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特許7051189磁気作動式カプセル内視鏡、磁場発生・検知装置、および磁気作動式カプセル内視鏡の作動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】磁気作動式カプセル内視鏡、磁場発生・検知装置、および磁気作動式カプセル内視鏡の作動方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
A61B1/00 C
A61B1/00 552
A61B1/00 611
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019561137
(86)(22)【出願日】2018-05-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2018063530
(87)【国際公開番号】W WO2018219741
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】17173196.1
(32)【優先日】2017-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512247223
【氏名又は名称】マツクス-プランク-ゲゼルシヤフト ツール フエルデルング デル ヴイツセンシヤフテン エー フアウ
【氏名又は名称原語表記】MAX-PLANCK-GESELLSCHAFT ZUR FOeRDERUNG DER WISSENSCHAFTEN E.V.
【住所又は居所原語表記】Hofgartenstrasse 8,80539 Muenchen, Bundesrepublik Deutschland
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】シッティ,ドクター メティン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ドンフン
【審査官】田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-077871(JP,A)
【文献】特開2003-325438(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0303847(US,A1)
【文献】特開2006-122132(JP,A)
【文献】特開2006-325875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00-1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気作動式カプセル内視鏡(10)であって、
上部筐体部(14)および下部筐体部(16)を有する本体(12)と、
前記上部筐体部(14)の内部に配置された永久磁石と、
前記上部筐体部(14)から前記下部筐体部(16)の端部(22)まで延在する複数の変形可能部材(20)と、
前記上部筐体部(14)から前記下部筐体部(16)に向けて突出し、前記複数の変形可能部材(20)で取り囲まれた針(26)と、
を備え、
前記複数の変形可能部材(20)は、前記針(26)の先端(36)を覆うように伸張し、露出させるように収縮するのを繰り返し行うように構成される、磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項2】
前記下部筐体部(16)の前記端部(22)は、位置決めパッド(24)をさらに備える、請求項1に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項3】
前記位置決めパッド(24)は、前記下部筐体部(16)の前記端部(22)を形成し、その内部に前記針(26)のための開口部(24’’)を有し、および/または、
前記位置決めパッド(24)は、前記下部筐体部(16)の前記端部(22)を組織の表面に取り付ける手段を備える、請求項2に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項4】
前記位置決めパッド(24)は、摩擦増大コーティング(24’’’)および複数の繊維(24’)のうちの少なくとも1つを備える、請求項3に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項5】
少なくとも1つのカメラまたはカメラシステム(28;28、30)をさらに備え、
第1のカメラまたはカメラシステム(28)は、前記上部筐体部(14)の端部(14’)に設けられ、前記磁気作動式カプセル内視鏡(10)の環境の画像および/または動画を記録するように構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項6】
前記針(26)の領域内に配置され、前記針(26)の前記先端(36)付近の領域から画像および/または動画を記録するように構成された第2のカメラまたはカメラシステム(30)をさらに備える、請求項5に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項7】
力を加えることによって、前記磁気作動式カプセル内視鏡(10)を組織表面から取り出すように構成されたテザー(32)をさらに備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項8】
前記テザー(32)は、前記磁気作動式カプセル内視鏡(10)の、少なくとも1つのカメラまたはカメラシステム(28;28、30)を含むコンポーネントに信号および/またはエネルギーを伝送および/または受信するように構成された電気ケーブル用の導管として構成される、請求項7に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項9】
前記複数の変形可能部材(20)の各々は、所定の外部印加磁場の印加の際に収縮するように構成される、請求項1~8のいずれか一項に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項10】
前記外部印加磁場は、前記複数の変形可能部材(20)において、0.4Nより大きい収縮力を誘起する、請求項9に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項11】
前記複数の変形可能部材(20)の各々は、最大0.45Nの固有復元力を有し、前記複数の変形可能部材(20)の各々において外部磁場が印加されない場合に完全伸張状態を取り、または0.45N未満の収縮力を誘起する外部磁場が印加された場合に完全伸張状態を取るように構成される、請求項1~10のいずれか一項に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項12】
前記磁気作動式カプセル内視鏡(10)は、外部印加磁場内で移動されるように構成され、
前記複数の変形可能部材(20)は、所定の磁場(空間)勾配の印加の際に収縮するように構成され、
前記複数の変形可能部材(20)の変形に利用される磁場勾配は、前記磁気作動式カプセル内視鏡(10)を移動させるのに使用される磁場勾配よりも大きい、請求項1~11のいずれか一項に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項13】
前記磁気作動式カプセル内視鏡(10)は、シェル(34)によってカプセル封入され、
前記シェル(34)は、所定時間経過後に液体環境内で溶解するように構成される、請求項1~12のいずれか一項に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項14】
前記所定時間は、10秒~10分の範囲で選択される、請求項13に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項15】
前記針(26)の前記先端(36)は、完全に露出した状態では、すなわち、前記変形可能部材(20)の完全収縮状態では、前記下部筐体部(16)の前記端部(22)から、少なくとも5mm突出する、請求項1~14のいずれか一項に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)。
