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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】アンテナ及び通信装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 9/30 20060101AFI20220404BHJP
   H01Q 9/16 20060101ALI20220404BHJP
   H01Q 19/02 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
H01Q9/30
H01Q9/16
H01Q19/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018076866
(22)【出願日】2018-04-12
(65)【公開番号】P2019186788
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 滋
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0029062(US,A1)
【文献】特開2009-135797(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038045(WO,A1)
【文献】特開2016-146558(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0097995(US,A1)
【文献】韓国公開特許第2011-0126488(KR,A)
【文献】特開2013-207708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 9/30
H01Q 9/16
H01Q 19/02
H01Q 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1誘電体層と、
前記第1誘電体層の一方の面に形成した金属からなるベース層と、前記ベース層から立設した鏡像壁層を有し、
前記第1誘電体層の他方の面であって、前記鏡像壁層との間に所定の隙間を形成して設けた放射素子層を有し、
前記放射素子層は前記ベース層と導通していないプレート状であり、
前記放射素子層の上部であって、当該放射素子層と平行に配置したアンテナ素子を有し、
前記アンテナ素子は前記放射素子層の上面に第2誘電体層を介して配置してあり、前記アンテナ素子と前記鏡像壁層とに給電点を設けてあることを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
前記アンテナ素子は前記鏡像壁層との間に所定の隙間を形成して配置してあることを特徴とする請求項記載のアンテナ。
【請求項3】
前記鏡像壁層は複数立設してあり、前記アンテナ素子は前記複数の鏡像壁層の間に配置してあることを特徴とする請求項1又は2記載のアンテナ。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のアンテナと、通信モジュールとを組み合せたことを特徴とする通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自由空間及び導体上のいずれの場合にも適用できる小型アンテナ及びそれを用いた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願に係る発明者は、先にメタマテリアル技術を用いた薄型で小型のアンテナを提案している(特許文献1,2)。
本発明者は、さらに小型を図ることが可能なアンテナを検討した結果、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-146558号公報
【文献】特開2011-55054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、薄型でありながら外型寸法が小さい小型のアンテナ及びそれを用いた小型の通信装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るアンテナは、第1誘電体層と、前記第1誘電体層の一方の面に形成した金属からなるベース層と、前記ベース層から立設した鏡像壁層を有し、前記第1誘電体層の他方の面であって、前記鏡像壁層との間に所定の隙間を形成して設けた放射素子層を有し、前記放射素子層の上部であって、当該放射素子層と平行に配置したアンテナ素子を有することを特徴とする。
【0006】
