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7051021組成物、ペレット、成形品および組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】組成物、ペレット、成形品および組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20220401BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K7/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021556810
(86)(22)【出願日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 JP2021017374
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2020083744
(32)【優先日】2020-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020204358
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594146179
【氏名又は名称】株式会社新菱
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】西野 陽平
(72)【発明者】
【氏名】高田 誠一
(72)【発明者】
【氏名】有田 宏之
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-034398(JP,A)
【文献】特開平05-195429(JP,A)
【文献】特開2020-041253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08K 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、
炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維5~65質量部を含む組成物から形成されたペレットであって、
前記組成物から成形されたISO多目的試験片を用い、ISO178に従って測定された曲げ強さが、前記組成物に含まれる前記ポリカーボネート樹脂を等量の末端水酸基量が140ppmであるポリカーボネート樹脂に、リサイクル炭素繊維を炭素繊維量が等量となるバージン炭素繊維に置き換えた組成物から成形されたISO多目的試験片を用い、ISO178に従って測定された曲げ強さと比較して、保持率が86%以上である、ペレット。
【請求項2】
前記末端水酸基量が、200~800ppmである、請求項1に記載のペレット。
【請求項3】
前記リサイクル炭素繊維における樹脂残渣含有量の割合は、5質量%以上である、請求項1または2に記載のペレット。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂が、リサイクルされたポリカーボネート樹脂を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のペレット。
【請求項5】
さらに、前記末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、流動改質剤を0.5~30質量部含む、請求項1~のいずれか1項に記載のペレット。
【請求項6】
さらに、前記末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、離型剤およびカーボンブラックから選択される少なくとも1種を合計で0.1~10質量部含む、請求項1~のいずれか1項に記載のペレット。
【請求項7】
末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部と、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維5~65質量部とを押出機に投入し、溶融混練することを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のペレットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、ペレット、成形品および組成物の製造方法に関する。特に、リサイクル炭素繊維を有効活用した組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、耐衝撃性、透明性等に優れた樹脂として、多くの分野で幅広く用いられている。中でもガラス繊維や炭素繊維といった無機充填剤で強化したポリカーボネート樹脂組成物は、寸法安定性、機械的強度、耐熱性、および電気的特性といった種々優れた性能を示すことから、カメラ、OA機器、電気電子部品といった産業分野で幅広く使用されている(特許文献1)。
一方、限りある資源の有効活用の観点から、炭素繊維をリサイクルすることが検討されている。リサイクル炭素繊維としては、例えば、特許文献2に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-063812号公報
【文献】国際公開第2018/212016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂にリサイクル炭素繊維を配合すると、新規に製造された炭素繊維、すなわち、バージン炭素繊維を配合した場合と比べて、機械的強度が劣ってしまう。そして、ポリカーボネート樹脂とリサイクル炭素繊維を含む組成物において、機械的強度を、バージン炭素繊維を配合した場合にできるだけ近いものとすることができれば、炭素繊維のリサイクル率の向上が期待できる。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、ポリカーボネート樹脂とリサイクル炭素繊維を含み、かつ、バージン炭素繊維を配合した場合と比較して、できるだけ近い機械的強度を有する組成物、ならびに、ペレット、成形品および組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂として、末端水酸基量が150~800ppmであるものを用い、かつ、リサイクル炭素繊維として、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるものを用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維5~65質量部を含む組成物。
