(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】発電装置用の電極、及び、発電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20220404BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M4/96 B
H01M8/16
(21)【出願番号】P 2017251630
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 耕造
(72)【発明者】
【氏名】グエン トラン ダン
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-059448(JP,A)
【文献】特開2016-154106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/96
H01M 8/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極と、このアノード電極に電気的に接続されたカソード電極と、前記アノード電極が配置された領域と前記カソード電極が配置された領域とを区画するセパレータと、を備える発電装置であって、
前記アノード電極は、炭素繊維をバインダで接合してなる炭素繊維シート材と、炭素繊維シート材に含まれた、前記炭素繊維とは異なる導電材料とを備え、
前記アノード電極に、微生物が保持され、
前記アノード電極に、前記微生物によって分解される有機物が含まれている、発電装置。
【請求項2】
前記
アノード電極が、前記導電材料として活性炭を備えている、請求項1に記載の発電装
置。
【請求項3】
前記
アノード電極が、前記導電材料としてさらにカーボンナノチューブを備えている、請求項2に記載の発電装
置。
【請求項4】
発電のために水が供給される発電装置用のアノード電極であって、
発電のために供給された前記水を分解する触媒としての活性炭を含む炭素繊維シートを備え、
前記活性炭は、カーボンナノチューブをバインダとして、前記炭素繊維シートに接合されており、
前記発電装置は、微生物燃料電池又は水分解電池である
アノード電極。
【請求項5】
アノード電極と、このアノード電極に電気的に接続されたカソード電極と、前記アノード電極が配置された領域と前記カソード電極が配置された領域とを区画するセパレータと、を備える発電装置であって、
前記アノード電極は、発電のために供給された水を分解する触媒としての活性炭を含む炭素繊維シートを備え、
前記活性炭は、カーボンナノチューブをバインダとして、前記炭素繊維シートに接合されており、
微生物燃料電池又は水分解電池である、発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電装置に用いられる電極、及び、発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物の代謝反応を利用して有機物である燃料を電気エネルギーに変換し、発電する装置が知られている。一般に、この種の発電装置は微生物燃料電池と呼ばれ、アノード電極とカソード電極とを備えている。そして、微生物燃料電池は、燃料としての有機物が微生物によって分解されるときに発生する電子をアノード電極にて回収し、アノード電極から外部回路を経由してカソード電極へ移動させる。また、アノード電極において発生したプロトンは、カソード電極へ移動した電子と酸素と反応して水を生じさせる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のような電池は、燃料としての有機物を微生物に与えることによって、電力を簡単に生成することができるが、その電力自体は微弱であるため、適用範囲が限られる。
そこで、本発明は、発電装置の出力の向上を図ることが可能な電極及び発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明の発電装置用の電極は、炭素繊維をバインダで接合してなる炭素繊維シート材と、炭素繊維シート材に含まれた、前記炭素繊維とは異なる導電材料とを備えている。
本発明の電極は、炭素繊維シート材に導電材料が含まれているので、単に炭素繊維シート材のみの電極よりも電気抵抗を低下させることができ、発電装置の出力の向上を図ることができる。
【0006】
(2)好ましくは、前記電極が、前記導電材料として活性炭を備えている。
これにより、電気抵抗の低い電極を構成することができる。
【0007】
(3)好ましくは、前記電極が、前記導電材料としてさらにカーボンナノチューブを備えている。
このように炭素繊維シート材にカーボンナノチューブが含まれることによって電極の表面積を拡大させることができ、さらに電気抵抗を低下させることができる。また、カーボンナノチューブは、炭素繊維シート材に活性炭を接合させるためのバインダとして機能し、炭素繊維シート材に活性炭を安定して接合させることができる。
【0008】
(4)本発明の発電装置は、アノード電極と、このアノード電極に電気的に接続されたカソード電極と、前記アノード電極が配置された領域と前記カソード電極が配置された領域とを区画するセパレータと、を備え、前記アノード電極が上記の電極である。
【0009】
(5)好ましくは、前記アノード電極に、微生物が保持されている。
このような構成によって、電極に保持された微生物の代謝反応により発電を行う微生物燃料電池を構成することができる。また、電極がカーボンナノチューブを含む場合には、表面積の拡大によってより多くの微生物を保持することができ、出力を高めることが可能となる。
【0010】
(6)好ましくは、前記アノード電極に、前記微生物によって分解される有機物が含まれている。
このような構成によって、アノードに含まれる有機物を燃料として発電を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発電装置の出力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態に係る発電装置としての微生物燃料電池を概略的に示す説明図である。
【
図2】第2の実施形態に係る発電装置としての水分解電池を概略的に示す説明図である。
