IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エレクトリシテ・ドゥ・フランスの特許一覧 ▶ ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエの特許一覧 ▶ センター ナショナル ド ラ ルシェルシュ サイエンティフィークの特許一覧

特許7050870集積化された改質を伴うプロトン伝導性電気化学デバイス及びそれに関連する製造方法
<>
  • 特許-集積化された改質を伴うプロトン伝導性電気化学デバイス及びそれに関連する製造方法 図1
  • 特許-集積化された改質を伴うプロトン伝導性電気化学デバイス及びそれに関連する製造方法 図2
  • 特許-集積化された改質を伴うプロトン伝導性電気化学デバイス及びそれに関連する製造方法 図3
  • 特許-集積化された改質を伴うプロトン伝導性電気化学デバイス及びそれに関連する製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】集積化された改質を伴うプロトン伝導性電気化学デバイス及びそれに関連する製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20220401BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20220401BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20220401BHJP
   C25B 1/27 20210101ALI20220401BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20220401BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20220401BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220401BHJP
   C25B 9/21 20210101ALI20220401BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20220401BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20220401BHJP
   C25B 13/07 20210101ALI20220401BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220401BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20220401BHJP
【FI】
H01M8/1004
C22C1/08 Z
C25B1/04
C25B1/27
C25B3/07
C25B3/26
C25B9/00 A
C25B9/00 G
C25B9/21
C25B9/23
C25B13/04 301
C25B13/07
H01M8/10 101
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020152812
(22)【出願日】2020-09-11
(62)【分割の表示】P 2018531401の分割
【原出願日】2016-12-16
(65)【公開番号】P2021005561
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】1562711
(32)【優先日】2015-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】504462489
【氏名又は名称】エレクトリシテ・ドゥ・フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マチュー・マロニー
(72)【発明者】
【氏名】ジル・タイヤール
(72)【発明者】
【氏名】ジャック・ロジエール
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・ダイイ
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/037445(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0193360(US,A1)
【文献】特開2013-209685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1004
H01M 8/10
C22C 1/08
H01M 8/12
C25B 1/00
