(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】低分子量芳香族リグニン由来化合物を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C07C 46/00 20060101AFI20220401BHJP
C07C 50/16 20060101ALI20220401BHJP
C07C 303/06 20060101ALI20220401BHJP
C07C 309/42 20060101ALI20220401BHJP
D21C 11/00 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
C07C46/00
C07C50/16
C07C303/06
C07C309/42
D21C11/00 B
(21)【出願番号】P 2019503620
(86)(22)【出願日】2017-04-07
(86)【国際出願番号】 EP2017000462
(87)【国際公開番号】W WO2017174207
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-03-24
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2016/000575
(32)【優先日】2016-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/000198
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518355320
【氏名又は名称】ツェーエムブルー プロイェクト アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】ナスタラン・クラヴジック
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・メラー
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・ガイグル
【審査官】池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05002634(US,A)
【文献】特公昭38-013864(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0232852(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0268652(US,A1)
【文献】特開2011-057636(JP,A)
【文献】特表2019-516781(JP,A)
【文献】特表2015-534708(JP,A)
【文献】特開昭51-138666(JP,A)
【文献】Joseph Zakzeski et al.,The Catalytic Valorization of Lignin for the Production of Renewable Chemicals,Chemical Reviews,2010年,volume 110, number 6,p3552-3599
【文献】B.Moodley et al ,The electro-oxidation of lignin in sappi saiccor dissolving pulp mill effluent ,Water SA,2011年,volume 37, number 1,p33-40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 46/00
C07C 50/00
C07C 303/06
C07C 309/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物を製造するための方法であって、
(A)リグノセルロース材
料を提供する工程と、
(B)前記リグノセルロース材料をパルプ化プロセスに付す工程と、
(C)パルプ分離工程において工程(B)で得られたセルロースを工程(B)から得られるプロセス流から分離して、実質的にセルロースを含まないプロセス流を提供し、前記プロセス流が、修飾リグニン由来成分、ヘミセルロース、及び/又はそのフラグメントを含み、前記プロセス流が、単一のプロセス流又は少なくとも2つの部分プロセス流として提供される工程と、
(D)(D.1)工程(C)のプロセス流に含まれる、又は
(D.2)工程(C)における少なくとも2つの部分プロセス流のうちの少なくとも1つに含まれる、
修飾リグニン由来成分のフラクションを、前記プロセス流のいずれかから単離する工程と、
(E)工程(D)の修飾リグニン由来成分のフラクションを化学分解工程に付し、前記化学分解工程が
、
(E.2)金属イオン又は半金属成分を含む不均一系又は均一系触媒の存在下での前記修飾リグニン成分の還元クラッキング(クラッキング及び還元
)を含む工程と、
(F)工程(E)で得られた前記修飾リグニン由来生成物を、単離及び任意に精製工程に付し、低分子量芳香族リグニン由来化合物をより高分子量の芳香族リグニン由来成分及び/又は他の非リグニン由来残留成分から単離し、任意に精製する工程と
を含
み、
前記工程(B)が、以下の工程:
(a)任意に、前記リグノセルロース材料をプレスチーミングし、前記リグノセルロース材料を蒸気で湿潤し、予熱する工程と、
(b)前記リグノセルロース材料を、亜硫酸塩又は重亜硫酸塩剤を含む水性の溶液に添加する工程と、及び
(c)前記リグノセルロース材料を前記水性の溶液中で蒸解する工程と
を含む(B.2)亜硫酸塩プロセスであることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記リグノセルロース材料が、細断されたリグノセルロース材料である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(B)における前記水性の溶液が、酸性の溶液である請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記リグノセルロース材料が、低シリカ及び樹脂含量の木材に由来することができる請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記リグノセルロース材料が、北方木材に由来することができる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記リグノセルロース材料が、ブナ、マツ、バーチ、ユーカリ、及びスプルースからなる群から選択される少なくともいずれかに由来することができる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記リグノセルロース材料が、ブナに由来することができる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リグノセルロース材料は、木材チップの形態で提供される請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
工程(B.2)のサブ工程(b)における前記酸性水溶液のpHが1~5であり、及び/又は工程(B.2)のサブ工程(b)における前記水性の溶液の温度が100℃未満である請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
工程(B.2)のサブ工程(b)にしたがって添加される亜硫酸塩又は重亜硫酸塩剤が、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びアンモニウムからなる群から選択されるカウンターカチオンとの塩である請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
工程(B.2)のサブ工程(c)における蒸解が、加圧容器内で、少なくとも3時間、少なくとも120℃の温度で行われる請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
亜硫酸塩プロセス(B.2)のサブ工程(c)が、4~24時間行われる請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
亜硫酸塩プロセス(B.2)のサブ工程(c)が、4~6時間行われる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(B.2)の亜硫酸塩プロセスサブ工程(c)が、120~170℃の温度で行われる請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
工程(B.2)の亜硫酸塩プロセスサブ工程(c)が、130~160℃の温度で行われる請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(B.2)のサブ工程(c)が、加圧容器内で少なくとも4バールの圧力で行われる請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
工程(B.2)のサブ工程(c)が、加圧容器内で5~10バールの圧力で行われる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
(B.2)のサブ工程(c)が、バッチモード又は連続モードで行われる請求項1から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
(B.2)のサブ工程(c)が、連続モードで行われる請求項18に記載の方法。
【請求項20】
工程(C)の分離が、吹き込み、篩い分け、遠心分離、濾過、及び/又は洗浄、又はそれらの任意の組合せによって行われる請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
工程(D)の単離が、抽出、向流、ストリッピング、イオン交換、二価又は多価カチオンによる沈殿、酸性溶液中CO
2
による沈殿、濾過、又はそれらの任意の組合せによって行われる請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記二価又は多価カチオンによる沈殿が、カルシウム塩による沈殿である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記濾過が、限外濾過及び/又はナノ濾過である請求項21に記載の方法。
【請求項24】
工程(E.2)において、前記修飾リグニン由来成分の還元クラッキング(クラッキング及び還元)が、還元剤及び不均一触媒の存在下で行われ、前記不均一触媒が、ニッケル、白金、パラジウム、ルテニウム、レニウム、及び金から選択される金属を含む請求項1から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記還元剤が、水素又は水素供与性アルコールである請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記不均一触媒が、担体材料の表面上に設けられている請求項24から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記担体材料が、活性炭、シリカ、酸化チタン、及び酸化アルミニウムからなる群から選択される請求項26に記載の方法。
【請求項28】
単離工程(D)及び/又は単離工程(F)が、濾過及び/又は抽出を含む請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
単離工程(D)及び/又は単離工程(F)が、限外濾過及び/又はナノ濾過セルによる限外濾過及び/又はナノ濾過を含む請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記限外濾過及び/又はナノ濾過セルが、前濾過セクションを有する請求項29に記載の方法。
【請求項31】
濾過が、少なくとも1つの分子量カットオフユニットを含む限外濾過及び/又はナノ濾過セルで行われる請求項1から30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記限外濾過及び/又はナノ濾過セルが、少なくとも2つの分子量カットオフユニットを含む請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの分子量カットオフユニットが、工程(D)では0.5kDa~2kDaのカットオフレベルを有する請求項31から32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つの分子量カットオフユニットが、工程(F)では1kDa~1.5kDaのカットオフレベルを有する請求項31から33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物が、1つ又は2つの芳香族環を含む請求項1から34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物が、2つの非環化芳香族環を含む請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物が、2つの芳香族環を含み、前記2つの芳香族環が、リンカー部分によって、又は結合によって連結される請求項35から36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
前記リンカー部分が、脂肪族リンカーである請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物が、ビフェニル部分を形成する2つの芳香族環を含む請求項35から38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記1つ又は2つの芳香族環が炭素環である請求項35から39のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
前記芳香族環が少なくとも1つの位置で官能基で置換されている請求項35から40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
前記芳香族環が2つの位置で官能基で置換されている請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記官能基の少なくとも1つがアルコキシ又はヒドロキシルである請求項41から42のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
前記少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物が、式(Ia):
【化1】
(式中、R
1
~R
5
は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、
R
6
は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝のC
1-6
カルボキシル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、及び直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコールからなる群から選択される。)又は
式(Ib):
【化2】
(式中、R
1
~R
9
は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、
R
10
は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、及び直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコールからなる群から選択される。)によって特徴付けられる請求項1から43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
前記少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物が、ビフェニル、ベンジルアルコール、ベンズアルデヒド、及び安息香酸のフェノール誘導体、及び/又は前記のいずれかの誘導体、及び/又は前記の組合せからなる群から選択される請求項1から44のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
前記少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物が、p-ヒドロキシベンジルアルコール、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、及びp-ヒドロキシ安息香酸の誘導体、及び/又は前記のいずれかの誘導体、及び/又は前記の組合せからなる群から選択される請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物が、バニリン、グアイアコール、オイゲノール、シリンゴール、フェノール、シリンガアルデヒド、及び/又は前記のいずれかの誘導体、及び/又は前記の組合せからなる群から選択される請求項45に記載の方法。
【請求項48】
工程(F)によって提供される前記少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物が1つの芳香族環を含み、工程(G)において更に処理され、1つの芳香族環を含む前記低分子量芳香族リグニン由来化合物が環化反応に付され、環化反応生成物は、低分子量芳香族二環式又は三環式環化芳香族リグニン由来化合物であり、前記化合物が、以下の式(II)、(III)、又は(IV)によって特徴付けられる請求項1から38及び40から47のいずれかに記載の方法。
【化3】
(式(II)のR
2
、R
3
、及びR
5
~R
8
は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、
式(II)のR
1
及びR
4
は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、及び直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコールからなる群から選択され、
式(III)のR
1
~R
10
は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、
式(IV)のR
2
、R
3
、及びR
7
~R
10
は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、
式(IV)のR
1
、R
4
、R
5
、及びR
6
は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、及び直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコールからなる群から選択される。)
【請求項49】
前記環化反応が、フリーデル-クラフツアシル化である請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記式(II)のR
2
、R
3
、及びR
5
~R
8
の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はC
1-3
アルコキシである請求項48から49のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
前記式(III)のR
2
、R
4
、R
5
、R
6
、及びR
8
の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はC
1-3
アルコキシである請求項48から50のいずれかに記載の方法。
【請求項52】
前記式(IV)のR
2
、R
3
、及びR
7
~R
10
の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はC
1-3
アルコキシである請求項48から51のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
工程(F)によって提供される前記少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物が、
(i.)H
2
O
2
、O
2
、及び空気からなる群から選択される酸化剤、及び
(ii.)均一系又は不均一系触媒の存在下で、前記少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物を酸化することにより工程(H)で更に修飾される請求項1から52のいずれかに記載の方法。
【請求項54】
前記均一系又は不均一系触媒が、金属イオン又は半金属成分を含む請求項53に記載の方法。
【請求項55】
工程(H)が、少なくとも1つのヒドロキノン化合物を提供し(工程H.1)、前記化合物が、式(Va):
【化4】
(式中、R
1
~R
5
は、ぞれぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、R
1
、R
3
、及びR
5
の1つは、ヒドロキシである。)又は
式(Vb):
【化5】
(式中、R
1
~R
9
は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択される。)によって特徴付けられる請求項53から54のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
工程(H)が、(工程H.1)よりも過酷な酸化条件下で、少なくとも1つキノン化合物を提供し(工程H.2)、前記化合物が、式(VIa)~(VIb):
【化6】
(式中、R
1
、R
2
、R
4
、及びR
5
は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択される。)又は
【化7】
(式中、R
2
~R
5
は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択される。)又は
【化8】
(式中、R
1
~R
4
は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択される。)又は
【化9】
(式中、R
1
~R
4
及びR
6
~R
9
は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択される。)によって特徴付けられる請求項53から54のいずれかに記載の方法。
【請求項57】
工程(H.1)によって提供される前記少なくとも1つのヒドロキノン化合物が、工程(I)において更に酸化され、請求項56に記載の式(VIa)~(VId)によって特徴付けられるキノン化合物を生成する請求項55に記載の方法。
【請求項58】
前記更なる酸化が、電池のセルスタック中又は不均一系触媒によって行われる請求項57に記載の方法。
【請求項59】
工程(G)によって提供される前記低分子量芳香族二環式又は三環式環化化合物が、
(i.)H
2
O
2
、O
2
、及び空気からなる群から選択される酸化剤、及び
(ii.)不均一系又は均一系触媒の存在下で、前記少なくとも1つの低分子量芳香族二環式又は三環式環化化合物を酸化することにより工程(H)で更に修飾され、少なくとも1つのキノン及び/又はヒドロキノン化合物を提供し、前記化合物が、以下の式(VII)、(VIII)、及び/又は(IX)によって特徴付けられる請求項48から52のいずれかに記載の方法。
【化10】
(式中、式(VII)に関するR
1
~R
8
、及び/又は、式(VIII)及び(IX)に関するR
1
~R
10
は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、式(VII)のR
8
及びR
5
又はR
1
及びR
4
の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はオキソであり、又は式(VIII)のR
9
及びR
6
、R
10
及びR
5
、又はR
1
及びR
4
の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はオキソであり、又は式(IX)のR
10
及びR
7
又はR
1
及びR
4
の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はオキソである。)
【請求項60】
前記均一系又は不均一系触媒が、金属イオン又は半金属成分を含む請求項59に記載の方法。
【請求項61】
工程(H)、(H.1)、(H.2)又は(H.1)及び(I)によって提供される前記少なくとも1つのキノン及び/又はヒドロキノン化合物を精製工程(J)に付し、抽出又は蒸留によって、前記少なくとも1つのキノン及び/又はヒドロキノン化合物を残留化合物から分離する請求項53から60のいずれかに記載の方法。
【請求項62】
前記抽出が、固相抽出又は流体-流体相抽出である請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記少なくとも1つのキノン及び/又はヒドロキノン化合物が、誘導体化工程(K)に付されて更に修飾され、1つ以上の水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分岐の任意に置換されたC
1-6
アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6
アルデヒド、エステル、ハロゲン、アミン、アミノ、アミド、ニトロ、オキソ、カルボニル、ホスホリル、ホスホニル、シアニド、又はスルホニルの基が、式(I)から(IX)のいずれかで表される化合物に、オキソ又はヒドロキシル基によって特徴付けられる以外のアリール構造の位置に導入され、
前記基が、前記アリール構造に直接結合している、又はアルキルリンカーを介して前記アリール構造に結合している請求項53から62のいずれかに記載の方法。
【請求項64】
前記アルキルリンカーが、メチルリンカーである請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記誘導体化工程(K)が、少なくとも1つの還元反応、酸化反応、置換反応、求核付加及び/又は求電子置換反応を含む請求項63から64のいずれかに記載の方法。
【請求項66】
前記少なくとも1つのキノン及び/又はヒドロキノン化合物がアントラキノン化合物である請求項59から65のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
前記アントラキノン化合物が、式(X)によって特徴付けられる請求項66に記載の方法。
【化11】
【請求項68】
(i)任意に、流セパレータ、(ii)任意に、単離ユニット、(iii)分解ユニット、及び(iv)分離ユニットを含む請求項1から47のいずれかに記載の工程(C)~(F)を行うためのアセンブリ。
【請求項69】
(v)任意に、環化ユニット、(vi)酸化ユニット、(vii)誘導体化ユニット、及び任意に(viii)精製ユニットを更に含む請求項1から68のいずれかに記載の工程(C)~(K)を行うためのアセンブリ。
【請求項70】
前記パルプ化プロセスを用いるパルプ及び/又は紙製造プロセスをプラントによって適用するための方法であって、前記プラントが請求項68から69のいずれかに記載のアセンブリを備えていることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、典型的にはパルプ化プロセスの副生成物であるリグニン含有材料の価値を高める分野に関する。本発明は、低分子量芳香族リグニン由来化合物を製造するための方法を提供する。本発明方法は、パルプ化プロセスから得られる修飾リグニン由来成分を提供する工程と、これを、触媒による酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)又は還元クラッキング(クラッキング及び還元)又は電気酸化を含む分解工程に付す工程とを含む。精製及び任意の環化の後、得られた低分子量芳香族リグニン由来化合物は、好ましくは、単環式又は二環式ヒドロキノン及び/又はキノン化合物などのレドックス活性化合物に更に酸化され、任意に更に誘導体化される。更に、本発明は、本発明方法によって得ることができる化合物、本発明方法を実施するためのアセンブリ、及び現在の技術水準のパルプ及び/又は紙製造工場において前記アセンブリを実施する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、セルロース及びキチンと共に最も豊富に天然に存在する有機材料の1つである(非特許文献1)。合計で、リグニンは、非化石有機炭素の約30%及び木材の乾燥質量の20~35%を構成する(非特許文献2)。一般に、用語「リグニン」は、フェノール性高分子を表し、これは異なるモノマービルディングブロックから構成される。それらは、植物細胞壁の一部であり、植物細胞の木質化を引き起こす硬質生体高分子である。植物の乾燥質量の約20~30%はリグニンからなる。これは、セルロース、ヘミセルロース、及びペクチン成分によって、特に木部仮道管に確立された細胞壁の容積を満たす。典型的には、リグニンはヘミセルロースと共有結合しているので、植物の多糖類を架橋し、細胞壁、ひいては植物全体に機械的強度を付与する(非特許文献3)。したがって、植物の背丈の伸長にはリグニンが必要である。
【0003】
世界規模で消費される木材の約50%が、木枠構造物及び様々なパルプ及び/又は紙製品を製造するために使用されている(非特許文献4)。(紙)パルプを製造する主要な方法は、様々な化学パルプ化プロセスであり、その中でもクラフトパルプ化プロセス(略して「クラフトプロセス」)が最もよく適用されるプロセスである。より小さいスケールでのみ適用されるにもかかわらず、亜硫酸塩パルプ化プロセス(一般に「亜硫酸塩プロセス」と称される)も経済的に重要なものである。いずれも、パルプ化プロセスの副生成物として、クラフトリグニン又はリグノスルホナートのような種々の修飾リグニン由来分子を生成する。更に、ソーダリグニンを生成する「ソーダパルプ化」などの当技術分野における他のプロセス、又は「オルガノソルブ」などの有機溶媒を用いるプロセスも確立されている。しかし、それらは実際上、あまり重要ではない。更に、重要ではないものとして、「蒸気爆発プロセス」、「アンモニア繊維爆発プロセス」、及び「温水プロセス」などの他のパルプ化プロセスがある。
【0004】
適用される任意の化学的パルプ化は、リグニン及びヘミセルロースを溶解及び除去し、木質セルロース繊維を遊離させることを目的とする。典型的には、(一部の)ヘミセルロースも、このプロセスで分解される(非特許文献5)。現在、約7,000万トンのリグニン及び/又はリグニン誘導体がクラフトプロセスによって世界的に製造されており、製造されたリグニンの総量の80%以上を占める。亜硫酸塩プロセスによる亜硫酸パルプ化は、クラフトプロセスよりも先に行われていたが、クラフトプロセスから得られるセルロース繊維強度が上昇したため、大部分がクラフトプロセスに置き換わっている。
【0005】
現在、クラフト又は亜硫酸塩プロセスによって提供される修飾リグニン材料の約99%が、燃焼ユニット、通常はパルプ及び/又は紙製造プラントの現場に設置された燃焼ユニットに送られる。得られた熱は、プラントの内部エネルギー源として使用される。リグニン及び/又はリグニン誘導体を燃焼させることにより放出される熱は、蒸気及び発電に使用され、典型的には、各プラントをエネルギー的に自律させる。
【0006】
しかし、リグニンの過剰供給は、例えば、現在の技術水準におけるクラフトパルプ化プラントでは、よく見られる現象である。これは、そのようなプラントがよりエネルギー効率が良くなったためである。一方、そのようなプラントを運転するためのエネルギー源として必要なリグニンはより少ない(非特許文献6)。この傾向は、今後も続くと予想される。
【0007】
リグニンの過剰供給を低減するために、リグニン含量が低減された木製の遺伝子組換え植物を想定され、試験された。しかし、環境条件が、試験された遺伝子組換え物よりもリグニン含量に大きな影響を及ぼすことが見出された(非特許文献7)。この理由及び他の理由から、より低いリグニン含量の植物を生成する遺伝子組換えは、リグニンがパルプ及び/又は紙製造の豊富な副生成物であり続けると予想されるように、有機リグニン生成を減少させると予想されない。バイオリファイナリー(セルロースバイオマスを液体燃料に転化する)が、地方消費単位によって消費されるよりも実質的に多くのリグニンを副生成物として生成するため、リグニンの過剰供給が促進される可能性さえある(非特許文献8)。
【0008】
パルプ化プロセスの副生成物として典型的に得られるリグニン材料、例えばクラフトリグニン又はリグノスルホナートは、多数の複合リグニン誘導体から構成される。典型的には、「リグノスルホナート」は、亜硫酸塩プロセス(亜硫酸塩パルプ化)のパルプ化液から得られるか、又はクラフトプロセス(硫酸塩パルプ化)によって得られるリグニン由来ポリマーのいわゆるポストスルホン化によって製造することができる。
【0009】
現在、リグノスルホナートなどの修飾リグニン由来成分は、建設、鉱業、及び農業の各産業において、分散剤及び結合剤として主に使用されている。リグノスルホナートの最大の分散剤として使用は、コンクリート用の混和剤であるが、銅鉱山、カーボンブラック、及び石炭は、バインダーとして最も顕著な用途である。下流の市場の需要は、全体的な経済の影響を強く受ける。一部の専門家によって、リグノスルホナートの消費は、2016年末まで平均約2.5%の年率で緩やかに成長すると予測されている。しかし、競合製品は、リグノスルホナートの需要を減少させる可能性がある。その結果、リグノスルホナートの全供給量は、成長を続ける製紙産業及びより効率的なパルプ及び/又は紙製造プラントから生じる修飾リグニン誘導体の量の増加の関数として、更に上昇することが予想できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Sitte et al. 2002; S.353-356
【文献】W. Boerjan et al. (2003).Lignin biosynthesis. Ann. Rev. Plant Biol. 54 (1): 519-549
【文献】Chabannes, M.; et al. (2001). In situ analysis of lignins in transgenic tobacco reveals a differential impact of individual transformations on the spatial patterns of lignin deposition at the cellular and subcellular levels. Plant J. 28 (3): 271-282
【文献】Gellerstedt, G., 2009. The worldwide wood resource, in: Ek, M., Gellerstedt, G., Henriksson, G., (Eds.), Pulp and paper chemistry and technology, Volume 1, Wood chemistry and wood biotechnology. Walter de Gruyter, Berlin, Germany
【文献】Braennvall, 2009 Overview of pulp and paper processes, in: Ek, M., Gellerstedt, G., Henriksson, G., (Eds.), Pulp and paper chemistry and technology, Volume 2, Pulping chemistry and technology. Walter de Gruyter, Berlin, Germany
【文献】J. Lora, 2008. Industrial commercial lignins: sources, properties and applications, in: Belgacem, M.N., Gandini, A., (Eds.), Monomers, polymers and composites from Renewable Resources. Elsevier, Amsterdam.
