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特許7051371スキャンによって変化した支台歯形態を推定復元する方法及びそのプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】スキャンによって変化した支台歯形態を推定復元する方法及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/04 20060101AFI20220404BHJP
   A61C 13/34 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
A61C19/04 Z
A61C13/34 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2017211062
(22)【出願日】2017-10-31
(65)【公開番号】P2019080839
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-09-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 クインテッセンス出版株式会社発行のQDT Vol.42/2017 May 第724-759頁 CAD/CAMシステムによるマージンの適合性問題への挑戦 -「エッジ延長法」による支台歯スキャンの理論と効果-にて2017年5月に公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】山本 眞
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良平
(72)【発明者】
【氏名】井上 智之
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0220691(US,A1)
【文献】登録実用新案第3134567(JP,U)
【文献】特開2003-263464(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10300301(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/04
A61C 13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキャンによって変化した支台歯あるいは支台歯模型のフィニッシュライン近傍の形態を推定復元するために、制御装置が各ステップを行う方法であって、
当該各ステップが、
支台歯あるいは支台歯模型をスキャナでスキャンして得られた生スキャンデータから3次元データで構成されるスキャンデータを作成することによって、支台歯あるいは支台歯模型の形成部分と未形成部分との仮想境界線として、スキャンデータ上における複数の点を有する仮フィニッシュラインを設定するステップ、
支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分において、仮フィニッシュラインを含むスキャンデータを削除するステップ、
スキャンデータを削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの部分を補う方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの方向に延長するステップ、
延長した歯冠側仮フィニッシュラインと延長した歯根側仮フィニッシュラインとに基づいて、削除したスキャンデータのエッジ部分よりも外側に形成されるエッジ部分のフィニッシュラインを推定復元するステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
前記仮フィニッシュラインを設定するステップは、仮フィニッシュラインを、支台歯あるいは支台歯模型のスキャンデータのエッジ部分に沿って環状に設定すること、を含み
前記スキャンデータを削除するステップは、
支台歯あるいは支台歯模型のスキャンデータ上における仮フィニッシュラインを構成する複数の点におけるスキャンデータを、仮フィニッシュラインに囲まれた範囲に有する歯根側から歯冠側に伸びる任意の直線を含む平面で切断した切断面のそれぞれにおいて、仮フィニッシュラインの曲率に基づいて、エッジ部分のスキャンデータを削除する参照点である歯冠側切断参照点と歯根側切断参照点とを検出すること、
各切断面の前記歯冠側切断参照点を連結して歯冠方向切断線を作成すること、
各切断面の前記歯根側切断参照点を連結して歯根方向切断線を作成すること、
前記歯冠方向切断線と前記歯根方向切断線との間のエッジ部分のスキャンデータを削除すること、
を含み、
前記延長するステップは、各切断面のスキャンデータを削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュラインを前記歯冠側切断参照点から歯冠方向と反対方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュラインを前記歯根側切断参照点から歯根方向と反対方向に延長すること、を含み、
前記フィニッシュラインを推定復元するステップは、
各切断面のスキャンデータを削除した部分において、延長した歯冠側仮フィニッシュラインと延長した歯根側仮フィニッシュラインとが交差する交差点を算出すること、
各切断面において算出された交差点を連結して作成した交差ラインと、延長した歯冠側仮フィニッシュラインと、延長した歯根側仮フィニッシュラインとに基づいて、支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分のフィニッシュラインを推定復元すること、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記歯冠側切断参照点と前記歯根側切断参照点とを検出することは、前記切断面において、歯冠方向における仮フィニッシュラインの曲率が0となる最初の点又は曲線の半径方向が逆転する最初の点を歯冠側切断参照点として検出すると共に、歯根方向にける仮フィニッシュラインの曲率が0となる最初の点又は曲線の半径方向が逆転する最初の点を歯根側切断参照点として検出すること、を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記延長することは、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率を維持して延長すること、
前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率を維持して延長すること、
を含む、
請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率は、前記歯冠側切断参照点から歯冠方向に0.1mmの範囲内の仮フィニッシュラインに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率を含み、
前記歯根側切断参照点近傍の複数の点に基づいて算出した曲率又は曲率の変化率は、前記歯根側切断参照点から歯根方向に0.12mmの範囲内の仮フィニッシュラインに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率を含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記交差点を算出することは、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率を維持して延長すると共に、前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率を維持して延長することによって算出された第1交差点と、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率の変化率を維持して延長すると共に、前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率の変化率を維持して延長することによって算出された第2交差点と、
を比較し、前記第1交差点と前記第2交差点とのうち歯冠から最も外側に位置する点を、延長した前記歯冠側仮フィニッシュラインと延長した前記歯根側仮フィニッシュラインとが交差する交差点として算出すること、
を含む、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記フィニッシュラインの推定復元に使用される前記仮フィニッシュラインを構成する隣り合う複数の点の距離は、0.002mmから1mmの範囲内である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
各切断面における前記仮フィニッシュラインのエッジの曲率に基づいて、前記仮フィニッシュラインのうちフィニッシュラインを推定復元する部分と、フィニッシュラインを推定復元しない部分とを判別するステップ、
フィニッシュラインを推定復元しない部分において、前記仮フィニッシュラインを前記フィニッシュラインとして設定するステップ、
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
コンピュータに請求項1~8のいずれか一項に記載の方法を実行させるためのプログラム。
【請求項10】
コンピュータに請求項1~8のいずれか一項に記載の方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項11】
スキャンによって変化した支台歯形態を推定復元し、推定復元した支台歯形態に基づいて支台歯あるいは支台歯模型に適合する補綴装置を作製する製造システムであって、
支台歯あるいは支台歯模型の生スキャンデータに基づいてフィニッシュラインを推定復元し、推定復元した前記フィニッシュラインから前記補綴装置の設計データを作成する制御装置、
前記設計データに基づいて前記補綴装置を作製する切削装置、
を備え、
前記制御装置は、
1つ又は複数のプロセッサ、
前記1つ又は複数のプロセッサによって実行可能な命令を記憶したメモリ、
を有し、
前記命令は、
支台歯あるいは支台歯模型をスキャナでスキャンして得られた生スキャンデータから3次元データで構成されるスキャンデータを作成することによって、支台歯あるいは支台歯模型の形成部分と未形成部分との仮想境界線として、複数の点を有する仮フィニッシュラインを設定するステップ、
支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分において、仮フィニッシュラインを含むスキャンデータを削除するステップ、
スキャンデータを削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの部分を補う方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの方向に延長するステップ、
延長した歯冠側仮フィニッシュラインと延長した歯根側仮フィニッシュラインとに基づいて、削除したスキャンデータのエッジ部分よりも外側に形成されるエッジ部分のフィニッシュラインを推定復元するステップ、を含む、補綴装置の製造システム。
【請求項12】
前記仮フィニッシュラインを設定するステップは、仮フィニッシュラインを、支台歯あるいは支台歯模型のスキャンデータのエッジ部分に沿って環状に設定すること、を含み