C25B 9/00
C25B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-水(9)が供給され、前記水(9)を酸化し、プロトン(12)、電子(11)及び酸素(8)を生成することができる正極(2)と、
-窒素(13)が供給され、前記正極(2)で生成されたプロトン(12)及び電子(11)と反応する前記窒素(13)をアンモニア(14)に還元することができる負極(1)と、
-前記正極(2)と前記負極(1)との間の空間を占有し、前記正極と前記負極との間でプロトンの伝導を可能にするプロトン伝導性電解質(3)と、
-プロトン(12)及び電子(11)を拡散することができ、前記プロトン伝導性電解質(3)の汚染物(7)、窒素(13)及びアンモニア(14)に対する保護障壁を形成する層(4)であって、前記層が、一方では前記プロトン伝導性電解質(3)と接触し、他方では前記負極と接触し、プロトン(12)及び電子(11)を拡散することができる前記層(4)が、ABB’O型の材料及びABO型の材料から選択される材料を含み、Aが、周期律表の第II族から選択される元素であり、Bが、セリウム及び周期律表のIVB族から選択される元素であり、B’が、ランタノイド又は周期律表のVIIIB族から選択される元素であり、前記層(4)が、1μmから10μmの厚さ及び1%から10%の気孔率を有する層(4)と、
-前記負極(1)と接触するマクロ多孔性支持体(5)であって、汚染物(7)、窒素(13)及びアンモニア(14)を拡散することができ、100μmから2000μmの厚さを有する、マクロ多孔性支持体(5)と、
を含む、アンモニア反応器として使用されるプロトン伝導性電気化学デバイス。
【請求項2】
前記プロトン伝導性電解質が、プロトン交換ポリマー膜である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記プロトン伝導性電解質が、プロトンを拡散することができる固体電解質である、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
プロトン(12)及び電子(11)を拡散することができる前記層(4)の材料が、単相セラミックである、請求項1から3の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
プロトン(12)及び電子(11)を拡散することができる前記層(4)の材料が、多相材料である、請求項1から3の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
プロトン(12)及び電子(11)を拡散することができる前記層(4)の材料が、セラミック-セラミック複合材料又はセラミック-金属複合材料から選択される二相材料である、請求項1から3の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
-水(9)が供給され、前記水(9)を酸化し、プロトン(12)、電子(11)及び酸素(8)を生成することができる正極(2)を製造するステップと、
-窒素(13)が供給され、前記正極(2)で生成されたプロトン(12)及び電子(11)と反応する前記窒素(13)をアンモニア(14)に還元することができる負極(1)を製造するステップと、
-前記正極(2)と前記負極(1)との間の空間を占有し、前記正極と前記負極との間でプロトンの伝導を可能にするプロトン伝導性電解質(3)を製造するステップと、
-プロトン(12)及び電子(11)を拡散することができ、前記プロトン伝導性電解質(3)の汚染物(7)、窒素(13)及びアンモニア(14)に対する保護障壁を形成する層(4)を製造するステップであって、前記層が、一方では前記プロトン伝導性電解質(3)と接触し、他方では前記負極と接触し、プロトン(12)及び電子(11)を拡散することができる前記層(4)が、ABB’O型の材料及びABO型の材料から選択される材料を含み、Aが、周期律表の第II族から選択される元素であり、Bが、セリウム及び周期律表のIVB族から選択される元素であり、B’が、ランタノイド又は周期律表のVIIIB族から選択される元素であり、前記層(4)が、1μmから10μmの厚さ及び1%から10%の気孔率を有する、層(4)を製造するステップと、
-前記負極(1)と接触するマクロ多孔性支持体(5)を製造するステップであって、汚染物(7)、窒素(13)及びアンモニア(14)を拡散することができ、100μmから2000μmの厚さを有する、マクロ多孔性支持体(5)を製造するステップと、