【請求項16】
なくとも1つの永久磁石(18)を備える磁気作動式内視鏡(10)用の磁場発生・検知装置(50)であって、
前記磁気作動式内視鏡(10)は、請求項1~15のいずれか一項に記載の磁気作動式カプセル内視鏡(10)であり、
前記磁場発生・検知装置(50)は、
作業領域(54)内で前記磁気作動式内視鏡(10)を移動させるために、前記磁気作動式内視鏡(10)の前記少なくとも1つの永久磁石(18)上で時間的に変化する磁力およびトルクを発生させるように構成され、1つの平面内に配置された複数の電磁石(52)と、
記複数の電磁石(52)に対して前記作業領域(54)の反対側に配置された磁気センサアレイ(56)と、
を備え、
前記複数の電磁石(52)は、時間的に変化する不均一磁場を発生させるように構成され、
前記磁気センサアレイ(56)は、前記作業領域内の前記磁気作動式内視鏡(10)の位置および向きを追跡するように構成され、
前記磁場発生・検知装置(50)は、前記磁気作動式内視鏡(10)の位置および向きの少なくとも1つを変化させるために、前記磁気作動式内視鏡(10)の追跡位置および向きに従って、時間的に変化する不均一磁場を適合させるように構成された制御手段(62)をさらに備える、磁場発生・検知装置(50)。
【請求項17】
2D平面内の異なる位置に配置された複数の磁気センサをさらに備える、請求項16に記載の磁場発生・検知装置。
【請求項18】
表示装置(58)と少なくとも1つの入力装置(60)とをさらに備え、
前記表示装置(58)は、前記磁気作動式内視鏡(10)の少なくとも1つのカメラ(28;28、30)によって記録された画像および/または前記磁気センサアレイ(56)によって出力された信号を図示し、ユーザは、前記少なくとも1つのカメラ(28;28、30)および/または前記磁気センサアレイ(56)によって記録された図示画像に基づいて、前記磁気作動式内視鏡(10)の所望の向きで所望の位置に前記磁気作動式内視鏡(10)を方向付けるように前記制御手段(62)を作動させるために前記少なくとも1つの入力装置(60)を介してコマンドを入力することができる、請求項16または17に記載の磁場発生・検知装置。
【請求項19】
前記表示装置は、前記複数の磁気センサによって検出されたパラメータを示す、請求項18が請求項17を引用する場合の請求項18に記載の磁場発生・検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気作動式カプセル内視鏡に関し、かかる内視鏡は、上部筐体部および下部筐体部を有する本体と、上部筐体部内に配置された永久磁石と、上部筐体部から下部筐体部の端部まで延在する複数の変形可能部材と、上部筐体部から下部筐体部に向けて突出し、複数の変形可能部材によって取り囲まれた針と、を備え、複数の変形可能部材は、前記針の先端を覆うように伸張し、露出させるように収縮するのを繰り返し行うように構成される。本発明はさらに、磁気作動式内視鏡用の磁場発生・検知装置、および磁気作動式カプセル内視鏡の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の医療技術は、侵襲性の低い診断および治療に集中している。消化器(GI)疾患の診断では、患者の不快感を軽減する努力がカプセル内視鏡の開発をもたらした。錠剤の形のワイヤレスカプセル内視鏡については、患者があまり痛みを感じることがなく、現在では疑わしい病変の同定のために診断画像や動画を収集するために使用されている。ワイヤレスカプセル内視鏡は、原因不明の消化管出血の調査のようないくつかの診断法のための標準治療にもなっている。カプセル内視鏡は、臨床における消化器疾患の診断に革命を起こしつつあるが、カプセル内視鏡によってもたらされる可能性は依然として検討されている。市販されている装置の主な限界の1つは、疑わしい病変が同定された後、生検試料を採取できないことである。生検試料を採取するには、現在では、正確な診断を下すにかかる全体の時間と費用に加えて、追加の内視鏡処置が必要である。したがって、生検試料を採取する能力がカプセル内視鏡の特徴セットに追加されることが、非常に望ましい。
【0003】
生検試料を採取するためのいくつかのカプセル設計が既に提案されている。電磁生検装置が最初に提案された1967年に、カプセル型の小型の嚥下可能な装置を用いて消化管で生検試料を採取するという考えが出現した。カプセルは、下部消化管の蠕動運動、テザーを介する空気圧、および組織を切断するためのロボット内の電磁作動式カミソリを利用する。
【0004】
さらに、ねじりばね(熱的またはSMAにより誘発される)を利用して、カプセル内の回転カミソリを用いて試料組織を切断することができる回転式マイクロ生検装置が開発された。他の提案として、鉗子またはカミソリ式生検器具をカプセルの側面の狭い穴を通して使用する方法が提案されている。提案されている他の鉗子型の生検器具は、形状記憶合金トリガーを用いてねじりばねによって作動される、またはダブルバルーン小腸内視鏡式移動を用いたコイル式ワイヤレス動力伝達システムによって駆動される。例えば、磁気ねじりばねは、外部磁場が除去されたときにブレードが組織を切断することができる生検カプセルに組み込まれていた。
【0005】
生検カプセル設計の大半は、下部消化管への適用を念頭に入れて作成されているが、一部の生検カプセルは、さらに上部消化管内で動作し得る可能性もある。上部消化管処置について、1つの上記の設計が特に研究されてきたが、この点に関して、マイクログリッパを用いた磁気作動式軟カプセル内視鏡(MASCE)が使用された。MASCEは、胃の中へ感温性マイクログリッパを運んで配置し、マイクログリッパが自己折り畳み機構を用いて胃組織を掴んだ後、接着パッチでマイクログリッパを回収する。しかしながら、実験では、マイクログリッパ回収の収率が低い(3%)ことが示されており、場合によっては、医師が、マイクログリッパによって実行される確率的サンプリングよりも標的生検を好む場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
消化管の位置に関係なく、全ての先行技術の設計の主な限界の1つは、表面の生検試料しか採取できないことである。先行技術の設計は、消化管の粘膜層上の組織を引き込むのに有用であるが、消化管内部の深部の塊に到達するのは難しい。これらの機構は、粘膜下腫瘍(SMT)を見逃す可能性があり、診断精度を低下させ得る。
【0007】
このため、本発明の目的は、上部消化管または胃の状態を示す画像を記録することができ、内視鏡によって記録された画像に基づいて病変または腫瘍が想定された場合に、深部にある塊でさえも生検を確実に実行することができる、少なくとも上部消化管または胃内で操作可能なカプセル内視鏡を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、請求項1に記載の特徴を有する磁気作動式カプセル内視鏡によって達成される。
【0009】
このような磁気作動式カプセル内視鏡は、好ましくは、
上部筐体部および下部筐体部を有する本体と、
上部筐体部の内部に配置された永久磁石と、
上部筐体部から下部筐体部の端部まで延在する複数の変形可能部材と、
上部筐体部から下部筐体部に向けて突出し、複数の変形可能部材で取り囲まれた針とを備え、複数の変形可能部材は、前記針の先端を覆うように伸張し、露出させるように収縮するのを繰り返し行うように構成される。
【0010】
このようにして、B-MASCEと呼ばれる細針吸引生検(FNAB)機能を有する新奇な磁気作動式軟カプセル内視鏡が提供される。FNABは、細針を用いて組織試料を抽出する生検法の一種である。細針吸引生検法は、消化管に合併症がない状態であれば、鉗子またはブラシのような他の生検法よりも精度が高いと報告されている。針は病変の塊の内部深くまで貫入することができるので、この生検法では、SMTの場合でも診断精度が向上する。
【0011】
