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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】既製杭の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 13/06 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
E02D13/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018099407
(22)【出願日】2018-05-24
(65)【公開番号】P2019203319
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】518069483
【氏名又は名称】株式会社測建
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 実
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 禄彦
【審査官】山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】特許第5378577(JP,B1)
【文献】パイリング・メジャーメント工法,NETIS,NETIS,2018年02月27日,URL:https://www.netis.mlit.go.jp/netis/pubsearch/dtlprint?regNo=KT-170098%20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷地(2)の地面の上方に杭打ち機(5)の掘削ロッド(6)を待機させ、敷地(2)における前記掘削ロッド(6)の中心位置を三次元測量器(1)で測量する掘削前ロッド測量工程と、
前記掘削前ロッド測量工程で測量した前記掘削ロッド(6)の中心位置を、敷地(2)における設計上の杭心位置(3)と比較し、その比較結果に基づいて、敷地(2)における前記掘削ロッド(6)の中心位置を敷地(2)における設計上の杭心位置(3)に近づけるように前記掘削ロッド(6)を移動させる掘削前ロッド位置修正工程と、
前記掘削前ロッド位置修正工程の後、前記掘削ロッド(6)を回転しながら地面に向けて下降させることで地面に掘削孔(7)を形成する掘削工程と、
前記掘削工程で前記掘削孔(7)の形成が完了したときに、前記掘削孔(7)に前記掘削ロッド(6)が入った状態で、敷地(2)における前記掘削ロッド(6)の中心位置を前記三次元測量器(1)で測量し、その測量で得られる前記掘削ロッド(6)の中心位置の、敷地(2)における設計上の杭心位置(3)からの偏心量(x、y)を求めて記録する偏心量記録工程と、
前記偏心量記録工程の後、前記掘削孔(7)から掘削ロッド(6)を引き抜くとともに前記掘削孔(7)の内部に液状のセメントミルクを充填し、地面に開口した掘削孔(7)の上方に既製杭(9)を移動して待機させ、敷地(2)における前記既製杭(9)の中心位置を前記三次元測量器(1)で測量する沈設前杭測量工程と、
前記沈設前杭測量工程で測量した前記既製杭(9)の中心位置と、敷地(2)における設計上の杭心位置(3)から前記偏心量(x、y)の分オフセットした位置(10)とを比較し、その比較結果に基づいて、敷地(2)における前記既製杭(9)の中心位置を、敷地(2)における設計上の杭心位置(3)から前記偏心量(x、y)の分オフセットした位置(10)に近づけるように前記既製杭(9)を移動させる沈設前杭位置修正工程と、
前記沈設前杭位置修正工程の後、前記既製杭(9)を前記掘削孔(7)内に下降させることで前記既製杭(9)を前記掘削孔(7)に沈設する杭沈設工程と、を有し、
前記杭沈設工程において、前記既製杭(9)の前記掘削孔(7)から上方に露出する部分の中心位置を前記三次元測量器(1)で測量し、その測量で得られる前記既製杭(9)の中心位置に基づいて、前記既製杭(9)の中心位置を、敷地(2)における設計上の杭心位置(3)から前記偏心量(x、y)の分オフセットした位置(10)に近づけるように前記既製杭(9)の位置調整を行なう既製杭の施工方法。
【請求項2】