【文献】E.L. Tilstona, et al., Genetic modifications to lignin biosynthesis in field-grown poplar trees have inconsistent effects on the rate of woody trunk decomposition. Soil Biology and Biochemistry 36 (11), November 2004; S.1903-1906
【文献】A.J. Ragauskas et al., Lignin Valorization: Improving Lignin Processing in the Biorefinery Science,16 May 2014: Vol. 344, Issue 6185, pp.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、例えばパルプ及び/又は紙の製造から生じる過剰の未修飾ポリマーリグニンの転化は、付加価値材料の提供の源であることができる。このようなアプローチは、厳しい研究分野である。この点に関して、本発明の目的は、(未)修飾ポリマーリグニンから出発する付加価値材料の製造のための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、請求される主題によって解決される。特に、本発明の根底にある課題は、第1の態様にしたがって、好ましくは工程(A)~(F)を含む請求項1の方法によって解決される。第2の態様において、本発明は、第1の態様に係る方法によって得ることができる低分子量のリグニン由来化合物に関する。第3の態様において、本発明は、本発明方法の工程(C)~(F)を実施することを可能にするアセンブリに関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
その第1の態様により、本発明は、少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物を製造するための方法であって、リグノセルロース材料を提供する工程(工程A)を含む方法に関する。リグノセルロース材料は、好ましくは細断される。このような材料は、後続の工程(B)においてパルプ化プロセスに付される。工程(C)において、工程(B)で得られたパルプは、パルプ分離工程において、工程(B)におけるパルプ化工程から得られるプロセス流から分離され、実質的にパルプを含まないプロセス流を提供する。実質的にパルプを含まないプロセス流は、修飾リグニン由来成分、ヘミセルロース、反応剤などの無機材料を含む。ここで、修飾リグニン由来成分を含有する本質的にパルプを含まないプロセス流は、単一のプロセス流として提供されてもよく、又は少なくとも2つの(部分)プロセス流に分割されてもよい。後続の方法工程(D)により、工程(C)によって提供されるプロセス流における(代替D.1)又は工程(C)によって提供される少なくとも2つの(部分)プロセス流における(代替D.2)修飾リグニン由来成分のフラクションが、プロセス流及びその/それらの他の成分(例えば、ヘミセルロース及び/又はその加水分解生成物)から単離される。
【0014】
その後、工程(D)の修飾リグニン由来成分の単離フラクションを工程(E)による化学的分解に付し、化学的分解工程(E)は、金属又は半金属成分を含む均一系触媒の存在下での、修飾リグニン由来成分の酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)(代替E.1)により行うことができる。用語「酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)」及び「クラッキング及び酸化」は、本明細書では相互変換可能に使用することができる。或いは、工程(E)による化学的分解は、金属又は半金属成分を含む不均一系触媒の存在下での、修飾リグニン由来成分の還元クラッキング(クラッキング及び還元)(代替E.2)により行うことができる。用語「還元クラッキング(クラッキング及び還元)」及び「クラッキング及び還元」は、本明細書では相互変換可能に使用することができる。最後に、(代替E.3により)修飾リグニン由来成分を、好ましくはアルカリ性又は酸性溶液中での電気酸化に付すことができる。本発明方法は、その最終工程(F)によって特徴付けられ、工程(E)によって得られたリグニン由来生成物が単離工程に付される。これにより、目的化合物、即ち、低分子量芳香族リグニン由来化合物が、例えば高分子量芳香族リグニン成分及び/又は好ましくは他の非リグニン由来残留成分(例えば、無機反応剤を含む)からの単離により精製することができる。
【0015】
したがって、本発明は、そのようなプロセスの副生成物を代表する膨大な量の修飾リグニン由来成分の源としての、現在の技術水準における大規模パルプ及び/又は紙製造プロセスの前例のない組合せに基づく。本発明方法は、(パルプ化プロセス(工程(B))の副生成物としての)前記修飾リグニン由来成分の低分子量リグニン由来化合物への変換又は分解、及びその後の単離、即ち、残留材料からの精製工程を含む。前記方法は、低分子量リグニン由来化合物、好ましくは低分子量芳香族リグニン由来化合物を生成する。それらは好ましくは、方法の最終精製工程(F)の結果、多分散性が低いものである。前記本発明の組合せにより、パルプ及び/又は紙製造において確立されたプロセス工程を、最初のリグニン由来材料を少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物に変換する工程に先立って行うことができる。現在の技術水準における化学を適用することによって、このような化合物を、その後、更に修飾及び/又は誘導体化することができる。その結果、本発明方法は、2つの別個のプロセスを組み合わせる。即ち、パルプ化プロセスの副生成物を、低分子量芳香族リグニン由来化合物の後続の生成のための出発物質として使用することによって組み合わせる。これにより、エネルギー消費が低減され、再生可能な資源を、低分子量芳香族リグニン由来化合物を(理想的には統合されたプラント内で)提供するために有利に使用することができる。これらの化合物は、例えば、レドックス活性化合物の製造のための前駆体となり得るが、これらは、これまでは、(例えば、石油化学的方法による)再生可能でない供給源によってのみ(経済的に)賄われていた。
【0016】
したがって、本発明は、少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物、好ましくは多分散性の低いものを製造する方法を提供する。前記低多分散性は、本質的に、少なくとも1つの単離工程(F)によって(例えば、濾過又は抽出によって)、工程(E)での分解により生じる所望の修飾リグニン由来生成物を単離することにより達成することができる。それにより、本発明の方法は、化学的によく定義された有機化合物、即ち、特殊材料を提供する。特に、それらは、例えば本発明の好ましい実施形態に係るレドックス活性化合物への更なる誘導体化の対象となり得る。このように、本発明は、反応工程(A)~(F)及び任意に更なる下流工程から生じる生成物を提供することが可能な発明方法に関する。この方法は、出発材料としてリグノセルロース材料の再生可能且つ豊富な源を使用する。典型的には、反応工程(A)~(F)から生じる生成物は、それ自体商業的に利用可能である。任意に、工程(F)から生じる生成物を更に誘導体化して、特徴的な性質を有する化合物(例えば、レドックス活性化合物)を製造する。これらは、有利且つ汎用的に使用することができる。
【0017】
「リグニン」は、本明細書では、一般に、異なるモノマービルディングブロックから構成される、木材由来異種フェノール性高分子、又は一群の植物由来フェノール性高分子として理解される。したがって、それは天然コポリマーであると理解される。より具体的には、リグニンは、一般に、非晶質三次元ポリマーとして定義されることができ、これは、主として且つ天然にフェノール性ビルディングブロックから構成される。「天然」状態、即ち、天然のリグノセルロース材料の一部としてのリグニンは、「修飾リグニン」のための本発明方法の出発材料であり、その後の本発明方法の生成物として本明細書に記載される「リグニン由来」目的化合物の出発物質である。
【0018】
リグニンは、典型的には、「β-O-4」、「4-O-5」、より低い頻度では「1-O-4」などの、エーテル(C-O-C)結合で(ランダムに)結合したフェノール性ビルディングブロックとしてのp-クマリル、コニフェリル、及びシナピルアルコールを含む。天然針葉樹及び硬質木材リグニンにおいて最もよく見られる共有結合は、典型的には、「β-O-4」結合であり、これは、トウヒ属(スプルース)の全結合の約45~50%及びカバノキでは最大60%を占める。更に、「5-5」、「β-5」、「β-β」、及び「β-1」などの炭素-炭素(C-C)結合が天然リグニンにおいて生じ得、その中でも、「5-5」結合が最もよく見られるC-C結合であり、特にトウヒ属(スプルース)などの針葉樹においてよく見られる。「β-O-4」、「4-O-5」、及び「5-5」などの典型的な結合を以下に示す。
【化1】
【0019】
本明細書で使用される「ビルディングブロック」は、好ましくは、前記ビルディングブロックを、同じ又は異なる化学構造の別のビルディングブロックに共有結合させて複数の共有結合されたビルディングブロックを形成する少なくとも1つの結合を含む有機部分として理解することができる。好ましくは、本発明に係るビルディングブロックは、「フェノール性ビルディングブロック」、即ち、少なくとも1つのヒドロキシル基(-OH)によって共有結合的に官能化された6員芳香族環を含む任意の部分である。したがって、リグニン「ビルディングブロック」は、典型的には、単環、典型的には芳香族部分によって特徴付けられ、単環は典型的には少なくとも1つの位置で置換されている。典型的には、各リグニンビルディングブロックは、別のビルディングブロックへのリンカーとして作用する1つ又は2つの置換基並びに結合機能を示さない1つ又は2つの置換基を有する炭素環単環を示す。本発明の文脈におけるビルディングブロックは、「モノマー」に対応する。本明細書で使用される「ダイマー」は、典型的には、共有結合した2つのそのようなビルディングブロックを含む。したがって、ダイマーは、典型的には、リンカー基又は結合(ビフェニル環系)によって共有結合した2つの別々の単環式部分によって特徴付けられる。ビフェニル環系(ダイマーの特徴的部分として)が、植物リグニンにおいては、より高い頻度で存在し、幾つかの植物(例えば、スプルース)においては、より高い頻度で存在する。より一般的には、そのようなダイマー化合物は二環のクラスに属する。
【0020】
より多くのそのような共有的に連結又は結合したビルディングブロックは、典型的には、より大きな三次元リグニン構造を形成する。本発明の文脈において、「ポリマー」とは、それが植物に存在する場合、例えば、リグノセルロース材料の一部として存在する場合、天然リグニン分子を意味する。リグニンポリマーは、典型的には、異なるビルディングブロックのコポリマーである。天然のリグニンの「ビルディングブロック」は、「モノマー」に対応する。したがって、ビルディングブロックは、典型的には、天然ポリマーリグニンの(繰り返し)構造部分である。(フェノール性)ビルディングブロックは、典型的には、9個の炭素原子(C9)又は、それほど多くは見られないが、8個の炭素原子(C8)を有する。典型的には、ビルディングブロックは、約130~300Da、好ましくは150~250Da、より好ましくは160~190Daの分子量を有する。好ましくは、それらの基本モノマーC9又はC8構造は、例えば、パルプ化による天然のリグニン修飾プロセスの過程で変化しない。
【0021】
天然リグニンの誘導体として、「修飾リグニン由来成分」は、「クラフトリグニン」又は「リグノスルホナート」などのパルプ化プロセスを受けたリグニン分子である。「修飾リグニン由来成分」は、典型的には、それが由来する天然リグニンよりも低い分子量を有する。しかし、「修飾リグニン由来成分」は、モノマー又はダイマー目的化合物よりも大きく、好ましくは少なくとも1.000Daの分子量を有する。「修飾リグニン由来成分」の性質(及び実際の分子量)は、例えば、出発材料、修飾リグニン由来成分を得るための(パルプ化)方法、本発明方法によって適用される反応条件に応じて大きく異なり得る。しかし、天然リグニン中に存在するように、修飾リグニン由来成分は、例えば、パルプ化プロセスの後、C8又はC9ビルディングブロックから構成されることが一般的である。
【0022】
天然リグニンの複合体及び幾分ランダムな化学構造から、パルプ化プロセスの生成物などのリグニン由来成分は、典型的には不均一であるということになる。パルプ化プロセスは、より多様なリグニン由来成分をもたらし、これらは、典型的には8~150個のビルディングブロックを含むことができる。更に、同数のビルディングブロックを有するリグニン由来成分でも、化学的性質に関しては多様である。これは、異種の天然リグニンポリマーの個々の部分を反映するからである。例えばパルプ化プロセスから得られるリグニン由来材料の化学的及び構造的異質性は、従来技術の方法による均質及び/又は高品質製品の調製を従来妨げてきており、当技術分野においてリグニン由来材料の十分な経済的利用を達成することが困難であった。この従来技術の問題は、本発明の方法によって克服される。
【0023】
それにもかかわらず、パルプ化プロセスは、典型的には、C8又はC9ビルディングブロックに基づく「修飾された」リグニン由来成分を生成し、ビルディングブロックの一部又は全部を修飾することができる。修飾は、好ましくは、パルプ化プロセスによって解離される天然リグニンのビルディングブロックの連結基及び/又はビルディングブロックの置換部位、特にビルディングブロックの芳香族環系において、例えば側鎖修飾又は例えばスルホン化によって行われる。したがって、リグニン由来成分の修飾ビルディングブロックの分子量は、典型的には、天然リグニンポリマーのビルディングブロックの分子量より僅かに高い場合がある。
【0024】
本発明の第1の態様に係る方法は、その工程(A)により、植物起源のリグノセルロース材料を出発原料として提供することを含む。本発明の方法の出発材料であると理解される「リグノセルロース材料」は、セルロース、リグニン、及びヘミセルロースを天然に含む任意の形態の植物バイオマスとして提供することができる。そこでは、セルロース(数百から数千ものβ(1→4)結合D-グルコース単位の直鎖からなる多糖)は、典型的には、ヘミセルロースと共に繊維の足場を形成する。リグニンは、典型的には、この足場内に、典型的にはセルロース及び/又はヘミセルロースに共有結合されずに埋め込まれる。「ヘミセルロース」は、キシラン、グルクロンオキシラン、アラビノキシラン、グルコマンナン、及びキシログルカンなどの幾つかのヘテロポリマー多糖類である。これは、通常、殆ど全ての植物細胞壁にセルロースと共に存在する。セルロースとは対照的に、ヘミセルロースは、通常、殆ど強度がないランダムな非晶質構造を有する。
【0025】
前記リグノセルロース材料は、典型的には、「パルプ」を得る目的での任意のパルプ化プロセスのための出発材料である。「パルプ」は、本明細書では、リグニン又はリグニン由来の成分を含まないか、又はごく微量の残留リグニン成分しか含有しない(好ましくは純粋な)セルロース繊維材料の混合物を本質的に含むと理解される。リグノセルロース材料は、任意の適切な植物起源、例えば、木材、繊維作物、又は古紙の起源に由来することができる。古紙が本発明方法の出発材料として使用される場合、このような古紙は、典型的には、新聞紙などの紙質がより低いものである。これは通常、より多くの残存リグニンを含み、より高品質の紙は典型的にはリグニンを含まない。(木材繊維に代えて)農作物繊維又は農業残留物は、より持続可能な性質のものとして好まれ得る。しかし、木材は木材プランテーションや植林地に由来するパルプの約90%を占める再生可能資源である。非木材繊維源も、季節的利用可能性、化学的回収の問題、パルプの明るさなどの様々な理由から、本発明方法によって(世界規模のパルプ製造用である限り)同様に使用することができる。しかし、非木材パルププロセスは、通常、木材パルププレスよりも多くの水及びエネルギーを必要とする。
【0026】
本発明方法の下流生成物が本質的に変化しないように、好ましくは、細断されたリグノセルロース材料の形態(例えば、木材チップの形態で)で提供されるように、知られた不変特性のリグノセルロース材料が好ましい。「細断された」リグノセルロース材料は、本発明により、有利なことに、天然起源の植物材料から機械的に加工されて、より小さな部分に細断されると理解される。前記リグノセルロース材料は、典型的には、本発明の文脈において好ましいリグノセルロース材料のより小さな部分、即ち、細断されたリグノセルロース材料をもたらす任意の形態の磨砕、粉砕、及び/又はミリングによって処理される。少なくとも15%、より好ましくは少なくとも20%、最も好ましくは20~35%のリグニン含量を有するリグノセルロース材料を使用することが好ましい場合がある。
【0027】
本発明に係るリグノセルロース材料は、好ましくは木材チップの形態で提供される。「木材チップ」は、より大きな木片を切断又はチッピングすることによって作製された中型の固体材料として理解される。特性値(含水量、灰分含量、粒度分布、嵩密度、窒素含量、塩素含量など)は、好ましくは、欧州規格EN14961などの一般に容認された規定を満たすように選択される。化学的パルプ化プロセスのために典型的に使用される木材チップは、本発明方法に好ましく使用されるだけでなく、通常、サイズが比較的均一で樹皮を実質的に有しない。最適なサイズは、木材の種によって異なり得る。主なフラクションの好ましいサイズは、約3~45mmであり、1mm未満の粒子として定義される微細なフラクションは、好ましくは5%未満である。本発明の方法において好ましいパルプ製造に使用される一般的な木材チップは、平均12~25mm(0.47~0.98インチ)の長さと2~10mm(0.079~0.394インチ)の厚みである。物理的欠陥のない繊維がパルプの性質にとって有利であるので、木材繊維の損傷を避けることが好ましい。本発明の方法は、パルプ化プロセスと同じ出発物質を用いるので、出発物質は、本発明方法全体とパルプ化プロセスの両方の要件を満たすべきである。丸太の場合、ディスクチッパーを使用するのが最も一般的である。ここで、「丸太」とは、例えば、FAO Forest Products Yearbookにおける、あらゆる工業用木材(例えば、のこぎり丸太(sawlogs)とベニヤ丸太(veneer logs)、パルプ材、及び他の工業用丸太)及びチップ、粒子、又は木材残留物などの市場で見られる形態を含むと通常定義される産業用丸太として理解される。
【0028】
本発明方法は、その工程(B)によって、好ましくは細断されたリグノセルロース(出発)材料をパルプ化プロセスにより加工することを含む。本発明の文脈において、「パルプ化プロセス」は、木材、繊維作物、又は古紙などのパルプ化プロセスのリグノセルロース出発材料の他の成分からセルロース繊維を化学的及び/又は機械的に分離するプロセスとして理解される。前記パルプ化プロセスは、一般にパルプを生じる。パルプは、パルプ製造プロセスの場合とは対照的に、本発明方法の(本質的にセルロースフラクションを反映する)副生成物である。それは、依然として、セルロース繊維材料の不純物として(少量の)リグニン又はその誘導体を含んでいてもよい。
【0029】
異なるパルプ化プロセスを、本発明の方法のリグニン由来成分中間体を得るための供給原料を提供するための選択の問題として使用することができる。パルプ化プロセスは、使用される方法に応じて、リグノセルロース材料の主成分を分離し、ポリマーをより小さな化合物に分解し、場合によっては他の化学的変化を引き起こす。
【0030】
これらの使用されるパルプ化プロセスは、好ましくは、パルプ及び製紙産業で頻繁に使用されるもの(即ち、クラフト又は亜硫酸塩プロセス)又はオルガノソルブなどの他のプロセスであり得る。各タイプのプロセスは、長所と短所を有する。本発明方法の工程(B)として使用されるパルプ化方法の選択は、分解及び最終的な更なる誘導体化の前の中間体として想定されるリグニン由来成分のタイプに依存し得る。選択されたパルプ化プロセスの「副生成物」として得られる修飾リグニン由来成分は、本発明方法の下流反応による更なる処理(例えば、誘導体化)のために使用することができる。したがって、パルプ化プロセスの選択は、本発明方法によって得ることができる目的化合物を決定することができる。
【0031】
クラフトプロセスは、世界で最も普及したパルプ化プロセスである。それは、典型的には、スルフィド、スルフヒドリル、及びポリスルフィドから選択される塩又は非塩剤の1つ以上を含有する水溶液(典型的には水酸化ナトリウム水溶液)中での高pHパルプ化プロセスである。通常、それは、硫酸塩を更に含む。したがって、クラフトプロセス(a)は、典型的には、スルフィド、スルフヒドリル、及びポリスルフィドからなる群から選択される塩又は非塩剤の1つ以上の剤を含む水溶液の存在下での、より高いpHでのパルプ化プロセスである。典型的には、1つ以上の硫酸塩も添加される。硫化物が使用されるにもかかわらず、通常、パルプ化後の生成物流には、比較的少量の硫黄しか含まれない。クラフトプロセスは、高温且つ高圧で水溶液中で処理されるリグノセルロース出発物質について汎用性がある。これはエネルギー効率がよく、パルプ化プロセスに必要な反応剤などの使用される反応剤の大部分をリサイクルする。前記プロセスは「クラフトリグニン」を生成する。典型的には、修飾リグニン由来成分(クラフトリグニン)は、約2.000~5.000Da、好ましくは2.000~3.000Daの分子量を有する。それらは、追加の官能基及び結合の導入によって潜在的に更に化学的に官能化される、天然の3-Dリグニンポリマーの成分であり得る(例えば、スチルベン)。プロセス中におけるリグニン結合の切断方法の説明を含むクラフトプロセスを取り巻くプロセス化学は、Chakar and Ragauskas Ind Crops Prod 2004,20,131に記載されている。Gierer et al.(Wood Sci Technol.1985、19、289及びWood Sci Technol.1986,20,1)は、クラフトプロセス中の化学的漂白の結果としてリグニンに起こる構造変化を記載している。
【0032】
或いは、亜硫酸塩プロセスを用いることができ、これは、世界で2番目に普及したパルプ化プロセスである。これは、典型的には、1つ以上の亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の基又はアニオンを示す1つ以上の塩又は非塩剤を含む水溶液中における低pHパルプ化プロセスである(pH2~12の間で実施することができるが)。亜硫酸塩プロセスの場合、リグノセルロース出発材料は、高温及び高圧で水溶液中で処理される。このプロセスは、典型的には水及び幾つかの極性の高い有機物及びアミンに可溶である「リグノスルホナート」を生成する。リグノスルホナートは、典型的には「クラフトリグニン」よりも水溶性である。亜硫酸塩パルプ化は、典型的にはクラフトパルプ化よりも非破壊的である。即ち、天然リグニンポリマーは、クラフトパルプ化における対応する成分よりも大きい修飾リグニン誘導成分に分解される(特に、より高い平均分子量及びより高いモノマー分子量を示す)。したがって、「リグノスルホナート」は、典型的には、約3.000~100.000Da、好ましくは5.000~20.000Daの分子量を有する。
【0033】
更なる代替としての「オルガノソルブプロセス」は、典型的には、木材又はバガスを各種有機溶媒で処理することによって実施される。「バガス」は、植物材料(例えば、サトウキビ)が粉砕され、ジュース又は樹液が抽出されたときに残存している繊維状残渣である。「Alcellプロセス」は、最もよく知られたオルガノゾルプロセスの1つである。これは、エタノール又はエタノール/水混合物のいずれかにリグニンを溶解することを含む。オルガノソルブプロセスの利点は、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニンの別々のプロセス流を自動的に生成することができる点である。それにより、リグノセルロースバイオマス出発材料の全ての成分を個別に処理することができる。このプロセスは、より一般的なクラフト又は亜硫酸塩プロセスで使用される攻撃的な反応剤(例えば、硫化物)及び過酷な条件を使用しないので、一般に環境的に魅力的であると考えられている。オルガノソルブプロセスは、典型的には、修飾リグニン由来成分としてオルガノソルブリグニンを生成するが、これは本発明の更なる下流反応工程で使用することができる。オルガノソルブリグニンは、典型的には、硫黄含有量が低い。これは、約1.000~2.000Daの低分子量を有する。また、典型的には、他のパルプ化プロセスから得られるリグニン由来成分よりも高い純度を有するものである。オルガノソルブプロセスの欠点は、溶媒回収にかかるコストである。
【0034】
本発明で用いることができる別のパルプ化プロセスは、加圧下での蒸気含浸と、それに続くリグノセルロース成分を分離する急速な圧力解放とを含む「蒸気爆発プロセス」である。3Dリグニンの共有結合も切断され、リグニン由来フラグメントの複合混合物が得られる。典型的には、木材又はバガスを、急速圧力解放前に、過圧及び高温、例えば、全圧1.38~3.45MPa、温度約453~503Kにて、約1~20分間蒸気に曝露する。蒸気爆発プロセスによって得られるリグニンフラグメントの分子量分布は、典型的にはオルガノソルブプロセスと同様である。更に、このプロセスは、硫黄を使用せず、プロセス流の分離も可能である。
【0035】
リグノセルロース材料の熱分解(工程(B)の更なる代替)は、一般に、熱分解されたリグニン由来フラグメントをもたらし、これはまた、本発明によって使用される修飾リグニン由来の成分とも考えることができる。熱分解プロセスは、典型的には、比較的高い温度、典型的には少なくとも600K、例えば720~750Kなどを用いる。煙道ガス及び灰以外の廃棄物はプロセスによって生成されないが、プロセスの燃料供給のために多くのエネルギー消費が必要である。熱分解リグニンは、他の「パルプ化プロセス」から得られたリグニン成分とは著しく異なる構造特性を示す。これは、C9ビルディングブロックではなくC8ビルディングブロックを含み、潜在的に本発明に係る特有の下流反応を可能にする。これにより、他のプロセスでは利用できない特定の芳香族炭化水素が目的化合物として利用可能となる。
【0036】
木材又は植物のバイオマス又は出発物質から(修飾)リグニンを単離するための他の幾つかの方法、例えば、「アンモニア繊維爆発」(AFEX)プロセス及び「温水プロセス」を含む当技術分野において記載されている。これらも、サブ工程(B)として用いることができ、Bozellら(Top Value Added Candidates from Biomass. Volume II: Results of Screening for Potential Candidates from Biorefinery: Lignin; Pacific Northwest National Laboratory: Richland, WA, 2007)及びKammら(Biorefineries -Industrial Processes and Products; VCH: Wcinheim, Germany, 2006; Vol. 2)によって詳細に記載されている。最後に、本発明方法の工程(B)の更なる選択肢としての「希酸プロセス」は、リグニンを他のバイオマス成分から効果的に分離することができる。しかし、より低い収率となり得る。装置の腐食(酸性環境による)も問題になり得る。「アルカリ酸化プロセス」は、リグニンを分解するためにO2又はH2O2を使用することができる。しかし、このプロセスは、脱リグニン速度が遅くなることがある。希酸プロセス及びアルカリ酸化プロセスはいずれも、オルガノソルブリグニンと同様の分子量(分布)を有する修飾リグニン由来成分を提供することができる。更に、本発明方法は、その工程(C)により、工程(B)から得られるプロセス流から(及び想定される修飾リグニン由来成分から)工程(B)により得られるパルプをパルプ分離工程において分離する工程を含む。これにより、工程(B)のプロセス流は、(i)修飾リグニン由来成分、ヘミセルロース、及び/又はそれらの任意のフラグメントの濃縮されたフラクションを含む実質的にセルロースを含まない流、及び(ii)本明細書において、(濃縮された)セルロース繊維材料の混合物を本質的に含むと理解されるパルプに変換される。パルプフラクションは、乾燥物として又はパルプ含有流として工程(C)によって分離することができる。パルプ又はパルプ含有流は、例えば製紙のための現在の技術水準における技術にしたがって更に処理される。修飾リグニン由来成分のフラクションを含む流は、前記修飾リグニン由来成分の単離のための本発明方法の工程(D)に付される。
【0037】
本明細書においては、「流」又は「プロセス流」は、一般に、後続の方法工程のための出発(プロセス)材料となる、先行する方法工程から得られる本発明方法の中間体を含む液体媒体として理解される。一般に、流は、液体媒体中に溶解、懸濁、又は分散された成分を含む。均質な性質の成分を反映して、(プロセス)流の異なるフラクションを得ることができ、これらは、分画によってプロセス流から単離することができる。
