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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】タオル地及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 27/00 20060101AFI20220404BHJP
   D02G 3/24 20060101ALI20220404BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
D03D27/00 A
D02G3/24
D03D1/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021068858
(22)【出願日】2021-04-15
(65)【公開番号】P2021107610
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】397042230
【氏名又は名称】伊澤タオル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100119426
【弁理士】
【氏名又は名称】小見山 泰明
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 正司
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-042370(JP,A)
【文献】特開2021-006671(JP,A)
【文献】特開2021-050462(JP,A)
【文献】特開2005-200790(JP,A)
【文献】特開平01-033227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 27/00
D02G 3/28
D03D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸地糸と緯糸地糸とが交差した地組織にパイル糸が係止されるタオル地であって、
前記経糸地糸と前記緯糸地糸と前記パイル糸のうち少なくとも一つは、精紡合撚加工糸で形成され、
前記精紡合撚加工糸は、2本以上の粗糸が単糸として下撚り方向に撚られた当該粗糸の1本が均斉な撚りを有し、且つ、当該粗糸の他の少なくとも1本がストランド長と撚り合わせ角が不規則な実撚りを部分的に有する精紡合撚糸が、開繊して膨らんでいる、タオル地。
【請求項2】
前記精紡合撚糸は、前記不規則な実撚りの箇所に交絡の強い部分を多数備え、
前記精紡合撚加工糸は、当該精紡合撚加工糸の表面に前記交絡の強い部分から発現した細かな毛羽を有する、請求項1に記載のタオル地。
【請求項3】
前記精紡合撚加工糸は、下撚り数に対して5~80%の範囲で逆方向に解撚されて構成されている、請求項1又は2に記載のタオル地。
【請求項4】
前記精紡合撚加工糸は、綿の混率が綿40重量%以上合成繊維60重量%未満で構成されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタオル地。
【請求項5】
前記精紡合撚加工糸の糸番手は、5~300番である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のタオル地。
【請求項6】
前記タオル地の目付は、80~1000g/m2である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のタオル地。
【請求項7】
経糸地糸と緯糸地糸とが交差した地組織にパイル糸が係止されるタオル地であって、当該経糸地糸と当該緯糸地糸と当該パイル糸のうち少なくとも一つが精紡合撚加工糸で形成された、タオル地の製造方法において、
前記精紡合撚加工糸は、
2本以上の粗糸を同じ方向に引き揃えて単糸として下撚りして精紡合撚糸を形成する工程と、
前記精紡合撚糸を下撚り方向と逆方向に上撚りして解撚し、精紡合撚加工糸を形成する工程と、
を備える工程で製造される、タオル地の製造方法。
【請求項8】
前記精紡合撚加工糸を形成する工程は、前記精紡合撚糸の解撚と同時に当該精紡合撚糸を擦過する、請求項7に記載のタオル地の製造方法。
【請求項9】