前記掘削工程で掘削ロッド(6)の下部が地中に入ったときに、前記掘削ロッド(6)の上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ前記三次元測量器(1)で測量し、その測量結果に基づいて鉛直方向に対する前記掘削ロッド(6)の傾斜を検出する掘削中ロッド傾斜検出工程と、
前記掘削中ロッド傾斜検出工程で許容値を超える前記掘削ロッド(6)の傾斜が検出されたときに、前記掘削ロッド(6)の傾斜をゼロに近づけるように前記掘削ロッド(6)の上部を移動させる掘削中ロッド傾斜修正工程と、
を更に有する請求項1に記載の既製杭の施工方法。
【請求項3】
前記杭沈設工程で前記既製杭(9)を前記掘削孔(7)内に下降させるときに、前記既製杭(9)の上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ前記三次元測量器(1)で測量し、その測量結果に基づいて鉛直方向に対する前記既製杭(9)の傾斜を検出する杭傾斜検出工程と、
前記杭傾斜検出工程で許容値を超える前記既製杭(9)の傾斜が検出されたときに、前記既製杭(9)を前記掘削孔(7)内で回転させることで前記既製杭(9)の傾斜を矯正する杭傾斜修正工程と、
を更に有する請求項1または2に記載の既製杭の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高い精度と信頼性をもって既製杭を地盤に設置することが可能な既製杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、既製杭を地盤に設置するに際しては、特許文献1~3のように、まず敷地を測量して敷地における杭心位置(地盤に既製杭を設置するときに既製杭の中心となる位置)に目印としての杭心棒を打ち、続いて、杭心棒から同じ距離だけ離れた位置に2本の逃げ棒を立てる。2本の逃げ棒は、杭心棒から見て一方の逃げ棒のある方向と、他方の逃げ棒のある方向とが、互いに直角の関係となるように配置する。
【0003】
次に、杭心棒を地面から抜き取り、杭心棒のあった位置(杭心位置)を掘削ロッドで掘削する。このとき、杭心位置と掘削ロッドの中心位置とが一致した状態で掘削を行なう必要があるが、すでに杭心棒は地面から抜き取られているので、杭心位置を直接確認することができない。そこで、2本の逃げ棒の位置から掘削ロッドの外周に向けてそれぞれ2本の検尺棒を延ばし、その2本の検尺棒の先端をそれぞれ掘削ロッドの外周に垂直に当てることで、掘削ロッドの中心位置の管理を行なう。
【0004】
すなわち、2本の逃げ棒から掘削ロッドの外周に向けて2本の検尺棒をそれぞれ延ばし、その2本の検尺棒の先端を掘削ロッドの外周に当てたときに、2本の逃げ棒から掘削ロッドの外周までの距離が所定距離に一致していれば、掘削ロッドの中心位置は、杭心位置に一致している。一方、2本の逃げ棒から掘削ロッドの外周までの距離が所定距離よりも長かったり短かったりする場合は、その分、掘削ロッドの中心位置が、杭心位置からずれていることが分かる。この場合は、2本の逃げ棒から掘削ロッドの外周までの距離が所定距離に一致するように(つまり掘削ロッドの中心位置が杭心位置に近づくように)、杭打ち機を操作して掘削ロッドの中心位置を修正する。このように掘削ロッドの中心位置を調整しながら、回転する掘削ロッドを下降させ、杭心棒の位置に掘削孔を形成する。その後、掘削孔から掘削ロッドを引き抜くと、掘削孔が地面に開口した状態となる。
【0005】
その後、地面に開口した掘削孔に、既製杭を沈設する。ここで、既製杭の外径は、掘削孔の内径よりも100~200mm程度小さい。既製杭と掘削孔の間の隙間は、セメントミルクを満たし、そのセメントミルクを硬化させることで既製杭と地盤を一体化させる。そのため、既製杭の沈設は、既製杭の中心位置が杭心位置に一致するよう、既製杭の位置調整をしながら行なう必要がある。そこで、掘削ロッドの位置調整のときと同様、地面に立てた上述の2本の逃げ棒の位置から既製杭の外周に向けてそれぞれ2本の検尺棒を延ばし、その2本の検尺棒の先端をそれぞれ既製杭の外周に垂直に当てることで、既製杭の中心位置の管理を行なう。
【0006】
