(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】固体酸化物セルスタック用のインターコネクタ上のコーティングの堆積
(51)【国際特許分類】
C23C 28/02 20060101AFI20220401BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20220401BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20220401BHJP
C23C 18/38 20060101ALI20220401BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20220401BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20220401BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20220401BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220401BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20220401BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20220401BHJP
【FI】
C23C28/02
C25D5/10
C25D5/26 L
C23C18/38
H01M8/0206
H01M8/0228
C25B9/65
C25B9/00 A
C25B1/042
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2019532052
(86)(22)【出願日】2017-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2017080068
(87)【国際公開番号】W WO2018108471
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-17
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】ハルドール・トプサー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ノルビュ・トビアス・ホルト
(72)【発明者】
【氏名】ブレノウ・ベンクト・ペテル・グスタフ
(72)【発明者】
【氏名】キュンガス・ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ラス-ハンセン・イェッペ
(72)【発明者】
【氏名】ハイレデール-クラウスン・トマス
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-367634(JP,A)
【文献】特表2009-537958(JP,A)
【文献】特開2015-122303(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0094465(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0269059(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/0297
C25D 5/00-7/12
C23C 18/38
C23C 28/00-28/02
C25B 9/00-9/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物セル(SOC)スタック用のインターコネクタをコーティングするための方法であって、
- CrおよびFeを含むインターコネクタ基板を用意するステップと、
- インターコネクタ基板を電着によって第1の金属層でコーティングするステップと、- 生成した構造体を電着によって金属コバルトの第2の層でコーティングするステップと、
- 生成した構造体をイオン交換めっきによって金属銅の層でコーティングするステップとを含み、
それによって、インターコネクタ上に金属銅コバルトコーティングを形成する、方法。
【請求項2】
第1の金属層および
前記金属コバルトの第2の層を、電気めっきを使用して堆積させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1の金属層が、コバルトまたはニッケルのいずれかである、請求項1~2のいずれか一つに記載の方法。
