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特許7051322分極されるが不活性であるPZT抑制層を有する多層PZTマイクロアクチュエータ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】分極されるが不活性であるPZT抑制層を有する多層PZTマイクロアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/047 20060101AFI20220404BHJP
   G11B 21/10 20060101ALI20220404BHJP
   G11B 21/21 20060101ALI20220404BHJP
   H01L 41/04 20060101ALI20220404BHJP
   H01L 41/083 20060101ALI20220404BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20220404BHJP
   H01L 41/257 20130101ALI20220404BHJP
【FI】
H01L41/047
G11B21/10 N
G11B21/21 D
H01L41/04
H01L41/083
H01L41/09
H01L41/257
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017149136
(22)【出願日】2017-08-01
(65)【公開番号】P2018050033
(43)【公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-07-28
(31)【優先権主張番号】15/227,780
(32)【優先日】2016-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517151084
【氏名又は名称】マグネコンプ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】MAGNECOMPCORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】クエン チー イー
(72)【発明者】
【氏名】ダビッド グライス
(72)【発明者】
【氏名】ロン ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ハーン
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-065760(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060132(WO,A1)
【文献】特開平06-232469(JP,A)
【文献】国際公開第2006/073018(WO,A1)
【文献】特開2017-017241(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0056366(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0084034(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/00-41/47
G11B 21/21
G11B 21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層圧電マイクロアクチュエータ組立体であって、
それぞれが分極圧電材料を含む第1圧電層及び第2圧電層と、第1電極と、第2電極とを含み、
前記第1圧電層は前記第2圧電層よりも前記マイクロアクチュエータ組立体が接合された表面に近く、前記第1電極は前記第1圧電層の底部側に配置され、前記第2電極は、前記第1電極及び前記第2電極に与えられた第1電圧差が前記第1圧電層にわたる電界を誘起するように、前記第1圧電層の上部側で、且つ前記第2圧電層の下に配置され、
前記第1電極が第1電圧に作動的に接続され、前記第2電極が前記第1電圧とは異なる第2電圧に作動的に接続されることで、前記第1圧電層に与えられる第1電圧差を規定し、前記第1電圧差は前記第1圧電層を膨張又は収縮させる前記第1圧電層にわたる第1電界を誘起し、
電圧差は実質的に前記第2圧電層には与えられず、
前記第2圧電層は実質的に不活性の圧電層であり、前記第1圧電層の膨張又は収縮に抵抗するために抑制層として作用し、
前記マイクロアクチュエータ組立体の全体的な膨張又は収縮は、前記第2圧電層が存在しない場合よりも、前記第1圧電層に与えられる前記第1電圧差に応じて大きくなり、
前記第1圧電層と前記第2圧電層とは、前記第1圧電層と前記第2圧電層とにわたり印加された等しい強度の電界に対して、前記第2圧電層が、前記第1圧電層の同時の膨張又は収縮の10%内に膨張又は収縮するように分極されたものである、多層圧電マイクロアクチュエータ組立体。
【請求項2】
多層圧電マイクロアクチュエータ組立体であって、
それぞれが分極圧電材料を含む第1圧電層及び第2圧電層と、第1電極と、第2電極とを含み、
前記第1圧電層は前記第2圧電層よりも前記マイクロアクチュエータ組立体が接合された表面に近く、前記第1電極は前記第1圧電層の底部側に配置され、前記第2電極は、前記第1電極及び前記第2電極に与えられた第1電圧差が前記第1圧電層にわたる電界を誘起するように、前記第1圧電層の上部側で、且つ前記第2圧電層の下に配置され、
前記第1電極が第1電圧に作動的に接続され、前記第2電極が前記第1電圧とは異なる第2電圧に作動的に接続されることで、前記第1圧電層に与えられる第1電圧差を規定し、前記第1電圧差は前記第1圧電層を膨張又は収縮させる前記第1圧電層にわたる第1電界を誘起し、
電圧差は実質的に前記第2圧電層には与えられず、
前記第2圧電層は実質的に不活性の圧電層であり、前記第1圧電層の膨張又は収縮に抵抗するために抑制層として作用し、
前記マイクロアクチュエータ組立体の全体的な膨張又は収縮は、前記第2圧電層が存在しない場合よりも、前記第1圧電層に与えられる前記第1電圧差に応じて大きくなり、
前記第1圧電層と前記第2圧電層とは、前記第1圧電層と前記第2圧電層とにわたり印加された等しい強度の電界に対して、前記第2圧電層が、前記第1圧電層の同時の膨張又は収縮の25%内に膨張又は収縮するように分極されたものである、多層圧電マイクロアクチュエータ組立体。
【請求項3】
前記第2圧電層が前記第2電極と第3電極との間に配置されるように前記第2圧電層上に延び、且つ浮遊電極である、第3電極をさらに含む、請求項1又は2に記載のマイクロアクチュエータ組立体。
【請求項4】
前記第1圧電層と前記第2圧電層とは等しい厚みを有し、等しい強度の電界を用いて分極されたものである、請求項1又は2に記載のマイクロアクチュエータ組立体。
【請求項5】
前記第1圧電層と前記第2圧電層とは、10%未満異なる厚みを有し、10%未満異なるそれぞれの電界強度を用いて分極されたものである、請求項1又は2に記載のマイクロアクチュエータ組立体。
【請求項6】
前記第1圧電層と前記第2圧電層とは、25%未満異なる厚みを有し、25%未満異なるそれぞれの電界強度を用いて分極されたものである、請求項1又は2に記載のマイクロアクチュエータ組立体。
【請求項7】
前記第1圧電層と前記第2圧電層とは、異なる厚みを有し、前記第1圧電層と前記第2圧電層とにそれぞれ与えられた異なる電圧差を用いて分極されたものである、請求項1又は2に記載のマイクロアクチュエータ組立体。
【請求項8】
前記第2圧電層は、前記第1圧電層にわたり与えられた前記第1電界の10%未満である、前記第2圧電層にわたり与えられた第2電界を有する、請求項1又は2に記載のマイクロアクチュエータ組立体。
【請求項9】
前記第2圧電層は、前記第1圧電層にわたり与えられた前記第1電界の25%未満である、前記第2圧電層にわたり与えられた第2電界を有する、請求項1又は2に記載のマイクロアクチュエータ組立体。
【請求項10】
前記第1圧電層と前記第2圧電層とは、前記第1圧電層と前記第2圧電層との両方にわたり印加された単一の電界を用いて同時に分極されたものである、請求項1又は2に記載のマイクロアクチュエータ組立体。
【請求項11】
前記第1圧電層と前記第2圧電層との間に配置され、分極された活性の圧電層である第3圧電層をさらに含む、請求項1又は2に記載のマイクロアクチュエータ組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
この出願は、2016年2月28日に出願された米国特許出願第15/055,618号の一部継続出願であり、米国特許出願第15/055,618号は、2015年3月28日に出願され、現在では米国特許第9,330,698号である米国特許出願第14/672,122号の継続出願であり、米国特許出願第14/672,122号は、2014年3月14に出願され、現在では米国特許第9,117,468号である米国特許出願第14/214,525号の一部継続出願であり、米国特許出願第14/214,525号は、2013年3月18日に出願された米国仮特許出願第61/802,972号、及び2013年9月14日に出願された米国仮特許出願第61/877,957号に基づく優先権を主張するものである。米国特許出願第14/672,122号はまた、2014年12月10に出願され、現在では米国特許第9,330,694号である米国特許出願第14/566,666号の一部継続出願でもあり、米国特許出願第14/566,666号は、2014年10月17日に出願された米国仮特許出願第62/061,074に基づく優先権を主張するものである。米国特許出願第14/672,122号はまた、2014年11月28日に出願された米国仮特許出願第62/085,471号に基づく優先権をも主張する。これらの出願すべては、言及によって、本明細書に全体が記載されているように組み込まれる。
【0002】
[技術分野]
本発明は、ハードディスクドライブのサスペンションの分野に関する。特に、本発明は、2段アクチュエータ方式サスペンションに用いるための、1つ以上の活性圧電抑制層を有する多層圧電マイクロアクチュエータの分野に関する。
【背景技術】
【0003】
磁気ハードディスクドライブや、光学ディスクドライブなどの他のタイプの回転媒体ドライブは、周知のものである。図1は、本発明を適用可能な、例示の先行技術ハードディスクドライブ及びサスペンションの斜視図である。先行技術のディスクドライブユニット100は、ディスクドライブ保管データを構成する磁気による1と0のパターンを包含する回転磁気ディスク101を含む。磁気ディスクは駆動モータ(図示せず)によって駆動される。ディスクドライブユニット100はディスクドライブサスペンション105をさらに含み、該サスペンション105には磁気へッドスライダー(図示せず)がロードビーム107の遠位端部近傍で実装される。サスペンション又はロードビームの「近位」端部は支持される端部である、即ち、アクチュエータアームにかしめ固定された又は実装されたベースプレート12に最も近傍の端部である。サスペンション又はロードビームの「遠位」端部は、近位端部の反対の端部である、即ち「遠位」端部はカンチレバーの端部である。
