリオオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。また、ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖混合脂肪酸エステル等が挙げられる。
また、必要に応じて、香料として、オレンジフレーバー、ストロベリーフレーバー、レモンフレーバー等のフルーツフレーバーやペパーミント、メントール、デントミント等の清涼フレーバー等を使用することができる。
【0030】
4.フィルム製剤の製法
本発明のフィルム製剤の製法を以下に示す。
まず、アレルゲンを乾燥末にしたものを水(例えば精製水)に溶解し、アレルゲン溶液とする。他方、コラーゲンペプチド、添加剤及び水(例えば精製水)を加えて溶解し、基材溶液とする。そして、アレルゲン溶液と基材溶液とを混合して水性混合液を得、当該混合液を薄く延展する。その後、温風乾燥することにより、フィルム状シートを得る。乾燥後のフィルム状シートを必要な大きさに切断することにより、フィルム製剤を製造することができる。
【0031】
延展工程は、ミクロンコーター等,溶液を薄く延ばすことのできる装置を用いることで実施できる。
本発明において、基材物質を溶解する場合は、必要に応じて加熱(室温~100℃)してもよいが、薬液との混合時には28℃以下にする必要がある。また、延展前の混合液を脱泡してもよい。
【0032】
本発明においては、フィルム製剤を複数の層に形成することができる。2層目のフィルムは、最初に製造したフィルム状シートを延展装置に装着し、このフィルム状シートに対して、アレルゲン溶液と基材溶液との混合液を延展する。3層目以降は、2層目を作製したときの延展工程及び温風乾燥工程を繰り返せばよい。このようにして、複数層のフィルム製剤を製造することができる。本発明においては、複数層の場合、好ましくは2層又は3層である。フィルムを複数層とすることで、各層に異なるアレルゲンを含有させることができ、その結果、複数のアレルギー疾患に対する舌下免疫療法に使用することができる。
【0033】
5.フィルム製剤の特徴
本発明の方法により製造されたフィルム製剤は、以下の特徴を有している。
(a)ぬめり感がない
「ぬめり感」とは、粘り感を意味し、フィルム製剤を指で円を描くように触ったときに感じるネバネバ感を意味する。本発明のフィルム製剤は、そのようなぬめり感がない。
【0034】
(b)濡れ感がない
「濡れ感」とは、フィルム製剤を指で円を描くように触ったときに指が感じる濡れた感覚、湿り気の感覚又はべたつき感を意味する。本発明のフィルム製剤は、そのような濡れ感がない。
【0035】
(c)フィルムの面積が100mm2以上300mm2未満である
本発明によって定義されるフィルムの面積は、所定の量のアレルゲンを含めるのに必要とする面積であり、フィルムの厚さと相まって設定される面積である。本発明においては、フィルムの体積が1mm3~30mm3となるように面積及びフィルム厚さから選択される。本発明においては、延展後に製造されたフィルムシートを、100mm2以上300mm2未満となるように切断することでフィルム製剤を製造することができる。
【0036】
(d)フィルムの厚さが10μm以上100μm未満である
本発明によって定義されるフィルムの厚さは、所定の量のアレルゲンを含めるのに必要とする厚さであり、フィルムの面積と相まって設定される厚さである。本発明においては、フィルムの体積が1mm3~30mm3となるように面積及びフィルム厚さから選択される。本発明においては、厚さが10μm以上100μm未満となるように、延展時に厚さを調整することができる。複数層のフィルム製剤とする場合は、上記厚さの範囲内となるように延展すればよい。
【0037】
(e)25℃で1か月保存したときに、少なくとも80%のアレルゲン活性の残存率を有する
「アレルゲン活性」とは、主要アレルゲンであるCry j 1及びCry j 2の量を意味する。「残存率」とは、保存条件下でも維持しているアレルゲン活性を意味する。残存率は、恒温槽(インキュベータ等)内にフィルム製剤を入れて1か月保存後、アレルゲン活性を測定することにより、算出することができる。
