(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】消火疑似体験装置
(51)【国際特許分類】
A62C 99/00 20100101AFI20220404BHJP
【FI】
A62C99/00
(21)【出願番号】P 2018082562
(22)【出願日】2018-04-23
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390031554
【氏名又は名称】株式会社横井製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100082474
【氏名又は名称】杉本 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】渡部 健治
(72)【発明者】
【氏名】筒井 信行
(72)【発明者】
【氏名】永野 豊
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/131110(WO,A1)
【文献】実開昭56-150977(JP,U)
【文献】実開昭63-41178(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面丸形状を保持し耐折れ曲がり剛性を有するホースと、
前記ホースの一端部に接続されたノズルと、
前記ノズルに設けられ、放水流量を疑似的に切り換える流量切換機構と、
前記流量切換機構の切換位置を検出する疑似流量検出器と、
前記ホースの他端部に原位置から離れる方向に引張力を作用させるための空気圧シリンダと、
前記ホースの他端部を前記原位置に戻す方向に弾性付勢する弾性部材と、
前記疑似流量検出器の検出信号に応じて、前記流量切換機構の切換位置に対応する所定の空気圧に前記空気圧シリンダの作動空気圧を制御する空気圧回路と、
を備えることを特徴とする、消火疑似体験装置。
【請求項2】
前記弾性部材が、前記ホースの端部に接続された、ゴム紐、コイルバネ、定荷重バネ、又は渦巻きバネであることを特徴とする請求項1に記載の消火疑似体験装置。
【請求項3】
前記空気圧回路は、前記空気圧シリンダと空気圧源との間に接続された並列回路と、前記並列回路の其々の回路に設けられて前記流量切換機構の複数の切換位置の其々に対応する所定の空気圧に設定されたレギュレータと、前記並列回路の其々に設けられて前記疑似流量検出器の検出信号に応じて作動する電磁弁とを備え、前記流量切換機構の切換位置に対応するレギュレータを介して前記空気圧シリンダに作動空気圧を供給するように前記電磁弁を開閉することを特徴とする請求項1に記載の消火模擬体験装置。
【請求項4】
前記ホースの周囲を囲むようにして四方に配置され、前記ホースの長さ方向の移動をガイドする4本のガイドロールを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の消火模擬体験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消防ホースを用いた消火活動を疑似体験するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、消防ホースの先端に取り付けられた消火ノズルには、放水流量を調節する機構や、放水形態をストレートやスプレー等に切り換える機構が備えられているものが知られている。
【0003】
消防隊員は、消防ホース先端に接続された消火ノズルを手で持って消火にあたるが、消火ノズルから高圧の水が放出されるため、その放水による反動を、消火ノズルを通じて受ける。その反動の大きさは、放水流量或いは放水形態を切換えることによって変化する。
【0004】
従来、放水によって消火ノズルが受ける反動を疑似体験することができる装置が提案されている(例えば、特許文献1等)。この装置は、消火ノズルが接続された可撓性の消防ホースと、消防ホースが巻回されたホースリールと、ホースリールの軸に連結されたサーボモータと、消火ノズルに設けられて放水流量や放水形態(スプレー、ストレート等)等の放水状態を疑似的に切換操作した際の疑似操作状態を検出する検出器と、を備え、消防ホースをホースリールに巻き取るトルクを前記検出器からの検出信号に基づいて決定し、ホースリールに決定されたトルクを加えることによって、消火ノズルが受ける反動を疑似体験できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2016/131110A1パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の消火疑似体験装置は、消防ホースの巻き取り方向にトルクをかけて放水時の反動を疑似体験することができるが、ホースがホースリールに取られてしまうと、ホースを元の長さまで手動で引き出す必要がある。