<2>前記末端水酸基量が、200~800ppmである、<1>に記載の組成物。
<3>前記リサイクル炭素繊維における樹脂残渣含有量の割合は、5質量%以上である、<1>または<2>に記載の組成物。
<4>前記組成物から成形されたISO多目的試験片を用い、ISO178に従って測定された曲げ強さが、前記組成物に含まれる前記ポリカーボネート樹脂を等量の末端水酸基量が140ppmであるポリカーボネート樹脂に、リサイクル炭素繊維を炭素繊維量が等量となるバージン炭素繊維に置き換えた組成物から成形されたISO多目的試験片を用い、ISO178に従って測定された曲げ強さと比較して、保持率が86%以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の組成物。
<5>前記ポリカーボネート樹脂が、リサイクルされたポリカーボネート樹脂を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の組成物。
<6>さらに、前記末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、流動改質剤を0.5~30質量部含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の組成物。
<7>さらに、前記末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、離型剤およびカーボンブラックから選択される少なくとも1種を合計で0.1~10質量部含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の組成物。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の組成物から形成されたペレット。
<9><1>~<7>のいずれか1つに記載の組成物から形成された成形品。
<10>末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部と、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維5~65質量部とを押出機に投入し、溶融混練することを含む、組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ポリカーボネート樹脂とリサイクル炭素繊維を含み、かつ、バージン炭素繊維を配合した場合と比較して、できるだけ近い機械的強度を有する組成物、ならびに、ペレット、成形品および組成物の製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において、ppmは質量ppmを意味する。
【0008】
本実施形態の組成物は、末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維5~65質量部を含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、ポリカーボネート樹脂とリサイクル炭素繊維を含み、かつ、バージン炭素繊維を配合した場合と比較して、できるだけ近い機械的強度を有する組成物が得られる。この理由は、以下の通りであると推測される。すなわち、ポリカーボネート樹脂の末端水酸基量を150~800ppmとすることにより、炭素繊維表面とポリカーボネート樹脂との密着性が向上し、機械的強度が向上したためであると推測される。
また、末端水酸基量が少なすぎると、炭素繊維表面とポリカーボネート樹脂との密着性が低下し、かつ、エステル交換の反応速度が低下し所望の分子量を有するポリカーボネート樹脂の生産が困難となったり、ポリカーボネート樹脂中のカーボネートエステルの残存量が多くなり、成形加工時や成形品としたときの臭気の原因となる場合がある。一方、末端水酸基量が多すぎると、ポリカーボネート樹脂の熱安定性が悪化する傾向となる。
本実施形態では、特に、曲げ強さの高い組成物が得られる。さらに、曲げ弾性率、ノッチ有りシャルピー強さ、ノッチ無しシャルピー強さ、および、荷重たわみ温度(DTUL)について、バージン炭素繊維を用いた場合に対し、かなり近い物性を達成することもできる。
以下、本発明の詳細について説明する。
【0009】
<ポリカーボネート樹脂>
本実施形態の組成物は、末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂を含む。末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂を用いることにより、リサイクル炭素繊維表面との密着性を向上させることができ、機械的強度を末端水酸基量が150ppmより小さいポリカーボネート樹脂を配合した場合と比較して、高く保持することが可能になる。
前記末端水酸基量は、150ppm以上であるが、200ppm以上であることが好ましく、250ppm以上であることがより好ましく、300ppm以上であることがさらに好ましく、350ppm以上であることが一層好ましく、400ppm以上であることがより一層好ましく、450ppm以上であることがさらに一層好ましく、500ppm以上であることが特に一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、炭素繊維表面とポリカーボネート樹脂との密着性が向上し、かつ、エステル交換の反応速度が速くなり所望の分子量を有するポリカーボネート樹脂が得られやすくなり、また、ポリカーボネート樹脂中のカーボネートエステルの残存量を少なくでき、成形加工時や成形品としたときの臭気をより効果的に抑制できる傾向にある。また、前記末端水酸基量は、800ppm以下であるが、750ppm以下であることが好ましく、700ppm以下であることがより好ましく、650ppm以下であることがさらに好ましく、630ppm以下であることが一層好ましく、610ppm以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂の熱安定性がより向上する傾向にある。