そのためには、薄い中空針がカプセルに取り付けられ、針は組織の中深くに貫入して表面下の生検試料を採取することができる。この設計は、外部磁場の印加の際に針を案内する追従機構として軟質エラストマー体を使用して、変形可能部材を収縮させ、そのことによって上部筐体部を下部筐体部に対して移動させて、針が上部筐体部に固定された状態で下部筐体部に対して針を移動させる。内部永久磁石は、作動および追跡の両方の手段を提供する。カプセルは、標的に向かって転がり、その後、生検針を標的領域として選択された正確な位置に配置するように設計される。
【0012】
B-MASCEは、複数のカスタム設計された電磁石によって制御されると同時に、その位置と向きは磁気センサアレイによって追跡される。in vitro試験では、B-MASCEは、転がり移動および解剖学的なヒト胃モデルの内部に位置決めされたブタ組織モデルの生検を実証した。実験の結果、組織試料が針の内部に保持されていることが確認された。
【0013】
B-MASCEの設計は、FNABのための必要な動作(針の軸方向のジャブ動作)および胃の表面における転がり移動の両方を可能にする。B-MASCEは、外部磁場制御による内部磁石上の磁力およびトルクによって制御される。カプセルの両端を接続する軟質材料ベースの脚部(変形可能部材)は、ばねとして、また針のガイドとして機能する。その設計は、FNABの適切な針ゲージおよび貫入深さを示唆する臨床データに基づいている。in vitro実験および実証試験がブタ組織モデルを用いて実行され、生検試料が正常に捕捉されたことが確認された。
【0014】
細針吸引細胞診としても知られている細針吸引生検法は、細い中空針を通して疑わしい組織病変から細胞を吸引する方法のことである。処置中に、中空針が塊に挿入されて、組織の試料が抽出される。試料は、除去された後、さらなる検査のために検査室に送られる。細針吸引生検法は、一般に、甲状腺または乳房に位置するしこりを調べるために用いられ、消化管にも成功のうちに適用されてきた。
【0015】
ロボットの上部の組み込まれている細針は、病変に貫入して、標準的な臨床診断法と同様の手法を使用して中空針内部の試料を捕捉することが可能である。ロボット内部の永久磁石は、外部磁場との相互作用を通して磁力およびトルクを発生させ、同時に追跡源として使用される。変形可能部材の軟質材料ベースのサラスリンク機構は、針ガイド、ばね、およびカプセルの胴体部として機能する。このことにより、ロボットは圧潰して、針を標的組織に配置することができ、また外部磁場が除去されたときに針の引き戻しのための復元力が提供される。
【0016】
有利には、下部筐体部の端部は、位置決めパッドをさらに備え、任意で、位置決めパッドは、下部筐体部の端部において凹形状を有する。
【0017】
位置決めパッドは、消化管の内面、すなわち胃壁への内視鏡の取り付けおよび位置決めを容易にするために利用され得る。
【0018】
好ましくは、位置決めパッドは下部筐体部の端部を形成し、その内部に針のための開口部を有し、および/または位置決めパッドは、下部筐体部の端部を表面に取り付ける手段を備え、任意で、位置決めパッドは、摩擦増大コーティングおよび複数の繊維のうちの少なくとも1つを備える。
【0019】
位置決めパッドにさらなる手段を設けることによって、内視鏡が取り付けられる表面に対して内視鏡をよりしっかりと接着することができ、繊維またはコーティングは、位置決めパッドの付着特性を高めるための有益な種類の方法である。
【0020】
磁気作動式カプセル内視鏡がさらに少なくとも1つのカメラまたはカメラシステムを備え、第1のカメラまたはカメラシステムは上部筐体部の端部に設けられ、磁気作動式カプセル内視鏡の環境の画像および/または動画を記録するように構成されるのであれば、好ましい。このようにして、消化管の診断画像および動画を取得することができる。
【0021】
有利には、磁気作動式カプセル内視鏡は、針の領域内に配置された第2のカメラまたはカメラシステムをさらに備え、針の先端付近の領域から画像および/または動画を記録するように構成される。生検を行うことが意図されている領域から画像および動画を記録する第2のカメラを設けることは、針の配向のように生検を行う動作を監視することができ、第2のカメラを通して針の向きが正確でないまたは理想的でないことがわかった場合に、内視鏡を再調整できることを意味する。
【0022】
好ましくは、磁気作動式カプセル内視鏡は、力を加えることによって磁気作動式カプセル内視鏡を除去するように構成されたテザーをさらに備え、任意で、テザーは磁気作動カプセル内視鏡の少なくとも1つのカメラまたはカメラシステムのようなコンポーネントに信号および/またはエネルギーを伝送および/または受信するよう構成された電気ケーブル用の導管として構成される。
【0023】
テザーは、例えば、テザーを単純に引っ張ることによって、例えば、食道を通って内視鏡を引き戻すことができる単純な紐であり得る。他の実施形態では、テザーは、カメラを外部に接続するために使用される導管またはダクトであり得、これによって、エネルギーを供給し、カメラから画像を取得することができる。また、テザーは、さらに配設され得る別のセンサ用のケーブルを収容することも考えられる。この点に関して、腫瘍の密度は、人体に存在する臓器とは異なり得るので、密度を示す信号を測定することができるセンサが含まれ得ることに留意すべきである。
【0024】
複数の変形可能部材の各々が所定の外部印加磁場が印加された際に収縮するように構成され、好ましくは、外部印加磁場が複数の変形可能部材において0.4Nより大きい、特に0.45Nより大きい収縮力を誘起することにより、複数の変形可能部材が圧潰し始めて針を本体の外側に配置するのであれば、好ましい。
【0025】
内視鏡は、本体内に存在する永久磁石により、作業領域内を移動する。そのためには、永久磁石を移動させ配向するために印加される外部磁場は、5mT~9mTの範囲内で選択される。変形可能部材を収縮させるために、0.5T/m~2T/mの範囲で選択された磁場勾配が印加され、30mT~70mTの範囲で選択された磁場が配向安定化のために印加される。
【0026】
変形可能部材を有意に大きな磁場強度で収縮させるように調整することによって、針の先端が偶発的に外れることが回避され得る。
【0027】
好ましくは、複数の変形可能部材の各々は、少なくとも0.45Nの固有復元力を有し、複数の変形可能部材の各々において0.45N未満の収縮力を誘起する外部磁場が印加されると、完全な伸張状態を取るように構成される。変形可能部材に固有復元力を付与することによって、弱い磁場勾配が印加された場合に、針の先端を変形可能部材によって覆う必要があり、したがって変形可能部材は固有の安全機能を有することを意味する。
【0028】
有利には、磁気作動式カプセル内視鏡は、外部印加磁場内で移動するように構成され、複数の変形可能部材は、所定の磁場空間勾配の印加の際に収縮するように構成され、複数の変形可能部材の変形に利用される磁場勾配(空間)勾配は、磁気作動式カプセル内視鏡を移動させるのに使用される磁場勾配よりも大きい。
【0029】
磁気作動式カプセル内視鏡はシェルによってカプセル封入され、シェルは定時間経過後に液体環境内で溶解するように構成され、所定時間は、好ましくは、10秒~10分の範囲で選択されるのであれば、好ましい。
【0030】
このシェルは、内視鏡がヒトまたは動物の体内に挿入されたときに、内視鏡、特に、針の先端が、例えば、食道と接触するのを回避する保護層である。
【0031】
好ましくは、針の先端は、完全に覆われていない状態では、すなわち、変形可能部材の完全な収縮状態では、下部筐体部の端部から、少なくとも5mm、好ましくは、8mm~12mmだけ突出する。
【0032】
胃壁は、典型的な厚さ5mmを有し、胃壁の下にある腫瘍を生検するために、針は胃壁のみに貫入するだけでなく腫瘍にも入ることができなければならない。
【0033】
さらに別の態様によれば、本発明は、特に上述したように、特に磁気作動式カプセル内視鏡に組み込まれた少なくとも1つの永久磁石を備える磁気作動式カプセル内視鏡用の磁場発生・検知装置に関し、
磁場発生・検知装置は、
作業領域内で磁気作動式内視鏡を移動させるために、磁気作動式内視鏡の少なくとも1つの永久磁石上で時間的に変化する磁力およびトルクを発生させるように構成され、1つの平面内に配置された複数の電磁石と、
別の平面内に配置され、前記複数の電磁石に対して前記作業領域の反対側に配置された磁気センサアレイとを備え、
複数の電磁石は、時間的に変化する不均一磁場を発生させるように構成され、