【0038】
「フラクション」は、全体の一部、又はより一般的には任意の数の(等しい)部分の一部を表すことができる。特に、フラクションは、本明細書では、本発明に係る(プロセス)流の一部であり、典型的には少なくとも2つの異なるフラクションを含むものと理解される。
【0039】
したがって、異なるフラクションは、修飾リグニン由来成分(例えば、クラフトリグニン又はリグノスルホナート)などの(残留)セルロース材料及び非セルロース材料、並びにヘミセルロースを含む有機物であることができる。更に、本発明に係る流のフラクションは、プロセスを実施するために必要な無機反応剤(例えば、無機緩衝塩)であってもよい。典型的には、体積と質量の両方が最大の別のフラクションが溶媒/分散剤である。溶媒は、通常、パルプ化プロセスに由来する水性溶媒/分散剤であり、工程(B)に続く工程で希釈又は濃縮されてもよく、本明細書では、本発明に係る流に運ばれる全乾燥塊の一部を生成すると理解される。本発明の文脈において特に重要なフラクションは、修飾リグニン由来成分のフラクションである。
【0040】
本明細書中で使用される場合、用語「リグニン由来材料」は、本発明に係るプロセス工程(B)以降の、1つ以上のプロセス工程を経たリグニンに関して最も広い意味を有する。ここで、「由来する」材料は、本発明に係る化学的誘導体として理解されなければならない。リグニン由来材料は、天然のリグニンポリマーよりも低分子量のものであってよく、低分子、即ち、本明細書に使用される低分子量化合物を含む。これに関して、本発明に係る「リグニン由来成分」及び「リグニン由来化合物」はいずれもリグニン由来の材料である。
【0041】
「修飾リグニン由来成分」は、本発明方法の工程(B)にしたがうパルプ化プロセスを経たリグニン分子として本発明の文脈において理解されなければならない。これにより、例えば、分子量及び/又は水への溶解度が異なっていてもよい。典型的には、エーテル結合のような分子内結合は、リグニン内で分解される。したがって、巨大分子は、通常、サイズ、即ち、分子量が減少する。対照的に、「ネイティブの」リグニン分子出発材料、即ち、パルプ化プロセスによって(まだ)修飾されていないリグニンは、典型的には、修飾リグニン由来成分よりも大きい。これに加えて又はこれに代えて、スルホナート基などの親水性基をリグニン分子に導入することができる。したがって、典型的な修飾リグニン由来成分は、例えば、クラフトリグニン及びリグノスルホナートであるが、更なるパルプ化プロセスから生じる他のリグニン誘導体(オルガノソルブリグニンなど)も本発明の文脈に含まれる。これらは、例えば、ソーダリグニンを生成するソーダパルプ化、オルガノソルブリグニンを提供するオルガノソルブなどの有機溶媒を含むプロセス、更には、修飾リグニンをそれぞれ提供する蒸気爆発プロセス又はアンモニア繊維爆発プロセス及び温水プロセスなどのより低頻度のプロセスであることができる。したがって、本明細書において、修飾リグニン由来成分は、典型的には、本発明方法の好ましい生成物である低分子量リグニン由来化合物ではなく、リグニン誘導体を意味するために使用される。
【0042】
(化学的)「誘導体」は、典型的には、化学反応によって類似の化合物に由来する化合物である。したがって、本明細書において、1つの原子又は原子団が別の原子又は原子団に置き換わる場合、誘導体は、別の化合物から生じることが想像できる化合物と理解できる、即ち、この用語は、構造アナログとして理解することができる。用語「構造アナログ」は、有機化学において一般的である。
【0043】
典型的には、本明細書で使用される「修飾リグニン由来成分」は、(プロセス)「流」のフラクションとして存在する。そのような流は、残留物又は廃棄物、及び目的の中間体が好ましくはそれから単離される溶媒及び/又は分散剤を含み得る。典型的には、溶媒及び/又は分散剤は、次の方法工程への「流」として送られる材料の総重量の少なくとも50%(w/w)を占める、又は少なくとも60%(w/w)、又は少なくとも70%(w/w)、又は少なくとも80%(w/w)、又は少なくとも90%(w/w)、又は少なくとも95%(w/w)を占める。溶媒及び/又は分散剤は、典型的には水性媒体であるが、パルプ化プロセスに応じて有機溶媒であってもよい。一般に、流は、先行する方法工程からより下流の方法工程に一方向に流れる。本発明の方法の最終工程までの流の必要なフローを容易にするために、典型的には、弁、ポンプ、及び/又は重力補助手段を使用することができる。
【0044】
本発明方法は、パルプ化工程(B)からのプロセス流からパルプを分離するための工程(C)を含む。典型的には、パルプ化の際に、リグノセルロース材料中のリグニンがより小さな分子に分解され、これはパルプ化液により可溶である。セルロースは僅かな程度にまでしか分解されないが、個々のセルロース繊維は、パルプ化プロセス中に細断されたリグノセルロース材料から分離し、天然リグニンよりもパルプ化液に溶解し得る。結果として、残留セルロースの足場が残る。しかし、様々な程度で、セルロース繊維はまた、分散形態で、即ち、繊維のより大きな足場構造中ではなく、液体中に存在する。
【0045】
本発明方法の工程(C)において、好ましくは、足場及び分散セルロース繊維の両方をプロセス流から分離する。足場に存在するセルロースを分離する好ましい実施形態は、工程(B)のパルプ化を受けた細断されたリグノセルロース材料のセルロース足場を、回収タンク(「ブロータンク」)に「吹き込む」ことである。残留セルロース足場は、通常、大気圧で動作するブロータンクに吹き込むことができる。この吹き込みは、典型的には蒸気及び揮発性物質を放出する。揮発性物質は、本明細書では、通常の室温で高い蒸気圧を有する有機化学物質として理解される。典型的には、それらは個々の臭いによって特徴付けられる。揮発フラクションは、凝縮して回収することができる。本発明の出発材料として「北方針葉樹」を使用する場合、揮発性フラクションは、典型的には生テルペンチン(raw turpentine)を含む。
【0046】
工程(C)におけるパルプ分離は、好ましくは、吹き込まれた残留セルロース足場の一部として吹き込まれなかったセルロース(例えば、分散されたセルロース繊維)を液体から分離することを更に含むことができる。工程(C)に係るパルプ分離は、異なる篩又はスクリーン及び/又は遠心分離を含むことができる。篩は、典型的には、多段階のカスケード状のアセンブリで配置される。このような配置により、好ましくは、相当量のパルプが、本発明方法の目的とするフラクション(即ち、修飾リグニン由来成分のフラクション)を含むプロセス流から捕捉、分離される。
【0047】
プロセス流(任意に吹き込み、篩い分け、及び/又は濾過の対象となる)はまた、パルプを分離するための1回以上の洗浄工程に付すこともできる。これにより、(残留)分散セルロース繊維がプロセス流から分離される。通常、パルプミルは、3~5回の洗浄段階を連続して含む。本明細書で使用されるとき、パルプ洗浄は、典型的には、パルプが洗浄水のフローと反対の方向に動くように、2つの後続の段階の間に向流を使用するパルプ洗浄機によって行われる。洗浄水は、本発明に係る目的とする修飾リグニンを含むプロセス流の一部となるが、セルロースは効果的に分離され、製紙のような従来の使用のために用いられる。濃化/希釈、置換、及び拡散などの様々な技術をパルプ洗浄に用いることができる。洗浄装置は、例えば、圧力拡散器、大気拡散器、真空ドラム洗浄器、ドラムディスプレーサ、及び洗浄プレスを含むことができる。
【0048】
前記分離工程(1回又は複数回)は、工程(C)の結果として実質的にパルプを含まないプロセス流を提供することができる。ここで工程(D)における更なる処理のために供給される前記パルプを含まない流は、クラフトプロセス又は「褐色液」を適用するとき、工程(B)に亜硫酸塩プロセスを適用するとき、通常、(その色から)「黒液」と称される。それは、典型的には、修飾リグニン由来成分及びそのランダムフラグメント(即ち、パルプ化プロセス中に形成されるが、典型的な修飾リグニン由来成分よりも低い分子量を有するリグニン由来分子)及びヘミセルロースの加水分解生成物を含む。ヘミセルロースは、典型的には、任意のパルプ化プロセスにおいて、例えば、酸性又はアルカリ性媒体中で加水分解され、いずれもパルプ化液及び/又はプロセス流に通常溶解している、ポリ又はオリゴ多糖フラグメント又はその単糖類又は二糖類などのヘミセルロースより小さいフラグメントを生成する。更に、パルプ化プロセスに使用される反応剤の残留成分としての有機塩は、本質的にパルプを含まないプロセス流、例えば炭酸ナトリウム及び/又は硫酸ナトリウム中に含まれていてもよい。
【0049】
本発明方法の工程(D)により、修飾リグニン由来成分のフラクションは、工程(C)から得られる本質的にパルプを含まないプロセス流の前記成分から単離される。工程(D)に入る工程(C)のプロセス流は、単一流(代替D.1にしたがう)又は少なくとも2つの流(代替(D.2)にしたがう)のいずれかによって提供することができる。
【0050】
(代替D.2にしたがって)2つ以上の(部分)流を提供することによって、それを制御することができ、この量の修飾リグニン由来成分が、本発明方法にしたがって更に処理される。したがって、代替(D.2)における流分離は、プロセスの流量及び回転率を決定する際に、本発明方法を微調整するためのツールである。流を2つ以上の部分流に分割することにより、下流のプロセス工程(E)及び(F)への修飾リグニン由来成分の供給、又は(例えば、パルプ化プラントの)エネルギー供給のための燃焼のためのその(従来の)使用も制御することができる。
【0051】
前記分割工程の結果、各部分流の各流速の合計は、典型的には、分割工程前の流速に等しい。2つ以上の部分流それぞれの流速は、例えば、分岐前の初期のパルプを含まないプロセス流の流速の最大50%、33%、25%などに相当することができる。或いは、部分流の1つが他の部分流よりも高い流速を示してもよい。流速の典型的なパーセント比は、5:95、10:90、15:85、20:80、25:75、30:70、35:65、40:60、及び55:45であることができる。例えば、3つの部分流に分割される場合、各プロセス流は、流の流速の3分の1に対応する流速を有することができる。或いは、1つ又は2つの部分流は、部分流の流速の合計が好ましくは初期流の流速と等しければ、第3の流よりも高い又は低い流速を有することができる。これにより、例えば、全ての部分流に含まれる修飾リグニン由来成分が、エネルギー源として(従来の)燃焼に同時に供給することができ、本発明方法に係る更なる処理及び例えば貯蔵設備(例えば容器)供給することができる。したがって、前記流の分割は、プラントの状態及び方法の全体としての回転率に応じて、好ましくは余分な廃棄物を発生させることなく汎用性及び効率を前記方法に加える「バッファ容量(buffer capacity)」を提供することができる。
【0052】
工程(D2)にしたがう更なる処理のために流を分割することは、流体処理技術の分野で知られた技術的手段によって行うことができる。好ましくは、分割手段は、工程(C)の流の規定部分を2つ以上、3つ以上、又は4つ以上の部分流に機械的に分割することができるように調整可能である。分割手段は、フラップ、ハッチ、クラック、蓋、バルブ、ダンパー、又はシャッター、又はそれらの組合せから選択することができる。前記手段は、電気的及び/又は油圧的(hydraulically)に動作することができる。或いは、流は、真空及び/又は加圧ガスによって部分流に分割されてもよく、即ち、流の部分が、2つ以上の流路に吸引又は吹き込まれてもよい。ここで、通路は、それぞれの流をその次の段階に通す任意形態のダクトとして理解される。分割手段及び/又は部分プロセス流を導く通路は、通常、非腐食性の金属、好ましくは被覆又は非被覆ステンレス鋼で形成される。
【0053】
本発明方法の工程(D)により、修飾リグニン由来成分の全部又は一部が、それから単離される(代替(D.1))又は少なくとも2つのプロセス流の少なくとも1つから単離される(代替D.2))。代替工程(D.1)により、単一プロセス流からの修飾リグニン由来成分のフラクションの単離は、適用される単離手段によって制御することができ、例えば、工程(D.1)における設定を規定する、沈殿剤の量、pH、抽出又は濾過特性などの、適用されるパラメータによって制御される。したがって、工程(D.1)は工程(D.2)より柔軟性が低く、より複雑な制御作業が必要となる。したがって、生成物流を部分生成物流に分割することは、本質的にパルプを含まないプロセス流に含まれるフラクションについて想定される収率の制御にフレキシビリティを加える。したがって、代替工程(D.2)によって、修飾リグニン由来成分のフラクションの単離が、工程(C)の段階で提供される1つ以上の部分流に適用される。或いは、プロセス流からの修飾リグニン由来成分のフラクションの単離、即ち、制御された除去を、必要に応じて、全ての部分プロセス流に適用することができる。典型的には、工程(C)によって与えられる本質的にパルプを含まないプロセス流が2つの部分プロセス流に分割され、そのうちの1つがプロセス流からの修飾リグニン由来成分のフラクションの単離に付され、他の部分プロセス流が燃焼及び/又は他の用途のために使用される。
【0054】
特に、修飾リグニン由来成分のフラクションをプロセス流の溶媒及び/又は分散剤から単離して、修飾リグニン由来成分のフラクションを乾燥物として得ることができる。次いで、後続の方法工程で更に処理されるように、適切な溶媒に再溶解するか、又は適切な分散剤、例えば、水性溶媒又は分散剤に分散させてもよい。或いは、修飾リグニン由来成分のフラクションを濃縮してもよい。これは、濃縮された溶液又は分散液が得られるように、例えば、修飾リグニン由来成分のフラクションの溶媒及び/又は分散剤含量を減少させることによって行われる。
【0055】
工程(D)の単離は、固体-流体分離又は流体-流体分離の分野で使用される適切な手段によって行うことができる。単離は、例えば、濾過、抽出、向流分離、及び沈殿を含み得る。任意の技術を本発明の工程(D)にしたがって使用して、単離された修飾リグニン由来成分の量を制御することができ、その後、更なる処理に付すことができる。
【0056】
工程(D)によって濾過が適用されるか否かは、修飾リグニン由来成分が流体相に溶解されるか又は固体成分として懸濁されるかに依存し得る。懸濁又は分散した固体、即ち、約1μm超のサイズの分散粒子を分離するために濾過を用いることが好ましい。濾過によって、サイズを超える固体粒子が、典型的には、修飾リグニン成分の性質、その粒径、及びフィルタのカットオフに依存する収率で膜に保持される。
【0057】
「濾過」は、本明細書においては、透過性膜による膜技術を含む物理的な精製又は濃縮方法として理解される。膜は、それらの名目上のポアサイズによって特徴付けられる。これは、典型的には、最大ポアサイズ分布を記述する。このパラメータは、膜の保持容量に関する曖昧な情報しか提供しないので、膜関連濾過の分離特性を特徴付けるパラメータとしては、通常「カットオフ」が使用される。膜の排除限界、即ち「カットオフ」は、通常、NMWC(名目上の分子量カットオフ又はMWCO、分子量カットオフ、ダルトン(Da)単位)の形で特定される。これは、膜によって90%まで保持される球状分子の最低分子量として一般に定義される。実際には、膜のMWCOは、分離すべき分子の分子量の少なくとも20%未満でなければならない。例えば、分子量が例えば500Daの低分子を通過させるには1kDaのフィルタが適しているが、分子量が例えば2,000Daのより大きな修飾リグニン由来成分は通過できない。
【0058】
好ましくは、工程(D)において、工程(B)で得られた分散又は懸濁リグニン由来成分を単離するために濾過が用いられる。フィルタのカットオフは、目的とする修飾リグニン由来成分及びプロセス流中の他の成分の分子量を識別するのに適しているように設定される。他の成分は、目的とする成分よりも大きい(例えば、修飾リグニン由来成分よりも高い分子量を有する残留天然リグニン及び/又はそのフラグメント)又は小さい(例えば、パルプ化プロセスの反応剤、加水分解ヘミセルロース)ものであることができる。目的とする修飾リグニン由来成分がプロセス流中の他の全ての成分よりも分子量が大きいものである場合、フィルタは、目的とする成分が典型的にはフィルタ中に保持されるカットオフを有するように選択される。或いは、他の成分の分子量が修飾リグニン由来成分よりも大きい場合、カットオフは、典型的には、目的とする成分が典型的には濾液中に存在するように選択することができる。
【0059】
典型的には、単離工程(D)における濾過は、(異なる)濾過工程の組合せであることができる。ここで、例えば、1つの工程において、フィルタのカットオフを、修飾リグニン由来成分の分子量よりも高くなるように選択する。したがって、より高分子量の他の成分がフィルタ中に保持され、修飾リグニン由来成分が濾液中、即ち、残留プロセス流中に残る。別の工程では、残留プロセス流を第2の濾過に付すことができ、ここで、カットオフは、修飾リグニン由来成分の分子量よりも低く選択される。したがって、目的とする修飾リグニン由来成分は、フィルタ内に保持され、それにより残留プロセス流から単離される。これにより、目的とする成分は乾燥物質として得られ、その後、更なる処理のために溶解することができる。
【0060】
プロセス流内の異なるフラクションの分子量が異なるほど、より効果的に濾過による単離を行うことができる。例えば、クラフトプロセスは、典型的には、亜硫酸塩プロセスよりも低分子量の修飾リグニン由来成分(クラフトリグニン)を生成するので、高分子量のリグニン由来材料、例えば、工程(D)における未修飾又は再重合リグニン由来材料又は他のデブリからクラフトリグニンを除去するのに濾過が非常に好ましい。
【0061】
或いは、有機溶媒などによる抽出を行うことができる。本明細書において、「抽出」は、典型的には、目的物質をその環境から分離することを含む分離プロセスである。液体-液体抽出及び/又は固相抽出を含むことができる。抽出は、溶解した修飾リグニン由来成分を元の相から別の成分に分離するために、2つの不混和相を使用することができる。抽出によって、有機化合物が水相から有機溶媒によって抽出される。抽出のための一般的な溶媒は、酢酸エチル(最低極性)から水(最高極性)まで極性によって分類される:酢酸エチル<アセトン<エタノール<メタノール<アセトン:水(7:3)<エタノール:水(8:2)<メタノール:水(8:2)<水(ヒルデブランド溶解度パラメータのオーダー)。抽出フラクション(即ち、成分)を含む溶液は、遠心式エバポレーター又は凍結乾燥機を用いて乾燥することができる。
【0062】
例えば、クラフトリグニンは、適切な有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、アセトン、及びそれらの当技術分野で知られた水性混合物)中よりも水性媒体中で溶解性が低い場合には、プロセス流から工程(D)によって抽出することができる。
【0063】
代替の抽出技術としては、超臨界二酸化炭素抽出、超音波抽出、熱還流抽出、マイクロ波支援抽出、即時制御圧力降下抽出(instant controlled pressure drop extraction)(DIC)、及びパーストラクション(perstraction)を挙げることができる。これらの中でも、パーストラクションが好ましい場合がある。典型的には、「パーストラクション」は2つの液相を含み、1つの相だけが抽出溶媒を含む。パーストラクションは、従来の二相抽出技術よりも穏やかで、速く、安価であるという利点がある。「ストリッピング」は、修飾リグニン由来成分のフラクションをプロセス流から単離することを可能にする別の穏やかな抽出代替として使用することができる。「ストリッピング」は、一般に、物理的分離プロセスであり、1つ以上の成分が蒸気流によって液体流から除去される。工業用途では、液体及び蒸気流を並流又は逆流流として使用することができる。ストリッピングは、通常、充填カラム又はトレイカラムのいずれかで行われる。
【0064】
工程(D)における修飾リグニン由来成分のフラクションの単離は、一般に、向流によって、逆方向にフローを供給して達成することができる。本発明方法の場合、濃度勾配に沿った溶解した修飾リグニン由来成分の濃度を想定することができる。向流交換方法は、2つのフローの勾配を接触ゾーン全体に対して本質的に安定に維持することができる。したがって、向流フローは、溶解した修飾リグニン由来成分を単離するために特に適しており、分散された修飾リグニン由来成分に対してはあまり好ましくない。
【0065】
更に、沈殿を単離方法として用いて、固体フラクションを溶液から単離することができる。また、沈殿を用いて、沈殿剤の添加量及び/又はpHの選択することによって、沈殿する修飾リグニンの量を(所定時間ウィンドウ内で)制御することができる。好ましくは、工程(D)の沈殿は、カチオン、好ましくは二価又は多価カチオン、最も好ましくはカルシウムの添加によって行うことができる。
【0066】
本発明によって更には使用されない修飾リグニン由来成分の残りは、製紙プロセスに導かれてもよいし、エネルギー供給などの他の用途に供されてもよいし、後に使用するために貯蔵してもよいし、廃棄してもよい。
【0067】
工程(D)における沈殿は、リグノスルホナート又は同等に、スルホン化クラフトリグニンに特に好ましい場合がある。pHによる沈殿は、例えば、リグノスルホナートの場合、あまり好ましくない。これは、通常、全pH範囲に亘って水に可溶であり、pH調整によって容易に単離できないからである。しかし、カルシウム塩添加による沈殿が好ましい場合がある。例えば、過剰の石灰(即ち、炭酸塩、酸化物、及び水酸化物が一般に主成分であるカルシウム含有無機材料)をプロセス流に添加して、リグニンスルホン酸カルシウムが沈殿するようにすることができる。このプロセスは、一般に、Howardプロセスとして知られる。これは、知られている最も単純な回収方法である。典型的には、流のリグノスルホナートの最大95%を沈殿によって単離することができる。クラフトプロセス(「クラフトリグニン」)から生じる修飾リグニンは、工程(B)でスルホン化され、その後、石灰沈殿などに付すことができる。
【0068】
本発明方法の工程(E)において、工程(D)の修飾リグニン由来成分の単離フラクションを化学的(及び任意に物理的)分解工程に付す。この反応は、より高分子量の修飾リグニン由来成分のフラクションを、初期リグニンポリマーの構造要素又はユニットによって特徴付けられるより低分子量の化合物に転化することができる。工程(3)は、修飾リグニン由来成分の分解反応に対応し、典型的に芳香族性の好ましくは低分子量化合物の不均一集合体を生じる。
【0069】
修飾リグニン由来成分のより小さなサブユニットへの分解は、リグニンの価値化の重要な工程である。より小さなサブユニットは、好ましくは、所望の目的化合物に類似してよく、芳香族環上の様々な官能基を、例えば、本発明方法の工程(G)における更なる触媒変換に供することができる。
【0070】
化学分解は、工程(D)で単離された修飾リグニン由来成分の酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)(代替E.1)を含む。典型的には、このような分解は、均一系の金属イオン系又は半金属系の触媒の存在下で行われる。代替工程(E.2)では、還元クラッキング(クラッキング及び還元)を適用して、不均一系の金属イオン系又は半金属系の触媒の存在下で修飾リグニン由来成分を分解する。代替(E.3)では、前記工程は、修飾リグニン由来成分のアルカリ性又は酸性溶液中での電気酸化によって特徴付けられる。或いは、酵素的に分解を行うこともできる(E.4)。別の可能性は、光酸化を適用することである(E.5)。更なる代替によれば、イオン性液体中で分解を行うことができる(E.6)。
【0071】
「化学分解」は、典型的には、より高分子量の出発材料の化学的及び/又は物理的分解による複数の低分子量化合物を提供することとして理解される。典型的には、そのような反応は、より高分子量の出発物質のフラグメント又は部分を含む化合物を生じる。化学分解は、化学分析によって、例えば、マススペクトロメトリ、重量分析、及び熱重量分析によって検証することができる。好ましくは、本発明方法による分解は、触媒反応によって、又は電気分解的に行われる。本発明によれば、熱分解も同様に用いることができるが、あまり好ましくない。これは、通常、より広いスペクトルの多様な低分子量リグニン由来化合物を生じるからである。分解後のこれらの化合物のより大きなフラクションは、工程(A)で提供される天然リグニンポリマーのビルディングブロックの芳香族環系を反映する芳香族性を有するものである。
【0072】
分解により、(修飾された)リグニン由来ビルディングブロックを含むリグニン由来生成物の不均一集合体が得られる(即ち、「モノマー」又は「ダイマー」、好ましくはビフェニルダイマー)。ここで、得られた修飾リグニン由来生成物は、モノマー及びダイマーから本質的になることが好ましい。即ち、工程(E)で得られたリグニン由来生成物が、より大きい(オリゴマー)修飾リグニン由来フラグメントを含まず、修飾リグニン由来モノマー及びダイマーのみを含むことが好ましい。工程(E)によって転化された高分子量修飾リグニン由来成分、好ましくは化学的に修飾されたリグニンポリマー(例えば、リグノスルホナート及びクラフトリグニン)は、適切な触媒の存在下で(例えば、酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)/還元反応で)及び/又は電気酸化に付されたときに、高温で(好ましくは例えば1000℃の熱分解温度未満(例えば、少なくとも300℃、好ましくは少なくとも400℃、より好ましくは少なくとも400~500℃))で制御可能に分解する。
【0073】
一般に、「クラッキング」は、例えば、熱、触媒、電流、及び/又は溶媒の影響下での任意のタイプの分子解離を表す。修飾リグニン由来成分(例えば、リグノスルホナート)の単離フラクションの「クラッキング」は、工程(E.1)又は(E.2)の分解又は分解の根底にある反応として理解される。 クラッキングの速度論及びその反応生成物は、典型的には、適用される温度及び/又は触媒に依存する。更に、クラッキングから生じる生成物の集合体は、分解反応の出発物質として使用されるリグニン由来フラクションの性質に依存する。したがって、修飾リグニン由来成分のフラクション、例えば、クラフトリグニン又はリグノスルホナートは、工程(E)により、熱分解温度よりも著しく低い温度での触媒反応、又は電流、好ましくは電気酸化に付すことができる。
【0074】
「酸化」は、工程(E.1)に係る分解反応に関わる。本明細書においては、「酸化」とは、電子の損失を伴う反応を意味する。より具体的には、この用語は、酸素含有官能基(例えば、ヒドロキシル基)の導入を意味する。本発明の方法では、芳香族環系は、典型的には、酸素含有官能基及び/又はオキソ基によるヒドロキシル基の置換によって官能化される。酸化は、典型的には酸化剤によって達成される。酸化剤は、他の種から電子を除去する任意の化学種に(より一般的には)対応し得る。より具体的には、(電気陰性の)酸素を基質に移動させる。
【0075】
「触媒作用」は、工程(E.1)及び工程(E.2)に関わる。典型的には、活性化エネルギーを低下させる触媒の存在によって化学反応の反応速度を高めることができる。
【0076】
工程(E.1)における(修飾された)リグニン由来成分の酸化に好ましい触媒は、触媒活性カチオンを有する塩などの金属イオンを含む触媒、又は配位(金属又は半金属)錯体である。一般に、「配位錯体」は、(例えば、金属イオン又は半金属イオンなど)金属又は半金属原子であることができる中心原子からなることが、化学において通常知られている。これは、配位中心と呼ばれる。結合した分子又はイオンの周囲空間は、リガンド又は錯化剤として知られている。或いは、触媒は、配位中心としてホウ素などの半金属原子を有する配位錯体を含む半金属性のものであることができる。特に、工程(E.1)にしたがって使用される触媒は、均一系触媒であるが、不均一系触媒であってもよい。一般に、均一系触媒作用は、触媒が反応物と同一相にある触媒反応に基づく。より具体的には、均一系触媒を、溶液中における触媒作用のために溶解する。
【0077】
本発明方法の工程(E.1)のための不均一系触媒としては、TiO2、Pt/TiO2、Fe(III)/TiO2、Pd/Al2O3、Ni/MgO、CH3ReO3、Cu-Ni、Cu-Mnm、Cu-Co-Mn、Cu-Fe-Mn、Cu-Ni-Ce/Al2O3、Cu-Mn/Al2O3が挙げられる。
【0078】
本発明方法の工程(E.1)のための均一系触媒としては、以下の非限定的な適切な触媒の例から選択することができる。
【0079】
本発明方法の工程(E.1)に適用できる均一系触媒としては、遷移金属塩によるポルフィリンの金属化から形成された触媒などのメタロポルフィリンが挙げられる。本発明方法の工程(E.1)における触媒としてのメタロポルフィリンとしては、Mn(TSPc)Cl、Fe(TSPc)C、Fe(TF5PP)Cl、CoTSPc、FeTSPc、Rh(TSPP)、Fe(TF5PP)Cl、及びMn(TSPP)Clが挙げられる。CrestiniとTagliatestaは、メタロポルフィリン錯体を用いるリグニンの酸化に関する広範な概説を提供している(Crestini and Tagliatesta. The Porphyrin Handbook; Kadish, K. M., Smith, K. M., Guilard, R .. Eds.; Academic Press: San Diego, CA, 2003; Vol. 11, p 161参照)。