【請求項4】
第1の金属層の厚さが、10から2000nmの
間である、請求項1~3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記金属コバルトの第2の層の厚さが、0.5から10μmの
間である、請求項1~4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記第1の金属層を電着するために使用された電解質が、
前記金属コバルトの第2の層を電着するために使用された電解質とは異なる、請求項1~5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
イオン交換めっきのステップが、酸性の銅電解質中で実施される、請求項1~6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
イオン交換めっきのステップが、任意選択で30~150mg/リットルの範囲の塩化ナトリウムが微量添加される、160~230g/リットルのCuSO
4・5H
2O、40~100g/リットルのH
2SO
4を含む電解質中で実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
イオン交換めっきによる銅の堆積が、自己制限的である、請求項1~8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
堆積した金属銅層の厚さが、10から1000nmの
間である、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物セル(SOC)スタック用のインターコネクタのための新規なコーティングに関する。具体的には、本発明は、インターコネクタの酸素側に、銅およびコバルトを含むコーティングを供するための方法に関し、より具体的には、本発明は、CrおよびFeを含むインターコネクタ基板を用意し、インターコネクタ基板を電着によって第1の金属層でコーティングし、生成した構造体を電着によって金属コバルトの第2の層でコーティングし、かつ生成した構造体をイオン交換めっきによって金属銅の層でコーティングすることにより、インターコネクタ上に金属銅コバルトコーティングを形成することによって、固体酸化物セル(SOC)スタック用のインターコネクタをコーティングするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物セル(SOC)は、通常は、固体酸化物燃料電池(SOFC)および固体酸化物電解セル(SOEC)などの、様々な用途のために設計されたセルを含む。これらのタイプのセルは、当技術分野において周知であり、国際出願WO2012/062341(特許文献1)およびEP2194597A1(特許文献2)に記載され、その両方ともデンマーク工科大学と共にその出願人に属する。SOFCおよびSOEC技術の両方において、いくつかの同一の個別のセルは、金属インターコネクタによって分離されており、意図された用途に適切なセルスタックを形成するために、集電装置、接触層、およびシールなどの追加の層と共に積層される。
【0003】
固体酸化物燃料電池は、酸素イオン伝導性電解質、酸素が還元される酸素極(カソード)、および燃料(例えば水素、メタン、または天然ガス)が酸化される燃料極(アノード)を含む。SOFCの総括反応は、使用された燃料および酸素が電気化学的に反応して、電気、熱、および酸化種を生成するというものである。酸化種は、水素が燃料として使用される場合は水、一酸化炭素が燃料として使用される場合は二酸化炭素、ならびに炭化水素燃料では水および二酸化炭素の混合物である。
【0004】
固体酸化物電解セルは、酸素イオン伝導性電解質、酸化種(例えば水もしくは二酸化炭素、またはその両方)が外部から印加される電界の助けを得て還元される燃料極(カソード)、および酸素イオンが分子酸素へと酸化される酸素極(アノード)を含む。SOECの総括反応は、酸化種が電気および熱を使用して、還元種に電気化学的に変換されるというものである。スタックへと供給された酸化種が水である場合は、水素が燃料極上で形成され、酸化種が二酸化炭素である場合は、一酸化炭素が燃料極上で形成される。酸化種が水および二酸化炭素の混合物である場合は、一酸化炭素および水素の混合物(合成ガスとしても公知である)が生成される。
【0005】