すなわち、2本の逃げ棒から既製杭の外周に向けて2本の検尺棒をそれぞれ延ばし、その2本の検尺棒の先端を既製杭の外周に当てたときに、2本の逃げ棒から既製杭の外周までの距離が、所定距離に一致しているかどうかを確認し、2本の逃げ棒から既製杭の外周までの距離が所定距離よりも長かったり短かったりする場合は、2本の逃げ棒から既製杭の外周までの距離が所定距離に一致するように(つまり既製杭の中心位置が杭心位置に近づくように)既製杭の位置を修正しながら、既製杭の沈設を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-174124号公報
【文献】特開2012-26124号公報
【文献】特開2011-69074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、杭心棒と逃げ棒を用いることで、地盤に設置する既製杭の位置精度を管理する場合、以下の問題がある。
【0009】
すなわち、掘削ロッドの中心位置を管理するため、2本の逃げ棒から掘削ロッドの外周に向けて2本の検尺棒をそれぞれ延ばし、その2本の検尺棒の先端を掘削ロッドの外周に当てるときに、掘削ロッドの外周に垂直に検尺棒を当てるのが難しく、掘削ロッドの外周に対して検尺棒が斜めに当たっている場合がある。この場合、掘削ロッドの中心位置が、杭心棒のあった位置(杭心位置)からずれているにもかかわらず、2本の逃げ棒から掘削ロッドの外周までの距離が所定距離に一致してしまう可能性があり、掘削ロッドの位置(すなわち掘削ロッドにより形成される掘削孔の位置)の精度を確保するのが難しいという問題がある。
【0010】
既製杭の沈設時についても同様、2本の逃げ棒から既製杭の外周に向けて2本の検尺棒をそれぞれ延ばし、その2本の検尺棒の先端を既製杭の外周に当てるときに、既製杭の外周に垂直に検尺棒を当てるのが難しく、既製杭の外周に対して検尺棒が斜めに当たっている場合がある。そのため、既製杭を掘削孔に沈設するときに、既製杭の位置精度を確保するのが難しいという問題がある。
【0011】
また、2本の検尺棒の先端を掘削ロッドまたは既製杭の外周に当てることにより掘削ロッドまたは既製杭の中心位置を管理する作業は、2名の作業員が、掘削ロッドまたは既製杭の真下に入って行なう必要があるため、安全性の点でも問題がある。
【0012】
さらに、既製杭の中心位置と掘削孔の中心位置との間にずれが生じやすく、既製杭と掘削孔の間の隙間を埋めるセメントミルクの半径方向の厚さに片寄りが生じやすいという問題がある。
【0013】
すなわち、掘削ロッドで掘削孔を形成するときに、掘削ロッドの中心位置を、杭心棒のあった位置(杭心位置)に完全に一致させることは難しく、通常、地面に形成される掘削孔の中心位置は、許容差の範囲内で、杭心棒のあった位置(杭心位置)からずれたものとなる。また、掘削ロッドで掘削孔を形成した後、その掘削孔に既製杭を沈設するとき、既製杭の中心位置の管理は、掘削孔の中心位置ではなく、上述のように、杭心棒のあった位置(杭心位置)を基準として行なわれる。そのため、掘削孔に既製杭を沈設するときに、既製杭の中心位置を、杭心棒のあった位置(杭心位置)に完全に一致させることができたとしても、掘削孔の中心位置が、杭心棒のあった位置(杭心位置)からずれていれば、その分、既製杭の中心位置は、掘削孔の中心位置からずれたものとなる。そのため、掘削孔の中心と既製杭の中心との間にずれが生じやすく、既製杭と掘削孔の間の隙間を埋めるセメントミルクの半径方向の厚さに片寄りが生じやすいという問題があった。既製杭と掘削孔の間の隙間を埋めるセメントミルクの半径方向の厚さに片寄りが生じると、地盤に対する既製杭の固定強度が低下するおそれがある。
【0014】
この発明が解決しようとする課題は、高い精度をもって既製杭を地盤に設置することができ、また地盤に対する既製杭の固定強度の信頼性が高い既製杭の施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明では、上記課題を解決するため、以下の構成の既製杭の施工方法を提供する。
敷地の地面の上方に杭打ち機の掘削ロッドを待機させ、敷地における前記掘削ロッドの中心位置を三次元測量器で測量する掘削前ロッド測量工程と、
前記掘削前ロッド測量工程で測量した前記掘削ロッドの中心位置を、敷地における設計上の杭心位置と比較し、その比較結果に基づいて、敷地における前記掘削ロッドの中心位置を敷地における設計上の杭心位置に近づけるように前記掘削ロッドを移動させる掘削前ロッド位置修正工程と、
