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特許7050843ディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH3-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト、及びこれを含むディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置
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  • 特許-ディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH3-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト、及びこれを含むディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH3-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト、及びこれを含むディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/76 20060101AFI20220401BHJP
   C01B 39/04 20060101ALI20220401BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220401BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20220401BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
B01J29/76 ZAB
C01B39/04
B01D53/94 222
F01N3/08 B
F01N3/035 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020059095
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021154247
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-08-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】堀 恵悟
(72)【発明者】
【氏名】田中 江里子
(72)【発明者】
【氏名】今井 啓人
(72)【発明者】
【氏名】成田 慶一
(72)【発明者】
【氏名】山口 陽子
(72)【発明者】
【氏名】稲木 千津
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 俊二
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079569(WO,A1)
【文献】特表2018-527162(JP,A)
【文献】特開2020-000982(JP,A)
【文献】特表2019-513537(JP,A)
【文献】NEGRI, Chiara et al.,Investigating the Low Temperature Formation of CuII-(N,O) Species on Cu-CHA Zeolites for the Selective Catalytic Reduction of NOx,Chem. Eur. J.,ドイツ,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA,2018年07月26日,Vol. 24, No. 46,pp. 12044-12053,DOI: 10.1002/chem.201802769
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 21/00-38/74
F01N 3/00
3/02
3/04-3/38
9/00-11/00
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ/アルミナ比(SAR)がモル比で15未満のCu-CHA型ゼオライトであって、
前記Cu-CHA型ゼオライトについて測定されたFT-IRスペクトルにおいて、波数3,745cm-1のピークP1のピーク面積AP1と、波数1,975cm-1のピークP0のピーク面積AP0との比(AP1/AP0)が、0.070以下である、
ディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト。
【請求項2】
前記Cu-CHA型ゼオライトのSARが、5.0超10.0以下である、請求項1に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト。
【請求項3】
前記Cu-CHA型ゼオライトにおける前記比(AP1/AP0)が、0.063以下である、請求項1又は2に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト。
【請求項4】
前記Cu-CHA型ゼオライト中の、KO換算のカリウム量が、1.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト。
【請求項5】
前記Cu-CHA型ゼオライトにおける、銅原子とアルミニウム原子とのモル比(Cu/Al)が、0.05以上1.00以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト。
【請求項6】
基材と、前記基材上のSCR触媒層とを含み、かつ、
前記SCR触媒層が、請求項1~5のいずれか一項に記載の自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライトを含む、
ディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置。
【請求項7】
前記基材上に、酸化触媒層を更に含む、請求項6に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置を含む、尿素SCRシステム又は尿素SCR-フィルターシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト、及びこれを含むディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスを浄化するシステムとして、アンモニア(NH)を用いてNOを窒素(N)及び水(HO)に変換して浄化する、SCR(Selective Catalytic Reduction、選択触媒還元)システムが知られている。SCRシステムにおけるアンモニア源としては、アンモニア、アンモニア水、尿素((NHC=O)等が用いられる。