本発明のフィルム製剤は、少なくとも80%の残存率を有し、好ましくは90%以上の残存率を有する。
【0038】
(f)崩壊時間が30秒以下の崩壊性を有する
「崩壊性」とは、本発明のフィルム製剤を水中に配置したときに、フィルムの原形をとどめない状態、すなわちフィルムが消失するまでの時間で定義される性質である。崩壊性は、シャーレ法で測定してもよく、日本薬局方の一般試験法(崩壊試験法)で測定してもよい。
本発明のフィルム製剤の崩壊時間は30秒以下であり、好ましくは15秒未満である。
【0039】
(g)製剤調製時の水分含有量が9~16%である
「水分含有量」は、日本薬局方の一般試験法である水分測定法(カールフィッシャー法)により測定される水分含有量であり、本発明のフィルム製剤の水分含有量は、5~20%、好ましくは9~16%である。
【0040】
(h)リン酸緩衝液中へのアレルゲンの溶出試験において、溶出時間20秒で少なくとも70.0%のアレルゲンが溶出する
「溶出試験」とは、リン酸緩衝液中にフィルム製剤を入れた後、所定時間経過後にリン酸緩衝液を採取してアレルゲン活性を測定する試験を意味する。本発明のフィルム製剤は、溶出時間20秒で少なくとも70.0%のアレルゲンが溶出し、溶出時間30秒で少なくとも80.0%のアレルゲンが溶出し、溶出時間60秒で少なくとも90.0%のアレルゲンが溶出する。
【0041】
本発明のフィルム製剤は、口腔内に含めると即座に崩壊し溶解するため、残渣感がなく嚥下しやすい。また、物理的に安定で、指で持ってもぬめり感がなく、溶解したり、性状が悪化することがないため、患者及び介護者のQOLを大幅に向上させることができる。
【0042】
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0043】
比較例1の調製方法(表1)
スギ花粉エキスの凍結乾燥末を常温で水に溶解し、スギ花粉エキス溶液とした。別にヒアルロン酸ナトリウム10質量に対し、精製水80質量を加え溶解し、基材溶液とした。ヒアルロン酸ナトリウムの溶解は必要に応じて加温しても良いが、溶解後28℃以下とした。28℃以下の温度でスギ花粉エキス溶液と基材溶液を混合し、必要に応じて脱泡した。この液を薄く延展し、約55℃で温風乾燥した。フィルムが乾いた後、必要な大きさに切断し、フィルム製剤とした。
【0044】
実施例1の調製方法(表1)
スギ花粉エキスの凍結乾燥末を常温で水に溶解し、スギ花粉エキス溶液とした。別にヒアルロン酸ナトリウム5質量に対し、コラーゲンペプチド5質量を加え、精製水40質量を加え溶解し、基材溶液とした。ヒアルロン酸ナトリウムの溶解は必要に応じて加温しても良いが、溶解後28℃以下とした。28℃以下の温度でスギ花粉エキス溶液と基材溶液とを混合し、必要に応じて脱泡した。この液を薄く延展し、約55℃で温風乾燥した。フィルムが乾いた後、必要な大きさに切断し、フィルム製剤とした。
【0045】
比較例2,3,4の調製方法(表1)
スギ花粉エキスの凍結乾燥末を常温で水に溶解し、スギ花粉エキス溶液とした。別にプルラン又はポリビニルアルコール若しくはコリコートIR 10質量に対し、精製水20質量を加え溶解し、基材溶液とした。プルラン又はポリビニルアルコール若しくはコリコートIRの溶解は必要に応じて加温しても良いが、溶解後28℃以下とした。28℃以下の温度でスギ花粉エキス溶液と基材溶液とを混合し、必要に応じて脱泡した。この液を薄く延展し、約55℃で温風乾燥した。フィルムが乾いた後、必要な大きさに切断し、フィルム製剤とした。
【0046】
実施例2,3,4の調製方法(表1)
スギ花粉エキスの凍結乾燥末を常温で水に溶解し、スギ花粉エキス溶液とした。別にプルラン又はポリビニルアルコール若しくはコリコートIR 8質量に対し、コラーゲンペプチド2質量を加え、精製水20質量を加え溶解し、基材溶液とした。プルラン又はポリビニルアルコール若しくはコリコートIRの溶解は必要に応じて加温しても良いが、溶解後28℃以下とした。28℃以下の温度でスギ花粉エキス溶液と基材溶液とを混合し、必要に応じて脱泡した。この液を薄く延展し、約55℃で温風乾燥した。フィルムが乾いた後、必要な大きさに切断し、フィルム製剤とした。