【0004】
サスペンション105はアクチュエータアーム103に連結され、該アクチュエータアーム103は、データディスク101の適切なデータトラック上にヘッドスライダーを配置するためにサスペンション105を円弧状に動作させるボイスコイルモーター112に連結される。ヘッドスライダーはジンバルに保持され、該ジンバルはスライダーの前後左右への揺れを可能にしてスライダーが回転ディスク上の適切なデータトラックを追従し、ディスクの震動、バンピングなどの慣性イベント、及びディクス表面の不規則性などの変化が許容される。
【0005】
1段アクチュエータ方式ディスクドライブサスペンション及び2段アクチュエータ方式(dual stage actuated、DSA)サスペンションがともに周知である。1段アクチュエータ方式サスペンションにおいて、ボイスコイルモーター112のみがサスペンション105を動作させる。
【0006】
DSAサスペンションにおいて、例えばMei等による特許文献1、及び他の多数のもののように、サスペンション全体を動作させるボイスコイルモーター112に加えて、少なくとも1つの追加マイクロアクチュエータが、磁気ヘッドスライダの微細な動作をもたらし、回転ディスクのデータトラック上に適切にアライメントさせるために、サスペンションに配置される。マイクロアクチュエータは、サスペンション、つまり磁気ヘッドスライダーを比較的大きく動作させるのみであるボイスコイルモーター単独よりも、サーボ制御ループの微細な制御やさらに高いバンド幅を提供する。単にPZTとして言及されることがある圧電素子がマイクロアクチュエータモーターとして用いられることが多いが、他のタイプのマクロアクチュエータモーターも使用可能である。
【0007】
図2は、図1における先行技術のサスペンション105の上面図である。2つのPZTマイクロアクチュエータ14は、PZTがベースプレート12の各間隙をつなぐようにベースプレート12内に形成されたマイクロアクチュエータ実装シェルフ18上のサスペンション105に取り付けられる。マイクロアクチュエータ14は、その各端部でエポキシ16によって実装シェルフ18に取り付けられる。種々の技術により、PZTからサスペンションの可撓性ワイヤトレース及び/又はプレートに、正や負の電気接続が行われることが可能である。マイクロアクチュエータ14は、作動されるとき、拡張又は収縮して実装シェルフ間の間隙の長さを変え、サスペンション105の遠位端部に実装された読み取り・書き込みヘッドの微細動作を行う。
【0008】
図3は、図2の先行技術のPZTマイクロアクチュエータ及び実装部の側部断面図である。マイクロアクチュエータ14は、PZT素子20自体、及び、PZTを作動するための電極を規定するPZT上の上部金属化層26及び底部金属化層28を含む。PZT14は、図に示されるように、その左右両側においてエポキシ又ははんだ16によって間隙にわたって実装される。
【0009】
DSAサスペンションにおいて、入力電圧ユニット毎にPZTからの長いストローク距離を得ること、又は端的に言えば単に「ストローク長さ」を得ることは、概して望ましい。
【0010】
過去の数多くのDSAサスペンション設計では、実装プレートにPZTを実装している。そうした設計において、PZTの線形動作は、PZTの回転中心と読み取り・書き込みトランスデューサーヘッドとの間のアームの長さによって増大される。ゆえに、PZTの小さい線形動作が、読み取り・書き込みヘッドの比較的長い半径方向動作をもたらす。
【0011】
他のサスペンション設計では、ジンバルにおいて、又はジンバル近傍でPZTが実装される。ジンバル実装PZTの例は、本発明の譲受人に譲渡された特許文献2に示されるDSAサスペンションである。ジンバル実装DSAサスペンション(「GSA」サスペンション)において、長いストローク長さを得ることは特に重要であり、これは、これらの設計がPZTと読み取り・書き込みトランスデューサーヘッドとの間のアーム長さほど長くないためである。より短いアーム長さでは、得られる読み取り・書き込みヘッドの動作は相応に小さい。つまり、長いストローク長さを得ることはGSA設計において特に重要なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第7,459,835号明細書
【文献】米国特許第8,879,210号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願の発明者等は、先行技術における実装PZTマイクロアクチュエータを有するサスペンションにおけるPZTストローク長さが短い原因を特定し、ストローク長さが短い原因を排除するPZTマイクロアクチュエータ構造体及びその製造方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
図4Aは、PZTを膨張するように印加された駆動電圧によってPZTが作動されるときの、図2の先行技術におけるサスペンションに実装されたPZTマイクロアクチュエータ14の側部断面図である。PZTの底部層22は、それが実装されたサスペンション18に接合されることで部分的に抑制されるので、上部層24ほど直線方向に膨張しない。上部層24は底部層22よりも膨張するので、PZT14は下向きに湾曲し、上部から見たときにわずかに凸状の形状を取る。直線ストローク長さの結果的な損失は、δ1として図に示される。
【0015】
図4Bは、PZTを収縮するように印加された駆動電圧によってPZTが作動されるときの、図4AのPZTマイクロアクチュエータ14を示す。PZTの底部層22は、それが実装されたサスペンション18に接合されることで部分的に抑制されるので、上部層24ほど直線方向に収縮しない。上部層24は底部層22よりも収縮するので、PZT14は上向きに湾曲し、上部から見たときにわずかに凹状の形状を取る。直線ストローク長さの結果的な損失は、δ2として図に示される。
【0016】
このように、作動の際にPZTが単に直線的に膨張及び収縮することが望まれるが、従来の実装では、PZTには、ストローク長さの損失をもたらす上又は下方向の湾曲が起こる。
【0017】
図5は、PZTの湾曲により加えられる又は失われる有効な直線ストロークの量の模式図及び関連式である。図4Bに示されるように、ビームが湾曲して持ち上がるとき、湾曲角度が小さいと底部先端にはx方向に正の変位δがある。
【0018】
図6は、3つの異なる厚みのPZTの湾曲角度に対する湾曲によるストローク損失のプロットである。図に示されるように、1.50mmの長さ及び45μmの厚みを持つPZTでは、湾曲角度が5度未満であるとき湾曲はx方向の正の変位δをもたらす。この湾曲量について、より厚いビームが、より薄いビームよりも大きいx方向の変位をもたらすことが見て取れる。同様に、PZTが印加電圧下で膨張するとき、PZTの右半分が下方向に湾曲し、サスペンションに接合されたPZTの底部先端には、x方向に負の変位が起こる。換言すると、従来の、サスペンションのPZT実装において、湾曲による直線変位の成分δはPZTの作動と反対の方向である。ゆえに、このδを低減又は除去する、又はこのδの符号をも逆転して、総直線膨張量又は収縮量が実際に増加するという最終結果になることが望まれる。
【0019】
本発明は、作動されるときにPZTの湾曲を低減する、排除する、その方向を変更する、又は湾曲を制御するために、PZTがサスペンションに実装された側又は面と反対の側又は面に少なくとも1つ接合された1つ以上の硬質抑制層又は抑制素子を有するPZT素子に関する。直観に反する結果としては、PZTが、少なくとも表向きにはPZTの膨張及び収縮を抑制する追加の硬質層を有するが、得られる有効な直線ストローク距離は実際に増加するというものである。本発明の抑制層を有するPZTは、ハードディスクドライブサスペンションのマイクロアクチュエータをして用いられることができるが、他のアプリケーションにも用いられることが可能である。
【0020】
好ましい実施形態において、抑制層の効果は、湾曲方向を実際に変更することである。このように、底部面でサスペンションに接合されたPZTでは、抑制層の存在による効果として、圧電素子は、圧電素子を膨張させる電圧によって作動されるときに、上部面を表向き凹形状にさせる方向に湾曲し、圧電素子を収縮させる電圧によって作動されるときに、上部面を表向き凸形状にさせる方向に湾曲する。ゆえに、この効果は、膨張モードにおいて有効な直線膨張を実際に増大させ、収縮モードにおいて有効な直線収縮を増大させるものである。つまり抑制層の存在により、有効なストローク長さが実際に増加する。
【0021】
抑制層を有するPZTは、抑制層を現存のPZT素子に積層することを含む様々な技術によって製造可能であり、或いはアディティブ法によってPZT素子及び抑制層の一方が他方の上部に形成されることができる。そうしたアディティブ法は、ステンレス鋼(SST)などの基板に薄膜PZTを成膜することを含むとよい。抑制層は、ステンレス鋼、シリコン、実質的に不分極(不活性)なセラミック材料、若しくはPZT素子を構成するものと同じセラミック材料などのセラミックス、又は他の比較的硬質の材料であるとよい。抑制層が非導電性である場合、マイクロアクチュエータの表面からPZT素子内部に活性化電圧又は接地電位を与えるために、導電性材料のカラムを含む1つ以上の電気ビアが抑制層に形成されることができる。
【0022】
抑制層は、PZT素子よりも大きい(より大きい表面領域)、PZT素子と同じサイズ、又はPZT素子よりも小さい(より小さい表面領域)とよい。好ましい実施形態において、抑制層はPZT素子よりも小さく、抑制層によって被覆されない階段のシェルフを伴う階段状構造をマイクロアクチュエータに与え、またシェルフはPZTに電気接続を行うところである。電気接続が行われるシェルフを含むこうした構成の一有利性は、電気接続を含む組立体全体が、抑制層がPZT全体を覆う場合よりも、低いプロファイルを有することである。より低いプロファイルは有利なものであり、これは、所定のプラッタ積層高さ内にさらなるハードディスクプラッターやそのサスペンションがともに積層されて、ディスクドライブ組立体の所定の容積内でデータ保管容量を増加させることができるということ意味するためである。
【0023】
シミュレーションでは、本発明に従って構成されたマイクロアクチュエータが、ストローク感度の増加を示すこと、またスウェイモードゲイン及びねじりモードゲインを減少させることが示された。これらは、データシーク時間の減少及び振動に対する感受性の低減の両方に変換される、ヘッド位置決め制御ループバンド幅の増大に有利である。