【0003】
SCRシステムにおける選択還元触媒として、銅でイオン交換されたCHA(Chabazite、チャバサイト)型のゼオライト(Cu-CHA型ゼオライト)を含むSCR触媒が知られている。特に、SAR(Silica Alumina Ratio、SiO/Alモル比)が15以下のCu-CHA型ゼオライトは、SCR触媒として高いNO浄化能を示す材料である。
【0004】
しかし、低SARのCu-CHA型ゼオライトは、水熱耐久性が低く、高温の水蒸気に長時間さらされると、Al原子及びCu原子がゼオライトの骨格構造から脱離してしまい、その結果、NO浄化能が著しく損なわれるとの問題がある。
【0005】
この点、特許文献1には、SAR3~10のCu-CHA型ゼオライトに、アルカリ土類金属、希土類、アルカリ金属、又はこれらの混合物から選択される金属を含有させて、高温水蒸気耐性を向上させ、これにより、NO浄化能の劣化を抑制する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、SAR15以下のCu-CHA型ゼオライトに、約3質量%未満のアルカリ金属を含有させる技術が開示されており、Cu-CHA型ゼオライトがアルカリ金属を含むと、水熱耐久性が向上されると説明されている。
【0007】
なお、ゼオライトの合成に際して、OSDA(Organic Structure Directing Agent、有機構造規定剤)を用いると、所望の結晶構造及び細孔サイズを有するゼオライトを容易に合成できることが知られている。しかし、OSDAを用いて、SARが低いCHA型ゼオライトを合成することは、困難といわれている。この点、OSDAを用いない低SARのCHA型ゼオライトの製造方法として、特許文献3に記載された技術が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2015-505290号公報
【文献】特開2016-93809号公報
【文献】国際公開第2018/079569号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
低SARのCu-CHA型ゼオライトにアルカリ金属等を含有させると、水熱耐久性は向上されるものの、初期のNO浄化能が損なわれる。すなわち、アルカリ金属等の添加による、水熱耐久性の向上と、初期NO浄化能の維持とは、トレードオフの関係にある。これに加えて、水熱耐久性を向上しつつ、初期NO浄化能の低下をできる限り抑制しようとすれば、アルカリ金属等の添加量を厳密にコントロールする必要があり、Cu-CHA型ゼオライトの製造工程において、多額の管理コストを要することとなる。
【0010】
本発明は、初期NO浄化能及び水熱耐久性の双方が高く、高温の水蒸気にさらされた場合でも、高いレベルのNO浄化能を長時間維持できる、ディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト、及びこれを含むディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のとおりである。
【0012】
《態様1》
シリカ/アルミナ比(SAR)がモル比で15未満のCu-CHA型ゼオライトであって、
前記Cu-CHA型ゼオライトについて測定されたFT-IRスペクトルにおいて、波数3,745cm-1のピークP1のピーク面積AP1と、波数1,975cm-1のピークP0のピーク面積AP0との比(AP1/AP0)が、0.070以下である、
ディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト。
《態様2》
前記Cu-CHA型ゼオライトのSARが、5.0超10.0以下である、態様1に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト。
《態様3》
前記Cu-CHA型ゼオライトにおける前記比(AP1/AP0)が、0.063以下である、態様1又は2に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト。
《態様4》
前記Cu-CHA型ゼオライト中の、KO換算のカリウム量が、1.0質量%以下である、態様1~3のいずれか一項に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト。
《態様5》
前記Cu-CHA型ゼオライトにおける、銅原子とアルミニウム原子とのモル比(Cu/Al)が、0.05以上1.00以下である、態様1~4のいずれか一項に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト。
《態様6》
基材と、前記基材上のSCR触媒層とを含み、かつ、
前記SCR触媒層が、態様1~5のいずれか一項に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライトを含む、
ディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置。
《態様7》
前記基材上に、酸化触媒層を更に含む、態様6に記載のディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置。
《態様8》
態様6又は7に記載の自動車排ガス浄化触媒装置を含む、NH-SCRシステム又はNH-SCR-フィルターシステム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、初期NOx浄化能及び水熱耐久性の双方が高く、高温の水蒸気にさらされた場合でも、高いレベルのNOx浄化能を長時間維持できる、ディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト、及びこれを含むディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のSCRシステム(a)、cc-SCRシステム(b)、及びSCR-フィルターシステム(c)の構成を説明するための概略図である。
図2】実施例及び比較例で得られた、耐久後のSCR性能の評価におけるNO浄化率と、Cu-CHA型ゼオライトの外表面欠陥(比(AP1/AP0)の値)との関係を示すグラフである。
