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特許7050814希土類リン酸塩粒子、それを用いた光散乱性向上方法、並びにそれを含む光散乱部材及び光学デバイス
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  • 特許-希土類リン酸塩粒子、それを用いた光散乱性向上方法、並びにそれを含む光散乱部材及び光学デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】希土類リン酸塩粒子、それを用いた光散乱性向上方法、並びにそれを含む光散乱部材及び光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20220401BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20220401BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220401BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
C08K3/32
C08L101/00
G02B5/02 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019560943
(86)(22)【出願日】2018-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2018044752
(87)【国際公開番号】W WO2019124078
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2017245604
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和彦
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-188599(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0001353(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0138387(US,A1)
【文献】特開2005-330307(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0015839(US,A1)
【文献】特開平02-276884(JP,A)
【文献】特表2005-527953(JP,A)
【文献】特開2014-201495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/45
C08K 3/32
C08L 101/00
G02B 5/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素A(AはY、La、又はGdを表す。)と、該元素Aとは異なる希土類元素B(BはY、Gd、Yb又はLuを表す。)とを含む希土類リン酸塩粒子からなり、
基材の内部又は表面に配置されて、可視光の波長領域を含む光の散乱を生じさせる光散乱粒子
【請求項2】
前記元素Aのリン酸塩は結晶質であるとともに、前記元素Aのリン酸塩に前記元素Bの少なくとも一部が固溶しているものである請求項1に記載の光散乱粒子
【請求項3】
前記元素Aのリン酸塩の結晶構造がゼノタイム構造又はモナザイト構造である請求項2に記載の光散乱粒子
【請求項4】
XRDで測定される回折パターンにおいて、
前記希土類リン酸塩粒子は、それに由来する最高強度のピーク位置(2θ)が、前記元素Aのみを含むリン酸塩に由来する最高強度のピーク位置(2θ)を基準に、0.01度以上0.70度以下の範囲で低角度側又は高角度側にシフトしている請求項3に記載の光散乱粒子
【請求項5】
前記元素Bの含有量が、前記元素Aと前記元素Bのモル数の合計に対して0.1モル%以上50モル%以下である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の光散乱粒子
【請求項6】
前方散乱を生じさせる請求項1ないしのいずれか一項に記載の光散乱粒子
【請求項7】
希土類元素A(AはY、La、又はGdを表す。)と、該元素Aとは異なる希土類元素B(BはY、Gd、Yb又はLuを表す。)とを含む希土類リン酸塩粒子を基材に添加して、該基材の、可視光の波長領域を含む光の散乱性を向上させる光散乱性向上方法。