【
図3】発電装置の具体的構造の第1例を示す斜視図である。
【
図4】(a)は発電装置の平面図、(b)は同底面図である。
【
図8】(a)は
図4(a)のA-A線における模式的な断面図、(b)は
図4(a)のB-B線における模式な断面図である。
【
図9】発電装置の具体的構造の第2例を示す斜視図である。
【
図10】(a)は発電装置の平面図、(b)は同底面図である。
【
図14】(a)は
図10(a)のC-C線における模式的な断面図、(b)は
図10(a)のD-D線における模式的な断面図である。
【
図15】発電装置の具体的構造の他の例を示す斜視図である。
【
図16】発電装置の筐体にカソード電極を形成する様子を示す斜視図である。
【
図17】アノード電極の種類を変化させたときの微生物燃料電池の特性を示すグラフである。
【
図18】アノード電極の種類を変化させたときの微生物燃料電池の特性を示すグラフである。
【
図19】アノード電極の種類を変化させたときの微生物燃料電池の特性を示すグラフである。
【
図20】微生物燃料電池の最大電力密度を示すグラフである。
【
図21】微生物燃料電池の最大電力密度を示すグラフである。
【
図22】アノード電極を形成するカーボンペーパーの数を変化させたときの微生物燃料電池の特性を示すグラフである。
【
図23】アノード電極を形成するカーボンペーパーの数を変化させたときの微生物燃料電池の特性を示すグラフである。
【
図24】電池作製後の時間の経過に伴う微生物燃料電池の特性の変化を示すグラフである。
【
図25】電池作製後の時間の経過に伴う微生物燃料電池の特性の変化を示すグラフである。
【
図26】アノード電極の種類を変化させたときの水分解電池の特性を示すグラフである。
【
図27】アノード電極の種類を変化させたときの水分解電池の特性を示すグラフである。
【
図28】アノード電極の種類を変化させたときの水分解電池の特性を示すグラフである。
【
図29】水分解電池の最大電力密度を示すグラフである。
【
図30】水分解電池の最大電力密度を示すグラフである。
【
図31】アノード電極を形成するカーボンペーパーの数を変化させたときの水分解電池の特性を示すグラフである。
【
図32】アノード電極を形成するカーボンペーパーの数を変化させたときの水分解電池の特性を示すグラフである。
【
図33】水分解電池の最大電力密度を示すグラフである。
【
図34】水分解電池の最大電力密度を示すグラフである。
【
図35】アノード領域に供給する溶液の種類を変えたときの水分解電池の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
本明細書では、発電装置として作動原理の異なる二種類の電池、具体的には微生物燃料電池と水分解電池とをそれぞれ説明する。その後、各電池に適用することができる発電装置の具体的構造について例示する。
【0014】
[微生物燃料電池]
図1は、第1の実施形態に係る発電装置としての微生物燃料電池を概略的に示す説明図である。
この微生物燃料電池10は、微生物20が有機物である燃料を分解する作用を利用して発電を行うものである。微生物燃料電池10は、筐体11と、アノード電極12と、カソード電極13と、セパレータ14とを備えている。
【0015】
筐体11は、アノード電極12が配置されるアノード領域17を備えており、このアノード領域17内には外部から供給された水分を貯留することができる。ただし、発電装置10の不使用時には、アノード領域17は乾燥状態とされる。
アノード電極12とカソード電極13とは外部回路(負荷抵抗)15を介して電気配線により電気的に接続されている。
【0016】
(アノード電極)
アノード電極12は、炭素材料を含む炭素繊維シート材により構成されている。炭素繊維シート材は、炭素繊維をバインダによって結合させたものであり、例えば一般に電極として用いられる市販のカーボンペーパーを用いることができる。炭素材料は、炭素繊維とは異なる材料であり、例えば活性炭である。
【0017】
本実施形態のアノード電極12に含まれる活性炭は導体(導電材料)であり、アノード電極12の電気抵抗を低下させる。また、活性炭は、水を分解する触媒としても機能する。具体的には、活性炭は、水を分解してプロトン(H+)及び電子(e-)を生成する機能を有する。また、アノード電極12には、炭素材料として活性炭の他に、導体であるカーボンナノチューブが含まれる。ただし、カーボンナノチューブは省略してもよい。
【0018】
アノード電極12は、例えば次のように作製することができる。まず、カーボンナノチューブと活性炭の粉末とを分散させた水溶液に、炭素繊維シート材を所定時間浸す。これにより炭素繊維シート材にカーボンナノチューブと活性炭とが浸透する。その後、炭素繊維シート材を乾燥させる。この状態のアノード電極12は疎水性となるため、さらにプラズマ処理を施すことによって親水性を高める。カーボンナノチューブは、炭素繊維シート材に活性炭を接合させるためのバインダとしても機能し、炭素繊維シート材に活性炭を安定して接合させることができる。
【0019】
また、カーボンナノチューブを省略する場合には、活性炭を含む水溶液に炭素繊維シート材を所定時間浸し、その後、炭素繊維シートを乾燥させることによってアノード電極12を作製することができる。
【0020】
アノード電極12には、有機物を分解する微生物20が保持されている。すなわち、アノード電極12は、微生物20を保持するための「保持体」を構成している。
アノード電極12は、微生物20を培養している培養液に所定時間浸した後、乾燥させることによって微生物20を乾燥状態で保持することができる。このとき、培養液に含まれるエサである有機物もアノード電極12に含まれ、乾燥状態で保持された状態となる。
【0021】
(微生物)
微生物20としては、大腸菌、酵母菌、又は枯草菌を用いることができる。大腸菌及び酵母菌は、グルコース等の有機物を分解することができる。枯草菌としては、納豆菌を用いることができる。枯草菌は、有機物としてのセルロースやグルコースを分解する。また、枯草菌は、栄養分が枯渇すると、芽胞を形成して休眠状態となり、高温状態や乾燥状態等の劣悪な環境下においても長期間にわたって生存状態を維持する。一方、芽胞を形成した枯草菌は、栄養が与えられると休眠状態を終えて発芽し、増殖する。このような枯草菌の性質を利用することによって、長期保存可能な発電装置10を実現することができる。なお、本発明で用いる微生物は、乾燥状態で生存可能でないものであってもよく、セルロースやグルコース以外の有機物を分解するものであってもよい。