磁気センサアレイは、作業領域内の磁気作動式内視鏡の位置および向きを追跡するように構成され、
磁場発生・検知装置は、磁気作動式内視鏡の位置および向きの少なくとも1つを変化させるために、磁気作動式内視鏡の追跡位置および向きに従って、時間的に変化する不均一磁場を適合させるように構成された制御手段をさらに備える。
【0034】
外部磁場を正確に制御するために、コンピュータ制御電磁システムおよび磁気センサアレイが利用された。転がり移動および生検は、ブタ脂肪組織モデルと共にプラスチック胃モデルにおいてin vitroで実証された。実証試験の後、生検試料が成功裏に捕捉されたことが確認された。精密制御技術、胃の位置合わせとマッピング、および生検器具を備えたこのようなカプセルロボットのin vivo実証は、依然として残っているシステム開発の領域である。
【0035】
磁場発生・検知装置が2D平面内の異なる位置に配置された複数の磁気センサをさらに備えるのであれば、有利である。このようなセンサは、一般に、磁場の変化を検知することによって、標的領域内の内視鏡カプセルの移動の2Dにおける3Dベクトル場マップを生成することができる。
【0036】
磁場発生・検知装置はさらに、表示装置と少なくとも1つの入力装置とを備え、表示装置は、磁気作動式内視鏡の少なくとも1つのカメラによって記録された画像および/または磁気センサアレイによって出力された信号を図示し、ユーザは、少なくとも1つのカメラおよび/または磁気センサアレイによって記録された図示画像に基づいて、磁気作動式内視鏡の所望の向きで所望の位置に磁気作動式内視鏡を方向付けるように制御手段を作動させるために少なくとも1つの入力装置を介してコマンドを入力することができる。このようにして、ユーザは、効率的な方法で、撮影画像および/または動画に基づいて、内視鏡を腫瘍のような標的部位に方向付けることができる。
【0037】
表示装置が複数の磁気センサによって検出されたパラメータ、すなわち、磁気パラメータの2Dにおける3Dベクトル場マップを図示するのであれば、好ましい。
【0038】
さらに別の態様によれば、本発明は、好ましくは上述したように、
上部筐体部および下部筐体部を有する本体と、
上部筐体部の内部に配置された永久磁石と、
上部筐体部から下部筐体部の端部まで延在する複数の変形可能部材と、
上部筐体部から突出し、複数の変形可能部材で取り囲まれた針とを備え、複数の変形可能部材は、前記針の先端を覆うように伸張し、露出させるように収縮するのを繰り返し行うように構成された、磁気作動式カプセル内視鏡を作動させる方法であって、
作業領域内で磁気作動式カプセル内視鏡を移動させるために磁場を印加するステップと、
作業領域内の所望の位置に磁気作動式カプセル内視鏡を位置決めするステップと、
針の先端を下部筐体部の端部から繰り返し突出させるために、異なる磁場強度および/または異なる磁場勾配を有するように磁場を変化させるステップとを含む、作動方法に関する。
【0039】
本発明に係る内視鏡に関する上述の利点は、本発明に係る方法についても同じことが言える。
【0040】
好ましくは、空間内で磁気作動式カプセル内視鏡を移動させるために印加される磁場は、5mT~9mTの範囲で選択された磁場強度を有する。有利には、磁気作動式カプセル内視鏡を所望の位置に位置決めする際に、30mT~70mTの範囲で選択された所望の強度および所望の向きを有する磁場が選択され、所望の向きは所望の位置で針の向きの所望の方向に従って選択される。好ましくは、針を下部筐体部の端部を越えて繰り返し移動させるために複数の変形可能部材を変形させるように印加される磁場は、30mT~70mTの範囲で選択された磁場強度と、0.5N~0.8Nの範囲で選択された変形可能部材に印加される力を誘起する磁場とを有する。これらの設計パラメータは、特に良好な生検結果をもたらすことがわかった。
【0041】
実施形態に基づいて、図面を参照しながら、本発明について詳細に後述する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1aは、サラスリンク機構がカプセルの軸方向圧潰動作を拘束した状態の磁気作動式カプセル内視鏡(B-MASCE)の外観図であり、図1bは、磁力がサラスリンク機構に沿って細針の軸方向運動を誘起し、滑り止めパッドが胃の表面にさらなる摩擦を付与する、B-MASCEの断面図である。
図2】磁気作動式カプセル内視鏡(B-MASCE)の別の断面図である。
図3図3aは、解剖学的胃モデルおよびサイズ比較用の1ユーロ硬貨と共に磁気作動式カプセル内視鏡(B-MASC)を示した図であり、図3bは、B-MASCを外部磁場に合わせることによってB-MASCEが胃壁に対向する様子を示した図であり、図3cは、B-MASCが外部磁場の強い勾配により圧潰する様子を示した図である。矢印は露出した細針を示している。
図4】細いテザーで繋がれたB-MASCの適用シナリオであり、図4(1)は、B-MASCが氷でカプセル封入され、飲み込まれる様子を示しており、図4(2)は、氷融解後のB-MASCEであり、B-MASCEが胃内を移動し、診断が可能である状態を示しており、図4(3)は、病変が見つかった場合に、B-MASCが転がり移動によって病変部位へ移動して、細針吸引生検を実行することができる状態を示しており、図4(4)は、全てのタスクが完了した後に、B-MASCが細いテザーによって引き戻される様子を示している(背景の胃の図:BruceBlaus/CC BYによる「胃潰瘍」)。
図5図5aは、貫入深さによるカプセルの復元力を推定するための図であり、反力および逆モーメントは見やすくするために省略された図であり、図5bは、針が引き戻されている間の組織抵抗力を克服するように設計された脚部による、貫入深さに沿った復元力を示す図である。
図6図6aは、作動システムの概略図であり、磁気センサアレイが上部に配置され、電磁石が下に配置され、電磁石からの磁場がB-MASCE内部の磁石上で磁力およびトルクを発生させて作業領域内部でロボットを移動させる様子を示した図であり、図6bは、製造された作動機構の図であり、概略図によれば64個の3軸磁気センサが上部に配置され、9個の電磁石が底に配置され、座標系は作業領域の原点および向きを示す図である。
図7】B-MASCEの圧潰動作を示した図であり、磁力がカプセルを圧潰させて、細針が組織内部に貫入することができる様子を示した図である。
図8】B-MASCEの転がり移動および水中における生検機能(複数の画像が重なっている)の実証試験の図であり、図8aはB-MASCEが転がり移動(黒色矢印)によって偽腫瘍(灰色矢印)の部位に近づく様子を示した図である。ブタ脂肪は浮揚性を有するためテープで固定され、図8bはB-MASCEが反復圧潰動作(9回)によって細針生検を実行する様子を示した図であり、図8cはB-MASCEが次の処置待ちの他の場所に移動する様子を示した図である。
図9】細針内部の生検試料を示した図であり、図9aは、組織を排出する前の光学顕微鏡画像であり、ブタ脂肪が針の内部にある画像を示した図であり、図9bは、採取したブタ脂肪の試料を示しており、抽出された生検試料が明確に観察される図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
2種類の細針吸引生検(FNAB)がある。いわゆる吸引FNABの間、細針は組織に通され、針に取り付けられたシリンジによって負圧が加えられる。第2の方法は、細針毛細管(FNC)法と呼ばれ、針は組織に通され、組織を出入りする5回~10回の連続的な高速ジャブ運動が行われる。
【0044】
FNCの間、針内の毛細管力は、管腔内部の剥離細胞を保持する。臨床研究では、2つの手法の間には診断精度の差がないことが示されており、技術的に容易であることから、FNC法を用いることが推奨されている。FNABは、消化管に適用した場合に鉗子生検およびブラシ細胞診よりも高い診断精度を有する。臨床研究では、FNABが上部消化管に適用した場合に他の2つの手法よりも優れていることが示されている(全体的な診断精度:FNAB=94%、ブラシ=85%、鉗子=88%)。特に、粘膜下腫瘍、浸潤悪性腫瘍、および潰瘍壊死悪性腫瘍の場合、FNABでは針は腫瘤深くに貫入することができるが、他の方法では胃の表面組織のみを採取するので、FNABの方がはるかに優れている(例えば、SMTの診断制度:FNAB=93%、ブラシ=7%、鉗子=14%)。