【請求項8】
希土類元素A(AはY、La、又はGdを表す。)と、該元素Aとは異なる希土類元素B(BはY、Gd、Yb又はLuを表す。)とを含む希土類リン酸塩粒子を基材の表面に配置して、該基材の、可視光の波長領域を含む光の散乱性を向上させる光散乱性向上方法。
【請求項9】
請求項1ないしのいずれか一項に記載の光散乱粒子及び有機溶媒を含む分散液。
【請求項10】
請求項1ないしのいずれか一項に記載の光散乱粒子及び樹脂を含む樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂組成物から構成される光散乱部材。
【請求項12】
前記光散乱部材は請求項10に記載の樹脂組成物から構成される光散乱層を含んでなり、前記光散乱層の厚さをT(μm)とし、前記光散乱層中の希土類リン酸塩粒子の濃度をC(質量%)としたとき、TとCが、下記数式(I)を満たすことを特徴とする請求項11に記載の光散乱部材。
5≦(T×C)≦500・・・(I)
【請求項13】
請求項11又は12に記載の光散乱部材を備えた光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希土類リン酸塩粒子に関する。また本発明は、希土類リン酸塩粒子を用いた光散乱性向上方法、並びに希土類リン酸塩粒子を含む光散乱部材及び光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
透明な樹脂中に光散乱粒子が含有されてなる光散乱シートは、テレビやスマートフォンに使用される液晶表示装置のバックライトモジュールや、プロジェクションテレビジョン等の画像表示装置のスクリーンや、ヘッドアップディスプレイやプロジェクタにより投影される透明スクリーン、封止材等として用いられるLED素子及びμLED素子、カバー等として用いられる照明器具等の様々な光学デバイスで用いられている。このような光散乱シートには、透明性を確保しつつ光散乱性に優れる特性が求められている。また、視野角が広いことも求められている。このことから、光散乱粒子としては、チタニア、シリカ、ジルコニア、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、及び樹脂粒子等が用いられている。例えば特許文献1には、光散乱粒子として、酸化亜鉛が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-138270号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の光散乱粒子を用いた光散乱シートは、透明性及び光散乱性を有するものではあるものの、表示装置に当該光散乱シートを実際に用いた場合には、光散乱性が十分とは言えないため、鮮明な画像が得られ難く、改善の余地があった。また視野角が狭いという点からも改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明の課題は、基材の内部又は表面に配置した場合に、該基材の透明性を確保しつつ光散乱性を向上させることができ、しかも広い視野角を確保できる粒子を提供することにある。
【0006】
本発明は、希土類元素A(AはSc、Y、La、Eu、Gd、Dy、Yb又はLuを表す。)と、該元素Aとは異なる希土類元素B(BはSc、Y、La、Eu、Gd、Dy、Yb又はLuを表す。)とを含む希土類リン酸塩粒子を提供することにより前記の課題を解決したものである。
【0007】
また本発明は、前記の希土類リン酸塩粒子を基材に添加するか、又は基材の表面に配置して、該基材の光散乱性を向上させる光散乱性向上方法を提供するものである。
【0008】
更に本発明は、前記の希土類リン酸塩粒子及び樹脂を含む樹脂組成物から構成される光散乱部材、及び該光散乱部材を備えた光学デバイスを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は、光散乱シートの輝度を測定する方法を示す概略側面図であり、図1(b)は概略上面図である。