【0022】
(カソード電極)
カソード電極13は、炭素材料及び酸化還元用の触媒を含むシート材により構成されている。シート材は不導体である。シート材は、例えばパルプ等の植物繊維により形成された濾紙が用いられる。炭素材料には、導体(導電材料)であるカーボンナノチューブが用いられる。触媒は、プロトン(H+)と電子(e-)と酸素(O2)が水(H2O)になる酸化還元反応を促進する触媒である。触媒としては、例えばフェリシアン化カリウム又はCuCl2(塩化銅)が用いられる。
【0023】
カソード電極13は、例えば、次のように作製することができる。カソード電極13は、カーボンナノチューブと触媒とを含む水溶液を濾紙に付着させて浸透させ、その後乾燥させることによって作製することができる。カソード電極13は、乾燥した環境で用いられる、いわゆるエアカソードである。
【0024】
(セパレータ)
セパレータ14は、アノード領域17で発生したプロトン(水素イオン)を透過可能であり、アノード領域17内の水分の透過を防止するものである。このセパレータ14として、一般的にはプロトン交換膜(PEM)が用いられる。ただし、本実施形態では、PEMに代えて、疎水化処理が施されたシート材がセパレータ14として用いられている。この場合、例えば、不導体であるパルプ等の植物繊維により形成された濾紙(例えば、孔径が約5μm)に防水剤を塗布(疎水化処理)することによってセパレータ14を作製することができる。紙製のセパレータ14は、プロトン交換膜と比べて安価に作製することができるとともに、使用後の廃棄が容易になるという利点を有する。
【0025】
セパレータ14として孔径がより小さい濾紙(例えば、約0.05μm)を用いれば、濾紙自体で水分の透過を阻止することができるため、疎水化処理を行わなくてもよい。しかし、この場合、濾紙が非常に高価となるため、コストの面では、比較的孔径の大きな濾紙に対して疎水化処理を施すことが好ましい。
【0026】
(発電装置の作用)
図1に示すように、微生物燃料電池10のアノード領域17に水分が供給されると、アノード電極12に保持されていた微生物20は有機物を分解し、プロトン(H
+)及び電子(e
-)を生成する。電子(e
-)は、アノード電極12で回収され、外部回路を経由してカソード電極13に移動する。プロトン(H
+)は、セパレータ14を透過してカソード電極13に移動する。カソード電極13において、外気から取り込まれた酸素と、カソード電極13に移動した電子(e
-)及びプロトン(H
+)との反応により水が発生する。
【0027】
アノード電極12は、炭素繊維シート材に微生物20と有機物とを含ませたものであるので、外部から燃料を供給しなくても発電を行うことができる。つまり、アノード電極12自体を燃料として発電を行うことができる。そのため、水さえあれば環境を問わずに発電を行うことができる。例えば、屋外において、河水、海水、雨水、廃水(排水)等を用いて発電を行うことができる。微生物20を培養した培養液にアノード電極12を浸すことによって、容易にアノード電極12に微生物と有機物とを含ませることができる。
【0028】
アノード電極12は活性炭を含んでいるので、より内部抵抗が低下する。そのため、出力電圧を高めることが可能となる。アノード電極12に含まれる活性炭は、水を分解する触媒として作用する。この作用によって水からプロトン(H+)及び電子(e-)を生成し、発電を促進することができる。また、アノード電極12及びカソード電極13は、カーボンナノチューブを含んでいるので、表面積が拡大し、内部抵抗が低下する。アノード電極12の表面積が拡大することによって、より多くの微生物20を保持することが可能となる。
【0029】
また、カソード電極13には、触媒としてフェリシアン化カリウム又はCuCl2が含まれているので、カソード電極13において、酸素とプロトンと電子とが水になる酸化還元反応を促進することができ、出力電圧をより高めることができる。
【0030】
[水分解電池]
図2は、第2の実施形態に係る発電装置としての水分解電池の概略的に示す説明図である。
本実施形態の水分解電池10は、水を分解する作用を利用して発電を行うものである。水分解電池10は、筐体11と、アノード電極12と、カソード電極13と、セパレータ14とを備えている。
【0031】
筐体11は、アノード電極12が配置されるアノード領域17を備えており、このアノード領域17内には外部から供給された水分を貯留することができる。ただし、発電装置10の不使用時には、アノード領域17は乾燥状態とされる。
アノード電極12とカソード電極13とは外部回路(負荷抵抗)15を介して電気配線により電気的に接続されている。
【0032】
(アノード電極)
アノード電極12は、炭素材料を含む炭素繊維シート材により構成されている。炭素繊維シート材は、炭素繊維をバインダによって結合させたものであり、例えば一般に電極として用いられる市販のカーボンペーパーを用いることができる。炭素材料は、炭素繊維とは異なる材料であり、例えば活性炭である。
本実施形態のアノード電極12に含まれる活性炭は導体(導電材料)であり、アノード電極12の電気抵抗を低下させる。また、活性炭は、水を分解する触媒としても機能する。具体的には、活性炭は、水を分解してプロトン(H+)及び電子(e-)を生成する機能を有する。また、アノード電極12には、炭素材料として活性炭の他に、導体であるカーボンナノチューブが含まれる。ただし、カーボンナノチューブは省略してもよい。
【0033】
アノード電極12は、例えば次のように作製することができる。まず、カーボンナノチューブと活性炭の粉末とを分散させた水溶液に、炭素繊維シート材を所定時間浸す。これにより炭素繊維シート材にカーボンナノチューブと活性炭とが浸透する。その後、炭素繊維シート材を乾燥させる。この状態のアノード電極12は疎水性となるため、さらにプラズマ処理を施すことによって親水性を高める。カーボンナノチューブは、炭素繊維シート材に活性炭を接合させるためのバインダとしても機能し、炭素繊維シート材に活性炭を安定して接合させることができる。
【0034】
