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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20220404BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220404BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20220404BHJP
   A61K 31/6615 20060101ALI20220404BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20220404BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220404BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
A61K36/899
A61P43/00 111
A61K31/197
A61K31/6615
A61K35/744
A61P9/00
A61K131:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2016086580
(22)【出願日】2016-04-22
(65)【公開番号】P2017193522
(43)【公開日】2017-10-26
【審査請求日】2019-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】598094779
【氏名又は名称】たいまつ食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113804
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 敏
(72)【発明者】
【氏名】樋口 元剛
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-172867(JP,A)
【文献】特開2011-217739(JP,A)
【文献】血管新生因子 G-CSF,THE JOURNAL of JAPANESE COLLEGE of ANGIOLOGY,2006年07月14日,46,317-325,日本脈管学会
【文献】Tumor necrosis factor α promotes the expression of stem cell factor in synovial fibroblasts and their capacity to induce mast cell chemotaxis,Arthritis and rheumatism,2000年01月,Vol. 43, Issue 1,164-174
【文献】Regulation of endothelial lipase and systemic HDL cholesterol levels by SREBPs and VEGF-A,Atherosclerosis,2012年12月,Volume 225, Issue 2,335-340
【文献】接着分子阻害剤の臨床応用について -セレクチンを中心に-,動脈硬化,日本動脈硬化学会,1997年,24 (12),797-804
【文献】Inositol Polyanions NONCARBOHYDRATE INHIBITORS OF L- AND P-SELECTIN THAT BLOCK INFLAMMATION,THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,The American Society for Biochemistry and Molecular Biology,1994年05月27日,Vol. 269, No. 21,15060-15066
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト末梢血単核球からの可溶性CD62(P-セレクチン)(sCD62P)の産生を抑制するために用いる、天然素材由来の産物を含む組成物であって、
天然素材由来の産物は、玄米を精米処理することによって得られた米糠に、グルタミン酸又はグルタミン酸塩と、アルコールを加え、液状に分散したものに、乳酸菌をスターターとして加え、適度な酸素を与えられるように攪拌を行い、25℃~45℃にて12~240時間程度反応および発酵を同時進行で進め、グルタミン酸をGABAに転換させながら胚芽や糠の由来成分を溶出し製造された米胚芽発酵液から得られたガンマ-アミノ酪酸およびイノシトール6リン酸を主成分として含有する米胚芽発酵液であって、ヒト末梢血単核球からの可溶性CD62(P-セレクチン)(sCD62P)の産生を抑制させて血管内皮細胞の機能改善と血管力を誘導・促進することを特徴とした組成物。