【0024】
本発明においてPZTに抑制層又は素子を追加することのさらなる有利性は、現在のハードディスクドライブにおいて、PZTを含むサスペンション及びその部品が通常非常に薄肉であることにある。PZTが実装プレートに実装される現在のDSAサスペンション設計において用いられるマイクロアクチュエータは、約150μm厚である。ジンバル実装DSAサスペンション設計においてPZTはさらに薄肉であり、100μm厚未満であることもある。ゆえに、PZT材料は非常に薄肉で脆性であり、PZTマイクロアクチュエータモーター自体の製造工程、及びサスペンション組み立て工程における自動ピックアンドプレース操作をともに含む製造・組み立て時に、容易く亀裂が起こり得る。次世代ハードドライブのPZTは、75μm厚以下になることが予期され、これは問題を大きくするものである。こうした薄肉のPZTは、製造・組み立て時に損傷を受け易いだけでなく、ディスクドライブが衝撃、つまりG力を受けたときに亀裂又は破壊が起こりやすいものにもなり得ると考えられる。本発明における追加の硬質、弾性抑制層は、PZTにさらなる強度と弾性とを与え、製造・組み立て時及び衝撃イベント時のPZTにおける亀裂又は機械的故障の防止に役立つものである。
【0025】
本発明の他の態様において、マイクロアクチュエータ組立体は、主要な活性PZT層の作用を打ち消す傾向のある抑制層として作用する1つ以上の活性PZT層を含む複数の活性PZT層を伴う、多層PZTデバイスである。
【0026】
主要PZT層の動作に抗う1つ以上の層を追加することで、全体的な最終ストローク長さが増加可能であるという発想は直観に反するものである。主要PZT層と反対の方向に能動的に作用する1つ以上の活性層を追加することで、全体的な最終ストローク長さがさらに増加可能であるという考えはさらに直観に反する。しかしながら、これは本発明者らが実証した結果である。
【0027】
さらなる実施形態において、本発明は、分極されるが不活性である圧電材料を抑制層が含む多層PZTマイクロアクチュエータ組立体に関する。圧電材料の分極によりその寸法が変わるため、多層デバイスのうちの1層のみを分極することで、デバイスに亀裂、ゆえに故障をさらに起こりやすくさせ得る歪みをデバイスに導入する、ということを発明者等は発見した。従って、サスペンション組立体又は組立体が接合される他の周囲物の表面に最も近接する主要又は活性PZT層だけでなく、組立体が接合された周囲物から離れた不活性層も分極することで、デバイスの信頼性は増大する。
【0028】
本発明の例示の実施形態は、図面に関して以下にさらに記載され、図面において同様の数字は同様の部品に関連する。描画される形体は正確な縮尺ではなく、所定の部品は、一般化又は概略化形態で示され、明確性及び簡潔性のため商業上の表示によって特定される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、先行技術の磁気ハードディスクドライブの上面斜視図である。
図2図2は、図1のディスクドライブサスペンションの上面図である。
図3図3は、図2の先行技術のPZTマイクロアクチュエータ及び実装部の側面断面図である。
図4図4において、図4Aは、PZTを膨張させるために電圧がPZTに印加されたときの、図2の先行技術のサスペンションに実装されたPZTマイクロアクチュエータの側面断面図であり、図4Bは、PZTを収縮させるために電圧がPZTに印加されたときの、図2の先行技術のサスペンションに実装されたPZTマイクロアクチュエータの側面断面図である。
図5図5は、PZTの湾曲により加えられる又は失われる直線ストロークの量についての模式図及び関連式である。
図6図6は、3つの異なる厚みのPZTについて湾曲角度に対する湾曲によるストローク損失のプロットである。
図7図7は、本発明における、PZTに接合された抑制層を有するPZTの側面断面図である。
図8図8において、図8Aは、PZTを膨張させるために電圧がPZTに印加されたときの、図7のPZTマイクロアクチュエータの側面断面図であり、図8Bは、PZTを収縮させるために電圧がPZTに印加されたときの、図7のPZTマイクロアクチュエータの側面断面図である。
図9図9は、130μm厚であるPZTについて、抑制層厚に対する、nm/Vの単位の単位入力電圧毎ストローク長さを示すグラフである。
図10図10は、本発明における、PZTに接合された抑制層を有するPZTの側面立面図である。
図11図11は、図10のPZTについてPZT厚に対するストローク長さのグラフであり、PZTと抑制層とを合わせた厚みは130μmで一定に保たれる。
図12図12は、種々の厚みのステンレス鋼抑制層を備えたPZTを有するサスペンションについて、抑制層厚に対するGDAストローク感度のグラフである。
図13A-C】図13において、図13A図13Cは、本発明の抑制層を有するPZTを作製可能な一製造工程を示す。
図13D-H】図13において、図13D図13Hは、本発明の抑制層を有するPZTを作製可能な一製造工程を示す。
図14図14において、図14A図14Bは、本発明における薄膜PZTマイクロアクチュエータモーターとともに組み立てられたGSAサスペンションの斜視図である。
図15図15は、切断線B-B’に沿った図14Bのマイクロアクチュエータ領域の断面図である。
図16図16は、シミュレーションにおける、図15のマイクロアクチュエータのSST基板厚に対するストローク感度のグラフを示す。
図17図17において、図17A図17Fは、本発明におけるステンレス鋼基板を有する薄膜PZT構造を製造する工程を示す。
図18図18は、本発明におけるシリコン基板を有する薄膜PZT構造の上面図である。
図19図19は、切断線A-A’に沿った図18の薄膜PZT構造の側面断面図である。
図20図20は、シミュレーションにおける、図19のマイクロアクチュエータについてのシリコン基板厚に対するストローク感度のグラフである。
図21図21において、図21A図21Eは、図18の薄膜PZT構造を製造する工程を示す。
図22図22は、本発明の実施形態において、基板を有し、且つ側部ビアを有する薄膜PZTの上面図である。
図23図23は、切断線A-A’に沿った図22のマイクロアクチュエータの断面図である。
図24図24は、本発明のさらなる実施形態におけるPZTマイクロアクチュエータの断面図である。
図25図25は、ペアの図24のPZTマイクロアクチュエータを有するGSAサスペンションの斜視図である。
図26図26は、切断線A-A’に沿った図25のGSAサスペンションの断面図である。
図27図27は、シミュレーションにおける図25のサスペンションのPZT周波数応答関数のグラフである。
図28A-E】図28において、図28A図28Eは、図24のPZTマクロアクチュエータ組立体を製造する例示的工程を示す。
図28F-J】図28において、図28F図28Jは、図24のPZTマクロアクチュエータ組立体を製造する例示的工程を示す。
図29図29は、PZTが多層PZTである、本発明のさらなる実施形態における多層PZTマイクロアクチュエータ組立体の側面断面図である。
図30図30は、特に厚い電極が抑制層として作用する、本発明のさらなる実施形態における多層PZTマイクロアクチュエータ組立体の側面断面図である。
図31図31は、マイクロアクチュエータ組立体の抑制層が、主要活性PZT層の反対方向に作用する傾向のある1つ以上の活性PZT層を含む実施形態の断面図である。
図32図32は、図31のマイクロアクチュエータ組立体の分極を示し、活性PZT材料の種々の層の結果的な分極方向を含む。
図33図33は、図31のマイクロアクチュエータ組立体の分解図であり、概念的に電気接続を示す。
図34図34は、種々の構成について、シミュレーションにおける1つ以上の活性抑制層を有するマイクロアクチュエータのストローク感度(nm/V)を示すグラフである。
図35図35は、マイクロアクチュエータ組立体が複数の活性PZT層を含む他の実施形態の断面図であり、分極工程と結果的な分極方向とを概念的に示す。
図36図36は、PZTが、一般的な分極化がなされた多層PZTであり、且つ上部層が底部層よりも厚い、さらなる実施形態における多層PZTマクロアクチュエータ組立体の側面断面図である。
図37図37は、図36のPZTマイクロアクチュエータ組立体の側面断面図であり、サスペンション内に取り付けられた組立体を示す。
図38図38は、PZTが3つの個別の極を有する多層PZTであり、PZTが逆分極された、またさらなる実施形態における多層PZTマクロアクチュエータ組立体の側面断面図である。
図39図39は、図38のPZTマイクロアクチュエータ組立体の側面断面図であり、サスペンション内に取り付けられた組立体を示す。
図40図40は、シミュレーションにおいて、上部PZT層の厚みの関数として、標準的な単層PZTのストローク感度と比較した、図37及び図39のPZTマイクロアクチュエータ組立体のストローク感度を示すグラフである。
図41図41は、図36のPZTマイクロアクチュエータ組立体の側面断面図であり、代替的組み立て方法によってサスペンション内に取り付けられた組立体を示す。
図42図42は、分極されるが不活性の抑制層を有するさらなる実施形態におけるPZTマイクロアクチュエータの側面断面図である。
図43図43は、図42のPZTマイクロアクチュエータ組立体の側面断面図であり、サスペンション内に取り付けられた組立体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図7は、本発明の実施形態における、接合された抑制層130を有するPZTマイクロアクチュエータ組立体114の側面断面図である。図に示される配置によると、サスペンションに接合されたPZTの側部は、PZT114の底部側129として言及され、PZTがサスペンションに接合された側から離れたPZTの側部は、上部側127として言及される。本発明において、1つ以上の抑制層又は抑制素子130が、マイクロアクチュエータPZT素子120の上部側127に接合される。抑制層130は、ステンレス鋼などの硬質且つ弾性のある材料を好ましくは含み、上部電極126を含むPZT素子120の上部面127に直接的に好ましくは接合される、或いは、SST材料がそれ自体で上部電極として機能して、上部面を個別に金属化する必要がなくなる。抑制層130は十分に硬質であり、作動されるときにPZTの湾曲を著しく低減、排除、又はさらに反対にもする。SST層130は、SSTへの良好な電気接続を実現するために、金又は他のコンタクトメタルの層131を好ましくは有する。
【0031】
代替的に、抑制層130がステンレス鋼である代わりにセラミックスであってもよく、これは圧電層120を形成するものと同じセラミック材料の不活性(極が無い、或いは、不分極な)層などであり得、接合又は成膜によって組立体に一体化されてもよい。セラミック材料は不分極であり、これは、圧電層120をなす分極セラミックと同程度の圧電挙動の10%未満などの、実質的に小さい圧電挙動を示すという意味である。下から電極・分極PZT・電極・不分極PZTからなる積層物をなすそうした組立体は、電極・PZT・電極・SSTの積層物よりも製造しやすいものである。