特許文献1に開示されているアンテナは、中央部のスリットを介して両側に板状の放射素子層とその上側に誘電体層を介して、ダイポールアンテナとして作動する一対の非接触型の給電素子を配設したものである。
これにより、インピーダンス整合がとれた薄型であって自由空間のみならず、導体上であっても使用できる小型のアンテナが得られた。
これに対して、本発明は上記スリット部の位置に反射板として機能する鏡像壁層を立設し、さらなる小型化を図った点に特徴がある。
本発明において、アンテナ素子は前記放射素子層の上面に第2誘電体層を介して配置してあり、前記アンテナ素子と前記鏡像壁層とに給電点を設ける態様が考えられる。
この場合にアンテナ素子は前記鏡像壁層からカギ状に延在させる例と、前記鏡像壁層との間に所定の隙間を形成して配置する例が考えられる。
【0007】
本発明において、アンテナ素子はダイポールアンテナとして作動する一対のアンテナ素子からなる態様が含まれる。
また、鏡像壁層は複数立設してあり、前記アンテナ素子は前記複数の鏡像壁層の間に配置してあってもよい。
この場合に詳細は後述するが、図2に示すようにアンテナ素子と鏡像壁層とに給電点F,Fを形成する態様と、図19に示すように一対のアンテナ素子にそれぞれ給電点F,Fを設ける態様がある。
アンテナ素子と鏡像壁層に給電点F,Fを形成する場合には、その高さをほぼ同じにするのがよい。
一方、一対のアンテナ素子に給電点F,Fを設ける場合には、鏡像壁層の高さは給電点より低くてもよい。
ここでアンテナ素子は、前記鏡像壁層の立設方向に沿った中心線と直角方向に配置する他には、前記鏡像壁層の立設中心線と水平方向に直交する水平中心線から所定の距離だけオフセットさせて配設してある形態にあっては、2周波数共用/広帯域型の小型アンテナが実現可能となる。
【0008】
本発明において、第1誘電体層及び第2誘電体層は誘電層として作用するものであれば、樹脂板等の非導電体のみならず、空間層であってもよい。
ベース層及び鏡像壁層は金属製であり、一体的に形成してもよく、別体を接合してもよい。
放射素子層は金属製であり、ベース層との間に第1誘電体層を挟み、概ね平行に配設されているものであれば、平面形状のみならず曲面形状であってもよい。
放射素子層は、鏡像壁層との間にスリット状の所定の隙間を有する以外は、ベース層と概ね同じ外形形状であってよい。
また、放射素子層は、長さ方向の内側に切り欠き部を設けた複数の放射素子片部にしてもよい。
また、一対のアンテナ素子に対応させて、この放射素子層を複数にしてもよい。
【0009】
本発明において鏡像壁層は、反射板として作用し、放射素子層及びアンテナ素子を写像させるのが目的であり、板状のみならず格子状,メッシュ状等であってもよい。
【0010】
本発明に係るアンテナは、通信モジュールと組み合せることで小型の通信装置となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアンテナは、鏡像壁層を設けることで、左右対称に放射素子層及び給電素子を形成した特許文献1に記載のアンテナと等価的になり、従来の約半分以下の大きさにすることが可能となる。
また、特許文献2に記載の構造に適用することで、小型のアンテナになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るアンテナの構造例を示す。
図2】(a)はアンテナの断面構造を示し、(b)はアンテナ素子を配置したアンテナ基板、(c)は放射素子層を配置したグリッド基板、(d)はベース層を配置した金属基板を示す。
図3】本発明に係る図1,2に示したアンテナ(A)と図32に示した従来のアンテナ(B)とのインピーダンス特性の比較を示す。 左のグラフは自由空間におけるインピーダンス特性を示し、右のグラフは金属上(導体上)でのインピーダンス特性を示す。 Xはリアクタンス成分、Rはレジスタンス成分を示す。
図4図1,2に示したアンテナ(A)と従来のアンテナ(B)とのVSWR特性を示す。
図5】放射パターンを示す。
図6】アンテナ素子をオフセット配置した2周波数対応型のアンテナの構造例を示す。
図7】(a)は断面構造、(b)はアンテナ基板、(c)はグリッド基板、(d)は金属基板を示す。
図8】設計比較したアンテナ仕様表を示す。
図9図8のアンテナ仕様におけるインピーダンス特性を示す。
図10図8のアンテナ仕様におけるVSWR特性を示す。
図11図8のアンテナ仕様における放射パターンを示す。
図12】本発明に係るオフセット型のアンテナ(A)の仕様と従来のアンテナ(B)の仕様比較を示す。
図13】共振周波数5GHタイプのアンテナ仕様における本発明(A)と従来(B)との比較を示す。
図14】オフセット型アンテナのインピーダンス特性を示す。
図15】オフセット型アンテナのVSWR特性を示す。