また、カーボンナノチューブを省略する場合には、活性炭を含む水溶液に炭素繊維シート材を所定時間浸し、その後、炭素繊維シートを乾燥させることによってアノード電極12を作製することができる。
【0035】
(カソード電極)
カソード電極13は、微生物燃料電池のカソード電極13と同一である。すなわち、カソード電極13は、炭素材料及び酸化還元用の触媒を含むシート材により構成されている。シート材は、不導体である。シート材は、例えばパルプ等の植物繊維により形成された濾紙が用いられる。炭素材料には、導体(導電材料)であるカーボンナノチューブが用いられる。触媒は、プロトン(H+)と電子(e-)と酸素(O2)が水(H2O)になる酸化還元反応を促進する触媒である。触媒としては、例えばフェリシアン化カリウム又はCuCl2が用いられる。
【0036】
カソード電極13は、例えば、次のように作製することができる。カソード電極13は、カーボンナノチューブと触媒とを含む水溶液を濾紙に付着させて浸透させ、その後乾燥させることによって作製することができる。カソード電極13は、乾燥した環境で用いられる、いわゆるエアカソードである。
【0037】
(セパレータ)
セパレータ14は、アノード領域17で発生したプロトン(水素イオン)を透過可能であり、アノード領域17内の水分の透過を防止するものである。このセパレータ14として、一般的にはプロトン交換膜(PEM)が用いられるが、本実施形態の水分解電池10では、前述の微生物燃料電池と同様に、PEMに代えて疎水化処理が施されたシート材がセパレータ14として用いられている。この場合、例えば、不導体であるパルプ等の植物繊維により形成された濾紙(例えば、孔径が約5μm)に防水剤を塗布(疎水化処理)することによってセパレータ14を作製することができる。紙製のセパレータ14は、プロトン交換膜と比べて、安価に作製することができるとともに、使用後の廃棄が容易になるという利点を有する。
【0038】
セパレータ14として孔径がより小さい濾紙(例えば、約0.05μm)を用いれば、濾紙自体で水分の透過を阻止することができるため、疎水化処理を行わなくてもよい。しかし、この場合、濾紙が非常に高価となるため、コストの面では、比較的孔径の大きな濾紙に対して疎水化処理を施すことが好ましい。
【0039】
(発電装置の作用)
図2に示すように、水分解電池10のアノード領域17に水分が供給されると、アノード電極12に含まれる活性炭の触媒としての機能により、水が酸素とプロトン(H
+)と電子(e
-)とに分解される。電子(e
-)は、アノード電極12で回収され、外部回路を経由してカソード電極13に移動する。プロトン(H
+)は、セパレータ14を透過してカソード電極13に移動する。カソード電極13において、外気から取り込まれた酸素と、カソード電極13に移動した電子(e
-)及びプロトン(H
+)との反応により水が発生する。
【0040】
アノード電極12は、炭素繊維シート材に活性炭を含ませたものであるので、外部から燃料等を供給しなくても水を供給するだけで発電を行うことができる。そのため、水さえあれば環境を問わずに発電を行うことができる。例えば、屋外において、河水、海水、雨水、廃水(排水)等を用いて発電を行うことができる。また、微生物燃料電池のように、微生物20や有機物も不要である。そのため、電池10をより簡単且つ安価に作製することができる。
【0041】
アノード電極12及びカソード電極13は、カーボンナノチューブを含んでいるので、表面積が拡大し、内部抵抗が低下する。
また、アノード電極12は、活性炭を含んでいるので、より内部抵抗が低下する。そのため、出力電圧を高めることが可能となる。
【0042】
また、カソード電極13には、触媒としてフェリシアン化カリウム又はCuCl2が含まれているので、カソード電極13において、酸素とプロトンと電子とが水になる酸化還元反応を促進することができ、出力電圧をより高めることができる。
【0043】
[発電装置の具体的構造]
以下、上記各実施形態の発電装置に適用することができる具体的な発電装置の構造について説明する。以下の各例の発電装置は、例えば非常用バッテリとして使用することが想定され、平常時は、乾燥状態で保存され、非常時のみに発電を行って電気機器等に通電を行い、使用後は廃棄される使い捨てタイプとされている。
【0044】
(第1例)
図3は、発電装置の具体的構造の第1例を示す斜視図である。
図4(a)は発電装置の平面図、
図4(b)は同底面図である。
発電装置である電池10の筐体11は、平面視及び底面視において矩形状、具体的には正方形状に形成されている。また、筐体11の表面側と、裏面側とには、それぞれケーブルの端子を接続するための端子接続部33b,34bが設けられている。
【0045】
筐体11は、表面側に配置された第1外装シート材31と、裏面側に配置された第2外装シート材32とを有している。筐体11は、第1外装シート材31と第2外装シート材32との間に、第1及び第2内装シート材33,34を有している。第1及び第2外装シート材31,32、第1及び第2内装シート材33,34は、1枚のシート材を折り畳むことによって構成されている。
【0046】
図5は、発電装置を展開した状態の斜視図、
図6は、展開した筐体の平面図、
図7は、展開した筐体の底面図である。
第1例の電池10の筐体11は、第1内装シート材33、第2内装シート材34、第1外装シート材31、及び第2外装シート材32がこの順で1列に接続された1枚の帯状のシート材30により構成されている。このシート材30は、前述のカソード電極13及びセパレータ14で用いられるシート材と同種のシート材により構成される。そして、第1例の電池10は、筐体11を構成するシート材30を用いてカソード電極及びセパレータが形成されている。第1例のシート材30は、不導体である濾紙により形成されている。
【0047】
第1内装シート材33の中央には矩形状の開口33aが形成されている。また、第1内装シート材33の一方の面には、アノード電極12用の端子接続部33bが設けられている。この端子接続部33bは、開口33aの1辺と、これに近接する第1内装シート材33の側辺との間に渡って設けられている。また、端子接続部33bは、