【0032】
以下の記載において、記載を簡潔にするため、上下の電極126、128は、図面及び記載から省略されることがあるものの、PZTマイクロアクチュエータは少なくとも一部のタイプの上下電極をほぼ常に有するということが理解される。
【0033】
Schreiber等による米国特許第8,395,866号明細書に記載されるように、SSTに対する金の密着性を増大させるために金層131が付加される前に、SST層130に銅又はニッケル層が成膜されるとよい。該米国特許は、本願の譲受人が所有し、他の金属をステンレス鋼に電着するという教示について、言及によって本明細書に組み込まれる。同様に、電極126、128はニッケル及び/又はクロム、並びに金(NiCr/Au)の組合せを含むとよい。
【0034】
124-167(図5)シミュレーションによる一例示実施形態において、種々の層の厚みは、
130 PZT 3μm
126、128、131 NiCr/Au 0.5μm
であった。
【0035】
薄膜PZTは1.20mmの長さを有し、PZT接合は両端で0.15mmの幅を有し、圧電係数d31は250pm/Vであった。一部の実施形態において、SST層は、適切な支持を行うために少なくとも12マイクロメートル厚であるとよい。
【0036】
上述の例において、DSAサスペンションは、シミュレーションによると、26.1nm/Vのストローク感度を示した。一方、同じ幾何学形状の45μm厚バルクPZT(d31=320pm/V)は、単に7.2nm/Vのストローク感度を通常示す。
【0037】
SST層のPZT層に対する厚さ比は、1:1、又はさらに1.25:1、又はさらに高いものであり得る。抑制層のPZTに対する厚さ比が約1:25に達すると、抑制層によるストローク感度の向上は負になり始め、PZT抑制層の厚みの限界が示唆される。
【0038】
図8Aは、PZTを膨張させるために電圧がPZTに印加されたときの、図7のPZTマイクロアクチュエータ114の側面断面図である。PZTストロークは2つのベクトルからなり、一方は純粋な伸長ストロークδeであり、他方は、抑制層がない場合のような下向きの湾曲ではなく、PZTの右先端を上向きに湾曲させる抑制層による伸長寄与δ1である。総ストローク長さはδe+δ1である。膨張モードでは、ゆえに、PZTは上部から見たときにわずかに凹状の形状をとる、つまり、PZT上部面はわずかに凹状の形状をとり、これは図4の先行技術PZTの湾曲とは反対の湾曲方向である。従って、本発明のこの湾曲は、有効ストローク長さを減少させるものではなくむしろ有効ストローク長さを増加させるものである。
【0039】
図8Bは、PZT114を収縮させるために電圧がPZTに印加されたときの、図7のPZTマイクロアクチュエータの側面断面図である。PZTストロークは2つのベクトルからなり、一方は純粋な収縮ストローク-|δc|であり、他方は、抑制層がない場合のような上向きの湾曲ではなく、PZTの右先端を下向きに湾曲させる抑制層による収縮寄与δ2である。総ストローク長さは-[δc+δ2]である。収縮モードでは、ゆえに、PZTは上部から見たときにわずかに凸状の形状をとる、つまり、PZT上部面はわずかに凸状の形状をとり、これは図4の先行技術PZTの湾曲とは反対の湾曲方向である。従って、本発明のこの湾曲は、有効ストローク長さを減少させるものではなくむしろ有効ストローク長さを増加させるものである。
【0040】
PZTマイクロアクチュエータ114に抑制層130を追加することは、他の非抑制及び非接合PZT114については、ストローク長さにおいて認識される影響はない。しかし、図4に示されるように、PZTがその底端部でサスペンション18に接合されるとき、抑制層の効果は実際にストローク長さをわずかに増加させる。ステンレス鋼は、約190~210GPaのヤング率を有する。好ましくは、抑制層用材料は、50GPaより大きい、より好ましくは100GPaより大きい、さらにより好ましくは150GPaより大きいヤング率を有する。
【0041】
図9は、シミュレーションにおいて、130μm厚であり、接合されたステンレス鋼の抑制層130を有するPZT114について、抑制層厚に対する、nm/Vの単位の単位入力電圧毎ストローク長さを示すグラフである。20μm、40μm、及び60μm厚のSST抑制層をPZT上部面に追加することで、それぞれ総ストローク長さが増加される。つまり、抑制層を追加することで総ストローク長さが実際に増加された。
【0042】
PZTと抑制層とを合わせた総厚みを一定に保ち、抑制層の最適な厚みを決定することも可能である。図10は、本発明において、PZTと、PZTに接合された抑制層とを合わせたものの側面立面図であり、総厚みが130μmで一定に保たれる。図11は、図10のPZTについてPZT厚に対するストローク長さのグラフであり、PZTと抑制層とを合わせた厚みは、シミュレーションにおいて130μmで一定に保たれる。抑制層がないと、130μmPZTは約14.5nm/Vのストローク長さを有する。65μmの抑制層130厚と65μmのPZT厚では、PZTは約20nm/Vのストローク長さを有する。ゆえに、抑制層を追加することで、有効ストローク長さが実際に約35%増加した。
【0043】
図12は、シミュレーションにおいて、45μm厚のPZT素子と、種々の厚みの上部ステンレス鋼抑制層との、図7のマイクロアクチュエータを有するGDAサスペンションについて、抑制層厚に対するGDAストローク感度のグラフである。グラフに見受けられるように、30μm厚の抑制層は、GDAストローク感度を9nm/Vから14.5μmをわずかに超えるところに増加させ、これは50%を超えるストローク長さの増加を表す。
【0044】
図13A図13Hは、本発明の抑制層を有するPZTマイクロアクチュエータ組立体を作製可能な一製造工程を示す。この方法は、PZT材料が抑制層となる基板に成膜されるアディティブ法の一例である。工程は、図13Aに示されるような第1基板140から開始される。図13Bにおいて、基板に第1UV・サーマルテープ142が付加される。図13Cにおいて、テープに予備成形SST層130が付加される。図13Dにおいて、スパッタリング又は他の周知の成膜プロセスによってなどで、SSTに電極層126が成膜される。図13Eにおいて、ゾルゲル法又は他の周知の方法によって、電極層上にPZT層120が形成される。図13Fにおいて、スパッタリングによってなどで、PZTの露出側に第2電極128が成膜される。図13Gにおいて、SST層130はテープから分離されて、作製物を第2テープ143及び第2基板141上にひっくり返す。そして、図13Hにおいて、個々のマイクロアクチュエータ114を個別化するために、機械的な鋸切断又はレーザー切断によってなどで、作成物を立方体に切断する。この工程において、電極を含むPZT素子120がSST抑制層130に直接的に接合され、それらの間で抑制層の抑制効果を低下させるポリイミドなどの有機材料などのいずれの他の材料も有さない、マイクロアクチュエータ114が製造される。電極層は、Au、Ni、Cr、及び/又はCuなどの材料製であるとよい。Auは約79GPAのヤング率を有し、Cuは約117GPaのヤング率を有し、Niは約200のヤング率を有し、Crは約278のヤング率を有する。好ましくは、SST抑制層130と、20GPa未満であるヤング率を有する、又は実質的に抑制層のヤング率に満たないヤング率、若しくは抑制層のヤング率の半分に満たないヤング率を有するPZT素子120との間に、中間層はない。
【0045】
エポキシなどの接着剤によって抑制層をPZT面に直接的に接合することによってなどで作製物を製造するために、他の方法が用いられ得るが、図13A図13Hに示される方法が現在のところ好ましい方法と考えられる。
【0046】
SST抑制層130は、アディティブ製造工程時及び最終作製物の両方でPZT層120のための基板として作用する。抑制層130はゆえに基板として言及されることがある。
【0047】
図14A及び図14Bは、本発明における薄膜PZTマイクロアクチュエータモーター114とともに組み立てられたジンバル実装2段アクチュエータ(GSA)サスペンション150の斜視図である。GSAサスペンションにおいて、PZTは、ジンバル組立体を含むトレースジンバルに実装され、読み取り・書き込みヘッドスライダー164を保持するサスペンションのジンバル領域に直接的に作用する。図14Aは、PZTマイクロアクチュエータ組立体114が取り付けられる前のサスペンション150を示す。2つのマイクロアクチュエータ114のそれぞれが、マイクロアクチュエータ114の遠位端部が接合される舌部154と、マイクロアクチュエータ114の近接端部が接合されるトレースジンバルの部分156と、に接合され、それらの間の間隙170をつなぐ。図14Bは、PZTマイクロアクチュエータ114が取り付けられた後のサスペンション150を示す。マイクロアクチュエータ組立体114が活性化されると、膨張又は収縮し、舌部154とトレースジンバルの部分156との間の間隙170の長さを変え、読み取り・書き込みトランスデューサーを保持するヘッドスライダー164の微細な配置動作をもたらす。
【0048】
図15は、切断線B-B’に沿った図14Bの断面図である。GSAサスペンション150は、ステンレス鋼層、ポリイミドなどの絶縁体157、及びAu、又はNi・Auの組合せなどの保護金属159によって被覆されたCuなどの信号伝導トレースの層158を含むトレースジンバル152を含む。マイクロアクチュエータ114は、その遠位端部において、導電性にするためにAg粒子含有エポキシなどの導電接着剤162によって、ジンバル領域から延びるステンレス鋼舌部154に取り付けられ、その近位端部において、非導電エポキシなどの非導電接着剤161によって、ステンレス鋼の実装領域156に取り付けられる。駆動電圧電気接続は、金めっき銅コンタクトパッド158からPZTマイクロアクチュエータ114の上部面に、特にこの場合マイクロアクチュエータの上部電極を構成するSST層130に延びる導電接着剤160のスポットによってなされる。
【0049】
SST基板厚は、開示の薄膜PZT構造の有利性を損なうことなくある程度変わり得る。図16は、シミュレーションにおける、図15のマイクロアクチュエータについてSST抑制層厚に対するストローク感度のグラフである。40μm厚のSST抑制層を有する薄膜PZTは、シミュレーションにおいて20nm/Vのストローク感度を示し、これは前述の45μm厚バルクPZTのストローク感度のほぼ3倍である。しかしながら、45μm厚SST抑制層は、薄膜PZTマイクロアクチュエータをより良好に保護する。
【0050】