【0080】
本発明方法の工程(E.1)に適用できる均一系触媒としては、シッフ塩基触媒、特にメタロサレン触媒が挙げられる。これらは、リグニン及び修飾リグニン由来成分の有望な酸化触媒として出現している。用語「サレン」は、[N、N’-ビス(サリチリデン)エタン-1,2-ジアミナト]を意味する。本発明方法の工程(E.1)における触媒としてのメタロサレン触媒としては、Co(サレン)、[(pyr)Co(サレン)]、Cu-、Fe-、及びMn-トリフェニルホスホニウム修飾サレン錯体、Co-サルフォサレン(Co-sulphosalen)、Co(サレン)/SBA-15、及び[Co(N-Me salpr)]が挙げられる。
【0081】
本発明方法の工程(E.1)に適用できる均一系触媒としては、メタロ-TAML(テトラアミド大環状配位子)、-DTNE(1,2-ビス-(4,7-ジメチル-1,4,7-トリアゾシクロノン-1-イル)エタン)、及び-TACN(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)触媒などの非ポルフィリン又はシッフ塩基触媒が挙げられる。金属は、例えば、鉄又はマンガンから選択することができる。この点に関して、本発明方法の工程(E.1)で使用される触媒としては、Mn(IV)-Me4DTNE及びMn(IV)-Me4TACNが挙げられる。
【0082】
本発明方法の工程(E.1)に適用できる均一系触媒としては、Gaspar et al. Green Chem. 2007, 9, 717に詳細に述べられているように、ポリオキソメタラート(POM)が挙げられる。ポリオキソメタラートは、第1及び第2のヘテロ原子の両方からなり、前者は典型的には構造を決定し、後者、典型的には遷移金属イオンは、構造変化を伴わずに置換されることができる。これにより、第2のヘテロ原子は、望ましいレドックス特性を与えるイオンで置き換えることができる。本発明方法の工程(E.1)における触媒としてのPOMとしては、SiW11Mn(III)、BW11Co(III)、PW11Ru(IV)、ヘテロポリアニオン-5-Mn(II)、アルファ-[SiVW10O40]5-、Na5(+1.9)[SiV1(-0.1)MoW10(+0.1)]、LaMnO3、LaCoO3、H2MoO4、及びFe2(MoO4)3が挙げられる。POMは、酸化剤としてのO2又はH2O2と共に触媒として利用することができる。
【0083】
本発明方法の工程(E.1)に適用できる均一系触媒としては、単純金属塩系触媒を挙げることができる。これらは、典型的には、酸化剤としてO2と組み合わせて利用することができる。本発明方法の工程(E.1)における触媒としての金属塩系触媒としては、Co(OAc)2/Mn(OAc)2、Co(OAc)2/Mn(OAc)2/HBr、Co(OAc)2/Zr(OAc)4/HBr、Mn(OAc)2、CuSO4、CuSO4/FeCl3、Cu(OH)2、FeCl3、Fe2O3、NaBr 2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル-ラジカル(TEMPO)、CuO、及びCoOが挙げられる。
【0084】
本発明方法の工程(E.1)に適用できる均一系触媒としては、更に、ヘキサシアノルテナート(II))、Ru/CN)6
4+、トリス-(4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジン)鉄(II)、及び[Cu(phen)(OH)2]を挙げることができる。
【0085】
原理的には、本発明方法の工程(E.1)は、前述の均一系触媒を用いて行うことができる。
【0086】
代替工程(E.2)では、典型的には還元剤の添加によって、修飾リグニン由来成分のフラクションが還元される。「還元剤」は、別の化学種(電子供与体)に電子を「供与」する剤と理解される。工程(E.2)によって典型的に使用される触媒は、不均一系触媒であり、これは、典型的には溶液中で提供される反応物とは異なる、典型的には固相又は気相で提供される触媒として定義される。
【0087】
本方法の場合、修飾リグニン由来成分は、典型的には溶液中で提供され、触媒は通常、固体物として提供される。一般に、不均一系触媒は、反応生成物を触媒成分から容易に分離することができるという利点をもたらす。有利なことに、不均一系触媒は、通常、均一系触媒よりも安定で分解が遅い。これらはリサイクルすることができる。
【0088】
還元クラッキング(クラッキング及び還元)に適用できる不均一系触媒としては、限定するものではないが、Cr・CrO、ラネーNi、Rh、Pd.FeS、Co-Mo、Ni-Mo、Co-Mo-P、Fe2O3、Mo、Ni-Mo-P、Mo2N、Ni-W、Rh-Co、Ni-Cu、NiO-MoO3、MoO3Ru、M、又はM-Mo(Mは、Co、Cu、Ir、Ru、Pd、Fe、Rh、Pt、又はNiから選択される)が挙げられる。任意に、担体(即ち、触媒が固着される材料)は、炭素、Al2O3、TiO2、SiO2-Al2O3、ZrO2、CeO2、ゼオライト、MgO、又はなしから選択することができる。
【0089】
しかしながら、均一系触媒を、代替的に使用することができる。適切な均一系触媒としては、(1,5-ヘキサジエン)RhClダイマー体、コロイド状ロジウム、[(1,5-C6H10)RhCl]2、ロジウムナノ粒子、[(C6H6)Ru4H4]]Cl2、[(Ru(C5H5)Cl(TPPDS)2]、NaBH4+I2、及びRuCl2(PPh3)3が挙げられる。
【0090】
工程(E.3)に関して、「電気酸化」は、電極の表面及び/又は電気(電気化学)セルにおける酸化と理解される。好ましくは、工程(E.3)で用いられるそのような電気セルは、単一のガルバニセル又はフローセルである。フローセルは、連続的又はバッチ式にセルを通過するイオン性溶液(電解質)によって特徴付けられる。イオン性溶液は、典型的には別の貯蔵タンクに貯蔵される。
【0091】
本発明方法の工程(E.4)による酵素分解は、修飾リグニン由来成分を適切な条件下で適切な酵素(又はそれを生成する微生物、特に真菌)と接触させることによって達成することができる。これに関して、酵素としては、特に、例えば、Phaerochaete chrososporium又はPycnoporus cinnabarinusに由来するオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、及び加水分解酵素が挙げられる。
【0092】
光酸化(E.5)は、典型的には、最大500nmの波長を有する可視又はUV光に、修飾リグニン由来成分を付すことを含み得る。
【0093】
或いは、修飾リグニン由来成分を、本発明方法の工程(E.6)にしたがってイオン性液体中での分解反応に付すことができる。イオン性液体は、低温(<100℃)で液体であるイオン性有機/無機塩から形成される。それらは、典型的には、低い蒸気圧を有し、化学的及び熱的に安定であり、広範囲の化合物に溶解することができる。前記のようなアセチル化、酸加水分解、熱処理、酵素処理のアシル化など、イオン性液体中で種々の分解反応を行うことができる。本発明のリグニン由来成分の分解のためのイオン性液体としては、アルキルスンホン酸塩、乳酸塩、酢酸塩、塩化物、又はリン酸塩をアニオンとして含むものが挙げられる。幾つかのイオン性液体(例えば、1-H-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-イミダゾリウムクロライド)の最も重要な利点の1つは、酸性触媒及び溶媒の両方として作用する能力である。そのようなイオン性液体が特に好ましい。イオン性液体は、適切な遷移金属触媒(例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジエチルホスフェート及びCoCl2・6H2O、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメチルスルホナート及びMn(NO3)2)と共に使用することができ、これらは、修飾リグニン由来成分の分解を促進することができる。
【0094】
任意に、前記したものを互いに組み合わせることができる。例えば、3電極酸化イリジウム系を使用する光電触媒とUV光との相乗的組合せを使用することができる。酵素系アプローチとイオン性液体との組合せについては、前記している。
【0095】
更に、本発明の方法は、その工程(F)による単離工程を含み、ここで、所望の低分子量芳香族リグニン由来化合物が、(残留)高分子量芳香族リグニン由来成分及び/又は他の非リグニン由来の残留成分から分離される(これらは、分解していない又は低い程度にしか分解していない、又は不利なことに再重合したものである)。分解反応は、分解すべきリグニン由来材料の再重合のリスクを有する反応条件によって特徴付けられる本発明方法の工程(E)によって回避される。それにもかかわらず、このような副生成物は、工程(E)から依然として生じる可能性があり、これらは、本発明方法の下流で排除する必要がある。所望の目的低分子量芳香族リグニン由来化合物以外の成分は廃棄される、又は別の分解工程(例えば、工程(E)にしたがう第2の分解反応)によってリサイクルされる。
【0096】
本発明方法の目的化合物は、低分子量芳香族リグニン由来化合物である。「リグニン由来の低分子量芳香族化合物」は、好ましくは、天然リグニンの(モノマー)ビルディングブロックに対応する又は由来する分子である、又はそのような(モノマー)ビルディングブロックのホモ又はヘテロダイマーである。そのような目的化合物は、本発明方法の中間体として、修飾リグニン由来成分のフラクションを提供する工程(B)(「パルプ化」)から生じる修飾を介して天然リグニンから誘導される。続いて、分解工程(E)は、低分子量の目的化合物を提供する。
【0097】
用語「芳香族」は、芳香族性の規則を満たす化合物を意味する(これは、当技術分野において一般に定義されている)。用語「芳香族」は、典型的には、同数の原子を有する直鎖状の、即ち、線状の分子と比較して高い安定性を示す環状の、即ち、環形状の平面系を記載するために使用される。その高い安定性の結果、芳香族系は従来の条件下では反応しにくい。分子の電子的性質に関して、芳香族性は、環系内の交互の一重結合及び二重結合によって通常記述される共役系を表す。この構造は、典型的には、分子のπ系の電子が環の周囲で非局在化し、分子の安定性を高める。有機化学において最も一般的に見られる芳香族系は、ベンゼン及びその誘導体である。ベンゼンのモデル的記述は、典型的には、2つの共鳴形態からなり、これは6つの1.5重結合を生成するために重ね合わされた二重及び一重結合に対応する。ベンゼンは、その電荷非局在化により、予想されるよりも安定である。非炭素環式及び/又は非六員環式芳香族系(例えば、複素環式芳香族化合物、二環式、三環式、及び四環式化合物、及びn員環を有する化合物(例えば5員環系))も、それらが芳香族性の規則を満たす場合、芳香族であると理解される。いずれの芳香族官能基も「アリール基」として表すことができる。芳香族化合物は、一般に、当該技術分野において、石油又はその精製されたフラクションから単離される。
【0098】
好ましくは、本発明方法の芳香族目的化合物は、炭素環式ベンゼン又はそのベンゼン誘導体、例えばフェノール誘導体を含む。ベンゼン由来の芳香族環系及びその誘導体を本質的に含む化合物が好ましいが、ビフェニル系、二環系及び多環系(環化)芳香族系を含む芳香族目的化合物も同様に想定することができる。
【0099】
工程(F)によって単離されると想定される低分子量リグニン由来(芳香族)化合物は、好ましくは芳香族化合物であり、これは、典型的には、1.000Da未満、好ましくは700Da未満、より好ましくは500Da未満、最も好ましくは約100~500Da(例えば、200~400Da)の分子量を示す。これは、典型的には、10-9m以下のオーダーのサイズを有する。好ましくは、そのような低分子量芳香族リグニン由来化合物は、本発明方法の工程(B)のパルプ化プロセスにおいて修飾されたポリマー天然リグニンのモノマー、或いは、ホモ又はヘテロダイマーに基づく。「モノマー」は、本質的に、ポリマー天然リグニンの(繰り返し)ビルディングブロックに対応する。「モノマー」は、天然リグニンポリマーの任意のビルディングブロックであってもよく、これは、工程(B)において改変されていてもよい。天然のリグニンポリマーの「モノマー」は、典型的には芳香族性のもの(例えば、芳香族環系を含む)であるが、それら具体的な化学的性質に関して多様であり得る。典型的には、目的化合物は、1つの単一ベンゼン由来(置換)芳香族環系を含む。
【0100】
低分子量芳香族リグニン由来化合物、即ち、典型的には、1つの芳香族環系を含むモノマー又は2つの(非環化)芳香族環を含むダイマーが、工程(F)において、工程(E)の分解から生じる他の成分、例えば、モノマー又はダイマー目的化合物以外のフラグメントから、適切な技術によって単離される。
【0101】
修飾リグニン由来成分の「フラグメント」は、典型的にはモノマー又はダイマー目的化合物よりも分子量が大きいが、典型的には本発明方法の中間体として工程(B)によって得られた修飾リグニン由来成分よりも低い分子量を有する。そのようなフラグメントは、典型的には、本発明方法の低分子量目的化合物であるとは理解されない。これに代えて、これらは、修飾リグニン由来成分のビルディングブロックのトリマー又はn-マーを含む又はそれらであることができる。分解工程から生じるそのようなフラグメントは、典型的には、工程(B)のパルプ化プロセスで得られる修飾リグニン由来成分よりも小さい分子量のオリゴマーである。しかし、そのようなフラグメントは、リグニン由来成分が種々存在するので、サイズ及びその分子量が著しく変わり得る。
【0102】
工程(F)により、モノマー又はダイマー目的化合物(例えば、工程(E)によるリグノスルホナートの分解反応から得られる)を、分解工程(E)の他のフラグメントから単離する。単離されるモノマー又はダイマー目的化合物は、典型的には、単環式フェノール誘導体であるか、又はそれぞれが個々の(環化されていない)フェノール環系を含む2つのそのようなモノマー部分を含む。ダイマー目的化合物の場合、環系は結合によって直接連結されていてもよい。或いは、芳香族環系を含む2つのモノマー部分はそれぞれ、リンカー基(例えば脂肪族リンカー基)によって結合され、ホモ又はヘテロダイマー、典型的にはヘテロダイマーを形成することができる。ヘテロダイマーは、個々の(異なる)置換パターンを有する2つの芳香族環系を示す。幾つかの実施形態では、ダイマーは、結合によって直接連結されて二フェニル環系を形成する2つの(置換された)芳香族環系の基本化学構造を表すことが好ましい場合がある。
【0103】
工程(F)によって単離されたモノマー又はダイマー化合物は、本発明にしたがって更に修飾することができる。これらは、例えば、他の反応によって酸化される又は化学的に修飾されてもよく、これにより、置換パターンの変化又は環構造の変化をもたらすことができ、例えば、修飾された環系を生じる(ナフタレン又はアントラセン由来化合物など)。したがって、工程(F)によって単離された低分子量化合物を、他の化学反応に付すことができ、これにより、工程(B)によって得られた修飾リグニン由来成分には存在しない官能基又は芳香族環系を含むことができる。これらは、例えば、酸化状態がより高い又はより低いものであることができ、天然リグニンには全く存在しない官能基を含むことができ、及び/又は二環式、三環式、四環式、又は五環式(環状)芳香族環系を示すことができる。工程(F)により単離された低分子量芳香族リグニン由来化合物又はそれらの誘導体化生成物は、商業的用途、例えば、レドックス活性化合物として、又は他の用途に使用することができる。
【0104】
原則として、本発明方法では、どの植物からのリグノセルロース材料でも使用することができる。工程(A)にしたがって提供される方法のリグノセルロース出発材料は、好ましくは、低シリカ及び樹脂含量の木材に基づくことができ、より好ましくは「北方木材」に基づくことができ、更に好ましくはブナ、マツ、バーチ、ユーカリ、及びスプルースからなる群に基づくことができ、最も好ましくはブナに基づくことができる。工程(A)にしたがって提供される方法のリグノセルロース出発材料は、好ましくは細断された材料として提供され、より好ましくは木材チップの形態で提供される。一般的に言えば、本発明方法の工程(B)として使用することができるクラフトプロセスは、本発明によって代替的に用いることができる他の大部分のパルプ化プロセス(例えば、亜硫酸塩プロセス)よりも広範囲の繊維源を消費することができる。したがって、クラフトプロセスは、典型的には、あらゆる植物に由来するあらゆるタイプの木材(例えば、より多くの樹脂を含む樹種(例えば、南部マツ)、及び竹及びケナフなどの非木材種を含む)で操作可能である。
【0105】
本発明方法の好ましい実施形態では、工程(B)のパルプ化工程は、クラフトプロセス、亜硫酸塩プロセス、オルガノソルブプロセス、及びリグニン熱分解プロセスからなる群から選択することができる。リグノセルロース出発材料からのリグニン及びセルロース成分を分離するための他のプロセス(本明細書に記載され、当技術分野で知られている)もまた、工程(B)の反応でリグニン由来フラクションを得るために使用することができる。クラフトプロセス又は亜硫酸塩プロセスは、本発明方法の工程(B)として好ましい。
【0106】
クラフトプロセスは、本発明方法に係る代替(B.1)として実施することができる。クラフトプロセスは、以下のサブ工程を含むことができる。(a)(好ましくは細断された)リグノセルロース材料を任意にプレスチーミングする工程であって、前記(好ましくは細断された)リグノセルロース材料が、有利なことに、蒸気により湿潤及び予熱される工程、(b)クラフトパルプ化剤、即ち、スルフィド塩、スルフヒドリル化合物又は塩、ポリスルフィド塩(及び、典型的には、少なくとも1つの硫酸塩もアルカリ性溶液に含有される)からなる群から好ましく選択される1つ以上の剤を含むアルカリ性水溶液に(好ましくは細断された)リグノセルロース材料を添加する工程、(c)前記アルカリ性水溶液中に(例えば、懸濁及び/又は分散されて)提供される(好ましくは細断された)リグノセルロース材料を蒸解する工程、及び(d)任意に、リグノセルロース材料を、例えば、硫酸溶液及び/又は三酸化硫黄の存在下でスルホン化する工程。
【0107】
クラフトプロセスではなく、代替方法工程(B.2)として亜硫酸塩プロセスがある。亜硫酸塩プロセスは、以下のサブ工程を含むことができる。(a)(好ましくは細断された)リグノセルロース材料を任意にプレスチーミングする工程であって、前記(好ましくは細断された)リグノセルロース材料が、有利なことに、蒸気により湿潤及び予熱される工程、(b)(好ましくは細断された)リグノセルロース材料を亜硫酸塩及び/又は重亜硫酸塩を含む水性の、好ましくは酸性の溶液に添加する工程、及び(iii)前記水性の、好ましくは酸性の溶液中に(例えば、分散又は、及び/又は懸濁されて)提供される(好ましくは細断された)リグノセルロース材料を蒸解する工程。
【0108】
したがって、本発明方法の工程(B)は、パルプ及び/又は紙製造における初期工程として一般的に実施され得るプロセスを含む。したがって、クラフトプロセス(工程B.1)及び亜硫酸塩プロセス(工程B.2)の両方は、前記出願により広く知られており、本発明方法によって適用される。それらは、パルプ及び/又は紙の製造における目的材料であるセルロース繊維材料(パルプ)を、他の非セルロース木材成分、特にリグニン又はリグニン由来成分から分離することを可能にする。本発明方法の場合、「パルプ」は目的生成物でも中間体でもない。むしろ、サブ工程(B)の目的物は、他の主要木材成分としての、好ましくはその修飾された、有利には可溶性形態(「修飾リグニン由来成分」)のリグニンの提供である。典型的には、本発明は、本発明方法の中間体として、セルロースフラクションの分離時に、修飾リグニン由来成分(例えば、「クラフトリグニン」、「スルホン化クラフトリグニン」、又は「リグノスルホナート」)を処理する。
【0109】
「パルプ及び/又は紙製造プロセス」は、典型的には、パルプ及び/又は紙製造プラントにおけるパルプ及び/又は紙の製造のための商業的に確立されたプロセスである。本明細書で使用される場合、「パルプ」は、一般に、例えば、木材、繊維作物、又は古紙から調製される、好ましくは(濃縮された)セルロース繊維材料を本質的に含むと理解される。パルプ化プロセスは、好ましくは純粋なセルロース繊維質材料(パルプ)を提供する。典型的には繊維の形態であるので、パルプは通常は溶解されず、パルプ化プロセスで使用される液体中に分散又は懸濁される。その繊維状形態のために、パルプは、典型的には、本発明方法の工程(C)によって、繊維材料として、好ましくは篩及び/又は遠心分離機などの機械的手段によって方法プロセス流から分離され、これは、リグニン由来材料の(好ましくは溶解、懸濁、及び/又は分散した)フラクションを含み、工程(D)によって更に処理される。
【0110】
一般に、木材を繊維状セルロース材料、リグニン、及びヘミセルロース製品に分解することが、「パルプ及び/又は紙製造プロセス」の目的である。これは、三次元ポリマーリグニン高分子の共有結合を切断することによって達成される。炭素-炭素(C-C)結合は、本発明方法の「蒸解(cooking)」サブ工程(c)による結合切断のために通常適用される条件下において、酸素-炭素結合(C-O)よりも安定である。したがって、酸素-炭素結合の切断は、本明細書に工程(B)として記載される典型的なパルプ化プロセスにおいて、最も一般的且つ重要な反応である。それにより、クラフトプロセスにおけるアルカリ性条件下、亜硫酸塩プロセスにおける酸性条件下、及びオルガノソルブプロセスにおける有機溶媒中における蒸解は、リグニンの酸素-炭素結合を切断することができる。典型的には、工程(B)のそのような反応は、天然リグニンのアリール-アルキル-エーテル結合の切断によるフェノール性ヒドロキシル基によって特徴付けられる修飾生成物を生成する。パルプ化プロセスの修飾生成物としての修飾リグニン由来成分、即ち、「修飾リグニン由来成分」は、ポリマーリグニン出発材料(天然リグニン)よりも低い分子サイズのものである。更に、このような低分子量リグニン由来ポリマーは、通常、プロセス流中の天然リグニンよりも可溶性又は分散性であり、工程(B)のパルプ化プロセスに残る。そのプロセス流から、通常、商業的パルプ化プロセスの目的生成物である非溶解パルプ又は非分散パルプを、溶解及び/又は懸濁された修飾リグニン由来成分から容易に分離することができる(本発明方法の工程(C)によって実現される)。
【0111】
本発明は、その工程(B)によって、既存のパルプ製造プラントを容易に使用できるという利点によって特徴付けられる。それは、エネルギー源としてではなく他の用途に本質的にまだ利用可能とされていないリグニン(当技術分野においては、典型的にはパルプ製造の主要な望ましくない副生成物と見なされる)の商業的使用を可能にすることを特徴とする。必要であれば、本発明はまた、パルプ製造のため、又は更なる下流工程のためのエネルギー源として工程(C)のリグニン由来フラクションのより少ない部分を使用することができる。しかし、本発明は、リグニン(豊富に利用可能且つ再生可能な天然材料である)を、広範囲の用途で使用可能な多様な有機化合物を提供するための出発材料とすることができるので、前例のないものである。それらのうちの幾つかは、これまで石油化学の方法によってのみ当技術分野で利用可能にされている。
【0112】
工程(B.1)にしたがうクラフトプロセスは、典型的には、スルフィド、スルフヒドリル、及びポリスルフィドからなる群から選択される塩又は非塩剤の1つ以上の剤を含む水溶液の存在下での、より高いpHでのパルプ化プロセスである。典型的には、1つ以上の硫酸塩も添加される。工程(B.1)の任意のサブ工程(a)により、好ましくは細断されたリグノセルロース材料(木材チップなど)を高温蒸気で前処理することができる。これにより、好ましくは細断されたリグノセルロース材料が湿潤及び加熱され、典型的には、その後のサブ工程(b)によって適用される処理溶液を吸着しやすくなる。新鮮な木材の空洞は、流体及び/又は空気で満たされる。蒸気による前処理は空気を膨張させる。天然に空洞を占める空気及び/又は他の流体の約25%が、これらの空洞から除かれる。
【0113】
適用されたクラフトプロセスのサブ工程(b)により、任意に前処理された、即ち、プレスチームされた及び予熱された、好ましくは細断されたリグノセルロース材料が、好ましくは高温で、アルカリ性水溶液(「処理溶液」)で処理される。典型的には、リグノセルロース材料を処理溶液に添加する。前記溶液は、典型的には、クラフトプロセスが行われるための少なくとも1つの化学反応剤を含む。処理溶液は、当技術分野で「白液」として知られる液であってもよい。使用される反応剤は、pHを調節し、及び/又は求核性硫化物(S2-)及び/又は二硫化物(HS-)イオン及び/又は部分を提供することができる。典型的には、前記処理溶液は、天然リグニンのセルロース足場中のリグニンの包埋を破壊するための求核性硫化物及び/又は二硫化物イオン又は部分を提供するクラフトパルプ化に一般に使用される化学反応剤の混合物を含む。反応性硫黄含有剤は、通常、(溶解した)塩として提供されるが、非塩剤として、例えば、(溶解した)有機化合物として提供されてもよく、これらは、1つ以上の硫黄又は硫黄ベースの化学官能基を含む。一般に、クラフト法の含浸及び蒸解工程において使用するための当該技術分野で知られた任意の好適な反応剤を、本発明にしたがって使用することができる。硫黄含有試薬の他に、工程(B)の溶液により少ない量で添加される更なる剤は、典型的には、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、及び炭酸カルシウムのうちの1つ以上である。
【0114】
クラフトプロセスのサブ工程(b)により、好ましくは細断されたリグノセルロース材料は、典型的には、アルカリ性水溶液、例えば、新鮮な(「白液」)処理溶液又はそのリサイクルされた等価物(「黒液」)でまず飽和される。この工程は、好ましくは「含浸工程」と呼ばれ、細断されたリグノセルロース材料を容器に送る前に実施することができ、蒸解プロセス(サブ工程(c))が容器内で起こる。サブ工程(b)では、好ましくは細断されたリグノセルロース材料が、典型的には、(蒸解温度に対応する)高温に曝露されず、単に「前処理」される。したがって、材料は、その前処理工程のために加熱されないか、又は穏やかに加熱されるだけである。
【0115】
他の反応剤を処理溶液に添加して、例えば、使用された木材チップの蒸解液によるクラフト含浸を改善することができる。アントラキノンをそのような添加剤として使用することができる。これは、典型的には、セルロースを酸化し、リグニンを還元することにより、レドックス触媒として働く。セルロースを分解から保護し、出発物質のリグニン成分をより水溶性にする。更に、任意の石鹸分離工程(soap separation step)に解乳化剤を添加して、用いられた蒸解液から、石鹸を凝集により分離することを促進、改善することができる。ロジン石鹸などの石鹸は、一般にクラフトプロセスの副生成物として生成する。石鹸は、典型的には、水性液体の表面に浮遊し、スキミング除去されなければならない。回収された石鹸は、更にトール油に加工することができる。有利なことには、消泡剤を使用して、最終的に生成した泡を除去し、パルプ製造プロセスを促進することができる。洗浄装置の排水は、より清潔なパルプを与える。分散剤、粘着防止剤(detackifiers)、及び/又は錯化剤は、好ましくは、プロセス容器をより清潔に保ち、メンテナンス作業の回数を減らすことを可能にする。固定化剤を使用して、細かく分散した材料を繊維上に堆積させることができ、それにより、そのような材料を容易に除去することができる。
【0116】
一般に、含浸に使用されるアルカリ性水溶液(「液」)を蒸解工程にも適用することができる。したがって、クラフトプロセスのサブ工程(b)における含浸に用いられるアルカリ性水溶液(処理溶液)、及び同様に亜硫酸塩プロセスの対応する酸性水溶液は、サブ工程(c)における「蒸解液」と定義される。サブ工程(b)における含浸により、処理溶液(又は「蒸解液」)は、細断されたリグノセルロース材料の毛管構造に浸透することが好ましく、その結果、木材成分との初期反応が低温条件で開始する。集中的な含浸は、均質蒸解物の提供及び低不良品(low rejects)の提供に役立つ。これにより、大部分のリグニンが可溶性「クラフトリグニン」として得られる。通常、アルカリ性パルプ化液の約40~60%が、最初の含浸工程における連続式クラフトプロセスに消費される。
【0117】
本発明方法の工程(B.1)のサブ工程(c)により、前処理された(含浸された)好ましくは細断されたリグノセルロース材料が、必要に応じて前記水性アルカリ処理溶液中で蒸解される。蒸解時間は、反応条件、即ち、pH、圧力、及び温度に依存する場合があり、更に、用いられる細断されたリグノセルロース材料の種類及び強度に依存する場合がある。クラフト加工の場合、材料は数時間、例えば、3~9時間蒸解される。本質的に、クラフトプロセスは、硫化物(S2-)及び/又は二硫化物(HS-)イオン又は部分の求核攻撃により天然リグニンの内部エーテル結合を切断する。クラフトプロセスにおける硫化物の機能は、2つあり得る。即ち、リグニンの3次元ポリマー構造の隣接するビルディングブロック間のエーテル結合の開裂を促進及び加速させることと、望ましくない縮合の程度を減少させることである。