前記精紡合撚加工糸を形成する工程は、前記精紡合撚糸を下撚りの回転数の5~80%の範囲で解撚する、請求項7又は8に記載のタオル地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タオル地及びその製造方法に関し、詳しくは、カサ高でふんわりした風合いで、毛羽落ちがしにくく、吸水性に優れたタオル地及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の多様な志向に伴い、タオルの風合いや高機能性が求められている。その中で、風合いについてはとりわけカサが高く、ふんわり感のある、高級タオルのニーズが高い。かかるふんわり感を発現するために、経糸地糸と緯糸地糸とが交差した地組織にパイル糸が係止された断面構造を有するタオル織物では、パイル糸のパイル長を長くしてパイルのソフトさをアップする方法やパイル糸に細い番手の糸を使ってソフト化する方法がある。しかし、いずれの方法も、ソフトなタッチが得られるものの、反発性に乏しく、カサ高なふんわり感の風合いは得られない。
【0003】
また、タオルの毛羽落ちについては、例えば他の衣類と一緒に洗濯したときや洗濯物を折り畳む際にタオルの毛羽が付いて、衣類を着用したときに毛羽が目立つことを経験することがある。これに対して、タオル地の製造加工で織物の表面の毛羽を毛焼きして毛羽落ちを少なくする方法があるが、パイル糸の毛羽が少なくなって、タオル地がざらざらした風合いとなり、対応することが難しい。
【0004】
更に、吸水性は綿タオルの大きな特長の一つであるが、例えば、汗をかいた時やふろ上がりにタオルで水分を拭いたときに水分が充分に拭き取れない場合がある。その傾向は特にタオル地が薄く、カサがない扁平な風合いのものに多く見かける。これは、タオルが皮膚についている沢山の水分量を素早く吸収するという拭き取り吸水機能性に乏しいことに起因するものであり、改善すべき課題である。
【0005】
かかる課題に対して、技術的見地から通常の主流になっているリング紡績糸を用いた種々の撚糸加工が提案されている。カサ高性を付与する方法として、セルロース系繊維の強撚糸に糊付けし、液体アンモニア処理とスチーム処理をする。次いで、この強撚糸に、この強撚糸の撚りの方向とは逆方向に撚りをかけた水溶性糸を合撚する。次いでこの強撚糸の中の水溶性糸を溶解除去してカサ高のセルロース系繊維を得る製造方法がある(特許文献1)。また、この方法の紡績糸及び織編み物がある(特許文献2)。また、コストダウンのためこの水溶性糸を用いずに紡績糸の単糸に糊付けし、乾燥し、次いで該紡績糸の逆方向に解撚する、紡績糸の加工が提案されている(特許文献3)。更に、美麗な目風の編み物を得るため、1本の単糸で糸軸に沿って、S撚りとZ撚りが交互にねじれた状態に連続的に融着した合成繊維の強撚調加工糸が提案されている(特許文献4)。更にまた、シャリ感の風合いを得るべく、天然繊維或いは合成繊維の紡績糸の単糸に熱可塑性合繊マルチフィラメント糸を紡績糸単糸と逆方向に仮撚り捲縮加工する。次いで、この仮撚り糸と紡績糸を合糸し、前記紡績糸単糸と同方向に加撚した交撚糸が提案されている(特許文献5)。
【0006】
また、従来、広汎に行われる綿の粗糸1本に撚りをかけて単糸を作るリング紡績糸に対して、1本の粗糸と1本の粗糸とを平行に並べ、この2本を合わせて撚りをかけて単糸を作る精紡合撚糸(サイロスパン)がある。精紡合撚糸はリング紡績糸に比して糸の強伸度が高いので、経糸の糸切れがなく、製織性が改善できることが紹介されている(非特許文献1)。
【0007】
しかし、特許文献1、2の強撚糸の撚りの方向とは逆方向に撚りをかけた水溶性糸を合撚、溶解除去する技術は、水溶性糸の溶解除去工程と溶解液の廃棄処理工程を伴い、製造コストが高くなる。特に、溶解液の廃棄費用は無視できないほど大きい。特許文献3では糊付けしてから単糸を解撚するので、糊付け工程が製造コスト高を招く。特許文献4では1本の糸の長さ方向にSとZ撚りが交互に融着させるので、融着工程が製造コスト高を招く。特許文献5では紡績糸単糸と熱可塑性合繊マルチフィラメント糸とを紡績糸単糸と逆方向に仮撚り捲縮加工等するが、工程が複雑で製造コストが高い。非特許文献1が紹介する精紡合撚糸は硬く剛直で締り感が強く、膨らみ感に欠けるので、これをそのままタオルのパイル糸に採用しても、カサ高なふんわり感の風合いは得られない。膨らみを発現させるために精紡合撚糸の撚り数を小さくすれば、膨らみはある程度発現するものの、長い毛羽が数多く出て製品の毛羽落ちは改善ができない。