図16】オフセット型アンテナの放射パターンを示す。
図17】放射素子層の内側を切り欠いた例を示し、(a)~(d)は図2に相当し、(e)は斜視図を示す。
図18】アンテナ素子の変形例を示す。
図19】一対のアンテナ素子の例を示す。
図20図19に示したアンテナの(a)インピーダンス特性、(b)VSWR特性を示す。
図21図19に示したアンテナの放射特性を示す。
図22】2つの鏡像壁層を対向立設した例を示す。
図23図22に示したアンテナの(a)インピーダンス特性、(b)VSWR特性を示す。
図24図19に示したアンテナの放射特性を示す。
図25】一対の鏡像壁層の間に一対のアンテナ素子を配置した例を示す。
図26図25に示したアンテナの(a)インピーダンス特性、(b)VSWR特性を示す。
図27図25に示したアンテナの放射特性を示す。
図28】一対の鏡像壁層の間に1つのアンテナ素子を配置した例を示す。
図29図28に示したアンテナの(a)インピーダンス特性、(b)VSWR特性を示す。
図30図28に示したアンテナの放射特性を示す。
図31】従来のアンテナ構造例を示す。
図32】特許文献2のアンテナと比較した例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るアンテナの構造例を以下、図に基づいて説明する。
図1,2に、本発明に係るアンテナの構造例を示し、比較のため、引用文献1に開示されているアンテナの構造例を従来例として図31に示す。
また、引用文献2に開示されたアンテナとの比較を図32に示す。
図32においてMは、鏡像面を示す。
第1誘電体層12の一方の面(下面)に、金属製のベース層11aを配設し、その一端から第1誘電体層12の端部に沿って立設した鏡像壁層11bを設けてある。
ベース層11aと鏡像壁層11bとは、側面視で略L字形状の金属層11を形成していることになる。
第1誘電体層12の他方の面(上面)には、鏡像壁層11bとの間に所定の隙間としてスリット部Sを設けて、金属製の放射素子層13を形成してある。
放射素子層13の上面には、第2誘電体層14を形成し、その上にアンテナ素子15を配設した。
このアンテナ素子15は、鏡像壁層の面に対して直角方向に配設してある。
アンテナ素子15は、非接触型であり、鏡像壁層11bを反射面としたダイポールアンテナとして作動する。
アンテナ素子15と、鏡像壁層11bとの間にも所定の隙間として、スリット部Sを形成してあり、そのスリット幅(s)は図2に示すように、放射素子層13のスリット幅(s)と同じである。
図2(b)は第2誘電体層14の上面にアンテナ素子15を配置したアンテナ基板であり、(c)は放射素子層13を配置したグリッド基板を示す。(d)はベース層11aを表した金属基板である。
本実施例では、アンテナ素子15に給電点Fを形成し、鏡像壁層11bの上端部に給電点Fとを形成し、給電点F,Fが同じ高さになるように設定してある。
【0014】
従来例として、図31に特許文献1のアンテナの構造例を示す。
金属板111の上に第1誘電体層112を形成し、その上にs×2倍のスリット部を中央部に設け、その両側に放射素子層113を配置してある。
この放射素子層113の上に、第2誘電体層114を形成し、さらにその上に一対の給電素子115を有する。
一対の給電素子からなるダイポールアンテナはa×2+s×2の長さになる。
本発明に係るアンテナを以下、この従来例と比較しながら説明する。
【0015】
図2に示した本発明に係るアンテナのパラメータを下記のとおり設定し、図31の従来のアンテナと比較した。
給電点(Feeding point)は、図1図2(a)及び図31(a)に示したFとFである。
本実施例は、アンテナ素子15のスリット側端部の給電点F、鏡像壁層11bの上端部の給電点Fとし、この2点で給電する。
図31の従来例では、一対の給電素子115に給電点F,Fを有する。
高さH:4mm
長さL:29.7mm
幅W:30mm
放射素子長さg:29.45mm
スリット幅s:0.25mm
アンテナ素子長さa:12mm
アンテナ素子幅ww:1mm
第1誘電体厚みt:3.12mm,比誘電率ε:2.59
第2誘電体厚みt:0.74mm,比誘電率ε:2.53
金属層(放射素子層)には厚み0.018mmの銅箔を用いた。
なお、図31においては、計算式に上記の数値を入力した。
【0016】
図3にインビーダンス特性を示し、Xはリアクタンス成分、Rはレジスタンス成分を示す。
図4にVSWR特性を示す。
図5に放射パターンを示す。
(A)は本発明に係るアンテナ、(B)は比較例を示す。
図3,4において左側のグラフは自由空間におけるアンテナ特性、右側のグラフは金属上でのアンテナ特性を示す。
