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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】黄鉄鉱からの金属の回収
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/06 20060101AFI20220401BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
C22B3/06
C22B1/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020529781
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 AU2018050817
(87)【国際公開番号】W WO2019028497
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2020-08-31
(31)【優先権主張番号】2017903136
(32)【優先日】2017-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】520047613
【氏名又は名称】コバルト ブルー ホールディングズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Cobalt Blue Holdings Ltd
【住所又は居所原語表記】Level 2, 66 Hunter Street, Sydney, New South Wales 2000, Australia
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドルー ロバート トン
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第00760624(GB,A)
【文献】国際公開第2014/038236(WO,A1)
【文献】米国特許第02898196(US,A)
【文献】特開2014-205869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄鉄鉱含有材料を処理して該材料から金属、単体硫黄およびFeを回収できるようにする方法であって、
(a) 黄鉄鉱含有材料を熱分解させて、磁硫鉄鉱を含む材料と、別個の単体硫黄材料とを生成する工程と、
(b) 前記(a)からの磁硫鉄鉱を含む材料を第二鉄カチオンを含有する酸性水溶液で浸出させる工程であって、ここで、浸出条件は、第二鉄カチオンが磁硫鉄鉱を酸化させることにより、
前記磁硫鉄鉱を含む材料から前記金属が放出され、前記磁硫鉄鉱中の鉄が酸化されてFeとなり、かつ前記磁硫鉄鉱中の硫黄が酸化されて単体硫黄となる
ように制御されており、ここで、前記単体硫黄は、前記金属とは別個であって前記Feからの分離が可能である形態であるものとする工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記浸出段階(b)に酸素を加えることによりFeを形成し、前記Feを前記単体硫黄固形物と一緒に前記浸出段階(b)から除去する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
浸出段階(b)で、前記磁硫鉄鉱を含む材料を酸性水溶液と混合することにより酸で浸出させ、前記金属を前記溶液中に放出させて、そこから回収する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
浸出段階(b)における溶液が、NaCl、NaBr、CaClおよびCaBrのうちの1種または複数種を含んでいる金属ハロゲン化物溶液を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
金属ハロゲン化物溶液が、溶液1Lあたり1~10モルの範囲の濃度、例えば、1リットルあたりおよそ5モルの濃度を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
浸出段階(b)における溶液のpHを-1~3.5の範囲になるように制御し、Feとしての鉄の沈殿を促進する、請求項3~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
浸出段階(b)における溶液温度を95~220℃の範囲になるように制御する、請求項3~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記酸が酸性ハロゲン化物水溶液を含む場合、浸出段階(b)における前記溶液温度が、95~150℃の範囲になるように制御され、前記酸が酸性硫酸塩水溶液を含む場合、浸出段階(b)における前記溶液温度が、150~220℃の範囲になるように制御される、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記酸が酸性ハロゲン化物水溶液を含む場合、浸出段階(b)における前記溶液温度が、130~140℃の範囲になるように制御され、前記酸が酸性硫酸塩水溶液を含む場合、浸出段階(b)における前記溶液温度が、190~210℃の範囲になるように制御される、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
浸出段階(b)を大気圧で操作するか、または、1~20atmの高圧で操作する、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記Feおよび単体硫黄固形物を浸出段階(b)から回収し、硫黄および酸化鉄の回収段階にそれぞれ送る、請求項2記載の、または請求項2に従属する場合、請求項3~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