【0008】
以上に説明したように、いずれの公知技術も、カサ高でふんわりした風合いで、毛羽落ちがしにくく、吸水性に優れたタオル地及びその製造方法について明記したものは見当たらないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許2000-119927号公報
【文献】特開2008-25055号公報
【文献】特開2014-25173号公報
【文献】特開昭53-98442号公報
【文献】実開昭51-12747号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】繊維機械学会誌、1985、VOL3889(2)、P108-110、サイロスパン糸の構造と性質およびこれを用いた物性と風合いについて、長谷川英祐著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決し、カサ高でふんわりした風合いで、毛羽落ちがしにくく、吸水性に優れたタオル地及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載のタオル地は、
経糸地糸と緯糸地糸とが交差した地組織にパイル糸が係止されるタオル地であって、
前記経糸地糸と前記緯糸地糸と前記パイル糸のうち少なくとも一つは、精紡合撚加工糸で形成され、
前記精紡合撚加工糸は、2本以上の粗糸が単糸として下撚り方向に撚られた当該粗糸の1本が均斉な撚りを有し、且つ、当該粗糸の他の少なくとも1本がストランド長と撚り合わせ角が不規則な実撚りを部分的に有する精紡合撚糸が、開繊して膨らんでいる。
【0013】
請求項2に記載のタオル地は、請求項1に記載のタオル地において、
前記精紡合撚糸は、前記不規則な実撚りの箇所に交絡の強い部分を多数備え、
前記精紡合撚加工糸は、当該精紡合撚加工糸の表面に前記交絡の強い部分から発現した細かな毛羽を有する、
ことを特徴とすれば、
細かな毛羽は糸の交絡の強い部分から引き出されるので、タオル地は毛羽抜け抵抗力を備え、毛羽落ち性を著しく改善できるので好ましい。
【0014】
請求項3に記載のタオル地は、請求項1又は2に記載のタオル地において、
前記精紡合撚加工糸は、下撚り数に対して5~80%の範囲で逆方向に解撚されて構成されている、
ことを特徴とすれば、本構成を有しない場合に比して、
タオル地は膨らみのある風合いを実現でき、吸水性の点でも好ましい。
【0015】
請求項4に記載のタオル地は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタオル地において、
前記精紡合撚加工糸は、綿の混率が綿40重量%以上合成繊維60重量%未満で構成されている、
ことを特徴とすれば、本構成を有しない場合に比して、
綿の吸水性、吸湿性を保ちながら合繊の速乾性や寸法安定性をバランス良く付与できるので好ましい。
【0016】
請求項5に記載のタオル地は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のタオル地において、
前記精紡合撚加工糸の糸番手は、5~300番である、
ことを特徴とすれば、本構成を有しない場合に比して、
厚地のタオル地から薄地のものまで対応できるので好ましい。
【0017】
請求項6に記載のタオル地は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のタオル地において、
前記タオル地の目付は、80~1000g/m2である、
ことを特徴とすれば、本構成を有しない場合に比して、
膨らみのある風合い、毛羽落ち性能、吸水性といった本発明の特徴を様々な用途のタオル地で発揮できるので好ましい。
【0018】
上記課題を解決するために、請求項7に記載のタオル地の製造方法は、
経糸地糸と緯糸地糸とが交差した地組織にパイル糸が係止されるタオル地であって、当該経糸地糸と当該緯糸地糸と当該パイル糸のうち少なくとも一つが精紡合撚加工糸で形成された、タオル地の製造方法において、
前記精紡合撚加工糸は、
2本以上の粗糸を同じ方向に引き揃えて単糸として下撚りして精紡合撚糸を形成する工程と、
前記精紡合撚糸を下撚り方向と逆方向に上撚りして解撚し、精紡合撚加工糸を形成する工程と、
を備える工程で製造される。
【0019】