【0118】
工程(B.1)のサブ工程(c)から得られた修飾リグニン由来成分は、一般に「クラフトリグニン」として知られている。これらの成分は、本質的にスルホン化されていない、又は、少なくとも、亜硫酸塩プロセスから生じる「リグノスルホナート」よりもスルホン化の程度が低い。典型的には、それらは、アルカリ性水溶液中で、好ましくは約9を超えるpHでより可溶性であり、強極性有機溶媒に適度に可溶性である。リグニン由来成分の平均分子量は、一般に1.000~4.000Da、好ましくは2.000~3.000Daである。通常、そのリグニン由来フラクションの平均成分は、約10~35個のビルディングブロック、好ましくは10~25個のビルディングブロックを含み、したがって、「重合度」は10~35、好ましくは10~25であり得る。リグニン由来材料は、典型的には、2~4の多分散性を示すが、8又は9ほどの高いものであってもよい。多分散性がこのようなより高い値の材料は、工業グレード用途に典型的に使用され得るが、通常、本発明によって想定される多種多様な有機目的化合物の提供のための基本材料として利用することはできない。したがって、サブ工程(c)によって得られる材料の多分散性は6を超えるべきではなく、好ましくは5未満又は2~5であるべきである。C9H8.5O2.1S0.1(OCH3)0.8(CO2H)0.2の「分子式」が、針葉樹クラフトリグニンについて以前に報告された。約4重量%は、典型的には遊離フェノール性ヒドロキシルである。(Lebo, S.E. et al, Lignin, Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology, p. 18 of on-line version, (2001), John Wiley & Sons, Inc.)。クラフトプロセス由来の修飾リグニン由来成分は、典型的には、特にスプルース起源のリグノセルロース出発材料を使用する場合、ビフェニル部分も含む。したがって、スプルースは、ダイマービフェニル目的生成物が望まれる場合、本発明方法のための好ましい出発材料であり得る。
【0119】
より広いpH範囲に亘って、即ち、酸性及び中性pH環境に亘って、高い水溶性を示すクラフトプロセスから材料を得るために、サブ工程(d)を任意に工程(B.1)に含めることができる。このサブ工程は、好ましくはスルホン化工程である。その中で、好ましくは濃硫酸溶液などの当技術分野において知られたスルホン化剤を添加することができる。脂肪族側鎖は、典型的には、例えば、クラフトリグニンの側鎖の置換基としてスルホニル部分を導入することによって、スルホン化される。スルホン化は、また、クラフトリグニン成分の芳香族環に影響することもある。
【0120】
クラフトリグニンのスルホン化により、スルホン化修飾リグニンが得られ、これは、本明細書では「スルホン化クラフトリグニン」と理解される。
【0121】
一般に、サブ工程(d)のスルホン化は、クラフトリグニンに高い溶解度及び界面活性剤特性を与える。「スルホン化クラフトリグニン」は、より広いpH範囲に亘る水溶性など、亜硫酸塩プロセスの「リグノスルホナート」と同じ特徴的な構造的又は機能的特性を有する。クラフトプロセス由来の「スルホン化クラフトリグニン」及び亜硫酸プロセス由来の「リグノスルホナート」はいずれも「スルホン化リグニン」と称される。クラフトプロセス由来の「スルホン化クラフトリグニン」及び亜硫酸塩プロセス由来の「リグノスルホナート」は、構造的に異なるリグニン由来組成物をもたらす異なる化学条件下で生成される。「スルホン化クラフトリグニン」の成分の平均分子量は、典型的には、亜硫酸塩プロセスから生じる「リグノスルホナート」の成分の平均分子量よりも低い。したがって、スルホン化クラフトリグニンの成分の分子量は、典型的には、約1.000~4.500Da、好ましくは2.500~3.500Daであり得る。
【0122】
サブ工程(d)にしたがうスルホン化の場合、過圧及び/又は高温を適用することができる。好ましくは少なくとも2時間の反応時間の後、スルホン化クラフトリグニンは、例えば、水分除去又は沈殿により、例えば、過剰の石灰を用いて、カルシウムリグノスルホナートとして回収することができる。スルホン化がクラフトリグニンに改善された水溶性特性を与えるので、そのようなスルホン化リグニン由来材料を、水性環境中で不溶性セルロース材料から分離することが容易になる。クラフトプロセス下で行われる標準的なパルプ及び/又は紙製造プラントでは、付加的なスルホン化工程(d)(クラフトリグニンの「ポストスルホン化」と称することもある)が典型的に有益に適用される。
【0123】
クラフトプロセス(B.1)のスルホン化サブ工程(d)は、好ましくは300℃未満、より好ましくは200℃未満の温度で実施される。このような高温は、リグニン由来クラフトリグニン材料の未成熟の、即ち、制御されない熱分解を避けながら、スルホン化反応生成物の十分に高い収率を保証することが好ましい。これにより、(天然リグニンポリマーと比較して)低分子量の芳香族リグニン由来成分は、本発明方法の目的化合物に向けての更なる処理のために(制御されない分解がなく)インタクトのままであることが保証される。低分子量のモノマー又はダイマーの目的化合物は、下流の方法工程(E)における修飾リグニン由来成分の十分に制御された分解、続いて工程(F)における後続の単離(精製)によって得られる。したがって、工程(B)から生じる可能性のある修飾リグニン由来成分の最も大きい部分は、下流工程(E)における制御された分解のために利用可能とされる。そうでないと、目的化合物の収率が低下し、好ましくない。
【0124】
代替方法工程(B.2)では、好ましくは細断されたリグノセルロース材料を、以下のサブ工程を含む亜硫酸塩プロセスに付すことができる。(a)細断されたリグノセルロース材料を任意にプレスチーミングする工程であって、前記好ましくは細断されたリグノセルロース材料が、蒸気により湿潤及び予熱される工程、(b)亜硫酸塩及び/又は重亜硫酸塩を含む水性の、好ましくは酸性の溶液を提供する工程、及び(c)前記水性の、好ましくは酸性の溶液中で前記好ましくは細断されたリグノセルロース材料を蒸解する工程。
【0125】
本発明の工程(B.2)によって用いられる亜硫酸塩プロセスは、別のパルプ化プロセスである。得られた固体セルロース繊維は、例えば、より大きな圧力で操作することが好ましい蒸解装置において、亜硫酸の塩を用いて、リグニンフラクションを木材チップなどの天然のリグノセルロース出発材料から分離することによって得られる。パルプ化プロセスにおいて使用される塩アニオンは、pHに応じて、亜硫酸塩(SO3
2-)及び/又は重亜硫酸塩(HSO3
-)のいずれかであり得る。より低いpH、即ち、pH2.5未満などのより強い酸性条件下では、亜硫酸塩は、典型的にはHSO3
-として存在する。カウンターカチオンは、ナトリウム(Na+)、カルシウム(Ca2+)、カリウム(K+)、マグネシウム(Mg2+)、又はアンモニウム(NH4
+)であり得る。カウンターカチオンとして、特に、カルシウム及び/又はマグネシウムなどの二価の(例えば、アルカリ土類)カチオンを使用することができる。好ましい塩は、重亜硫酸カルシウムであり、これは、亜硫酸塩プロセスで選択されたpH値が2.5以下である場合に、有利に使用することができる。より高いpHの亜硫酸塩パルプ化(pH2.5超、又は、より具体的にはpH4超)は、典型的には、ナトリウム又はアンモニウムなどの1価イオンをカウンターカチオンとして使用する。亜硫酸塩パルプ化は、好ましくは酸性条件下で、好ましくはpH5未満、好ましくはpH1.5~5又は1.5~4で実施される。(酸性)pHは、亜硫酸塩(重亜硫酸塩)アニオンのカウンターカチオンの性質によって変わり得る。しかし、約pH7~12のアルカリ性条件を含む、より広いpH範囲に亘って亜硫酸塩パルプ化を実施することを排除しない。
【0126】
亜硫酸塩プロセスで使用される「パルプ化液」として用いられる水性の、好ましくは酸性の亜硫酸塩及び/又は重亜硫酸塩含有溶液は、以下のように提供されてもよい。即ち、化学量論的に適切な量の酸素で硫黄を酸化(燃焼)して、二酸化硫黄を生成することができる。好ましくは、例えば、ガスとして、二酸化硫黄を水に添加し、亜硫酸を得、これを「パルプ化液」としての使用のために更に希釈することができる。
【0127】
リグノセルロース材料は、パルプ化反応剤と3時間超、好ましくは4~14時間接触させることができる。温度は、使用される反応剤及びそれらの濃度に応じて、典型的には120℃超、好ましくは130~160℃の範囲である。
【0128】
亜硫酸塩プロセスから得られた修飾リグニン由来成分は、典型的には「リグノスルホナート」と称される。亜硫酸塩プロセスの性質のために、「リグノスルホナート」は、典型的には、例えば、修飾リグニン由来成分の脂肪族側鎖中に、有意な量の硫黄ベース部分(典型的にはスルホナート基の形態で)を含有する。
【0129】
したがって、「リグノスルホナート」は、修飾リグニン由来成分、即ち、-SO3H官能基を有する水溶性アニオン性リグニン由来高分子電解質の複合(異種)混合物である。リグノスルホナートは、典型的には、その異種成分によって広い分子量範囲を示す(クラフトリグニンについて見られるよりも広い分子量範囲を示す)。リグノスルホナートは多分散であり、その多分散性は、典型的にはクラフトプロセスの多分散性よりも高い(約4~9)。亜硫酸塩プロセスは、クラフトパルプ化よりも非破壊的であるので、クラフトプロセスと同程度にはリグニンを分解しない。したがって、亜硫酸塩プロセス由来のリグノスルホナートは、典型的には、本明細書に記載のクラフトリグニンよりも高い平均分子量を有する。針葉樹リグノスルホナートについて140.000Daの最大分子量が報告されているが、広葉樹の場合の最大値は通常より低く、例えば、50,000Da未満である。リグノスルホナートポリマーの分子量の典型的な範囲は、約5.000~50,000Da、好ましくは約5.000~20.000Daである(Brogdon, B.N., Dimmel, D.R. J. Wood Chem. Technol. 1996, 16, 297)。通常、それは約10~300個のビルディングブロック、好ましくは20~200個、最も好ましくは25~150個のビルディングブロックを含み、したがって、「重合度」は、10~300、好ましくは20~200、最も好ましくは25~150である。典型的には、(典型的には1%w/w未満の硫黄含量を有する)(非スルホン化)クラフトリグニンよりも高い硫黄含量(約3~8%w/w)を示す。
【0130】
リグノスルホナートは、革のなめし、コンクリート、掘削泥、ドライウォールの製造における低価値化学物質(建築材料用の結合剤又は添加剤など)として当技術分野で使用されている。
【0131】
亜硫酸塩プロセス由来のリグノスルホナートは、典型的には、本質的に全pH範囲に亘って水に可溶である。また、亜硫酸塩プロセス由来のリグノスルホナートは、極性の高い有機溶媒及びアミン溶媒に可溶であることができる。その近似的な「分子式」は、亜硫酸塩プロセス由来のリグノスルホナートの出発材料として、針葉樹の場合、C9H8.5O2.5(OCH3)0.85(SO3H)0.4、広葉樹の場合、C9H7.5O2.5(OCH3)1.39(SO3H)0.6とそれぞれ記述される。亜硫酸塩プロセス由来のリグノスルホナートは、「リグノスルホナート」フラクションを表すより多くの成分の幾つかの成分のためにビフェニル成分を含むことができる。これはスプルース起源のリグノセルロース材料に特に当てはまる。したがって、スプルースは、ビフェニル目的化合物が望まれる場合、本発明方法の好ましい出発物質であり得る。
【0132】
一般に、(スルホン化された)「クラフトリグニン」及び/又は「リグノスルホナート」などの修飾リグニン由来成分は、工程(B)にしたがって処理されると、消費されたパルプ化液に溶解又は分散される。前記液(工程(B)を出るプロセス流)は、また、溶解形態のヘミセルロース及び/又はその加水分解生成物(ポリ-、オリゴ、及び/又はモノサッカライド)の大部分を通常含む。
【0133】
好ましくは、工程(B.1)のサブ工程(b)におけるアルカリ性水溶液のpHは、>10である。より好ましくは、工程(B.1)のサブ工程(b)におけるpHは、>12である。工程(B.1)のサブ工程(b)におけるアルカリ性水溶液の温度は、典型的には100℃未満であり、例えば、70℃~90℃の範囲である。
【0134】
工程(B.2)のサブ工程(b)では、水性の、好ましくは酸性の溶液のpHは、好ましくは1~5、より好ましくは1.5~4である。工程(B.2)のサブ工程(b)における水性の(好ましくは酸性の)溶液の温度は、pHは、典型的には100℃未満であり、例えば、70℃~90℃である。
【0135】
好ましくは、工程(B.1)において使用されるアルカリ性溶液に含まれる硫化物及び/又は硫酸塩のいずれか、又は工程(B.2)における水性、好ましくは酸性溶液に含まれる亜硫酸塩又は重亜硫酸塩は、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びアンモニウムからなる群から好ましく選択されるカチオン性カウンターイオンを有する塩である。工程(B.1)によって使用されるスルフヒドリル及び/又はポリスルフィド剤は、好ましくは有機非塩剤である。
【0136】
好ましくは、工程(B.1)のサブ工程(c)における「蒸解」は、少なくとも150℃の温度で少なくとも2時間加圧容器(「蒸解装置」)内で実施される。工程(B.2)のサブ工程(c)における「蒸解」は、少なくとも120℃の温度で少なくとも3時間加圧容器内で実施される。このような条件下において、パルプ及び修飾リグニン由来成分を互いに分離することができる。工程(B.1)又は工程(B.2)のサブ工程(c)は、より好ましくは加圧容器内で少なくとも4バールの圧力で、好ましくは5~10バールで行われる。加圧容器は、化学的パルプ化の分野で一般的に使用されるように、典型的には、蒸解装置である。
【0137】
工程(B.1)のクラフトプロセスサブ工程(c)は、150~190℃、好ましくは170~180℃の温度で実施されることが好ましい。工程(B.2)の亜硫酸塩プロセスサブ工程(c)は、好ましくは120~170℃、より好ましくは130~160℃の温度で実施されることが好ましい。そのような温度は、典型的には、より高い収率(リグニン及びセルロースフラクションの改善された分離による)及びプロセス効率をもたらす。200℃を大幅に上回る温度上昇、特に適用される過圧との組み合わると、リグニン及び/又はセルロースフラクションの望ましくない過度の分解を引き起こすことがあり、エネルギー消費の点で好ましくない。
【0138】
クラフトプロセス(B.1)のサブ工程(c)は、好ましくは2~24時間、好ましくは3~5時間行われる。亜硫酸塩プロセス(B.2)のサブ工程(c)は、好ましくは4~24時間、好ましくは4~6時間行われる。このような条件は、典型的には、プロセス全体の効率を保証しながら、満足できる収率を可能にする。クラフトプロセスのこのような条件下で、リグニンポリマー及びヘミセルロースが十分に分解され、その低分子量(出発材料の天然リグニン及びヘミセルロースより低い)分解生成物が蒸解工程の結果としてセルロース足場から放出される。そのようなより低分子量の分解生成物は、典型的には、リグノセルロース出発材料のポリマーよりも(強い)塩基性溶液においてより可溶性である。
【0139】
好ましくは、工程(B.1)又は工程(B.2)のサブ工程(c)は、バッチモード又は連続モードのいずれかで行うことができる。連続モードの場合、リグノセルロース出発物質は、この材料が反応器を出る時までにパルプ化反応が完了する速度で蒸解装置に供給される。連続式は、スループットを高め、効率を向上させるのに好ましい。1.000トン以上のパルプを1日に製造する蒸解装置が一般的であり、本発明方法にしたがって使用することができる。
【0140】
任意のパルプ化プロセスのリグニン由来フラクションは、低分子量目的化合物への更なる処理のために、分離工程(C)に送られてもよい。特に、工程(B.1)におけるクラフトプロセスのサブ工程(a)~(c)の適用時の「クラフトリグニン」、又は工程(B.2)における亜硫酸塩プロセスの適用時の「リグノスルホナート」、又は工程(B.1)におけるクラフトプロセスのサブ工程(a)~(d)の適用時の「スルホン化クラフトリグニン」は、工程(C)による更なる処理に用いることができる。
【0141】
更に下流では、本発明の方法は、工程(C)のパルプをプロセス流から分離する工程と、その後の、工程(D)の修飾リグニン由来成分のフラクションをプロセス流に存在する他の成分から単離する工程とを含む。
【0142】
工程(C)は、好ましくは、吹き込み、篩い分け、向流、遠心分離、濾過、洗浄、ストリッピング、イオン交換、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択されるいずれかの適切な分離方法によって行うことができる。プロセス流からのパルプの分離は、より好ましくは、吹き込み、篩い分け、及び/又は洗浄によって行われる。
【0143】
工程(D)、即ち、プロセス流中の他の(例えばヘミセルロース)成分からの修飾リグニン由来成分のフラクションの単離は、好ましくは、限外濾過及び/又はナノ濾過、抽出、向流、ストリッピング、イオン交換、カルシウムカチオン(例えば、水酸化カルシウムとして提供することができる)などの二価又は多価カチオンによる沈殿、酸性溶液中でのCO2による沈殿、又はそれらの任意の組合せによって行うことができる。好ましくは、単離は、任意のタイプの抽出又は濾過、好ましくは限外濾過及び/又はナノ濾過によって行われる。
【0144】
限外濾過及び/又は(単離されるリグニン由来成分のサイズに応じて)ナノ濾過を、好ましくは、工程(D)において使用することができる。限外濾過は、典型的には、2~100nmのポアサイズ及び約5kDaの分子量カットオフ値を用いる。ナノ濾過は、典型的には、1~2nmのポアサイズ及び0.1~5kDaの分子量カットオフ値に基づく濾過モードを意味する。したがって、限外濾過は、典型的には、プロセス流(例えば、5.000Da未満の分子量のリグニン由来フラクション、残留セルロースフラクション、又はヘミセルロースフラクションなどの成分を含む)から、より大きなリグニン由来成分(例えば、5.000Daより大きい、8.000Dより大きい、又は10.000Daより大きい)を分離又は単離するために用いられる。単離されたより大きな分子量のフラクションは、異なるフラクションのより大きな単離成分を分離して、例えば、残留セルロース分解生成物又はヘミセルロース成分からリグニン由来成分を単離するために、更なる分離に付してもよい。限外濾過装置の選択されたカットオフ値によって保持される分子量の単離リグニン由来フラクションは、次いで、工程(D)において更に処理することができる。
【0145】
また、最初の限外濾過のために選択されたカットオフレベルよりも低い分子量を有するプロセス流中のリグニン由来フラクションの残りの成分を、プロセス流中の他の成分から単離することができる。例えば、プロセス流は、最初の限外濾過工程のために選択されたものよりも低いカットオフレベルを有する別の濾過工程に付すことができる。例えば、これは、更に低いカットオフレベルでの限外濾過及び/又はナノ濾過によって行うことができる。これにより、第1の濾過工程のカットオフレベルよりも低く、第2の濾過工程のカットオフレベルよりも大きい分子量のリグニン由来成分を単離することができる。保持されたリグニン由来フラクションは、リグニン由来成分フラクションを他のフラクションと同様のサイズの成分(例えば、同様のサイズのヘミセルロース分解生成物)から分離するために、更なる単離に付すことができる。したがって、本発明方法は、それぞれ所望のより低い分子量範囲にある、例えば、3.000、4.000、5.000、又は6.000Da(第2の濾過工程のカットオフレベル)及び5.000、6.000、8.000、又は10.000Da(第1の濾過工程のカットオフレベル)の間にある、リグニン由来フラクションの成分が単離されるように設定することができる。前記方法によって、又は分子量又は他の物理化学的パラメータによって分離する当技術分野で知られた他の方法によって、より均質なリグニン由来フラクションを分解工程(E)に供給することができる。したがって、2つの限外濾過工程又は限外濾過及びナノ濾過は、それぞれ、例えば、定義された分子量範囲(例えば、クラフトリグニンについては、それぞれ5.000~10.000又は1.000~5.000Da)の修飾リグニン由来フラクションが得られるように組み合わせることができる。亜硫酸塩プロセス由来のリグノスルホナートのプロセス流からの単離については、そのような単離は、好ましくは、適切な単離方法によって行うことができ、例えば、これらの方法は、参照により本明細書に援用するLeboら(Lebo, Stuart E. Jr.; Gargulak, Jerry D.; McNally, Timothy J. (2001). Lignin. Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology. Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology. John Wiley & Sons, Inc.)に記載されている。「リグノスルホナート」(その成分のより大きな分子量に起因する)は、例えば、単離リグニン由来成分の分子量範囲が6.000Da~15.000Da又は8.000Da~12.000Daとなる2つの限外濾過工程に基づくことが好ましい。
【0146】
限外濾過及び/又はナノ濾過は、典型的には膜を使用し、この膜は、好ましくは、耐溶剤性を有する管状膜であり、即ち、好ましくは、高及び低pH値で耐性である。限外濾過及び/又はナノ濾過は、典型的には、好ましくは約2バールより高い、より好ましくは約3バール又はそれより高い、より好ましくは約4バール又はそれより高い、最も好ましくは約5バールの高圧で行われる。例えば10バール超(例えば10~15バール)のより高い圧力が印加されてもよい。更に、濾過工程のための適用温度は、典型的には、修飾リグニン由来成分のフラクションの単離を容易にするために、室温(25℃)よりも高い。通常、温度は、単離される成分の分解が本質的に回避されるように選択される。温度は、少なくとも40℃、好ましくは少なくとも50℃、最も好ましくは約60~65℃とすることができる。
【0147】
したがって、工程(D)において使用される限外濾過又はナノ濾過の好ましい膜のカットオフサイズは、目的とする修飾リグニン由来成分の予想分子量に依存し得る。例えば、クラフトリグニンの分子量が比較的小さい場合には、約2~kDa又は2~8kDaの膜カットオフが必要であり、より大きなリグノスルホナートは、約5~50kDa、更には最大100kDaの膜カットオフを必要とすることがある。典型的には、リグノスルホナートを単離するための膜のカットオフサイズは、約5~20kDaであり得る。
【0148】
限外濾過及び/又はナノ濾過が適用される場合、より大きなデブリ、例えば、不溶性又は難溶性ポリマー及び/又はそのフラグメントを分離するための濾過前工程が先立って行われることが好ましい。それによって、修飾リグニン由来成分のフラクションを単離する際に、限外濾過及び/又はナノ濾過膜の過剰な封鎖を避けることができるので、効率を高めることができる。したがって、プレフィルタは、典型的には、限外濾過及び/又はナノ濾過膜よりも大きなポアサイズ及び/又は分子量カットオフを有する。
【0149】
本発明の好ましい実施形態において、工程(E.1)は、好ましくは不均一系又は均一系触媒又は触媒の組合せの存在下で、修飾リグニン由来成分を酸化することを含む。好ましくは、修飾リグニン由来成分の酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)が行われる。酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)は、好ましくは単一の反応容器内で、好ましくは同時に行われる。本明細書で使用される「クラッキング」及び特に「酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)」及び「還元クラッキング(クラッキング及び還元)」は、好ましくは、酸化(「酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)」又は還元(「還元クラッキング(クラッキング及び還元)」によるより大きな分子の共有結合の解離によって、より大きな分子をそれらのより小さなフラグメントに破壊又は解離する一段階触媒反応を意味する。ここで、分子は、触媒(溶解又は懸濁されていてもよい)を含む水溶液と接触させられる。
【0150】
用語「クラッキング」は、また、典型的には、より大きな例えばガスオイル分子を、より小さなガスオイル分子及びオレフィンに分解する石油化学のために開発された反応を称するために使用することができる。この文脈において、「クラッキング」は、触媒材料を再生するための反応器及び再生器を使用する。そこでは、出発物質を好ましくは高温の流動触媒に入れることができる。得られた気相生成物を触媒材料から分離し、縮合により種々の生成物又は生成物のフラクションに分画することができる。触媒は、典型的には再生器に導入され、ここでは、空気又は酸素が、残留成分を酸化反応によって分離するために好ましくは使用され、触媒の表面は、クラッキングプロセスの結果として形成される副生成物が存在しない。次いで、高温再生触媒を反応器にリサイクルしてサイクルを完了することができる。修飾リグニン由来成分は、また、この定義にしたがう「クラッキング」条件にも付すことができるが、用語「クラッキング」は、好ましくは典型的には、前述したように「酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)」又は「還元クラッキング(クラッキング及び還元)」と理解される。
【0151】
有利なことに、類似のクラッキング反応を、本発明にしたがう再生可能な源から得ることができる工程(D)の修飾リグニン由来材料に適用することができる。
【0152】
工程(E.1)(酸化クラッキング(クラッキング及び酸化))は、典型的には、空気、O2、又はH2O2などの酸化剤、好ましくは触媒又は触媒の混合物の存在下で行われ、触媒は、例えば、クラッキング反応に関して、不均一系のものが好ましいが、均一系のものであってもよい。本発明方法の工程(E.1)における酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)のための均一系及び不均一系触媒は、上に例示されている。
【0153】
好ましくは、使用される触媒は、金属イオンを含むことができ、好ましくはCo(II)、Cu(II)、Fe(II)、及びFe(III)、より好ましくはFe(III)から選択することができる。或いは、触媒は、半金属元素を含むことができる。「半金属元素」及び/又は金属イオンは、好ましくは、配位錯体として、或いは塩として提供される。このような配位錯体では、半金属元素又は金属イオンが配位中心を形成する。典型的には、「半金属」は、金属性及び非金属性を有する化学元素である。半金属は、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルル、アルミニウム、及びセレンから選択される任意の元素であることができる。半金属は、金属の外観を有していてよく、典型的には脆く、平凡な電気伝導体である。化学的には、殆ど非金属と同様に振る舞う。半金属含有剤は、触媒として特に有用である。好ましくは、半金属触媒として、メタロイドB(III)、Si(IV)、及び/又はAl(III)が挙げられる。半金属触媒は、好ましくはホウ素触媒であることができ、好ましくはB(III)を含む。一例として、ホウ素触媒を使用すると、工程(E.1)は、ヒドロホウ素化-酸化反応となり得、これは、好ましくは2段階有機反応である。これは、二重結合への水の正味の添加によって、例えばアルケンを中性アルコールに変換する。水素及びヒドロキシル基は、シス立体化学のアルコールを提供するsyn付加で付加されることが好ましい。ヒドロホウ素化-酸化は、典型的には、アンチマルコフニコフ反応を反映し、ヒドロキシル基は、より置換されていない炭素に結合する。
【0154】
より好ましくは、工程(E.1)の均一系触媒は、塩、配位錯体、ゼオライト、ポリオキソメタラート、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される。このような触媒は、好ましくは、Co(II)、Cu(II)、Fe(II)、及びFe(III)、最も好ましくはFe(III)から選択される金属イオンを含む。具体的には、Cu(II)ベースの(均一系又は不均一系の)触媒を使用する場合、これらは、例えば、硫化物沈殿及びその後の濾過によって回収することができる。
【0155】