前記スキャンデータを削除するステップは、
支台歯あるいは支台歯模型のスキャンデータ上における仮フィニッシュラインを構成する複数の点におけるスキャンデータを、仮フィニッシュラインに囲まれた範囲に有する歯根側から歯冠側に伸びる任意の直線を含む平面で切断した切断面のそれぞれにおいて、仮フィニッシュラインの曲率に基づいて、エッジ部分のスキャンデータを削除する参照点である歯冠側切断参照点と歯根側切断参照点とを検出すること、
各切断面の前記歯冠側切断参照点を連結して歯冠方向切断線を作成すること、
各切断面の前記歯根側切断参照点を連結して歯根方向切断線を作成すること、
前記歯冠方向切断線と前記歯根方向切断線との間のエッジ部分のスキャンデータを削除すること、
を含み、
前記延長するステップは、各切断面のスキャンデータを削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュラインを前記歯冠側切断参照点から歯冠方向と反対方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュラインを前記歯根側切断参照点から歯根方向と反対方向に延長すること、を含み、
前記フィニッシュラインを推定復元するステップは、
各切断面のスキャンデータを削除した部分において、延長した歯冠側仮フィニッシュラインと延長した歯根側仮フィニッシュラインとが交差する交差点を算出すること、
各切断面において算出された交差点を連結して作成した交差ラインと、延長した歯冠側仮フィニッシュラインと、延長した歯根側仮フィニッシュラインとに基づいて、支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分のフィニッシュラインを推定復元すること、
を含む、請求項11に記載の補綴装置の製造システム。
【請求項13】
前記歯冠側切断参照点と前記歯根側切断参照点とを検出することは、前記切断面において、歯冠方向における仮フィニッシュラインの曲率が0となる最初の点又は曲線の半径方向が逆転する最初の点を歯冠側切断参照点として検出すると共に、歯根方向にける仮フィニッシュラインの曲率が0となる最初の点又は曲線の半径方向が逆転する最初の点を歯根側切断参照点として検出すること、を含む、請求項12に記載の補綴装置の製造システム。
【請求項14】
前記延長することは、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率を維持して延長すること、
前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率を維持して延長すること、
を含む、
請求項12又は13に記載の補綴装置の製造システム。
【請求項15】
前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率は、前記歯冠側切断参照点から歯冠方向に0.1mmの範囲内の仮フィニッシュラインに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率を含み、
前記歯根側切断参照点近傍の複数の点に基づいて算出した曲率又は曲率の変化率は、前記歯根側切断参照点から歯根方向に0.12mmの範囲内の仮フィニッシュラインに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率を含む、
請求項14に記載の補綴装置の製造システム。
【請求項16】
前記交差点を算出することは、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率を維持して延長すると共に、前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率を維持して延長することによって算出された第1交差点と、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率の変化率を維持して延長すると共に、前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率の変化率を維持して延長することによって算出された第2交差点と、
を比較し、前記第1交差点と前記第2交差点とのうち歯冠から最も外側に位置する点を、延長した前記歯冠側仮フィニッシュラインと延長した前記歯根側仮フィニッシュラインとが交差する交差点として算出すること、
を含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の補綴装置の製造システム。
【請求項17】
前記フィニッシュラインの推定復元に使用される前記仮フィニッシュラインを構成する隣り合う複数の点の距離は、0.002mmから1mmの範囲内である、請求項11~16のいずれか一項に記載の補綴装置の製造システム。
【請求項18】
前記命令は、
各切断面における前記仮フィニッシュラインのエッジの曲率に基づいて、前記仮フィニッシュラインのうちフィニッシュラインを推定復元する部分と、フィニッシュラインを推定復元しない部分とを判別するステップ、
フィニッシュラインを推定復元しない部分において、前記仮フィニッシュラインを前記フィニッシュラインとして設定するステップ、
を含む、請求項11~17のいずれか一項に記載の補綴装置の製造システム。
【請求項19】
スキャンによって変化した支台歯形態を推定復元し、推定復元した支台歯形態に基づいて支台歯あるいは支台歯模型に適合する補綴装置を作製するために、制御装置が各ステップを行う製造方法であって、
当該各ステップが、
支台歯あるいは支台歯模型の生スキャンデータを取得するステップ、
前記生スキャンデータから3次元データで構成されるスキャンデータを作成することによって、支台歯あるいは支台歯模型の形成部分と未形成部分との仮想境界線として、複数の点を有する仮フィニッシュラインを設定するステップ、
支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分において、仮フィニッシュラインを含むスキャンデータを削除するステップ、
スキャンデータを削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの部分を補う方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの方向に延長するステップ、
延長した歯冠側仮フィニッシュラインと延長した歯根側仮フィニッシュラインとに基づいて、削除したスキャンデータのエッジ部分よりも外側に形成されるエッジ部分のフィニッシュラインを推定復元するステップ、
前記フィニッシュラインに基づいて作成した設計データから補綴装置を作製するステップ、
を含む、補綴装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキャンによって変化したフィニッシュライン近傍の支台歯あるいは支台歯形態を推定復元する方法及びそのプログラムに関する。特に、本発明は、歯科におけるデジタル歯科機器を応用した補綴装置の製作工程の一部分であり、支台歯あるいは支台歯模型を口腔内スキャナあるいはデスクトップスキャナでスキャンして得たスキャンデータから、支台歯あるいは支台歯模型が本来有するフィニッシュライン近傍の形状とフィニッシュラインを推定復元する方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科におけるデジタル歯科機器を応用した補綴装置の製作において、支台歯あるいは支台歯模型をスキャンして支台歯あるいは支台歯形態を再現し、本来有する支台歯形態に適合する補綴装置を作製している。
【0003】
例えば、特許文献1では、被登録者の歯形模型をスキャンすることにより取得した歯形データを用いて、歯列データから損失した歯牙に対応する歯牙の形状を歯科補綴物の補綴物データとして抽出する装置が開示されている。
【0004】
非特許文献1では、歯科用CAD/CAMを使用した補綴物製作として、支台歯あるいは支台歯模型をスキャンしたデータに基づいて、補綴物を作製する手順が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-169239号公報
【文献】歯科用CAD/CAMハンドブックII 山本貴金属地金株式会社 2015年11月16日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、支台歯あるいは支台歯模型をスキャンすると、スキャンにより支台歯あるいは支台歯模型が本来有する支台歯形態が損なわれるという問題がある。
【0007】
この問題を解決すべく、本発明は、スキャンによって変化した支台歯形態を推定復元する方法及びそのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る方法は、
スキャンによって変化した支台歯あるいは支台歯模型のフィニッシュライン近傍の形態を推定復元する方法であって、
支台歯あるいは支台歯模型をスキャナでスキャンして得られた生スキャンデータから3次元データで構成されるスキャンデータを作成することによって、支台歯あるいは支台歯模型の形成部分と未形成部分との仮想境界線として、スキャンデータ上における複数の点を有する仮フィニッシュラインを設定するステップ、
支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分において、仮フィニッシュラインを含むスキャンデータを削除するステップ、
スキャンデータを削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの部分を補う方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの方向に延長するステップ、
延長した歯冠側仮フィニッシュラインと延長した歯根側仮フィニッシュラインに基づいて、削除したスキャンデータのエッジ部分よりも外側に形成されるエッジ部分のフィニッシュラインを推定復元するステップ、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスキャンによって変化した支台歯あるいは支台歯形態を推定復元する方法及びそのプログラムによれば、スキャンによって損なわれた支台歯あるいは支台歯形態を推定復元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】歯科用CAD/CAMシステムを使用した補綴装置製作のフローチャート
図2A】例示的な支台歯模型の写真を示す図
図2B図2Aの支台歯模型のエッジ部分の拡大図
図3A図2Aの支台歯模型をスキャンして得た、本来有する支台歯形態が損なわれている例示的なスキャンデータを示す図
図3B図3Aの支台歯模型のエッジ部分の拡大図
図4】補綴装置の例示的な作製工程を示す図
図5】例示的な補綴装置の写真を示す図
図6】支台歯模型に補綴装置を取り付けた状態の写真を示す図
図7】支台歯模型の断面図
図8図7の支台歯模型の断面形状のスキャンデータを示す図
図9図8のスキャンデータのエッジ部分の概略拡大図
図10図8のスキャンデータに基づいて作製した補綴装置を支台歯模型に取り付けた状態のエッジ部分を拡大して示す概略部分断面図
図11】本発明に係るスキャンによって変化した支台歯形態を推定復元する方法のフローチャート
図12A】仮フィニッシュラインを設定する工程を示す概略図