【0047】
【0048】
比較例5の調製方法(表2)
スギ花粉エキスの凍結乾燥末を常温で水に溶解し、スギ花粉エキス溶液とした。別にヒアルロン酸ナトリウム10質量に対し、精製水80質量を加え溶解した。この液に濃グリセリン2質量、結晶セルロース2質量を加え混合し、基材溶液とした。ヒアルロン酸ナトリウムの溶解は必要に応じて加温しても良いが、溶解後28℃以下とした。28℃以下の温度でスギ花粉エキス溶液と基材溶液とを混合し、必要に応じて脱泡した。この液を薄く延展し、約55℃で温風乾燥した。フィルムが乾いた後、必要な大きさに切断し、フィルム製剤とした。
【0049】
実施例5の調製方法(表2)
スギ花粉エキスの凍結乾燥末を常温で水に溶解し、スギ花粉エキス溶液とした。別にヒアルロン酸ナトリウム5質量に対し、コラーゲンペプチド5質量を加え、精製水40質量を加え溶解した。この液に濃グリセリン2質量、結晶セルロース2質量を加え混合し、基材溶液とした。ヒアルロン酸ナトリウムの溶解は必要に応じて加温しても良いが、溶解後28℃以下とした。28℃以下の温度でスギ花粉エキス溶液と基材溶液とを混合し、必要に応じて脱泡した。この液を薄く延展し、約55℃で温風乾燥した。フィルムが乾いた後、必要な大きさに切断し、フィルム製剤とした。
【0050】
比較例6の調製方法(表2)
スギ花粉エキスの凍結乾燥末を常温で水に溶解し、スギ花粉エキス溶液とした。別にプルラン10質量に対し、精製水20質量を加え溶解した。この液に濃グリセリン1質量、結晶セルロース2質量、ショ糖脂肪酸エステル0.2質量を加え混合し、基材溶液とした。プルランの溶解は必要に応じて加温しても良いが、溶解後28℃以下とした。28℃以下の温度でスギ花粉エキス溶液と基材溶液とを混合し、必要に応じて脱泡した。この液を薄く延展し、約55℃で温風乾燥した。フィルムが乾いた後、必要な大きさに切断し、フィルム製剤とした。
【0051】
実施例6の調製方法(表2)
スギ花粉エキスの凍結乾燥末を常温で水に溶解し、スギ花粉エキス溶液とした。別にプルラン8質量に対し、コラーゲンペプチド2質量を加え、精製水20質量を加え溶解した。この液に濃グリセリン1質量、結晶セルロース2質量、ショ糖脂肪酸エステル0.2質量を加え混合し、基材溶液とした。プルランの溶解は必要に応じて加温しても良いが、溶解後28℃以下とした。28℃以下の温度でスギ花粉エキス溶液と基材溶液とを混合し、必要に応じて脱泡した。この液を薄く延展し、約55℃で温風乾燥した。フィルムが乾いた後、必要な大きさに切断し、フィルム製剤とした。
【0052】
【0053】
比較例7の調製方法(表3)
精製水29質量に、結晶セルロース1質量を加えて超音波溶解及び分散を行った。ここに魚由来の水溶性ゼラチン(平均分子量約10万)10質量を加え、30~50℃の温度で溶解させ、28~32℃の恒温下でシェーカーにかけてゼラチン溶液とした。
別途、治療用標準化エキス スギ花粉2,000JAU/mLを50質量取り、D-ソルビトールを7質量、PEG 4000を3質量、2~8℃下で溶解し、25~30℃の温度になるよう加温した後、前もって用意しておいたゼラチン溶液に全量加え、28~32℃下で速やかに混合し、6 cm2プラスチック製ケースに2.7 gずつ分注し、2~8℃下で1昼夜冷却固化して、シート状製剤とした。
【0054】
【0055】
1.2 実験方法
実施例及び比較例で調製した検体について、25℃±2℃/60%RH±5%RH、40℃±2℃/75%RH±5%RHの条件下で1箇月の安定性試験を実施した。評価は、調製時の検体では外観、触感、使用感、アレルゲン活性、崩壊性、水分含量及び溶出性について、安定性試験検体は外観、触感、使用感、アレルゲン活性及び崩壊性について実施した。外観は製剤として成形の可否及び保存した際の成形の維持、触感は調製時及び保存時における製剤に触れた場合の違和感、使用感は調製時及び保存時における舌下に投与した場合の違和感、アレルゲン活性は調製時及び保存時における活性の維持、崩壊性は調製時及び保存時における舌下に投与した際の崩壊性(静置状態の崩壊性をシャーレ法、認知されている日本薬局方の方法)、水分含量は製剤中の含有量、溶出性は10、20、30、60及び120秒後の製剤中の主要アレルゲンの溶出率として評価した。ただし、使用感についてはアレルゲンを服用することができないため検体の大きさや厚さを指標として評価した。
