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特許7051145光地上局分散配置評価システム、評価装置および光地上局分散配置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】光地上局分散配置評価システム、評価装置および光地上局分散配置方法
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020189533
(22)【出願日】2020-11-13
【審査請求日】2021-08-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】向井 達也
(72)【発明者】
【氏名】高山 佳久
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-271647(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111366930(CN,A)
【文献】藤澤博司、八木浩、山本義春、高山佳久、向井達也,“宇宙-地上間光直接通信の運用実現のための気象衛星画像による雲解析とその応用について”,第64回宇宙科学技術連合講演会講演集,日本,日本航空宇宙学会,2020年10月27日,2C14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00 - 1/18
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の地上観測点において観測された過去の気象データ群から前記複数の地上観測点の各地点における雲の量に関連する低層雲量特性を抽出する低層雲量解析部と、前記低層雲量特性に基づき、前記複数の地上観測点の各地点間における低層雲量の相関関係を表す低層雲相関マップを作成する低層雲相関処理部と、を有する低層雲分析装置と、
気象衛星において観測された過去の気象データ群から前記複数の地上観測点の各地点に対応する座標における雲の量に関連する高層雲量特性を抽出する高層雲量解析部と、前記高層雲量特性に基づき、前記複数の地上観測点の各地点間における高層雲量の相関関係を表す高層雲相関マップを作成する高層雲相関処理部と、を有する高層雲分析装置と、
前記低層雲相関マップと前記高層雲相関マップとに基づき、前記複数の地上観測点の各地点間における前記低層雲量特性と前記高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択することで、光地上局の配置を評価する評価装置と
を具備する光地上局分散配置評価システム。
【請求項2】
請求項1に記載の光地上局分散配置評価システムであって、
前記低層雲相関処理部および前記高層雲相関処理部は、前記低層雲量特性および前記高層雲量特性基づき、前記複数の地上観測点における任意の2点間での雲量の相関係数を算出することで、前記低層雲相関マップおよび前記高層雲相関マップをそれぞれ作成し、
前記評価装置は、前記低層雲相関マップと前記高層雲相関マップとに基づき、前記相関係数が0以下になる複数の2点の組み合わせを抽出する
光地上局分散配置評価システム。
【請求項3】
請求項2に記載の光地上局分散配置評価システムであって、
前記低層雲量特性および前記高層雲量特性は、前記複数の地上観測点の各地点における指定年数期間の総時間に対する指定雲量の時間率を含み、
前記評価装置は、抽出した複数の2点の組み合わせのうち、前記指定雲量の時間率が所定値以上の組を選択する
光地上局分散配置評価システム。
【請求項4】
請求項2に記載の光地上局分散配置評価システムであって、
前記低層雲量特性および前記高層雲量特性は、前記複数の地上観測点の各地点における指定年数期間の総時間に対する指定雲量の時間率を含み、
前記評価装置は、抽出した複数の2点の組み合わせから、前記指定雲量の時間率が所定値以上であり前記2点を構成する候補地のいずれか1つを共通とする組である3点以上の地上観測点の組み合わせを複数組抽出する
光地上局分散配置評価システム。
【請求項5】
請求項3または4に記載の光地上局分散配置評価システムであって、
前記評価装置は、前記複数の地上観測点の各地点における環境因子によって、前記各地点における前記低層雲量特性および前記高層雲量特性を重み付けする
光地上局分散配置評価システム。
【請求項6】
請求項5に記載の光地上局分散配置評価システムであって、
前記環境因子は、風速、シーイング、黄砂、火山灰、湿度、塩分、硫酸ガス濃度、凍結、結露および降雪量のうちの少なくとも1つに関連するパラメータを含む
光地上局分散配置評価システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずいれか1つに記載の光地上局分散配置評価システムであって、
前記高層雲分析装置は、前記気象衛星において観測された気象データを前記地上観測点において観測された気象データの観測面積と等価になるように解析空間を再定義する観測領域処理部を有する
光地上局分散配置評価システム。
【請求項8】
複数の地上観測点において観測された過去の気象データ群から抽出される前記複数の地上観測点の各地点における雲の量に関連する低層雲量特性に基づいて作成された前記複数の地上観測点の各地点間における低層雲量の相関関係を表す低層雲相関マップと、気象衛星において観測された過去の気象データ群から抽出される前記複数の地上観測点の各地点に対応する座標における雲の量に関連する高層雲量特性に基づいて作成された前記複数の地上観測点の各地点間における高層雲量の相関関係を表す高層雲相関マップとに基づき、前記複数の地上観測点の各地点間における前記低層雲量特性と前記高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択することで、光地上局の配置を評価する演算部
を具備する評価装置。
【請求項9】
複数の地上観測点において観測された過去の気象データ群から前記複数の地上観測点の各地点における雲の量に関連する低層雲量特性に基づき、前記複数の地上観測点の各地点間における低層雲量の相関関係を表す低層雲相関マップを作成し、