図12B】仮フィニッシュラインの複数の点に基づいてスキャンデータを切断する切断位置を示す概略図
図12C図12Bの切断位置P1の切断面において、歯冠側切断参照点と歯根側切断参照点とを検出する工程を示す概略図
図12D】歯冠方向切断線及び歯根方向切断線を作成する工程を示す概略図
図12E】スキャンデータのエッジ部分を削除する工程を示す概略図
図12F】仮フィニッシュラインを延長する工程を示す概略図
図12G】延長した仮フィニッシュラインの交差点を算出する工程を示す概略図
図13】本発明に係る支台歯形態の推定復元方法を用いて推定復元したフィニッシュラインを示す概略図
図14】本発明に係る補綴装置の製造システムの概略構成を示すブロック図
図15】制御装置の概略構成を示すブロック図
図16】本発明に係る補綴装置の製造方法のフローチャート
図17】本発明に係る補綴装置の製造方法を用いて作製された補綴装置を支台歯模型に取り付けた状態のエッジ部分を拡大して示す概略部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明に至った経緯)
デジタル歯科機器を応用した補綴装置の作製において、支台歯あるいは支台歯模型の生スキャンデータから補綴装置の設計に使用する歯科用CAD上のデータである補綴装置の設計データを作成するまでの工程は大きく分けて2つある。
【0012】
1つの方法では、患者の口腔内を印象材で印象採得し、そこに石膏を流して模型を作製し、補綴装置の作製が必要な部位についてはプレパレーション形状を損なうことなく調整などを施してスキャン用に支台歯模型を準備する。この支台歯模型を歯科用スキャン装置でスキャンして点群データを得、歯科用CADに読み込んで支台歯模型形状を再現する。この再現された支台歯模型形状を補綴装置の設計データとし、自動、または手動、或いは自動と手動の併用によってフィニッシュラインを設定して、補綴装置の設計データと共に補綴装置の設計に用いている。
【0013】
もう1つの方法では、口腔内スキャン装置で患者の口腔内の支台歯を直接スキャンし、得られたデータをそのまま歯科用CADに読み込み、前述の手順と同様にフィニッシュラインを設定して、補綴装置の設計データと共に補綴装置の設計に用いている。
【0014】
支台歯模型又は患者口腔内の支台歯をスキャンして得られるデータは点の集まりであり、歯科用CADは、多くの場合、このデータを基にしてSTLデータ、あるいはポリゴンデータなどの形式にてスキャンした形状を保持する。
【0015】
支台歯模型をスキャンする際にはエッジの有無は考慮せずに点をプロットするため、歯科用CADでスキャンした形状を再現すると、シャープなエッジがそのまま再現されることはなく丸められる。
【0016】
また、支台歯模型の材質が石膏で、レーザー光を用いるスキャナを用いる場合、スキャンするために照射したレーザー光線が少なからず石膏を透過するため、特に、エッジなどの鋭角な部位では多くの割合でレーザー光線が模型を透過してしまう。このため、スキャン装置のセンサに戻る光量が少なくなり、エッジなどの部分の点の位置精度が低下する傾向にある。
【0017】
患者の支台歯を直接スキャンする場合においても支台歯模型をスキャンする場合と同じくエッジが丸められてしまうという問題がある。また、支台歯である歯牙が半透明であることからスキャン光を照射してもその一部が反射せずに透過してしまい、受光量が少なくなるほどスキャン精度が低下する。特に、エッジ部分においては支台歯模型のスキャン時と同様の位置精度低下が生じる。更に、支台歯のフィニッシュラインが歯肉縁下にある場合はスキャン光の投光及び受光が困難になりがちであるため、精度の低下がより著しいものとなる。なお、写真や動画から3次元データを得る場合にも同様にエッジ部分の形状は丸められる。
【0018】
これら複数の理由により、スキャンデータから再現された歯科用CAD上の形状は特にフィニッシュラインのエッジが本来の位置とは異なり、また本来のシャープな形状よりも丸くなり、総じて形状再現精度が低下するという問題が存在する。
【0019】
このような過程を経て構成された歯科用CAD上の形状データから自動、または手動、或いは自動と手動の併用によってフィニッシュラインを設定しても、すでにエッジの角が丸められたデータ上に設定されるため、支台歯や支台歯模型が本来持っていたフィニッシュラインからは位置的に相当異なるラインとなる。つまり、誤った位置にフィニッシュラインが設定されることとなる。このような精度低下は、特にフィニッシュラインなどシャープなエッジ部分などだけではなく広範囲な角度において生じることが分かっている。
【0020】
更には本来支台歯や支台歯模型が有していたフィニッシュラインと、歯科用CADで設定されたフィニッシュラインとの間には0.03mmから0.180mm程度の差が生じる。これは目視によって確認できる支台歯あるいは支台歯と補綴装置との間隙の目安である0.03mm~0.04mmと同等かそれ以上の大きな差である。
【0021】
一例として、支台歯模型のエッジの角度が60°の場合、スキャンして得た点群データで形状を再現するとエッジから支台歯模型の内側方向に約0.18mm入った箇所から誤差が生じ始め、エッジはシャープな形状をなしておらず曲面として再現されてしまう。
【0022】
一例として、支台歯模型のエッジ角度が90°の場合でもエッジから支台歯模型の内側方向に約0.15mm入った箇所から誤差が生じ始め、60°の場合と同様にエッジはシャープな形状ではなく曲面として再現されてしまう。
【0023】
支台歯模型のフィニッシュラインとしては相当にブロードな形状であり、一般的にはエッジはほとんど丸まらないと認識されている120°の場合でも90°の場合と同様にエッジから支台歯模型の内側方向に0.15mm入った箇所から誤差が生じ始め、エッジはシャープな形状ではなく曲面として再現されてしまう。
【0024】
このように支台歯模型のフィニッシュラインのエッジ角度が臨床でよく見られる60°から120°の範囲では0.15mmから0.18mmもの誤差が生じている。この誤差を何ら補正することなく補綴装置形状を設計する際の基準形状として使用すると、支台歯模型が持っていた本来のフィニッシュラインと設計した補綴装置のフィニッシュラインには、優に0.1mm以上の誤差が含まれてしまう。また、補綴装置のマージン近傍の形状が本来あるべき形状とは異なってしまう。なお、マージンとは、補綴装置の辺縁を意味する。
【0025】
一般に支台歯と補綴装置のマージンの間の空隙は0.02mm以上0.04mm以下であることが望ましいが、上述した例は、それを大きく逸脱している。
【0026】
従来から用いられている金属鋳造冠において、歯科医あるいは歯科技工士によって調整され、実用上問題なく適合している支台歯と補綴装置のマージンの間の空隙は、0.02mmから0.04mm程度であることが知られている。
【0027】
空隙が0.02mmよりも狭いと補綴装置を支台歯にセメントで合着する際に余剰のセメントが溢出できなくなり、適合させる上で障害となる恐れがある。また、空隙が0.04mmよりも広いと、支台歯の上に補綴装置を装着した場合、空隙が大きいために補綴装置を正しい位置、高さ、向きで固定することが極めて困難になる。
【0028】
エッジが丸められた補綴装置の設計データと、誤った位置に存在するフィニッシュラインとをそのまま受け入れて補綴装置の設計を行い、加工製作すると結果として、
大きな誤差発生による補綴装置の支台歯あるいは支台歯模型に対する適合不良、
後の作業に及ぼす影響すなわち補綴装置のセメントスペースが設計値と異なる、
咬合高径が設計値よりも高くなる、
設計形状通りの形状とならない箇所が発生する、
等の原因となり、意図しない薄肉部の発生と試適時の破折の恐れなどを惹起する恐れが生じる。
【0029】
歯科技工士は、このような問題が起こることを極力防止するため、補綴装置のマージン部分を細心の注意を払って慎重に調整するのが一般的となっており、熟練と多大な時間、および労力を費やして仕上げることを余儀なくされていた。
【0030】
一方、歯科医師は調整の結果、マージン周辺部が極端に薄くなってしまった補綴装置を患者に試適する際、慎重に行わないと容易にこの薄い辺縁が破折してしまい、再製作しなければならないことが多く、患者、歯科医師、歯科技工士の全てが余計な時間と手間をかけざるを得ないケースが後を絶たない。
【0031】
そこで、これらの問題を解決するために、本発明者らは、以下の発明に至った。
【0032】
本発明の一態様に係る方法は、
スキャンによって変化した支台歯あるいは支台歯模型のフィニッシュライン近傍の形態を推定復元する方法であって、
支台歯あるいは支台歯模型をスキャナでスキャンして得られた生スキャンデータから3次元データで構成されるスキャンデータを作成することによって、支台歯あるいは支台歯模型の形成部分と未形成部分との仮想境界線として、スキャンデータ上における複数の点を有する仮フィニッシュラインを設定するステップ、
支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分において、仮フィニッシュラインを含むスキャンデータを削除するステップ、
スキャンデータを削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの部分を補う方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの方向に延長するステップ、
延長した歯冠側仮フィニッシュラインと延長した歯根側仮フィニッシュラインに基づいて、削除したスキャンデータのエッジ部分よりも外側に形成されるエッジ部分のフィニッシュラインを推定復元するステップ、
を含む。
【0033】
前記方法において、前記仮フィニッシュラインを設定するステップは、仮フィニッシュラインを、支台歯あるいは支台歯模型のスキャンデータのエッジ部分に沿って環状に設定すること、を含み
前記スキャンデータを削除するステップは、
支台歯あるいは支台歯模型のスキャンデータ上における仮フィニッシュラインを構成する複数の点におけるスキャンデータを、仮フィニッシュラインに囲まれた範囲に有する歯根側から歯冠側に伸びる任意の直線を含む平面で切断した切断面のそれぞれにおいて、仮フィニッシュラインの曲率に基づいて、エッジ部分のスキャンデータを削除する参照点である歯冠側切断参照点と歯根側切断参照点とを検出すること、
各切断面の前記歯冠側切断参照点を連結して歯冠方向切断線を作成すること、
各切断面の前記歯根側切断参照点を連結して歯根方向切断線を作成すること、
前記歯冠方向切断線と前記歯根方向切断線との間のエッジ部分のスキャンデータを削除すること、
を含み、
前記延長するステップは、各切断面のスキャンデータを削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュラインを前記歯冠側切断参照点から歯冠方向と反対方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュラインを前記歯根側切断参照点から歯根方向と反対方向に延長すること、を含み、
前記フィニッシュラインを推定復元するステップは、
各切断面のスキャンデータを削除した部分において、延長した歯冠側仮フィニッシュラインと延長した歯根側仮フィニッシュラインとが交差する交差点を算出すること、
各切断面において算出された交差点を連結して作成した交差ラインと、延長した歯冠側仮フィニッシュラインと、延長した歯根側仮フィニッシュラインとに基づいて、支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分のフィニッシュラインを推定復元すること、