【請求項2】
ヒト末梢血単核球からの可溶性CD62(P-セレクチン)(sCD62P)の産生を抑制するために用いる、天然素材由来の産物を含む組成物であって、
天然素材由来の産物は、玄米を精米処理することによって得られた米糠に、グルタミン酸又はグルタミン酸塩と、アルコールを加え、液状に分散したものに、乳酸菌をスターターとして加え、適度な酸素を与えられるように攪拌を行い、25℃~45℃にて12~240時間程度反応および発酵を同時進行で進め、グルタミン酸をGABAに転換させながら胚芽や糠の由来成分を溶出し製造された米胚芽発酵液から得られたガンマ-アミノ酪酸およびイノシトール6リン酸並びにその他のイノシトールを主成分として含有する米胚芽発酵液であって、ヒト末梢血単核球からの可溶性CD62(P-セレクチン)(sCD62P)の産生を抑制させて血管内皮細胞の機能改善と血管力を誘導・促進することを特徴とした組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、血管内皮細胞機能の改善、すなわち血管内皮細胞の健康(血管力)を誘導・促進させる調節因子、顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor: G-CSF)、可溶性CD62P(P-セレクチン)、幹細胞増殖因子(stem cell factor: SCF)、血管内皮リパーゼ(endothelial lipase: EL) を制御・コントロールすることで各種疾患の予防および治療に寄与する医薬品・医薬部外品・飲食品・嗜好品・飼料および化粧品に応用される産物およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血管内皮細胞とは、血管の内表面を構成する扁平で薄い細胞の層で、血液が循環する内腔と接し、全ての循環器系の内壁に並んでいる。機能としては、血管収縮と血管拡張による血圧コントロール、血液凝固による血栓症と繊維素溶解、血管内外への物質交換、白血球の通過コントロール、腎臓の糸球体や血液脳関門などの高度フィルタリング機能がある。血管内皮細胞は一酸化窒素(nitric oxide:NO)やエンドセリンなど、数多くの血管作動性物質を放出し、血管壁の収縮・弛緩、血管壁への炎症細胞の接着、血管透過性、凝固・線溶系の調節を行っている。
【0003】
一方、高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満などを原因とするメタボリックシンドロームや様々な生活習慣病では血管内皮細胞の機能が低下する。血管内皮細胞の機能が低下すると、プラーク(粥腫)形成、動脈硬化の進展を引き起こす。よって、血管内皮細胞機能を改善する機能性食品等の開発は動脈硬化の予防や血管の健康維持に重要な役割を果たすと考えられる。血管内皮細胞の機能低下は病気の前段階で生じることから、血管内皮細胞機能検査(血管内皮細胞の機能評価)は、病気の予備群の早期発見に寄与する。
【0004】
血管内皮細胞の機能改善、すなわち自己修復能は、骨髄内に存在する血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell: EPC)の働きによる。このEPCが血管内皮細胞に分化して動脈硬化を修復するため、EPCは血管修復治療として大いに期待されている。EPCを活性化させるためには、軽い運動が重要であり、動脈硬化の原因となるホモシステインや活性酸素除去作用がある。ホモシステインはlow-density lipoprotein (LDL)と共に、血管壁にコレステロールを沈着させる。ビタミンB12や葉酸の欠乏状態では、ホモシステインが心筋梗塞や脳梗塞などの発症を誘発する。以上の背景から、禁煙では血管内皮細胞機能を改善、さらには血管内皮細胞の健康(血管力)を維持・増強させ、各種疾病の予防・治療を目指した応用研究が世界の研究機関で行われている。
【0005】
その一方で、天然素材やその抽出物を利用し、血管内皮細胞の改善や血管内皮前駆細胞による血管傷害の修復を目指した研究も精力的に行われている。血管内皮細胞の機能を改善し、血管系イベントに関与する各種疾病予防を目指した新規の天然素材の探索は非常に近未来的に重要な研究課題である。
【0006】
ところで、本願出願人は、長年の研究に基づいて、一般の食品素材を利用して製造される生体免疫系の増強、及び抗腫瘍、抗ウィルス感染効果を有する素材である米胚芽発酵液及び米胚芽発酵粉末並びにその製造方法を提供している(特許文献1)。また、この米胚芽発酵液を利用した顆粒球コロニー刺激因子の産出を誘導・促進する技術を提供している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-217739号公報