【0007】
また、上記従来の消火疑似体験装置は、トルク印加開始時に、モータ駆動によっていきなり規定トルクがかかって危険な場合がある。
【0008】
そこで、本発明は、消防ホースの放水時に受ける消火ノズルへの反動を安全に疑似体験することができるとともに、ホースが引っ張られて元の位置から移動しても、自動的に消防ホースを元の位置に戻すことのできる、消火疑似体験装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る消火疑体験装置は、断面丸形状を保持し耐折れ曲がり剛性を有するホースと、前記ホースの一端部に接続されたノズルと、前記ノズルに設けられ、放水流量を疑似的に切り換える流量切換機構と、前記流量切換機構の切換位置を検出する疑似流量検出器と、前記ホースの他端部に原位置から離れる方向に引張力を作用させるための空気圧シリンダと、前記ホースの他端部を前記原位置に戻す方向に弾性付勢する弾性部材と、前記疑似流量検出器の検出信号に応じて、前記流量切換機構の切換位置に対応する所定の空気圧に前記空気圧シリンダの作動空気圧を制御する空気圧回路と、を備えることを特徴とする。
【0010】
前記弾性部材は、前記ホースの他端部に接続された、ゴム紐、コイルバネ、定荷重バネ、又は渦巻きバネであることが好ましい。
【0011】
前記空気圧回路は、前記空気圧シリンダと空気圧源との間に接続された並列回路と、前記並列回路の其々の回路に設けられて前記流量切換機構の複数の切換位置の其々に対応する所定の空気圧に設定されたレギュレータと、前記並列回路の其々に設けられて前記疑似流量検出器の検出信号に応じて作動する電磁弁とを備え、前記流量切換機構の切換位置に対応するレギュレータを介して前記空気圧シリンダに作動空気圧を供給するように前記電磁弁を開閉することが好ましい。
【0012】
前記ホースの周囲を囲むようにして四方に配置され、前記ホースの長さ方向の移動をガイドする4本のガイドロールを更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る消火疑似体験装置によれば、放水流量を流量切換機構で疑似的に切り換えると、その切換位置を疑似流量検出器が検出し、疑似流量に対応した切換位置に応じた空気圧で空気圧シリンダを作動させることにより、放水流量に応じた反動力が疑似体験でき、空気圧シリンダによって引っ張られて元の位置からホースが移動しても、放水流量を停止位置にすれば放水停止に応じて空気圧シリンダの作動圧を減少させることにより、弾性部材によってホースを折れ曲がることなく自動的に原位置に戻すことができる。空気圧シリンダは、圧縮性流体で作動するため緩衝性があり、また、規定のストロークへ移動するまでの間は少ない引張力になるため、より安全な疑似体験が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係る消火疑似体験装置の一実施形態を示す側面図である。
【
図2】
図2は、
図1の消火疑似体験装置の部分断面正面図である。
【
図3】
図3は、
図1の消火疑似体験装置を一部省略して示す縦断側面図である。
【
図5】
図5は、
図1の消火疑似体験装置のノズルの断面図である。
【
図6】
図6は、
図1の消火疑似体験装置の空気圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る消火疑似体験装置の一実施形態について、以下に
図1~
図6を参照して説明する。
【0016】
消火疑似体験装置1は、断面丸形状を保持し耐折れ曲がり剛性を有するホース2と、ホース2の一端部に接続されたノズル3と、ノズル3に設けられて放水量を疑似的に切り換える流量切換機構4(
図5)と、流量切換機構4の切換位置を検出する疑似流量検出器5(
図5)と、ホース2の他端部2aに原位置Xから離れる方向に引張力を作用させる空気圧シリンダ6と、ホース2の他端部を原位置Xに戻す方向に弾性付勢する弾性部材7と、疑似流量検出器の検出信号に応じて、前記流量切換機構の切換位置に対応する所定の空気圧に前記空気圧シリンダの作動空気圧を制御する空気圧回路19(