【0056】
1.2.1 外観
1) 方法
検体を肉眼観察し、3段階で評価した。
2:フィルム又はシート状に成形されている。
1:フィルム又はシート状に成形されているが、脆い。
0:フィルム又はシート状に成形されていない。
【0057】
1.2.2 触感
1) 方法
検体を実際に指で5秒間円を描くように触り、その感触を5段階で評価した。
4:ネバネバしないし、指も濡れない。
3:若干ネバネバするまたは指が濡れている。
2:ネバネバ感及び指の濡れに関して違和感を覚える。
1:離水し、かなりネバネバし、指に残る。
0:液状になっている。
【0058】
1.2.3 使用感
1) 方法
検体を舌下に投入した場合の違和感を検体の大きさや厚さを指標とし使用感として評価した。評価は以下の5段階で実施した。
【0059】
面積
4:検体の面積が100mm2以上300mm2未満
3:検体の面積が300mm2以上500mm2未満
2:検体の面積が500mm2以上700mm2未満
1:検体の面積が700mm2以上900mm2未満
0:検体の面積が100mm2未満若しくは900mm2以上
【0060】
厚さ
4:検体の厚さが10 μm以上、100 μm未満
3:検体の厚さが100 μm以上、200 μm未満
2:検体の厚さが200 μm以上、300 μm未満
1:検体の厚さが300 μm以上、400 μm未満
0:検体の厚さが10 μm未満若しくは400 μm以上
【0061】
2) 使用機器及び器具
1. 定規:コクヨ、JIS1級
2. DIGMATIC MICROMETER:MITUTOYO、0~25mm
【0062】
1.2.4 アレルゲン活性(スギ花粉エキス)
1) 方法
検体を正確に量り、水を加えて溶解した後、アルブミン添加緩衝液で希釈して試料溶液とした。別に標準物質にアルブミン添加緩衝液を加えて、検量線を作製するための標準溶液とした。
試料溶液及び標準溶液を、抗Cry j 1抗体結合マイクロプレート又は抗Cry j 2抗体結合マイクロプレートの各穴に入れ、放置した後、洗浄した。次にビオチン化抗Cry j 1抗体溶液又はビオチン化抗Cry j 2抗体溶液をプレートの各穴に入れ放置した後、洗浄した。さらに、アビジン化ぺルオキシダーゼ溶液をプレートの各穴に入れ、1時間以上放置した後、洗浄した。基質液をプレートの各穴に加え放置し、更に反応停止液を加え、マイクロプレート分光光度計を用いて波長490~492 nmにおける各穴の吸光度を測定した。標準溶液の吸光度から得た検量線を用いて試料溶液中のCry j 1量又はCry j 2量を求め、検体当たりのCry j 1量又はCry j 2の量を求めた。
【0063】
調製時は、理論値に対しての各検体のCry j 1量及びCry j 2量を回収率(%)として算出し、調製の可能性として、以下の5段階で評価した。
保存安定性試験においては、各検体のCry j 1量及びCry j 2量を初期値(100%)とし、各保存検体の残存率を算出し、保存安定性として以下の5段階で評価した。
【0064】
調製の可能性
4:良好 回収率が80%以上
3:可能性あり 回収率が70%以上~80%未満
2:改善の余地あり 回収率が60%以上~70%未満
1:大幅な改善の余地あり 回収率が50%以上~60%未満
0:不可 回収率が50%未満
【0065】
保存安定性
4:変化なし 残存率が80%以上
3:良好 残存率が70%以上~80%未満
2:改善の余地あり 残存率が60%以上~70%未満
1:大幅な改善の余地あり 残存率が50%以上~60%未満
0:不良 残存率が50%未満
【0066】
2) 使用機器及び器具
1. マイクロプレート:Thermo Scientific Inc.、IMMULON 2 平底プレート
2. マイクロプレート分光光度計:Molecular Devices、SPECTRAmaxPLUS 384
3. クールインキュベーター:三菱電機エンジニアリング、CN-40A
4. マイクロプレートウォッシャー:バイオテック、AMW-96SX