図3】実施例及び比較例で得られた、耐久後のSCR性能の評価におけるNO浄化率と、Cu-CHA型ゼオライトの内表面欠陥(比(AP2/AP0)の値)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《本発明のCu-CHA型ゼオライト》
本発明のCu-CHA型ゼオライトは、
シリカ/アルミナ比(SAR)がモル比で15未満のCu-CHA型ゼオライトであって、
前記Cu-CHA型ゼオライトについて測定されたFT-IRスペクトルにおいて、波数3,745cm-1のピークP1のピーク面積AP1と、波数1,975cm-1のピークP0のピーク面積AP0との比(AP1/AP0)が、0.070以下である、
ディーゼル自動車排ガス浄化触媒装置に用いられるNH-SCR触媒用のCu-CHA型ゼオライト、
であることを特徴とする。
【0016】
本発明者らは、Cu-CHA型ゼオライトが高温の水蒸気にさらされたときに、NO浄化能が劣化する理由について、詳細な検討を行った。その結果、以下の機構が推察された。
【0017】
Cu-CHA型ゼオライトによる、NO浄化は、チャバサイト表面のAlに結合したCuが活性点であると考えられる。
【0018】
高温の水蒸気は、ゼオライト表面において、Si-OHサイトに吸着する。この吸着水は、当該吸着水が吸着しているSi-OHサイトに隣接するAlと反応して、Alをチャバサイト骨格から脱離させる。すると、この脱離Alに結合していたCuも、Alとともに脱離して、NO浄化能の活性サイトが減少するから、NO浄化能が劣化するものと推察される。本発明において、ゼオライトの表面とは、Cu-CHA型ゼオライトの外表面及び内表面の両方を含む概念である。Cu-CHA型ゼオライトの外表面とは、当該Cu-CHA型ゼオライトの結晶粒界を指すものとし、Cu-CHA型ゼオライトの内表面とは、当該Cu-CHA型ゼオライトのチャバサイト骨格に由来する細孔の表面を指すものとする。
【0019】
ゼオライト表面のSi-OHサイトは、チャバサイト骨格の規則構造が途切れることによって、増加する。したがって、このようなチャバサイト骨格の欠陥が少ないCu-CHA型ゼオライトは、水が吸着し得るSi-OHサイトが少ない。Si-OHサイトが少ないCu-CHA型ゼオライトは、高温の水蒸気にさらされた場合でも、水の吸着が抑制され、したがって、Al及びCuの脱離が抑制されると考えられる。このような理由により、チャバサイト骨格の欠陥がない、又は当該欠陥が少ない、Cu-CHA型ゼオライトは、NO浄化能を長時間維持できると考えられる。なお、本発明は、特定の理論に拘束されるものではない。
【0020】
本発明のCu-CHA型ゼオライトは、FT-IRスペクトルにおいて、波数3,745cm-1のピークP1のピーク面積AP1と、波数1,975cm-1のピークP0のピーク面積AP0との比(AP1/AP0)が、0.070以下である。FT-IRスペクトルにおける、波数1,975cm-1のピークP0は、チャバサイト骨格のSi-O結合に帰属される。波数3,745cm-1のピークP1は、Cu-CHA型ゼオライトの外表面のSi-OH結合に帰属される。
【0021】
したがって、Cu-CHA型ゼオライトのFT-IRスペクトルにおける、ピークP1のピーク面積AP1とピークP0のピーク面積AP0との比(AP1/AP0)が、0.070以下であることは、当該Cu-CHA型ゼオライトの外表面の欠陥濃度が所定の値よりも低いこと、すなわち、当該Cu-CHA型ゼオライトの外表面の欠陥が少ないことを示す。
【0022】
Cu-CHA型ゼオライトのFT-IRスペクトルにおける、ピークP1のピーク面積AP1とピークP0のピーク面積AP0との比(AP1/AP0)の値は、0.070以下であり、0.065以下、0.063以下、0.060以下、0.058以下、0.055以下、又は0.053以下であってよい。比(AP1/AP0)の値は、理想的には、低ければ低いほどよいが、0.010以上、0.020以上、0.030以上、又は0.040以上であっても、本発明の効果を有効に発現することができる。
【0023】
なお、Cu-CHA型ゼオライトのFT-IRスペクトルにおける、波数3,720cm-1のピークP2は、Cu-CHA型ゼオライトの内表面のSi-OH結合に帰属される。興味深いことに、このピークP2のピーク面積AP2と、上記の波数1,975cm-1のピークP0のピーク面積AP0との比(AP2/AP0)で評価されるCu-CHA型ゼオライトの内表面の欠陥の多寡と、当該Cu-CHA型ゼオライトの水熱耐久性とは、有意の関係を見出せない。これは、Cu-CHA型ゼオライトの内表面(チャバサイト骨格に由来する細孔の表面)が、当該Cu-CHA型ゼオライトの外表面(結晶粒界)と比べて、水蒸気にさらされにくいためではないかと推察される。
【0024】
したがって、Cu-CHA型ゼオライトのFT-IRスペクトルにおける、波数3,720cm-1のピークP2のピーク面積AP2と、波数1,975cm-1のピークP0のピーク面積AP0との比(AP2/AP0)は、任意の値であってよく、例えば、0.05以上0.30以下であってよい。
【0025】
Cu-CHA型ゼオライトのFT-IR分析は、市販のFT-IR測定装置、及びTGS(硫酸トリグリシン)検出器を用い、透過法によって真空中で測定されてよい。得られたFT-IRスペクトルは、例えば、市販の、又は使用したFT-IR測定装置に付属の解析ソフトウエアを用いて波形分離することができ、当該分離によって得られた各ピークのピーク面積から各ピーク面積の比を算出することができる。
【0026】
なお、各ピークのピークトップの値は、所定の波数±5cm-1程度の測定誤差が見込まれる場合がある。したがって、波数1,975cm-1の±5cm-1の範囲にピークトップを有するピークは、ピークP0と看做してよく、波数3,745cm-1の±5cm-1の範囲にピークトップを有するピークは、ピークP1と看做してよく、波数3,720cm-1の±5cm-1の範囲にピークトップを有するピークは、ピークP2と看做してよい。
【0027】
FT-IRスペクトルの具体的な波形分離方法は、例えば、後述の実施例に記載の方法によって行ってよい。
【0028】
上記の比(AP1/AP0)及び比(AP2/AP0)は、それぞれ、Cu-CHA型ゼオライトについて測定されたFT-IRスペクトルに基づいて算出される値である。
【0029】
本発明におけるCu-CHA型ゼオライトは、シリカ/アルミナのモル比(SAR)が15.0未満である。SARは、シリカ(SiO)のモル数と、アルミナ(Al)のモル数との比で表される。したがって、ゼオライトのSARの値は、当該ゼオライト中の、ケイ素(Si)のモル数とアルミニウム(Al)のモル数との比の、2倍の値となる。