図17A図17Fは、本発明におけるSST抑制層を有する薄膜PZT構造を製造する代替的工程を示す。図17Aにおいて、工程は、図13Bに示されるような基板140やテープ142の代わりにシリコン基板144から開始される。図17Bにおいて、シリコンにSST層(130)が接合される。そして、工程は、図13C図13Hの工程と実質的に同じように進行し、組立体をひっくり返すこと、図17Eにおけるシリコン基板の除去を含む。さらに、これらの図面は、図13Eには明確に示されない最終NiCr/Au層131の付加を明確に示す。
【0051】
上述のように、異なるタイプの抑制層は種々のアプリケーションに用いられるとよい。導電又は非導電性の他の硬質の材料が抑制層又は抑制基板としても使用され得る。例えば、シリコンは、抑制層材料として用いられ得る。図18は、本発明の実施形態におけるシリコン抑制層を有する薄膜PZT構造の上面図である。図19は、切断線A-A’に沿った図18のマイクロアクチュエータの断面図である。シリコン抑制層230が非導電性であるので、シリコン230上のAuなどの導電上部層234から、PZT素子120上の金属化電極126にPZT駆動電圧を伝導するために、ビア232が提供される。Schreiber等による米国特許第7,781,679号明細書に開示されるように、ビアが形成され、導電金属で充填されるとよく、該特許は本発明の譲受人が所有し、導電ビア及び導電ビア形成方法の教示について、言及によって本明細書に組み込まれる。
【0052】
図20は、シミュレーションにおける、図19のマイクロアクチュエータについてのシリコン基板厚に対するストローク感度のグラフである。グラフに示されるように、3μm厚の薄膜PZTと20μm厚のシリコン基板とは、31.5nm/Vのストローク感度を示す。これは、45μm厚バルクPZTの設計のストローク感度の4倍を超えるものである。シリコン基板はまた、薄膜PZTの信頼性を向上するために利用される。
【0053】
図21A図21Eは、図18の薄膜PZT構造を製造する工程を示す。図21A及び図21Bにおいて、工程はシリコン基板から開始され、該シリコン基板はレーザー穴あけによってなどでシリコン基板に形成された孔又はビア232を有する。図21Cにおいて、上部電極126を形成するために、シリコン基板230にNiCr/Au層が付加される。また、NiCr/Auで孔を充填して、電気ビア232が作製される。より一般的には、ビアを充填するために他の導電材料が用いられるとよい。図21Dにおいて、PZT薄膜120はゾルゲル法によってなどで成膜され、底部電極128を形成するために、NiCr/Auの他の層が付加される。図21Eにおいて、材料がひっくり返され、最終NiCr/Au層131が付加される。層131及び層126がビア232によって電気的に接続されるので、導電金層131に印加される電圧(又は接地電位)がPZT素子126に伝達される。シリコン基板を有する薄膜PZTマイクロアクチュエータのためのこの製造工程は、SST基板を有する薄膜PZTのための製造工程ほど複雑ではない。
【0054】
代替的な実施形態において、シリコン基板の中間ビアは、シリコン端部の1つ以上のビアによって置き換えされ得る。ゆえに、最終的な立方体への切断後、シリコンの各端部に半円が形成される。図22は、金属化層などの導電上部層231を備えたシリコン又は他の非導電抑制層330を有し、上部層231を上部電極126に電気的に接続する側部ビア234、236を有する、薄膜PZTマイクロアクチュエータの上面図である。図23は、切断線A-A’に沿った図22のPZTの断面図である。この実施形態の製造工程は、他の点では図21A図21Eのものと同一であり得る。
【0055】
抑制層は、PZT素子より大きく(より大きい表面領域)てもよく、PZT素子と同じサイズであってもよく、又はPZT素子よりも小さく(より小さい表面領域)てもよい。図24は、PZTマイクロアクチュエータ組立体414の側面断面図であり、該組立体において、抑制層430がPZT素子420よりも小さく、階段部434、及び抑制層430によって被覆されない露出シェルフ422を有する階段様構造をマイクロアクチュエータに与え、シェルフ422は電気的接続がPZT素子420になされるところにある。電気接続が行われる階段部を含むそうした構成の一有利性は、電気接続部を含む組立体全体が、抑制層430がPZT420全体を覆う場合よりも、低いプロファイルを有することである。より低いプロファイルは有利であり、これは、さらなるハードディスクプラッター及びそのサスペンションが所定のプラッタ積層高さ内にともに積層されて、ディスクドライブ組立体の所定の容積内でデータ保管容量を増加させることができるということ意味するためである。シェルフ422上の電気接続を得るために、抑制層430がPZT素子420の上部表面の50%を超えるが、95%未満を被覆すると考えられる。
【0056】
シミュレーションでは、本発明に従って構成されたマイクロアクチュエータがストローク感度の増加を示すこと、またスウェイモードゲイン及びねじりモードゲインを減少させることが示された。これらは、データシーク時間の減少及び振動に対する感受性の低減の両方に変換される、ヘッド位置決め制御ループバンド幅の増大に有利である。
【0057】
図25は、ペアの図24のPZTマイクロアクチュエータを有するGSAサスペンションの斜視図である。
【0058】
図26は、切断線A-A’に沿った図25のGSAサスペンションの断面図である。この実施形態において、導電エポキシなどの導電接着剤460は、抑制層430上には延びず、むしろ、導電エポキシ460は、PZT素子420の上部のシェルフ422上に延び、表面を介してPZT420及びマクロアクチュエータ組立体414全体への電気接続を行う。図に示されるように、導電エポキシ460によって規定される電気接続部は、SST抑制層430の上部面より低い最上部を有する。より一般的には、電気接続が導電接着剤、超音波熱接合によってなどで接合されるワイヤ、はんだ、又は他の技術でなされるかどうかにかかわらず、マイクロアクチュエータ組立体414への電気接続部461は、マイクロアクチュエータ414の最上部未満又はそれより低くなるように作製され得る。このため、電気接続部を含むマイクロアクチュエータ組立体414を可能な限り薄くすることができる。これは、ディスクドライブ組立体のプラッター積層物内におけるデータ保管ディスクプラッターのより高い密度の積層を可能にする。
【0059】
図は、マイクロアクチュエータ414が実装されたトレースジンバルのステンレス鋼部154上の金層469をも明確に示す。金層469は耐食性を与え、SSTへの導電性を向上させる。
【0060】
すべての他の実施形態のようにこの実施形態において、抑制層及びより一般にはPZTマイクロアクチュエータ組立体の上部表面には、通常、電気接続部以外に接合されるものはない。
【0061】
図27は、シミュレーションにおける図26のサスペンションのPZT周波数応答関数の周波数応答のグラフである。サスペンションは、抑制層430を持たないシミュレーションと比較して、スウェイモードゲイン及びねじりモードゲインの減少を示した。これらは、データシーク時間の減少及び振動に対する感受性の低減の両方に変換される、ヘッド位置決め制御ループバンド幅の増大に有利である。
【0062】
図28A図28Jは、図24の薄膜PZT組立体114を製造する工程を示す。図28Aにおいて、バルクPZTウエハ420は移行テープ422上に配置される。図28Bにおいて、スパッタリング及び/又は電着によってなどで、上部電極層426が形成される。図28Cにおいて、上部電極426の部分上にマスク436が配置される。図28Dにおいて、導電エポキシ432が付加される。図28Eにおいて、抑制層430となるステンレス鋼層がエポキシに付加され、該エポキシが硬化される。図28Fにおいて、マスク436が取り除かれる。図28Gにおいて、組立体はひっくり返されて、第2移行テープ443上に配置される。図28Hにおいて、スパッタリング及び/又は電着によってなどで、底部電極層428が形成される。そして、PZT素子420は分極される。図28Iにおいて、組立体は、第3移行テープ444へともう一度ひっくり返される。図28Jにおいて、組立体は、切断により個別化されて、最終的なPZTマイクロアクチュエータ組立体414を製造する。
【0063】
図29は、本発明のさらなる実施形態における多層PZT組立体514の側面断面図である。組立体は、多層PZT素子520、デバイスを取り囲む第1電極526、第2電極528、及びエポキシ532によってPZT素子520に接合された抑制層530を含む。図は2層PZTデバイスを示す。より一般には、デバイスはn層PZTデバイスであり得る。
【0064】
図30は、特に厚い電極が抑制層として作用する、本発明のさらなる実施形態における多層PZTマイクロアクチュエータ組立体614の側面断面図である。この実施形態おいて、PZT素子620は、上部電極626及び底部電極628を有する。上部電極626は、シェルフを規定するより薄い第1部分622、及び抑制機能の大部分を担うより厚い第2部分630を含む。階段部634は、より薄い第1部分622からより厚い第2部分630への移行部にある。階段部634を作製するためのマスキングを含む成膜プロセスによって、又は階段部を作製するために材料を選択的に除去する成膜プロセスによって、第2電極626はPZT素子620に付加されるとよい。代替的に、第2電極626は、個別に形成されてPZT素子620に接合されるSSTなどの導電材料片であるとよい。ゆえに上部電極626は、底部電極628と同じ材料のものである、又は異なる材料のものであるとよい。より厚い第2部分630は、より薄い部分622及び/若しくは第2電極628よりも少なくとも50%厚いとよく、又はより厚い第2部分630は、より薄い部分622及び/若しくは第2電極628の少なくとも2倍の厚さであるとよい。図24図26の実施形態のように、電気接続部が、より薄い部分622によって規定されたシェルフに設けられ、電気接続部は、抑制層を規定するより厚い部分630の上部面ほどの高さに延びない、又はそれ未満であるとよい。
【0065】
本発明の範囲は、提示される実施形態そのものに限定されない。本明細書における教示を得た後に、当業者には変形が明白であろう。例として、抑制層はステンレス鋼である必要はなく、他の比較的硬質且つ弾性のある材料であってもよい。抑制層は、一材料の単層である必要はなく、種々の材料の種々の層からなっていてもよい。抑制層は、表面全体又は実質的に上面全体を被覆してもよいが、例えば、上面領域の90%を超える、上面領域の75%を超える、上面領域の50%を超える、又はさらに上面領域の25%を超える、表面全体より小さい面を被覆してもよい。階段形体を有する実施形態において、抑制層は、マイクロアクチュエータの上面の95%未満を被覆すると考えられる。抑制層は単一の一体層である必要はなく、PZT上面に並んで配置された複数の抑制ストリップなどの複数の片を含み得、該ストリップは膨張・収縮方向又は垂直方向に延びるものであってよい。一実施形態において、抑制層は、PZTの上面に接合されたステンレス鋼又は他の材料の2つの抑制片を含み得、2つの抑制片のサイズ及び配置、並びにその接合は、通常、PZTがその底面で接合される2つの実装シェルフの実装領域に似たものである。デバイス上部の抑制層によって加えられる全体の硬質性が、サスペンションに接合されることによりデバイスの底部に加えられる全体の硬質性と通常合致し、且つ、接合領域が概して対称関係にあるとき、得られる最終的な湾曲はゼロ又はゼロに近いものである。結果として、PZTマイクロアクチュエータは、サスペンションに実装且つ配置されると、アクチュエーションの際に実質的に湾曲がないものとなる。