【0045】
以下に、FNC法を用いて操作される磁気作動式カプセル内視鏡(B-MASCE)について説明する。この点に関して、図1は、B-MASCE(磁気作動式カプセル内視鏡10)のプロトタイプを示す図である。内視鏡10は、上部筐体部14および下部筐体部16を有する本体12と、上部筐体部14内に配置された永久磁石18と、上部筐体部14から下部筐体部16の端部22まで延在する複数の変形可能部材20と、上部筐体部14から下部筐体部16に向けて突出し、複数の変形可能部材20によって取り囲まれた針26とを備える。複数の変形可能部材20は、前記針26の先端36を覆うように伸張し、露出させるように収縮するのを繰り返し行うように構成される(この点に関して、さらに図4を参照)。針26は、永久磁石18に取り付けられた針ハブ内に収容される。
【0046】
図1に示されている永久磁石18は、直径が8mm、高さが8mmの円筒形である。図1の例における永久磁石は、ネオジム-鉄-ホウ素(NdFeB)42グレードで構成されている。
【0047】
一般に、永久磁石18の大きさおよび強度は、カプセル内視鏡10の大きさに応じて変化する。例えば、永久磁石18の直径は、0.5mm~10mmの範囲で選択され得る。永久磁石18の高さは、1~20mmの範囲で選択され得る。磁石の材料は、NdFeBまたは類似の材料を含むように選択され得る。
【0048】
下部筐体部16の端部22は、摩擦パッド24とも呼ばれる位置決めパッド24をさらに備える。図1aおよび図1bにおいて、位置決めパッド24は、繊維24’が存在する平坦面を備える。図2に示されている実施形態では、位置決めパッド24は下部筐体部16の端部22では凹形状を有する。
【0049】
図2の右側の断面図から明らかなように、位置決めパッド24は下部筐体部16の端部22を形成し、その内部に針26のための開口部24’’を有し、すなわち、収縮および伸張が繰り返される際に、針26の上部36は開口24’’を通って下部筐体部16に入ったり出たりする。
【0050】
また、位置決めパッド24は、下部筐体部16の端部22を表面に取り付けるための手段を備える。この例では、この手段は、複数の繊維24’および摩擦増大コーティング24’’’である。
【0051】
摩擦増大コーティング24’’’’は、パッドと消化管粘膜表面との間の摩擦を増大させるように設計された粘膜付着性物質としての材料を有し得る。
【0052】
図1aの実施形態では、第1のカメラまたはカメラシステム28は、上部筐体部14に設けられる。第1のカメラまたはカメラシステム28は、磁気作動式カプセル内視鏡10の環境の画像および動画を記録するように構成される。
【0053】
図2に示されている実施形態は、針26の領域内に配置され、針26の先端36の付近の領域から画像および動画を記録するように構成された第2のカメラまたはカメラシステム30を有する。第2のカメラ30は、針26を受容するように構成された針ハブ内に配置される。第2のカメラ30の視野は、針26の先端36に向けて針に沿って、すなわち、内視鏡10の長手方向に沿って方向付けられる。
【0054】
第1のカメラまたはカメラシステム28では、CMOSベースの高品質カメラが使用され得る。第2のカメラまたはカメラシステム30では、省スペース型のCMOSベースのカメラが使用され得る。第2のカメラシステムは、スペースが限られているため、解像度や品質が低下する可能性がある。
【0055】
図1および図2の実施形態には、さらにテザー32が示されている。テザー32は、食道を通して操作した後に、磁気作動式カプセル内視鏡10を取り出すように構成される。
【0056】
好ましくは、テザー32はさらに、磁気作動式カプセル内視鏡10の少なくとも1つのカメラまたはカメラシステム28、30のようなコンポーネントに信号および/またはエネルギーを伝送および/または受信するように構成された電気ケーブル用の導管として構成される。
【0057】
内視鏡10は、典型的には、20mm~32mmの範囲で選択された長さ、および8mm~12mmの範囲で選択された直径を有する。
【0058】
好ましくは、変形可能部材の材料は、ポリウレタンまたはポリジメチルシロキサンのような生体適合性弾性軟質材料および生体適合性弾性軟質シリコーンの組み合わせからなる部材群から選択される。
【0059】
以下でさらに詳細に説明するように、複数の変形可能部材20の各々は、所定の外部印加磁場が印加されたときに収縮するように構成される。外部印加磁場は、複数の変形可能部材20において、0.4Nより大きい収縮力、特に、0.45Nよりも大きい収縮力を誘起するように選択される。
【0060】
この点に関して、複数の変形可能部材20の各々は最大0.45Nの固有復元力を有し、複数の変形部材20の各々において0.45N未満の収縮力を誘起する外部磁場が印加されたときに、完全伸張状態を取るように構成されることに留意すべきである。
【0061】
さらに、磁気作動式カプセル内視鏡10は、外部印加磁場内で移動されるように構成されることに留意すべきである。複数の変形可能部材20は、所定の磁場勾配の印加時に収縮するように構成され、複数の変形可能部材20を変形させるのに利用される磁場勾配は、磁気作動式カプセル内視鏡10を移動させるのに使用される磁界勾配よりも大きい。
【0062】
図4に示されているように、磁気作動式カプセル内視鏡10は、シェル34によってカプセル封入される。シェル34は、所定時間経過後に、胃内に存在する流体のような液体環境内で溶解するように構成される。図4の実施形態では、シェル34は氷で形成されるが、薬物の時間遅延放出に使用されるようなカプセルでも形成され得る。この点に関して、所定時間は、磁気作動式カプセル内視鏡10が患者の胃40(図3を参照)に到達するまで磁気作動式カプセル内視鏡10が確実にカプセル封入された状態のまま維持することができるように選択されることに留意すべきである。この点に関して、所定時間は、10秒~10分の範囲で選択され得る。
【0063】
針先端36は、完全に露出した状態では、すなわち、変形可能部材20の完全収縮状態では、下部筐体部16の端部22から、少なくとも5mm、好ましくは少なくとも10mm突出している。
【0064】
細針26は、内視鏡10の上部14に取り付けられ、カプセルは、カプセルの下部16から針26を通すために、最長寸法に沿って圧潰する。
【0065】
設計の詳細について、以下に発明者の言葉を使用して説明する。
【0066】
図1は、細針26、永久磁石18、四脚サラスリンク機構20、上部筐体14、および滑り防止パターン26を有する下部筐体16から構成されたB-MASCE10の設計特徴を示している。磁石18は、制御された外部磁場に応答して、ロボットに対して磁力およびトルクを加える。磁気トルクはカプセルを配向するのに使用され、磁力はサラスリンク機構20を圧潰させて、カプセルの底部の穴に針を通すのに使用される。
【0067】
サラスリンク機構20からの復元力は、磁力が除去されたときにカプセルの形状を復元する。軸方向の磁力の正弦波変動は、FNC法に必要な動作である、組織を出入りする針26の滑らかな反復動作を引き起こす。サラスリンク機構20はまた、カプセル10の軸方向に沿って針26を案内するための圧潰動作を制限し、このことにより、圧潰動作は、印加された磁場のわずかな変動の影響を受けなくなる。下部16上の滑り止めパターン24は、針貫入の前に意図しないカプセルの動作を防止するために、圧潰動作中の摩擦を増大させる。
【0068】
表Iは、B-MASCE10の設計パラメータを示している。このプロトタイプでは、設計パラメータは、臨床要件を満たすように、そして初期実現可能性を証明するように選択されている。臨床研究では、組織への貫入および生検試料の採取には19ゲージ(G)から25Gが推奨されており、その範囲には性能の差異がないことが示されている。カプセル用に、外径が0.5652mm、内径が0.311mmの24Gの皮下注射針が選択された。
【0069】
平均的な胃壁42(例えば、図3を参照)の厚さは5.107mmであり、平均的な上部消化管腫瘍サイズは58mm(直径)であり、上部消化管腫瘍は直径が20mmより大きい大きさで視覚的に同定可能である。SMTの場合、針貫入深さは壁の厚さよりも大きくすべきであるが、全厚を貫通するほど深くはない。貫入深さは、両方の基準を満たすために10mmに選択される。