【0030】
SARが15.0未満のCu-CHA型ゼオライトは、SCR触媒として高いNO浄化能を示すことが知られている。本発明におけるCu-CHA型ゼオライトのSARは、15.0未満であり、14.0以下、12.0以下、10.0以下、9.5以下、9.0以下、8.5以下、8.0以下、又は7.5以下であってよい。
【0031】
一方で、Cu-CHA型ゼオライトのSARが過度に低いと、ゼオライトの比表面積が小さくなる。このことにより、Cuが担持される表面Alサイトの数がかえって減少して、NO浄化能が損なわる場合がある。これを回避する観点から、Cu-CHA型ゼオライトのSARは、5.0超、5.5以上、6.0以上、6.5以上、7.0以上、又は7.5以上であってよい。Cu-CHA型ゼオライトのSARは、典型的には、5.0超10.0以下であってよい。
【0032】
本発明におけるCu-CHA型ゼオライトは、Cuによってイオン交換されている。このCuは、CHA型ゼオライトの表面Alサイトに担持され、SCR触媒におけるNO浄化の触媒活性点を構成すると考えられている。Cu-CHA型ゼオライトにおけるCu量は、CuとAlとのモル比(Cu/Al)として、高いNO浄化能を発現させる観点から、0.05以上、0.10以上、0.15以上、0.20以上、又は0.25以上であってよく、NO浄化能を安定的に維持する観点から、1.00以下、0.80以下、0.60以下、0.50以下、0.45以下、0.40以下、0.35以下、0.30以下、又は0.25以下であってよい。
【0033】
本発明におけるCu-CHA型ゼオライトは、アルカリ金属を含んでいてよい。適正な量のアルカリ金属を含むCu-CHA型ゼオライトは、高い初期NOx浄化能を維持しながら、その水熱耐久性が更に向上する。Cu-CHA型ゼオライトに含まれるアルカリ金属量は、MO(Mはアルカリ金属を示す。)換算質量がCu-CHA型ゼオライトの全質量に占める割合として、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、0.6質量%以上、0.7質量%以上、又は0.8質量%以上であってよい。
【0034】
一方で、Cu-CHA型ゼオライトに含まれるアルカリ金属量が過度に多いと、初期NO浄化能が損なわれる場合がある。この観点から、Cu-CHA型ゼオライト中のアルカリ金属量は、MO(Mはアルカリ金属を示す。)換算質量がCu-CHA型ゼオライトの全質量に占める割合として、2.0質量%以下、1.8質量%以下、1.6質量%以下、1.4質量%以下、1.2質量%以下、1.0質量%以下、0.9質量%以下、又は0.8質量%以下であってよい。
【0035】
Cu-CHA型ゼオライトに含まれるアルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)等であってよく、典型的にはカリウムであってよい。
【0036】
本発明におけるCu-CHA型ゼオライトの一次粒径は、0.1μm以上、0.2μm以上、0.3μm以上、又は0.4μm以上であってよく、1.0μm以下、0.8μm以下、0.6μm以下、0.5μm以下、又は0.4μm以下であってよい。
【0037】
〈Cu-CHA型ゼオライトの製造方法〉
本発明のCu-CHA型ゼオライトは、上記のような特性を有する限り、どのような方法によって製造されてもよい。例えば、本発明におけるCu-CHA型ゼオライトは、SAR15未満のY型ゼオライトを原料として、以下のような方法で製造されてもよい。
【0038】
本発明のCu-CHA型ゼオライトは、例えば、後述する実施例に記載されるような、
SAR15未満のY型ゼオライトと種結晶と水とを混合して原料スラリーを調製し、
この原料スラリーを湿式粉砕して粉砕スラリーを調製し、
この粉砕スラリー中にアルカリ金属水酸化物を添加して調合スラリーを調製し、
この調合スラリーを130℃以上190℃以下の温度で水熱処理してCHA型ゼオライトを調製し、
このCHA型ゼオライトをCuでイオン交換したあと所定の温度で焼成する
方法で、製造されてもよい。
【0039】
この方法を用いる場合、調合スラリーに含まれるアルカリ金属水酸化物のモル量を、当該調合スラリーに含まれるSiのモル量を1モルとしたときに、0.320モル以上0.380モル以下の範囲に調整することで、FT-IRスペクトルにおいて、波数3,745cm-1のピークP1のピーク面積AP1と、波数1,975cm-1のピークP0のピーク面積AP0との比(AP1/AP0)が、0.070以下である、本発明のCu-CHA型ゼオライトを調製することができる(例えば、実施例1~3)。また、この範囲内においても、調合スラリーに含まれるSiのモル量を1モルとしたときに、当該調合スラリー中のアルカリ金属水酸化物を0.32モルに近いモル量で添加する方法で得られたCu-CHA型ゼオライトは、比(AP1/AP0)が低く、水熱処理後であっても良好なNO浄化率を示す。
【0040】
この方法で用いるSAR15未満のY型ゼオライトは、例えば、特許文献3に記載されたY型ゼオライトの調製方法を参考に、準備することができる。
【0041】
この方法で用いる種結晶は、従来知られているCHA型ゼオライトを種結晶として使用することができる。例えば、「VERIFIED SYNTHESES OF ZEOLITIC MATERIALS」H.Robson編、K.P.Lillerud XRD図:2001年発行、第2版、第123頁~第125頁に記載されたChabaziteの合成方法で合成したCHA型ゼオライトを使用することができる。
【0042】
原料スラリーを湿式粉砕する方法は、例えば、特許文献3に記載された湿式粉砕の条件を参考にして行うことができる。
【0043】
この方法で用いるアルカリ金属水酸化物は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)等の水酸化物であってよく、典型的にはカリウムの水酸化物であってよい。
【0044】
調合スラリーを130℃以上190℃以下の温度で水熱処理してCHA型ゼオライトを調製する方法は、例えば、特許文献3に記載された水熱処理の条件を参考に行うことができる。ただし、この方法では水熱処理の温度が190℃を超えるとCHA型ゼオライト以外の異相が生成することがあり、130℃より低いとチャバサイト型ゼオライトの結晶が成長しにくくなることがある。
【0045】
水熱処理後の調合スラリーには、CHA型ゼオライトが含まれるので、濾過、遠心分離、噴霧乾燥等によって、調合スラリー中の液分を除去して、CHA型ゼオライトを得ることができる。ここで得られたCHA型ゼオライトには、未反応の原料等が残留していることがあるので、必要に応じて温水等で洗浄して、これらを除去してもよい。