図2図2は、実施例1ないし6で得られた希土類リン酸塩粒子の粉末X線回折の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の希土類リン酸塩粒子は、透明な基材の内部又は表面に配置されて光散乱を生じさせるために用いられるものである。詳細には、本発明の希土類リン酸塩粒子は、基材の内部に均一に分散した状態で配置されたり、基材の内部のうち基材の片側表面側に偏在した状態で配置されたり、基材の表面に設けられたコート層の内部に均一に分散した状態で配置されたりして、該基材に入射した光に散乱を生じさせるために用いられるものである。入射した光の散乱には一般に前方散乱と後方散乱とがある。光を散乱させることに関し、本発明の希土類リン酸塩粒子は、前方散乱及び後方散乱のいずれか又は双方に用いられる。以下の説明において単に「散乱」というときには、前方散乱及び後方散乱の双方を包含する。また、以下の説明において「光」というときには、可視光の波長領域を含む光のことを意味する。
【0011】
本発明の希土類リン酸塩粒子は、希土類元素Aと、該元素Aとは異なる希土類元素Bとを含む希土類リン酸塩からなる粒子の集合体である。希土類元素A及びBはそれぞれ独立にSc、Y、La、Eu、Gd、Dy、Yb又はLuを表し、両者は同時に同一の元素とはならない。以下の説明において、「粒子」というときには、文脈に応じ、粒子の集合体である粉末を指す場合と、該粉末を構成する個々の粒子を指す場合とがある。また、本発明の希土類リン酸塩粒子は、例えば、粉末状又は液媒体に分散したスラリー状の形態を有するものである。
【0012】
本発明で用いる希土類リン酸塩は、希土類元素A及び希土類元素Bを含むことに加えて、これらの元素A及びBと異なる1種又は2種以上の希土類元素(この希土類元素は、Sc、Y、La、Eu、Gd、Dy、Yb又はLuである)を含んでいてもよい。また、本発明の効果を失わない程度において、希土類元素(この希土類元素は、Sc、Y、La、Eu、Gd、Dy、Yb又はLuである)以外の元素をも含んでいてもよい。
【0013】
希土類リン酸塩は高屈折率を有する材料である。このことに起因して、本発明の希土類リン酸塩粒子を基材の内部又は表面に分散させて配置すると、光の大きな散乱が生じる。
【0014】
希土類リン酸塩は一般に高アッベ数を有する材料でもある。希土類リン酸塩に関し、本発明者が種々の検討を行ったところ、希土類リン酸塩は、他の高アッベ数材料、例えばジルコニアに比べて、屈折率の波長依存性が小さいことが判明した。つまり様々な波長を含む光が入射した場合に、屈折の程度のばらつきが小さいことが判明した。その結果、本発明の希土類リン酸塩粒子を用いることで、色再現性の優れた散乱光を得ることができる。
【0015】
しかも本発明の希土類リン酸塩粒子は、互いに異なる2種以上の希土類元素A及びBを含むことで、単一の希土類元素を含む希土類リン酸塩粒子に比べて、光散乱部材に用いた場合の該光散乱部材の視野角が広くなるという利点も有する。このように本発明の希土類リン酸塩粒子は、高い光透過性及び光散乱性を発揮しつつ、広視野角をも発揮する極めて優れた材料である。
【0016】
本発明で用いる希土類リン酸塩は、結晶質のものであってもよく、あるいはアモルファス(非晶質)のものであってもよい。一般に、後述する方法で希土類リン酸塩粒子を製造すると、結晶質の希土類リン酸塩が得られる。希土類リン酸塩が結晶質のものである場合、屈折率が高くなる点から好ましい。
【0017】
本発明で用いる希土類リン酸塩が結晶質のものである場合、該希土類リン酸塩は、結晶質である希土類元素Aのリン酸塩に、希土類元素Bの少なくとも一部が固溶していることが、広視野角を発揮させる観点から好ましい。結晶質である希土類元素Aのリン酸塩に、希土類元素Bの少なくとも一部が固溶しているか否かは、希土類リン酸塩のXRD測定によって判断できる。詳細には、希土類元素A及びBを含むリン酸塩のXRD測定によって、希土類元素Aのリン酸塩のみの回折ピークが観察される場合に、希土類元素Aのリン酸塩に、希土類元素Bの少なくとも一部が固溶していると判断され、また、希土類元素A及びBを含むリン酸塩のXRD測定によって得られたピーク位置(2θ)が、希土類元素Aのみを含むリン酸塩の回折ピーク(例えば、最高強度のピーク)を基準に、低角度側又は高角度側にシフトしている場合にも、希土類元素Aのリン酸塩に、希土類元素Bの少なくとも一部が固溶していると判断される。二種類の希土類元素のうち、どちらが希土類元素Aであり、どちらが希土類元素Bであるかは、希土類リン酸塩のX線回折測定の結果から判断する。詳細には、X線回折測定によって得られる回折ピークのうち、最高強度を示す回折ピークが希土類元素Aのリン酸塩に由来するものである場合には、希土類リン酸塩は、希土類元素Aのリン酸塩に希土類元素Bが固溶していると判断する。逆に、最高強度を示す回折ピークが希土類元素Bのリン酸塩に由来するものである場合には、希土類リン酸塩は、希土類元素Bのリン酸塩に希土類元素Aが固溶していると判断する。
【0018】