を含んでもよい。
【0034】
前記歯冠側切断参照点と前記歯根側切断参照点とを検出することは、前記切断面において、歯冠方向における仮フィニッシュラインの曲率が0となる最初の点又は曲線の半径方向が逆転する最初の点を歯冠側切断参照点として検出すると共に、歯根方向にける仮フィニッシュラインの曲率が0となる最初の点又は曲線の半径方向が逆転する最初の点を歯根側切断参照点として検出すること、を含んでもよい。
【0035】
前記方法において、前記延長するステップは、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率を維持して延長すること、
前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率を維持して延長すること、
を含んでもよい。
【0036】
前記方法において、
前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率は、前記歯冠側切断参照点から歯冠方向に0.1mmの範囲内の仮フィニッシュラインに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率を含み、
前記歯根側参照点近傍の複数の点に基づいて算出した曲率又は曲率の変化率は、前記歯根側切断参照点から歯根方向に0.12mmの範囲内の仮フィニッシュラインに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率を含んでもよい。
【0037】
前記方法において、前記交差点を算出することは、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率を維持して延長すると共に、前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率を維持して延長することによって算出された第1交差点と、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率の変化率を維持して延長すると共に、前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率の変化率を維持して延長することによって算出された第2交差点と、
を比較し、前記第1交差点と前記第2交差点とのうち歯冠から最も外側に位置する点を、延長した前記歯冠側仮フィニッシュラインと延長した前記歯根側仮フィニッシュラインとが交差する交差点として算出すること、
を含んでもよい。
【0038】
前記方法において、前記フィニッシュラインの推定復元に使用される前記仮フィニッシュラインを構成する隣り合う複数の点の距離は、0.002mmから1mmの範囲内であってもよい。
【0039】
前記方法において、
各切断面における前記仮フィニッシュラインのエッジの曲率に基づいて、前記仮フィニッシュラインのうちフィニッシュラインを推定復元する部分と、フィニッシュラインを推定復元しない部分とを判別するステップ、
フィニッシュラインを推定復元しない部分において、前記仮フィニッシュラインを前記フィニッシュラインとして設定するステップ、
を含んでもよい。
【0040】
本発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータに前記方法を実行させる。
【0041】
本発明の一態様に係るコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータに前記方法を実行させるためのプログラムを記録する。
【0042】
本発明の一態様に係る補綴装置の製造システムは、
スキャンによって変化した支台歯形態を推定復元し、推定復元した支台歯形態に基づいて支台歯あるいは支台歯模型に適合する補綴装置を作製する製造システムであって、
支台歯あるいは支台歯模型の生スキャンデータに基づいてフィニッシュラインを推定復元し、推定復元した前記フィニッシュラインから前記補綴装置の設計データを作成する制御装置、
前記設計データに基づいて前記補綴装置を作製する切削装置、
を備え、
前記制御装置は、
1つ又は複数のプロセッサ、
前記1つ又は複数のプロセッサによって実行可能な命令を記憶したメモリ、
を有し、
前記命令は、
支台歯あるいは支台歯模型をスキャナでスキャンして得られた生スキャンデータから3次元データで構成されるスキャンデータを作成することによって、支台歯あるいは支台歯模型の形成部分と未形成部分との仮想境界線として、複数の点を有する仮フィニッシュラインを設定するステップ、
支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分において、仮フィニッシュラインを含むスキャンデータを削除するステップ、
スキャンデータを削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの部分を補う方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの方向に延長するステップ、
延長した歯冠側仮フィニッシュラインと延長した歯根側仮フィニッシュラインに基づいて、削除したスキャンデータのエッジ部分よりも外側に形成されるエッジ部分のフィニッシュラインを推定復元するステップ、
を含む。
【0043】
前記製造システムにおいて、前記仮フィニッシュラインを設定するステップは、仮フィニッシュラインを、支台歯あるいは支台歯模型のスキャンデータのエッジ部分に沿って環状に設定すること、を含み
前記スキャンデータを削除するステップは、
支台歯あるいは支台歯模型のスキャンデータ上における仮フィニッシュラインを構成する複数の点におけるスキャンデータを、仮フィニッシュラインに囲まれた範囲に有する歯根側から歯冠側に伸びる任意の直線を含む平面で切断した切断面のそれぞれにおいて、仮フィニッシュラインの曲率に基づいて、エッジ部分のスキャンデータを削除する参照点である歯冠側切断参照点と歯根側切断参照点とを検出すること、
各切断面の前記歯冠側切断参照点を連結して歯冠方向切断線を作成すること、
各切断面の前記歯根側切断参照点を連結して歯根方向切断線を作成すること、
前記歯冠方向切断線と前記歯根方向切断線との間のエッジ部分のスキャンデータを削除すること、
を含み、
前記延長するステップは、各切断面のスキャンデータを削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュラインを前記歯冠側切断参照点から歯冠方向と反対方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュラインを前記歯根側切断参照点から歯根方向と反対方向に延長すること、を含み、
前記フィニッシュラインを推定復元するステップは、
各切断面のスキャンデータを削除した部分において、延長した歯冠側仮フィニッシュラインと延長した歯根側仮フィニッシュラインとが交差する交差点を算出すること、
各切断面において算出された交差点を連結して作成した交差ラインと、延長した歯冠側仮フィニッシュラインと、延長した歯根側仮フィニッシュラインとに基づいて、支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分のフィニッシュラインを推定復元すること、
を含んでもよい。
【0044】
前記製造システムにおいて、前記歯冠側切断参照点と前記歯根側切断参照点とを検出することは、前記切断面において、歯冠方向における仮フィニッシュラインの曲率が0となる最初の点又は曲線の半径方向が逆転する最初の点を歯冠側切断参照点として検出すると共に、歯根方向にける仮フィニッシュラインの曲率が0となる最初の点又は曲線の半径方向が逆転する最初の点を歯根側切断参照点として検出すること、を含んでもよい。
【0045】
前記製造システムにおいて、前記延長するステップは、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率を維持して延長すること、
前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率を維持して延長すること、
を含んでもよい。
【0046】
前記製造システムにおいて、
前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率又は曲率の変化率は、前記歯冠側切断参照点から歯冠方向に0.1mmの範囲内の仮フィニッシュラインに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率を含み、
前記歯根側参照点近傍の複数の点に基づいて算出した曲率又は曲率の変化率は、前記歯根側切断参照点から歯根方向に0.12mmの範囲内の仮フィニッシュラインに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率を含んでもよい。
【0047】
前記製造システムにおいて、前記交差点を算出することは、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率を維持して延長すると共に、前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率を維持して延長することによって算出された第1交差点と、
前記歯冠側仮フィニッシュラインを、前記歯冠側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率の変化率を維持して延長すると共に、前記歯根側仮フィニッシュラインを、前記歯根側切断参照点近傍の仮フィニッシュラインの曲率の変化率を維持して延長することによって算出された第2交差点と、
を比較し、前記第1交差点と前記第2交差点とのうち歯冠から最も外側に位置する点を、延長した前記歯冠側仮フィニッシュラインと延長した前記歯根側仮フィニッシュラインとが交差する交差点として算出すること、
を含んでもよい。
【0048】
前記製造システムにおいて、前記フィニッシュラインの推定復元に使用される前記仮フィニッシュラインを構成する隣り合う複数の点の距離は、0.002mmから1mmの範囲内であってもよい。
【0049】
前記製造システムにおいて、
前記命令は、
各切断面における前記仮フィニッシュラインのエッジの曲率に基づいて、前記仮フィニッシュラインのうちフィニッシュラインを推定復元する部分と、フィニッシュラインを推定復元しない部分とを判別するステップ、
フィニッシュラインを推定復元しない部分において、前記仮フィニッシュラインを前記フィニッシュラインとして設定するステップ、
を含んでもよい。
【0050】
本発明の一態様に係る補綴装置の製造方法は、
スキャンによって変化した支台歯形態を推定復元し、推定復元した支台歯形態に基づいて支台歯あるいは支台歯模型に適合する補綴装置を作製する製造方法であって、
支台歯あるいは支台歯模型の生スキャンデータを取得するステップ、
前記生スキャンデータから3次元データで構成されるスキャンデータを作成することによって、支台歯あるいは支台歯模型の形成部分と未形成部分との仮想境界線として、複数の点を有する仮フィニッシュラインを設定するステップ、
支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分において、仮フィニッシュラインを含むスキャンデータを削除するステップ、