浸出段階(b)からの前記溶液を金属回収段階に送り、この金属回収段階で、前記金属を前記溶液から分離し、その後、前記溶液を前記浸出段階(b)に再循環で返送する工程をさらに含む、請求項3記載の、または請求項3に従属する場合、請求項4~10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記溶液を前記浸出段階(b)へと再循環させる前に、前記溶液の酸性度を、酸、例えば塩酸または硫酸を添加することにより回復させる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(a)で生成された単体硫黄を回収し、これを、前記浸出工程(b)で生成された単体硫黄と合する、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
黄鉄鉱鉱物格子の一部を形成する金属を回収する方法を開示する。この方法は、鉱石、精鉱、尾鉱、およびその他のそのような材料または残渣を含む、黄鉄鉱を含む材料および鉱物に適用することができる。この方法は、黄鉄鉱格内に置換されている硫黄、鉄および卑金属または貴金属を個別の使用可能な形態で回収するために使用されてもよい。
【背景技術】
【0002】
黄鉄鉱を処理するための公知の高温冶金法は、二酸化硫黄ガスを生成する酸化焙焼を含むことが一般的である。このガスを販売または処分するために硫酸へと変換し、同時に、残留したか焼体を金属回収のために浸出させることが一般的である。黄鉄鉱の鉄成分は、処分用のか焼体浸出液残渣に送られる。これらの方法には、厳しい環境面のハードルに対応するために多大な費用がかかり、経済的に実施可能になるには、硫酸について整った市場がさらに必要とされる。
【0003】
一般的に、黄鉄鉱を処理するための公知の高温冶金法でも、硫黄成分を酸化させて弱硫酸にし、これを中和し、沈殿した硫酸塩を処分する必要がある。また一般的に、鉄成分は、処分用の浸出液残渣中に失われる。
【0004】
国際公開第2014/038236号には、黄鉄鉱含有金鉱石から金を浸出させる方法が開示されている。国際公開第2014/038236号には、熱分解により人工磁硫鉄鉱へと変換可能な黄鉄鉱が開示されている。そして磁硫鉄鉱は、金を回収するために45~95℃で浸出され、一方で処分用の浸出液残渣が生じる。国際公開第2014/038236号には、黄鉄鉱含有鉱石からの使用可能な形態としての硫黄または鉄の回収のいずれも教示されていない。
【0005】
背景技術での先の参照は、この技術が当業者の一般的な知識の一部であることを認めるものではない。また、先の参照は、本明細書に開示される方法の用途を限定することを意図してもいない。
発明の概要
【0006】
黄鉄鉱含有材料から黄鉄鉱鉱物格子の一部を形成する金属(複数可)(すなわち、格子内に置換されている卑金属および/または貴金属(複数可))を回収する方法を開示する。この方法は、例えば黄鉄鉱コバルト鉱石からコバルトを回収するために用いることができるが、この方法は、この用途に限定されないものと理解すべきである。この方法は、赤鉄鉱(Fe)および硫黄を含むその他の(例えば販売可能な)製品を製造することができる点で有利である。
【0007】
本明細書に開示される方法は、(a)黄鉄鉱含有材料を熱分解させて、磁硫鉄鉱(FeS)を含む材料を生成する工程を含む。黄鉄鉱含有材料の熱分解は、材料中の黄鉄鉱を加熱して、これを以下の一般式:
【化1】
のように磁硫鉄鉱と単体硫黄とに分解する熱分解段階(a)で行うことが可能である。
【0008】
熱分解段階(a)により生成される磁硫鉄鉱は、これが自然界で生じたのではなく、この段階により人工的に生み出された点で、「人工」磁硫鉄鉱とも称することができる。熱分解段階(a)で生成される硫黄ガスが、本方法の(例えば販売可能な)製品の1つとして、また黄鉄鉱の「廃棄物生成ゼロの(nil-waste-generated)」冶金法の一部として、捕捉(例えば凝縮)および回収可能である点で有利である。
【0009】
本明細書に開示される方法は、(a)からの磁硫鉄鉱を含む材料を浸出させ、それにより、磁硫鉄鉱を処理し、単体硫黄と+3の酸化状態の鉄とを同時に生成する工程(b)をさらに含む。また、磁硫鉄鉱を含む材料は、熱分解段階(a)から浸出段階(b)へと送ることが可能な非磁硫鉄鉱鉱物または脈石を含んでいてもよい。
【0010】
より具体的には、磁硫鉄鉱を(例えば、気相および/または水性液相において)酸で浸出させてもよい。浸出の間、磁硫鉄鉱中の鉄は、酸化されて+3の酸化状態になり、単体硫黄が生成され、金属(複数可)は黄鉄鉱含有材料から放出される(すなわち、黄鉄鉱鉱物格子から解放される)。
【0011】
したがって、黄鉄鉱磁硫鉄鉱格子からの卑金属および/または貴金属を浸出段階(b)から回収することができる。浸出で水性液相および/または気相を用いる場合、卑金属または貴金属を浸出段階(b)の一部として可溶化してもよい。こうすることで、以下に記載のように、その後、沈殿、セメンテーション、電解採取、溶媒抽出、イオン交換またはその他の公知の回収方法を含む公知の方法により、下流での金属回収が可能になる。
【0012】
一実施形態では、酸素を浸出段階(b)に添加してもよく、それにより、酸化されて+3の酸化状態になった鉄で赤鉄鉱(Fe)を形成することが可能になる。ここで、浸出段階(b)は、赤鉄鉱および硫黄の形成を可能にする条件で実施され、かつ黄鉄鉱磁硫鉄鉱格子から卑金属および/または貴金属を放出させる、磁硫鉄鉱を酸触媒で酸化させる工程を含むことが分かるだろう。関連する等式は、以下の通り表すことができる:
【化2】
【0013】
一実施形態において、また本明細書に記載のように、浸出段階(b)は、他の鉄の酸化物、水酸化物、硫酸塩または塩化物とは対照的に、赤鉄鉱(Fe)の形成に有利な条件を含むことが一般的である。先の等式において、単体硫黄が生成されることで、酸素の消費が、二酸化硫黄および/または硫酸が生成される従来技術の方法よりもはるかに少なくなる。浸出段階(b)で生成される赤鉄鉱および硫黄が、本方法の(例えば販売可能な)製品のもう1つのものとして、また黄鉄鉱の「廃棄物生成ゼロの」冶金法のもう1つの一部として、分離および回収可能である点で有利である。この点に関して、以下に記載のように、Feおよび単体硫黄の固形物を回収し、硫黄および酸化鉄の回収段階にそれぞれ送ることが可能である。
【0014】