SOECは、高温電解に適した温度、すなわちSOFCのものと類似の温度(約500からの約1100℃まで)で動作する。高い動作温度は、電解質中の十分に高い酸素イオン伝導率を確保するために必要である。SOCのための一般的に使用される電解質材料には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニアドープしたセリア(CGO)、サマリアドープしたセリア(CSO)、ストロンチウムおよびマグネシウムドープしたランタンガレート(LSGM)、ならびにその他多くのものが含まれる。
【0006】
SOCスタックでは、各々が燃料極、電解質、酸素極、および任意選択で接触層を含む複数のセルは、各セルの間にインターコネクションプレート(またはインターコネクタ)を挿入することによって、直列に接続される。インターコネクタの役割は、1つのセルから次のセルへ電気接触させること、およびセル中へのガスの分布を促進することである。セルとインターコネクタとの間の接触抵抗から発生する電気抵抗を減少させるために、セルとインターコネクタとの間の接触の質が良好であること、すなわち、動作条件にかかわらず、低い電気抵抗および優れた機械的安定性を持つことが、非常に重要である。
【0007】
金属インターコネクタに適した材料は、高い動作温度の下で、酸素極および燃料極の両方に供給されるガスに対して耐酸化性である必要があり、それらは、セルのセラミック成分の熱膨張係数(TEC)に匹敵するTECをさらに示さなければならない。これらの必要条件の観点から、特に、酸化クロム表面層を形成するフェライト合金(例えばクロミア形成フェライト鋼)が、インターコネクタ用材料として使用される。そのような合金は、表面上に保護用の酸化クロムバリア層を形成する高いクロム含有量(およそ15~26wt%)を含み、さらなる酸化からインターコネクタを保護する。そのような高クロムのフェライト鋼の例には、これらに限定されるものではないが、AISI 441、AISI 444、AISI 430、AISI 446、Crofer 22H、Crofer 22APU、ZMG G10、E-brite、Plansee ITM等が挙げられる。
【0008】
SOCスタックの動作の間に、クロム種は、クロム含有金属インターコネクタ材料から、隣接する酸素極層へと拡散することがあり、これにより触媒性能に不都合に影響を与え、このように経時的にセル性能が制限される。この現象は、通常は、「クロム被毒」として公知である。クロム被毒は、金属インターコネクタ中のクロムが、その金属から、ガス状クロム含有酸化物およびオキシ水酸化物を介し、架橋金属酸化物成分上で表面拡散することによって、電極の酸素側の近くまたは酸素側にある電気化学的活性部位へ運ばれることが原因であり、それらが、電気化学的活性をかなりの程度まで急速に低下させる(J. Electrochem. Soc.、154(4)、2007年、A295~A306頁(非特許文献1))。
【0009】
SOCスタックの劣化をもたらす一般的な問題は、動作温度におけるカソードおよびアノードガス中でのインターコネクタの酸化に関係する。したがって、インターコネクタが示さなければならない有意な特色または特性は、そのような酸化に対する高耐性である。
【0010】
したがって、酸化クロムの成長速度を低下させ、クロムの揮発度を減少させ、スタック操作中のインターコネクタの酸化に対する保護を改善することができる、SOCインターコネクタ用のコーティングを見出すことが望ましい。
【0011】
SOCスタックインターコネクタ用のコーティングは、様々な方法を用いて堆積させることができる。最も一般的には、これらのコーティングは、金属またはセラミックとして堆積させられる。セラミックコーティングは、最も一般的にはMn-Coスピネル組成物をベースとするのに対して、金属コーティングは、最も一般的にはコバルトをベースとする。堆積プロセス以外の、金属コーティングとセラミックコーティングとの間の主要な差は、金属コーティングが、フェライト鋼インターコネクタへはるかに良好に接着する点である。セラミックコーティングの接着がファンデルワールス力に基づくのに対して、金属コーティングは、多くの場合にフェライト鋼材料の体積強度を凌ぐ金属結合を供する。セラミックコーティングの接着強度は、堆積の前に酸化クロム層を形成するために、空気中で実施される予備酸化ステップにさらに依存する。この予備酸化ステップの理由は、インターコネクタ材料に粗さを加えて、機械的インターロックにより、堆積したままのセラミックコーティングのいくぶん良好な接着を得るためである。セラミック堆積プロセスはさらに、高密度なコーティングを生成することができず、インターコネクタ材料への接着が問題であることが公知である。このような理由で、これらのコーティングは、加熱の際に剥落する危険性があり、したがって、金属コーティングと比較して、クロム被毒および高温酸化からの保護に関して劣った特性を有するであろう。
