(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】建築物の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20220404BHJP
E04B 1/04 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
E04G21/02 103Z
E04B1/04 D
(21)【出願番号】P 2019018583
(22)【出願日】2019-02-05
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】517304842
【氏名又は名称】株式会社スカイフィールドコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120857
【氏名又は名称】渡邉 聡
(72)【発明者】
【氏名】柳 守
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-319666(JP,A)
【文献】特開平08-218584(JP,A)
【文献】特開2010-138601(JP,A)
【文献】特開昭50-107717(JP,A)
【文献】特開平08-312049(JP,A)
【文献】特開2004-190303(JP,A)
【文献】登録実用新案第3220982(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
E04B 1/04
E04B 5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁式鉄筋コンクリート構造による建築物の施工方法において、
コンクリートの打設により前記建築物の複数階の壁を作成する壁作成工程と、
前記壁作成工程に続いて、
前記壁の2以上の階層にそれぞれプレートを配置し、前記壁と前記プレートとを型枠としたコンクリートの打設により、
前記2以上の階層に床を連続して作成する床作成工程とを備え
、
前記壁作成工程において、前記壁の2以上の階層に前記壁から突出するように、アンカーボルトを設け、
前記床作成工程において、前記アンカーボルトを用いて前記プレートを配置する、
建築物の施工方法。
【請求項2】
前記アンカーボルトにより、受材が前記壁に固定され、前記プレートは該受材を介して前記壁に配置される、請求項1に記載の建築物の施工方法。
【請求項3】
前記壁作成工程は、
2階層単位でコンクリートを打設して前記壁を作成する
請求項1
又は2に記載の建築物の施工方法。
【請求項4】
前記床作成工程は、
前記2以上の階層に床を作成する際に、併せて前記2以上の階層までの階段の踊り場をコンクリートの打設により作成する
請求項1
から3のいずれか1項に記載の建築物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の施工方法に関し、特に壁式鉄筋コンクリート構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、壁式鉄筋コンクリート構造による建築物の建設現場では、下位階層から順次コンクリートを打設して建設している。すなわちこの種の建設現場では、基礎を作成した後、配筋、型枠作成、打設の作業を実行して1階の壁及び2階の床を作成する。また一定の養生期間を経た後、同様の配筋、型枠作成、打設の作業を実行して2階の壁及び3階の床を作成する。さらにこれらの工程を繰り返して、順次、上位階の壁及び床を作成し、最後に最上階の壁及び屋上を作成し、これらにより多層階の建築物を作成する。
【0003】
このような建築物に関して、従来、工期を短縮する種々の工夫が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでこの種の建築物の施工においては、さらに一段と工期を短縮することが望まれる。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、従来に比して一段と工期を短縮することができる建築物の施工方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、複数階の床を纏めて打設する、との着想に至り、本発明を完成するに至った。
【0008】
具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 本発明に係る建築物の施工方法は、
壁式鉄筋コンクリート構造による建築物の施工方法において、
コンクリートの打設により前記建築物の複数階の壁を作成する壁作成工程と、
前記壁作成工程に続いて、前記壁の2以上の階層にそれぞれプレートを配置し、前記壁と前記プレートとを型枠としたコンクリートの打設により、前記2以上の階層に床を連続して作成する床作成工程とを備え、
前記壁作成工程において、前記壁の2以上の階層に前記壁から突出するように、アンカーボルトを設け、
前記床作成工程において、前記アンカーボルトを用いて前記プレートを配置する、