先に記載のように、浸出段階(b)では、磁硫鉄鉱を含む材料を酸性水溶液と混合し、それにより、黄鉄鉱含有材料中の金属(例えば、卑金属および/または貴金属(複数可))を溶液中に放出させることができる。浸出段階(b)で放出される金属(複数可)が、本方法のさらなる(例えば販売可能な)製品として、また黄鉄鉱の「廃棄物生成ゼロの」冶金法のさらなる一部として、分離および回収可能である点で有利である。
【0015】
この点に関して、浸出段階(b)からの溶液を金属回収段階に送ることが可能であり、この金属回収段階では、金属が溶液から分離され、その後、この溶液が浸出段階(b)へと再循環で返送される。浸出段階(b)へと再循環させる前に、この溶液の酸性度を、酸(例えば塩酸または硫酸)を添加することにより回復させてもよい。
【0016】
一実施形態では、浸出段階(b)における酸性水溶液のpHを、-1~3.5の範囲で制御してもよい。このpH範囲により、+3の酸化状態のFeとしての鉄の沈殿を促進することができる。この点に関して、Fe3+の沈殿にとって最適なpH範囲は0.5~2.5であることに言及したい。しかしながら、銅が酸性水溶液中に存在しない場合、この範囲の上限は、3に、または場合によっては3.5にさえ動いてもよい。さらに、FeとしてのFe3+の沈殿が3.5超(すなわち約6のpHまで)で起こる一方で、溶液のpHが上昇するにつれて、Fe3+の溶解度が著しく低下し、Fe3+の溶解度が、3.5超のpHの場合、0.1~0.2g/L未満であることに言及したい。したがって、Fe3+が磁硫鉄鉱の浸出に関与する能力は、pHがおよそ3.5を上回る場合、著しく低下する。
【0017】
一実施形態では、浸出段階(b)における酸性水溶液の温度を、およそ95~220℃の範囲のどこかで制御してもよい。
【0018】
例えば、浸出段階(b)における酸が、酸性ハロゲン化物水溶液(例えば塩酸)を含む場合、溶液温度を、およそ95~150℃の範囲のどこかで制御してもよい。より最適には、溶液温度を、およそ130~140℃の範囲のどこかで制御してもよい。したがって、酸性ハロゲン化物水溶液の場合、以下に記載のように、浸出段階(b)を大気圧で操作してもよい(例えば、ここでオートクレーブまたはオートクレーブのような条件の使用は必要とされなくてもよい)。しかしながら、浸出速度を増加させる場合、代わりに浸出段階(b)を、高圧、例えば1~20ATMで操作してもよい。ここで、オートクレーブまたはオートクレーブのような装置を用いてもよい。
【0019】
別の例において、浸出段階(b)における酸が酸性硫酸塩水溶液(例えば硫酸)を含む場合、溶液温度を、およそ150~220℃の範囲のどこかで制御してもよい。より最適には、溶液温度を、およそ190~210℃の範囲のどこかで制御してもよい。したがって、酸性硫酸塩水溶液の場合、以下に記載のように、浸出段階(b)を高圧で操作してもよい(すなわち、オートクレーブまたはオートクレーブのような条件の使用が必要とされる)。そのような場合、浸出段階(b)を、高圧、例えば1~20ATMで操作してもよい。
【0020】
どちらの例でも、浸出段階(b)に送られる材料の滞留時間は、0.1~24時間の範囲にあり得る。最適には、浸出段階における材料の滞留時間がおよそ1~2時間であり得る浸出条件を用いてもよい。
【0021】
一実施形態において、浸出段階(b)における溶液がハロゲン化物水溶液を含む場合、ハロゲン化物は、溶液1Lあたり1~10モルの範囲の濃度を有していてもよい。浸出段階(b)における条件を最適化する一環として、ハロゲン化物は、1リットルあたりおよそ5モルの濃度を有していてもよい。
【0022】
一実施形態において、浸出段階(b)における溶液がハロゲン化物水溶液を含む場合、浸出段階(b)における溶液は金属ハロゲン化物溶液を含んでいてもよい。例えば、金属ハロゲン化物溶液は、NaCl、NaBr、CaClおよびCaBrのうちの1種または複数種を含んでいてもよい。また、ハロゲン化物溶液の金属は、マグネシウム、銅など、ならびに酸化された磁硫鉄鉱からのFe3+を含んでいてもよい。マグネシウム、銅などの金属は、すでに黄鉄鉱含有材料中に存在していても、または添加されてもよい。
【0023】
一実施形態では、浸出段階(b)において(すなわち、浸出段階(b)から出る浸出液スラリー中で)生成される残留固形物を回収して、硫黄回収段階に送ってもよい。一実施形態では、浸出段階(b)から出る浸出液スラリーを濾過してもよい。したがって、その後に、濾過ケークで硫黄回収段階を実施してもよい。
【0024】
硫黄回収段階は、単体硫黄が酸化鉄から分離される分離段階を含んでいてもよい。分離段階では、硫黄回収のための公知の技術、例えば、浮選、ふるい分け、比重(gravity)、蒸留および溶融または再溶融を用いてもよいが、これらに限定されることはない。フィルター製品からの硫黄の蒸留を用いる場合、蒸留操作の温度範囲は、およそ250~550℃、より一般的にはおよそ450~500℃であり得る。
【0025】
硫黄分離段階から回収された単体硫黄を、熱分解段階(a)から回収された単体硫黄と合してもよい。合した単体硫黄は、バルクで販売しても、および/またはこの方法で再利用してもよい。
【0026】
硫黄分離段階の後に、(沈殿した酸化鉄を含む)残りの固形物を濾過により回収し、濾液溶液を浸出段階(b)へと再循環させてもよい。
【0027】
一実施形態では、硫黄分離段階(例えばフィルター製品)からの残留固形物を酸化鉄回収段階に送ってもよい。酸化鉄回収段階は、残りの単体硫黄が酸化鉄から焙焼されて出される熱処理段階を含んでいてもよい。得られる硫黄不含酸化鉄を回収し、販売してもよい(例えば、これは工業プロセスにおける天然鉄鉱石の代替物として使用可能である)。
【0028】
一実施形態では、熱での硫黄除去処理のために、残留酸化鉄を、ペレット、塊などに成形することにより用意してもよい。バインダーおよびその他の試薬を、ペレット、塊などに添加して、脱硫プロセスを促進してもよい。
【0029】
一実施形態において、酸化鉄の脱硫の操作温度範囲は、およそ300~1400℃、より一般的にはおよそ1250~1350℃であり得る。最適な温度は、残留脈石材料の特性に依存し得る。
【0030】
一実施形態において、熱処理段階における硫黄の回収では、冷却または燃焼/焙焼を理由として、この段階に利用可能な、またはこの方法のその他の部分で使用可能なエネルギーを生成することができる。
【0031】
一実施形態において、硫黄分離段階および酸化鉄回収段階を組み合わせて1つの単位操作にしてもよく、そうすると、単体硫黄を酸化鉄の選鉱で同時に集めることができる。