前記掘削前ロッド位置修正工程の後、前記掘削ロッドを回転しながら地面に向けて下降させることで地面に掘削孔を形成する掘削工程と、
前記掘削工程で前記掘削孔の形成が完了したときに、前記掘削孔に前記掘削ロッドが入った状態で、敷地における前記掘削ロッドの中心位置を前記三次元測量器で測量し、その測量で得られる前記掘削ロッドの中心位置の、敷地における設計上の杭心位置からの偏心量を求めて記録する偏心量記録工程と、
前記偏心量記録工程の後、前記掘削孔から掘削ロッドを引き抜き、地面に開口した掘削孔の上方に既製杭を移動して待機させ、敷地における前記既製杭の中心位置を前記三次元測量器で測量する沈設前杭測量工程と、
前記沈設前杭測量工程で測量した前記既製杭の中心位置と、敷地における設計上の杭心位置から前記偏心量の分オフセットした位置とを比較し、その比較結果に基づいて、敷地における前記既製杭の中心位置を、敷地における設計上の杭心位置から前記偏心量の分オフセットした位置に近づけるように前記既製杭を移動させる沈設前杭位置修正工程と、
前記沈設前杭位置修正工程の後、前記既製杭を前記掘削孔内に下降させることで前記既製杭を前記掘削孔に沈設する杭沈設工程と、
を有する既製杭の施工方法。
【0016】
このようにすると、敷地における掘削ロッドの中心位置を三次元測量器で測量し、その測量結果に基づいて掘削ロッドの位置修正を行なうので、掘削ロッドで地面に掘削孔を形成するときの掘削ロッドの中心位置の管理精度が高い。また、敷地における既製杭の中心位置を三次元測量器で測量し、その測量結果に基づいて既製杭の位置修正を行なうので、既製杭を前記掘削孔に沈設するときの既製杭の中心位置の管理精度も高い。そのため、高い精度をもって既製杭を地盤に設置することが可能である。
【0017】
また、偏心量記録工程において、掘削孔に入った状態の掘削ロッドの中心位置を測量し、その掘削ロッドの中心位置の設計上の杭心位置からの偏心量を求めるとともに、その後の沈設前杭位置修正工程において、偏心量記録工程で求めた偏心量の分、設計上の杭心位置からオフセットした位置を基準として既製杭を位置決めするので、掘削孔の中心位置が、設計上の杭心位置からずれている場合にも、掘削孔の中心と既製杭の中心との間にずれが生じにくい。そのため、既製杭と掘削孔の間の隙間を埋めるセメントミルクの半径方向の厚さに片寄りが生じにくく、地盤に対する既製杭の固定強度の信頼性が高い。
【0018】
上記既製杭の施工方法は、次の構成を加えると好ましい。
前記掘削工程で掘削ロッドの下部が地中に入ったときに、前記掘削ロッドの上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ前記三次元測量器で測量し、その測量結果に基づいて鉛直方向に対する前記掘削ロッドの傾斜を検出する掘削中ロッド傾斜検出工程と、
前記掘削中ロッド傾斜検出工程で許容値を超える前記掘削ロッドの傾斜が検出されたときに、前記掘削ロッドの傾斜をゼロに近づけるように前記掘削ロッドの上部を移動させる掘削中ロッド傾斜修正工程と、を更に有する。
【0019】
このようにすると、掘削ロッドの上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ三次元測量器で測量し、その測量結果に基づいて掘削ロッドの傾斜修正を行なうので、掘削ロッドで地面に掘削孔を形成するときに、掘削孔が鉛直方向に対して斜めとなるのを防止することができる。しかも、掘削前ロッド測量工程で用いた三次元測量器をそのまま流用することができるので、工数を抑えることができ、効率的である。
【0020】
上記既製杭の施工方法は、次の構成を加えると好ましい。
前記杭沈設工程で前記既製杭を前記掘削孔内に下降させるときに、前記既製杭の上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ前記三次元測量器で測量し、その測量結果に基づいて鉛直方向に対する前記既製杭の傾斜を検出する杭傾斜検出工程と、
前記杭傾斜検出工程で許容値を超える前記既製杭の傾斜が検出されたときに、前記既製杭を前記掘削孔内で回転させることで前記既製杭の傾斜を矯正する杭傾斜修正工程と、を更に有する。
【0021】