末端水酸基量は、後述する実施例の記載に従って測定される。
本実施形態の組成物が2種以上のポリカーボネート樹脂を含む場合、ポリカーボネート樹脂混合物の末端水酸基量とする。
【0010】
末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂は、例えば、溶融重合法によって製造することができる。また、溶融重合法で得られたポリカーボネート樹脂と界面重合法で得られたポリカーボネート樹脂の混合物であってもよい。
より具体的には、本実施形態で使用するポリカーボネート樹脂は、好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂であり、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物および炭酸ジエステルを原料とし、溶融エステル交換法により製造できる。
【0011】
芳香族ジヒドロキシ化合物は、例えば、ビス(4-ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」とも言い、「BPA」と略記することもある。)が好ましい。
【0012】
炭酸ジエステルは、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記することもある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸またはジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネート樹脂が得られる。
【0013】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸またはジカルボン酸のエステルを含む。以下同じ。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、過剰に用いられる。すなわち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して1.001~1.3倍、好ましくは1.01~1.2倍の範囲内のモル量で用いられる。
【0014】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂は、末端基を除く全構成単位の80モル%以上(好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上)がビスフェノールA由来の構成単位であることが好ましい。
【0015】
末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂の詳細は、特開2003-026911号公報の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0016】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂(2種以上含まれる場合は、ポリカーボネート樹脂の混合物)は、また、メルトボリュームレイト(MVR)が1cm/10min以上であることが好ましく、5cm/10min以上であることがより好ましく、8cm/10min以上であることがさらに好ましく、また、40cm/10min以下であることが好ましく、30cm/10min以下であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、特に、5cm/10min以上とすることにより、高流動で成形性により優れる傾向にあり、前記上限値以下とすることにより、衝撃性や耐熱性が高く維持される傾向にある。MVRは、JIS K 7210に従って測定される。
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂(2種以上含まれる場合は、ポリカーボネート樹脂の混合物)の粘度平均分子量は、5000~50000であることが好ましく、10000~50000であることがより好ましく、14000~24000であることがさらに好ましい。粘度平均分子量が5000以上のものを用いることにより、得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。また、粘度平均分子量が50000以下のものを用いることにより、樹脂組成物の流動性が向上し、成形性がより向上する傾向にある。
なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算される粘度平均分子量[Mv]である。
【0017】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂は、リサイクルされたポリカーボネート樹脂であってもよい。リサイクルポリカーボネート樹脂を用いることにより、環境負荷を低減させた組成物を提供することが可能になる。リサイクルポリカーボネート樹脂とは、ボトル、ディスク、パチンコ、シート、半導体搬送容器等由来のもの等が用いられる。リサイクルされたポリカーボネート樹脂は、リサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0018】
本実施形態の組成物において、ポリカーボネート樹脂の含有量は、60~95質量%であることが好ましい。本実施形態の組成物は、ポリカーボネート樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0019】
<リサイクル炭素繊維>