【文献】特開2014-172867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本願発明は、血管内皮細胞および血管内皮前駆細胞の機能改善、すなわち血管内皮細胞の健康(血管力)を誘導・促進させる調節因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、可溶性CD62P(P-セレクチン)、幹細胞増殖因子(SCF)、血管内皮リパーゼ(EL) を制御・コントロールする米胚芽発酵液から抽出されたガンマ-アミノ酪酸およびイノシトール6リン酸(またはイノシトール6リン酸並びにその他のイノシトール)を主成分として含有する天然素材由来の産物(米胚芽発酵エキス末)とその方法を提供するものである。以下、その背景についてさらに詳しく説明する。
【0009】
1.顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の産生を促進する産物
生体の防御力(免疫力)を高める生体応答修飾物質および生体応答調節剤療法(biological response modifiers: BRMs)が、各種疾患、特に癌・アレルギー・感染症の予防や治療に応用されるようになってきた。この中で遺伝子工学的手法により製造されたリコンビナントサイトカインが各種疾病の予防・治療を目指し、その応用が世界の病院や研究機関で精力的に行われている。その一方で、生産コストが高い遺伝子工学的手法に頼らない天然素材やその抽出物を利用し、体内にある種のサイトカインを誘導・促進し、宿主の免疫能を増強することで各種疾病を改善するための新規の素材探索や開発も精力的に行われるようになってきた。
【0010】
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は、骨髄中の前駆細胞から好中球の産出促進およびその機能を高める作用がある。G-CSF は主にマクロファージが分泌するタンパク質で、顆粒球前駆細胞の受容体へ結合し、顆粒球の分裂(増殖)と分化(成熟)を誘導する。G-CSFは分子量が約19-Kda(キロダルトン)、174個のアミノ酸からなる糖蛋白質である。現在、遺伝子工学的手法を用いたヒトリコンビナントG-CSF製剤は、好中球減少症の治療に実際臨床の現場で用いられている。
【0011】
造血器腫瘍の治療では、化学療法(抗がん剤など)の副作用を抑えるための補助療法として、サイトカインが製剤として用いられる。わが国で使用可能なものは、G-CSF、 M-CSF(マクロファージコロニー刺激因子)、EPO(エリスロポエチン)、 インターロイキン2、インターフェロンα・β・γである。G-CSFの導入は、化学療法後の好中球減少が改善され、感染症の制御、大量抗癌剤の使用を可能にした。また、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、先天性好中球減少症など、汎血球減少を主体とした疾患の治療にも広く応用できるようになった。現在、臨床応用されているG-CSFは、「グラン」(一般名フィルグラスチム)である。
【0012】
一方、G-CSFは臓器移植後、好中球の増殖過程において補助的な作用も有す。さらに、エイズ・骨髄異形成症候群・再生不良性貧血による好中球減少症、先天性・特発性好中球減少症の治療にも応用されている。最近ではG-CSFを用いて骨髄から造血幹細胞を末梢血中に誘導する方法が確立され、有効性と安全性も確認されていることから、G-CSFの臨床応用が末梢血幹細胞移植においても大いに期待されている。
【0013】
G-CSFの免疫抑制作用に関しても明らかになってきた。移植後の急性・慢性拒絶反応である移植片対宿主病(graft versus host disease :GVHD)の発症を抑制する知見である。G-CSF処置で抗炎症性サイトカインであるインターロイキン-10の産生亢進、さらにはTリンパ球の活性化が抑制されると言う作用メカニズムである。G-CSFは、生体免疫系の調整として重要な役割を演じている。将来的には関節リウマチ・全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患(膠原病)の予防・治療にも応用可能であることを示すものである。
【0014】