図6に示すように、開口33aを介して第1内装シート材33の他方の面側にも設けられている。この端子接続部33bは、導電性を有している。端子接続部33bは、例えば、カーボンナノチューブを分散した水溶液を、第1内装シート材33に浸透させることによって構成されている。
【0048】
図5及び
図6に示すように、第2内装シート材34の一方の面には、カソード電極13と端子接続部34bとが設けられている。このカソード電極13及び端子接続部34bは、前述したように、カーボンナノチューブと酸化還元用触媒とを含む水溶液を第2内装シート材34に浸透させることによって設けられている。より具体的には、
図16に示すように、カソード電極13と端子接続部34bとを象ったスタンプ40の接触面40aに前記水溶液を付着させ、第2内装シート材34の一方の面に、スタンプ40の接触面40aを接触させることによってカソード電極13と端子接続部34bとを第2内装シート材34に設けることができる。
【0049】
また、
図7に示すように、第2内装シート材34の他方の面には、防水剤36が塗布されている。この防水剤は、少なくともカソード電極13の裏面側に重複する範囲に設けられている。より好ましくは、防水剤36は、第2内装シート材34の他方の面全体に施される。この第2内装シート材34は、電池10のセパレータ14(
図1及び
図2参照)を構成している。すなわち、第2内装シート材34は、アノード電極12側からプロトン(H
+)の透過を許容し、水分の透過を防止している。
【0050】
図5~
図7に示すように、第1外装シート材31には、外部から電池10内へ水を供給するための給水孔31aが形成されている。この給水孔31aは、筐体11を折り畳んだ状態でアノード電極12を外部に露出させる。
また、第1外装シート材31の側辺には、筐体11を折り畳んだ状態でアノード電極12用の端子接続部33bを外部に露出させるための切欠部31bが形成されている。
【0051】
第2外装シート材32の側辺には、筐体11を折り畳んだ状態でカソード電極13用の端子接続部34bを外部に露出させるための切欠部32bが形成されている。
筐体11を構成する帯状のシート材30の第2外装シート材32側の端部には、2つの差し込み片35aが設けられている。この差し込み片35aは、
図3に示すように、筐体11を折り畳んだ状態で第2内装シート材34と第1外装シート材31との境界に形成されたスリット35bに差し込まれる。これによって、筐体11が折り畳んだ状態で保持される。
【0052】
図5に示すように、アノード電極12は、複数の炭素繊維シート材(シート状電極材)12aを重ね合わせることによって構成され、第1内装シート材33の他方の面、すなわち端子接続部33bとは反対側の面における開口33aに合わせて配置される。
【0053】
図8(a)は、
図4(a)のA-A線における模式的な断面図、
図8(b)は
図4(a)のB-B線における模式的な断面図である。
アノード電極12は、第1内装シート材33と第2内装シート材34との間に挟まれている。第1内装シート材33と第2内装シート材34とは、アノード電極12の周囲において接着材37で接着されている。また、アノード電極12は、第2内装シート材34に設けられた防水剤36に重ね合わされている。
【0054】
第1外装シート材31の給水孔31aからアノード電極12に水が供給されると、
図1及び
図2で説明したように、電子がアノード電極12から端子接続部33bを介して負荷15へ流れ、カソード電極13へ移動する。一方、アノード電極12において発生したプロトン(H
+)は、セパレータ14を構成する第2内装シート材34を透過してカソード電極13に到り、プロトン(H
+)と電子(e
-)と外気の酸素とによって水(H
2O)が生成される。
【0055】
本例の電池10は、筐体11が紙(濾紙)で形成され、紙を折り畳むことによって構成されている。したがって、電池10をより小型(薄肉)で軽量に形成することができる。
また、第1例の電池10は、筐体11を構成する第2内装シート材34と一体にカソード電極13が設けられている。そのため、第2内装シート材34とは別体でカソード電極13を設ける場合に比べて電池10を小型化(薄肉化)かつ軽量化することができる。また、アノード電極12側からプロトン(H+)をより迅速にカソード電極13に移動させることができ、酸化還元反応のレスポンスが良好となって発電効率を向上させることができる。
【0056】
カソード電極13は、カーボンナノチューブ及び触媒を含む水溶液を第2内装シート材34に浸透させて乾燥させることにより構成されているので、容易にカソード電極13を形成することができる。また、
図16に示すように、スタンプ40を用いることによって、所定形状のカソード電極13を容易に形成することができる。なお、カソード電極13は、スタンプ40以外の方法で第2内装シート材34に形成してもよい。
【0057】
本例の電池10は、アノード電極12が、筐体11とは別体で構成されている。そのため、
図1に示す微生物燃料電池の場合は、アノード電極12に対して微生物20及び有機物を含ませる処理を容易に行うことができる。また、複数枚の薄い炭素繊維シート材(シート状電極材)12aを重ね合わせてアノード電極12を構成することも容易となる。
【0058】
アノード電極12は、活性炭及びカーボンナノチューブ、又は、活性炭のみを浸透させた複数枚の炭素繊維シート材(シート状電極材)を重ね合わせて接着することにより形成されている。例えば、0.2mmの炭素繊維シート材を3枚重ね合わせて0.6mmのアノード電極12が形成されている。このように複数枚の薄い炭素繊維シート材を重ね合わせてアノード電極12を形成することによって、1枚の分厚い炭素繊維シート材によってアノード電極を形成する場合に比べて、各炭素繊維シート材に対して活性炭及びカーボンナノチューブ、又は、活性炭のみを短時間でより多く含ませることができ、導電性が高いアノード電極12を形成することができる。
【0059】
電池10の筐体11は、シート材30により形成されることで電池10を小型化(薄肉化)かつ軽量化することができる。また、筐体11が1枚のシート材30を折り畳むことにより構成されているので、筐体11を構成する部品の点数を少なくすることができる。
【0060】
第2外装シート材32は、カソード電極13を外側から覆っているので、当該カソード電極13を保護することができる。また、第1外装シート31は、アノード電極12を外側から覆っているので、当該アノード電極を保護することができる。