本実施形態の組成物は、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維5~65質量部を含む。このようなリサイクル炭素繊維を所定のポリカーボネート樹脂と組み合わせて用いることにより、ポリカーボネート樹脂にバージン炭素繊維を配合した組成物に対し、高い機械的強度を維持することができる。リサイクル炭素繊維は、通常、表面処理剤や集束剤等の処理剤が存在しないため、ポリカーボネート樹脂との十分な溶融混練が困難になる場合がある。しかしながら、本実施形態では、リサイクル炭素繊維として、炭素繊維強化樹脂の加熱物を用いることにより、樹脂由来の残渣である炭化物が炭素繊維の処理剤のような役割を果たし、ポリカーボネート樹脂との安定した溶融混練を可能にしている。
ここで、リサイクル炭素繊維とは、例えば、使用済みの炭素繊維強化樹脂(航空機、車両、電気・電子機器等)から回収された炭素繊維や炭素繊維強化樹脂の製造工程から発生する炭素繊維強化樹脂の中間製品(プリプレグ)等の切れはしから回収された炭素繊維をいう。これに対し、バージン炭素繊維とは、一般的に、炭素繊維として販売されているものなど、リサイクル炭素繊維ではない新品の炭素繊維である。
【0020】
本実施形態では、リサイクル炭素繊維として炭素繊維強化樹脂の加熱物が用いられる。炭素繊維強化樹脂が加熱されることにより、樹脂が炭化物となって、炭素繊維の表面に存在する。
本実施形態における炭素繊維強化樹脂は、炭素繊維およびマトリックス樹脂を含む。
炭素繊維の種類は特に定めるものではないが、PAN系炭素繊維が好ましい。
マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。熱硬化性樹脂は、未硬化のものであってもよく、硬化物であってもよい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
マトリックス樹脂は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、硬化剤、硬化助剤、内部離型剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤等が挙げられる。
炭素繊維強化樹脂の加熱温度は、マトリックス樹脂が炭化する温度であれば特に定めるものではないが、300~700℃が好ましく、400~700℃がより好ましく、500~700℃がさらに好ましい。
炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維の詳細は、国際公開第2018/212016号の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0021】
リサイクル炭素繊維における樹脂残渣含有量の割合は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることが好ましく、また、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
リサイクル炭素繊維の数平均繊維径は、3μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることがさらに好ましい。また、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。リサイクル炭素繊維の数平均繊維径がこのような範囲にあることで、機械的物性、特に強度、弾性率がより向上した樹脂組成物が得られやすくなる。
【0023】
本実施形態の組成物において、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、5質量部以上であり、8質量部以上であることが好ましく、10質量部以上、13質量部以上、15質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、機械的強度により優れた組成物が得られる傾向にある。また、前記リサイクル炭素繊維の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、65質量部以下であり、60質量部以下であることが好ましく、55質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下、45質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、機械的強度により優れ、かつ、成形性により優れた組成物が得られる傾向にある。
また、本実施形態の組成物は、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維を組成物中、実質的な炭素繊維の量換算で、5~40質量%の割合で含むことが好ましく、10~30質量%の割合で含むことがより好ましい。
本実施形態の組成物は、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0024】
本実施形態の組成物は、末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂とリサイクル炭素繊維の総量が組成物の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましい。前記総量の上限は100質量%である。
【0025】
本実施形態の組成物は、バージン炭素繊維を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。本実施形態の組成物の一例は、バージン炭素繊維をリサイクル炭素繊維の含有量の5~50質量%(好ましくは5~30質量%)の割合で含む態様である。また、本実施形態の組成物の他の一例は、バージン炭素繊維をリサイクル炭素繊維の含有量の5質量%未満(好ましくは3質量%未満、より好ましくは1質量%未満)である態様である。
【0026】
<流動改質剤>
本実施形態の組成物は、前記末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、流動改質剤を0.5~30質量部含むことが好ましい。流動改質剤を含むことにより、曲げ強さを保持したままポリカーボネート樹脂の流動性を向上させることができる。