【0032】
一実施形態では、酸化鉄の焙焼により生成され得る二酸化硫黄をウェットスクラバー内に捕捉してもよい。捕捉された二酸化硫黄は、浸出段階(b)へと再循環されてもよく、また熱分解段階(a)から浸出段階(b)へと送られ得る非磁硫鉄鉱鉱物または脈石の浸出に関与することができる。
【0033】
したがって、本明細書に開示される方法の実施形態は、以下の工程をまとめることができる:(a)黄鉄鉱を熱分解させて人工磁硫鉄鉱および単体硫黄にする工程(これはエネルギーを消費する工程である);(b)磁硫鉄鉱を酸化させて酸化鉄および単体硫黄にし、同時に卑金属または貴金属を下流での回収のために浸出させる工程;浸出液残渣から単体硫黄を販売のために回収する工程;および酸化鉄を販売のために脱硫する工程。結果として、黄鉄鉱鉱物を処理して、使用可能かつ販売可能な形態の硫黄および鉄を生成し、同時に黄鉄鉱に結合していた卑金属または貴金属を回収することができる。これは、硫黄および鉄が回収されない公知の方法とは対照的であり、したがって、開示される本方法は、使用可能かつ販売可能な形態の硫黄および鉄をなおも生成するため、卑金属または貴金属を含まないまたは少量含む黄鉄鉱材料に適用することが可能である。この点に関して、開示される本方法は、通常であれば非経済的と考えられる材料を経済的なものにすることができる。
【0034】
一実施形態では、段階(a)における黄鉄鉱の熱分解を、不活性条件下(例えば、窒素、アルゴンなどのような不活性ガスを用いる)で、還元条件下(例えば、二酸化炭素のような還元ガスを用いる)で、または硫黄原子の二酸化硫黄への酸化を防止するために利用可能な酸素が制限されるその他の気体条件下で操作し、それにより人工磁硫鉄鉱の製造を有利にすることができる。
【0035】
一実施形態において、熱分解段階(a)の操作温度は、450℃~900℃であってもよい。より具体的には、段階(a)の操作温度は、600℃~800℃であってもよい。公知の熱分解段階ではより高い温度を用いて人工磁硫鉄鉱固形物をマットにした一方で、これは、開示される方法にとって望ましくはないと観察された。
【0036】
熱分解段階(a)は、パイロリシス段階とも称することが可能である。パイロリシスは、450℃超、一般的には600℃超の温度で起こり得る。パイロリシスを酸素不含環境(例えば、窒素、アルゴンなどのような不活性ガス、または還元ガス(例えばCO)雰囲気など)において実施して、生成された硫黄ガスの酸化を防止することができる。
【0037】
一実施形態では、熱分解段階(a)の一環として、単体硫黄ガスを、(例えばキャリアガスにより)磁硫鉄鉱から分離し、単体硫黄プリルなどとして直接回収するために個別の容器内で凝縮してもよい。この方法実施形態の1つの利点は、気体状の単体硫黄が凝縮されて固体状の硫黄になることで、この方法のどこかで利用可能なエネルギーが生成されることである。
【0038】
一実施形態において、熱分解段階(a)における固形物の滞留時間は、1分~240分であってもよい。より最適には、滞留時間を45~125分で制御してもよい。
【0039】
一実施形態では、空気を公知の方法により処理して、熱分解段階(a)で使用するための窒素、および浸出段階(b)で使用するための酸素を生成してもよい。窒素および酸素の双方を同時に消費することで、段階(a)および(b)の単位操作を個別に操作した場合(例えば、段階(b)なしの段階(a)、またはその反対)には得られない水準の効率が実現される。
【0040】
一実施形態では、熱分解段階(a)で生成されるか焼体(すなわち、人工磁硫鉄鉱を含む材料)を、物理的な技術、例えば、磁気選鉱、粒径選鉱または比重選鉱により増加させて、浸出段階(b)に送られる非磁硫鉄鉱脈石の量を減らすことができる。
【0041】
先に記載のように、浸出段階(b)における条件を、人工磁硫鉄鉱の同時酸化と赤鉄鉱の沈殿とを促進するように選択してもよい。等式(2)および(3)において先に記載のように、酸化反応により酸および酸素が消費され、一方で沈殿反応により酸が生成される。有利には、双方の化学反応を同時に実施することで、開示される方法では、公知の黄鉄鉱浸出法とは全く対照的であり得る優れた効率が得られ、後者の方法では、多量の酸素が消費され、中和/処分のために多量の酸が生成される。
【0042】
先に記載のように、浸出段階(b)で用いられる水溶液は、ハロゲン化物水溶液であってもよい。ハロゲン化物水溶液は、金属ハロゲン化物の混合物を含んでいてもよく、ここで、金属は、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅などであってもよい。そのようなハロゲン化物水溶液は、赤鉄鉱の形成を鉄ミョウバン石の形成よりも促進すると観察され、後者のものは、150℃未満の温度で硫酸塩水溶液を使用すると容易に形成される。
【0043】
一実施形態では、中和剤、例えば金属アルカリを浸出段階(b)に添加して、酸化鉄熱処理(例えば焙焼)段階から回収および再循環される二酸化硫黄から流入する酸を平衡させても、または浸出段階(b)に添加されるもしくは浸出段階(b)においてインサイチュで生成されるその他の酸を平衡させてもよい。この中和剤を、さらなる酸化鉄が沈殿するように選択してもよい。例えば、中和剤は、石灰石、石灰、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムなどのうちの1種または複数種を含んでいてもよい。
【0044】
先に記載のように、浸出段階(b)における溶液の温度を、赤鉄鉱の沈殿が促進されるように制御してもよい。ハロゲン化物水溶液を使用する場合、赤金鉱(酸塩化鉄)よりも赤鉄鉱の形成が促進されるように95℃超の温度を使用してもよい。最適な温度範囲は、110~135℃であってもよい。硫酸塩水溶液を使用する場合、塩基性硫酸第二鉄よりも赤鉄鉱の形成が促進されるように150℃超の温度を使用する。最適な温度範囲は、190~210℃であってもよい。
【0045】
さらに、浸出段階(b)において、硫黄の融点(約115℃)超の温度で操作して、残留非浸出粒子または新たに形成された酸化鉄からの単体硫黄の分散を促進してもよい。
【0046】