気象衛星において観測された過去の気象データ群から前記複数の地上観測点の各地点に対応する座標における雲の量に関連する高層雲量特性に基づき、前記複数の地上観測点の各地点間における高層雲量の相関関係を表す高層雲相関マップを作成し、
前記低層雲相関マップと前記高層雲相関マップとに基づき、前記複数の地上観測点の各地点間における前記低層雲量特性と前記高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択することで、光地上局の配置を評価する
光地上局分散配置評価方法。
【請求項10】
請求項9に記載の光地上局分散配置評価方法であって、
前記複数の地上観測点における前記低層雲量特性と前記高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択するステップでは、前記複数の地上観測点の各地点における風速、シーイング、黄砂、火山灰、湿度、塩分、硫酸ガス濃度、凍結、結露および降雪量のうちの少なくとも1つに関連するパラメータを含む環境因子によって、前記各地点における前記低層雲量特性および前記高層雲量特性を重み付けする
光地上局分散配置評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光地上局分散配置評価システム、評価装置および光地上局分散配置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天候に左右される地上設備は、一般に、天候条件の良い場所を設置候補地として選択する。電波通信の分野では、降雨量に応じた降雨稼働率の算出と各地域の雨量データおよび電波の減衰理論が存在する。宇宙-地上間の電波通信によるサービスを希望する場合は、これらの理論により回線成立や局の分散を降雨量の観点で決める。
【0003】
一方、光通信の分野では、その天候条件は電波通信と異なり、雲量、風速、シーイング、ダスト(黄砂、火山灰等)、湿度、塩害、などに重みを置いた場所を割り出す。光通信では、電波通信と同様に地上のインフラライン(電源、NW(ネットワーク)の存在)を考慮するとともに、天文観測のように唯一の1か所を見つけ出すのではなく、複数の地上局の組み合わせにより稼働率を上げる場所の組み合わせを探索する。
【0004】
宇宙-地上間の光通信において、雲は、自由空間光通信(FSOC:Free Space Optical Communication)信号を大幅に減衰させる。したがって、レーザーの伝送区間に雲が存在すると、レーザーはブロッキングされ通信は成立しない。このため、年間の雲占有率が非相関の場所に光地上局を複数分散する局分散技術(サイトダイバーシティ)が必要となる。つまり、設置可能な空間範囲を地理的な観点から検討し、単一の光地上局ではなく、グローバルな衛星追跡操作のため、複数の光地上局のグループによって高い稼働率を実現することが重要である。
【0005】
例えば、特許文献1には、衛星画像の雲を使用して最適な地上局を見つけるための再生エネルギーネットワーク最適化ツールが開示されている。
また、非特許文献1には、過去の地上観測雲量データに基づく平均雲量の観点から候補地を選択し、選択した候補地間の雲量相関値を求め、候補地の組み合わせを分析する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許明細書第9536021号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Yuki Ueda, Tatsuya Mukai and Yoshihisa Takayama.: Studies on site diversity to mitigate cloud blockage in satellite- ground optical communications by long term ground meteorological observation data, Proc. 37h AIAA International Communications Satellite Systems Conference (ICSSC-2019), 29-31 Oct. 2019, Okinawa, Japan.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光地上局の最適配置は、過去気象データの統計より判断する必要がある。気象データとしては、衛星画像データと地上観測データが存在する。しかし、衛星画像の雲判別は冬場の低層雲を観測しにくいという問題がある。一方、地上観測データは、目視での雲の判別高度に限界があり、高層ほど観測が困難になる。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、衛星画像データおよび地上観測データを利用した光地上局分散配置評価システム、評価装置および光地上局分散配置方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る光地上局分散配置評価システムは、低層雲分析装置と、高層雲分析装置と、評価装置とを具備する。
前記低層雲分析装置は、複数の地上観測点において観測された過去の気象データ群から前記複数の地上観測点の各地点における雲の量に関連する低層雲量特性を抽出する。
前記高層雲分析装置は、気象衛星において観測された過去の気象データ群から前記複数の地上観測点の各地点に対応する座標における雲の量に関連する高層雲量特性を抽出する。
前記評価装置は、前記複数の地上観測点における前記低層雲量特性と前記高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択する。
【0011】
上記光地上局分散評価システムは、低層観測(地上)と高層観測(衛星)の過去データを組み合わせて雲量を分析し、低層雲および高層雲の過去データを双方向から相互評価することで、光地上局の分散配置の最適化を図ることができる。
【0012】
