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特許7051016燃焼装置の性能を向上させる燃焼システム及び方法
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  • 特許-燃焼装置の性能を向上させる燃焼システム及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】燃焼装置の性能を向上させる燃焼システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/00 20060101AFI20220401BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20220401BHJP
   F02B 23/00 20060101ALI20220401BHJP
   F02M 25/022 20060101ALI20220401BHJP
   C10L 1/08 20060101ALI20220401BHJP
   C10L 1/32 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
F02F1/00 G
F02F3/00 J
F02B23/00 G
F02M25/022 C
F02M25/022 T
C10L1/08
C10L1/32 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021534842
(86)(22)【出願日】2019-05-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2019021566
(87)【国際公開番号】W WO2020044693
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】107130483
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】521078481
【氏名又は名称】澤田 重美
(73)【特許権者】
【識別番号】521076649
【氏名又は名称】舘 政宏
(73)【特許権者】
【識別番号】521076650
【氏名又は名称】チャン,ファ-シュ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】澤田 重美
(72)【発明者】
【氏名】舘 政宏
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-225570(JP,A)
【文献】特開平7-127457(JP,A)
【文献】特表2003-535967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00-3/00
F02M 25/00
F02B 23/00
C10L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料組成物をディーゼルエンジンに添加することを含む、ディーゼルエンジンの性能を向上させる方法であって、
前記燃料組成物は、水と、燃料油と、乳化剤とを含み、前記水と前記燃料油の組み合わせ100重量%において、前記水が10重量%~90重量%の範囲の量で存在し、前記乳化剤が、前記水と前記燃料油の組み合わせ100重量%に対して、0.5重量%~10重量%の範囲の量で存在し、前記乳化剤は、両親媒性化合物と、親油性化合物および親水性化合物を含む混合物と、それらの組み合わせとのいずれか一つであり、前記両親媒性化合物は、塩基性官能基とC3~C20アルキル基とを有する有機塩基を含み、前記親油性化合物はソルビタンエステルを含み、前記親水性化合物はポリソルベートを含み、
前記ディーゼルエンジンは、シリンダユニットと、前記シリンダユニットにより画成される燃焼室とを有し、前記シリンダユニットは、前記燃焼室に面した内面を有し、前記内面には触媒がコーティングされていて、前記触媒は、金属、前記金属の合金、前記金属の酸化物を含む組成物、前記金属の塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるものであり、前記金属は、白金、ニッケル、コバルト、銅、モリブデン、チタンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるものである、ディーゼルエンジンの性能を向上させる方法。
【請求項2】