【0027】
本実施形態で用いられる流動改質剤は、公知のものを用いることができ、低分子ないしオリゴマー(数平均分子量2000未満)であっても、高分子(数平均分子量2000以上)であってもよい。本実施形態では、例えば、数平均分子量が1000以上2000未満のオリゴマーを用いることができる。
具体的には、ポリエステルオリゴマー、ポリカーボネートオリゴマー、ポリカプロラクトン、低分子量アクリル系共重合体、脂肪族ゴム-ポリエステルブロック共重合体が例示され、ポリカーボネートオリゴマーが好ましい。
流動改質剤は、特許第4736260号公報の段落0050~0056の記載、特開2011-063812号公報の段落0059~0070の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0028】
本実施形態の組成物において、流動改質剤の含有量は、末端水酸基量が200~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましく、3質量部以上であることが一層好ましく、5質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ポリカーボネート樹脂の流動性がより向上する傾向にある。前記流動改質剤の含有量は、また、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましく、17質量部以下であることが一層好ましく、15質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、耐熱性および耐衝撃性を低下させることなく、ポリカーボネート樹脂の流動性がより向上する傾向にある。
本実施形態の組成物は、流動改質剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0029】
<その他の成分>
本実施形態の組成物は、上記以外のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂、染料、顔料、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、離型剤、防曇剤、天然油、合成油、ワックス、有機系充填剤等が例示される。これらの成分の総量は、例えば、組成物の0.1~10質量%であってもよい。
本実施形態の組成物は、例えば、前記末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、離型剤およびカーボンブラックから選択される少なくとも1種を合計で0.1~10質量部(好ましくは0.5~5質量部)含むことが例示される。
【0030】
<組成物の物性>
本実施形態の組成物は、ポリカーボネート樹脂にバージン炭素繊維を配合した場合に近い高い曲げ強さを有することが好ましい。
本実施形態の組成物においては、該組成物から成形されたISO多目的試験片を用いた80mm×10mm×4mm厚の平板試験片(例えば、ISO多目的試験片から切り出した80mm×10mm×4mm厚の平板試験片)のISO178に従って測定された曲げ強さが、前記組成物に含まれる前記ポリカーボネート樹脂を等量の末端水酸基量が140ppmであるポリカーボネート樹脂に、リサイクル炭素繊維を炭素繊維量が等量となるバージン炭素繊維に置き換えた組成物から成形されたた80mm×10mm×4mm厚の平板試験片のISO178に従って測定された曲げ強さと比較して、保持率が86%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。前記値の上限値は、100%が理想であるが、99%以下が実際的である。
【0031】
<組成物の製造方法>
本実施形態の組成物は、ポリカーボネート樹脂を含む組成物の常法の製法によって製造できる。例えば、本実施形態の組成物は、末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部と、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維5~65質量部とを押出機に投入し、溶融混練することを含む方法によって製造される。リサイクル炭素繊維は、炭素繊維の表面に表面処理剤や収束剤が付着していない場合があるが、本実施形態ではリサイクル炭素繊維として炭素繊維強化樹脂の加熱物を用いることにより、樹脂由来の残渣が表面処理剤等の役割を果たし、押出機に投入しての溶融混練が可能になる。そのため、本実施形態の組成物から形成されたペレットとすることができる。
押出機には、各成分をあらかじめ混合して一度に供給してもよいし、各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給してもよい。押出機は、一軸押出機であっても、二軸押出機であってもよい。また、染料や顔料(例えば、カーボンブラック)の一部の成分を樹脂成分と溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りの成分を配合して溶融混練してもよい。
なお、炭素繊維は、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。
溶融混練に際しての加熱温度は、通常、250~350℃の範囲から適宜選ぶことができる。
【0032】
本実施形態の成形品は、本実施形態の組成物から形成される。
本実施形態の成形品は、機械的強度が良好であるため、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品などに適用できる。
【0033】
<成形品の製造方法>
成形品の製造方法は、特に限定されず、ポリカーボネート樹脂を含む組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられ、中でも射出成形が好ましい。
射出成形の詳細は、特許第6183822号公報の段落0113~0116の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0035】
1.原料
以下の実施例及び比較例に使用した各原料成分は、以下の表1のとおりである。