先に記載のように、浸出段階(b)を高圧で操作して、(例えばオートクレーブを用いることで)望ましい温度値にしてもよい。先に記載のように、操作圧力は、1~20ATMの範囲にあってもよい。ただし、ハロゲン化物ブライン水溶液は、沸点が高く、よって、圧力を大気水準超に上昇させる必要なく浸出段階(b)を高温(100℃超)で操作することができることに言及すべきである。したがって、ハロゲン化物ブライン水溶液の場合、標準的な浸出容器を用いればよく、オートクレーブまたはその他の高圧力容器を用いる必要はない。
【0047】
一実施形態において、浸出段階(b)における溶液のpHは、7未満であってもよい。任意で、浸出段階(b)における溶液のpHを、先に記載のように3.5未満の範囲になるように制御してもよい。pHの範囲および値は、操作温度および圧力に相互依存すると観察されたため、相応して選択される。
【0048】
一実施形態では、浸出段階(b)の間に形成された単体硫黄を、スラリーに分散剤を添加することにより残留固形物から分散させてもよい。
【0049】
一実施形態では、浸出段階(b)で可溶化された卑金属および/または貴金属を、沈殿、硫化、セメンテーション、樹脂もしくは炭素への吸着、溶媒抽出、電解採取、またはその他の公知の技術により、いわゆる「貴」液から回収してもよい。
【0050】
一実施形態では、熱分解段階(a)に送られる黄鉄鉱材料を、その他のターゲット金属のための浮選、比重、浸出またはその他の分離段階によりまず用意してもよい。例としては、鉱石からの黄鉄鉱(または硫化物)のフロス浮選を挙げることができ、これにより、開示される方法において処理準備のできた精鉱を製造することができる。
【0051】
また、この方法の変法では、黄鉄鉱と一緒に存在し得るその他の金属硫化物を、段階(a)で熱分解させても、または段階(b)で浸出させてもよい。これらの付随的な金属硫化物の反応の程度は、鉱物学、温度、使用可能な酸、酸化条件などと相関関係にあり得る。したがって、開示される方法は、多金属精製所または加工工場で操作または組み込むことが可能である。そのような場合、そのような多金属精製所の熱分解段階で処理される材料の黄鉄鉱含量の範囲は、質量の5~100%の範囲にあってもよく、一般的に70~90重量%であってもよい。
【0052】
一実施形態において、熱分解段階(a)、浸出段階(b)、硫黄回収、酸化鉄脱硫および酸化鉄回収はそれぞれ、循環路として設けられていてもよい。さらに、これらの循環路は、統合されていてもよい。さらに、各段階はそれぞれ、複数の反応/反応器段階を含んでいてもよい。複数の反応/反応器段階を用いることにより、各個別段階をより良好に制御することができ、これにより通常、収率が改善され、特定の不純物または回収すべき金属がより良好にターゲットにされる。
【0053】
複数の反応段階を、それぞれ並流式の構成で操作してもよい。並流式の構成によって、流れの循環路のより良好な統合が可能になり、必要な固体/液体/気体分離設備が最小または単純になる。
【0054】
しかしながら、この方法の幾つかの適用では、段階ごとに複数の反応/反応器のために向流式の構成を調整してもよい。例えば、特定の供給材料が複合的であり、かつこの方法の効率が向流式の構成により補助および/または改善され得る場合、向流式の構成が必要になる場合がある。
【0055】
その他の形態が、発明の概要で定義した本方法の範囲内にあり得るものの、これより、実施例および添付図面を参照して、特定の実施形態を単に例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】黄鉄鉱を処理し、単体硫黄および酸化鉄を生成し、黄鉄鉱鉱物格子の一部である卑金属または貴金属を回収するように統合された多数の循環路を含む方法の実施形態について、ブロック図を示す。
図2】黄鉄鉱を処理し、単体硫黄および酸化鉄を生成し、黄鉄鉱鉱物格子の一部を形成するコバルト金属を回収するように統合された多数の循環路を含む方法の実施形態について、ブロック図を示す。
図3】アルゴン雰囲気で熱処理された黄鉄鉱精鉱について、様々な温度でのX線回折プロファイルを示す。
【0057】
特定の実施形態の詳細な説明
以下の詳細な説明では、詳細な説明の一部である添付図面を参照する。詳細な説明に記載され、図面に図示され、特許請求の範囲に定義されている例示的な実施形態は、限定することを意図してはいない。その他の実施形態を用いてもよく、提示された主題の思想または範囲から逸脱することなく、その他の変更を加えることができる。本開示の態様は、本明細書に一般的に記載および図面に図示されているように、その全てが本開示で企図されている幅広い種類の異なる構成で、配置、置換、組み合わせ、分離、および設計することが可能であると容易に理解されるだろう。
【0058】
系統図の説明
図1は、ブロック図の形態で工程系統図を示す。この系統図は、黄鉄鉱含有材料を処理して、含有される使用可能な形態の硫黄、鉄および卑金属または貴金属を生成する一般化された実施形態を示す。
【0059】
図2も、ブロック図の形態で工程系統図を示す。この系統図は、黄鉄鉱含有材料を処理して、黄鉄鉱含有材料に含有される使用可能な形態の硫黄、鉄およびコバルトを生成する実施形態を示す。
【0060】
図1および2の各系統図には、熱分解と、続いて浸出および沈殿とが統合されて連結プロセスになる、連続的プロセスが図示されている。
【0061】
各系統図は、4つの主要統合循環路を含む:熱処理循環路100、続いて、循環路100で生成されたか焼体を浸出循環路200で浸出。浸出液残渣は、単体硫黄の回収のために硫黄循環路300で処理され、残りの浸出液残渣は酸化鉄循環路400で加工されて使用可能な酸化鉄が生成される。
【0062】
循環路200からのか焼体の浸出に対して同時にまたは個別段階で浸出させた浸出金属を回収する場合のように、その他の卑金属または貴金属を回収するためのさらなる循環路、例えば、さらなる沈殿段階、溶媒抽出および/またはイオン交換樹脂が含まれていてもよい。
【0063】
以下、図1および2をそれぞれ参照し、いずれかの系統図の特定の特徴を必要なものとして強調する。
【0064】
熱処理(分解)
熱処理循環路100に送られる黄鉄鉱含有材料を、その他のターゲット金属のための浮選、比重、浸出またはその他の分離段階により用意することが一般的である。例えば、黄鉄鉱を、鉱石から黄鉄鉱(または硫化物)をフロス浮選することにより精鉱してもよい。これにより、循環路100で熱処理される準備のできた精鉱101が製造される。