前記金属の塩は、前記金属の酸化物、前記金属の硫化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属の合金は、ニッケル-コバルト合金、ニッケル-銅合金、ニッケル-チタン合金、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記シリンダユニットの前記内面には更に硫酸イオンがコーティングされている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水と前記燃料油の組み合わせ100重量%において、前記水が10重量%~50重量%の範囲の量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ディーゼルエンジンは内燃ディーゼルエンジンであり、前記シリンダユニットは、シリンダと、前記シリンダの上端を封止するシリンダヘッドと、前記シリンダ内に配置され、前記シリンダヘッドから離間していて、前記シリンダの下端を封止するピストンとを含み、前記シリンダと、前記シリンダヘッドと、前記ピストンとは、協働して前記燃焼室を画成し、それぞれが前記燃焼室に面した内面を有し、前記触媒は、前記シリンダ、前記シリンダヘッド、および前記ピストンのうちの少なくとも1つの前記内面にコーティングされている、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃焼装置と、燃焼装置に添加される燃料組成物とを含む燃焼システムに関する。本開示はまた、燃料組成物によって燃焼装置の性能を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低燃費のハイブリッド車や電気自動車の利用が徐々に増えているが、内燃ディーゼルエンジン車についても同様の傾向が報告されている。
【0003】
内燃ディーゼルエンジンの運転に際して燃料を爆発燃焼させると、燃料の不完全燃焼によって、窒素酸化物(NО)や粒子状物質(PM)などの有害汚染物質や未燃焼または不完全燃焼の炭化水素(HC)が必然的に生成され、その結果生じる燃焼排ガス中に残留することになる。このようなディーゼルエンジンの運転中の有害汚染物質の生成を低減するために、特許文献1には、シリンダ内の燃焼室内の燃料を触媒膜に接触させるために、シリンダ壁の内周面、シリンダヘッドの内周面、ピストンの上面に触媒膜(ニッケルなど)を付設することが開示されている。触媒膜と反応させることにより、燃焼排ガス中の窒素酸化物を無害な窒素・酸素ガスにしたり、炭化水素を水・二酸化炭素にしたり、粒子状物質を低減したりすることができる。
【0004】
しかしながら、出願人らは、特許文献1に開示されているように従来使用されている石油(軽油など)をディーゼルエンジンの燃料とした場合、排ガス中の有害汚染物質の量がやはり比較的多く、燃料効率も不満足なものとなることを発見した。
【0005】
特許文献2には、燃焼排ガス中の窒素酸化物を除去する方法が開示されており、該方法は、燃焼排ガスを、活性水素を含む水と反応させることを含む。活性水素は、マグネシウムと酸を用いて生成される。これにより、燃焼排ガス中の窒素酸化物を70重量%除去でき、活性水素を含む水が窒素酸化物の分解に有効であることが示されている。特許文献2では、燃焼室で発生した燃焼排ガスを反応容器に導入して活性水素を含む水と反応させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-225570
【文献】特開2013-091056
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本開示の第1の目的は、上記従来技術の欠点のうちの少なくとも1つを解決することができる燃焼システムを提供することにある。
【0008】
本開示によれば、燃焼システムは、燃焼装置と、前記燃焼装置に添加される燃料組成物とを含む。
【0009】
前記燃焼装置は、燃焼室を画成するシリンダユニットと、前記シリンダユニット上にコーティングされ、かつ前記燃焼室に面しているコーティングとを含む。前記コーティングは、金属、前記金属の合金、前記金属の酸化物を含む組成物、前記金属の塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される触媒を含み、前記金属は、白金、ニッケル、コバルト、銅、モリブデン、チタン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0010】
前記燃料組成物は、前記燃焼装置の燃焼室に添加される燃料組成物であって、水と、燃料油と、乳化剤とを含む。
【0011】
前記水と前記燃料油の組み合わせ100重量%において、前記水は10重量%~90重量%の範囲の量で存在し、前記燃料油は90重量%~10重量%の範囲の量で存在する。
【0012】
前記乳化剤は、前記水と前記燃料油の組み合わせ100重量%に対して、0.5重量%~10重量%の範囲の量で存在する。
【0013】
本開示の第2の目的は、燃焼装置の性能を向上させる方法を提供することにあり、該方法は、上記の燃焼装置を提供することと、上記の燃焼装置に燃料組成物を添加することと、を含む。
【0014】
本開示の第3の目的は、上記燃焼装置の性能を向上させるための燃料組成物の使用を提供する。
【0015】
本開示の第4の目的は、上記燃焼装置のための燃料としての燃料組成物の使用方法を提供し、該方法は、燃料組成物を燃焼装置に添加することを含む。