請求項8に記載のタオル地の製造方法は、請求項7に記載のタオル地の製造方法において、
前記精紡合撚加工糸を形成する工程は、前記精紡合撚糸の解撚と同時に当該精紡合撚糸を擦過する、
ことを特徴とすれば、
解撚と擦過とを一つの工程で実行できるので、安価な製造コストで膨らみのある風合い、吸水性、毛羽落ち性能を実現ので好ましい。
【0020】
請求項9に記載のタオル地の製造方法は、請求項7又は8に記載のタオル地の製造方法において、
前記精紡合撚加工糸を形成する工程は、前記精紡合撚糸を下撚りの回転数の5~80%の範囲で解撚する、
ことを特徴とすれば、本構成を有しない場合に比して、
膨らみのある風合い、毛羽落ち性能、吸水性をバランス良く実現できるので好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、カサ高でふんわりした風合いで、毛羽落ちがしにくく、吸水性に優れたタオル地及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るタオル地の断面構造を示す模式図である。
図2】実施例の糸単糸の拡大写真であり、図2Aは実施例1の精紡合撚加工糸単糸の拡大写真を示し、図2Bは比較例1の精紡合撚糸単糸の拡大写真を示し、図2Cは比較例2の精紡合撚糸単糸の拡大写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(タオル地の構造)
以下、本発明の一実施形態を、図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るタオル地の断面構造を示す模式図である。タオル地は、図1に示すように、経糸地糸2a,2bと緯糸地糸3が交差した地組織に、パイル糸1a,1bが係止されて構成される。ここで、図1の上がタオル地(又は地組織)の表側であり、1aは表のパイル糸、1bは裏のパイル糸である。本実施形態では、パイル糸1a,1bに、以下に説明する精紡合撚糸を解撚加工した精紡合撚加工糸が用いられている。
【0024】
(精紡合撚加工糸の構造)
パイル糸1a,1bで使用される精紡合撚糸は、平行に並べられた綿等の2本の粗糸が単糸として下撚り方向に下撚りをかけて形成される。このとき、一方の粗糸には均斉な撚りがかかるが、他方の粗糸はストランド長と撚り合わせ角が変動し、形成される精紡合撚糸はところどころに若干の実撚りがかかった双糸のような状態の単糸となる。このため、精紡合撚糸は、単糸の中に変則的な撚りと交絡の強い部分とが多数存在するいびつな撚り構造を有する。このいびつな撚り構造のために、従来の均斉な撚り構造を持つリング紡績糸の単糸に比して、精紡合撚糸は糸の強伸度が高くなり、製織時の糸切れが少なく、タテ糸を単糸で用いる織物ができるという長所を有する。一方、糸が硬く剛直で締り感が強く、膨らみ感に欠けるという欠点も有する。
【0025】
本発明に係る精紡合撚糸は2本以上の粗糸を引き揃えて単糸として下撚り加工するが、糸の品質の安定性や粗糸ロールの供給設備面から、本実施形態で説明したように、精紡合撚糸は2本の粗糸を平行に引き揃えて1本の単糸として下撚り加工することが好ましい。引き揃える粗糸が2本とも綿であれば、これを用いたタオル地は、綿の独特のドライな触感が得られ、吸水性、吸湿性が優れる。綿の粗糸1本と、ポリエステルやポリアミド等の長繊維或いは短繊維の合成繊維糸1本とを引き揃えて単糸として精紡合撚してもよい。この場合、綿40重量%以上合成繊維60重量%未満の範囲で混合することにより、綿の吸水性、吸湿性を保ちながら合繊の速乾性や寸法安定性をバランス良く備えたタオル地が得られる。なお、綿にレーヨン、キュプラ、アクリル、ウール等の短繊維を少量混紡してもよい。レーヨン、キュプラを用いたタオル地では吸湿性が得られ、アクリル、ウールを用いたタオル地では保温性が得られる。
【0026】
続けて、この精紡合撚糸を、ゴム製ベルトを用いて精紡合撚糸を擦過させながら解撚して、糸の表面に細かな起毛された毛羽を発現させ、同時に物理的に開繊して糸を膨らませて、精紡合撚加工糸を形成する。発現した細かな毛羽は糸の交絡の強い部分から引き出されて起毛され、精紡合撚加工糸は毛羽抜け抵抗力を備え、毛羽落ち性を著しく改善する。また、同時に解撚で糸が開繊されて膨らむので、カサ高でふんわりした風合いが得られ、且つ、開繊によって吸水面積が広くなり優れた吸水性が得られる。