【0065】
より具体的には、黄鉄鉱含有材料を循環路100で熱分解させる。黄鉄鉱供給物101を不活性雰囲気(例えば、窒素および/またはアルゴン)中で加熱し、鉱物が酸素との相互作用により酸化することを防止する。図2の系統図には、パイロリシス段階104としての熱分解が図示されている。
【0066】
熱処理循環路100では、以下の反応1に示されるように、黄鉄鉱が熱分解し、磁硫鉄鉱(硫黄に対する鉄の特定の値はないが、一般的にはFeと簡略化される)および単体硫黄になる:
【化3】
【0067】
反応が進行するためには、温度が450℃超である必要があるが、最適な温度は、およそ600~750℃の範囲にある。反応時間は、1分~240分の範囲にあってもよく、一般的に60~90分にわたる。単体硫黄を含有するオフガス(流102)を冷却し、(例えば気体凝縮器106内で)硫黄Sを凝縮し、最終的に硫黄Sを固形物の形態で回収する。
【0068】
次に、か焼体(流103)を浸出循環路200に送り、ここで人工磁硫鉄鉱を浸出させ、同時に酸化鉄を沈殿させる。図2の系統図には、浸出が浸出反応器205内で行われることが図示されている。
【0069】
浸出を、気相、任意で水性気相で行ってもよい。しかしながら、多くの黄鉄鉱含有材料の場合、取り扱いおよび単位操作を容易にするために、浸出循環路200では水性液相を用いることが一般的である。
【0070】
この後者の場合、含有される卑金属および/または貴金属を溶液媒体に可溶化させる。(黄鉄鉱の硫黄成分を浸出させる従来技術の方法の場合のように)磁硫鉄鉱の硫黄成分は、酸化されて単体硫黄になり、硫酸にはならない。結果として、開示される方法の正味の反応は、黄鉄鉱の浸出と比べて、少量の酸素消費を必要とする。さらに、黄鉄鉱を浸出させる場合のように、中和を必要とする遊離酸が生成されることはない。ハロゲン化物水溶液を用いる場合、反応は以下の通りである:
【化4】
{先の反応では、命名を簡略化するためにFeSを使用しているが、ここでは、FeSはFe(2-x)を表すと理解すべきである}。
【0071】
図示される方法において、ハロゲン化物溶液の濃度は、溶液1リットルあたり1~10モルの範囲にあってもよく、最適には、1リットルあたりおよそ5モルである。用いられる一般的なハロゲン化物溶液は、ハロゲン化ナトリウムである(しかし、この溶液は、ハロゲン化マグネシウムまたはハロゲン化カルシウムの混合物を含んでいてもよい)。また、供給物である黄鉄鉱含有材料中に銅が存在していてもよく、または銅を銅塩として添加してもよい(以下参照)。
【0072】
浸出および沈殿工程/段階の温度を95~150℃の範囲になるように制御することができ、最適にはおよそ130~140℃になるように制御する。この最適な温度範囲により、赤鉄鉱の同時形成が促進され、単体硫黄が液化される。冷却すると硫黄は凍結し、これを硫黄循環路300で物理的または化学的なプロセスにより分離することができる。
【0073】
浸出および沈殿工程のpHを7未満になるように制御することができ、最適な範囲は、-1~3.5のどこかである。
【0074】
正味反応により、磁硫鉄鉱の酸化のための酸素が消費される。これは、空気または酸素を浸出および沈殿反応器に直接注入することにより供給することができる。あるいは、浸出溶液が、磁硫鉄鉱を酸化させる第二鉄カチオンを含有していてもよい。第二鉄イオンは、第一鉄イオンを主要浸出反応器の内部または外部で酸化させることにより生成することができる。同様に、第二銅/第一銅などのその他の酸化対を用いてもよい。第一鉄/第二鉄酸化についての反応は、以下の通りである:
【化5】
【0075】
卑金属および/または貴金属を含有する得られた浸出溶液(流201)を、金属回収単位操作、例えば、沈殿、電解採取、イオン交換、溶媒抽出などに送る。図2の系統図には、コバルトイオン交換207として行われる金属回収単位操作と、続く硫酸コバルト生成物Cを生成するための硫酸コバルト結晶化段階208とが図示されている。
【0076】
多くの場合、環境への放出を最小限に抑えるために、溶液の返送流204を閉ループ方式で浸出循環路200に再循環で返送する。
【0077】
第三に、循環路200からの浸出液残渣流203を、単体硫黄の回収のために硫黄循環路300に送る。公知の方法のいずれかにより、単体硫黄を浸出液残渣中の酸化鉄から分離することができ、この方法としては、粒径選鉱、比重技術、フロス浮選、蒸留、溶融または再溶融が挙げられるが、これらに限定されることはない。図2の系統図には、硫黄ふるい分け段階304として行われる硫黄回収が図示されており、これにより、さらなる硫黄生成物Sを表す流301が生成される。
【0078】
第四に、循環路300からの残りの酸化鉄(流302)を酸化鉄選鉱循環路400に送る。この循環路では、酸化鉄を熱処理して、残りの硫黄を除去する。図2の系統図には、Fe選鉱炉404内で行われる酸化鉄回収が図示されており、これにより、赤鉄鉱生成物Hが生成される。
【0079】
酸化雰囲気を炉内で使用し、二酸化硫黄への硫黄の酸化を促進する。炉温度は、300~1400℃、より一般的にはおよそ1250~1350℃の範囲にある。生成される二酸化硫黄を、ウェットスクラバー内で捕捉し、弱亜硫酸流402として浸出循環路200に再循環させることができる。
【0080】
各循環路100、200、300および400は、固形物の滞留時間を制御して収率/回収を改善することが可能な1つまたは複数の再循環流を含んでいてもよい。各再循環流は、特定の反応器段階から直前の反応器段階へと向かう、いわゆる「内部」再循環であってもよい(例えば、ある反応器からのスラリーを直前の反応器に再循環で返送する)。あるいは、またはさらに、各再循環流は、分離段階(例えばある循環路から別の循環路へのオフガス)から特定の反応器段階に向かう、いわゆる「外部」再循環であってもよい。
【0081】
熱分解循環路100(詳細)