スキャンデータを削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの部分を補う方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュラインを、削除されたスキャンデータの方向に延長するステップ、
延長した歯冠側仮フィニッシュラインと延長した歯根側仮フィニッシュラインに基づいて、削除したスキャンデータのエッジ部分よりも外側に形成されるエッジ部分のフィニッシュラインを推定復元するステップ、
前記フィニッシュラインに基づいて作成した設計データから補綴装置を作製するステップ、
を含む。
【0051】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。以下の全ての図において、同一又は相当部分には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0052】
(実施の形態1)
[補綴装置製作のフロー]
図1は、歯科用CAD/CAMシステムを使用した補綴装置製作の例示的なフローチャートを示す。図1に示すように、歯科用CAD/CAMシステムを使用した補綴装置製作は、支台歯形成工程ST1、スキャン工程ST2、設計データ作成工程ST3、補綴装置作製工程ST4を含む。
【0053】
支台歯形成工程ST1においては、支台歯を形成する。本明細書において、支台歯とはその上に補綴装置などの補綴装置が安定的に装着されるようにするため、歯科医師によって形成された歯牙のことである。齲蝕や異常な接触等がある場合はその患部を除去・充填した上で支台歯を形成する。例えば、支台歯は、天然歯を切削装置で削ることによって形成される。あるいは、支台歯は、歯に金属バーやグラスファイバーのバーを差し込み、レジン材料などのペーストを用いて築造したものを切削装置で削ることによって形成される。
【0054】
本発明で対象とする補綴装置とは、主に歯科分野において齲蝕や歯周病等の歯科疾患、事故や怪我等による破折または抜歯により喪失、または一部欠損した患部を有する歯牙に人工物で形状、機能を回復するために装着されるインレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、デンチャー、インプラント上部構造体などの歯科用補綴装置である。
【0055】
スキャン工程ST2においては、支台歯形成工程ST1で形成された支台歯の形状をスキャン装置などによってスキャンする。支台歯のスキャンは、例えば、支台歯模型を作製して、その支台歯模型をスキャンしてもよいし、口腔内の支台歯を直接スキャンしてもよい。支台歯模型とは、形成された支台歯を印象材で象って患者の支台歯や周辺の歯肉等の雌型を作製し、その雌型に石膏等を流し込み、硬化させてから取り出し患者の口腔内の補綴装置による治療が必要な部位を複製した得た模型のことである。実施の形態1では、支台歯模型を作製し、支台歯模型をスキャンしている。
【0056】
図2Aは、例示的な支台歯模型10の写真を示す。図2Bは、図2Aの支台歯模型10のエッジ部分Z1の拡大図を示す。図3Aは、図2Aの支台歯模型10をスキャンして得た例示的なスキャンデータ20を示す。図3Bは、図3Aのスキャンデータ20のエッジ部分Z2の拡大図を示す。図2A及び図3Aに示すように、スキャン工程ST2においては、図2Aに示す支台歯模型10をスキャン装置によりスキャンすることによって、図3Aに示すSTLデータであるスキャンデータ20を取得する。ここで、図2Aに示す支台歯模型10のエッジ部分Z1と、図3Aに示すスキャンデータ20のエッジ部分Z1を比較する。図2B及び図3Bに示すように、図3Bに示すスキャンデータ20のフィニッシュライン部は、図2Bに示す支台歯模型10のフィニッシュライン部が本来有する形態が明らかに損なわれている。
【0057】
設計データ作成工程ST3においては、スキャン工程ST2で取得した支台歯のスキャンデータ20に基づいて、補綴装置の設計データを作成する。具体的には、支台歯のスキャンデータ20は、歯科用CADに読み込まれ、支台歯の形状が再現される。この再現された支台歯の形状に基づいて、補綴装置の設計データが作成される。
【0058】
設計データ作成工程ST3においては、本発明に係るスキャンによって変化したフィニッシュライン近傍の支台歯形態を推定復元する方法が実施される。本明細書において、フィニッシュラインとは、支台歯あるいは支台歯模型の形成部分と未形成部分との境界線を意味する。形成部分とは、歯冠部で歯科医や歯科技工士が補綴装置を装着するために意図的に形状を整えた部分を意味し、未形成部分とは、歯根部側で支台歯あるいは支台歯模型10の形状を変えずに、そのまま残した部分を意味する。言い換えると、フィニッシュラインとは支台歯あるいは支台歯模型の辺縁形状上の補綴装置(コーピング)のエッジと接する部分に相当し、補綴装置を設置した際にその端部となるラインのことである。
【0059】
補綴装置作製工程ST4においては、設計データ作成工程ST3で作成した設計データに基づいて、補綴装置を作製する。具体的には、設計データに基づいて、切削装置によって、支台歯模型10の形状に適合するように補綴装置の内側を削る。
【0060】
図4は、例示的な補綴装置30の作製工程を示す。図4に示すように、補綴装置30の内側を切削装置70によって削る。これにより、補綴装置30の内側を支台歯模型10の形状に適合した形状にすることができる。
【0061】
図5は、例示的な補綴装置30a、30bの写真を示す。図5においては、作製された2つの補綴装置(コーピング)30a、30bを示している。なお、補綴装置30bは、内側の形状の支台歯模型への適合状態を見やすくするため、側壁の一部をカットしている。
【0062】
図6は、支台歯模型10に補綴装置30bを取り付けた状態の写真を示す。図6においては、側壁の一部がカットされた補綴装置30bが支台歯模型10に取り付けられている。
【0063】
このように、歯科用CAD/CAMシステムを使用した補綴装置の製作は、支台歯形成工程ST1、スキャン工程ST2、設計データ作成工程ST3、補綴装置作製工程ST4を実行することによって、補綴装置30を作製している。なお、図1に示す補綴装置製作のフローチャートは、例示であって、これらの工程に限定されない。
【0064】
[支台歯形態を推定復元する方法]
本発明に係るスキャンによって変化した支台歯形態を推定復元する方法について説明する。具体的には、支台歯形態として、支台歯あるいは支台歯模型が有するフィニッシュライン近傍の形状とフィニッシュラインを推定復元する方法に関して説明する。
【0065】
図7は、例示的な支台歯模型10の断面図を示す。図8は、図7の支台歯模型10の断面形状のスキャンデータ20を示す。図7及び図8を比較すると、図8に示すスキャンデータ20のエッジ部分では、図7に示す支台歯模型10が本来持っていたシャープなエッジ形状が損なわれ、エッジ部分が丸く形成されていることがわかる。
【0066】
図9は、図8のスキャンデータ20のエッジ部分Z3の概略拡大図を示す。図9に示すラインL1は、実際の支台歯模型10のエッジの輪郭を示す。図9に示すように、スキャンデータ20により再現される支台歯模型10の形状は、本来エッジが形成されている領域A1が消失して形成されている。このため、スキャンデータ20により再現される支台歯模型10の形状は、実際の支台歯模型10の形状と比べて、エッジ部分が丸く形成されている。
【0067】
参考例として、図10は、図8のスキャンデータ20に基づいて作製した補綴装置30を支台歯模型10に取り付けた状態のエッジ部分の概略拡大図を示す。図10に示すように、エッジ部分が消失したスキャンデータ20を用いて作製した補綴装置30を支台歯模型10に取り付けた場合、支台歯模型10のエッジ部分が補綴装置30の内側部分に干渉する。即ち、補綴装置30は支台歯模型10のエッジ部分に当たって浮き上がった状態となる。このように、エッジ部分が消失したスキャンデータ20に基づいて補綴装置30を作製した場合、補綴装置30が支台歯模型10に密着せずに隙間S1が生じる。
【0068】
図11は、本発明に係るスキャンによって変化した支台歯形態を推定復元する方法のフローチャートを示す。
【0069】
図11に示すように、工程ST10においては、支台歯のスキャンデータを取得する。例えば、患者の口腔内各部を直接スキャン可能な口腔内スキャナにより支台歯の生スキャンデータを得る。また、支台歯模型の場合は、デスクトップスキャナのステージに支台歯模型を設置してスキャンすることにより生スキャンデータを得る。或いは支台歯模型を口腔外ではあるが口腔内スキャナでスキャンして生スキャンデータを得る場合もある。このようにして得られた生スキャンデータは、点の集合体であり、各点の位置情報である。
【0070】
スキャン装置からは、点群データ、または隣り合う三点で構成される三角形を面としたときの面の裏表および面の法線ベクトル情報を加えたSTLデータ、または隣り合う点を結んだ三角形で構成されるワイヤーフレームデータ、またはワイヤーフレームの各三角形に面を張ったポリゴンデータ等の形式で出力されることが多い。歯科においては中でもSTLデータが最もよく用いられており、異なるメーカー間でも互換性の高い共通の書式データとして普及が進んでいる。
【0071】
工程ST20においては、支台歯あるいは支台歯模型10の生スキャンデータに基づいて仮フィニッシュラインを設定する。本明細書では、仮フィニッシュラインとは、支台歯あるいは支台歯模型の形成部分と未形成部分との仮想境界線を意味する。言い換えると、仮フィニッシュラインとは、支台歯あるいは支台歯模型のスキャンデータ上におけるエッジ部分の仮想ラインを意味する。
【0072】
具体的には、工程ST20においては、生スキャンデータを歯科用の補綴装置を設計する目的で用いられる歯科用CADに読み込んで、3次元データで構成されるスキャンデータを作成し、支台歯、或いは支台歯模型の形状を歯科用CAD上に再現する。
【0073】
3次元データで構成されるスキャンデータは、例えば、パラメトリック曲線、点データの組、高次関数、あるいはこれらの組み合わせなどで構成される3次元形状を表すデータである。
【0074】
実施の形態1では、パラメトリック曲線で構成されるスキャンデータに基づいて、複数の点を有する仮フィニッシュラインを設定する。具体的には、歯科用CADが予め設定された部位情報又は仮フィニッシュラインを抽出するための各種のパラメータに従って自動的に仮フィニッシュラインを抽出する。その方法は、ユーザが予め、或いは作業時に設定した演算ピッチに従って仮フィニッシュラインを構成する点を求めていき、例えば、これらの点を順次結んで対象部位(例えば、エッジライン)を一周する一本の仮フィニッシュラインを設定する。
【0075】
図12Aは、仮フィニッシュライン23を設定する工程を示す概略図を示す。なお、図12Aは、生スキャンデータからパラメトリック曲線で構成されるスキャンデータ21を示している。図12Aにおいては、エッジラインの仮フィニッシュライン23を容易に理解するために、スキャンデータ21におけるエッジラインの複数の点22のみを示している。
【0076】
図12Aに示すように、生スキャンデータからパラメトリック曲線で構成されるスキャンデータ21を作成することによって、複数の点22を有する仮フィニッシュライン23を設定する。実施の形態1では、仮フィニッシュライン23は、支台歯あるいは支台歯模型10のスキャンデータ21のエッジ部分に沿って環状に設定される。即ち、実施の形態1では、仮フィニッシュライン23は、スキャンデータ21の仮想のエッジラインとして設定される。