【0027】
本発明に係る精紡合撚加工糸は、2本以上の粗糸を下撚り方向に下撚りした精紡合撚糸の単糸を、下撚り方向とは逆方向に上撚りして解撚する。このときの解撚率は、下撚りの回転数に対して5~80%の範囲が、膨らみのある風合い、毛羽落ち性、吸水性の点から好ましい。更に10~65%の範囲のものが特に好ましい。なお、5%未満のものは風合いと吸水性が乏しく、また、80%を超えるものは交絡が弱くなり毛羽落ち性、糸切れが発生するので、いずれも好ましくない。
【0028】
精紡合撚加工糸の糸番手は、5~300番のものが厚地のタオル地から薄地のものまで対応できるので好ましい。特に膨らみがあり、反発のある風合いを得るには16~100番が好ましい。また、従来綿100%では紡績ができない200番相当の超細番手の精紡合撚加工糸を、以下に説明する本実施形態に係るタオル地の製造方法で製造することが可能である。例えば、綿の80番相当の粗糸と44デニールの合成繊維の長繊維(マルチフィラメント)を引き揃え、複合することで、これまで到達できなかった200番単糸が得られ、非常に軽量なタオル地が得られる。なお、糸番手が5番未満の物は生地の風合いが硬く、厚ぼったくなり、また、300番を超えるものはソフトになりすぎて反発がなくなるので、いずれも好ましくない。
【0029】
次いで、本実施形態に係るタオル地は、目付が80~1000g/m2の範囲であれば、膨らみのある風合い、毛羽落ち性能、吸水性といった本発明の特徴を発揮できるので好ましい。尚且つタオル地の目付としてさらに具体的な例を挙げると、薄地は目付が100~250g/m2のものが、中厚地は目付が250~500g/m2のものが、厚地は500~1000g/m2のものが好適である。なお、100g/m2に満たないものは薄くカサがなく、また、1000g/m2を超えるものは厚すぎて重く、いずれも好ましくない。
【0030】
(タオル地の製造方法)
本実施形態に係るタオル地は、経糸地糸と緯糸地糸とが交差した地組織にパイル糸が係止されるタオル地であって、2本の粗糸を同じ方向に引き揃えて単糸として下撚りする工程と、単糸を下撚り方向と逆方向に上撚りして解撚し、精紡合撚加工糸を形成する工程と、地組織にパイル糸を係止する工程と、を備える製造方法によって製造される。以下、各工程を順に説明する。
【0031】
初めに、下撚り工程で、綿等の2本の粗糸を平行に並べ、この2本を単糸として下撚り方向に下撚りをかけて精紡合撚糸を形成する。続いて、精紡合撚加工糸形成工程では、下撚りされて形成された精紡合撚糸を回転器具を用いて5~80%の範囲で逆方向に解撚する。ここで、この解撚に使用する回転器具は、特に限定するものではないが、糸との摩擦力が高い材質を表面に持ち、糸を滑らせずに糸に密着させて精緻に解撚できる、回転ベルト、回転リング、回転ロール等が好ましい。接触部分の材質として、ゴム、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂等が好ましい。汎用性、耐久性等から、ゴム製の回転ベルトが特に好ましい。このときの具体的な解撚方法は、走行する精紡合撚糸の直角方向に(糸の腹に)回転ベルトを密着させて、下撚り方向とは逆方向に回転ベルトを擦過させて精紡合撚糸を解撚し、精紡合撚加工糸を得る。これにより、精紡合撚加工糸は、擦過による細かい毛羽の発現と開繊による糸の膨らみとを備える。これにより、本実施形態のタオル地のカサ高でふんわり感のある風合いと、毛羽落ち改善、優れた吸水性が得られる。なお、下撚り加工と解撚加工とを別々の工程で実施しても構わないが、下撚り加工と解撚加工とを連結して一工程で連続的に行う方法が加工効率と糸質の安定性から特に好ましい。
【0032】
次いで、得られた精紡合撚加工糸をパイル糸として用い、これを経糸地糸と緯糸地糸とが交差した地組織に係止してタオル地に製織する。なお、精紡合撚加工糸は、パイル糸の他に、経糸地糸と緯糸地糸のいずれか一方、或いは、その両方にも適用できる。かかる前提において、製織は求めるタオルの用途に合わせて、パイル長やタテ、ヨコ密度、目付等を適宜設計し、行う。速乾性や吸水性は、目付で決まらず、合繊・綿の混率に律速されるので、目付等で製織の設計をするのではなく、精紡権撚糸の混率で設計する。例えば、速乾性を重視する場合、精紡合撚加工糸のパイル糸や地糸の合成繊維の混率を上げる。これにより、水切り性が良くなり速乾性が向上する。一方、吸水性を重視する場合、合繊は吸水せず、綿は吸水するので、精紡合撚加工糸のパイル糸や地糸の綿の混率を上げる。