(合成)ゼオライトは、典型的には、吸着剤及び触媒として知られる微孔質アルミノシリカート鉱物である。ゼオライトは、例えば、流動接触クラッキング及びハイドロクラッキングなどの石油化学工業における触媒として広く使用される。ゼオライトはまた、石油化学以外の用途における活性触媒固相酸として使用することもできる。したがって、ゼオライトは、本発明の場合に予想され得るように、多数の酸触媒反応を促進することができる。それらは、例えば、本発明方法の工程(E.1)の酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)反応のための触媒として使用することができる。
【0156】
ポリオキソメタラート(POM)を反映する触媒は多原子イオンであり、通常3つ以上の遷移金属オキシアニオンから構成されていてもよいアニオンであり、これらは、共有される酸素原子によって互いに結合して閉じた三次元骨格を形成する。POMは、有機化合物の酸化、特に工程(D)で単離された修飾リグニン由来成分のフラクションの酸化のために有利に使用することができる。
【0157】
工程(E.1)による酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)は、金属触媒、特にCu(II)又はFe(III)含有触媒の存在下で行われることが好ましい。或いは、Co(II)含有触媒を使用してもよい。触媒は、不均一系触媒又は均一系触媒から選択することができる。金属触媒は、特にCu(II)又はFe(III)含有触媒は、好ましくは(金属)塩である。
【0158】
酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)反応は、好ましくは、高温及び/又は加圧条件下で行われる。
【0159】
工程(E.1)の反応は、30~400℃、好ましくは100~350℃の温度で行うことができる。反応のために選択される温度は、熱分解温度よりも著しく低いように選択される。例えば、1000℃未満又は800℃未満又は500℃未満である。このようなより低い温度の反応の場合、反応生成物は、典型的には、純粋な熱分解反応(又は熱分解)による場合よりも、その種類が少ない。
【0160】
例えば、工程(D)の修飾リグニン由来成分(例えば、リグノスルホナート)のフラクションを含む溶液を、好ましくはpH値を少なくとも9に調整することによってアルカリ性にする。別の好ましい実施形態においては、媒体は、好ましくは酸性であってもよい。金属及び/又は半金属触媒、特にFe(III)含有触媒を、その後、溶液に添加することができる。前記触媒含有溶液は、少なくとも150℃、好ましくは150~300℃、より好ましくは160~170℃の温度に加熱することができる。圧力は、少なくとも5気圧、好ましくは10~12気圧の過圧に設定することができる。そのような温度及び圧力条件を適用すると、クラッキングが起こり、酸化剤としての空中酸素のため、典型的には、酸化が同時に起こり得る。
【0161】
酸化剤として空気を使用するのではなく、金属及び/又は半金属触媒、特にCu(II)含有触媒を使用する工程(E.1)は、酸素富化環境で、より好ましくは高圧下で、特に高酸素分圧下で行うことができる。前記圧力は、好ましくはアルカリ性条件下で、少なくとも3バールp(O2)、より好ましくは4~5バールp(O2)であることができる。酸性条件下で、p(O2)は有利には少なくとも10バール、場合によっては少なくとも20バールであることができる。更に有利なことには、リグニン由来成分の再重合を避けるために、アルコール、好ましくはメタノールを反応に添加することができる。
【0162】
アルコール、好ましくはメタノールは、合計反応体積に対して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、更により好ましくは少なくとも30%、更により好ましくは少なくとも40%、更により好ましくは少なくとも50%、更により好ましくは少なくとも60%、更により好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも80%である。
【0163】
アルコール、好ましくはメタノールは、本発明方法の工程(F)における目的化合物の単離/精製の前又は後に回収することができる。回収工程において、アルコール、特にメタノールは、好ましくは、加熱及び気化によって回収される。回収工程は、好ましくは、本発明方法の単離工程(F)の後に行われる。
【0164】
温度は、好ましくは少なくとも150℃、より好ましくは少なくとも170℃である。反応は、溶液中で、定速攪拌下(例えば、約10rpm超、好ましくは約50rpm超、例えば、約100rpm、又は更にそれを超えて、例えば、少なくとも500rpm、又は1.000rpm)(これは、特に反応器のサイズに依存する)で行われる。酸素環境の存在下での前記酸化は、流動床反応器、特に砂床を含む反応器、又はプラグフロー反応器で行うことができ、プラグフロー反応器の使用が好ましい。このような条件下で、温度は少なくとも250℃、好ましくは少なくとも300℃に設定することができる。これにより、酸化率を有利に高めることができる。流動床反応器の適用時に、目的とする芳香族又はフェノール性化合物以外のあまり望ましくない又は望ましくない副生成物の量が少ないことが好ましく、これは、本発明方法の工程(E)に好ましい。
【0165】
或いは、工程(E)における分解は、還元剤の存在下で実施される、工程(D)で単離された修飾リグニン由来成分のフラクションの還元クラッキング(クラッキング及び還元)によって行うことができる(代替E.2)。還元剤は、水素又はH-供与体としてのアルコールであることが好ましい。還元条件下でのそのような反応は、典型的にはまた、例えば、ニッケル、白金、パラジウム、ルテニウム、レニウム、及び金から選択される金属を含む不均一系触媒を必要とする。触媒は、好ましくは、活性炭、シリカ、酸化チタン、及び/又は酸化アルミニウムからなる群から選択される担体材料の表面に設けられることが好ましい。それにより、リグニン由来成分は、例えば、炭素-炭素又は炭素-ヘテロ原子単結合の開裂による水素に基づく「分解」(水素化分解)に付すことができる。
【0166】
例えば、工程(D)で単離された修飾リグニン由来成分のフラクションの還元クラッキング(クラッキング及び還元)は、例えば、活性炭に担持されてニッケルを含む触媒(Ni/C)を用いて行うことができる。ここで、ニッケル系触媒上でのアルコール性溶媒中で、修飾リグニンの低分子量リグニン由来目的化合物(例えば、ダイマー又はモノマーフェノール性目的化合物)への断片化-水素化分解プロセスを行うことができる。この反応は、ニッケル触媒上での修飾リグニン成分のダイマー又はモノマーフェノール性化合物への水素化分解を含み、アルコールが、還元剤としての活性水素源であることが好ましい。
【0167】
別の例では、工程(D)からの修飾リグニン由来成分のフラクションは、好ましくは、炭素触媒(Ru/C)上に堆積されたルテニウムの存在下で、好ましくは有機溶媒、例えばメタノール中で、還元性雰囲気、例えばH2雰囲気中で、好ましくは高温で、クラッキング及び還元される。このような反応は、残留炭水化物パルプ以外に、リグニン油をもたらすことが好ましい。得られるフェノールリッチリグニン油は、典型的には、本発明の目的化合物としてのフェノールモノマーを50%(w/w)超(主成分)と、フェノール性ダイマーを10%~25%、好ましくは20%(w/w)未満からなる。その反応(又は別の反応)による得られる目的化合物は、シリンゴール、特に4-n-プロピルシリンゴール、4-エチルフェノール、及びグアイアコール、特に4-エチルグアイアコール及び4-n-プロピルグアイアコールの1つ以上である。
【0168】
本発明の代替的実施形態においては、工程(B)(分解(degradation))及び工程(E)(分解(decomposition))を組み合わせることができ、これは、好ましくは工程(C)及び(D)を必要としない。本発明方法の組合せ分解(degradation)/分解(decomposition)反応(工程(B)及び工程(E)を組み合わせる)態様は、好ましくは、但し、常にではないが、本発明方法による工程(E.2)を用いることによって行うことができる。ここで、工程(A)で提供される天然のリグノセルロース材料は、リグニン材料の同時加溶媒分解及び接触水素化分解によって1つの工程で脱リグニン化することができる。好ましくは、加溶媒分解と接触水素化分解を、還元雰囲気、例えばH2雰囲気下で、好ましくは炭素触媒(Ru/C)上に堆積されたルテニウムの存在下で、好ましくは有機溶媒、例えばメタノール中で行うことができる。反応は、好ましくは高温で行われる。加溶媒分解と接触水素化分解の組合せから得られた生成物は、低分子量芳香族リグニン由来(モノ-又はダイマー)化合物の精製フラクションを得るために、本明細書に記載するように更に処理することができる。
【0169】
最後に、工程(E)における分解は、電気酸化(代替E.3)により行うことができる。「電気酸化」は、電気化学プロセスと定義され、酸化反応は、2つの電極(例えば、作用電極及び対向電極)の間に電界を印加して、酸化反応が生じるようにすることによって起こる。「作用電極」(目的の反応が起こる電気化学システムにおける電極)は、電極上の反応が還元であるか酸化であるかによって、それぞれカソード又はアノードである。一般的な作用電極は、金、銀、又は白金などの不活性金属、又はガラス状炭素又は熱分解炭素などの不活性炭素、又は水銀滴及びフィルム電極を含むことができる。或いは、本発明で用いられる作用電極は、ニッケル又はニッケル合金電極であることができる。対向電極は、特に、作用電極がニッケル電極である場合には、常に、白金電極であることができる。電極は、例えば、焼結された電極であってもよく、これは、好ましくは長寿命という利点を有し、他の技術よりも高い酸化能力を示す。電気酸化は、オンデマンドで即時的な動作(「オン/オフ」)をもたらすので、有利であり得る。更に、攻撃的な化学物質が必要なく、反応温度を低く保つことができる。多種多様な副生成物が避けられるので、より低分子量の芳香族リグニン由来目的化合物を効率的に製造することが可能になる。熱分解法と比較して、エネルギー消費が低減される。
【0170】
電気酸化反応は、好ましくは、少なくともpH10の強アルカリ性溶液中で行われ、好ましくは、定電流が印加される。pH10~14でガルバノスタット的に行われる電気酸化が好ましい。好ましくは、修飾リグニン由来成分(例えば、リグノスルホナート)を含む溶液がアノライトとして作用し、典型的にはNaOH溶液がカソライトとして作用する。一般に、アノライトは、電解時にアノードの直接の影響下にある電解質の一部である。これに対応して、カソライトは、電解時にカソードの直接の影響下にある電解質の一部である。或いは、好ましくは、酸性条件下で電気酸化を行うこともできる。更に、溶液中の修飾リグニン由来成分は、同時にアノライト及びカソライトとして働くことができる。有利なことに、本発明方法には、(半透性の)膜は不要である。電解質に関しては、反応が酸性又はアルカリ性媒体中で行われる場合、特定の電解質は必要とされない。これに代えて又はこれに加えて、塩又は異なる塩、好ましくはアルカリ塩を電解質に添加することができる。例えば、ナトリウム塩、好ましくは硫酸ナトリウムである。電気酸化はまた、目的化合物(例えば、キノン)を直接生成することができる。そのような場合には、単離/精製工程(F)を省略することができる。
【0171】
別の実施形態では、或いは、生物工学的手段、例えば、リグニンの酵素分解によって、分解を達成することができる。ここで、典型的にはセルロース及びヘミセルロースが分解され、低分子量のリグニン由来成分を化学的分解によって有利に得ることができる。これらは、本明細書に開示される手段によって、セルロース及びヘミセルロースフラクションから単離することができる。
【0172】
最後に、本発明方法の単離工程(F)は、好ましくは濾過及び/又は抽出、好ましくは濾過を含み得る別の精製及び単離工程である。濾過は、限外濾過及びナノ濾過から選択することができ、これは、好ましくは、濾過工程の効率を上げる(例えば、より高分子量のリグニン由来成分による、例えば、膜の詰まりを回避する)ための前濾過セクションを有する限外濾過セル及び/又はナノ濾過セルによって行われる。Duvalら(Holzforschung 2015, 69, 127-134)によって記載される撹拌された限外濾過セルも適用することができる。好ましくは、限外濾過セル及び/又はナノ濾過セルは、少なくとも1つの分子量カットオフユニット、好ましくは少なくとも2つの分子量カットオフユニットを含み、モノマー及びダイマー目的化合物の分子量(例えば、150Da~1.000Da又は150~500Da)を反映する分子量範囲内の目的化合物を単離することができる。好ましくは、好ましくはカットオフ値が低下するようにされたカットオフユニット(例えば、1つ以上の限外濾過セル及び1つ以上の後続のナノ濾過セル)のカスケードを、工程(E)で得られたリグニン由来分解生成物を分画するために用いることができる。工程(E)で得られた分解生成物は、通常、溶液中で分画してもよいし、必要に応じて乾燥物として単離した後に再度溶解してもよい。
【0173】
好ましくは、本発明に係る低分子量芳香族リグニン由来目的化合物の純度を高めるために、限外濾過及び/又はナノ濾過の後に更に精製工程を行ってもよい。例えば、水に対する透析濾過を用いて、残留する糖及び反応剤を低分子量目的化合物フラクションから除去することができる。或いは、低分子量目的化合物は、抽出によって単離することができ、その後任意に分別蒸留を行うことができる。
【0174】
第2の態様により、本発明は、第1の態様に係る方法によって得ることができる低分子量のリグニン由来化合物に関する。
【0175】
好ましくは、本発明方法の工程(F)から得られる目的化合物は、リンカーによって分離されている又は結合によって直接結合している(ビフェニル化合物)1つ又は2つの芳香族環(炭素環)を含む。1つの芳香族環を含む目的化合物は、典型的には、本発明方法の中間体としての修飾リグニン前駆体成分のモノマーに由来する。2つの芳香族環を含む目的化合物は、典型的には、本発明方法の中間体としての修飾リグニン前駆体成分の2つの共有結合したモノマー(ダイマー)に由来する。
【0176】
ビフェニル系を形成する2つの芳香族環を含む目的化合物は、そのような部分を含む適切なリグノセルロース出発材料(例えば、スプルース)を選択することによって得ることができる。そのようなビフェニル系は、典型的には、必須の化学構造としてフェニルベンゼン又は1,1’-ビフェニルを含む。ビフェニル部分は、典型的には、天然のリグニンモノマーの5-5結合によって形成される。このような結合は、広葉樹よりも針葉樹で多く存在する。例えば、スプルースは、その天然リグニンを構成するフェニル-プロパンユニットのうち、15%超、好ましくは20%超、更により好ましくは25%超のビフェニル部分を含むことができる。ビフェニル目的化合物が想定されるときは常に、本発明方法の工程(A)においてリグノセルロース出発材料としてトウヒ材を使用することが好ましい場合がある。ビフェニル低分子量化合物は、例えば、多数の有益な用途のためのレドックス活性化合物を提供するために、例えば、更なる酸化反応による化学反応によって更に処理することができる。
【0177】
低分子量リグニン由来化合物の芳香族環は、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの位置で官能基で置換されており、少なくとも1つの官能基は好ましくはアルコキシ又はヒドロキシルである。ここで、単環式前駆化合物は、典型的には、少なくとも2つの位置で官能基で置換されており、官能基は好ましくはアルコキシ又はヒドロキシルである。2つの環系を有する化合物、特にビフェニル化合物は、典型的には芳香族環1つ当たり少なくとも1つの位置において官能基で置換されている。好ましくは、各環系は、他の環系の他の置換パターンと異なる置換パターンを示す。好ましくは、少なくとも1つの官能基は、アルコキシ又はヒドロキシルである。
【0178】
特に、本発明の少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物は、一般式(Ia)によって特徴付けられる。
【化2】
式中、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、
R
1、R
3、又はR
5の少なくとも1つは、好ましくはヒドロキシ、又は直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシであり、
R
6は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、及び直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコールからなる群から選択される。
【0179】
或いは、少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物は、一般式(Ib)によって特徴付けられる。
【化3】
式中、R
1~R
9は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、R
5は、好ましくは、ヒドロキシ又は任意に置換されたC
1-6アルコキシであり、
R
10は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、及び直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコールからなる群から選択される。
【0180】
或いは、本発明の少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物は、一般式(Ia)によって特徴付けられる。
【化4】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立して、H、任意に置換されたC
1-6アルキル、任意に置換されたC
1-6アルケニル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、ニトロ、ホスホリル、及びホスホニルからなる群から選択され、R
1、R
2、又はR
3の少なくとも1つは、好ましくはヒドロキシ又は任意に置換されたC
1-6アルコキシであり、
R
6は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝のC
1-6カルボキシ、直鎖又は分枝のC
1-6アルデヒド、及び直鎖又は分枝のC
1-6アルコールからなる群から選択される。)
【0181】
或いは、少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物は、一般式(Ib)によって特徴付けられる。
【化5】
(式中、R
1~R
9は、それぞれ独立して、H、任意に置換されたC
1-6アルキル、任意に置換されたC
1-6アルケニル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、ニトロ、ホスホリル、及びホスホニルからなる群から選択され、R
5は、好ましくは、ヒドロキシ又は任意に置換されたC
1-6アルコキシであり、
R
10は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝のC
1-6カルボキシル、直鎖又は分枝のC
1-6アルデヒド、及び直鎖又は分枝のC
1-6アルコールからなる群から選択される。)によって特徴付けることができる。
【0182】
本明細書において、「水素」はHである。「ヒドロキシ」又は「ヒドロキシル」は-OHである。「カルボキシ」又は「カルボキシル」は、好ましくは-COOHである。カルボキシの例示的なイオンは、-COO-である。用語「アルキル」は、線状(直鎖)及び分枝アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、及びシクロアルキル置換アルキル基などの飽和脂肪族基を意味する。用語「アルケニル」は、前記したアルキルと長さ及び可能な置換が類似するが、少なくとも1つのC-C二重結合を含む不飽和脂肪族基を意味する。用語「アルコキシ」又は「アルコキシル」は、酸素ラジカルが結合している、上で定義したアルキル基を意味する。代表的なアルコキシル基としては、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、tert-ブトキシなどが挙げられる。したがって、「アルコキシ」は、好ましくは、式-ORの基(式中、Rは、好ましくは、本明細書で定義されるようなアルキル基である)を意味する。用語「アルデヒド」は、式-RCHOの基(式中、Rは、好ましくは、H又は上で定義したアルキル基から選択される)を意味する。「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨードである。用語「アミン」及び「アミノ」は、非置換及び置換アミン、即ち、式-NR1R1R3の基(式中、R1、R2、及びR3は、独立して、H及びアルキル基又は他の官能基から選択される)を意味する。この用語は、「アミノ」(-NH2)を含む。アミノの例示的なイオンは、-NH3
+である。この用語は、更に、R1、R2、及びR3の1つが、アルキル基又は他の官能基である第一級アミンを含む。この用語は、更に、2つのR1、R2、及びR3が、独立して、アルキル基又は他の官能基から選択される第2級アミンを含む。この用語は、更に、R1、R2、及びR3の全てが、独立して、アルキル基又は他の官能基から選択される第3級アミンを含む。用語「アミド」は、式-RC(O)NR1R2の基(式中、R1及びR2は、独立して、H、アルキル、又はアルケニルから選択される)を意味する。「ニトロ」は-NO2である。「オキソ」は=Oである。用語「カルボニル」は、式-R1C(O)R2の基(式中、R1及びR2は、独立して、なし、結合、H、O、S、アルキル、又はアルケニルから選択される)を意味する。「ホスホリル」は-PO3H2である。ホスホリルの例示的イオンは、-PO3H-及び-PO3
2-である。「ホスホニル」は、-PO3R2であり、式中、各Rは、本明細書で定義されるように、独立してH又はアルキルである。ホスホリルの例示的イオンは-PO3Kである。「シアン化物」は-CNである。「スルホニル」は-SO3Hである。スルホニルの例示的イオンは-SO3-である。
【0183】
好ましくは、少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物は、ビフェニル、ベンジルアルコール、ベンズアルデヒド、及び安息香酸のフェノール誘導体、好ましくはp-ヒドロキシベンジルアルコール、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、及びp-ヒドロキシ安息香酸の誘導体、又はより好ましくは、バニリン、グアイアコール、オイゲノール、シリンゴール、フェノール、シリンガアルデヒド、及び/又は前記のいずれかの誘導体、及び/又は前記の組合せからなる群から選択される。
【0184】
以下の構造及び対応するエステルによって表される低分子量芳香族リグニン由来化合物が好ましい。
【化6】
【化7】
【0185】
本発明に係る第2の態様の好ましい実施形態においては、工程(F)により提供される単環式化合物を、工程(G)において、芳香族の二環式又は三環式化合物、四環式又は五環式化合物に更に反応させる。環化された二環又は五環化合物が特に好ましい場合がある。これらは、本発明にしたがって、精製され、更に処理されてもよい。
【0186】
1個より多くの環を含むそのような芳香族環化化合物は、更なる酸化のための前駆体として特に価値がある。
【0187】
前記の反応のタイプは、典型的には環化として知られており、化学反応として有機化学において役立ち、2つの芳香族(単環式-、二環式-、又はn-芳香族)環系をアニールすることを可能にする。好ましくは、環化反応の2つ以上の前駆体分子は、いずれも又は全て、例えば、モノマー又はダイマーの目的化合物である。環化は、例えば、ディールス-アルダー反応又はフリーデル-クラフツアシル化によって達成される。
【0188】
好ましくは、工程(F)によって提供される少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物は、1つの芳香族環を含み、工程(G)において更に処理される。ここで、前記低分子量芳香族リグニン由来化合物は、環化反応、好ましくはディールス-アルダー反応又はフリーデル-クラフツアシル化に付され、環化反応生成物は、低分子量芳香族二環式又は三環式環化芳香族リグニン由来化合物であり、前記化合物は、一般式(II)、(III)、又は(IV)によって特徴付けられる。
【化8】
式(II)のR
2、R
3、及びR
5~R
8は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、好ましくは、R
2、R
3、及びR
5~R
8の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はC
1-3アルコキシであり、
式(II)のR
1及びR
4は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、及び直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコールからなる群から選択され、
式(III)のR
1~R
10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、
好ましくは、R
2、R
5、R
6、及びR
8の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はC
1-3アルコキシであり、
好ましくは、式(III)のR
1、R
4、R
9、及びR
10は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、及び直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコールからなる群から選択され、
式(IV)のR
2、R
3、及びR
7~R
10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、
好ましくは、R
2、R
3、及びR
7~R
10の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はC
1-3アルコキシであり、
式(IV)のR
1、R
4、R
5、及びR
6は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、及び直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコールからなる群から選択される。
【0189】
或いは、工程(F)により提供される少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物は、1つの芳香族環を含み、工程(G)において更に処理され、ここで1つの芳香族環を含む前記低分子量芳香族リグニン由来化合物が、環化反応、好ましくはディールス-アルダー反応又はフリーデル-クラフツアシル化に付され、環化反応生成物は、低分子量芳香族二環又は三環環化芳香族リグニン由来化合物であり、前記化合物は、一般式(II)、(III)、又は(IV)によって特徴付けられる。
【化9】
式(II)のR
2~R
7は、それぞれ独立して、H、任意に置換されたC
1-6アルキル、任意に置換されたC
1-6アルケニル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、ニトロ、ホスホリル、及びホスホニルから選択され、R
2、R
4、R
5、及びR
7の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はC
1-3アルコキシであり、
式(II)のR
1及び/又はR
8は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝のC
1-6カルボキシル、直鎖又は分枝のC
1-6アルデヒド、及び直鎖又は分枝のC
1-6アルコールからなる群から選択され、
式(III)のR
2~R
8は、それぞれ独立して、H、任意に置換されたC
1-6アルキル、任意に置換されたC
1-6アルケニル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、ニトロ、ホスホリル、ホスホニルから選択され、R
2、R
4、R
5、R
6、及びR
8の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はC
1-3アルコキシであり、
式(III)のR
1、R
9、及び/又はR
10は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝のC
1-6カルボキシル、直鎖又は分枝のC
1-6アルデヒド、及び直鎖又は分枝のC
1-6アルコールからなる群から選択され、
式(IV)のR
2~R
9は、それぞれ独立して、H、任意に置換されたC
1-6アルキル、任意に置換されたC
1-6アルケニル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、ニトロ、ホスホリル、ホスホニルから選択され、
R
2、R
4、R
7、及びR
9の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はC