前記評価装置は、前記低層雲量特性と前記高層雲量特性とに基づき、前記複数の地上観測点における任意の2点間距離における雲量の相関係数を算出し、前記相関係数が0以下になる複数の2点の組み合わせを抽出するように構成されてもよい。
【0013】
前記低層雲量特性および前記高層雲量特性は、前記複数の地上観測点の各地点における指定年数期間の総時間に対する指定雲量の時間率を含んでもよい。
この場合、前記評価装置は、抽出した複数の2点の組み合わせのうち、前記指定雲量の時間率が所定値以上の組を選択するように構成される。
【0014】
あるいは、前記低層雲量特性および前記高層雲量特性は、前記複数の地上観測点の各地点における指定年数期間の総時間に対する指定雲量の時間率を含み、前記評価装置は、抽出した複数の2点の組み合わせから、前記指定雲量の時間率が所定値以上となる3点以上の光地上局の組み合わせを複数組抽出してもよい。
【0015】
前記評価装置は、前記複数の地上観測点の各地点における環境因子によって、前記各地点における前記低層雲量特性および前記高層雲量特性を重み付けするように構成されてもよい。
【0016】
前記環境因子は、風速、シーイング、黄砂、火山灰、湿度、塩分、硫酸ガス濃度、凍結、結露および降雪量のうちの少なくとも1つに関連するパラメータを含んでもよい。
【0017】
前記高層雲分析装置は、前記気象衛星において観測された気象データを前記地上観測点において観測された気象データの観測面積と等価になるように解析空間を再定義する観測領域処理部を有してもよい。
【0018】
本発明の一形態に係る評価装置は、演算部を具備する。
前記演算部は、複数の地上観測点において観測された過去の気象データ群から抽出される前記複数の地上観測点の各地点における雲の量に関連する低層雲量特性と、気象衛星において観測された過去の気象データ群から抽出される前記複数の地上観測点の各地点に対応する座標における雲の量に関連する高層雲量特性とに基づき、前記複数の地上観測点における前記低層雲量特性と前記高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択する。
【0019】
本発明の一形態に係る光地上局分散配置方法は、
複数の地上観測点において観測された過去の気象データ群から前記複数の地上観測点の各地点における雲の量に関連する低層雲量特性を抽出し、
気象衛星において観測された過去の気象データ群から前記複数の地上観測点の各地点に対応する座標における雲の量に関連する高層雲量特性を抽出し、
前記複数の地上観測点における前記低層雲量特性と前記高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択する。
【0020】
前記複数の地上観測点における前記低層雲量特性と前記高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択するステップでは、前記複数の地上観測点の各地点における風速、シーイング、黄砂、火山灰、湿度、塩分、硫酸ガス濃度、凍結、結露および降雪量のうちの少なくとも1つに関連するパラメータを含む環境因子によって、前記各地点における前記低層雲量特性および前記高層雲量特性を重み付けしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低層雲量特性と高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択するようにしているため、光地上局の分散配置の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】光地上局と宇宙機との間で光通信(衛星通信)を行う空間光通信システムの説明図である。
図2】光サイトダイバーシティを説明する概念図である。
図3】本発明の一実施形態に係る光地上局分散配置評価システムを示すブロック図である。
図4】2点間距離の雲量の相関マップの一例を示す図である。
図5】衛星観測領域の再定義手法を説明する図である。
図6】上記光地上局分散配置評価システムにおける評価装置において実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】上記評価装置において作成されるリストの一例を示す図である。
図8】設置条件およびその要求の一例を示す図である。
図9】上記評価装置において作成される、複数の局の候補値の組み合わせのグループを示すリストである。
図10】複数の候補地への光地上局の分散配置例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0024】
[光地上局]
図1は、光地上局Gと宇宙機Sとの間で光通信(衛星通信)を行う空間光通信システム100の説明図である。
【0025】
光地上局Gは、宇宙機Sとの間で光空間伝送を行う空間光通信装置である。光地上局Gは、望遠鏡10を備える。望遠鏡10は、宇宙機Sから送信されるダウンリンク(第2レーザー光L2)を受信する受信部を構成する。また、望遠鏡10は、宇宙機Sから送信されるダウンリンク(第2レーザー光L2)の光地上局Gに対する指向を高めるためのアップリンク(第1レーザー光L1)を送信する送信部として構成されてもよい。
【0026】
第1レーザー光L1は、宇宙機Sのダウンリンクを光地上局Gへ向けて出射させるための誘導光として機能する。第1レーザー光L1及び第2レーザー光L2は、連続レーザーであってもよいし、パルスレーザーであってもよい。第1レーザー光L1及び第2レーザー光L2は、典型的には赤外光であり、その波長は、例えば、1550nm帯あるいは1064nm帯である。
【0027】
望遠鏡10は、地上に設置された基台11に搭載される。基台11は、望遠局10の姿勢を調整する調整機構11aを有し、望遠局10は、宇宙機Sを追尾可能に基台11に支持される。基台11は、予報値に従って宇宙機Sを追尾するように望遠鏡10の光軸の方位及び/又は仰角を制御する。予報値とは、宇宙機Sの軌道から計算される宇宙機Sの空間座標であり、基台11の設置場所から宇宙機Sまでの空間伝送路の第1レーザー光L1または第2レーザー光L2の波長における屈折率を考慮したものであってもよい。