【0066】
本明細書に記載される、又は本明細書に提示される実施形態の任意のもの又はすべてにおいて、抑制層は、他の場合ではアクチュエーション時に起こり得るPZT湾曲を低減するように選択される、又はいずれのPZT湾曲も可能な限り排除するように選択される、又はPZT湾曲の符号を逆転するために選択されるとよい。PZTがハードディスクドライブマイクロアクチュエータとして用いられるアプリケーションにおいて、上述の例示の実施例に提示且つ記載されるように湾曲の符号を逆転するために抑制層を使用することは多くの場合望ましいと見られ、これは有効ストローク長さを増加させるためである。しかし、他のPZTアプリケーションにおいては、符号を逆転することは望ましくないものであり得る。こうして、本発明は、PZTが任意の特定のアプリケーションにおいて他の部品にどのように実装又は取り付けられても、PZT湾曲の方向及び量の両方を制御するために概して用いられ得る。選択されるアプリケーションやパラメータに応じて、抑制層は、PZT湾曲をその起こり得るものの50%未満に、若しくはその起こり得るものの25%未満に低減するために、又は、湾曲の符号を逆転するために用いられることができる。符号が逆転されるとき、底面の端部で又は端部近傍で接合され、且つ上部に抑制層を有するPZTは、膨張又は伸長モードにあるとき、その上面が凹形状をとり、抑制層を有しない同様のPZTがとるような凸形状をとらないように、湾曲する。同様に、PZTは、収縮モードにあるときに凸形状をとり、抑制層を有しない同様のPZTがとるような凹形状をとらない。
【0067】
様々な理由により、PZT素子はアプリケーションにおいて、PZTがいずれの電圧でも作動されていないときにいずれかの方向に既に湾曲される、つまり既に凹状又は凸状であるというように、予備荷重を与えられることがある。そうした予備荷重PZTは、当然のように本発明のマイクロアクチュエータとして使用可能である。そのような場合に、PZTは、正味若しくは明白な凹形状、又は正味若しくは明白な凸形状に湾曲しないことがある。例として、PZTが予備荷重を与えられて、既に凹形状を有している場合、正の活性化電圧による活性化の際に、デバイスはより凹状である形状に湾曲され、負の活性化電圧による活性化の際に、デバイスは、表向きには平坦な形状であり得る、あまり凹状ではない形状に湾曲される、又は凸形状になり得る。そして特に定義されない限り、「凹状」及び「凸状」という用語は、絶対的というよりも相対的な意味で理解される必要がある。
【0068】
図31は、多層マイクロアクチュエータPZT組立体3100の実施形態の断面図であり、該マイクロアクチュエータ組立体の抑制層が、マイクロアクチュエータ3100が接合されるサスペンション面近傍の主要活性PZT層3120の反対方向に作用する傾向のある1つ以上の活性PZT層3130、3140を含む。PZT抑制層3130、3140は、主要PZT層3120の動作を抑制し、能動的に対抗するので、「抑制層」又は「対抗層」として言及され得る。
【0069】
PZT層3120、3130、及び3140は、互いに積層された平面の関係性で配置される。主要PZT層3120は、分極時に電界が加えられて分極され、且つデバイス作動時に電界が加えられて膨張又は収縮する活性PZT領域3121を含み、分極又は作動のいずれの時にも顕著な電界が加えられず、ゆえに圧電的に顕著に活性ではない不活性PZT領域3122及び3123をもを含む。デバイスは、第1又は底部電極3124、活性PZT領域用の第2又は上部電極3126、第3電極3132が第1活性抑制層3130と第2活性抑制層3140との間に延び、PZTの端部を取り囲むように端部3128を含む第3電極3132、及び、デバイスの側部及び底部の両方を取り囲む包囲部分3143を含む、第2活性抑制層3140の上部の第4電極3142、を包含する。マイクロアクチュエータ駆動電圧を与える駆動電圧電気コンタクトパッド158に、電極3142を機械的及び電気的に接合する導電エポキシ3160などの導電接着剤を用いて、またサスペンションの接地部分154に、デバイスの電極3124及び3128を機械的及び電気的に接合する導電エポキシ3162を用いて、デバイスがサスペンションと接合されるとよい。
【0070】
デバイスの作動を理解するために、デバイスがどのように分極されるかを理解する必要がある。図32は、図31のデバイスの分極を示し、活性PZT材料の種々の層の結果的な分極方向を含む。以下の3つの電圧が印加される。正の電圧(Vp+)は電極3124に印加され、負の電圧(Vp-)は電極3128に印加され、そして接地が電極3142におこなわれる。図の矢印は、活性PZT層3120、3130、及び3140の結果的な分極方向を示す。
【0071】
図31に戻ると、該図は、この例示実施形態においてデバイス3100がどのように接続されるかを示すものである。導電エポキシ3162は、電極3124と3132とを架け渡し、電気的にグループにし、実質的に分極時に3極デバイスであったものを作動時に2極デバイスに変える。電極のグループ化は、導電エポキシ3162以外の電気接続を行う他の周知手段によって行われるとよいが、デバイスをサスペンション組立体に接合するために用いられるものと同じ導電エポキシ3162を用いることで、個別のグループ化ステップの必要なくグループ機能を得る。
【0072】
電圧が電極3142に印加されて、主要PZT層3120を、活性領域3121の膨張のため図において見受けられるようにx方向に(左から右に)膨張させるとき、活性PZT抑制層3130及び3140はx方向に収縮する。つまり、2つの抑制層3130及び3140は反作用する、又は主要PZT層3120とは反対の方向に作用する傾向にある。
【0073】
より詳細に説明すると、デバイスが図32に示されるように分極され、図31に示されるように電気的に接続されるとき、デバイスは以下のように作動する。電気コンタクトパッド158及び電極3142に印加された正のデバイス活性化電圧は、接地された電極3124とともに、以下の反応をもたらす。主要PZT層3120に印加された活性化電圧は分極時の極性の反対である。ゆえに主要PZT層3120はz方向に収縮し、x方向に膨張する。同時に、活性化電圧は、分極時に2つの抑制層3130及び3140に印加されたものと同じ極性である。つまりこれらのPZT層は、z方向に膨張して、x方向に収縮する。ゆえに、2つの抑制層3130及び3140が収縮する傾向にあるとき、主要PZT層3120は関連する方向に膨張する傾向にある。
【0074】
主要PZT層と反対の方向に作用する抑制層の効果は、図10の抑制層130などの受動的な抑制層や、上述の他の実施形態における同様の抑制層230、330、430、530、及び630に関して前述されたものと類似する。活性PZT抑制層の作用は、主要PZT層及びサスペンションへのその実装(接合)により起こる湾曲を低減し、湾曲の符号を逆転することも可能であり、いずれの場合も実装されたマイクロアクチュエータによってもたらされる最終的な変位を増大させる。
【0075】
図33は、図31のマイクロアクチュエータ組立体の分解図であり、概念的に電気接続を示す。図31及び図32では示されないが、図33では示される任意的特性には、電極3132上のパターニング3133、電極3142と連結された電圧抑制器3144が含まれ、以下にその機能が示される。
【0076】
より薄いマイクロアクチュエータ組立体は、(1)DSAサスペンションとして言及されることがあるジンバル型DSAサスペンションの特にジンバルにおいて又はジンバル近傍において、サスペンション上の質量が小さいこと(これはつまり、G力で測定される離昇力がより大きい、つまり衝撃に対するより強い耐性を意味する)、(2)風損の低減、及び(3)へッド積層組立体内のより高い積層密度(同じ容積のディスクドライブ積層組立体空間にさらなるデータを保管することができることを意味する)、を含む、多くの理由から望まれている。ゆえに、PZT抑制層をある程度薄くすることが望ましい。しかしながら、PZT抑制層がより薄いと、作動時にこれらの層にわたって電界強度がより高くなり、電界強度が著しく高いため、作動時に脱分極されやすい。ゆえに、便宜上、主要PZT層及び抑制PZT層は同じ厚みである必要がある。
【0077】
抑制PZT層を脱分極させることなくより薄くするための一解決方法は、主要PZT層にわたる電界を著しく低下させることなく、1つ以上の用いられ得る種々の手段を用いて、抑制層にわたって電界強度を低下させることである。この目的を達成する第1の手段は、電極3132に孔3133を付加する、又は他の電気的間隙を付加することによってなどで、活性PZT抑制層の1つと作動上連結されるが、主要PZT層とは作動上連結されない1つ以上の電極にパターン形成することである。パターン形成は、平行又は交差導体の格子でその間に電気的間隙のあるものなどのメッシュパターンの形態をとってもよい。平面電極3132内の電気導体領域のパーセンテージを低下させることで、抑制層3130及び3140にわたる電界強度は、主要PZT層3120にわたる電界強度を低下することなく、効果的に低下される。
【0078】
第2の解決方法は、抑制層の抗電界強度を増大させて、抑制層が脱分極にさらに抵抗性を持つことである。圧電材料に言及するときの抗電界強度、或いは単に「保磁力」は、圧電材料を脱分極するためにどれほど高い電界強度が必要とされるかの尺度である。抑制層3130、3140が主要PZT層3120よりも高い抗磁力を有することで、主要PZT層と同じ活性化電圧が印加されたときに、脱分極のリスクなくこれらの抑制層をより薄いものにすることが可能である。抑制層3130、3140は、異なる又はわずかに異なる圧電材料を使用することで、又は他の処理によって、場合によってはd31ストローク長さ又は他の所望される特性をいくらか失うことと引き換えに、より高い抗磁力を有するように作製されることができる。
【0079】