【表1】


【0070】
磁石18は、十分な磁力およびトルクを発生させるのに十分な大きさでなければならない。カプセル10のサイズが制限されるので、磁石18のサイズは、カプセルの上部本体の内部で可能な最大サイズとなるように選択される。磁力およびトルクは、外部磁場によって制御されるが、これについて以下で説明する。磁力は、サラスリンク機構20の復元力と標的組織の貫入抵抗との和よりも大きくすべきである。貫入抵抗は組織ごとに異なり、胃腫瘍組織に関する臨床データは存在しない。しかしながら、磁力は外部磁場によって容易に調節され得るので、これは組織ごとに調整する問題である。研究の現状では、針の貫入抵抗は肝組織と共に使用されている。この貫入抵抗は、18G(Φ1.27mm)の針を使用した10mmの貫入でほぼ0.05Nである。
【0071】
サラスリンク機構脚部20の設計は、生検機能を実行するために採用され、リンク機構は、結合した磁力と連結力が針26の挿入および引き戻しのための十分な正味の力となるように調整される必要がある。リンク機構20の設計に関して、挿入力はより強い外部磁場勾配を生成することによって安全に増大され得るので、挿入力よりも引き戻し力が重要である。しかしながら、カプセル10は、追従脚部20の復元力のみを使用して針26を引き戻すように設計される。これは安全のために行われ、磁場勾配が針26を引き戻すのに使用される場合、磁場勾配によりカプセル10が不意に胃壁42から離れて、結果として瞬間的に制御不能になる可能性がある。したがって、脚部20は、組織の退縮抵抗(10mm貫入で0.4N)に対してカプセル形状を回復させるのに十分な硬さになるように設計された。
【0072】
図3aは、胃壁42を有する解剖学的胃モデル40内の磁気作動式カプセル内視鏡10を示す図である。サイズ比較のために、1ユーロ硬貨44が含まれている。図3bは、外部磁場に揃えることによって天井を向いたB-MASCE10を示している。図3cは、外部磁場の強い勾配が印加された、圧潰状態、収縮状態のB-MASCE10が圧潰する様子を示している。矢印は露出した細針26を示している。
【0073】
磁気作動式カプセル内視鏡10を作動させる方法において、胃40のような作業領域54(図6を参照)内で磁気作動式カプセル内視鏡を移動させるために、磁場が印加される。磁気作動式カプセル内視鏡10は、例えば、図3bに示されているように、作業領域54内の所望の位置に位置決めされる。磁気作動式カプセル内視鏡10が所望の位置に位置決めされると、針先端26を下部筐体部16の端部22から繰り返し突出させる、すなわち、生検試料46(図9を参照)が針26の先端36内に採取され得るように針26を下層組織に突き刺すために、外部印加磁場が磁気作動式カプセル内視鏡10に印加される異なる磁場強度および/または異なる磁場勾配を有するように変更される。
【0074】
この点に関して、磁気作動式カプセル内視鏡を空間内で移動させるために印加される磁場は、5mT~9mTの範囲で選択された磁場強度を有する。磁気作動式カプセル内視鏡を空間内で位置付けるための好ましい動作は、転がり移動である。
【0075】
磁気作動式カプセル内視鏡10を所望の位置に位置決めする際に、30mT~70mTの範囲で選択された所望の強度および所望の向きを有する磁場が選択されて印加されることにさらに留意すべきである。磁気作動式カプセル内視鏡10の所望の向きは、所望の位置における針26の方向の所望の方向に従って選択される。すなわち、例えば、病変または腫瘍がカメラ28、30の1つによって検出された場合に、磁気作動式カプセル内視鏡10が病変または腫瘍の部位に方向付けられ得るということである。病変または腫瘍の生検の準備のため、針26を腫瘍または病変に繰り返し貫入させ、そのように変形可能部材20を収縮させ伸張させるために、複数の変形可能部材20を変形させるように外部磁場が変更され印加され、そのことにより、針先端36は下部筐体部16の端部22を越えている、またはその逆の状態であると認識される。収縮を引き起こすために印加される外部磁場は、30mT~70mTの範囲で選択された磁場強度と、0.5N~0.8Nの範囲で選択された変形可能部材20において印加される力を誘起する磁場とを有する。
【0076】
図4は、全体の適用シナリオを示している。まず、B-MASCE10が患者によって飲み込まれる。食道を保護するために、ロボット10は氷34によってカプセル封入される。氷が溶けた後、カプセルは胃の内部を動き回って、搭載カメラ28、30を使用して胃壁を目視検査することができる。胃40に炭酸水が吹き込まれることにより、確実にカプセルが自由に移動して、胃40の表面がはっきりと見えるようになる。疑わしい病変が見つかった場合、B-MASCE10は病変の表面に位置決めされ、FNCを実行する。複数の病変が見つかった場合には、それぞれ順番に生検を行うことができる。オペレータが処置を完了すると、カプセル10は、その上部本体14に取り付けられた細いテザー32によって引き戻される。引き戻された後、針26が外され、シリンジに取り付けられて、針26内部の組織46が除去される。除去された組織46は、顕微鏡スライド上で塗抹染色され、固定されて、病院内の細胞診センターに送られる。
【0077】
図1および図2に示されているように、4つのサラスリンク機構脚部20には、合計12個のヒンジが存在する。各ヒンジの回転剛性を計算することができる。上部ヒンジと下部ヒンジは、V字形の撓みヒンジと見なされ、中央のヒンジは円形ヒンジと見なされる。表1の値を使用すると、無次元回転剛性は次のように表される。
【数1】


ここで、KおよびKはそれぞれV字形撓みヒンジおよび円形ヒンジ用の経験的フィッティングデータを用いた無次元回転剛性値であり、Eは材料のヤング率であり、bは深さ(図5aのヒンジのz方向)であり、tはヒンジの最小厚さであり、Mはヒンジ上のモーメントあり、θは回転角である。単位は全て、SI単位およびradである。
【0078】
圧縮力は、ヒンジ上にトルクを誘起し、その結果、ヒンジに角度変化が生じて、上部本体14の垂直移動が生じる。リンク機構の運動学に基づいて、貫入深さとカプセルの復元力との関係は次のように表される。
【数2】


ここで、Fは復元力である。(2)を用いて、図5bでは、復元力が貫入深さと共に示されている。復元力は、常に、最大針引き戻し抵抗力(0.4N、10mmの貫入)よりも大きく、外部磁力が除去されたときに針26は引き戻される。現在の設計はFNABの要件を満たすのに十分であるが、追加機能のために、脚部20に磁気形状プログラミング技法を適用することが有用である場合がある。
【0079】
B-MASCE10は、3D印刷成形技術で製造される。上部筐体14および下部筐体16は、直接3D印刷される(Objet260 Connex3、Stratasys社製)。サラスリンク機構脚部が最初に3D印刷され、成形用のマスタ部品として使用される。この点に関して、軟質ポリウレタンエラストマー(ST-1060、BJB Enterprise社製、ヤング率:2.07MPa)がプロトタイプの脚部の最終材料として使用された。
【0080】
カプセル内視鏡10の材料は、例えば、0.5MPa~5MPaの範囲のヤング率を有する任意の軟質タイプのエラストマーを含み得る。さらに、カプセル内視鏡10は、様々な生体適合性シーラント、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、Ecoflex(商標)、紫外線(UV)硬化性ゲル(Dow Corning)、または類似の材料でコーティングされ得る。
【0081】
上部筐体部14は、例えば、3D印刷材料(Veroclear-RGD810)で作製されて、第1のカメラ28および永久磁石18用のレセプタクルを形成し、場合により、さらに針ハブ用のレセプタクルをも形成する。位置決めパッド24は、例えば、3D印刷材料(Veroclear-RGD810)で作製される。
【0082】
このような脚部20の製造方法は、例えば、S.YimおよびM.Sittiの「Design and rolling locomotion of a magnetically actuated soft capsule endoscope」(IEEE Transaction on Robotics、vol.28、No.1、pp183~194、2012年)および米国特許出願公開第2013/0303847(A1)号明細書に記載されており、これらは共に、脚部の製造方法に関して参照によって本願明細書に引用したものとする。