【0028】
望遠鏡10の口径は特に限定されず、例えば、30cm~10mである。望遠鏡10の開口は単数に限られず、複数であってもよい。望遠鏡10は、集光した第2レーザー光L2を電気信号に変換し、受信情報の解析等の所定の信号処理を施す信号処理部(図示せず)を有する。また、光地上局Gは、後述する送信部20から第1レーザー光L1を送信するための送信信号を変調及び増幅する信号生成部(図示せず)を有する。
【0029】
なお、光地上局Gは、地上に固定的に設置される例に限られず、車両や船舶、航空機等の移動体に搭載されてもよい。また、地上局Gは、ゲートウェイや地上に設置された地上通信ネットワーク、車両、船舶、航空機等をはじめとした通信体と接続されてもよい。この場合、上記ゲートウェイや地上通信ネットワーク、通信体等は、地上局Gを介して、宇宙機Sとの間で光信号の送受信を行う。
【0030】
なお、宇宙機Sは、典型的には、人工衛星、宇宙ステーションなどの宇宙空間を移動可能な通信機能を有する構造体を意味する。人工衛星は、静止軌道(GEO:Geostationary Earth Orbit)を周回する静止衛星のほか、地球の自転周期とは無関係に地球低軌道(LEO:Low Earth Orbit)や中軌道(MEO:Middle Earth Orbit)、さらには深宇宙等を飛翔する人工衛星などを含む。すなわち、宇宙機Sの地表からの高度は特に限定されない。人工衛星は、典型的には気象衛星や探索衛星、通信衛星などであるが、いかなる目的に基づいて打ち上げられたものであってもよい。
【0031】
光地上局Gはさらに、送信部20、シーイングモニタ31、受光強度モニタ32、ビームモニタ33、制御部40などを備える。
送信部20は、宇宙機Sへ向けて送信される第1レーザー光L1を出射する。シーイングモニタ31は、宇宙機Sから送信される第2レーザー光L2に基づいて、第2レーザー光L2の伝播経路上における大気の状態を検出する。受光強度モニタ32は、第2レーザー光L2の受光強度を検出する。ビームモニタ33は、第1レーザー光L1の出射方向を検出する。制御部40は、予報値に従って宇宙機Sを追尾可能に望遠鏡10の光軸の方位、仰角を制御するとともに、シーイングモニタ31、受光強度モニタ32及びビームモニタ33の出力に基づいて送信部20を制御する。
【0032】
送信部20は、望遠鏡10の外周部に取り付けられることで、望遠鏡10と一体的に基台11に対して相対移動可能に構成される。送信部20における第1レーザー光L1の出射光軸は、望遠鏡10の光軸と平行に設置される。
【0033】
(光地上局の分散配置)
宇宙-地上間の光通信において、雲は、自由空間光通信(FSOC)信号を大幅に減衰させる。したがって、レーザーの伝送区間に雲が存在すると、レーザーはブロッキングされ通信は成立しない。このため、年間の雲占有率が非相関の場所に光地上局を複数分散する局分散技術(サイトダイバーシティ)が必要となる。つまり、設置可能な空間範囲を地理的な観点から検討し、単一の光地上局ではなく、グローバルな衛星追跡操作のため、複数の光地上局のグループによって高い稼働率を実現することが重要である。
【0034】
図2は、日本国内における光サイトダイバーシティの概念図である。図1に示したような光地上局Gは、日本国内の複数の地点に設置され、図示の例では、本州、北海道および九州の各所定地点に第1光地上局G1、第2光地上局G2および第3光地上局G3がそれぞれ設置される。各光地上局G1,G2,G3は、宇宙機Sから受信したデータを蓄積するデータストレージD1,D2,D3をそれぞれ有し、各データストレージD1~D3に蓄積された受信データは管理センターDCへ送信可能に構成される。
【0035】
管理センターDCは、国内の任意の地域あるいは任意の光地上局G1~G3に設置され、各光地上局D1~D3の運用を計画、実行する。管理センターDCは、各光地上局G1~G3が設置される観測点上空の雲量に応じて、宇宙機Sと通信する光地上局を決定する。例えば、第1光地上局G1が雲C1によって宇宙機Sとの通信(Pass-1)がブロッキングされているときは、第2光地上局G2または第3光地上局G3によって宇宙機Sとの通信(Pass-2、またはPass-3)を行う。このように、各観測点における上空の雲量の変化に応じて、宇宙機Sと通信を行う光地上局を切り替えることにより、宇宙機Sとの通信を継続させることが可能となる。
【0036】
このように複数の光地上局でネットワークを構築し雲による通信遮断を極力回避しながら宇宙機Sとの安定した通信を行うためには、各光地上局の分散配置を最適化する必要がある。典型的には、各光地上局の設置候補地には、天候条件の良い場所が選択される。その判断材料として、一般的に、過去の気象データの統計が用いられる。気象データとしては、衛星画像データと、地上観測データが存在する。
【0037】
しかし、衛星画像の雲判別では、冬場の低層雲を観測しにくいという問題がある。一方、地上観測データでは、目視での雲の判別高度に限界があり、高層ほど観測が困難である。また、衛星画像データと地上観測データとは、観測高度だけでなく、観測面積も違うため、空間分解能が異なる。このため、空間の総合分析評価が必要になる(課題1:空間総合分析評価)。
また、複数年に及ぶ対象地域をカバーする雲量の総合分析評価が必要であるが、データ量はきわめて多く、両データの空間分解能を可能な限り合わせた上での自動処理が必要になる。ここで、複数年としては、例えば10年以上が望ましい(課題2:多変量情報解析)。
さらに長期間運用を想定すると、雲以外にも考慮するべき設置条件が従来の電波通信の地上局より多く細分化される。設置条件としては、後述するように、雲量、風速、シーイング、黄砂、火山灰、湿度、塩分濃度、硫酸ガス濃度、凍結/結露、降雪量などの環境因子が挙げられる。光通信は、衛星追尾のため複数の広域分散の局群によるネットワーク配置により年間稼働率を達成する方法が重要になる。この光通信に必要な条件を明らかにし、その重み付けにより局配置を割り出す装置は完成していない(課題3:条件と重み付け処理)。