近年、G-CSFが造血幹細胞に限らず心筋・肝臓・消化管粘膜の構成細胞に分化/成熟を誘導することが明らかになってきた。このことは、G-CSFが細胞や組織の再生にも密接に関与していることを示すものである。今後、G-CSFの組織修復促進作用が心血管疾患(特に、虚血性疾患)の治療に応用されると期待されている。一方、ES 細胞やiPS 細胞からの心筋細胞への分化増殖促進物質として、G-CSFが同定された。すなわち、G-CSFをES 細胞やiPS 細胞に作用させることで、心筋細胞を効率よく増殖させることが可能となった。さらに、血管内皮前駆細胞(EPC)は、閉塞性動脈硬化症(ASO)やバージャー病(BD)に対する血管再生治療として有益である。G-CSFにより骨髄から末梢血へ動員したCD34陽性EPCは効果的な治療素材である。G-CSFは重要なEPCの誘導因子であることも判明していると共に、近年では末梢血幹細胞移植時の骨髄刺激因子として臨床応用されている。G-CSFは再生医療のリソースとして、さらには再生治療としてその臨床応用が期待されている。
【0015】
2.ヒト末梢血単核球からの可溶性CD62P(sCD62P)の産生を抑制する産物
P-セレクチン(CD62P)は、トロンビン、ヒスタミン、インターロイキン-8(IL-8)、血小板活性因子(platelet activating factor: PAF)、ロイコトリエンC4、補体、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor: TNF)-α、酸化low-density lipoprotein (LDL)の刺激で、内皮細胞では数分で発現する共に、30分以内に細胞質内還入により消失する分子である。したがって、CD62Pの発現動態は,血管障害(特に、内皮細胞)、血栓疾患に深く関与する。よって、循環血液中の可溶性 CD62P (sCD62P)の動態は、血管内皮細胞の障害や炎症程度を効果的に把握できるバイオマーカーである。
【0016】
3.ヒト血管内皮前駆細胞からの幹細胞増殖因子(SCF)の産生を促進する産物
幹細胞増殖因子(SCF )は、レセプター型チロシンキナーゼで、初期造血において重要な役割を果たしている。正常造血と同様のサイトカインによる刺激や抑制を受けており、サイトカインに対する反応機構は正常の造血細胞に類似している。SCFは248残基のアミノ酸から成る膜結合型のglycoprotein で、構造はmacrophage colony‐stimulating factor (M-CSF) に類似している。構成的造血の初期に必須なサイトカインで、骨髄間質細胞表面に膜結合型として存在する。SCF はその受容体であるc-kit レセプターに結合し、オートクリン的な作用を発揮している。最近、SCFが造血機能の初期段階で働く造血細胞成長因子、すなわち、骨髄前駆細胞、赤芽前駆細胞、リンパ前駆細胞の増殖因子であると共に、血管内皮細胞の修復に関与する血管内皮前駆細胞の誘導・増殖・成熟にも密接に関与することが判明した。血管内皮細胞の改善等にも重要な役割を果たしている。
【0017】
4.ヒト血管内皮前駆細胞からの血管内皮リパーゼ(EL)産生を抑制する産物
血管内皮リパーゼ(EL)は、善玉コレステロール分解酵素で、高比重リポ蛋白(high density lipoprotein; HDL)粒子内のリン脂質に基質特異性が高いホスホリパーゼ分子である。すなわち、HDL代謝を促進するHDLの分解代謝酵素である。ELは血管内皮細胞、血管平滑筋細胞に発現しているが、動脈硬化血管では動脈硬化巣のマクロファージ、新生血管細胞にも強く発現し、脂質代謝や動脈硬化の進展へ関与している。ELは血清コレステロール値の規定因子であるため、循環血液中のELの動態は血管内皮細胞障害を把握するための有力なバイオマーカーである。
【0018】
以上のような背景の下、本願発明は、米胚芽発酵液から抽出されたガンマ-アミノ酪酸およびイノシトール6リン酸(またはイノシトール6リン酸並びにその他のイノシトール)を主成分として含有する天然素材由来の産物(米胚芽発酵エキス末)を用いて、血管内皮細胞機能改善を提供しようとするものである。また、本願発明は米胚芽発酵液から抽出されたガンマ-アミノ酪酸およびイノシトール6リン酸(またはイノシトール6リン酸並びにその他のイノシトール)を主成分として含有する天然素材由来の産物(米胚芽発酵エキス末)に由来するものであることから、安全でかつ継続的に摂取可能であるため、日常的に血管内皮細胞の機能改善、血管系イベントによる各種疾患の予防、さらには治療に寄与するものである。現在までに、天然素材で血管内皮細胞の機能改善に寄与する産物は存在しないため、今後各産業界での応用が大いに期待される次世代の機能的産物、さらには血管内皮細胞機能改善の方法論である。