このようにすると、既製杭の上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ三次元測量器で測量し、その測量結果に基づいて既製杭の傾斜修正を行なうので、既製杭を掘削孔に沈設するときに、既製杭が鉛直方向に対して斜めとなるのを防止することができる。しかも、沈設前杭測量工程で用いた三次元測量器をそのまま流用することができるので、工数を抑えることができ、効率的である。
【発明の効果】
【0022】
この発明の既製杭の施工方法は、敷地における掘削ロッドの中心位置を三次元測量器で測量し、その測量結果に基づいて掘削ロッドの位置修正を行なうので、掘削ロッドで地面に掘削孔を形成するときの掘削ロッドの中心位置の管理精度が高い。また、敷地における既製杭の中心位置を三次元測量器で測量し、その測量結果に基づいて既製杭の位置修正を行なうので、既製杭を前記掘削孔に沈設するときの既製杭の中心位置の管理精度も高い。そのため、高い精度をもって既製杭を地盤に設置することが可能である。また、偏心量記録工程において、掘削孔に入った状態の掘削ロッドの中心位置を測量し、その掘削ロッドの中心位置の設計上の杭心位置からの偏心量を求めるとともに、その後の沈設前杭位置修正工程において、偏心量記録工程で求めた偏心量の分、設計上の杭心位置からオフセットした位置を基準として既製杭を位置決めするので、掘削孔の中心位置が、設計上の杭心位置からずれている場合にも、掘削孔の中心と既製杭の中心との間にずれが生じにくい。そのため、既製杭と掘削孔の間の隙間を埋めるセメントミルクの半径方向の厚さに片寄りが生じにくく、地盤に対する既製杭の固定強度の信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明の実施形態の施工方法で既製杭を設置する敷地を模式的に示す平面図
図2図1の杭心棒の近傍の拡大図
図3図1に示す杭心位置の上方に掘削ロッドがくるように杭打ち機を移動させた状態を模式的に示す平面図
図4図3に示す三次元測量器と杭打ち機を模式的に示す立面図
図5図4に示す掘削ロッドを回転しながら下降させて掘削孔を形成している過程を示す図
図6】三次元測量器で測量した掘削ロッドの中心位置(掘削孔の中心位置)と、設計上の杭心位置との関係を示す図
図7】掘削孔の上方に既製杭を吊って待機させた状態を模式的に示す立面図
図8】杭打ち機で既製杭を掘削孔内に下降させる状態を模式的に示す平面図
図9図8に示す三次元測量器と杭打ち機を模式的に示す立面図
図10図9に示す既製杭の沈設が完了した状態を模式的に示す立面図
図11図10に示す既製杭の中心位置を、設計上の杭心位置から偏心量x、yの分オフセットした位置に一致させた状態で既製杭を沈設した状態を示す掘削孔の断面図
図12】既製杭の中心位置を、設計上の杭心位置に一致させた状態で既製杭を沈設した状態を示す掘削孔の断面図(比較例)
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1図12に基づいて、この発明の実施形態の既製杭の施工方法を説明する。
【0025】
<三次元測量器の設置工程>
図1に示すように、三次元測量器1を敷地2に設置する。三次元測量器1は、対象物に向けてレーザー光を照射することで対象物までの距離と角度(水平角および高度角)を同時に計測し、その計測値に基づいて対象物の位置を三次元座標データとして取得する測量器である。三次元測量器1としては、同心円レチクルを内蔵することで円筒形の対象物の中心位置を精度よく測量することを可能としたもの(例えば商品名「BAUMstation」(アイサンテクノロジー株式会社製))を用いると好適である。そして、三次元測量器1で、敷地2における位置の既知点AおよびB(例えば、基準点や、基準点を基にして位置を測量した点)を測量することで、敷地2における三次元測量器1の位置を取得する。これにより、敷地2における対象物の位置を三次元測量器1で測量することが可能となる。
【0026】
<杭心棒の位置修正工程>
敷地2における杭心位置3(図2に示すように既製杭9の中心となる位置)に目印としての杭心棒4を打つ。その後、三次元測量器1で、敷地2における杭心棒4の位置を測量し、その測量により得られる杭心棒4の位置を、敷地2における設計上の杭心位置3と比較する。そして、その比較結果に基づいて、敷地2における杭心棒4の位置を、敷地2における設計上の杭心位置3に一致させるように杭心棒4の位置修正を行なう。
【0027】
<掘削前ロッド測量工程>