【0083】
製造された筐体14、16および脚部20は、シアノアクリレート接着剤(LOCTITE406、Henkel社製)を用いて結合される。皮下注射針26(24G×1’’、 B.Braun社製)は、ニッパで15mmの長さに切断された後、上部筐体14に挿入される。針26の切断部は、開口状態のままになっている。針26が挿入された後、永久磁石18およびダミーカメラ28が上部筐体14に挿入される。
【0084】
B-MASCE10は、外部磁場によって操作されるので、磁束密度および磁束密度の勾配を制御するための正確な手段が必須である。電磁システム50(図6を参照)は、磁場を正確に制御するように、そして磁気操作の安全性を高めるように設計された。
【0085】
図6は、上記で説明した磁気作動式カプセル内視鏡10のような少なくとも1つの永久磁石18を備える磁気作動式内視鏡10用の磁場発生・検知装置50を示している。磁場発生・検知装置50は、作業領域54内で磁気作動式内視鏡10を移動させるために、磁気作動式内視鏡10の少なくとも1つの永久磁石18上で時間的に変化する磁力およびトルクを発生させるように構成され、1つの平面内に配置された複数の電磁石52と、別の平面内に配置され、前記複数の電磁石52に対して前記作業領域54の反対側に配置された磁気センサアレイ56とを備える。複数の電磁石52は、時間的に変化する不均一磁場を発生させるように構成される。磁気センサアレイ56は、作業領域54内の磁気作動式内視鏡10の位置および向きを追跡するように構成される。磁場発生・検知装置50は、磁気作動式内視鏡10の位置および向きの少なくとも1つを変化させるために、磁気作動式内視鏡10の追跡位置および向きに従って、時間的に変化する不均一磁場を適合させるように構成された制御手段62をさらに備える。
【0086】
磁場発生・検知装置50はさらに、表示装置58と少なくとも1つの入力装置60とを備え、表示装置58は、磁気作動式内視鏡10の少なくとも1つのカメラ28、30によって記録された画像および/または磁気センサアレイ56によって出力された信号を図示する。
【0087】
ユーザは、少なくとも1つのカメラおよび/または磁気センサアレイ56によって記録された図示画像に基づいて、磁気作動式内視鏡10の所望の向きで所望の位置に磁気作動式内視鏡10を方向付けるように制御手段62を作動させるために少なくとも1つの入力装置60を介してコマンドを入力することができる。
【0088】
したがって、図6の概略図は、電磁システムおよび組み立てられた機構の写真を示している。システム50は、9個の電磁石52と、磁気センサアレイ56とを有する。電磁石52は、底部に位置決めされ、センサアレイ56は、最上部に位置決めされる。これらは、磁気センサ56の飽和を防止するために十分な距離離間される。電磁石の構成は、強いz方向の磁気勾配を生成するように最適化され、コイルは、電磁石をセンサシステムから十分に離れた状態で維持する平面内に位置付けられる。
【0089】
磁気作動システムの最適化には、OctoMagシステムの設計フレームワークが用いられる。しかしながら、より強力な磁束密度および磁場勾配を生成し、また、無駄な電力を最小限に抑えるための冗長性を使用することができるように、さらにコイルが追加された。設計フレームワークの適用において、システムが磁束密度の不均一性を使用することから、磁気マッピングは不均一な磁場およびその勾配マッピングへと変更された。センサシステムは、B-MASCEの位置および向きを追跡するために使用される。作動が不均一な磁場に基づいているので、カプセルの位置および向きの情報は、電流から磁力およびトルクへの適切な作動マッピングを見つけるために重要である。センサアレイ56は、B-MASCE10および作動システムの両方から結合磁場を読み取る。アルゴリズムを用いて、アクチュエータからのモデル化磁場が測定磁場から除去され、リアルタイムで非線形最適化アルゴリズムを使用してカプセル10の5-D位置および向きの情報が計算される。
【0090】
各コイルに起因する磁場の重畳は、B-MASCE10の永久磁石18上の正味の合力およびトルクを決定する。互いに近接した複数の鉄系コアは、結合磁場を生成する。これは、1つの電磁石からの磁束密度がそれ自体のコイルからの磁場強度に加えて他方のコア内の追加の磁場強度となるためである。これらの結合効果を、提示されている機構で考察する必要がある。ここでは、マルチコアシステムの磁場および力のマッピングが使用される。ベクトル表現および行列表現を使用して、磁束密度および力は次のように表される。
【数3】


ここで、BおよびFは第i番目の電磁石からの磁束密度および力の寄与であり、μは自由空間の透磁率であり、pは第i番目の電磁石からB-MASCEの磁石の中心までの変位ベクトルであり、^は単位ベクトルに対する正規化演算子であり、
【数4】


は3×3単位行列であり、mはB-MASCEの磁石の磁気モーメントであり、mは第i番目の電磁石の磁気モーメントであり、
【数5】


および
【数6】


はそれぞれ第i番目の電磁石の磁気モーメントからB-MASCE10の磁石18上の磁束密度および力へマッピングする3×3行列である(透磁率およびπ項なし)。
【0091】
複数の電磁石52の磁束密度と力の重畳は、以下のような行列形式で表される。
【数7】


ここで、BはB-MASCE10上の所望の磁束密度であり、Fは所望の磁力であり、Iは各コイル内の印加電流のベクトルである。
【数8】


は、電磁石52の得られた磁気モーメントから磁束密度および磁力へマッピングする作動マップである。
【数9】


は、コア間の結合効果を符号化する磁気結合マップであり、Vは第i番目のコアの体積であり、
【数10】


は第i番目のコアの3×3外部磁化率行列(球形コアの場合、均等スケール行列であり、他の場合、各主軸内の指向性外部磁化率値を有するテンソル回転)であり、
【数11】


はpを第j番目のコアから第i番目のコアへの変位ベクトルに置き換えることによる(3)における磁束密度マッピングである。
【数12】


は、各電磁石の磁気モーメントのパッキングである。各コイルにおける必要電流は、以下のように、電流ベクトルの2ノルムを最小化することによって、一般化された(Moore-Penrose)擬似逆行列を用いて達成される。
【数13】

【0092】
位置および向きの情報は追跡アルゴリズムから得られるが、推定値の直接使用は、比較的大きな向きの誤差による制御不安定性をもたらし得る。カプセル10の向きは基板上で旋回することによって素早く変化し得、カプセルの磁気モーメントが正確に分からないために、不十分な帯域幅または向きの推定精度が不正確な計算をもたらすことになる。このような場合、制御を分割することでシステムを安定化させることがより簡単であり、カプセルの向きは、永久磁石18が常に外部磁場と揃う形を取ることで制御され、力は、向きが完全に追従することを前提に独立に制御される。||B||=7mTはカプセルの所望の向きと同じ方向で印加され、F=[0;0;-0.015]Nは転がり移動のためにロボット10と基板との間に十分な静止摩擦を付与するために印加された。
【0093】
生検機能のために、所望の磁束密度および力は、B-MASCE10を圧潰させるのに必要な強い力により変化する。復元力を超える十分な圧潰動作を付与するために、0.5N~0.8Nの磁力が印加された(図5bを参照)。針26を用いたジャブ運動のために、印加された磁力は0.5N~0.8Nの上記範囲内で正弦波的に変化した。
【0094】
これらの値は、最初の実験の間に、製造誤差(例えば、脚部20のヤング率の不一致、ヒンジの厚さ、不明確な組織抵抗など)を調整するために決定される。ロボット10に非常に強い磁力が加えられるので、ロボットの向きを効果的に安定化させるために所望の磁束密度も増加する。実験中、||B||=40mTは、FNCが実行されている間にロボット10を安定化させるのに十分であることが分かった。
【0095】