5. 電子天秤:ザルトリウス、MSA225S-100-DI
【0067】
3) 使用試薬
1. 抗Cry j 1抗体:鳥居薬品
2. 抗Cry j 2抗体:鳥居薬品
3. ビオチン化抗Cry j 1抗体:鳥居薬品
4. ビオチン化抗Cry j 2抗体:鳥居薬品
5. 標準物質:神戸天然物化学
6. アビジン化ペルオキシダーゼ:Thermo Fisher Scientific Inc.、ストレプトアビジン-ホースラディッシュ ペルオキシダーゼ コンジュゲート
7. o-フェニレンジアミン二塩酸塩:和光純薬工業
8. ゼラチン:和光純薬工業
9. ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(ポリソルベート20):純正化学
10. 塩化ナトリウム:純正化学
11. ウシ血清アルブミン:SIGMA-ALDRICH
12. リン酸水素二ナトリウム・12水和物:純正化学
13. リン酸二水素カリウム:純正化学
14. 炭酸水素ナトリウム:純正化学
15. 無水炭酸ナトリウム:純正化学
16. 過酸化水素(強過酸化水素水):純正化学
17. クエン酸三ナトリウム二水和物:純正化学
18. クエン酸一水和物:純正化学
19. 硫酸:純正化学
【0068】
1.2.5 崩壊性(シャーレ法;静置)
1) 方法
ガラスシャーレに37℃に加温した水を入れ、検体を水に入れ、検体の崩壊の様子を観察し、崩壊までの時間を測定した。検体の原形をとどめない状態になった場合、崩壊したと判断した。但し、試験は水を37±2℃で保持した状態で実施した。
崩壊時間について、以下の5段階で評価した。
【0069】
崩壊時間
4:崩壊時間が15秒未満
3:崩壊時間が15秒以上、30秒未満
2:崩壊時間が30秒以上、45秒未満
1:崩壊時間が45秒以上、60秒未満
0:崩壊時間が60秒以上
【0070】
2) 使用機器及び器具
1. ストップウォッチ:セイコー、S140-4A00型
2. 超純水製造装置:メルク、Milli-Q Integral 5
3. 恒温槽:TAITEC、thermo minder SD mini
4. ガラスシャーレ:直径約116 mm
【0071】
1.2.6 崩壊性(日本薬局方 一般試験法 6.09 崩壊試験法)
1) 方法
第17改正日本薬局方 一般試験法 6.09 崩壊試験法に準じて試験を行った。1000 mLの機器付属のビーカーに水を入れ、37±2℃の温度下で、1分間に29~32往復、振幅53~57 mmで試験器を上下させる条件下により試験を行った。試験器の中に検体(必要に応じて検体をシンカーに入れる)を入れ、試験を開始し、試験開始から検体を全く認めないか、検体が原形をとどめない状態である場合の時間を崩壊時間とした。なお、検体の内、透明であり、水に入れた時点で検体の形状が肉眼で判別できないものについては、崩壊性(シャーレ法)のみの評価とした。
崩壊時間について、以下の5段階で評価した。
【0072】
崩壊時間
4:崩壊時間が15秒未満
3:崩壊時間が15秒以上、30秒未満
2:崩壊時間が30秒以上、45秒未満
1:崩壊時間が45秒以上、60秒未満
0:崩壊時間が60秒以上
【0073】
2) 使用機器、器具
1. 崩壊試験器:富山産業、NT-20HS型
2. 超純水製造装置:メルク、Milli-Q Integral 5L型
3. 温度計:渡部計器製作所
4. ストップウォッチ:セイコー、S140-4A00型
5. シンカー:日本バリデーション・テクノロジーズ
【0074】
1.2.7 水分含量(日本薬局方 一般試験法 2.48 水分測定法(カールフィッシャー法)
1) 方法
検体を精密に量りとり、第17改正日本薬局方 一般試験法 2.48 水分測定法(カールフィッシャー法)の電量滴定法に準じて試験を行った。なお、水分気化装置を使用した。
【0075】
2) 使用機器及び器具
1. 電子天秤:メトラー・トレド株式会社、XP205
2. カールフィッシャー水分計:京都電子
・メインコントロールユニット:MCU-610
・滴定ユニット(電量滴定):MKC-610
・多検体チェンジャ:CHK-501
【0076】
3) 使用試薬
