(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】ポリエステル系人工毛髪、かつら、及び、ポリエステル系人工毛髪の製造方法
(51)【国際特許分類】
A41G 3/00 20060101AFI20220404BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20220404BHJP
D01F 6/90 20060101ALI20220404BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20220404BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
A41G3/00 A
D01F6/62 303B
D01F6/90 311
D06M11/00 111
D01F8/14 B
(21)【出願番号】P 2016048239
(22)【出願日】2016-03-11
【審査請求日】2019-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000126218
【氏名又は名称】株式会社アートネイチャー
(73)【特許権者】
【識別番号】591051966
【氏名又は名称】株式会社サンライン
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 祥剛
(72)【発明者】
【氏名】堤 英伸
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴之
【審査官】新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-088585(JP,A)
【文献】国際公開第2014/033935(WO,A1)
【文献】特開平04-245907(JP,A)
【文献】特開昭56-112535(JP,A)
【文献】特開平04-202805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
D01F 6/62
D01F 6/90
D06M 11/00
D01F 8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に開口する複数の凹部を有し、
前記凹部の深さは、前記凹部の開口部分における幅が最大となる方向の最大幅の長さよりも深いことを特徴とするポリエステル系人工毛髪であって
、
前記人工毛髪は、表面に位置する
鞘部である第1の層と、前記第1の層に囲まれた
芯部である第2の層と、を含む複数層構造を呈し、
前記第2の層は、前記第1の層と比較して、曲げ剛性が高く
、
少なくとも一部の前記凹部は、前記第1の層を貫通し前記第2の層に亘って形成されて
おり、
前記人工毛髪は、
ポリエステル系人工毛髪素材に、第1の材料及び第2の材料で構成される前記第1の層と、第3の材料で構成される前記第2の層とを形成する製糸工程と、
前記製糸工程後の前記ポリエステル系人工毛髪素材に、アルカリ減量加工を行うアルカリ減量工程と、により製造され、
前記第1の材料は、共重合ポリエチレンテレフタレートであり、前記第2の材料と比較して、アルカリ溶解速度が高く、溶融粘度が低い材料であり、
前記第2の材料は、ホモのポリエステルポリマーであり、前記第1の材料と比較して、アルカリ溶解速度が低く、溶融粘度が高い材料であり、
前記第3の材料は、ホモのポリエステルポリマー又はナイロンである
ことを特徴とする、前記人工毛髪。
【請求項2】
前記凹部の深さは、前記最大幅の長さよりも2倍以上深いことを特徴とする請求項1記載のポリエステル系人工毛髪。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の、複数のポリエステル系人工毛髪と、
前記ポリエステル系人工毛髪が植毛されたかつらベースと、
を備えることを特徴とするかつら。
【請求項4】
ポリエステル系人工毛髪素材に、表面に位置する鞘部である第1の層と、前記第1の層に囲まれた芯部である第2の層とを形成する製糸工程と、
前記製糸工程後の前記ポリエステル系人工毛髪素材に、アルカリ減量加工を行うアルカリ減量工程とを含む、ポリエステル系人工毛髪の製造方法であって、
前記製糸工程後で前記アルカリ減量工程前において、前記第1の層は第1の材料及び第2の材料で構成され、かつ、前記第2の層は第3の材料で構成され、
前記第1の材料は、共重合ポリエチレンテレフタレートであり、前記第2の材料と比較して、アルカリ溶解速度が高く、溶融粘度が低い材料であり、