【0033】
次いで、かかる製織されたタオル地の生機を染色加工する。染色加工は、綿タオルの通常行う工程に従い、糊抜き、アルカリ精練、過酸化水素漂白を行い、反応染料で染色、ピンテンターでセットして仕上げる。白地で仕上げる場合は、染色工程を省いて精練、漂白、セットして仕上げる。なお、綿に合成繊維が混用されている場合は、合成繊維がポリエステルの場合、分散染料で130℃で染色し、次いで綿側を反応染料で80℃で染色する。また、ナイロン混の場合、酸性染料で染色し、次いで綿を染色して、それぞれをセットして仕上げる。なお、かかる合成繊維が綿に混用されている場合、合成繊維は分散染料で染色し、綿は反応染料で染色するので、2染色工程で染色する。多様な色彩意匠性を得るために、分散染料と反応染料の色を同一にすることを同色染色、完全に別の色として染める異色染色、同系色差を意図して発色させる濃淡染色(シャンブレー)を適宜選択する。
【実施例
【0034】
以下、実施例に基づいて本実施形態を詳細に説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0035】
[評価方法]
(1)タオルの地のパイルに用いた精紡合撚糸の評価
糸の毛羽の外観と糸の膨らみについて写真撮影した(マイクロスコープ、(株)キーエンス社製、50倍)。糸の太さは写真から糸の直径(mm)を測定した。糸の毛羽が短く、糸が太いものほど膨らみがあり、良好である。
【0036】
(2)タオル地のカサ高性の評価
カサ高性はタオル地1g当たりの体積で表し、次に示すカサ高度(cm3/g)で評価した。厚みはJIS L-1096法に従って測定した。値が大きいほどカサが高く、良好である。
カサ高度(cm3/g)=厚み(mm)/目付(g/m2)×1000
【0037】
(3)タオル地のふんわりした風合いの評価
ふんわり感は圧縮仕事量に相関性があるので、圧縮仕事量を測定して評価した。タオル地を折りたたまずにフラットな状態で圧縮仕事量を計測する際は圧縮測定器:KES-FB3-A(カトーテック社製)を用い、タオル地を2つ折りにした状態で圧縮仕事量を計測する際は圧縮測定器:KES-G5(カトーテック社製)を用いた。そして、タオル地を一定の速度で圧縮させてその圧縮仕事量:WC=(gf.cm2)を求めた。生地に圧縮させた時の(エネルギー)で、値が大きいほどタオルがよく圧縮され、大きな膨らみ=ふんわり感が高く、良好である。測定は5箇所で行いその平均値を用いた。また、タオル地を1枚の場合と2枚折りの場合の2通りで測定した。
【0038】
(4)タオル地の毛羽落ち性の評価
洗濯による毛羽落ちはJIS L-0217、103法に従って測定した。毛羽落ち率(%)は次式で求めた。値が小さいほど毛羽落ちが少なく、良好である。測定は5枚のタオル地で行いその平均値を用いた。
毛羽落ち率(%)=(洗濯後に脱落した毛羽の重さ(g1))/(洗濯前のタオルの重さ(g0))×100
【0039】
(5)タオル地の吸水性の評価
タオル地の吸水性は、風呂上がり等でタオル地が水分をふき取る際の性能であり、JIS L-1907法の改良ラローズ試験法に従って評価した。試験の概要はタオルに荷重をかけてタオルに拡散する水分の吸水速度と吸収水分量の和を、定められた式で吸水指数として表す。指数が大なるものほど、皮膚についている水分を素早く、沢山の水分量を吸収するタオル地であり、良好である。指数の目安は、700以上:吸水性が非常に優れる、500未満:良好、300未満:普通、100未満:劣る、である。測定は5箇所で行いその平均値を用いた。また、タオル地の仕上げ品(洗濯前)と、洗濯後の2通りで測定した。
【0040】
(実施例1)
(1)タオル地の製造方法と評価方法
A.精紡合撚加工糸の加工
パイル糸として綿の32番相当の粗糸を1本ずつ左右に配置し、これを2本に合わせてZ方向(左撚り)に1mあたり、650回で下撚りし、16番単糸の精紡合撚糸を作った(650回/m、Z撚り)。続けて、この下撚りした単糸をゴム製ベルトで単糸とは逆方向のS撚り(右撚り)に150回/mの撚りで上撚りをかけて、擦過しながら解撚した(解撚率:23%)。その結果、解撚された500回/m、Z撚りの16番単糸の精紡合撚加工糸を得た。ここで、図2は、実施例の糸単糸の拡大写真であり、実施例1の解撚した精紡合撚加工糸単糸の拡大写真を図2Aに示す。図2Aは、650回/m、Z撚りで下撚りした精紡合撚糸単糸を、単糸とは逆方向のS撚り(右撚り)に150回/mの撚りで上撚りをかけて解撚した、即ち、500回/m、Z撚りの精紡合撚加工糸単糸の拡大写真である。図2Aの写真から、精紡合撚加工糸の毛羽の外観と糸の直径を測定、評価した。