図6)と、を備える。
【0017】
図示例において、消火疑似体験装置1は、ケーシング8を備えている。空気圧シリンダ6は、ケーシング8内に鉛直方向に向けて取り付けられている。ケーシング8の全面の下方に、ホース2が挿通された開口部8aが形成されている。ケーシング8の開口部8aの内側に、ホース2の周囲を囲むようにして四方に配置され、ホース2の長さ方向の移動をガイドするガイドロール9…が回転自在に支持されている。ホース2の他端部2aに連結されたロープ10は、固定滑車11、動滑車12を介して、ケーシング8の内底部13に連結されている。動滑車12に空気圧シリンダ6のピストンロッド6aが連結されている。弾性部材7は、ケーシング8に固定されたブラケット14に支持された定荷重バネで形成されており、定荷重バネの自由端部がホース2の他端部2aに連結されている。弾性部材7は、定荷重バネに限らず、例えば、ゴム紐、コイルバネ、その他の渦巻きバネによって形成することもできる。
【0018】
ホース2は、断面丸形状を保持し耐折れ曲がり剛性を有する保形ホースが好適に用いられ得る。保形ホースは、タテ糸に合成繊維等の糸を使用し、ヨコ糸に剛性の高いモノフィラメントが使用されることにより、ホース断面が常時円形に保たれて折り癖がつきにくい。このような保形ホースを用いることにより、弾性部材7によってホース2を原位置に戻す際に、ホース2が折れ曲がることがない。ホース2が折れ曲がると、ホース2に対して引張力を作用させてノズルに疑似的反動を与えることができなくなる。
【0019】
ホース2は、断面丸形状を保持し耐折れ曲がり剛性を有するホースであればよく、いわゆる保形ホースに限らない。本発明に用いるホース2は、通水するわけではないため、折り畳み容易なホースの内部に補強材を挿入することにより、断面丸形状を保持し耐折れ曲がり剛性を持たせたホースを使用することができる。消防用ホースの一種として一般的に使用される平ホースは、綿、合成繊維等の糸を使用して円織機・平織機で筒状に折った織布(ジャケット)の内面にチューブ状のライニング(内張り:ゴムや合成樹脂等)が接着剤等で貼りつけられたホースであって扁平状をしており折れ曲がりやすいため、そのままでは本発明に利用できないが、例えば、内側に別のゴムホースやPVCホースを挿入することにより、断面丸形状を保持し耐折れ曲がり剛性を持たせることにより、本発明に用いるホース2とすることもできる。
【0020】
図示例においては、
図4に示すように、2本のホース2、2と、各ホース2、2に連結された2本の空気圧シリンダ6、6が備えられている。2本のホース2、2は異なる直径を有しており、異なる太さのホース2、2を持って消火疑似体験ができる。
【0021】
ノズル3の流量切換機構4は、
図5に示すように、消火ノズルに一般的に備えられているものと同様の切換機構とすることができ、ノズル外周に設けられて回動自在なリング状となっている。消火ノズルに一般的に備えられている噴霧切換機構は、噴霧拡散角度等の噴霧状態を切り換える際に操作される。消火ノズルに一般的に備えられている流量切換機構は、放水量を切り換える際に操作される。図示例の流量切換機構4は、大流量、中流量、小流量、及び放水停止の4段階に切換可能となっている。
【0022】
疑似流量検出器5は、図示例において、ノズル内に内蔵されたロータリースイッチで構成されている。疑似流量検出器5は、流量切換機構4の切換位置(大流量、中流量、小流量、停止)に応じて、4接点のものが使用されている。
【0023】
図6の空気圧回路図を参照して、空気圧シリンダ6のロッド室6bに、コンプレッサや圧縮空気ボンベ等の空気圧源15から作動圧力空が供給される。空気圧シリンダ6は、単動型シリンダを好適に使用し得る。
【0024】
空気圧シリンダ6を制御する空気圧回路19は、3本の並列回路20、21、22備えており、並列回路20、21、22の各回路にノーマルクローズタイプの電磁弁24、25、26が其々介在されている。電磁弁24、25、26は、其々、流量切換機構4の流量が大流量、中流量、小流量の位置に対応する疑似流量検出器5の各接点端子5a、5b、5cと導線接続されている。疑似流量検出器5の各接点端子に接続された導線(図示せず)は、ホース2内を通すことができる。並列回路20、21,22の各並列回路には、更に、流量切換機構4の切換流量に応じた設定圧力に圧力調整するためのレギュレータ27、28、29が電磁弁24、25、26と其々直列接続されている。図示例において、レギュレータ27の設定圧力が0.1MPa、レギュレータ28の設定圧力が0.2MPa、レギュレータ29の設定圧力が0.3Mpaに設定され、其々が、小流量、中流量、大流量の切換位置に対応している。