特に、医薬品・医薬部外品・飲食品・嗜好品・飼料および化粧品に応用される産物と方法である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明は、米胚芽発酵液から抽出されたガンマ-アミノ酪酸およびイノシトール6リン酸(またはイノシトール6リン酸並びにその他のイノシトール)を主成分として含有する天然素材(米胚芽発酵エキス末)を用いることで血管内皮細胞および血管内皮前駆細胞調節因子である、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、可溶性CD62P(P-セレクチン)、幹細胞増殖因子(SCF)、血管内皮リパーゼ(EL) を制御・コントロールすることである。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば、米胚芽発酵液から抽出されたガンマ-アミノ酪酸およびイノシトール6リン酸(またはイノシトール6リン酸並びにその他のイノシトール)(米胚芽発酵エキス末)を主成分として含有する天然素材を用いることで、血管内皮細胞機能の改善、さらには血管内皮細胞の健康(血管力)を誘導・促進させることができる。すなわち、本天然素材によって顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、可溶性CD62P(P-セレクチン)、幹細胞増殖因子(SCF)、血管内皮リパーゼ(EL) を制御・コントロールすることで各種疾患の予防および治療に寄与する医薬品・医薬部外品・飲食品・嗜好品・飼料および化粧品に応用される産物および方法を提供できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本願発明に係る米胚芽発酵液の製造方法(一例)を示す説明図。
図2】実施例1の実験結果を示す表(表3)。
図3】実施例1の実験結果を示す写真(写真A及びB)。
図4】実施例2の実験結果を示す表(表4)。
図5】実施例2の実験結果を示す表(表5及び6)。
図6】実施例2の実験結果を示す写真(写真A乃至D)。
図7】実施例3の実験結果を示す表(表7)。
図8】実施例4の実験結果を示す表(表8)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本願発明に係る米胚芽発酵液の製造方法(一例)を示す説明図である。
図1に示すように、玄米(F01)を精米処理(F02)することによって得られた米糠(F03:糯米、粳米のどちらでも良い)を選別(F04)し、これにグルタミン酸又はグルタミン酸塩と、アルコールを加え、液状に分散したものに、乳酸菌をスターターとして加え(F05)、適度な酸素を与えられるように攪拌を行い、25℃~45℃にて12~240時間程度反応および発酵を同時進行で進め(F06)、グルタミン酸をGABAに転換させながら、胚芽や糠の由来成分(有用成分)を溶出させる。この時、乳酸菌の活性化のために糖やビタミン,ミネラル等を加えてやると良い。
【0023】
反応終了後、活性炭を混合し、脱臭・脱色処理を行った後、200メッシュ~400メッシュのスクリーンで0.5~2.0kg/minの処理速度で固形物を除去する搾汁処理(F07)を行う。これに再度活性炭を加えて、脱色・除臭処理を施し、70~95℃に品温を維持しながら孔径0.1~1.0μのセラミック膜にて流量20~60L/minの処理速度で濾過処理(F08)をし、濾液すなわち原液(F09)を得て、終点(米胚芽発酵液)とする。なお、これを濃縮、粉末化して任意の濃度に調整してもよい。
【0024】
そして、このするような方法で製造された米胚芽発酵液から本願発明(顆粒球コロニー刺激因子産出誘導・促進産物)の主成分であるガンマ-アミノ酪酸およびイノシトール6リン酸(またはイノシトール6リン酸並びにその他のイノシトール)を得る(抽出する)ことができる。
【0025】
次に、本願発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0026】
1.ヒト末梢血単核球からの可溶性接着分子(sCD62P)の産生を抑制する産物
実施例1(米胚芽発酵エキス末(発酵液)のヒト末梢血単核球から産生されるsCD62Pを抑制)
健常成人(4名)の末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cells; PBMC)(Bioscience社から購入)を10%牛胎児血清(fetal calf serum: FCS)加RPMI-1640(GIBCO社)培地に浮遊し、細胞数が2x105個/穴になるように96穴マイクロプレートに播いた。次に、米胚芽発酵液(1:100)を添加し、37℃で1日間培養した。培養後、培養上清中の可溶性CD62P(sCD62P)分子の濃度を酵素抗体法(EIA法)で調べた。その結果、図2(表3)に示すように、米胚芽発酵液添加群は、無添加群に比べてsCD62P産生の抑制が認められた。米胚芽発酵液添加後の末梢血単核球の形態は図3(写真A及びB)に示す。
【実施例2】
【0027】
2.ヒト血管内皮前駆細胞からのG-CSFの産生を促進する産物