【0038】
(発明の概要)
これらの課題を解決するため、本実施形態の光地上局分散配置評価システムは、雲量分析時において低層観測(地上)と高層観測(衛星)の過去データを組み合わせる。地上観測では上層雲がすべて観測できず、衛星では冬季など地表近くの雲は判別できないため、これらのデータを総合的に評価する。
具体的には、候補地点の雲量を低層観測および高層観測の両方から約10年分分析し、各地点間距離における雲量の相関係数を求める。このとき、低層観測(例:高度18km時、725858.7km、毎3時間)と高層観測(例:16km、毎時)では時間分解能と空間分解能に差があるが、傾向を把握するため時間分解能は重きを置かず、空間分解能の観点で低層観測および高層観測の双方から同一地点での雲量の傾向を把握するため、衛星の4kmメッシュを地上観測面積に等価になるように解析空間を再定義し分析にかける。
そして、割り出された場所に対して、風速、シーイング、ダスト(黄砂、火山灰等)、湿度、塩害などの他の設置条件(環境因子)の項目を重み付けをもたせて管理し、互いに雲量の相関が低い場所で、かつ設置条件(環境因子)の重み付けの優先で探索される場所を複数個抽出する。さらに、その組み合わせを地図上に座標プロットするとともに、条件を満たすときの総晴天時間等を算出し、全体としての期待できる稼働率を評価する。
【0039】
以下、本実施形態の光地上局分散配置システムの詳細について説明する。
【0040】
[光地上局分散配置評価システム]
図3は、本発明の一実施形態に係る光地上局分散配置評価システム200を示すブロック図である。光地上局分散配置評価システム200は、単一または複数のコンピュータで構成される。
本実施形態の光地上局分散配置評価システム200は、低層雲分析装置210と、高層雲分析装置220と、評価装置230とを備える。
なお、光地上局分散配置評価システム200は、単一の装置で構成されてもよいし、複数台の装置で構成されてもよい。
【0041】
(低層雲分析装置)
低層雲分析装置210は、複数の地上観測点において観測された過去の気象データ群から上記複数の地上観測点の各地点における雲の量に関連する低層雲量特性を抽出する。
【0042】
例えば、日本は、地理的領域は4つの大きな島(つまり、北海道、本州、四国、九州)と日本の海域によって定義される領海に囲まれた他の多くの島で構成される。これらのエリアは、光地上局Gを設置して国内のサイトダイバーシティを形成する基本的な地理的範囲を提供する。なお、これらのエリアにはライフライン(輸送、送電線、ネットワークなど)の未開拓な土地や防衛に使用される指定の土地が含まれるため、地政学的な観点から利用不可能な土地は排除される。
【0043】
本実施形態において、低層雲分析装置210は、低層雲量取込処理部211と、低層雲量解析部212と、低層雲相関マップ作成部213とを有する。
【0044】
低層雲量取込処理部211は、地上観測データベース251から国内の各地上観測点の気象データ群を取得する。地上観測データベース251は、国内各地に設置された複数の地上気象観測所において観測された気象データを格納する。これらの気象データは、例えば、3時間ごとに観測され、観測範囲は、例えば高度18kmでは725858.7kmである。低層雲量取込処理部211は、地上観測データベース251から各地上観測点の過去数年分(例えば10年分)の気象データを取り込む。
【0045】
低層雲量解析部212は、低層雲量取込処理部211で取り込まれた各地上観測点における気象データを解析し、各地上観測点における低層雲量特性を抽出する。低層雲量特性は、典型的には、光地上局Gを設置可能な国内地域の複数の候補地において観測された地上観測データから年間の平均雲量、指定年数期間における晴天時間率あるいは指定雲量の時間率(晴天時間率および指定雲量の時間率については後述する)を含む。平均雲量xaveは、例えば、以下の式(1)で算出される。
【0046】
【数1】
式(1)において、nは、地上観測点のデータ数、xiは観測データである。
【0047】
低層雲相関マップ作成部213は、低層雲量解析部212で抽出された各地上観測点における(低層雲の)平均雲量と特定のエリアの各場所での距離との相関関係を表す相関マップを作成する。
【0048】
図4に相関マップの一例を示す。図4に示すように、相関マップは、複数の地上観測点における任意の2点(候補位置)間距離におけるそれぞれの雲量の相関係数rを示す。相関係数rは、例えば、以下の式(2)で算出される。
【0049】
【数2】
式(2)において、xとyはそれぞれの候補位置、sxyはxとyの共分散、sxはxの標準偏差、syはyの標準偏差、nはデータの総数、xiとyiはそれぞれ候補地xとyの雲量データ、xaveとyaveはそれぞれ候補地xとyの平均雲量である。


【0050】
相関係数rは、-1以上、1以下の範囲の値であり、rが1に近いほど相関が高く(正の相関が高い)、rが-1に近いほど相関が低い(逆相関がある、負の相関が高い)ことを表す。なお、r=0のときは、無相関を意味する。図4の例では、地点B~Jは、地点Aから順に距離的に遠い地点を示している。典型的には、2点間距離における雲量の相関係数rは、2点の距離が近いほど大きな値(正の値)を示し、2点の距離が遠いほど小さい値(負の値)を示す。
【0051】
(高層雲分析装置)
高層雲分析装置220は、気象衛星において観測された過去の気象データ群から上記複数の地上観測点の各地点に対応する座標における雲の量に関連する高層雲量特性を抽出する。本実施形態において高層雲分析装置220は、高層雲抽出処理部221と、観測領域処理部222と、高層雲量解析部223と、高層雲相関マップ作成部224とを有する。
【0052】
高層雲抽出処理部221は、衛星観測データベース252から国内の地上観測点における気象データ(衛星データ)群を取得する。衛星観測データベース252は、例えば、静止気象衛星(GMS:Geostationary Meteorological Satellite)により観測された雲画像データを格納する。これらの雲画像データは、例えば、1時間ごとに観測され、空間分解能から定まるデータ範囲は16kmである。そして、高層雲抽出処理部221は、衛星観測データベース252から各地上観測点の過去数年分(例えば10年分)の高層雲画像データを抽出する。