建築物の施工方法である。
【0010】
(2) 上記(1)の施工方法によれば、複数階の壁を作成した後、コンクリートの打設により2以上の階層に床を作成することにより、複数階の床を纏めて打設することができ、これにより工期を短縮することができる。
【0011】
(3) 上記(1)の施工方法において、
前記壁作成工程は、
2階層単位でコンクリートを打設して前記壁を作成する。
【0012】
(4) 上記(3)の施工方法によれば、型枠に過大な強度を確保することなく、複数階の壁を作成した後、複数階の床を纏めて打設することができ、これにより工期を短縮することができる。
【0013】
(5) 上記(1)又は(2)の施工方法において、
前記床作成工程は、
前記2以上の階層に床を作成する際に、併せて前記2以上の階層までの階段の踊り場をコンクリートの打設により作成する。
【0014】
(6) 上記(5)の施工方法によれば、床を作成した階については、階段を利用可能とすることができることにより、後工程における資材、工具の搬入等を簡略化することができ、一段と工期を短縮することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来に比して一段と工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る建築物を示す斜視図である。
【
図3】
図1の建築物の床の説明に供する平面図である。
【
図4】
図1の建築物の受材の説明に供する断面図である。
【
図6】
図1の建築物の施工工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る建築物を示す斜視図である。
この建築物1は、壁式鉄筋コンクリート構造による建築物であり、符号1F~5Fにより示すように5階建てにより形成される。
【0018】
図2は、垂直方向に延長する断面により切り取って断面を示すこの建築物1の断面図である。
建築物1は、鉄筋コンクリートにより基礎2、壁3が形成され、さらにコンクリートの打設により各階の床4が形成される。また建築物1は、踊り場5が、同様のコンクリートの打設により形成され、この踊り場5間を鉄製の階段本体6により接続して階段Kが形成される。
【0019】
図3は、この鉄筋コンクリートによる基礎2、壁3、床4、踊り場5の説明に供する図であり、建築物1の1階分の構成を示す平面図である。
この建築物1は、階段の部分を除く部位が1戸の居住空間に割り当てられ、この居住空間を囲むように鉄筋コンクリートによる壁3が設けられる。なおこれにより建築物1では、1つの階層に1つの居住空間が設けられるものの、これに限らず1つの階層に複数の居住空間を設ける場合、1つの居住空間を設けた階層と複数の居住空間を設けた階層とを混在させる場合にも広く適用することができる。また1つの階層に複数の居住空間を設ける場合には、各居住空間をそれぞれ囲むように鉄筋コンクリートによる壁3を設けるようにしてもよく、複数の居住空間の一部又は全部を囲むように鉄筋コンクリートによる壁3を設けるようにしてもよい。
また建築物1は、階段Kを囲むように鉄筋コンクリートによる壁3が設けられる。
【0020】
建築物1は、床4、踊り場5が、壁3に支持されて作成される。
すなわち建築物1は、壁3の内側に、壁3に沿って延長する受材11が設けられる。これにより居住空間にあっては、床4の外周に沿って延長して居住空間(床4)を囲むように、受材11が配置される。また階段Kでは、踊り場5を壁3側からコの字形状により囲むように受材11が配置される。
建築物1は、この受材11に、金属によるプレート12が配置され、このプレート12の上にコンクリートを打設して床4が形成される。建築物1は、この床4に、その後、フローリング用の板材等が配置されて床面が形成され、さらに反対側に化粧パネルが配置されて下位階の天井が形成される。また壁3には、同様に、化粧パネル等が配置されて壁面が形成される。
【0021】
より具体的に、
図2において符号Aにより示す部位を部分的に拡大して
図4に居住空間側の断面を示すように、建築物1は、壁3より突出するように、壁3にアンカーボルト21が設けられ、このアンカーボルト21により受材11が壁3に固定される。
アンカーボルト21は、壁3の配筋作業で配置された後、壁3の打設により壁3に埋め込まれて配置されるものの、壁3を打設した後に、別途設けるようにしても良い。
アンカーボルト21は、壁3に埋め込まれた箇所が途中で下方に折れ曲がって、壁3に沿って延長するように形成され、これにより壁3より突出する部位への加重に対して充分な耐力を確保できるように形成される。なおこれにより充分な耐力を確保できる場合には、種々の構成を広く適用することができる。
またアンカーボルト21は、一定の間隔により配置され、これにより受材11による加重に対して充分な耐力を確保できるように形成される。
【0022】
受材11は、棒状に延長して、プレート12を保持可能に、プレート12を配置する側である上方が、壁3より離間する方向に延出する形状により形成される。また受材11は、アンカーボルト21により壁3に配置可能に形成される。
