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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】二層式化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/31 20060101AFI20220404BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20220404BHJP
   A61K 8/89 20060101ALI20220404BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
A61K8/31
A61Q5/12
A61K8/89
A61K8/39
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017221577
(22)【出願日】2017-11-17
(65)【公開番号】P2019089750
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尚山 堅士郎
(72)【発明者】
【氏名】高松 翔大
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-224560(JP,A)
【文献】特開2007-284456(JP,A)
【文献】特開2000-095666(JP,A)
【文献】特開2012-167061(JP,A)
【文献】特開2012-219046(JP,A)
【文献】特開2000-212040(JP,A)
【文献】特開2004-285047(JP,A)
【文献】特開2016-124817(JP,A)
【文献】特開2013-139411(JP,A)
【文献】特開2009-161508(JP,A)
【文献】特開2004-051574(JP,A)
【文献】特開2003-327506(JP,A)
【文献】特開昭63-303918(JP,A)
【文献】特表2012-510514(JP,A)
【文献】特開2009-179624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)~(c)を含有し、成分(a)に対する成分(c)の質量比率(c)/(a)が1.3以上3.0以下である、洗い流さないタイプの二層式化粧料。
(a) 20質量%以下の水
(b) 25℃で液体であり、有機性値OVが280以下である炭化水素油
(c) HLBが10以上である非イオン界面活性剤
【請求項2】
成分(c)が25℃で液状の非イオン界面活性剤である請求項1に記載の二層式化粧料。
【請求項3】
更に、成分(d)を含有する請求項1又は2に記載の二層式毛髪化粧料。
(d) ジメチコン及びジメチコノールから選ばれる平均重合度1000以上20000以下の高重合シリコーン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗い流さないタイプの二層式化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の毛髪化粧料では、油溶性の機能性基剤と親水性の機能性基剤を同時に併用して、毛髪の感触や、スタイリング性能を付与する技術が知られているが、安定な乳化状態の乳化型製剤のほか、使用時に撹拌して乳化状態となる二層式の製剤が知られている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-161508号公報
【文献】特開2011-21000号公報
【文献】特表2016-535047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二層式の製剤には、油性成分を多量に含有することができることによる性能の向上が可能である。しかし、従来の二層式製剤は、振とうして乳化状態となった際には白濁した外観となり、これはたとえ油層と水層のそれぞれを透明な処方とした場合であっても同様であった。
【0005】
一方、近年の消費者の嗜好性の多様性の変化に伴い、化粧料の性能に加え、外観の審美性も要求されるようになってきた。
【0006】
したがって本発明は、二層分離状態、混合状態のいずれにおいても透明性を確保した従来にない高級感のある審美性を有すると共に、毛髪や皮膚に良好な感触を付与する二層式化粧料に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、油剤として非極性油又は低極性油を採用すると共に、水と非イオン界面活性剤を一定の量比で共存させることによって、前記要求を満たすものが得られることを見出した。
【0008】
本発明は、成分(a)~(c)を含有し、成分(a)に対する成分(c)の質量比率(c)/(a)が1.3以上3.0以下である、洗い流さないタイプの二層式化粧料を提供するものである。
(a) 20質量%以下の水
(b) 25℃で液体であり、有機性値OVが280以下である油剤
(c) HLB10以上である非イオン界面活性剤
【発明の効果】
【0009】
本発明の二層式化粧料は、二層分離状態、混合状態のいずれにおいても透明性を確保した従来にない高級感のある審美性と、良好な感触を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔成分(a):水
本発明の二層式化粧料中における成分(a)の水の含有量は、親水性機能性基剤の溶解性を向上させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、また、良好な感触を得る観点から、20質量%以下であって、好ましくは17質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0011】
〔成分(b):25℃で液体であり、有機性値OVが280以下である炭化水素油