次に、図3図4に示すように、杭打ち機5の掘削ロッド6が、敷地2の地面の杭心位置3の上方にくるように、杭打ち機5を敷地2内で移動させる。このとき杭心棒4は、地面から引き抜いておく。そして、敷地2の地面の上方に、杭打ち機5の掘削ロッド6を待機させた状態で、敷地2における掘削ロッド6の中心位置を三次元測量器1で測量する。ここで、敷地2における掘削ロッド6の中心位置の座標(X座標、Y座標)は、掘削ロッド6の表面の位置座標から掘削ロッド6の半径の分をオフセットすることで求めることができる。掘削ロッド6が鉛直方向に対して傾斜している可能性があるので、敷地2における掘削ロッド6の中心位置を測量するにあたっては、掘削ロッド6の上部ではなく、掘削ロッド6の下部を測量すると好ましい。
【0028】
<掘削前ロッド位置修正工程>
掘削前ロッド測量工程で測量した掘削ロッド6の中心位置を、敷地2における設計上の杭心位置3と比較し、その比較結果に基づいて、敷地2における掘削ロッド6の中心位置を敷地2における設計上の杭心位置3に近づけるように、杭打ち機5を操作して掘削ロッド6を移動させる。
【0029】
その後も、敷地2における掘削ロッド6の中心位置を三次元測量器1で測量する掘削前ロッド測量工程と、その掘削前ロッド測量工程で測量した掘削ロッド6の中心位置に基づいて、敷地2における掘削ロッド6の中心位置を敷地2における設計上の杭心位置3に近づけるように掘削ロッド6を移動させる掘削前ロッド位置修正工程とを交互に繰り返し、三次元測量器1による測量で得られる掘削ロッド6の中心位置と、敷地2における設計上の杭心位置3とのずれが、所定距離(例えば、X方向、Y方向のずれx、yがともに50mm以内、好ましくは30mm以内)となるまで掘削ロッド6の位置調整を行なう。
【0030】
<掘削工程>
掘削前ロッド位置修正工程により、三次元測量器1による測量で得られる掘削ロッド6の中心位置と、敷地2における設計上の杭心位置3とのずれx、yが、所定距離内に収まったことを確認した後、掘削ロッド6を回転しながら地面に向けて下降させることで地面に掘削孔7を形成する。
【0031】
このとき、掘削ロッド6による掘削深さが、所定深さ(例えば2~3mの範囲の深さ)に達するまでの間も、掘削ロッド6の位置調整を行なう。すなわち、掘削中の掘削ロッド6の中心位置を三次元測量器1で測量し、その測量で得られる掘削ロッド6の中心位置に基づいて、敷地2における掘削ロッド6の中心位置を敷地2における設計上の杭心位置3に近づけるように掘削ロッド6を移動させる。その後も、掘削中の掘削ロッド6の中心位置を三次元測量器1で測量する掘削中ロッド測量工程と、その掘削中ロッド測量工程で測量した掘削ロッド6の中心位置に基づいて、掘削中の掘削ロッド6の中心位置を敷地2における設計上の杭心位置3に近づけるように掘削ロッド6を移動させる掘削中ロッド位置修正工程とを交互に繰り返す。これにより、掘削開始直後、地面の掘削抵抗によって生じる掘削ロッド6の位置ずれを早期に検出し、修正することが可能となる。
【0032】
そして、図5に示すように、掘削ロッド6の下部が地中に入ったとき、掘削ロッド6の傾斜の修正を行なう。すなわち、掘削ロッド6による掘削深さが上記所定深さ(2~3m程度の深さ)に達した後は、掘削ロッド6の上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ三次元測量器1で測量し、その測量結果に基づいて鉛直方向に対する掘削ロッド6の傾斜を検出し、許容値(0.15~0.20°程度)を超える掘削ロッド6の傾斜が検出されたときは、掘削ロッド6の傾斜をゼロに近づけるように、杭打ち機5を操作して掘削ロッド6の上部を移動させる。
【0033】
その後も、掘削中の掘削ロッド6の上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ三次元測量器1で測量し、その測量結果に基づいて掘削中の掘削ロッド6の傾斜を検出する掘削中ロッド傾斜検出工程と、その掘削中ロッド傾斜検出工程で許容値を超える掘削ロッド6の傾斜が検出されたときに掘削中の掘削ロッド6の傾斜をゼロに近づけるように掘削ロッド6の上部を移動させる掘削中ロッド傾斜修正工程とを交互に繰り返す。これにより、掘削ロッド6の掘削中に、掘削孔7が鉛直方向に対して斜めとなるのを防止することが可能となる。
【0034】
<偏心量記録工程>