【0016】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照する以下の実施形態の詳細な説明において明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示によるディーゼルエンジンの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先行技術の刊行物が本明細書において参照されているが、そのような参照は、その刊行物が台湾または他の国において本技術分野における一般的な知識の一部を形成することを認めるものではないことを理解されたい。
【0019】
本明細書の目的のために、「含んでいる」という単語は「含めるがこれに限定されない」ことを意味し、「含む」という単語も同様の意味であることが明確に理解されよう。
【0020】
本明細書で使用されるすべての技術用語及び学術用語は、別段の定義がない限り、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。当業者は、ここに記載されたものと類似または同等の多くの方法及び材料が、本発明の実施において使用され得ることを認識するであろう。無論、本発明は記載された方法及び材料に限定されるものではない。
【0021】
本開示は、燃焼装置と、燃焼装置に添加される燃料組成物とを含む燃焼システム、すなわち、燃焼装置のための燃料としての燃料組成物の使用を提供する。燃料組成物は、水、燃料油、および乳化剤を含む。特定の実施形態では、燃料組成物は、水、燃料油、および乳化剤で基本的に構成される。例示的な実施形態では、燃料組成物は、水、燃料油、および乳化剤からなる。
【0022】
本開示に係る燃料組成物は、燃焼装置の性能を効果的に向上させるために使用され得る。したがって、本開示はまた、燃焼装置の性能を改善する方法であって、燃焼装置を用意することと、燃焼装置に燃料組成物を添加することとを含む方法を提供する。
【0023】
本開示によれば、燃焼装置の性能の向上は、例えば、排気ガス中の汚染物質の排出量の減少、および燃料効率の改善のうちの1つ以上によって決定され得る。
【0024】
汚染物質の例としては、窒素酸化物(NO)、未燃焼または不完全燃焼炭化水素(HC)、粒子状物質(PM)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本明細書で使用されるように、「燃料効率」との用語は、燃料に含まれる化学的ポテンシャルエネルギーが、燃料によって進められる化学変換において、熱エネルギー(例えば、熱)、運動エネルギー、または電力や仕事に変換される効率を指す(例えば、運動エネルギーや仕事を生成するための内燃機関での燃料の燃焼、仕事や電力を提供するための外燃機関での燃料の燃焼、または温度維持用の高温蒸気を生成するための軽油ボイラーでの燃料の燃焼)。例えば、燃料効率は、燃料の化学変換によって発生した仕事または熱の量の測定(例として、内燃機関が提供することができる移動距離(例えば、マイルまたはキロメートル)の測定、外燃機関が提供することができる仕事または熱の量(例えば、ジュールまたはカロリー)の測定、あるいは所定の体積(ガロンまたはリットル)の燃料を燃焼させる際に軽油ボイラーが発生させることができる温度維持用の高温蒸気の体積の測定)など、当業者が特定できる様々な技術によって測定されてもよい。
【0026】
特定の実施形態において、燃料組成物は、水と乳化剤との混合物に燃料油を添加することによって調製される。乳化燃料(すなわち、水乳化燃料)は、非腐食性の水溶液であるので、本開示に係る燃料組成物は、燃焼装置の燃焼室を腐食しない。
【0027】
本開示によれば、燃料油は、燃焼装置の燃料として機能し得る従来の石油製品であってもよい。本開示における使用に適した燃料油の例としては、重油、軽油、灯油、ディーゼル燃料、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本開示によれば、乳化剤は、燃料油を水混和性にすることができる任意の物質であってもよい。本開示における使用に適した乳化剤の例としては、以下に挙げる物質のうちの1つ以上を含むことができる。
【0029】
(1)両親媒性化合物。例えば、強い塩基性官能基(高塩基性)を有する有機塩基。例として、C3~C20アルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸マグネシウム。
【0030】
(2)親油性化合物(例えばソルビタンエステル(スパンとしても知られる))と親水性化合物(例えばポリソルベート(ツインとしても知られる))とを含む組成物。例えば、スパン80とツイン80の混合物(重量比1:1)、またはスパン80とツイン60の混合物(重量比1:1)。
【0031】
特定の実施形態では、燃料組成物は、水と燃料油の組み合わせ100重量%において、10重量%~90重量%の水を含む。他の実施形態では、水と燃料油の組み合わせ100重量%において、10重量%~50重量%の水を含む。
【0032】
特定の実施形態では、燃料組成物は、水と燃料油の組み合わせ100重量%に対して、0.5重量%~10重量%の乳化剤を含む。他の実施形態では、水と燃料油の組み合わせ100重量%に対して、0.5重量%~2重量%の乳化剤を含む。
【0033】
本開示によれば、燃料組成物は、燃料効率を向上するのに有効な水素ガスをさらに含んでもよい。特定の実施形態では、水素ガスの濃度は、5ppm~10ppmの範囲である。