【0077】
図11に戻って、工程ST30においては、支台歯あるいは支台歯模型10のエッジ部分において、仮フィニッシュライン23を含むスキャンデータ21を削除する。具体的には、工程ST30は、工程ST31~ST34を実施することにより、支台歯あるいは支台歯模型10のエッジ部分のスキャンデータ21を削除する。
【0078】
工程ST31においては、仮フィニッシュライン23の複数の点22においてスキャンデータを切断した断面のそれぞれにおいて、歯冠側切断参照点及び歯根側切断参照点を検出する。具体的には、支台歯あるいは支台歯模型10のスキャンデータ21上における仮フィニッシュライン23を構成する複数の点22におけるスキャンデータ21を、仮フィニッシュライン23に囲まれた範囲に有する歯根側から歯冠側に伸びる任意の直線を含む平面で切断した切断面のそれぞれにおいて、仮フィニッシュライン23の曲率に基づいて歯冠側切断参照点24と歯根側切断参照点25とを検出する。歯冠側切断参照点24及び歯根側切断参照点25とは、エッジ部分のスキャンデータ21を削除する参照点であり、切断面の仮フィニッシュライン23の複数の点22の中から選択される参照点である。
【0079】
実施の形態1では、仮フィニッシュライン23に囲まれた範囲に有する歯根側から歯冠側に伸びる任意の直線を含む平面で切断した切断面は、仮フィニッシュライン23の法線方向断面であることが望ましい。
【0080】
なお、仮フィニッシュライン23に囲まれた範囲に有する歯根側から歯冠側に伸びる任意の直線を含む平面で切断した切断面は、仮フィニッシュライン23の法線方向断面に限定されるものではない。仮フィニッシュライン23に囲まれた範囲に有する歯根側から歯冠側に伸びる任意の直線を含む平面で切断した切断面は、歯根側から歯冠側に向かって延びる平面で切断した切断面であればよく、例えば、歯軸を含む平面で切断した切断面であってもよい。
【0081】
図12Bは、仮フィニッシュライン23の複数の点22に基づいてスキャンデータ21を切断する位置を示す概略図である。図12Bに示すように、工程ST31においては、支台歯あるいは支台歯模型10スキャンデータ21上における仮フィニッシュライン23を構成する複数の点22にけるスキャンデータを、仮フィニッシュライン23に囲まれた範囲に有する歯根側から歯冠側に伸びる任意の直線を含む平面で切断する。例えば、仮フィニッシュライン23を構成する複数の点22において、歯軸方向、歯冠(クラウン)の抜け方向、又はアンダーカットのない方向にスキャンデータ21を切断する。実施の形態1では、仮フィニッシュライン23は、スキャンデータ21のエッジの全周にわたって設定されている。そのため、エッジラインを構成する仮フィニッシュライン23を構成する複数の点22の中から任意の点を開始点として、エッジラインを一周するまで順次スキャンデータ21を切断する。
【0082】
図12Cは、図12Bの切断位置P1の切断面において、歯冠側切断参照点24と歯根側切断参照点25とを検出する工程を示す概略図である。図12Cに示すように、工程ST31においては、それぞれの切断面において、切断面の仮フィニッシュライン23の曲率に基づいて歯冠側切断参照点24及び歯根側切断参照点25を検出する。具体的には、それぞれのエッジ部分の切断面において、切断面の仮フィニッシュライン23の複数の点22のうち、歯冠方向D1において仮フィニッシュライン23の曲率が0となる最初の点又は曲線の半径方向が逆転する最初の点を歯冠側切断参照点24として検出する。また、工程ST31においては、切断面の仮フィニッシュライン23の複数の点22のうち、歯根方向D2において仮フィニッシュライン23の曲率が0となる最初の点又は曲線の半径方向が逆転する最初の点を歯根側切断参照点25として検出する。
【0083】
図11に戻って、工程ST32においては、各切断面の歯冠側切断参照点24を連結して歯冠方向切断線を作成する。具体的には、各切断面の歯冠側切断参照点24を連結してパラメトリック曲線を作成することによって、歯冠方向切断線を作成する。
【0084】
工程ST33においては、各切断面の歯根側切断参照点25を連結して歯根方向切断線を作成する。具体的には、各切断面の歯根側切断参照点25を連結してパラメトリック曲線を作成することによって、歯根方向切断線を作成する。
【0085】
図12Dは、歯冠方向切断線26及び歯根方向切断線27を作成する工程を示す概略図である。図12Dに示すように、各切断面の歯冠側切断参照点24を連結してパラメトリック曲線を作成することによって、仮フィニッシュライン23より歯冠側に歯冠方向切断線26が作成される。また、各切断面の歯根側切断参照点25を連結してパラメトリック曲線を作成することによって、仮フィニッシュライン23より歯根側に歯根方向切断線27が作成される。歯冠方向切断線26及び歯根方向切断線27は、それぞれ、エッジ部分を一周する1本の曲線として作成される。
【0086】
実施の形態1では、歯冠方向切断線26及び歯根方向切断線27は、パラメトリック曲線を用いて作成される例について説明しているが、これに限定されない。歯冠方向切断線26及び歯根方向切断線27は、パラメトリック曲線以外に、例えば、点データの組、高次関数、あるいはこれらの組み合わせで作成されてもよい。
【0087】
図11に戻って、工程ST34においては、歯冠方向切断線26と歯根方向切断線27との間のエッジ部分のスキャンデータ21を削除する。具体的には、仮フィニッシュライン23を含むエッジ部分のスキャンデータ21を削除する。
【0088】
図12Eは、切断面において、スキャンデータ21のエッジ部分を削除する工程を示す概略図である。図12Eに示す点線は、削除された仮フィニッシュラインを示す。図12Eに示すように、切断面において、エッジ部分のスキャンデータ21、即ち歯冠側切断参照点24と歯根側切断参照点25との間の仮フィニッシュライン23が削除される。これにより、歯冠側仮フィニッシュライン23aと歯根側仮フィニッシュライン23bとに分けられる。
【0089】
図11に戻って、工程ST40においては、各切断面のスキャンデータ21を削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュライン23aを、削除されたスキャンデータ21の部分を補う方向に延長すると共に、歯根側仮フィニッシュライン23bを、削除されたスキャンデータの方向に延長する。具体的には、工程ST40においては、各切断面のスキャンデータ21を削除した部分において、歯冠側仮フィニッシュライン23aを歯冠側切断参照点24から歯冠方向D1と反対方向に延長する。また、各切断面のスキャンデータ21を削除した部分において、歯根側仮フィニッシュライン23bを歯根側切断参照点25から歯根方向D2と反対方向に延長する。
【0090】
図12Fは、仮フィニッシュライン23a、23bを延長する工程を示す概略図である。図12Fに示すように、工程ST40においては、歯冠側仮フィニッシュライン23aを、歯冠側切断参照点24近傍の仮フィニッシュライン23aの曲率又は曲率の変化率を維持して、歯冠側切断参照点24から歯冠方向D1と反対方向に延長する。また、工程ST40においては、歯根側仮フィニッシュライン23bを、歯根側切断参照点25近傍の仮フィニッシュライン23bの曲率又は曲率の変化率を維持して、歯根側切断参照点25から歯根方向D2と反対方向に延長する。これにより、歯冠側からスキャンデータ21を削除した部分を補う方向に延長した歯冠側仮フィニッシュライン23cと、歯根側からスキャンデータ21を削除した部分を補う方向に延長した歯根側仮フィニッシュライン23dとを形成する。
【0091】
歯冠側切断参照点24近傍の仮フィニッシュライン23aの曲率又は曲率の変化率は、好ましくは、歯冠側切断参照点24から歯冠方向D1に0.1mmの範囲内の仮フィニッシュライン23bに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率である。
【0092】
曲率の算出のために歯冠側切断参照点24から歯冠方向D1に0.1mm以上の範囲を参照すると支台歯あるいは支台歯模型10がフィニッシュラインに対して不連続な傾斜を持っている場合、不連続な傾斜が参照範囲に含まれる恐れがある。この場合、フィニッシュラインを実用上十分な精度で推定復元する上で妨げとなる恐れがある。
【0093】
歯根側切断参照点25近傍の仮フィニッシュライン23bの曲率又は曲率の変化率は、好ましくは、歯根側切断参照点25から歯根方向D2に0.12mmの範囲内の仮フィニッシュライン23bに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率である。
【0094】
曲率の算出のために歯根側切断参照点25から歯根方向D2に0.12mm以上の範囲を参照するとトリミングによって形成される、あるいは傾斜角度が変化した部分が存在する場合、それも参照範囲に含まれる恐れがある。この場合、フィニッシュラインを実用上十分な精度で推定復元する上で妨げとなる恐れがある。
【0095】
図11に戻って、工程ST50においては、延長した歯冠側仮フィニッシュライン23cと延長した歯根側仮フィニッシュライン23dとに基づいてフィニッシュラインを推定復元する。具体的には、工程ST50は、工程ST51及びST52を実施することにより、フィニッシュラインを推定復元する。
【0096】
工程ST51においては、延長した歯冠側仮フィニッシュライン23cと延長した歯根側仮フィニッシュライン23dとが交差する交差点を算出する。
【0097】
図12Gは、延長した仮フィニッシュライン23c、23dの交差点28を算出する工程を示す概略図である。図12Gに示すように、工程ST51においては、延長した歯冠側仮フィニッシュライン23cと延長した歯根側仮フィニッシュライン23dとが交差する交差点28を算出し、交差点28を超えて外側にはみ出した余剰線をトリミングする。
【0098】
図11に戻って、工程ST52においては、各切断面の交差点28を連結することによって取得した交差ラインと、延長した仮フィニッシュライン23c、23dとに基づいて、エッジ部分のフィニッシュライン29を推定復元する。具体的には、各切断面の交差点28を連結することによって交差ラインを得る。交差ラインは、支台歯あるいは支台歯模型の実際のエッジに相当し、1本の曲線として作成される。工程ST52においては、この交差ラインを支台歯あるいは支台歯模型のエッジを形成するフィニッシュラインとして推定復元する。また、工程ST52においては、各切断面において、交差ラインと接続される、延長した歯冠側仮フィニッシュライン23cと延長した歯根側仮フィニッシュライン23dとについても、支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分を形成するフィニッシュラインとして推定復元する。
【0099】
実施の形態1では、交差ラインは、例えば、パラメトリック曲線、点データの組、高次関数、あるいはこれらの組み合わせなどによって作成される。
【0100】
フィニッシュライン29の推定復元に使用される仮フィニッシュライン23を構成する隣り合う複数の点22の距離は、0.002mmから1mmの範囲内であり、好ましくは、0.002mmから0.250mmの範囲内である。
【0101】