他の解決方法は、分圧抵抗網、ダイオード、電圧調整器、又は当業者が想到する種々の機能的に類似するデバイスのいずれか1つ、などの何らかの種類の電圧抑制器を用いることによって、抑制層と連結された駆動電極に印加される有効電圧を下げることである。図において、概略化された電圧抑制器3144は、電極3142が受けた電圧を下げて、主要PZT層3120ではなく抑制層3140が受ける電界強度を低下させる。PZT材料表面に分圧抵抗網を形成するように電極層を形成する金属化を行うことによってなどで、分圧器が一体的に形成され、隣接する圧電層の間に配置されることも可能である。簡易な抵抗分圧器は、同じ層において行われ得る接地を必要とし得る。そうしたデバイスの設計者には明白であるように多くの構成が可能である。
【0080】
パターニング3133と電圧抑制器3144とはともに抑制層3140を横切る電界強度を下げ、作動時には容認できないほどに脱分極を生じることなく、抑制層3140をより薄くすることができる。電極パターニング及び/若しくは電圧抑制器、並びに/又は抑制層3130及び/若しくは3140にわたって電界強度を低下させる一部の他の手段が用いられるとよい。パターニング3133は電極3132と一体的に形成されるので、マイクロアクチュエータ組立体と一体的に形成され、マイクロアクチュエータ組立体内に一体的に組み込まれる。電極のうちの1つのための電圧抑制器は、組立体と一体的に形成されて、組立体内に一体的に組み込まれるか、又は、連結された電極がそれ自体の電気リードを有し、他の電極とグループにされないという条件で、組立体の外部に設けられ得る。
【0081】
上述のこれら3つの解決方法のすべては、単一の活性抑制層、図31図33に示されるような2つの活性抑制層、又はより一般には、図35に示されるようなn個の活性抑制層を有する圧電マイクロアクチュエータに適用され得る。
【0082】
図34は、45μm厚の主要PZT層を備え、電界強度を下げるためのいずれのパターンニング3133又は電圧抑制器3144も有さない、種々の抑制層構成(constraining layer constructions、CLC)についてシミュレーションにおける1つ以上の活性抑制層を有するマイクロアクチュエータのストローク感度(nm/V)を示すグラフであり、以下の3つの異なる構成、
a)1つの不活性抑制層(「受動的なCLC」、ひし形データポイント)
b)1つの活性抑制層(「単層」、四角形データポイント)、及び
c)2つの活性抑制層(「2層」三角形データポイント)
について示される。
【0083】
データでは、少なくとも検証されたパラメータについて、主要PZT層とは反対の方向に作用する1つの活性抑制層を有するPZTマイクロアクチュエータは、抑制層が不活性材料であるものよりも高いストローク感度を常にもたらすということが示される。最高ストローク感度は、抑制層として作用する(即ち主要PZT層とは反対の方向に作用する)複数の活性PZT薄層を用いて得られる。特に、最高ストローク感度は、それぞれ5μ厚である、又は主要PZT層厚の約11%である2つの抑制層を用いて得られた。このように、抑制層は、好ましくは主要PZT層厚の50%未満、又はより好ましくは主要PZT層厚の20%未満、又はさらにより好ましくは主要PZT層厚の5~15%の範囲内である。
【0084】
2つの活性抑制層について、抑制層厚の増大でストローク感度は大きく低下し、それぞれが約5μm厚の2つの活性抑制層の場合に最高ストローク感度を得る。このように、マイクロアクチュエータは、合わせた厚みが主要PZT層厚未満である2つ以上の抑制層を好ましくは有し、より好ましくは、合わせた厚みが主要PZT層厚の50%未満であり、さらにより好ましくは、各抑制層が主要PZT層厚の半分未満であり、さらにより好ましくは、各抑制層が主要PZT層厚の20%未満であり、さらにより好ましくは、各抑制層が主要PZT層厚の5~15%の範囲内である。
【0085】
単一の活性抑制層を有するマイクロアクチュエータ組立体では、抑制層厚が増大するときのストローク感度の損失は、2つの活性抑制層の場合ほど大きくはないものであった。単一活性抑制層では、局所的最大値は約10μm厚のところである。このように、単一活性抑制層を有するマイクロアクチュエータ組立体では、層厚は、好ましくは主要PZT層厚の10~40%の範囲、より好ましくは主要PZT層厚の約10~20%の範囲である。
【0086】
図35は、マイクロアクチュエータ組立体が複数の活性PZT層を含む他の実施形態の断面図であり、分極過程とその結果としての分極方向を概念的に示す。図35のデバイスが、導電エポキシによってグループ化された電極3524及び3528で、図31に示されるようにサスペンションに電気的及び機械的に接合されるとき、結果として、1つの主要活性PZT層、及び主要活性PZT層の反対方向に作用する傾向があることから抑制層として作用する3つの活性PZT層が得られる。すなわち、底部PZT層は膨張するが、上部の3つのPZT層は収縮し、その逆もまた同様である。
【0087】
マイクロアクチュエータ組立体の構成は、図31図33に示されるような1つの活性主要PZT層及び2つの活性PZT抑制層や、図35に示される1つの活性主要PZT層及び3つの活性PZT抑制層を有するデバイスから、任意の数の活性主要層及び活性抑制層に、容易に拡張可能である。1つ以上の抑制層にわたる電界強度は、電極パターニング及び/又は電圧抑制器を含む種々の手段によって低下することができる。実験では、異なるアプリケーションの最適な抑制層数、最適な厚みが示される。
【0088】
ストローク長さを向上させるためのPZTにおける抑制層の効果はまた、図36図39の実施形態のように、上部PZT層が活性電圧に応じて底部層とは異なって作用し、ゆえに抑制層として作用する、多層PZTデバイスを用いても得られる。
【0089】
図36は、さらなる実施形態における多層PZTマクロアクチュエータ組立体714の側面断面図であり、組立体714は複数の圧電層を有する多層PZTデバイスである。デバイスは一般的な分極化がなされ、これは、デバイスへの印加電圧が両方のデバイスを膨張、又は両方を収縮させることを意味する。上部圧電層730は、積層するように底部圧電層720上に取り付けられ、該底部圧電層720は組立体が接合されるサスペンション面に最も近い層である。上部圧電層730は底部圧電層720よりも厚いものである。図は、デバイスの構成と分極時に印加される電圧とを示す。分極方法では、第1電極726に印加される1つの正電圧(Vp+)、電極728になされる接地(GND)が用いられ、分極電界は反対方向に配向され、2つの電極は、上部及び底部電極のそれぞれにおいて、ストリップ、又は金属皮膜の間隙などの非導電領域の間隙によって互いに電気的に分離される。これは、現在のところ、多層PZT分極に用いられる最も一般的な方法である。この多層PZT714は「一般的な分極化がなされた」と言われるものである。
【0090】
図37は、図36のPZTマイクロアクチュエータ組立体714の側面断面図であり、該組立体がどのようにサスペンションに電気的及び機械的に接合されるかの例を示す。図において、電気回路を含むサスペンションは図26のものと同じであるが、この実施形態の接合には、導電エポキシ460及び162のみが用いられ、非導電エポキシは用いられない。作動の際、作動電圧が電極726・728に印加されるとき、圧電層720、730は、印加作動電圧の極性に応じて、ともに長さ方向に膨張する、又はともに長さ方向に収縮する。
【0091】
上部PZT層730は底部PZT層720よりも厚いため、同じ作動電圧が両層に印加されるとき、上部層にはより小さい電界を生じるので、上部層は底部層ほど膨張(又は収縮)しない。ゆえに、2つの圧電層間の膨張の差異のため、上部圧電層は抑制層として作用する。最終的な効果は、上部圧電層が存在しない場合と比較してデバイスの有効ストローク長さが増加するということであり得る。
【0092】
図41は、図36のPZTマイクロアクチュエータの側面断面図であり、ここでは図26に示されるものと同じ接合技術を用いて、サスペンション内に取り付けられた組立体を示す。
【0093】
図38は、またさらなる実施形態における多層PZTマクロアクチュエータ組立体814の側面断面図であり、ここでPZTは多層PZTであり、上部PZT層830は、主要PZT層820として言及される底部PZT層820とは反対の方向に膨張する傾向のある活性層である。組立体814は、3つの個別の電極826・827・828、及び分極時の対応する極を有する。デバイスは逆分極と言われるものである。図は、デバイスの構造と分極時に印加される電圧とを示す。分極方法は、3つの個別の電極826・827・828と、底部電極827に印加されるVp+、上部電極826に印加されるVp-、中間又は共通の電極828に印加されるGNDである3つの異なる電圧とを用いる。
【0094】
作動の際、同じ電圧が上下電極に印加されるが、GNDが共通の中央電極に印加される場合、上部PZT層830又は抑制層は長さ方向に膨張し(又は印加作動電圧の極性応じて長さ方向に収縮し)、一方で底部の主要PZT層820は長さ方向に収縮し(又は長さ方向に膨張し)、逆もまた同様である。すなわち、PZT層820及び830は、反対の方向に作用する、又は作用する傾向があり、上部圧電層の作用は、底部圧電層の作用に少なくとも部分的に反作用する。このPZTはゆえに「逆分極」と言われるものである。
【0095】
図39は、図38のPZTマイクロアクチュエータ組立体814の側面断面図であり、該組立体がどのようにサスペンションに電気的及び機械的に接合されるかの例を示す。右側の導電接着剤162は、非導電ストリップ又は間隙829を架け渡すために付加され、上部電極826と底部電極827とに接地を行う。作動の際、作動電圧が上下電極にわたって印加されるとき、上部PZT層830は膨張し、底部層820は収縮する(逆も又同様である)。このように、上部PZT層は底部PZT層とは反対方向に作用する。上部PZT層は受動的な抑制層としてだけでなく、底部層と反対方向に能動的に押す又は引く活性層としても作用する。
【0096】
図40は、上部PZT層の厚みの関数として、基準デバイスのストローク感度と比較した、図37及び図39のPZTマイクロアクチュエータ組立体のストローク感度を示すグラフであり、グラフのすべての線について底部PZT層は45μm厚である。基準デバイス(破線で示される)は45μm厚の標準的な単層PZTである。この基準デバイスは、9.0nm/Vのストローク感度を示す。データはモデリングシミュレーションによるものである。
【0097】
グラフから分かるように、三角形データポイントによって表されるデータである、逆分極を有する図39の3極構成について、逆分極である上部PZT層830の存在は、基準デバイスと比較してストローク感度を大きく増加させた。例として、上部PZT層が15μm厚である場合、サスペンションストローク感度は24.5nm/Vであり、これは9.0nm/Vの基準に対して172%の増加を表す。このデバイスについて、約10~15μm厚、又は底部PZT層の厚みの約22~33%の薄肉の上部抑制層を有する逆分極構成が、最も高いストローク感度をもたらす。ストローク感度は、上部PZT層の厚みが増大すると、概して低下する。ゆえに、薄肉の逆分極抑制層を有する図39の3極構成が概して最も有効であり、望ましい構成である。上部PZT層は、好ましくは底部PZT層の厚みの5~50%、より好ましくは底部PZT層の厚みの約10~40%、さらにより好ましくは底部PZT層の厚みの約20~35%であると考えられる。