本発明で用いる希土類リン酸塩が、希土類元素Aのリン酸塩に、希土類元素Bの一部が固溶しているものである場合、固溶していない残部の希土類元素Bは、結晶質の状態やアモルファス(非晶質)の状態で、希土類リン酸塩粒子の内部や表面部等に存在してもよい。
【0019】
本発明で用いる希土類リン酸塩が上述した固溶体である場合、希土類元素Aのリン酸塩の結晶構造は、ゼノタイム構造又はモナザイト構造であることが、広視野角を発揮させる観点から好ましい。このような希土類リン酸塩は、例えば後述する方法によって好適に製造することができる。
【0020】
本発明で用いる希土類リン酸塩が上述の結晶構造である場合、XRDで測定される回折パターンにおいて、該希土類リン酸塩は、それに由来する最高強度のピーク位置(2θ)が、希土類元素Aのみを含むリン酸塩(すなわち固溶体でないリン酸塩)に由来する最高強度のピーク位置(2θ)を基準に、0.01度以上0.70度以下の範囲で低角度側又は高角度側にシフトすることが好ましい。この範囲でのピークシフトを示すことで、広視野角を容易に発揮させることが可能となる。この観点から、ピークシフトの範囲は、0.03度以上0.70度以下であることが更に好ましく、0.05度以上0.70度以下であることが一層好ましい。
【0021】
本発明で用いる希土類リン酸塩が結晶質であるか、非晶質であるかを問わず、広視野角を容易に発揮させる観点から、希土類元素Bの含有量は、希土類元素Aと希土類元素Bのモル数の合計に対して0.1モル%以上50モル%以下であることが好ましく、5モル%以上50モル%以下であることが更に好ましく、10モル%以上50モル%以下であることが一層好ましい。特に、本発明で用いる希土類リン酸塩が、希土類元素Aのリン酸塩に、希土類元素Bの少なくとも一部が固溶している上述の固溶体である場合に、希土類元素Bの含有量が上述の範囲内であると、広視野角を一層容易に発揮させることができる。
【0022】
本発明で用いる希土類リン酸塩における希土類元素Aは、Y、Gd又はLaであることが好ましい。特に、本発明で用いる希土類リン酸塩における希土類元素AはGdであり、希土類元素BがYであることが屈折率の波長依存性が小さいことに加えて、広視野角を容易に発揮させることができる点から好ましい。
【0023】
本発明の希土類リン酸塩粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が0.1μm以上20μm以下であることが有利である。本発明者の検討の結果、希土類リン酸塩粒子のD50をこの範囲に設定することによって、該希土類リン酸塩粒子を基材の内部又は表面に配置して、光散乱を生じさせる場合に、基材の透明性を維持しつつ、光散乱の程度を高くし得ることが判明した。基材の透明性を維持しつつ、光散乱の程度を一層大きくする観点から、希土類リン酸塩粒子のD50は0.1μm以上20μm以下であることが更に好ましく、0.1μm以上10μm以下であることが更に好ましく、0.1μm以上3μm以下であることが一層好ましい。このような粒径を有する希土類リン酸塩粒子は、例えば後述する方法によって好適に製造することができる。
【0024】
体積累積粒径D50は、例えば、次の方法で測定される。希土類リン酸塩粒子を水と混合し、一般的な超音波バスを用いて1分間分散処理を行う。装置はベックマンコールター社製の装置LS13 320を用いて測定する。
【0025】
希土類リン酸塩粒子は体積累積粒径D50が上述の範囲を満たす限り、その形状は本発明において臨界的なものではない。例えば、希土類リン酸塩粒子の形状が球状に近づくほど等方的な光散乱性が高くなり、また基材を構成する樹脂組成物中及び基材の表面コート層を構成する樹脂組成物中の分散性が良好になる傾向にある。一方で、希土類リン酸塩粒子の形状が棒状等の異方性を有する形状になると、光散乱シートが光散乱性を備えつつ透明性に優れたものとなる傾向にある。
【0026】
本発明者の検討の結果、希土類リン酸塩粒子はその粒度分布がシャープであるほど光散乱性が一層高くなることが判明した。希土類リン酸塩粒子の粒度分布はD99/D50の値を尺度に評価することができる。D99はレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積99容量%における体積累積粒径を表す。D99/D50の値が1に近づくほど、希土類リン酸塩粒子はその粒度分布がシャープになる。本発明においては、D99/D50の値は10以下であることが好ましく、5以下であることが更に好ましく、2.5以下であることが一層好ましい。D99はD50と同様の方法で測定することができる。