熱分解循環路100は、供給ホッパーに接続された炉を含むことが一般的である。固形物を不活性ガス(例えば、窒素、アルゴンなど)で覆うことにより不活性雰囲気をもたらす。供給材料を、450℃~900℃、最適には600℃~800℃の範囲の温度に加熱する。炉からのオフガスを集めて冷却し、続いて、単体硫黄を凝縮および凍結させる。微粒子フィルターを使用して、オフガス流への固形物の随伴を最小限に抑えることができる。単体硫黄を集めたら、不活性ガスを炉に再循環させてもよい。か焼体(磁硫鉄鉱を含有する固体生成物)を炉から取り出し、一般的には、なおも不活性雰囲気のもと100℃未満に冷却する。この工程は、不所望な酸化反応が起こるのを防ぐためである。炉を加えたプロセス設備の付属品の数、および炉の設計は、処理量と、供給材料の特性、例えば含水量および粒径とに応じて変化する。
【0082】
浸出循環路200(詳細)
浸出循環路200では、か焼体材料(流103)を酸性ハロゲン化物水溶液と混合する。スラリー密度の範囲は、一般的に0.5~60%w/wであり、しばしば、加工工場の設備のサイズを最小限に抑えるために調整される。磁硫鉄鉱の酸化を確実にするために、酸化還元電位を(Ag/AgClに対して)450mV超に維持することが一般的である。より具体的には、酸化電位は、後の酸化鉄の沈殿のため、第一鉄カチオンを第二鉄カチオンへと酸化させるのに十分である。
【0083】
さらなる後の反応器では、(例えば、浸出循環路200の第一の段階または初期の段階で)人工磁硫鉄鉱を浸出させたら、酸化浸出条件を用いてその他の鉱物をターゲットにすることができる。
【0084】
浸出循環路200では、浸出を、ハロゲン化物水溶液の場合、95~220℃の範囲の温度、最適にはおよそ130~140℃で、一般的には0.1~24時間の滞留時間にわたり、大気圧または1~20ATMの高圧で実施する。しばしば、人工磁硫鉄鉱は迅速に浸出し、2時間未満(すなわち、およそ1~2時間)の滞留時間で十分であり得る。
【0085】
沈殿した単体硫黄および酸化鉄を、浸出されていない脈石鉱物と一緒に流203として分離し、一方で、溶液を流201として金属回収循環路に送る。ターゲット金属を回収したら、ブラインを流204として浸出循環路200の開始部に再循環で返送する。再循環させた溶液流のpHを、7未満、好ましくは-1~3.5になるように調整し、それから、流103から流入するか焼体材料と混合する。流203を濾過して、浸出循環路200の開始部に返送するためのブライン溶液を回収し、それから、固形物を硫黄回収循環路300に送ることが一般的である。
【0086】
硫黄回収循環路300(詳細)
浸出循環路200で生成された浸出液残渣は、単体硫黄を含有している。硫黄回収循環路300は、単体硫黄が、粒径選鉱(例えばサイクロン)、比重選鉱(例えば、精鉱機(concentrators)、スパイラル、テーブル)、フロス浮選(例えば浮選セル)、溶融または再溶融段階などを使用して分離される一連の容器を含むことが一般的である。最適な方法を、単体硫黄の物理的特性、例えば粒径に基づき選択する。単体硫黄を回収した後に、残留浸出液残渣を酸化鉄回収循環路400に送る。
【0087】
集められた硫黄は、しばしば幾つかの捕捉された浸出液残渣を含んでおり、したがって、補助的な循環路を用いて硫黄の純度を改善してもよい。非限定的な例としては、蒸留、化学的溶解および再沈殿などが挙げられる。
【0088】
酸化鉄回収循環路400(詳細)
酸化鉄回収循環路400は、酸化鉄が熱処理される炉を含むことが一般的である。処理は、酸化鉄における硫黄の量を低減するように設計された酸化条件下にあることが一般的である。単体硫黄を酸化させて二酸化硫黄にし、これを捕捉して浸出循環路200に送る。ウェットスクラバーを用いる場合、二酸化硫黄ガスを亜硫酸として可溶化させてもよい。処理炉の温度は、300~1400℃の範囲にあり、最適には1200~1300℃で操作される。しばしば、まず酸化鉄を、熱処理前に、ペレット化するか、または微粉末から塊にする。炉を加えたプロセス設備の付属品の数、および炉の設計は、処理量と、供給材料の特性、例えば含水量および粒径とに応じて変化する。
【0089】
固体液体分離
この方法全体を通して、適切な凝集剤および凝固剤をスラリーに添加して、固体液体分離段階の効率を改善してもよい。各分離段階は、濃縮器およびフィルターを含むことが一般的であるが、代替物としては、向流式のデカンテーション段階、一段階のフィルター、または類似設備であってもよい。濃縮段階では、高速濃縮器、低速濃縮器、清澄器、および固体液体分離用の類似装置を利用してもよい。濾過段階では、圧力フィルター、パンフィルター(pan filters)、ベルトフィルター、プレスフィルター、遠心濾過器、および固体液体分離用の類似装置を利用してもよい。
【0090】
まず各スラリーを濃縮器に送り、その後、固形物を回収するために、得られたアンダーフロースラリーをフィルターに送ることが一般的である。オーバーフローは、処理溶液を含んでいても、またはさらに濾過されてもよい。
【0091】
回収の間に固形物を洗浄して、処理溶液および塩が循環路から失われるのを最小限に抑える。洗浄には新しい水が必要であり、この水は、浸出循環路において処理反応器内で蒸発させられる。発生する水蒸気を、オフガススクラバーシステムを通して排出するか、または凝縮し、新しい洗浄水として再循環させる。
【0092】
オフガスの取り扱いおよびスクラビング
オフガスを様々な処理反応器から移す。熱分解循環路100のオフガスは、単体硫黄を含有しており、固体状または液体状の硫黄の回収のために凝縮される。浸出循環路200のオフガスは、水および酸性蒸気を含有しており、このオフガスは、水回収および酸回収のためにスクラバー内に集められる。酸化鉄循環路400のオフガスは、二酸化硫黄を含有しており、このオフガスは、スクラバー内に集められて、浸出循環路200に返送される。
【0093】
実施例
これより、黄鉄鉱を処理して、黄鉄鉱鉱物格子内に含まれる使用可能な形態の硫黄、鉄、卑金属または貴金属(例えばコバルト)を回収する方法の様々な段階(循環路)の非限定的な例について説明する。
【0094】
例1:黄鉄鉱を熱分解するための温度の特定
硫化物精鉱試料は、コバルトが鉄原子と置換されて結晶格子に入った黄鉄鉱鉱物を含有していると示された。この試料において、QEMSCAN分析、走査型電子顕微鏡法、またはX線回折によっては、その他のコバルト含有鉱物は検出されなかった。
【0095】