実施例2(米胚芽発酵エキス末(発酵液)のヒト血管内皮前駆細胞からの顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の産生促進作用)
ヒト血管内皮前駆細胞(血管内皮幹細胞)(Z7030001) はBioChain (BCH)社から購入した。血管内皮前駆細胞用の増殖培地(Z7030003)(BCH社)にて培養プロトコールに従って培養した。フラスコでフルシートになった細胞をトリプシン-EDTAで処理し細胞をフラスコから剥がし、増殖培地に浮遊した。次に、細胞数が2x104個/穴になるように96穴マイクロプレートに播いた。次に、米胚芽発酵液(各種希釈倍数)を添加し、37℃で1日間培養した。培養後、培養上清中のG-CSFの濃度を酵素抗体法(EIA法)で調べた。その結果、図4(表4)に示すように、米胚芽発酵液添加群は、無添加群に比べてG-CSFの産生促進作用が濃度依存的に認められた。また、産生促進作用は培養6時間から始まり、培養9時間ではさらに大量のG-CSFの産生増強が認められた(図5(表5と6))。さらに、本発明の重要な点は、protein kinase C (PKC)活性化剤であるphorbol myristate acetate (PMA)と比較しても米胚芽発酵液による顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の産生促進作用は著明な点である。一方、アクチンフィラメントの脱重合剤であるサイトカラシンEではG-CSFの産生には変化を与えなかった。米胚芽発酵液添加後の血管内皮前駆細胞の形態を図6に示す。
【実施例3】
【0028】
3.ヒト血管内皮前駆細胞からの幹細胞増殖因子(SCF)の産生を促進する産物
実施例3(米胚芽発酵エキス末(発酵液)のヒト血管内皮前駆細胞(血管内皮幹細胞)からの幹細胞刺激因子(SCF)の産生促進作用)
ヒト血管内皮前駆細胞 (Z7030001) はBioChain (BCH)社から購入した。血管内皮前駆細胞用の増殖培地(Z7030003)(BCH社)にて培養プロトコールに従って培養した。フラスコでフルシートになった細胞をトリプシン-EDTAで処理し細胞をフラスコから剥がし、増殖培地に浮遊した。次に、細胞数が2x104個/穴になるように96穴マイクロプレートに播いた。次に、米胚芽発酵液(1:100)を添加し、37℃で1日間培養した。培養後、培養上清中の(SCF)の濃度を酵素抗体法(EIA法)で調べた。その結果、図7(表7)に示すように、米胚芽発酵液添加群は、無添加群に比べてSCFの産生促進作用が認められた。一方、PKC活性化剤であるPMAと比較しても米胚芽発酵液によるSCFの産生促進作用は著明であった。
【実施例4】
【0029】
4.ヒト血管内皮前駆細胞からの血管内皮リパーゼ(EL)の産生を抑制する産物
実施例4(米胚芽発酵エキス末(発酵液)のヒト血管内皮前駆細胞から産生される血管内皮リパーゼ(EL)の産生抑制作用)
ヒト血管内皮前駆細胞 (Z7030001) はBCH社から購入した。血管内皮前駆細胞用の増殖培地(Z7030003)(BCH社)にて培養プロトコールに従って培養した。フラスコでフルシートになった細胞をトリプシン-EDTAで処理し細胞をフラスコから剥がし、増殖培地に浮遊した。次に、細胞数が2x104個/穴になるように96穴マイクロプレートに播いた。次に、米胚芽発酵液(1:100)を添加し、37℃で1日間培養した。培養後、培養上清中の血管内皮リパーゼ(EL)の濃度を酵素抗体法(EIA法)で調べた。その結果、図8(表8)に示すように、米胚芽発酵液添加群は、無添加群に比べてEL産生の抑制が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願発明は、米胚芽発酵液から抽出されたガンマ-アミノ酪酸およびイノシトール6リン酸(またはイノシトール6リン酸並びにその他のイノシトール)を主成分として含有する天然素材由来産物(米胚芽発酵エキス末)を用いることで血管内皮細胞機能を改善することである。すなわち血管内皮細胞の健康(血管力)を誘導・促進させる調節因子である顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、可溶性CD62P(P-セレクチン)、幹細胞増殖因子(stem cell factor: SCF)、血管内皮リパーゼ(endothelial lipase: EL) を制御・コントロールすることで各種疾患の予防および治療に寄与する医薬品・医薬部外品・飲食品・嗜好品・飼料および化粧品への応用が可能となり、各産業界で本産物の利用が大いに期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8