本発明においては、成分(b)として25℃で液体であり、有機性値OVが280以下である炭化水素油を使用する。ここで「有機性値(無機性値)」とは、有機概念図(藤田穆、「有機化合物の予測と有機概念図」、化学の領域VOL.11,No.10(1957)719-715)に基づき求められる値である。より詳しく言うと、この有機概念図では、化合物の物理化学的物性について、主にファンデルワールス(Van Der Waals)力による物性の程度を「有機性」と定義して表現する。
【0012】
有機性値OVが280以下である炭化水素油は、いずれかを単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。炭化水素油としては、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、流動イソパラフィン、流動パラフィン等のパラフィン系油剤α-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。これらのなかでも、二層分離状態、混合状態の透明性及び感触を向上させる観点から、軽質イソパラフィン、水添ポリイソブテンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、水添ポリイソブテンがより好ましい。
【0013】
本発明の二層式化粧料中における成分(b)の含有量は、油溶性機能性基剤の溶解性を向上させる観点、及び良好な感触を得る観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。また、成分(b)の含有量の上限は、他の成分の合計含有量に対するバランス量となる。特に、二層式化粧料の製造容易性、及び得られる化粧料の安定性向上の観点から、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは92質量%以下である。
【0014】
〔成分(c):HLBが10以上である非イオン界面活性剤〕
成分(c)の具体例としては、HLBが10以上のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、アルキルグリセリルエーテル、アルキルポリグリセリルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、高級脂肪酸ショ糖エステル、高級脂肪酸モノ又はジエタノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、アルキルサッカライド系界面活性剤、アルキルアミンオキサイド、アルキルアミドアミンオキサイド等が挙げられる。このうち、25℃で液状であるHLBが10以上の非イオン界面活性剤が好ましく、なかでも、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステルがより好ましい。具体的には、ラウリン酸PEG-12、PEG-20ソルビタンココエート、ヤシ油脂肪酸PEG-7グリセリルから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ヤシ油脂肪酸PEG-7グリセリルがより好ましい。
【0015】
同様の観点から、成分(c)の非イオン界面活性剤のHLBは10以上であるが、10.5以上が好ましく、また18以下が好ましく、13.0以下がより好ましい。ここで、HLB(親水性-親油性のバランス〈Hydrophilic-Lypophilic Balance〉)は、界面活性剤の全分子量に占める親水基部分の分子量を示すものであり、非イオン界面活性剤については、グリフィン(Griffin)の式により求められるものである。2種以上の非イオン界面活性剤から構成される混合界面活性剤のHLBは、次の式に基づいて求められる。混合界面活性剤のHLBは、各非イオン界面活性剤のHLB値をその配合比率に基づいて相加算平均したものである。
【0016】
混合HLB=Σ(HLBx×Wx)/ΣWx
〔HLBxは、非イオン界面活性剤XのHLB値を示す。Wxは、HLBxの値を有する非イオン界面活性剤Xの質量(g)を示す。〕
【0017】
本発明の二層式化粧料中における成分(c)の含有量は、使用時の混ぜやすさを向上させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、また、良好な感触の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
本発明において、使用前に二層式化粧料を振とうして、二層式毛髪化粧料同士を混合すると、透明な外観になる。使用時の混ぜやすさとは、この透明になる速度が速いことをいう。
【0018】
本発明の二層式化粧料は、成分(c)以外の界面活性剤を含有することができる。二層分離状態、混合状態の透明性及び感触を向上させる観点から、他の界面活性剤の含有量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。
【0019】
本発明の二層式化粧料中における成分(a)に対する成分(c)の質量比率(c)/(a)は、使用前の二層式化粧料の透明性を向上させる観点から、1.3以上であって、好ましくは1.50以上、より好ましくは1.7以上、更に好ましくは1.75以上であり、また、使用時の透明性の観点から、3.0以下であって、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.2以下、更に好ましくは2.0以下、更により好ましくは1.96以下である。本発明において、使用前の二層式化粧料の透明性とは、二層式化粧料を振とうする前の、静置した状態(分離時ともいう)での各層の外観の透明性を意味する。
【0020】
〔成分(d):ジメチコン及びジメチコノールから選ばれる平均重合度1000以上20000以下の高重合シリコーン〕