を含む、アンモニア反応器として使用されるプロトン伝導性電気化学デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池(「プロトン性電解質燃料電池」を意味するPEFCと称される)等のプロトン伝導性電気化学デバイスの分野に関連し、より詳細には、「プロトン性セラミック燃料電池」の分野に関連する。本発明はまた、アンモニアシンセサイザー、電解槽又は電気還元装置のような類似の電気化学デバイスに応用することができる。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導体を使用する電気化学デバイスは、様々な形態であり得る。一般に、これらのデバイスは、酸化種を還元し、還元種を酸化するための、又は電気エネルギーの付加を用いた化学反応を介して還元種及び酸化種(電解モードでの使用)を生成するための電圧(燃料電池モードでの使用)を発生するために使用される。還元種及び酸化種は、その機能を確実にするためにデバイスに供給する。これらのデバイスは、一般的には、多孔質の正極(燃料電池の場合はカソード)、多孔質であってもよい負極(燃料電池の場合はアノード)、及び2つの電極の間に配置されたプロトン伝導性電解質で構成される。このプロセスは、電子を負電荷キャリアとして、プロトンを正電荷キャリアとして含む。
【0003】
プロトン交換燃料電池(又はPEFC)は、そのような電気化学デバイスの一例である。PEFCでは、負極上の還元種の酸化と、正極上の酸化種の還元とによって、電圧及び熱が生成される。二水素-二酸素燃料電池の場合、プロセスに関与する還元種及び酸化種は、それぞれ二水素及び二酸素である。このようなプロセス中に生成されたプロトンの移動は、プロトン伝導体を介して起こる。電極上の還元種及び酸化種を消費する化学反応は、電気エネルギー及び熱の付加によって燃料を生成するために逆転され得る。
【0004】
燃料電池は、他のエネルギー生産方式の代替又は補完のための有望な技術を表す。最初の出現以来、幾つかの改良が行われてきたこれらのセルは、動作温度や電解液の性質などの幾つかの基準に従って幾つかのカテゴリーに分類できる。
【0005】
その中で、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)は、一般に、機能するためには液体の水が必要であり、従って、典型的に100℃以下の温度で作動する。2つの電極を分離しているプロトン伝導体は、プロトン伝導性水和有機ポリマー材料からなり、その導電率は、水和の程度に関係する。これらのセルの電気的効率は、一般的に入力時の燃料の品質に応じて30%から50%である。
【0006】
2-アニオン導電性固体酸化物電池(又は「固体酸化物型燃料電池」の略を表すSOFC)は、別のカテゴリーを形成する。SOFCは約50%から60%の良好な電気効率を持ち、通常750℃から1000℃の温度範囲で機能する。この電池は、正極と負極との間に、O2-アニオン伝導性固体電解質を含む。このセルで使用される高温のために、一般にセラミック部品の使用に基づいており、これは製造コストが高い。
【0007】
固体酸化物電池の中には、プロトン伝導性セラミック固体電解質を用いた特に興味深い種類の電池が存在する(これらの燃料電池は、「プロトン性セラミック燃料電池」を表すPCFCとも称される)。PCFCセルは、約400℃から700℃の中間温度で機能する。これらの温度は、特に、従来技術のSOFC燃料電池のセラミック材料よりも安価な金属材料の使用を可能にする。
【0008】
欧州特許第2270914号明細書は、特にPCFCタイプのセラミックに基づくプロトン交換燃料電池PEFCの例を提案している。
【0009】
燃料電池とは別に、他のプロトン伝導性電気化学デバイスも同様のアーキテクチャと動作原理に基づく。酸化種及び還元種の製造には、電気還元デバイスが必要であり、又は、電気と熱の付加による酸化還元反応を逆転させることにより、電解槽としての燃料電池と同様のデバイスを使用することができる。他の化学反応は、例えば、アンモニアを合成するための窒素のような他の種を含むことができる。
【0010】
その強力な可能性にもかかわらず、プロトン伝導性電気化学デバイスは、そのエネルギー効率を制限する欠点を有する。実際、プロトン性電解質伝導体(ポリマー、セラミック又は他の固体要素膜)は、還元種及び酸化種をデバイスに供給するために使用される燃料の組成の一部を形成する不純物又は特定のガスの存在を一般に許容しないことが判明している。これらの不純物及びガスは、プロトン伝導体の汚染物質であり、プロトン伝導体を損傷し、電気化学デバイスの寿命を低下させる。燃料中で現在発生しているプロトン伝導体に有害なガスの中には、二酸化炭素COと硫化水素HSがある。これらのガスは、一般に、例えば、天然ガス、アルコール又はバイオガスのような炭化水素タイプの組成物中に存在する。
【0011】