2.45GH付近でVSWRが、ほぼ1であり整合がとれている。
共振周波数2.45GHで基準化すると、L=0.25λ,H=0.033λ,W=0.25λとなる。
【0017】
次に、図6,7に示すようにアンテナ素子15を放射素子層13の水平中心線Gよりも、図7(b)では下側dだけオフセットさせた。
各パラメータの設定値を図8の表に示す。
図9にインピーダンス特性、図10にVSWR特性、図11に放射パターンを示す。
図8の表において、ベース層(金属基板)の長さLを基板長さLと表現してあり、31.5mm,30.5mm,29.75mm,29.65mmに対応させて基板の幅Wを(ア)24mm,(イ)27mm,(ウ)30mm,(エ)33mmとそれぞれ設定した。
また、アンテナ素子15の長さを図8の表ではアンテナ長aと表現し、アンテナ基板の水平中心線G(鏡像壁層11bの立設中心線に対して水平方向に直交する中心線)からの下側へのオフセット量dを(ア)~(エ)に対応して8mm,9.5mm,11mm,12.5mmに設定した。
図9に示したインピーダンス特性及び図10に示したVSWRの特性を見ると、2.45GH付近の共振周波数fは、アンテナ長aとグリッド幅gの値で決定されるのに対して、基板幅Wとオフセット量dを設定することで第2の共振周波数fがシフトして出現することが分かる。
図11の放射パターンを見ると(ア)~(エ)のいずれにおいても放射パターンに大きな差がないことが分かる。
【0018】
図12は基板幅W=27mmにおける、本発明に係るアンテナ(A)と従来のアンテナ(B)とを計算で比較した例を示す。
長さが従来の約半分になることが分かる。
図13にf:5.25GH,f:5.65GHに設定した場合のアンテナの仕様の計算例を示す。
(A)は本発明、(B)は従来例である。
その場合のインピーダンス特性を図14,VSWR特性を図15,放射パターンを図16に示す。
この場合も、アンテナの長さが従来例に対して約半分になる。
【0019】
図17に示したアンテナの実施例は、放射素子層13aの内側を切り欠いて、複数の片部g,gにて形成した例を示す。
この効果は、特許文献1に記載と同様の効果を示す。
【0020】
図18は、アンテナ素子15aを鏡像壁層11bからカギ型に延在させたaとaからなり、aと鏡像壁層11bとの間に隙間を形成し、給電点F,Fとした例である。
【0021】
図19は、第2誘電体層14の上面に一対のアンテナ素子15b,15cを配置し、給電点F,Fとした例である。
この場合には鏡像壁層11bの高さは、放射素子13cよりも高ければアンテナ素子15cの高さよりも低くてもよい。
H:4mm,W:30mm,L:48.3mm
放射素子13b,13cのグリッド幅、g:31mm,g:16mm,スリットS:0.5mm,スリットS:0.25mmに設計した場合のインピーダンス特性を図20、放射特性を図21にそれぞれ示す。
図2に示した基本型に比較して低いインピーダンスとなり、広帯域化している。
【0022】
図22に示した実施例は、ベース層11aの両側から対向させて、第1の鏡像壁層11bと、第2の鏡像壁層11cを立設し、その間に一対のアンテナ素子15b,15cを配設した例である。
アンテナ素子15b,15cにそれぞれ給電点F,Fを形成してある。
アンテナ素子15b,15cは、線状アンテナであり、鏡像壁層11bの立設面と直交する方向であって、片側に直線状に配置してある。
この場合に、放射素子層を13dと13eに分割配置した。
H:4mm,W:30mm,L:39mm,g=g:19mm,s:0.5mm,s=s:0.25mmに設計した。
この場合のインピーダンス特性を図23,放射特性を図24にそれぞれ示す。
この場合も基本型に比較して、広帯域化している。
【0023】
図25に示したアンテナは、図22に比較して、L:32.5mm,g:7mm,g:24.5mm設計した場合で、そのインピーダンス特性を図26、放射特性を図27に示す。
【0024】
図28には、対向配置した第1,第2の鏡像壁層11b,11cの間にアンテナ素子15dを直線状に配設し、アンテナ素子15dと一方の鏡像壁層とに給電点F,Fを設けた例である。
図28にて、H:4mm,W:30mm,L:22.6mm,g:22.1mm,s:0.25mmに設計した場合のインピーダンス特性と放射特性を図29図30に示す。
【符号の説明】
【0025】
11 金属層
11a ベース層
11b 鏡像壁層
12 第1誘電体層
13 放射素子層
14 第2誘電体層
15 アンテナ素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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