プラスチック解剖学的ヒト胃モデル(K16、3B Scientific社製)上の新鮮なブタ脂肪においてin vitro実験を行った。ブタ脂肪は、筋肉組織よりも腫瘍の構造に近い構造を有するため、消化管腫瘍のモデルとして選択される。ブタ脂肪は、直径25mmの輪切りに切断され、ペトリ皿上に配置され(最初の実験)、解剖学的ヒト胃モデル(実証試験は図4を参照)の中に入れられる。
【0096】
最初の実験は、カプセル10が細針吸引生検を行うことができることを検証するために実施された。B-MASCE10は、垂直方向に立つことができるように、z方向の磁束密度の存在下で組織試料上に配置された。磁束密度の勾配は、十分な圧潰が観察されるまでゆっくりと増加された。カプセル10は、圧潰するのに強い磁力が必要であるので、電磁石52に密着して配置された。カプセル10は電磁石52に近いが、双極子近似は、(正規化距離:10cm/8cm=1.25、軸方向の円筒磁石の場合)の1%の近似誤差では依然として有効である。
【0097】
図7は、脂肪組織に関する実験の1つを示している。磁力がサラスリンク機構脚部20(図5b)の復元力よりも大きくなると、B-MASCE10は圧潰し始めることが観察された。貫入抵抗は復元力よりも大幅に小さいので、貫入運動は、針26がなくてもカプセル10の圧潰運動とほぼ同じである。0.8Nは、現在の設計では針26が組織内部の深部に入ることができるようにブタ脂肪上でB-MASCE10を完全に圧潰させるのに十分であることが分かっている。
【0098】
第2の実験は、適用シナリオの概念を実証するために設計されたものである。カプセル10が解剖学的胃ファントムの内部に手動で配置された後、実証試験は、(1)転がり移動により腫瘍の部位へと移動するステップ、(2)細針毛細管生検を行うステップ、および(3)開始位置近傍の領域に戻るステップの3つのステップからなる。人間のオペレータは、B-MASCE10の向きを変えることでB-MASCE10を移動させて、転がりを誘起し、針の軸に沿って力を変化させて生検を行った。オペレータは、ロボットの移動を観察し、キーボードおよびマウスを用いて視覚インターフェース(Lab-VIEW、National Instruments社製)上でコマンドを出した。水が吹き込まれた胃内部の環境をシミュレートするために、水中で実証試験が行われた。
【0099】
図8は、実証試験の結果を示している。実証試験では、ロボット10は、安定した転がり動作のために比較的ゆっくりと移動した(180°の回転に対して4秒)。ロボット10が組織ファントム40に到達し、垂直に配向されると、ロボット10は、その形状を圧潰させ、またその形状を回復させることによって、針26を組織試料の内外に移動させることで生検を実行した。
【0100】
10秒で合計9回のジャブ運動が行われ、その後、カプセル10は開始位置の近傍の領域にうまく再配置された。実証試験の後、ロボット10はテザー32を用いて手で引き戻され、生検試料が顕微鏡およびマクロレンズ付きカメラで検査された。
【0101】
図9は、中空針26内部のブタ脂肪からの引き戻された組織46を示している。組織46は、毛細管力による検査が行われるまで針26の内部で保持された。カプセル10を引き戻した後、シリンジが細針26に取り付けられ、シリンジ内部に陽圧を印加することにより、慎重に試料46が排出された。画像から、脂肪組織が針26の内部に捕捉されていたことが明らかである。実験は10回繰り返され、生検試料が全ての実験において採取された(収率:100%)。
【0102】
本研究では、磁気作動式軟カプセル内視鏡を用いたFNC機能が提案され、実証されている。これは、細針26の生検法をロボットカプセル内視鏡10に適用する最初の試みであり、これにより、表面組織のみならず、粘膜下腫瘍のような胃壁を蝕む深部組織も採取することが可能になる。B-MASCEは、上部消化管でのカプセル生検法の診断精度を向上させ、診断と生検とを同時に行うことで病変同定ステップを短縮する可能性がある。
【0103】
この新しい設計は、単純であるが、胃の組織をうまく取り出すのに頑丈な設計である。ロボット内部の単一磁石をいくつかの目的(移動、生検、および追跡)で利用することにより、システムコンポーネントの数が最小限に抑えられて、カプセル設計が頑丈になり、製造コストが安価になる。軟質ポリマーのサラスリンク機構を利用することで、カプセル本体は、ヒンジ、ばね要素、およびカプセル化構造の一体型構造になる。これらの設計要素により、B-MASCEは以前に提案された生検カプセル内視鏡と比べると有意に、より単純な内視鏡になるが、依然として確実に動作することができる。
【0104】
一方で、B-MASCE10の安全性を考慮する必要がある。ロボットは、サラスリンク機構の復元力のため、もともと安全である。カプセルに圧潰力を付与することができる唯一の発生源は、磁力の他に、食道および胃からの蠕動運動である。食道は狭いので、カプセルが飲み込まれているときに、食道がカプセルの側面に一定の圧力を加える。ロボット10は、通常の場合、その錠剤状の形状のために食道の方向と揃えられる。しかしながら、カプセルが食道の蠕動運動によって食道の内部で回転し、圧潰する可能性が少しだけある。カプセルの形状を固定することによるシナリオの第1のステップにおいて氷壁34でカプセル10を包み込むのは、そのためである。B-MASCE10を引き戻すために、カプセルに取り付けられたテザー32が役割を果たす。テザー32はカプセル10の上部14に取り付けられているので、引張力がカプセル10を食道の方向に揃え、このことにより、B-MASCE10が引き戻し中に圧潰するのが妨げられる。
【0105】
胃に関しては、胃は大きい空洞であり、B-MASCE10は胃壁によって圧迫されないので、環境は食道とは異なる。上部消化管内のカプセル内視鏡10の臨床応用では、できるだけ胃を大きく拡張するために、発泡剤と一緒に水を服用することが推奨されている。これは、胃壁の皺で隠れている可能性がある全ての病変を見る診断精度のためである。このような場合に、胃の内部の水とガスが胃の圧潰を防ぎ、B-MASCE10を使用するのが安全になる。
【0106】
しかしながら、将来の作業にはいくつかの課題が残されており、つまり、実環境における制御および操作の問題、さらにオペレータへの処置状況の提示のための胃の位置合わせが残されている。生検機能は実証されたが、試験環境は実際のものとは有意に異なるものであった。実際の胃は蠕動運動を示し、これがロボットの向きおよび位置を乱す。その場合、これらの外乱をロバストに拒絶することができるコントローラ62が設計され、実装される必要がある。さらに、胃壁は、粘膜層の影響で非常に滑りやすい。このことにより、転がり移動のピボット点および下部パッド24の支持点が移動し得るので、別の制御問題が生じ得る。
【0107】
特に、パッド24が滑ると、意図しない位置で生検が行われる可能性がある。ロボット10を胃40の表面に対して垂直に正確に揃えることができるコントローラ62と、十分な静摩擦を付与することができるパッド24とをさらに開発する必要がある。さらに、作動システムの設計は、カプセルの磁石を鉄心の一般的な方向に向けて引っ張るときに最も効果的である。したがって、この特定の配置は、胃40の上面および下面の生検にとっては理想的ではない。コアのより複雑な配置は、この特定の用途向けにシステムを改善するために設計され得る(例えば、永久磁石のコアの場合)。
【0108】
さらに、システムには、胃40の内部の位置合わせおよび位置特定の手段がさらに必要である。実証試験のために、人間のオペレータはロボット10の位置を視覚的に観察する必要があったが、それは、カプセルが転がっているときには、内視鏡の動画のみを使用した単純な仕事ではなくなる。
【0109】
理想的には、システム50は、胃40のオンラインマップを構築し、位置特定とマッピングを同時に実行して、ロボット10と胃40との相対位置および同定された病変の位置の概要をオペレータに提示すべきである。カプセル10上のカメラ28、30は、位置特定プロシージャおよびマッピングプロシージャのデータを収集するために使用され得る。
【0110】
近年、移動ロボット10の位置特定技術を身体内部の外科シナリオに適応させる試みがなされており、これは生検用のカプセル内視鏡一式に組み込まれ得る。
図1
図2
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】
図6
図7
図8
図9