【0027】
本発明の希土類リン酸塩粒子は、上述した粒径制御の点から、そのBET比表面積が1m/g以上100m/g以下であることが好ましく、3m/g以上50m/g以下であることが更に好ましく、5m/g以上30m/g以下であることが一層好ましい。BET比表面積の測定は、例えば、島津製作所社製の「フローソーブ2300」を用い、窒素吸着法で測定することができる。測定粉末の量は0.3gとし、予備脱気条件は大気圧下、120℃で10分間とする。
【0028】
また、本発明の希土類リン酸塩粒子は、本発明の効果を失わない程度において、樹脂製の基材を構成する樹脂組成物中及び基材の表面コート層を構成する樹脂組成物中の分散性を良好にする目的で、その表面を親油性処理することができる。親油性処理としては、例えば各種のカップリング剤による処理や、カルボン酸又はスルホン酸などの有機酸による処理などが挙げられる。カップリング剤としては、例えば有機金属化合物が挙げられる。具体的にはシランカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤などを用いることができる。
【0029】
以上の各種カップリング剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。カップリング剤としてシランカップリング剤を用いた場合には、希土類リン酸塩粒子の表面はシラン化合物で被覆されることになる。このシラン化合物は親油基、例えばアルキル基又は置換アルキル基を有していることが好ましい。アルキル基は直鎖のものでもよく、あるいは分岐鎖のものでもよい。いずれの場合であってもアルキル基の炭素数は1~20であることが、樹脂との親和性が良好となる点から好ましい。アルキル基が置換されている場合、置換基としてはアミノ基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基などを用いることができる。希土類リン酸塩粒子の表面を被覆するシラン化合物の量は、希土類リン酸塩粒子の質量に対して0.01~200質量%、特に0.1~100質量%であることが、樹脂との親和性が良好となる点から好ましい。
【0030】
有機酸による処理に用いられるカルボン酸は、アルキル基又は置換アルキル基を有していることが好ましい。アルキル基は直鎖のものでもよく、あるいは分岐鎖のものでもよい。いずれの場合であってもアルキル基の炭素数は1~20であることが、樹脂との親和性が良好となる点から好ましい。カルボン酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、cis-9-オクタデセン酸、cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸などを用いることができる。
【0031】
本発明の希土類リン酸塩粒子は、これを例えば樹脂に添加したり、又は有機溶媒に分散させて分散液としてから樹脂を添加したりすることで樹脂組成物となし、該樹脂組成物の光散乱性を向上させるために用いることができる。
樹脂組成物の形態に特に制限はなく、シート(フィルム)、膜、粉末、ペレット(マスターバッチ)、塗布液(塗料)等が挙げられるが、シートの形態であると、光散乱シートへの適用を容易に行えることから有利である。
本発明の希土類リン酸塩粒子の添加の対象となる樹脂の種類に特に制限はなく、成形可能な熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化性樹脂を用いることができる。特に、シートの形態への成形が容易である点から、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0032】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル酸又はそのエステルやポリメタクリル酸又はそのエステル等のポリアクリル酸系樹脂、ポリスチレンやポリ塩化ビニル等のポリビニル系樹脂、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリウレタン等のウレタン系樹脂などが挙げられる。
【0033】
熱硬化性樹脂としては、シリコーン系樹脂、フェノール系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、フラン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、グアナミン系樹脂、ケトン系樹脂、アミノアルキッド系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。