この実施形態において、受材11は、断面、コの字形状により形成され、このコの字形状による底面に設けられた貫通穴によりアンカーボルト21にねじ止めして保持される。
なおこれにより受材11は、断面Lの字形状により形成してもよく、さらには断面矩形形状等、プレート12を保持可能であって、アンカーボルト21により壁3に配置可能な種々の形状を広く適用することができる。
【0023】
プレート12は、金属板材を曲げ加工して形成され、コンクリート13を打設するための枠体として機能し、さらにはこのコンクリート13と共に床4の強度を確保するために設けられる。プレート12は、この
図4に示す断面と直交する方向に延長する形状により形成され、断面台形形状による凸条12Aが一定のピッチにより設けられ、これにより充分な強度を確保できるように形成される。プレート12は、受材11に溶接により配置されるものの、配置方法にあっては種々の手法を適用することができる。またプレート12は、
図4に示す断面方向に隙間なく配置され、この実施形態では、隣接するプレート12と端部が重なり合うようにして配置されて、隙間なく配置される。またプレート12は、長手方向にあっては、対向する受材11に掛け渡されて配置される。
なおプレート12は、この繰り返しの配置方向の長さが長くなると、一定のスパンLで、H鋼による受け梁27が設けられる。
【0024】
コンクリート13は、このプレート12と壁3とを型枠として使用して打設される。
これにより建築物1は、床4に係る型枠を設けることなく、床4に係るコンクリートを打設して工程を簡略化し、工期を短縮できるように構成される。
具体的に、建築物1は、居住空間の床面積が約30m2により形成され、種々に検討した結果、この程度の床面積においては、プレート12を使用してコンクリートの打設により床4を形成しても、充分な強度を確保できることが分かった。
またこの程度の床面積においては、パイプサポートを設けることなく、コンクリート13を打設することができ、これにより一段と工程を簡略化して工期を短縮することができる。
なおこれらにより、受材11により囲まれた箇所の面積(この実施形態では、1階の床面積である)が、10m2以上45m2以下となるように、好ましくは15m2以上40m2以下となるように、より好ましくは20m2以上35m2以下となるように、壁3、受材11を配置して、床4に係るパイプサポートを省略して工期を短縮することができる。
【0025】
建築物1は、受材11を覆うように、耐火被覆24が形成され、さらに壁3及び床4には化粧パネル23、25が設けられ、さらに天井用の化粧パネル26が設けられる。
【0026】
図5に階段Kを示すように、踊り場5は、床4と同様に、壁3にアンカーボルト21が設けられ、このアンカーボルト21によるねじ止めにより受材11が壁3に固定される。またこの受材11にプレート12が溶接により配置され、このプレート12の先端(対応する踊り場5側の部位である)には、受材11の側に、H鋼による受け梁31が溶接により設けられる。建築物1は、対向する踊り場5の受け梁31に、階段本体6が掛け渡されて配置され、受け梁31への溶接又はボルト接合により階段本体6が固定される。
建築物1は、壁3、プレート12、階段本体6の踊り場5側の端面を型枠としてコンクリート13が打設されることにより踊り場5が形成される。
これにより型枠の作成工程を省略した簡易な工程により踊り場5が形成され、工期の短縮が図られる。
【0027】
図6は、この建築物1の施工工程を示すフローチャートである。
この施工工程は、基礎、1階の床作成工程SP2において、配筋した後、型枠を作成してコンクリートを打設することにより基礎2、1階の床を作成する。また続いて1階~2階の壁作成工程SP3において、配筋した後、型枠を作成すると共にアンカーボルト21を配置してコンクリートを打設することにより、1階から2階までの複数階の壁3を作成する。
またその後、3階~4階の壁作成工程SP4において、配筋した後、型枠を作成すると共にアンカーボルト21を配置してコンクリートを打設することにより、3階~4階までの複数階の壁3を作成する。またこの3階~4階の壁作成工程SP4と平行して、又は適宜、工程を入れ替えて2階の床作成工程SP4を実行し、アンカーボルト21を使用してプレート12を配置した後、パイプサポートを設けることなく、コンクリートを打設して2階の床4を作成する。またこの3階~4階の壁作成工程、2階の床作成工程と平行して、又は適宜、工程を入れ替えて1階~2階の階段作成工程SP4を実行して、アンカーボルト21を使用してプレート12を配置した後、階段本体6を配置してコンクリートを打設し、これにより踊り場5を作成して2階までの階段Kを作成する。
【0028】