複数の点22のうち隣り合う2点間の距離が0.002mmより小さい場合、隣り合う2点間の距離がスキャンピッチよりも小さくなり処理点数が増える一方で、本発明で推定復元するフィニッシュラインの精度の向上が望めない。また、スキャンデータ21の点と点の間は、細かくスキャンする場合でも0.005mm程度であり、直線や曲線で補完されるため必然的に誤差が含まれる。この誤差が少なくとも0.002mm程度存在する。
【0102】
更に、スキャンされる側の支台歯あるいは支台歯模型10の表面が微細な凹凸を有する事が多い。非接触でスキャンする場合、凹凸を有する表面に当たったスキャン光が乱反射して受光部に戻るため、0.002mmから0.01mm程度の誤差を含むのが通常である。このため、仮フィニッシュライン23を構成する複数の点22のうち隣り合う2点間の距離を、誤差よりも細かく分割しても効果が得られない。
【0103】
フィニッシュライン29を可能な限り正確に復元するためには、元の歯の半径よりも十分に小さく分割して処理を行う必要がある。その目安となる数値は、支台歯あるいは支台歯模型10のサイズとフィニッシュライン29の形状によって決まる。最大サイズとしては大臼歯のように半径が最も大きい値を取るケースにおいて実用上十分な精度が得られる、複数の点22のうち隣接する2点の間隔は、経験的に1mmまでであることが知られている。複数の点22のうち隣接する2点の間隔が1mmより大きいと、途中で細かく湾曲した部分を再現できない恐れがある。
【0104】
仮フィニッシュライン23を構成する複数の点22の間隔は、歯科用CADによって均等に割り振られる事が多く、作業者は形状を再現する上で問題がない限りはその結果を受け入れることが一般的である。その際、歯牙の形成されたフィニッシュラインの小半径部分と大半径部分のどちらにおいても高い再現性を持った仮フィニッシュライン23とするためには隣り合う点と点の間隔は、0.002mmから0.250mmの範囲内にある事が好ましい。
【0105】
[効果]
本発明に係るスキャンによって変化した支台歯形態を推定復元する方法によれば、以下の効果を奏することができる。
【0106】
本発明に係るスキャンによって変化した支台歯形態を推定復元する方法では、エッジ部分のスキャンデータ21を削除して、仮フィニッシュライン23を延長することによって、支台歯あるいは支台歯模型のフィニッシュラインを推定復元している。これにより、スキャンによって損なわれた支台歯形態を推定復元することができる。その結果、推定復元したフィニッシュライン29と、実際の支台歯あるいは支台歯模型のフィニッシュラインとの誤差を小さくすることができ、支台歯形態の推定復元精度を向上させることができる。
【0107】
このように、本発明に係る方法によれば、支台歯あるいは支台歯模型が本来有するフィニッシュラインを精度高く推定復元することができるため、支台歯あるいは支台歯模型の辺縁形態を精度高く再現することが可能となる。
【0108】
図13は、本発明に係る推定復元方法を用いて推定復元したフィニッシュラインを示す。図13の一点鎖線は仮フィニッシュライン23を示し、実線は推定復元されたフィニッシュライン29を示す。図13に示すように、スキャン装置によってスキャンされたスキャンデータは、仮フィニッシュライン23に示すように、エッジ部分が丸められている。推定復元されたフィニッシュライン29は、エッジ部分が仮フィニッシュライン23よりもシャープになっており、実際の支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分と適合する形状になっている。
【0109】
本発明に係る推定復元方法によれば、歯冠側仮フィニッシュライン23aを、歯冠側切断参照点24近傍の仮フィニッシュライン23aの曲率又は曲率の変化率を維持して延長している。また、歯根側仮フィニッシュライン23bを、歯根側切断参照点25近傍の仮フィニッシュライン23bの曲率又は曲率の変化率を維持して延長している。このように、仮フィニッシュライン23a、23bの曲率又は曲率の変化率に基づいて、仮フィニッシュライン23a、23bを延長することによって、フィニッシュライン29をより精度を向上させての推定復元することができる。即ち、推定復元したフィニッシュライン29と、実際の支台歯あるいは支台歯模型の有するフィニッシュラインとの誤差を小さくすることができる。
【0110】
また、本発明に係る推定復元方法においては、歯冠側切断参照点24近傍の仮フィニッシュライン23aの曲率又は曲率の変化率は、好ましくは、歯冠側切断参照点24から歯冠方向に0.1mmの範囲内の仮フィニッシュライン23bに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率である。歯根側切断参照点25近傍の仮フィニッシュライン23bの曲率又は曲率の変化率は、好ましくは、歯根側切断参照点から歯根方向に0.12mmの範囲内の仮フィニッシュライン23bに基づいて算出された曲率又は曲率の変化率である。
【0111】
上記数値範囲内で本発明に係る方法を実施して推定復元されたフィニッシュライン29と、支台歯模型10が本来持っていたフィニッシュラインとの誤差を測定したところ、多くの場合、0.002mm~0.040mmの範囲に収まることが確認できた。これは目視によって確認できる支台歯と補綴装置の間隙の目安である0.03~0.04mmと同等かそれ以内の誤差である。このことから、上記数値範囲内で本発明に係る方法を実施すれば、実用上十分な精度で実際の支台歯のフィニッシュラインを再現することができる。
【0112】
本発明に係る推定復元方法によれば、十分な精度で支台歯のフィニッシュラインを再現することができるため、歯科技工士がフィニッシュラインの調整を行う必要を減らすことができる。
【0113】
なお、実施の形態1では、工程ST10は、スキャン装置によって支台歯あるいは支台歯模型のスキャンデータを取得する例について説明したが、これに限定されない。例えば、歯科技工士又は歯科医師がスキャンしたデータを、ネットワークを介して受診することによって、スキャンデータを取得してもよい。
【0114】
実施の形態1では、工程ST10において、仮フィニッシュライン23は、支台歯あるいは支台歯模型10のスキャンデータ21のエッジ部分に沿って環状に設定される例について説明したが、これに限定されない。例えば、仮フィニッシュライン23は、支台歯あるいは支台歯模型10のスキャンデータ21のエッジ部分の一部に設定されてもよい。
【0115】
実施の形態1では、工程ST40においては、仮フィニッシュライン23の曲率に基づいて延長する方法と、仮フィニッシュライン23の曲率の変化率に基づいて延長する方法とのうちいずれか一方を実施してもよいし、両方を実施してもよい。
【0116】
工程ST40において、仮フィニッシュライン23の曲率に基づいて延長する方法と、仮フィニッシュライン23の曲率の変化率に基づいて延長する方法の両方を実施する場合、工程ST51においては、2つの方法で算出された交差点のうち歯冠から最も外側に位置する点を交差点28として算出してもよい。
【0117】
例えば、工程ST51においては、歯冠側仮フィニッシュライン23aを、歯冠側切断参照点24近傍の仮フィニッシュライン23aの曲率を維持して延長すると共に、歯根側仮フィニッシュライン23bを、歯根側切断参照点25近傍の仮フィニッシュライン23bの曲率を維持して延長することによって第1交差点を算出してもよい。また、工程ST51においては、歯冠側仮フィニッシュライン23aを、歯冠側切断参照点24近傍の仮フィニッシュライン23aの曲率の変化率を維持して延長すると共に、歯根側仮フィニッシュライン23bを、歯根側切断参照点25近傍の仮フィニッシュライン23bの曲率の変化率を維持して延長することによって第2交差点を算出してもよい。そして、第1交差点と第2交差点とを比較し、歯冠から最も外側に位置する点を、延長した歯冠側仮フィニッシュライン23cと歯根側の仮フィニッシュライン23dとが交差する交差点28として算出してもよい。
【0118】
このような構成により、フィニッシュラインをより精度高く推定復元することができる。
【0119】
実施の形態1では、交差点28を超えて外側にはみ出した余剰線をトリミングする例について説明したが、これに限定されない。例えば、延長した歯冠側仮フィニッシュライン23cと延長した歯根側仮フィニッシュライン23dとが接続された時点で延長を停止してもよい。これにより、余剰線が生じず、トリミングする必要がなくなる。
【0120】
実施の形態1では、支台歯あるいは支台歯模型の全てのエッジ部分を削除してからフィニッシュライン29を推定復元する例について説明したが、これに限定されない。例えば、支台歯あるいは支台歯模型の一部のエッジ部分のフィニッシュライン29を推定復元してもよい。
【0121】
例えば、本発明に係る推定復元方法は、各切断面における仮フィニッシュライン23のエッジの曲率に基づいて、仮フィニッシュライン23のうちフィニッシュライン29を推定復元する部分と、フィニッシュライン29を推定復元しない部分とを判別するステップを有していてもよい。この場合、フィニッシュライン29を推定復元しない部分において、仮フィニッシュライン23をそのままフィニッシュライン29として設定してもよい。あるいは、フィニッシュライン29を推定復元しない部分において、既にフィニッシュライン29が推定復元されている場合、仮フィニッシュライン23の形態に戻してもよい。
【0122】
このような構成により、仮フィニッシュライン23の一部がシャープではなくなだらかな状態である場合にフィニッシュラインの推定復元を行い、シャープな部分は仮フィニッシュライン23をそのままフィニッシュラインとして設定することができる。このため、スキャンにより損なわれなかった形態の部分をそのまま使用しつつ、スキャンにより損なわれた形態の部分のフィニッシュラインを推定復元することができる。これにより、より精度の高い支台歯形態を再現することができると共に、データの処理量を減らすことができる。なお、なだらかな状態であるか否かの判別、即ち、フィニッシュラインを推定復元するか否かの判別は、切断面における仮フィニッシュライン23のエッジの曲率の閾値に基づいて行うことができる。曲率の閾値については、例えば、ユーザによって任意に設定することができる。
【0123】
実施の形態1では、上述した方法を実行させるためのプログラム、又は当該方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体によって実現されてもよい。例えば、コンピュータ読み取り可能な媒体は、本発明に係る推定復元方法を、プロセッサによって実行可能なコンピュータ読み取り可能な命令として含んでいてもよい。コンピュータ読み取り可能な媒体は、様々なタイプの揮発性及び不揮発性記録媒体を含んでもよく、例えば、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、リード・オンリー・メモリ(ROM)、プログラマブル・リード・オンリー・メモリ(PROM)、電気的プログラマブル・リード・オンリー・メモリ(PROM)、電気的に消去可能なリード・オンリー・メモリ(EPROM)、フラッシュメモリ、いくつかの他の有形データ記憶デバイス、それらのいくつかの組み合わせを含んでもよい。
【0124】
実施の形態1では、スキャンによって変化した支台歯形態を推定復元する方法として説明したが、本発明はスキャンによって変化した支台歯形態を推定復元するシステムとしても実現可能である。例えば、スキャンによって変化した支台歯形態を推定復元するシステムは、工程ST10~ST50を実行するスキャンデータ取得部、仮フィニッシュライン設定部、切断参照点検出部、歯冠方向切断線作成部、歯根方向切断線作成部、スキャンデータ削除部、仮フィニッシュライン延長部、交差点算出部、及びフィニッシュライン推定復元部を備えてもよい。