【0061】
(第2例)
図9は、発電装置の具体的構造の第2例を示す斜視図である。
図10(a)は発電装置の平面図、
図10(b)は同底面図である。
本例の電池10は、専ら筐体11の構造が第1例とは異なり、その他の構成は第1例と略同様である。
【0062】
本例の筐体11は、平面視及び底面視において矩形状、具体的には正方形状に形成されている。また、筐体11の裏面側には、ケーブルの端子を接続するための端子接続部71b,73bが設けられている。
【0063】
図9に示すように、筐体11は、表面側に配置された第1外装シート材71と、裏面側に配置された第2外装シート材72とを有している。筐体11は、第1外装シート材71と第2外装シート材72との間に、内装シート材73を有している。第1及び第2外装シート材71,72、内装シート材73は、1枚のシート材を折り畳むことによって構成されている。
【0064】
図11は、発電装置を展開した状態の斜視図、
図12は、展開した筐体の平面図、
図13は、展開した筐体の底面図である。
第2例の電池10の筐体11は、内装シート材73、第1外装シート材71、及び第2外装シート材72がこの順で1列に接続された1枚の帯状のシート材70により構成されている。このシート材70は、第1例のカソード電極13及びセパレータ14で用いられるシート材と同種のシート材、すなわち不導体である濾紙により形成されている。
【0065】
図11~
図13に示すように、第1外装シート材71の中央には、外部から電池10内へ水を供給するための給水孔71aが形成されている。この給水孔31aは、筐体11を折り畳んだ状態でアノード電極12を外部に露出させる。また、第1内装シート材33の一方の面には、アノード電極12用の端子接続部71bが設けられている。この端子接続部71bは、給水孔71aと、これに近接する第1外装シート材71の側辺との間に渡って設けられている。この端子接続部71bは、導電性を有している。端子接続部71bは、例えば、カーボンナノチューブを分散した水溶液を、第1外装シート材71に浸透させることによって構成されている。
【0066】
内装シート材73の一方の面には、カソード電極13と端子接続部73bとが設けられている。また、
図12に示すように、内装シート材73の他方の面には、防水剤76が塗布されている。これらカソード電極13、端子接続部73b、及び防水材76の構成は、第1例と同様である。内装シート材73は、電池10のセパレータ14(
図1及び
図2参照)を構成し、アノード電極12側からプロトン(H
+)の透過を許容し、水の透過を防止している。
【0067】
また、内装シート材73の側辺には、筐体11を折り畳んだ状態でアノード電極12用の端子接続部71bを外部に露出させるための切欠部73cが形成されている。
【0068】
第2外装シート材72の側辺には、筐体11を折り畳んだ状態でアノード電極12用の端子接続部71bと、カソード電極13用の端子接続部73bとをそれぞれ外部に露出させるための切欠部72b,72cが形成されている。
【0069】
筐体11を構成する帯状のシート材70の第2外装シート材72側の端部には、固定片75が設けられている。この固定片75は、
図9に示すように、筐体11を折り畳んだ状態で第1外装シート材71の表面に両面テープ等で接着されることで、筐体11が折り畳んだ状態で保持される。
【0070】
図11に示すように、アノード電極12は、第1例と同様に、複数の炭素繊維シート材(シート状電極材)12aを重ね合わせることによって構成され、第1外装シート材71の一方の面、すなわち端子接続部71b側の面における給水孔71aに合わせて配置され、同面に接着される。
【0071】
図14(a)は、
図10(a)のC-C線における模式的な断面図、
図14(b)は
図10(a)のD-D線における模式的な断面図である。
アノード電極12は、第1外装シート材71と内装シート材73との間に挟まれている。アノード電極12は、接着材77で第1外装シート材71に接着されている。また、アノード電極12は、内装シート材73に設けられた防水剤76に重ね合わされている。
【0072】
第1外装シート材71の給水孔71aからアノード電極12に水が供給されると、
図1及び
図2で説明したように、電子(e
-)がアノード電極12から端子接続部73bを介して負荷15へ流れ、カソード電極13へ移動する。一方、アノード電極12において発生したプロトン(H
+)は、セパレータ14を構成する内装シート材73を透過してカソード電極13に到り、プロトン(H
+)と電子(e
-)と外部の酸素によって水(H
2O)が生成される。
【0073】
第2例の電池10は、筐体11を構成する内装シート材の数が第1例よりも少なくなっている。したがって、電池10をより小型(薄肉)で軽量に形成することができる。その他の構成は、第1例と略同様であるため、略同様の作用効果を奏する。
【0074】
(他の例)
図15は、発電装置の具体的構造の他の例を示す斜視図である。
発電装置としての電池10は、
図15(a)に示すように、第1シート材81と第2シート材82とを備え、第1シート材81と第2シート材82とは、両者の境界で折り畳まれることによって互いに重ね合わされている。電池10は、第1シート材81と第2シート材82との間にアノード電極12を備え、第2シート材82にカソード電極13が一体に形成されたものであってもよい。すなわち、第1例の電池10における第1,第2外装シート材31,32を省略した形態、又は、第2例の電池10における第2外装シート材72を省略した形態とすることができる。第1シート材81には給水孔81aが形成され、第2シート材82には防水剤85が施されている。第1シート材81と第2シート材82とは接着材86で接着されている。
【0075】
また、
図15(b)に示すように、カソード電極13は、第2シート材82とは別体で形成され、第2シート材82に貼り付けられたものであってもよい。
また、
図15(c)に示すように、アノード電極12は、第1シート材81に一体に形成されたものであってもよい。例えば、第1シート材81にアノード電極12の構成材料を浸透させたものや、アノード電極12を第1シート材81に内部に組み込んだものとすることができる。
【0076】
[実験結果]