コバルト黄鉄鉱精鉱の試料は、90%の黄鉄鉱、7%の曹長石、3%のシリカ、および1%未満の様々な脈石を含有すると求められた。これらの試料をアルゴンのもと2時間にわたり処理した。450℃~700℃の温度範囲を使用した。磁硫鉄鉱に対する黄鉄鉱の比をX線回折により測定した。450℃~600℃の温度で、分解は部分的に完了していた。650℃超で、全ての黄鉄鉱が磁硫鉄鉱に変換された。アルゴンのもと様々な温度で熱処理された黄鉄鉱精鉱のX線回折プロファイルは、図3に示される。
【0096】
予想通り、主な相転移は、磁硫鉄鉱への黄鉄鉱の分解であった。転移は、500℃で開始し、650℃で完了した。酸素との従来の焙焼反応とは対照的に、磁硫鉄鉱への黄鉄鉱の分解は、熱相転移であることが観察された。
【0097】
例2:単体硫黄を生成するための黄鉄鉱の熱分解
例1で使用したものと同じコバルト黄鉄鉱精鉱の試料500gを、650℃で2時間にわたり窒素のもと熱分解させた。オフガスを冷却すると、気体が凍結して固体残渣になった。オフガスからの残渣の組成をX線回折により測定したところ、単体硫黄が97.3%、黄鉄鉱が2.7%であると示された。オフガス残渣中の黄鉄鉱は、炉反応器からの微粒子の随伴の結果であり、オフガスをフィルターに通過させることにより最小限に抑えることができた。合計で、黄鉄鉱中に存在する硫黄の41%が、熱分解により精鉱から生じた。
【0098】
例3:磁硫鉄鉱への黄鉄鉱の熱分解に対する滞留時間の影響
コバルト黄鉄鉱精鉱の第二のバッチを得て、一連の試験で使用し、磁硫鉄鉱への黄鉄鉱の熱分解に対する時間の影響を表す。2kgの精鉱試料3個を750℃に加熱し、滞留時間を、15分、30分および45分と変化させた。反応容器を99%の窒素でパージすることにより不活性雰囲気を得た。得られたか焼体生成物をX線回折により分析した。これらの結果は、表1に示され、滞留時間が増加するほど、黄鉄鉱が次第に磁硫鉄鉱に変換されたことを示す。
【0099】
【表1】
【0100】
キルンからのオフガスを、凝縮および凍結による単体硫黄の回収のためにチャンバーに送った(このチャンバーを周囲の空気流で外部から冷却した)。硫黄を元素分析により分析したところ、99%超の単体硫黄を含有すると示された。
【0101】
例4:熱分解からのか焼体の硫酸塩媒体中での浸出
例2からのか焼体をX線回折により分析したところ、81.6%の磁硫鉄鉱、9.6%の曹長石、3.6%のシリカ、および5.2%の様々な脈石(0.1%未満の黄鉄鉱)を含有すると示された。主要な元素は、50.4%の鉄、33.2%の硫黄、および0.49%のコバルトであった。か焼体の二次試料を、硫酸中において、130℃で、オートクレーブ内にて、2時間にわたり浸出させた。圧力は4barであり、酸素を2barの過圧で反応器内に注入した。得られた浸出液により、99%超のコバルトが可溶化され、磁硫鉄鉱中の硫黄の99%超が酸化されて単体硫黄になった。磁硫鉄鉱中の鉄の33%だけが赤鉄鉱として沈殿し、その他の67%は、鉄ミョウバン石として沈殿した。鉄ミョウバン石の形成は、より高いオートクレーブ温度、例えば180℃~200℃の範囲の温度を使用することにより防止することが可能である。
【0102】
例5:熱分解からのか焼体の塩化物媒体中での浸出
さらに28kgのコバルト黄鉄鉱精鉱を熱分解させて、浸出実験用のか焼体を製造した。各バッチは2~3kgであり、温度を700℃~750℃で変化させ、滞留時間を、15分、30分、45分および60分で変化させた。
【0103】
得られたか焼体を様々な供給物試料にブレンドし、磁硫鉄鉱に対する黄鉄鉱の様々な比を得た。55%の磁硫鉄鉱と18%の黄鉄鉱とを含有するか焼体を浸出のために選択し、磁硫鉄鉱対黄鉄鉱の浸出性の違いを示す。
【0104】
このか焼体の二次試料250gを、150g/LのNaClと、150g/LのCaClと、5g/LのFeClとを含有する溶液を用いて、オートクレーブ内で浸出させた。温度は130℃であり、開始溶液のpHを、HClを使用して0.5に調整した。オートクレーブ内でスラリーを130℃に加熱した際のそのままの状態の内圧は3ATMであり、7ATMの過圧で反応器に酸素を注入し、総圧力を10ATMにした。酸素がさらに消費されなくなるまで浸出を進め、これは、およそ60分で起こった。
【0105】
得られた浸出液により、73.6%のコバルトが可溶化され、主に単体硫黄と赤鉄鉱とを含有する浸出液残渣が生成された。鉱物含量は、X線回折を使用して測定され、表2に示される。硫酸塩浸出媒体が使用された例4とは対照的に、塩化物浸出媒体から生成された浸出液残渣中には、鉄ミョウバン石は確認されなかった。残りの黄鉄鉱含量は、この鉱物がこれらの条件下で浸出されず、したがって、浸出条件が磁硫鉄鉱に対して選択的であったことを示した。コバルト抽出は、磁硫鉄鉱の破壊に限定され、残りの26.4%のコバルトは、未反応の黄鉄鉱画分中に保持されていた。
【0106】
【表2】
【0107】
得られた浸出溶液は、920ppmのコバルトを含有しており、イオン交換および結晶化を使用して、個別の金属回収循環路に送られて、硫酸コバルトが生成された。
【0108】
例6:塩化物媒体を使用した、熱分解からの磁硫鉄鉱か焼体の浸出
例5で生成されたか焼体の個別の二次試料を、例5に記載の条件と同じ条件で浸出させた。例5とは対照的に、この二次試料は、0.1重量%の黄鉄鉱および92.6重量%の磁硫鉄鉱を含有していた。生じたコバルト抽出は、表3に示される供給物および浸出液残渣の金属含量に表されるように、97.5%であった。
【0109】
【表3】
【0110】
公知の方法を使用して、得られた浸出液残渣を処理し、単体硫黄を沈殿した赤鉄鉱から分離した。この例により、コバルトの優れた回収を、磁硫鉄鉱への黄鉄鉱の転化率を高くすることにより達成することができると示された。
【0111】
特定の方法実施形態を多数説明してきたが、この方法は、どの形態で実施されてもよいと理解されたい。
【0112】
以下の特許請求の範囲および先の説明では、明らかな表現または必要な含意により文脈から別のことが求められる場合を除き、「含む(comprise)」および「含む(comprises)」または「含む(comprising)」などの派生語は、包括的な意味で、すなわち、記載された特徴の存在を明示するが、本明細書に開示される方法の様々な実施形態におけるさらなる特徴の存在または追加を排除しないように使用される。
図1
図2
図3