【0012】
金属コーティングは、インターコネクタ材料への高い接着強度を得ることができるという利点を有する。金属コーティングの別の利点は、金属コーティングプロセスが非常にスケールアップしやすいという点である。さらに、金属コーティングプロセスは既に、超大規模に実行されており(電気めっき)、それらは、例えば自動車産業によって連続的に発展させられている。したがって、インターコネクタ用の金属コーティングの電着は、生産コストの観点からも有利であるはるかに発展させられたプロセス経路を使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際出願WO2012/062341
【文献】EP2194597A1
【文献】US2003/0059335A1
【文献】US2013/0230792A1
【文献】US2008/0299417A1
【文献】US2006/0193971A1
【非特許文献】
【0014】
【文献】J. Electrochem. Soc.、154(4)、2007年、A295~A306頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、SOCインターコネクタ上に金属コーティングを調製するための改善された方法を提供することである。SOCスタックインターコネクタ上にコーティングを適用するための最先端の方法は、非常に高価であり、プラズマ溶射、物理蒸着等などの複雑な技術の使用を伴う。
【課題を解決するための手段】
【0016】
具体的には、本発明は、インターコネクタの酸素側に銅およびコバルトを含むコーティングを供するための方法に関する。本発明の方法に従って、すなわちCoおよびFeを含むインターコネクタ基板を、電着によって第1の金属層でコーティングし、生成した構造体を、電着によってコバルトの第2の金属層でコーティングし、そして生成した構造体を、イオン交換めっきによって金属銅の層でさらにコーティングすることにより作られたインターコネクタコーティングが、クロム種の揮発および拡散に効果的なバリアをもたらし、これによって、酸素極材料の被毒に関する問題が軽減されることが、驚くべきことに今や見出された。先行技術と比較して、本発明の方法は比較的安価である。さらに、本方法は、容易にスケールアップ可能である。
【0017】
電着は、様々なガルバニックプロセスを包含する一般的用語である。金属コーティングの電着は、一般的に、電気めっき、および/または無電解めっきを包含するプロセスである。電気めっきプロセスの特長は、電解質から金属イオンを還元させることにより、堆積が生じるという点である。電解質から金属イオンを還元させるために、電子を、アノードから、金属コーティングが形成されるカソードまで移動させなければならない。電子を移動させるために、直流電流がガルバニ電池に供給され、ここで、アノードは外部電源ユニットの正(+)の端子に連結され、カソードはその負(-)の端子に連結されている。アノード金属が電解質に可溶である場合は、アノードにおいて、金属は、電解質中の金属イオンの濃度を維持するのに寄与する金属イオンに酸化されるであろう。不溶性アノードの場合には、電解質からの種、例えば水が酸化され、ここで、酸素が陽子および電子と共に放出される。この後者の場合では、金属イオンが電解質から枯渇し、そして電解質中の金属イオンの濃度を維持するために、電解質に金属塩を供給する必要がある。カソードにおいては、電解質からの金属イオンが金属に還元され、これによって金属コーティングが形成される。電解質は、基本的に、水溶性の金属塩が溶解した水性の溶液である。したがって、電解質は、金属イオンおよび解離塩(SO4
-2、Cl-等)を含有し、これにより、溶液の電気伝導率が増大し、電流が溶液の中を通ることを可能とする。電解質はまた、2つの電極、すなわちアノードおよびカソードを、ガルバニ電池として一般的に公知のものに接続している。
【0018】
いくつかの電気めっきプロセスは、外部(DC)電源および可溶または不溶性アノードを使用することなく金属を堆積させることができる。そのようなプロセスは、無電解めっきの原理に基づく。ここで、金属イオンは、酸化され得る化学物質(還元剤)を含有する電解質から還元される。電解質が金属イオンおよび適切な還元剤を含有する限り、金属を堆積させることができる。しかしながら、酸化過程のための酸化還元電位は、反応が起こるように、還元過程のための酸化還元電位より小さいことが要求される。これは以下のように表現することができる:
Eox<Ered
【0019】
別の無電解めっきプロセスは、イオン交換めっきと呼ばれる。ここで、電解質からの金属イオンは、イオン交換反応によって堆積する。このプロセスは、単に、金属表面からの金属が電解質からのイオンによって酸化され、次いで、そのイオンが金属表面上へ還元されるので生じる。このプロセスは自己制限的であるが、これは、イオンが交換されるにつれて、そのプロセスの推進力(電気化学ポテンシャルの差)が減少し、最後には反応が停止するからである。それゆえ、イオン交換めっきプロセスは、厚い層の堆積には使用できず、典型的には1μm未満の薄層にのみ使用できる。
【0020】
コバルトの電着は、広範で様々な電解質を使用して行うことができる。例えば、ニッケルの硫酸塩および塩化物塩をベースとする、Wattsによって考案されたプロセスは、ニッケル塩の代わりにコバルトの塩を使用すれば、コバルトを堆積させるように容易に適応できる。コバルトの塩を含有する他の酸性電解質は、金属コバルト層を電着させるためにも使用できる。これらのコバルト電解質は、塩化物、硫酸塩、スルファミン酸塩、硫酸アンモニウム塩、フルオロホウ酸塩、およびそれらの混合物をベースとすることができる。そのような電解質の例は、表1に与えられる:
【0021】
【0022】
コバルトを電着するための別の可能性は、無電解めっきである。このプロセスは、典型的には、電気めっきコーティングよりも良好で均一に材料を分布させる。しかしながら、これらのコーティングは、フェライト鋼インターコネクタ材料上で金属コバルトコーティングを形成することに関して、電気めっきコーティングと同じ特徴を示し、同じ目的を果たす。
【0023】
コバルトの既存の層の上での銅の薄層の堆積は、イオン交換めっきによって非常に容易に行うことができる。コバルトは、より貴である銅(+0.34V vs. SHE)と比較して、より低い標準電気化学ポテンシャル(-0.28V vs. SHE)を有し、ここで、SHE(標準水素電極)は、酸化還元電位の熱力学的尺度の基礎を形成するレドックス電極である。
【0024】
これは、ガルバニ電池に外部電流を印加する必要なく、銅が、溶液から直接コバルト上にめっきされることを意味する。その全反応は、以下のイオン交換反応によって熱力学的に説明できる:
Co+Cu2+<->Cu+Co2+
【0025】
以下の表2では、自由エネルギーΔG=-RT ln K(ここでKは平衡定数である)の変化が、ΔHおよびΔS(それぞれ、エンタルピーの変化およびエントロピーの変化)と共に示される:
【0026】
【0027】
ΔG=ΔH-TΔSが負であるので、その反応はCu堆積に有利である。
【0028】
銅の量は、銅層が増大するにつれて反応が停止すると見込まれるので、自己制限的である。100~200nmのCu層が堆積するが、これは、望ましい特性を与えるのに十分である。
【0029】
本発明の1つの利点は、コバルトコーティングの上部に薄い(自己制限的)銅層を付与するのが、他の公知の方法よりも容易である点である。そのプロセスは、電源の外部使用、電気めっきアノード等を必要とせず、標準的な酸性硫酸銅電解質中で簡単に実施できる。そのプロセスは、同じ電解質からコバルトと共に銅を共堆積させるのに錯化剤が必要である合金電着と比較しても、有利である。本発明の別の利点は、本発明が、コバルトイオンによって起こされる、リンス位置における藻類の形成に関する公知の問題を解決するという点である。銅が堆積する最後の金属であるので、電気めっきライン中の最後のリンス位置では、コバルトイオンとは対照的に藻類の形成を促進しない銅イオンが濃縮されるであろう。これは、大規模生産における廃水の量を最小化するために注目すべきである。
【0030】
上記のアプローチを使用すると、銅の上層を備えるニッケルのコーティングなどの他のコーティングも、好都合に堆積できる。次いで、CrおよびFeを含むインターコネクタ材料を、最初に、コバルトまたはニッケルのストライク層で堆積させる。これは、Woodsストライクまたはスルファミン酸ストライクの処方を使用して行うことができる。次いで、ニッケルの第2の層を、Watts型または別の酸性電解質(塩化物、硫酸塩、スルファミン酸塩、硫酸アンモニウム塩、フルオロホウ酸塩、およびそれらの混合物など)から電着させる。次いで、第2の層の上部に、コバルトの第3の層を、Woodsまたはスルファミン酸塩などのストライクの処方を使用して電着させる。このストライク・コーティングは、コバルトの最小厚さを少なくとも300nmとすべきである。次いで、銅の第4の層を、イオン交換めっきによって、このコバルトストライク層の上部に容易に堆積させることができる。これによって、ニッケルおよび銅を含むコーティングを形成する。