前記第2の材料は、ホモのポリエステルポリマーであり、前記第1の材料と比較して、アルカリ溶解速度が低く、溶融粘度が高い材料であり、
前記第3の材料は、ホモのポリエステルポリマー又はナイロンであり、
前記アルカリ減量工程では、前記ポリエステル系人工毛髪素材の表面に、開口部分における幅が最大となる方向の最大幅の長さよりも深い深さを有する複数の凹部を形成し、かつ、少なくとも一部の前記凹部を、前記第1の層を貫通し前記第2の層に亘って形成し、
製造されたポリエステル系人工毛髪において、前記第2の層は、前記第1の層と比較して、曲げ剛性が高いことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ減量工程後に、前記人工毛髪素材を染色する染色工程をさらに含む、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばかつらに用いられるポリエステル系人工毛髪と、このポリエステル系人工毛髪を備えるかつらと、ポリエステル系人工毛髪の製造方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工毛髪用の合成繊維素材としては、ポリエステルのほかにナイロンが挙げられる。但し、ナイロンは、ポリエステルと比較して吸水性に優れる反面、耐候性、耐熱性、寸法安定性などの点で劣るため、人工毛髪としては、ナイロンよりもポリエステルが用いられることが多い。なお、かつら装着者の汗を吸うため、或いは、人の毛に近い自然な風合いを出すためには、人工毛髪の吸水性が優れていることが望ましい。
【0003】
人工毛髪用の考慮がなされていないものであるが、ポリエステルに関しては、吸水性を高めるために、中空の繊維に微細孔を設けたポリエステル組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のポリエステル組成物は、中空部分を有することで吸水性を高めることができる反面、ポリエステル組成物の長手方向に延びる溝のような微細孔の側面は、溝の長さに比較して表面積が大きくならず、水分を十分に吸収することができない。
【0006】
更には、特に、上記のポリエステル組成物が中空構造である場合、人工毛髪に求められるカール性、耐候性などを充足せず、この点でも人工毛髪用に適さない。
本発明の目的は、ポリエステル系人工毛髪の吸水性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの観点では、ポリエステル系人工毛髪は、表面に開口する複数の凹部を有し、前記凹部の深さは、前記凹部の開口部分における幅が最大となる方向の最大幅の長さよりも深い。
【0008】
また、前記ポリエステル系人工毛髪において、前記凹部の深さは、前記最大幅の長さよりも2倍以上深いとよい。
また、前記ポリエステル系人工毛髪において、前記ポリエステル系人工毛髪の長手方向に延び表面に開口する複数の溝を更に有するとよい。
【0009】
また、前記ポリエステル系人工毛髪において、前記ポリエステル系人工毛髪は、表面に位置する第1の層と、前記第1の層に囲まれた第2の層と、を含む複数層構造を呈し、少なくとも一部の前記凹部は、前記第1の層を貫通し前記第2の層に亘って形成されているとよい。
【0010】
別の観点では、かつらは、複数の前記ポリエステル系人工毛髪と、前記ポリエステル系人工毛髪が植毛されたかつらベースと、を備える。
更に別の観点では、ポリエステル系人工毛髪の製造方法は、ポリエステル系人工毛髪素材にアルカリ減量加工を行うアルカリ減量工程を含み、前記アルカリ減量工程では、前記ポリエステル系人工毛髪素材の表面に、開口部分における幅が最大となる方向の最大幅の長さよりも深い深さを有する複数の凹部を形成する。
【0011】
また、前記ポリエステル系人工毛髪の製造方法において、前記ポリエステル系人工毛髪素材に、表面に位置する第1の層と、前記第1の層に囲まれた第2の層とを形成する製糸工程を更に含み、前記アルカリ減量工程では、少なくとも一部の前記凹部を、前記第1の層を貫通し前記第2の層に亘って形成するとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリエステル系人工毛髪の吸水性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るポリエステル系人工毛髪を示す電子顕微鏡観察図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係るポリエステル系人工毛髪を示す電子顕微鏡観察図の拡大図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係るポリエステル系人工毛髪の製造方法を示す工程図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係るポリエステル系人工毛髪を示す断面図である。