【0046】
CHA型ゼオライトをCuでイオン交換する方法は、例えば、適当な溶媒(例えば水)中で、CHA型ゼオライトと銅化合物とを接触させる方法によって行われてよい。具体的には、例えば、水溶性の銅化合物を溶解した水溶液に、CHA型ゼオライトを投入して、所定の温度で所定の時間、接触させる方法によってよい。また、必要に応じて、Cuでイオン交換する前に、CHA型ゼオライトに含まれるアルカリ金属を、アンモニウムイオンでイオン交換してもよい。
【0047】
銅化合物としては、例えば、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅等が好ましく例示できる。
【0048】
銅化合物の使用量は、得られるCu-CHA型ゼオライトにおける所望のCu量に応じて適宜に設定されてよい。
【0049】
銅化合物とCHA型ゼオライトの接触温度は、0℃以上100℃以下、10℃以上80℃以下、20℃以上60℃以下、又は23℃以上40℃以下であってよく、典型的には室温であってよい。接触温度は、10分以上12時間以下、15分以上8時間以下、20分以上6時間以下、40以上4時間以下、又は1時間以上2時間以下であってよい。
【0050】
銅化合物とCHA型ゼオライトとを接触させた後、濾過、遠心分離、噴霧乾燥等によって、液分を除去することができる。例えば、100℃以上300℃以下の範囲となるような温度で噴霧乾燥することで、Cu-CHA型ゼオライトを得ることができる。また、必要に応じて、例えばイオン交換水等による洗浄を行ってもよく、Cu-CHA型ゼオライトに含まれるアルカリ金属の量を調整するために、更なるイオン交換を行ってもよい。
【0051】
この工程を経て得られたCu-CHA型ゼオライトを、300℃以上700℃以下の温度で焼成することができる。これによって、Cu-CHA型ゼオライトに残留した銅化合物由来の不純物(例えば、銅化合物のアニオン等)を除去することができる。
【0052】
《排ガス浄化触媒装置》
本発明のディーゼル排ガス浄化触媒装置は、
基材と、前記基材上のSCR触媒層とを含み、かつ、
前記SCR触媒層が、上記に説明したCu-CHA型ゼオライトを含む。
【0053】
本発明のディーゼル排ガス浄化触媒装置は、前記基材上に、更に酸化触媒層を含んでいてもよい。
【0054】
基材は、ディーゼル排ガス浄化触媒装置の基材として一般に使用されているものであってよく、例えば、コージェライト、SiC、ステンレス鋼、無機酸化物粒子等の材料から構成されている、例えばモノリスハニカム基材であってよい。基材の容量は、例えば1L程度であってよい。
【0055】
SCR触媒層は、基材上に配置されている。このSCR触媒層は、上記に説明したCu-CHA型ゼオライトを含む。SCR触媒層は、Cu-CHA型ゼオライト以外の成分を含んでいてよい。SCR触媒層における、Cu-CHA型ゼオライト以外の成分としては、例えば、本発明所定のCu-CHA型ゼオライト以外の無機酸化物、バインダー等であってよい。
【0056】
本発明所定のCu-CHA型ゼオライト以外の無機酸化物は、例えば、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、チタニウム、希土類元素等から選択される1種以上の酸化物であってよい。無機酸化物として、好ましくは、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライト(ただし、本発明所定のCu-CHA型ゼオライトを除く。)、チタニア、ジルコニア、及び希土類元素の酸化物から選択される1種以上であってよい。
【0057】
バインダーは、例えば、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等から選択される、無機バインダーであってよい。
【0058】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、例えば、SCR触媒層の所望の成分を含むスラリーを調製し、得られたスラリーを基材上に塗布(ウォッシュコート)した後に、焼成する方法によって製造されてよい。これらの方法は、公知の方法により、又はこれに当業者による適宜の変更を加えた方法により、行われてよい。
【0059】
本発明の排ガス浄化触媒装置が、基材上に、SCR触媒層とともに、更に酸化触媒層を含む場合、この酸化触媒層は、ガス中の成分の酸化浄化ができる限り、従来公知の触媒層であってよい。
【0060】
基材として、ストレート型のモノリスハニカム基材を用いた本発明の排ガス浄化触媒装置は、SCR触媒装置又はcc-SCR触媒装置として好適に使用することができる。ここで「cc-SCR」とは、“closed-coupled SCR”の略であり、エンジンの直後に置かれるSCR触媒装置を示す。
【0061】
基材として、ウォールフロー型のモノリスハニカム基材を用いた本発明の排ガス浄化触媒装置は、SCR-フィルター触媒装置として使用できる。このSCR-フィルター触媒装置は、SCR機能と、PM(粒子状物質)除去機能とを併有する排ガス浄化触媒装置を示す。
【0062】
上記いずれの場合も、SCRにおける還元剤は、典型的にはアンモニアである。アンモニア源は、アンモニアそのもの、アンモニア水、又は尿素であってよい。
【0063】
《SCRシステム又はSCR-フィルターシステム》
本発明の更に別の観点によると、本発明の排ガス浄化触媒装置を含む、SCRシステム、cc-SCRシステム、又はSCR-フィルターシステムが提供される。図1に、これらのシステムの構成の例を説明するための概略図を示した。排ガスは、図1の左側から右側に向かって流れるものとする。
【0064】
図1(a)は、SCRシステムの構成例を示す。図1(a)のSCRシステム(100)では、排ガス(2)の流れの上流側から順に、DOC(ディーゼル酸化触媒)装置(20)、DPF(ディーゼル微粒子除去)装置(30)、SCR装置(10)、及び後段DOC装置(40)が直列に接続されている。
【0065】
ストレート型のモノリスハニカム基材を用いた本発明の排ガス浄化触媒装置は、SCRシステム(100)におけるSCR装置(10)として、適用されてよい。図1(a)のSCRシステム(100)では、DOC装置(20)及びDPF装置(30)を通過した排ガス(2)に、アンモニア源(1)が混入された混合ガスが、SCR装置(10)に流入し、NOxが、選択的触媒還元によって窒素及び水に浄化される。SCR装置(10)通過後のガスは、後段DOC装置(40)を更に通過したうえで、大気に放出される。
【0066】