1. 水標準品(乳糖一水和物):シグマ・アルドリッチ
2. ハイドラナール-水・標準品KF-Oven、140~160℃
3. 水分測定用陽極液:三菱化学、アクアミクロンAX
4. 水分測定用陰極液:三菱化学、アクアミクロンCXU
5. メタノール:純正化学、低水分用
【0077】
1.2.8 溶出性
1) 方法
200 mLのベッセルに溶出試験第2液(pH 6.8のリン酸塩緩衝液1容量に水1容量を加える)を50 mL加え、37±2℃の温度下で、1分間に50 rpmの回転数により試験を行った。ベッセルに検体を入れる際にパドルの上約5 mmの位置で崩壊させることができるように加工した針金を使用した。検体投入後、10、20、30、60及び120秒毎に500 μLを採取し、その度毎に37±2℃に加温した溶出試験第2液500 μLをベッセルに加えた。採取した液について、アレルゲン活性(Cry j 1含量、Cry j 2含量)を測定した。
【0078】
2) 使用機器及び器具
溶出性
1. 溶出試験器:DISTEK、Dissolution system 2500
2. ベッセル:DISTEK、200 mL
3. パドル:DISTEK、200 mL用
【0079】
アレルゲン活性
使用機器及び器具は、「1.2.4 アレルゲン活性(スギ花粉エキス)」の2)項に記載のものと同じ機器及び器具を使用した。
【0080】
3) 使用試薬
溶出性
1. pH 6.8 リン酸塩緩衝液(10倍濃度):ナカライテスク
【0081】
アレルゲン活性
使用試薬は、1.2.4 アレルゲン活性(スギ花粉エキス)の3)項に記載のものと同じ試薬を使用した。
【0082】
2 実験結果
2.1 外観
調製時及び安定性の各検体の結果を3段階で評価し、その総和を示した。
2:フィルムあるいはシート状に成形されている。
1:フィルムあるいはシート状に成形されているが、脆い。
0:フィルムあるいはシート状に成形されていない。
表4及び表5にスギ花粉エキスを用いた検体の外観の結果を示す。実施例及び比較例1~6では、すべての例でフィルム状に成形されていた。比較例7もシート状に成形されていた。
【0083】
【0084】
2.2 触感
調製時及び安定性の各検体の結果を5段階で評価し、その総和を示した。
4:ネバネバしないし、指も濡れない。
3:若干ネバネバするまたは指が濡れている。
2:ネバネバ感及び指の濡れに関して違和感を覚える。
1:離水し、かなりネバネバし、指に残る。
0:液状になっている。
【0085】
表6及び表7にスギ花粉エキスを用いた検体の触感の結果を示す。調製時や保管時の実施例及び比較例1~6に係わるフィルム製剤は、全ての例においてネバネバする、あるいは指が濡れるといった違和感はなく、シート状製剤である比較例7よりも良好な結果を示した。
【0086】
【0087】
2.3 使用感
調製時及び安定性の各検体の結果を面積5段階、厚さ5段階で評価し、その和を使用感とし、使用感の総和を示した。
【0088】
面積
4:検体の面積が100mm2以上300mm2未満
3:検体の面積が300mm2以上500mm2未満
2:検体の面積が500mm2以上700mm2未満
1:検体の面積が700mm2以上900mm2未満
0:検体の面積が100mm2未満若しくは900mm2以上
【0089】
厚さ
4:検体の厚さが10 μm以上、100 μm未満
3:検体の厚さが100 μm以上、200 μm未満
2:検体の厚さが200 μm以上、300 μm未満
1:検体の厚さが300 μm以上、400 μm未満
0:検体の厚さが10 μm未満若しくは400 μm以上
【0090】
表8及び表9にスギ花粉エキスを用いた検体の使用感の結果を示す。調製時及び保管時の実施例及び比較例1~6に係わるフィルム製剤は、全ての例において舌下に投与した場合に違和感がないものであることが示唆され、シート状製剤である比較例7よりも良好な結果を示した。
【0091】
【0092】
2.4 アレルゲン活性
調製時及び安定性の各検体の結果を調製時は5段階、安定性は5段階で評価し、その総和を示した。
【0093】
調製の可能性
4:良好 回収率が80%以上
3:可能性あり 回収率が70%以上~80%未満