【0034】
電離放射線硬化性樹脂としては、電離放射線(紫外線又は電子線)の照射によって架橋硬化することができる光重合性プレポリマーを用いることができ、この光重合性プレポリマーとしては、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、架橋硬化することにより3次元網目構造となるアクリル系プレポリマーが特に好ましく使用される。このアクリル系プレポリマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート、ポリフルオロアルキルアクリレート、シリコーンアクリレート等が使用できる。更にこれらのアクリル系プレポリマーは単独でも使用可能であるが、架橋硬化性を向上させ光散乱層とした際の硬度をより向上させるために、光重合性モノマーを加えることが好ましい。
【0035】
光重合性モノマーとしては、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート等の単官能アクリルモノマー、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート等の2官能アクリルモノマー、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等の多官能アクリルモノマー等の1種若しくは2種以上が使用される。
【0036】
上述した光重合性プレポリマー及び光重合性モノマーの他、紫外線照射によって硬化させる場合には、光重合開始剤や光重合促進剤等の添加剤を用いることが好ましい。
【0037】
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル、チオキサンソン類などが挙げられる。
【0038】
また、光重合促進剤は、硬化時の空気による重合障害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルなどが挙げられる。
【0039】
本発明の希土類リン酸塩粒子及び樹脂を含む樹脂組成物から構成される光散乱部材において、希土類リン酸塩粒子の割合は、透過性と光散乱性とのバランスを考慮して、光散乱層の厚さをT(μm)とし、光散乱層中の希土類リン酸塩粒子の濃度をC(質量%)としたとき、TとCが、下記数式(I)を満たすことが好ましい。
5≦(T×C)≦500・・・(I)
なお、光散乱層の厚みとは、前記樹脂組成物から構成される光散乱シート(シート状の光散乱部材)の場合、シートの厚みをいい、基材と前記樹脂組成物から構成される表面コート層とからなる光散乱部材の場合、表面コート層の厚みをいう。TとCは、下記数式(II)を満たすことがより好ましい。
50≦(T×C)≦200・・・(II)
【0040】
本発明の希土類リン酸塩粒子及び樹脂を含む樹脂組成物から構成される光散乱部材において、光散乱層の厚みは、光散乱性や取り扱い性等を考慮すると、2μm以上10000μm以下とすることが好ましい。
【0041】
本発明の希土類リン酸塩粒子と透明な樹脂とを含む樹脂組成物から構成される光散乱シート等を得るためには、例えば溶融状態の樹脂に本発明の希土類リン酸塩粒子を練り込んだ後、インフレーション法、Tダイ法、溶液流延法、カレンダー法等の公知のシート成形方法によって成形すればよい。また、本発明の希土類リン酸塩粒子を透明なシート状の基材の表面に配置させた光散乱シート等の光散乱部材を得るためには、例えば、有機溶媒とバインダ樹脂と本発明の希土類リン酸塩粒子とを混合してコート液を作製し、該コート液をバー、ブレード、ローラーやスプレーガン等を用いて基材の表面に塗工又は噴霧すればよい。スパッタ等を用いて、樹脂シートの表面に本発明の希土類リン酸塩粒子を直接配置させることもできる。「透明な樹脂」とは、可視光透過性を有する樹脂のことを言う。このような方法で得られた光散乱シートは、例えば、ディスプレイ、照明用部材、窓用部材、電飾部材、導光板部材、プロジェクタのスクリーン、ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン、封止材等として用いられるLED素子及びμLED素子、ビニールハウス等の農業用資材、などとして好適に製造することができる。また、光散乱シートを光学デバイスに組み込んで使用することもできる。そのような光学デバイスとしては、例えば、液晶TV、パソコン、タブレット、スマートフォン等のモバイル機器、照明器具などが挙げられる。