図1(b)は、cc-SCRシステムの構成例を示す。図1(b)のcc-SCRシステム(110)では、排ガス(2)の流れの上流側から順に、cc-SCR装置(11)、DOC装置(20)、DPF装置(30)、SCR装置(10)、及び後段DOC装置(40)が直列に接続されている。
【0067】
ストレート型のモノリスハニカム基材を用いた本発明の排ガス浄化触媒装置は、このcc-SCRシステム(110)における、cc-SCR装置(11)及びSCR装置(10)として、適用されてよい。
【0068】
図1(b)のcc-SCRシステム(110)では、cc-SCR装置(11)は、エンジンの直後に配置されている。このcc-SCR装置(11)には、エンジンから排出された排ガス(2)に、アンモニア源(1)が混入された混合ガスが流入し、NOxの一部が、選択的触媒還元によって窒素及び水に浄化される。cc-SCR装置(11)を通過したガスは、DOC装置(20)及びDPF装置(30)を更に通過した後、アンモニア源(1)が混入された混合ガスとして、SCR装置(10)に流入する。そして、SCR装置(10)において、ガス中に残存するNOxが、選択的触媒還元によって窒素及び水に浄化される。SCR装置(10)通過後のガスは、後段DOC装置(40)を更に通過したうえで、大気に放出される。
【0069】
図1(c)は、SCR-フィルターシステムの構成例を示す。図1(c)のSCR-フィルターシステム(120)では、排ガス(2)の流れの上流側から順に、DOC装置(20)、SCR-フィルター装置(12)、及び後段DOC装置(40)が直列に接続されている。
【0070】
ウォールフロー型のモノリスハニカム基材を用いた本発明の排ガス浄化触媒装置は、このSCR-フィルターシステム(120)におけるSCR-フィルター装置として、適用されてよい。図1(c)のSCR-フィルターシステム(120)では、DOC装置(20)を通過した排ガス(2)に、アンモニア源(1)が混入された混合ガスが、SCR-フィルター装置(12)に流入し、NOxが、選択的触媒還元によって窒素及び水に浄化されるとともに、ガス中のPMが除去される。SCR-フィルター装置(12)通過後のガスは、後段DOC装置(40)を更に通過したうえで、大気に放出される。
【0071】
上記において、DOC装置(20)、DPF装置(30)、及び後段DOC装置(40)の構成及び機能は、それぞれ、公知の触媒装置と同じであってよい。また、アンモニア源としては、アンモニア、アンモニア水、尿素等を使用してよい。
【実施例
【0072】
《実施例1》
〔原料スラリー調製工程〕
純水846gとFAU型ゼオライト(SAR=8.8)104gとを混合した。次いで、「VERIFIED SYNTHESES OF ZEOLITIC MATERIALS」,H.Robson編、K.P.Lillerud XRD図:2001年発行、第2版、第123頁~第125頁に記載されたチャバサイト(Chabazite)の合成方法により得られたチャバサイト型ゼオライト(SAR=4.5、NaO/Alモル比=0.02、KO/Alモル比=0.98)11.2gを種結晶として添加し、原料スラリーを得た。このとき、原料スラリーのSARは8.3であり、当該スラリーのアルカリ金属の含有量は、当該スラリーに含まれるSiを1モルとしたとき、0.03モルであった。また、原料スラリーに含まれる種結晶の含有量は、前記原料スラリーに含まれる種結晶とFAU型ゼオライトの質量の和に対して、9.7質量%であった。
【0073】
〔粉砕スラリー調製工程〕
前記工程で調製した原料スラリーを、循環式のビーズミル(アシザワファインテック(株)製:LMZ015)を用いて、ビーズミルの容器及び原料スラリーの容器をチラーで冷却しながら湿式粉砕した。このとき、原料スラリーに含まれるFAU型ゼオライトのX線回折パターンに現れる3本のピーク〔(111)、(331)、及び(533)のミラー指数に帰属されるピーク〕の合計強度(Ha)に対して、FAU型ゼオライトの合計強度(Hb)が半分以下(0.5Ha≧Hb)になるまで当該スラリーを湿式粉砕して、粉砕スラリーを得た。
なお、原料スラリーに含まれるFAU型ゼオライトのX線回折パターンは、当該スラリーから溶媒を除去して得られた粉末を、以下の条件で測定して得た。
【0074】
〈X線回折測定条件〉
装置 :MiniFlex((株)リガク製)
操作軸 :2θ/θ
線源 :CuKα
測定方法 :連続式
電圧 :40kV
電流 :15mA
開始角度 :2θ=5°
終了角度 :2θ=50°
サンプリング幅:0.020°
スキャン速度 :10.000°/min
【0075】
この湿式粉砕の条件は、ジルコニアビーズ0.5mm、周速10m/s、ビーズ充填量は体積換算で容器容積の85%であった。
【0076】
〔調合スラリー調製工程〕
前記工程で得られた粉砕スラリーにアルカリ金属水酸化物としての水酸化カリウム(KOH濃度:95.5質量%)27.9gを添加して、調合スラリーを調製した。このとき、調合スラリーに含まれるアルカリ金属水酸化物のモル量は、当該スラリー中のSi 1モルに対して、0.335モルであった。
【0077】
〔水熱処理工程〕
この調合スラリーをオートクレーブに入れ、150℃、48時間水熱処理した。その後、水熱処理後の調合スラリーを取出し、ろ過、洗浄、及び乾燥して、CHA型ゼオライトを得た。得られたCHA型ゼオライト50gを、硫酸アンモニウム50gを含む水溶液500gに懸濁してスラリーを調製した。このスラリーを撹拌しながら60℃に昇温して、1時間イオン交換した。イオン交換後のスラリーをろ過、洗浄、及び乾燥した。これらの操作を更に2回行い、NHイオン交換CHA型ゼオライトを調製した。
【0078】
〔Cuイオン交換工程〕
前述の工程で得られたCHA型ゼオライトを、当該ゼオライト中のアルミニウム1モルに対して0.25モルの硝酸銅を含有する水溶液中に分散して、スラリーとした。このスラリーを、1時間撹拌して、ゼオライトのCuイオン交換を行った。
【0079】
Cuイオン交換が完了した後、ゼオライトを噴霧乾燥し、焼成することにより、Cu-CHA型ゼオライトを得た。このCu-CHA型ゼオライトについて、原子吸光分析法によって測定したKO換算のカリウムの含有量は、Cu-CHA型ゼオライトの全質量に対して、0.8質量%であった。
【0080】
〔X線回折測定〕
前述の工程で得られたCu-CHA型ゼオライトについてX線回折測定を行い、CHA骨格の有無及び異相の有無を確認した。具体的には、以下の方法で測定及び確認した。その結果を表3に示す。
【0081】
〈X線回折測定条件〉
装置 :MiniFlex((株)リガク製)
操作軸 :2θ/θ
線源 :CuKα
測定方法 :連続式
電圧 :40kV
電流 :15mA
開始角度 :2θ=5°
終了角度 :2θ=50°
サンプリング幅:0.020°