【0041】
B.織物の加工
次いでこの解撚した16番単糸の精紡合撚加工糸を織物の表、裏のパイル糸に用い、経糸地糸はリング紡績糸の16番単糸を、緯糸地糸はリング紡績糸の20番単糸を用い、パイル糸をかかる地組織で係止し、タテ密度60/吋、ヨコ密度42本/吋で綿100%のタオル地に製織した。この織り上がった生機を、綿加工の常法に従って、糊抜き、精練、漂白加工、セットして、白地で仕上げた。仕上げたタオル地は厚み4.45mm、目付422g/m2であった。仕上げたタオル地の評価は上述した評価方法に従って、タオル地のカサ高度、ふっくらとした風合いの物理量、毛羽の落ちやすさ、吸水性をそれぞれ評価した。評価結果を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
16番単糸の600回/m、Z撚りの精紡合撚糸を作り、これを解撚加工せずに、このままパイル糸に用いた以外は実施例1に従って、製織、加工、仕上げた。比較例1の解撚しない精紡合撚糸単糸の拡大写真を図2Bに示す。図2Bは、650回/m、Z撚りで撚りをしたがその後に解撚をしない精紡合撚糸単糸の拡大写真である。図2Bの撚糸写真から、精紡合撚糸の毛羽の外観と糸の直径を測定、評価した。仕上げたタオル地の厚みは4.01mm、目付は433g/m2であった。評価は実施例1と同様の方法で実施した。結果を表1に併記する。
【0043】
(比較例2)
16番単糸の500回/m、Z撚りの精紡合撚糸を作り、これを解撚加工せずに、このままパイル糸に用いた以外は実施例1に従って、製織、加工、仕上げた。比較例2の解撚しない精紡合撚糸単糸の拡大写真を図2Cに示す。図2Cは、500回/m、Z撚りで撚りをしたがその後に解撚をしない精紡合撚糸単糸の拡大写真である。図2Cの撚糸写真から、精紡合撚糸の毛羽の外観と糸の直径を測定、評価した。仕上げたタオル地は厚み3.96mm、目付444g/m2であった。評価は実施例1と同様の方法で実施した。結果を表1に併記する。
【0044】
【表1】
【0045】
(2)評価結果
A.精紡合撚糸の評価
実施例1の糸は図2Aで、毛羽は細かく、糸の太さは直径6.0mmであり、膨らみのある精紡合撚加工糸であった。一方、比較例1の図2Bの糸は、毛羽は殆どなく、糸の太さは直径5.0mmであり、膨らみのない、剛直な精紡合撚糸であった。また、比較例2の図2Cの糸は、糸の太さは直径7.5mmであり、膨らみがあるが、毛羽が長く、密集しており毛羽落ちしやすい、精紡合撚糸であった。
【0046】
B.織物の評価
表1から明らかなように、実施例1のタオル地は、カサ高性に優れ、ふんわりした風合いを持ち、毛羽落ちがしにくく、吸水性が高い、素晴らしい白地のタオル地であった。詳細には、カサ高度は10.55cm3/gで、比較例1、比較例2に対し、14%~18%アップ、圧縮仕事量も5.80gf.cm2で、1.5~1.6倍とそれぞれ大きくアップしており、カサが高くふんわりした風合いが裏付けられた。また、洗濯での毛羽落ち率は0.034%で、比較例1、比較例2に対し、25%~26%毛羽落ちしにくかった。また、ふき取り吸水指数は洗濯前で同比較例に対し、4.8~3.5倍であり、500以上の良好レベルであった。洗濯後は1.4~1.2倍であり、700以上の非常に優れたレベルであり、大きな吸水性を示す、白地のタオルであった。なお、糸加工、製織、仕上げ加工の製造については特に問題がなく、スムーズに加工することができた。
【0047】
この仕上がったタオルをフェイスタオルに縫製し、実用テストを行った。まず、風合いはカサ高でふんわりした風合いが心地よく、高級感に溢れていた。また、ふろ上がりに肌を拭いた後は水分のふき取り性が良く、肌がさらっとして爽快であった。また、洗濯での他の衣服へのタオルの毛羽付着は殆どなく、極めて快適なフェイスタオルであった。一方、比較例1、比較例2は実施例1に比べて全体的に劣り、カサがなく、ふんわりした風合いに欠けていた。また、毛羽落ちがしやすく、吸水性も劣る、平凡な白地のタオルであった。