【
図6】本発明の一実施の形態に係る2本のポリエステル系人工毛髪の断面周縁を示す電子顕微鏡観察図である。
【
図7】本発明の一実施の形態に係る複数種のポリエステル系人工毛髪及び比較例の吸水性及び速乾性を表すグラフである。
【
図8】本発明の一実施の形態に係るかつらを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態に係る、ポリエステル系人工毛髪及びその製造方法並びにかつらについて、図面を参照しながら説明する。
図1及び
図2は、本実施の形態に係るポリエステル系人工毛髪(以下、単に「人工毛髪」と記す。)1を示す電子顕微鏡観察図及びその拡大図である。
【0015】
図3は、本実施の形態に係る人工毛髪1の製造方法を示す工程図である。
図4は、人工毛髪1を示す断面図である。
図5は、
図4のA部を矢印方向から見た図である。
【0016】
まず、
図1及び
図2に示す人工毛髪1の製造方法について
図3を参照しながら説明する。
図3に示すように、本実施の形態に係る人工毛髪1の製造方法は、原糸である人工毛髪素材を製造する製糸工程S1と、人工毛髪素材にアルカリ減量加工を行うアルカリ減量工程S2と、人工毛髪素材を染色する染色工程S3と、を含む。
【0017】
各工程は、任意の公知の種々の手法を用いて行うことができるため、ここでは各工程の概要を説明する。
まず、製糸工程S1では、溶融混合紡糸法にて、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)などのホモのポリエステルポリマー(材料A)に対し、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸、スルホイソフタル酸塩、またジオール成分としてポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコールを用い、ジカルボン酸成分及び/又はジオール成分を共重合してなる共重合PETなど(材料B)を少量混合(ペレットでドライブレンド)し、繊維内に材料Bを分散させるとよい。
【0018】
その分散状態としては、材料Bは人工毛髪素材中で液滴状や筋状態で分布する。人工毛髪素材は、延伸により長針状、筋状に変形される。スルホイソフタル酸塩は、例えば1~5mol%であり、アルキレングリコールは、例えば3~15重量%であることが望ましい。
【0019】
また、艶消し剤の一例として、シリカ(SiO2)及び酸化チタン(TiO2)を含有させるとよい。これらの艶消し剤は、合計1重量%以下で混合されていることが望ましい。更に、芯成分及び鞘成分には上記の艶消し剤の他に、安定剤、紫外線吸収剤、流動改善剤、着色剤などの添加剤を加えることもできる。
【0020】
また、人工毛髪1を後述する
図4に示すように鞘部4及び芯部5の複数層構造とする場合、人工毛髪素材の製糸段階では、鞘部4となる部分が占める体積割合が30~50%で、且つ、芯部5となる部分が占める体積割合が50~70%であることが望ましい。
【0021】
なお、人工毛髪素材としては、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの他のポリエステル系繊維を用いてもよい。
次に、アルカリ減量工程S2は、人工毛髪素材の表面をアルカリ加水分解する工程であり、例えば、人工毛髪素材を100℃以上に加熱されたアルカリ溶液の中に浸し、アルカリ減量処理を行う。これにより、製造される人工毛髪1に、詳しくは後述するが、
図2に示す凹部2及び溝3が形成される。
【0022】
最後に、染色工程S3では、上述のようにアルカリ減量加工が行われた人工毛髪素材に黒色、茶色などの任意の色に染色を行う。
次に、人工毛髪1の構成について説明する。
【0023】
人工毛髪1は、
図2及び
図4に示す複数の凹部2と、
図2に示す複数の溝3と、を有する。
凹部2は、人工毛髪1の表面に開口する。
図5に示すように、凹部2の深さdは、凹部2の開口部分における幅が最大となる方向の最大幅Wmaxの長さよりも深い。凹部2の深さdは、最大幅Wmaxの長さよりも2倍以上深いことが望ましい。なお、凹部2の開口部分における幅が最大となる方向は、凹部2の開口部分の長手方向といえる。図示はしないが、人工毛髪1には、上記の深さの関係を満たさない凹部も形成されるが、1本の人工毛髪1に上述の深さの関係を満たす凹部2が多数(例えば100個以上或いは1000個以上)点在するように形成されるとよい。