スキャン速度 :10.000°/min
【0082】
〈CHA骨格の有無〉
上記測定により得られるX線回折パターンを用いて、JIS K 0131のX線回析分析通則にしたがって、得られたゼオライトがCHA骨格を有しているか否かを確認した。
【0083】
〈異相の有無〉
得られたゼオライトのX線回析の測定パターンを、「Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites」 M.M.J.Treacy, J.B.Higgins編:2001年発行、第4版に記載されているCHA型ゼオライトのX線回折パターンと照合し、CHA型ゼオライトのピークの他にピークを有する場合は、異相が生成していると判断した。
【0084】
〔SAR測定〕
前述の工程で得られたCu-CHA型ゼオライトについて、SARを算出した。具体的には、Cu-CHA型ゼオライトについて、ICP発光分光分析を用いてSi及びAlの含有量を測定し、各成分の含有量をSiO及びAlのモル量に換算して、SAR(SiO/Alモル比)を算出した。ICP発光分光分析は、以下の条件で行った。得られた結果を表3に示す。
【0085】
〈ICP発光分光分析〉
装置 :ICPS-8100(島津製作所)
試料溶解:Alは酸溶解、Siはアルカリ溶融
【0086】
〔一次粒子径測定〕
前述の工程で得られたCu-CHA型ゼオライトについて、一次粒子径を算出した。具体的には、Cu-CHA型ゼオライトについて、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、得られた画像から以下の方法で一次粒子径を算出したところ、0.4μmであった。SEM観察は、以下の条件で行った。なお、電子顕微鏡の倍率は、Cu-CHA型ゼオライトの一次粒子のサイズが確認できる倍率であれば、必ずしも下記の条件でなくともよい。
【0087】
〈走査型電子顕微鏡〉
測定装置 :日本電子 JEOL JSM-7600
加速電圧 :1.0kV
倍率 :20,000倍
【0088】
〈一次粒子径の算出〉
SEM画像から10個の一次粒子をランダムに抽出し、これらの一次粒子の長径の平均値を一次粒子径とした。
【0089】
〔FT-IR測定〕
前述の工程で得られたCu-CHA型ゼオライトを、乳鉢で粉砕し、約20mgをはかり取り、圧縮成形によって、直径20mmΦのFT-IR分析用のディスク試料を得た。この圧縮成形は、市販の20mmΦ錠剤成形機により、手動油圧ポンプを用いて、成形圧力60kNにて行った。得られたディスク試料につき、以下の条件でFT-IR測定を行った。
【0090】
〈FT-IR測定〉
測定装置:日本分光(株)製、フーリエ変換赤外分光光度計、「FT/IR-6100」
測定法:透過法
測定範囲:4,000~1,000cm-1
分解能:4.0cm-1
検出器:TGS(硫酸トリグリシン)検出器
積算回数:100回
測定温度:40℃
測定雰囲気:真空
【0091】
試料の測定に先立って、空セルを測定装置の試料室に装填し、試料室温度を500℃として、30分間真空排気を行った。その後、空セルのFT-IR測定を40℃真空下で行い、その測定結果をバックグランドとした。
【0092】
Cu-CHA型ゼオライトのディスク試料を、測定装置の試料室に装填し、真空排気下、試料室温度を、室温から500℃まで60分間かけて昇温し、500℃に到達後、この温度を60分間保持する手法により、試料の前処理を行った。次いで、試料室を真空下で放冷し、試料室温度が40℃まで下がったところで、FT-IR測定を開始した。
【0093】
得られたFT-IRチャートにつき、日本分光(株)製、分光光度計用解析ソフトウエア、「スペクトルマネージャ」を用いて、解析を行い、波数3,745cm-1のピークP1のピーク面積AP1と、波数1,975cm-1のピークP0のピーク面積AP0との比(AP1/AP0)、及び波数3,720cm-1のピークP2のピーク面積AP2と、波数1,975cm-1のピークP0のピーク面積AP0との比(AP2/AP0)を求めた。
【0094】
具体的な解析方法は、以下のとおりである。
【0095】
(3,820cm-1~3,400cm-1
波数4,000cm-1における吸光度と、波数3,000cm-1における吸光度とを直線で結ぶ2点間補正により、この波数領域のベースラインを設定した。そして、波数3,820cm-1から波数3,400cm-1までの波数領域におけるスペクトルについて、表1に示す6ピークを想定して、フィッティングを行った。このとき、ピーク形状関数(ガウス関数-ローレンツ関数の割合)は、いずれのピークについてもガウス関数100%として、フィッティングを行った。
【0096】
【表1】
【0097】
(2,200cm-1~1,500cm-1
波数2,120cm-1における吸光度を用いる1点補正により、波数2,200cm-1から波数1,500cm-1までの波数領域のベースラインを設定した。そして、この波数領域におけるスペクトルについて、表2に示す3ピークを想定して、フィッティングを行った。このとき、ピーク形状関数(ガウス関数-ローレンツ関数の割合)は、いずれのピークについてもガウス関数100%として、フィッティングを行った。
【0098】
【表2】
【0099】
その結果、実施例1のCu-CHA型ゼオライトの、比(AP1/AP0)の値は0.0551であり、比(AP2/AP0)の値は0.197であった。なお、上述のとおり、比(AP1/AP0)の値は、ゼオライトの外表面欠陥の多寡を示す指標であり、この値が少ないほど、外表面欠陥が少ないと考えられる。また、比(AP2/AP0)の値は、ゼオライトの内表面欠陥の多寡を示す指標であり、この値が少ないほど、内表面欠陥が少ないと考えられる。
【0100】
〔耐久後のSCR性能の評価〕
前述の工程で得られた実施例1のCu-CHA型ゼオライト100質量部、バインダーゾル50質量部、及び純水を混合して、触媒コート層形成用塗工液を調製した。ハニカム基材上に、得られた触媒コート層形成用塗工液を塗布し、次いで、加熱処理を行って、基材上に、コート量120g/Lの触媒コート層を形成することにより、実施例1の排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0101】
得られた排ガス浄化触媒装置に、水分濃度10体積%の空気を流通させながら、700℃にて50時間加熱することにより、水熱耐久処理を行った。
【0102】
水熱耐久処理後の排ガス浄化触媒装置に、濃度既知のNO及びNHを含むモデルガスを導入して流通させ、排出ガス中のNO濃度を測定し、以下の数式によって算出されるNO浄化率を求め、これを耐久後のSCR性能の指標とした。
NO浄化率(%)={(導入ガス中のNO濃度-排出ガス中のNO濃度)/導入ガス中のNO濃度}×100