本出願の発明者は、微生物燃料電池と水分解電池とのそれぞれについて、その特性を実験により調べた。以下、その結果について説明する。
(微生物燃料電池)
図17~
図25は、微生物燃料電池における実験結果を示す。
図17~
図19は、アノード電極の種類を変化させたときの微生物燃料電池の特性を示すグラフである。使用したアノード電極は、以下の(A1)~(A3)である。
(A1)0.2mmのカーボンペーパー。
(A2)0.2mmのカーボンペーパーに、カーボンナノチューブ(グラフにおいて「CNT」と表記、以下同じ)の水溶液を1分間浸透させたもの。
(A3)0.2mmのカーボンペーパーに、1.5gの活性炭(グラフにおいて「AC」と表記、以下同じ)を混合した20mLのカーボンナノチューブの水溶液を1分間浸透させたもの。
【0077】
図17に示す実験では、カソード電極として、ペーパー(濾紙)にカーボンナノチューブの水溶液を浸透させたものを用いた。その結果、アノード電極(A3)を用いた場合に、最も出力電圧のピークが高くなり、次いで、アノード電極(A2)を用いた場合に出力電圧が高くなった。また、アノード電極(A1)を用いた場合、反応直後に僅かに電圧を出力した。
【0078】
図18に示す実験では、カソード電極として、ペーパー(濾紙)に、0.76Mのフェリシアン化カリウム0.32mLを混合した2mLのカーボンナノチューブの水溶液を浸透させたものを用いた。その結果、
図17の結果と同様に、アノード電極(A3)を用いた場合に、最も出力電圧のピークが高くなり、次いで、アノード電極(A2)を用いた場合に出力電圧が高くなった。また、アノード電極(A1)を用いた場合、反応直後に僅かに電圧を出力した。また、
図17の実験と比較して、
図18に示す実験では、出力電圧が全体的に上昇した。これは、カソード電極にフェリシアン化カリウムが含まれることによって酸化還元反応が促進されたものと考えられる。
【0079】
図19に示す実験では、カソード電極として、ペーパー(濾紙)に、0.5gのCuCl
2を混合した7mLのカーボンナノチューブの水溶液を浸透させたものを用いた。その結果、
図17及び
図18と同様に、アノード電極(A3)を用いた場合に、最も出力電圧のピークが高くなり、次いで、アノード電極(A2)を用いた場合に出力電圧が高くなった。また、アノード電極(A1)を用いた場合、反応直後に僅かに電圧を出力した。また、
図18の実験と比較して、
図19に示す実験では出力電圧が全体的に上昇した。これは、カソード電極にCuCl
2が含まれることによって酸化還元反応がより促進されたものと考えられる。
【0080】
図20及び
図21は、微生物燃料電池の最大電力密度を示すグラフである。
図20及び
図21に示す実験では、アノード電極として次の(A4)を用いた。また、
図20に示す実験ではカソード電極として次の(C1)を用い、
図21に示す実験ではカソード電極として次の(C2)を用いた。
(A4)2gの活性炭を混合した20mLのカーボンナノチューブの水溶液を、1分間カーボンペーパーに浸透させたもの。
(C1)0.76Mのフェリシアン化カリウム溶液0.40mLを混合した2mLのカーボンナノチューブの水溶液を、ペーパー(濾紙)に浸透させたもの。
(C2)0.9gのCuCl
2を混合した7mLのカーボンナノチューブの水溶液を、ペーパー(濾紙)に浸透させたもの。
【0081】
また、
図20及び
図21の実験では、外部負荷抵抗を0.51kΩ~140kΩの範囲で段階的に変化させたときの時間の経過に伴う出力電圧を計測し、その結果を用いて最大の電力密度を求めた。
その結果、
図20についての実験では、外部負荷が1kΩのときに8.4μW/cm
2の最大電力密度が得られた。
図21についての実験では、外部負荷が0.51kΩのときに74.6μW/cm
2の最大電力密度が得られた。
【0082】
図22及び
図23は、アノード電極を形成するカーボンペーパーの数を変化させたときの微生物燃料電池の特性を示すグラフである。
図22及び
図23に示す実験では、アノード電極として上記(A4)を用いた。
図22に示す実験では、カソード電極として上記(C1)を用い、
図23に示す実験では、カソード電極として上記(C2)を用いた。
その結果、
図22及び
図23のいずれにおいても、アノード電極におけるカーボンペーパーが1層の場合よりも3層の場合の方が出力電圧が高くなった。
【0083】
図24及び
図25は、電池作製後の時間の経過に伴う微生物燃料電池の特性の変化を示すグラフである。
図24及び
図25に示す実験では、アノード電極として上記(A4)を用いた。
図24に示す実験では、カソード電極として上記の(C1)を用い、
図25に示す実験では、カソード電極として上記(C2)を用いた。
その結果、電池の作製直後、すなわち、ペーパーに浸透させた水溶液を乾燥させた直後は、最も高い電圧を出力した。また、作製後1週間~4週間が経過したとしても、出力の低下は僅かであった。したがって、本発明の微生物燃料電池は、長期間の保管が可能であることが分かった。
【0084】
(水分解電池)
図26~
図35は、水分解電池における実験結果を示す。
図26~
図28は、アノード電極の種類を変化させたときの水分解電池の特性を示すグラフである。使用したアノード電極は、以下の(A1’)~(A3’)である。
(A1’)0.2mmのカーボンペーパー。
(A2’)0.2mmのカーボンペーパーに、1.5gの活性炭(グラフにおいて「AC」と表記、以下同じ)を混合した20mLのカーボンナノチューブ(グラフにおいて「CNT」と表記、以下同じ)の水溶液を1分間浸透させたもの。
(A3’)0.2mmのカーボンペーパーに、2gの活性炭を混合した10mLの水溶液を1分間浸透させたもの。
【0085】
図26に示す実験では、カソード電極として、ペーパー(濾紙)にカーボンナノチューブの水溶液を浸透させたものを用いた。その結果、アノード電極(A2’)を用いた場合に、最も出力電圧のピークが高くなり、次いで、アノード電極(A3’)を用いた場合に出力電圧が高くなった。また、アノード電極(A1’)を用いた場合、反応直後に僅かに電圧を出力した。
【0086】