【0025】
空気圧回路19は、更に、ロッド室6bを排気してピストンロッド6aを下降させるための排気路30を備え、排気路30にノーマルクローズタイプの電磁弁31が接続されている。電磁弁31は、疑似流量検出器5の放水停止位置の接点端子5dと導線接続されている。
【0026】
また、空気圧回路19は、ロッド室6bの内部圧力が所定圧力(図示例では0.3MPa)を超えた場合に、ロッド室6b内部の圧力空気を排気するリリーフ弁32を含む安全回路33を備えている。
【0027】
上記のような空気圧回路19を有する消火疑似体験装置によれば、消火疑似体験者Mがノズル3を手で持って、ノズル3の流量切換機構4を放水停止位置から切換操作し、所望の流量位置、例えば大流量の位置を切り換えると、疑似流量検出器5が切換位置に応じた電磁弁26を開き、切換位置に応じた設定圧力(図示例では0.3MPa)の圧力空気がロッド室6bに供給される。それにより、ピストン6cが押され、ピストンロッド6aがロープ10を介してホース2に引張力を付与する。このとき、ホース2が引っ張られてケーシング8内に引き込まれると、動滑車12を介することにより、ピストンロッド6aの上昇距離の2倍の長さに相当する距離だけホース2が引っ張られる。更にこのとき、ホース2が引っ張れてホース2の他端部2aが原位置(
図3のXの位置)から離れる方向に移動した長さ分、弾性部材7が
図3に仮想線で示すように弾性的に延びる。疑似体験終了後、流量切換機構4を停止位置に戻すと、電磁弁26が閉じて、排気路30の電磁弁31が開き、弾性部材7が縮んでホース2を原位置に戻す。ホース2が原位置に戻る時、ホース2は、耐折れ曲がり剛性を有することにより、ホース2の長さ方向に沿って戻ることができるので、すぐに疑似体験を再開できる。また、ガイドロール9が設けられていることにより、ホース2はスムースに移動でき、開口部8aに引っかかることもない。
【0028】
消火疑似体験装置1は、疑似流量検出器5からの信号を受け取るコンピュータ35と、コンピュータ35に接続されたヘッドマウントディスプレイ36を備えることができる。疑似流量検出器5からの信号がコンピュータ35に送られ、コンピュータ35が受け取った流量切換位置に関する信号を所定のプログラムで演算処理し、疑似流量検出器5の切換状態に応じて、消火疑似体験者Mが放水量を変えながら疑似消火活動をしている様子を仮想現実映像として、ヘッドマウントディスプレイ36に表示するように構成することもできる。
【0029】
ノズル3は、
図5に示すように、消火ノズルに一般的に備えられているものと同様の噴霧切換機構40を更に備えている。消火ノズルに一般的に備えられている噴霧切換機構40は、リング状をしており、噴霧拡散角度を切り換える際に回動操作される。本発明のノズル3は、噴霧切換機構40の切換位置を検出するための噴霧状態検出器41がノズル内に内蔵されている。図示例において、噴霧状態検出器41は4接点のロータリースイッチが使用されている。噴霧切換機構40の切換位置を噴霧状態検出器41で検出し、噴霧状態検出器41の切換位置に関する信号をコンピュータ35が所定のプログラムで演算処理し、ノズル3からの噴霧状態が切り換る様子を仮想現実映像として、消火疑似体験者Mが装着しているヘッドマウントディスプレイ36に表示するように構成することもできる。
【0030】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、図示例の空気圧回路ではレギュレータと電磁弁の組合せによりロッド室への供給圧を切り換える回路としたが、それに代えて、電空レギュレータを用いた空気圧回路とすることもできる。
【符号の説明】
【0031】
1 消火疑似体験装置
2 ホース
2a 他端部
3 ノズル
4 流量切換機構
5 疑似流量検出器
6 空気圧シリンダ
7 弾性部材
8 ケーシング
9 ガイドロール
19 空気圧回路
20~22 並列回路
24 電磁弁
25 電磁弁
26 電磁弁
27 レギュレータ
28 レギュレータ
29 レギュレータ
31 電磁弁
X 原位置