【0125】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1のスキャンによって変化した支台歯形態を推定復元する方法を用いて補綴装置を製造する製造システム及び製造方法を説明する。なお、実施の形態2では、主に実施の形態1と異なる点について説明する。実施の形態2においては、実施の形態1と同一又は同等の構成については同じ符号を付して説明する。また、実施の形態2では、実施の形態1と重複する記載は省略する。
【0126】
[補綴装置の製造システム]
本発明に係る補綴装置の製造システムについて説明する。
【0127】
図14は、本発明に係る補綴装置の製造システム100の概略構成を示すブロック図である。図14に示すように、製造システム100は、スキャン装置50、制御装置60、及び切削装置70を備える。
【0128】
スキャン装置50は、支台歯あるいは支台歯模型10をスキャンして生スキャンデータを取得する装置である。スキャン装置50は、例えば、口腔内スキャナ、又はデスクトップスキャナである。
【0129】
制御装置60は、スキャン装置50から生スキャンデータを取得し、補綴装置を設計するための設計データを作成する装置である。
【0130】
図15は、制御装置60の概略構成を示すブロック図である。図15に示すように、制御装置60は、1つ又は複数のプロセッサ61、メモリ62、及び通信部63を備える。
【0131】
プロセッサ61は、例えば、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、又はコンピュータ実行可能命令の実行が可能なその他の処理ユニットである。プロセッサ61は、メモリ62に記憶された命令を実行可能である。
【0132】
メモリ62は、制御装置60のデータを格納する。メモリ62は、例えば、コンピュータ記録媒体を含み、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリ又はその他のメモリ技術、CD-ROM、DVD又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気記憶デバイス、あるいは所望の情報を格納するために用いることができ、制御装置60がアクセスすることができる任意の媒体を含む。
【0133】
メモリ62は、実施の形態1の支台歯形態の推定復元方法を実行するためのプログラムを格納している。また、メモリ62は、後述する補綴装置30の設計データを作成するためのプログラムを格納している。
【0134】
通信部63は、例えば、ネットワークを介して、スキャン装置50から生スキャンデータを受信する。また、通信部63は、例えば、ネットワークを介して、切削装置70に補綴装置の設計データを送信する。
【0135】
切削装置70は、制御装置60で作成された設計データに基づいて、補綴装置30を作製する。実施の形態2では、補綴装置30としてジルコニアのコーピングを作製する。
【0136】
[補綴装置の製造方法]
本発明に係る補綴装置の製造システム100で実施される補綴装置の製造方法について説明する。
【0137】
図16は、本発明に係る補綴装置の製造方法のフローチャートを示す。
【0138】
図16に示すように、工程ST61においては、スキャン装置50によって、支台歯あるいは支台歯模型をスキャンする。これにより、支台歯あるいは支台歯模型の生スキャンデータを取得する。取得された生スキャンデータは、制御装置60に送信される。
【0139】
工程ST62においては、制御装置60によって、生スキャンデータからパラメトリック曲線で構成されるスキャンデータ21を作成することによって、支台歯あるいは支台歯模型のエッジ部分の仮想ラインとして、複数の点22を有する仮フィニッシュライン23を設定する。
【0140】
工程ST63においては、制御装置60によって、フィニッシュライン29の推定復元が必要か否かを判別する。例えば、フィニッシュライン29を推定復元するか否かの判別は、仮フィニッシュライン23のエッジの曲率の閾値に基づいて行う。これにより、スキャンデータ21のエッジ部分において、フィニッシュライン29の推定復元が必要な部分を検出する。フィニッシュライン29の推定復元が必要な部分とは、スキャンにより損なわれた部分に対応する。
【0141】
工程ST63において、フィニッシュライン29の推定復元が必要であると判別された場合、工程ST64へ進む。工程ST63において、フィニッシュライン29の推定復元が不要であると判別された場合、工程ST65へ進む。
【0142】
工程ST64においては、制御装置60によって、仮フィニッシュライン23に基づいてフィニッシュライン29を推定復元する。フィニッシュライン29の推定復元については、実施の形態1の推定復元方法と同じであるため、説明を省略する。
【0143】
工程ST65においては、制御装置60によって、仮フィニッシュライン23をフィニッシュライン29として設定する。即ち、工程ST65においては、スキャンデータ21をそのままフィニッシュライン29に適用する。
【0144】
工程ST66においては、制御装置60によって、フィニッシュライン29に基づいて補綴装置30設計データを作成する。具体的には、工程ST66においては、工程ST64によって推定復元されたフィニッシュライン29と、工程ST65によって設定されたフィニッシュライン29とを、矛盾なく滑らかに接続する。このようにして得られたフィニッシュライン29に基づいて、支台歯あるいは支台歯模型の辺縁形態を再現する。また、辺縁形態以外の形態は、スキャンデータ21によって再現される。このようにして、制御装置60は、補綴装置30の設計データを作成する。作成された設計データは、切削装置70に送信される。
【0145】
工程ST67においては、切削装置70によって、設計データに基づいて補綴装置30を作製する。
【0146】
[効果]
本発明に係る補綴装置の製造システム及び製造方法によれば、以下の効果を奏することができる。
【0147】
本発明に係る補綴装置30の製造システム100及び製造方法では、十分な精度で支台歯のフィニッシュラインを再現することができるため、支台歯あるいは支台歯模型との適合精度の高い補綴装置30を作製することができる。
【0148】
図17は、本発明に係る補綴装置30の製造方法を用いて作製された補綴装置30を支台歯模型10に取り付けた状態のエッジ部分を拡大して示す概略部分断面図である。図17に示すように、本発明に係る補綴装置30の製造方法を用いて作製された補綴装置30は、支台歯模型10のエッジ部分に精度高く適合している。図10図17とを比較すると、図17に示す支台歯模型10と補綴装置30との隙間S2は、図10に示すスキャンデータ20に基づいて作製した補綴装置30と支台歯模型10との隙間S1よりも小さくなっていることがわかる。
【0149】
このように、本発明に係る製造システム及び製造方法によれば、支台歯あるいは支台歯模型との適合精度を向上させた補綴装置30を作製することができる。
【0150】
本発明に係る製造システム及び製造方法によれば、補綴装置30を作製する際に、歯科技工士が行う内冠部の調整をほぼ省略することが可能となる。このため、歯科技工士が内冠調整作業などに費やしていた時間と労力がほぼ不要となる。更に、これらの作業を行うに当たり必要とされていた作業の熟練度、経験が不要となるため、作業経験の浅い歯科技工士であっても、経験を積んだ歯科技工士が作業した場合と同様の適合精度を有する補綴装置30を容易に作製することができる。
【0151】
本発明に係る製造システム及び製造方法によれば、補綴装置30の適合不良、咬合高径の拳上傾向、試適時の破折などの発生確率を低下させることができるため、歯科医師の冗長な治療時間と労力の削減が実現できる。
【0152】
また、患者にとっては本発明によって設計され加工された補綴装置30の装着時の適合性向上による満足度の向上、再作製による再来院の可能性低下、治療回数、治療時間の減少による身体的心理的負担の軽減効果と可及的速やかな顎口腔機能の回復効果が得られる。
【0153】
なお、実施の形態2では、スキャン装置50によって、支台歯あるいは支台歯形態の生スキャンデータを取得する例を説明したが、これに限定されない。本発明に係る補綴装置30の製造システム100においてスキャン装置50は必須の構成ではなく、製造方法において工程ST61は必須の構成ではない。例えば、本発明に係る補綴装置30の製造システムは、歯科技工士又は歯科医師などがスキャンして得た生スキャンデータを電子的に受信する、又は生スキャンデータが記録された電子記録媒体を受け取ることによって、生スキャンデータを取得してもよい。
【0154】
実施の形態2では、製造システム100は、切削装置70を備える例について説明したが、これに限定されない。例えば、製造システム100においては、推定復元したフィニッシュライン29に基づいて作成した設計データを、ネットワークを介して歯科技工士又は歯科医師に電子的に送信するか、又は設計データを記録した電子記録媒体を歯科技工士又は歯科医師に送ってもよい。これにより、歯科技工士又は歯科医師が受け取った設計データを基に、補綴装置30を作製してもよい。
【0155】
実施の形態2では、制御装置60は、製造方法のステップを実行する構成要素を備えてもよい。例えば、制御装置60は、工程ST62~ST66をそれぞれ実行する、仮フィニッシュライン設定部、フィニッシュライン推定復元判別部、フィニッシュライン推定復元部、及び設計データ作成部を備えてもよい。なお、フィニッシュライン推定復元部は、工程ST64とST65とを実行してもよい。また、スキャン装置50の代わりに、制御装置60は、スキャンデータ取得部を備えていてもよい。
【0156】
上述した実施の形態1及び2の方法及びシステムにおいては、適用される環境に応じて、構成要素を追加、減少、分割、及び統合してもよい。
【0157】
本発明をある程度の詳細さをもって各実施形態において説明したが、これらの実施形態の開示内容は構成の細部において変化してしかるべきものであり、各実施形態における要素の組合せや順序の変化は請求された本発明の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明に係るスキャンによって変化した支台歯形態を推定復元する方法は、スキャンによって損なわれた支台歯あるいは支台歯模型の有するフィニッシュラインを推定復元することができる。このため、補綴装置を作製する装置又は方法に有用である。
【符号の説明】
【0159】
10 支台歯模型
20、21 スキャンデータ
22 点
23 仮フィニッシュライン
23a 歯冠側仮フィニッシュライン
23b 歯根側仮フィニッシュライン
23c 延長した歯冠側仮フィニッシュライン
23d 延長した歯根側仮フィニッシュライン
24 歯冠側切断参照点
25 歯根側切断参照点
26 歯冠方向切断線
27 歯根方向切断線
28 交差点
29 フィニッシュライン
30 補綴装置
50 スキャン装置
60 制御装置
61 プロセッサ
62 メモリ
63 通信部
70 切削装置
100 補綴装置の製造システム
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図12G
図13
図14
図15
図16
図17