【0042】
本発明の希土類リン酸塩粒子の好適な製造方法について説明する。本発明の希土類リン酸塩粒子を製造するには、先ず、互いに異なる2種又は3種以上の希土類元素源を含む水溶液と、リン酸根を含む水溶液とを混合して、2種又は3種以上の希土類リン酸塩の沈殿を生じさせる。例えば互いに異なる2種又は3種以上の希土類元素源を含む水溶液に、リン酸根を含む水溶液を添加することで希土類リン酸塩の沈殿を生じさせる。次に、固液分離して得られた沈殿物を乾燥した後、焼成することにより、希土類リン酸塩粒子を合成することができる。本発明に適した製造方法の一例として、前述の沈殿物をスプレードライ等により乾燥した後、焼成をすることで所望の形状の粒子を合成することが可能である。
【0043】
前述した希土類リン酸塩の沈殿を得る工程を加熱状態で実施することが好ましい。この場合、希土類元素源を含む水溶液の加熱の程度は50℃以上100℃以下とすることが好ましく、70℃以上95℃以下とすることが更に好ましい。この温度範囲で加熱した状態下に反応を行うことで、所望のD50や比表面積を有する粒子が得られる。
【0044】
互いに異なる2種又は3種以上の希土類元素源を含む水溶液としては、該水溶液中における希土類元素の濃度が、合計量で、0.01~2.0mol/リットル、特に0.01~1.5mol/リットル、とりわけ0.01~1.0mol/リットルのものを用いることが好ましい。この水溶液中において各希土類元素は三価のイオンの状態になっているか、又は三価のイオンに配位子が配位した錯イオンの状態になっていることが好ましい。互いに異なる2種又は3種以上の希土類元素源を含む水溶液を調製するためには、例えば硝酸水溶液に希土類酸化物(例えばLn等)を添加してこれを溶解させればよい。
【0045】
リン酸根を含む水溶液においては、該水溶液中におけるリン酸化学種の合計の濃度を、0.01~5mol/リットル、特に0.01~3mol/リットル、とりわけ0.01~1mol/リットルとすることが好ましい。pH調整のために、アルカリ種を添加することもできる。アルカリ種としては、例えばアンモニア、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、エチルアミン、プロピルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性化合物を用いることができる。
【0046】
互いに異なる2種又は3種以上の希土類元素源を含む水溶液とリン酸根を含む水溶液は、〔リン酸イオン〕/〔希土類元素イオンの合計量〕のモル比が0.5~10、特に1~10、とりわけ1~5となるように混合することが、効率よく沈殿生成物が得られる点から好ましい。
【0047】
以上のようにして希土類リン酸塩粒子が得られたら、これを常法に従い固液分離した後、1回又は複数回水洗する。水洗は、液の導電率が例えば2000μS/cm以下になるまで行うことが好ましい。
【0048】
前述した希土類リン酸塩の沈殿物を焼成する工程において、焼成は、大気等の含酸素雰囲気で行うことができる。その場合の焼成条件は、焼成温度が好ましくは80℃~1500℃であり、更に好ましくは400℃~1300℃である。この温度範囲を採用することで、目的とする結晶構造や比表面積を有する希土類リン酸塩粉末を容易に得ることができる。焼成温度が過度に高くなると、焼結が進行して粒子の結晶性が高まるとともに、比表面積が低下する傾向にある。焼成時間は、焼成温度がこの範囲内であることを条件として、好ましくは1時間~20時間、更に好ましくは1時間~10時間である。
【実施例
【0049】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0050】
〔実施例1〕
ガラス容器1に水600gを計量し、60%硝酸(和光純薬工業社製)61.7g、Y(日本イットリウム社製)16.6g及びGd(日本イットリウム社製)3.0gを添加し、80℃に加温して溶解させた。YとGdとのモル比は、Y:Gd=4:1であった。別のガラス容器2に水600gを計量し、85%リン酸18.8gを添加した。
ガラス容器1へガラス容器2の内容物を添加し、1時間エージングを行った。得られた沈殿物をデカンテーション洗浄により、上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまで洗浄を行った。洗浄後、減圧濾過で固液分離し、大気中で120℃×5時間乾燥させたのち、大気中で900℃×3時間焼成し、希土類リン酸塩粒子を得た。
【0051】
〔実施例2及び3〕