【0031】
US2003/0059335A1(特許文献3)は、酸化クロムを含む高温材料を提供し、前記高温材料が、700℃~950℃の温度で、その表面においてMnCr2O4スピネル相を形成できるという特性を有する、a)12~28wt%のクロム、b)0.01~0.4wt%のLa、c)0.2~1.0wt%のMn、d)0.05~0.4wt%のTi、e)0.2wt%未満のSi、f)0.2wt%未満のAlを含有する鉄基合金を形成する。著者によると、その発明の目的は、高温燃料電池またはスパークプラグのためのバイポーラ板を提供することである。上記の方法の1つの欠点は、形成されたコーティングの組成が合金の組成によって決定され、したがって、容易に変更できないという点である。その方法の別の欠点は、酸化クロムベースのコーティングの電気伝導率が非常に低いという点である。
【0032】
US2013/0230792A1(特許文献4)は、鉄およびクロムを含む基板、ならびにインターコネクタ基板の空気側上に形成されたマンガンコバルト酸化物スピネルコーティングを含む固体酸化物燃料電池用のコーティングされたインターコネクタと、その作製および処理の方法とを開示している。その方法の欠点は、粉末冶金によるインターコネクタの生成、およびプラズマ溶射によるコーティングの生成が、非常に高価であり、時間がかかるという点である。
【0033】
Sandvik ABと共に出願人により所有されるUS2008/0299417A1(特許文献5)は、ステンレス鋼などの金属基板、ならびに少なくとも1つの金属層および1つの反応性の層を順に含むコーティングからなる固体酸化物燃料電池用のインターコネクタなどの燃料電池コンポーネントと、そのような燃料電池コンポーネントを生産するための方法とを開示している。好ましい一実施形態によると、コーティングは、連続ロール・ツー・ロールプロセスにおいて、PVD技術、好ましくは、反応性であるか、必要に応じてプラズマ活性化されてもよい電子ビーム蒸着を使用することによって実行される。上記の方法の1つの欠点は、PVD法が、特に厚い層のコーティングを堆積させる必要がある場合に非常に高価となる点である。上記の方法の別の欠点は、その方法が、インターコネクタシートのコーティングに適しており、既に形成されたインターコネクタプレートのコーティングにあまり適していない点である。
【0034】
Cr2O3形成基板上に保護コーティングを生成する方法は、US2006/0193971A1(特許文献6)に記載されている。その方法は、CoO、MnO、およびCuOの混合物を、既にCr2O3の層を有する基板の表面上へと適用するステップと、その基板を500~1000℃で処理し、それによって、適用された酸化物を、基板上で気密性のクロムフリー・スピネルコーティングに変換するステップからなる。上記の方法を用いる欠点は、金属コーティングとは対照的に、堆積した酸化物コーティングが、金属インターコネクタに単に弱く接着すると思われ、剥落および剥離を受けやすく、コーティングの有効性を減少させてしまう点である。
【0035】
本発明は、固体酸化物セル(SOC)スタック用のインターコネクタをコーティングするための方法であって、
- CrおよびFeを含むインターコネクタ基板を用意するステップと、
- インターコネクタ基板を電着によって第1の金属層でコーティングするステップと、
- 生成した構造体を電着によって金属コバルトの第2の層でコーティングするステップと、
- 生成した構造体をイオン交換めっきによって金属銅の層でコーティングするステップとを含み、
それによって、インターコネクタ上に金属銅コバルトコーティングを形成する、方法に関する。
【0036】
本発明によると、SOCスタックインターコネクタ用のこの新規なコーティングは、電着したコバルトおよびイオン交換めっき銅を含む金属コーティングである。
【0037】
本発明はさらに、以下に続く例において記載される。その例は図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】コバルトの電着の先行技術方法の工程図である。
【
図2】コバルトおよび銅の電着の先行技術方法の工程図である。
【
図3】本発明による銅の電着およびイオン交換めっきの工程図である。