図27に示す実験では、カソード電極として、ペーパー(濾紙)に、0.76Mのフェリシアン化カリウム0.32mLを混合した2mLのカーボンナノチューブの水溶液を浸透させたものを用いた。その結果、アノード電極(A3’)を用いた場合に、最も出力電圧のピークが高くなり、次いで、アノード電極(A2’)を用いた場合に出力電圧が高くなった。また、アノード電極(A1’)を用いた場合、反応直後に僅かに電圧を出力した。また、
図26の実験と比較して、
図27に示す実験では、出力電圧が全体的に上昇した。これは、カソード電極にフェリシアン化カリウムが含まれることによって酸化還元反応が促進されたものと考えられる。
【0087】
図28に示す実験では、カソード電極として、ペーパー(濾紙)に、0.5gのCuCl
2を混合した7mLのカーボンナノチューブの水溶液を浸透させたものを用いた。その結果、
図27の結果と同様に、アノード電極(A3’)を用いた場合に、最も出力電圧のピークが高くなり、次いで、アノード電極(A2’)を用いた場合に出力電圧が高くなった。また、アノード電極(A1’)を用いた場合、反応直後に僅かに電圧を出力した。また、
図27の実験と比較して、
図28に示す実験では出力電圧が全体的に上昇した。これは、カソード電極にCuCl
2が含まれることによって酸化還元反応がより促進されたものと考えられる。
【0088】
図29及び
図30は、水分解電池の最大電力密度を示すグラフである。
図29及び
図30に示す実験では、アノード電極として次の(A4’)を用いた。また、
図29に示す実験ではカソード電極として次の(C1’)を用い、
図30に示す実験ではカソード電極として次の(C2’)を用いた。
(A4’)2.5gの活性炭を混合した20mLのカーボンナノチューブの水溶液を、1分間カーボンペーパーに浸透させたもの。
(C1’)0.76Mのフェリシアン化カリウム溶液0.40mLを混合した2mLのカーボンナノチューブの水溶液を、ペーパー(濾紙)に浸透させたもの。
(C2’)0.9gのCuCl
2を混合した7mLのカーボンナノチューブの水溶液を、ペーパー(濾紙)に浸透させたもの。
【0089】
また、
図29及び
図30の実験では、外部負荷抵抗を0.51kΩ~140kΩの範囲で段階的に変化させたときの時間の経過に伴う出力電圧を計測し、その結果を用いて最大の電力密度を求めた。
その結果、
図29に示す実験では、外部負荷が1kΩのときに1.7μW/cm
2の最大電力密度が得られた。
図30についての実験では、外部負荷が0.51kΩのときに57.3μW/cm
2の最大電力密度が得られた。
【0090】
図31及び
図32は、アノード電極を形成するカーボンペーパーの数を変化させたときの水分解電池の特性を示すグラフである。
図31及び
図32に示す実験では、アノード電極として上記(A4’)を用いた。
図31に示す実験では、カソード電極として上記(C1’)を用い、
図23に示す実験では、カソード電極として上記(C2’)を用いた。
その結果、
図31及び
図32のいずれにおいても、アノード電極におけるカーボンペーパーが1層の場合よりも3層の場合の方が高い電圧を出力することができた。なお、アノード電極として後述の(A4”)を用いた場合も同様の傾向がみられた。
【0091】
図33及び
図34は、水分解電池の最大電力密度を示すグラフである。
図33及び
図34に示す実験では、アノード電極として次の(A4”)を用いた。また、
図29に示す実験ではカソード電極として上記の(C1’)を用い、
図30に示す実験ではカソード電極として上記の(C2’)を用いた。
(A4”)4gの活性炭を混合した10mlの水溶液をカーボンシートに1分間浸透させることによって、カーボンペーパーに1cm
2あたり17mgの活性炭を含ませたもの。
【0092】
また、
図33及び
図34の実験では、外部負荷抵抗を0.51kΩ~140kΩの範囲で段階的に変化させたときの時間の経過に伴う出力電圧を計測し、その結果を用いて最大の電力密度を求めた。
その結果、
図33に示す実験では、外部負荷が1kΩのときに10.4μW/cm
2の最大電力密度が得られた。
図30についての実験では、外部負荷が0.51kΩのときに134.6μW/cm
2の最大電力密度が得られた。
【0093】
図35は、アノード電極に供給する溶液の種類を変えたときの水分解電池の特性を示すグラフである。
図35に示す実験では、アノード電極に、酸である塩化水素(HCl;pH1)と、塩基である水酸化ナトリウム(NaOH;pH13)と、水(pH7)とをそれぞれ供給し、出力電圧を計測した。その結果、出力電圧は、pHに依存して変化しており、これによって水分解によって発電が行われていることがわかった。
【0094】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、変更することが可能である。本発明は、例えば、以下のように変更することができる。
【0095】
例えば、アノード電極及びカソード電極に含まれる各構成材料の分量は、適宜変更することが可能である。また、アノード電極及びカソード電極の作製方法も適宜変更することができる。
【0096】
上記実施形態では、酸素とプロトンと電子とが水になる酸化還元反応を促進する触媒として、フェリシアン化カリウム及びCuCl2を例示したが、これに限定されるものではなく、同様の作用を有する物質を適用することができる。
また、上記実施形態では、筐体として濾紙が用いられていたが、濾紙以外の紙が用いられていてもよい。セパレータとして、疎水化処理が施された濾紙が用いられていたが、濾紙以外の紙が用いられていてもよい。また、セパレータとして、一般的なプロトン交換膜(PEM)が用いられていてもよい。
【0097】
本発明の発電装置は、電気機器を駆動するために発電するものに限らず、他の用途のために発電するものであってもよい。例えば、供給された水分の特性等を発電量に応じて検出するセンサとして機能するものや、有機物を含む排水(廃水)を処理する過程で発電するものであってもよい。
【0098】
上記実施形態では、発電装置として1槽型の微生物燃料電池を例示したが、2槽型の微生物燃料電池であってもよい。また、本実施形態の発電装置は、乾燥状態で保存されるものに限らず、アノード電極及び/又はカソード電極が配置される領域に水分が存在しているものであってもよい。
【符号の説明】
【0099】
10 :発電装置(電池)
12 :アノード電極
12a :炭素繊維シート材
13 :カソード電極
14 :セパレータ
20 :微生物