【0103】
モデルガスの導入条件は、以下のとおりに設定した:
モデルガス導入温度:200℃
モデルガスの組成:NO:500ppm、NH:500ppm、O:10%、HO:5%、及びNバランス
モデルガス導入時の空間速度:60,000hr-1
【0104】
実施例1の排ガス浄化触媒装置について、上記の条件で測定された、水熱耐久処理後のSCR性能(NOx浄化率)を表3に示す。
【0105】
《実施例2》
調合スラリーに含まれるアルカリ金属水酸化物のモル量を、当該スラリーに含まれるSi1モルに対して、0.350モルにしたこと以外は、実施例1と同様の方法でCu-CHA型ゼオライトを調製した。また、実施例1と同様の分析を行った。その結果を表3に示す。
【0106】
《実施例3》
水熱処理温度を165℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法でCu-CHA型ゼオライトを調製した。また、実施例1と同様の分析を行った。その結果を表3に示す。
【0107】
《比較例1》
水熱処理温度を120℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法でCHA型ゼオライトを調製した。得られたCHA型ゼオライトについて実施例1と同様の方法でX線回折測定を行い、CHA骨格の有無及び異相の有無を確認したところ、この方法で調製されたCHA型ゼオライトには異相が含まれていたため、その後のCuイオン交換工程を行わなかった。また、SAR測定、FT-IR測定及び耐久後のSCR性能の評価も行わなかった。
【0108】
《比較例2》
水熱処理温度を200℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法でCHA型ゼオライトを調製した。得られたCHA型ゼオライトについて実施例1と同様の方法でX線回折測定を行い、CHA骨格の有無及び異相の有無を確認したところ、この方法で調製されたCHA型ゼオライトには異相が含まれていたため、その後のCuイオン交換工程を行わなかった。また、SAR測定、FT-IR測定及び耐久後のSCR性能の評価も行わなかった。
【0109】
《比較例3》
調合スラリーに含まれるアルカリ金属水酸化物のモル量を、当該スラリーに含まれるSi1モルに対して、0.310モルにしたこと以外は、実施例1と同様の方法でCHA型ゼオライトを調製した。得られたCHA型ゼオライトについて実施例1と同様の方法でX線回折測定を行い、CHA骨格の有無及び異相の有無を確認したところ、この方法で調製されたCHA型ゼオライトには異相が含まれていたため、その後のCuイオン交換工程を行わなかった。また、SAR測定、FT-IR測定及び耐久後のSCR性能の評価も行わなかった。
【0110】
《比較例4》
種結晶の添加量を15.0gにして、原料スラリーのSARを8.1にし、当該スラリーに含まれるSi1モルに対して、アルカリ金属水酸化物のモル量が0.40となるように水酸化カリウムを添加し、一方、粉砕スラリーにはアルカリ金属水酸化物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でCu-CHA型ゼオライトを製造した。また、実施例1と同様の分析を行った。その結果を表3に示す。
【0111】
《比較例5》
比較例5では、OSDA(Organic-Structure-Directing Agent、有機構造規定剤)を用いて製造されたCHA型ゼオライトを用い、実施例1と同様に、Cuイオン交換を行ってCu-CHA型ゼオライトを合成し、実施例1と同様の分析を行った。その結果を表3に示す。
【0112】
《参考例》
実施例1で用いた種結晶について、実施例1と同様の方法で、X線回折測定、SAR測定、FT-IR測定及び原子吸光測定を行った。その結果を表3に示す。
【0113】
また、耐久後のSCR性能の評価におけるNO浄化率と、Cu-CHA型ゼオライトの比(AP1/AP0)の値との関係を示すグラフを、図2に示す。更に、耐久後のSCR性能の評価におけるNO浄化率と、Cu-CHA型ゼオライトの比(AP2/AP0)の値との関係を示すグラフを、図3に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
表3に見られるとおり、ゼオライトの結晶化温度が120℃の比較例1では、Cu-CHA型ゼオライトと共にFAU型ゼオライトが異相として生成した。また、結晶化温度が200℃の比較例2では、Cu-CHA型ゼオライトと共に異相(サニディン)が生成した。また、KOHの添加量を、原料混合物スラリーに含まれるゼオライト中のSi原子の合計1モルに対して0.310モルとした比較例3では、Cu-CHA型ゼオライトと共にFAU型ゼオライトが異相として生成した。
【0116】
KOHの添加時期が、ビーズミル粉砕の前である、比較例4では、異相を含まないCu-CHA型ゼオライトが得られたが、そのFT-IR測定における比(AP1/AP0)の値は0.0714と高く、多数の外表面欠陥を含んでいることが示唆された。
【0117】
これらに対して、実施例1~3では、比(AP1/AP0)の値が0.063以下であり、外表面欠陥が低減された、Cu-CHA型ゼオライトが得られた。これら実施例1~3で得られたCu-CHA型ゼオライトにおける比(AP1/AP0)の値は、OSDAを用いて製造されたCu-CHA型ゼオライト(比較例5)、及び種結晶に用いたCHA型ゼオライト(参考)の値よりも低かった。
【0118】
また、表3に見られるとおり、多数の外表面欠陥を含む、比較例4及び比較例5のCu-CHA型ゼオライトは、耐久後のSCR性能の評価におけるNO浄化率が低かったのに対して、実施例1~3で得られたCu-CHA型ゼオライトを用いて製造された本発明のCu-CHA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒装置は、高いNO浄化率を示した。
【0119】
図2を参照すると、耐久後のSCR性能の評価におけるNO浄化率と、Cu-CHA型ゼオライトの比(AP1/AP0)の値との間には、高い相関が見られることが理解される。一方、図3に見られるとおり、耐久後のSCR性能と、ゼオライトの内表面欠陥の指標と考えられる比(AP2/AP0)の値との間には、有意の相関は見られなかった。
【符号の説明】
【0120】
1 アンモニア源
2 排ガス
10 SCR装置
11 cc-SCR装置
12 SCR-フィルター装置
20 DOC装置
30 DPF装置
40 後段DOC装置
100 SCRシステム
110 cc-SCRシステム
120 SCR-フィルターシステム
図1
図2
図3