2:改善の余地あり 回収率が60%以上~70%未満
1:大幅な改善の余地あり 回収率が50%以上~60%未満
0:不可 回収率が50%未満
【0094】
保存安定性
4:変化なし 残存率が80%以上
3:良好 残存率が70%以上~80%未満
2:改善の余地あり 残存率が60%以上~70%未満
1:大幅な改善の余地あり 残存率が50%以上~60%未満
0:不良 残存率が50%未満
【0095】
表10~表13にスギ花粉エキスを用いた検体のアレルゲン活性の結果を示す。調製時及び保管時の実施例に係わるフィルム製剤のアレルゲン活性は、スギ花粉アレルゲン(Cry j 1及びCry j 2)においていずれも良好な結果を示した。その結果は、ほとんどの例においてフィルム製剤及びシート状製剤の比較例のアレルゲン活性を上回る結果であった。
【0096】
【0097】
2.5 崩壊性(シャーレ法;静置)
調製時及び安定性の各検体の結果を5段階で評価し、その総和を示した。
【0098】
崩壊時間
4:崩壊時間が15秒未満
3:崩壊時間が15秒以上、30秒未満
2:崩壊時間が30秒以上、45秒未満
1:崩壊時間が45秒以上、60秒未満
0:崩壊時間が60秒以上
【0099】
表14及び表15にスギ花粉エキスを用いた検体の崩壊性(シャーレ;静置)の結果を示す。調製時及び保管時の実施例に係わるフィルム製剤の崩壊時間は、ほとんどの例においてフィルム製剤及びシート状製剤の比較例よりも短時間であり、崩壊性は良好であった。
【0100】
【0101】
2.6 崩壊性(日本薬局方)
調製時及び安定性の各検体の結果を5段階で評価し、その総和を示した。
【0102】
崩壊時間
4:崩壊時間が15秒未満
3:崩壊時間が15秒以上、30秒未満
2:崩壊時間が30秒以上、45秒未満
1:崩壊時間が45秒以上、60秒未満
0:崩壊時間が60秒以上
表16にスギ花粉エキスを用いた検体の崩壊性(日本薬局方)の結果を示す。本試験は、処方1~4については、フィルム製剤が透明なため終点の判別が不明瞭であるため実施しなかった。調製時の実施例に係わるフィルム製剤の崩壊時間は、ほとんどの例においてフィルム製剤及びシート状製剤の比較例よりも短時間であり、崩壊性は良好であった。
【0103】
【0104】
2.7 水分含量
表17にスギ花粉エキスを用いた検体の水分含量の結果を示す。
フィルム製剤の実施例5,6及び比較例5,6の調製時の水分含量は9~16 %であった。
【0105】
【0106】
2.8 溶出性
表18及び図 1にCry j 1含量を指標とした溶出性の結果、表19及び図 2にCry j 2含量を指標とした溶出性の結果を示す。
フィルム製剤である各実施例の主要アレルゲンは、崩壊後迅速に溶出されていることが確認された。一方、シート状製剤である比較例では120秒後でも20%の溶出には至らなかった。
【0107】
【0108】
3 総合評価
各実施例及び各比較例で製した検体について外観、触感、使用感、アレルゲン活性及び崩壊性の結果を踏まえて総合的に評価した。フィルム製剤とシート状製剤の比較としての外観、触感及び使用感の総合評価を表20に示し、フィルム製剤におけるコラーゲンペプチドの有無の比較としてアレルゲン活性及び崩壊性の総合評価を表21に示した。
外観、触感及び使用感の総合評価では、フィルム製剤はシート状製剤よりも良好な結果であり、フィルム製剤は製剤として利用者のQOLを向上させるものであった。
また、フィルム製剤において、コラーゲンペプチドを入れた実施例は、アレルゲン活性及び崩壊性において比較例よりも良好な結果であり、服薬管理面及び品質管理面でより良い製剤になり得るものであった。
また、崩壊性及び溶出性の結果より、実施例は、迅速な崩壊及び溶出が求められる舌下免疫療法において、最適な製剤であることが示された。
なお、参考までに表22に実施例5及び6における5℃±3℃の12箇月の安定性の結果及び25℃±2℃、60%RH±5%RHの12箇月の安定性の結果を示す。いずれの検体も良好な結果であり、室温で長期間保存可能な製剤であることが示された。
【0109】
【0110】
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