この欠点を改善し、プロトン伝導性電解質を用いて電気化学デバイスを保護するために、デバイスの上流で炭化水素燃料を改質するステップが典型的に行われる。炭化水素燃料を改質することにより、上記の有害な不純物やガスを分離することが可能になる。このいわゆる「外部」改質ステップは、例えば、気相又は接触部分酸化(CPOX)によって行うことができる。それは、上流の捕捉システム、例えば活性炭床又は亜鉛ベースの吸収剤の使用を伴い得るか、又はいくつかのステップを伴うフィルタプロセスを含む。燃料電池のようなプロトン伝導性の電気化学デバイスを保存するために必要又は必須であると判断される改質は、改質器と電気化学デバイスという2つの結合ユニットを含む複雑なアーキテクチャをもたらす。外部改質装置を使用することにより、電気化学デバイスの人間工学的でなくかつ高価でなくなり、全体の効率も低下する。これは、プロトン性電気化学デバイスの機能に十分な量であると判断される還元種を生成するためには、効率が100%未満である改質装置の存在が、改質器の効率に関する損失を補償するために、過剰なバイオガスを供給することを伴うからである。
【0012】
この効率を高め、システムを単純化し、そのサイズとコストを削減する手段が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許第2270914号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これを達成するために、想定される解決策の1つは、電気化学デバイスの負電極を汚染物質に対してより耐性にすることであり、この電極は、最初に水素ベースの燃料にさらされる。この解決策は、改質反応(HS、CO、コーキング現象)の残留物に耐えることができる、改質触媒と称される触媒材料からなる負電極を提供する。しかしながら、現在の触媒材料、例えばPEMFC中のRu又はSOFC及びPCFC中のNiは一般に、生成するのが高価であり、限定された電気的性能と、内部改質反応の残留物に対するデバイスの限界許容値をもたらすことが明らかである。
【0015】
外部改質器を使用する現在のシステムが電気化学デバイスの上流に位置する、より単純な設計のプロトン伝導体を使用する電気化学デバイスが求められている。プロトン伝導性電気化学デバイス、特にそのプロトン伝導体の、デバイスに供給される燃料中に存在する汚染物質に対する感度によってもたらされる欠点を克服する手段もまた求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、
-酸化種を還元することができる正極と、
-還元種を酸化することができる負極と、
-前記多孔性の正極及び前記負極と接触するプロトン伝導性電解質と、
を備えるプロトン伝導性電気化学デバイスを提案する。
【0017】
前記電気化学デバイスはさらに、プロトン及び電子を拡散することができ、前記プロトン伝導性電解質の汚染物に対する保護障壁を形成する層を備え、前記層は、一方で前記プロトン伝導性電解質に、他方で前記負極に接触する。
【0018】
上記に開示された本発明は、実際にプロトン伝導性電気化学デバイスに、プロトン伝導性電解質の汚染物質に対する保護障壁の役割を果たす要素を組み込むことを可能にするが、デバイスの機能に悪影響を及ぼすことはない。従って、本発明は、電子及びプロトンを生成する燃料の内部改質及び酸化反応の両方の起源である負極とプロトン伝導性電解質との間に、混合特性を有する層を介在させることを提案する。この層の電気伝導とプロトン伝導の混合特性は、デバイスの機能に関与する電子及びプロトンの遮断を伴わずに、選択的かつ優先的に専ら伝達を保証することを可能にする。プロトン伝導体に有害である汚染物質を形成する電子及びプロトン以外の化合物は、この層によってブロックされる。従って、この層は、その正常な機能を妨害することなく、電気化学デバイスに実際に組み込まれたプロトン及び電子フィルタを構成する。
【0019】
負極とプロトン伝導性電解質との間のこの層の統合のために、本発明は、電気化学デバイスと外部改質器とを混合する嵩張るシステムを不要にし、化学的安定性を改善し、従って燃料型多孔質電極に改質触媒を用いたプロトン伝導型電気化学デバイスの全効率を改善する。
【0020】
本発明は、プロトン伝導体用の汚染物質に対する保護障壁を形成するこの層を一体化することにより、CO又はHSのような有害な気体種並びに他のガス状又は非気体状の汚染物質を濾過し、選択的かつ優先的で排他的に、混合伝導層を介したプロトンと電子のみを拡散する。従って、この層は、負極で使用される流入する気体燃料に含まれる汚染物質だけでなく、電子及びプロトン以外のこの負極で生成される生成物に対しても、プロトン伝導性電解質を保護する。
【0021】
一実施形態によれば、プロトン及び電子を拡散することができる前記層は、1μmから10μmの厚さを有する。
【0022】