【0024】
溝3は、
図1及び
図2に示す人工毛髪1の長手方向Dに延び、人工毛髪1の表面に開口する。
図4に示すように、人工毛髪1は、表面に位置する第1の層の一例である鞘部4と、この鞘部4に囲まれた第2の層の一例である芯部5と、を含む複数層構造を呈する。なお、人工毛髪1は、鞘部4と芯部5との間に更に異なる層を設けてもよい。その場合には、鞘部4と芯部5との間の層(複数の場合は鞘部4に最も近い層)が第2の層の一例となる。また、人工毛髪1は、鞘部4と芯部5とに分かれていない単一構造であってもよい。また、人工毛髪1の少なくとも鞘部4がポリエステル系繊維から製造されていればよく、芯部5はナイロン等のポリエステル以外の繊維であってもよい。
【0025】
芯部5は、鞘部4よりも曲げ剛性が高いことが望ましい。反対に、鞘部4は、芯部5よりも人工毛髪1としての外観が自然であることが望ましい。
ここで、
図4は、便宜上、同一断面に7つの凹部2(2-1~2-7)を示す。
【0026】
まず、単に直線状に延びる凹部2-1,2-3,2-4,2-5もあれば、開口部分から底に向かって途中で枝分かれする凹部2-2,2-6,2-7もある。
また、鞘部4を貫通し芯部5に亘って形成されている凹部2-2,2-5,2-6,2-7もあれば、鞘部4を貫通しない凹部2-1,2-3,2-4もある。このように、少なくとも一部の凹部2(2-2,2-5)は、鞘部4を貫通し、芯部5に亘って形成されていることが望ましい。但し、上述のように凹部2の深さdが最大幅Wmaxの長さよりも深ければ、芯部5に到達する凹部2がなくともよい。
【0027】
凹部2は、例えば、上述の材料Aと材料Bとのアルカリ溶解速度の差及び溶融粘度の差により形成される。
まず、アルカリ溶解速度の差に関しては、材料Bが材料Aよりも優先溶解するため、人工毛髪1の表面に凹部2及び溝3が形成されるとともに、人工毛髪1の内部に後述する空洞が形成される。
【0028】
また、溶融粘度の差に関しては、材料Bは、溶融粘度が材料Aに比べ低くなることで、低粘度成分の材料Bは材料Aの流体内で流路壁面に分布しやすくなる。このため、紡糸口金から押し出される際でも材料Bが人工毛髪1の表面に分布しやすくなり、その後のアルカリ溶解処理では人工毛髪1の表面近傍に高濃度で材料Bが分布する。したがって、人工毛髪1の表面に多くの凹部2及び溝3が形成されるとともに、人工毛髪1の表面近傍の内部に空洞が形成される。
【0029】
図6は、2本の人工毛髪1の断面周縁を示す電子顕微鏡観察図である。なお、
図6は、人工毛髪1の長手方向Dに直交する断面を表す。
図6おいて、2本の人工毛髪1の間のうち色の薄い領域は、2本の人工毛髪1の間の隙間7であり、色の濃い領域は、人工毛髪1の表面で上述の染色工程S3により薄黒く染まったエポキシ系包埋樹脂である。
【0030】
図6の左側に示す人工毛髪1には、凹部2-8に加えて、上述の空洞6-1,6-2,6-3,6-4が形成されている。なお、空洞6-1のうち色が濃い部分は、添加物が表れたものといえる。
【0031】
図7は、複数種の人工毛髪1及び比較例の吸水速乾性能を表すグラフである。
図7に示す吸水速乾性能の試験では、繊維径70μmで、長さ20cm、重量4.5gの各種人工毛髪の毛束を水温20℃の純水中に24時間浸漬し、取り出し3分後からの水を含む毛束の重量(W)の変化を測定した。試験後、毛束を60℃で24時間乾燥した後の毛束の重量(W0)として、次式より毛束の保水率を計算して図示したものが
図7である。
【0032】
保水率(%)=(W-W0)/W0×100
図7の試験で用いた人工毛髪に関し、以下詳細に説明する。
5-スルホイソフタル酸3mol%、分子量4000のポリエチレングリコールを8重量%共重合した固有粘度0.58のポリエチレンテレフタレートをポリマーP1とする。
【0033】
固有粘度1.00のポリエチレンテレフタレートをポリマーP2とする。
固有粘度0.85のポリエチレンテレフタレートをポリマーP3とする。
ポリマーP2を芯成分、ポリマーP1を5重量%ドライブレンドしたポリマーP3を鞘成分として、芯/鞘の複合比率を2/1として、芯鞘複合紡糸法にて繊維径72μmの糸Y1を作成した。
【0034】
また、比較例用に、別途、ポリマーP3から、通常の溶融紡糸法にて繊維径72μmの糸Y2を作成した。
糸Y1を種々の減量率にて上述のアルカリ減量工程S2を行い、
図7の複数種の人工毛髪「N16.6」、「N18.0」、「N20.2」、「N22.0」、「N25.8」を作成した。また、糸Y2を減量率20%にてアルカリ減量工程S2を行い、比較例の人工毛髪を作成した。