【0034】
特定の実施形態では、燃料組成物は、燃料油と水の分子集合体を分散させ、それによって燃料効率を向上するために、例えば、高周波、電磁波または超音波を用いた振動処理を経てもよい。
【0035】
燃焼装置は、燃焼室を画成するシリンダユニットと、シリンダユニット上にコーティングされ、かつ燃焼室に面している(すなわち、シリンダユニットの内面にコーティングされている)コーティングとを含む。
【0036】
本開示において使用に適した燃焼装置の例としては、内燃機関(車両に使用されるディーゼルエンジン、ディーゼル発電機など)、外燃機関、ボイラー、仕事と電力を生成するための炉やタービン、そして温度維持用の高温蒸気を発生させるためのディーゼルオイルボイラー(バーナー)が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0037】
例示的な実施形態では、燃焼装置の一例としてディーゼルエンジンが使用される。図1に示されているように、ディーゼルエンジンの実施形態は、燃焼室3を画成するシリンダユニット1と、シリンダユニット1上にコーティングされ、かつ燃焼室3に面している(すなわち、シリンダユニット1の内面にコーティングされている)コーティング2とを含む。
【0038】
コーティング2は触媒を含み、触媒は例えば、金属、金属の合金、金属の酸化物を含む組成物、金属の塩、またはそれらの組み合わせである。金属の例としては、白金、ニッケル、コバルト、銅、モリブデン、チタン、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
本明細書で使用されるように、「金属の合金」という用語は、白金、ニッケル、コバルト、銅、モリブデン、および/またはチタンを含む合金を指す。本開示における使用に適した金属の合金の例としては、ニッケル-コバルト合金、ニッケル-銅合金、ニッケル-チタン合金、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0040】
本明細書で使用されるように、「金属の酸化物を含む組成物」という用語は、白金酸化物、ニッケル酸化物、コバルト酸化物、銅酸化物、モリブデン酸化物、チタン酸化物、またはそれらの組み合わせを含む組成物を指す。本開示における使用に適した金属の酸化物を含む組成物の例としては、ニッケル酸化物およびコバルト酸化物を含む組成物が挙げられるが、これに限定するものではない。
【0041】
本明細書で使用されるように、「金属の塩」という用語は、触媒として機能することができる白金塩、ニッケル塩、コバルト塩、銅塩、モリブデン塩、および/またはチタン塩を指す。本開示によれば、金属の塩は、金属の酸化物、金属の硫化物、またはそれらの組み合わせであってもよい。金属の酸化物の非限定的な例は、一酸化ニッケルである。金属の硫化物の非限定的な例は、硫化ニッケルである。
【0042】
特定の実施形態において、コーティング2は、硫酸イオンをさらに含む。硫酸イオンは、スプレーコーティング法、スパッタリングコーティング法、燃料油中の硫黄含有成分を燃焼させてシリンダユニット1上に堆積させて金属の硫酸塩を生成する方法など、任意の好適な方法でシリンダユニット1上にコーティングすることができる。
【0043】
本実施形態において、シリンダユニット1は、シリンダ11と、シリンダヘッド12と、ピストン13とを含む。シリンダヘッド12は、シリンダ11の上端を封止する。ピストン13は、シリンダ11内に往復動可能に取り付けられ、シリンダヘッド12から離間していて、シリンダ11の下端を封止する。シリンダ11と、シリンダヘッド12と、ピストン13とは協働して燃焼室3を画成する。
【0044】
シリンダ11、シリンダヘッド12、ピストン13のそれぞれは、それぞれ燃焼室3に面する内面110、120、130を有し、これら内面110、120、130はそれぞれシリンダユニット1の内面の一部である。
【0045】
本実施形態では、コーティング2は、シリンダヘッド12の内面120にコーティングされている。なお、コーティング2の位置は、本実施形態で開示されている位置に限定されず、実際の需要を満たすために変化させることができる。例えば、コーティング2は、シリンダ11の内面110、シリンダヘッド12の内面120、およびピストン13の内面130のうちの少なくともいずれか1つにコーティングされていればよい。
【0046】
シリンダヘッド12は、外気流を燃焼室3に導入するために開放可能な吸気バルブ121と、燃料組成物を燃焼室3に供給するための燃料噴射ノズル122と、排ガスを燃焼室3から排出できるように開放可能な排気バルブ123とを含む。
【0047】
燃焼機関は、以下に示す4ストロークサイクルで運転することができる。
【0048】
(1)吸気。排気バルブ123を閉じ、吸気バルブ121を開く。同時に、ピストン13がシリンダヘッド12から離れるように(すなわち、上死点から下死点に向かうように)下方に摺動することで、吸気バルブ121を介して燃焼室3内に外気流を導入する。
【0049】