掘削工程で掘削孔7の形成が完了したとき、掘削孔7に掘削ロッド6が入った状態で、敷地2における掘削ロッド6の中心位置を三次元測量器1で測量する。そして、図6に示すように、三次元測量器1による測量で得られる掘削ロッド6の中心位置を、敷地2における設計上の杭心位置3と比較し、掘削ロッド6の中心位置の、設計上の杭心位置3からの偏心量(X座標のずれ量x、Y座標のずれ量y)を求め、記録用端末や記録用紙でその偏心量を記録する。
【0035】
<沈設前杭測量工程>
上記の偏心量記録工程の後、掘削孔7から掘削ロッド6を引き抜く。掘削ロッド6を掘削孔7から引き抜くとき、掘削ロッド6の先端からセメントミルクを吐出しながら引き抜くことで、掘削孔7の内部に液状のセメントミルクを充填する。その後、図7に示すように、クレーン8で吊った既製杭9が掘削孔7の上方にくるように、クレーン8を移動させる。そして、地面に開口した掘削孔7の上方に既製杭9を待機させた状態で、敷地2における既製杭9の中心位置を三次元測量器1で測量する。ここで、敷地2における既製杭9の中心位置の座標は、既製杭9の表面の位置座標から既製杭9の半径の分をオフセットすることで求めることができる。クレーン8で吊った既製杭9が鉛直方向に対して傾斜している可能性があるので、敷地2における既製杭9の中心位置を測量するにあたっては、既製杭9の上部ではなく、既製杭9の下部を測量する。
【0036】
<沈設前杭位置修正工程>
沈設前杭測量工程で測量した既製杭9の中心位置を、図6に示すように敷地2における設計上の杭心位置3から偏心量x、yの分オフセットした位置10(すなわち、偏心量記録工程において三次元測量器1で測量した掘削ロッド6の中心位置)と比較し、その比較結果に基づいて、クレーン8で吊った既製杭9の中心位置を、敷地2における設計上の杭心位置3から偏心量x、yの分オフセットした位置10に近づけるように、クレーン8を操作して既製杭9を移動させる。
【0037】
その後も、敷地2における既製杭9の中心位置を三次元測量器1で測量する沈設前杭測量工程と、その沈設前杭測量工程で測量した既製杭9の中心位置に基づいて、敷地2における既製杭9の中心位置を、敷地2における設計上の杭心位置3から偏心量x、yの分オフセットした位置10に近づけるように既製杭9を移動させる沈設前杭位置修正工程とを交互に繰り返し、三次元測量器1による測量で得られる既製杭9の中心位置と、敷地2における設計上の杭心位置3から偏心量x、yの分オフセットした位置10とのずれが、所定距離内(例えば、X、Y方向のずれがともに50mm以内)に収まるまで既製杭9の位置調整を行なう。
【0038】
<杭沈設工程>
沈設前杭位置修正工程により、三次元測量器1による測量で得られる既製杭9の中心位置と、敷地2における設計上の杭心位置3から偏心量x、yの分オフセットした位置10とのずれが、所定距離内に収まったことを確認した後、図7に示すクレーン8から既製杭9を下降させることで既製杭9を掘削孔7に挿入する。
【0039】
その後、図8図10に示すように、クレーン8から杭打ち機5に既製杭9を受け渡し、杭打ち機5で既製杭9を掘削孔7の孔底まで沈設する。
【0040】
このとき、既製杭9が掘削孔7の孔底に到達するまでの間、既製杭9の位置調整を行なう。すなわち、掘削孔7内を下降する既製杭9の掘削孔7から上方に露出する部分の中心位置を三次元測量器1で測量し、その測量で得られる既製杭9の中心位置に基づいて、図11に示すように、既製杭9の中心位置を、敷地2における設計上の杭心位置3から偏心量x、yの分オフセットした位置10に近づけるように既製杭9を移動させる。
【0041】
また、既製杭9が掘削孔7の孔底に到達するまでの間、既製杭9の傾斜の修正を行なう。すなわち、既製杭9を掘削孔7内に下降させるときに、図9に示すように、既製杭9の掘削孔7から上方に突出した部分の上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ三次元測量器1で測量し、その測量結果に基づいて鉛直方向に対する既製杭9の傾斜を検出し、許容値を超える既製杭9の傾斜が検出されたときは、既製杭9を掘削孔7内で回転させることで既製杭9の傾斜を矯正する。
【0042】