【0098】
さらにグラフから分かるように、四角形データポイントによって表されるデータである、上部層が不活性PZT材料である構成は、2番目に最良のストローク感度をもたらす。分極しないことで、及び/又はマイクロアクチュエータデバイス全体が活性化されるときに上部層に電界を生じないように電極を配置することで、上部層を不活性にすることができる。電極がデバイス714の上部を取り囲まず、ゆえにCLC部分730が活性化されないように電極726を切断することで、それらのいずれか1つが行われ得る。この構成のストローク感度は、作動電圧が上部PZT層730に印加される図36図37の一般的な分極構成(ひし形データポイントによって表される)よりも高いが、図38図39の逆分極構成未満である。ストローク感度は、基準デバイスのものよりも高く開始されるが、約25μm又は主要PZT層の厚みの約55%に厚みを増大させると増加し、約55μmの厚み又は主要PZT層の厚みの約122%までほぼ一定に留まり、その後、抑制層の厚みがさらに増大するとわずかに低下する。このように、不活性抑制層は0より大きい厚みを有するが、好ましくは、25~55μmの範囲、又は活性PZT層の厚みの約55~125%の範囲の厚みを有する。
【0099】
そして、ひし形データポイントによって表されるデータである、上部PZT層が底部PZT層よりも厚い、図37の一般的な分極構成は、全体で最も低い性能の設計であった。この構成について、ストローク感度は、上部PZT層が約37μm厚、又は主要PZT層の厚みの約82%よりも大きい場合にのみ、基準単層PZTのストローク感度を超えて向上した。有効ストローク長さは、上部層の厚みが増大すると増加した。上部PZT厚が65μmであるとき、サスペンションストローク感度は9.0nm/Vの基準よりも29%高い。基準に対するストローク感度のこの29%の増加は、この構成で得られる最良の結果を示すものである。一般的な分極の場合において、厚みは、好ましくは主要PZT層の厚みの少なくとも80%であり、より好ましくは主要PZT層の厚みよりも大きく、さらにより好ましくは主要PZT層の厚みの約125%よりも大きい。
【0100】
抑制層として用いられた上部PZT層を使用する、図36図39に示されるような多層PZTマイクロアクチュエータを用いる設計的アプローチは、抑制層として作用する、それぞれ2、3、4又はそれ以上の活性層を有する、3、4、5又はそれ以上の層を有するPZTに、より一般的に拡張されることが可能である。
【0101】
本出願人が所有し、言及によって本明細書に組み込まれる、Hahn等による米国特許第9,070,394号明細書は、図31~35において、抑制層が圧電材料による不分極の不活性層を含む多層圧電デバイスを公開している。本発明者等は、圧電材料の分極がその寸法に永続的変化をもたらすことから、多層圧電デバイスのすべてではない層を分極することで不均質な寸法変化を導き、ゆえにデバイスに荷重を与えるということを発見した。そうした荷重は亀裂を生じさせ、ゆえにデバイスの早期故障を起こすと考えられる。
【0102】
抑制層が不活性PZT材料の層である多層圧電デバイスにおけるそうした荷重は、抑制層を分極することで低減可能である。そのように、活性PZT層と不活性層とには分極時に同様の永続な寸法変化を生じるので、1つの層のみ分極することで、又は通常はすべてではない層を分極することでもたらされる機械的荷重が除かれる。
【0103】
図42は、分極されるが不活性の抑制層930を有するそうした実施形態におけるPZTマイクロアクチュエータ914の側面断面図であり、デバイスの分極を示す。実施形態において、PZTマイクロアクチュエータ914は、先述の実施形態に関して記載されるように、積層関係で配置され、且つともに一体的に形成されることによってなどでともに取り付けられた2つのPZT層920及び930を含む。底部圧電材料層920は主要又は活性PZT層となり、上部圧電材料層930は分極されるが不活性の抑制層となる。
【0104】
デバイスを分極する第1の方法は、それぞれ上部電極926と底部電極927とにわたって電圧差を与え、中間電極928を浮遊させるものである。例えば、+Vpが上部電極926に印加され、-Vpが底部電極927に印加され、中間電極928が浮遊される。この接地方法では、圧電層920・930にともに印加される均一な電界が得られ、ゆえに両方の圧電層は同時且つ同じ程度に分極される。
【0105】
第2の方法は、図に示されるように、これらの電極にわたり+Vp及び-Vpを印加し、中間電極928を接地させるものである。
【0106】
より一般には、デバイスは、3つ以上の異なる電圧を3つ以上の端子に印加することで分極されるとよい。
【0107】
すべてではないが多くの場合に、等しい分極、即ち等しい電界強度を用いる同時の分極が好ましい。同等ではない厚みの2つのPZT層且つ3つの分極電圧電位である場合、異なるPZT層に同等ではない電圧差を与える必要があり、ゆえにこれら異なるPZT層にわたる同じ電界強度、つまり同程度の分極が生じる。例として、2つのPZT層が同等ではない厚みである場合、+15V、Gnd、及び-10Vの分極電圧は、これら2つの層の等しい電界強度、つまり等しい分極を生じるために必要な電圧となる。
【0108】
図43は、図42のPZTマイクロアクチュエータ組立体の側面断面図であり、サスペンション内に取り付けられた組立体を示す。作動の際、作動電圧が中間電極928に印加され、底部電極927は導電エポキシ162、金接合パッド469、及びサスペンション可撓部のステンレス鋼154を介して接地される。上部電極926はいずれにも電気的に接続されず、ゆえに浮遊状態である。これは、主要PZT層920を膨張又は収縮させる該層にわたる作動電界を生じさせ、上部PZT層930は不活性であり、ゆえに抑制層として作用する。分極されるが不活性の抑制層930の存在は、他の実施形態に関して上述されたように、抑制層930が存在しない場合と比較して、デバイスの有効ストローク長さを増加させるように作用する。
【0109】
例示の実施形態において、デバイス914は全部で3つの電極を有するが、第1及び第2の電極のみが組立体の底部からアクセス可能である。第3電極が駆動電圧とも接地とも接続されない浮遊電極であるため、デバイスの底部又は他の部分からも電気的にアクセス可能にする必要はない。
【0110】
他の実施形態のように、図42及び図43の実施形態は2層に限定されない。むしろより一般には、そうした多層圧電アクチュエータは分極され活性である複数のPZT層、及び分極されるが不活性である複数のPZT層を含むとよい。
【0111】
多くの場合に等しい分極が望まれるが、抑制層は活性圧電層と全く等しく分極される必要はない。2つの層が実質的に等しく分極されることで通常は十分であると考えられる。2層は、互いの10%内、又は互いの25%内に分極されるとよい。同様に、抑制層が完全に不活性であることは厳密に必要なわけではない。それよりも抑制層は、作動時に与えられる電圧差を有し、これは、第1若しくは活性PZT層に印加される活性化電圧若しくは活性化電界の10%未満、又は活性化電圧若しくは電界の25%未満、又は活性化電圧若しくは電界のさらに50%未満である。また発明者等は現在のところ、PZT層が等しい厚みを有することが通常望ましいと考えているが、PZT層が、互いの厚みの10%内又は互いの厚みの25%内であるなどの実質的に等しい厚みを有することで十分であると考えられる。
【0112】
第3電極926は図43に示されるように作動時に浮遊状態であり得るが、分極されるが不活性である抑制層930に電界が存在しない、又は実質的に電界が存在しないことを確実にする代替的方法は、第3電極926を第2電極928に電気的にグループ化することであり、こうして抑制層930に電圧差が存在しないことを確実にする。
【0113】
本明細書に開示のPZTマイクロアクチュエータは、ディスクドライブサスペンション以外の分野のアクチュエータとして使用可能である。そうしたマイクロアクチュエータ及びその構成の詳細は、どのような環境で用いられるかに関わらず、ディスクドライブサスペンション環境、又は任意の他の環境であっても、進歩的なデバイスである。
【0114】
本明細書及び本明細書の特許請求の範囲内で用いられるような「一般に」、「およそ」、「約」、「実質的に」、及び「同一平面の」という用語は、任意の正確な寸法、測定値、及び配置からの所定の程度の変形を許容するということが理解され、それらの用語が本明細書に開示される本発明の記載及び実施の文脈内で理解される必要があるということが解される。
【0115】
明細書及び特許請求の範囲内で用いられるような「上部」、「底部」、「上」、及び「下」などの用語は、任意の特定の空間的な又は重量の方向ではなく、互いに対する部分の空間的関係性を表す便宜的な用語である、ということがさらに理解される。このように、組立体が、図に示され、明細書に記載される特定の方向、その方向の反対、又は任意の他の回転度に向けられるかどうかにかかわらず、用語は部品の組立体を含むことが意図される。
【0116】
特許請求の範囲、要約書、及び図面を含む明細書に開示されるすべての特性、並びに開示の任意の方法又は工程におけるすべてのステップは、そうした特性及び/又はステップの少なくとも一部が相互排他的である組合せを除いて、任意の組合せで組み合わせられ得る。特許請求の範囲、要約書、及び図面を含む明細書に開示される各特性は、明文化されない限り、同一、同等、又は同様の目的を果たす代替的特性によって置換され得る。このように、明文化されない限り、開示の各特性は、包括的な一連の同等又は同様の特性からの一例であるのみである。
【0117】
本明細書に用いられるような「本発明」という用語は、単一の必須要素又は要素群を有する単一の発明のみが示されることを意味すると理解されるべきではないということが認識される。同様に、「本発明」という用語は、それぞれ個別の発明であると考えられ得る多くの個別の発明を含むということも理解される。このように、本発明は、好ましい実施形態及びその図面に関して詳細に記載されているが、本発明の種々の応用や変形が本発明の趣旨及び範囲から外れることなくなされ得るということが当業者には明白である。ゆえに、上述される詳細な説明及び添付の図面が、以下の特許請求の範囲及びその適切に理解された法的同等物からのみ判断される本発明の範囲を限定するということを意図しないということが認識される。

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図13D-H】
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