【0035】
図7において、太い破線で表される「N16.6」は16.6%減量された人工毛髪1であり、太い実線で表される「N18.0」は18.0%減量された人工毛髪1であり、太い点線で表される「N20.2」は20.2%減量された人工毛髪1であり、細い破線で表される「N22.0」は22.0%減量された人工毛髪1であり、細い実線で表される「N25.8」は25.8%減量された人工毛髪1であり、細い点線で表されるのは多数の凹部2が形成されていない比較例の人工毛髪である。
【0036】
図7に示すように、同じ条件で吸湿させた各人工毛髪1及び比較例の人工毛髪では、各人工毛髪1の保水率(%)が比較例の人工毛髪よりも高い。そのため、各人工毛髪1は、比較例の人工毛髪よりも吸水性(吸湿性)が優れることがわかる。
【0037】
また、各人工毛髪1及び比較例の人工毛髪の保水率は、時間(分)の経過とともに落ちるが、比較例の人工毛髪が最も保水率が落ちにくい。そのため、各人工毛髪1は、比較例の人工毛髪よりも速乾性が優れることもわかる。
【0038】
図8は、本実施の形態に係るかつら10を示す平面図である。
図8に示すかつら10は、複数の上述の人工毛髪1と、この人工毛髪1が植毛されたかつらベース11と、を備える。かつら10は、
図8に示すようにかつら装着者の頭部のほぼ全体に配置されるかつら10であってもよいし、かつら装着者の頭部の全体又は一部に配置される全頭かつら又は部分かつらであってもよい。
【0039】
かつらベース11は、本体部11aと、周縁部11bと、分け目部11cと、を有する。かつらベース本体部11aには、人工毛髪1が植毛されている。なお、
図8において、人工毛髪1は、本体部11a、周縁部11b、及び分け目部11cのそれぞれに1本又は2本のみ図示するが、実際には、例えば密集するようにかつらベース11に植毛される。
【0040】
周縁部11bは、本体部11aとは異なる部材から形成されているか、或いは、本体部11aを折り返すことで形成されている。分け目部11cは、例えば、合成樹脂からなる人工皮膚により形成されている。また、分け目部11cは、本体部11aを刳り貫いた部分に配置されているか、或いは、本体部11a上に重なるように配置されている。
【0041】
なお、本実施の形態では、本体部11a、周縁部11b、及び分け目部11cが設けられたかつらベース11を一例として説明しているが、かつらベース11は、本体部11aのみからなるかつらベースや、その他のかつらベースであってもよい。
【0042】
以上説明した本実施の形態では、人工毛髪1は、表面に開口する複数の凹部2(2-1~2-7)を有し、凹部2の深さdは、凹部2の開口部分における幅が最大となる方向の最大幅Wmaxの長さよりも深い。また、人工毛髪1の製造方法は、ポリエステル系人工毛髪素材にアルカリ減量加工を行うアルカリ減量工程S2を含み、このアルカリ減量工程S2では、ポリエステル系人工毛髪素材の表面に、開口部分における幅が最大となる方向の最大幅Wmaxの長さよりも深い深さdを有する複数の凹部2を形成する。
【0043】
これにより、凹部2が水分を吸収するため、人工毛髪(ポリエステル系人工毛髪)1の吸水性を高めることができる。
また、本実施の形態では、凹部2の深さdは、最大幅Wmaxの長さよりも2倍以上深い。これにより、凹部2が水分をより吸収するため、人工毛髪1の吸水性をより一層高めることができる。
【0044】
また、本実施の形態では、人工毛髪1は、人工毛髪1の長手方向Dに延び表面に開口する複数の溝3を更に有する。これにより、凹部2のみならず溝3が水分を吸収するため、人工毛髪1の吸水性をより一層高めることができる。
【0045】
また、本実施の形態では、人工毛髪1は、表面に位置する第1の層の一例である鞘部4と、この鞘部4に囲まれた第2の層の一例である芯部5と、を含む複数層構造を呈し、少なくとも一部の凹部2は、鞘部4を貫通し芯部5に亘って形成されている。また、人工毛髪1の製造方法は、ポリエステル系人工毛髪素材に、表面に位置する第1の層の一例である鞘部4と、この鞘部4に囲まれた芯部5とを形成する製糸工程S1を更に含み、アルカリ減量工程S2では、少なくとも一部の凹部2を、鞘部4を貫通し芯部5に亘って形成する。そのため、鞘部4及び芯部5の両方において、人工毛髪1の吸水性をより一層高めることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 人工毛髪
2 凹部
3 溝
4 鞘部
5 芯部
6 空洞
7 隙間
8 染色部分
10 かつら
11 かつらベース
11a 本体部
11b 周縁部
11c 分け目部