【0048】
(実施例2)
A.撚糸加工
パイル糸として実施例1の方法に準じて、綿の20番の580回/mのZ撚りに下撚りした単糸の精紡合撚糸を作り、次いでこの下撚りした単糸を単糸とは逆方向のS撚り(右撚り)に、実施例1と同様のゴム製ベルトを用いて、155回/mの上撚りをかけて、解撚加工した(解撚率:27%)。その結果、解撚された425回/m、Z撚りの20番単糸の精紡合撚加工糸を得た(580回/mZ⇒155回/m、S解撚⇒425/mZ)
【0049】
B.織物の加工
次いでこの解撚した20番単糸の精紡合撚加工糸を織物の表、裏のパイル糸に用い、経糸地糸及び緯糸地糸とも、綿のリング紡績糸の16番単糸を用い、タテ密度60/吋、ヨコ密度42本/吋で、綿100%のタオル地に製織した。この織り上がった生機を、糊抜き精練、漂白加工し、紺色の反応染料で80℃、40分で染色し、セットして仕上げた。仕上げたタオル地は厚み3.99mm、目付411g/m2、カサ高度は9.71cm3/gであった。
【0050】
(比較例3)
実施例2の比較として、解撚しない綿の20番単糸の580回/mのZ撚りの精紡合撚糸をパイル糸に用いた以外は実施例2に従って、製織し、染色し仕上げた。仕上げたタオル地は厚み3.24mm、目付408g/m2、カサ高度は7.94cm3/gであった。
【0051】
C.実施例2と比較例3の評価結果
実施例2はカサ高度が9.71cm3/gで、比較例3に対して22%アップしており、カサが高く、また、非常にソフトで膨らみがある風合いであった。また、毛羽落ちも少なかった。吸水速度は簡易的に手持ちのスポイトで10cmの高さから1滴滴下し、その吸水速度を測った結果、1秒以下で吸水し、吸水性も優れていることを確認した。このように、風合い、毛羽落ち、吸水性の機能性に優れた、紺色のタオル地であった。一方、比較例3は実施例2に対してカサ高性が低く、また、膨らみ風合い、毛羽落ち、吸水性(吸水速度;2秒)がいずれも劣る、従来のタオル地であった。
【0052】
(実施例3)
A.撚糸加工
パイル糸として綿の22番相当の粗糸1本と、ポリエステルマルチフィラメント長繊維延伸糸の110デシテックス、48フィラメントを1本ずつ左右に配置し、これを2本に合わせてZ方向(左撚り)に1mあたり、1050回に下撚りし、16.6番単糸の精紡合撚糸を作った(1050回/m、Z撚り)。次いで連続して、この下撚りした単糸を実施例1のゴム製のベルトで単糸とは逆方向のS撚り(右撚り)に580回/mの上撚りをかけて、解撚した(解撚率:55%)。その結果、解撚された470回/m、Z撚りの16.6番単糸の精紡合撚加工糸を得た(1050回/mZ⇒580回/m、S解撚⇒470/mZ)。
【0053】
B.織物の加工
次いでこの解撚した16.6番単糸の精紡合撚加工糸を織物の表、裏のパイル糸に用い、経糸地糸は綿のリング紡績糸の16番単糸を、緯糸地糸は綿のリング紡績糸の20番単糸を用い、タテ密度60/吋、ヨコ密度42本/吋で、パイル糸の混率;綿70%ポリエステル30%、タオル地全体の混率;綿79%ポリエステル21%のタオル地に製織した。この織り上がった生機を、糊抜き精練、漂白加工し、ポリエステル側をグレー色の分散染料で130℃、40分で、次いで綿側を黒色の反応染料で80℃、40分でそれぞれ染色し、セットして仕上げた。仕上げたタオル地は厚み4.44mm、目付396g/m2、カサ高度は11.21cm3/gであった。
【0054】
(比較例4)
実施例3の比較として、解撚しない上記綿/ポリエステル精紡合撚糸1050回/m、Z撚りをパイル糸に用いた以外は実施例3に従って、製織し、染色し仕上げた。仕上げたタオル地は厚み3.64mm、目付417g/m2、カサ高度は8.73cm3/gであった。
【0055】
C.実施例3と比較例4の評価結果
実施例3はカサ高度が11.21cm3/gで、比較例4に対して28%アップしており、カサが高く、また、腰がありで膨らみがある風合いであった。また、毛羽落ちも少なく、実施例2と同様の簡易吸水速度評価で、1秒以下で吸水性も良く、優れた機能性を有するものであった。また、洗濯での乾燥が速く、洗濯収縮が少なく寸法安定性に優れた、グレーと黒色が濃淡にシャンブレーに染色された、カラー意匠性に富むタオル地であった。一方、比較例4はカサ高性、膨らみ風合い、毛羽落ち、吸水性(吸水速度;3秒)のいずれの特性も実施例3に劣る、タオル地であった。
図1
図2