本発明の二層式化粧料には、感触をより向上させるため、成分(d)としてジメチコン及びジメチコノールから選ばれる平均重合度1000以上20000以下の高重合シリコーンを含有させることができる。成分(d)に該当する高重合シリコーンの市販品の具体例としては、TSE200A(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社;高重合ジメチコン)、SH200-1,000,000cs(東レ・ダウコーニング社;高重合ジメチコン)、TSF451-100MA(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社;高重合ジメチコン)、BY11-026(東レ・ダウコーニング社;高重合ジメチコンの低粘度シリコーンによる希釈溶液)、KF9008(信越化学工業社;高重合ジメチコンの環状シリコーンによる希釈溶液)、BY22-050A(東レ・ダウコーニング社;高重合ジメチコンのアニオンエマルション)、BY22-060(東レ・ダウコーニング社;高重合ジメチコンを低粘度シリコーンで希釈した溶液のカチオンエマルション)、BY22-020(東レ・ダウコーニング社;高重合ジメチコンを軽質流動イソパラフィンで希釈した溶液のカチオンエマルション)、KM904(信越化学工業社;高重合ジメチコンを低粘度シリコーンで希釈した溶液のカチオンエマルション)、DC1501 Fluid(東レ・ダウコーニング社;高重合ジメチコノールの環状シリコーンによる希釈溶液)、DC1503 Fluid(東レ・ダウコーニング社;高重合ジメチコノールの低粘度ジメチコンによる希釈溶液)、X-21-5849(信越化学工業社;高重合ジメチコノール)X-21-5666(信越化学工業社;高重合ジメチコノールの環状シリコーンによる希釈溶液)、X-21-5613(信越化学工業社;高重合ジメチコノールの低粘度ジメチコンによる希釈溶液)等が挙げられる。これら成分(d)は、いずれかを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明の二層式化粧料中における成分(d)の含有量は、感触を向上させる観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上であり、また、化粧料の毛髪や皮膚に対するベタつきや粉ふきを抑制する観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。なお、前掲の市販品は成分(d)である高重合シリコーンのほかに、溶媒又は分散媒として成分(a)又は成分(b)に相当する成分を含んでいる場合がある。このため、成分(a)、(b)及び(d)の含有量を決定するに際しては、市販品中におけるこれら成分の含有比率を勘案する必要がある。
【0022】
〔その他の成分〕
本発明の二層式化粧料には、上記成分のほかに通常化粧品原料として用いられる他の成分を加えることができる。このような成分としては、乳酸、リンゴ酸等の有機酸;被膜形成ポリマー、防腐剤、キレート剤、安定化剤、酸化防止剤、植物性抽出物、生薬抽出物、タンパク質加水分解物、ビタミン、染料等の着色剤、香料、紫外線吸収剤、エチレングリコールジ脂肪酸エステル等のパール化剤等が挙げられる。
【0023】
〔形態〕
本発明の二層式化粧料は、毛髪化粧料、皮膚化粧料のどちらとしても使用することができる。ここで、毛髪化粧料とは、頭皮及び毛髪に適用する化粧料を意味し、皮膚化粧料とは、毛髪及び頭皮を除く皮膚、好ましくは、顔、体、手足に適用される化粧料を意味する。本発明の化粧料を適用すると、油剤を含有しているにもかかわらずべたつきが抑えられ、感触に優れるものとすることができることから、二層式毛髪化粧料とすることがより好ましい。二層式毛髪化粧料は、毛髪に適用後洗い流さずに使用され、例えば洗い流さないタイプのコンディショニング剤、整髪剤等の形態とすることが好ましい。
【実施例
【0024】
実施例1~12、比較例1~6
表1、表2に示す二層式毛髪化粧料を調製し、分離時及び混合時それぞれの透明性、及び感触を評価した。
【0025】
<分離時透明性>
(1)表1、表2に示す二層式毛髪化粧料をスクリュー管(マルエム製スクリュー管No.8)に50mL移しとり、1昼夜静置した。
(2)静置後の上層液及び下層液を目視観察して、下記基準に従ってそれぞれ評価した。
【0026】
A:無色透明である(Times New Roman 16ポイントの文字をスクリュー管のガラス越しに認識できる)
B:やや白濁している(Times New Roman 16ポイントの文字の存在をスクリュー管のガラス越しに確認できる)
C:白濁している(Times New Roman 16ポイントの文字の存在をスクリュー管のガラス越しに確認できない)
D:分離しない
【0027】
<混合時透明性>
(1)上記方法で評価したスクリュー管を上層、下層均一混合できるまで手で振動撹拌した。
(2)撹拌した後、30秒後の混合液を目視観察して、下記基準に従ってそれぞれ評価した。
【0028】
A:無色透明である(Times New Roman 16ポイントの文字をスクリュー管のガラス越しに認識できる)
B:やや白濁している(Times New Roman 16ポイントの文字の存在をスクリュー管のガラス越しに確認できる)
C:白濁している(Times New Roman 16ポイントの文字の存在をスクリュー管のガラス越しに確認できない)
【0029】
<感触評価>
(1)化学処理を受けていない日本人女性の直毛を使い、長さ20cm、乾燥時重量3gのトレスを作製する。
(2)表1に従い調製した実施例1~12の二層式毛髪化粧料を、水で5倍に希釈した上で(1)で作製したトレスに、浴比1:0.5(毛髪質量:剤質量)で塗布し、ラップで覆う。室温で5分間静置した。なお、比較例1~6は混合時の透明性を確保できていないことから、感触評価は行わなかった。
(3)毛髪トレスを下向きに設置し、ドライヤー(Tescom社製、Nobby NB3000)の吹き出し口から毛髪トレスの毛髪中心部までの距離が45cmになるようにドライヤー(弱温風モード:600W)を固定した。次いで、4秒に1回ずつ指を通しながらドライヤー乾燥を行った。
(4)評価用毛髪サンプルの毛束の感触を、専門パネラー5名により、下記基準に従い未処理毛と比較して評価し、その平均点をそれぞれ算出した。
+1:未処理毛に比べ、滑らかである
0:未処理毛に比べ、ほぼ同等である
-1:未処理毛に比べ、多少ベタつく(実使用上の問題はない)
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】