(2)圧縮。この段階では、吸気バルブ121及び排気バルブ123の両方が閉じている。ピストン13が下死点から上死点に向かうように上方に摺動することで、燃焼室3内の空気を圧縮する。
【0050】
(3)燃焼/爆発。燃料噴射ノズル122から燃焼室3内に燃料組成物が噴射され、高圧縮により発生する熱により着火する。このとき、燃焼室3内の圧力は100気圧以上、温度は2000℃以上である。このようにして生成された燃焼ガスによって、ピストン13が下死点に押し戻され(すなわち、シリンダヘッド12から離れ)、すなわち運動エネルギーが生成される。
【0051】
(4)排出(排気)。排気バルブ123が開いている間に、ピストン13が下死点から上死点に戻り、燃焼ガスが排気バルブ123を介して燃焼室3の外部に排出される。
【0052】
本開示に係る燃料組成物は燃焼段階において水素ガスおよび酸素ガスを生成することができるが、これはシリンダユニット1上にコーティングされたコーティング2の触媒によって引き起こされる酸化還元反応によるものであると、特定の理論に縛られることを望むものではないが、考えられる。一方、燃料組成物の不完全燃焼によって生じる有毒な窒素酸化物(NО)および炭化水素(HC)は、無害な窒素ガス、酸素ガス、水、および二酸化炭素に変換される。また、粒子状物質(PM)は、高温蒸気(燃料組成物からの水の燃焼により生成される)と高温で反応することにより(すなわち合成ガス反応により)、二酸化炭素や水素ガスを生成し得る。このため、燃焼ガス中のこれらの汚染物質(NO、HC、PM)の量を大幅に低減することができる。また、燃料組成物中の燃料油をほぼ完全に燃焼させて、強力な爆発力と大量の熱を放出させることができ、これにより、同じエンジン回転速度で軸トルクを低下させることなく、燃料消費を大幅に低減させて、燃料効率を向上させることができる。
【0053】
本開示は、以下の実施例および比較例によって更に説明される。但し、以下の実施例および比較例は、もっぱら例示の目的のために意図されたものであり、本発明を実質制限するものと解釈されるべきではない。
【0054】
<実施例>
【0055】
コーティング2の触媒がニッケルである図1のディーゼルエンジンに、水、軽油及び乳化剤(高塩基性の両親媒性化合物)を30:70:1の重量比で混合して調製した燃料となる燃料組成物を添加した。
【0056】
燃料組成物を充填したディーゼルエンジンに対して、4速エンジントランスミッションを有する自動車を用いて、エンジン回転数2000rpm、エンジン負荷率60%で運転試験を行い、燃焼ガス中のNO、HCの残留量、軸トルク(kgf.m)、平均燃料消費量(L/毎時)を計測した。平均燃料消費量が低いほど燃料効率が高いことを示している。
【0057】
<比較例>
【0058】
比較例は、軽油をディーゼルエンジンの燃料とした以外は、実施例と同様に行った。
【0059】
結果
【0060】
実施例及び比較例で得られた結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から明らかなように、比較例と比較して、ディーゼルエンジンの燃料として燃料組成物を用いた本開示の実施例は、汚染物質(NO、HC等)の発生量が比較的少なく、同程度の軸トルクおよびエンジン回転速度で燃料消費量がより少ない(すなわち、燃料効率がより高い)ことが示された。このことから、水と燃料油と乳化剤とからなる本開示の燃料組成物は、シリンダユニットに触媒(例えばNi)がコーティングされた燃焼装置の性能を向上させることが可能であることが示された。
【0063】
上記の説明では、説明の目的のために、実施形態の完全な理解を提供するために多数の特定の詳細が述べられた。しかしながら、当業者であれば、一またはそれ以上の他の実施形態が具体的な詳細を示さなくとも実施され得ることが明らかである。また、本明細書における「一つの実施形態」「一実施形態」を示す説明において、序数などの表示を伴う説明は全て、特定の態様、構造、特徴を有する本発明の具体的な実施に含まれ得るものであることと理解されたい。更に、本説明において、時には複数の変化例が一つの実施形態、図面、またはこれらの説明に組み込まれているが、これは本説明を合理化させるためのもので、本発明の多面性が理解されることを目的としたものであり、また、一実施形態における一またはそれ以上の特徴あるいは特定の具体例は、適切な場合には、本開示の実施において、他の実施形態における一またはそれ以上の特徴あるいは特定の具体例と共に実施され得る。
【0064】
以上、本発明の例示的と思われる実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、最も広い解釈の精神および範囲内に含まれる様々な構成として、全ての修飾および均等な構成を包含するものとする。
【0065】
本出願は、2018年8月31日に出願された台湾特許出願第107130483号に基づき、その優先権を主張するものであり、当該基礎出願の内容の全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【符号の説明】
【0066】
1 シリンダユニット
2 コーティング
3 燃焼室
11 シリンダ
12 シリンダヘッド
13 ピストン
110、120、130 内面
図1