この厚さの範囲は、プロトン伝導性電気化学デバイス、特に燃料電池の特異性に適した妥協点を構成することが観察されている。これは、混合特性を有する層の厚さによって、汚染物質に対する拡散速度及び不透過性が異なって変化するためである。すなわち、層の厚さが減少すると、プロトン及び電子の拡散速度が増加し、層の厚さが増加すると、汚染物質に対する不透過性の影響は強化される。さらに、電気化学デバイス、特に燃料電池の場合に追加の層を追加することは、複数のセルのアセンブリからなる製品の全体的な寸法を増加させることに寄与し得る。この層の1μmから10μmの間の厚さの範囲、より具体的には2μmから5μmの厚さは、デバイスを嵩張らせずに、プロトン伝導性電解質を用いて電気化学デバイスにおいて最適な効率を得ることを可能にする。
【0023】
一実施形態によれば、プロトン及び電子を拡散することができる前記層は、1体積%から10体積%の気孔率を有し得る。
【0024】
汚染物質に対する障壁効果は、層の総容積の1%から10%、より詳細には1%から5%の間の多孔率を単に表す緻密層において最大であることが観察されている。本発明で提案された低多孔性は、選択性の現象を助け、他の化合物の通過を妨げながら、プロトンと電子のみを優先的に通過させることを可能にする。
【0025】
他の実施形態によれば、プロトン及び電子を拡散することができる前記層はが、ABB’O型の材料を含み得、Aは、周期律表の第II族から選択される元素であり、Bは、セリウム及び周期律表のIVB族から選択される元素であり、B’は、ランタノイド又は周期律表のVIIIB族から選択される元素である。
【0026】
一実施形態によれば、プロトン及び電子を拡散することができる前記層は、ABO型の材料を含み得、Aは、周期律表の第II族から選択される元素であり、Bは、セリウム及び周期律表のIVB族から選択される元素である。
【0027】
ペロブスカイト族から誘導された電解質を含むこれらの材料は、400℃から700℃、より詳細には550℃を超えるPCFCプロトン伝導性セラミック燃料電池で典型的に遭遇する動作温度に適している。それらはさらに、プロトンと電子の優先的に排他的な伝導の必要な混合特性を有する一方で、汚染物質に対する障壁効果を得ることを可能にする適切な結晶構造を有する。さらに、これらの化合物は、プロトン伝導体と負極との間に存在するような還元性雰囲気下で化学的に安定である。
【0028】
一実施形態によれば、前記デバイスは、前記負極と接触するマクロ多孔性支持体をさらに備え得、前記マクロ多孔性支持体は、気体種を拡散することができる。
【0029】
一実施形態によれば、前記プロトン伝導体は、プロトン交換ポリマー膜であり得る。
【0030】
このようにして形成されたデバイスは、PEMFCタイプを含むPFFC燃料電池である。
【0031】
他の実施形態によれば、前記プロトン伝導体は、プロトンを拡散することができる固体セラミック電解質であり得る。
【0032】
このようにして形成されたデバイスは、PCFC燃料電池、又は、より一般的な用語でSOFCプロトン伝導性燃料電池である。
【0033】
一実施形態によれば、プロトン及び電子を拡散することができる前記層の材料は、単相セラミックである。
【0034】
このような材料では、この層のペロブスカイト構造は、単一のセラミック相である。
【0035】
一実施形態によれば、プロトン及び電子を拡散することができる前記層の材料は、多相材料である。
【0036】
このような材料の配置では、複合材料又はセラミック領域及び1つ又は複数の金属領域を形成する複数のセラミック領域を見つけることが可能である。
【0037】
一実施形態によれば、プロトン及び電子を拡散することができる前記層(4)の材料は、セラミック-セラミック複合材料又はセラミック-金属複合材料から選択される二相材料である。
【0038】
このような材料の配置では、複合材料、又は、金属と組み合わされた単相セラミック領域を形成する2つのセラミック領域を見つけることが可能である。
【0039】
一実施形態によれば、前記デバイスはまた、二水素-二酸素燃料電池として動作するように構成され得る、前記酸化種は、二酸素であり、前記還元種は、二水素である。
【0040】
二水素-二酸素燃料電池としての機能は、負極によって酸化され得る水素源、例えば、バイオアルコール又はメタンを含む任意の種類の炭素質ガスを使用し得る。空気は、多孔性正極の二酸素源となる。
【0041】
一実施形態によれば、前記デバイスはまた、アンモニア反応器として動作するように構成され得る。
【0042】
アンモニア反応器として機能させることで、窒素を負極のプロトンと反応させることも可能である。
【0043】
一実施形態によれば、前記デバイスは、電解槽として動作するようにも構成され得る。
【0044】