【
図4a】本発明による電気めっきによって堆積したコバルトコーティングのエネルギー分散型X線分光(EDX)分析を示す。
【
図4b】本発明による電気めっきによって堆積したコバルトコーティングのエネルギー分散型X線分光(EDX)分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
例1
電気めっきによるCo堆積
図1は、先行技術と見なすことができる、コバルトを電着させるための方法の概略的な工程図を示す。CrおよびFeを含むインターコネクタ基板101を、最初に、ニッケルまたはコバルトのストライク層102で被覆する。このステップを、
図1のAとして説明する。第1の金属層の電着を、例えば、Woodsプロセスを使用することにより行うことができる。スルファミン酸ストライクなどの他の処方も、この目的に使用できる。第1の層の堆積で使用される電流密度は、1~10A/dm
2の範囲内にあるべきである。Coの第2の金属層103を、0.5から5A/dm
2までの範囲の電流密度を用いて、Watts型または別の酸性電解質(塩化物、硫酸塩、スルファミン酸塩、硫酸アンモニウム塩、フルオロホウ酸塩、およびそれらの混合物など)から電着させる。このステップを、
図1のBとして説明する。第2の金属Co層103の厚さは、0.5μmから10μmの間、好ましくは1μmから6μmの間である。EDX(エネルギー分散型X線分光)分析により、そのようなコーティングの組成が、
図4aおよび4bで見られるように、100%金属Coであることが明らかになる。
【0040】
例2
アルカリ溶液からの電気めっきによるCo-Cu堆積
図2は、先行技術と見なすことができる、コバルトおよび銅を電着させるための方法の概略的な工程図を示す。その電着は、第2の金属Co層103を電着した後に、金属Cuの層104をシアン化アルカリ系電解液からの電着により堆積させることを除いて、例1に記載した方法に従って進行する。このステップを、
図2のCとして説明する。Cu層104の堆積で使用された電流密度は、1から6A/dm
2までの範囲である。したがって、シアン化アルカリ系電解液からのCu層の成長は、外部電界をガルバニ電池に印加することを要求し、性質上自己制限的ではない。
【0041】
例3
図3は、コバルトの電着および銅のイオン交換めっきのための本発明の概略的な工程図を示す。CrおよびFeを含むインターコネクタ基板101を、最初に、ニッケルまたはコバルトのストライク層102で被覆する。このステップを、
図3のAとして説明する。第1の金属層の電着を、例えば、Woodsプロセスまたはスルファミン酸ストライクを使用することにより行うことができる。第1の層の堆積で使用される電流密度は、1~10A/dm
2の範囲内にあるべきである。Coの第2の金属層103を、0.5から5A/dm
2までの範囲の電流密度を用いて、酸性電解質(塩化物、硫酸塩、スルファミン酸塩、硫酸アンモニウム塩、フルオロホウ酸塩、およびそれらの混合物など)から電着させる。このステップを、
図3のBとして説明する。第2の金属Co層103の厚さは、0.5μmから10μmの間、好ましくは1μmから6μmの間である。次いで、銅イオンを含む酸性溶液からイオン交換めっきすることにより、Cuの第3の金属層105を、生成した構造体上へと堆積させる。このステップを、
図3のDとして説明する。銅イオンの酸性溶液の一例は、任意選択で30~150mg/リットルの範囲の塩化ナトリウムが微量添加される、160~230g/リットルのCuSO
4・5H
2Oおよび40~100g/リットルのH
2SO
4を含む酸性硫酸銅電解質である。しかしながら、イオン交換反応は、酸性pHのCu
2+イオンを含有する他のタイプの電解質からも起こるであろう。銅とコバルトとの間のイオン交換反応は、そのイオン交換反応を開始させる表面上の不動態コバルト酸化物層が取り除かれるほど十分に溶液のpHが低い限り、起こるであろう。酸性電解質溶液からのCu層の成長は、外部電界を堆積の間に印加することを要求しない。さらに、Cuの成長は、性質上自己制限的であり、ほぼ100nmから200nmの厚さの層を生じる。堆積されたままの銅層のX線蛍光(XRF)測定値を、以下の表3に示す。表では、POMは測定点であり、Rowは測定点の数である。
【0042】
【0043】
最終的なコーティングされたインターコネクタの分析により、上層がCuを含むことが明らかになる。Cuのイオン交換めっきの結果、インターコネクタの表面の色は、灰白色から、銅金属の特徴的なブロンズブラウン色に変化する。