YとGdとのモル比を表1に示す値とする以外は実施例1と同様にして希土類リン酸塩粒子を得た。
【0052】
〔実施例4ないし9〕
実施例1において、希土類元素A及び希土類元素Bとして、表1に示す希土類元素を用いた。また元素Aと元素Bとのモル比を同表に示す値とした。これら以外は実施例1と同様にして希土類リン酸塩粒子を得た。
【0053】
〔参考例1〕
実施例1において、Gdを用いず、Yを26.6g用いた。また、焼成を450℃×3時間とした。これら以外は実施例1と同様にして希土類リン酸塩粒子を得た。
【0054】
〔評価〕
実施例及び参考例で得られた希土類リン酸塩粒子について、結晶構造、BET比表面積、D50及びD99、並びに希土類元素Aのリン酸塩を基準とする最高強度のピーク位置のシフト量を測定した。また、以下の方法で光散乱シートを製造し、その全光線透過率、ヘイズ及び輝度を測定した。それらの結果を以下の表1に示す。また、実施例1ないし6の希土類リン酸塩粒子について測定された粉末X線回折測定の結果を図2に示す。X線回折測定には以下に説明する機器を用いた。
【0055】
〔結晶構造、及び希土類元素Aのリン酸塩を基準とする最高強度のピーク位置のシフト量〕
実施例及び参考例で得られた希土類リン酸塩粒子をホルダーに装着し、RINT-TTRIII(リガク社製)を使用し、下記条件で回折線の角度と強度を測定し、回折パターンを得た。
(管球)CuKα線
(管電圧)50kV
(管電流)300mA
(サンプリング間隔)0.02°
(スキャンスピード)4.0°/min
(開始角度)20°
(終了角度)80°
シフト量を測定するときに基準となるピーク位置(2θ)は、ICSD(International Crystal Structure Database)に収録されているYPO,GdPO及びLaPOのデータを使用した。
【0056】
〔全光線透過率及びヘイズの測定〕
樹脂としてポリカーボネート樹脂を用いた。この樹脂と希土類リン酸塩粒子とを予備混合した後、押し出し成形によって100mm×100mm×厚み1mmの光散乱シートを製造した。得られる光散乱シートのヘイズ値が略一定となるように、樹脂に対する希土類リン酸塩粒子の配合割合を適宜調整した。その配合割合は表1に示すとおりとした。得られた光散乱シートの全光線透過率及びヘイズ値をヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、NDH2000)で測定した。
【0057】
〔視野角の評価〕
図1(a)に示すとおり、全光線透過率の測定に用いた光散乱シート10を鉛直面V内に配置した。短焦点プロジェクタを光源12に用い、光散乱シート10に光を照射した。光は、光散乱シート10の下方から上方に向けて、鉛直面Vに対して45度の角度で照射した。光散乱シート10における光の照射面とは反対側の投影面11側に輝度計13を設置し、光散乱シート10が発光している輝度を測定した。輝度計13は、図1(b)に示すとおり、光散乱シート10を横切り、且つ水平面と平行な線Hに対して45度の角度をなす位置に設置した。そして、各実施例の希土類リン酸塩粒子を用いた光散乱シートの輝度の値を、参考例1の希土類リン酸塩粒子を用いた光散乱シートの輝度の値で除することにより、輝度比(〔各実施例の希土類リン酸塩粒子を用いた光散乱シートの輝度〕/〔参考例1の希土類リン酸塩粒子を用いた光散乱シートの輝度〕)を算出した。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例の希土類リン酸塩粒子を用いると、参考例1の希土類リン酸塩粒子を用いた場合と同様の全光線透過率及びヘイズが得られる。これらの値は、透明スクリーン等に用いた場合に十分に性能を満たすものであることから、各実施例及び参考例1の希土類リン酸塩粒子を用いた光散乱シートは、高い光透過性及び光散乱性を有するものであることが判る。また、各実施例の希土類リン酸塩粒子を用いると、参考例1の希土類リン酸塩粒子を用いた場合よりも、光源の正面方向に対して輝度の測定位置の角度が大きくても高い輝度が得られる。この結果から、各実施例で得られた希土類リン酸塩粒子を用いた光散乱シートは、透明スクリーン等に用いた場合に、参考例1の希土類リン酸塩粒子を用いた光散乱シートよりも広視野角のものであることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の希土類リン酸塩粒子によれば、該粒子を基材の内部又は表面に配置することで、該基材の透明性及び広い視野角を確保しつつ光散乱性を向上させることができる。
図1
図2