その後も、既製杭9の掘削孔7から上方に突出した部分の上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ三次元測量器1で測量し、その測量結果に基づいて鉛直方向に対する既製杭9の傾斜を検出する杭傾斜検出工程と、その杭傾斜検出工程で許容値を超える既製杭9の傾斜が検出されたときに、既製杭9を掘削孔7内で回転させることで既製杭9の傾斜を矯正する杭傾斜修正工程とを交互に繰り返す。これにより、既製杭9を掘削孔7に沈設するときに、既製杭9が鉛直方向に対して斜めとなるのを防止することが可能となる。
【0043】
この実施形態の既製杭9の施工方法を採用すると、敷地2における掘削ロッド6の中心位置を三次元測量器1で測量し、その測量結果に基づいて掘削ロッド6の位置修正を行なうので、掘削ロッド6で地面に掘削孔7を形成するときの掘削ロッド6の中心位置の管理精度が高い。また、敷地2における既製杭9の中心位置を三次元測量器1で測量し、その測量結果に基づいて既製杭9の位置修正を行なうので、既製杭9を掘削孔7に沈設するときの既製杭9の中心位置の管理精度も高い。そのため、高い精度をもって既製杭9を地盤に設置することが可能である。
【0044】
また、偏心量記録工程において、掘削孔7に入った状態の掘削ロッド6の中心位置を測量し、図6に示すように、掘削ロッド6の中心位置の設計上の杭心位置3からの偏心量x、yを求めるとともに、その後の沈設前杭位置修正工程において、偏心量記録工程で求めた偏心量x、yの分、設計上の杭心位置3からオフセットした位置10を基準として既製杭9を位置決めするので、地盤に対する既製杭9の固定強度の信頼性が高い。
【0045】
すなわち、既製杭9を掘削孔7に沈設するときに、既製杭9の中心位置の管理を、設計上の杭心位置3を基準として行なうと、図12に示すように、既製杭9の中心位置を、設計上の杭心位置3に完全に一致させることができたとしても、掘削孔7の中心位置が設計上の杭心位置3からずれていれば、その分、既製杭9の中心位置は、掘削孔7の中心位置からずれたものとなる。そのため、掘削孔7の中心と既製杭9の中心との間にずれが生じやすく、既製杭9と掘削孔7の間の隙間を埋めるセメントミルクの半径方向の厚さに片寄りが生じやすいという問題がある。そして、既製杭9と掘削孔7の間の隙間を埋めるセメントミルクの半径方向の厚さに片寄りが生じると、地盤に対する既製杭9の固定強度が低下するおそれがある。
【0046】
これに対し、上記実施形態では、掘削孔7に入った状態の掘削ロッド6の中心位置を測量し、図6に示すように、掘削ロッド6の中心位置の設計上の杭心位置3からの偏心量x、yを求め、その偏心量x、yの分、設計上の杭心位置3からオフセットした位置10を基準として既製杭9を位置決めするので、図11に示すように、掘削孔7の中心位置が、設計上の杭心位置3からずれている場合にも、掘削孔7の中心と既製杭9の中心との間にずれが生じにくい。そのため、既製杭9と掘削孔7の間の隙間を埋めるセメントミルクの半径方向の厚さに片寄りが生じにくく、地盤に対する既製杭9の固定強度の信頼性が高い。
【0047】
また、上記実施形態では、掘削ロッド6の上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ三次元測量器1で測量し、その測量結果に基づいて掘削ロッド6の傾斜修正を行なうので、掘削ロッド6で地面に掘削孔7を形成するときに、掘削孔7が鉛直方向に対して斜めとなるのを防止することができる。しかも、掘削前ロッド測量工程で用いた三次元測量器1をそのまま流用することができるので、工数を抑えることができ、効率的である。
【0048】
また、上記実施形態では、既製杭9の上下に離れた2点の中心位置をそれぞれ三次元測量器1で測量し、その測量結果に基づいて既製杭9の傾斜修正を行なうので、既製杭9を掘削孔7に沈設するときに、既製杭9が鉛直方向に対して斜めとなるのを防止することができる。しかも、沈設前杭測量工程で用いた三次元測量器1をそのまま流用することができるので、工数を抑えることができ、効率的である。
【0049】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1 三次元測量器
2 敷地
3 杭心位置
5 杭打ち機
6 掘削ロッド
7 掘削孔
9 既製杭
10 オフセットした位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12