【0053】
ここでは、高層雲抽出処理部221は、低層雲量取込処理部211で取り込まれる各地上観測点の雲データと同じ座標(各地上観測点と合致する座標)の衛星データを使用する。これは、地上観測点の雲データと衛星データとの間に雲の観測高度差があるためである。
【0054】
観測領域処理部222は、空間分解能の観点で地上観測データおよび衛星画像データから各々同一地点での雲量の傾向を把握するために、高層雲抽出処理部221で抽出された4kmメッシュの画像データを地上観測面積と等価になるように画像データの解析空間を再定義する。
【0055】
例えば図5に示すように、地球の半径をR[km]、雲の観測高度をh[km]、地表上の観測点を中心とする円(観測範囲)の半径、面積(但し、底面は除く)および緯度をそれぞれr[km]、S[km]およびθ[deg]とする。
観測領域処理部222は、地上での観測高度hに対応する観測面積Sを衛星側の座標上の雲解析範囲とする。これにより地上観測データと衛星データとの間での空間分解能が等価になる。なお、時間軸は、各データの観測サイクルに応じて指定対象期間で平均化する。これにより両データ間での時間分解能が等価になる。
【0056】
図5に示すように、R、r、h、Sおよびθは、以下の式(3)~(5)の関係を満たす。
【数3】
【数4】
【数5】
ここで、R=6400kmとすると、h=18kmの場合、θ=1.4959rad、r=480.3km、S=725858.7kmとなる。
【0057】
高層雲量解析部223は、観測領域処理部222で処理された各地上観測点に対応する座標上での気象データを解析し、当該座標上における高層雲量特性を抽出する。高層雲量特性は、典型的には、当該座標上における高層雲の年間の平均雲量をいう。平均雲量は、上述の式(2)により算出される。
【0058】
高層雲相関マップ作成部224は、高層雲量解析部223で抽出された各座標上における(高層雲の)平均雲量と特定のエリアの各場所での距離との相関関係を表す相関マップを作成する(図4参照)。
【0059】
(評価装置)
評価装置230は、低層雲分析装置210において算出された上記複数の地上観測点における低層雲量特性と、高層雲分析装置220において算出された高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択する演算部231を有する。
これにより、地上観測で問題となる高層雲の観測困難性という弱点を衛星観測データで補完できる一方、衛星観測で問題となる冬場での低層雲の観測困難性という弱点を地上観測データで補完できるため、地上の同一地点における低層雲と高層雲の雲量を総合的に評価することができる。
【0060】
図6は、評価装置230(演算部231)において実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。以下、評価装置230の詳細について、光地上局分散配置評価システム200の動作例とともに説明する。
【0061】
(1)地理空間定義
評価装置230はまず、光地上局Gを設置する候補地である対象地理的空間(国土)と位置(座標)を指定する(ステップ101)。
ここでは、対象地理的空間として、日本国内の都市名あるいは地域名が指定され、位置を示す座標として、当該候補地の緯度および経度が指定される。指定された各候補地の座標は評価装置230から低層雲分析装置210および高層雲分析装置220へ指示され、低層雲分析装置210および高層雲分析装置220は、指定された各候補地が属する地域の地上観測点の低層雲量特性および高層雲量特性をそれぞれ抽出する。
【0062】
(2)雲量・時間率解析
続いて、評価装置230は、指定座標(候補地)の指定年数期間の晴天時間率、又は、指定雲量とその時間率を算出する(ステップ102)。
【0063】
指定年数期間は、ここでは10年であるが、勿論これに限られず、10年より短い期間でもよいし、10年より長い期間であってもよい。指定年数期間が長期間になるほど信頼性の高い雲量解析が可能となる。なお、近年における気候変動に鑑みて、直近数年間の気象データに重みを付けた解析がされてもよい。
【0064】
晴天時間率とは、総時間に対する完全に晴れている各地点の時間率をいう。
一方、指定雲量とは、雲量に応じてあらかじめ設定された多段階の雲量から指定される雲量をいう。雲量の段階数は特に限定されず、例えば、0(晴)~10(完全曇)までの11段階評価とすることができる。指定雲量の時間率とは、指定雲量の総時間に対する各地点の時間率をいう。例えば、指定雲量が「3」の場合、雲量3以下のデータ(雲量0~3に該当するデータ)を用いて時間率が算出される。
【0065】
指定年数期間の晴天時間率または指定雲量とその時間率の算出は、評価装置230から低層雲分析装置210および高層雲分析装置220へ指示される。低層雲分析装置210および高層雲分析装置220は、評価装置230からの指示内容に基づき、指定年数期間の晴天時間率または指定雲量の時間率を算出し、その算出結果を基に、低層雲および高層雲に関する相関マップ(図4参照)を作成する。
【0066】
(3)相関係数解析
続いて、評価装置230は、低層雲分析装置210で作成された低層雲相関マップと高層雲分析装置220で作成された高層雲相関マップとに基づき、低層雲および高層雲を含む複数地点の任意の複数の2点間距離における雲量の相関係数(r)を、上記2点間の複数組について算出する(ステップ103)。
【0067】
複数の2点間距離とは、例えば、地点Aと地点Bの2点間(A/B)、地点Aと地点Cの2点間(A/C)などをいう(図4参照)。共通の2点間距離における雲量の相関係数について、低層雲側の相関係数と高層雲側の相関係数とに相違がある場合、相関が低い方の値が採用される。低層又は高層の雲量の相関が高い値(正の値)が出た場合は、その場所を排除し、常にいずれも相関が低い値(負の値)になる候補地の組み合わせが抽出される。