また続いて、5階の壁作成工程SP5において、配筋した後、型枠を作成すると共にアンカーボルト21を配置してコンクリートを打設することにより、5階の壁3を作成する。またこの5階の壁作成工程SP5と平行して、又は適宜、工程を入れ替えて3階~4階の床作成工程SP5を実行し、アンカーボルト21を使用してプレート12を配置した後、パイプサポートを設けることなく、コンクリートを打設して3階及び4階の床4を作成する。またこの5階の壁作成工程、3階~4階の床作成工程と平行して、又は適宜、工程を入れ替えて2階~4階の階段作成工程SP5を実行して、アンカーボルト21を使用してプレート12を配置した後、階段本体6を配置してコンクリートを打設し、これにより踊り場5を作成して4階までの階段Kを作成する。
【0029】
また続いて5階~R階の床作成工程SP6を実行し、アンカーボルト21を使用してプレート12を配置した後、パイプサポートを設けることなく、コンクリートを打設して5階及び屋上の床4を作成する。またこの工程と平行して、又は適宜、工程を入れ替えて4階~R階の階段作成工程SP6を実行して、アンカーボルト21を使用してプレート12を配置した後、階段本体6を配置してコンクリートを打設し、これにより踊り場5を作成して屋上までの階段Kを作成する。
【0030】
これらによりこの施工工程は、複数階の壁3を2階層単位で纏めて作成する。
ここで複数階の壁を纏めて打設する場合、型枠に充分な強度を確保することが必要になるものの、実際上、この実施形態のように、2階層単位で纏めて作成する場合にあっては、型枠に過大な強度を確保することなく、複数階の壁を作成することができる。
なおこれにより全階の壁を纏めて打設するようにしてもよく、全階の一部階層で複数階の壁を纏めて打設するようにしてもよい。
【0031】
またこれによりこの施工工程では、先行して複数階の壁を作成した後、コンクリートの打設により2以上の階層に連続して床を作成することにより、パイプサポートを設けることなくコンクリートを打設可能との特徴を有効に利用して、複数階の床を纏めて打設することができ、これにより従来に比して工期を短縮することができる。
すなわちこの場合、この纏めて作成する複数階については、下層側床4のコンクリートの養生を待つことなく、上層側の床4を作成できることにより、工期を短縮することができる。また複数階の床にコンクリートを纏めて打設することができることにより、これによっても工期を短縮することができ、さらには工程管理を簡略化することができる。またパイプサポートの設置、撤去に係る作業を省略できることによっても、工期を短縮することができる。
なおこの連続した床4の作成にあっては、同日にコンクリートを打設して作成してもよく、例えば2日に渡って作成するようにしても良い。
【0032】
またこのように複数階の床を纏めて作成する際に、併せて床4を作成する階までの踊り場5を作成することにより、床4を作成した階については、階段Kを利用可能とすることができ、これにより後工程における資材、工具の搬入等を簡略化することができ、一段と工期を短縮することができる。また踊り場5の作成に係る工程管理を簡略化し、さらには、別途、踊り場を作成する必要が無いことにより、これによっても工程を簡略化することができる。
【0033】
この施工工程は、続く内装工程SP7において、各階層の内装等、屋上の防水処理等を実行してこの工程を終了する。なお内装工程においては、着手可能な作業を、床、階段作成工程SP5、SP6と平行して実行するようにしてもよい。
【0034】
以上の構成によれば、複数階の壁を作成した後、コンクリートの打設により、2以上の階層に床を連続して作成することにより、複数階の床を纏めて打設することができ、これにより工期を短縮することができる。
【0035】
また2階層毎にコンクリートの打設により纏めて壁を作成することにより、型枠に過大な強度を確保することなく、複数階の壁を作成した後、複数階の床を纏めて打設することができ、これにより工期を短縮することができる。
【0036】
またさらに床作成工程において、併せて階段の踊り場をコンクリートの打設により作成することにより、床を作成した階については、階段を利用可能とすることができ、後工程における資材、工具の搬入等を簡略化することができ、一段と工期を短縮することができる。
【0037】
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態の構成を種々に変更することができる。
【0038】
すなわち上述の実施形態では5階建ての建築物に本発明を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、5階建て以外の複数階の建築物にも広く適用することができる。
【0039】
また上述の実施形態では、1階層に1つの居住空間を設ける場合について述べたが、本発明はこれに限らず、1階層に複数の居住空間を設ける場合にも広く適用することができ、この場合には、この複数の居住空間を階段に接続する廊下、さらにはエレベーターホールの床について、居住空間、踊り場と同様にして複数階分を居住空間の床と同時に作成することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 建築物
2 基礎
3 壁
4 床
5 踊り場
6 階段本体
11 受材
12 プレート
13 コンクリート
21 アンカーボルト