電解槽として使用される燃料電池は、電圧又は電流を加えることによって、還元種及び酸化種を生成する。水電解槽の場合、生成される種は、アノード上で二水素であり、カソード上で二酸素である。
【0045】
一実施形態によれば、前記デバイスはまた、電気還元デバイスとして動作することができるように構成され得る。
【0046】
電気還元装置は、例えば、アルコール又はメタンのタイプの燃料を生成することを可能にする。
【0047】
本発明はまた、以上に開示したプロトン伝導性電気化学デバイスの製造方法に関する。
この方法は、
-酸化種を還元することができる多孔性の正極を製造するステップと、
-還元種を酸化することができる負極を製造するステップと、
-前記正極及び前記負極に接触するプロトン伝導体を製造するステップと、
を備える。
【0048】
この方法はさらに、プロトン及び電子を拡散することができる層の製造を含み、前記プロトン伝導体の汚染物に対する保護障壁を形成し、前記層は、一方で前記プロトン伝導体に、他方で前記負極に接触する。
【0049】
このような方法は、プロトン伝導体電気化学デバイスを製造するための標準的な方法を特に変更する必要がないという利点を有する。プロトン伝導体と負極との間に、本発明の主題である層を介在させれば十分である。従って、この方法は、既存の生産ラインに容易に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
本発明の主題である方法は、限定的ではなく例証的に提示された以下の実施形態の説明を読むことにより、また以下の図面を観察することにより、明らかになるだろう。
【0051】
図1】本発明の一実施形態による燃料電池の概略図である。
図2】本発明の一実施形態による電解槽の概略図である。
図3】本発明の一実施形態によるアンモニア反応器の概略図である。
図4】本発明の一実施形態による電気還元装置の概略図である。
【0052】
明確にするために、これらの図に示された様々な要素の寸法は、実際の寸法に必ずしも比例しない。図面において、同一の参照符号は同一の要素に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は、プロトン伝導性電気化学デバイスに電子伝導特性とプロトン伝導特性が混在した層を集積することを提案する。このように本発明は、電気化学デバイスの機能に関与する電荷キャリア(プロトン及び電子)のみを優先的に通過させる選択的なフィルタリングを行うことを可能にするが、プロトン伝導体に有害である汚染物質を構成する可能性のある他の種の通路をブロックする。従って、本発明は、デバイスの機能を妨害することなく、電気化学デバイスのプロトン伝導体、特にそのプロトン伝導体を汚染物質から保護する。従って、プロトン伝導正電気化学デバイスに組み込まれた層は、プロトン及び電子フィルタとして作用し、プロトン伝導性電解質を、電気化学デバイスの水素源の気体燃料(例えば、バイオガス)から放出される内部改質反応の残留物に対して保護する。
【0054】
図1から図4は、本発明の教示から利益を得ることができる電気化学デバイスの機能を概略的に示す。他のタイプの電気化学デバイス、特に他の化学反応によって機能する燃料電池は、汚染物質をブロックしながら、プロトン伝導性電解質と負極との間に、プロトン及び電子を伝導することができる混合層を付加することによって恩恵を受けることができる。
【0055】
図1に示すように、本発明によるプロトン伝導性電気化学デバイスの例は、二水素-二酸素燃料電池10の形態であってもよい。
【0056】
このような燃料電池は、水和した有機膜の形態のプロトン伝導体3を有するPEMFCセルであってもよい。それはまた、プロトン伝導性電解質3が固体材料の形態、例えばセラミックからなる、SOFCタイプのセル、より具体的にはPCFCタイプのセルであってもよい。
【0057】
図1に示すように、燃料電池は、アノードを形成する負極1を備える。このアノードは、多孔質構造として示されている。負極は、特に、例えばニッケル及び電解質材料を含むセラミック-金属(サーメット)合金タイプの材料から製造されたメソポーラス水素電極層であってもよい。サーメットタイプの負極は、典型的には約50から100μmの厚さを有する。アノードは、酸化による水素のプロトンと電子への解離反応のシートである。このサーメット負極1は、伝導特性が混在しており、電子と陽子の両方に導く。負極1は、燃料電池を電解槽として使用するときに二水素を生成するために、電子とプロトンの再結合のシートであってもよい。それはまた、入ってくる燃料の内部改質のシートでもあり得る。
【0058】
負極1は、多孔質支持体5を形成する層と接触し、アノードに到達する燃料及びガス並びにアノードから到着する種(酸化反応、ガス、余剰燃料、妨害された汚染物質の残留物)の拡散を可能にする。多孔質支持体5は、典型的には、ニッケル又はサーメットのような金属からなり、一般に100μmから2000μmの厚さを有する。