【0068】
すなわち、評価装置230は、特定の2点間(例えば、A/B)について、低層雲相関マップに基づく相関係数と、高層雲相関マップに基づく相関係数とを相互に比較し、これらのうち相関が低い方の値(相関係数が小さい方の値)を採用し、いずれの相関係数も同じ値であればその値を採用する。
同様の操作を他のすべての2点間(A/C、A/D、・・・、B/C、B/D、・・・等)について行い、これらを基に、各2点間距離の雲量の相関マップを新たに作成する。
【0069】
(4)雲量・時間率および相関係数の組算出
続いて、評価装置230は、低層雲量特性と高層雲量特性とに基づき、複数の地上観測点における任意の2点間距離における雲量の相関係数(r)が所定の閾値以下になる複数の2点の組み合わせを抽出する(ステップ104)。
上記閾値は、相関が低い値(rが小さい値)であることが好ましく、例えば0近傍、より好ましくは、0~-1の0未満の値(負の値)であることが好ましい。
本実施形態において上記閾値は0であり、相関係数(r)が0以下(0または負の値)となる複数の2点の組み合わせを抽出する。
【0070】
これにより、各地点の雲量条件(雲量、時間率)と各地点間距離における雲量の相関係数が小さくなる組をリスト化でき、雲量の地域特性を把握することができる。当該リストの一例を図7に示す。図7のリストには、相関係数(r)が0以下の値の2点間の組み合わせが列記される。リスト化された2点間の組み合わせには、当該2点に光地上局Gを設置したときの稼働率(Availability)X1,X2,・・が百分率で併記される。稼働率は、典型的には、相関係数が小さい値ほど大きな値を示す。
なお、図7に示すリストは、評価装置230から出力装置240へ出力される。出力装置240は特に限定されず、例えば、表示装置、印刷装置、コンピュータなどの外部装置が挙げられる。
【0071】
ここで、稼働率とは、光地上局の運用に要する指定期間日数に対しての雲量条件を満たす日数の割合であって、
(雲量条件を満たす日数/指定期間日数)×100(%)
で表される。
また、3地点(例えば、地点A,B,C)で運用する場合の稼働率は、
(地点A、B、Cで雲量条件を満たす日数/指定期間日数)×100(%)
で表される。
【0072】
(5)目標稼働率の到達判断
続いて、評価装置230は、相関係数(r)が0以下の各2点間の組み合わせのうち、晴天時間率または指定雲量の時間率が所定値以上の組を探索する(ステップ105)。
上記晴天時間率または指定雲量の時間率は、光地上局の稼働率と等価である。したがって、上記所定値は、例えば、90%以上の値が採用される。これにより、希望とする稼働率を実現できる光地上局Gの設置候補地の組み合わせを抽出することができる。
【0073】
上述のように、サイトダイバーシティ(光地上局の分散配置)を組む目的は、複数の光地上局のグループによって高い稼働率(例えば、99%以上)を実現することである。そのためには、できるだけ晴天の日数が多い場所を光地上局の候補地として選択することが理想である。一方、候補地が多いほど稼働率は高くなるが、経済性が低下する。そこで、局数を減らして経済性を高めるには多少の雲量特性が認められても候補地間距離における雲量の相関係数(r)が小さく、その値が0に近い値又はそれ以下の場所を探索してネットワークを構成する必要がある。したがって経済性を主要観点としてネットワークを構築する場合には、候補地間における雲量の相関係数(r)の値は、0未満(0~-1)の範囲の候補地を探索するのが好ましい。
なお、0未満の相関係数(r)を満たす候補地の組み合わせが抽出できない場合は、経済性の低下が許される範囲で、例えば相関係数(r)の値が0近辺となる候補地の組み合わせも選択肢に挙げられてもよい。「0近辺」とは、例えば、-0.2~+0.2、あるいは、-0.1~+0.1の範囲の値をいう。
【0074】
(6)設置条件(環境因子)の重み係数による最終組導出(フィルタリング)
ステップ105において判定が「Yes」の組がある場合、評価装置230は、晴天時間率または指定雲量の時間率が所定値以上の2点間の組について、当該2点の候補地について予め設定された設置条件(環境因子)ごとに重み付けを加重し、設置条件を満たす組を最終組として導出する(ステップ106)。
【0075】
設置条件(環境因子)は、各候補地の地理的条件等に応じて定められる。設置条件および光地上局にとっての各設置条件に対する要求項目の一例を図8に示す。設置条件として、雲量(Cloud amount)、風速(Wind speed)、シーイング(Seeing)、黄砂(Yellow sand)、火山灰(Volcanic ash)、湿度(Humidity)、塩分(Salinity)、硫酸ガス(Sulfuric acid gas)、凍結(Freezing)、結露(Condensation)、降雪量(Snow amount)などの環境因子が挙げられる。評価装置230は、これら環境因子のうち、少なくとも1つに関連するパラメータを設置条件として用いる。
【0076】
雲量は、宇宙-地上間における光通信を遮断する要因となるため、少ない方が望ましい。風速は、シーイングに密接な関連を有するため、小さい方が望ましい。黄砂および火山灰は可視性に影響を及ぼすため、いずれも少ない方が望ましい。湿度、塩分、硫酸ガス、凍結および結露は、光地上局の設備の耐久性に影響を及ぼすため、いずれも低いまたは少ない方が望ましい。降雪量は、光地上局へのアクセス性に影響を及ぼすため、少ない方が好ましい。
【0077】
これらの設置条件(環境因子)は、各候補地の地域性に関連した固有のパラメータであり、候補地ごとにあらかじめデータベース250に格納される。評価装置230は、ステップ105において抽出された2点の候補地の組について、上記設置条件を個別に加重してフィルタリングし、これらの設置条件の要求を満足する候補地の組み合わせを最終組として導出する。設置条件として加重される重み係数は特に限定されず、要求を満足しない候補地をフィルタリングで排除可能な任意の係数が設定可能である。
【0078】
(7)探索処理