1-3アルコキシであり、
式(IV)のR
1及び/又はR
10は、水素、ヒドロキシ、直鎖又は分枝のC
1-6カルボキシル、直鎖又は分枝のC
1-6アルデヒド、及び直鎖又は分枝のC
1-6アルコールからなる群から選択される。
【0190】
好ましくは、環化反応はフリーデル-クラフツアシル化である。このようなアシル化反応は、環化反応に関して、好ましくは石油化学分野において、以前から知られており、これは特に驚くべきことである。前記環化反応を、再生可能な源に由来する本発明の化合物に適用することは、新たな合成オプションとなる。
【0191】
フリーデル-クラフツアシル化は、強力なルイス酸触媒を用いる芳香族環の塩化アシルによるアシル化である。フリーデル-クラフツアシル化は、酸無水物でも可能である。この反応は、典型的には、強力なルイス酸触媒、例えば、無水塩化第二鉄を触媒として用いる、芳香族環のアルキルハライドによるアシル化を含む。
【0192】
本発明の文脈において、ディールス-アルダー反応は、共役ジエンと一般にジエノフィルと称される置換アルケンとの間の有機化学反応、典型的には[4+2]環化付加と理解され、置換シクロヘキセン系を形成する。前記形成されたシクロヘキセン系は、好ましくは芳香族である。ディールス-アルダー反応は、レジオ化学的及び立体化学的特性を良好に制御して6員環系を形成する信頼性の高い方法として、合成有機化学において特に有用である。
【0193】
本発明の好ましい実施形態では、芳香族環を1つだけ含む単環式化合物は、芳香族環の数を増加させる反応に付すことができる。したがって、各化合物は環化を経る。一般に、有機化学における「環化」は、新しい環が別の分子上、典型的には別の環上に構築される化学反応である。例えば、ディールス-アルダー反応を行うことにより、本発明の工程(F)によって提供されるモノマー化合物を、二環式、三環式、四環式、又はそれ以上のn-環式化合物に拡張することができる。理論に拘束されることを望むものではないが、増大した環化を有する化合物は、更に処理されたレドックス活性化合物として有利であると考えられる。例えば、アントラキノン誘導体の前駆体であってもよいアントラセン誘導体は、本発明の文脈において好ましいが、これは、環化の増大に伴ってレドックス電位が減少し、したがって、より環化された誘導体がより安定であることを示すからである。これは、本発明の更なる側面にしたがって、好ましくは各種用途のためのレドックス活性化合物に酸化された化合物にとって特に重要であり、この化合物は、長い動作寿命が実用に適することを必要とする。増大した安定性を有するレドックス活性化合物を提供することにより、この重要な実用的要求が満たされる。
【0194】
ジエンを適切に選択することにより、より安定でないベンゾキノン構造をナフタセン、アントラセン、及び/又はフェナントレンに変換することが可能である。本発明にしたがう既存の単環式化合物、好ましくはキノンなどの酸化された化合物へのベンゼン環の融合は、2つの隣接する非置換の又は置換された位置を有する環上で達成され得る。しかし、一般に、より高い収率のためには、非置換の位置が好ましい。したがって、本発明の文脈において、1超の芳香族環の化合物が望まれる場合、化合物は、環化反応が行われた後にはじめて、更なる置換反応に付されることが好ましい。大規模反応では、当技術分野で知られた1つ以上の重合阻害剤を添加することが更に有利であり得る。ディールス-アルダー反応は、当技術分野で知られた適切な触媒、好ましくは1つ以上の金属塩化物及び/又はゼオライトによって触媒されてもよい。後続の酸化工程は、必要である場合も必要でない場合もある。還元された触媒が依然として初期の反応工程から存在する場合、新たに環化した環は即座に酸化され、芳香族化され、多環キノンを生じる。或いは、例えば、アントラキノン誘導体を得るために、アルカリ溶液中での通気を使用してもよい。
【0195】
縮合は、例えば、立体障害、ひいては縮合生成物及び誘導体化生成物における収率の低下を避けるために、好ましくは、レドックス活性化合物を得るために、任意に行われる下流の酸化の前、及び/又は、誘導体化の前に行われる。工程(F)又は(G)から得ることができる化合物に関して本明細書で使用する誘導体化は、溶解度及び電気化学的特性を改善することを目的とする。
【0196】
本発明の好ましい実施形態において、工程(F)又は(G)から得られた少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物は、i)H2O2、O2、及び空気からなる群から選択される酸化剤、及び(ii)金属イオン又は半金属を含む不均一系触媒の存在下で少なくとも1つの低分子量芳香族リグニン由来化合物を酸化することにより、又はNaOHの存在下で均一系触媒作用を行うことにより工程(H)で更に修飾される。前記好ましい実施形態においては、金属イオン又は半金属を含む触媒は必要ではない。
【0197】
本発明の一実施形態においては、キノンに対して高い選択性を有するCo(II)錯体を使用される。例えば、(pyr)Co(II)サレンは、O2の存在下、過圧下(例えば、少なくとも3バール)で使用することができる。このような反応は、室温で、MeOHなどの有機溶媒中で行うことが好ましい場合がある。他の好ましい触媒は、Co(3-メトキシサレン)及びCo(N-N-Me salpr)である。後者の場合、好ましい有機溶媒は、CH2Cl2であってもよい。前記酸化は、酸化低分子量芳香族リグニン由来化合物を提供し、これは本発明にしたがってヒドロキノン化合物として一般に理解される化合物である、及び/又は更に酸化を行うと、本発明にしたがってキノン化合物として理解される化合物である。
【0198】
好ましくは、工程(H)は、一般式(Va):
【化10】
(式中、R
1~R
5は、ぞれぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、R
1、R
3、及びR
5の1つは、ヒドロキシである。)
又は一般式(Vb):
【化11】
(式中、R
1~R
9は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、R
5は、好ましくはヒドロキシである。)
によって特徴付けられる少なくとも1つのヒドロキノン化合物(工程(H.1)を生成する。
【0199】
前記ヒドロキノン化合物は、好ましくはレドックス活性材料であり、様々な用途において有益であり得る。
【0200】
特に好ましい実施形態においては、工程(H)は、(工程H.1)よりも過酷な酸化条件下で、一般式(VIa)~(VIb):
【化12】
(式中、R
1、R
2、R
4、及びR
5は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択される。)又は
【化13】
(式中、R
2~R
5は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択される。)又は
【化14】
(式中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択される。)又は
【化15】
(式中、R
1~R
4及びR
6~R
9は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択される。)
によって特徴付けられる少なくとも1つキノン化合物を提供する(工程H.2)。
【0201】
或いは、工程(H)は、一般式(Va):
【化16】
(式中、R
1~R
5は、ぞれぞれ独立して、任意に置換されたC
1-6アルキル、任意に置換されたC
1-6アルケニル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、カルボキシル、ニトロ、ホスホリル、及びホスホニルから選択され、R
1、R
3、及びR
5の1つは、ヒドロキシである。)
又は一般式(Vb):
【化17】
(式中、R
1~R
9は、ぞれぞれ独立して、任意に置換されたC
1-6アルキル、任意に置換されたC
1-6アルケニル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、カルボキシル、ニトロ、ホスホリル、及び及びホスホニルから選択され、R
5は、ヒドロキシである。)
によって特徴付けられる少なくとも1つのヒドロキノン化合物を生成することができる(工程H.1)。
【0202】
前記ヒドロキノン化合物は、好ましくはレドックス活性材料であり、様々な用途において有益であり得る。
【0203】
特に好ましい実施形態においては、工程(H)は、(工程H.1)よりも過酷な酸化条件下で、一般式(VIa)~(VIb):
【化18】
(式中、R
1、R
2、R
4、及びR
5は、それぞれ独立して、任意に置換されたC
1-6アルキル、任意に置換されたC
1-6アルケニル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、カルボキシル、ニトロ、ホスホリル、及びホスホニルから選択される。)又は
【化19】
(式中、R
2~R
5は、それぞれ独立して、任意に置換されたC
1-6アルキル、任意に置換されたC
1-6アルケニル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、カルボキシル、ニトロ、ホスホリル、及びホスホニルから選択される。)又は
【化20】
(式中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、任意に置換されたC
1-6アルキル、任意に置換されたC
1-6アルケニル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、カルボキシル、ニトロ、ホスホリル、及びホスホニルから選択される。)又は
【化21】
(式中、R
1~R
4及びR
6~R
9は、それぞれ独立して、H、任意に置換されたC
1-6アルキル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、ニトロ、カルボキシル、ホスホリル、及びホスホニルから選択される。)によって特徴付けられる少なくとも1つのキノン化合物を生成することができる(工程H.2)。
【0204】
好ましくは、工程(H.1)によって提供される少なくとも1つのヒドロキノン化合物を、工程(I)において、好ましくは電池のセルスタック中にて酸化剤で、任意に不均一系触媒の存在下で酸化し、本明細書に記載の式(VIa)~(VId)によって特徴付けられるキノン化合物を得る。通常、既にレドックス活性であり、酸化されていてもよいヒドロキノン化合物、又は前記ヒドロキノン化合物の用いられた分子の全量の一部が酸化されていてもよい本発明に係るヒドロキノン化合物を提供するのに十分である。
【0205】
好ましい実施形態においては、工程(H)及び任意に工程(I)は、以下の構造のいずれか又は両方で表される化合物を提供する。
【化22】
別の好ましい実施形態においては、本発明方法の工程(E)と(H)は、1つの工程に組み合わせてもよい。ここでは、例えば、修飾リグニン由来成分(典型的には代替物(E.1)又は(E.3)の(クラッキング及び)酸化が、即時的に又は同時に起こり、化合物が、本発明に係るヒドロキノン及び/又はキノン化合物に酸化される。有利なことには、前記組み合わせは、反応物、反応性剤、及び/又はプロセス装置、及び装置手段の観点で時間及び資源を節約することができる。したがって、このような組合せは、本発明によるヒドロキノン及び/又はキノン化合物などの再生可能な起源のレドックス活性化合物を製造するための著しく経済的で簡単な方法をもたらす。このような組み合わせられた方法工程は、好ましくは、工程(E.3)の電気酸化を適用することによって促進されるが、(E.1)による触媒促進酸化も適用することができる。リグノスルホナートなどの修飾リグニンからヒドロキノン及び/又はキノン化合物への直接酸化が、それぞれの設定された電気化学的条件によって制御される、電気酸化が好ましい。好ましくは、修飾リグニンは、20%(w/w)未満、好ましくは10%(w/w)未満、より好ましくは5%(w/w)未満、更により好ましくは2%(w/w)未満に希釈される。この溶液は、1から14のpHを有することができる。酸性条件下での電気酸化が好ましい。或いは、アルカリ性条件下で、好ましいpHは少なくとも11、より好ましくは少なくとも13である。電気酸化は、好ましくはフローセル内で行われ、フローは少なくとも1ml/分、好ましくは10ml/分又は50ml/分、より好ましくは少なくとも200ml/分に対応するが、遥かに高い流量までスケールアップすることができる。電気分解は、典型的にはガルバノスタット的に、好ましくは少なくとも10分間、好ましくは少なくとも30分間、或いは少なくとも1時間、好ましくは少なくとも4時間行うことができる。例えば、時間と資源を節約するためには、最も好ましくは、少なくとも30分間の電解実施時間である。好ましくは、電気分解は、好ましくは少なくとも0.5mA/cm
2、より好ましくは1mA/cm
2、更により好ましくは少なくとも5、10、又は100mA/cm
2の電流を印加することによって行われる。
【0206】
また、工程(G)から得られた低分子量芳香族二環又は三環環化化合物を、工程(H)で更に修飾することが好ましい。これは、(i)H
2O
2、O
2、及び空気からなる群から選択される酸化剤、及び(ii)金属イオン又は半金属を含む不均一系触媒の存在下で少なくもと1つの低分子量芳香族芳香族二環又は三環環化化合物を酸化する、又はNaOHの存在下で均一系触媒作用を行うことにより(この場合、通常、金属イオン又は半金属を含む触媒は必要ない)、少なくとも1つのキノン及び/又はヒドロキノン化合物を得る(前記化合物は、一般式(VII)、(VIII)、及び/又は(IX)によって特徴付けられる)ことも好ましい。
【化23】
【化24】
式中、式(VII)に関するR
1~R
8は、及び/又は、式(VIII)及び(IX)に関するR
1~R
10、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、オキソ、又はカルボニルから選択され、
式(VII)のR
8及びR
5又はR
1及びR
4の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はオキソであり、又は式(VIII)のR
9及びR
6、R
10及びR
5、又はR
1及びR
4の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はオキソであり、又は式(IX)のR
10及びR
7又はR
1及びR
4の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はオキソである。
【0207】
或いは、前記化合物は、一般式(VII)、(VIII)、及び/又は(IX)によって特徴付けることができる。
【化25】
式中、式(VII)に関するR
1~R
8は、及び/又は、式(VII)及び(IX)に関するR
1~R
10、それぞれ独立して、H、任意に置換されたC
1-6アルキル、ハロゲン、任意に置換されたC
1-6アルコキシ、アミノ、ニトロ、カルボキシル、ホスホリル、ホスホニルから選択され、
式(VII)のR
8及びR
5又はR
1及びR
4の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はオキソであり、又は式(VIII)のR
9及びR
6、R
10及びR
5、又はR
1及びR
4の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はオキソであり、又は式(IX)のR
10及びR
7又はR
1及びR
4の少なくとも1つは、ヒドロキシ又はオキソである。
【0208】
例えば、工程(H)は、以下の構造で特徴付けられる化合物を提供することができる。
【化26】
【0209】
工程(F)、(G)、(H)、(H.1)、(H.2)、又は(H.1)、及び/又は(I)によって提供される少なくとも1つのキノン及び/又はヒドロキノン化合物を単離及び/又は精製工程(J)に付し、適切な方法、好ましくは当技術分野で通常知られた沈殿、再結晶、蒸留、昇華、固相抽出、又は流体-流体相抽出(最も好ましくは沈殿)によって、少なくとも1つのキノン及び/又はヒドロキノン化合物を残留する化合物から分離することが更に好ましい。
【0210】
前記少なくとも1つの濾過済みキノン及び/又はヒドロキノンは、典型的には、レドックス活性化合物である。レドックス活性化合物は、特定の反応に関与する1対のレドックス剤、即ち、レドックス対を形成することができる化合物として、本発明の文脈においては理解される。したがって、前記化合物は、好ましくは、任意の電気化学的用途に適している。
【0211】
本発明の第2の態様の好ましい実施形態においては、前記少なくとも1つのキノン及び/又はヒドロキノン化合物を、誘導体化工程(K)に付すことによって更に修飾させる。ここで、好ましくは構造式(I)~(IX)のいずれか1つで表される化合物に、1つ以上の水素、ヒドロキシ(OH-)、カルボキシ、直鎖又は分岐の任意に置換されたC1-6アルキル(例えば、-CH3)、直鎖又は分枝の任意に置換されたC1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC1-6アルデヒド、エステル、ハロゲン、アミン、アミノ、アミド、ニトロ、オキソ、カルボニル、ホスホリル、ホスホニル、シアニド、又はスルホニル(SO3H-)の基(又は他の基)を、オキソ又はヒドロキシル基によって特徴付けられる以外のアリール構造の位置に導入する。ここで、前記基は、アリール構造に直接結合しているか、又はアルキルリンカー、好ましくはメチルリンカーを介してアリール構造に結合している。NO2
-を導入することができるが、得られた化合物の安定性の理由からあまり好ましくない。
【0212】
本発明の文脈において、例えば1つ以上のSO3H、OH、及び/又はCH3基で置換されたモノマー芳香族リグニン由来化合物は、低電位電解質のための材料として提供され得る。これに加えて又はこれに代えて、1つ以上の-NO2基で置換されたモノマー芳香族リグニン由来物は、高電位電解質のための材料を提供することができる。
【0213】
本発明方法の出発物質としてのリグニンの使用は、工程(F)、(G)、(H)、(I)、及び(J)から得られる化合物が、好ましくは既にC1-6アルコキシ基(特にメトキシ又はエトキシ基)を含み、これは、特に、目的化合物にレドックス活性化合物としての使用が意図されている場合に、更なる所望の性質を付与することができる。このようなC1-6アルコキシ基は、さもなければ、かなりの(技術的及び/又は経済的な)努力においてのみ前駆体化合物に典型的に導入することができる。したがって、本発明方法の工程(K)において更に修飾される、工程(F)、(G)、(H)、(I)、及び(J)から得られる化合物は、有利には置換基としてC1-6アルコキシ基を有することができる。次いで、修飾工程(K)を用いて、更なる目的の置換基を導入することができる。
【0214】
修飾反応は、出発物質としてのベンゾキノン、ベンゾヒドロキノン及びそれらの誘導体、ナフトキノン、ナフトヒドロキノン及びそれらの誘導体、並びに出発物質の混合物を用いて行うことができる。各出発材料、中間体又は生成物は、酸化又は還元を介して、対応するキノン又はヒドロキノンの形態に変換することができる。適切な酸化剤は、空気、酸素、又は過酸化水素から、触媒と組み合わせて又は触媒なしで選択することができる。触媒は、金属系触媒(好ましくは銅及びアルミニウムを含む)、ヨウ素、非有機酸及び有機酸又は他のキノンから選択することができる。適切な還元剤は、触媒と組み合わせて又は触媒なしで、水素、ナトリウムジチオナート、水素化ホウ素ナトリウム、鉄、錫(II)-クロライド又は亜鉛であり、水素及びナトリウムジチオナートが好ましい。触媒は金属系であることができ、好ましくはパラジウム又はニッケルである。
【0215】
キノン及びヒドロキノンは、置換及び付加反応又は再配列、好ましくはヒドロキノン上での置換反応及びキノン上での付加反応によって、修飾又は誘導体化することができる(反応スキーム1及び2参照)。置換反応には、芳香族環上のプロトンが、例えば、求電子置換を介して、異なる基に置き換わる任意の反応が含まれる。適切な求電子試薬は、三酸化硫黄、アルデヒド、ケトン、エステル、ラクトン、カルボン酸、無水物、イミン、二酸化炭素、クロロスルホン酸、アシルハライド、ハロゲン、NO2、及びエポキシド、好ましくは二酸化炭素、無水物、イミン、及びアシルハライドから選択することができる。
【0216】
付加反応には、好ましくは芳香族環上の求核付加と、その後の互変異性体転位を介して、プロトンを除く新たな基を芳香族環に導入する反応が含まれる。適切な求核試薬には、アンモニア、アミン、窒素含有複素環、チオール、アルコール、シアン化物、及びアジド、好ましくはアミン、アルコール、及び窒素含有複素環が含まれる。
【0217】
反応は、ワンポット反応で段階的に又は数段階で行うことができる。修飾された目的化合物は、種々の用途においてそれらを有用にする好ましいレドックス特性を示し得る。
【化27】
【0218】
R2~R5での修飾反応後に、更なる置換基をナフトキノン及びナフチルヒドロキノンに導入することができる(スキーム2)。典型的な(更なる)置換基R2~R5は、水素、メトキシ、エトキシ、第一級、第二級、第三級及び第四級アミン、カルボキシアルキル、アミノアルキル、カルボン酸、エステル、アミド、シアニド、及びアルキル基である。
【0219】
アンタキノン及びアントラヒドロキノンは、前記の他の(ヒドロ-)キノンの文脈で記載されているように、酸化及び還元によって修飾することができる。続いて、置換基は、適切な置換反応においてR2~R10に導入することができ、典型的に求電子置換を含まない。
【0220】
(ヒドロ-)キノン類(特に、ベンゾ-、ナフト-、及びアントラキノン)のスルホン化は、本発明の文脈において特に重要な修飾反応である。
【0221】
一般に、スルホン化は、濃硫酸水溶液(オレウム)の存在下で行うことができる。或いは、三酸化硫黄を、空気、N2、及び/又はCO2などの不活性ガスと混合してもよく、又は、ピリジン、ジオキサン、(CH3)3N、又はDMFなどの錯化剤で錯化してもよい。一般に、スルホン化は、好ましくは、高収率のために、より高温で行われる。ここで、高温は、少なくとも50℃、好ましくは100℃であると理解される。しかし、この温度は、修飾化合物が熱分解を受けるほど高くはない。
【0222】
スルホン化化合物区画(bay)の分離は、例えば、本明細書に記載されているように、濾過又は塩析によって実施することができる。
【0223】
酸化された環状化合物は、好ましくは、多用途に使用される優れたレドックス活性化合物である。それらが再生可能な供給源から製造され、同時にパルプ化産業からの生成物の価値化に寄与することが特に好ましい。
【0224】
本発明方法の工程(K)から得られた修飾低分子量芳香族リグニン由来化合物は、好ましくは、一般式(VII)、(VIII)、(IX)、又は(X)のいずれかによって特徴付けることができる。
【化28】
(式中、式(VII)に関するR
1~R
8、及び/又は式(VIII)及び(IX)に関するR
1~R
10、及び/又は式(X)に関するR
1~R
6は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、カルボキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルケニル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコール、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アミノアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6カルボキシアルキル、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルコキシ、直鎖又は分枝の任意に置換されたC
1-6アルデヒド、エステル、ハロゲン、アミン、アミノ、アミド、ニトロ、オキソ、カルボニル、ホスホリル、ホスホニル、シアニド、及びスルホニルの各基からなる群から選択され、
式(VII)のR
8及びR
5又はR
1及びR
4の少なくとも1つがヒドロキシ又はオキソである、又は式(VIII)のR
9及びR
6、R
10及びR
5、又はR
1及びR
4の少なくとも1つがヒドロキシ又はオキソである、又は式(IX)のR
10及びR
7又はR
1及びR
4の少なくとも1つがヒドロキシ又はオキソである、又はR
7及びR
10、R
5及びR
6、又はR
6及びR
2の少なくとも1つがヒドロキシル又はオキソである。)
【0225】
例えば、本発明の第2の態様に係る方法の工程(K)は、好ましくは、以下の構造で特徴付けられる化合物を提供することができる。
【化29】
【0226】
本発明の方法によって得ることができる低分子量芳香族リグニン由来化合物が提供される。好ましくは、前記化合物は、本明細書で定義される構造を有する。この化合物は、工程(F)によって得られる低分子量芳香族リグニン化合物であってもよい。前記化合物は、工程(G)~(K)のいずれかの前駆体として機能することができる。したがって、最終化合物は、好ましくは価値を有するものである。例えば、再生可能なリグノセルロース源から得られるレドックス活性化合物である。
【0227】
前記にしたがって、本発明に係る例示的な方法は、以下に記載されるような工程を含むことができる。第1の工程(A)では、リグノセルロース材料が提供される。前記材料は、細断された形態(例えば木材チップ)であってもよく、例えば、ブナ(又は前記した任意の他の木材)などの低シリカ及び樹脂含量の木材に由来してもよい。
【0228】
第2の工程(B)において、リグノセルロース材料は、本明細書に記載されるパルプ化プロセスに付す。典型的には、前記パルプ化プロセスは、前述のクラフトプロセス又は亜硫酸塩プロセスであることができる。クラフトプロセスでは、典型的には、リグノセルロース材料を湿潤させ、蒸気で予熱し、適切なクラフトパルプ化反応剤(例えば、スルフィド塩、スルフヒドリル化合物又は塩、及びポリスルフィド塩(更に、硫酸塩を添加してもよい))を含むアルカリ性水溶液(例えば、水酸化ナトリウム)中で(例えば、150℃以上(例えば170~180℃)で少なくとも4バールにて3~5時間)蒸解する。そのような溶液は、水酸化ナトリウム及び硫化ナトリウムを含有する「白液」であり得る。クラフト法は、典型的には「クラフトリグニン」を生成し、これを更にスルホン化して「スルホン化クラフトリグニン」を得ることができる。しかしながら、本明細書に記載の他のパルプ化プロセスも同様に適用することができる。特に、亜硫酸塩プロセスを用いることができる。亜硫酸塩プロセスでは、リグノセルロース材料は、典型的には湿潤され、蒸気で予熱し、水性、典型的には、亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の剤を含む低pH(例えば、pH1~5)の酸性溶液中で(例えば、120℃~170℃(例えば130℃~160℃)で少なくとも4バールにて4~6時間)蒸解する。
【0229】
パルプ化プロセスは、好ましくは木材をその成分であるリグニン、セルロース、及びヘミセルロースに崩壊し、これらは、後続の工程で分離することができる。
【0230】
本発明方法の工程(C)では、パルプをプロセス流から分離して、実質的にセルロースを含まず、修飾リグニン由来成分、ヘミセルロースなどを含む少なくとも1つのプロセス流が提供される。分離は、典型的には、吹き込み、ふるい分け、濾過、及び1つ以上の洗浄工程によって達成することができる。
【0231】
続いて、工程(D)において、修飾リグニン由来成分は、プロセス流の他の成分から単離することができる。これは、例えば、適切な分子量カットオフ値(限外濾過の場合は約5kDa、ナノ濾過の場合は0.1~5kDaなど)を用いた限外濾過及び/又はナノ濾過によって行うことができる。
【0232】
次いで、単離された修飾リグニン由来成分は、工程(E)において化学的分解に付される。酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)(本明細書に記載されている他の化学的分解方法もまた適用可能であるが)を用いて、より大きな分子の共有結合を解離することによって、より大きな分子をそれらのより小さなフラグメントに分解又は解離させる。酸化クラッキング(クラッキング及び酸化)は、空気などの適切な酸化剤及び適切な触媒の存在下で行うことができる。触媒は、均一系触媒、例えば、Cu(II)又はFe(III)などの金属イオンを含む金属塩、又はB(III)、Si(IV)、及びAl(III)などの半金属成分を含む金属塩であることができる。化学分解は、高温(即ち、>30℃、例えば150℃)で行うことができるが、典型的には、処理された材料の熱分解を誘発しない温度(即ち、<350℃)で行われる。
【0233】
更なる工程(F)において、低分子量芳香族リグニン由来成分は、高分子量芳香族リグニン由来成分及び/又は他の非リグニン由来残留成分から単離される。これは、限外濾過又はナノ濾過によって行われる。使用される限外又はナノフィルタは、例えば0.15kDa~1kDa又はそれ以下(例えば、0.5kDa)の分子量カットオフを有することができる。単離工程(F)は、前記低分子量芳香族リグニン由来成分の、例えば、透析濾過又は抽出及び、必要に応じてその後の分別蒸留による精製を更に含むことができる。