【0059】
図1の燃料電池は、カソードを形成する多孔質正極2をさらに備える。この正極2は、電子e及びプロトンHの両方を伝導することができる混合伝導層の形態であってもよい。図1に示すように、燃料電池の正極は、空気からの酸素8の還元反応のシートである。酸素Oは、プロトン12及び電子11と再結合し、水9を生成する。
【0060】
アノードとカソードとの間の空間は、プロトン伝導性電解質3によって占められている。上記のように、この導体は、PEMFCセルの場合には水和有機膜でも、PCFCの場合にはセラミック固体酸化物でもよい。プロトン伝導性電解質3は、一般にプロトンを排他的に伝導するが、電子11を伝導しない緻密層からなる。電子11は、アノードとカソードとの間に間接的な電気的接続を提供する外部電気回路によって供給され、回収され得る。プロトン伝導体3の厚さは、典型的には5μmから50μmである。
【0061】
プロトン伝導性電気化学デバイスの性能向上への本発明の寄与の1つは、プロトン伝導体3と負極1との間に介在する層4の使用にある。この層4は、典型的にはプロトン12と電子11の両方を伝導する混合層である。簡潔にするために、英語の用語に従って「混合イオンおよび電子伝導体」を表す用語MIEC-Hによって、これらの複数の特性が参照される。
【0062】
この層4は、燃料電池10に供給される燃料からプロトン伝導性電解質3を保護するために、プロトン伝導性電極3と負極1との間に配置するのが有利である。
【0063】
図1は、外部からの燃料の負極1方向への供給を概略的に示す。図1に示す燃料は、二酸化炭素CO、硫化水素HS又は一酸化炭素CO等の他の汚染物質等の汚染物質7と同様に、Hと表示される二水素源6を含む。典型的には、燃料電池の供給に使用できる二水素源には、バイオガス、バイオアルコール、メタンが含まれる。これらの燃料は、一般に、二水素源以外に、改質ガスと例えばCO、CO及びN等の化合物との混合物と、プロトン伝導性電解質3に不可逆的である汚染を構成する全ての種類の炭素誘導体とを含む。二水素以外の元素はすべて、燃料電池10のプロトン伝導性電解質3を不可逆的に損傷する可能性がある汚染物質7の供給源を構成し得る。しかしながら、層4の存在は、これらの汚染物質がプロトン伝導性電解質3に到達するのを防止する保護障壁を形成することを可能にするが、いずれの種類の燃料も、プロトンと電子を生成する酸化反応のシートである負極1に到達することを避けない。
【0064】
層4は、電子11及びプロトン12に対して最適な伝導を提供しながら、汚染物質7に対する障壁の役割を果たすのに十分な密度を有することが有利である。層4の密度が増加すると、汚染物質に対する障壁効果が向上する。さらに、層4の密度が増加すると、層4の電子及びプロトンの拡散動力学の特性が増加する。この理由から、層4の密度は、これらの2つの機能のための最適な機能を同時に確保するために、有利には90体積%より大きくてもよい。そのような密度は、層4の10体積%未満の気孔率に対応する。
【0065】
同様に、層4の厚さが増加すると、層4のプロトン及び電子の拡散速度は減少するが、層4の厚さが増加すると、この同じ層4の汚染物質に対する障壁効果が増加する。層4が1μmから10μmの間の厚さを有するとき、層4に対して求められる2つの機能の最適な性能が達成される。
【0066】
さらに、層4は、電子及びプロトン伝導に適した結晶構造を有する材料から製造され得、他の種が通過することを防止する。このようにして、層4は、電子11及びプロトン12に優先的に選択性の特性を有する。この性質を有する化合物の中でも、ABO型の材料によって表され得るペロブスカイト族に由来する化合物が挙げられ、Aは、周期律表のII族から選択される元素であり、Bは、セリウム又は周期律表のIVB族から選択される元素である。
【0067】
より詳細には、AがバリウムBa又はストロンチウムSrから選択され、BがジルコニウムZr又はセリウムCeから選択されるペロブスカイト類である。
【0068】
あるいは、層4をABB’O型の材料で製造することも可能であり、ここで、Aは、周期律表のII族から選択される元素であり、Bは、セリウム又は周期律表のIVB族から選択される元素であり、B’は、ランタノイド又は周期律表のVIIIB族から選択される元素である。
【0069】
より詳細には、AがバリウムBa又はストロンチウムSrから選択され、BがジルコニウムZr又はセリウムCeから選択され、B’がプラセオジムPr、バナジウムV、コバルトCo又はネオジムNdから選択されるタイプのABB’Oの材料である。
【0070】