一方、ステップ105において判定が「No」の場合(判定が「Yes」の組がない場合)、評価装置230は、上記各2点間距離における雲量の相関係数(r)が0以下になる組であって、接点が同じものの時間率を算出し、複数の局で目標稼働率に到達する組を探索する(ステップ107)。本実施形態では、相関係数(r)が0以下になる複数の2点の組み合わせから、目標稼働率に到達する3点以上の光地上局の組み合わせ(指定雲量の時間率が所定値以上となる3点以上の光地上局の組み合わせ)を複数組抽出する。
【0079】
この処理は、候補地が2点のみでは晴天時間率または指定雲量の時間率が所定値以上の組が存在しない場合、候補地をさらに追加して光地上局Gを3局以上配置することで、目標とする稼働率の実現を図る趣旨である。ここでは、候補地の数を1つずつ増やしながら目標稼働率に達する3点以上の候補地の組み合わせを探索する。「接点が同じもの」とは、2点を構成する候補地のいずれか1つを共通とする組をいい、その一例を図9に示す。
【0080】
図9は、相関係数(r)が0以下の3局以上の候補値の組み合わせのグループを示すリストである。ここでは、3点間の候補地(A/F/I、B/G/A、・・)を1グループとして計10グループ示されている。これは、3つの候補地A,F,IをそれぞれノードA、ノードF、ノードIとしたとき、図10に示すように3つの候補地を結ぶ線または三角形のトポロジを形成する。例えば、各ノードは、太平洋側の大きな沿岸地域と島を示し、年間を通して曇りが少なく、日当たりの良い傾向があり、日中のデータからわかっている小さな平均雲量に対応していると評価される。
【0081】
評価装置230は、図9に示す各グループのうち、晴天時間率または指定雲量の時間率が所定値以上の組を再度探索する。その結果、該当するグループが存在する場合は、再度上述のフィルタリング処理を実行し、設置条件の要求を満足するグループを光地上局Gの設置候補地としての最終組を導出する(ステップ108)。
【0082】
以上のように本実施形態によれば、複数の地上観測点における低層雲量特性と高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択する評価装置230を備えているため、低層観測(地上)と高層観測(衛星)の過去データを組み合わせて雲量を分析し、低層雲および高層雲の過去データを双方向から相互評価し、設置条件(環境因子)によりフィルタリングすることで、光地上局の分散配置の最適化を図ることができる。
【0083】
また、本実施形態によれば、候補地に選択条件として、候補地における指定年数期間での晴天時間率だけでなく、複数段階に細分化された指定雲量の時間率をも採用しているため、地域の気象特性に合わせ、目標稼働率に見合った候補地が探索しやすくなる。特に、晴天および曇天のいずれにも当てはまらない雲量特性を有する地域における光地上局の分散配置評価にも十分に適用可能である。
【0084】
しかも従来、光学システムを扱うオペレータにとっては、光地上局をどこに配置すれば効率的かつ経済的な運用が実現できるかを膨大なデータから探索する作業が必要であったのに対し、本実施形態によれば、低層雲および高層雲に関する膨大な気象データから2点間の雲量の相関が低い2点間の候補地を自動的に選択、評価することができるため、光地上局の運用ネットワークの計画更新等の検討作業の効率の大幅な改善を図ることが可能となる。
【0085】
さらに本実施形態によれば、各候補地の地理的特性に由来する設置条件(環境因子)を考慮に入れた候補地の絞り込みが可能であるため、雲量特性だけでなく、運用効率、耐久性、アクセス性をも含めて総合的に光地上局の候補地を評価できる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0087】
例えば以上の実施形態では、光地上局を新規に設置する上での分散配置評価について説明したが、これに限られず、既存の光地上局を変更し、又は既存の光地上局に追加して新たに設置される光地上局の候補地の選定にも、本発明は適用可能である。
【0088】
また以上の実施形態では、空間光通信システムにおける光地上局の最適配置評価手法について説明したが、光地上局は宇宙機との光通信用に限られない。例えば、地球大気を伝送路に挟んで宇宙機と地上局間においてレーザーにより距離計測するシステム(衛星測距ネットワーク、宇宙デブリ観測ネットワーク)、地球大気を伝送路に挟んで宇宙機と受電設備間においてレーザーによりエネルギーを伝送する太陽光発電衛星システム(光エネルギー伝送)等における光地上局にも、本発明は適用可能である。また、光地上局は、宇宙機との光通信、距離計測に限られず、太陽光発電の受電設備を備えた地上局であってもよい。
【符号の説明】
【0089】
200…光地上局分散配置システム
210…低層雲分析装置
211…低層雲量取込処理部
212…低層雲量解析部
213…低層雲相関マップ作成部
220…高層雲分析装置
221…高層雲抽出処理部
222…観測領域処理部
223…高層雲量解析部
224…高層雲相関マップ作成部
230…評価装置
231…演算部
G…光地上局
S…宇宙機
【要約】
【課題】衛星画像データおよび地上観測データを利用した光地上局分散配置評価システム、評価装置および光地上局分散配置方法を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る光地上局分散配置評価システムは、低層雲分析装置と、高層雲分析装置と、評価装置とを具備する。前記低層雲分析装置は、複数の地上観測点において観測された過去の気象データ群から前記複数の地上観測点の各地点における雲の量に関連する低層雲量特性を抽出する。前記高層雲分析装置は、気象衛星において観測された過去の気象データ群から前記複数の地上観測点の各地点に対応する座標における雲の量に関連する高層雲量特性を抽出する。前記評価装置は、前記複数の地上観測点における前記低層雲量特性と前記高層雲量特性との相関が低い地点の組み合わせを選択する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10