【0234】
低分子量芳香族リグニン由来化合物は、好ましくは芳香族であってもよく、任意に脂肪族リンカーによって連結されていてもよい1つ又は2つの(非環状)芳香族環を含むことができる。本発明方法によって得られる例示的な低分子量芳香族リグニン誘導化合物としては、ビフェニル、ベンジルアルコール、ベンズアルデヒド、及び安息香酸のフェノール誘導体、好ましくはp-ヒドロキシベンジルアルコール、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、及びp-ヒドロキシ安息香酸の誘導体、又はより好ましくはバニリン、グアイアコール、オイゲノール、シリンゴール、フェノール、シリンガアルデヒド、又はそれらの誘導体が挙げられる。
【0235】
本発明方法の工程(G)において、単環式化合物をフリーデルクラフツアシル化(又は別の適切な環化反応)に付して、環式二環又は三環化合物(又は四環又は五環又は更に多環のn環化合物)を生成することができる。しかし、得られた化合物を、プロセスの後の段階(例えば、工程(H)の後)で環化に付すこともできる。
【0236】
本発明方法の単離/精製工程(F)又は環化工程(G)から得られた(任意に環化された)低分子量リグニン由来化合物は、次いで、工程(H)において、H2O2又はO2などの酸化剤及び適切な触媒の存在下で酸化することができる。この文脈における有用な触媒としては、例えば、(pyr)Co(II)サレン、Co(3-メトキシサレン)、及びCo(N-N-Me salpr)などのCo(II)錯体が挙げられる。本発明方法の酸化工程(H)は、好ましくはヒドロキノン化合物(ベンゾヒドロキノン、ナフトヒドロキノン、又はアントラヒドロキノンなど)を生成することができる。
【0237】
前記ヒドロキノンは、それぞれのキノン化合物を得るために更なる酸化工程(I)に付すことができる。ヒドロキノンの酸化は、酸化剤、好ましくはCuOAlO(OH)などの適切な不均一系触媒の存在下で好ましく行うことができる。
【0238】
本発明プロセスは、抽出、沈殿、及び/又は蒸留を含み得る、工程(G)、(H)、及び/又は(I)の後の少なくとも1つの更なる単離/精製工程(J)を含み得る。
【0239】
最後に、工程(H)、(I)、又は(J)から得られた(単離及び/又は精製された)(ヒドロ-)キノンを誘導体化して、1つ以上の目的の官能基を導入することができる。そのような反応は、本明細書に記載されるように、酸化、還元、(任意に求電子性の)置換、及び/又は求核付加反応を含み得る。導入された官能基は、得られる化合物の所望の用途に応じて、様々な基から選択され得る。例えば、SO3H基は特に重要であり、レドックス活性化合物を生成し得る。
【0240】
本発明の第3の態様において、従来のパルプ及び/又は紙製造プラントの一部ではない工程(C)~(F)を実施するためにアセンブリが提供される。工程(C)に関して、従来のパルプ及び/又は紙製造プラントの目的生成物を得るための中心的活動として、パルプ化プロセス(工程(B))由来のプロセス流からのパルプ分離が行われる。しかし、工程(C)で任意に考案された少なくとも2つの部分プロセス流へのプロセス流の分離は、知られたパルプ及び/又は紙製造プラントの一部ではない。したがって、本発明に係るアセンブリは、(i)任意に流セパレータ、(ii)単離ユニット、(iii)分解ユニット、及び(iv)分離ユニットを含む。工程(D)において部分プロセス流を提供するための工程(D.2)におけるプロセス流の提供は、好ましくは、当技術分野で知られた機械的及び/又はニューマチック手段を含む流分離ユニットにおいて行われる。修飾リグニンの単離は、例えば(限外)濾過、抽出、及び向流フローを行うための手段を含む単離ユニットで行うことができる。
【0241】
本発明の別の好ましい実施形態においては、アセンブリの流セパレータは、工程(C)の実質的にパルプを含まないプロセス流を少なくとも2つの部分プロセス流に分割することを容易にする。流セパレータによって、少なくとも2つの部分プロセス流の比を制御することができ、これらの流は、異なる更なる処理に供給してもよい。典型的には、部分プロセス流の1つの修飾リグニン由来成分のフラクションは単離されない。代わりに、修飾されたリグニンの元の内容物を含む流が、燃焼及び回収ユニットに送られる。修飾リグニン由来成分のフラクションの一部を、パルプ及び/又は紙製造プラントのためのエネルギー供給のための内部エネルギー燃料として使用する。更に、例えば、黒色又は褐色の液体から又は有機溶媒から残留反応剤が回収される。これらの反応剤は、典型的には、例えば少なくとも500℃、更には少なくとも750℃、更には少なくとも1000℃の温度に耐える塩である。燃焼の間、例えば、硫酸ナトリウムは、混合物中の有機炭素によって硫化ナトリウムに還元することができ、パルプ化プロセスで再使用することができる。対照的に、修飾リグニン、ヘミセルロース、残留セルロース、及び/又はそのフラグメントなどの内部燃料として働く有機材料は、例えば、少なくとも500℃、又は更には少なくとも750℃、又は更には少なくとも1000℃の温度で燃焼される。
【0242】
燃焼及び回収プロセスは、クラフトプロセスにしたがって動作するプラントにおいてより頻繁に使用される。ここで、過剰の黒液は、典型的には約15%(w/w)の固体を含み、多効蒸発器中で濃縮することができる。前記濃縮後、黒液は典型的には約20~30%(w/w)の固体に濃縮される。このような固体の濃度では、ロジン石鹸と称される天然に含まれる石鹸が表面に浮き上がり、スキミング除去される。回収された石鹸は更にトール油に加工される。石鹸の除去は、燃焼操作を改善する。約20~30%(w/w)の固体を有する石鹸除去黒液は、弱黒液と称される。その後、「重黒液」とも称されることがある、65%又は更には80%の固体に更に蒸発され、パルプ化プロセスでの再使用のためにエネルギーを供給し、無機化学物質を回収するために回収ボイラで燃焼することができる。濃縮された黒液は通常、その大きな発熱量(約12.000~13.000Btu/乾燥lb)で評価される。燃焼により放出された熱は、高圧及び電力を発生させるために使用される。したがって、高圧蒸気はターボ発電機に供給され、プラント用及び発電用の蒸気圧を低下させる。黒液中において放出された熱及び低下する価値の一部は、パルプ及び/又は紙製造プラントの反応剤回収操作を行うために使用される。
【0243】
したがって、本発明方法の工程(1)から生じるプロセス流の修飾リグニン由来成分のフラクションは、典型的には、紙及びパルプ製造プラントにとって重要な燃料である。これは、パルプ及び/又は紙製造プラントのエネルギー自給に大きく貢献するからである。更に、パルプ及び紙産業は、伝統的に、森林材料の生育、収穫、輸送、及び処理のための非常に効率的なインフラストラクチャーを有している。例えば、クラフト作業は、高度に統合されており、且つ、作業の中心である法外に高価な化学的回収ボイラを動作させるための燃料として、木材からの(修飾された)リグニンフラクションに依存する。これまで、この燃料源を他の用途に転換することは、天然ガス又は石炭を購入することによってエネルギー需要を補うためのパルプ化操作を必要としており、潜在的にプラントの経済性を混乱させていた。したがって、亜硫酸塩プロセスとは異なり、クラフトプロセスは、本質的にリグニン由来原料の源を提供しなかった。
【0244】
しかし、現代のパルプ及び/又は紙製造プラント(クラフトプロセス下での稼働を含む)は、ますますエネルギー効率が高くなっている。更に、樹皮及び木材残留物は、別個の電力ボイラで燃焼させて蒸気を発生させることができる。現代のパルプ及び/又は紙製造プラントで利用可能なエネルギー源における前記オーバーフローは、プラントがエネルギー供給の観点での自給を維持する間に、リグニン由来の可燃性材料を変換する十分な「安全マージン」を提供することができる。
【0245】
現代のパルプ及び/又は紙製造プラントで利用可能なオーバーフロー修飾リグニンの「安全マージン」は、濃縮(黒)液中の高固形分が高粘度であり、燃焼及び回収ユニット内のダクトにおける固形物の沈殿をもたらすという典型的な欠点を有するという事実を考慮すると、遥かに大きくしてもよい。この沈殿は、装置の詰まり及び汚損をもたらすので、好ましくは回避する必要がある。したがって、例えば、また、本発明のアセンブリの分流器によって、修飾リグニン由来成分のフラクションの単離を制御し、燃焼及び回収ユニットに供給されるプロセス流中の修飾リグニン量を低減することは、このような不利な装置の詰まり及び汚損に回避に有利に貢献することができる。
【0246】
これに関して、本発明アセンブリは、一方ではクラフトプロセスへのエネルギー供給の必要性と、他方ではリグニン及びその誘導体の転用とのバランスをとる手段を提供する。第1に、転用手段のフレキシブルな制御により、パルプ及び/又は紙製造プラントの運転に実際に必要とされる電気及び/又は蒸気の発生にプロセス流の一部を正確に向けることが可能になる。これにより、燃焼に必要でない修飾リグニン由来成分は、本発明による修飾リグニンの更なる処理など他の用途に完全に向けることができる。したがって、電気及び/又は蒸気の過剰生成における燃料として、修飾リグニンは、より少量しか浪費されない、又は全く浪費されない。第2に、目的低分子量芳香族リグニン由来化合物を生成しない修飾リグニン又はリグニン由来化合物又はそのフラグメントは、パルプ及び/又は紙製造プラントのエネルギー供給を供給するプロセス流にリサイクルすることができる。第3に、本明細書で説明されるように、パルプ及び/又は紙製造プラントは、ますますエネルギー効率が高くなり、したがって、エネルギー供給目的のために必要とされる修飾リグニン供給は、縮小し始める。或いは、エネルギー損失は、森林残渣の使用及び/又は黒液のガス化への移行によって仲介される場合がある。このシナリオでは、業界は必要な電力を生成し続けることができるが、ガスタービンの高効率化のために、高価値製品の製造のためとなり得る別の合成ガス流を生成することができる。
【0247】
工程(E)を行うために、アセンブリは分解ユニットを含み、高温及び/又は高圧を維持するための、好ましくは1つの反応容器のみにおいて、固体、液体、及び/又は気体の形態の必要な反応物を提供するための手段を提供する。或いは、アセンブリの分解ユニットは、フローセルなどの適切な電気化学セルを提供する。
【0248】
工程(F)を行うために、アセンブリは単離ユニットを含み、本発明方法に含まれるより高分子量のリグニン由来成分及び/又は他の材料からモノマー及びダイマーなどの低分子量芳香族リグニン由来化合物を単離するための手段を提供する。好ましくは、前記手段は、限外濾過及び/又はナノ濾過ユニット又は抽出である。全てのダクト及び/又は生成物及び/又はプロセス流接触部分は、好ましくは不活性材料から作製される。前記アセンブリの好ましい詳細は、前記アセンブリ内で行われる方法に関して本明細書に記載されている。例えば、バルブ及び/又はポンプ又は重力支援手段が、本発明方法の次の下流工程に向かう流の必要なフローを容易にするために典型的に使用されてもよい。
【0249】
工程(C)~(K)を行うための前記アセンブリは、更に、(v)任意に環化ユニット、(vi)酸化ユニット、(vii)任意に誘導体化ユニット、及び(viii)任意に精製ユニットを含むことが更に好ましい。ここで、典型的には、環化ユニットで工程(G)が行われ、酸化ユニットで工程(H)及び任意に工程(I)が行われ、誘導体化ユニットで工程(J)が行われ、精製ユニットで工程(K)が行われる。このようなアセンブリユニットの好ましい要件は、前記アセンブリユニットで実施される本明細書に記載の方法工程の条件及び特性から導き出すことができる。
【0250】
好ましくは、前記アセンブリは、従来のパルプ及び/又は紙製造プラントに直接接続される。しかし、別の実施形態では、装置は、従来のパルプ及び/又は紙製造プラントと直接関連していないし、取り付けられない。代わりに。工程(B)から生じたプロセス流(例えば、従来のパルプ及び/又は紙製造プラントのプロセス流)が回収され、工程(C)~(F)及び任意に(G)~(K)を行うのに適した別個の装置に移される。しかし、本発明の文脈では、工程(C)~(F)及び任意に(G)~(K)を行うのに適した装置の直接的な一体化が好ましい。これは、そのような直接的な統合は、パルプ及び/又は紙製造プラントのエネルギー需要及び更なるパラメータに応じて、プロセス流中のリグニン由来化合物のフレキシブルな分離をもたらすからである。
【0251】
本発明の第5の態様では、本発明に係るアセンブリを備えたプラントによるパルプ化プロセスを用いてパルプ及び/又は紙製造プロセスを適用するための方法が提供される。したがって、前記方法は、既存のパルプ及び/又は紙製造プラントを改変することを意味し、これは、例えば、クラフト又は亜硫酸塩プロセスの下で行われ、プラントには、本発明に係るアセンブリが備えられる。これは、特に有益になり得る。既存プラントを、潜在的に以下を同時にもたらすようにアップグレードされるからである。即ち、(i)従来のパルプ及び/又は紙、(ii)好ましくは自律的にプラントを運転するためのリグニン燃焼に由来するエネルギー供給、及び(iii)修飾リグニンの副生成物に基づくレドックス活性化合物などのファインケミカル中間体又はファインケミカル。このようなアップグレードされたプラントは、パルプ、エネルギー又はファインケミカルの実際の需要に応じて汎用的に操作することができる。したがって、この方法は、既存のパルプ及び/又は紙製造プラントのフレキシビリティと価値を著しく向上させる。
【0252】
本明細書において開示された任意の技術的特徴は、本発明の各実施形態の一部であることができる。本開示の文脈において、更なる定義及び説明を提供することができる。
【0253】
以下に詳細に説明される本発明は、本明細書に記載する特定の方法、プロトコル、及び試薬に限定されるものではない(これらは変更可能である)ことを理解すべきである。また、本明細書で使用する用語は、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解すべきである。特に規定しない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。
【0254】
本明細書に記載される要素は、特定の実施形態と共に挙げられるが、これらを任意の方式で任意の数組み合わせて更なる実施形態を生み出すことができると理解すべきである。様々に記載される実施例及び好ましい実施形態は、本発明を明示的に記載される実施形態のみに限定すると解釈すべきではない。この説明は、明示的に記載される実施形態を、任意の数の開示する及び/又は好ましい要素と組み合わせた実施形態をサポート及び包含すると理解すべきである。更に、文脈から別の理解が示されない限り、本願に記載する全ての要素の任意の順序及び組合せが、本願の記載によって開示されているとみなすべきである。
【0255】
特に文脈上必要としない限り、以下の本明細書及び特許請求の範囲全体を通して、用語「含む」並びに「含み」及び「含んでいる」等の変形は、指定の部材、整数、又は工程を含むことを意味するが、任意の他の指定されていない部材、整数、又は工程を除外するものではないと理解される。用語「からなる」は、任意の他の指定されていない部材、整数、又は工程が除外される、用語「含む」の特定の実施形態である。本発明の状況では、用語「含む」は、用語「からなる」を包含する。したがって、用語「を含む」は、「を含める」及び「からなる」を包含し、例えば、X「を含む」組成物は、Xのみからなっていてもよく、追加の要素を含んでいてもよい(例えば、X+Y)。
【0256】
用語「a」及び「an」及び「the」、並びに(特に、特許請求の範囲において)本発明を説明する際に用いる類似の参照物は、本明細書において特に指定しない限り又は文脈上明らかに矛盾していない限り、単数及び複数の両方を網羅すると解釈すべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、単に、範囲内の各個別の値に個々に参照する簡略な方法として機能することを意図する。本明細書において特に指定しない限り、各個別の値は、それが個々に本明細書に列挙されているかのように明細書に組み込まれる。明細書中の如何なる言語も、本発明の実施に必須である任意の請求されていない構成要素を示すと解釈すべきではない。
【0257】
用語「実質的に」は、「完全に」を除外するものではなく、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含んでいなくてもよい。必要な場合、用語「実質的に」を本発明の定義から省略する場合がある。
【0258】
数値xに関する用語「約」は、x±10%を意味する。
【0259】
個々の刊行物又は特許出願が具体的且つ個別に参照により組み込まれるように、本明細書に引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。前記した発明は、理解を明確にするために例示及び実施例によって幾分詳細に記載されているが、本発明の教示に照らして当業者には、特定の変更及び修正が、添付の特許請求の範囲の精神又は範囲から逸脱することなく行うことができることが明らかである。
【実施例】
【0260】
以下に示す実施例は単なる例示であり、本発明を更に説明するものである。これらの実施例は、本発明を限定するものと解釈されるべきではない。以下の調製物及び実施例は、当業者が本発明をより明確に理解し、実施できるようにするために記載する。しかしながら、本発明の範囲は、本発明の1つの態様の例示としてのみ意図された例示実施形態によって限定されず、機能的に等価な方法も本発明の範囲内である。実際、本明細書に記載されたものに加えて、本発明の様々な変更が、前記説明、添付図面、及び以下の実施例から当業者に容易に理解されよう。そのような変更は全て、添付の特許請求の範囲内に含まれる。
【0261】
実施例1:ニッケル触媒によるクラッキング及び還元による低分子量芳香族リグニン由来化合物の調製
本発明方法の工程(E.2)による修飾リグニン由来成分の還元クラッキング(クラッキング及び還元)は、例えば、ニッケルを含む触媒(活性炭に担持されたもの(Ni/C)など)によって行うことができる。触媒は、典型的には、溶液滴下含浸法(incipient-wetness impregnation method)によって調製され、更に、当技術分野で知られた炭素熱還元法(carbothermal reduction method)によって処理される。
【0262】
ここでは、硝酸ニッケル(II)六水和物[Ni(NO3)2 6H2O]を使用し、任意に、当技術分野で知られたビーカー中の水に添加する。次いで、溶液を、例えば、少なくとも30分間攪拌し、含浸ストック溶液を調製する。典型的には1.8mL/gを超える吸水能力を有する活性炭を溶液に添加し、次いでビーカーを培養皿でカバーし、試料を所定時間、好ましくは12時間超、より好ましくは24時間湿潤状態に保つ。次いで、試料を80℃を超える温度、例えば120℃で一晩乾燥させる。実際の還元は、好ましくは水平炉などの容器内でN2などの不活性ガスフロー下で行われる。フローは、例えば、10mL/分間以上、好ましくは30mL/分間以上である。還元温度は、少なくとも30分間、好ましくは少なくとも60分間などの設定時間に亘って、好ましくは少なくとも400℃、好ましくは450℃に達する。還元を行う温度は、少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも2時間、450℃で維持される。Ni/SBA-15触媒は、550℃で2時間還元する。Ni/Al2O3触媒は、700℃で2時間還元する。各ニッケル及び銅ベース触媒の金属担持量は、担体に対して10%(w/w)である。ここでは、カバノキのおがくずをリグノセルロース材料として用い、エタノール-ベンゼン混合物(v/v比 1:2)で12時間処理する。処理済みのカバノキのおがくず、溶媒(m/v 1:20)、及び触媒(w/w 20:1)をオートクレーブ反応器に入れる。反応器を密封し、Arで4~6回パージして空気を排出する。次いで、200℃で少なくとも300rpm、好ましくは500rpmの撹拌速度で還元反応を行う。所望の反応時間(通常2~10時間)に達したら、反応器をサンプリング前に周囲温度まで冷却する。
【0263】
典型的には、この反応は、標準的なガスクロマトグラフィーにより決定されるように、主要生成物として4-プロピルグアイアコール及び4-プロピルシリンゴールを、少量のアルケン置換4-プロピルグアイアコール及び4-プロピルシリンゴールと共に生成する。化合物は、好ましくは抽出によって、工程(F)にしたがって単離される。
【0264】
実施例2:電気酸化による亜硫酸塩プロセスのリグノスルホナートからのモノマー芳香族リグニン由来分子の調製
リグノスルホナートは、本発明に係る工程(D)によって与えられる。1%(W/W)のリグノスルホナートを含む1M NaOH水溶液を調製する。前記溶液を、工程(E.3)にしたがう電気酸化に付す。そこでは、この溶液はアノライトとして使用される。1M水溶液はカタライト(katalyte)として使用される。250ml/分間の流速を有するフローセルが使用される。電気分解は、8時間定電流で1mA/cm2の電流を印加して行うことができる。通常得られる電圧は1.4Vである。電圧曲線は典型的には漸近的であり、溶液は好ましくは褐色から暗褐色に変色する。
【0265】
溶液の試料を8時間に亘って毎時採取し、続いて測光法で調べる。オルト-ベンゾキノンに典型的な吸収プロファイルを決定する。前記方法によって、より低分子量の芳香族リグニン由来化合物であるキノン化合物が調製される。
【0266】
次いで、前記化合物は、本発明の工程(F)にしたがって単離される。前記化合物はジクロロメタンで抽出され、続いてフローセル内で充放電プロセスのサイクルに付される。電圧曲線は、化合物がレドックス活性であり、可逆的に電気分解され得ることを示す。
【0267】
実施例3:フリーデル-クラフツアシル化による環化キノン化合物の調製
低分子量芳香族リグニン由来化合物としてのバニリンは、本発明に係る工程(F)によって提供される。前記化合物は、更に、工程(G)にしたがって環化され、本発明に係る工程(H)にしたがって以下のように5工程で酸化される。
【0268】
(i)4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシベンズアルデヒド(2)の合成:
【化30】
N,N-ジメチルホルムアミドにバニリン(1)(1.0当量)及びベンジルクロライド(1.2当量)を溶解し、ヨウ化カリウム(0.5モル%)を加える。その後、炭酸カリウムを加え、反応物を60℃超、好ましくは60~120℃で少なくとも1時間、好ましくは1~8時間撹拌する。反応終了後、溶液を蒸留水で希釈し、適切な溶媒で抽出する。有機相をブラインで洗浄し、次いで生成物を有機相から単離する。
【0269】
(ii)4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシ安息香酸(3)の合成:
【化31】
1,2-ジメトキシエタン及び水酸化カリウム(5~20当量)の混合物を酸素でパージし、計算量(calculated amount)の単離生成物2(1.0当量)を加える。酸素吸収が停止した後、混合物を蒸留水で希釈し、中性有機生成物を適切な溶媒で抽出する。水層を酸性にし、酸性有機生成物を適切な溶媒で抽出する。生成物3を有機層から単離する。
【0270】
(iii)4-(ベンジルオキシ)-3-メトキシベンゾイルクロライド(4)の合成:
【化32】
単離された生成物3(1.0当量)をチオニルクロライド(5~20当量)に溶解し、混合物を60~120℃で1~8時間撹拌する。反応終了後、過剰のチオニルクロライドを蒸発させて、所望のアシルクロライド4を得る。
【0271】
(iv)アントラキノン(5-7)の合成:
【化33】
アルミニウムトリクロライド(0.1当量)を粗製アシルクロライド4に加え、混合物を-20~60℃で30~300分間撹拌する。反応終了後、混合物を重炭酸塩溶液(bicarb solution)で注意深くクエンチする。生成物を適切な溶媒で抽出し、有機層をブラインで洗浄する。次いで生成物を有機相から単離する。
【0272】
(v)2,6-ジヒドロキシ-3,7-ジメトキシアントラセン-9,10-ジオン8及び2,6-ジヒドロキシ-1,7-ジメトキシアントラセン-9,10-ジオン9の合成:
【化34】
【化35】
アントラキノン5又は6を酢酸エチル、メタノール、又はエタノールに溶解し、パラジウム炭素(palladium on charcoal)(1~30重量%)を加える。混合物を水素雰囲気下(1~10バール)にて室温で撹拌する。触媒を濾別し、生成物(9)を混合物から単離する。
【0273】
次いで、生成物の分光法による特徴付けを行い、本発明に係るレドックス活性化合物として提供する。
【0274】
実施例4:(ヒドロ)キノンの誘導体化
実施例4.1 ジメトキシベンゾキノンの還元
【化36】
100mLのH
2O中の17.0g(0.101モル、1.0当量)の2,6-ジメトキシシクロヘキサ-2,5-ジエン-1,4-ジオンの懸濁液に、23.2gの亜ジチオン酸ナトリウム(0.134モル、1.32当量)を添加した。室温で2時間撹拌した後、沈殿物を濾別し、空気中で乾燥して、白色固体として2,6-ジメトキシベンゼン-1,4-ジオールを15.85g(0.093mol、収率92%)得た。
【0275】
実施例4.2:メトキシベンゾヒドロキノンの酸化:
【化37】
1.4gの触媒Cu/AlO(OH)を、250mL酢酸エチル中の8.2g(0.059モル)の2-メトキシ-1,4-ジヒドロキシベンゼンの溶液に加え、反応混合物をO
2雰囲気、室温で147時間撹拌した。HPLCで測定される転化率が99%に達した後、反応混合物を濾過し、回収した触媒を酢酸エチル(100mL×3)で洗浄した。濾液を集め、溶媒を真空除去して、黄褐色固体として2-メトキシシクロヘキサ-2,5-ジエン-1,4-ジオンを7.66g(0.055モル、95%収率)得た。
【0276】
実施例4.3:メトキシベンゾヒドロキノンのアセチル化:
2-メトキシベンゼン-1,4-ジオール8.24g(0.059モル、1.0当量)を、還流冷却器を備えた250mL反応フラスコに秤量した。60mLのジクロロエタン及び15mL(0.159モル、2.7当量)の無水酢酸を添加した。次いで、三フッ化ホウ素エーテル溶液12mL(0.096モル、1.63当量)を攪拌しながら室温でゆっくり添加した。反応混合物を90℃に20時間加熱した。混合物を60℃に冷却し、30mLのH2Oを加え、続いて10mLのHCl(6M)を加えた。得られた混合物を100℃に30分間加熱し、冷却し、酢酸エチル(150mL×3)で抽出した。合わせた抽出物をH2O(100mL)、飽和重炭酸ナトリウム(100mL)、及びH2O(100mL)で順次洗浄し、次いで無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を真空下で除去して褐色固体残渣を得、これをメタノールで洗浄して、ベージュの固体として1-(2,5-ジヒドロキシ-4-メトキシフェニル)エタン-1-オンを7.49g(0.041モル、70%収率)得た。
【0277】
実施例4.4 ベンゾキノンへのイソニコチン酸の添加:
p-ベンゾキノン2.16g(0.02モル、1.0当量)を酢酸6.4mLに懸濁させた。2.46g(0.02mol、1.0当量)のニコチン酸を加え、混合物を室温で2時間撹拌した。得られた暗色混合物を3mLの水で希釈し、6.6mLのHCl(6M)で処理した。冷却すると、固体が析出し、これを濾別し、60℃で一晩乾燥して、黄色の固体として3-カルボキシ-1-(2,5-ジヒドロキシフェニル)ピリジン-1-イウムクロライド3.13g(0.012モル、59%収率)を得た。
【0278】
実施例4.5 アントラキノンのスルホン化
【化38】
アントラキノンの溶液を、濃硫酸(オレウム)中の20%~40%のSO
3の溶液中で加熱し(180℃)、スルホン化アントラキノンの混合物を得た。粗混合物を氷上に注ぎ、水酸化カルシウムで部分的に中和した。その後、混合物を濾過し、濃縮して最終生成物を得た。
【0279】
実施例4.6:ヒドロキノン(1,4-ジヒドロキシベンゼン)のスルホン化
【化39】
アントラキノンの溶液を、濃硫酸(オレウム)中の20%~40%のSO
3の溶液中で加熱し(80℃)、スルホン化ヒドロキノンの混合物を得た。粗混合物を氷上に注ぎ、水酸化カルシウムで部分的に中和した。その後、混合物を濾過し、濃縮して最終生成物を得た。
【0280】
実施例4.7:1,4-ジヒドロキシ-2,6-ジメトキシベンゼンのスルホン化
【化40】
ヒドロキノンの溶液を、濃硫酸(オレウム)中の20%~35%のSO
3の溶液中で加熱し(80℃)、スルホン化1,4-ジヒドロキシ-2,6-ジメトキシベンゼンの混合物を得た。粗混合物を氷上に注ぎ、水酸化カルシウムで部分的に中和した。その後、混合物を濾過し、濃縮して最終生成物を得た。
【0281】
実施例4.8:2-メトキシヒドロキノンのスルホン化
【化41】
2-メトキシヒドロキノンの溶液を、濃硫酸(オレウム)中の20%~40%のSO
3の溶液中で加熱し(80℃)、スルホン化2-メトキシヒドロキノンの混合物を得た。粗混合物を氷上に注ぎ、水酸化カルシウムで部分的に中和した。その後、混合物を濾過し、濃縮して最終生成物を得た。