上記に提示された2つのカテゴリーの材料は、還元雰囲気及び水蒸気中で400℃から700℃、より具体的には550℃を超える温度でPCFCタイプの燃料電池で典型的に遭遇する温度に耐えるという追加の利点を有する。従って、これらの化合物は、それを備えたプロトン伝導性電気化学デバイスに大きな機械的及び物理化学的安定性を提供する。
【0071】
層4は、全てのタイプのPEFCデバイス、すなわち250℃以下の用途に一般的に使用されるポリマー電解質を含むもの、400℃以上の用途に典型的に使用されるセラミック材料を含むもの、250℃以上、400℃以下の中間温度で異なる材料を含むもので使用され得る。中温で使用されるプロトン伝導性電解質の中には、例えばCsHPOがある。
【0072】
層4は、プロトン伝導性電解質3と負極1との間に介在し、自己支持性ではなく、障壁効果や混合伝導に要求される特性に適した微細な厚さを有することができる。この場合、MIEC-Hの層4は、ペロブスカイト族由来の材料の厚い膜に匹敵しない。
【0073】
層4が、単一のタイプの単相材料(その後、単一のセラミック相を形成する)、又は複数の異なる化合物の混合物、例えば2相又は多相で構成されてもよく、セラミック-セラミック複合材料又はセラミック-金属複合材料の形態であり得ることに留意すべきである。
【0074】
図1に示すように、アノードとカソードとの間の接続を提供する電気回路は、多孔質正極2を層4に接続する。ただし、この電気回路は、アノードをカソードに直接接続してもよい。
【0075】
図1に示すように、二酸素と二水素からなる試薬の消費反応は、これらの同じ燃料を水から製造するために、エネルギーと熱の添加によって逆転させることもできる。この場合、図2に示すように、燃料電池と同様の電気化学デバイスが電解槽20として機能する。
【0076】
図2の電気化学デバイスが活性化されると、蒸気状態で多孔質正極2上に到達する水9が加水分解されて、プロトン12、電子11及び二酸素8が生成される。反応して二水素6を生成するために、プロトン12と電子11が負極1に到達する。図2の電解槽20はまた、マクロ多孔質支持体5及び負極1を通過し得る任意の汚染物質からプロトン伝導性電解質3を保護する。
【0077】
本発明の別の実施例を図3に示す。この図には、アンモニア反応器30の形態で配置されたプロトン伝導性電気化学デバイスが示されている。このアンモニアの合成は、正極2に水9を供給してプロトン12と電子11並びに二酸素8を生成させることにより行われる。プロトンと電子は次に、入ってくる窒素13と組み合わせて負極1上で反応し、アンモニア14を生成する。アンモニア反応器30は、MIEC-Hの層4を通過できないアンモニア14からプロトン伝導性電解質3を保護する。
【0078】
本発明から利益を得ることができるプロトン伝導性電気化学デバイスの別の例を図4に示す。この図では、特にメタノールCHOHを製造するために、電気還元装置40が使用されている。この構成では、正極2は、水9から二酸素8、電子11及びプロトン12を生成する。流入する二酸化炭素は、プロトン12及び電子11と反応して、特に負極1に水9及びメタノール15を生成する。プロトン伝導性電解質3と負極1との間に層4が存在するため、負極1上に流入するCOは、プロトン伝導性電解質3を損傷しない。
【0079】
プロトン伝導性電解質を使用するこれらの様々な電気化学デバイスの例が、例として提供されている。他の還元種及び酸化種を燃料とするデバイスの他の変形例は、負極1とプロトン伝導性電解質3との間に上記の層4を付加することによって付与される利点から利益を得ることができる。
【0080】
上記のプロトン伝導性電気化学デバイスの一般的な構造は、平面層の構造を示唆している。このような構造は構想可能であるが、外部表面が負極1に供給する燃料と接触している間に、中央部分が正極2のための燃料を受け取るための場所として働く管状構造が好ましいかもしれない。
【0081】
また、本発明は、例えば、上記のようなプロトン伝導性電気化学デバイスの製造方法を提案する。この方法は、プロトン伝導性電気化学デバイスを形成するすべての構成要素の製造を含み、さらには、MIEC-Hタイプの層4の製造と、一方でこの層を負極1と接触させ、他方でプロトン伝導性電解質3と接触させる設置を含む。層4の製造は、プロトン伝導性電気化学デバイスの他の構成要素の製造中に行われる。このような大きな柔軟性により、このようなプロトン伝導性電気化学デバイスに層4を加えることは、その製造中における最小限の投資に過ぎない。
【符号の説明】
【0082】
1 負極
2 正極
3 プロトン伝導性電解質
4 層
5 多孔質支持体
6 二水素
7 汚染物質
8 二酸素
9 水
10 燃料電池
11 電子
12 プロトン
13 窒素
14 アンモニア
15 メタノール
20 電解槽
30 アンモニア反応器
40 電気還元デバイス
図1
図2
図3
図4