【表1】
【0036】
<PC中の末端水酸基量>
芳香族ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)の末端水酸基量は、下記に表される末端水酸基の総量を表し、芳香族ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量の割合をppmで表示したものである。またその測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)に従った。
【化1】
上記式中、Rは、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、炭素数4~20のシクロアルキル基および炭素数6~20のアリール基から選択される基であり、rは0~2の整数を表す。rが2のときは、2つのRは、同一でもよいし、異なっていてもよい。波線部分は、ポリカーボネート樹脂の主鎖との結合位置である。
【0037】
2.実施例および比較例
(実施例1-1~1-12、比較例1-1~1-4、実施例2-1、2-2、比較例2-1~2-3、実施例3-1、3-2、比較例3-1~3-3)
<コンパウンド>
表2~5に記載の各原料を表に記載の含有量(全て質量部)で混合した後、1ベントを備えた二軸押出機を用い、炭素繊維以外の原料は押出機上流部のバレルより押出機にフィードし、炭素繊維はサイドフィードして、スクリュー回転数300rpm、吐出量200kg/時間、バレル温度280~310℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂組成物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、ペレットを得た。
【0038】
<組成物中のCF含有量>
表2~5における「CF含有量」は、組成物中の実質的な炭素繊維の量を示している。すなわち、本発明で用いるリサイクル炭素繊維は、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるため、炭素繊維には樹脂由来の残渣(樹脂残渣)が含まれている。この樹脂残渣を除いた炭素繊維の量が表におけるCF含有量に相当する。単位は、質量%で示している。
【0039】
<コンパウンド時のCF供給性>
上記のペレットを製造した工程における炭素繊維の供給安定性を、以下のA、Bの基準で評価判定した。5人の専門家が試験を行い、多数決で評価を判定した。
A:炭素繊維の供給振れが極めて少なく、安定して供給可能
B:A以外、例えば、炭素繊維の供給振れが大きく、供給が不安定となりコンパウンド不可能
【0040】
<試験片の成形>
得られたペレットを、120℃で5時間乾燥後、射出成形機(日本製鋼所製「J85AD」)にて、シリンダー温度300℃、金型温度100℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、ISO多目的試験片(4mm厚)を作製した。
【0041】
<曲げ試験>
上記で得られたISO多目的試験片を用い、80mm×10mm×4mm厚の平板試験片を作製し、ISO178に従い、前記試験片の曲げ強さおよび曲げ弾性率の測定を行った。単位は、MPaで示した。
また、曲げ強さ保持率を算出した。具体的には、実施例1-1~1-12、比較例1-1~1-4については、比較例1-1を対照とし、実施例2-1、2-2および比較例2-1~2-3については、比較例2-1を対照とし、実施例3-1、3-2および比較例3-1~3-3については、比較例3-1を対照とし、対照の曲げ強さを100としたときのそれぞれの例の曲げ強さの相対値を、曲げ強さの保持率(%)として表に示している。
【0042】
<シャルピー衝撃強さ>
上記で得られたISO多目的試験片を用い、ISO179-1およびISO179-2に従い、23℃におけるシャルピー衝撃強さ(ノッチ有りおよびノッチ無し)の測定を行った。単位は、kJ/mで示した。
【0043】
<DTUL(荷重たわみ温度)>
上記で得られたISO多目的試験片を用い、ISO75-1およびISO75-2に従い、23℃、荷重1.80MPaの条件(A法)にて荷重たわみ温度を測定した。単位は、℃で示した。
【表2】
【表3-1】
【表3-2】
【表4】
【表5】
【0044】
上記結果から明らかなとおり、リサイクル炭素繊維を用いた場合、末端水酸基量200~800ppmであるポリカーボネート樹脂を用いることにより、末端水酸基量が200ppm未満のポリカーボネート樹脂を用いた場合より、バージン炭素繊維と比較しての曲げ強さの低下が効果的に抑制された。すなわち、曲げ強さの保持率が高かった。
例えば、比較例1-1と比較例1-2の比較から、末端水酸基量が200ppm未満のポリカーボネート樹脂を用いた場合、リサイクル炭素繊維を配合すると、バージン炭素繊維を配合した場合と比較して、曲げ強度の保持率は85%であった。これに対し、比較例1-1と実施例1-1の比較から、末端水酸基量が200~800ppmのポリカーボネート樹脂を用いた場合、リサイクル炭素繊維を配合すると、バージン炭素繊維を配合した場合と比較して、曲げ強度の保持率は90%であった。さらに、実施例の組成物は、ノッチ有りシャルピー強さ、ノッチ無しシャルピー強さ、および、荷重たわみ温度(DTUL)について、バージン炭素繊維を用いた場合と比較して、かなり近い物性を達成した。
【0045】
一方、比較例1-4において、バージン炭素繊維を溶媒で洗浄し、収束剤を取り除き、且つ樹脂残渣も含有していない炭素繊維を用いたとき、コンパウンド時の炭素繊維の供給振れが大きく、供給が不安定となりコンパウンド不可能であった。
【要約】
ポリカーボネート樹脂とリサイクル炭素繊維を含み、かつ、バージン炭素繊維を配合した場合と比較して、できるだけ近い機械的強度を有する組成物、ならびに、ペレット、成形品および組成物の製造方法の提供。末端水酸基量が150~800ppmであるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、炭素繊維強化樹脂の加熱物であるリサイクル炭素繊維5~65質量部を含む組成物。